説明

ハイブリッド車両用動力装置

【課題】ハイブリッド車両の乾式クラッチを含む動力装置の軸方向寸法を小型化する。
【解決手段】電動モータMのロータ31が接続されたトランスミッションの入力軸20と、エンジンにより回転するフライホイールとの間にエンジン切離しクラッチ37を配置したので、電動モータMによる走行時や回生制動時に、エンジン切離しクラッチ37を係合解除してエンジンを切り離すことで、エンジンのフリクションによる損失を回避することができる。入力軸20の外周面に固定されるロータ31とフライホイールとの間に配置されるエンジン切離しクラッチ37を操作するレリーズアクチュエータ81は、入力軸20の外周面とロータ31の内周面との間に形成されたアクチュエータ収納空間80に配置されるので、レリーズアクチュエータ81をロータ31の軸方向幅内に納めて動力装置の軸方向寸法を小型化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用の駆動力を発生可能なエンジンおよび電動モータと、前記エンジンおよび前記電動モータの一方または両方の駆動力が選択的に入力される入力軸を有するトランスミッションと、前記エンジンのクランクシャフトに固定されるフライホイールを前記トランスミッションの入力軸に対して連結および連結解除する乾式クラッチとを備えるハイブリッド車両用動力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、走行用駆動源であるエンジン9およびモータ装置15を備えるハイブリッド自動車において、エンジン9、乾式クラッチ装置10、モータ装置15およびトランスミッション20を直列に接続し、乾式クラッチ変速機10のレリーズ機構を該乾式クラッチ10とモータ装置15との間に配置したものが記載されている。
【特許文献1】特開2004−140881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来のものは、乾式クラッチ変速機10のレリーズ機構が該乾式クラッチ10とモータ装置15との間に配置されているため、レリーズ機構の分だけ動力装置の軸方向寸法が大型化する問題があった。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ハイブリッド車両の乾式クラッチを含む動力装置の軸方向寸法を小型化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、走行用の駆動力を発生可能なエンジンおよび電動モータと、前記エンジンおよび前記電動モータの一方または両方の駆動力が選択的に入力される入力軸を有するトランスミッションと、前記エンジンのクランクシャフトに固定されるフライホイールを前記トランスミッションの入力軸に対して連結および連結解除する乾式クラッチとを備え、前記電動モータのロータは、前記入力軸と一体に回転し得るように該入力軸の外周面に固定され、前記乾式クラッチは前記ロータと前記フライホイールとの間に配置されるハイブリッド車両用動力装置であって、前記乾式クラッチを操作するアクチュエータを、前記入力軸の外周面と前記ロータの内周面との間のアクチュエータ収納空間に配置することを特徴とするハイブリッド車両用動力装置が提案される。
【0006】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記乾式クラッチは常時係合しており、前記アクチュエータへの油圧の供給により係合解除することを特徴とするハイブリッド車両用動力装置が提案される。
【0007】
尚、実施の形態のメインシャフト20は本発明の入力軸に対応し、実施の形態のエンジン切離しクラッチ37は本発明の乾式クラッチに対応し、実施の形態のレリーズアクチュエータ81は本発明のアクチュエータに対応する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の構成によれば、エンジンおよび電動モータの一方または両方の駆動力が選択的に入力されるトランスミッションの入力軸と、エンジンのクランクシャフトに固定されるフライホイールとの間に乾式クラッチを配置したので、電動モータによる走行時や回生制動時に、乾式クラッチを係合解除して電動モータからエンジンを切り離すことで、エンジンのフリクションによる損失を回避することができる。入力軸の外周面に固定されるロータとフライホイールとの間に配置される乾式クラッチを操作するアクチュエータは、入力軸の外周面とロータの内周面との間に形成されたアクチュエータ収納空間に配置されるので、アクチュエータをロータの軸方向幅内に納めて動力装置の軸方向寸法を小型化することができる。
【0009】
また請求項2の構成によれば、乾式クラッチは常時係合しており、アクチュエータへの油圧の供給により係合解除するので、エンジンの始動時の油圧が立ち上がる前であっても乾式クラッチを係合状態に維持し、電動モータをスタータモータとして駆動してエンジンを始動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0011】
図1〜図4は本発明の実施の形態を示すもので、図1はハイブリッド車両用のトランスミッションの展開図、図2の図1の2部拡大図、図3は図2の3部拡大図、図4は図1の4部拡大図である。
【0012】
図1に示すように、エンジンEおよび電動モータMを駆動源とするハイブリッド車両用のトランスミッションTのミッションケース11は、右ミッションケース12と、右ミッションケース12の左側面にボルト13…で結合された左ミッションケース14と、左ミッションケース14の左側面に隔壁15を挟んでボルト16…で結合されたミッションケースカバー17とを備える。
【0013】
左ミッションケース14および隔壁15にそれぞれ設けたボールベアリング18,19によってメインシャフト20が間接的に支持され、左ミッションケース14および隔壁15にそれぞれ設けたローラベアリング21およびボールベアリング22によってカウンタシャフト23が支持され、右ミッションケース12および左ミッションケース14にそれぞれ設けたボールベアリング24,25によってリダクションシャフト26が支持され、右ミッションケース12および左ミッションケース14にそれぞれ設けたボールベアリング27,28によってディファレンシャルギヤ29が支持される。
【0014】
電動モータMは、径方向外側に位置するステータ30と、径方向内側に位置するロータ31とを備えており、ステータ30はボルト32…で右ミッションケース12に固定され、ロータ31は右ミッションケース12から右側に突出するメインシャフト20の右端にスプライン結合33される。エンジンEのクランクシャフト34は、フライホイール35、乾式単板型のエンジン切離しクラッチ37およびダンパー36を介してロータ31に接続される。
【0015】
メインシャフト20の左端にプラネタリギヤ式の正逆転切換機構41が配置され、この正逆転切換機構41により、メインシャフト20の外周に支持されたドライブプーリ42が、該メインシャフト20に正転可能あるいは逆転可能に結合される。カウンタシャフト23にはドリブンプーリ43が設けられており、ドライブプーリ42およびドリブンプーリ43が金属ベルト44で接続される。またカウンタシャフト23の右端には湿式多板型の発進クラッチ45が設けられており、カウンタシャフト23に相対回転自在に支持した第1リダクションギヤ46が該カウンタシャフト23に結合あるいは結合解除される。
【0016】
リダクションシャフト26には、前記第1リダクションギヤ46に噛合する第2リダクションギヤ47と、ファイナルドライブギヤ48とが設けられており、ファイナルドライブギヤ48はディファレンシャルギヤ29のファイナルドリブンギヤ49に噛合する。ディファレンシャルギヤ29から右ミッションケース12および左ミッションケース14を貫通して左右に延出するドライブシャフト50,50に図示せぬ駆動輪が接続される。
【0017】
従って、エンジンEの駆動力は、クランクシャフト34→フライホイール35→係合したエンジン切離しクラッチ37→ダンパー36→電動モータMのロータ31→メインシャフト20→正逆転切換機構41→ドライブプーリ42→金属ベルト44→ドリブンプーリ43→カウンタシャフト23→係合した発進クラッチ45→第1リダクションギヤ46→第2リダクションギヤ47→リダクションシャフト26→ファイナルドライブギヤ48→ファイナルドリブンギヤ49→ディファレンシャルギヤ29→ドライブシャフト50,50の経路で駆動輪に伝達される。また電動モータMを駆動すると、その駆動力がロータ31からメインシャフト20に入力される。
【0018】
その間、金属ベルト44が巻き掛けられたドライブプーリ42およびドリブンプーリ43の有効径を油圧制御で変化させることで、トランスミッションTの変速比を無段階に制御することができる。このトランスミッションTの変速比の制御は周知技術であるため、ここでの詳しい説明は省略する。
【0019】
電動モータMのロータ31は常時メインシャフト20に接続されているが、エンジンEのクランクシャフト34はエンジン切離しクラッチ37を係合解除することで電動モータMのロータ31から、つまりメインシャフト20切り離される。従って、電動モータMの駆動力のみで走行する場合、あるいは電動モータMをジェネレータとして機能させて回生制動を行う場合に、エンジン切離しクラッチ37を係合解除して電動モータMからエンジンEを切り離すことで、エンジンEの引きずりを防止して電動モータMの消費電力の削減およびエネルギー回収効率の向上が可能になる。
【0020】
図4から明らかなように、正逆転切換機構41は、メインシャフト20に固定されたサンギヤ51と、メインシャフト20にボールベアリング52を介して相対回転自在に支持されたプラネタリキャリヤ53と、プラネタリキャリヤ53に回転自在に支持されてサンギヤ51に噛合する複数のピニオン54…と、ピニオン54…に噛合するリングギヤ55とを備える。
【0021】
メインシャフト20の外周にはドライブプーリ42を支持するスリーブ56が相対回転自在に嵌合しており、スリーブ56の左端にスプライン結合57されたクラッチガイド58が、前記リングギヤ55に一体に結合される。サンギヤ51とクラッチガイド58との間には、摩擦係合要素59…、クラッチピストン60およびクラッチスプリング61を有する前進用クラッチ62が配置される。前進用クラッチ62を係合すると、サンギヤ51がクラッチガイド58を介してメインシャフト20に結合されるため、メインシャフト20の回転はそのままスリーブ56に伝達され、ドライブプーリ42がメインシャフト20と同速度で同方向に回転することで、前進変速段が確立される。
【0022】
またプラネタリキャリヤ53と隔壁15との間には、摩擦係合要素63…、クラッチピストン64およびクラッチスプリング65を有する後進用クラッチ66が配置される。後進用クラッチ66を係合すると、プラネタリキャリヤ53が隔壁15に拘束されるため、サンギヤ51の回転がピニオン54…を介して減速され、かつ逆回転となってリングギヤ55に伝達される。リングギヤ55の回転はクラッチガイド58を介してスリーブ56に伝達されるため、ドライブプーリ42がメインシャフト20よりも低速で逆方向に回転することで、後進変速段が確立される。
【0023】
図2および図3から明らかなように、フライホイール35は、クランクシャフト34の軸端にボルト67…で固定されたドライブプレート68と、ドライブプレート68の外周部にクラッチカバー69を挟んでボルト70…で固定されたマス71とを備える。エンジン切離しクラッチ37は、マス71から径方向内側に延びるフランジ71aと、マス71に軸方向移動自在に支持されて前記フランジ71aの右側に対向するプレッシャディスク72と、外周部がクラッチカバー69に係止されて中間部がプレッシャディスク72の背面に当接するダイアフラムスプリング73と、マス71のフランジ71aおよびプレッシャディスク72間に配置されたクラッチディスク74とを備える。
【0024】
電動モータMのロータ31の左側面には凹部31aおよびボス部31bが形成されており、ボス部31bがメインシャフト20の外周面にスプライン結合33される。ロータ31の右側面には円板状のレリーズカバー76のボス部76aがボルト77…で固定されており、このボス部76aに内周部をスプライン結合78されたダンパー36の外周部が、前記クラッチディスク74の内周部に固定される。
【0025】
電動モータMのロータ31の内部に形成されたアクチュエータ収納空間80には、エンジン切離しクラッチ37を操作するレリーズアクチュエータ81が収納される。レリーズアクチュエータ81は、ロータ31のアクチュエータ収納空間80の外周壁および内周壁に軸方向摺動自在に嵌合するアクチュエータピストン82を備えており、そのアクチュエータピストン82の左側にアクチュエータ油室83が区画される。アクチュエータピストン82と一体に形成されたレリーズシャフト84は、レリーズカバー76の中心にスプライン結合85されて右側に突出し、その先端部がレリーズベアリング86を介して前記ダイアフラムスプリング73の内周部に接続される。
【0026】
右ミッションケース12の左側面において、メインシャフト20にオイルポンプ駆動スプロケット87が固定される。ギヤポンプよりなるオイルポンプ88は、左ミッションケース14に固定したポンプカバー89の内部で噛合する一対のポンプギヤ90,91を備えており、一方のポンプギヤ90の軸に固定したオイルポンプ従動スプロケット92が無端チェーン93でオイルポンプ駆動スプロケット87に接続される。従って、メインシャフト20が回転すると、その回転が無端チェーン93を介してオイルポンプ88に伝達される。
【0027】
右ミッションケース12の右側面に、メインシャフト20の外周を囲む油路形成部材94が圧入されており、この油路形成部材94の内周面にロータ31のボス部31bの外周面が一対のOリング95,96を介して嵌合する。
【0028】
前記オイルポンプ88の吐出ポートは、図示せぬバルブブロックを介して、右ミッションケース12の油路12a,12b、右ミッションケース12および油路形成部材94間の環状の油室97、油路形成部材94の油路94aおよびロータ31の油路31c,32d,32eを介してアクチュエータ油室83に連通する。
【0029】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0030】
エンジン切離しクラッチ37は、そのダイアフラムスプリング73の弾発力で常時係合しているので、エンジンEを始動すべく電動モータMをスタータモータとして駆動すると、ロータ31の回転が、レリーズカバー76→ダンパー36→係合状態にあるエンジン切離しクラッチ37→フライホイール35→ドライブプレート68の経路でクランクシャフト34に伝達され、エンジンEを始動することができる。エンジンEの始動時にはオイルポンプ88が充分な油圧を発生していないため、仮に油圧でエンジン切離しクラッチ37を係合させる構造であると、エンジン切離しクラッチ37が非係合であるために電動モータMでエンジンEを始動できない虞があるが、本実施の形態ではエンジン切離しクラッチ37を常時係合状態に維持することで、上記問題を解決することができる。
【0031】
電動モータMの駆動力だけで走行する場合や、電動モータMを回生制動する場合には、エンジン切離しクラッチ37を非係合にして電動モータMからエンジンEを切り離し、エンジンEの引きずりによる電動モータMの消費電力の増加や、回生制動によるエネルギー回収効率の低下を回避することができる。
【0032】
図3から明らかなように、エンジン切離しクラッチ37を係合解除するには、オイルポンプ88が発生する油圧を、右ハウジング12の油路12a,12b→油室97→油路形成部材94の油路94a→ロータ31の油路31c,32d,32eの経路でアクチュエータ油室83に伝達すれば良い。アクチュエータ油室83に油圧が供給されると、アクチュエータピストン82と共にレリーズシャフト84が右動し、レリーズベアリング86を介してダイアフラムスプリング73の中央部が押圧されることで、プレッシャディスク72がクラッチディスク74から離反してエンジン切離しクラッチ37の係合が解除される。
【0033】
以上のように、電動モータMのロータ31とフライホイール35との間に配置したエンジン切離しクラッチ37を係合解除するためのレリーズアクチュエータ81を、ロータ31の内部に形成したアクチュエータ収納空間80に配置したので、ロータ31の軸方向の幅内にレリーズアクチュエータ81を納めてエンジンEおよび電動モータMを含むパワーユニットの軸方向寸法を小型化することができる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0035】
例えば、本発明のトランスミッションは実施の形態のベルト式無段変速機に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ハイブリッド車両用のトランスミッションの展開図
【図2】図1の2部拡大図
【図3】図2の3部拡大図
【図4】図1の4部拡大図
【符号の説明】
【0037】
E エンジン
M 電動モータ
T トランスミッション
20 メインシャフト(入力軸)
31 ロータ
34 クランクシャフト
35 フライホイール
37 エンジン切離しクラッチ(乾式クラッチ)
80 アクチュエータ収納空間
81 レリーズアクチュエータ(アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の駆動力を発生可能なエンジン(E)および電動モータ(M)と、
前記エンジン(E)および前記電動モータ(M)の一方または両方の駆動力が選択的に入力される入力軸(20)を有するトランスミッション(T)と、
前記エンジン(E)のクランクシャフト(34)に固定されるフライホイール(35)を前記トランスミッション(T)の入力軸(20)に対して連結および連結解除する乾式クラッチ(37)とを備え、
前記電動モータ(M)のロータ(31)は、前記入力軸(20)と一体に回転し得るように該入力軸(20)の外周面に固定され、前記乾式クラッチ(37)は前記ロータ(31)と前記フライホイール(35)との間に配置されるハイブリッド車両用動力装置であって、
前記乾式クラッチ(37)を操作するアクチュエータ(81)を、前記入力軸(20)の外周面と前記ロータ(31)の内周面との間のアクチュエータ収納空間(80)に配置することを特徴とするハイブリッド車両用動力装置。
【請求項2】
前記乾式クラッチ(37)は常時係合しており、前記アクチュエータ(81)への油圧の供給により係合解除することを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド車両用動力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−6191(P2010−6191A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166515(P2008−166515)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】