説明

バイオフィルム生成抑制剤組成物

【課題】バイオフィルムの生成を抑制する薬剤及び組成物を提供する。
【解決手段】次の成分(A)
(A)一般式(1)
RO−(EO)n−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の整数を示す。)で表される化合物、及び成分(A)以外の(B)界面活性剤を含有し、成分(A)と成分(B)の重量比率(A)/(B)が2以下であるバイオフィルム生成抑制剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム生成抑制剤組成物に関するものである。より詳細には、微生物が関与するさまざまな分野において、微生物及び微生物産生物質からなるバイオフィルムの生成を抑制し、これに起因する危害を防止するためのバイオフィルム生成抑制剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは生物膜やスライムとも言われ、一般に水系で微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質などの高分子物質を産生して構造体を形成したものを指す。バイオフィルムが形成されると、微生物を原因とする危害が発生して様々な産業分野で問題を引き起こす。例えば、食品プラントの配管内にバイオフィルムが形成されると、このバイオフィルムが剥がれ落ち、製品内への異物混入につながるだけでなく、微生物由来の毒素で食中毒の原因となる。更に、金属表面へのバイオフィルム形成は金属腐食の原因となり、設備の老朽化を促進する。
【0003】
更に、バイオフィルムを形成した微生物集合体に対しては、水系に分散浮遊状態にある微生物に対する場合と比較して、殺菌剤・静菌剤のような微生物制御薬剤の十分な効果が出ないことも多い。例えば医療の面では近年、医療器具の狭い隙間や空孔内に微生物が残存してバイオフィルムを形成し、これを原因とする院内感染例が数多く報告されている。ヒト口腔内においては歯に形成するバイオフィルム、いわゆるデンタルプラーク(歯垢)がう食や歯周病の原因となることは良く知られており、これらの問題について長い間検討されている。
【0004】
これまでバイオフィルムを抑制するためには、微生物、特に細菌に対して殺菌作用又は静菌作用を与えることによって菌を増殖させない考え方が一般的に検討されてきた。特許文献1や特許文献2には脂肪酸や脂肪族アルコールなどを用いて細菌数を低減させ、結果として細菌の対象物質への付着を防止できることが開示されている。特に特許文献1では、抗菌性油相と乳化剤でエマルジョンを調製した組成物が比較的短時間で菌数低減効果を示しており、これは単位体積あたりの細菌絶対数が低くなることに基づき、対象物質表面への細菌の付着を抑制する考え方を表している。更に特許文献3には消炎剤などの非水性有効成分を油性物質に溶解させた歯磨き組成物などが開示されている。
【特許文献1】特表2002−524257公報
【特許文献2】特表2004−513153公報
【特許文献3】特開2005−289917公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1又は2は、微生物を60分以内の比較的短時間殺菌又は抗菌性組成物と接触させた場合の殺菌性(菌数を約4乗低減)の評価を記載している。しかしながらバイオフィルム問題は数日〜数ヶ月の長時間単位で起きるものであり、短時間の殺菌評価でバイオフィルムの生成抑制制御に結びつけることは事実上困難である。抗菌性油相として挙げられる脂肪酸や脂肪族アルコールは全ての微生物(細菌)に対して十分な殺菌効果を有しているとは言えず、特にバイオフィルムを形成して問題をしばしば引き起こすグラム陰性菌に対して、長期間にわたる殺菌効果の指標である最少生育阻止濃度(Minimal Inhibitory Concentration、MIC)を有してはいない(防腐・殺菌剤の科学;ジョン・J・カバラ編、フレグランスジャーナル社、1990)。更に発明者らの実験よれば、グラム陰性菌の中でも緑膿菌やセラチア菌に対して、特許文献1又は2記載の組成物は記述の通り短期的な(3時間くらいまで)殺菌効果を示すものの、長期的(1日以上)には殺菌性はおろか菌増殖を抑制する静菌効果さえも示すことがなく、結果としてバイオフィルムを形成することが確認された。
【0006】
その他、殺菌性の高いカチオン性界面活性剤や次亜塩素酸塩など即効性の特徴を持つ殺菌性の高い殺菌薬剤もあるが、系内に有機物が存在すると殺菌性は速やかに失われるため、前述の通り長期間にわたって菌数低減効果を維持することは難しい。
これらの理由から、細菌を殺菌や静菌の観点から根本的にバイオフィルムの生成を抑制することは困難である。
従って、本発明の目的は、長期的なバイオフィルム生成抑制剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、長期的にバイオフィルム生成抑制効果を有する組成物について種々検討したところ、後記式(1)で表される化合物と界面活性剤とを一定の比率で配合した組成物が、長期的なバイオフィルム生成抑制効果を有することを見出した。
【0008】
本発明は、次の成分(A)
(A)一般式(1):
RO−(EO)n−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の整数を示す。)で表される化合物、及び成分(A)以外の(B)界面活性剤[以下、成分(B)ともいう]を含有し、成分(A)と成分(B)の重量比率(A)/(B)が2以下であるバイオフィルム生成抑制剤組成物を提供するものである。
【0009】
本発明はまた、前記バイオフィルム生成抑制剤組成物を微生物と接触させてバイオフィルムの生成を抑制する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期的にバイオフィルムの生成を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物の成分(A)は、一般式(1):
RO−(EO)n−H (1)
で表される化合物から成り、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、EOはエチレンオキシ基、そしてnは0〜5の整数である。
【0012】
Rで示されるアルキル基又はアルケニル基は、直鎖でも分岐鎖でもよいが、バイオフィルムの生成抑制の観点から、炭素数10〜12であるのが好ましい。EOで示されるエチレンオキシ基の数nは、バイオフィルムの生成抑制の観点から、0〜4がより好ましく、0〜3がさらに好ましい。なお、水への分散性の観点から、nは1〜3が好ましい。
【0013】
本発明の成分(A)は、長期的なバイオフィルムの生成抑制効果を発揮できる重量濃度として、系内に1ppm以上存在すればよいが、経済性と効果の観点から1〜10,000ppmが好ましく、5〜10,000ppmがより好ましく、更に5〜2,000ppmが好ましく、特に10〜1,000ppmが好ましい。
【0014】
本発明の成分(A)は、疎水性が高く水への溶解性が低いため、界面活性剤を用いて水系中に安定的に存在させることにより、水系において本剤をより効果的に利用することが可能になる。
【0015】
ここで「水系中に安定的に存在する」とは、疎水性の高い成分(A)が長期的に分離することなく乳化・分散・可溶化している状態を云い、水系の単位体積当たり、より多い量の成分(A)を乳化・分散・可溶化できるようになる。
【0016】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物に使用できる界面活性剤の種類は特に限定されないが、成分(A)を水系中に安定に存在させることができる界面活性剤が望ましい。特に乳化・分散・可溶化性能の観点から、界面活性剤の中で陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0017】
陰イオン性界面活性剤としては、リグニンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン(以下、POEと記す)アルキルスルホン酸塩、POEアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、POEアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩、POEアリールフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、POEアルキル硫酸エステル塩、POEアリールフェニルエーテルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、POEトリベンジルフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、POEアルキルリン酸塩、POEトリベンジルフェニルエーテルリン酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪酸塩(石けん)、POEアルキルエーテル酢酸塩等が挙げられ、中でもアルキル硫酸エステル塩やPOEアルキル硫酸エステル塩、POEアルキルエーテル酢酸塩を用いることがより好ましい。これらの陰イオン性界面活性剤のアルキル炭素数は10〜18が好ましく、エチレンオキシド平均付加モル数は0〜10が好ましく、0〜5がより好ましい。
【0018】
非イオン性界面活性剤としては、POEアルキルエーテル(但し、成分(A)を除く)、POEアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレン・POE(ブロック又はランダム)アルキルエーテル、POEアリールフェニルエーテル、POEスチレン化フェニルエーテル、POEトリベンジルフェニルエーテル等の1価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、POEソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド等の多価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤等が挙げられ、中でもPOEアルキルエーテル(但し、成分(A)を除く)、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、ソルビタン脂肪酸エステル、POEソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、特に、POEアルキルエーテル[但し、成分(A)を除く]が好ましい。なかでもPOEアルキルエーテルのHLBは10以上が特に好ましい。また、POEアルキルエーテルのアルキル炭素数は12〜18が好ましく、エチレンオキシド平均付加モル数は6以上が特に好ましい。
【0019】
界面活性剤は単独で、あるいはより乳化・分散・可溶化性能を高めるために2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
バイオフィルム生成抑制剤組成物中の成分(A)と成分(B)の重量比率(A)/(B)は、長期的なバイオフィルム生成抑制効果の点から2以下であり、2/1〜1/100が好ましく、2/1〜1/50がより好ましく、2/1〜1/20が更に好ましく、特に1/1〜1/10が好ましい。
また、バイオフィルム生成抑制剤組成物は、成分(A)を好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜10重量%、特に好ましくは0.5〜5重量%含み、そして成分(B)を好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは1〜20重量%含む。
【0021】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物には殺菌剤や抗菌剤を併用することも可能である。一般にバイオフィルムが形成すると殺菌剤が効きにくい状況が起こるが、本発明のバイオフィルム生成抑制剤によってバイオフィルムの形成が抑制されると、殺菌剤の効力を十分に引き出すことが可能になる。
【0022】
上記の殺菌剤や抗菌剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸クロルヘキシジン等の四級塩、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、トリクロロカルバニリド、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0023】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物には、その粘度を上昇させて対象物への付着性を向上させるために、増粘剤を用いることも可能である。
【0024】
更に、本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物にはキレート剤を加えてもよい。該キレート剤としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、コハク酸、サリチル酸、シュウ酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、トリポリリン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸/マレイン酸共重合物及びそれらの塩が挙げられる。
【0025】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物は液状、ペースト、粉末、タブレットなど、用途に応じて様々な形態をとることが可能である。バイオフィルム生成抑制剤組成物は全ての成分が混在した1剤型でも良いが、使い勝手によってはそれをいくつかの分割パッケージにしてもよい。
【0026】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物は水希釈系で用いるのが効果的である。該組成物の水希釈物を一定量溜めて対象物を浸漬して使用する。対象物が広範に亘る場合には、スプレー機器を用いてミストを吹き付けたり、発泡機を用いて泡状にしたものを吹き付けたりしてもよい。又、該組成物の水希釈液を流したり、はけ等により塗布してもよい。その他、タオルなどに該水希釈液を含浸させて、対象物を拭き取っても良い。微生物と接触させる条件が満足されるならば、微生物が存在しうる表面に該組成物の水希釈液を付着させたり、塗り付けたりすることも可能である。該組成物の水希釈液は、その使用時の成分(A)の重量濃度が1〜10,000ppmとなるのが好ましく、5〜10,000ppmとなるのがより好ましい。
また、対象物によっては水希釈系にせず、クリーム状や軟膏にして塗り広げることも可能である。この場合、成分(A)は適切な溶媒に溶解、分散、乳化された形状で提供され、使用時の成分(A)の重量濃度が1〜10,000ppmとなるのが好ましく、5〜10,000ppmとなるのがより好ましい。
【0027】
本発明はまた、バイオフィルム生成抑制剤組成物を微生物と接触させてバイオフィルムの生成を抑制する方法を提供するものである。ここでバイオフィルム生成抑制剤組成物と微生物との接触は連続して行うのが好ましい。
【0028】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物は、バイオフィルムの危害が懸念される広い分野に使用することが可能である。例えば菌汚染リスクの高い食品又は飲料製造プラント用洗浄剤に応用することができる。また、バイオフィルムが形成しやすい医療機器、例えば内視鏡や人工透析機等、の洗浄剤にも応用できる。更に、高い安全性を有することから、ヒト対象の洗浄剤、歯磨き剤、口腔ケア剤、入れ歯ケア剤などに使用することも可能である。
【実施例】
【0029】
実施例1:バイオフィルム生成抑制剤組成物の配合及びバイオフィルム生成抑制能の検定
成分(A) RO−(EO)n−H
(A−1)C8アルコール〔カルコール0898、花王(株)製、R=C8アルキル、n=0〕
(A−2)C10アルコール〔カルコール1098、花王(株)製、R=C10アルキル、n=0〕
(A−3)C12アルコール〔カルコール2098、花王(株)製、R=C12アルキル、n=0〕
(A−4)C14アルコール〔カルコール4098、花王(株)製、R=C14アルキル、n=0〕
(A−5)C12アルコールエチレンオキサイド1モル付加物〔NIKKOL BL−1SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=1〕
(A−6)C12アルコールエチレンオキサイド2モル付加物〔NIKKOL BL−2SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=2〕
(A−7)C12アルコールエチレンオキサイド3モル付加物〔NIKKOL BL−3SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=3〕
(A−8)C12アルコールエチレンオキサイド5モル付加物〔NIKKOL BL−5SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=5〕
(A−9)C12アルコール〔trans−2−ドデセン−1−オール、和光純薬工業(株)製、R=C12アルケニル、n=0〕
(A−10)C12アルコール(2級)〔2−ドデカノール、和光純薬工業(株)、R=C12アルキル(2級)、n=0〕
(A−11)C12分岐アルコール〔2−ブチル−1−オクタノール、シグマアルドリッチInc.製、R=C12分岐アルキル、n=0〕
【0030】
成分(A') R'O−(EO)n−H
(A'−1)C1アルコール〔メタノール、和光純薬工業(株)製、R'=C1アルキル、n=0〕
(A'−2)C2アルコール〔エタノール、和光純薬工業(株)製、R'=C2アルキル、n=0〕
(A'−3)C3アルコール〔1−プロパノール、和光純薬工業(株)製、R'=C3アルキル、n=0〕
(A'−4)C4アルコール〔1−ブタノール、和光純薬工業(株)製、R'=C4アルキル、n=0〕
(A'−5)C16アルコール〔カルコール6098、花王(株)製、R'=C16アルキル、n=0〕
(A'−6)C18アルコール〔カルコール8098、花王(株)製、R'=C18アルキル、n=0〕
(A'−7)C1アルコールエチレンオキサイド1モル付加物〔2−メトキシエタノール、和光純薬工業(株)製、R'=C1アルキル、n=1〕
(A'−8)C1アルコールエチレンオキサイド2モル付加物〔2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、和光純薬工業(株)製、R'=C1アルキル、n=2〕
(A'−9)C2アルコールエチレンオキサイド1モル付加物〔2−エトキシエタノール、和光純薬工業(株)製、R'=C2アルキル、n=1〕
(A'−10)C2アルコールエチレンオキサイド2モル付加物〔2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、和光純薬工業(株)製、R'=C2アルキル、n=2〕
(A'−11)C4アルコールエチレンオキサイド1モル付加物〔2−ブトキシエタノール、和光純薬工業(株)製、R'=C4アルキル、n=1〕
(A'−12)C4アルコールエチレンオキサイド2モル付加物〔2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、和光純薬工業(株)製、R'=C4アルキル、n=2〕
(A'−13)C20分岐アルコール〔2−オクチル−1−ドデカノール、シグマアルドリッチ Inc.製、R'=C20分岐アルキル、n=0〕
(A'−14)C12アルコールエチレンオキサイド8モル付加物〔NIKKOL BL−8SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=8〕
【0031】
成分(B)界面活性剤〔( )内の数字はエチレンオキシド平均付加モル数を示す。〕
<陰イオン性界面活性剤>
(B−1)ラウリル硫酸ナトリウム〔エマール0、花王(株)製〕
(B−2)ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム〔エマール20C、花王(株)製;有効分25重量%〕
(B−3)ポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム〔カオーアキポRLM45−NV、花王(株)製;有効分24重量%〕
<非イオン性界面活性剤>
(B−4)ポリオキシエチレン(6)ラウリルエーテル〔エマルゲン106、花王(株)製〕
(B−5)ポリオキシエチレン(12)ラウリルエーテル〔エマルゲン120、花王(株)製〕
(B−6)ラウリルグルコシド〔マイドール12、花王(株)製〕
(B−7)デシルグリセリンモノカプリレート〔SYグリスターMCA750、阪本薬品工業(株)製〕
(B−8)ソルビタンモノラウレート〔レオドールSP−L10、花王(株)製〕
(B−9)ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノラウレート〔レオドールTW−L106、花王(株)製〕
(B−10)ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート〔レオドールTW−L120、花王(株)製〕
【0032】
成分(A)又は(A')を1重量%に固定し、成分(B)を1重量%、3重量%、6重量%及び10重量%から選ばれる濃度とし、残部をイオン交換水で有効分重量配合した。配合物はミューラーヒントン培地〔日本ベクトン・ディッキンソン(株)製〕を用いて、成分(A)又は(A')として100ppmに希釈したものを24穴マイクロプレート〔旭テクノグラス(株)製)に2mL量りとった。
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)、セラチア菌(Serratia marcescens NBRC12648)、クレブシェラ菌(Klebsiella pneumoniae ATCC13883)をそれぞれ大豆−カゼイン ダイジェスト アガー(Soybean-Casein Digest Agar)〔SCD寒天培地:日本製薬(株)製〕を用いて、37℃、24時間前培養してコロニー形成したものから極少量の菌塊を、滅菌済みの竹串を用いて前述のマイクロプレート内の試験溶液に接種した。これを37℃、48時間培養後に培養液を廃棄してマイクロプレート壁に付着したバイオフィルムの形成状態を目視によって観察した。バイオフィルムの状態は、バイオフィルムがプレート壁面の0〜20%未満を覆う状態を◎、20%以上40%未満を覆う状態を○、40%以上60%未満を覆ったものを△、60%以上を覆ったものを×とした。
結果を表1−1〜1−5に示す。
【0033】
【表1−1】

【0034】
【表1−2】

【0035】
【表1−3】

【0036】
【表1−4】

【0037】
【表1−5】

【0038】
実施例2:大容量プラスチックカップ内へのバイオフィルム産生低減試験
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)をSoybean-Casein Digest Agar〔SCD寒天培地:日本製薬(株)製〕を用いて37℃、24時間前培養した。培地上に発育したコロニーを掻きとり、10mM滅菌リン酸バッファー(pH7.2)に懸濁した後、5,000×g、15分、10℃の条件で2回遠心洗浄し、再度10mM滅菌リン酸バッファー(pH7.2)に懸濁して、菌の濃度を600nm吸光度で1.0(OD600=1.0)に調整した菌液を作製した。その後、200mL滅菌スクリューカップ〔栄研器材(株)製)の中にミューラーヒントン培地〔日本ベクトン・ディッキンソン(株)製〕を100mL及び実施例1から選ばれた試験薬剤15種類を投入してよく混合し、成分(A)又は(A')としての濃度を5ppm、10ppm、50ppm、100ppm又は500ppmに調整した後、前述の調製済み菌液を0.1mL接種した。更にコントロールとして、薬剤未添加のミューラーヒントン培地に前述同様に細菌を接種した試験区を同時に設けた。
これらを37℃にて静置培養し、1日、2日、3日、及び5日後の時点で培養液中の菌数測定とカップ内に形成したバイオフィルムの目視観察を行った後、10,000×g、30分、5℃の条件で遠心分離して沈殿物を取り出し、真空デシケーターで24時間乾燥させた後、秤量して、培養液中に産生されたバイオフィルムの重量とした。尚、バイオフィルムの生成状態は、バイオフィルムがカップ内に確認されないものを○、バイオフィルムがカップ内の気液界面に生成しはじめた状態を△、バイオフィルムが気液界面から培養液中に至るまで生成している状態を×と判定した。
結果を表2−1〜2−4に示す。
【0039】
【表2−1】

【0040】
【表2−2】

【0041】
【表2−3】

【0042】
【表2−4】

【0043】
実施例3:シリコンチューブ内へのバイオフィルム生成抑制試験
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)及びクレブシェラ菌(Klebsiella pneumoniae ATCC13883)を、Soybean-Casein Digest Agar〔SCD寒天培地:日本製薬(株)製〕を用いて37℃、24時間の前培養を行った。実施例1における本発明品9、本発明品14及び本発明品30、並びに比較品3及び比較品26を(A)又は(A')成分として25ppm又は100ppmになるように1Lのミューラーヒントン培地〔日本ベクトン・ディッキンソン(株)製〕中に希釈して、前記の寒天培地上の細菌コロニーを1白金耳接種し、コールパーマー インスツルメント社(Cole-Parmer Instrument Company)製のマスターフレックス(Masterflex)定量ポンプシステム(システムモデルNo.7553−80、ヘッドNo.7016−21)を用い、アラム(株)製シリコンチューブ(内径5mm、外径7mm)に、細菌を懸濁させた培養液を30℃条件で循環させた。尚、培養液循環は流量50〜60mL/分で行った。更にコントロールとして、薬剤未添加のミューラーヒントン培地に細菌を接種した試験区を同時に設けた。
シリコンチューブ内へのバイオフィルム生成を目視で観察すると共に、培養液中の菌数を測定した。バイオフィルム生成状態は、全く生成しないものを○、バイオフィルムが生成開始してシリコンチューブ表面がやや色づいたものを△、明らかにバイオフィルムが生成したものを×とした。
結果を表3−1〜3−2に示す。表3−1は緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC 13275)についての結果であり、表3−2はクレブシェラ菌(Klebsiella pneumoniae ATCC 13883)についての結果である。
【0044】
【表3−1】

【0045】
【表3−2】

【0046】
本発明品を用いた場合、シリコンチューブ内へのバイオフィルム生成は著しく抑制できることが確認された。同時に行った培養液中の菌数測定からは、コントロール、本発明品、比較品共に増殖しており、殺菌や抗菌作用によってバイオフィルム生成を抑制しているのではないことが示唆される。
【0047】
実施例4:アルコール及びアルコールエチレンオキサイド付加物と界面活性剤の組合せによるバイオフィルム生成抑制能と殺菌力の検定
成分(A)として(A−2)、(A−3)及び(A−7)、成分(B)として(B−1)、(B−5)、(B−11)及び(B−12)を用いて表4に示すような本発明品47〜54、比較品31〜34の組成物を調製した。
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)を、Soybean-Casein Digest Agar〔SCD寒天培地:日本製薬(株)製〕を用いて37℃、24時間前培養した。培地上に発育したコロニーを掻きとり、10mM滅菌リン酸バッファー(pH7.2)に懸濁した後、5,000×g、15分、10℃の条件で2回遠心洗浄し、再度10mM滅菌リン酸バッファー(pH7.2)に懸濁して、菌の濃度を600nm吸光度で1.0(OD600=1.0)に調整した菌液を作製した。その後、200mL滅菌スクリューカップ(栄研器材(株)製)の中にミューラーヒントン培地〔日本ベクトン・ディッキンソン(株)製〕を99mL入れて、同時に調製済のバイオフィルム生成抑制剤組成物を1ml投入してよく混合し、成分(A)としての濃度を150ppmに調整した後、前述の調製済み菌液を0.1mL接種した。
成分(A)
(A−2)C10アルコール〔カルコール1098、花王(株)製〕
(A−3)C12アルコール〔カルコール2098、花王(株)製〕
(A−7)C12アルコールエチレンオキサイド3モル付加物〔NIKKOL BL−3SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=3〕
成分(B)界面活性剤〔( )内の数字はエチレンオキシド平均付加モル数を示す。〕
(B−1)ラウリル硫酸ナトリウム〔エマール0、花王(株)製〕
(B−5)ポリオキシエチレン(12)ラウリルエーテル〔エマルゲン120、花王(株)製〕
(B−11)ポリオキシエチレン(10)オレイン酸エステル〔エマノーン4110、花王(株)製〕
(B−12)ポリオキシエチレン(25)硬化ヒマシ油〔エマノーンCH25、花王(株)製〕
これらの培養液を用いて37℃にて静置培養を開始し、バイオフィルム生成抑制剤との接触直後、3時間及び24時間後の時点で培養液中の菌数測定を行ない、また培養12時間後、24時間後の培養液を10,000×g、30分、5℃の条件で遠心分離して沈殿物を取り出し、真空デシケーターで24時間乾燥させた後、秤量して、培養液中に産生されたバイオフィルムの重量とした。
結果を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
表4に示すとおり、成分(A)と成分(B)の比率を2以下、好ましくは1/1〜1/10にすることによって長期的にバイオフィルムの生成抑制効果は発現するが(本発明品47〜54)、成分(B)の少ない組成物((A)/(B)が2.5、比較品33)や成分(B)のみ(比較品32、比較品34)ではバイオフィルム生成抑制効果は見られないことがわかる。
更に、殺菌効果とバイオフィルム生成抑制効果には相関がないことが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)
(A)一般式(1)
RO−(EO)n−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の整数を示す。)で表される化合物、及び成分(A)以外の(B)界面活性剤を含有し、成分(A)と成分(B)の重量比率(A)/(B)が2以下であるバイオフィルム生成抑制剤組成物。
【請求項2】
(B)界面活性剤が陰イオン性界面活性剤及び成分(A)以外の非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1記載のバイオフィルム生成抑制剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のバイオフィルム生成抑制剤組成物を微生物と接触させてバイオフィルムの生成を抑制する方法。
【請求項4】
バイオフィルム生成抑制剤組成物と微生物との接触が連続して行なわれる請求項3記載のバイオフィルムの生成を抑制する方法。
【請求項5】
バイオフィルム生成抑制剤組成物の使用時の成分(A)の重量濃度が1〜10,000ppmである請求項3又は4記載のバイオフィルムの生成を抑制する方法。

【公開番号】特開2008−120783(P2008−120783A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76717(P2007−76717)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】