説明

ナノチューブとカーボン層とのナノ構造複合体

本発明は、カーボン層内に少なくとも部分的に包埋されたナノチューブネットワークを含むナノ構造複合体に関する。本発明は、特定的には、エネルギー変換、エネルギー貯蔵の分野、さらには生物医学の分野で使用するための伝導性ナノ構造複合体に関する。本発明はまた、基体上の触媒層上へのカーボンのCVDを介する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造複合体、特定的には、エネルギー変換、エネルギー貯蔵の分野、さらには生物医学の分野で使用するための伝導性ナノ構造複合体に関する。本発明はまた、ナノ構造複合体の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生不能燃料源が減少しているので、より効率的なエネルギー変換方法およびエネルギー貯蔵方法の必要性は、最大の関心事になりつつある。電池やキャパシターのような一般的なエネルギー貯蔵デバイスは、機能を電極に頼っている。
【0003】
光化学電池用の電極は、電解質への効率的な電荷移動を可能にすべく大きい表面積を必要とする。また、電荷蓄積用のデバイスで使用される電極は、大きい表面積と高い伝導性とを必要とする。バイオ電極は、生存生物に電荷を送達するためにまたは生存生物の表面もしくはその内部で電気パルスを感知するために使用される。一般的なバイオ電極としては、ペースメーカー電極および心電図(ECG)パッドが挙げられる。電極と生存生物との間の相互作用は、その長期使用に不可欠である。電極は、それが埋植される生存生物に対して毒性を示さないように生体適合性でなければならない。
【0004】
ヒト用の市販の埋植型バイオ電極は、PtおよびPt−Ir合金から作製される。多くの場合、こうした金属は、その表面積を増大させるためにまたはそのバイオ相互作用を調整するために、窒化チタンまたは伝導性酸化物(たとえばRuOもしくはIrO)のコーティングが施される。
【0005】
ナノチューブたとえばカーボンナノチューブは、電気化学デバイス用の電極を構築するための新素材を提供する。そのような電極は、高い伝導性と強い強度と大きい表面積とを必要とする。後者の2つの要件は、両立しないことが多い。カーボンナノチューブ(バッキーペーパー)で全体が構成された電極は、大きい表面積を有するが、典型的には、脆弱で非可撓性ありしかも実用的なマクロスコピック用途に不十分な伝導性を有する。
【0006】
カーボンナノチューブの製造について多くの研究がなされてきた。たとえば、カーボンナノチューブプラットフォームは、整列カーボンナノチューブアレイの形成を介して製造されてきた。垂直整列CNTの大規模合成は、Liら(非特許文献1)により最初に報告された。彼らは、メソ多孔性シリカ中に包埋された鉄ナノ粒子により触媒される化学気相堆積に基づく方法を用いた整列カーボンナノチューブの大規模合成について記述した。
【0007】
触媒が印刷された平面状基体上に化学気相堆積により作製される垂直整列カーボンナノチューブのフォレストおよびアレイの製造技術は、触媒材料(典型的にはナノ粒子集合体または薄膜形状物)の堆積およびパターニング(通常は個別の加工工程)を必要とする。このため、ナノチューブの作製方法は複雑になる(非特許文献2および3)。
【0008】
また、現在まで、カーボンナノチューブフォレストおよび/または他のタイプのナノチューブフォレストの成長は、非伝導性基体上に確保することが必要とされてきた。したがって、こうした整列フォレストは、伝導性基体(非特許文献4)に移す必要があるか、または金属が堆積された接点(非特許文献5)をフォレストの上に後加工する必要があり、その後、デバイス中に一体化するための電極材料として好適なものとなる。
【0009】
通常、化学気相堆積のプロセスでは、ナノチューブは、ナノチューブが基体に結合されていない状態で、もっと正確に言えば、基体上に単に置かれているにすぎない状態で、生成されるので、基体への結合はいずれも、機械的にも電気的にも頑強でない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Li, W., Xie, S., Qian, L., Chang, B., Large scale synthesis of aligned carbon nanotubes, Science, 274, 1701-1703 (1996).
【非特許文献2】T. Kyotani, L. Tsai, A. Tomita, Chemistry of Materials 8 (1996) 2109.
【非特許文献3】G. Che, BB. Lakshmi, CR. Martin, ER. Fisher, RS. Ruoff, Chemistry of Materials 10 (1999) 260
【非特許文献4】Yu, X., Kim, SN., Papadimitrakopoulos, F., Rusling, JF., Protein immunosensor using single-walled carbon nanotube forests with electrochemical detection of enzyme labels, Mol. Biosys. 1, 70-78 (2005).
【非特許文献5】Wei, C., Dai, LM., Roy, A., Benson Tolle, T., Multifunctional chemical vapour sensors of aligned carbon nanotube and polymer composites, J. Am. Chem. Soc. 128, 1412-1413 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ナノ構造複合体の簡単な製造方法を開発することが必要とされている。こうしたナノ構造複合体は、機械的に頑強でありかつ好ましくはエネルギー貯蔵用およびエネルギー変換用の電極のような用途で使用するのに十分な伝導性を有することが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、カーボン層内で一体化されたナノチューブネットワークを含むナノ構造複合体を提供する。
【0013】
「〜内で一体化された」とは、カーボン層内に少なくとも部分的に包埋されていることを意味する。
【0014】
一実施形態では、複合体は伝導性である。好ましくは、カーボン層は、活性カーボン層(CL)たとえばアモルファスカーボン(AC)層などのように高伝導性である。この実施形態は、エネルギー変換およびエネルギー貯蔵にとくに有用である。
【0015】
ナノ構造複合体は、基体をさらに含みうる。これにより、ナノ構造複合体基体構造物が提供される。
【0016】
好ましくは、カーボン層は基体に結合される。「結合される」とは、基体により物理的に保持されることを意味する。
【0017】
一実施形態では、基体は金属であり、結果的に、金属様伝導性を有するナノ構造複合体基体構造物が得られる。
【0018】
一実施形態では、複合体は生体適合性であり、結果的に、バイオマテリアル複合体が得られる。ナノチューブおよび/またはカーボン層は、生体適合性でありうる。複合体が基体をさらに含む場合、ナノチューブ、カーボン層、および/または基体は、生体適合性でありうる。
【0019】
本発明はさらに、以下の工程、すなわち、
i)基体上に金属触媒を堆積する工程と、
ii)基体上の触媒からナノチューブネットワークを下側カーボン層と共に化学気相堆積(CVD)成長させてナノ構造複合体基体構造物を形成する工程と、
iii)場合により、基体からナノ構造複合体を分離する工程と、
を含む、ナノ構造複合体またはナノ構造複合体基体構造物の作製方法を提供する。
【0020】
ナノチューブは、カーボン層から突出するようにナノ構造複合体中で配向される。ナノチューブは、カーボン層内に部分的に包埋される。すなわち、ナノチューブの成長開始点は、カーボン層内に包埋され、かつナノチューブの残りの部分は、カーボン層から突出する。言い換えれば、ナノチューブは、カーボン層内に包埋された有機金属触媒の還元により形成された金属ナノ粒子から成長して、ナノチューブとカーボン層との間に本質的な結合を形成する。
【0021】
一実施形態では、工程ii)の基体は、バイオ分子を場合により含む分散媒体の形態をとり、分散媒体は、ナノチューブ層上にキャストされる。
【0022】
本発明はさらに、以上に記載のナノ構造複合体および/またはナノ構造複合体基体構造物で全部もしくは一部が構成された物品を提供する。好ましくは、物品は、電気伝導性であり、例としては、キャパシター、ハイブリッド電池キャパシター、スーパーキャパシター、および電池のようなエネルギー貯蔵用およびエネルギー変換用の電極、燃料電池、ガス貯蔵媒体、およびセンサーとして使用するための電極、ならびにバイオ電極、バイオ燃料電池、および電気刺激バイオ増殖用基体のような生物医学分野で使用するための電極が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】自立性CNT/ACペーパーのいくつかの走査型電子顕微鏡写真(SEM)および光学画像を示す図である。
【図2】CNT−AC交差領域の高分解能走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【図3】従来型の三電極電池を用いて作成されたサイクリックボルタンモグラムを示す図である。
【図4】自立性CNT/AC/金属ペーパーのディジタル画像およびSEM画像を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るCNT/ACペーパーの作製手順の概略図を示す図である。
【図6】下側AC層のXRD応答および従来型のカーボンブラックサンプルとの比較を示す図である。
【図7】(a)Fe(III)DBS、(b)Fe(III)PS、および(c)Fe(III)pTSから成長させた自立性CNT/ACペーパーのトップ表面の走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【図8】水性1.0M NaNO中、さまざまな走査速度で、自立性CNT/ACペーパーを作用電極として用いて得られたサイクリックボルタンモグラムの重ね合わせを示す図である。
【図9】自立性CNT/AC/金属ペーパーのディジタル画像およびSEM画像を示す図である。
【図10】CNT修飾カーボン繊維ペーパーの走査型電子顕微鏡写真(SEM)画像を示す図である。
【図11】(a)ブランクカーボン繊維ペーパーおよび(b)CNT修飾カーボン繊維ペーパーのラマンスペクトルを示す図である。
【図12】市販のCR2032コイン電池内でアノード材料として機能させた時のCNT/CFP電極の1回目〜50回目の充電/放電プロファイルを示す図である。
【図13】異なる充電/放電速度における/CFP上に堆積されたCNTの放電容量vsサイクル数を示す図である。
【図14】白金シート上に堆積されたCNTナノウェブのSEM画像を示す図である。
【図15】(a)CNTナノウェブおよび(b)純粋白金シートを外リンパ液中で作用電極として用いて100mV・s−1の走査速度で得られたサイクリックボルタンモグラムの重ね合わせを示す図である。
【図16】0.5M HSO水溶液中(O雰囲気下)のPPy/Co−TPP修飾CNTナノウェブ電極における酸素還元に対するリニアスイープボルタンモグラム(vs Ag/AgCl)の重ね合わせを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ナノ構造複合体(Nanostructued composite)
複合体とは、一般的には、完成構造体中で個別の識別可能な状態に保持された2種以上の構成材料から作製された材料として記述されるものである。通常、構成材料は、マトリックスおよび強化材料として一般に記述される2つのタイプよりなる。一般に理解されていることであるが、マトリックス材料が強化材料を包囲して支持し、増強された性質を有する材料を生成する一種の相乗作用が達成される。
【0025】
本発明では、ナノチューブがマトリックス材料とみなされかつそれに結合されたカーボン層が複合体の強化材とみなされるナノ構造複合体が提供される。この構成では、カーボンナノチューブ(バッキーペーパー)で全体が構成された電極(例として)と比較して、より頑強な材料が提供される。
【0026】
ナノチューブは、典型的には、有機材料または無機材料で作製された小さい円筒である。公知のタイプのナノチューブとしては、カーボンナノチューブ、無機ナノチューブ、およびペプチジルナノチューブが挙げられる。無機ナノチューブとしては、WSのナノチューブならびにチタンおよびモリブデンの酸化物のような金属酸化物のナノチューブが挙げられる。好ましくは、ナノチューブはカーボンナノチューブ(CNT)である。
【0027】
CNTとは、円筒状チューブの形態に丸められたグラファイトシートのことである。グラファイトシートの基本反復ユニットは、約1.45Åの炭素−炭素結合長を有する炭素原子の六角形の環よりなる。どのように作製されるかに依存して、ナノチューブは、シングルウォールナノチューブ(SWNT)、ダブルウォールカーボンナノチューブ(DWNT)、および/またはマルチウォールナノチューブ(MWNT)でありうる。典型的なSWNTは、約0.7〜1.4nmの直径を有する。
【0028】
ナノチューブの構造特性により、特有の物理的性質がナノチューブに付与される。
【0029】
ナノチューブは、鋼の100倍までの機械的強度を有しうるうえに数mmまでの長さが可能である。それは、ナノチューブのキラリティーまたはツイストの度合いに依存して、金属または半導体のいずれかの電気特性を呈する。異なる形態のナノチューブは、アームチェアナノチューブ、ジグザグナノチューブ、およびキラルナノチューブとして知られる。カーボンナノチューブの電子的性質は、部分的には、直径によって、したがってナノチューブの「形態」によって、決まる。
【0030】
カーボンナノチューブのグラファイト層間のスペース、欠陥構造に起因する局所的無秩序、および中心コアは、大きい挿入容量を可能にするはずである。安定性が高く、質量密度が低く、抵抗が低く、利用可能表面積が大きく、かつ細孔サイズ分布が狭いという特性に基づいて、カーボンナノチューブは、電気化学キャパシターに好適な材料である。
【0031】
ナノチューブは、カーボン層から突出するように本発明に係る複合体中で配向される。ナノチューブは、カーボン層内に部分的に包埋される。すなわち、ナノチューブの一方の端の一部分は、カーボン層内に包埋され、かつナノチューブの残りの部分は、カーボン層から突出する。言い換えれば、ナノチューブは、カーボン層内に包埋された有機金属触媒の還元により形成された金属ナノ粒子から成長して、ナノチューブとカーボン層との間に本質的な結合を形成する。ナノ複合体は、基体上に堆積された金属触媒が関与するプロセスを介して作製される。プロセス時、触媒の金属ナノ粒子は、カーボン層内に包埋された状態になるので、ナノチューブがこうした金属ナノ粒子から成長して結果的にナノチューブとカーボン層との間に本質的な結合が形成されると言えるであろう。
【0032】
ナノ複合体のナノチューブは、好ましくは、三次元絡合いネットワークを形成しうる非整列ナノチューブである。ナノチューブは、シングルウォールナノチューブ(SWNT)、ダブルウォールナノチューブ(DWNT)、および/またはマルチウォールナノチューブ(MWNT)でありうる。好ましくは、ナノチューブは、非整列マルチウォールナノチューブであり、これは、典型的には、非整列マルチウォールナノチューブネットワークまたは非整列マルチウォールナノチューブフォレストと呼ばれる。
【0033】
ナノチューブは、好ましくは、1μm超、好ましくは50μm超、より好ましくは100μm超の平均長と、10〜100nm、好ましくは20〜40nmの外径と、を有する非整列マルチウォールカーボンナノチューブ(MWNT)である。
【0034】
整列カーボンナノチューブは、高度に秩序化されているので、良好な電気化学的性質を有すると考えられる。しかしながら、非整列ナノチューブを含有する複合体もまた、良好な電気化学的性質を示し、いくつかの状況下では、同一の炉内で成長させた垂直整列ナノチューブよりも優れている。
【0035】
以上に述べたように、ナノチューブは、カーボン層から突出するようにナノ複合体中で配向される。カーボン層は、好ましくは伝導性であり、そのような実施形態では、伝導性カーボン層が存在するので、伝導性材料を得るためにナノチューブ上に金属接点を堆積するというこれまでの要件が回避される。カーボン層自体からナノチューブを成長させると、結果的に、ナノチューブは、カーボン層内に一体化される。
【0036】
カーボン層は、好ましくは活性カーボン層(CL)、たとえばアモルファスカーボン(AC)層、より好ましくは非グラファイト化カーボン層である。
【0037】
一実施形態では、カーボン層は、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは1μm未満の厚さである。SEMイメージング(図1参照)は、ナノサイズの多孔性を有する均一に緻密な連続AC膜を示している。XRDスペクトルは、AC層が無秩序ACであるが活性ACであることを示している。
【0038】
カーボン層は、複合体の作製プロセスで利用される金属触媒に由来する金属または金属の組合せを含有しうる。金属触媒に由来する金属は、遷移金属、たとえば、パラジウム、鉄、ロジウム、ニッケル、モリブデン、および/またはコバルト、好ましくは、鉄、ニッケル、またはコバルトでありうる。
【0039】
カーボン層の金属含有率は、20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満でありうる(エネルギー分散型X線分析から得られる)。そのような低濃度では、金属含有率だけがカーボン層の伝導性に関与するとは考えられないであろう。
【0040】
好ましくは、複合体は、可撓性かつ頑強である。カーボン層は、複合体に強度を付与するが、それでもさまざまな用途に合った造形を可能にするのに十分な可撓性を保持する。複合体は、さまざまな厚さを有しうる。好ましくは、複合体の厚さは、1〜100μm、より好ましくは5〜50μm、最も好ましくは約20μmであり、こうした厚さであれば、複合体は、可撓性薄肉スーパーキャパシターに使用したり充電式Liイオン電池などの電池用のアノード材料として使用したりするのに好適なものとなる。
【0041】
複合体は、基体をさらに含みうる。したがって、ナノ構造複合体基体構造物が提供される。
【0042】
基体は、本発明に係るナノ複合体の作製に利用される。それは、触媒膜が作製されかつ下側カーボン層と共にナノチューブネットワークが成長する表面を提供する。ナノチューブの成長は、通常、約500℃程度以上の高温を必要とする。この工程は、不活性雰囲気中たとえばArガス中またはNガス中でのナノチューブの成長に必要とされる高温に耐えうる基体が関与するCVDを用いて達成可能である。基体は、伝導性または非伝導性でありうる。
【0043】
伝導性基体の好適な例としては、グラッシーカーボン、金属または金属箔、たとえば、銅、鉄、ニッケル、白金、およびアルミニウムの金属または金属箔、金属で被覆された石英プレートおよびグラッシースライド、カーボンペーパーたとえばカーボン繊維ペーパー、カーボン、カーボンナノチューブ繊維、ならびにカーボンナノチューブペーパーが挙げられる。
【0044】
非伝導性基体の好適な例としては、石英、シリコンウェーハ、グラッシースライド、および無機複合体たとえば金属酸化物膜が挙げられる。
【0045】
他の選択肢として、ナノ複合体は、それが表面上に作製された基体から分離されて単独で利用される。この選択肢の構成では、複合体は、所望の用途に適した性質を有する他の基体に移すことが可能である。基体は、以上に列挙されたものから選択可能であるか、またはナノチューブの成長に必要とされる高温に必ずしも耐えうるものでなくてもよい任意の他の基体、たとえば、金属などの非高分子材料および高分子材料から選択可能である。
【0046】
一実施形態では、金属基体の使用により、金属様伝導性を有する複合体基体構造物が得られる。
【0047】
金属基体の好適な例としては、白金、金属箔、たとえば、充電式電池に使用するための銅箔およびキャパシターに使用するためのアルミニウム箔、金属被覆メンブレン、金属被覆テキスタイル、ならびに金属被覆ポリマー繊維が挙げられる。
【0048】
高分子基体としては、ポリ(スチレン−β−イソブチレン−β−スチレン)(SIBS)が挙げられうる。これは、その優れた生体安定性および生体適合性に基づいて有効なバイオマテリアルである軟質エラストマー性トリブロックコポリマーである。他の高分子基体としては、電子伝導体、たとえば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、可溶性ピロール類、ポリチオフェン類、および/またはポリアニリン類、アクリレートポリマー類、アクリル酸ポリマー類、ポリアクリル酸エステル類、ポリアクリルアミド類、ポリアクリロニトリル類、塩素化ポリマー類、フッ素化ポリマー類、スチレン系ポリマー類、ポリウレタン類、天然ゴム、合成ゴムポリマー類、ビニルクロリド−アクリレートポリマー類、ならびにそれらのコポリマー類が挙げられる。高分子基体の特定例としては、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルプロピオネート、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(ビニルクロリド)、ポリ(ビニリデンクロリド)、ポリ(ビニルクロリド−エチレン)、ポリ(ビニルクロリド−プロピレン)、ポリ(スチレン−コー−ブタジエン)、スチレン−アクリレートコポリマー、エチレン−ビニルクロリドコポリマー、ポリ(ビニルアセテート−アクリレート)、ポリ(ビニルアセテート−エチレン)、およびそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
他の実施形態では、ナノチューブ、カーボン層、および/または基体は、たとえば、バイオ分子、触媒、および/または追加の伝導体を結合させることにより、化学修飾が可能である。
【0050】
バイオ分子を結合させた場合、バイオマテリアルとして機能する生体適合性の複合体および/または基体構造物が生成される。
【0051】
「バイオ分子」という用語は、一般的には、生体内または細胞内に見いだされるタイプの分子またはポリマーと、そのような分子と相互作用する化学化合物と、を意味する。例としては、生物学的高分子電解質類、たとえば、ヒアルロン酸(HA)、キトサン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアミド、ポリ−2−ヒドロキシ−ブチレート(PHB)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(乳酸−コー−グリコール酸)(PLGA)、硫酸プロタミン、ポリアリルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリエチレンイミン、オイドラギット、ゼラチン、スペルミジン、アルブミン、ポリアクリル酸、ナトリウムアルギネート、ポリスチレンスルホネート、カラゲニン、カルボキシメチルセルロース、核酸類、たとえば、DNA、cDNA、RNA、オリゴヌクレオチド、オリゴリボヌクレオチド、修飾型オリゴヌクレオチド、修飾型オリゴリボヌクレオチド、およびペプチド核酸(PNA)、またはそれらのハイブリッド分子、ポリアミノ酸類、たとえば、ポリ−L−リシン、ポリ−L−アルギニン、ポリ−L−アスパラギン酸、ポリ−D−グルタミン酸、ポリ−L−グルタミン酸、ポリ−L−ヒスチジン、およびポリ−(DL)−ラクチド、タンパク質類、たとえば、増殖因子レセプター、カテコールアミンレセプター、アミノ酸誘導体レセプター、サイトカインレセプター、レクチン、サイトカイン、および転写因子、酵素類、たとえば、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、GTPアーゼ、およびヒドロラーゼ、多糖類、たとえば、セルロース、アミロース、およびグリコーゲン、脂質類、たとえば、キロミクロンおよびグリコリピド、ならびにホルモン類、たとえば、アミノ誘導体化ホルモン、ペプチドホルモン、およびステロイドホルモンが挙げられる。
【0052】
高分子電解質とは、ポリマー鎖の成分であっても置換基であってもよいイオン解離性基を有するポリマーのことである。通常、高分子電解質中のこうしたイオン解離性基の数は非常に多いので、その解離形ポリマー(ポリイオンとも呼ばれる)は水溶性である。解離性基のタイプに依存して、高分子電解質は、典型的には、ポリ酸とポリ塩基とに分類される。解離時、ポリ酸は、プロトンを分離除去して、無機ポリマー、有機ポリマー、およびバイオポリマーでありうるポリアニオンを形成する。ポリ塩基は、プロトンを受容しうる基を含有し、たとえば、酸との反応により塩を形成する。
【0053】
本発明に係る複合体および複合体基体構造物に使用するのに好適ないくつかのバイオ分子の構造を以下に示す。
【化1】

【0054】
当然のことであろうが、バイオ分子は、薬剤、ホルモン、増殖因子、または抗生物質などの活性成分を運搬するバイオ分子のように、バイオ相互作用のさらなる制御を可能にする機能性基を含みうる。所望の用途に応じてバイオ分子を選択することも可能である。たとえば、特定の細胞タイプの接着を促進または阻害すべく複合体を使用するのであれば、神経細胞増殖もしくは内皮細胞増殖を促進するバイオ分子または平滑筋細胞増殖(繊維芽細胞)を阻害するバイオ分子を使用することが有利であろう。
【0055】
バイオ分子は、モノマーたとえばピロールおよび/または酸化剤たとえばFeClを含みうる。そのような実施形態では、1種以上のモノマーが存在する場合には後続の電気化学的酸化もしくは化学的酸化により、または1種以上の酸化剤が基体中に存在する場合には気相重合により、バイオ分子に伝導性を付与することが可能である。
【0056】
本発明に係るナノ複合体中および/または基体中には、1種超のバイオ分子が存在可能である。バイオ分子の選択は、複合体または複合体基体構造物の最終用途により決定されるであろう。
【0057】
また、ナノチューブの表面は、スパッターコーティングもしくは電着により金属のような追加の伝導体で改質したりあるいは溶液化学重合もしくは気相重合によりまたは電着により伝導性ポリマーで改質したりすることも可能である。
【0058】
プロセス
ナノ構造複合体またはナノ構造複合体基体構造物の作製方法は、以下の工程、すなわち、
i)基体上に金属触媒を堆積する工程と、
ii)基体上の触媒からナノチューブネットワークを下側カーボン層と共に化学気相堆積(CVD)成長させてナノ構造複合体基体構造物を形成する工程と、
iii)場合により、基体からナノ構造複合体を分離する工程と、
を含む。
【0059】
第1の工程は、基体上に金属触媒膜を堆積することを含む。基体は、触媒膜が作製され、ナノチューブが成長し、かつカーボン層が形成される表面を提供する。
【0060】
触媒は、ナノチューブの成長を触媒するのに好適な任意の触媒でありうる。
【0061】
金属触媒は、有機金属触媒または無機金属触媒、好ましくは有機金属塩触媒でありうる。
【0062】
有機金属触媒は、金属−炭素結合を含む。この金属−炭素結合の炭素は、求核性であるので、炭素−炭素結合を生成しうる。これによりナノチューブ、特定的にはカーボンナノチューブの成長が開始されると推測される。
【0063】
金属触媒の金属は、遷移金属、たとえば、パラジウム、鉄、ロジウム、ニッケル、モリブデン、およびコバルト、好ましくは、鉄、ニッケル、またはコバルトでありうる。
【0064】
好適な有機塩としては、場合により置換されていてもよいアリールスルホン酸塩またはヘテロアリールスルホン酸塩、たとえば、トルエンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、およびピリジンスルホン酸塩、ならびにカルボン酸塩、たとえば、酢酸塩またはアセチルアセトン酸塩が挙げられる。
【0065】
有機金属塩触媒の特定例は、以下のとおりである。
【0066】
・p−トルエンスルホン酸鉄(III)(Fe(III)pTS)、
【化2】

【0067】
・ドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)(Fe(III)DBS)、
【化3】

【0068】
・ピリジンスルホン酸鉄(III)(Fe(III)PS)、
【化4】

【0069】
・カンファースルホン酸鉄(III)、
・酢酸ニッケル(II)、
・アセチルアセトン酸ニッケル(II)、
・酢酸コバルト(II)、および
・アセチルアセトン酸コバルト(II)。
【0070】
触媒膜は、金属塩を有機化合物と共に溶媒中に溶解させてからこれを基体上に堆積することにより作製可能である。たとえば、触媒膜は、FeClをNaCSAと共に1:1のモル比で有機溶媒中たとえばエタノール中で混合することにより作製可能である。他の選択肢として、エタノールのような有機溶媒から触媒を基体上に直接堆積することが可能である。次に、第2の工程の前にアニーリングにより有機溶媒を除去することが可能である。
【0071】
触媒膜は、スピンコーティングのような任意の好適な公知技術を用いて堆積可能である。好ましくは、触媒は、基体上に安定な薄膜を形成する。膜は、ナノチューブの成長を触媒するのに好適な厚さでありうる。好ましくは、触媒膜は、<50μm、より好ましくは<10μmの厚さである。
【0072】
異なる触媒を使用することによりナノチューブの成長に影響を与えて、結果的に、ナノチューブの長さおよび直径をさまざまな異なるものにすることが可能である。また、触媒の選択によりナノチューブの多孔性に影響を与えることも可能である。たとえば、図7は、Fe(III)DBS(図7a参照)から成長させたカーボンナノチューブがFe(III)PS(図7b参照)およびFe(III)pTS(図7c参照)から成長させたものと比較した場合にそれらよりも短いがそれらよりも大きい直径のナノチューブを有することを示している。DDBS>DPS>DpTS(D=直径)およびLDBS<LPS<LpTS(L=長さ)という傾向は、Fe(III)有機部分の異なる性質に起因しうる。
【0073】
最大の多孔性のカーボンナノチューブフォレストと共に最高品質のカーボンナノチューブを提供した金属触媒は、Fe(III)pTSから成長させたものであった。
【0074】
ナノ複合体の生成カーボン層のシート抵抗もまた、触媒の選択により影響を受けた。たとえば、シート抵抗は、Fe(III)pTS、Fe(III)DBS、Fe(III)PS、およびFe(III)CSAの場合、それぞれ、46Ω/□、86Ω/□、65Ω/□、および57Ω/□であることがわかった。したがって、Fe(III)PTSは、最大の伝導性の複合体を生成するので最も好ましい触媒である。
【0075】
ナノ複合体の作製の第2の工程は、基体上の触媒膜からナノチューブネットワークを下側カーボン層と共にCVD成長させることを含む。この工程では、カーボン源、好ましくはガス状カーボン源が利用される。すでに報告されているように、カーボン源の不在下では、カーボン層の抵抗は、約5kΩであることがわかっている。成長工程にカーボン源を追加すると、カーボン層の抵抗が1/100未満に低下するので、かなり高い伝導性を有するようになる。
【0076】
カーボン源の例としては、アルカン類、アルケン類、アルキン類、および/またはアリール類、ならびにそれらの誘導体類が挙げられる。アルカン類の好適な例は、メタン、エタン、プロパン、イソプロパン、ブタン、イソブタン、sec−ブタン、tert−ブタン、ペンタン、ネオペンタン、ヘキサンなどである。アルケン類の好適な例は、エチレン、プロペン、1−ブテン、2−ブテン、2−メチルプロペン、3,3−ジメチル−1−ブテン、4−メチル−2−ペンテン、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、イソプレン、(2E,4E)−2,4−ヘキサジエン、シクロペンテン、シクロヘキセン、1,2−ジメチルシクロペンテン、5−メチル−1,3−シクロヘキサジエンなどである。アルキン類の好適な例は、アセチレン、プロピン、1−ブチン、2−ブチン、3−メチル1−ブチン、1−ペンチン、2−ペンチン、1−ヘキシン、2−ヘキシン、3−ヘキシン、3,3−ジメチル−1−ブチン、1−オクチン、1−ノニン、1−デシンなどである。アリール類の好適な例としては、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダン、およびビフェニルが挙げられる。好ましくは、カーボン源は、メタン、エチレン、および/またはアセチレンである。
【0077】
好ましくは、最初に、Ar/Hガスフロー下500℃でCVDを行って金属触媒を金属ナノ粒子に還元する。次に、好ましくは800℃で行われる成長工程が続く。
【0078】
好ましい実施形態では、複合体の作製時、触媒として有機第二鉄塩およびカーボン源としてアセチレンが利用される。さらにもっと好ましくは、触媒としてFe(III)pTSおよびカーボン源としてアセチレンが利用される。
【0079】
望まれるのであれば、場合により複合体を基体から分離することが可能である。次に、所望の用途に適した性質を有する他の基体に複合体を移すことが可能である。他の選択肢として、基体から分離する前に、ナノチューブ層の上にポリマー膜または金属膜を堆積して硬化させることが可能である。
【0080】
使用/用途
本発明に係る複合体および複合体基体構造物は、さまざまな用途に好適である。特定的には、ナノ複合体が伝導性である実施形態では、ナノ複合体は、エネルギー変換およびエネルギー貯蔵の分野で、ならびに伝導性大表面積材料を必要とする材料およびデバイスで、たとえば、キャパシター用、ハイブリッド電池/キャパシター用、スーパーキャパシター用、電池用、燃料電池用、電極触媒用、ガス貯蔵媒体用、センサー用、アクチュエーター用、電気機械式アクチュエーター用、光電気化学太陽電池用の電極、および/または細胞や組織を電気的刺激するためのバイオ電極で、使用するのに好適なものとなる。
【0081】
銅箔基体上の絡合いカーボンナノチューブとACとの複合体は、充電式電池で使用するのに好適である。
【0082】
アルミニウム箔基体上の絡合いカーボンナノチューブとACとの複合体は、キャパシターで使用するのに好適である。
【0083】
カーボンペーパー基体上の絡合いカーボンナノチューブとACとの複合体は、燃料電池で使用するのに好適である。
【0084】
メンブレン基体上の絡合いカーボンナノチューブとACとの複合体は、アクチュエーターで使用するのに好適である。
【0085】
複合体は、生体適合性でありうる。そしてその伝導性とあいまって、電気刺激、電流通路、または電気的感知を必要とする医療用途、たとえば、バイオ電極、バイオ燃料電池、または電気刺激バイオ増殖用基体に好適なものとなりうる。
【0086】
複合体は、電気的感知および電気的刺激を目的として生体内に埋植される電極として直接使用するのに十分な伝導性、電気化学的容量、および機械的性質を呈する。特定の用途としては、ペースメーカー電極、ECGパッド、バイオセンサー、筋肉刺激、癲癇抑制、および電気刺激細胞再増殖が挙げられる。
【0087】
生物学的インプラント用電極は、典型的には、白金またはイリジウムおよびそれらの誘導体よりなる。本発明の実施形態は、バイオ分子を含有しうる電気伝導性ナノ複合体を提供する。キトサンのようなバイオ分子は、人体内で多くのインプラントと組み合わせて現在使用されている。さらには、バイオ相互作用のさらなる制御を可能にすべくキトサンに機能性基を付加することが可能である。カーボンナノチューブの生体適合性はわかっていないが、初期試験によればきわめて有望である。したがって、頑強かつ効率的な新しいバイオ電極を製造できる可能性がある。こうしたバイオ電極もまた、効率的かつ頑強でなければならない。
【実施例】
【0088】
以下の実施例では、添付の図面を参照する。
【0089】
図1。自立性CNT/ACペーパーのいくつかの走査型電子顕微鏡写真(SEM)および光学画像。(a)40cm石英プレート上でCVD成長させた後のCNT/ACの上側表面のディジタル画像。(b)基体から分離された時のAC層の下側表面のディジタル画像。層の反射性は、画像中に容易に観察される撮影者の反射像から明らかである。(c)石英基体から分離されてガラス棒上に巻き付けられたCNT/ACペーパーのディジタル画像。CNT/AC複合体ペーパーの両側の可撓性および機械的頑強性が示唆される。(d)膜のトップ表面のSEM画像。カーボンナノチューブの緻密な絡合いが示される。(e)CNT/ACペーパーの断面のSEM画像。AC層(白矢印で示される)と上側カーボンナノチューブネットワーク層との間の明瞭な「交差部」が示される。さらには(f)AC層の下側のSEM画像。緻密に充填されているが依然として多孔性モルフォロジーであることが示される。
【0090】
図2。CNT−AC交差領域の高分解能走査型電子顕微鏡画像。外側ナノチューブシェルとアモルファスカーボン層との間の本質的な接触が示される(左側の画像)。右側の画像は、左側の画像中の一領域のより高倍率の画像であり、CNTがAC層を介して外側に成長しており単にその上に存在するだけではないことを示唆する。
【0091】
図3。従来型の三電極電池を用いて作成されたサイクリックボルタンモグラム。作用電極は、同一の実験条件下、水性1mM KFe(CN)/1.0M NaNO中の(a)CNT/ACペーパーおよび(b)市販のMWCNT(NanoLab,Boston)マットであった。y軸はAmp/gとして表されているので、2つの異なるモルフォロジー間の直接比較を行うことが可能である。走査速度:5mV・s−1
【0092】
図4。自立性CNT/AC/金属ペーパーのディジタル画像およびSEM画像。(a)銅箔上のCNT/ACのディジタル画像、(b)銅箔上のCNT層のSEM画像。
【0093】
図5。本発明の実施形態に係るCNT/ACペーパーの作製手順の概略図。(a)清浄石英プレート上への薄肉Fe(III)pTS膜(1〜5μm)のスピン塗布。(b)カーボン源としてアセチレンを用いる下側高伝導性カーボン層を伴うマルチウォールカーボンナノチューブの熱CVD成長。(c)石英プレートから剥離された自立性ペーパー。
【0094】
図6。下側AC層のXRD応答および従来型のカーボンブラックサンプルとの比較。
【0095】
図7。(a)Fe(III)DBS、(b)Fe(III)PS、および(c)Fe(III)pTSから成長させた自立性CNT/ACペーパーのトップ表面の走査型電子顕微鏡画像。画像は、同一の倍率で示されている。
【0096】
図8。水性1.0M NaNO中、さまざまな走査速度で、自立性CNT/ACペーパーを作用電極として用いて得られたサイクリックボルタンモグラムの重ね合わせ。白金メッシュ対向電極およびAg/AgCl参照電極を用いて従来型の三電極電池を構成した。0.2Vでのこうしたボルタンモグラムのデータを用いてペーパーの比容量値を計算した。
【0097】
図9。自立性CNT/AC/金属ペーパーのディジタル画像およびSEM画像。(a)アルミニウム箔上のCNT/ACのディジタル画像、(b)アルミニウム箔上のCNT層のSEM画像、および(c)CNT/AC/アルミニウムペーパーの断面SEM画像。
【0098】
図10。CNT修飾カーボン繊維ペーパーの走査型電子顕微鏡写真(SEM)画像。個別のカーボン繊維の全体を覆うが依然としてホストカーボン繊維ペーパーのマイクロ多孔性を保持するカーボンナノチューブの緻密な絡合いが示される。(b)は、(a)に示されるカーボン繊維のより高解像度の画像であり、挿入図(c)は、CFP上で成長させた個別のマルチウォールカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【0099】
図11。(a)ブランクカーボン繊維ペーパーおよび(b)CNT修飾カーボン繊維ペーパーのラマンスペクトル。室温でダイオードレーザー励起を使用しかつ900ライン/mmグレーティングを用いた。
【0100】
図12。市販のCR2032コイン電池内でアノード材料として機能させた時のCNT/CFP電極の1回目〜50回目の充電/放電プロファイル。電流密度は0.05mA・cm−2であった。
【0101】
図13。異なる充電/放電速度における/CFP上に堆積されたCNTの放電容量vsサイクル数。(a)0.05mA・cm−2、(b)0.20mA・cm−2、および(c)0.50mA・cm−2
【0102】
図14。白金シート上に堆積されたCNTナノウェブのSEM画像。
【0103】
図15。(a)CNTナノウェブおよび(b)純粋白金シートを外リンパ液中で作用電極として用いて100mV・s−1の走査速度で得られたサイクリックボルタンモグラムの重ね合わせ。これらのボルタンモグラムのデータを用いて生物環境中におけるCNTナノウェブの電気活性をPtシートと比較する。
【0104】
図16。0.5M HSO水溶液中(O雰囲気下)のPPy/Co−TPP修飾CNTナノウェブ電極における酸素還元に対するリニアスイープボルタンモグラム(vs Ag/AgCl)の重ね合わせ。走査速度:10mV・s−1。電極触媒酸素還元反応のために、Co内包ポルフィリン(酸素還元触媒)を含有するポリピロール膜によりCNTナノウェブを修飾する。
【0105】
次に、以下の実施例を参照しながら本発明について説明するが、この実施例に限定されるものではない。
【0106】
(実施例)
計測:
Hitachi S−900電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM)を用いてSEM画像を取得した。分析前、FESEM用サンプルにクロムをスパッター塗布した。
【0107】
He:Neレーザー(λ=632.8nm)を備えかつ1800ライングレーティングを利用したJogin Yvon Horiba HR800 Spectrometerを用いてラマン分光測定を行った。
【0108】
室温で従来の四点探針法を用いて電気伝導性測定を行った(Jandel Engineering)。
【0109】
報告された伝導性測定値は、5個のサンプルの平均値であった。Chart v5.1.2/EChem v2.0.2ソフトウェア(AD Instruments)と共にeDAQ e−corder(401)およびポテンシオスタット/ガルバノスタット(EA160)を用いて、0.01M KFe(CN)/0.1M NaNo中、作用電極としてCNT/ACペーパー、対向電極および参照電極としてそれぞれ白金メッシュおよびAg/AgClを用いる標準的三電極系で、電気化学実験を行った。
【0110】
Ag/AgCl参照電極を用いて1.0M NaNO中、異なる電位走査速度でサイクリックボルタンメトリーから得られた0.2Vにおけるアノード電流振幅の勾配を走査速度に対してグラフにすることから比容量を計算した。
【0111】
動的機械的アナライザーQ800(TA Instruments)を用いて機械的試験を行った。Hitachi S 3000N走査型電子顕微鏡を用いてエネルギー分散型X線分析(EDXA)によりAC層のFe含有率を測定した。CuKα線とグラファイトモノクロメーターとを利用するPhilips PW1730回折計を用いてX線回折(XRD)スペクトルを得た。
【0112】
実施例
市販のスピンコーター(Laurell Tech)を用いて1000rpmの速度で10%(w/w)Fe(III)TS/エタノール溶液から触媒(Fe(III)/TS/DBSまたは/PSの1μm薄膜を石英プレート(厚さ3mm、4×10cm)上にスピン塗布した。次に、エタノール溶媒が蒸発したことを示すより暗い黄色に膜の色が変化するまで最大5分間にわたり60〜80℃の従来型のオーブン内で触媒膜をアニールした。
【0113】
ガスフロー、炉の温度、および堆積時間のソフトウェア制御が可能な市販の熱CVDシステム(Atomate)を用いて化学気相堆積を行った。システムをアルゴン(Ar、150ml/分)で30分間フラッシュし、次に、500℃に達するまでAr(200ml/分)およびH(20ml/分)のガスフロー下で炉の温度を上昇させた。次に、炉の温度を500℃に10分間保持した。これにより、鉄(III)が鉄ナノ粒子に還元される。温度を800℃まで再度上昇させ、その後、カーボンナノチューブ膜を成長させるために、Ar(50ml/分)、C(10ml/分)、およびH(3ml/分)のガス流量でアセチレン(C)を30分間導入した。最後に、アセチレンガスおよび水素ガスを遮断するとともに、温度が100℃未満になるまでAr(150ml/分)を炉内に通して連続的にフラッシュした。生成物を2時間かけて室温に冷却した。これよりも速く冷却するとCNT構造に欠陥を生じる。
【0114】
結果:
触媒Fe(III)/TSから作製された生成CNT膜(図1a)は、従来の条件下で成長させたものとは大きく異なることが確認された。CNT成長時、カーボン膜の下側に非常に反射性の高い層が形成されることは明らかであった(図1b)。得られたカーボンナノチューブ/アモルファスカーボン(CNT/AC)ペーパーは、可撓性かつ光沢性の下側AC層(図1b)の上のマットブラック層(図1a)として石英プレート上に出現した。CNT/ACペーパーは、基体から容易に分離可能であり、かつこの自立性膜は、劣化の目視可能な徴候を伴うことなくガラス棒の周りに巻き付けることが可能であった(図1c)。
【0115】
種々の方法を利用してCNT/ACペーパーの特徴付けを行った。走査型電子顕微鏡法(SEM)により、トップ層(図1d)が実際にCNTであることが明らかにされるとともに、断面領域のSEM画像(図1e)から、下側の緻密なアモルファスカーボン(AC)層(厚さ1μm未満)の上に成長された高多孔性3D構造CNTネットワークが示された。AC層のSEM画像(図1f)は、ナノサイズの多孔性を有する均一に緻密な連続膜を示した。CNTフォレスト中のナノチューブは、>100μmの平均長かつ20〜40nmの外径のマルチウォールカーボンナノチューブ(MWNT)である。このナノチューブ層のラマンスペクトル(方法を参照されたい)は、MWNTサンプルの許容範囲内のDバンドおよびGバンドを生じ、かつXRDスペクトル(図6)は、AC層が無秩序ではあるが活性アモルファスカーボンであることを示した。後者のスペクトルは、市販のカーボンブラックのものと同一の25度および42度の20度領域にピークを示した。標準的四探針系を用いて抵抗を測定したところ、CNT/ACペーパーでは、約1μmのAC層厚さで46Ω/□という非常に低い電子シート抵抗が記録された。この抵抗値は、無機鉄(III)化合物を用いてCNTフォレストの通常のCVD成長を行った時に形成されることが多いアモルファスカーボンのもの(>1kΩ/□)よりも有意に低い。AC層のFe含有率を測定したところ、<5%であった(エネルギー分散型X線分析から得られた値)。そのような低濃度では、Fe含有率だけがAC層の高伝導性に関与するとは考えられないであろう。
【0116】
このプロセスの重要な側面は、触媒選択に依拠する。ここで用いられるトシル酸鉄(III)触媒中の有機部分は、CNT上側層の下側の高伝導性AC層の形成にきわめて重要な役割を果たすと考えられる。対照実験では、CVD系内のいかなる系統的問題をも除外するために、有機触媒を従来の触媒FeClと置き換えた。基体および成長パラメーターは、元のままであった。得られた材料は、従来通り成長させたままのCNTフォレストに特有なものであり、この場合、CNTは、石英基体に直接接触した状態でありかつアモルファスカーボンの絶縁性層により覆われる(1〜5kΩ/□のシート抵抗を有することが確認された)。反射層は存在しなかった。
【0117】
2種の他の有機第二鉄塩すなわちドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)およびピリジンスルホン酸鉄(III)を検討したところ、形成プロセスで有機部分が果たす役割がより明確に描出された。CNT/ACペーパーは、これらの触媒の両方から石英プレート上でうまく合成された(図7aおよびb)。得られたAC層のシート抵抗は、Fe(III)DBSおよびFe(III)PSの場合、それぞれ、86Ω/□および65Ω/□であることがわかった。これらの抵抗は、Fe(III)pTSから成長させた最初のCNT/ACペーパーのもの(46Ω)に類似しているがそれよりもわずかに高かった。異なる触媒を使用するとCNT成長が有意に影響を受けて、結果的に、3D絡合いネットワークを構成する生成CNTは、ナノチューブの長さおよび直径が大きく異なりかつ多孔性が著しく異なるものになる。図2は、Fe(III)DBS(図7a)から成長させたCNTがFe(III)PS(図7b)およびFe(III)pTS(図7c)から成長させたものと比較した場合にそれらよりも短いがそれらよりも大きい直径のナノチューブを有することを示している。DDBS>DPS>DpTS(D=直径)およびLDBS<LPS,LpTS(L=長さ)という傾向は、Fe(III)有機部分の異なる性質に起因しうる。外見上、最大多孔性のフォレストを有する最高品質のCNTであると思われるものは、Fe(III)pTSから成長させたものであった。
【0118】
こうした結果から、触媒材料の有機成分は、AC層形成の最も可能性が高い理由であることが示唆されるが、さらなる実験から、それだけが関与するわけではないことが判明した。アセチレンカーボン源を成長プロセスから除去して、反射性AC層の単離を試みた。肉眼では、ガラス様および/または金属様の外観であったが、膜の反射率は、それほど大きくなかった。電子的には、この中間層の抵抗は、約5kΩであることがわかった。以上で強調すべき点として、プロセスつまりナノチューブの成長にアセチレンを添加すると、AC層の抵抗は、<1/100に減少する。アセチレンの再導入後、AC層は、一体化CNT/ACペーパーの特性を現し始めるので、アセチレンおよび有機触媒の両方が、優れた電極材料の生成に不可欠であることが確認される。この場合、2層のカーボン層間に本質的な結合が存在するので(図2aおよび2bを参照されたい)、従来の複合材料で問題となるバリヤー効果が克服されることが期待される。また、CNT/ACペーパーに沿って、より重要なことにはそれを介して測定されるきわめて低い抵抗値も、これにより説明される。
【0119】
CNT/ACペーパーのような構造物は、注目すべき電気化学的性能を有することが期待されよう。また、このことは、さらなる特徴付けにより裏付けられる。サイクリックボルタンモグラム(CV)は、非常に低い走査速度(5mV・s−1)で非常に安定した高い電気化学的活性(i=約0.5A/g)を示し、CNT/ACペーパーの並外れた通電容量が注目すべき点であった(図3)。明確にするためにAmp/gとして記録して、これらの結果を作用電極としての市販のマルチウォールカーボンナノチューブマット(NanoLab,USA)の電気活性と比較した(図3、挿入図)。市販のマルチウォールマットのi値は、より小さく約1/10であり、ピーク分離(ΔE)は、より広かった。これらの図に示されるように、CNT/ACペーパーは、市販のマルチウォールCNTペーパーと比較して、かなり高い(5倍の)電気活性表面積(約48m/g)およびかなり低い電子抵抗(より小さいΔE)を有する。これらの相違をさらに強調するために、(1.0M NaNO中、異なる走査速度(図8)で)サイクリックボルタンモグラムを記録して、比容量の尺度を得た。CNT/AC電極材料は、活性MWNT電極で他の者により報告された102F/gの文献値およびSWNT複合体での180F/gの文献値と比較して、143F/gの値を有すると計算された。注目すべきは、緻密なAC層の重量が考慮されているという事実に基づいて、容量値およびピーク電流値の計算が過小評価されることである。このことから、ナノチューブ層自体の真の値は、かなり高いことが示唆される。
【0120】
このプロセスを用いて作製される大表面積CNT電極は、電荷蓄積および/または電荷移動に関係する分野で有意な効果を発揮することが期待される。金属電極は、エネルギー貯蔵産業でかなりの商業的関心事になっている(すなわち、充電式電池用の銅箔およびキャパシター用のアルミニウム)。さらなる修飾を行うことなく高伝導性オールカーボン集合体を銅箔上(図4)およびアルミニウム箔上(図9)で直接成長させるというのは、これが初めてであると考えられる。この新しい基体に対して同一の成長パラメーターが利用されており、示される光学画像およびSEM画像からCNT/AC/金属複合体材料が観測される。スピン塗布された無機FeClを用いて実験を反復したが、安定な薄膜の生成つまりナノチューブの成長を行うことはできなかったことから、Fe(III)TSの有機性がこのプロセスできわめて重要であるという点が裏付けられる。グラッシーカーボンを基体として使用した時、類似のCNT構造物が堆積された。
【0121】
これらの新しい電極構造物の優れた電気化学的性能をさらに示すために、それらをLiイオン電池のアノードとして利用した。典型的な実験では、1枚のカーボン繊維ペーパー(4×5cm)に鉄(III)−TS薄膜を均一に塗布した。最初に、Ar/Hガスフロー下500℃でCVDプロセスを行って鉄(III)触媒を鉄ナノ粒子に還元した。続いて、カーボン源としてCを用いて800℃で成長工程を行った。得られたCNT成長物(図10)を観測したところ、従来の鉄触媒Feを用いて成長させたものとは有意に異なっていた。走査型電子顕微鏡法(SEM)(図10a〜c)により、CFP担体の上でのCNT層の成長が明らかにされた。透過型電子顕微鏡法(TEM)(挿入図)により、層が直径約30〜40nmのマルチウォールカーボンナノチューブから実際に構成されていることが確認された。また、ラマン分光法(図11)により、堆積層が実際に1329cm−1および1591cm−1にそれぞれDバンドおよびGバンドを有する十分にグラファイト化されたカーボンナノチューブ層であることが確認された。図10bから示唆されるように、緻密に絡み合ったCNTは、個別のカーボン繊維全体を覆っているが(図11)、依然としてカーボン繊維ペーパーの全体的多孔性マイクロ構造を保持している。繊維の根元/先端領域のSEM画像(図10c)では、CNTネットワークがきわめて多孔性であることが注目される。このことから示唆されるように、各カーボン繊維上に堆積されたカーボンナノチューブはすべて、電気化学的周期的プロセス時、かなり接近しやすいので、電気化学デバイスの主要パラメーターである電気活性表面積は、有意に増大される。
【0122】
絡合いCNT/CFP複合体は、劣化の視覚的徴候をなんら伴うことなく機械的に頑強であることから、下側カーボン層(CNT成長プロセス時に形成される)は、カーボン繊維ネットワークに強く固着されていることが示唆される。その場合、得られたCNT修飾CFPは、さらなる処理を施すことなく電気化学デバイスの組立て時に電極材料として直接使用可能である。他の選択肢として、修飾CFPはまた、さらなる化学修飾のためのテンプレートとしても使用可能である。
【0123】
既に報告されている方法を用いて、1cmCNT/CFP電極をアルゴン充填グローブボックス(Mbraum,Unilab,Germany)内で充電式Liイオンコイン電池に組み込んで、電解質としてエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(50:50)中の1.0M LiPF(Merch KgaA,Germany)を用いた電池試験(Neware,Electronic Co.)に供した。室温で、0.01V〜2.00Vの間で、異なる一定の充電/放電電流密度(0.05、0.10、0.20、および0.50mA・cm−2)下で、電位限界に達するのに必要な時間にわたり、電池をサイクル動作させた。
【0124】
図12は、1回目〜50回目の充電/放電曲線(一定の電流密度0.05mA・cm−2下)を示しており、修飾CNT/CFP電極のきわめて安定な電気化学的性能が注目される。曲線の形状は、SWNTおよびMWNTの両者をはじめとするカーボンナノチューブ材料ですでに観測されているものに類似している。こうした充電放電曲線の電気化学的安定性は、特有のナノ構造大表面積CNT/CFP電極に基づくカーボンナノチューブ構造物中への/からのリチウムイオンの高可逆的挿入/抽出プロセスの指標となる。材料の機械的および電気化学的な頑強性ならびに固有の可撓性とあいまって、こうした結果から、リチウムイオン電池に限定されない一連の技術分野での適用可能性が注目される。
【0125】
サイクル数の関数として可逆容量が図13に示されており、これによりアノード材料としてのCNT/CFPの利用可能性が実証される。初期可逆容量は、0.05mA・cm−2の一定の放電速度下で643mAh・g−1程度の高い値である。CNT/CFP電極の電気化学的性能は、固有の長期サイクル安定性を示した。これは、CNT系電極のサイクル動作時に通常観測される放電容量の減少10とはまったく対照的である。50サイクル後、CNT/CFP電極は、依然として546mAh・g−1という有意な十分に可逆的な容量を示した(図3a)。これは、アノードとして使用した時のグラファイトの理論容量(372mAh・g−1)11よりもかなり大きい。CFP電極上に堆積された我々のCNTで得られたこの大きい可逆容量は、その新規なきわめて安定した多孔性3Dナノ構造に起因する。サイクル動作後、50サイクルにわたり電極の目視可能な劣化はなくかつ電解質の目視可能な色変化はないことが確認された。きわめて利用可能性が高い表面領域であるため、サイクル動作時に高濃度のリチウムイオンの挿入および抽出を引き起こすことが可能であると推定される。この結果は、他のCNT系電極構造物から得られる値12とはまったく対照的である。
【0126】
異なる充電/放電速度を適用した予備試験を行って(図13bおよび13c)、ハイパワー性能下でのそれらの能力を調べた。充電/放電速度を0.05mA・cm−2から0.5mA・cm−2に10倍に増加させた場合、充電/放電容量値は、低電流密度で記録されたものよりも低いが、観測結果は、依然として、CNTネットに基づいて338mAh・g−1という高い可逆容量を示す。このことから示唆されるように、この種のCNT/CFP電極はまた、ハイパワー電池デバイスの用途でアノード材料として利用できる可能性がある。
【0127】
この新しいプロセスを用いて作製される大表面積CNT電極は、電荷蓄積および/または電荷移動に関係する分野で有意な効果を発揮することが期待される。金属電極は、エネルギー貯蔵産業でかなりの商業的関心事になっている(たとえば、充電式電池用の銅箔およびキャパシター用のアルミニウム)。本プロセスの汎用性は、図4で実証される。この図には、CNT/CL複合体(先に記載の成長パラメーターを使用)がさらなる修飾を行うことなく銅ならびに他の伝導性および非伝導性の基体に向けられて作製されることが示されている。図4に示される光学画像およびSEM画像では、CNT/CL/Cu複合材料が観察される。図4aでは、触媒を基体の半分に塗布して下側の基体を明瞭に示した。スピン塗布された無機FeClを用いて実験を反復したが、安定な薄膜の生成つまりナノチューブの成長を行うことはできなかったことから、Fe(III)pTSの有機性がこのプロセスで重要であることが裏付けられる。CL層と銅箔との間の接触抵抗は、約1.0〜2.0Ωであり、かつCNTウェブと銅箔との間の抵抗は、同一範囲内にある。
【0128】
この新しいプロセスの主な利点は、任意の基体(ただし、次の2つの条件を満たすものとする)上で3D構造CNT/CLネットワークを作製しうることである。i)基体は、炉の成長温度(>600℃)に耐えることが可能であり、かつii)有機触媒は、安定な薄膜を形成する。こうした新規なCNT基体は、さらなる処理を施すことなく電子デバイスを作製したりまたはさらなる修飾を行うための伝導性かつ可撓性のテンプレートを形成したりするために、直接使用可能である。
【0129】
このプロセスの主な利点は、任意の基体(ただし、次の2つの条件を満たすものとする)上でこうしたCNT/AC膜を作製しうることである。(i)基体は、炉の成長温度(>600℃)に耐えることが可能であり、かつ(ii)有機触媒(Fe(III)TS)は、安定な薄膜を形成する。わずか数μmの厚さにすぎないこうしたCNT修飾金属箔は、さらなる処理を施すことなく電子デバイスを作製したりまたはさらなる修飾を行うための伝導性かつ可撓性のテンプレートを形成したりするために、直接使用可能である。
【0130】
こうした大表面積CNT電極の作製プロセスは、単純であり、費用効果的であり、かつスケール変更が容易である。CNT電極は、可撓性薄肉スーパーキャパシターとして、および充電式Liイオン電池用のアノード材料として、さらにはより有効なナノバイオニック技術の探究で生体系に接続するためのナノ構造電極を必要とする分野で、使用されると予想される。
【0131】
本発明の技術分野の当業者には当然のことであろうが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく多くの変更を加えることが可能である。
【0132】
以下の特許請求の範囲においておよび以上の本発明の説明において、明示的表現または必然的適用に基づいて文脈上とくに必要とされることがないかぎり、「comprise(含む)」という単語または「comprises」や「comprising」のような派生語は、包括的意味で、すなわち、本発明の種々の実施形態でさらなる特徴の存在や追加を除外するためにではなく明記された特徴の存在を特定するために、用いられる。
【0133】
(参考文献)
1. Li, W., Xie, S., Qian, L., Chang, B., Large scale synthesis of aligned carbon nanotubes, Science, 274, 1701-1703 (1996).
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン層内で一体化されたナノチューブネットワークを含むナノ構造複合体。
【請求項2】
ナノチューブネットワークが、カーボン層中に少なくとも部分的に包埋されている、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
伝導性および/または生体適合性である、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
ナノチューブが、三次元絡合いネットワークを形成しうる非整列ナノチューブである、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
ナノチューブが、非整列マルチウォールナノチューブである、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
ナノチューブが、カーボンナノチューブである、請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
カーボン層が、活性カーボン層(CL)である、請求項1に記載の複合体。
【請求項8】
基体をさらに含むことによりナノ構造複合体基体構造物を提供する、請求項1に記載の複合体。
【請求項9】
カーボン層が、基体に結合されている、請求項8に記載の複合体。
【請求項10】
基体が、伝導性または非伝導性である、請求項9に記載の複合体。
【請求項11】
基体が、金属材料または高分子材料である、請求項10に記載の複合体。
【請求項12】
ナノチューブ、カーボン層、および/または基体が、化学修飾されている、請求項8に記載の複合体。
【請求項13】
化学修飾が、バイオ分子、触媒、および/または追加の伝導体を結合することを含む、請求項12に記載の複合体。
【請求項14】
以下の工程:
i)基体上に金属触媒を堆積する工程と、
ii)該基体上の触媒からナノチューブネットワークを下側カーボン層と共に化学気相堆積(CVD)成長させてナノ構造複合体基体構造物を形成する工程と、
iii)場合により、該基体からナノ構造複合体を分離する工程と、
を含む、ナノ構造複合体またはナノ構造複合体基体構造物を作製する方法。
【請求項15】
金属触媒が、有機金属触媒または無機金属触媒である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
金属触媒の金属が、パラジウム、鉄、ロジウム、ニッケル、モリブデン、およびコバルトから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
有機金属触媒が、p−トルエンスルホン酸鉄(III)(Fe(III)pTS)、ドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)(Fe(III)DBS)、ピリジンスルホン酸鉄(III)(Fe(III)PS)、カンファースルホン酸鉄(III)、酢酸ニッケル(II)、アセチルアセトン酸ニッケル(II)、酢酸コバルト(II)、またはアセチルアセトン酸コバルト(II)である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
CVD成長が、カーボン源の使用を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
請求項1で規定されたナノ構造複合体および/または請求項8で規定されたナノ構造複合体基体構造物で全部もしくは一部が構成された物品。
【請求項20】
電気伝導性である、請求項19に記載の物品。
【請求項21】
エネルギー貯蔵用およびエネルギー変換用の電極;燃料電池、ガス貯蔵媒体、およびセンサーとして使用するための電極;生物医学分野、環境分野、および工業分野で使用するための電極;電気化学的脱イオン化用の電極;バイオリアクター;細胞培養用または組織工学的処理用のプラットフォームまたはスカフォールド;ならびにケミカルセパレーターおよびガスセパレーターから選択される、請求項20に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−512298(P2010−512298A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540548(P2009−540548)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【国際出願番号】PCT/AU2007/001933
【国際公開番号】WO2008/070926
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(509001238)ユニバーシティー オブ ウロンゴング (2)
【Fターム(参考)】