説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】Pポジションにてエンジンを始動或いは停止する際に、ガタ詰め用トルクを付与することに伴って生じる電力消費量を低減しつつ、歯打ち音を適切に抑制する。
【解決手段】Pポジションとする為の切替え後においてP噛み状態である場合は、P噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルに従って、ガタ詰め用トルクTgtが第2電動機MG2によって付与される一方で、Pポジションとする為の切替え後であってもP非噛み状態である場合は、P非噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルに従って、ガタ詰め用トルクTgtが第2電動機MG2によって付与されるので、P噛み状態とP非噛み状態とで異なるガタ詰め用トルクTgtを付与すべきエンジン回転速度域Nresに合わせて、第2電動機MG2によってガタ詰め用トルクTgtを付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力分配式の電気式差動部を備えるハイブリッド車両の制御装置に係り、特に、エンジンの回転変動に起因する歯打ち音を低減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンからの動力を差動用電動機及び出力回転部材へ分配する差動機構とその出力回転部材に動力伝達可能に連結された(すなわち直接的に或いは歯車機構を介して間接的に連結された)走行用電動機とを有し、その差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部を備えるハイブリッド車両が良く知られている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド車両がそれである。
【0003】
ここで、上述したようなハイブリッド車両では、例えばエンジンの動力を駆動輪に伝達する電気式差動部を含む動力伝達系(動力伝達経路、駆動系、ドライブライン)においてバックラッシ(例えばギヤ歯等の相互に噛み合う歯車間の噛み合わせ部分に設けた隙間)のガタ打ち音(歯打ち音)が発生することがある。例えば、噛み合わせ部分において各歯車同士の押し付け合う力が弱いギヤ浮き状態のときに、エンジンの回転変動(爆発変動)による振動がその噛み合わせ部分に伝達されることにより、その噛み合わせ部分では噛合歯の歯面同士が相互に衝突と離間を繰り返して互いに打ち合い、エンジンの回転変動の入力を強制力とする駆動捩り系共振(動力伝達系の捩り共振)による動力伝達系の回転体の変動増幅によって(すなわち動力伝達系の共振周波数にエンジン振動の周波数が一致することによる動力伝達系の捩り共振の発生によって)所謂ガラ音と称される歯打ち音が発生することがある。このような、歯打ち音を低減する為に、例えば上記特許文献1には、パーキングロック機構のパーキングギヤとパーキングロックポールとが嵌合状態にあるパーキングロック中にエンジンを始動するときは、モータMG2(上記走行用電動機に相当)によりパーキングロック機構におけるギヤの噛み合いを一方側に押し当てる為の押し当てトルク(換言すればバックラッシを一方側に詰める為のガタ詰め用トルク)を付与しつつ、モータMG1(上記差動用電動機に相当)によりエンジンをクランキングすることで、エンジンの回転変動に起因して発生する歯打ち音を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−247438号公報
【特許文献2】特開2006−298248号公報
【特許文献3】特開2005−210796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的に、変速機構の複数のシフトポジションの1つであるパーキングポジションでは、その変速機構の出力回転部材から駆動輪までの動力伝達に関わる回転部材に連結されるパーキングギヤへ所定の非回転部材を噛み込ませることで、その出力回転部材よりも駆動輪側で動力伝達系の回転を阻止するものである。しかしながら、パーキングギヤの回転停止位置によっては(すなわち所定の非回転部材に相対するパーキングギヤのギヤ歯の位置によっては)、パーキングポジションとする為の切替え後であってもそのパーキングギヤに所定の非回転部材が噛み込んでいないパーキング非噛み状態とされる場合がある。そうすると、パーキングポジションにてエンジンを始動或いは停止する際に、パーキングギヤに所定の非回転部材が噛み込んでいるパーキング噛み状態の場合は前記ガタ詰め用トルクを例えばパーキングロック機構で受けられるが、パーキング非噛み状態の場合は例えば公知の電子制御ブレーキ等による制動力でそのガタ詰め用トルクを受ける必要がある。このガタ詰め用トルクが大きいとより大きな制動力が必要となる為、できるだけガタ詰め用トルクを低減することが望まれる。一方で、上記ガタ詰め用トルク分の付与は、エンジンを始動或いは停止する際に必要なトルクに上乗せされるトルクであって、必ずしも必要なトルクではなく、電力の余分な消費となる為、できるだけガタ詰め用トルクを低減することが望まれる。尚、上述したような課題は未公知であり、パーキングポジションにてエンジンを始動或いは停止する際に、パーキング噛み状態とパーキング非噛み状態とを把握することにより、一律にガタ詰め用トルクを付与することに伴って生じる電力消費量を低減しつつ、歯打ち音を適切に抑制することについて未だ提案されていない。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、パーキングポジションにてエンジンを始動或いは停止する際に、ガタ詰め用トルクを付与することに伴って生じる電力消費量を低減しつつ、歯打ち音を適切に抑制することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する為の第1の発明の要旨とするところは、(a) エンジンからの動力を差動用電動機及び出力回転部材へ分配する差動機構とその出力回転部材に動力伝達可能に連結された走行用電動機とを有し、その差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部を備え、その出力回転部材から駆動輪までの動力伝達に関わる回転部材に連結されるパーキングギヤへ所定の非回転部材を噛み込ませることで、前記エンジンからその駆動輪までの動力伝達系におけるその出力回転部材よりもその駆動輪側の回転を阻止するパーキングポジションにてそのエンジンを始動或いは停止する際には、その動力伝達系における歯車間の噛み合わせ部分の隙間を一方側に詰める為のガタ詰め用トルクを前記走行用電動機によって付与するハイブリッド車両の制御装置であって、(b) 前記パーキングポジションとする為の切替え後において前記パーキングギヤに前記所定の非回転部材が噛み込んでいるパーキング噛み状態である場合は、そのパーキング噛み状態にて前記ガタ詰め用トルクを付与すべき予め記憶されたエンジン回転速度域に従って、そのガタ詰め用トルクを前記走行用電動機によって付与する一方で、(c) 前記パーキングポジションとする為の切替え後であっても前記パーキングギヤに前記所定の非回転部材が噛み込んでいないパーキング非噛み状態である場合は、そのパーキング非噛み状態にて前記ガタ詰め用トルクを付与すべき予め記憶されたエンジン回転速度域に従って、そのガタ詰め用トルクを前記走行用電動機によって付与することにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記パーキングポジションとする為の切替え後において前記パーキングギヤに前記所定の非回転部材が噛み込んでいるパーキング噛み状態である場合は、そのパーキング噛み状態にて前記ガタ詰め用トルクを付与すべき予め記憶されたエンジン回転速度域に従って、そのガタ詰め用トルクが前記走行用電動機によって付与される一方で、前記パーキングポジションとする為の切替え後であっても前記パーキングギヤに前記所定の非回転部材が噛み込んでいないパーキング非噛み状態である場合は、そのパーキング非噛み状態にて前記ガタ詰め用トルクを付与すべき予め記憶されたエンジン回転速度域に従って、そのガタ詰め用トルクが前記走行用電動機によって付与されるので、パーキング噛み状態とパーキング非噛み状態とで異なるガタ詰め用トルクを付与すべきエンジン回転速度域に合わせて、前記走行用電動機によってガタ詰め用トルクを付与することができる。例えば、パーキング噛み状態とパーキング非噛み状態とで車両(動力伝達系)の共振周波数が異なることで車両(動力伝達系)の捩り共振を発生させる領域が異なったエンジン回転速度域に合わせて、それぞれの状態におけるエンジン回転速度域だけ前記走行用電動機によってガタ詰め用トルクを付与し、それ以外の他の領域ではガタ詰め用トルクを付与させないようにすることができる。よって、パーキングポジションにてエンジンを始動或いは停止する際に、一律にガタ詰め用トルクを付与することと比較して、ガタ詰め用トルクを付与することに伴って生じる電力消費量を低減しつつ、歯打ち音を適切に抑制することができる。つまり、パーキング噛み状態とパーキング非噛み状態とを把握することにより、前記走行用電動機によって効率的にガタ詰め用トルクを付与することができる。
【0009】
ここで、第2の発明は、前記第1の発明に記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記パーキング噛み状態にて前記ガタ詰め用トルクを付与すべきエンジン回転速度域は、そのパーキング噛み状態における動力伝達系の共振周波数に基づいて、そのパーキング噛み状態において前記歯車間の噛み合わせ部分の隙間にて前記エンジンの回転変動に起因する歯打ち音が発生し易い予め設定された前記エンジン回転速度の範囲であり、前記パーキング非噛み状態にて前記ガタ詰め用トルクを付与すべきエンジン回転速度域は、そのパーキング非噛み状態における動力伝達系の共振周波数に基づいて、そのパーキング非噛み状態において前記歯車間の噛み合わせ部分の隙間にて前記エンジンの回転変動に起因する歯打ち音が発生し易い予め設定された前記エンジン回転速度の範囲である。このようにすれば、パーキング噛み状態とパーキング非噛み状態とで異なる動力伝達系の共振周波数に基づいたエンジン回転速度域のみ、ガタ詰め用トルクを付与することができる。
【0010】
また、第3の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記ガタ詰め用トルクを付与すべきエンジン回転速度域でのみ、そのガタ詰め用トルクを前記走行用電動機によって付与することにある。このようにすれば、パーキングポジションにてエンジンを始動或いは停止する際に、一律にガタ詰め用トルクを付与することと比較して、ガタ詰め用トルクを付与することに伴って生じる電力消費量を確実に低減しつつ、歯打ち音を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用されるハイブリッド車両の概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図2】複数種類のシフトポジションを人為的操作により切り替えるシフト操作装置の一例を示す図である。
【図3】駆動輪の回転を機械的に阻止するパーキングロック装置の構成を説明する図である。
【図4】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】エンジンの始動時或いは停止時に用いられる電動機のトルク特性の一例である。
【図6】歯車機構の第2キャリヤが固定されるケースとの噛み合わせ部分におけるガタを等価モデルで表した一例の図である。
【図7】車両の動力伝達系(駆動捩り系)の一例を示す模式図である。
【図8】電子制御装置の制御作動の要部すなわちPポジションにてエンジンを始動或いは停止する際にガタ詰め用トルクを付与することに伴って生じる電力消費量を低減しつつ歯打ち音を適切に抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図9】図8の制御作動に対応するタイムチャートであって、エンジン始動時の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、好適には、前記走行用電動機は、直接的に或いは歯車機構を介して間接的に前記差動機構の出力回転部材に動力伝達可能に連結される。また、上記歯車機構は、例えば2軸間を動力伝達可能に連結するギヤ対、遊星歯車やかさ歯車等の差動歯車装置にて構成された単段の減速機や増速機、複数組の遊星歯車装置の回転要素が摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進2段、前進3段、更にはそれ以上の変速段を有する種々の遊星歯車式多段変速機などにより構成される。
【0013】
また、好適には、前記遊星歯車式多段変速機における摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合作動させるための作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源であるエンジンにより駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、エンジンとは別に配設された専用の電動モータなどで駆動されるものでも良い。
【0014】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素と前記差動用電動機に連結された第2回転要素と前記出力回転部材に連結された第3回転要素との3つの回転要素を有する装置である。
【0015】
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。
【0016】
また、好適には、前記車両用動力伝達装置の車両に対する搭載姿勢は、駆動装置の軸線が車両の幅方向となるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両などの横置き型でも、駆動装置の軸線が車両の前後方向となるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両などの縦置き型でも良い。
【0017】
また、好適には、前記エンジンと前記差動機構とは作動的に連結されればよく、例えばエンジンと差動機構との間には、脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)、直結クラッチ、ダンパー付直結クラッチ、或いは流体伝動装置などが介在させられるものであってもよいが、エンジンと差動機構とが常時連結されたものであってもよい。また、流体伝動装置としては、ロックアップクラッチ付トルクコンバータやフルードカップリングなどが用いられる。
【0018】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
図1は、本発明が適用されるハイブリッド車両10(以下、車両10という)の概略構成を説明する図であると共に、車両10の各部を制御する為に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源としてのエンジン12から出力される動力を第1電動機MG1及び出力歯車14へ分配する動力分配機構16と、出力歯車14に連結される歯車機構18と、出力歯車14に歯車機構18を介して動力伝達可能に連結された第2電動機MG2とを有する変速部20を備えて構成されている。この変速部20は、例えば車両10において横置きされるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、変速部20(動力分配機構16)の出力回転部材としての出力歯車14とカウンタドリブンギヤ22とで構成されるカウンタギヤ対24、ファイナルギヤ対26、差動歯車装置(終減速機)28、エンジン12に作動的に連結されるダンパー30、そのダンパー30に作動的に連結される入力軸32等とで、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース34内においてトランスアクスル(T/A)としての動力伝達装置36を構成している。このように構成された動力伝達装置36では、ダンパー30及び入力軸32を介して入力されるエンジン12の動力や第2電動機MG2の動力が出力歯車14へ伝達され、その出力歯車14からカウンタギヤ対24、ファイナルギヤ対26、差動歯車装置28、一対の車軸38(ドライブシャフトD/S)等を順次介して一対の駆動輪40へ伝達される。また、本実施例の車両10は、シフト操作装置50、パーキングロック装置52などを備え、車両10の走行に関わるシフトポジションすなわち変速部20のシフトポジション(シフトレンジ)を電気的に切り替えるシフトバイワイヤ(SBW)方式を採用している。
【0020】
入力軸32は、一端がダンパー30を介してエンジン12のクランク軸42に連結されることでエンジン12により回転駆動させられる。また、他端には潤滑油供給装置としてのオイルポンプ44が連結されており入力軸32が回転駆動されることによりオイルポンプ44が回転駆動させられて、動力伝達装置36の各部例えば動力分配機構16、歯車機構18、不図示のボールベアリング等に潤滑油が供給される。
【0021】
動力分配機構16は、第1サンギヤS1、第1ピニオンギヤP1、その第1ピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1ピニオンギヤP1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(回転部材)として備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置から構成されており、差動作用を生じる差動機構として機能する。この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸32すなわちエンジン12に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機MG1に連結され、第1リングギヤR1は出力歯車14に連結されている。これより、第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1は、それぞれ相互に相対回転可能となることから、エンジン12の出力が第1電動機MG1及び出力歯車14に分配されると共に、第1電動機MG1に分配されたエンジン12の出力で第1電動機MG1が発電され、その発電された電気エネルギがインバータ46を介して蓄電装置48に蓄電されたりその電気エネルギで第2電動機MG2が回転駆動されるので、変速部20は例えば無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン12の所定回転に拘わらず出力歯車14の回転が連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。つまり、変速部20は、差動用電動機として機能する第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより動力分配機構16の差動状態が制御される電気式差動部(電気式無段変速機)として機能する。これにより、変速部20は、例えば燃費が最もよいエンジン12の動作点(例えばエンジン回転速度NとエンジントルクTとで定められるエンジン12の運転点、以下、エンジン動作点という)に沿ってエンジン12を作動させることができる。この種のハイブリッド形式は、機械分配式或いはスプリットタイプと称される。
【0022】
歯車機構18は、第2サンギヤS2、第2ピニオンギヤP2、その第2ピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2ピニオンギヤP2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を回転要素として備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置から構成されている。この歯車機構18においては、第2キャリヤCA2は非回転部材であるケース34に連結されることで回転が阻止され、第2サンギヤS2は第2電動機MG2に連結され、第2リングギヤR2は出力歯車14に連結されている。そして、この歯車機構18は、例えば減速機として機能するように遊星歯車装置自体のギヤ比(歯車比=サンギヤS2の歯数/リングギヤR2の歯数)が構成されており、第2電動機MG2からトルク(駆動力)を出力する力行時には第2電動機MG2の回転が減速させられて出力歯車14に伝達され、そのトルクが増大させられて出力歯車14へ伝達される。尚、この出力歯車14は、動力分配機構16のリングギヤR1及び歯車機構18のリングギヤR2としての機能、及びカウンタドリブンギヤ22と噛み合ってカウンタギヤ対24を構成するカウンタドライブギヤとしての機能が1つのギヤに一体化された複合歯車となっている。
【0023】
第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能のうち少なくとも一方を備えた例えば同期電動機であって、好適には、発動機又は発電機として選択的に作動させられるモータジェネレータである。例えば、第1電動機MG1はエンジン12の反力を受け持つ為のジェネレータ(発電)機能及び運転停止中のエンジン12を回転駆動するモータ(電動機)機能を備え、第2電動機MG2は走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能する為の電動機機能及び駆動輪40側からの逆駆動力から回生により電気エネルギを発生させる発電機能を備える。
【0024】
また、車両10には、例えば変速部20などの車両10の各部を制御する車両10の制御装置としての電子制御装置120が備えられている。この電子制御装置120は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置120は、エンジン12、第1電動機MG1、第2電動機MG2などに関するハイブリッド駆動制御、パーキングロック装置52の作動状態の切替制御などを含むシフトバイワイヤ方式を用いた変速部20のシフトポジションの切替制御等の車両制御を実行するようになっており、必要に応じてエンジン12の出力制御用、変速部20の変速制御用、パーキングロック装置52の切替制御用等に分けて構成される。
【0025】
電子制御装置120には、例えばシフトセンサ54及びセレクトセンサ56(図2参照)により検出されたパーキングポジション(Pポジション)以外の非Pポジションの何れかへ切り替える為のシフトレバー58の操作位置(操作ポジション、シフトポジション)PSHを表す信号及び変速部20のシフトポジションをPポジションへ切り替える為のPスイッチ60におけるスイッチ操作に応じたPポジションへの切替要求としての操作ポジションPSHを表す信号、アクセル開度センサ62により検出された運転者による車両10に対する加速要求量(ドライバ要求量)としてのアクセルペダル64の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、ブレーキスイッチ66により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル68の操作(ブレーキオン)BONを表す信号、スロットル弁開度センサ70により検出された電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θTHを表す信号、吸入空気量センサ72により検出されたエンジン12の吸入空気量QAIRを表す信号、クランクポジションセンサ74により検出されたクランク軸42の回転角度(位置)ACR及びエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、水温センサ76により検出されたエンジン12の冷却水温THを表す信号、出力回転速度センサ78により検出された車速Vに対応する出力歯車14の回転速度である出力回転速度NOUTを表す信号、レゾルバ等の第1電動機回転速度センサ80により検出された第1電動機MG1の回転速度である第1電動機回転速度NM1を表す信号、レゾルバ等の第2電動機回転速度センサ82により検出された第2電動機MG2の回転速度である第2電動機回転速度NM2を表す信号、バッテリセンサ84により検出された蓄電装置48のバッテリ温度THBATやバッテリ入出力電流(バッテリ充放電電流)IBATやバッテリ電圧VBATを表す信号、パーキングロック装置52におけるパーキングロック(Pロック)の作動状態に対応するP位置信号(回転信号)を表す信号などが、それぞれ供給される。尚、電子制御装置120は、例えば上記バッテリ温度THBAT、バッテリ充放電電流IBAT、及びバッテリ電圧VBATなどに基づいて蓄電装置48の充電状態(充電容量)SOCを逐次算出する。
【0026】
また、電子制御装置120からは、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号や第1電動機MG1及び第2電動機MG2の駆動制御の為のインバータ46へのモータ制御指令信号や変速部20の変速制御の為の変速制御指令信号などのハイブリッド制御指令信号SHV、変速部20のシフトポジションを切り替える為のシフトポジション切替制御指令信号SSH、パーキングロック装置52の切替制御の為のPロック切替制御指令信号Sなどが、それぞれ出力される。
【0027】
具体的には、電子制御装置120は、車両走行に関わるハイブリッド制御指令信号SHVをエンジン12、第1電動機MG1、第2電動機MG2、及び変速部20へ出力して車両走行を制御する。また、電子制御装置120は、シフトセンサ54及びセレクトセンサ56からの操作ポジションPSHを表す信号に基づいてシフトポジション切替制御指令信号SSHを変速部20へ出力してシフトポジションを切り替える。この際、変速部20のシフトポジションがPポジションにある場合には、電子制御装置120は、上記操作ポジションPSHに基づいて変速部20のシフトポジションをPポジションから非Pポジションへ切り替える為のPロック切替制御指令信号Sをパーキングロック装置52へ出力してPロックを解除させる。また、電子制御装置120は、Pスイッチ60におけるスイッチ操作に応じたPポジションへの切替要求としての操作ポジションPSHを表す信号に基づいて変速部20のシフトポジションを非PポジションからPポジションへ切り替える為のPロック切替制御指令信号Sをパーキングロック装置52へ出力してPロックを作動させる。このように、電子制御装置120は、パーキングロック装置52のロック状態(Pロック状態)と非ロック状態(非Pロック状態)とを切り替える為のパーキングロック制御装置として機能する。また、電子制御装置120は、パーキングロック装置52からのPロックの作動状態を表すP位置信号に基づいて変速部20のシフトポジションがPポジションであるか非Pポジションであるかを判断する。
【0028】
図2は、変速部20において複数種類のシフトポジションを人為的操作により切り替える切替装置(操作装置)としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の近傍に配設され、複数の操作ポジションPSHへ操作されるモーメンタリ式の操作子すなわち操作力を解くと元位置(初期位置)へ自動的に復帰する自動復帰式の操作子としてのシフトレバー58を備えている。また、シフト操作装置50は、変速部20のシフトポジションをPポジションとしてPロックする為のモーメンタリ式の操作子としてのPスイッチ60をシフトレバー58の近傍に別スイッチとして備えている。
【0029】
シフトレバー58は、図2に示すように車両10の前後方向または上下方向すなわち縦方向に配列された3つの操作ポジションPSHであるR操作ポジション(R操作位置)、N操作ポジション(N操作位置)、D操作ポジション(D操作位置)と、それに平行に配列されたM操作ポジション(M操作位置)、B操作ポジション(B操作位置)とへそれぞれ操作されるようになっており、操作ポジションPSHに応じた信号を電子制御装置120へ出力する。また、シフトレバー58は、R操作ポジションとN操作ポジションとD操作ポジションとの相互間で縦方向に操作可能とされ、M操作ポジションとB操作ポジションとの相互間で縦方向に操作可能とされ、更に、N操作ポジションとB操作ポジションとの相互間で上記縦方向に直交する車両の横方向に操作可能とされている。
【0030】
Pスイッチ60は、例えばモーメンタリ式の押しボタンスイッチであって、ユーザにより押込み操作される毎にPポジションへの切替えを要求する操作ポジションPSHに応じた信号を電子制御装置120へ出力する。例えば変速部20のシフトポジションが非PポジションにあるときにPスイッチ60が押されると、車速Vが車両停止にあることを判断する為の予め設定されたPロック許可車速Vp以下であるなどの所定の条件が満たされていれば、電子制御装置120からのPロック切替制御指令信号Sに基づいてシフトポジションがPポジションとされる。このPポジションは、変速部20内の動力伝達経路が遮断され、且つ、パーキングロック装置52により駆動輪40の回転を機械的に阻止するPロックが実行される駐車ポジションである。
【0031】
シフト操作装置50のM操作ポジションはシフトレバー58の初期位置(ホームポジション)であり、M操作ポジション以外の操作ポジションPSH(R,N,D,B操作ポジション)へシフト操作されていたとしても、運転者がシフトレバー58を解放すればすなわちシフトレバー58に作用する外力が無くなれば、バネなどの機械的機構によりシフトレバー58はM操作ポジションへ戻るようになっている。シフト操作装置50が各操作ポジションPSHへシフト操作された際には、電子制御装置120によりその操作ポジションPSHに対応した信号に基づいてそのシフト操作後の操作ポジションPSHに対応したシフトポジションに切り替えられる。
【0032】
各シフトポジションについて説明すると、シフトレバー58がR操作ポジションへシフト操作されることにより選択されるRポジションは、車両10を後進させる駆動力が駆動輪40に伝達される後進走行ポジションである。また、シフトレバー58がN操作ポジションへシフト操作されることにより選択されるニュートラルポジション(Nポジション)は、変速部20内の動力伝達経路が遮断されるニュートラル状態とする為の中立ポジションである。また、シフトレバー58がD操作ポジションへシフト操作されることにより選択されるDポジションは、車両10を前進させる駆動力が駆動輪40に伝達される前進走行ポジションである。例えば、電子制御装置120は、シフトポジションがPポジションであるときに、操作ポジションPSHに基づいて車両10の移動防止(Pロック)を解除する所定の操作ポジションPSH(具体的には、R操作ポジション、N操作ポジション、又はD操作ポジション)へシフト操作されたと判断した場合には、ブレーキオン状態BONであるなどの所定の条件が満たされていれば、パーキングロック装置52に対してPロックを解除するPロック切替制御指令信号Sを出力してPロックを解除させる。そして、電子制御装置120は、そのシフト操作後の操作ポジションPSHに対応したシフトポジションへ切り換える。
【0033】
また、シフトレバー58がB操作ポジションへシフト操作されることにより選択されるBポジションは、Dポジションにおいて例えば第2電動機MG2に回生トルクを発生させる回生制動などによりエンジンブレーキ効果を発揮させ駆動輪40の回転を減速させる減速前進走行ポジション(エンジンブレーキレンジ)である。従って、電子制御装置120は、現在のシフトポジションがDポジション以外のシフトポジションであるときにシフトレバー58がB操作ポジションへシフト操作されてもそのシフト操作を無効とし、DポジションであるときのみB操作ポジションへのシフト操作を有効とする。例えば、Pポジションであるときに運転者がB操作ポジションへシフト操作したとしてもシフトポジションはPポジションのまま継続される。
【0034】
本実施例では所謂シフトバイワイヤ(SBW)方式を採用しており、シフトセンサ36とセレクトセンサ38との何れも操作ポジションPSHに応じた検出信号(シフトレバー位置信号)としての電圧を電子制御装置120に対し出力し、その検出信号電圧に基づき電子制御装置120は操作ポジションPSHを認識(判定)する。
【0035】
図3は、駆動輪40の回転を機械的に阻止するパーキングロック装置52の構成を説明する図である。図3において、パーキングロック装置52は、Pロック機構86、Pロック駆動モータ88、エンコーダ90などを備え、電子制御装置120からの制御信号に基づき車両10の移動を防止する為に作動するアクチュエータである。
【0036】
Pロック駆動モータ88は、例えばSRモータにより構成され、電子制御装置120からの指令を受けてシフトバイワイヤシステムによってPロック機構86を駆動する。エンコーダ90は、例えばPロック駆動モータ88と一体的に回転し、Pロック駆動モータ88の移動量(回転量)に応じた計数値(エンコーダカウント)を取得するためのパルス信号を電子制御装置120へ供給する。
【0037】
Pロック機構86は、Pロック駆動モータ88により回転駆動されるシャフト92、シャフト92の回転に伴って回転することにより、Pポジションに対応するPロックポジションとPポジション以外の各シフトポジション(非Pポジション)に対応する非Pロックポジションとを切り替える為のPロック位置決め部材として機能するディテントプレート94、ディテントプレート94の回転に伴って動作するロッド96、例えば変速部20の出力歯車14に同心上に一体的に設けられて駆動輪40と連動して回転するパーキングギヤ98(図1参照)、パーキングギヤ98を回転阻止(ロック)する為のパーキングロックポール100、ディテントプレート94の回転を制限してシフトポジションを固定するディテントスプリング102、及びころ104を備えている。
【0038】
図3は、非Pロックポジションであるときの状態を示している。この状態では、パーキングロックポール100がパーキングギヤ98をロックしていないので、駆動輪40の回転はPロック機構86によっては妨げられない。この状態から、Pロック駆動モータ88によりシャフト92を矢印Cの方向に回転させると、ロッド96が矢印Aの方向に押され、ロッド96の先端に設けられたテーパー部材106によりパーキングロックポール100が矢印Bの方向に押し上げられる。ディテントプレート94の回転に伴って、非Pロックポジションにあったディテントスプリング102のころ104は、山108を乗り越えPロックポジションへ移る。ころ104がPロックポジションに来るまでディテントプレート94が回転したとき、パーキングロックポール100は、パーキングギヤ98と噛み合う位置まで押し上げられる。これにより、パーキングギヤ98の回転が機械的に阻止され、シフトポジションがPポジションに切り替わる。このように、Pポジションでは、出力歯車14から駆動輪40までの動力伝達に関わる回転部材(本実施例では一体化された出力歯車14であるが、その他、例えばカウンタドリブンギヤ22などであっても良い)に連結されるパーキングギヤ98へ所定の非回転部材としてのパーキングロックポール100を噛み込ませることで、エンジン12の動力を駆動輪40に伝達する動力伝達系(すなわちエンジン12から駆動輪40までの動力伝達系)における出力歯車14よりも駆動輪40側の回転を阻止し、車両10の移動を制限する。
【0039】
図4は、電子制御装置120による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、ハイブリッド制御部すなわちハイブリッド制御手段122は、例えばエンジン12を停止し専ら第2電動機MG2を駆動源とするモータ走行モード、エンジン12の動力に対する反力を第1電動機MG1の発電により受け持つことで出力歯車14(駆動輪22)にエンジン直達トルクを伝達すると共に第1電動機MG1の発電電力により第2電動機MG2を駆動することで出力歯車14にトルクを伝達して走行するエンジン走行モード(定常走行モード)、このエンジン走行モードにおいて蓄電装置48からの電力を用いた第2電動機MG2の駆動力を更に付加して走行するアシスト走行モード(加速走行モード)等を、走行状態に応じて選択的に成立させる。
【0040】
上記エンジン走行モードにおける制御を一例としてより具体的に説明すると、ハイブリッド制御手段122は、エンジン12を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン12と第2電動機MG2との駆動力の配分や第1電動機MG1の発電による反力を最適になるように変化させて変速部20の電気的な無段変速機としての変速比γ0(=エンジン回転速度N/出力回転速度NOUT)を制御する。例えば、ハイブリッド制御手段122は、アクセル開度Accや車速Vから車両10の目標出力を算出し、その目標出力と充電要求値とから必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機MG2のアシストトルク等を考慮して目標エンジンパワーPを算出する。そして、ハイブリッド制御手段122は、例えば運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた公知のエンジン最適燃費線(燃費マップ)に沿ってエンジン12を作動させつつ目標エンジンパワーPが得られるエンジン動作点すなわちエンジン回転速度NとエンジントルクTとなるように、エンジン12を制御すると共に第1電動機MG1の発電量を制御する。尚、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度N及びエンジントルクTなどで例示されるエンジン12の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン12の動作状態を示す動作点である。また、本実施例では、燃費とは例えば単位燃料消費量当たりの走行距離であったり、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)等である。
【0041】
ハイブリッド制御手段122は、スロットル制御の為にスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御させる他、燃料噴射制御の為に燃料噴射装置による燃料噴射量FUELや噴射時期を制御し、点火時期制御の為に点火装置による点火時期を制御するエンジン出力制御指令信号を出力し、目標エンジンパワーPを発生する為のエンジントルクTが得られるようにエンジン12の出力制御を実行する。また、ハイブリッド制御手段122は、第1電動機MG1による発電を制御させる指令をインバータ46に出力して、目標エンジンパワーPを発生する為のエンジン回転装度Nが得られるように第1電動機回転速度NM1を制御する。
【0042】
また、ハイブリッド制御手段122は、エンジン12の始動及び停止を行うエンジン始動停止制御部すなわちエンジン始動停止制御手段124を機能的に備えている。エンジン始動停止制御手段124は、エンジン始動要求があった場合には、例えば図5(a)に示すようなエンジン始動の為の所定のエンジン始動用トルク特性(トルクプロファイル、トルクパターン)に従って所定のエンジン始動用トルクすなわちクランキングトルクTM1crを第1電動機MG1によって発生させることで、第1電動機回転速度NM1を引き上げてエンジン回転速度Nをエンジン12の完爆可能な所定の完爆回転速度NA以上に回転駆動する。そして、エンジン始動停止制御手段124は、その所定の完爆回転速度NA以上にて、スロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開き、燃料噴射装置により燃料Fを供給(噴射)し、点火装置により点火してエンジン12を始動する一連のエンジン始動処理を実行する。また、エンジン始動停止制御手段124は、エンジン始動時に発生させる第1電動機MG1の出力トルク(MG1トルク)TM1(エンジン始動用トルク)に起因して出力側(出力歯車14)に伝達されるエンジン直達トルクを相殺する為のキャンセルトルクTcanとして、第1電動機MG1における上記エンジン始動用トルク特性に対応するトルク特性に従って第2電動機MG2の出力トルク(MG2トルク)TM2を発生させる(図5(a)参照)。尚、上記エンジン始動要求があった場合とは、例えばモータ走行中にアクセルペダル64が踏込操作されたことで大きな駆動力を発生させる為にエンジン始動が必要であると判断された場合、エンジン12の運転が停止された車両停止中やモータ走行中に蓄電装置48の充電容量SOCが低下したりエアコンのコンプレッサなどの車両補機類の駆動要求が為されたり暖機完了前であったりしたときなどに、蓄電装置48の充電や車両補機類の駆動や暖機などの為にエンジン始動が必要であると判断された場合などである。
【0043】
また、エンジン始動停止制御手段124は、エンジン停止要求があった場合には、フューエルカットによりエンジン12の運転を停止させると共に、例えば図5(b)に示すようなエンジン停止の為の所定のエンジン停止用トルク特性(トルクプロファイル、トルクパターン)に従って所定のエンジン停止用トルクを第1電動機MG1の回生によって発生させることで、第1電動機MG1によりエンジン回転速度Nを引き下げる一連のエンジン停止処理を実行する。つまり、フューエルカット作動によるエンジン12の運転停止によってエンジン12が回転停止状態すなわちエンジン回転速度Nが零となるように自然に低下することに加えて、第1電動機MG1の回生制御により積極的にエンジン回転速度Nを零に向かって引き下げる。また、エンジン始動停止制御手段124は、エンジン停止時に発生させるMG1トルクTM1(エンジン停止用トルク)に起因して出力側(出力歯車14)に伝達されるエンジン直達トルクを相殺する為のキャンセルトルクTcanとして、第1電動機MG1における上記エンジン停止用トルク特性に対応するトルク特性に従ってMG2トルクTM2を発生させる(図5(b)参照)。尚、上記エンジン停止要求があった場合とは、例えばエンジン走行中にアクセルペダル86が戻されてアクセル開度Accが小さくなりモータ走行への切換えを判断した場合、車両停止中にエンジン12の運転停止(例えばアイドルストップ)を判断した場合などである。
【0044】
ここで、本実施例の車両10では、エンジン12から駆動輪40までの動力伝達系(動力伝達経路、駆動系、ドライブライン)においてバックラッシ(ガタ;例えば動力伝達系における歯車間の噛み合わせ部分の隙間)にてガタ打ち音(歯打ち音)が発生する可能性がある。例えば、図6に示すようにガタの一例を等価モデルで表した、歯車機構18の第2キャリヤCA2の外周歯とその第2キャリヤCA2が固定されるケース34のスプライン歯との噛み合わせ部分Gにおいて、その相互に噛み合う各ギヤ歯同士の例えばMG2トルクTM2による押し付け合う力が弱いギヤ浮きしたような状態のときに、その押し付け合う力よりも強い力のエンジン12の爆発変動(エンジン爆発変動、エンジン回転変動)が伝達されると、エンジン回転変動の入力を強制力とする駆動捩り系共振による変動増幅によって歯打ち音が発生する可能性がある。
【0045】
そこで、本実施例の電子制御装置120は、このような歯打ち音を低減する為に、エンジン始動停止制御手段124によるエンジン12の始動時或いは停止時には、上記キャンセルトルクTcanに加えて、動力伝達系における歯車間の噛み合わせ部分(例えば上記図6に示した噛み合わせ部分G)の隙間(ガタ)を一方側に詰める為のガタ詰め用トルクTgtを第2電動機MG2によって付与するガタ詰め制御を実行する。つまり、本実施例では、エンジン12を始動或いは停止する際に、第2電動機MG2による上記ガタ詰め制御を実行するガタ詰め制御部すなわちガタ詰め制御手段126を備える。
【0046】
ところで、エンジン12の回転変動に起因する上記歯打ち音が発生し易い領域は、例えばエンジン12が回転停止している状態と自律回転している状態との間のエンジン回転速度Nの領域内で、動力伝達系の共振周波数にエンジン振動の周波数が一致することによる動力伝達系の捩り共振が発生するエンジン回転速度域Nresである。従って、上記ガタ詰め制御を実行してガタ詰め用トルクTgtを付与することで電力消費が増大したり、例えば公知の電子制御ブレーキ等による制動力を付与する必要が生じることなどを考慮すると、エンジン12の始動時或いは停止時にガタ詰め用トルクTgtを一律に付与するよりも、特に動力伝達系の捩り共振が発生するエンジン回転速度域Nresのみにてガタ詰め用トルクTgtを付与することが望ましい。
【0047】
一方、上述したエンジン始動停止制御手段124によるエンジン12の始動或いは停止は、変速部20のPポジションにおいても実行される。ここで、Pポジションとする為の切替え後では、本来、パーキングギヤ98にパーキングロックポール100が噛み込んでいるパーキング噛み状態(P噛み状態)とされるものであるが、Pポジションとする為の切替え後であってもパーキングギヤ98にパーキングロックポール100が噛み込んでいないパーキング非噛み状態(P非噛み状態)とされる場合がある。このような場合、P噛み状態とP非噛み状態とで、動力伝達系の共振周波数(固有振動数)が異なり、動力伝達系の捩り共振が発生するエンジン回転速度域Nresが異なる可能性がある。従って、P噛み状態とP非噛み状態とで異なる各エンジン回転速度域Nresに合わせてガタ詰め用トルクTgtを付与することが望ましい。
【0048】
図7は、車両10の動力伝達系を模式的に表した図である。図7において、実線で示すパーキングロックポール100の状態はPポジションとする為の切替え後においてP噛み状態となっている場合の一例であり、破線で示すパーキングロックポール100の状態はPポジションとする為の切替え後であってもP非噛み状態とされている場合の一例である。そして、このP噛み状態では、出力歯車14がケース34に固定される為、例えばエンジン12の慣性とダンパー30のバネとでP噛み状態とされた動力伝達系の共振周波数が決められる。つまり、P噛み状態では、エンジン12から出力歯車14までの駆動捩り系にてダンパー30が捩れるモードが存在し、このモードでP噛み状態の共振周波数(P噛み時共振域1次)が決められる。一方、このP非噛み状態では、ブレーキオンBONによって駆動輪40が回転不能に固定されている場合、例えばエンジン12の慣性とダンパー30のバネとで、また変速部20の慣性と車軸(D/S)38のバネ(捩れ)とでP非噛み状態とされた動力伝達系の共振周波数が決められる。つまり、P非噛み状態におけるブレーキオンでは、エンジン12から出力歯車14までの駆動捩り系にてダンパー30が捩れるモード、及び出力歯車14から駆動輪40までの駆動捩り系にて車軸38が捩れるモードが存在し、車軸38が捩れるモードでP非噛み状態の共振周波数(P非噛み時共振域1次)が決められ、また、ダンパー30が捩れるモードでP非噛み状態の共振周波数(P非噛み時共振域2次)が決められる。
【0049】
本実施例の車両10では、これら各モードの共振周波数は、各々異なっており、例えばP非噛み時共振域1次が最も低く、P噛み時共振域1次はそのP非噛み時共振域1次とP非噛み時共振域2次との間にある。また、これら各モードの共振周波数に対応する各エンジン回転速度域Nresは、例えばエンジン12が回転停止している状態と自律回転している状態との間のエンジン回転速度Nの領域内にあり、それら各モードの共振周波数と同様に、例えばP非噛み時共振域1次に対応するP非噛み時1次エンジン回転速度域Nres(notP1)が最も低く、P噛み時共振域1次に対応するP噛み時1次エンジン回転速度域Nres(P1)は、そのP非噛み時1次エンジン回転速度域Nres(notP1)とP非噛み時共振域2次に対応するP非噛み時2次エンジン回転速度域Nres(notP2)との間にある。このP噛み時1次エンジン回転速度域Nres(P1)は、P噛み状態にてガタ詰め用トルクTgtを付与すべきエンジン回転速度域であり、P噛み状態における動力伝達系の共振周波数(P噛み時共振域1次)に基づいて、P噛み状態において歯打ち音が発生し易いエンジン回転速度Nの範囲として予め求められて設定されたパーキング噛み時歯打ち音発生領域である。また、これらP非噛み時1次エンジン回転速度域Nres(notP1)及びP非噛み時2次エンジン回転速度域Nres(notP2)は、P噛み状態にてガタ詰め用トルクTgtを付与すべきエンジン回転速度域であり、P非噛み状態における動力伝達系の共振周波数(P非噛み時共振域1次、P非噛み時共振域2次)に基づいて、P非噛み状態において歯打ち音が発生し易いエンジン回転速度Nの範囲として予め求められて設定されたパーキング非噛み時歯打ち音発生領域である。
【0050】
本実施例では、P噛み状態にてガタ詰め用トルクTgtを付与すべきP噛み時1次エンジン回転速度域Nres(P1)とガタ打ち音の発生を適切に抑制する為に付与すべきガタ詰め用トルクTgtの大きさとが、パーキング噛み時ガタ詰め用トルク特性(P噛み時ガタ詰め用トルクプロファイル)として予め実験的に(或いは設計的に)求められて記憶されている。また、本実施例では、P非噛み状態にてガタ詰め用トルクTgtを付与すべきP非噛み時1次エンジン回転速度域Nres(notP1)及びP非噛み時2次エンジン回転速度域Nres(notP2)とガタ打ち音の発生を適切に抑制する為に付与すべきガタ詰め用トルクTgtの大きさとが、パーキング非噛み時ガタ詰め用トルク特性(P非噛み時ガタ詰め用トルクプロファイル)として予め実験的に(或いは設計的に)求められて記憶されている。
【0051】
そして、ガタ詰め制御手段126は、Pポジションであるときのエンジン始動時或いは停止時にP噛み状態である場合には、上記P噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルに従って、ガタ詰め用トルクTgtを第2電動機MG2によって付与する。一方で、ガタ詰め制御手段126は、Pポジションであるときのエンジン始動時或いは停止時にP非噛み状態である場合には、上記P非噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルに従って、ガタ詰め用トルクTgtを第2電動機MG2によって付与する。尚、本実施例の車両10における動力伝達系では、ダンパー30や車軸38の他に、入力軸32や駆動輪40(駆動輪40と車両10とを慣性としたとき)などがバネ要素として存在し、上記各モードでの共振周波数(共振域)とは異なる共振周波数が存在する他のモードがあるが、その他のバネ要素に係る共振周波数での捩り共振によるガタ打ち音の大きさや、共振が発生するエンジン回転速度域を勘案して、これら他のモードについては、その説明を割愛する。
【0052】
より具体的には、図4に戻り、エンジン始動停止時判定部すなわちエンジン始動停止時判定手段128は、Pポジションにおけるエンジン始動時或いはエンジン停止時であるか否かを判定する。例えば、エンジン始動停止時判定手段128は、電子制御装置120によりPスイッチ60におけるスイッチ操作に応じてPポジションへ切り替える為のPロック切替制御指令信号Sがパーキングロック装置52へ出力されてPロックが作動させられているときに、エンジン始動停止制御手段124によりエンジン始動要求或いはエンジン停止要求があったと判断されたか否かに基づいて、Pポジションにおけるエンジン始動時或いはエンジン停止時であるか否かを判定する。
【0053】
P噛み状態判定部すなわちP噛み状態判定手段130は、エンジン始動停止時判定手段128によりPポジションにおけるエンジン始動時或いはエンジン停止時であると判定された場合には、エンジン始動停止制御手段124によるエンジン始動処理或いはエンジン停止処理の実行開始に先立って、PポジションにおいてP噛み状態であるか或いはP非噛み状態であるかの判定(確認)を開始し、P噛み状態であるか否かを判定する。このP噛み状態であるか否かの判定は、例えばパーキングロック装置52に備えられたエンコーダ90からのパルス信号に基づいて取得されたPロック駆動モータ88の回転量に応じたエンコーダカウントを用いて実行される。
【0054】
ガタ詰め制御手段126は、P噛み状態判定手段130によりP噛み状態であると判定された場合には、ガタ詰め制御の実行に際して、予め記憶されている前記P噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルを選択し、その選択したP噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルに従って、P噛み状態にてガタ詰め用トルクTgtを付与すべきP噛み時1次エンジン回転速度域Nres(P1)でのみ、ガタ詰め用トルクTgtを第2電動機MG2によって付与する。一方で、ガタ詰め制御手段126は、P噛み状態判定手段130によりP噛み状態でないと判定された場合には、ガタ詰め制御の実行に際して、予め記憶されている前記P非噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルを選択し、その選択したP非噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルに従って、P非噛み状態にてガタ詰め用トルクTgtを付与すべきP非噛み時1次エンジン回転速度域Nres(notP1)及びP非噛み時2次エンジン回転速度域Nres(notP2)でのみ、ガタ詰め用トルクTgtを第2電動機MG2によって付与する。
【0055】
図8は、電子制御装置120の制御作動の要部すなわちPポジションにてエンジン12を始動或いは停止する際にガタ詰め用トルクTgtを付与することに伴って生じる電力消費量を低減しつつ歯打ち音を適切に抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図9は、図8のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートであって、エンジン始動時の実施例である。
【0056】
図8において、先ず、エンジン始動停止時判定手段128に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えばPポジションにおけるエンジン始動時或いはエンジン停止時であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合(図9のt1時点乃至t9時点)はP噛み状態判定手段130に対応するS20及びS30において、エンジン始動処理或いはエンジン停止処理の実行開始に先立って、PポジションにおいてP噛み状態であるか或いはP非噛み状態であるかの判定(確認)が開始され、P噛み状態であるか否かが判定される(図9のt1時点乃至t2時点)。このS30の判断が肯定される場合はガタ詰め制御手段126に対応するS40及びS60において、予め記憶されている前記P噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルが選択され、そのP噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルに従って、P噛み時1次エンジン回転速度域Nres(P1)でのみガタ詰め用トルクTgtを付与するガタ詰め制御が実行される(図9のt5時点乃至t6時点)。一方で、上記S30の判断が否定される場合はガタ詰め制御手段126に対応するS50及びS60において、予め記憶されている前記P非噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルが選択され、そのP非噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルに従って、P非噛み時1次エンジン回転速度域Nres(notP1)及びP非噛み時2次エンジン回転速度域Nres(notP2)でのみガタ詰め用トルクTgtを付与するガタ詰め制御が実行される(図9のt3時点乃至t4時点、及びt7時点乃至t8時点)。
【0057】
図9において、破線に示す従来例では、エンジン始動処理が開始される前の過渡期間(t1時点乃至t2時点)からエンジン始動処理が終了されるまでの期間(t2時点乃至t9時点)において、キャンセルトルクTcanに加えて、一律にガタ詰め用トルクTgtが付与されるので、ガタ詰め制御にかかる電力消費量が比較的大きくされる。これに対して、本実施例では、P噛み状態である場合には、P噛み時共振域1次(P噛み時1次エンジン回転速度域)Nres(P1)とその前後の過渡制御期間を含むt5時点乃至t6時点でのみガタ詰め用トルクTgtが付与されるので、ガタ詰め制御にかかる電力消費量が比較的小さくされる。また、本実施例では、P非噛み状態である場合には、P非噛み時共振域1次(P非噛み時1次エンジン回転速度域)Nres(notP1)とその前後の過渡制御期間を含むt3時点乃至t4時点、及びP非噛み時共振域2次(P非噛み時2次エンジン回転速度域)Nres(notP2)とその前後の過渡制御期間を含むt7時点乃至t8時点でのみガタ詰め用トルクTgtが付与されるので、ガタ詰め制御にかかる電力消費量が比較的小さくされる。
【0058】
上述のように、本実施例によれば、Pポジションとする為の切替え後においてP噛み状態である場合は、P噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルに従って、ガタ詰め用トルクTgtが第2電動機MG2によって付与される一方で、Pポジションとする為の切替え後であってもP非噛み状態である場合は、P非噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルに従って、ガタ詰め用トルクTgtが第2電動機MG2によって付与されるので、P噛み状態とP非噛み状態とで異なるガタ詰め用トルクTgtを付与すべきエンジン回転速度域Nresに合わせて、第2電動機MG2によってガタ詰め用トルクTgtを付与することができる。例えば、P噛み状態とP非噛み状態とで動力伝達系の共振周波数が異なることで動力伝達系の捩り共振を発生させる領域が異なったエンジン回転速度域Nresに合わせて、それぞれの状態におけるエンジン回転速度域Nresだけ第2電動機MG2によってガタ詰め用トルクTgtを付与し、それ以外の他の領域ではガタ詰め用トルクTgtを付与させないようにすることができる。よって、Pポジションにてエンジン12を始動或いは停止する際に、一律にガタ詰め用トルクTgtを付与することと比較して、ガタ詰め用トルクTgtを付与することに伴って生じる電力消費量を低減しつつ、歯打ち音を適切に抑制することができる。つまり、P噛み状態とP非噛み状態とを把握することにより、第2電動機MG2によって効率的にガタ詰め用トルクTgtを付与することができる。
【0059】
また、本実施例によれば、P噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルにおけるガタ詰め用トルクTgtを付与すべきP噛み時1次エンジン回転速度域Nres(P1)は、P噛み状態における動力伝達系の共振周波数(P噛み時共振域1次)に基づいて、P噛み状態においてエンジン12の回転変動に起因する歯打ち音が発生し易い予め設定されたエンジン回転速度Nの範囲であり、P非噛み時ガタ詰め用トルクプロファイルにおけるガタ詰め用トルクTgtを付与すべきP非噛み時1次エンジン回転速度域Nres(notP1)及びP非噛み時2次エンジン回転速度域Nres(notP2)は、P非噛み状態における動力伝達系の共振周波数(P非噛み時共振域1次、P非噛み時共振域2次)に基づいて、P非噛み状態においてエンジン12の回転変動に起因する歯打ち音が発生し易い予め設定されたエンジン回転速度Nの範囲であるので、P噛み状態とP非噛み状態とで異なる動力伝達系の共振周波数に基づいたエンジン回転速度域Nresのみ、ガタ詰め用トルクTgtを付与することができる。
【0060】
また、本実施例によれば、ガタ詰め用トルクTgtを付与すべきエンジン回転速度域Nresでのみ、ガタ詰め用トルクTgtを第2電動機MG2によって付与するので、Pポジションにてエンジン12を始動或いは停止する際に、一律にガタ詰め用トルクTgtを付与することと比較して、ガタ詰め用トルクTgtを付与することに伴って生じる電力消費量を確実に低減しつつ、歯打ち音を適切に抑制することができる。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0062】
例えば、前述の実施例では、Pロック駆動モータ88の回転量に応じたエンコーダカウントを用いてP噛み状態であるか否かを判定したが、必ずしもこの判定方法に限らない。例えば、レゾルバ等の第2電動機回転速度センサ82により検出された第2電動機MG2の絶対回転位置に基づいて、第2電動機MG2の回転位置と一意的に連動して回転する出力歯車14に一体的に設けられたパーキングギヤ98の回転位置がP噛み状態と成り得る回転位置であるか否かを判定することで、P噛み状態であるか否かを判定するなどの種々の判定方法を採用しても良い。
【0063】
また、前述の実施例では、シフト操作装置50やパーキングロック装置52などを備えて変速部20のシフトポジションを電気的に切り替えるシフトバイワイヤ方式を採用している車両10に本発明を適用したが、これに限らずシフト操作装置のユーザ操作に応じて変速部20のシフトポジションを機械的に切り替える機械リンク方式を採用している車両であっても本発明は適用され得る。
【0064】
また、前述の実施例では、エンジン始動時の実施例(例えば図9のタイムチャート)にて本発明を説明したが、エンジン停止時でも本発明が適用され得ることは言うまでもないことである。例えば、エンジン停止時には、図5(b)に示すような第2電動機MG2によるキャンセルトルクTcanを基本として、そのキャンセルトルクTcanに加える形で、P噛み状態とP非噛み状態とで異なったエンジン回転速度域Nresに合わせたガタ詰め用トルクTgtが第2電動機MG2によって付与される。
【0065】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0066】
10:ハイブリッド車両
12:エンジン
14:出力歯車(出力回転部材)
16:動力分配機構(差動機構)
20:変速部(電気式差動部)
40:駆動輪
98:パーキングギヤ
100:パーキングロックポール(所定の非回転部材)
120:電子制御装置(制御装置)
G:噛み合わせ部分
MG1:第1電動機(差動用電動機)
MG2:第2電動機(走行用電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力を差動用電動機及び出力回転部材へ分配する差動機構と該出力回転部材に動力伝達可能に連結された走行用電動機とを有し、該差動用電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式差動部を備え、該出力回転部材から駆動輪までの動力伝達に関わる回転部材に連結されるパーキングギヤへ所定の非回転部材を噛み込ませることで、前記エンジンから該駆動輪までの動力伝達系における該出力回転部材よりも該駆動輪側の回転を阻止するパーキングポジションにて該エンジンを始動或いは停止する際には、該動力伝達系における歯車間の噛み合わせ部分の隙間を一方側に詰める為のガタ詰め用トルクを前記走行用電動機によって付与するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記パーキングポジションとする為の切替え後において前記パーキングギヤに前記所定の非回転部材が噛み込んでいるパーキング噛み状態である場合は、該パーキング噛み状態にて前記ガタ詰め用トルクを付与すべき予め記憶されたエンジン回転速度域に従って、該ガタ詰め用トルクを前記走行用電動機によって付与する一方で、
前記パーキングポジションとする為の切替え後であっても前記パーキングギヤに前記所定の非回転部材が噛み込んでいないパーキング非噛み状態である場合は、該パーキング非噛み状態にて前記ガタ詰め用トルクを付与すべき予め記憶されたエンジン回転速度域に従って、該ガタ詰め用トルクを前記走行用電動機によって付与することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記パーキング噛み状態にて前記ガタ詰め用トルクを付与すべきエンジン回転速度域は、該パーキング噛み状態における動力伝達系の共振周波数に基づいて、該パーキング噛み状態において前記歯車間の噛み合わせ部分の隙間にて前記エンジンの回転変動に起因する歯打ち音が発生し易い予め設定された前記エンジン回転速度の範囲であり、
前記パーキング非噛み状態にて前記ガタ詰め用トルクを付与すべきエンジン回転速度域は、該パーキング非噛み状態における動力伝達系の共振周波数に基づいて、該パーキング非噛み状態において前記歯車間の噛み合わせ部分の隙間にて前記エンジンの回転変動に起因する歯打ち音が発生し易い予め設定された前記エンジン回転速度の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記ガタ詰め用トルクを付与すべきエンジン回転速度域でのみ、該ガタ詰め用トルクを前記走行用電動機によって付与することを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−218622(P2012−218622A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87932(P2011−87932)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】