説明

ハイブリッド型ショベル

【課題】 エンジンに設けられたスタータモータを用いずに、アイドリングストップ後にエンジンを最始動することを課題とする。
【解決手段】 ハイブリッド型ショベルは、エンジン11により駆動される油圧ポンプ14と、エンジンをアシストする電動発電機12と、電動発電機に電力を供給する蓄電装置120と、アシストモータの駆動を制御する制御部30とを含む。制御部30は、エンジンがアイドリング運転状態となると油圧ポンプ14の駆動を停止し、アイドリング運転状態が解除されると、電動発電機12に蓄電装置120から電力を供給して電動発電機を力行運転することにより、油圧ポンプ14の駆動を再開することで、エンジン11の駆動を再開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動発電機でエンジンをアシストするハイブリッド型ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ハイブリッド型ショベルは、ブーム、アーム、及びバケット等の作業要素を搭載した上部旋回体を備え、上部旋回体を旋回させながらブーム及びアームを駆動し、バケットを目的の作業位置まで移動する。ブーム、アーム、及びバケット等の作業要素は、油圧ポンプで発生した油圧で駆動される。油圧ポンプをエンジンで駆動して油圧を発生し、且つエンジンを電動発電機でアシストするハイブリッド型ショベルが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一般的にハイブリッド型ショベルのエンジンには、自動車のエンジンなどと同様に、エンジン始動用としてスタータモータ(あるいは、セルモータ)が設けられている。このスタータモータに例えば24Vのバッテリから電力を供給して駆動することでエンジンを始動する。スタータモータはエンジン始動のために専用に設けられた小さな電動モータであり、スタータモータ用のバッテリもエンジン始動のための専用のバッテリである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−218003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、ショベルの運転中は、エンジンは常時回転している。ショベルの油圧作業要素を駆動していないときにはメインポンプ(油圧ポンプ)で油圧を発生させる必要がない。しかし、エンジンはアイドリング運転状態で回転し続けるため、エンジンに連結しているメインポンプも回転し続ける。したがって、エンジンのアイドリング運転中は、メインポンプで発生する油圧を出来る限り低くし、且つネガティブコントロール(ネガコン制御と称する)を行なうことでメインポンプから吐出される作動油をそのままタンクに戻している。
【0006】
以上のように、エンジンをアイドリング運転状態にして回転し続けた場合、メインポンプの出力を抑制するが、それでもメインポンプを駆動するためのエネルギはゼロではなくショベルでの作業には使用されない油圧を発生させるために無駄なエネルギが消費される。また、ある程度の時間作業を中断している場合でもエンジンをアイドリング運転状態で駆動し続けることで、無駄な燃料を消費することとなる。
【0007】
そこで、エンジンを長時間アイドリング運転する場合は、エンジンを停止する、いわゆるアイドリングストップを行なうことが好ましい。ところが、ショベルにおいてエンジンを始動する際には、エンジンとともにエンジンに連結しているメインポンプもスタータモータ(セルモータとも称される)で駆動しなければならず、エンジン始動時のスタータモータへの負荷が大きい。通常、エンジンを始動するためにスタータモータに供給する電力の供給源として例えば24Vの蓄電池が用いられるが、比較的容量の小さな蓄電池である。ショベルにおいてアイドリングストップを行なうとエンジンを始動する回数が非常に多く、24V蓄電池ではすぐに蓄積している電力が不足してしまうおそれがある。また、通常は、スタータモータとして短時間定格のモータを使用するため、頻繁にアイドリングストップが発生すると、スタータモータも頻繁に駆動されることとなり、スタータモータが過熱するおそれもある。
【0008】
そこで、エンジンに設けられている通常のスタータモータを使用しながら、アイドリングストップを行なっても問題を生じないショベルの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、エンジンにより駆動される油圧ポンプと、該エンジンをアシストする電動発電機と、該電動発電機に電力を供給する蓄電装置と、前記アシストモータの駆動を制御する制御部とを有し、前記制御部は、前記エンジンがアイドリング運転状態となると前記油圧ポンプの駆動を停止し、アイドリング運転状態が解除されたことを検出すると、前記電動発電機に前記蓄電装置から電力を供給して前記電動発電機を力行運転することにより、前記油圧ポンプの駆動を再開することで、前記エンジンの駆動を再開することを特徴とするハイブリッド型ショベルが提供される。
【0010】
上述のハイブリッド型ショベルにおいて、前記制御部は、アイドリング運転状態が解除されたことを検出すると、前記エンジンの回転数が所定の回転数となるまで前記電動発電機を駆動すると共に、前記油圧ポンプの傾転角を最小値に設定して前記油圧ポンプの負荷を低減することが好ましい。また、前記制御部は、前記蓄電装置の蓄電量が所定値より小さい場合には、前記電動発電機の力行運転を禁止することとしてもよい。さらに、前記制御部は、前記蓄電装置の蓄電量が所定値より小さい場合は、前記エンジンに設けられたスタータモータにより前記エンジンを始動させ、前記エンジンの出力で前記油圧ポンプを駆動することとしてもよい。
【0011】
また、上述のハイブリッド型ショベルにおいて、油圧回路に操作油圧を送るためのパイロットポンプを更に有し、前記電動発電機の駆動力で前記パイロットポンプの回転を再開させることとしてもよい。前記制御部は、操作レバー装置からの操作信号に基づいてアイドリング運転状態が解除されたことを検出することとしてもよい。前記ハイブリッド型ショベルの運転を開始する際には、前記電動発電機とは別個に設けられたスタータモータを用いて前記エンジンを始動することとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
上述の発明によれば、エンジンアシスト用の電動発電機を駆動して油圧ポンプを駆動することで、油圧ポンプと連動するエンジンを始動させることができる。これにより、エンジンに設けられたスタータモータを使用せずに、エンジンを始動することができので、アイドリングストップが頻繁に行なわれても、エンジンに設けられたスタータモータが過負荷になることは無い。また、アイドリングストップを行なうので、エンジンの燃料消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ハイブリッド型ショベルの側面図である。
【図2】一実施形態によるハイブリッド型ショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。
【図3】蓄電系の回路図である。
【図4】アイドリングストップ後のエンジン再起動時の制御要素の変化の一例を示すタイムチャートである。
【図5】アイドリングストップ後のエンジン再起動時の制御要素の変化の他の例を示すタイムチャートである。
【図6】油圧旋回式のショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は本発明が適用されるショベルの一例であるハイブリッド型ショベルの側面図である。
【0016】
図1に示すハイブリッド型ショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端に、アーム5が取り付けられ、アーム5の先端にバケット6が取り付けられている。ブーム4,アーム5及びバケット6は、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。上部旋回体3には、キャビン10が設けられ、且つエンジン等の動力源が搭載される。
【0017】
図2は、図1に示すハイブリッド型ショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。図2において、機械的動力系は二重線、高圧油圧ラインは実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御系は実線でそれぞれ示されている。
【0018】
機械式駆動部としてのエンジン11と、アシスト駆動部としての電動発電機12は、変速機13の2つの入力軸にそれぞれ接続されている。変速機13の出力軸には、油圧ポンプとしてメインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されている。メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。油圧ポンプ14は可変容量式油圧ポンプであり、斜板の角度(傾転角)を制御することでピストンのストローク長を調整し、吐出流量を制御することができる。
【0019】
エンジン11にはスタータモータ11a及びスタータモータ始動用のバッテリ11bが設けられている。バッテリ11bは、一般的に自動車に使用される蓄電池であり、例えば24Vの鉛蓄電池が用いられる。ショベルを起動するときには、バッテリ11bからスタータモータ11aに電力を供給してスタータモータ11aを駆動し、この駆動力でエンジン11を強制的に回転させて始動する。
【0020】
コントロールバルブ17は、ハイブリッド型ショベルにおける油圧系の制御を行う制御装置である。下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9は、高圧油圧ラインを介してコントロールバルブ17に接続される。
【0021】
電動発電機12には、インバータ18Aを介して、蓄電器を含む蓄電系120が接続される。また、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続される。操作装置26は、レバー26A、レバー26B、ペダル26Cを含む。レバー26A、レバー26B、及びペダル26Cは、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及び圧力センサ29にそれぞれ接続される。圧力センサ29は、電気系の駆動制御を行うコントローラ30に接続されている。
【0022】
図2に示すハイブリッド型ショベルは旋回機構を電動にしたもので、旋回機構2を駆動するために旋回用電動機21が設けられている。電動作業要素としての旋回用電動機21は、インバータ20を介して蓄電系120に接続されている。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回変速機24が接続される。旋回用電動機21と、インバータ20と、レゾルバ22と、メカニカルブレーキ23と、旋回変速機24とで負荷駆動系が構成される。
【0023】
コントローラ30は、ハイブリッド型ショベルの駆動制御を行う主制御部としての制御装置である。コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)及び内部メモリを含む演算処理装置で構成され、CPUが内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムを実行することにより実現される装置である。
【0024】
コントローラ30は、圧力センサ29から供給される信号を速度指令に変換し、旋回用電動機21の駆動制御を行う。圧力センサ29から供給される信号は、旋回機構2を旋回させるために操作装置26を操作した場合の操作量を表す信号に相当する。
【0025】
コントローラ30は、電動発電機12の運転制御(電動(アシスト)運転又は発電運転の切り替え)を行うとともに、昇降圧制御部としての昇降圧コンバータ100(図3参照)を駆動制御することによるキャパシタ19の充放電制御を行う。コントローラ30は、キャパシタ19の充電状態、電動発電機12の運転状態(電動(アシスト)運転又は発電運転)、及び旋回用電動機21の運転状態(力行運転又は回生運転)に基づいて、昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御を行い、これによりキャパシタ19の充放電制御を行う。また、コントローラ30は、蓄電器電圧検出部によって検出される蓄電器電圧値に基づいて、蓄電器(キャパシタ)の充電率SOCを算出する。
【0026】
図3は、蓄電系120の回路図である。蓄電系120は、蓄電器としてのキャパシタ19と、昇降圧コンバータとDCバス110とを含む。DCバス110は、キャパシタ19、電動発電機12、及び旋回用電動機21の間での電力の授受を制御する。キャパシタ19には、キャパシタ 電圧値を検出するためのキャパシタ電圧検出部112と、キャパシタ電流値を検出するためのキャパシタ電流検出部113が設けられている。キャパシタ電圧検出部112とキャパシタ電流検出部113によって検出されるキャパシタ電圧値とキャパシタ電流値は、コントローラ30に供給される。
【0027】
昇降圧コンバータ100は、電動発電機12、及び旋回用電動機21の運転状態に応じて、DCバス電圧値を一定の範囲内に収まるように昇圧動作と降圧動作を切り替える制御を行う。DCバス110は、インバータ18A、及び20と昇降圧コンバータ100との間に配設されており、キャパシタ19、電動発電機12、発電機300、及び旋回用電動機21の間での電力の授受を行う。
【0028】
昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御は、DCバス電圧検出部111によって検出されるDCバス電圧値、キャパシタ電圧検出部112によって検出されるキャパシタ電圧値、及びキャパシタ電流検出部113によって検出されるキャパシタ電流値に基づいて行われる。
【0029】
以上のような構成において、アシストモータである電動発電機12が発電した電力は、インバータ18Aを介して蓄電系120のDCバス110に供給され、昇降圧コンバータ100を介してキャパシタ19に供給される。旋回用電動機21が回生運転して生成した回生電力は、インバータ20を介して蓄電系120のDCバス110に供給され、昇降圧コンバータ100を介してキャパシタ19に供給される。
【0030】
昇降圧コンバータ100は、リアクトル101、昇圧用IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)102A、降圧用IGBT102B、キャパシタ19を接続するための電源接続端子104、インバータ105を接続するための出力端子106、及び、一対の出力端子106に並列に挿入される平滑用のコンデンサ107を備える。昇降圧コンバータ100の出力端子106とインバータ18A,20との間は、DCバス110によって接続される。
【0031】
リアクトル101の一端は昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bの中間点に接続され、他端は電源接続端子104に接続される。リアクトル101は、昇圧用IGBT102Aのオン/オフに伴って生じる誘導起電力をDCバス110に供給するために設けられている。
【0032】
昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bは、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)をゲート部に組み込んだバイポーラトランジスタで構成され、大電力の高速スイッチングが可能な半導体素子(スイッチング素子)である。昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bは、コントローラ30により、ゲート端子にPWM電圧が印加されることによって駆動される。昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bには、整流素子であるダイオード102a及び102bが並列接続される。
【0033】
キャパシタ19は、昇降圧コンバータ100を介してDCバス110との間で電力の授受が行えるように、充放電可能な蓄電器であればよい。なお、図4には、蓄電器としてキャパシタ19を示すが、キャパシタ19の代わりに、リチウムイオン電池等の充放電可能な二次電池、リチウムイオンキャパシタ、又は、電力の授受が可能なその他の形態の電源を用いてもよい。
【0034】
電源接続端子104及び出力端子106は、キャパシタ19及びインバータ18A,20が接続可能な端子であればよい。一対の電源接続端子104の間には、キャパシタ電圧を検出するキャパシタ電圧検出部112が接続される。一対の出力端子106の間には、DCバス電圧を検出するDCバス電圧検出部111が接続される。
【0035】
キャパシタ電圧検出部112は、キャパシタ19の電圧値Vcapを検出する。DCバス電圧検出部111は、DCバス110の電圧値Vdcを検出する。平滑用のコンデンサ107は、出力端子106の正極端子と負極端子との間に挿入され、DCバス電圧を平滑化するための蓄電素子である。この平滑用のコンデンサ107によって、DCバス110の電圧は予め定められた電圧に維持されている。
【0036】
キャパシタ電流検出部113は、キャパシタ19の正極端子(P端子)側においてキャパシタ19に流れる電流の値を検出する検出手段であり、電流検出用の抵抗器を含む。すなわち、キャパシタ電流検出部113は、キャパシタ19の正極端子に流れる電流値I1を検出する。一方、キャパシタ電流検出部117は、キャパシタの負極端子(N端子)側においてキャパシタ19に流れる電流の値を検出する検出手段であり、電流検出用の抵抗器を含む。すなわち、キャパシタ電流検出部117は、キャパシタ19の負極端子に流れる電流値I2を検出する。
【0037】
昇降圧コンバータ100において、DCバス110を昇圧する際には、昇圧用IGBT102Aのゲート端子にPWM電圧が印加され、降圧用IGBT102Bに並列に接続されたダイオード102bを介して、昇圧用IGBT102Aのオン/オフに伴ってリアクトル101に発生する誘導起電力がDCバス110に供給される。これにより、DCバス110が昇圧される。
【0038】
DCバス110を降圧する際には、降圧用IGBT102Bのゲート端子にPWM電圧が印加され、降圧用IGBT102B、インバータ105を介して供給される回生電力がDCバス110からキャパシタ 19に供給される。これにより、DCバス110に蓄積された電力がキャパシタ19に充電され、DCバス110が降圧される。
【0039】
本実施形態では、キャパシタ19の正極端子を昇降圧コンバータ100の電源接続端子104に接続する電源ライン114に、当該電源ライン114を遮断することのできる遮断器としてリレー130−1,130−2が設けられる。リレー130−1は、電源ライン114へのキャパシタ電圧検出部112の接続点115とキャパシタ19の正極端子の間に配置されている。リレー130−1はコントローラ30からの信号により作動し、キャパシタ19からの電源ライン114を遮断することで、キャパシタ19を昇降圧コンバータ100から切り離すことができる。
【0040】
また、キャパシタ19の負極端子を昇降圧コンバータ100の電源接続端子104に接続する電源ライン117に、当該電源ライン117を遮断することのできる遮断器としてリレー130−2が設けられる。リレー130−2は、電源ライン117へのキャパシタ電圧検出部112の接続点118とキャパシタ19の負極端子の間に配置されている。リレー130−2はコントローラ30からの信号により作動し、キャパシタ19からの電源ライン117を遮断することで、キャパシタ19を昇降圧コンバータ100から切り離すことができる。なお、リレー130−1とリレー130−2を一つのリレーとして正極端子側の電源ライン114と負極端子側の電源ライン117の両方を同時に遮断してキャパシタを切り離すこととしてもよい。
【0041】
なお、実際には、コントローラ30と昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bとの間には、昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bを駆動するPWM信号を生成する駆動部が存在するが、図3では省略する。このような駆動部は、電子回路又は演算処理装置のいずれでも実現することができる。
【0042】
本実施形態では、上述のような構成のハイブリッド型ショベルにおいて、エンジン11をアシストする電動発電機12によりメインポンプ14を駆動することで、変速機13を介してメインポンプ14に連結されたエンジン11を強制的に回転させ、エンジン11を始動する。なお、電動発電機12によるエンジン始動はアイドリングストップ後のエンジン再起動時とし、ショベル全体の運転を開始する際のエンジン始動には、エンジン11に設けられたスタータモータ11aを使用する。
【0043】
エンジン11がアイドリング運転状態であるか否かは、操作レバーの操作の有無を検出することで判定することができる。操作レバーの操作が無いとエンジン11はアイドリング状態となるが、アイドリング状態となってから所定時間が経過すると、コントローラ30はメインポンプ14からの油圧を油圧負荷に供給する必要は無いと判断してエンジン11の運転を停止してアイドリングストップ状態に設定する。
【0044】
アイドリングストップ後のエンジン再起動時の動作について、図4を参照しながら説明する。図4はアイドリングストップ後のエンジン再起動時の制御要素の変化を示すタイムチャートである。図4(a)は操作装置26の操作レバー26Aの操作量の変化を示すグラフであり、図4(b)はエンジン回転数の変化を示すグラフであり、図4(c)はメインポンプ14のトルクの変化を示すグラフであり、メインポンプを駆動させるのに必要なトルクの変化を示している。図4(d)は電動発電機12の出力の変化を示すグラフである。
【0045】
アイドリングストップ状態では、エンジン11は停止状態であり、エンジン11に連結されているメインポンプ14も停止状態にある。通常、メインポンプ14が停止状態にあるときには、メインポンプ14の傾転角は大きな値に設定されている。このため、メインポンプ14を回転させるために必要なトルクτは、大きな値τ2に設定されている。メインポンプ14の停止時にはトルクを大きくしておくことで、メインポンプ14が回転しづらくしている。
【0046】
操作レバー26の操作レバー26Aは、例えばブームを操作するための操作レバーであるが、アイドリングストップ状態を解除するための操作レバーとして予め決めておけば、他の操作レバーや操作ペダルであってもよい。操作レバー26Aには、操作されたことを検出するためのセンサが設けられる。このセンサとして、本実施形態では、操作レバー26Aの傾きを検出する傾きセンサを用いている。
【0047】
アイドリングストップ状態では操作レバー26Aは操作されていないので、操作レバー26Aの傾きセンサからの出力である傾き角θはゼロである。ここで、アイドリングストップ状態からエンジン11を始動してメインポンプを駆動するためには、運転者は操作レバー26Aを操作する。エンジン11を始動してアイドリング運転状態にするだけであれば、操作レバー26の操作量は少なくてよい。
【0048】
アイドリングストップ状態における時刻t1において、エンジン11をアイドリング運転状態にするために運転者が操作レバー26Aを操作すると、時刻t1において操作レバー26Aの傾きセンサからの出力(傾き角θ)は、ゼロからθsに変化する。ここで、操作レバー26Aの傾きには「遊び」があり、傾きがゼロからすぐに操作信号が大きくなるわけではない。操作レバー26Aの傾きがθ2になるまでは、操作レバー26Aが傾いてもレバー操作信号は出力されない。すなわち、操作レバー26Aの傾きがゼロからθ2までの間は不感帯となる。
【0049】
本実施形態では、不感帯以内で操作レバー26Aを操作することで、エンジン11を始動させるように設定している。このため、不感帯の上限値である傾き角θ2より低い傾き角θ1を設定しておき、操作レバーの傾き角がθ1を超えたら、運転者がアイドリングストップ状態を解除する操作を行なったと判定する。
【0050】
図4(a)に示すように、操作レバー26Aの傾き角が時刻t1においてθ1を超えてθsとなると、コントローラ30は、電動発電機12に蓄電系120から電力を供給して電動発電機12を駆動する。これにより、図4(d)に示すように、時刻t1において電動発電機12の出力がゼロから所定の値に上昇する。ここで、運転者はアイドリング運転を開始するために操作レバー26Aを操作しているので、操作レバー26Aの傾き角θsは不感帯の範囲内である(θ1<θs≦θ2)。
【0051】
時刻t1において電動発電機12が駆動されると、変速機13を介して電動発電機12に連結されているメインポンプ14とエンジン11とが駆動される。従って、エンジン11の回転数は時刻t1から上昇し始める。このときメインポンプ14の回転数も同様に上昇し始める。
【0052】
時刻t1を過ぎてメインポンプ14が回転を始めると、図4(c)に示すように、メインポンプ14のトルク値がτ2から最小値τ1まで低減される。アイドリングストップ状態では、トルク値は大きなトルク値τ2に設定されており、メインポンプ14の負荷を大きい状態である。そこで、メインポンプ14の負荷を小さくして電動発電機12により駆動し易くするために、コントローラ30はトルク値が最小値τ1になるようにメインポンプ14を制御する。具体的には、ネガコン圧やパイロットポンプ圧を用いてメインポンプ14の傾転角を最小にすることにより、回転させるために必要なトルクを最小値τ1にする。この制御により、図4(c)に示すように、時刻t1を過ぎてからメインポンプ14のトルク値はτ2からτ1に減少する。
【0053】
時刻t1の直後はトルク値はτ2であるが、この状態でメインポンプ14が駆動されて油圧が発生すると、メインポンプ14の傾転角を変更することができるようになる。すなわち、時刻t1を過ぎてメインポンプ14が回転を始めてある程度の油圧が発生しないと、メインポンプ14の傾斜板を操作して傾転角を小さくすることができない。このため、時刻t1を過ぎてからトルク値がτ2からτ1に減少していくこととなる。トルク値が最小値τ1に低減されることでメインポンプ14による負荷が低減し、電動発電機12の出力でエンジン11の回転数をアイドリング回転数(例えば、1000rpm)まで引き上げることができるようになる。
【0054】
時刻t2においてエンジン11の回転数がアイドリング回転数となると、コントローラ30は電動発電機12の駆動を停止する。すなわち、操作レバー26Aの操作量が不感帯以内の場合は、エンジン11がアイドリング運転状態となったところでエンジン11の再始動処理は終了される。
【0055】
以上のように、操作レバー26Aの操作量が不感帯以内の場合は、アイドリングストップ状態からエンジン11を始動する際に、電動発電機12を力行運転することでエンジン11を強制的に回転させ、エンジン11がアイドリング回転数となったところで電動発電機12の力行運転を停止する。すなわち、アイドリング回転数となるとエンジン11は自発的に回転を維持できるようになり、電動発電機12による駆動は必要なくなるので、エンジン11の回転数がアイドリング回転数となるまで電動発電機12でエンジン11を駆動すればよい。
【0056】
なお、本実施形態では、アイドリングストップ状態からのエンジン11の始動を、電動発電機12を力行運転することで行なっているが、蓄電系120のキャパシタ19の充電率がシステム下限値より低くて放電する余裕が無い場合には、電動発電機12ではなく、通常のスタータモータ11による始動に切替えることが好ましい。すなわち、キャパシタ19の充電率が所定の値より低い場合、コントローラ30は電動発電機12の力行運転を禁止し、その代わりにエンジン11に備えられたスタータモータ11aによる始動に切替える。これにより、キャパシタ19を過放電から保護することができる。
【0057】
次に、アイドリングストップ状態から油圧作業要素を直ちに駆動するときのエンジン再起動時の動作について、図5を参照しながら説明する。図5はアイドリングストップ後のエンジン再起動時の制御要素の変化を示すタイムチャートである。図5(a)は操作装置26の操作レバー26Aの操作量の変化を示すグラフであり、図5(b)はエンジン回転数の変化を示すグラフであり、図5(c)はメインポンプ14のトルクの変化を示すグラフであり、メインポンプを駆動させるのに必要なトルクの変化を示している。図5(d)は電動発電機12の出力の変化を示すグラフである。
【0058】
アイドリングストップ状態では、エンジン11は停止状態であり、エンジン11に連結されているメインポンプ14も停止状態にある。図4に示す例と同様に、メインポンプ14の傾転角は大きな値に設定され、メインポンプ14のトルクτは、大きな値τ2に設定されている。
【0059】
操作レバー26の操作レバー26Aは、例えばブームを操作するための操作レバーであり、ここでは、アイドリングストップ状態を解除して直ちにブームを操作するものとする。アイドリングストップ状態を解除するための操作レバーとして予め決めておけば、他の操作レバーや操作ペダルであってもよい。この場合、例えば、運転者はアイドリングストップ状態を解除するための操作レバー26Aと同時に当該他の操作レバーや操作ペダルを操作することとなる。
【0060】
アイドリングストップ状態では操作レバー26Aは操作されていないので、操作レバー26Aの傾きセンサからの出力である傾き角θはゼロである。ここで、アイドリングストップ状態からエンジン11を始動してメインポンプ14を駆動するためには、運転者は操作レバー26Aを操作する。エンジン11を始動してアイドリング運転状態にするだけであれば操作レバー26の操作量は少なくてよいが、図5に示す例では、直ちにブームを操作するために、運転者は操作レバー26Aのレバー操作量を最大とする。したがって、図5(a)に示すように、時刻t1において、操作レバー26Aの傾き角は最大角θmaxとされる。
【0061】
操作レバー26Aの傾き角が時刻t1においてθ1を超えてθmaxとなると、コントローラ30は、電動発電機12に蓄電系120から電力を供給して電動発電機12を駆動する。これにより、図5(d)に示すように、時刻t1において電動発電機12の出力がゼロから所定の値に上昇する。ここで、運転者は直ちにブームを操作するために操作レバー26Aを操作しているので、操作レバー26Aの傾きは不感帯を超えて最大値θmaxまで引き上げられている(θ1<θ2<θmax)。
【0062】
時刻t1において電動発電機12が駆動されると、変速機13を介して電動発電機12に連結されているメインポンプ14とエンジン11とが駆動される。従って、エンジン11の回転数は時刻t1から上昇し始める。このときメインポンプ14の回転数も同様に上昇し始める。
【0063】
時刻t1を過ぎてメインポンプ14が回転を始めると、図5(c)に示すように、メインポンプ14のトルク値がτ2から最小値τ1まで低減される。時刻t2においてエンジン11の回転数がアイドリング回転数となっても、電動発電機12の駆動は継続される。これにより、エンジン11の回転数はアイドリング回転数を超えてなおも上昇し続ける。エンジン11の回転数がアイドリング回転数以上となると、エンジン11の出力でメインポンプ14を駆動することができるようになる。そこで、コントローラ30はメインポンプ14のトルク値が増大するように制御を行い、図5(c)に示すように、時刻t2を過ぎてからトルク値は最小値τ1から上昇し始め、ブーム4等を動かすための作業負荷が大きくなるにしたがって時刻t3において最大値τ2まで上昇する。
【0064】
時刻t3においてトルク値がτ2となると、コントローラ30は電動発電機12の力行運転を停止する。これにより、図5(d)に示すように電動発電機12の出力はゼロになる。すなわち、エンジン11の回転数が上昇してメインポンプ14を最大トルクτ2で駆動できるようになると、電動発電機12でのアシストは必要無くなるので、時刻t3において電動発電機12の駆動は停止される。このように、エンジン11の回転数がアイドリング回転数を超えても電動発電機12を駆動し続けることで、電動発電機12でエンジン11をアシストし、エンジン11の回転数の上昇を促進する。
【0065】
これにより、エンジン11の回転数は時刻t2以降も速やかに上昇し、時刻t3を過ぎて時刻t4において通常回転数(例えば、1800rpm)まで到達する。したがって、エンジン11がアイドリング運転状態となると同時にメインポンプ14からの油圧をブームシリンダ7に供給することができ、直ちにブームを操作できるようになる。
【0066】
上述の実施形態では旋回機構2が電動式であったが、旋回機構2が電動ではなく油圧駆動の場合がある。図6は図2に示すハイブリッド型ショベルの旋回機構を油圧駆動式とした場合の駆動系の構成を示すブロック図である。図6に示すハイブリッド型ショベルでは、旋回用電動機21の代わりに、旋回油圧モータ2Aがコントロールバルブ17に接続され、旋回機構2は旋回油圧モータ2Aにより駆動される。このような、ハイブリッド型ショベルであっても、上述の実施形態のようにして、エンジン11の暖機運転中のエンジン出力で電動発電機12を発電運転し、得られた電力をキャパシタ19に蓄積しておくことができる。
【符号の説明】
【0067】
1 下部走行体
1A、1B 油圧モータ
2 旋回機構
2A 旋回油圧モータ
3 上部旋回体
4 ブーム
5 アーム
6 バケット
7 ブームシリンダ
7A 油圧配管
8 アームシリンダ
9 バケットシリンダ
10 キャビン
11 エンジン
11a スタータモータ
11b バッテリ
12 電動発電機
13 変速機
14 メインポンプ
15 パイロットポンプ
16 高圧油圧ライン
17 コントロールバルブ
18A,20 インバータ
19 キャパシタ
21 旋回用電動機
22 レゾルバ
23 メカニカルブレーキ
24 旋回変速機
25 パイロットライン
26 操作装置
26A、26B レバー
26C ペダル
26D ボタンスイッチ
27 油圧ライン
28 油圧ライン
29 圧力センサ
30 コントローラ
100 昇降圧コンバータ
110 DCバス
111 DCバス電圧検出部
112 キャパシタ電圧検出部
113,116 キャパシタ電流検出部
114,117 電源ライン
115,118 接続点
120 蓄電系
120A コンバータ
130−1,130−2 リレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
該エンジンをアシストする電動発電機と、
該電動発電機に電力を供給する蓄電装置と、
前記アシストモータの駆動を制御する制御部と
を有し、
前記制御部は、前記エンジンがアイドリング運転状態となると前記油圧ポンプの駆動を停止し、アイドリング運転状態が解除されたことを検出すると、前記電動発電機に前記蓄電装置から電力を供給して前記電動発電機を力行運転することにより、前記油圧ポンプの駆動を再開することで、前記エンジンの駆動を再開することを特徴とするハイブリッド型ショベル。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド型ショベルであって、
前記制御部は、アイドリング運転状態が解除されたことを検出すると、前記エンジンの回転数が所定の回転数となるまで前記電動発電機を駆動すると共に、前記油圧ポンプの傾転角を最小値に設定して前記油圧ポンプの負荷を低減することを特徴とするハイブリッド型ショベル。
【請求項3】
請求項1又は2記載のハイブリッド型ショベルであって、
前記制御部は、前記蓄電装置の蓄電量が所定値より小さい場合には、前記電動発電機の力行運転を禁止することを特徴とするハイブリッド型ショベル。
【請求項4】
請求項3記載のハイブリッド型ショベルであって、
前記制御部は、前記蓄電装置の蓄電量が所定値より小さい場合は、前記エンジンに設けられたスタータモータにより前記エンジンを始動させ、前記エンジンの出力で前記油圧ポンプを駆動することを特徴とするハイブリッド型ショベル。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちいずれか一項記載のハイブリッド型ショベルであって、
油圧回路に操作油圧を送るためのパイロットポンプを更に有し、前記電動発電機の駆動力で前記パイロットポンプの回転を再開させることを特徴とするハイブリッド型ショベル。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれか一項記載のハイブリッド型ショベルであって、
前記制御部は、操作レバー装置からの操作信号に基づいてアイドリング運転状態が解除されたことを検出することを特徴とするハイブリッド型ショベル。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちいずれか一項記載のハイブリッド型ショベルであって、
前記ハイブリッド型ショベルの運転を開始する際には、前記電動発電機とは別個に設けられたスタータモータを用いて前記エンジンを始動することを特徴とするハイブリッド型ショベル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−28962(P2013−28962A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165977(P2011−165977)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(502246528)住友建機株式会社 (346)
【Fターム(参考)】