説明

ハイブリッド車両用駆動装置

【課題】発電効率が高い回転速度範囲のみを用いて回生発電を行うことができるハイブリッド車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】エンジン7の駆動力をワンウェイクラッチ14を介して変速機17に伝達し、該変速機17で変速された後の駆動力を後輪WRに伝達するエンジン駆動系と、モータ15の駆動力を後輪WRに伝達するモータ駆動系とを備えるハイブリッド車両用駆動装置において、モータ駆動系のモータ15の駆動力を、エンジン駆動系における変速機17の上流かつワンウェイクラッチ14の下流に合流させる。変速機17は、一方側クラッチCL1および他方側クラッチCL2の接続状態を交互に切り換えることで隣り合う変速ギヤ間の変速を可能とするツインクラッチ18を備え、モータ15の回生制御時に発電効率が高くなる任意の回転速度およびモータトルクが発生するように自動変速される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両用駆動装置に係り、特に、エンジンおよびモータを車両の駆動源として協働させるハイブリッド車両のハイブリッド車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンおよびモータを車両の駆動源として協働させるハイブリッド車両が知られている。車体にはモータに電力を供給するバッテリが搭載されており、減速時や下り坂の走行時等にはモータを回生発電させてバッテリ充電を行うことで、さらなるエネルギ効率の向上を図るように構成されている。
【0003】
特許文献1には、スクータ型のハイブリッド二輪車両において、車体フレームに揺動自在に取り付けられると共に後輪を軸支するユニットスイングに、エンジンおよびモータを収納した構成が開示されている。このハイブリッド二輪車両では、エンジンの駆動力はベルト式の無段変速機を介して後輪に伝達され、一方、後輪の車軸近傍に配設されたモータの駆動力は、無段変速機を介さずに後輪に伝達されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3967309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記したように、ハイブリッド車両においては、減速時や下り坂の走行時等にモータを発電機として使用して回生発電を行うことでエネルギ効率の向上を図ることができるが、回生発電時の発電効率は、モータの特性に応じた特定の回転速度範囲で高く、この回転速度範囲から外れるほど低くなることが知られている。しかしながら、特許文献1に記載された技術では、モータと後輪との間の減速比率が固定されているため、回生充電時のモータの回転速度は後輪の回転速度に比例したものとなり、発電効率が高い回転速度範囲を積極的に選択して回生充電を行うことはできなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、発電効率が高い回転速度範囲のみを用いて回生発電を行うことができるハイブリッド車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、エンジン(7)の駆動力を駆動力断接手段(14,90,100)を介して変速機(17)に伝達し、該変速機(17)で変速された後の駆動力を後輪(WR)に伝達するエンジン駆動系と、モータ(15)の駆動力を後輪(WR)に伝達するモータ駆動系とを備えるハイブリッド車両用駆動装置において、前記モータ駆動系のモータ(15)の駆動力を、前記エンジン駆動系における前記変速機(17)の上流かつ前記駆動力断接手段(14,90,100)の下流に合流させる点に第1の特徴がある。
【0008】
また、前記駆動力断接手段(14)は、エンジン(7)側から入力される駆動力を変速機(17)側に伝達可能であると共に、変速機(17)側から入力される駆動力をエンジン(7)側に伝達不能とするワンウェイクラッチからなる点に第2の特徴がある。
【0009】
また、前記駆動力断接手段(90,100)は、制御部(10)によって任意に断接制御可能な多板クラッチ(90)またはドグクラッチ(100)からなる点に第3の特徴がある。
【0010】
また、前記変速機(17)は、制御部(10)の指令に応じて変速ギヤを任意に切り換え可能な自動変速機であり、前記制御部(10)は、前記モータ(15)の回生制御時に、発電効率が高くなる任意の回転速度およびモータトルクが発生するように前記変速機(17)を自動制御するように構成されている点に第4の特徴がある。
【0011】
また、前記変速機(17)は、一方側クラッチ(CL1)および他方側クラッチ(CL2)の接続状態を交互に切り換えることで隣り合う変速ギヤ間の変速を可能とするツインクラッチ(18)を備える点に第5の特徴がある。
【0012】
また、前記モータ(15)は、車体側面視で、前記エンジン(7)のクランクシャフト(13)の車体後方かつ前記変速機(17)の車体上方に配設されている点に第6の特徴がある。
【0013】
また、前記駆動力断接手段(14,90,100)は、前記エンジン(7)のクランクシャフト(13)の一端側に取り付けられており、前記クランクシャフト(13)の他端側には、発電機(12)が取り付けられており、前記ツインクラッチ(18)は、前記変速機(17)のメインシャフト(80,81)上で、前記発電機(12)に対して軸方向反対側の端部に取り付けられている点に第7の特徴がある。
【0014】
さらに、前記ツインクラッチ(18)は、前記変速機(17)のメインシャフト(80,81)上に設けられ、前記駆動力断接手段(14,90,100)は、前記メインシャフト(80,81)上に設けられたプライマリドリブンギヤ(67)に駆動力を伝達するように構成されており、前記プライマリドリブンギヤ(67)は、前記ツインクラッチ(18)に駆動力を伝達するように構成されており、前記プライマリドリブンギヤ(67)に、前記モータ(15)のモータ出力ギヤ(84)が噛合する点に第8の特徴がある。
【発明の効果】
【0015】
第1の特徴によれば、モータ駆動系のモータの駆動力を、エンジン駆動系における変速機の上流かつ駆動力断接手段の下流に合流させるので、エンジンまたはモータのみ、または、エンジンおよびモータの両方を用いて回転駆動力を後輪に伝達するハイブリッド走行を可能にすると共に、減速時等にモータを回生制御する際には、後輪から入力される回転駆動力を変速機によって変速し、モータを任意の回転速度で回転させることが可能となる。これにより、回生制御時の走行状態が異なった場合でも、任意の回転速度およびトルクが発生するように変速機を自動制御することでモータの発電効率を高めることができる。さらに、必要に応じて回生制御によるモータトルクを変更して、エンジン車のエンジンブレーキと同様の減速フィーリングを発生させることも可能となる。
【0016】
第2の特徴によれば、駆動力断接手段は、エンジン側から入力される駆動力を変速機側に伝達可能であると共に、変速機側から入力される駆動力をエンジン側に伝達不能とするワンウェイクラッチからなるので、モータで後輪を駆動する際には、エンジン側への駆動力伝達が遮断されることとなり、例えば、エンジンを停止した状態で後輪を駆動することが可能となる。また、モータを回生制御する場合にもエンジンが連れ回されることがなく、駆動力の伝達ロスを低減してエネルギ効率を高めることができる。
【0017】
第3の特徴によれば、駆動力断接手段は、制御部によって任意に断接制御可能な多板クラッチまたはドグクラッチからなるので、エンジンと変速機との間の駆動力伝達を任意に断接できることとなり、例えば、モータで後輪を駆動する際に、エンジン側への駆動力伝達を遮断してエンジンを停止した状態で走行することが可能となる。
【0018】
第4の特徴によれば、変速機は、制御部の指令に応じて変速ギヤを任意に切り換え可能な自動変速機であり、制御部は、モータの回生制御時に、発電効率が高くなる任意の回転速度およびモータトルクが発生するように変速機を自動制御するように構成されているので、自動変速機の変速制御によって回生制御時の発電効率を高めることができる。
【0019】
第5の特徴によれば、変速機は、一方側クラッチおよび他方側クラッチの接続状態を交互に切り換えることで隣り合う変速ギヤ間の変速を可能とするツインクラッチを備えるので、回転駆動力を遮断することなく変速できるため、回生制御時の変速がスムーズとなり発電効率を高めることが容易となる。
【0020】
第6の特徴によれば、モータは、車体側面視で、エンジンのクランクシャフトの車体後方かつ変速機の車体上方に配設されているので、車体側面視で、エンジン前後方向の略中央の位置にモータが配設されることとなり、パワーユニットのマスの集中を図ることができる。
【0021】
第7の特徴によれば、駆動力断接手段は、エンジンのクランクシャフトの一端側に取り付けられており、クランクシャフトの他端側には、発電機が取り付けられており、ツインクラッチは、変速機のメインシャフト上で、発電機に対して軸方向反対側の端部に取り付けられているので、重量物である発電機およびツインクラッチが車幅方向左右に分散配置されることとなり、車両の車幅方向の重量バランスを整えることが可能となる。
【0022】
第8の特徴によれば、ツインクラッチは、変速機のメインシャフト上に設けられ、駆動力断接手段は、メインシャフト上に設けられたプライマリドリブンギヤに駆動力を伝達するように構成されており、プライマリドリブンギヤは、ツインクラッチに駆動力を伝達するように構成されており、プライマリドリブンギヤに、モータのモータ出力ギヤが噛合するので、1つのプライマリドリブンギヤに、エンジン側の駆動力断接手段およびモータ側のモータ出力ギヤを連結させることが可能となり、部品点数および重量の削減することが可能となる。また、変速機の上方にモータを配設することが容易となり、モータを設けることによりエンジンのクランクケースが大型化することを防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置を適用した自動二輪車の左側面図である。
【図2】ハイブリッド二輪車のエンジンの断面図である。
【図3】駆動力断接手段の構成を示した図2の一部拡大図である。
【図4】駆動力断接手段の第1変形例を示す拡大図である。
【図5】駆動力断接手段の第2変形例を示す拡大図である。
【図6】ハイブリッド車両用駆動装置の全体構成を示すブロック図である。
【図7】モータ駆動時の駆動力の伝達経路およびモータ回生制御時の駆動力の伝達経路を示すブロック図である。
【図8】本実施形態に係る減速時回生制御の手順を示すフローチャートである。
【図9】モータ回転数およびモータトルクと発電効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置を適用した自動二輪車1の左側面図である。鞍乗型の自動二輪車1は、エンジン7およびモータ15を協働させて後輪WRを駆動する鞍乗型のハイブリッド二輪車両である。
【0025】
車体フレーム2の前方側には、左右一対のフロントフォーク4を操舵可能に軸支するヘッドパイプ3が設けられている。フロントフォーク4の下端部には、前輪WFが回動自在に軸支されており、一方の上端部には、操向ハンドル8が取り付けられている。操向ハンドル8の車体前方側には、フロントフォーク4と一体に揺動動作するメータ装置5および前照灯6が配設されている。
【0026】
車体フレーム2は、トラス構造を有する左右一対のメインフレームを備え、その車体下部には、並列2気筒のエンジン7およびモータ15を含むパワーユニット全体が吊り下げられるように支持されている。エンジン7のクランクケース24の略中央には、車幅方向に指向するクランクシャフト13が配設されている。クランクシャフト13の車体前方側には、シリンダブロック21が取り付けられている。シリンダブロック21の上部には、動弁機構を有するシリンダヘッド22およびシリンダヘッドカバー23が取り付けられている。シリンダヘッド22の吸気ポート側には、連結管25によってエアクリーナボックス27と連結されるスロットルボディ26が取り付けられており、一方の排気ポート側には、マフラ41に連結される排気管42が取り付けられている。スロットルボディ26の内部には、スロットルバルブおよび燃料噴射装置のインジェクタ(不図示)が備えられ、排気管42の内部には三元触媒が配設されている。
【0027】
エンジン7と協働して後輪WRを駆動するモータ15は、クランクシャフト13の後部上方かつメインシャフト81およびカウンタシャフト82を含む変速機(自動変速機)17の上方の位置で、クランクケース24の上面部に固定されている。
【0028】
クランクケース24の後端部には、左右一対のピボットプレート37が固定されている。ピボットプレート37には、後輪WRを回転自在に軸支するスイングアーム39がスイングアームピボット36を介して支持されている。さらに、ピボットプレート37には、停車時に車体を直立させるセンタースタンド38、乗員の足乗せステップを支持する左右一対のステッププレート30が支持されている。スイングアーム39の車体後方側は、左右一対のクッションユニット33によって車体に吊り下げられている。エンジン7およびモータ15の回転駆動力は、ドライブチェーン40を介して後輪WRに伝達される。
【0029】
車体フレーム2の上方には、燃料タンク29および左右一対のサイドカバー28が配設されている。エアクリーナボックス27は、燃料タンク29の前方下部に形成される凹部に収められている。車体フレーム2の後部には、左右一対のリヤフレーム32が固定されている。リヤフレーム32の上部にはシート31が配設されており、その後部には、尾灯装置35を支持するリヤカウル34が取り付けられている。
【0030】
シート31の下部には、モータ15の駆動時に電力を供給すると共に、モータ15の回生発電時にこの発電電力で充電されるバッテリ11と、モータ15の駆動制御やエンジン7の変速機17の変速制御等を行う制御部(ECU)10とが配設されている。
【0031】
図2は、本実施形態に係るハイブリッド二輪車1のエンジン7の断面図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。クランクシャフト13のクランクウェブ56間には、コンロッド55の大端部が回転自在に取り付けられており、コンロッド55の小端部には、シリンダブロック21に形成されたシリンダ内を往復動作するピストン54が取り付けられている。
【0032】
シリンダヘッド22には、吸排気バルブ(不図示)を駆動するカムシャフト50が配設されている。カムシャフト50の図示右端部には、無端状のカムチェーン53が巻き掛けられるカムスプロケット51が固定されている。カムチェーン53の他方側は、クランクシャフト13に形成された駆動ギヤ57に巻き掛けられている。また、カムシャフト50の図示左端側は、エンジン冷却水を循環させるウォータポンプ52に接続されている。
【0033】
クランクシャフト13の図示左端部には、クランクシャフト13と同期回転する発電機12が取り付けられている。発電機12は、クランクケース24側に固定されたステータ66とその外周側で回転するロータ65からなるアウタロータ式とされる。
【0034】
発電機12の図示右側には、エンジン始動用のセルモータ(不図示)によってクランクシャフト13を回転させるための始動用スプロケット62が、ワンウェイクラッチ63を介して取り付けられている。
【0035】
クランクシャフト13の図示右端部には、駆動力断接手段としてのワンウェイクラッチ14が取り付けられている。ワンウェイクラッチ14は、ボルト61によってクランクシャフト13に固定された外側リング59と、外側リング59に対して回転自在に軸支されたエンジン出力ギヤ58と、外側リング59およびエンジン出力ギヤ58との間に配設されるカム機構60とから構成される。ワンウェイクラッチ14は、クランクシャフト13から駆動力が入力された場合にはこの駆動力をエンジン出力ギヤ58に伝達すると共に、エンジン出力ギヤ58から駆動力が入力された場合には、この駆動力をクランクシャフト13に伝達しないように構成されている。
【0036】
エンジン出力ギヤ58は、変速機17の入力軸としてのメインシャフトに取り付けられた駆動力断接手段としてのプライマリドリブンギヤ67に噛合している。プライマリドリブンギヤ67の軸方向両側には、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2からなるクラッチ手段としてのツインクラッチ18が配設されている。これに対応して、変速機17のメインシャフトは、筒状の外側シャフト80と該外側シャフト80に相対回転可能に軸支される内側シャフト81からなる二重構造を有している。
【0037】
ツインクラッチ18の第1クラッチCL1および第2クラッチCL2は、それぞれ制御部10(図6参照)によって制御されるクラッチ駆動手段19によって自動的に断接動作を行うことが可能とされる。第1クラッチCL1の第2クラッチケース68aおよび第2クラッチCL2の第2クラッチケース68bは、それぞれ、プライマリドリブンギヤ67と一体に回転するように構成されている。そして、第1クラッチCL1のクラッチ板69aに摩擦力が発生すると、第1クラッチケース68aの回転駆動力が第1クラッチ支持部材70aを介して内側シャフト81に伝達され、一方、第2クラッチCL2のクラッチ板69bに摩擦力が発生すると、第2クラッチケース68bの回転駆動力が第2クラッチ支持部材70bを介して外側シャフト80に伝達される。
【0038】
変速機17は、前進6段の有段変速機であり、1,3,5速の奇数段の駆動側ギヤが内側シャフト81に回転不能に支持され、一方、2,4,6速の偶数段の駆動側ギヤが外側シャフト80に回転不能に支持されている。そして、プライマリドリブンギヤ67に入力された回転駆動力は、第1クラッチCL1を接続した場合には内側シャフト81に伝達され、第2クラッチCL2を接続した場合には外側シャフト80にのみ伝達される。
【0039】
変速機17の変速ギヤの噛み合わせは、変速モータ16(図6参照)で変更されるように構成されており、カウンタシャフト82からは、所定の変速ギヤ対に対応する減速比で減速された回転駆動力が出力される。変速モータ16による変速動作は、エンジン回転数、車速、スロットル開度等の情報に基づいて自動的に実行されるほか、操向ハンドル8等に設けられた変速スイッチ(不図示)の操作により任意に行うこともできる。
【0040】
このツインクラッチ式変速機は、例えば、3速ギヤで回転駆動力が伝達されている間に4速ギヤでの駆動伝達が可能となるように予め噛み合わせを変更する予備変速が実行可能に構成されている。これにより、予備変速が完了した状態では、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2の接続状態を互いに切り換える、すなわち、クラッチの接続状態の持ち替えを行うことで、隣り合う変速段への変速動作を完了させることが可能となる。カウンタシャフト82の図示左端部には、ドライブチェーン40(図1参照)に駆動力を伝達するドライブスプロケット20が、ボルト83によって固定されている。
【0041】
変速機17の車体上方の位置でクランクケース24の上面部に配設されるモータ15は、回転軸85に固定されたロータ86と、該ロータ86の周囲に配設されるステータ87とからなるインナロータ式とされる。回転軸85の一端部にはモータ出力ギヤ84が固定されており、このモータ出力ギヤ84がプライマリドリブンギヤ67に噛み合っている。
【0042】
これにより、変速機17のメインシャフトに取り付けられたプライマリドリブンギヤ67には、前記したエンジン出力ギヤ58およびモータ出力ギヤ84の2つのギヤが噛み合うこととなる。すなわち、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置は、クランクシャフト13の回転駆動力を後輪WRに伝達するエンジン駆動系において、変速機17の上流かつワンウェイクラッチ(駆動力断接手段)14の下流の位置に、モータ15の駆動力を合流させる点に特徴がある。この特徴によれば、以下に示す動作が実現される。
(1)エンジンの駆動力で走行する場合は、ワンウェイクラッチを介して変速機に駆動力が伝達される。このとき、モータはクランクシャフトに連れ回りする。
(2)モータの駆動力で走行する場合は、モータから変速機に駆動力が伝達される。このとき、モータの駆動力は、ワンウェイクラッチの作用によりクランクシャフトには伝達されないので、クランクシャフトが連れ回されることはない。
(3)減速時や下り坂の走行時において駆動力が不要なときは、後輪側から入力される回転駆動力でモータを回生発電することができる。この場合において、変速機の変速制御を行うことにより、モータの回転速度を任意に変更することが可能である。さらに、回生発電時にも、クランクシャフトが連れ回されることがない。
【0043】
図3は、駆動力断接手段の構成を示した図2の一部拡大図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。前記したように、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置では、エンジン7の駆動力をワンウェイクラッチ14を介して変速機17に伝達し、該変速機17で変速された後の駆動力を後輪WRに伝達するエンジン駆動系と、モータ15の駆動力を後輪WRに伝達するモータ駆動系とを備えるハイブリッド車両用駆動装置において、モータ駆動系のモータ15の駆動力を、エンジン駆動系における変速機17の上流かつワンウェイクラッチ14の下流に合流させるように構成されている。
【0044】
より詳しくは、クランクシャフト13の図示右端部には、外側リング59がスプライン嵌合されると共に、ワッシャ88を介してボルト61で固定されている。外側リング59には、エンジン出力ギヤ58が回転自在に挿嵌されている。外側リング59とエンジン出力ギヤ58との間には、外側リング59側から入力される一方向の回転駆動力のみをエンジン出力ギヤ58に伝達可能とするカム機構60が配設されている。なお、カム機構60は、ボールやローラによる一方向駆動機構に代えることもできる。
【0045】
プライマリドリブンギヤ67は、複数のダンパ89を介してクラッチケース支持部材89aに取り付けられている。クラッチケース支持部材89aには、プライマリドリブンギヤ89を挟んで、第1クラッチケース68aおよび第2クラッチケース68bが背面合わせで固定されている。本実施形態に係るツインクラッチ18は、油圧ポンプ(不図示)で生じた油圧が供給されることで接続状態に切り換わるノーマリオープン式の油圧クラッチであり、クラッチ駆動手段19(図6参照)は、油圧通路を開閉するソレノイドバルブで構成されている。なお、クラッチの形態は種々の変形が可能であり、これに伴い、クラッチ駆動手段はクラッチ支持部材を機械的に押圧駆動するアクチュエータ等で構成することが可能である。
【0046】
上記した実施形態では、駆動力断接手段にワンウェイクラッチ14を用いたが、ワンウェイクラッチに代えて他の機構を適用することも可能である。以下、図4,5を参照して、駆動力断接手段の変形例を説明する。
【0047】
図4は、駆動力断接手段の第1変形例を示す拡大図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。この第1変形例では、駆動力断接手段として、制御部10によって任意に断接制御されるノーマリオープン式の多板クラッチ90を適用している。
【0048】
クランクシャフト13の図示右端部には、クラッチ支持部材94がスプライン嵌合されると共に、ワッシャ97を介してボルト96で固定されている。クラッチ支持部材94の図示左側には、エンジン出力ギヤ95が回転自在に軸支されており、エンジン出力ギヤ95の円筒部の外周に、クラッチケース91が固定されている。クラッチケース91の内周部には、シール部材を介して油圧ピストン92が挿入されている。油圧ピストン92は、接続油圧が供給されることによりリターンスプリング93の付勢力に抗して図示右方に摺動し、これによりクラッチ板98に摩擦力が発生して、クランクシャフト13の回転駆動力がエンジン出力ギヤ95に伝達される。
【0049】
この多板クラッチ90による駆動力断接手段によれば、前記したワンウェイクラッチ14と同様の動作が可能となるほか、クラッチ断接時に半クラッチ状態を作り出して断接時の駆動力変動を小さくすることができる。
【0050】
図5は、駆動力断接手段の第2変形例を示す拡大図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。この第2変形例では、駆動力断接手段として、制御部10によって任意に断接制御されるドグクラッチ100を適用している。
【0051】
クランクシャフト13の図示右端部には、軸方向に突出した複数のドグ104を有するスリーブ102が軸方向に摺動可能にスプライン嵌合され、ワッシャ107を介してボルト106で固定されている。スリーブ102の図示左側には、複数のドグ孔103が形成されたエンジン出力ギヤ105が固定されている。スリーブ102が、アクチュエータ等の駆動力により図示左方に摺動されると、ドグ104がドグ孔102に係合して、駆動力伝達状態に切り換わる。このドグクラッチ100による駆動力断接手段によれば、ロスの少ない駆動力伝達が可能となる。
【0052】
図6は、ハイブリッド車両用駆動装置の全体構成を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。図2を用いて説明したように、クランクシャフト13の一端部には発電機12が設けられており、他端部には駆動力断接手段14が設けられている。駆動力断接手段14は、プライマリドリブンギヤ67に噛合しており、このプライマリドリブンギヤ67に、クラッチ手段(ツインクラッチ)18が連結されると共にモータ15の出力ギヤが噛合している。
【0053】
クラッチ手段18は、制御部10によって制御されるクラッチ駆動手段19によって断接制御され、変速機17は制御部10によって制御される変速モータ16によって変速制御される。バッテリ11は、発電機12およびモータ15に接続されており、制御部10は、モータ15の駆動および回生発電制御、さらには発電機12の発電制御を行う。
【0054】
図7は、モータ駆動時の駆動力の伝達経路(a)およびモータ回生制御時の駆動力の伝達経路(b)を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。(a)に示すモータ駆動時では、バッテリ11からの供給電力によってモータ15が駆動し、その回転駆動力は、プライマリドリブンギヤ67→クラッチ手段18→変速機17→後輪WRの順で駆動力が伝達される。このとき、駆動力断接手段14の作用により、クランクシャフト13にはモータ15の駆動力が伝達されない。
【0055】
一方、(b)に示すモータ回生制御時では、後輪WR→変速機17→クラッチ手段18→プライマリドリブンギヤ67→モータ15の順で駆動力が伝達される。このとき、制御部10は、モータ15の回生発電によりバッテリ11を充電することができる。この場合にも、駆動力断接手段14の作用により、クランクシャフト13に駆動力が伝達されないので、クランクシャフト13が連れ回ることによるロスを削減することができる。
【0056】
そして、本発明に係るハイブリッド車両用駆動装置においては、モータ15の駆動力で走行中、または、モータ15の回生制御中のいずれの場合でも、変速機17による変速動作が可能である。これにより、特に、回生制御中に任意の変速段に変速することにより、モータ15の回転速度を調整して、回生制御時の発電効率を高めることが可能となる。
【0057】
図8は、本実施形態に係る減速時回生制御の手順を示すフローチャートである。ステップS1で減速要求があると、ステップS2に進んで要求減速度の算出が行われる。減速要求とは、例えば、スロットルが閉じられたり、ブレーキ操作が行われたりすることであり、要求減速度は、車速センサや勾配角度センサ等の情報も考慮して算出される。
【0058】
ステップS3では、要求減速度に対応するモータ回転数およびモータトルクの組み合わせが算出され、続くステップS4では、算出された組み合わせから発電効率が最大となる1つが選択される。ここで、図9のグラフを参照する。
【0059】
図9は、モータ回転数およびモータトルクと発電効率との関係を示すグラフである。前記したように、モータ15の回生制御時の発電効率は、モータ回転数(回転速度)およびモータトルクと連関するものであり、このグラフでは、モータ回転数N1〜N2の所定範囲内で最高効率領域K1が発揮される一方、モータ回転数がN1〜N2の所定範囲から離れるほど、発電効率はK2>K3>K4>K5の関係で低下することとなる。
【0060】
これに対し、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置では、変速機17の自動変速制御により、発電効率を常に良好な状態に保つことが可能である。具体的には、図8のステップS3において、要求減速度に対応するモータ回転数およびモータトルクの組み合わせが、このグラフにおけるC1〜C5として算出されるが、ステップS4では、この5つの組み合わせから発電効率が最も高くなるC3が選択されることとなる。
【0061】
図8のフローチャートに戻って、ステップS5では、制御部10によって、発電効率が最大となる組み合わせC3に基づいてモータ15へ発電トルクが指示される。そして、ステップS6では自動変速機17へ適切な変速段への変速指示がされ、ステップS7において、モータ15による回生制御が開始されて、一連の制御を終了する。
【0062】
上記したように、本発明に係るハイブリッド車両用駆動装置によれば、エンジン7の駆動力をワンウェイクラッチ14または任意に断接可能な駆動力断接手段を介して変速機17に伝達し、該変速機17で変速された後の駆動力を後輪WRに伝達するエンジン駆動系と、モータ15の駆動力を後輪WRに伝達するモータ駆動系とを備えるハイブリッド車両用駆動装置において、モータ駆動系のモータ15の駆動力を、エンジン駆動系における変速機17の上流かつワンウェイクラッチ14または任意に断接可能な駆動力断接手段の下流に合流させたので、減速時等にモータを回生制御する際には、後輪WRの回転駆動力を変速機17によって変速し、モータを任意の回転速度で回転させることが可能となる。これにより、回生制御時の走行状態が異なった場合でも、任意の回転速度およびトルクが発生するように変速機を自動制御してモータの発電効率を高めることが可能となる。
【0063】
なお、変速機、クラッチ手段、駆動力断接手段の構成等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。本発明に係るハイブリッド車両用駆動装置は、ハイブリッド二輪車に限られず、鞍乗型の三/四輪車等の各種ハイブリッド車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…自動二輪車(ハイブリッド車両)、7…エンジン、10…制御部、11…バッテリ、12…発電機、13…クランクシャフト、14…ワンウェイクラッチ(駆動力断接手段)、15…モータ、16…変速モータ、17…変速機、18…ツインクラッチ(クラッチ手段)、19…クラッチ駆動手段、67…プライマリドリブンギヤ、90…多板クラッチ(駆動力断接手段)、100…ドグクラッチ(駆動力断接手段)、WR…後輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(7)の駆動力を駆動力断接手段(14)を介して変速機(17)に伝達し、該変速機(17)で変速された後の駆動力を後輪(WR)に伝達するエンジン駆動系と、モータ(15)の駆動力を後輪(WR)に伝達するモータ駆動系とを備えるハイブリッド車両用駆動装置において、
前記モータ駆動系のモータ(15)の駆動力を、前記エンジン駆動系における前記変速機(17)の上流かつ前記駆動力断接手段(14,90,100)の下流に合流させることを特徴とするハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項2】
前記駆動力断接手段(14)は、エンジン(7)側から入力される駆動力を変速機(17)側に伝達可能であると共に、変速機(17)側から入力される駆動力をエンジン(7)側に伝達不能とするワンウェイクラッチからなることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項3】
前記駆動力断接手段(90,100)は、制御部(10)によって任意に断接制御可能な多板クラッチ(90)またはドグクラッチ(100)からなることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項4】
前記変速機(17)は、制御部(10)の指令に応じて変速ギヤを任意に切り換え可能な自動変速機であり、
前記制御部(10)は、前記モータ(15)の回生制御時に、発電効率が高くなる任意の回転速度およびトルクが発生するように前記変速機(17)を自動制御するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項5】
前記変速機(17)は、一方側クラッチ(CL1)および他方側クラッチ(CL2)の接続状態を交互に切り換えることで隣り合う変速ギヤ間の変速を可能とするツインクラッチ(18)を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項6】
前記モータ(15)は、車体側面視で、前記エンジン(7)のクランクシャフト(13)の車体後方かつ前記変速機(17)の車体上方に配設されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項7】
前記駆動力断接手段(14,90,100)は、前記エンジン(7)のクランクシャフト(13)の一端側に取り付けられており、
前記クランクシャフト(13)の他端側には、発電機(12)が取り付けられており、
前記ツインクラッチ(18)は、前記変速機(17)のメインシャフト(80,81)上で、前記発電機(12)に対して軸方向反対側の端部に取り付けられていることを特徴とする請求項5に記載のハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項8】
前記ツインクラッチ(18)は、前記変速機(17)のメインシャフト(80,81)上に設けられ、
前記駆動力断接手段(14,90,100)は、前記メインシャフト(80,81)上に設けられたプライマリドリブンギヤ(67)に駆動力を伝達するように構成されており、
前記プライマリドリブンギヤ(67)は、前記ツインクラッチ(18)に駆動力を伝達するように構成されており、
前記プライマリドリブンギヤ(67)に、前記モータ(15)のモータ出力ギヤ(84)が噛合することを特徴とする請求項5に記載のハイブリッド車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−176677(P2012−176677A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40402(P2011−40402)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】