説明

ナノインプリントモールドの製造方法、パターン形成体の製造方法、およびナノインプリントモールド

【課題】本発明は、パターン部の凹部における樹脂の充填性および離型性が良好なナノインプリントモールドを得ることを主目的とする。
【解決手段】本発明は、凸部および凹部を有するパターン部、ならびに上記凸部の頂部に形成された金属膜を備えるモールド部材を準備し、第一離型剤を用いて、上記凹部の側壁部および底部、ならびに上記金属膜の表面に第一離型層を形成する第一離型層形成工程と、上記第一離型層を表面上に有する上記金属膜を剥離する金属膜剥離工程と、上記金属膜を剥離することにより露出した上記凸部の頂部に、第二離型剤を用いて、上記第一離型層よりも撥液性の高い第二離型層を形成する第二離型層形成工程と、を有することを特徴とするナノインプリントモールドの製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン部の凹部における樹脂の充填性および離型性が良好なナノインプリントモールドを得ることができるナノインプリントモールドの製造方法に関する。なお、以下、本発明におけるナノインプリントモールドを、単にモールドと称する場合がある。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトリソグラフィ法に変わる微細加工・微細パターニング方法としてナノインプリント法が着目されている。ナノインプリント法は、表面に予め所望の凹凸パターンを有するナノインプリントモールド(テンプレート)を、被転写部材の硬化性樹脂と密着させ、熱や光等の外部刺激を与えることによって、被転写部材の表面に凹凸パターンを形成する方法である。このように、ナノインプリント法は、単純な方法によってパターンを形成することができるものであるが、近年、数十nm〜数nmの超微細なパターンを形成することが可能であることが示されている。そのため、ナノインプリント法は、例えば30nm以下のパターニングが必要とされる次世代リソグラフィ技術の候補として期待されている。
【0003】
一方、モールド表面の離型性を向上させる目的で、モールドの表面に離型層を設ける技術が知られている。例えば特許文献1には、高アスペクト比のピラーの転写を高精度に行うために、モールドのパターンの凸部のみに、剥離材(離型剤)を形成するパターン転写方法が開示されている。また、特許文献2には、凹凸パターン部の凸部が、凹部と比べて選択的に剥離性が向上しているインプリントモールドが開示されている。特許文献2においては、C等の反応性ガスを用いて、凸部の剥離性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−288783号公報
【特許文献2】特開2008−179034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、凸部の頂部に離型性を付与する技術は知られている。一方、凹部の側壁部に表面自由エネルギーの小さい離型層を形成すると、側壁部での樹脂の接触角が大きくなり、インプリントの際に、凹部に樹脂が充填されにくくなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、パターン部の凹部における樹脂の充填性および離型性が良好なナノインプリントモールドを得ることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明においては、凸部および凹部を有するパターン部、ならびに上記凸部の頂部に形成された金属膜を備えるモールド部材を準備し、第一離型剤を用いて、上記凹部の側壁部および底部、ならびに上記金属膜の表面に第一離型層を形成する第一離型層形成工程と、上記第一離型層を表面上に有する上記金属膜を剥離する金属膜剥離工程と、上記金属膜を剥離することにより露出した上記凸部の頂部に、第二離型剤を用いて、上記第一離型層よりも撥液性の高い第二離型層を形成する第二離型層形成工程と、を有することを特徴とするナノインプリントモールドの製造方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、凹部の側壁部に撥液性の低い第一離型層を設けることにより、凹部における樹脂の充填性が良好なナノインプリントモールドを得ることができる。さらに、第一離型層は、凹部の底部で所定の離型性を発揮できるので、離型性が良好なナノインプリントモールドを得ることができる。また、凸部の頂部には、撥液性の高い第二離型層が形成されているため、樹脂に対する離型性が優れている。そのため、ナノインプリントモールドを樹脂から剥がすときに、樹脂との間に間隙が生じやすく、離型が進みやすいという利点がある。
【0009】
上記発明においては、上記第一離型層形成工程において、スピンコート法またはディッピング法により、上記第一離型層を形成することが好ましい。凹部に、毛管力により第一離型剤を含有する溶液が浸透し、均一に薄い第一離型層を形成することができるからである。
【0010】
上記発明においては、上記第一離型層形成工程において、気相法により、上記第一離型層を形成することが好ましい。
【0011】
上記発明においては、上記第二離型層形成工程において、気相法により、上記第二離型層を形成することが好ましい。
【0012】
上記発明においては、上記モールド部材が石英またはケイ酸塩ガラスであり、上記第一離型剤および上記第二離型剤がシランカップリング剤であることが好ましい。
【0013】
上記発明においては、上記凹部の側壁部および底部に形成された第一離型層における純水との接触角をθとし、上記凸部の頂部に形成された第二離型層における純水との接触角をθとした場合に、θが100°以下であり、θが100°以上であり、かつ、θおよびθの差(θ−θ)が10°以上であることが好ましい。
【0014】
また、本発明においては、基板と、上記基板上に形成された硬化性樹脂とを有する被転写部材を準備し、上記被転写部材の硬化性樹脂と、ナノインプリントモールドのパターン部とを密着させ、上記パターン部に上記硬化性樹脂を充填する樹脂充填工程と、充填された上記硬化性樹脂を硬化させ、上記ナノインプリントモールドのパターンを上記被転写部材に転写する転写工程と、を有するパターン形成体の製造方法であって、上記ナノインプリントモールドが、上述したナノインプリントモールドの製造方法により得られたものであることを特徴とするパターン形成体の製造方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、上述したナノインプリントモールドを用いることにより、モールドの凹部における樹脂の充填性が高くなり、精度良くパターン形成体を得ることができる。
【0016】
また、本発明においては、凸部および凹部を有するパターン部を有するモールド部材を備えたナノインプリントモールドであって、上記凹部の側壁部および底部において第一離型層を有し、上記凸部の頂部において上記第一離型層よりも撥液性の高い第二離型層を有することを特徴とするナノインプリントモールドを提供する。
【0017】
本発明によれば、凹部の側壁部に撥液性の低い第一離型層を設けることにより、凹部における樹脂の充填性が良好なナノインプリントモールドとすることができる。さらに、第一離型層は、凹部の底部で所定の離型性を発揮できるので、離型性が良好なナノインプリントモールドとすることができる。また、凸部の頂部には、撥液性の高い第二離型層が形成されているため、樹脂に対する離型性が優れている。そのため、ナノインプリントモールドを樹脂から剥がすときに、樹脂との間に間隙が生じやすく、離型が進みやすいという利点がある。
【0018】
上記発明においては、上記モールド部材が石英またはケイ酸塩ガラスであり、上記第一離型層および上記第二離型層がシランカップリング剤を用いてなるものであることが好ましい。
【0019】
上記発明においては、上記凹部の側壁部および底部に形成された第一離型層における純水との接触角をθとし、上記凸部の頂部に形成された第二離型層における純水との接触角をθとした場合に、θが100°以下であり、θが100°以上であり、かつ、θおよびθの差(θ−θ)が10°以上であることが好ましい。
【0020】
上記発明において、上記第一離型層はスピンコート法またはディッピング法により形成されたものであり、上記第二離型層は気相法により形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、パターン部の凹部における樹脂の充填性および離型性が良好なナノインプリントモールドを得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のナノインプリントモールドの製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図2】ナノインプリントモールドへの樹脂の充填を説明する概略断面図である。
【図3】本発明のパターン形成体の製造方法の一例を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のナノインプリントモールドの製造方法、パターン形成体の製造方法、およびナノインプリントモールドについて詳細に説明する。
【0024】
A.ナノインプリントモールドの製造方法
まず、本発明のナノインプリントモールドの製造方法について説明する。本発明のナノインプリントモールドの製造方法は、凸部および凹部を有するパターン部、ならびに上記凸部の頂部に形成された金属膜を備えるモールド部材を準備し、第一離型剤を用いて、上記凹部の側壁部および底部、ならびに上記金属膜の表面に第一離型層を形成する第一離型層形成工程と、上記第一離型層を表面上に有する上記金属膜を剥離する金属膜剥離工程と、上記金属膜を剥離することにより露出した上記凸部の頂部に、第二離型剤を用いて、上記第一離型層よりも撥液性の高い第二離型層を形成する第二離型層形成工程と、を有することを特徴とするものである。
【0025】
図1は、本発明のナノインプリントモールドの製造方法の一例を示す概略断面図である。図1においては、まず、モールド部材1を準備する(図1(a))。このモールド部材1はパターン部Aおよび平坦部Bを有し、パターン部Aは凸部2および凹部3を有し、凸部2の頂部には金属膜4を有する。本発明においては、金属膜4として、エッチングにより凹部3を形成する際の金属膜をそのまま用いることが好ましい。次に、第一離型剤を用いて、ディッピング法により、パターン部Aの表面に第一離型層5を形成する(図1(b))。この際、凹部3の側壁部および底部、ならびに金属膜4の表面に第一離型層5が形成される。なお、凹部3の側壁部は、視点を変えれば、凸部2の側壁部とみなすこともできるが、便宜上、本発明においては、凸部2の頂部および凹部3の底部をつなぐ側壁部を、凹部3の側壁部と表現する。
【0026】
次に、金属膜4を剥離液により剥離する(図1(c))。これにより、金属膜4の表面上に形成されていた第一離型層5も同時に除去する。次に、第二離型剤を用いて、気相法により、凸部の頂部2aに第二離型層6を形成し、ナノインプリントモールド10を得る(図1(d))。この際、気相法により気化した第二離型剤の分子が、凹部3の側壁部および底部に接触する可能性が考えられるが、凹部3の側壁部および底部には、既に第一離型層5が形成されていることから、仮に、気化した第二離型剤の分子が凹部3の側壁部および底部に接触した場合であっても、後述するリンス工程で除去されると考えられる。また、本発明における第二離型層6は、通常、第一離型層5よりも撥液性の高い層である。また、図1(d)に示されるように、平坦部Bにも、第二離型層6が形成されていることが好ましい。平坦部Bも離型性に大きく寄与する部分であるからである。
【0027】
このように、本発明によれば、凹部の側壁部に撥液性の低い第一離型層を設けることにより、凹部における樹脂の充填性が良好なナノインプリントモールドを得ることができる。さらに、第一離型層は、凹部の底部で所定の離型性を発揮できるので、離型性が良好なナノインプリントモールドを得ることができる。また、凸部の頂部には、撥液性の高い第二離型層が形成されているため、樹脂に対する離型性が優れている。そのため、ナノインプリントモールドを樹脂から剥がすときに、樹脂との間に間隙が生じやすく、離型が進みやすいという利点がある。このように、本発明においては、凸部の頂部における表面自由エネルギーと、凹部の底部における表面自由エネルギーとを、前者が小さくなるように調整することにより、樹脂の充填性および離型性を両立させることができる。
【0028】
図2は、ナノインプリントモールドへの樹脂の充填を説明する概略断面図である。図2(a)に示すように、インプリントを行う際に、ナノインプリントモールド10を、基板11上の硬化性樹脂12と密着させる。図2(b)に示すように、凸部および凹部の表面に表面自由エネルギーの小さい同一の離型層21を有するナノインプリントモールド10では、離型層21により凹部における表面自由エネルギーが小さくなっているため、樹脂をはじきやすくなり、凹部の側壁部での樹脂の充填がスムーズに行われなくなるという問題や、凹部の底部で空隙Xが生じやすいという問題がある。これに対して、本発明においては、図2(c)に示すように、凸部の頂部2aに撥液性の高い第二離型層6を形成し、凹部の底部3aおよび側壁部3bに撥液性の低い第一離型層5を形成することにより、凹部において樹脂がなじみやすくなり、樹脂の充填性を向上させることができる。さらに、凸部の頂部2aには、撥液性の高い第二離型層6が形成されているため、ナノインプリントモールド10を樹脂12から剥がすときに、樹脂12との間に間隙が生じやすく、離型が進みやすいという利点を有する。
【0029】
以下、本発明のナノインプリントモールドの製造方法について、工程ごとに説明する。
【0030】
1.第一離型層形成工程
まず、本発明における第一離型層形成工程は、凸部および凹部を有するパターン部、ならびに上記凸部の頂部に形成された金属膜を備えるモールド部材を準備し、第一離型剤を用いて、上記凹部の側壁部および底部、ならびに上記金属膜の表面に第一離型層を形成する工程である。
【0031】
本発明に用いられるモールド部材は、凸部および凹部を有するパターン部と、凸部の頂部に形成された金属膜とを備えるものであり、離型層を形成する前の部材である。モールド部材の材料としては、例えば、石英(SiO)およびケイ酸塩ガラスを挙げることができる。ケイ酸塩ガラスとしては、例えば、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、青板ガラス、ソーダガラス、BK−7等を挙げることができる。また、モールド部材の材料は、透明性の高い材料であることが好ましい。光ナノインプリントモールドとして有用だからである。また、モールド部材の厚さは、目的とするナノインプリントモールドの材料や用途に応じて異なるものであるが、例えば0.5mm〜10mmの範囲内である。
【0032】
また、本発明に用いられるモールド部材は、凸部および凹部を有するパターン部を備える。パターン部の形状としては、例えば、ライン・アンド・スペース(L&S)、ドット、ホール、ピラー、レンズ形状、段差構造等を挙げることができる。
【0033】
また、本発明に用いられるモールド部材は、パターン部の凸部の頂部に形成された金属膜を備える。本発明においては、金属膜として、エッチングにより凹部を形成する際の金属膜をそのまま用いることが好ましい。金属膜の材料としては、例えばCr、Ta、Mo、Ti等の金属単体、上記金属単体の金属元素を2種類以上含む合金、および、上記金属単体の金属元素または上記合金を含む化合物(酸化物、窒化物等)を挙げることができる。また、金属膜の厚さは、例えば3nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、5nm〜30nmの範囲内であることがより好ましい。
【0034】
本発明に用いられるモールド部材の製造方法は、所定のパターン部を有するモールド部材を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的なナノインプリントモールドにおける方法と同様の方法を用いることができる。
【0035】
次に、本発明に用いられる第一離型剤について説明する。第一離型剤の材料は、モールド部材に対して、所望の離型性を付与できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、オクタデシルトリメトキシシラン(ODS:CH(CH17Si(OCH))、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等のシランカップリング剤を挙げることができる。
【0036】
次に、第一離型層を形成する方法について説明する。本発明においては、上記の第一離型剤を用いて、パターン部の表面に第一離型層を形成する。第一離型層を形成する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、第一離型剤を含有する溶液を用いる方法(溶液法)を挙げることができる。溶液法の一例としては、例えばディッピング法を挙げることができる。ディッピング法においては、毛管力により、微細なパターンの内部に離型剤を含む溶液を行き渡らせることができる。例えば、第一離型剤として上記シランカップリング剤を用いた場合は、第一離型剤を含有する溶液中にモールド部材を浸漬させて、パターン部の表面で、第一離型剤が加水分解反応および縮合反応を起こすことにより、第一離型層を形成することができる。本発明においては、ディッピング法を用い、その後リンス工程を行うことにより、余分な第一離型剤を除去し、凹部の側壁部および底部に、均一に薄い第一離型層を形成することが好ましい。
【0037】
また、溶液法の他の例としては、スピンコート法を挙げることができる。スピンコート法においても、毛管力により、微細なパターンの内部に離型剤を含む溶液を行き渡らせることができる。なお、溶液法により第一離型層を形成する場合は、第一離型剤の濃度を高くするほど、接触角が大きくなる傾向にある。
【0038】
また、第一離型層の形成方法の他の例としては、気相法を挙げることができる。気相法においては、時間の制御により、接触角すなわち表面自由エネルギーを制御することができる。例えば、第一離型剤として上記シランカップリング剤を用いた場合は、第一離型剤を加熱し気化させ、パターン部の表面で、気化した第一離型剤が加水分解反応および縮合反応を起こすことにより、第一離型層を形成することができる。気相法における加熱温度は第一離型剤の種類によって異なるものであるが、例えば80℃〜200℃の範囲内、中でも100℃〜150℃の範囲内であることが好ましい。
【0039】
また、本発明においては、第一離型層を形成する際に、溶液法を用いると、気相法を用いた場合に比べて、均一な第一離型層を形成しやすいという利点がある。これは、気相法を用いた場合、微細なパターン部でシャドーイングが生じ、気化した第一離型剤が、狭い凹部まで十分に行き渡らない可能性があるからである。
【0040】
また、本工程により得られる第一離型層は、後述する第二離型層よりも親液性の層である。一般的に、親液性の層は液体に対する接触角が小さくなり、撥液性の層は液体に対する接触角が大きくなることから、第一離型層は、後述する第二離型層よりも液体に対する接触角が小さくなる。ここで、純水(表面張力72.8N/m)を用いて接触角を測定した場合に、第一離型層の接触角(θ)は、100°以下であることが好ましく、90°以下であることがより好ましい。一方、θは、10°以上であることが好ましく、40°以上であることがより好ましく、60°以上であることがさらに好ましい。上記接触角は、接触角測定器(例えば協和界面科学(株)製Drop Master)を用いて測定することにより得ることができる。
【0041】
第一離型層の厚さは、特に限定されるものではないが、所望の離型性を発揮でき、凹部への樹脂の充填性を向上できる特性を保持しつつ、モールドの形状を大きく変化させることのない2nm以下の厚さであることが好ましく、1nm以下の厚さであることがより好ましい。
【0042】
2.金属膜剥離工程
次に、本発明における金属膜剥離工程は、上記第一離型層を表面上に有する上記金属膜を剥離する工程である。
【0043】
本発明においては、金属膜の剥離と同時に、金属膜の表面上に形成された第一離型層を除去する。これにより、凸部の頂部においてモールド部材が露出する。凹部に形成された第一離型層は、剥離液によるダメージを、ほとんど受けないため、凹部の第一離型層はそのまま残る。金属膜を除去する方法は特に限定されるものではなく、例えば、剥離液を用いて除去する方法を挙げることができる。剥離液の種類は、金属膜の種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0044】
3.第二離型層形成工程
次に、本発明における第二離型層形成工程は、上記金属膜を剥離することにより露出した上記凸部の頂部に、第二離型剤を用いて、上記第一離型層よりも撥液性の高い第二離型層を形成する工程である。
【0045】
本発明に用いられる第二離型剤の材料は、上記「1.第一離型層形成工程」で例示した第一離型剤の材料と同様の材料を用いることができる。さらに、第二離型剤として、フッ素系シランカップリング剤を用いても良い。撥液性の高い第二離型層を形成しやすいからである。フッ素系シランカップリング剤としては、例えばフッ素系シラン化合物を主成分とするオプツールDSX(商品名、ダイキン工業社製)等を挙げることができる。また、本発明において、第一離型剤および第二離型剤は、互いに異なる材料である。異なる材料を選択することにより、第一離型層および第二離型層の撥液性の違いを生じさせやすいという利点を有する。
【0046】
本発明においては、凸部の頂部に形成された金属膜を剥離し、剥離により露出した面に、第二離型剤を用いて、第一離型層よりも撥液性の高い第二離型層を形成する。特に、本発明におけるモールド部材が、石英またはケイ酸塩ガラスであり、第一離型剤および第二離型剤がシランカップリング剤である場合、露出したモールド部材の表面(第二離型層を形成する部分)でのみ、シランカップリング剤が加水分解反応および縮合反応を起こし、第一離型層が形成されている凹部の側壁部および底部では、シランカップリング剤は反応しないため、選択的に第二離型層を形成することができる。
【0047】
また、第二離型層を形成する方法としては、例えば溶液法および気相法を挙げることができる。溶液法および気相法については、上述した第一離型層形成工程で記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、本発明においては、第二離型層を形成する際に、気相法を用いると、溶液法を用いた場合に比べて、第二離型層の凹部への侵入を抑制できるという利点がある。これは、気相法を用いた場合、微細なパターン部でシャドーイングが生じ、気化した第二離型剤が、狭い凹部まで十分に行き渡らない可能性があるからである。このため侵入した余剰な離型剤をリンス工程で除去しやすくなる。
【0048】
また、本工程により得られる第二離型層は、上述した第一離型層よりも撥液性の層である。一般的に、親液性の層は液体に対する接触角が小さくなり、撥液性の層は液体に対する接触角が大きくなることから、第二離型層は、上述した第一離型層よりも液体に対する接触角が大きくなる。ここで、純水(表面張力72.8N/m)を用いて接触角を測定した場合に、第二離型層の接触角(θ)は、100°以上であることが好ましく、110°以上であることがより好ましい。上記接触角の測定方法は、上述した通りである。また、本発明においては、純水(表面張力 72.8N/m)を用いて接触角を測定した場合に、θ−θは、0°より大きいことが好ましく、10°以上であることがより好ましい。一方、θ−θは90°以下であることが好ましく、70°以下であることがより好ましく、50°以下がさらに好ましい。
【0049】
第二離型層の厚さは、特に限定されるものではないが、所望の離型性を発揮できる特性を保持しつつ、モールドの形状を大きく変化させることのない3nm以下の厚さであることが好ましく、1nm以下の厚さであることがより好ましい。
【0050】
4.その他の工程
本発明においては、第一離型層形成工程の後、および/または、第二離型層形成工程の後に、不要な離型剤を除去するリンス工程を行っても良い。
【0051】
5.ナノインプリントモールド
次に、本発明により得られるナノインプリントモールドについて説明する。本発明により得られるナノインプリントモールドは、光ナノインプリントモールドであることが好ましい。また、ナノインプリントモールドの用途としては、半導体デバイス製造、MEMS、NEMS等の微小電気機械システム製造、マイクロレンズアレイ、回折格子等の光学素子製造、パターンドメディア等の記録ディスク製造等を挙げることができる。
【0052】
B.パターン形成体の製造方法
次に、本発明のパターン形成体の製造方法について説明する。本発明のパターン形成体の製造方法は、基板と、上記基板上に形成された硬化性樹脂とを有する被転写部材を準備し、上記被転写部材の硬化性樹脂と、ナノインプリントモールドのパターン部とを密着させ、上記パターン部に上記硬化性樹脂を充填する樹脂充填工程と、充填された上記硬化性樹脂を硬化させ、上記ナノインプリントモールドのパターンを上記被転写部材に転写する転写工程と、を有するパターン形成体の製造方法であって、上記ナノインプリントモールドが、上述したナノインプリントモールドの製造方法により得られたものであることを特徴とするものである。
【0053】
図3は、本発明のパターン形成体の製造方法の一例を説明する概略断面図である。図3においては、まず、基板11および硬化性樹脂12を有する被転写部材13を準備する(図3(a))。次に、被転写部材13の硬化性樹脂12と、ナノインプリントモールド10のパターン部Aとを密着させ、パターン部Aに硬化性樹脂12を充填する(図3(b))。次に、光14を照射することにより、充填された硬化性樹脂12を硬化させ、ナノインプリントモールド10のパターンを被転写部材13に転写する(図3(c))。最後に、ナノインプリントモールド10を剥離することにより、基板11およびパターン形成樹脂層12aを有するパターン形成体20を得る(図3(d))。
【0054】
このように、本発明によれば、上述したナノインプリントモールドを用いることにより、モールドの凹部における樹脂の充填性が高くなり、精度良くパターン形成体を得ることができる。
以下、本発明のパターン形成体の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0055】
1.樹脂充填工程
まず、本発明における樹脂充填工程について説明する。本発明における樹脂充填工程は、基板と、上記基板上に形成された硬化性樹脂とを有する被転写部材を準備し、上記被転写部材の硬化性樹脂と、ナノインプリントモールドのパターン部とを密着させ、上記パターン部に上記硬化性樹脂を充填する工程である。なお、本発明に用いられるナノインプリントモールドについては、上記「A.ナノインプリントモールドの製造方法」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0056】
本発明に用いられる被転写部材は、基板および硬化性樹脂を有するものである。基板の材料は、特に限定されるものではなく、パターン形成体の用途に応じて適宜選択することが好ましい。基板の材料としては、例えば石英、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、青板ガラス、ソーダガラス、BK−7等の透明材料を挙げることができる。
【0057】
基板の厚さとしては、パターン形成体の用途により異なるものであり、特に限定されるものではないが、例えば0.5mm〜10mmの範囲内である。
【0058】
また、本発明に用いられる硬化性樹脂は、上記の基板上に形成されるものである。硬化性樹脂としては、後述する転写工程において硬化できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、光硬化性樹脂等を挙げることができる。光硬化性樹脂としては、具体的には、PAK−01(東亞合成製)、NIP−K(Zen Photonics製)、およびTSR−820(帝人製機製)等を挙げることができる。また、基板上に層状の硬化性樹脂(硬化性樹脂層)を形成する場合、硬化性樹脂層の厚みとしては、パターン形成体の用途等に応じて異なるものであるが、例えば0.01μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0059】
硬化性樹脂を含む塗工液を塗布する方法としては、一般的な塗布方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、具体的には、インクジェット法、滴下法、スピンコート法等を挙げることができ、中でもインクジェット法が好ましい。パターンの粗密に応じて、樹脂の量を調整でき、残留膜厚を均一にすることができるからである。
【0060】
2.転写工程
次に、本発明における転写工程について説明する。本発明における転写工程は、充填された上記硬化性樹脂を硬化させ、上記ナノインプリントモールドのパターンを上記被転写部材に転写する工程である。
【0061】
充填された硬化性樹脂を硬化させる方法としては、例えば、光を照射することにより硬化性樹脂を硬化させる方法を挙げることができる。上記光の種類としては、光硬化性樹脂の種類等により異なるものであるが、例えば紫外線、可視光線、赤外線、X線等を挙げることができ、中でも紫外線が好ましい。紫外線硬化性の光硬化性樹脂は汎用的だからである。一般に使用される紫外線の波長帯としては、例えば300nm〜400nmの範囲内である。また、光の照射量としては、光硬化性樹脂が十分に硬化する量であれば特に限定されるものではない。
【0062】
また、光を照射する方向としては、光硬化性樹脂を硬化させることができる方向であれば特に限定されるものではない。例えばモールド側から照射する場合等を挙げることができる。
【0063】
また、本発明においては、通常、硬化性樹脂を硬化させた後に、モールドを剥離する剥離工程を行う。モールドを剥離する方法としては、特に限定されるものではなく、一般的なインプリントで用いられる方法と同様の方法で行うことができる。
【0064】
3.パターン形成体
本発明により得られるパターン形成体は、通常、基板と、上記基板上に形成され、ナノインプリントモールドのパターン部に対応するパターンを有するパターン形成樹脂層とを有する。本発明においては、パターン形成樹脂層を、基板を加工するためのレジストとして用いても良く、パターン形成樹脂層自身を機能層として用いても良い。
【0065】
パターン形成樹脂層を、基板を加工するためのレジストとして用いる場合、上記パターン形成体は、例えば半導体デバイス;MEMS、NEMS等の微小電気機械システムの部材として用いることができる。一方、パターン形成樹脂層自身を機能層として用いる場合、パターン形成体は、例えばマイクロレンズアレイ、回折格子等の光学素子;MEMS、NEMS等の微小電気機械システム;パターンドメディア等の記録ディスク等の部材として用いることができる。
【0066】
C.ナノインプリントモールド
次に、本発明のナノインプリントモールドについて説明する。本発明のナノインプリントモールドは、凸部および凹部を有するパターン部を有するモールド部材を備えたナノインプリントモールドであって、上記凹部の側壁部および底部において第一離型層を有し、上記凸部の頂部において上記第一離型層よりも撥液性の高い第二離型層を有することを特徴とするものである。
【0067】
本発明によれば、凹部の側壁部に撥液性の低い第一離型層を設けることにより、凹部における樹脂の充填性が良好なナノインプリントモールドとすることができる。さらに、第一離型層は、凹部の底部で所定の離型性を発揮できるので、離型性が良好なナノインプリントモールドとすることができる。また、凸部の頂部には、撥液性の高い第二離型層が形成されているため、樹脂に対する離型性が優れている。そのため、ナノインプリントモールドを樹脂から剥がすときに、樹脂との間に間隙が生じやすく、離型が進みやすいという利点がある。本発明のナノインプリントモールドについては、上記「A.ナノインプリントモールドの製造方法」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0070】
[実施例]
(モールド部材の作製)
合成石英ガラス6025(以下、Qzと称する。)上にスパッタリング法でCr膜を15nm成膜した。次に、Cr膜上に、電子線用レジストを100nm塗布した。基板を描画装置にて描画し、現像装置で現像した後、Crのドライエッチング装置で露出するパターン部分のCr膜をエッチングし、更に、Qzのドライエッチング装置でQz露出部分を100nmエッチングした。その後、レジスト膜を剥離した。これにより、パターン部(L&S、凸部の頂部の幅100nm、凹部の底部の幅100nm、凹部の深さ100nm)を有するモールド部材を得た。
【0071】
(ナノインプリントモールドの作製)
次に、第一離型剤として、オクタデシルトリメトキシシラン(ODS:CH(CH17Si(OCH)を準備し、気相法(大気圧下、加熱温度150℃)により、モールド部材のパターン部の表面に第一離型層(厚さ2nm)を形成した。その後、不要な第一離型剤を除去するためにキシレンを用いてリンスを行った。また、純水に対する第一離型層の接触角は94°であった。なお、接触角は、上述した測定方法により測定した。次に、Cr膜を剥離液で剥離し、Qz表面を露出させた。なお、凹部に形成された第一離型層は、剥離液によりダメージはほとんど受けないことを確認した。次に、第二離型剤として、フッ素系シラン化合物を主成分とするオプツールDSX(ダイキン工業社製)を準備し、気相法(大気圧下、加熱温度150℃)により、パターン部の凸部の頂部で露出するQz表面上に第二離型層(厚さ3nm)を形成した。その後、パターン部の凹部に侵入した第二離型剤を除去するためにパーフルオロヘキサンを用いてリンスを行った。また、純水に対する第二離型層の接触角は113°であった。なお、接触角は、上述した測定方法により測定した。これにより、ナノインプリントモールドを得た。
【符号の説明】
【0072】
1…モールド部材、2…凸部、2a…凸部の頂部、3…凹部、3a…凹部の底部、3b…凹部の側壁部、4…金属膜、5…第一離型層、6…第二離型層、10…ナノインプリントモールド、11…基板、12…硬化性樹脂、13…被転写部材、14…光、20…パターン形成体、A…パターン部、B…平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸部および凹部を有するパターン部、ならびに前記凸部の頂部に形成された金属膜を備えるモールド部材を準備し、第一離型剤を用いて、前記凹部の側壁部および底部、ならびに前記金属膜の表面に第一離型層を形成する第一離型層形成工程と、
前記第一離型層を表面上に有する前記金属膜を剥離する金属膜剥離工程と、
前記金属膜を剥離することにより露出した前記凸部の頂部に、第二離型剤を用いて、前記第一離型層よりも撥液性の高い第二離型層を形成する第二離型層形成工程と、
を有することを特徴とするナノインプリントモールドの製造方法。
【請求項2】
前記第一離型層形成工程において、スピンコート法またはディッピング法により、前記第一離型層を形成することを特徴とする請求項1に記載のナノインプリントモールドの製造方法。
【請求項3】
前記第一離型層形成工程において、気相法により、前記第一離型層を形成することを特徴とする請求項1に記載のナノインプリントモールドの製造方法。
【請求項4】
前記第二離型層形成工程において、気相法により、前記第二離型層を形成することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載のナノインプリントモールドの製造方法。
【請求項5】
前記モールド部材が石英またはケイ酸塩ガラスであり、前記第一離型剤および前記第二離型剤がシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載のナノインプリントモールドの製造方法。
【請求項6】
前記凹部の側壁部および底部に形成された第一離型層における純水との接触角をθとし、前記凸部の頂部に形成された第二離型層における純水との接触角をθとした場合に、θが100°以下であり、θが100°以上であり、かつ、θおよびθの差(θ−θ)が10°以上であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載のナノインプリントモールドの製造方法。
【請求項7】
基板と、前記基板上に形成された硬化性樹脂とを有する被転写部材を準備し、前記被転写部材の硬化性樹脂と、ナノインプリントモールドのパターン部とを密着させ、前記パターン部に前記硬化性樹脂を充填する樹脂充填工程と、
充填された前記硬化性樹脂を硬化させ、前記ナノインプリントモールドのパターンを前記被転写部材に転写する転写工程と、
を有するパターン形成体の製造方法であって、
前記ナノインプリントモールドが、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載のナノインプリントモールドの製造方法により得られたものであることを特徴とするパターン形成体の製造方法。
【請求項8】
凸部および凹部を有するパターン部を有するモールド部材を備えたナノインプリントモールドであって、
前記凹部の側壁部および底部において第一離型層を有し、前記凸部の頂部において前記第一離型層よりも撥液性の高い第二離型層を有することを特徴とするナノインプリントモールド。
【請求項9】
前記凹部の側壁部および底部に形成された第一離型層における純水との接触角をθとし、前記凸部の頂部に形成された第二離型層における純水との接触角をθとした場合に、θが100°以下であり、θが100°以上であり、かつ、θおよびθの差(θ−θ)が10°以上であることを特徴とする請求項8に記載のナノインプリントモールド。
【請求項10】
前記モールド部材が石英またはケイ酸塩ガラスであり、前記第一離型層および前記第二離型層がシランカップリング剤を用いてなるものであることを特徴とする請求項8または請求項9に記載のナノインプリントモールド。
【請求項11】
前記第一離型層はスピンコート法またはディッピング法により形成されたものであり、前記第二離型層は気相法により形成されたものであることを特徴とする請求項8から請求項10までのいずれかの請求項に記載のナノインプリントモールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−206981(P2011−206981A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75611(P2010−75611)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】