説明

バイアス回路

【課題】個々のトランジスタの動作電圧の違いに起因する抵抗負荷差動増幅器の利得のバラつきを抑え、その利得が精度よく一定となるバイアス回路を提供する。
【解決手段】カレントミラー20は、差動対10を構成している一対のトランジスタM11及びM12の各々のドレインへ同量の電流を流し込む。電流源30は、利得安定化の対象である抵抗負荷差動増幅器の負荷抵抗に反比例している電流を流し出す。この電流は、差動対10の出力点である、トランジスタM12のドレインへ流し込まれる。テール電流調整回路40は、トランジスタM13のゲートに印加する電圧を変化させて差動対10のテール電流Iss1を制御し、差動対10の出力電流を電流源30が流し出す電流に一致させる。更に、利得安定化の対象である抵抗負荷差動増幅器を構成している差動対のテール電流を制御して、このテール電流をテール電流Iss1の変化に比例させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅器の技術に関し、特に、抵抗負荷差動増幅器の利得を、製造条件や温度条件などの変動に対して安定化させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ごく一般的な抵抗負荷差動増幅器の回路構成を図7Aに示す。同図に示す回路は、n型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor )であるトランジスタM101、M201、及びM301と、抵抗R101及びR201とより構成されている。
【0003】
図7Aにおいて、抵抗R101及びR201の各々一方の端子はトランジスタM101及びM201の各ドレインとそれぞれ接続されており、抵抗R101及びR201の他方の端子はどちらも電源Vddに接続されている。トランジスタM101及びM201の各ソースはトランジスタM301のドレインと接続されており、トランジスタM301のソースはグランドに接続されている。
【0004】
同図の回路に入力される差動信号である信号INP及びINMはトランジスタM101及びM201の各ゲートにそれぞれ入力されている。そして、同図の回路における差動出力である信号OUTM及びOUTPは、それぞれ、抵抗R101とトランジスタM101との接続点、及び、抵抗R201とトランジスタM201との接続点より取り出される。また、トランジスタM301のゲートには、トランジスタM301のドレイン−ソース間を流す電流Issの値を決定するバイアス電圧Biasが印加される。
【0005】
図7Aの回路は以上のように構成されている。従って、トランジスタM101とトランジスタM201とにより差動対が構成されており、トランジスタM301は、トランジスタM101とトランジスタM201との各々のドレイン−ソース間に流れる電流の和(テール電流:Tail Current)Issを決定する電流源として機能する。
【0006】
図7Aの回路の利得Avは、トランジスタM101及びM201の相互コンダクタンスをGmとし、抵抗R101及びR201の抵抗値をRとすると、下記の式で表すことができる。
【0007】
【数1】

【0008】
つまり、図7Aの回路の利得Avは、相互コンダクタンスGmと抵抗値Rとの積に比例する関係を有している。
ここで、製造条件や温度条件などが変動すると相互コンダクタンスGmや抵抗値Rは変動するため、利得Avもこれらの影響を受けて変動する。ここで、図7Aの回路を同一の半導体基板上に形成すると、相互コンダクタンスGmの変動や抵抗値Rの変動は各トランジスタ間あるいは各抵抗間でほぼ連動して生じる性質を有している。
【0009】
なお、利得Avが相互コンダクタンスGmと負荷抵抗の抵抗値Rとの積に比例する関係を有する回路は、図7Aに示した回路に限定されるものではない。このような関係を有する回路を例示する。
【0010】
例えば、図7Bに示した抵抗負荷差動増幅器は、n型MOSFETであるトランジスタM102及びM202を、図7Aに示した回路構成におけるトランジスタM101及びM201にカスケード接続して構成されたものである。すなわち、この回路は、抵抗R101とトランジスタM101のドレインとの接続点にトランジスタM102を挿入し、更に、抵抗R201とトランジスタM201のドレインとの接続点にトランジスタM202を挿入して構成されている。なお、トランジスタM102及びM202の両ゲートには定電圧Vrefが印加されている。
【0011】
また、図7Cに示した回路は、抵抗負荷の混合増幅器(ミキサ)である。この回路は、n型MOSFETであるトランジスタM103及びM203を、図7Bに示した回路に更に加えて構成されている。すなわち、この回路は、図7Bに示した回路における、抵抗R201とトランジスタM202のドレインとの接続点にトランジスタM103のドレインを接続し、トランジスタM102のソースとトランジスタM101のドレインとの接続点にトランジスタM103のソースを接続する。そして、図7Bに示した回路における、抵抗R101とトランジスタM102のドレインとの接続点にトランジスタM203のドレインを接続し、トランジスタM202のソースとトランジスタM201のドレインとの接続点にトランジスタM203のソースを接続する。なお、混合する2つの信号のうちの一方の信号は、差動信号INP及びINMとしてトランジスタM101及びM201の各ゲートにそれぞれ入力される。また、混合する2つの信号のうちの他方の信号は差動信号LOP及びLOMとされ、そのうちの信号LOPについてはトランジスタM102及びM202の両ゲートに入力され、信号LOMについてはトランジスタM103及びM203の両ゲートに入力される。
【0012】
このような図7Bや図7Cに示した回路であっても、回路の利得Avが相互コンダクタンスGmと負荷抵抗の抵抗値Rとの積に比例する関係を有している。
このような関係を有する抵抗負荷差動増幅器において、製造条件や温度条件などの変動に対して利得を安定化させるために、差動対を構成しているトランジスタの相互コンダクタンスGmが、負荷抵抗の抵抗値Rと反比例の関係になるようなバイアス条件を作り出す回路が提案されている。これは、相互コンダクタンスGmと抵抗値Rとが反比例の関係を有していれば、
【0013】
【数2】

【0014】
となり、相互コンダクタンスGmや抵抗値Rが変動しても利得が一定になるという考えに基づいたものである。
そのようなバイアス回路の例として、非特許文献1には、図8に示す回路が提案されている。
【0015】
図8に示す回路は、n型MOSFETであるトランジスタM111及びM112と、p型MOSFETであるトランジスタM113及びM114と、抵抗R111とより構成されている。ここで、トランジスタM112は、トランジスタサイズ比(トランジスタ素子のゲート幅Wとゲート長Lとの比)が、トランジスタM111のトランジスタサイズ比(W/L)N のK倍に形成されている。また、トランジスタM113とトランジスタM114とのトランジスタサイズ比(W/L)P は同一である。なお、抵抗R111の抵抗値をRsとする。
【0016】
図8において、トランジスタM111のドレイン及びゲートと、トランジスタM112のゲートと、トランジスタM114のドレインとが接続されている。従って、トランジスタM111はダイオード接続されている。また、トランジスタM112のドレインと、トランジスタM113のドレイン及びゲートと、トランジスタM114のゲートとが接続されている。従って、トランジスタM113はダイオード接続されている。
【0017】
トランジスタM113及びM114の各ソースはどちらも電源Vddに接続されている。また、トランジスタM111のソースはグランドに直接接続されており、トランジスタM112のソースは抵抗R111を介してグランドに接続されている。
【0018】
非特許文献1では、図8において、トランジスタM113のソースからドレインへと流れる電流Ioutは、トランジスタM114のソースからドレインへと流れる電流Irefに等しいことより、下記の式が導かれている。
【0019】
【数3】

【0020】
なお、上記の式において、μn はキャリアの移動度を表す定数であり、Coxはゲート容量を表す定数である。
ここで、MOSトランジスタで差動対を構成した回路の入出力特性について検討する。
【0021】
図9に示す回路は、n型MOSFETであるトランジスタM121、M221、及びM321より構成されている。ここで、差動対を構成するトランジスタM121とトランジスタM221とは、同一のトランジスタサイズ比(W/L)N を有しており、相互コンダクタンスGmも同一である。
【0022】
図9において、トランジスタM121及びM221の各ソースとトランジスタM321のドレインとは接続されており、トランジスタM321のソースはグランドに接続されている。従って、トランジスタM221を流れる電流Idpと、トランジスタM121を流れる電流Idmとの和の電流が、テール電流Issとして、トランジスタM321のドレイン−ソース間を流れる。なお、電流Issの値は、トランジスタM321のゲートに印加する電圧Biasによって決定される。
【0023】
ここで、電圧源E221により、Vin+ΔVin/2なる電圧をトランジスタM221のゲートに印加すると共に、電圧源E121により、Vin−ΔVin/2なる電圧をトランジスタM121のゲートに印加する。ここで、電圧Vinは同相電圧であり、ΔVinは微小逆相電圧である。
【0024】
ここで、微小電流ΔId=Idp−Idmを定義すると、差動対の相互コンダクタンスGmは下記の式で表されることが非特許文献1に示されている。
【0025】
【数4】

【0026】
ここで、ΔVinが十分に小さいときには、上記(4)式は下記の式に近似することができる。
【0027】
【数5】

【0028】
今、この図9の回路におけるテール電流Issを、図8に示した回路の出力電流Ioutに一致させる。すなわち、前掲した(3)式に表されている電流Ioutの式を、上記の(5)式におけるIssに代入する。すると、下記の式が得られる。
【0029】
【数6】

【0030】
上式において、Kは定数であるから、差動対の相互コンダクタンスGmは抵抗Rsと反比例の関係となっている。つまり、この(6)式の関係は(2)式を成立させるので、図9の回路の利得Avは、製造条件や温度条件などの変動に対して変動せずに一定になる。
【非特許文献1】ベザード・ラザビィ(Behzad Razavi )著、「デザイン・オブ・アナログ・シーモス・インテグレーテッド・サーキッツ(Design of Analog CMOS Integrated Circuits )」、(米国)、ザ・マクグロウヒル・カンパニーズ・インク(The McGraw-Hill Companies, Inc. )、2001年、p.107−108、p.377−379
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
図8に示したバイアス回路は、その出力電流IoutがトランジスタM111及びM112により決定される。ここで、同図から明らかなように、トランジスタM111及びM112M1とM2は、グランド電位の近辺で動作している。これに対し、抵抗負荷差動増幅器内で差動対を構成しているトランジスタは、一般的には、電源電圧の1/2程度の電位で動作させることが多い。
【0032】
ここで、MOSトランジスタの入出力特性を示す基本式は、
【0033】
【数7】

【0034】
である。なお、上記の式において、Idはドレイン電流、Vgsはゲート−ソース間電圧、Vthはゲート−ソース間の閾値電圧である。
この(7)式は、前掲した(3)式から(6)式の各式の基本となっている。ここで、これらの各式は、回路を構成する全てのトランジスタの閾値電圧Vthが等しいという仮定で導いたものである。ところが、各トランジスタの動作電位が異なると、基板バイアス効果(Body Effect )等により、個々のトランジスタの閾値電圧Vthが異なるため、(3)式から(6)式の各式は正確ではなくなる。
【0035】
このように、図8に示したバイアス回路におけるトランジスタM111及びM112は、動作時の電位が、抵抗負荷差動増幅器内で差動対を構成しているトランジスタの動作電位と異なるため、個々のトランジスタの閾値電圧Vthがずれてしまう。そのため、図8の回路では、前掲した(3)式から(6)式の各式が精度良く成り立たず、その結果として、増幅器の利得の変動を抑え切れないという問題を有していた。
【0036】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、個々のトランジスタの動作電圧の違いに起因する抵抗負荷差動増幅器の利得のバラつきを抑え、その利得が精度よく一定となるバイアス回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明の態様のひとつであるバイアス回路は、抵抗負荷差動増幅器のバイアス回路であって、第一の差動対と、当該第一の差動対のテール電流を制御して、当該第一の差動対の入力に一定の電位差を与えたときの当該第一の差動対の出力電流を、当該抵抗負荷差動増幅器における負荷抵抗に反比例させる制御部と、を有しており、当該抵抗負荷差動増幅器を構成している第二の差動対のテール電流を、当該第一の差動対のテール電流に比例させる、ことを特徴とするものであり、この特徴によって前述した課題を解決する。
【0038】
この構成によれば、抵抗負荷差動増幅器を構成している第二の差動対の相互コンダクタンスが当該抵抗負荷差動増幅器の負荷抵抗と反比例する関係になるので、当該抵抗負荷差動増幅器の利得が精度よく一定となる。
【0039】
なお、上述した本発明に係るバイアス回路において、当該第一の差動対と当該第二の差動対とを同一の回路構成とすることができる。
こうすることにより、第二の差動対のテール電流を、当該第一の差動対のテール電流に比例させることで、抵抗負荷差動増幅器を構成している第二の差動対の相互コンダクタンスを当該抵抗負荷差動増幅器の負荷抵抗に反比例する関係とすることができる。
【0040】
なお、このとき、当該第一の差動対を構成するトランジスタと当該第二の差動対を構成するトランジスタとのトランジスタサイズ比を同一としてもよい。
こうすることにより、第二の差動対のテール電流を、第一の差動対のテール電流と同一とすることで、抵抗負荷差動増幅器を構成している第二の差動対の相互コンダクタンスを当該抵抗負荷差動増幅器の負荷抵抗に反比例する関係とすることができる。
【0041】
また、前述した本発明に係るバイアス回路において、当該制御部が、当該第一の差動対を構成している一対のトランジスタの各々へ同量の電流を流し込むカレントミラーと、当該負荷抵抗に反比例している電流を流し出す電流源と、当該第一の差動対のテール電流を制御して、当該出力電流を当該電流源が流し出す電流に一致させるテール電流制御部と、を有するようにしてもよい。
【0042】
こうすることにより、第一の差動対の入力に一定の電位差を与えたときの第一の差動対の出力電流を、抵抗負荷差動増幅器における負荷抵抗に反比例させることができる。
なお、このとき、当該テール電流制御部は、当該電流源が流し出す電流を当該第一の差動対の出力点へ流し込んだときに当該出力点に生じる電圧が所定の基準電圧になるように、当該第一の差動対のテール電流を制御するようにしてもよい。
【0043】
このように構成することにより、第一の差動対の出力電流を電流源が流し出す電流に一致させることができる。
なお、このとき、当該テール電流制御部は、当該第一の差動対の出力点に生じる電圧が入力されて当該所定の基準電圧と比較する比較器を有しており、当該第一の差動対のテール電流を決定するトランジスタを、当該比較器の出力で制御するようにしてもよい。
【0044】
こうすることにより、第一の差動対の出力点に生じる電圧を所定の基準電圧になるように、第一の差動対のテール電流を制御することができる。
なお、このとき、当該比較器は、入力と出力との間に、コンデンサ、若しくは、コンデンサと抵抗との直列接続、が接続されているように構成してもよい。
【0045】
こうすることにより、バイアス回路内でのフィードバック制御に対する位相補償がなされる。
また、このとき、当該第二の差動対のテール電流を決定するトランジスタを当該比較器の出力で制御するようにしてもよい。
【0046】
こうすることにより、第二の差動対のテール電流を、第一の差動対のテール電流に比例させるようにすることができる。
また、前述した構成において、当該テール電流制御部は、当該第一の差動対の出力点に生じる電圧が入力されて当該所定の基準電圧と比較する比較器と、当該比較値の出力に基づいて電流を制御する第一及び第二のトランジスタと、当該第一の差動対のテール電流を決定するトランジスタとの間でカレントミラーを構成しており、ダイオード接続されている第三のトランジスタと、を有しており、当該第一のトランジスタによって制御されている電流を当該第三のトランジスタに流し、当該第二のトランジスタによって制御されている電流で、当該第二の差動対のテール電流を決定するトランジスタを制御するようにしてもよい。
【0047】
この構成によれば、第一の差動対の出力点に生じる電圧を所定の基準電圧になるように、第一の差動対のテール電流を制御し、更に、第二の差動対のテール電流を、第一の差動対のテール電流に比例させるようにすることができる。
【0048】
なお、このとき、当該第二の差動対のテール電流を決定するトランジスタとの間でカレントミラーを構成しており、ダイオード接続されている第四のトランジスタを更に有しており、当該第二のトランジスタによって制御されている電流を当該第四のトランジスタに流すようにしてもよい。
【0049】
こうすることにより、第二のトランジスタによって制御されている電流で、第二の差動対のテール電流を決定するトランジスタを制御することができる。
また、このとき、当該第三のトランジスタと当該第一の差動対のテール電流を決定するトランジスタとの接続点と、当該比較器の入力との間に、コンデンサ、若しくは、コンデンサと抵抗との直列接続が接続されているようにしてもよい。
【0050】
こうすることにより、バイアス回路内でのフィードバック制御に対する位相補償がなされる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、以上のようにすることにより、個々のトランジスタの動作電圧の違いに起因する抵抗負荷差動増幅器の利得のバラつきを抑え、その利得が精度よく一定となるバイアス回路が提供できるようになるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず図1について説明する。同図は、本発明を実施するバイアス回路(Gm補正回路)の原理構成を示している。
【0053】
図1において、差動対10は、n型MOSFETであるトランジスタM11及びM12より構成されている。ここで、トランジスタM11及びM12の各ソースと、n型MOSFETであるトランジスタM13のドレインとが接続されており、トランジスタM13のソースはグランドに接続されている。従って、トランジスタM13のドレイン−ソース間には、トランジスタM11及びM12の各々のドレイン−ソース間を流れる電流の和、すなわち、差動対10のテール電流Iss1が流れる。つまり、トランジスタM13は、差動対10のテール電流Iss1の値を決定するトランジスタである。
【0054】
トランジスタM11のゲートには、定電圧源E11により、Vin−ΔVin/2なる電圧が印加されており、トランジスタM12のゲートには、定電圧源E12により、Vin+ΔVin/2なる電圧が印加されている。つまり、差動対10の入力には一定の電位差ΔVinが与えられている。なお、電圧Vinは、例えば、回路の電源電圧Vddの1/2程度の電圧である。
【0055】
カレントミラー20は、差動対10を構成している一対のトランジスタM11及びM12の各々のドレインへ同量の電流を流し込む。
電流源30は、利得安定化の対象である抵抗負荷差動増幅器における負荷抵抗の抵抗値の変動に電流値が反比例している電流を流し出す。この電流は、差動対10の出力点である、トランジスタM12のドレインへ流し込まれる。
【0056】
テール電流調整回路40は、トランジスタM13のゲートに印加する電圧を変化させて差動対10のテール電流Iss1を制御し、差動対10の出力電流を電流源30が流し出す電流に一致させる。更に、利得安定化の対象である抵抗負荷差動増幅器を構成している差動対のテール電流を制御して、このテール電流を差動対10のテール電流Iss1の変化に比例させる。
【0057】
次に、図1に示した構成の動作原理を説明する。
差動対に印加する入力電圧ΔVinが十分に小さいときは、差動対の出力電流ΔIdは、(4)式にも示されているように、次式で与えられる。
【0058】
【数8】

【0059】
ここで、前掲した(5)式に示されているように、相互コンダクタンスGmはテール電流Issの1/2乗と比例関係を有している。
そこで、図1に示すように、入力電圧ΔVinが一定の電圧であるときに、差動対10の出力であるトランジスタM12のドレインへ、電流値がα×1/R(αは定数、Rは、利得安定化の対象である抵抗負荷差動増幅器における負荷抵抗の抵抗値)である電流を電流源30から流し込む。そして、テール電流調整回路40によるフィードバック制御によってトランジスタM13のゲートへ印加する電圧を制御し、差動対10の出力電流Iout(すなわちΔId)と電流源30から流し込まれている電流(α×1/R)とが一致するように差動対10のテール電流Iss1を調整する。この出力電流Ioutと電流(α×1/R)とが一致すると、差動対10の相互コンダクタンスGmは、
【0060】
【数9】

【0061】
となり、負荷抵抗Rの変動と反比例の関係となる。
以上のように、図1の回路では、差動対10のテール電流Iss1を制御して、差動対10の入力に一定の電位差ΔVinを与えたときの差動対10の出力電流Ioutを、抵抗負荷差動増幅器における負荷抵抗に反比例させるようにしているのである。
【0062】
そこで、利得安定化の対象である抵抗負荷差動増幅器を構成している差動対と図1の差動対10とのトランジスタサイズ比を同一にし、当該抵抗負荷差動増幅器を構成している差動対のテール電流として、図1の差動対10のテール電流と同一の電流を流す。こうすることにより、両者の差動対の相互コンダクタンスGmは同一になる。この結果、当該抵抗負荷差動増幅器において前掲した(2)式が成立し、その利得Avが一定となる。
【0063】
しかも、この場合においては、図1の差動対10と、抵抗負荷差動増幅器における差動対とは、ほぼ同一の動作電位(例えば電源電圧の1/2程度)で動作させることができるので、基板バイアス効果等による個々のトランジスタの閾値電圧Vthのずれを殆ど無くすことができる。従って、抵抗負荷差動増幅器の利得を精度よく一定とすることができる。
【0064】
なお、上記の説明においては、理解を容易にするために、利得安定化の対象である抵抗負荷差動増幅器を構成している差動対のテール電流として、図1の差動対10のテール電流と同一の電流を流すようにした。実際には、当該抵抗負荷差動増幅器を構成している差動対のテール電流を、図1の差動対10のテール電流と比例関係にあるものとすれば、前掲した(9)式が成立して抵抗負荷差動増幅器の利得を精度よく一定となることは、(5)式から明らかである。
【0065】
次に図2について説明する。同図は、本発明の第一の実施例の構成を示している。この例では、バイアス回路1が、抵抗負荷差動増幅器2の利得を安定化させる。
図2に示されているバイアス回路1は、図1に原理構成を示したバイアス回路の具体的な回路構成を示しており、図1に示したものと同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0066】
バイアス回路1は、差動対10と、定電圧源E11及びE12と、カレントミラー20と、電流源30と、テール電流調整回路40とを供えて構成されている。
差動対10は、n型MOSFETであるトランジスタM11及びM12により、図1に示したものと同様に接続されて構成されており、n型MOSFETであるトランジスタM13も図1に示したものと同様に接続されている。従って、トランジスタM13は、差動対10のテール電流Iss1の値を決定するトランジスタである。
【0067】
定電圧源E11及びE12は、差動対10の入力であるトランジスタM11のゲートとトランジスタM12のゲートとに、それぞれ電圧Vin−ΔVin/2及び電圧Vin+ΔVin/2の電圧を印加し、この両者に一定の電位差(ΔVin)を与える。
【0068】
カレントミラー20は、差動対10を構成しているトランジスタM11及びM12のドレインへ同量の電流を流し込む。カレントミラー20は、p型MOSFETであるトランジスタM21及びM22を備えて構成されている。ここで、トランジスタM21はドレインとゲートとが接続されており、ダイオード接続されている。このトランジスタM21のドレインとゲートとは、更に、トランジスタM22のゲートと、差動対10を構成しているトランジスタM11のドレインとに接続されている。また、トランジスタM22のドレインは差動対10を構成しているトランジスタM11のドレインに接続されており、トランジスタM21及びM22の各ドレインはどちらも電源Vddに接続されている。
【0069】
電流源30は、抵抗負荷差動増幅器2における負荷抵抗の抵抗値の変動に電流値が反比例している電流を流し出し、差動対10の出力点であるトランジスタM12のドレインへ流し込む。
【0070】
電流源30の具体的な回路構成例を図3に示す。同図に示す回路は、オペアンプ31、定電圧源E31、p型MOSFETであるトランジスタM31及びM32、及び抵抗R31を備えて構成されている。ここで、抵抗R31は、抵抗負荷差動増幅器2における負荷抵抗である抵抗R51及びR52と比例関係のある抵抗値Rとし、更に、抵抗R31を、抵抗R51及びR52と同一の半導体基板上に形成する等して製造条件や温度条件などの変動に対する抵抗値Rの変動が各抵抗間で連動するようにしておく。
【0071】
オペアンプ31の反転入力(−側入力)には、基準電圧Vrefが定電圧源E31によって印加されており、オペアンプ31の出力は、トランジスタM31及びM32の各ゲートにそれぞれ接続されている。また、トランジスタM31のドレインとグランドの間には抵抗R31が挿入されており、この抵抗R31とトランジスタM31のドレインとの接続点にはオペアンプ31の非反転入力(+側入力)も接続されている。
【0072】
トランジスタM31及びM32の各ソースはどちらも電源Vddに接続されており、M32のソースから、この電流源30の出力電流Iを流し出す。
図3の回路において、オペアンプ31の作用により、オペアンプ31の非反転入力は、オペアンプ31の反転入力と同電位に保たれる。従って、抵抗R31とトランジスタM31のドレインとの接続点の電位は、基準電圧Vrefとなる。このとき、抵抗R31を流れる電流Iの値は、Vref/Rとなる。この電流IはトランジスタM31が流し出すドレイン電流であるから、オペアンプ31は、トランジスタM31がこのようなドレイン電流を流し出し得る電圧をトランジスタM31のゲートに印加する。
【0073】
電流源30を、例えば以上のように構成すると、抵抗負荷差動増幅器2における負荷抵抗の抵抗値Rの変動に電流値が反比例している電流(α×1/R)を流し出すものとすることができる。
【0074】
ここで、トランジスタM32のゲートには、トランジスタM31のゲートと同一の電圧がオペアンプ31によって印加されているので、トランジスタM32をトランジスタM31と同一のトランジスタサイズ比として形成しておくことにより、トランジスタM32は、トランジスタM31と同量のドレイン電流、すなわち電流Iを流し出す。この電流Iの値は、Vref/Rであるから、抵抗負荷差動増幅器2における負荷抵抗である抵抗R51及びR52の抵抗値Rの変動に反比例する。
【0075】
図2の説明へ戻る。
テール電流調整回路40は、比較器であるオペアンプ41、コンデンサC41、及び抵抗R41を備えて構成されており、トランジスタM13のゲートに印加する電圧を変化させて差動対10のテール電流Iss1を制御し、差動対10の出力電流を電流源30が流し出す電流に一致させる。
【0076】
オペアンプ41の非反転入力(+側入力)には、差動対10の出力点であるトランジスタM12のドレインに生じる電圧が入力される。一方、オペアンプ41の反転入力(−側入力)には、所定の基準電圧Vref1が不図示の定電圧源により印加される。オペアンプ41はこの両者の電圧の大小比較を行う。ここで、差動対10の出力点の電圧が基準電圧Vref1よりも大きければオペアンプ41の出力電圧を上昇させ、差動対10の出力点の電圧が基準電圧Vref1よりも小さければオペアンプ41の出力電圧を下降させる。
【0077】
オペアンプ41の出力電圧は、差動対10のテール電流Iss1を決定するトランジスタM13と、後述するトランジスタM53との各ゲートにそれぞれ印加されている。従って、トランジスタM13及びM53はオペアンプ41の出力によって制御される。
更に、コンデンサC41と抵抗R41との直列接続が、オペアンプ41の入力(非反転入力)と出力との間に接続されている。
【0078】
抵抗負荷差動増幅器2は、図7Aに示したものと同一の回路構成のものであり、n型MOSFETであるトランジスタM51、M52、及びM53と、抵抗R51及びR52とより構成されている。
【0079】
前述したように、抵抗R51及びR52の抵抗値はどちらもRであるとする。抵抗R51及びR52の各々一方の端子はトランジスタM51及びM52の各ドレインとそれぞれ接続されており、抵抗R51及びR51の他方の端子はどちらも電源Vddに接続されている。トランジスタM51及びM52の各ソースはトランジスタM53のドレインと接続されており、トランジスタM53のソースはグランドに接続されている。
【0080】
抵抗負荷差動増幅器2に入力される差動信号である信号INP及びINMはトランジスタM51及びM52の各ゲートにそれぞれ入力される。そして、この抵抗負荷差動増幅器2における差動出力である信号OUTM及びOUTPは、それぞれ、抵抗R51とトランジスタM51との接続点、及び、抵抗R52とトランジスタM52との接続点より取り出される。また、トランジスタM53のゲートには、トランジスタM53のドレイン−ソース間を流す電流Iss2の値を決定するバイアス電圧Biasとして、テール電流調整回路40のオペアンプ41の出力電圧が印加される。
【0081】
抵抗負荷差動増幅器2は以上のように構成されている。ここで、トランジスタM51とトランジスタM52とにより差動対50が構成されており、この構成は、バイアス回路1における差動対10と同一の回路構成となっている。また、トランジスタM53は、トランジスタM51とトランジスタM52との各々のドレイン−ソース間に流れる電流の和、すなわち、差動対50のテール電流Iss2を決定する電流源として機能する。
【0082】
次に、図2に示した回路が、テール電流調整回路40によるフィードバック制御により、差動対10の相互コンダクタンスGmが負荷抵抗R51及びR52の抵抗値Rに反比例する状態へと収束する様子を説明する。
【0083】
ここで、バイアス回路1の差動対10の相互コンダクタンスGmが最終的な収束値よりも小さくなった場合を想定する。このときは、前掲した(8)式により、差動対10の出力電流ΔId(すなわちIout)は小さくなる。
【0084】
これに対し、電流源30は、前述した電流(α×1/R)を差動対10の出力点に流し込んでいるので、この出力点に生じる電圧は上昇する。この出力点の電圧はオペアンプ41の非反転入力に印加されているので、この電圧が基準電圧Vrefを上回るとオペアンプ41の出力電圧は上昇する。この出力電圧は、差動対10のテール電流Iss1を決定しているトランジスタM13のゲートに印加されているので、この出力電圧の上昇はテール電流Iss1を増加させる。ここで、前掲した(5)式から明らかなように、テール電流Iss1の増加は、差動対10の相互コンダクタンスGmを増加させる。
【0085】
図2のバイアス回路1では、以上のようなフィードバック制御が行われる。この制御動作は、差動対10の出力電流ΔId(すなわちIout)が、電流源30の流し出す電流(α×1/R)と一致すると収束し、このとき、差動対10の出力点に生じる電圧は基準電圧Vrefになる。言い換えれば、テール電流調整回路40のオペアンプ41は、電流源30の流し出す電流を差動対10の出力点に流し込んだときに当該出力点に生じる電圧が電圧Vrefとなるように、差動対10のテール電流Iss1を制御しているのである。
【0086】
ここで、この基準電圧Vrefは、各トランジスタM11、M21、M13、M21、及びM22が飽和領域で動作するような電圧とすればよく、例えば、電源電圧Vddの1/2程度とする。
【0087】
なお、オペアンプ41の入力と出力との間に挿入されているコンデンサC41と抵抗R41との直列接続は、位相補償のためのものであり、バイアス回路1で形成されているフィードバックによる発振を防止する。なお、ここで、抵抗R41を削除し(抵抗R41の抵抗値をゼロとし)、オペアンプ41の入力と出力との間にコンデンサC41のみを挿入して位相補償を行うようにすることも可能である。
【0088】
前述したように、バイアス回路1におけるテール電流調整回路40のオペアンプ41が出力している電圧は、抵抗負荷差動増幅器2におけるトランジスタM53のゲートにも印加されている。従って、トランジスタM13とトランジスタM53とのトランジスタサイズ比が同一であれば、差動対50のテール電流Iss2は、差動対10のテール電流Iss1と等しくなる。
【0089】
ここで、差動対50を構成しているトランジスタM51及びM52のトランジスタサイズ比が、差動対10を構成しているトランジスタM11及びM12と同一であれば、差動対50の相互コンダクタンスGmは差動対10と等しくなる。この場合、バイアス回路1でのフィードバック制御が収束すると、差動対50の相互コンダクタンスGmと抵抗負荷差動増幅器2の負荷抵抗R51及びR52の抵抗値Rとが反比例の関係となるので、抵抗負荷差動増幅器2の利得が安定なものとなる。
【0090】
なお、図2に示した回路において、差動対50の相互コンダクタンスGmが抵抗負荷差動増幅器2の負荷抵抗R51及びR52の抵抗値Rと反比例の関係を有するためには、差動対50の相互コンダクタンスGmが差動対10と等しいことは必ずしも必要ではなく、相互コンダクタンスGmが差動対50と差動対10とで比例関係にあればよい。従って、差動対50の回路構成が差動対10と同一であれば、前掲した(5)式より、差動対50を構成しているトランジスタM51及びM52と差動対10を構成しているトランジスタM1及びM12とのトランジスタサイズ比が異なっていてもよい。
【0091】
また、オペアンプ41の出力で差動対50のテール電流Iss2を決定するトランジスタM53を制御したときに、テール電流Iss2が差動対10のテール電流Iss1に比例していれば、前掲した(5)式より、差動対50と差動対10との相互コンダクタンスGmの比例関係を維持することができる。従って、トランジスタM13とトランジスタM53とのトランジスタサイズ比は異なっていてもよい。
【0092】
ここで図4について説明する。同図は、抵抗負荷差動増幅器2の利得特性のシミュレーション結果を示している。なお、同図には、半導体集積回路の製造ばらつき、温度ばらつき、及び電源電圧のばらつきを組み合わせてばらつかせた場合である、ワーストコーナ条件でのコンピュータシミュレーションの結果を示している。
【0093】
図4において、上側のグラフは、本発明を実施するバイアス回路1を使用した場合の利得特性を示しており、下側のグラフは、本発明を実施するバイアス回路1を使用しなかった場合(相互コンダクタンスGmの補正は行わずに、テール電流Issを負荷抵抗に反比例する電流とした通常の場合)の利得特性を示している。
【0094】
同図からも明らかに分かるように、本発明を実施することにより、抵抗負荷増幅器の利得を精度よく一定にすることができる。
次に図5について説明する。同図は、本発明の第二の実施例の構成を示している。なお、同図において、図2に示した本発明の第一の実施例におけるものと同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0095】
図5に示した構成が図2に示した構成と相違する点は、テール電流調整回路40の構成か異なることと、抵抗負荷差動増幅器2にトランジスタM54が追加されていることにある。そこで、ここではこの相違点について説明する。
【0096】
図5において、テール電流調整回路40は、比較器であるオペアンプ41、コンデンサC41、及び抵抗R41に加えて、p型MOSFETであるトランジスタM41及びM42と、n型MOSFETであるトランジスタM43とを備えて構成されており、トランジスタM13のゲートに印加する電圧を変化させて差動対10のテール電流Iss1を制御し、差動対10の出力電流を電流源30が流し出す電流に一致させる。
【0097】
オペアンプ41の反転入力(−側入力)には、差動対10の出力点であるトランジスタM12のドレインに生じる電圧が入力される。一方、オペアンプ41の非反転入力(+側入力)には、所定の基準電圧Vref1が不図示の定電圧源により印加される。オペアンプ41はこの両者の電圧の大小比較を行う。ここで、差動対10の出力点の電圧が基準電圧Vref1よりも大きければオペアンプ41の出力電圧を下降させ、差動対10の出力点の電圧が基準電圧Vref1よりも小さければオペアンプ41の出力電圧を上昇させる。
【0098】
オペアンプ41の出力電圧は、トランジスタM41及びM42の各ゲートに印加されている。このトランジスタM41及びM42の各ソースは、電源Vddに接続されている。従って、トランジスタM41及びM42のソース−ドレイン間を流れる電流は、オペアンプ41の出力によって制御される。
【0099】
トランジスタM41のドレインは、トランジスタM43のドレイン及びゲートと、トランジスタM13のゲートとに接続されている。このトランジスタM43及びM13の各ソースはグランドに接続されている。従って、トランジスタM43はダイオード接続されており、差動対10のテール電流Iss1を決定するトランジスタM13との間でカレントミラーを構成している。
【0100】
トランジスタM41のドレインから流し出される電流は、トランジスタM43のドレイン−ソース間に流される。ここで、トランジスタM43はトランジスタM13とカレントミラーを構成している。従って、トランジスタM43とトランジスタM13とのトランジスタサイズ比が同一であれば、トランジスタM43のドレイン−ソース間を流れる電流と、トランジスタM13のドレイン−ソース間を流れる電流とは等しくなる。つまり、この場合には、トランジスタM41のドレインから流し出される電流が、差動対10のテール電流Iss1と等しくなる。従って、この図5の回路においても、オペアンプ41の出力は、差動対10のテール電流Iss1の制御を行っている。
【0101】
一方、図5の抵抗負荷増幅器2では、n型MOSFETであるトランジスタM54のドレイン及びゲートと、トランジスタM53のゲートとが接続されている。このトランジスタM54及びM53の各ソースはグランドに接続されている。従って、トランジスタM53はダイオード接続されており、差動対50のテール電流Iss2を決定するトランジスタM53との間でカレントミラーを構成している。
【0102】
トランジスタM42のゲートには、オペアンプ41により、トランジスタM41のゲートと等しいゲート電圧(ゲート−ソース間電圧)が印加されている。ここで、トランジスタM42とトランジスタM41とのトランジスタサイズ比が同一であれば、トランジスタM42のドレインから流し出される電流は、トランジスタM42のドレインから流し出される電流と等しくなる。つまり、トランジスタM42は、差動対10のテール電流Iss1と同一の電流をドレインから流し出す。
【0103】
トランジスタM42のドレインから流し出される電流は、抵抗負荷差動増幅器2におけるトランジスタM54のドレインに流し込まれている。ここで、トランジスタM54はトランジスタM53とカレントミラーを構成している。従って、この場合には、トランジスタM42のドレインから流し出される電流で、差動対50のテール電流Iss2を決定するトランジスタM53の制御が行われる。特に、トランジスタM54とトランジスタM53とのトランジスタサイズ比が同一であれば、トランジスタM54のドレイン−ソース間を流れる電流が、トランジスタM53のドレイン−ソース間を流れる電流と等しくなる。つまり、この場合には、差動対10のテール電流Iss1と差動対50のテール電流Iss2とが等しくなる。
【0104】
次に、図5に示した回路が、テール電流調整回路40によるフィードバック制御により、差動対10の相互コンダクタンスGmが負荷抵抗R51及びR52の抵抗値Rに反比例する状態へと収束する様子を説明する。
【0105】
ここで、バイアス回路1の差動対10の相互コンダクタンスGmが最終的な収束値よりも小さくなった場合を想定する。このときは、前掲した(8)式により、差動対10の出力電流ΔId(すなわちIout)は小さくなる。
【0106】
これに対し、電流源30は、前述した電流(α×1/R)を差動対10の出力点に流し込んでいるので、この出力点に生じる電圧は上昇する。この出力点の電圧はオペアンプ41の非反転入力に印加されているので、この電圧が基準電圧Vrefを上回るとオペアンプ41の出力電圧は下降する。この出力電圧は、差動対10のテール電流Iss1を決定しているトランジスタM41のゲートに印加されているので、この出力電圧の下降はテール電流Iss1を増加させる。ここで、前掲した(5)式から明らかなように、テール電流Iss1の増加は、差動対10の相互コンダクタンスGmを増加させる。
【0107】
図5のバイアス回路1では、以上のようなフィードバック制御が行われる。この制御動作は、差動対10の出力電流ΔId(すなわちIout)が、電流源30の流し出す電流(α×1/R)と一致すると収束し、このとき、差動対10の出力点に生じる電圧は基準電圧Vrefになる。言い換えれば、テール電流調整回路40のオペアンプ41は、電流源30の流し出す電流を差動対10の出力点に流し込んだときに当該出力点に生じる電圧が電圧Vrefとなるように、差動対10のテール電流Iss1を制御しているのである。
【0108】
ここで、この基準電圧Vrefは、各トランジスタM11、M21、M13、M21、及びM22が飽和領域で動作するような電圧とすればよく、例えば、電源電圧Vddの1/2程度とする。
【0109】
なお、オペアンプ41の入力とトランジスタM43のゲートとの間に挿入されているコンデンサC41と抵抗R41との直列接続は、位相補償のためのものであり、バイアス回路1で形成されているフィードバックによる発振を防止する。なお、ここで、抵抗R41を削除し(抵抗R41の抵抗値をゼロとし)、オペアンプ41の入力とトランジスタM43のゲートとの間にコンデンサC41のみを挿入して位相補償を行うようにすることも可能である。
【0110】
前述したように、バイアス回路1におけるテール電流調整回路40のオペアンプ41が出力している電圧は、トランジスタM42のゲートにも印加されている。従って、トランジスタM41とトランジスタM42とのトランジスタサイズ比が同一であり、且つ、トランジスタM13、M43、M54、及びM53の各トランジスタサイズ比が同一であれば、差動対50のテール電流Iss2は、差動対10のテール電流Iss1と等しくなる。
【0111】
ここで、差動対50を構成しているトランジスタM51及びM52のトランジスタサイズ比が、差動対10を構成しているトランジスタM11及びM12と同一であれば、差動対50の相互コンダクタンスGmは差動対10と等しくなる。この場合、バイアス回路1でのフィードバック制御が収束すると、差動対50の相互コンダクタンスGmと抵抗負荷差動増幅器2の負荷抵抗R51及びR52の抵抗値Rとが反比例の関係となるので、抵抗負荷差動増幅器2の利得が安定なものとなる。
【0112】
なお、図5に示した回路において、差動対50の相互コンダクタンスGmが抵抗負荷差動増幅器2の負荷抵抗R51及びR52の抵抗値Rと反比例の関係を有するためには、差動対50の相互コンダクタンスGmが差動対10と等しいことは必ずしも必要ではなく、相互コンダクタンスGmが差動対50と差動対10とで比例関係にあればよい。従って、差動対50の回路構成が差動対10と同一であれば、前掲した(5)式より、差動対50を構成しているトランジスタM51及びM52と差動対10を構成しているトランジスタM1及びM12とのトランジスタサイズ比が異なっていてもよい。
【0113】
また、オペアンプ41の出力で差動対50のテール電流Iss2を決定するトランジスタM42を制御したときに、テール電流Iss2が差動対10のテール電流Iss1に比例していれば、前掲した(5)式より、差動対50と差動対10との相互コンダクタンスGmの比例関係を維持することができる。従って、トランジスタM41とトランジスタM42とのトランジスタサイズ比は異なっていてもよく、また、トランジスタM13、M43、M54、及びM53の各トランジスタサイズ比が異なっていてもよい。
【0114】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上述した各実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良・変更が可能である。
なお、本発明は、回路の利得Avが相互コンダクタンスGmと負荷抵抗の抵抗値Rとの積に比例する関係を有している抵抗負荷差動増幅器であれば適用可能である。すなわち、上述した実施例の説明のために用いた、図7Aに示したごく一般的な回路構成の抵抗負荷差動増幅器でなくても、例えば、図7Bや図7Cに示した抵抗負荷差動増幅器でも本発明を適用することができる。
【0115】
図6は、本発明の第三の実施例の構成を示している。この構成は、図7Bに示したカスケード接続構成の抵抗負荷差動増幅器に対して、本発明を適用したものである。
図6に示した構成は、n型MOSFETであるトランジスタM14及びM15を、図2に示した本発明の第一の実施例における差動対10のトランジスタM11及びM12にカスケード接続すると共に、n型MOSFETであるトランジスタM55及びM56を、図2に示した本発明の第一の実施例における差動対10のトランジスタM51及びM52にカスケード接続して構成されたものである。
【0116】
すなわち、この回路は、トランジスタM21のドレインとトランジスタM11のドレインとの接続点にトランジスタM14を挿入し、トランジスタM22のドレインとトランジスタM12のドレインとの接続点にトランジスタM15を挿入し、抵抗R51とトランジスタM51のドレインとの接続点にトランジスタM55を挿入し、更に、抵抗R52とトランジスタM52のドレインとの接続点にトランジスタM56を挿入して構成されている。なお、トランジスタM14及びM15の両ゲートには定電圧源E13により、また、トランジスタM55及びM56の両ゲートには定電圧源E51により、それぞれほぼ同一の定電圧が印加されている。
【0117】
このような図6に示した回路であっても、抵抗負荷差動増幅器2の利得Avが差動対50の相互コンダクタンスGmと負荷抵抗R51及びR52の抵抗値Rとの積に比例する関係を有している。従って、バイアス回路1の差動対10の回路構成を、抵抗負荷差動増幅器2の差動対50の回路構成と同一とすることにより、差動対50の相互コンダクタンスGmを負荷抵抗R51及びR52の抵抗値Rと反比例する関係とすることができ、利得Avを精度よく一定とすることができる。
なお、上記した実施の形態から次のような構成の技術的思想が導かれる。
【0118】
(付記1)抵抗負荷差動増幅器のバイアス回路であって、
第一の差動対と、
前記第一の差動対のテール電流を制御して、当該第一の差動対の入力に一定の電位差を与えたときの当該第一の差動対の出力電流を、前記抵抗負荷差動増幅器における負荷抵抗に反比例させる制御部と、
を有しており、
前記抵抗負荷差動増幅器を構成している第二の差動対のテール電流を、前記第一の差動対のテール電流に比例させる、
ことを特徴とするバイアス回路。
【0119】
(付記2)前記第一の差動対と前記第二の差動対とは同一の回路構成であることを特徴とする付記1に記載のバイアス回路。
(付記3)前記第一の差動対を構成するトランジスタと前記第二の差動対を構成するトランジスタとは、トランジスタサイズ比が同一であることを特徴とする付記2に記載のバイアス回路。
【0120】
(付記4)前記制御部は、
前記第一の差動対を構成している一対のトランジスタの各々へ同量の電流を流し込むカレントミラーと、
前記負荷抵抗に反比例している電流を流し出す電流源と、
前記第一の差動対のテール電流を制御して、前記出力電流を前記電流源が流し出す電流に一致させるテール電流制御部と、
を有する、
ことを特徴とする付記1に記載のバイアス回路。
【0121】
(付記5)前記テール電流制御部は、前記電流源が流し出す電流を前記第一の差動対の出力点へ流し込んだときに当該出力点に生じる電圧が所定の基準電圧になるように、当該第一の差動対のテール電流を制御することを特徴とする付記4に記載のバイアス回路。
【0122】
(付記6)前記テール電流制御部は、前記第一の差動対の出力点に生じる電圧が入力されて前記所定の基準電圧と比較する比較器を有しており、当該第一の差動対のテール電流を決定するトランジスタを、当該比較器の出力で制御することを特徴とする付記5に記載のバイアス回路。
【0123】
(付記7)前記比較器は、入力と出力との間に、コンデンサ、若しくは、コンデンサと抵抗との直列接続、が接続されていることを特徴とする付記6に記載のバイアス回路。
(付記8)前記第二の差動対のテール電流を決定するトランジスタを前記比較器の出力で制御することを特徴とする付記6に記載のバイアス回路。
【0124】
(付記9)前記テール電流制御部は、
前記第一の差動対の出力点に生じる電圧が入力されて前記所定の基準電圧と比較する比較器と、
前記比較値の出力に基づいて電流を制御する第一及び第二のトランジスタと、
前記第一の差動対のテール電流を決定するトランジスタとの間でカレントミラーを構成しており、ダイオード接続されている第三のトランジスタと、
を有しており、
前記第一のトランジスタによって制御されている電流を前記第三のトランジスタに流し、
前記第二のトランジスタによって制御されている電流で、前記第二の差動対のテール電流を決定するトランジスタを制御する、
ことを特徴とする付記5に記載のバイアス回路。
【0125】
(付記10)前記第二の差動対のテール電流を決定するトランジスタとの間でカレントミラーを構成しており、ダイオード接続されている第四のトランジスタを更に有しており、
前記第二のトランジスタによって制御されている電流を前記第四のトランジスタに流す、
ことを特徴とする付記9に記載のバイアス回路。
【0126】
(付記11)前記第三のトランジスタと前記第一の差動対のテール電流を決定するトランジスタとの接続点と、前記比較器の入力との間に、コンデンサ、若しくは、コンデンサと抵抗との直列接続が接続されていることを特徴とする付記9に記載のバイアス回路。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明を実施するバイアス回路の原理構成を示す図である。
【図2】本発明の第一の実施例の構成を示す図である。
【図3】電流源の具体的な回路構成例を示す図である。
【図4】抵抗負荷差動増幅器の利得特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図5】本発明の第二の実施例の構成を示す図である。
【図6】本発明の第三の実施例の構成を示す図である。
【図7A】ごく一般的な抵抗負荷差動増幅器の回路構成を示す図である。
【図7B】トランジスタのカスケード接続で差動対が構成されている抵抗負荷差動増幅器の回路構成を示す図である。
【図7C】抵抗負荷の混合増幅器の回路構成を示す図である。
【図8】従来のGm補正バイアス回路の例を示す図である。
【図9】MOSトランジスタで差動対を構成した回路の入出力特性を説明する図である。
【符号の説明】
【0128】
1 バイアス回路
2 抵抗負荷差動増幅器
10 差動対
E11、E12 定電圧源
M11、M12、M13 トランジスタ
20 カレントミラー
M21、M22 トランジスタ
30 電流源
31 オペアンプ
E31 定電圧源
M31、M32 トランジスタ
R31抵抗
40 テール電流調整回路
41 オペアンプ
C41 コンデンサ
M41、M42、M43 トランジスタ
R41 抵抗
50 差動対
M51、M52、M53、M54、M55、M56 トランジスタ
R51、R52 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗負荷差動増幅器のバイアス回路であって、
第一の差動対と、
前記第一の差動対のテール電流を制御して、当該第一の差動対の入力に一定の電位差を与えたときの当該第一の差動対の出力電流を、前記抵抗負荷差動増幅器における負荷抵抗に反比例させる制御部と、
を有しており、
前記抵抗負荷差動増幅器を構成している第二の差動対のテール電流を、前記第一の差動対のテール電流に比例させる、
ことを特徴とするバイアス回路。
【請求項2】
前記第一の差動対と前記第二の差動対とは同一の回路構成であることを特徴とする請求項1に記載のバイアス回路。
【請求項3】
前記第一の差動対を構成するトランジスタと前記第二の差動対を構成するトランジスタとは、トランジスタサイズ比が同一であることを特徴とする請求項2に記載のバイアス回路。
【請求項4】
前記制御部は、
前記第一の差動対を構成している一対のトランジスタの各々へ同量の電流を流し込むカレントミラーと、
前記負荷抵抗に反比例している電流を流し出す電流源と、
前記第一の差動対のテール電流を制御して、前記出力電流を前記電流源が流し出す電流に一致させるテール電流制御部と、
を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のバイアス回路。
【請求項5】
前記テール電流制御部は、前記電流源が流し出す電流を前記第一の差動対の出力点へ流し込んだときに当該出力点に生じる電圧が所定の基準電圧になるように、当該第一の差動対のテール電流を制御することを特徴とする請求項4に記載のバイアス回路。
【請求項6】
前記テール電流制御部は、前記第一の差動対の出力点に生じる電圧が入力されて前記所定の基準電圧と比較する比較器を有しており、当該第一の差動対のテール電流を決定するトランジスタを、当該比較器の出力で制御することを特徴とする請求項5に記載のバイアス回路。
【請求項7】
前記比較器は、入力と出力との間に、コンデンサ、若しくは、コンデンサと抵抗との直列接続、が接続されていることを特徴とする請求項6に記載のバイアス回路。
【請求項8】
前記第二の差動対のテール電流を決定するトランジスタを前記比較器の出力で制御することを特徴とする請求項6に記載のバイアス回路。
【請求項9】
前記テール電流制御部は、
前記第一の差動対の出力点に生じる電圧が入力されて前記所定の基準電圧と比較する比較器と、
前記比較値の出力に基づいて電流を制御する第一及び第二のトランジスタと、
前記第一の差動対のテール電流を決定するトランジスタとの間でカレントミラーを構成しており、ダイオード接続されている第三のトランジスタと、
を有しており、
前記第一のトランジスタによって制御されている電流を前記第三のトランジスタに流し、
前記第二のトランジスタによって制御されている電流で、前記第二の差動対のテール電流を決定するトランジスタを制御する、
ことを特徴とする請求項5に記載のバイアス回路。
【請求項10】
前記第二の差動対のテール電流を決定するトランジスタとの間でカレントミラーを構成しており、ダイオード接続されている第四のトランジスタを更に有しており、
前記第二のトランジスタによって制御されている電流を前記第四のトランジスタに流す、
ことを特徴とする請求項9に記載のバイアス回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−184688(P2007−184688A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263(P2006−263)
【出願日】平成18年1月4日(2006.1.4)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】