説明

バイフューエルエンジン搭載車両の燃料制御装置

【課題】 大気汚染が高濃度になり易い状況において排気ガス中の汚染物質を低減させる走行を可能とするバイフューエルエンジン搭載車両の燃料制御装置を提供する。
【解決手段】 二種以上の燃料を使用可能なバイフューエルエンジン搭載車両100であって、自車両周辺の大気汚染状況を判定する大気汚染状況判定手段と、該大気汚染状況判定手段により、大気汚染物質が高濃度になり易いと判定されたとき、前記二種以上の燃料の中、汚染物質の排出が少ない形態の燃料を使用するように燃料供給系を制御する使用燃料制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二種以上の燃料を使用可能なバイフューエルエンジン搭載車両の燃料制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等においては、大気汚染抑制および省資源等の観点からガソリン、アルコールおよび軽油等の液体燃料と共に、石油ガス(LPG)、天然ガス(LNGまたはCNG:Compressed Natural Gas)および水素等の気体燃料が注目されている。しかし、CNG等の場合は、ガソリン等に比べてそのエネルギー密度が小さいので、CNGを使用するエンジンを搭載した車両は、ガソリンを使用するエンジンを搭載した車両に比べて航続距離が短い。また、インフラ整備の遅れから、CNGや水素の充填ステーションの数も十分ではなく、長距離の移動に不安が残っている。そこで、かかる液体燃料同士または液体燃料と気体燃料との二種以上の燃料を使用可能なバイフューエルエンジンが提案されている。
【0003】
ところで、かかるバイフューエルエンジンを搭載した車両においても一般のユーザがモノフューエルエンジン搭載車両との違和感がなく使用ができるように、種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、バイフューエルエンジンにおいて、ユーザの指定が可能であり、その負荷および回転状態に基づき最適な燃料が選択される、自動運転モードと液体燃料運転モードと気体運転モードとの3つの運転モードが設定されたバイフューエルエンジンが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、バイフューエルエンジンにおいて、カーナビゲーションシステムを利用して現在使用中の燃料残量では最短補給所まで到達不可能と判断されるときは、自動的に使用燃料の切替えを行なうようにしたバイフューエルエンジンが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、LPGとガソリンとのバイフューエルエンジンにおいて、エンジンの燃焼燃料として使用されていない供給系統のデリバリパイプ内に滞留している燃料の温度が上限値に達すると、その供給系統の燃料ポンプを駆動し液相を維持させるようにしたバイフューエルエンジンが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−257304号公報
【特許文献2】特開2004−270604号公報
【特許文献3】特開2004−36458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、バイフューエルエンジン搭載車両においては、上述のように大気汚染抑制の観点から、大気汚染物質の排出量の少ない燃料を用いると共に、大気汚染物質の排出量の少ない状態での運転走行が可能な限り行なわれることが要求されている。
【0008】
上記特許文献1ないし3に記載の技術は、かかる要求に沿ったものであり、評価し得るものである。しかしながら、これらは、あくまでも運転状態に見合った最適な燃料を用いるというものであり、周囲の大気汚染状況を考慮しているものではない。現在問題となっている、特に都市における大気汚染を解決するためには、大気汚染が高濃度になり易い状況において、その一因とされる排気ガス中の汚染物質を低減させる走行が行われることが必要である。
【0009】
そこで、本発明の課題は、かかる従来の問題を解消し、大気汚染が高濃度になり易い状況における排気ガス中の汚染物質を低減させる走行を可能とするバイフューエルエンジン搭載車両の燃料制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の一形態に係るバイバイフューエルエンジン搭載車両の燃料制御装置は、二種以上の燃料を使用可能なバイフューエルエンジン搭載車両であって、自車両周辺の大気汚染状況を判定する大気汚染状況判定手段と、該大気汚染状況判定手段により、大気汚染物質が高濃度になり易いと判定されたとき、前記二種以上の燃料の中、汚染物質の排出が少ない形態の燃料を使用するように燃料供給系を制御する使用燃料制御手段と、を備えることを特徴とする。 ここで、前記大気汚染状況判定手段は、少なくとも自車両の位置情報、周辺の渋滞情報、外気温情報および時刻情報に基づいて判定することが好ましい。
【0011】
また、前記使用燃料制御手段は、前記二種以上の燃料を切替える燃料切替弁制御装置を含むものであってもよい。
【0012】
さらに、前記使用燃料制御手段は、前記二種以上の燃料の混合割合を調整する燃料混合弁制御装置を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一形態に係るバイバイフューエルエンジン搭載車両の燃料制御装置によれば、大気汚染状況判定手段により、自車両周辺の大気汚染状況が大気汚染物質が高濃度になり易いと判定されたときには、使用燃料制御手段により、二種以上の燃料の中、汚染物質の排出が少ない形態の燃料を使用するように燃料供給系が制御される。従って、汚染物質の排出が少ない走行が可能であり、大気汚染が抑制される。
【0014】
ここで、前記大気汚染状況判定手段が、少なくとも自車両の位置情報、周辺の渋滞情報、外気温情報および時刻情報に基づいて判定する形態によれば、車両に既設のカーナビゲーションシステムや外気温センサ、車載時計を用いてコストアップを伴わずに簡単に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
【0016】
まず、図1を参照して、本発明が適用されるバイフューエルエンジンを搭載した車両100の第一の実施形態の概要を説明する。110はバイフューエルエンジン、112は燃料切替弁、120は燃料容器である。バイフューエルエンジン110は不図示の燃料噴射弁を有し、これは第一の燃料供給系と第二の燃料供給系とに燃料切替弁112を介して接続されている。本第一の実施形態では、低汚染物質排出燃料である第一の燃料AとしてCNGを用い、通常走行用の第二の燃料Bとしてガソリンを用いている。従って、上述の燃料容器120は、第一の燃料A(CNG)を収容する第一の燃料容器120AとしてのCNGボンベと、第二の燃料B(ガソリン)を収容する第二の燃料容器120Bとしてのガソリンタンクからなる。なお、以下の説明において、燃料容器を総称するときは、符号「120」を用い、異なる燃料を区別して説明する必要があるときは、第一および第二の燃料容器につきそれぞれ符号「120A」および「120B」、それらに収容される第一および第二の燃料につきそれぞれ符号「A」および「B」を用いることにする。
【0017】
そして、上述の燃料噴射弁および燃料切替弁はそれぞれ電子制御ユニット130からの出力信号に基づいて制御される。電子制御ユニット130はデジタルコンピュータからなり、双方向性バスを介して相互に接続されたROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、CPU(マイクロプロセッサ)、常時電源に接続され、書換え以外は記憶データが消失しない不揮発性メモリーとしてのB−RAM(バックアップRAM)、入力ポートおよび出力ポートを具備している。そして、この入力ポートには、カーナビゲーションシステム140、外気温センサ150および車載時計160からの信号が入力されるべく接続されている。さらに、カーナビゲーションシステム140には、GPSアンテナ142およびVICSアンテナ144が接続されている。
【0018】
上記構成になる本発明の第一の実施形態では、例えば、図2に示す制御ルーチンに従って、制御が行われる。この制御ルーチンは、予め定められた周期の割込みによって実行される。そこで、制御がスタートすると、まず、ステップS201において、GPSアンテナ142の受信によるカーナビゲーションシステム140からの自車位置情報、ステップS202において、VICSアンテナ144の受信によるカーナビゲーションシステム140からの渋滞情報、ステップS203において、外気温センサ150からの外気温情報、ステップS204において、車載時計160からの現在時刻情報が、それぞれ読込まれる。そして、ステップS205に進み、基準については後で詳述するが、大気汚染物質が高濃度になり易い状況か否かが判定される。
【0019】
大気汚染物質が高濃度になり易い状況である、すなわち、「YES」のときは、ステップS206に進み、「NO」のときはステップS208に進む。ステップS206およびステップS208においては、現在用いられている燃料が低汚染物質排出燃料(第一の燃料A)か否かが判定される。この判定は、燃料切替弁112がどちら側に位置されているかを、前回の制御ルーチンサイクルにおける記憶に基づいて行なうことができる。そして、大気汚染物質が高濃度になり易い状況であるとの判定の下に行なわれたステップS206における判定で、低汚染物質排出燃料の使用中でないとされたときには、ステップS207に進み、燃料切替弁112が切替えられる。すなわち、低汚染物質排出燃料である第一の燃料Aとしての気体燃料(CNG)を用いるべく切替えられる。一方、ステップS206における判定で、既に低汚染物質排出燃料の使用中であるとされたときには、ステップS207に進み、燃料切替弁112は切替えられることなくそのまま維持される。
【0020】
また、大気汚染物質が高濃度になり易い状況ではないとの判定の下に行なわれたステップS208における判定で、低汚染物質排出燃料の使用中でないとされたときには、ステップS209に進み、燃料切替弁112は切替えられることなくそのまま維持される。一方、ステップS208における判定で、低汚染物質排出燃料の使用中であるとされたときには、ステップS210に進み、通常走行用の第二の燃料Bとしての液体燃料(ガソリン)を用いるべく切替えられる。かくて、大気汚染物質が高濃度になり易い状況であるときは、低汚染物質排出燃料が用いられることになり、大気汚染物質の高濃度化が抑制されることになる。
【0021】
ここで、上記ステップS205で行なわれる大気汚染物質が高濃度になり易い状況か否かの判定に用いられる基準の例につき説明する。この判定基準は、例えば、自車両から所定距離(例えば、半径5km)内に渋滞区間があり、昼間(例えば、8:00から18:00)であり、且つ、外気温が所定温度(例えば、24℃)以上であることとすることができる。これは、光化学スモッグが発生し易い条件であるデータを参考にして定められ得る。また、他の判定基準としては、例えば、自車両から所定距離(例えば、半径5km)内に混雑区間または渋滞区間があり、深夜から早朝(例えば、3:00から7:00)であり、且つ、外気温が所定温度(例えば、15℃)以下であることとすることができる。これは、深夜から早朝にかけての大気逆転層発生に伴い、大気汚染物質が高濃度になり易い条件であるデータを参考にして定められる。
【0022】
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。上述した第一の実施形態では低汚染物質排出燃料である第一の燃料Aと通常走行用の第二の燃料Bとを状況に応じて切替て使用するために、燃料を切替える燃料切替弁制御装置としての燃料切替弁112を含むのに対し、この第二の実施形態では、低汚染物質排出燃料である第一の燃料Aとこれに混合して使用される第二の燃料Bとを状況に応じて混合の割合を変えるために、燃料の混合割合を調整する燃料混合弁制御装置としての燃料混合弁114を含んでいる。この第一の燃料Aと第二の燃料Bとを混合して用いる第二の実施形態においては、第一の燃料容器120Aに例えばガソリン、第二の燃料容器120Bに例えばエタノールが収容されている。なお、該燃料混合弁114とバイフューエルエンジン110の不図示の燃料噴射弁および第一の燃料供給系と第二の燃料供給系との接続関係は、上述の第一の実施形態の燃料切替弁112の場合と同じである。従って、燃料混合弁114は、図1に、符号「112」の後の括弧内に符号「114」で示されている。
【0023】
この第二の実施形態においては、図3に示したフローチャートの制御ルーチンに従い制御される。この制御ルーチンにおけるステップS301ないしS305は前実施の形態におけるステップS201ないしS205と同じであるから重複説明を避ける。そこで、ステップS305において、大気汚染物質が高濃度になり易い状況か否かが判定され、「YES」のときは、ステップS306に進み、「NO」のときはステップS307に進む。この「NO」のときのステップS307においては、通常走行用の燃料混合割合が維持される。すなわち、電子制御ユニット130からの指令に基づき、燃料混合弁114によるガソリンとエタノールとの燃料の混合割合(例えば、エタノール10%含有)が通常走行用のまま維持されるのである。一方、ステップS305において、大気汚染物質が高濃度になり易い状況である、すなわち、「YES」と判定されたときのステップS306では、汚染物質の排出が少ない形態の燃料が用いられるように、燃料混合弁114により燃料の混合割合が調整される。この調整としては、エタノールの混合を完全に停止するか、エタノールの含有%をさらに減少させるようにしてもよい。
【0024】
ここで、上述の第一の実施形態に対応して、大気汚染物質が高濃度になり易い状況か否かに応じて切替えられる燃料としては、表1に示すような燃料の組合せが可能である。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の2における高オクタン価ガソリンと低オクタン価ガソリンとの組合せの場合には、上述した第一の燃料容器120Aに第一の燃料Aとして低オクタン価ガソリン、第二の燃料容器120Bに第二の燃料Bとして高オクタン価ガソリンが収容されることになる。この場合、例えば、第一の燃料容器120Aと第二の燃料容器120Bとの境界が分離膜により画成される形態で燃料容器120を構成するか、または、例えば、特開2004−232624号公報に記載の車載用燃料分離装置を用いるようにしてもよい。
【0027】
また、上述の大気汚染物質が高濃度になり易い状況か否かに応じて混合の割合が変えられる燃料としては、表2に示すような燃料の組合せが可能である。
【0028】
【表2】

【0029】
表2の2におけるGTLと軽油との組合せの場合には、ディーゼルエンジンに有効であり、上述した第一の燃料容器120Aに第一の燃料AとしてGTL、第二の燃料容器120Bに第二の燃料Bとして軽油が収容されることになる。そして、通常走行用としては両者を適当な混合割合で用い、大気汚染物質が高濃度になり易い状況であると判定されたときは、汚染物質の排出が少ない形態の燃料であるGTLが用いられるように燃料混合弁114により燃料の混合割合が調整される。この調整としては、GTLが100%の状態とするか、多少の軽油が含有される状態としてもよい。
【0030】
なお、上述した燃料以外にも、二種以上の燃料の組合せでバイフューエルエンジンに用いられ、そのうちのいずれかが汚染物質の排出が少ない形態の燃料であるときには、本発明が適用できることは云うまでもない。そのような燃料としては、一次燃料である天然ガスおよび石油ガス、或いは二次燃料である水素、石炭転換ガスおよび石油転換ガス、また、液体燃料としてイソオクタン、ヘキサン、ヘプタン、灯油のような炭化水素、或いは液体の状態で保存しうるブタン、プロパンのような炭化水素、或いはメタノール等の組合せを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るバイフューエルエンジン搭載車両の燃料制御装置の実施形態を示す全体線図である。
【図2】本発明の第一の実施形態における制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第二の実施形態における制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0032】
100 バイフューエルエンジン
112 燃料切替弁
114 燃料混合弁
120 燃料容器
120A 第一の燃料容器
120B 第二の燃料容器
130 電子制御ユニット
140 カーナビゲーションシステム
142 GPSアンテナ
144 VICSアンテナ
150 外気温センサ
160 車載時計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二種以上の燃料を使用可能なバイフューエルエンジン搭載車両であって、
自車両周辺の大気汚染状況を判定する大気汚染状況判定手段と、
該大気汚染状況判定手段により、大気汚染物質が高濃度になり易いと判定されたとき、前記二種以上の燃料の中、汚染物質の排出が少ない形態の燃料を使用するように燃料供給系を制御する使用燃料制御手段と、
を備えることを特徴とするバイフューエルエンジン搭載車両の燃料制御装置。
【請求項2】
前記大気汚染状況判定手段は、少なくとも自車両の位置情報、周辺の渋滞情報、外気温情報および時刻情報に基づいて判定することを特徴とする請求項1に記載のバイフューエルエンジン搭載車両の燃料制御装置。
【請求項3】
前記使用燃料制御手段は、前記二種以上の燃料を切替える燃料切替弁制御装置を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のバイフューエルエンジン搭載車両の燃料制御装置。
【請求項4】
前記使用燃料制御手段は、前記二種以上の燃料の混合割合を調整する燃料混合弁制御装置を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のバイフューエルエンジン搭載車両の燃料制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−266160(P2006−266160A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84895(P2005−84895)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】