説明

ナノ金属粒子及びナノ金属薄膜の形成方法、並びにナノ金属粒子のサイズ制御方法

【課題】同軸型真空アーク蒸着装置を用い、所定の粒径を有するナノ金属粒子及びナノ粒子から構成される金属薄膜の形成方法、並びにナノ金属粒子の粒子サイズ制御方法の提供。
【解決手段】近傍にコンデンサを設けた同軸型真空アーク蒸着源を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用い、主放電の放電時間が1000μ秒以下となるように、また、尖頭電流値が2000A以上の放電波形を有するように設定して、トリガ放電を発生させてアーク放電を誘起させ、また、基板を400℃以上に加熱しながら、カソード電極から生じる金属粒子をチャンバ内へ放出せしめ、基板上にナノ金属粒子又はナノ金属粒子から構成される薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ金属粒子及びナノ金属薄膜の形成方法、並びにナノ金属粒子のサイズ制御方法に関し、特にアークプラズマガン(同軸型真空アーク蒸着源)を用いるナノ金属粒子及びナノ粒子の積層した金属薄膜の形成方法、並びにナノ金属粒子のサイズ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブ(CNT)を成長させるための下地膜(触媒層)を形成する場合や、燃料電池を作製する際に触媒金属を担持せしめる場合に、触媒を、通常、スパッタ法やEB蒸着法等に従って基板上に薄膜として形成し、この薄膜を構成する触媒を前処理プロセスやCNT成長プロセスにおいて微粒子化し、この微粒子化された触媒を有する基板を利用している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に、触媒粒子の直径は、小さい方がCNTが成長しやすいと言われている。しかし、この粒径は、触媒の膜厚や前処理プロセスの条件や反応条件に依存して変動するため、簡単に制御することは困難である。
【0004】
また、従来から、ナノ金属粒子を形成するために使用する蒸着装置として、電子ビーム蒸着源を備えた蒸着装置が知られている。
【0005】
上記電子ビーム蒸着源を備えた従来の電子ビーム蒸着装置の構成例を図1に模式的に示す。
【0006】
図1に示すように、電子ビーム蒸着装置は、円筒形状の真空チャンバ1からなる。この真空チャンバ1内には、その下部の底フランジに取り付けられた電子ビーム蒸着源12が設けられ、電子ビーム蒸着源12には蒸着材料13を収納するための空間(ルツボ)が設けられ、そして電子ビーム蒸着源12に対向して基板ステージ14が設けられている。この基板ステージ14は、その電子ビーム蒸着源12側に、ナノ金属粒子を蒸着するための基板Sが取り付けられるようになっている。基板ステージ14の電子ビーム蒸着源側と反対の側には、その中心に、基板マニピュレータ15が真空チャンバ1上部壁面を貫通して取り付けられ、基板Sが基板ステージ14と共に、基板マニピュレータ15により回転できるように構成されている。そして、基板Sを取り付ける基板ステージ14の面と反対側の面にはヒータ等の加熱手段16が取り付けられ、基板ステージ14、ひいては基板Sを加熱できるように構成されている。
【0007】
基板Sの近傍には膜厚測定子17が取り付けられて、基板に付着するナノ金属粒子の膜厚を測定できるように構成されている。すなわち、蒸着膜の厚みは、膜厚測定子に付着した重量から、その同じ量が基板Sに均一に付着したものとして、その重量を基板面積と蒸着材料の比重とから計算して算出した値である。蒸着した金属粒子の大きさは、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて粒子の高さを測定して算出する。この場合、粒子の高さが粒子の直径と比例すると仮定する。
【0008】
真空チャンバ1には、その壁面に真空排気系18がターボ分子ポンプ18−1、バルブ18−2及びロータリポンプ18−3の順序で設けられ、ターボ分子ポンプ18−1からロータリポンプ18−3まで金属製の真空配管18−4で接続され、真空チャンバ1内の真空排気を行うことができるように構成されている。
【0009】
上記電子ビーム蒸着装置を用いてナノ金属粒子を蒸着させる場合には、その蒸着量の精度の下限が1nm程度であるので、粒子の高さの下限は約7〜8nmとなる。しかるに、CNT成長用の下地触媒層においては、触媒粒子の直径が数nmで、かつ1nm以下の制御性が求められる。従って、上記電子ビーム蒸着装置を用いるナノ金属粒子形成方法では、10nm以下、さらに1nm程度のナノサイズの金属粒子を形成することは困難である。
【0010】
また、本出願人は先にナノ金属粒子を形成する際に、同軸型真空アーク蒸着源としてアークプラズマガンを備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いて原料を微粒子化して基板上に形成するプラズマCVD法を提案している(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
この同軸型真空アーク蒸着装置の一構成例を図2に模式的に示す。
【0012】
図2に示すように、同軸型真空アーク蒸着装置2は円筒状の真空チャンバ21を有し、この真空チャンバ内の上方には、基板ステージ22が水平に配置されている。真空チャンバ21の上部には、基板ステージを水平面内で回転させることができるように、基板ステージ22裏面の中心部にモーター等の回転駆動手段23を有する回転機構24が設けられている。
【0013】
真空チャンバ21底部に対向する基板ステージ22の面には、1又は複数枚の被処理基板Sが保持・固定されて取り付けられ、この被処理基板Sと対向して、真空チャンバ21の下方には、1又は複数個の後述する同軸型アークプラズマガン(同軸型真空アーク蒸着源)3が、アノード電極31の開口部Aを真空チャンバ21内へ向けて配置されている。
【0014】
真空チャンバ21の壁面には、ガス導入系26及び真空排気系27が接続されている。このガス導入系26は、バルブ261、マスフローコントローラー262及びガスボンベ263がこの順序で金属製配管で接続されている。また、真空排気系27は、バルブ271、ターボ分子ポンプ272、バルブ273及びロータリーポンプ274がこの順序で、金属製真空配管で接続されており、真空チャンバ21内を真空排気できるように構成されている。
【0015】
上記した同軸型真空アーク蒸着装置2に設けられた同軸型真空アーク蒸着源3は、一端が閉じ他端が開口している円筒状のアノード電極31とカソード電極32とトリガ電極(例えば、リング状のトリガ電極)33とから構成されている。カソード電極32は、アノード電極31の内部に同心円状にアノード電極の壁面から一定の距離だけ離れて設けられている。カソード電極32は、同軸型真空アーク蒸着源のターゲットとなる金属材料から構成されている。
【0016】
トリガ電極33は、カソード電極32との間に絶縁碍子34を挟んで取り付けられている。絶縁碍子34はカソード電極32とトリガ電極33とを絶縁するように取り付けられており、また、トリガ電極33は絶縁体35を介してカソード電極32に取り付けられていてもよい。これらのアノード電極31とカソード電極32とトリガ電極33とは、絶縁碍子34及び絶縁体35により電気的に絶縁が保たれている。この絶縁碍子34と絶縁体35とは一体型に構成されたものであっても別々に構成されたものでも良い。
【0017】
カソード電極32とトリガ電極33との間にはパルストランスからなるトリガ電源36が接続されており、また、カソード電極32とアノード電極31との間にはアーク電源37が接続されている。アーク電源37は直流電圧源371とコンデンサユニット372とからなり、このコンデンサユニットの両端は、アノード電極31とカソード電極32とに接続され、コンデンサユニット372と直流電圧源371とは並列接続されている。
【0018】
上記同軸型真空アーク蒸着装置を用いて基板上に微粒子を形成する場合、トリガ電源36からトリガ電極33にパルス電圧を印加して、カソード電極32とトリガ電極33との間にトリガ放電(沿面放電)を発生させる。このトリガ放電により、カソード電極32とアノード電極31との間にアーク放電が誘起され、コンデンサユニット372に蓄電された電荷の放出により放電が停止する。そのアーク放電の間、金属材料の融解により発生した微粒子(プラズマ化しているイオン、電子)が形成される。このイオン及び電子の微粒子をアノード電極の開口部(放出口)Aから真空チャンバ21内に放出させ、真空チャンバ21内に設けた被処理基板S上に供給して、ここで微粒子の層を形成する。
【0019】
被処理基板Sの近傍には膜厚測定子(図示せず)が取り付けられており、基板に付着するナノ金属粒子の膜厚を測定できるように構成されている。すなわち、蒸着膜の厚みは、上記したように、膜厚測定子に付着した重量から、その同じ量が基板Sに均一に付着したものとして、その重量を基板面積と蒸着材料の比重とから計算して算出した値である。蒸着した金属粒子の大きさは、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて粒子の高さを測定して算出する。この場合、粒子の高さが粒子の直径と比例すると仮定する。
【特許文献1】特開2004−26532号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特願2006−239748(特許請求の範囲、図1及び図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、近傍にコンデンサを設けた同軸型真空アーク蒸着源(アークプラズマガン)を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用い、所定の粒径を有するナノ金属粒子及びこのナノ粒子の積層した金属薄膜を形成する方法、並びにナノ金属粒子の粒径を制御する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のナノ金属粒子形成方法は、円筒状のトリガ電極と、ナノ金属粒子形成用金属材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極と、前記トリガ電極及びカソード電極の間に両者を離間させるために設けられた円板状の絶縁碍子と、前記カソード電極の周りに同心状に配置された円筒状のアノード電極とを有する同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させ、また、基板を400℃以上、前記金属材料の融点未満の温度に加熱しながら、前記カソード電極の金属材料から生じる金属粒子を真空チャンバ内へ放出せしめ、基板上にナノ金属粒子を形成することを特徴とする。このように構成することにより、所定の粒径(0.5nmから5nmまで)を有するナノ金属粒子を形成できる。
【0022】
上記した同軸型真空アーク蒸着源を、主放電の放電時間が1000μ秒以下となるように、また、尖頭電流値が1800A以上の放電波形を有するように設定することが好ましく、また、基板がナノオーダの平坦性を持ち、かつ表面に化学的な結合手が極めて少ない材料からなることが好ましい。所定の放電条件で放電させることにより、所定の粒径を有するナノ金属粒子を形成できる。また、所定の基板を用いることにより、所定の粒径を有するナノ金属粒子を形成できる。
【0023】
本発明のナノ金属薄膜形成方法は、円筒状のトリガ電極と、ナノ金属粒子形成用金属材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極と、前記トリガ電極及びカソード電極の間に両者を離間させるために設けられた円板状の絶縁碍子と、前記カソード電極の周りに同心状に配置された円筒状のアノード電極とを有する同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させ、また、基板を400℃以上、前記金属材料の融点未満の温度に加熱しながら、前記カソード電極の金属材料から生じる金属粒子を真空チャンバ内へ放出せしめ、基板上にナノ粒子の積層した金属薄膜を形成することを特徴とする。このように構成することにより、所定の粒径のナノ粒子から構成されるナノ金属薄膜を形成できる。
【0024】
上記したナノ金属薄膜形成方法の場合も、同軸型真空アーク蒸着源を、主放電の放電時間が1000μ秒以下となるように、また、尖頭電流値が1800A以上の放電波形を有するように設定することが好ましく、基板がナノオーダの平坦性を持ち、かつ表面に化学的な結合手が極めて少ない材料からなることが好ましい。所定の放電条件で放電させることにより、所定の粒径のナノ粒子から構成される金属薄膜を形成できる。また、所定の基板を用いることにより、所定の粒径のナノ粒子から構成される金属薄膜を形成できる。
【0025】
また、本発明のナノ金属粒子のサイズ制御方法は、円筒状のトリガ電極と、ナノ金属粒子形成用金属材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極と、前記トリガ電極及びカソード電極の間に両者を離間させるために設けられた円板状の絶縁碍子と、前記カソード電極の周りに同心状に配置された円筒状のアノード電極とを有する同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させ、また、基板を400℃以上、前記金属材料の融点未満の温度に加熱しながら、前記カソード電極の金属材料から生じる金属粒子を真空チャンバ内へ放出せしめ、基板上に蒸着するナノ金属粒子の蒸着量を変化せしめることによりナノ金属粒子のサイズを制御することを特徴とする。このように構成することにより、所定の粒子サイズに制御されたナノ金属粒子を得ることができる。
【0026】
このサイズ制御方法の場合も、同軸型真空アーク蒸着源を、主放電の放電時間が1000μ秒以下となるように、また、尖頭電流値が1800A以上の放電波形を有するように設定することが好ましく、基板がナノオーダの平坦性を持ち、かつ表面に化学的な結合手が極めて少ない材料からなることが好ましい。所定の放電条件で放電させることにより、所定の粒子サイズに制御されたナノ金属粒子を得ることができる。また、所定の基板を用いることにより、所定の粒子サイズに制御されたナノ金属粒子を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、同軸型真空アーク蒸着源の近傍にコンデンサを設けた同軸型真空アーク蒸着装置を用いることにより、所定の粒径を有するナノ金属粒子及びこのナノ粒子から構成される金属薄膜を形成でき、また、ナノ金属粒子のサイズを制御できるという効果を奏する。
【0028】
また、本発明によれば、所定の放電条件で放電することにより、さらに所定の基板温度で実施することにより、所定の粒径を有するナノ金属粒子及びこのナノ粒子から構成される金属薄膜を形成でき、さらに、ナノ金属粒子のサイズを制御できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明に係るナノ金属粒子又はナノ粒子から構成される金属薄膜の形成方法の実施の形態によれば、蒸着装置として、円筒状のトリガ電極と、ナノ金属粒子形成用金属材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極と、このトリガ電極及びカソード電極の間に両者を離間させるために設けられた円板状の絶縁碍子と、カソード電極の周りに同心状に配置された円筒状のアノード電極とを有する同軸型真空アーク蒸着源(アークプラズマガン)を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用い、主放電の放電時間が1000μ秒以下、好ましくは300〜1000μ秒となるように、また、尖頭電流値が1800A以上、好ましくは2000〜8000Aの放電波形を有するように設定して、トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電を発生させて、カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を誘起させ、また、基板を400℃以上、好ましくは400〜600℃程度に加熱しながら、カソード電極を構成する金属材料から生じる金属粒子を真空チャンバ内へ放出せしめ、基板上にナノ金属粒子又はナノ金属薄膜を形成する。上記カソード電極は、その全体が上記金属材料で構成されていても、その先端部であるアノード電極の開口側方向の端部が上記金属材料で構成されていても良い。
【0030】
本発明で使用できる好ましい基板としては、例えばグラファイト、シリコン、アモルファスカーボン、シリカ(SiO)等からなる基板を挙げることができる。
【0031】
基板にナノ金属粒子の蒸着膜を形成する場合には、グラファイトからなる基板としてHOPG(High Orientated Pyretic Graphite)基板を使用することが更に好ましい。HOPG基板は、製造過程で高温で燒結するため、その製造コストは高いが、グラフェンシート毎に剥がすことができるので、ナノ金属粒子を蒸着後に剥がし、基板を繰り返し使用することができるので、製造コストの問題は解消され得る。また、基板にナノ金属粒子の蒸着膜を形成するのではなく、ナノ金属粒子の粉末を採取する場合には、HOPG基板でなくてもシリコン基板等を用いて、この基板上に設けたSiO膜等の脱離用膜上にナノ金属粒子を蒸着し、その後所定の処理を行って金属粉末を脱離させて、採取することもできる。
【0032】
蒸着用金属材料(ナノ金属粒子形成用金属材料)としては、融点1000〜2500℃の金属材料、例えばコバルト、白金、鉄、ニッケル、クロム等を挙げることができる。
【0033】
上記した同軸型真空アーク蒸着装置を用いて本発明のナノ金属粒子の形成方法を実施する場合について、以下、説明する。
【0034】
まず、同軸型真空アーク蒸着装置の一構成例を図3に模式的に示す。図2と同じ構成要素については、同じ参照番号を付する。
【0035】
図3に示すように、同軸型真空アーク蒸着装置2は、円筒状の真空チャンバ21を有し、この真空チャンバ内の上方には、基板ステージ22が水平に配置されている。真空チャンバ21の上部には、基板ステージを水平面内で回転させることができるように、基板ステージ22裏面の中心部にモーター等の回転駆動手段23を有する回転機構24が設けられている。
【0036】
被処理基板Sが固定される基板ステージ22の面と反対側の面にはヒータ等の加熱手段25が設けられ、基板を所定の温度に加熱できるようになっている。基板ステージ22の真空チャンバ21底部に対向する面には、1又は複数枚の処理基板Sが保持・固定されて取り付けられ得るようになっており、この被処理基板Sと対向して、真空チャンバ21の下方には、1又は複数個の後述する同軸型アークプラズマガン(同軸型真空アーク蒸着源)3が、アノード電極31の開口部Aを真空チャンバ21内へ向けて配置されている。
【0037】
被処理基板Sの近傍には膜厚測定子(図示せず)が取り付けられており、基板に付着するナノ金属粒子の膜厚を測定できるように構成されており、蒸着膜の厚みは、上記したようにして算出される。また、蒸着した金属粒子の大きさも上記したようにして算出される。
【0038】
真空チャンバ21の壁面には、ガス導入系26及び真空排気系27が接続されている。このガス導入系26は、バルブ261、マスフローコントローラー262及びガスボンベ263がこの順序で金属製配管で接続されている。また、真空排気系27は、バルブ271、ターボ分子ポンプ272、バルブ273及びロータリーポンプ274がこの順序で金属製真空配管で接続されており、真空チャンバ21内を好ましくは10−5Pa以下に真空排気できるように構成されている。
【0039】
図3に示すように、同軸型真空アーク蒸着装置2に設けられた同軸型真空アーク蒸着源3は、一端が閉じ他端が開口しており、ステンレス等から構成されている円筒状のアノード電極31と、コバルトや白金等の蒸着用金属材料で構成されている円筒状のカソード電極32と、ステンレス等から構成されている円板状のトリガ電極(例えば、リング状のトリガ電極)33とから構成されており、これらカソード電極32と絶縁碍子とトリガ電極33の3つの部品は図示していないが、ネジ等で密着させて取り付けられている。カソード電極32は、アノード電極31の内部に同心円状にアノード電極の壁面から一定の距離だけ離れて設けられている。カソード電極32は、その少なくとも先端部(アノード電極31の開口側方向の端部に相当する)だけが、同軸型真空アーク蒸着源のターゲットとなる前記金属材料から構成されていても良い。
【0040】
トリガ電極33は、このターゲット材料ないしはカソード電極32との間にアルミナ等から構成された絶縁碍子(ワッシャ碍子)34を挟んで取り付けられている。絶縁碍子34はカソード電極32とトリガ電極33とを絶縁するように取り付けられており、また、トリガ電極33は絶縁体35を介してカソード電極32に取り付けられていてもよい。これらのアノード電極31とカソード電極32とトリガ電極33とは、絶縁碍子34及び絶縁体35により電気的に絶縁が保たれていることが好ましい。この絶縁碍子34と絶縁体35とは一体型に構成されたものであっても別々に構成されたものでも良い。なお、アノード電極31は、図示していないが、真空チャンバ21の底面に取り付けられた真空フランジに支柱で取り付けられている。
【0041】
カソード電極32とトリガ電極33との間にはパルストランスからなるトリガ電源36が接続されており、また、カソード電極32とアノード電極31との間にはアーク電源37が接続されている。アーク電源37は直流電圧源371とコンデンサユニット372とからなり、このコンデンサユニットの両端は、アノード電極31とカソード電極32とに接続され、コンデンサユニット372と直流電圧源371とは並列接続されている。
【0042】
本発明によれば、このコンデンサユニット372は同軸型真空アーク蒸着源3の近傍に取り付けられる。すなわち、カソード電極32及びアノード電極との接続ラインを短く、例えば、100mm以下、好ましくは10mm〜100mm程度の距離になるように取り付けることが必要である。
【0043】
コンデンサユニット372は、複数個のコンデンサが接続したものであって、その1つの容量が例えば2200μFであり、直流電圧源371により随時充電される。トリガ電源36は、入力200Vのμ秒のパルス電圧を約17倍に変圧して、3.4kV(数μA)、極性:プラスを出力している。アーク電源37は、800V、数Aの容量の直流電源であって、コンデンサユニット372(8800μF)を充電している。この充電時間は約0.1秒かかるので、本システムにおいて8800μFで放電を繰り返す場合の周期は1〜10Hzで行われる。トリガ電源36のプラス出力端子はトリガ電極33に接続され、マイナス端子はアーク電源37のマイナス側出力端子と同じ電位に接続され、カソード電極32に接続されている。アーク電源37のプラス端子はグランド電位に接地され、アノード電極31に接続されている。コンデンサユニット372の両端子はアーク電源37のプラス端子及びマイナス端子間に接続されている。
【0044】
上記同軸型真空アーク蒸着源3を用いて、真空チャンバ21内の基板ステー22に取り付けられた被処理基板S上にナノ金属粒子を形成する場合、例えば、まず、 アーク電源37によりコンデンサユニット372に100Vで電荷を充電し、コンデンサユニット372の容量を8800μFに設定する。次いで、トリガ電源36からトリガ電極33にパルス電圧を出力し(出力:3.4kV)、カソード電極32とトリガ電極33との間にワッシャ碍子34を介して印加することで、カソード電極32とトリガ電極33との間にトリガ放電(ワッシャ碍子表面での沿面放電)を発生させる。カソード電極32とワッシャ碍子34とのつなぎ目から電子が発生する。この時、カソード電極32とアノード電極31の内面との間で、コンデンサユニット372に蓄電された電荷がアーク放電され、カソード電極32に多量の電流が流入し、カソード電極からコバルトや白金等の金属材料のプラズマが生成される。コンデンサユニット372に蓄電された電荷の放出により放電は停止する。このトリガ放電を複数回繰り返し、そのトリガ放電毎にアーク放電を誘起させることが好ましい。
【0045】
上記したアーク放電の間、金属材料の融解により発生した微粒子(プラズマ化している原子状イオンやクラスタや電子等)が形成される。この微粒子をアノード電極31の開口部(放出口)Aから真空チャンバ21内に放出させ、同軸型真空アーク蒸着源3に対向する基板ステージ22表面に、主面を開口部Aに向けて取り付けられている被処理基板S上に供給し、金属微粒子を付着させ凝集せしめて直径数nmのナノ金属粒子を形成する。この被処理基板Sは、加熱手段25により400℃以上、好ましくは400〜600℃程度に加熱され、保持されている。
【0046】
上記同軸型真空アーク蒸着源の近傍にコンデンサユニットを取り付けたものを用い、かつ上記放電条件として、例えば、放電電圧:50V以上、好ましくは100〜800Vに設定し、一方、コンデンサ容量を8800μF以下、間欠運転の周期を1〜10Hzに設定し、パルス放電の放電時間:300〜1000μ秒に設定することが好ましい。このような放電条件を用いれば、0.5〜5nm程度のナノ金属粒子を形成することができると共に、ナノ金属粒子を基板に密着性よくつけることもできる。
【0047】
上記した金属微粒子の放出は次のようにして行われる。カソード電極32に多量の電流(1800〜8000A)が200μ秒以上流れるので、カソード電極に磁場が形成され、この時発生したプラズマ中の電子(この電子はカソード電極からアノード電極31の円筒内面に飛行する)が自己形成した磁場によってローレンツ力を受け、前方に飛行する。一方、プラズマ中のカソード電極材料の金属イオンは、電子が前記したように飛行し分極することでクーロン力により前方の電子に引きつけられるようにして前方に飛行し、被処理基板S上にナノ金属粒子が付着することになる。
【0048】
次に、図3に示す同軸型真空アーク蒸着装置を用いて行うナノ粒子形成の一実施の形態について説明する。まず、コンデンサユニット372の容量を4×2200μFとし、直流電圧源371から100Vの電圧を出力し、この電圧でコンデンサユニット372を充電し、この充電電圧をアノード電極31とカソード電極32とに印加する。この場合、金属材料には、カソード電極32を介してコンデンサユニット372が出力する負電圧が印加される。この状態で、トリガ電源36から3.4kVのパルス状トリガ電圧を出力し、カソード電極32とトリガ電極33とに印加すると、絶縁碍子34の表面でトリガ放電(沿面放電)が発生する。また、カソード電極32と絶縁碍子34とのつなぎ目からは電子が放出される。
【0049】
上記したトリガ放電によって、アノード電極31とカソード電極32との間の耐電圧が低下し、アノード電極の内周面とカソード電極の側面との間にアーク放電が発生する。
【0050】
コンデンサユニット372に充電された電荷の放電により、尖頭電流1800A以上のアーク電流が1000μ秒程度以下の時間流れ、カソード電極32の側面から金属の蒸気が放出され、プラズマ化される。この時、アーク電流は、カソード電極32の中心軸上を流れ、アノード電極31内に磁界が形成される。
【0051】
アノード電極31内に放出された電子は、アーク電流によって形成される磁界により電流が流れる向きとは逆向きのローレンツ力を受けて飛行し、開口部Aから真空チャンバ21内へ放出される。
【0052】
カソード電極32から放出された金属の蒸気には荷電粒子であるイオンと中性粒子とが含まれており、電荷が質量に比べて小さい(電荷質量比の小さい)巨大荷電粒子や中性粒子は直進し、アノード電極31の壁面に衝突するが、電荷質量比の大きな荷電粒子であるイオンは、クーロン力により電子に引きつけられるように飛行し、アノード電極の開口部Aから真空チャンバ21内へ放出される。
【0053】
同軸型真空アーク蒸着源3と所定の距離(例えば、80mm)離れた上方の位置には、被処理基板Sが、基板ステージ22の中心をその中心とする同心円上を回転しながら通過しており、真空チャンバ21内へ放出された金属の蒸気中のイオンがこの各基板の表面に達すると、ナノ金属粒子として各表面に付着する。
【0054】
1回のトリガ放電でアーク放電が1回誘起され、アーク電流が300μ秒流れる。上記コンデンサユニット372の充電時間が約1秒である場合、1Hzの周期でアーク放電を発生させることができる。所望の粒径(例えば、0.5〜5nm程度)や膜厚に応じて、所定の回数(例えば、5〜1000回)のアーク放電を発生させ、被処理基板Sの表面にナノ金属粒子を形成する。
【0055】
上記同軸型真空アーク蒸着源を用いて基板上にナノ金属粒子を形成する場合、トリガ電源36からトリガ電極33にパルス電圧を印加して、カソード電極32とトリガ電極33との間にトリガ放電(沿面放電)を発生させる。このトリガ放電により、カソード電極32とアノード電極31との間にアーク放電が誘起され、コンデンサユニット372に蓄電された電荷の放出により放電が停止する。そのアーク放電の間、金属材料の融解により発生した微粒子(プラズマ化しているイオン、電子)が形成される。このイオン及び電子の微粒子をアノード電極の開口部(放出口)Aから真空チャンバ21内に放出させ、真空チャンバ内に載置された被処理基板上に供給して、微粒子の層を形成する。このトリガ放電を複数回繰り返し、そのトリガ放電毎にアーク放電を誘起させることが好ましい。
【0056】
本発明では、上記した場合のアーク放電の尖頭電流が2000A以上になるように、コンデンサユニット372の配線長を100mm以下、好ましくは10〜100mmとし、また、カソード電極32に接続されたコンデンサユニットの容量を1800〜8000μF、好ましくは2200〜8800μFとし、放電電圧を50〜800V、好ましくは60〜400Vに設定して、1回のアーク放電によるアーク電流を1000μ秒以下、好ましくは300〜1000μ秒の短い時間で消滅させるようにすることが望ましい。また、このトリガ放電は、1秒に1〜5回程度発生させることが好ましい。1回のトリガ放電でアーク放電を1回誘起させ、アーク電流が流れる時間を1000μ秒以下とするが、アーク電源37の回路に設けたコンデンサユニット372に充電させる時間が必要なので、トリガ放電を発生させる運転周期を1〜10Hzにし、この周期でアーク放電を発生させるようにコンデンサを充電する。この1回のアーク放電で得られる蒸着量は、例えば放電電圧60V、8800μFで基板−ターゲット間の距離が80mmの場合で0.01nmであり、放電電圧が100Vになると0.05nm程度となる。なお、この蒸着量の測定は、水晶振動子を用いた膜厚モニタで行っているため、「nm」単位で表現されており、この蒸着量は、放電電圧(コンデンサへのチャージ電圧)、コンデンサ容量、放電回数(パルス数)により適宜変化せしめることができる。
【実施例1】
【0057】
図3に示す同軸型真空アーク蒸着源を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用い、ターゲット材としての白金で構成されたカソード電極を配置して、ナノ白金粒子を形成した。
【0058】
ナノ白金粒子を形成する前に、加熱手段25を用いてHOPG基板Sを所定の温度(500℃)まで加熱すると共に、アーク電源37によりコンデンサユニット372に100Vで電荷を充電し、コンデンサユニット372の容量を8800μFに設定した。次いで、トリガ電源36からトリガ電極33にパルス電圧を出力し(出力:3.4kV)、カソード電極32とトリガ電極33との間にワッシャ碍子34を介して印加することで、カソード電極32とトリガ電極33との間にトリガ放電(ワッシャ碍子表面での沿面放電)を発生させた。カソード電極32とワッシャ碍子34とのつなぎ目から電子が発生した。この時、カソード電極32とアノード電極31の内面との間で、コンデンサユニット372に蓄電された電荷がアーク放電され、カソード電極32に多量の電流(尖頭電流2000A)が流入し、カソード電極から白金のプラズマが生成された。コンデンサユニット372に蓄電された電荷の放出により放電は停止した。このトリガ放電を複数回(10発及び40発)繰り返し、そのトリガ放電毎にアーク放電を誘起させた。
【0059】
上記したアーク放電の間、白金の融解により発生した微粒子(プラズマ化している原子状イオンやクラスタや電子等)が形成された。この微粒子をアノード電極31の開口部(放出口)Aから真空チャンバ21内に放出させ、被処理基板S上に供給し、白金粒子を付着させ凝集せしめて所定の直径(粒子高さ)を有するナノ白金粒子を形成せしめた。
【0060】
得られたナノ白金粒子に対してAFM(原子間力顕微鏡)観察を行った。10発及び40発繰り返した場合のAFM像の写真を、それぞれ、図4(a)及び(b)に示す。図4(a)及び(b)は同軸型真空アーク蒸発装置を用いて白金を蒸着した場合のパルス数に対する蒸着白金粒子の依存性を示すものである。図4(a)から明らかなように、10発(蒸着量は、0.5nmに相当する)で1nmの直径(粒子高さ)を有するナノ白金粒子が得られ、また、図4(b)から明らかなように、40発(蒸着量は、2nmに相当する)で3nmの直径(粒子高さ)を有するナノ白金粒子が得られていることが分かる。
【実施例2】
【0061】
実施例1において、アーク電源37によりコンデンサユニット372に50V及び100Vで電荷を充電し、また、実施例1と同様にして、トリガ放電を10回繰り返し、アーク放電を誘起させ、形成された微粒子を被処理基板S上に供給し、白金粒子を付着させ凝集せしめて所定の直径(粒子高さ)を有するナノ白金粒子を形成せしめた。この場合、蒸着量を0.1〜5nmの間で変えて、得られたナノ白金粒子について、横軸に蒸着量(nm)、縦軸に粒子の高さ(nm)をとってプロットしたグラフを図5に示す。図5中、APGはアークプラズマガン(同軸型真空アーク蒸着源)を意味し、アーク電圧が100Vと50Vの条件で行った場合を示す。
【0062】
100Vで充電した場合には、蒸着量0.1〜1nmの時、白金粒子の高さ、すなわち白金蒸着膜の厚みは約1〜3nmであり、蒸着量5nmの時、白金蒸着膜の厚みは約3nmであり、50Vで充電した場合には、蒸着量0.2nmの時、白金蒸着膜の厚みは約4nmであり、蒸着量2nmの時、白金蒸着膜の厚みは約4nmであった。
【0063】
なお、比較のために、図1に示す電子ビーム蒸着装置を用いて、基板温度500℃でナノ白金粒子を形成した。すなわち、ナノ白金粒子を形成する前に、加熱手段16を用いてHOPG基板Sを500℃まで加熱し、電子ビーム蒸着源12のルツボ内に白金を充填した。電子ビーム蒸着源12を稼動させて電子ビームをルツボに投入し、白金を溶融、蒸発させて、蒸着量を1nm、2nm、4nm及び8nmと変えて、HOPG基板S上に白金を蒸着せしめた。また、上記と異なる基板温度(400℃)に設定し、蒸着量2nm、4nm及び8nmでEB蒸着を行って、同様に白金蒸着膜を得た。
【0064】
基板温度500℃の場合には、蒸着量1nmの時、白金粒子の高さ、すなわち白金蒸着膜の厚みは約6nmであり、蒸着量2nmの時、白金蒸着膜の厚みは8nmであり、蒸着量4nmの時、白金蒸着膜の厚みは13nm及び18nmであり、蒸着量8nmの時、白金蒸着膜の厚みは40nmであった。基板温度400℃の場合には、蒸着量2nmの時、白金蒸着膜の厚みは12nmであり、蒸着量4nmの時、白金蒸着膜の厚みは24nmであり、蒸着量8nmの時、白金蒸着膜の厚みは25nmであった。
【0065】
電子ビーム蒸着装置を用いて白金粒子を蒸着せしめた場合の結果についても、蒸着量に対する白金粒子高さの依存性を図5にあわせて示す(図中、EB蒸着は、電子ビーム蒸着を意味する)。
【0066】
図5のグラフから明らかなように、同軸型真空アーク蒸着装置を用いて被処理基板を加熱しながら蒸着した場合の方が、電子ビーム蒸着装置を用いて蒸着した場合よりも、蒸着量にかかわらず、白金粒子の高さ、すなわち白金蒸着膜厚みが小さいことが分かる。また、同軸型真空蒸着装置を用いて蒸着した場合、0.5nm程度の蒸着量で被処理基板表面をほぼ埋め尽くし、白金粒子の高さ、すなわち白金粒子の直径が3nm程度になると、被処理基板への白金粒子の蒸着量を変えても白金粒子の高さはほとんど変化せず、そのサイズを制御することができることが分かる。
【実施例3】
【0067】
実施例1において、トリガ放電を5、10、20及び500パルス(発)繰り返したことを除いて、同様な手順に従って被処理基板S上に白金粒子を付着させ凝集せしめて所定の直径(粒子高さ)を有するナノ白金粒子を形成せしめた。この場合、蒸着量は0.01nm/パルスであるので、5、10、20及び500パルスの蒸着量は、それぞれ、約0.05、0.1、0.2及び5nmとなった。
【0068】
得られたナノ白金粒子に対して、実施例1と同様にAFM観察を行った。5、10、20及び500パルスの場合のAFM像の写真を、それぞれ、図6(a)、(b)、(c)及び(d)に示す。5パルスの場合、1nmの直径(粒子高さ)を有するナノ白金粒子が形成されていること(図6(a))、10パルスの場合、5パルスの場合と比べて粒径が大きくなって基板上の低いステップに集まっており、3nm程度の粒径を有するナノ白金粒子が形成されていること(図6(b))、20パルスの場合、10パルスの場合と比べて粒径は同じであるが、密度が増大して形成されていること(図6(c))、そして、500パルスの場合、2〜4.5nm程度の粒径を有するナノ白金粒子が形成されているが、ほとんどが3nm程度の粒径として形成されていること(図6(d))が分かる。500パルスの場合、図3(d)のAFM像から、粒径3nm程度のナノ粒子が2〜3層積層したナノ白金薄膜となっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、0.5〜5nm程度のナノ金属粒子及びこのナノ粒子から構成される金属薄膜を形成でき、また、ナノ金属粒子のサイズを制御できるので、本発明はCNTの下地膜としての触媒層や燃料電池への触媒金属担持等を含めた技術分野で有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】従来の電子ビーム蒸着装置の構成を模式的に示す構成図。
【図2】従来の同軸型真空アーク蒸着装置の構成を模式的に示す構成図。
【図3】本発明で使用する同軸型真空アーク蒸着装置の一構成例を模式的に示す構成図。
【図4】実施例1で得られたナノ白金粒子のAFM観察像であり、(a)はトリガ放電10発の場合、(b)はトリガ放電40発の場合。
【図5】実施例2で得られたナノ白金粒子の高さに対する蒸着量の依存性を示すグラフ。
【図6】実施例3で得られたナノ白金粒子のAFM観察像であり、(a)は5パルスの場合、(b)は10パルスの場合、(c)は20パルスの場合、(d)は500パルスの場合。
【符号の説明】
【0071】
1 真空チャンバ 12 電子ビーム蒸着源
13 蒸着材料 14 基板ステージ
15 基板マニピュレータ 16 加熱手段
17 膜厚測定子 18 真空排気系
18−1 ターボ分子ポンプ 18−2 バルブ
18−3 ロータリポンプ 18−4 真空配管
S 基板 2 同軸型真空アーク蒸着装置
21 真空チャンバ 22 基板ステージ
23 回転駆動手段 24 回転機構
25 加熱手段 26 ガス導入系
261 バルブ 262 マスフローコントローラー
263 ガスボンベ 27 真空排気系
271 バルブ 272 ターボ分子ポンプ
273 バルブ 274 ロータリーポンプ
3 同軸型アークプラズマガン 31 アノード電極
32 カソード電極 33 トリガ電極
34 絶縁碍子 35 絶縁体
36 トリガ電源 37 アーク電源
371 直流電圧源 372 コンデンサユニット
W1 カソード電極とコンデンサユニットとの間の配線長
W2 アノード電極とコンデンサユニットとの間の配線長
A 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のトリガ電極と、ナノ金属粒子形成用金属材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極と、前記トリガ電極及びカソード電極の間に両者を離間させるために設けられた円板状の絶縁碍子と、前記カソード電極の周りに同心状に配置された円筒状のアノード電極とを有する同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させ、また、基板を400℃以上、前記金属材料の融点未満の温度に加熱しながら、前記カソード電極の金属材料から生じる金属粒子を真空チャンバ内へ放出せしめ、基板上にナノ金属粒子を形成することを特徴とするナノ金属粒子形成方法。
【請求項2】
前記同軸型真空アーク蒸着源を、主放電の放電時間が1000μ秒以下となるように、また、尖頭電流値が1800A以上の放電波形を有するように設定することを特徴とする請求項1記載のナノ金属粒子形成方法。
【請求項3】
円筒状のトリガ電極と、ナノ金属粒子形成用金属材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極と、前記トリガ電極及びカソード電極の間に両者を離間させるために設けられた円板状の絶縁碍子と、前記カソード電極の周りに同心状に配置された円筒状のアノード電極とを有する同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させ、また、基板を400℃以上、前記金属材料の融点未満の温度に加熱しながら、前記カソード電極の金属材料から生じる金属粒子を真空チャンバ内へ放出せしめ、基板上にナノ粒子の積層した金属薄膜を形成することを特徴とするナノ金属薄膜形成方法。
【請求項4】
前記同軸型真空アーク蒸着源を、主放電の放電時間が1000μ秒以下となるように、また、尖頭電流値が1800A以上の放電波形を有するように設定することを特徴とする請求項3記載のナノ金属薄膜形成方法。
【請求項5】
円筒状のトリガ電極と、ナノ金属粒子形成用金属材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極と、前記トリガ電極及びカソード電極の間に両者を離間させるために設けられた円板状の絶縁碍子と、前記カソード電極の周りに同心状に配置された円筒状のアノード電極とを有する同軸型真空アーク蒸着源を備えた真空チャンバからなる同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させ、また、基板を400℃以上、前記金属材料の融点未満の温度に加熱しながら、前記カソード電極の金属材料から生じる金属粒子を真空チャンバ内へ放出せしめ、基板上に蒸着するナノ金属粒子の蒸着量を変化せしめることによりナノ金属粒子のサイズを制御することを特徴とするナノ金属粒子のサイズ制御方法。
【請求項6】
前記同軸型真空アーク蒸着源を、主放電の放電時間が1000μ秒以下となるように、また、尖頭電流値が1800A以上の放電波形を有するように設定することを特徴とする請求項5記載のナノ金属粒子のサイズ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−95163(P2008−95163A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280929(P2006−280929)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】