説明

ニュートラライザおよびこれを備えた成膜装置

【課題】多くの電子電流を引き出すことが可能であると共に、長寿命化を図ることが可能なニュートラライザを提供する。
【解決手段】一方の端部から電子電流を引き出し可能な放電管4と、放電管4内にガスを導入するガス導入管3と、この放電管4の内部でプラズマを発生させる高周波誘導コイル5と、放電管4の内部に配設されたカソード電極6と、放電管4の開口4a側に配設された第一のキーパ電極7と、カソード電極6よりも正電位となるように第一のキーパ電極7に電圧を印加する引出し電源13と、第一のキーパ電極7と離間して配設された第二のキーパ電極8と、この第二のキーパ電極8にカソード電極6よりも正電位となる自己バイアス電圧を印加するコンデンサ16と、を備える。第二のキーパ電極8の自己バイアス電圧により多くの電子電流が引き出すことができると共に、第二のキーパ電極8はスパッタされにくくなるため、長寿命化を図ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニュートラライザおよびこれを備えた成膜装置に係り、特に、半導体デバイスや光学素子の製造等に用いられるニュートラライザおよびこれを備えた成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハなどの半導体デバイスや、光学レンズなどの光学素子を製造する技術として、プラズマイオンプレーティングやプラズマCVD、プラズマスパッタリング、プラズマエッチング、イオンビーム蒸着、イオンビームスパッタリングなどの様々な成膜技術が用いられる。
これらの技術では、基板や試料などに対して電子ビームを照射するニュートラライザが用いられている。
【0003】
例えば、光学薄膜の製造技術では、イオンアシスト蒸着装置により基体の表面に蒸着物質を蒸着させる方法が用いられている。イオンアシスト蒸着装置は、基体を保持する基体ドームと、蒸着物質源を蒸着させる蒸着源と、基体に正イオンのビームを照射するイオン銃を備えている。イオンアシスト蒸着による成膜方法では、蒸着源を用いて基体に蒸着物質を付着させるとともに、イオン銃からイオンビームを基体に照射する。イオンビーム中に含まれる正のイオンが基体へ衝突する際の衝突エネルギーにより、基体の表面に付着した蒸着物質を凝集させる。これにより、基体の表面に形成される薄膜の緻密性、結晶配向性、基体への付着強度などを向上させることができる。
【0004】
イオンアシスト蒸着装置では、イオン銃から照射された正のイオンが基体に蓄積することにより、基体全体が正に帯電する現象(いわゆる、チャージアップ)が起こる。このチャージアップが発生すると、正に帯電した基体と他の部材との間で異常放電が起こり、放電による衝撃で基体表面に形成された絶縁膜が破壊される問題があった。また、基体が正に帯電することで、イオン銃から供給される正イオンによる衝突エネルギーが低下するため、薄膜の緻密性、付着強度などが減少する。このため、成膜される薄膜の物理的・光学的特定が低下するといった不都合が生じる。
【0005】
このようなチャージアップを防止するため、基体に蓄積した正の電荷を電気的に中和(ニュートラライズともいう)する目的でニュートラライザが用いられている。ニュートラライザは、内部にプラズマを発生させてこのプラズマから電子を引き出し、電子ビームとして対象物に照射する装置である。ニュートラライザから引き出された電子ビームを基体に向けて照射することで、正に帯電した基体の電荷を中和することができる。
【0006】
本発明の発明者らは、先に、従来のニュートラライザを改良して、比較的低温下で使用することが可能であって、かつコンタミネーションが少なく、エネルギー効率よく電子ビームを得ることが可能なニュートラライザを開発している(例えば、特許文献1)。
【0007】
以下に、この従来のニュートラライザについて詳細に説明する。図6は、従来のニュートラライザの電気的配線を示す説明図である。
このニュートラライザ100は、各部品を収納する電子銃ボディ101と、一方の端部から電子ビームを引き出し可能な筒状の放電管102と、この放電管内にガスを導入するガス導入管103と、放電管102に巻装された高周波誘導コイル104と、放電管102の内部に収納されたカソード電極105と、放電管102の一方の端部側に設けられたアノード電極106(キーパ電極ともいう)と、カソード電極105よりも正電位となるようにアノード電極106に電圧を印加する引出し電源113と、を備えている。
ガス導入管103を通じて放電管102の内部にガスを導入した状態で、高周波電源111から高周波誘導コイル104に高周波電流を流すと、放電管102の内部に高周波誘導電界が生じてガスが放電し、プラズマが発生する。プラズマが発生した状態で、カソード電極105よりも正電位となるようにアノード電極106に電圧を印加すると、両電極間の電位差によりプラズマ中の電子はアノード電極106側へ引き寄せられる。引き寄せられた電子は、アノード電極106に形成された電子ビーム放出孔106aから電子ビームとして外部へ引き出される。引き出された電子ビームは、正に帯電した基板に向けて照射され、これを電気的に中和する。
【0008】
【特許文献1】特許第3606842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような従来のニュートラライザでは、単一のキーパ電極(図6では、アノード電極106)しか備えていないため、プラズマ中から引き出される電子ビームの電子電流値が小さい。このため、イオンビームの照射量に対してニュートラライザからの電子ビームの照射量が追いつかず、中和が完全には行われず、正に帯電した基板と他の部材との間で異常放電が発生するといった不都合があった。
逆に、中和を追いつかせようとイオンビームの照射量を小さくした場合には、成膜レートが低下するため、製品の製造に要するタクトタイムの短縮を図ることが困難であった。
【0010】
また、ニュートラライザのアノード電極(すなわち、キーパ電極)には負の電圧が印加されているため、イオン銃などから放出された正イオンがキーパ電極に引き寄せられて衝突することで、キーパ電極自体がスパッタされることがあった。このようなスパッタ現象のため、ニュートラライザを高い設定電子電流値で長期間使用すると、キーパ電極の劣化速度が上昇してニュートラライザの製品寿命が短くなるという不都合があった。
【0011】
本発明の目的は、引き出される電子ビームの電子電流値を高くし、かつ長寿命化を図ることが可能なニュートラライザを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、ニュートラライザを用いて高い電子電流で長期間安定して成膜を行うことが可能な成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、本発明のニュートラライザによれば、電子ビームを引き出し可能な開口を一方の端部に有する放電管と、該放電管内にガスを導入するガス導入管と、前記放電管内で前記ガスのプラズマを発生させるプラズマ発生電極と、前記放電管内に配設されたカソード電極と、前記放電管の前記開口側に配設された第一のキーパ電極と、前記カソード電極よりも正電位となるように前記第一のキーパ電極に電圧を印加する引出し電源と、前記放電管の前記開口側に前記第一のキーパ電極と離間して配設された第二のキーパ電極と、該第二のキーパ電極に前記カソード電極よりも正電位となる自己バイアス電圧を印加する自己バイアス手段と、を備えたことにより解決される。
【0013】
このように、本発明のニュートラライザによれば、第一のキーパ電極のほかに第二のキーパ電極が設けられ、この第二のキーパ電極は自己バイアス手段が接続されている。第二のキーパ電極は、この自己バイアス手段の自己バイアス電圧によりカソード電極よりも正電位となっている。このため、この電位差により放電管内に発生したプラズマから電子ビームを引き出すことが可能となる。従って、単一のキーパ電極を備えた従来のニュートラライザと比較して、より電子電流値の高い電子ビームをプラズマから引き出すことが可能となる。
また、第二のキーパ電極に印加されている自己バイアス電圧は、プラズマから引き出される電子ビームからの電子電流の流れやすさによって変化する。すなわち、電子電流が流れやすいときは自己バイアス電圧が高いが、電子電流が流れにくいときは自己バイアス電圧が低い。自己バイアス電圧が低い場合には、イオンビームなどの正イオンが衝突しにくいため、スパッタされにくい。このため、引出し電源から定常的に電圧を印加している従来のニュートラライザと比較して、本発明のニュートラライザはスパッタによる電極の劣化を低減できる。従って、ニュートラライザを長寿命化することが可能となる。
【0014】
また、前記自己バイアス手段は、一方の端子が前記第二のキーパ電極に接続され、他方の端子がアースに接続されたコンデンサであることが好ましい。
このように、本発明のニュートラライザは、コンデンサを介して第二のキーパ電極をアースに接続する構成を備えている。このため、コンデンサの電圧降下により第二のキーパ電極には自己バイアス電圧が印加されている。
すなわち、コンデンサをアースに接続するという簡単な構成により、第二のキーパ電極に自己バイアス電圧を印加することが可能になる。これにより電子電流値の高い電子ビームを引き出すことが可能となると共に、ニュートラライザの長寿命化を図ることが可能となる。
【0015】
また、前記コンデンサは、容量を変更可能に構成されていることが好適である。
この場合、前記コンデンサは、可変容量コンデンサからなることが好ましい。
あるいは、前記コンデンサは、容量の異なる複数のコンデンサと、該複数のコンデンサのいずれかを前記第二のキーパ電極に接続させるスイッチと、からなることが好ましい。
【0016】
このように、コンデンサは容量を変更可能に構成されている。コンデンサには、充電されるまで電流を流さないこと、およびコンデンサの充電時間はコンデンサの容量に応じて異なるという特性がある。従って、ニュートラライザの作動中にコンデンサの容量を変更することで、ニュートラライザから引き出される電子ビームの電子電流値を即座に変更することが可能となる。
【0017】
また、上記課題は、本発明の成膜装置によれば、内部を真空に維持可能な真空チャンバと、該真空チャンバ内に配設され基体を保持可能な基体保持手段と、前記基体に向けてイオンビームを照射するイオン銃と、プラズマ中から電子ビームを引き出して前記基体に照射するニュートラライザと、を備えた成膜装置であって、前記ニュートラライザは、請求項1ないし5のいずれか1つに記載のニュートラライザであることにより解決される。
【0018】
本発明の成膜装置は、第一のキーパ電極のほかに第二のキーパ電極が設けられ、この第二のキーパ電極は自己バイアス手段が接続されている。上述したように、単一のキーパ電極を備えた従来のニュートラライザと比較して、より電子電流値の高い電子ビームを引き出すことが可能となると共に、ニュートラライザの長寿命化を図ることが可能となる。
このように、電子電流値の高い電子ビームを引き出すことが可能であるため、イオン銃からのイオンの照射量を増加して、成膜レートを向上させることができる。また、電子電流値の高い電子ビームを引き出すことが可能であるため、電子ビームの照射不足により基板に異常放電が発生することを防止できる。さらに、ニュートラライザの寿命が長いため、成膜中にニュートラライザの交換を行う頻度が低下し、製品製造にかかる時間を低減できる。
すなわち、このようなニュートラライザを備えた成膜装置では、従来のニュートラライザを用いた場合と比較して、異常放電の発生を防止しながら高い成膜レートで成膜を行うことができる。このため、製品製造のタクトタイムを向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のニュートラライザは、第一のキーパ電極のほかに、第二のキーパ電極にカソード電極よりも正電位となる自己バイアス電圧を印加する自己バイアス手段を備えている。このため、第一のキーパ電極のみならず、第二のキーパ電極によってもプラズマから電子ビームを引き出すことができる。また、第二のキーパ電極の自己バイアス電圧は、電子電流値により変化する。そして、自己バイアス電圧が低い場合には、正イオンが衝突しにくくスパッタされにくい。
従って、単一のキーパ電極を備えた従来のニュートラライザと比較して、より電子電流値の高い電子ビームをプラズマから引き出すことが可能となると共に、ニュートラライザの長寿命化を図ることが可能となる。
また、本発明のニュートラライザを備えた成膜装置では、電子電流値の高い電子ビームを引き出すことが可能となると共に、ニュートラライザの長寿命化を図ることが可能となる。このため、電子ビームの照射不足による異常放電の発生を防止しつつ、イオンビームの照射量を増加させて成膜レートを向上させることができる。また、ニュートラライザの交換頻度が減少し、製品製造にかかる時間を低減できる。従って、製品製造のタクトタイムを向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の第一の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0021】
図1〜図3は本発明の第一の実施形態に係るニュートラライザおよびこれを備えた成膜装置の説明図であり、図1は第一の実施形態に係るニュートラライザの電気的配線を示す説明図、図2は第一の実施形態に係るニュートラライザの縦断面形状を示す説明図、図3は第一の実施形態のニュートラライザをイオンアシスト蒸着装置に用いた例を示す説明図である。
【0022】
図1および図2に示すように、本実施形態のニュートラライザ1は、ベース2と、ガス導入管3と、放電管4と、高周波誘導コイル5と、カソード電極6と、第一のキーパ電極7と、第二のキーパ電極8と、トリガ電極9と、引出し電源13と、コンデンサ16と、を主要な構成要素として備えている。
【0023】
ベース2は、放電管4、高周波誘導コイル5、カソード電極6、トリガ電極9を収容するための容器である。ベース2は、ステンレススチール製の略円筒体であり、一方の端面にはガスを導入するためのガス導入管3がベース2の内部に貫通した状態で接続されている。また、もう一方の端面の中央部には、ベース内部から引き出された電子ビームを通過させるための円形の開口2aが形成されている。図2に示すように、開口2aは、ニュートラライザ1の外方(図1では上側)へ向けて拡径したテーパ状に形成されている。図1に示すように、ベース2の外周面にはアース線が接続されており、これにより、ベース2はアース電位に設定されている。このため、後述するカソード電極6の内部で発生したプラズマから電子ビームを引き出すことが可能となる。すなわち、ベース2は、アノード電極としての機能を有している。この開口2aの直径は、引き出される電子ビームの電子電流値に応じて、1〜50φ(すなわち、1〜50mm)の間で任意に決定することができる。特に、5〜20mmの間が好ましい。
【0024】
放電管4は、内部にプラズマを発生させるための円筒状の容器である。放電管4は、耐スパッタ性を有するとともに高周波電界を透過可能な絶縁材料で形成されている。このような絶縁材料としては、例えばアルミナ(Al)、石英(SiO)、窒化ケイ素(Si)、窒化ホウ素(BN)などが挙げられる。
放電管4の一方の端面には、ガス導入管3が貫通した状態で接続されている。また、放電管4のもう一方の端面の中央部には、ベース内部から引き出された電子ビームを通過させるための円形の開口4aが形成されている。
【0025】
高周波誘導コイル5は、高周波電波の放射器であり、放電管4の内部にプラズマを発生させるための手段である。高周波誘導コイル5は、放電管4の長手方向と同軸になるように放電管4の側面外周にらせん状に巻回されている。図1に示すように、高周波誘導コイル5は高周波電源11に接続されている。この高周波電源11は、高周波電流を高周波誘導コイル5に流すための電源である。高周波誘導コイル5と高周波電源11の間にはマッチングボックス12が設けられている。マッチングボックス12は、高周波誘導コイル5に流れる電流値を調整するための電流調整手段である。高周波電源11からの電流は、マッチングボックス12で電流値が調整されて高周波誘導コイル5に流れる。
【0026】
カソード電極6は、後述する第一のキーパ電極7との間の電位差によりプラズマから電子ビームを引き出すための電極である。カソード電極6は、一端が開放された断面形状がコ字状の円筒状部材であり、側面には複数のスリットが形成されている。カソード電極6は、放電管4の内部に収容されており、その開放端と逆の端面にはガス導入管3が貫通した状態で接続されている。
【0027】
ガス導入管3は、絶縁材料で構成された管状部材であり、一方の端部は前述したようにカソード電極6の内部に挿通されている。また、他方の端部には、図示しないガスボンベが接続されている。カソード電極6の内部には、このガス導入管3を介してガスボンベからガスが導入される。カソード電極6の内部に導入されるガスとしては、アルゴンやヘリウムなどの希ガスが挙げられる。カソード電極6の内部にガス導入管3からガスが導入された状態で、高周波誘導コイル5に高周波電流が流れることで、高周波誘導コイル5に誘導起電力が生じ、誘導結合方式の高周波放電によって放電管4の内部にプラズマが発生する。
【0028】
トリガ電極9は、カソード電極6の内部で高電圧を印加してプラズマを発生させる手段である。図1に示すように、トリガ電極9はトリガ電源17と電気的に接続されている。トリガ電源17は、トリガ電極9に500〜2000Vの矩形波または正弦波からなる高電圧を定期的に印加する電源である。トリガ電極9から印加される電圧を導入ガスに対して印加することで、導入ガスに初期放電を起こさせてプラズマを発生させる。
なお、このトリガ電極9とトリガ電源17は、初期放電を発生させることでより確実にプラズマを発生させるための手段であるが、本発明には必ずしも必要というわけではない。
【0029】
第一のキーパ電極7は、上述したカソード電極6との電位差により、放電管4の内部に発生したプラズマから電子ビームを引き出すための電極である。第一のキーパ電極7は、導電性材料で形成された円板状部材であり、その中央部には電子ビームを引き出して外部へ放出させるための電子ビーム放出孔7aが穿設されている。第一のキーパ電極7の直径は、約20〜100φ(すなわち、20〜100mm)の範囲で任意に設定することができる。
また、電子ビーム放出孔7aの直径は、引き出される電子ビームの電子電流値に応じて、1〜50φ(すなわち、1〜50mm)の間で任意に決定することができる。特に、5〜20mmの間が好ましい。図2に示すように、電子ビーム放出孔7aは、ニュートラライザ1の外方へ向けて拡径したテーパ状に形成されている。
第一のキーパ電極7の材料としては、例えばステンレススチール(SUS)、チタン(Ti)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、カーボン(C)などが挙げられる。このうち特に、耐スパッタ性の高いステンレススチール(SUS),タングステン(W)、モリブデン(Mo)などが好適である。
第一のキーパ電極7は、ベース2の開口2a側であって、かつベース2の外部に設けられている。そして、ベース2の開口2aと第一のキーパ電極7の電子ビーム放出孔7aが同軸上に並ぶように配置されている。
【0030】
次に、カソード電極6と第一のキーパ電極7との間に電位差を発生させるための引出し電源13について説明する。図1に示すように、本実施形態では、引出し電源13は、主としてキーパ電源14とカソード電源15で構成される。図1では、この引出し電源13を一点鎖線で囲んで示している。
キーパ電源14は、ニュートラライザ1の外部に設けられており、その負端子側には第一のキーパ電極7が接続されている。また、キーパ電源14の正端子側は、アースに接地されている。キーパ電源14は電圧値を変更可能な直流電源であり、10〜50Vの電圧を発生させることができる。このため、第一のキーパ電極7には、約−10〜−50Vの電位を掛けることができる。ここでは、キーパ電源14は、Vkボルト(Vk>0)の電圧を発生させることができるものとする。この場合、図1に示すように、第一のキーパ電極7に−Vkボルトの電位(図中では、第一のキーパ電位)を発生させることができる。
カソード電源15も同様に、ニュートラライザ1の外部に設けられている。カソード電源15の負端子側は、カソード電極6と電気的に接続されている。また、カソード電源15の正端子側は、第一のキーパ電極7とキーパ電源14を結ぶ配線に接続されている。カソード電源15もキーパ電源14と同様に電圧値を変更可能な直流電源であり、10〜50Vの電圧を発生させることができる。カソード電極6には、カソード電源15とキーパ電源14が直列に接続されているため、カソード電極6には−20〜−100Vの電位を掛けることができる。ここでは、カソード電源15は、Vcボルト(Vc>0)の電圧を印加することができるものとする。この場合、図1に示すように、カソード電極6には、−Vk−Vcボルトの電位(図中では、カソード電位)を発生させることができる。
【0031】
このような回路構成となっているため、キーパ電源14およびカソード電源15から電圧が印加されると、第一のキーパ電極7には−Vkボルトの電位が発生し、カソード電極6には、−Vk−Vcボルトの電位が印加される。すなわち、第一のキーパ電極7とカソード電極6との間には固定バイアスがかかっており、第一のキーパ電極7はカソード電極6よりもVcボルトほど正電位となっている。この電位差により、カソード電極6の内部で発生したプラズマから電子が引き寄せられ、電子ビームとして放出される。
【0032】
第一のキーパ電極7とキーパ電源14を接続する配線のうち、カソード電源15との接点よりも第一のキーパ電極7寄りには、電流計A1が設けられている。この電流計A1は、キーパ電源14から第一のキーパ電極7に入力される電流値を測定するための装置である。また、第一のキーパ電極7−キーパ電源14間の配線との接点とカソード電源15の正端子との間にも電流計A2が設けられている。この電流計A2は、キーパ電源14とカソード電源15の間に流れる電流値を測定するための装置である。さらに、キーパ電源14の正端子側とアースとの間にも電流計A3が設けられている。この電流計A3は、キーパ電源14とアースとの間の電流値を測定するための装置である。
成膜の過程でこれらの電流計A1〜A3の電流値を観測することで、カソード電極6と第一のキーパ電極7の間に安定した引き出し電圧が印加されているかを判断することができる。
【0033】
次に、本発明における特徴的な構成要素である第二のキーパ電極8およびコンデンサ16について説明する。
第二のキーパ電極8は、放電管4の開口4a側であって、かつ第一のキーパ電極7よりもカソード電極6と離れた位置に配設されている。この第二のキーパ電極8は、第一のキーパ電極7と同様に導電性材料で形成された円板状部材であり、その中央部には電子ビームを外部へ放出させるための電子ビーム放出孔8aが穿設されている。この電子ビーム放出孔8aは、引き出される電子ビームの電子電流値に応じて、1〜50φ(すなわち、1〜50mm)の間で任意に決定することができる。特に、5〜20mmの間が好ましい。図2に示すように、電子ビーム放出孔8aは、ニュートラライザ1の外方へ向けて拡径したテーパ状に形成されている。
第二のキーパ電極8も第一のキーパ電極7と同様に、導電性を有する金属材料で形成されることが好ましい。このような材料の例としては、ステンレススチール(SUS)、チタン(Ti)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、カーボン(C)などが挙げられる。このうち特に、耐スパッタ性の高いステンレススチール(SUS),タングステン(W)、モリブデン(Mo)などが好適である。
【0034】
図2に示すように、ベース2の開口2a側には、キーパシールド19が冠装されている。第一のキーパ電極7と第二のキーパ電極8は、キーパシールド19とベース2の端面との間に収納されている。
ベース2と第一のキーパ電極7との間、第一のキーパ電極7と第二のキーパ電極8、および第二のキーパ電極8とキーパシールド19との間には、いずれも碍子などの絶縁部材で形成されたスペーサ18が配置されている。これにより、ベース2と第一のキーパ電極7の間、第一のキーパ電極7と第二のキーパ電極8の間、および第二のキーパ電極8とキーパシールド19の間での絶縁性がそれぞれ維持される。第一のキーパ電極7と第二のキーパ電極8の間の距離は、0.1〜10mmの間で任意に設定することができる。特に、0.5〜3mmの間が好ましい。
【0035】
図1に示すように、第二のキーパ電極8は、コンデンサ16の一方の端子に接続されている。また、コンデンサ16の他方の端子はアースに接地されている。コンデンサ16とアースの間には、電流計A4が設けられている。
コンデンサ16の種類としては、アルミニウム電解チップコンデンサ、固定タンタルチップコンデンサ、セラミックコンデンサ、電気二重層コンデンサ、マイカコンデンサなどの公知のコンデンサを使用することができる。
また、コンデンサ16の容量としては、50pF〜10μF程度の間で任意に設定することができる。
【0036】
コンデンサ16は所定の容量の電荷を蓄積する素子である。このコンデンサ16は、第二のキーパ電極8に自己バイアス電圧を印加する役割を備えている。すなわち、コンデンサ16は本発明の自己バイアス手段に相当する。このコンデンサ16の一方の端子は第二のキーパ電極8に接続されており、他方の端子は接地されている。また、第二のキーパ電極8は、ベース2などの他の部材とは接続されておらず、電気的にフローティングした状態になっている。従って、放電管4の内部のプラズマから引き出された電子電流の一部は、第二のキーパ電極8を通じてコンデンサ16内に流れてこれを充電する。この充電時間は、コンデンサ16の容量に応じて異なる。例えば容量の大きいコンデンサの場合は、充電時間が長くなるが、容量の小さいコンデンサの場合は、充電時間が短い。
【0037】
このように、第二のキーパ電極8には、放電管4の内部のプラズマから引き出された電子電流が流れることで、コンデンサ16の電圧降下による自己バイアス電圧が掛かっている。この自己バイアス電圧は、引き出される電子ビームの電子電流値に応じて変動するが、通常の成膜条件ではおおむね0〜100Vである。この第二のキーパ電極8に印加される自己バイアス電圧をVmボルトとする。
この第二のキーパ電極8は、カソード電極6や第一のキーパ電極7よりも高い電位となっている。このため、放電管4の内部に発生したプラズマ中の電子がカソード電極6と第二のキーパ電極8との間の電位差、および第一のキーパ電極7と第二のキーパ電極8との間の電位差により引き出され、電子ビーム放出孔8aを通じてニュートラライザ1の外部に放出される。
【0038】
このように、本発明のニュートラライザ1は、第一のキーパ電極7に加えて、自己バイアス電圧Vmが印加された第二のキーパ電極8を備えた点を特徴としている。すなわち、従来のような単一のキーパ電極により電子ビームを引き出すニュートラライザと比較して、本発明のニュートラライザ1は第一のキーパ電極7のほかに第二のキーパ電極8を備えることで、単一のキーパ電極を備えた場合に引き出される電子電流よりも、より電子電流値の高い電子ビームを引き出すことが可能となる。
従って、本発明のニュートラライザ1をイオンアシスト蒸着装置などに用いた場合には、基板に照射される電子ビームの総電子電流値を増加させることが可能となり、基板に帯電した正電荷の中和速度を増加させることができる。このため、成膜レートが上昇して、タクトタイムの向上を図ることが可能となる。
【0039】
ニュートラライザはイオンアシスト蒸着装置などの成膜装置で使用されることが多い。イオンアシスト蒸着装置では、ニュートラライザの近傍にイオン銃や電子銃が配置されているため、従来のニュートラライザは、イオン銃からの正イオンでキーパ電極がスパッタされて損傷したり、電子銃から放出される反射電子によりニュートラライザから引き出される電子ビームの電子電流値が低下したりするといった不都合があった。
【0040】
しかしながら、従来のニュートラライザでは、常に一定の電圧がキーパ電極に印加されていたため、正イオンが常時衝突する。このため、キーパ電極に電圧を印加している間は、正イオンの衝突により常にキーパ電極がスパッタされる状態となっていた。このため、キーパ電極の損傷速度が大きく、ニュートラライザの長寿命化を図ることが困難であった。
【0041】
一方、本発明のニュートラライザ1は、第二のキーパ電極8がコンデンサ16を介して接地されているため、引き出される電子ビームの電子電流値に応じて第二のキーパ電極8の電位が変化する。すなわち、コンデンサ16がほとんど充電されておらず電子電流が流れやすい場合は、コンデンサ16による電圧降下が大きいため、第二のキーパ電極8に印加される自己バイアス電圧の値が大きくなる。すなわち、第二のキーパ電極8の電位はプラスに大きくシフトし、正のイオンの衝突頻度が少なくなる。
逆に、コンデンサ16が充電されて電子電流がほとんど流れなくなった場合は、コンデンサ16による電圧降下が小さいため、第二のキーパ電極8に印加される自己バイアス電圧はほとんどゼロとなる。図1の回路の場合は、第二のキーパ電極8の電位はアース電位とほぼ等しくなる。この場合、正のイオンによる衝突頻度は増加する。
【0042】
このように、第一のキーパ電極8は、電子電流の流れやすさ(すなわち、充電の度合い)によって電位が変化するため、正のイオンの衝突頻度が変化する。そして、電子電流が流れている間は、コンデンサ16は充放電を繰り返すため、スパッタされやすい状態とスパッタされにくい状態が交互に繰り返されることになる。従って、従来のニュートラライザのように常にスパッタされる場合と比較して、スパッタによるキーパ電極の劣化の速度が減少して、ニュートラライザの長寿命化を図ることが可能となる。
【0043】
さらにまた、本発明のニュートラライザ1は、コンデンサ16を備えているため、電子銃からの反射電子をコンデンサ16にトラップすることができる。このため、反射電子の影響による電子電流値の変化を低減することができる。
【0044】
上記の実施形態では、自己バイアス手段としてコンデンサを用いた例について説明したが、自己バイアス手段としては、例えば抵抗などの他の素子を用いることも可能である。
例えば、図1のコンデンサ16の代わりに、抵抗を用いることで、抵抗の電圧降下により自己バイアス電圧が第二のキーパ電極8に印加される。
このような抵抗としては、公知の抵抗を用いることができる。また、その抵抗値も、25Ω〜20kΩ程度で任意に設定することができる。
なお、自己バイアス手段として抵抗を用いた場合は、電子ビームからの電子電流が流れることにより発熱する。このため、高い電子電流を流し続けると、焼け切れなどにより抵抗自身が損傷することがある。しかしながら、コンデンサを用いた場合はこのような発熱はほとんど生じない。このため、電子電流値の高い電子ビームを効率よく引き出すことが可能となる。
【0045】
次に、本発明のニュートラライザを備えた成膜装置について説明する。以下の例では、成膜装置としてイオンアシスト蒸着装置に用いた例について説明する。
図3は本実施形態のニュートラライザをイオンアシスト蒸着装置に用いた例を示す説明図である。イオンアシスト蒸着装置20は、内部を真空状態で維持することができる真空チャンバ21と、基板Sを保持するドーム型の基板ドーム22と、この基板ドーム22を回転する回転モータ23と、蒸着物質源を蒸発させて基板Sに向けて放出する蒸発源24と、基板Sに向けてイオンビームを照射するイオン銃25と、ニュートラライザ1と、を主要な構成要素として備えている。
【0046】
真空チャンバ21は、内部で成膜を行う容器である。真空チャンバ21には、図示しない真空ポンプが接続されており、この真空ポンプが真空チャンバ21の内部を排気することで、真空チャンバ21の内部は10−2〜10−5Paの高真空状態となる。
基板ドーム22は、真空チャンバ21の内部に設けられ、基板Sを保持するための部材である。基板ドーム22は、所定の曲率を有するドーム状の部材で構成されており、その内周面に複数の基板Sがビスなどの止着部材により保持されている。
回転モータ23は基板ドーム22を回転するための装置である。回転モータ23は、真空チャンバ21の外部に設けられている。回転モータ23の出力軸は、基板ドーム22の中心に接続されており、回転モータ23の回転出力により基板ドーム22が回転する。
【0047】
蒸発源24は、真空チャンバ21の内部に配設され、基板Sに蒸着物質を付着させるための装置である。蒸発源24は、蒸着物質源を載せるためのくぼみを上部に備えた蒸発ボート26と、蒸着物質源に電子線を照射して蒸発させる電子銃27と、蒸発ボート26から基板Sに向かう蒸着物質を遮断する位置に回転自在に設けられたシャッタ28と、を主たる構成要素として備えている。
蒸発ボート26に蒸着物質の原料となる蒸着物質源を載せた状態で、電子銃27から電子線を蒸着物質源に照射すると、蒸着物質源が加熱されて蒸発する。この状態でシャッタ28を開くと、蒸発ボート26から蒸発する蒸着物質は基板Sに向けて真空チャンバ21の内部を移動して、基板Sの表面に付着する。
【0048】
イオン銃25は正のイオンを基板Sに向けて照射する装置である。イオン銃としては、公知のイオン銃を用いることができる。
蒸発源24から基板Sに向けて移動する蒸着物質は、イオン銃25から照射される正イオンの衝突エネルギーにより、基板Sの表面に高い緻密性でかつ強固に付着する。このとき、基板Sはイオンビームに含まれる正イオンにより正に帯電する。
ニュートラライザ1は、イオンビームの照射中に使用する。このニュートラライザ1から照射される電子ビームにより、正に帯電した基板Sの電荷が中和される。
【0049】
次に、ニュートラライザ1の動作について説明する。
ニュートラライザ1を動作させるために、まず図示しないガスボンベからガス導入管3を通じてアルゴンガスを放電管4の内部に導入する。導入するアルゴンガスの流量は、5〜20sccm程度である。
放電管4の内部が所定のガス圧力に達したら、高周波電源11をオンにして13.56MHzの高周波電流を高周波誘導コイル5に導通させる。この高周波電流により放電管4の内部に誘導電界が生じる。さらに、高周波電源11をオンにすると同時に、トリガ電極9にトリガ電源17から1200V、1秒間隔で矩形波高電圧を連続的に印加して、初期放電を行う。この初期放電を行うことにより、プラズマが発生する。
【0050】
高周波誘導コイル5による誘導電界は、カソード電極6に設けられたスリットを通じてカソード電極6の内部に導入される。この誘導電界に沿ってアルゴンガス中で電離した電子が移動して、他のアルゴン原子と衝突する。衝突されたアルゴン原子は電子とイオンに電離する。電離により生じた電子はさらに他のアルゴン原子と衝突してこれを電離させる。これを繰り返して、放電管4の内部の高密度のプラズマが生成される。
【0051】
放電管4の内部にプラズマが発生した状態で、引出し電源13によりカソード電極6と第一のキーパ電極7との間に電位差を発生させると、プラズマ中の電子が第一のキーパ電極7に向けて引っ張られ、第一のキーパ電極7に形成された電子ビーム放出孔7aから真空チャンバ21の内部に向けて引き出される。
具体的には、引出し電源13を構成するキーパ電源14とカソード電源15にそれぞれVkボルト、Vcボルトの電圧を印加すると、カソード電極6に−Vk−Vcボルト、第一のキーパ電極7に−Vkボルトの電圧が印加され、両電極間にVcボルトの電位差が発生する。
また、第二のキーパ電極8は、コンデンサ16を介してアースに接地されているため、自己バイアス電圧が掛かっている。このため、カソード電極6と第二のキーパ電極8、第一のキーパ電極7と第二のキーパ電極8との間の電位差によっても、プラズマ中の電子が引き寄せられる。引き寄せられた電子は、第二のキーパ電極8に設けられた電子ビーム放出孔8aから電子ビームが引き出される。
【0052】
引き出された電子ビームは、真空チャンバ21の内部で最も電位の高い部材、すなわち、正に帯電した基板Sに向かう軌道に沿って進んで、基板Sへ照射される。基板Sに電子ビームが照射されると、基板Sに蓄積している正電荷と電子ビームの電子とが結合して、正に帯電した基板Sが中和される。
成膜が完了した後は、真空チャンバ21の真空状態を解除して、内部の基板Sを取り出す。
【0053】
上記実施形態では、コンデンサ16の容量は固定されているが、成膜過程でコンデンサ16の容量を変化させて、負荷変動に対して迅速に応答させるようにしてもよい。以下に、この第二の実施形態のニュートラライザについて説明する。
図4は第二の実施形態に係るニュートラライザの電気的配線を示す説明図である。この実施形態のニュートラライザ1は、第一の実施形態とは異なり、容量の異なる複数のコンデンサ16a〜16cが並列に設けられており、スイッチ30によりコンデンサを切り換えることができる点を特徴としている。
【0054】
このように、容量の異なるコンデンサを切り換えるようにすることで、以下のような利点がある。
ニュートラライザ1は、上述したように、イオン銃などのイオンビーム照射装置により正に帯電した基板を中和する目的で使用されることが多い。従って、安定して中和処理を行うためには、イオン銃から放出される正イオンの量と釣り合った量の電子を基板に照射する必要がある。
しかしながら、イオンアシスト蒸着装置などでは、成膜が進むにつれて蒸着物質がイオン銃の内部に付着するなどの原因により、イオン銃から放出されるイオンビームの量が急激に減少することがある。このような場合に、ニュートラライザ1から引き出される電子ビームの電子電流値を即座に減少させなければ、基板全体が電子過剰な状態となり、負の電荷を帯びることがある。
このような電子過剰状態を回避するために、イオンビームの供給量が変動した場合に、その変動に合わせてニュートラライザ1から引き出される電子電流値を迅速に減少させる必要がある。
【0055】
従来のニュートラライザでは、このような変動に対応するため、高周波電源から高周波誘導コイルに印加される高周波電圧を変更して、プラズマの発生量を低減させたり、引出し電源13により印加されるカソード電極とキーパ電極との間の電位差を減少させることで、引き出される電子電流値を減少させることが行われている。しかしながら、いずれの方法においても、引き出しされる電子電流値が変化するまでにはある程度の時間を要するため、ニュートラライザから基板に供給される電子電流が一時的に過剰となることがあった。
【0056】
このような場合に、本実施形態のように容量の異なる複数のコンデンサ16a〜16cを設けて、負荷変動があった場合にこれを切り換えることで、変動に対して迅速に対応することが可能となる。ここで、コンデンサの容量を、16a>16b>16cとする。
容量の大きいコンデンサは電子電流の充放電時間が長く、逆に容量の小さいコンデンサは電子電流の充放電時間が短い。
プラズマから引き出される電子電流の一部は第二のキーパ電極8を介してコンデンサに流れ込み、これを充電する。この充電の間、ニュートラライザ1の外部へ引き出される電子電流の値は減少する。すなわち、この充電時間の分だけニュートラライザ1の動作を遅延させることができる。この充電時間は、容量の大きいコンデンサほど長く、容量の小さいコンデンサほど短い。
【0057】
従って、例えば急激な負荷変動でイオンビームの照射量が減少した場合に、容量の大きなコンデンサに変更する。具体的には、第二のキーパ電極8にコンデンサ16bを接続した状態で、急激な負荷変動により引き出される電子ビームの電子電流値を低減させたい場合は、より容量の大きなコンデンサ16aを接続することにより、ニュートラライザ1の動作の遅延時間を長くする。これにより、基板に供給される電子電流値が急激に減少することで、電子過剰な状態となることを防止することができる。
逆に、負荷変動が小さく安定動作している状態では、容量の小さいコンデンサ16cを接続することにより、ニュートラライザ1の動作遅延時間を短くして、安定的に電子電流を引き出すことが可能となる。
【0058】
スイッチ30によるコンデンサ16a〜16cの切り替えは、イオンアシスト蒸着装置を操作するオペレータが負荷変動を観察して、所定の変動が発生した場合に手動で切り替えてもよいが、コンピュータや自動切替回路などを用いて自動的に切り替えてもよい。
この場合、負荷変動を観察する方法としては、イオン銃からのイオンの量を測定するプローブを基板近傍に設けるなど、公知の手法で測定することができる。そして、例えば、イオン銃からのイオンの量が平常値の90%以下に低下した時に、スイッチ30を切り替えてコンデンサ16bから16aに切り替える。このようなフィードバック制御を行うことで、負荷変動に対して迅速に応答することが可能となると共に、成膜に要する労力を軽減することが可能となる。
【0059】
上記第二の実施形態では、複数のコンデンサ16a〜16cを並列に接続して、スイッチ30で接続を切り替えることによりコンデンサの容量を変更していたが、例えば図5に示すように、可変容量コンデンサ16dにより容量を変更してもよい。図5は第三の実施形態に係るニュートラライザの電気的配線を示す説明図である。
可変容量コンデンサ16dの種類としては、バリアブルコンデンサを用いることができる。バリアブルコンデンサの種類としては、ポリバリコンやエアバリコンなどの公知のものを使用することができる。
【0060】
また、上記第二の実施形態では、複数のコンデンサ16a〜16cを予め並列に設けてスイッチ30によりコンデンサを切り替えるようにしているが、単一のコンデンサをクリップなどで接続しておいて、負荷変動に応じて容量の異なる他のコンデンサをオペレータが手作業で付け替えるようにしてもよい。
【0061】
なお、上記各実施形態では、高周波電源11と高周波誘導コイル5によりプラズマを発生させて、プラズマ中の電子を電子ビームとして引き出す方式を例として示しているが、電子を発生させる手段としては、このような高周波誘導方式に限定されない。例えば、コイル状の電極を用いて熱電子を発生させる熱電子放出型であってもよい。
【0062】
また、上記各実施形態では、自己バイアス電圧が印加される電極として、単一のキーパ電極を備える構成としているが、電子ビームの軌道に沿って2以上のキーパ電極を配設し、それぞれに自己バイアス電圧を印加する構成としても良い。このような複数のキーパ電極を備えることにより、引き出される電子ビームの電子電流値が更に向上する。
この場合、電子ビームの照射軌道に沿って各キーパ電極に電位勾配を生じさせるように自己バイアス電圧を印加することが好ましい。このような電位勾配を設けることにより、対象物に向けて電子ビームがスムーズに照射される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第一の実施形態に係るニュートラライザの電気的配線を示す説明図である。
【図2】第一の実施形態に係るニュートラライザの縦断面形状を示す説明図である。
【図3】第一の実施形態のニュートラライザをイオンアシスト蒸着装置に用いた例を示す説明図である。
【図4】第二の実施形態に係るニュートラライザの電気的配線を示す説明図である。
【図5】第三の実施形態に係るニュートラライザの電気的配線を示す説明図である。
【図6】従来のニュートラライザの電気的配線を示す説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1 ニュートラライザ
2 ベース
2a 開口
3 ガス導入管
4 放電管
4a 開口
5 高周波誘導コイル
6 カソード電極
7 第一のキーパ電極
7a 電子ビーム放出孔
8 第二のキーパ電極
8a 電子ビーム放出孔
9 トリガ電極
11 高周波電源
12 マッチングボックス
13 引出し電極
14 キーパ電源
15 カソード電源
16 コンデンサ(自己バイアス手段)
16a〜16c コンデンサ(自己バイアス手段)
16d 可変容量コンデンサ(自己バイアス手段)
17 トリガ電源
18 スペーサ
19 キーパシールド
20 イオンアシスト蒸着装置
21 真空チャンバ
22 基板ドーム
23 回転モータ
24 蒸発源
25 イオン銃
26 蒸発ボート
27 電子銃
28 シャッタ
30 スイッチ
100 ニュートラライザ
101 電子銃ボディ
102 放電管
103 ガス導入管
104 高周波誘導コイル
105 カソード電極
106 アノード電極(キーパ電極)
106a 電子ビーム放出孔
111 高周波電源
113 引出し電源
A1〜A4 電流計
S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを引き出し可能な開口を一方の端部に有する放電管と、
該放電管内にガスを導入するガス導入管と、
前記放電管内で前記ガスのプラズマを発生させるプラズマ発生電極と、
前記放電管内に配設されたカソード電極と、
前記放電管の前記開口側に配設された第一のキーパ電極と、
前記カソード電極よりも正電位となるように前記第一のキーパ電極に電圧を印加する引出し電源と、
前記放電管の前記開口側に前記第一のキーパ電極と離間して配設された第二のキーパ電極と、
該第二のキーパ電極に前記カソード電極よりも正電位となる自己バイアス電圧を印加する自己バイアス手段と、
を備えたことを特徴とするニュートラライザ。
【請求項2】
前記自己バイアス手段は、一方の端子が前記第二のキーパ電極に接続され、他方の端子がアースに接続されたコンデンサであることを特徴とする請求項1に記載のニュートラライザ。
【請求項3】
前記コンデンサは、容量を変更可能に構成されていることを特徴とする請求項2に記載のニュートラライザ。
【請求項4】
前記コンデンサは、可変容量コンデンサからなることを特徴とする請求項3に記載のニュートラライザ。
【請求項5】
前記コンデンサは、容量の異なる複数のコンデンサと、該複数のコンデンサのいずれかを前記第二のキーパ電極に接続させるスイッチと、からなることを特徴とする請求項3に記載のニュートラライザ。
【請求項6】
内部を真空に維持可能な真空チャンバと、
該真空チャンバ内に配設され基体を保持可能な基体保持手段と、
前記基体に向けてイオンビームを照射するイオン銃と、
プラズマ中から電子ビームを引き出して前記基体に照射するニュートラライザと、を備えた成膜装置であって、
前記ニュートラライザは、請求項1ないし5のいずれか1つに記載のニュートラライザであることを特徴とする成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−242368(P2007−242368A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61558(P2006−61558)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】