説明

ニッケルインキの製造方法、ニッケルインキパターンの形成方法、及び積層セラミックコンデンサの製造方法

【課題】高品質で薄膜の積層セラミックコンデンサ用内部電極を製造することが可能なニッケルインキの製造方法を提供する。
【解決手段】平均粒子径150nm以下のニッケル粒子を、重量平均分子量が5万以下でアニオン性基を有する(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体の存在下に、水および/または水溶性溶剤からなる溶剤中に分散させ、分散液を製造する分散工程、前記分散液を真空凍結乾燥させる乾燥工程、及び前記乾燥工程の生成物を溶剤及び結着剤樹脂と混合してインキ化するインキ化工程を有することを特徴とするニッケルインキの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルインキの製造方法、ニッケルインキパターンの形成方法、及び積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、セラミックからなる多数の誘電体層と、これら誘電体層の間に配置される内部電極とを備えて構成されている。
内部電極パターンは従来スクリーン印刷が用いられてきたが、近年、積層セラミックコンデンサの小型化や、大容量化のための各層の薄膜化、および内部電極パターンの高精細化のためにスクリーン印刷に換わる印刷方法が望まれている。
例えば、特許文献1には、誘電体を含有するインキ及び金属粉末を含有するインキを、グラビア印刷によって順次印刷、乾燥することで積層セラミックコンデンサを製造する方法が記載されており、この方法により厚みが2μm〜3μm程度の従来より薄い電極パターンや誘電体グリーンシートを形成できることが示されている。
ここでは薄膜化に対する一応の成果が示されているが、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化への、更なる各層の薄膜化や高精細な内部電極パターンの実現が期待されている。
【0003】
また一方、特許文献2には、多孔質金属焼結体を形成する目的で、タンタルやニオブなどの比重の大きい金属粉の分散性を改善するため、分散剤と金属粉の分散液を真空凍結乾燥処理して乾燥することにより、分散剤で表面処理された金属粉の製造方法が記載されている。
特許文献3には、弁作用電解コンデンサ用陽極素子を作製する目的で、タンタルやニオブなどの弁作用金属粉を分散剤とともに溶剤中に分散し、真空凍結乾燥処理して乾燥することにより、分散剤で表面処理された弁作用金属粉の製造方法が記載されている。
しかしこれらの表面処理方法を施した金属を用いてインクを作製し、より精細なパターンを形成することのできる印刷法に適用し、極めて微細な細線からなる精密な電極パターン等を作製することを目指した検討はまだ十分には行われていない。
特許文献4には、凸版反転印刷法により精密な印刷パターンを基材上に形成するのに適したインキ組成物が記載されている。金、銀等の導電性の粉末材料を用いて導電性パターンを形成することが記載されているが、微細で精密な導電性パターンを正確に形成することについての検討は十分には行われていない。
このようなわけで、積層セラミックコンデンサの内部電極に要求される、薄膜で高精細な内部電極パターンを作製するためには、金属粉の処理方法、ペーストの配合や、印刷方法になお課題を残していて、十分な特性を発揮する積層セラミックコンデンサが未だ実現されていないのが実情であった。
【特許文献1】特開平08−250370号公報
【特許文献2】特開2002−167603号公報
【特許文献3】特開2004−143546号公報
【特許文献4】特開2005−126608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高品質で薄膜の積層セラミックコンデンサ用内部電極を製造することが可能なニッケルインキの製造方法、ニッケルインキパターンの形成方法、及びこれらの方法を用いた積層セラミックコンデンサの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、ニッケル粒子の平均粒子径が150nm以下の場合には、アニオン性基を有する(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体の存在下に、水および/または水溶性溶剤からなる溶剤中に前記ニッケル粒子を分散させ、分散液を製造する分散工程、
前記分散液を真空凍結乾燥させる乾燥工程、
及び前記乾燥工程の生成物を溶剤及び結着剤樹脂と混合してインキ化するインキ化工程を有することを特徴とするニッケルインキの製造方法、
また、この製造方法により製造されたニッケルインキをブランケット上に塗布して塗布面を形成し、該塗布面に凸版を押圧して該凸版に接触する部分のインキをブランケット上から除去したのち、前記ブランケット上に残ったインキを被印刷体に転写することを特徴とするニッケルインキパターンの形成方法を提供する。
尚、前記の平均粒子径が150nm以下のニッケル粒子は、その最大粒子径は400nm以下が好ましい。
また前記のアニオン性基を有する(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体の重量平均分子量は5万以下が好ましい。
【0006】
ニッケル粒子の平均粒子径が150〜500nmの範囲である場合は、前記の分散工程および乾燥工程を経ることなく、該ニッケル粒子を溶剤及び結着剤樹脂と混合してインキ化するインキ化工程によってニッケルインキを製造することができる。このニッケルインキ製造に適したニッケル粒子として、150〜500nmに分級された市販品を用いれば良い。なかでも平均粒子径が200〜400nmのニッケル粒子が好適である。
本発明のニッケルインキ及びニッケルインキパターンの形成方法によって、薄膜で高精細のパターンを形成することができる。
尚、ここで薄膜とはその厚みが2μm以下の膜を言う。前記の平均粒子径が150nm以下のニッケル粒子を用いる場合は厚みが1μm以下の膜を形成することも可能である。
【0007】
前記のインキ及びパターンの形成方法は積層セラミックコンデンサの製造に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、平均粒子径が150nm以下の微細なニッケル粒子であっても、その表面にアニオン性基を有するアクリル系分散剤が吸着され、該粒子表面は良好に被覆される。これによってニッケル粒子の自然発火が防止され、凝集の起きにくい安定した微粒子が得られる。またこのニッケル粒子は溶剤及び結着剤樹脂への分散性が良好である。尚、平均粒子径が150nmを超えるものはその粒子表面の被覆処理を行わなくても良い。
これらのニッケル粒子を用いて、凸版反転印刷に適したインキが得ることができる。そして該インキを用いて高品質で薄膜の積層セラミックコンデンサ用内部電極を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態に基づき、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるニッケル粒子は、その平均粒子径が小さいほど、より薄い膜を形成するのに有利であり、また線幅の狭い細線からなるパターンを形成するのに有利である。
平均粒子径が150nm以下のものは室温でも自然発火しやすくなるため、本発明の方法により真空凍結乾燥処理をすることが好ましい。この処理により、ニッケル粒子の発火防止と、該粒子の分散安定性の向上が達成できる。
平均粒子径が150nmを越えるものは真空凍結乾燥処理をしないで用いることができるが、その場合の平均粒子径は500nm以下が好ましい。平均粒子径が200〜400nmのものがより好ましく用いられる。
ニッケル粒子として、平均粒子径150nm以下のものを用いる場合は、該ニッケル粒子の真空凍結乾燥処理を行うが、平均粒子径が100nm以下のものがより好ましく用いられる。また最大粒子径は400nm以下が好ましい。
【0010】
ここで本発明で用いる平均粒子径について説明する。
本明細書において、ニッケル等の微粒子の平均粒子径は体積基準による値、即ち体積平均粒子径を用いる。
【0011】
体積平均粒子径を求めるには、粉体のSEM写真を50個程度の粒子が含まれる程度に分割し、分割した区画内の粒子の粒子径を測定し、体積平均粒子径を計算した。
レーザー回折式粒度分布測定装置による測定も併行しておこなうが、該装置では体積平均粒子径は光回折を利用するため、計算上で示される。そのため、分布は信頼性が比較的高いが平均粒径の絶対値は、前記のSEM写真による測定結果を利用して補正している。
その結果の粒径分布を図1に示した。
尚、粒度分布計による測定手順は次の通りである。
粒度分布測定にはレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3000S(島津製作所製)を使用した。原粉をキッチンマイルド10質量%水溶液に分散し、全量をサンプラー流水中に投入し、投入60秒後に測定を行った。屈折率は1.50−0.00iを用い、粒度分布データを取得した。
【0012】
ニッケル粒子の表面処理を行い、該粒子を樹脂等に混練・分散してインキを製造するには、次の(1)から(3)に示す工程による。
(1)アニオン性基を有する(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体の存在下に、水および/または水溶性溶剤からなる溶剤中に該ニッケル粒子を分散させ、分散液を製造する分散工程、
(2)前記分散液を真空凍結乾燥させる乾燥工程、
(3)前記乾燥工程の生成物を溶剤及び結着剤樹脂と混合してインキ化するインキ化工程。前記共重合体の重量平均分子量は5万以下が好ましい。
尚、ニッケル粒子の粒子径が150nmを越える場合は、前記の(1)、(2)の工程によって表面処理を行わなくても良い。該ニッケル粒子を前記(3)のインキ化工程によって直接インキ化することができる。
【0013】
(A)ニッケル粒子の平均粒子径が150nm以下の場合の、該粒子の表面処理について説明する。
(溶剤中への分散工程)
分散工程においてニッケル粒子の分散に用いる分散用溶剤(分散媒)としては、水および/または水溶性溶剤が用いられる。
水溶性溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール;エチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルなどのアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテルなどのアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物などが挙げられる。これらの分散用溶剤の中では、水が好ましい。
これら分散用溶剤はここに挙げたものに限定されるものではなく、その使用に際しては単独、或いは2種類以上混合して(例えば水溶液や混合溶媒として)用いることができる。
【0014】
分散剤として、アニオン性基を有する(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体(以下、単に「分散剤」という場合がある。)を用いる。その重量平均分子量は5万以下が好ましい。
該分散剤としては(メタ)アクリル酸の含有率が10〜80質量%である共重合体が好ましく、特に20〜70質量%の含有率であることが好ましい。
【0015】
分散液の調製方法としては、ニッケル粒子と、前記分散剤とを分散用溶剤中に添加し、攪拌機または分散機にかけて、混合を行う方法が挙げられる。
原料となるニッケル粒子は、平均粒子径150nm以下と微細であるので、空気中では酸化しやすく、有機溶剤、アルコール等の液体中に分散した状態で入手される。本発明では、水に浸漬した状態で用意することが好ましい。
これに分散剤を添加し、分散を行い乾燥するので、過剰な有機溶剤、アルコールの影響を受けて分散を阻害されることがない。
使用可能な攪拌機または分散機としては、後述の公知の攪拌機または分散機の中から適宜選択して使用することができる。
得られる分散液中、ニッケル粒子の濃度範囲は、0.5〜80%が好ましく、特に、1〜50%が好ましい。
【0016】
(表面処理後の乾燥工程)
分散工程にて得られた分散液は、真空凍結乾燥により、分散用溶剤を除去する。
真空凍結乾燥法においては、基本的に低温状態で凍結した分散液から、前記分散用溶剤のみが昇華除去される。この過程では分散剤が分散用溶剤中に溶出して失われることがないため、必要所定量だけ添加した界面活性剤のほとんど全てが処理後のニッケル粒子とともに残留する。
分散液中で分散剤はニッケル粒子の表面付近に局在しており、分散用溶剤のみが除去される真空凍結乾燥を実施すると、該分散剤がニッケル粒子の表面に一様に吸着した状態で取り出せる可能性が高く、また、ニッケル粒子が分散剤によって被覆され、分散剤による立体障害効果から粒子同士が凝集することがなく、極めて効率的な処理方法といえる。
このように、分散液中に使用した必要所定量の分散剤の全てが、真空凍結乾燥後においてもニッケル粒子の表面に残留するため、分散剤で表面処理されたニッケル粒子を収率良く得ることができる。
【0017】
真空凍結乾燥は、例えば、前記分散液を大気圧で分散用溶剤の凝固点以下に予備凍結し、さらに凝固点における分散用溶剤の蒸気圧より低い圧力で真空度をコントロールして行う方法を用いることができ、これにより、理論上は、凍結状態の固体混合物中から分散用溶剤の分子を昇華させることができる。
例えば、分散用溶剤として水を用いた分散液の場合は、大気圧で0℃以下に予備凍結し、理論上は0℃における水の蒸気圧4.5mmHg(=600Pa)を越えないよう真空度をコントロールすれば良い。乾燥速度、コントロールのやり易さを加味すれば1mmHg(=133.32Pa)以下にして、その蒸気圧での融点(凝固点)まで、温度を上げることが好ましい。
このように真空凍結乾燥による乾燥方法では真空中で分散用溶剤を昇華蒸発させ、粒子を乾燥するため、乾燥による収縮がわずかであり、組織や構造を破壊しにくい。また、熱風乾燥のように高温で試料内での例えば水などの液体成分の乾燥による移動がなく、固体の凍った状態で低温乾燥をするため、部分的成分濃縮、部分的成分変化、変形がほとんど無く好ましい。
【0018】
(B)平均粒子径が150nmを越えるニッケル粒子を用いる場合は、前記の真空凍結乾燥工程による表面処理を行うことなく、該ニッケル粒子を直接溶剤及び結着剤樹脂と混合し、分散機を用いて分散させてインキ化することができる。
【0019】
(インキ化について)
本発明のニッケルインキを用いて薄膜で高精細な印刷物を作製する方法としては、凸版反転印刷法が好適である。この印刷法は、ブランケット上にインキを塗布してインキ塗布面を形成し、該インキ塗布面に凸版を押圧して該凸版に接触する部分のインキをブランケット上から除去したのち、前記ブランケット上に残ったインキを被印刷体に転写して印刷パターンを形成する。
【0020】
本発明のニッケルインキは、凸版反転印刷法における良好な印刷適性を備えるために、ニッケル粉、分散用結着剤樹脂、表面エネルギー調整剤、離型剤、速乾性有機溶剤及び遅乾性有機溶剤を含有する。
【0021】
ニッケルインキを製造するためには、ニッケル粉末と、溶剤及び結着剤樹脂とを混合して、適当な分散機を用いてニッケル粉末を分散させ混練してインキ化する。
インキ化に使用しうる分散手段としては、例えば、二本ロール、三本ロール、ボールミル、サンドミル、ペブルミル、トロンミル、サンドグラインダー、セグバリアトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、ニーダー、ホモジナイザー、超音波分散機等が挙げられる。
【0022】
分散用結着剤樹脂は、ニッケル粉の分散安定性を向上させ、比重の高いニッケル粉の沈降を抑える役割を持つ。含有量は、導電性を保持するため、少ない量であることが好ましい。ニッケル粉に対して20%以下が好ましい。
【0023】
ニッケルインキに使用しうる結着剤樹脂としては、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アセタール樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、酢酸ビニルエマルジョン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ニトロセルロース樹脂、天然樹脂を単独、あるいは2種以上混合して利用することができる。
結着剤樹脂を添加することにより、ニッケル粒子の分散安定性を向上させ、また基体への接着性を向上させることができる。中でも、アクリル系樹脂は、ニッケルインキを焼結(例えば400〜800℃)したときに真空中でも樹脂が分解し易く、残留炭素を少なくできる。また上述の分散剤との相溶性が良好で、表面処理されたニッケル粒子の分散性を向上できるので、好ましい。
【0024】
表面エネルギー調整剤は、ブランケット表面にインキが均一に良好に塗布できるように、インキの表面エネルギーよりも小さくするために添加されるものである。表面エネルギー調整剤としては、シリコーン系やフッ素系が好適に使用できる。特にフッ素系の表面エネルギー調整剤が少量の添加で効果が大きく好ましい。
フッ素系の表面エネルギー調整剤としては、例えば、大日本インキ化学工業のメガファックシリーズが好適に用いられる。
表面エネルギー調整剤の含有量は全インキ中の0.05〜5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜1.5質量%である。
表面エネルギー調整剤の含有量がこの範囲外で量が少ないと、ブランケット上でのインキのはじきが発生したり、インキ塗膜が均一にならずムラが発生したりして好ましくない。量が多すぎると、被印刷基材上へ転写後、インキ塗膜中の表面エネルギー調整剤が被印刷基材とインキ塗膜との密着性を阻害する不具合が生じてこれも好ましくない。
【0025】
離型剤は、これを添加することにより、表面エネルギー調整剤によってインキのブランケットへの濡れ性を増大させても、ブランケットからの剥離性を確保することができる。
離型剤としては、信越化学製KF96シリーズや東レ・ダウコーニング製SH28(いずれも商品名)等のシリコーンオイルが好適に挙げられる。その配合量は、全インキ中0.05〜5.0質量%、好ましくは0.1〜1.0質量%が好ましい。
【0026】
速乾性有機溶剤は、ブランケットにインキ塗膜が形成される時には、インキが良好な流動性を有するために用いられ、その後、凸版にて画像化されるまでの間に、空中に揮発もしくはブランケットに吸収されることで、インキ粘度が上昇し、画像化に最適な粘度と粘着性と凝集力を有するようにするために含有される。その配合量は、全インキ中5〜90質量%の範囲で調整される。例としては、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤などが挙げられる。その中でも、酢酸イソプロピル、エタノール、イソプロピルアルコールなどが、その蒸発速度からみて好ましい。
【0027】
遅乾性有機溶剤は、凸版によりブランケットに形成され画像化されたインキ塗膜が、被印刷基材上に転写されるまで、ブランケット上に残留することで、インキの粘度が一定以上に上昇することを防ぎ、被印刷基材上に良好な画像を得ることができるようにするために用いられる。その配合量は、全インキ中1〜90質量%の範囲で調整される。例としては、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤などが挙げられる。その中でも、プロピレンカーボネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAC)などが、その蒸発速度からみて好ましい。
【0028】
ニッケルインキには、必要に応じて他の成分を添加することができる。例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極を作製する場合は、チタン酸バリウム(BaTiO)に代表されるセラミック等の誘電体を添加することが好ましい。これにより、ニッケルパターンと誘電体パターンとの熱膨張率差を小さくして積層状態で乾燥・焼結したときの寸法・位置関係の精度を向上できる。
【0029】
(印刷について)
次に、上記のニッケルインキによるパターンを被印刷体上に形成するための凸版反転印刷法について詳細に説明する。
印刷工程は、大きく分けると、ブランケット上にインキを塗布してインキ塗布面を形成するインキ塗布工程、該インキ塗布面に凸版を押圧して該凸版に接触する部分のインキをブランケット上から除去するパターン形成工程、前記ブランケット上に残ったインキを被印刷体に転写する転写工程からなり、これらの各工程を、被印刷体上に設けるインキ層の数に応じて必要な回数だけ繰り返す。
印刷後、被印刷体上に形成された1層のインキ層を、または複数積層されたインキ層を、加熱又は電子線若しくは紫外線等により、硬化及び/又は乾燥させる。硬化及び/又は乾燥の方法については、インキに配合した溶剤及び結着剤樹脂の種類等により、適宜変更が可能である。
【0030】
凸版反転印刷法に用いる印刷装置は、胴の表面に取り付けたブランケットと、ブランケット上にインキを塗布するためのインキ塗布装置と、被印刷体に形成するパターンを反転させたパターンに凸部を有する凸版を必須として構成されている。
被印刷体に形成するパターンを反転させたパターンに凸部を有する凸版とは、被印刷体に形成されるパターンに対応して凹部を、また、被印刷体に形成されるパターンではない領域に対応して凸部を有するものである。ブランケットには、シリコーンゴム等の一定の離型性を持つ材料を用いることが好ましい。
インキ塗布装置としては、例えばインクジェットや各種コーター等が挙げられる。
凸版反転印刷法は低粘度インキでの印刷に適しており、1μm程度の薄膜の作製も可能である。また、高精細印刷が可能であり、電極パターンの高精細化に適している。更に、ブランケット上のインキが100%転写され、インキの溶剤分が少なく塗膜乾燥時の熱収縮も起こりにくいので、導電パターンの膜厚精度、寸法精度を高くすることができる。
【0031】
塗布もしくは印刷時の基体の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)、ポリイミドフィルム(PIフィルム)、あるいはPETフィルム等の上に形成したグリーンシート(無機質基板)が例示される。
これらの基体上にニッケルインキを所定のパターンに印刷し、印刷物の乾燥後、加熱硬化処理しても良い。
また、印刷物の厚さは、印刷法によって異なるが、印刷物の乾燥時厚さが0.5〜3.0μmの範囲が好ましく、特に0.5〜1.0μmの厚さが好ましい。
印刷物の乾燥後、単位体積当たりの電気抵抗(体積抵抗)を下げるために、基材の著しい変形を生じない程度に、プレスあるいはカレンダー処理をしてもよい。
このようにして得られた印刷物を、例えば、約160℃で約5分乾燥し、溶媒を揮散させて導電パターンを形成する。
【0032】
上記の印刷方法およびインキを利用したニッケルインキパターンの形成方法は、積層セラミックコンデンサの製造方法に利用することができる。
本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法は、下記(1)から(5)の工程を具備することを特徴とする。
(1)支持フィルム上に第1の誘電体グリーンシートを形成した後、乾燥する工程、
(2)前記第1の誘電体グリーンシート上に、
上述のニッケルインキパターンの形成方法により第1の電極パターンを形成し、さらに前記第1の電極パターン間の前記第1の誘電体グリーンシート上に、段差解消用誘電体パターンを形成した後、これらのパターンを乾燥する工程、
(3)前記第1の電極パターン及び段差解消用誘電体パターンの上を含む全面に第2の誘電体グリーンシートを形成した後、乾燥する工程、
(4)前記第2の誘電体グリーンシート上に、上述のニッケルインキパターンの形成方法により第2の電極パターンを形成し、さらに前記第2の電極パターン間の前記第2の誘電体グリーンシート上に、段差解消用誘電体パターンを形成した後、これらのパターンを乾燥する工程、
(5)前記(1)〜(4)の工程を複数回繰り返す工程。
【0033】
本発明のニッケルインキを用いた凸版反転印刷法による積層セラミックコンデンサの製造方法においては、ブランケット上でインキの粘度を上昇させることができ、インキの重ね塗りに際して、各印刷工程の間に乾燥工程を設ける必要が無いので、乾燥による印刷塗膜の熱収縮が少なく、インキパターンの寸法精度を向上させることができる。またインキの溶剤分が少ないので、溶剤によりグリーンシートが溶解などの損傷を受けにくい。
【0034】
ここで、誘電体グリーンシート及び段差解消用誘電体パターンは、例えば誘電体の粒子と有機バインダを含む誘電体インキを印刷することにより形成することができる。誘電体インキの印刷方法としては、孔版印刷方法、凹版印刷方法、平版印刷方法などのほか、上述の凸版反転印刷法が挙げられる。
積層体は、例えば約300〜600℃で熱処理して樹脂成分の酸化除去(ベーキング)を行い、さらに約1200〜1600℃で焼結し、外部電極の取り付け等の後工程を行うことにより、積層セラミックコンデンサを製造することができる。
【0035】
このようにして製造される本発明の積層セラミックコンデンサは、凸版反転法により薄膜で均質な電極パターンが形成されており、小型化・薄型化が可能であり、電気特性や歩留まりの向上が図られる。
また平均粒子径150nm以下の微細なニッケル粒子を表面処理したインキを用いれば、さらに薄膜かつ均質なパターンが形成される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
また、特に断りのない場合、「%」および「部」は質量基準によるものとする。
【0037】
(実験1:ニッケル粒子の真空凍結乾燥による表面処理)
平均粒子径100nmのニッケル粒子NN−100(三井金属鉱業(株)製)の水分散液500g、分散剤としてメタクリレートとメタクリル酸との共重合体(10%水溶液、重量平均分子量約10800)50g、溶媒である水150g、及び2mm径のジルコニアボール3kgを2000ccのポリエチレン瓶に入れて混合したのち、回転運動を利用したボールミル分散を用いて3時間練肉して、ニッケル粒子の分散液(a1)を得た。
前記の分散剤はモノマー組成比において、メチルメタアクリレート/2−エチルヘキシルメタクリレート/メタアクリル酸=65/24/11(質量比)であり、重量平均分子量10800である。
水溶液に分散剤が溶解するように中和し、10質量%の分散剤水溶液を作製した。
【0038】
このニッケル粒子の分散液(a1)を、底面の寸法250mmL×150mmWの平型トレイに700g移し、液体窒素中にトレイを浸漬して予備凍結乾燥した後、真空凍結乾燥を行った。真空凍結乾燥機は日本真空(株)製の「DFM−05AS」を用いた。
予備凍結したニッケル粒子の分散液(a1)を、あらかじめ約−40℃に冷却した棚にのせて、真空度7〜10Paで20時間の真空凍結乾燥後、嵩高のスポンジ状乾燥物としてニッケル粒子の表面処理物(b1)240gを得た。この表面処理物の粒径分布を体積基準で図1に示した。
また、熱重量分析装置を利用して、60分で350℃まで上げた後、120分保持し、
その熱重量変化を測定した。その結果を図2(実施例)に示した。
【0039】
(実験2:実験1で分散剤を用いない場合)
前記の実験1において、分散剤を除く以外は同様にして、ニッケル粒子の乾燥処理物を得、その熱重量変化を測定した。その結果を図2(比較例)に示した。
【0040】
実験1と実験2のニッケル粒子の熱重量分析の結果より、本願における真空凍結乾燥を行うことにより、酸化しやすい微粒子ニッケル金属粉が室温より300℃近くまで安定して扱うことができる。一方、表面処理していないニッケル金属粉は、表面が一部酸化するため、その結晶性被膜の影響により温度を上げても酸化が進まない。これはMLCC製造プロセスにおける後工程の作業性に大きく影響する。
【0041】
(実施例1;ニッケルインキの製造)
実験1で形成したニッケル粒子の表面処理物(b1)1g、チタン酸バリウム0.1g、分散用結着剤樹脂としてBYKケミー製ディスパーbyk2000変性アクリルブロック共重合樹脂0.41g(固形分40%)、および速乾性有機溶媒として酢酸イソプロピル5.99g、および分散用0.5mmガラスビーズ6gを10ccガラス瓶に入れて混合し、振とう機(ペイントコンディショナー)を用いて5時間混合攪拌して、ニッケル分散液を得た。該ニッケル分散液は、経時的な粘度上昇や凝集を起こすことなく安定であった。
該分散液2gに表面エネルギー調整剤として大日本インキ化学工業製フッ素系表面エネルギー調整剤TF−1303(固形分30%)0.02g、離型剤として東レ・ダウコーニング製シリコーンオイルSH28(固形分10%)0.05g、遅乾性有機溶剤としてプロピレンカーボネート0.06g、速乾性有機溶剤酢酸イソプロピル0.25gを加え、凸版反転印刷法に適したニッケルインキ(c1)を得た。
【0042】
(実施例2:ドライのニッケル顔料によるインキの製造)
真空凍結乾燥による表面処理工程を経ていない平均粒子径200nmのニッケル粒子NFP201(JFEミネラル(株)製)0.88g、チタン酸バリウム0.09g、分散用結着剤としてBYKビックケミー製ディスパーBYK2000/変性アクリルブロック共重合樹脂0.4g(固形分40%)、速乾性有機溶剤として酢酸イソプロピル6.13g、および分散用0.5mmガラスビーズ6gを10ccガラス瓶に入れて混合し、振とう機(ペイントコンディショナー)を用いて5時間混合攪拌して、ニッケル分散液を得た。該ニッケル分散液は、経時的な粘度上昇や凝集を起こすことなく安定であった。
該分散液2gに表面エネルギー調整剤として大日本インキ化学工業製フッ素系表面エネルギー調整剤TF−1303(固形分30%)0.02g、離型剤として東レ・ダイコーニング製シリコーンオイルSH28(固形分10%)0.05g、遅乾性有機溶剤としてプロピレンカーボネート0.06g、速乾性有機溶剤として酢酸イソプロピル0.25gを加え、凸版反転印刷法に適したニッケルインキ(c2)を得た。
【0043】
(実施例3:真空凍結乾燥処理を経たニッケルインキによる印刷パターンの形成)
実施例1で製造したニッケルインキ(c1)を凸版反転印刷法にてガラス板に印刷し、乾燥後、断面形状を干渉型表面形状解析装置によって測定した。このときの断面形状を図3のグラフに示す。ニッケル印刷膜の平均の膜厚は960nmであった。
【0044】
(実施例4:真空凍結乾燥処理をしていないニッケルインキによる印刷パターンの形成)
実施例2で製造したニッケルインキ(c2)を凸版反転印刷法にてガラス板に印刷し、断面形状を干渉型表面形状解析装置によって測定した。ニッケル印刷膜の平均の膜厚は800nmであった。
【0045】
(実施例5:積層セラミックコンデンサの製造)
支持フィルム上に第1の誘電体グリーンシートを形成し、乾燥後に第1の誘電体グリーンシート上に、実施例1で製造したニッケルインキ(c1)を凸版反転印刷法にて印刷し、第1の電極パターンを形成した。
さらに第1の電極パターン間の第1の誘電体グリーンシート上に、段差解消用誘電体パターンを形成した後、これらのパターンを乾燥した。
次いで、第1の電極パターン及び段差解消用誘電体パターンの上を含む全面に第2の誘電体グリーンシートを形成し、乾燥後に第2の誘電体グリーンシート上に、実施例1で製造したニッケルインキ(c1)を凸版反転印刷法にて印刷し、第2の電極パターンを形成した。
さらに第2の電極パターン間の第2の誘電体グリーンシート上に、段差解消用誘電体パターンを形成した後、これらのパターンを乾燥した。
【0046】
そして、これらの工程を複数回繰り返すことにより、支持フィルム上に、誘電体グリーンシートと電極パターン及び段差解消用誘電体パターンとが交互に積層された積層体シートを得た。この積層体シートから支持フィルムを剥離して真空プレスしたのち、シートを所定のチップ寸法に裁断した。各チップをガスオーブン中に入れ、樹脂成分をベークし、誘電体層及び導電体層を焼結した。得られたチップ焼結体に外部電極を取り付け、積層セラミックコンデンサ(d1)を製造した。
【0047】
製造した積層セラミックコンデンサの断面を顕微鏡で観察したところ、導電体層の厚みは0.5〜0.7μmの範囲にあって断線の無い均質なものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、積層セラミックコンデンサのほか、各種電子部品等の製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1で作製した表面処理後のニッケル粒子の粒度分布を体積基準で示したグラフである。
【図2】実施例1と比較例1で作製したニッケル金属粉の熱重量分析の結果を示したグラフである。
【図3】実施例3でガラス板上に形成したニッケル膜の断面形状を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル粒子、表面エネルギー調整剤、離型剤、速乾性有機溶剤及び遅乾性有機溶剤を含有する凸版反転印刷用インキ。
【請求項2】
請求項1に記載の凸版反転印刷用インキの製造方法であって、
前記のニッケル粒子の平均粒子径が150nm以下であり、
該ニッケル粒子を、アニオン性基を有する(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体の存在下に、水および/または水溶性溶剤からなる溶剤中に分散させ、分散液を製造する分散工程、
前記分散液を真空凍結乾燥させる乾燥工程、
及び前記乾燥工程の生成物を溶剤及び結着剤樹脂と混合してインキ化するインキ化工程を有することを特徴とする凸版反転印刷用インキの製造方法。
【請求項3】
前記分散工程において、前記ニッケル粒子は水分散液として供給される請求項2に記載の凸版反転印刷用インキの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の凸版反転印刷用インキの製造方法であって、
前記のニッケル粒子の平均粒子径が150nm〜500nmであり、
分散工程および乾燥工程を経ずに、直接溶剤及び結着剤樹脂と混合してインキ化するインキ化工程を有することを特徴とする凸版反転印刷用インキの製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の製造方法によって得られるインキを用いて凸版反転印刷法によりインキパターンを形成する方法。
【請求項6】
(a)支持フィルム上に第1の誘電体グリーンシートを形成した後、乾燥する工程と、
(b)前記第1の誘電体グリーンシート上に請求項5に記載のインキパターンの形成方法により第1の電極パターンを形成し、さらに前記第1の電極パターン間の前記第1の誘電体グリーンシート上に、段差解消用誘電体パターンを形成した後、これらのパターンを乾燥する工程と、
(c)前記第1の電極パターン及び段差解消用誘電体パターンの上を含む全面に第2の誘電体グリーンシートを形成した後、乾燥する工程と、
(d)前記第2の誘電体グリーンシート上に請求項5に記載のニッケルインキパターンの形成方法により第2の電極パターンを形成し、さらに前記第2の電極パターン間の前記第2の誘電体グリーンシート上に段差解消用誘電体パターンを形成した後、これらのパターンを乾燥する工程と、
(e)前記(a)〜(d)の工程を複数回繰り返す工程とを具備したことを特徴とする
積層セラミックコンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−138030(P2009−138030A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312684(P2007−312684)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】