説明

バルブユニットおよび液体噴射装置

【課題】液体供給路の途中に設けられた圧力室内における気泡の成長を抑制することのできるバルブユニットおよび液体噴射装置を提供する。
【解決手段】バルブユニット19は、液体供給路の途中に設けられて上流側からインクを流入させるための流入口39a及び下流側へインクを流出させるための流出口39bを有する圧力室39と、圧力室39の壁面の一部を構成し、その圧力室39内の圧力変動に基づいて変位する隔壁フィルム37と、隔壁フィルム37により圧力室39との隔壁を構成するように圧力室39の外側に設けられ、その内部が油類等の非極性の液体で満たされた液体充填室42とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブユニットおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドから液体をターゲットに対して噴射する液体噴射装置として、例えば、インクジェット式プリンタ(以下、単に「プリンタ」と言う)が知られている。このプリンタは、インク(液体)を収容するインクカートリッジ(液体収容体)と、インクを噴射可能な記録ヘッド(液体噴射ヘッド)を備えている。そして、インクカートリッジ内のインクをインク供給路(液体供給路)を通じて記録ヘッド側に供給し、そのインクを記録ヘッドのノズルから記録媒体に噴射することで印刷を行っている。
【0003】
こうしたプリンタにあっては、インクカートリッジから記録ヘッドにインクを安定して供給することが望ましい。そこで、こうした要望に応えるために、近時、キャリッジ上にインクの流動圧を調整するためのバルブユニットを備えたプリンタが提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
具体的には、特許文献1におけるプリンタに備えられたバルブユニットは、凹部が形成された定形性を有する流路形成部材と、この流路形成部材の凹部を封止するフィルム部材と、このフィルム部材で流路形成部材の凹部を封止することで形成された圧力室へのインク流入口を開閉する弁部材とを備えている。この弁部材は、常時は圧力室内に配設された弁付勢ばねによってインク流入口を閉鎖する閉弁状態に付勢されている。そして、ノズルからインクが吐出されて圧力室の流出口からインクが流出すると、圧力室内に負圧が生じて、フィルムが圧力室の体積を減少させる方向に変位する。このフィルムの変位に基づく押圧力により、弁部材が弁付勢ばねの付勢力に抗して流入口から離間することで、圧力室内に新たなインクが供給されるようになっている。
【0004】
ところで、こうしたプリンタにあっては、その構造上、例えばインクカートリッジの交換時等にインク供給路に空気が入り込み、この空気がインク中に気泡となって混入することがある。こうした気泡がバルブユニットの圧力室に達すると、圧力室内には負圧が発生することから、空気がフィルムを透過して圧力室内に移行し、インク中に混入した気泡が成長してしまうという問題があった。このような気泡は記録ヘッドへのインク供給の不安定化を招くおそれがあるため、気泡をできるだけ成長させないようにすることが望ましい。そこで、このような気泡成長の抑制策として、従来は圧力室のフィルムをガスバリア性の高い素材で構成していた。
【特許文献1】特開2005−95861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、高いガスバリア性を有する素材は高弾性率のものが多く、ガスバリア素材で構成したフィルムは硬いものになって、圧力室内の負圧に応じて変位する際の応答性が低下する。このようにフィルムの応答性が低下すると、結局、記録ヘッドへのインク供給が不安定となって、印刷品質の低下を招くことになる。また、ガスバリア素材や水蒸気バリア素材は一般に高価なため、これらの素材を採用することにより製造コストの上昇を招くという問題もある。
【0006】
なお、上記インクジェット式プリンタに限らず、液体収容体に収容されている液体を液体供給路を通じて液体噴射ヘッドに供給し、同液体噴射ヘッドに設けられているノズルを通じて上記液体を噴射する液体噴射装置にあっては、こうした実情も概ね共通したものとなっている。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体供給路の途中に設けられた圧力室内における気泡の成長を抑制することのできるバルブユニット及び液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のバルブユニットは、液体供給路の途中に設けられ、該液体供給路の上流側から液体を流入させるための流入口および該液体供給路の下流側へ液体を流出させるための流出口を有する圧力室と、該圧力室の壁面の一部を構成し、その圧力室内の圧力変動に基づいて変位する可撓性部材と、該可撓性部材により前記圧力室との隔壁を構成するように前記圧力室の外側に設けられ、その内部が液体で満たされた液体充填室とを備えたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、可撓性部材により圧力室との隔壁を構成する液体充填室が圧力室の外側に設けられていることから、外部(大気中)の空気がフィルム等の可撓性部材を介して直接圧力室内へ移行することがないため、圧力室内に気泡が存在しても、気泡の成長を抑制することができる。したがって、可撓性部材として高弾性率で高価なガスバリア素材を用いることなく、柔軟性に富んで安価なフィルムを使用することができるため、可撓性部材の良好な応答性を確保しつつ、圧力室内における気泡の成長を抑制することができる。
【0010】
また、本発明のバルブユニットにおいては、前記液体充填室の内部が非極性の液体で満たされていることが好ましい。
この構成によれば、液体充填室の内部は油類等の非極性の液体で満たされていることから、空気の主な構成要素である酸素、窒素、二酸化炭素等、極性を有する一般的な気体は液体充填室内の液体へは溶け込みにくい。したがって、液体充填室をガスバリア性に劣る素材によって構成しても、液体充填室内は溶存気体量が低く保持されるため、可撓性部材を介しての圧力室内への空気の移行も抑制される。
【0011】
また、本発明のバルブユニットにおいては、前記液体充填室は、前記可撓性部材以外で構成される壁面の少なくとも一部が可撓性を有する封止部材により構成されていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、封止部材を所定の撓み状態で取り付けることで、可撓性部材の変位に伴う液体充填室内の圧力変化が封止部材の撓み変形によって許容される。また、温度変化等によって液体充填室内に充填した液体の体積が変化した場合にも、封止部材が撓み変形することにより、液体充填室内の圧力変化が許容される。したがって、極めて簡単な構成で可撓性部材の良好な応答性を確保しつつ、圧力室内における気泡の成長を抑制することができる。
【0013】
また、本発明のバルブユニットにおいては、前記封止部材で少なくとも一部が構成される前記液体充填室の壁面は、前記液体充填室を挟んで前記可撓性部材と対向する位置に設けられることが望ましい。
【0014】
この構成によれば、液体充填室において、表面積を確保する必要のある可撓性部材で構成される壁面と封止部材で構成される壁面とを対向する位置に設けることにより、装置の小型化を図ることができる。
【0015】
また、本発明のバルブユニットにおいては、前記可撓性部材により構成される前記液体充填室の壁面部分の面積は前記封止部材により構成される前記液体充填室の壁面部分の面積よりも小さいことが好ましい。
【0016】
この構成によれば、液体充填室において、可撓性部材により構成される壁面部分よりも封止部材により構成される壁面部分の面積を大きくすることで、可撓性部材の良好な応答性を確保しつつ、封止部材にかかる変形負荷を小さくすることができる。
【0017】
本発明の液体噴射装置においては、液体を収容する液体収容体と、前記液体をターゲットに対して噴射可能な液体噴射ヘッドと、前記液体収容体側から前記液体噴射ヘッド側へ前記液体を供給するための液体供給路と、上述したバルブユニットとを備えたことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、可撓性部材として高弾性率で高価なガスバリア素材を用いることなく、柔軟性に富んで安価なフィルムを使用することができて、可撓性部材の良好な応答性を確保しつつ、圧力室内における気泡の成長を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、本発明をインクジェット式プリンタ(以下、単にプリンタという)に具体化した第1の実施形態を図1〜図3に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は、特に断らない限り、図1に矢印で示す前後方向(副走査方向)及び左右方向(主走査方向)、並びに図2〜図4に矢印で示す上下方向(重力方向)をそれぞれ示すものとする。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の液体噴射装置としてのプリンタ11は、略矩形箱状をなす本体ケース12を備えている。本体ケース12内の下部には、その長手方向である左右方向に沿ってプラテン13が架設されている。プラテン13は、ターゲットとしての記録用紙Pを支持する支持台であって、このプラテン13上には、図示しない紙送り機構により記録用紙Pが副走査方向となる前後方向に沿って給送されるようになっている。また、本体ケース12内には、プラテン13の長手方向(左右方向)と平行に棒状のガイド部材14が架設されている。
【0021】
このガイド部材14には、キャリッジ15がガイド部材14の軸線方向(左右方向)に往復移動可能な状態で支持されている。キャリッジ15は、一対のプーリ16a間に張設された無端状のタイミングベルト16を介してキャリッジモータ17に連結されている。したがって、キャリッジ15は、キャリッジモータ17の駆動により、ガイド部材14に沿って往復移動されるようになっている。
【0022】
キャリッジ15のプラテン13に対向する面には、液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド18が設けられている。また、キャリッジ15上には、液体としてのインクを記録ヘッド18に供給するバルブユニット19が、プリンタ11に使用されるインクの色に対応して複数個設けられている。また、記録ヘッド18の下面には、同様にインクの色に対応した複数のノズル20(図2参照、同図には1つのみ図示。)が形成されている。そして、各ノズル20からプラテン13上に給送された記録用紙Pにインク滴が噴射されることで印刷が行われるようになっている。
【0023】
本体ケース12の右端部にはカートリッジホルダ21が設けられると共に、カートリッジホルダ21とプラテン13との間には、記録ヘッド18の退避位置となるホームポジションHPが設けられている。印刷の開始前などには、このホームポジションHPにおいて記録ヘッド18に対するクリーニング等、各種メンテナンス処理が実行される。
【0024】
カートリッジホルダ21には、液体収容体としてのインクカートリッジ22が着脱可能に複数個装着されている。各インクカートリッジ22は矩形箱状のケース23を備えている。このケース23内には、インクカートリッジ22毎に色の異なるインクを充填した、可撓性のフィルムからなる袋状のインクパック24(図2参照)が収容されている。そして、各インクカートリッジ22は、カートリッジホルダ21に装着された場合にインク供給チューブ25の上流端に接続されることにより、インク供給チューブ25を介してキャリッジ15上の各バルブユニット19とそれぞれ接続されるようになっている。
【0025】
カートリッジホルダ21の上側には、加圧ユニット26が搭載されている。この加圧ユニット26は、空気供給路27を介して加圧空気をインクカートリッジ22内に圧送する装置であって、加圧ポンプ28、圧力検出器29及び大気開放弁30を備えている。圧力検出器29によって空気供給路27内の加圧空気の圧力が検出され、この検出値に基づいて加圧ポンプ28の駆動制御が行われる。また、何らかの事情により空気供給路27内の圧力が過度の状態になった場合は、大気開放弁30が開放動作して空気供給路27内の圧力を大気中に放出するようになっている。
【0026】
空気供給路27は、大気開放弁30の下流側に配設された分配器31を境にインクカートリッジ22の個数と同数に分岐されている。そして、分岐された各空気供給路27は、それぞれの下流端が各々対応するインクカートリッジ22に接続され、そのインクカートリッジ22のケース23内に連通している。したがって、加圧ユニット26の加圧ポンプ28が駆動された場合には、加圧ポンプ28から圧送された加圧空気が空気供給路27を介してインクカートリッジ22の各ケース23内にそれぞれ導入されるようになっている。
【0027】
図2に示すように、インクカートリッジ22のケース23内は加圧室32となっており、この加圧室32内にインクパック24が収容されている。加圧ポンプ28から空気供給路27を介して圧送された加圧空気は加圧室32に導入され、加圧空気の空気圧によってインクパック24が押し潰される。すると、インクパック24内のインクがインク供給チューブ25に導出され、インク供給チューブ25を通じてバルブユニット19に圧送される。
【0028】
バルブユニット19内には、このバルブユニット19内にインク供給チューブ25から供給されるインクを流入させるための流入路19aと、このバルブユニット19内から記録ヘッド18側にインクを流出させるための流出路19bとが形成されている。そして、本実施形態においては、上述したインク供給チューブ25、流入路19a、及び流出路19bによって、インクカートリッジ22側から記録ヘッド18側へインク(液体)を供給するためのインク供給路(液体供給路)が構成されている。
【0029】
一方、記録ヘッド18内には、バルブユニット19の流出路19bと連通するインク流路18aが形成されると共に、このインク流路18aと記録ヘッド18の下面に形成されたノズル20との間には、インクを一時貯留可能なインク室Rが設けられている。このインク室Rの上側には上下方向に振動してインク室R内の容積を拡大及び縮小する振動板(図示略)が配設されると共に、その振動板の上側には振動板を振動させるための圧電素子(図示略)が配設されている。そして、圧電素子が上下方向に収縮及び伸張して振動板を上下方向に振動させることにより、記録ヘッド18のノズル20からインクが所定容量の液滴となって吐出されるようになっている。
【0030】
次に、バルブユニット19の具体的構成について図3(a)に基づいて説明する。
図3(a)に示すように、バルブユニット19は、それぞれ定形性を有する第1流路形成部材33と第2流路形成部材34と液体充填室形成部材35とが積層された構造をしている。すなわち、バルブユニット19は、第1流路形成部材33上に第2流路形成部材34が接合されると共に、その第2流路形成部材34上に液体充填室形成部材35が接合されることにより、三層が一体化されたユニット構造をしている。
【0031】
まず、第1流路形成部材33は、その外形が略直方体形状をなしており、その平面状をなす上面には平面視円形状の凹部33aが形成されると共に、その凹部33aの内底面において中心から偏心した位置には円錐台形状をなす凸部33bが一つ形成されている。そして、この凸部33bの上端面に凹部33a内へのインクの流入口39aを開口するようにして、上述した流入路19aが、第1流路形成部材33内においてL字状をなすように形成されている。
【0032】
次に、第2流路形成部材34は、第1流路形成部材33よりも上下方向の厚みが薄い略直方体形状をなしており、その平面状をなす下面が第1流路形成部材33の上面と接合されている。また、第2流路形成部材34の上面には、第1流路形成部材33の凹部33aに対して上下方向で部分的に重なり合う平面視円形状の凹部34aが形成されている。この凹部34aは、その中心が第1流路形成部材33の凹部33aの中心から見た場合に前記凸部33bとは反対側に偏心した位置態様となるように設けられる。そして、この凹部34aの内周面を上側に延長するような膨出態様で、第2流路形成部材34の上面には、円環状の突縁部34bが形成されている。
【0033】
また、第2流路形成部材34における凹部34aの底部中央には、この凹部34aを第1流路形成部材33の凹部33aに連通させる中心孔34cが貫通形成されている。この中心孔34cは、その開口面積が第1流路形成部材33の凹部33aの開口面積よりも小さく、その凹部33aの開口した範囲内に位置するように形成されている。
【0034】
また、第2流路形成部材34における凹部34aの内底面において、その中心孔34cよりも外側となる位置には、上述した流出路19bが、凹部34aの内底面にインクの流出口39bを開口するようにして、第2流路形成部材34及び第1流路形成部材33に貫通形成されている。
【0035】
また、第2流路形成部材34における突縁部34bの上端面には、可撓性部材としての隔壁フィルム37が凹部34a内へ少し撓んだ状態で、凹部34aの上端開口を封止するように固着されている。また、隔壁フィルム37の凹部34a内に臨む内面側の略中央部には、凹部34aの開口面積よりも面積の小さい円板状の押圧板38が固着されている。そして、この隔壁フィルム37で凹部34aが封止されることにより、バルブユニット19内には、第1流路形成部材33の凹部33aと第2流路形成部材34の凹部34a及び両凹部33a,34a間を連通する中心孔34cの各内部空間からなる圧力室39が、隔壁フィルム37により壁面の一部が構成されるようにして形成されている。
【0036】
次に、液体充填室形成部材35は、その上下方向の厚みが第1流路形成部材33と第2流路形成部材34の各厚みの中間程度である略直方体形状をなしており、その平面状をなす下面が第2流路形成部材34の上面と接合されている。液体充填室形成部材35は、上下方向(厚さ方向)に貫通する貫通孔35aを有しており、この貫通孔35aは、その開口面積が第2流路形成部材34の凹部34aの開口面積よりも大きく、液体充填室形成部材35が第2流路形成部材34上に積層された場合には第2流路形成部材34の凹部34aと同心配置となるように形成されている。
【0037】
また、液体充填室形成部材35の上面には、貫通孔35aの上端開口を所定の撓み状態でもって封止するように、可撓性素材からなる封止部材としての封止フィルム40が固着されている。また、封止フィルム40の貫通孔35a内に臨む内面側の略中央部には、貫通孔35aの開口面積よりも面積の小さい円板状の受圧板41が固着されている。そして、この封止フィルム40で貫通孔35aの上端開口が封止されると共に、封止フィルム40及び貫通孔35aにより囲み形成される空間内部が油類等の非極性の液体で満たされることによって、液体充填室42が形成されている。すなわち、バルブユニット19内には、貫通孔35aの内部空間からなる液体充填室42が、封止フィルム40により壁面の一部が構成されると共に、上述した隔壁フィルム37により圧力室39との隔壁が構成されるようにして形成されている。なお、液体充填室42において、隔壁フィルム37で構成される壁面の面積は、その隔壁フィルム37が固着される凹部34aの開口面積の方が封止フィルム40が固着される貫通孔35aの開口面積よりも小さいため、その封止フィルム40で構成される他方の壁面の面積よりも小さくなっている。
【0038】
次に、圧力室39の内部構成について説明する。
図3(a)に示すように、圧力室39を構成する下側の凹部33aの内底面略中央部には基台部43が設けられ、この基台部43に対して弁部材44が支持されている。弁部材44は、その先端(図3(a)では左端)に流入口39aと対峙する弁体45を固着した作用点側アーム部44aと、その先端(図3(a)では上端)が上側の凹部34a内で押圧板38と対峙する力点側アーム部44bと、これら両アーム部44a,44b間を連結する連結アーム部44cとを備えている。
【0039】
また、弁部材44は、作用点側アーム部44aと連結アーム部44cとの連結部分及び力点側アーム部44bと連結アーム部44cとの連結部分がそれぞれ略「へ」の字状をなす角度で連結されることにより、作用点側アーム部44aと力点側アーム部44bが互いの軸方向を直角に交差させた形状に形成されている。そして、作用点側アーム部44aと連結アーム部44cとの連結部分から側方(図3(a)では紙面と直交する方向)に突設された支軸44dが基台部43の軸受部43aに対して回動可能に支持されることにより、弁部材44は、弁体45が流入口39aを閉鎖する閉弁状態と流入口39aを開放する開弁状態との間で弁開閉動作するようになっている。
【0040】
また、圧力室39を構成する下側の凹部33a内において、流入口39aと弁体45を挟んで対峙する位置には、圧縮コイルスプリングからなる弁付勢ばね46が配置されている。そして、この弁付勢ばね46は、収縮した蓄力状態において、その一端(図3(a)では上端)が第2流路形成部材34の下面に当接する一方、その他端(図3(a)では下端)が弁体45に当接することにより、弁体45を常には流入口39aを閉鎖する閉弁状態となる方向へ付勢している。
【0041】
次に、液体充填室42の内部構成について説明する。
図3(a)に示すように、液体充填室42を構成する貫通孔35a内には第2流路形成部材34の突縁部34bよりも大径の圧縮コイルスプリングからなる受圧用ばね47が突縁部34bを囲むような態様で収容されている。そして、この受圧用ばね47は、収縮した蓄力状態において、その一端(図3(a)では上端)が受圧板41の下面に当接する一方、その他端(図3(a)では下端)が第2流路形成部材34の上面に当接することにより、受圧板41を介して封止フィルム40を常には液体充填室42の内容積を拡大する方向へ付勢している。
【0042】
そのため、受圧用ばね47が受圧板41を介して封止フィルム40を付勢する状態では、液体充填室42の内容積が拡大する方向へ封止フィルム40が変位するため、液体充填室42内は負圧が発生した状態に保持される。そのため、液体充填室42と圧力室39との隔壁を構成する隔壁フィルム37は、液体充填室42内に発生した負圧を受け、液体充填室42側に付勢された状態となる。
【0043】
次に、以上のように構成されたバルブユニット19の動作について説明する。
まず、プリンタ11は印刷に先だって、その準備作業として記録ヘッド18がホームポジションHPに配置された状態でノズル20からインクを吐出又は吸引することで、インク供給チューブ25よりも下流側における流入路19a、圧力室39、流出路19b、インク流路18a及びインク室Rの内部にインクを充填する。
【0044】
この準備作業が完了した状態において、弁部材44は、図3(a)に示すように、作用点側アーム部44aは水平に、また、力点側アーム部44bは垂直になった態様で、弁付勢ばね46によって下向きに付勢された弁体45が凸部33bに当接して流入口39aを閉鎖している。また、隔壁フィルム37は液体充填室42内の負圧を受けて上向きに付勢された状態になっている。
【0045】
さて、印刷準備作業が完了した後、印刷が開始されると、加圧ポンプ28が駆動されてインクカートリッジ22内の加圧室32に加圧空気が送出される。この加圧空気によってインクパック24が加圧され、インクパック24内のインクが加圧状態でバルブユニット19側に送出される。そして、インク供給チューブ25及び流入路19aを通じてインクが流入口39aまで至ると、加圧されたインクの圧力が弁体45に加わるが、この圧力よりも弁付勢ばね46の付勢力の方が大きくなっている。
【0046】
そのため、印刷開始時には圧力室39の流入口39aは弁体45により閉鎖された閉弁状態にあり、バルブユニット19の上流側と下流側とは非連通状態にある。この状態において、記録ヘッド18に備えられた圧電素子が駆動されてインクがノズル20から吐出されると、圧力室39の流出口39bからインクが流出してインク室Rに供給される。
【0047】
インクの流出に伴って圧力室39内のインク量が減少すると、圧力室39内に負圧が発生する。そして、この負圧が所定圧(=受圧用ばね47の付勢力)よりも大きくなると、隔壁フィルム37が液体充填室42内の負圧に抗して圧力室39側に撓み、隔壁フィルム37の下面中央に設けられた押圧板38が下側に向かって変位する。このとき、変位する押圧板38がその下側で対峙する弁部材44における力点側アーム部44bの先端に押圧力を加えると、弁部材44は支軸44dを中心に図3(a)において時計回り方向に回動しようとする。そして、この押圧板38による押圧力が弁付勢ばね46の付勢力よりも大きくなると、弁部材44は、図3(a)に示す閉弁状態から図3(b)に示す開弁状態へと回動変位する。すると、弁体45が弁付勢ばね46の付勢力に抗して凸部33bから離間し、流入口39aを開放する。その結果、バルブユニット19内において上流側の流入路19aと下流側の圧力室39とが連通状態となる。
【0048】
流入口39aが開放された開弁状態になると、図3(b)中に矢印で示すように、圧力室39内から流出口39bを通じて流出路19bへとインクが流出すると共に、加圧状態のインクで満たされた流入路19aから圧力室39内にインクが流入する。流入したインクにより圧力室39内に発生した負圧が上述した所定圧よりも小さくなると、隔壁フィルム37は液体充填室42側に撓み、押圧板38が元の位置に向かって上側に変位する。そして、弁部材44における力点側アーム部44bの先端に加えられていた押圧力が弁付勢ばね46の付勢力よりも小さくなると、弁部材44は図3(b)において反時計回りに回動し、弁体45が凸部33bに当接して流入口39aが閉鎖された閉弁状態となる。
【0049】
このように、本実施形態のバルブユニット19にあっては、弁部材44の開弁動作及び閉弁動作が繰り返されることにより、印刷時においては、ノズル20から吐出されるインクの量に応じて、適切な量のインクを安定して記録ヘッド18に供給することができるようになる。
上記説明したような第1の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0050】
(1)上記実施形態では、隔壁フィルム37により圧力室39との隔壁を構成する液体充填室42が圧力室39の外側に設けられていることから、外部の空気が直接圧力室39内へ移行することがない。そのため、圧力室39内に気泡が存在したとしても、そうした圧力室39内での気泡の成長を抑制することができる。したがって、隔壁フィルム37として高弾性率で高価なガスバリア素材を用いることなく、柔軟性に富んで安価なフィルムを使用することができるため、隔壁フィルム37の良好な応答性を確保しつつ、圧力室39内における気泡の成長を抑制することができる。
【0051】
(2)上記実施形態では、液体充填室42の内部は油類等の非極性の液体で満たされていることから、空気の主な構成要素である酸素、窒素、二酸化炭素等、極性を有する一般的な気体は液体充填室42内の液体へは溶け込みにくい。したがって、封止フィルム40をガスバリア性や水蒸気バリア性に劣る素材によって構成しても、液体充填室42内は溶存気体量が低く保持されるため、圧力室39内への空気の移行も抑制される。
【0052】
(3)上記実施形態では、封止フィルム40が所定の撓み状態で取着されていることから、隔壁フィルム37の変位に伴う液体充填室42内の圧力変化が封止フィルム40の撓み変形によって許容される。また、温度変化等によって液体充填室42内に充填した液体の体積が変化した場合にも、封止フィルム40が撓み変形することにより、液体充填室42内の圧力変化が許容される。したがって、極めて簡単な構成で隔壁フィルム37の良好な応答性を確保しつつ、圧力室39内における気泡の成長を抑制することができる。
【0053】
(4)上記実施形態では、液体充填室42において、表面積を確保する必要のある隔壁フィルム37で構成される壁面は、封止フィルム40で構成される壁面と対向する位置に配置されている。これにより、バルブユニット19の小型化を図ることができる。
【0054】
(5)上記実施形態では、液体充填室42において、隔壁フィルム37で構成される壁面部分よりも封止フィルム40で構成される壁面部分の面積の方が大きい。そのため、隔壁フィルム37の良好な応答性を確保しつつ、封止フィルム40にかかる変形負荷を小さくすることができる。
【0055】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る発明の第2の実施形態について、図4(a)及び図4(b)に基づいて説明する。
【0056】
なお、この実施形態も先の第1の実施形態と同様、本発明に係る液体噴射装置をインクジェット式プリンタに具体化したものであるので、以下では第1の実施形態と相違する部分について主に説明する。
図4(a)に示すように、本実施形態におけるバルブユニット119は、定形性を有する流路形成部材133を備えている。流路形成部材133の平面状をなす一面側(同図では上面側)には、略円錐台形状の凹部133aが凹み形成されると共に、この凹部133aの開口部を所定の撓み状態でもって封止するように可撓性部材としての隔壁フィルム137が熱溶着により貼着されている。そして、この隔壁フィルム137と凹部133aとで囲み形成された内部空間により圧力室139が構成されている。また、圧力室139の壁面の一部を構成する隔壁フィルム137の上面中央部には円板状の受圧板138が凹部133aに対して同心円状に配置されるように取り付けられている。
【0057】
一方、流路形成部材133の他面側(図4(a)では下面側)には、そのほぼ中央部に内側面が円筒面状をなすインク供給室133bが凹み形成されると共に、このインク供給室133bの下面側開口部を封止するようにフィルム部材100が熱溶着されている。そして、流路形成部材133内には、このインク供給室133b内に下流端が開口するように流入路119aが貫通形成されている。
【0058】
また、流路形成部材133において、圧力室139とインク供給室133bとを区画する区画部133cの中央部には支持孔133dが形成されている。この支持孔133dには弁部材144が摺動可能に支持されている。弁部材144は、インク供給室133b内に位置する板状部144aと、この板状部144aの中央部に一体に成形されて先端が支持孔133dを介して圧力室139内まで延びるロッド部144bとにより構成されている。
【0059】
インク供給室133b内において、フィルム部材100で構成される壁面にはばね受け座101が取着されるとともに、板状部144aとばね受け座101との間には、コイル状の弁付勢ばね146が収縮した蓄力状態で介設されている。一方、区画部133cには、支持孔133dを囲むようにして円環状に形成されたゴム製のシール部材102が熱溶着などにより取り付けられている。したがって、弁部材144における板状部144aは、弁付勢ばね146の付勢力によりシール部材102に当接するとともに、区画部133c側に僅かな押圧力をもって付勢されている。
【0060】
区画部133cに形成された支持孔133dには、支持孔133dの周囲に沿って間欠的に切欠き孔133eが形成されている。この切欠き孔133eはいずれもシール部材102よりも内側に位置しており、切欠き孔133eおよび支持孔133dが圧力室139への流入口139aとなっている。
【0061】
また、流路形成部材133において、インク供給室133bよりも外側(図4(a)では右側)となる位置には、凹部133aの内側面に圧力室139からの流出口139bを開口するように流出路119bが形成されている。そして、本実施形態においては、上述したインク供給チューブ25、流入路119a、インク供給室133b、及び流出路119bによってインク供給路(液体供給路)が構成されている。
【0062】
流路形成部材133の上側には封止部材としてのキャップ状の封止フィルム140が取着されている。すなわち、このキャップ状の封止フィルム140は、その開口縁が流路形成部材133の外側面に嵌合されることにより、流路形成部材133の上方から所定の撓み状態でもって隔壁フィルム137を覆うように被せられている。そして、封止フィルム140と隔壁フィルム137とにより囲み形成された空間内に油類等の非極性の液体が満たされることで、液体充填室142が形成されている。すなわち、隔壁フィルム137により圧力室139との隔壁を構成するように、圧力室139の外側に液体充填室142が設けられている。なお、封止フィルム140は所定の撓み状態でもって隔壁フィルム137全体を覆うように取着されているため、液体充填室142において隔壁フィルム137で構成される壁面の面積は、封止フィルム140で構成される壁面の面積よりも小さくなっている。
【0063】
次に、以上のように構成されたバルブユニット119の動作について説明する。
まず、プリンタは印刷に先だって、その準備作業として記録ヘッド18がホームポジションHPに配置された状態でノズルからインクを吐出又は吸引することで、インク供給チューブ25よりも下流側における流入路19a、インク供給室133b、圧力室139および流出路119b、インク流路18a及びインク室Rの内部にインクを充填する。
この準備作業の状態においては、バルブユニット119における弁付勢ばね146による付勢力が弁部材144における板状部144aに加わっている。そして、加圧ポンプ28が駆動されるとインクカートリッジ22内の加圧室32に加圧空気が送出され、インクパック24内のインクが加圧状態でバルブユニット19側に送出される。そして、加圧されたインクがインク供給チューブ25および流入路119aを通じてインク供給室133b内に至ると、板状部144aには圧送されたインクの加圧力も加わる。したがって、弁付勢ばね146による付勢力およびインクの加圧力により、板状部144aは図4(a)に示されるように、シール部材102に当接した閉弁状態にあり、バルブユニット119の上流側と下流側とは非連通状態にある。
【0064】
この状態で圧電素子が駆動されてインクがノズル20から吐出されると、圧力室139内のインクがインク室Rへと供給され、圧力室139内のインクが減少する。このインクの減少に伴って隔壁フィルム137が流路形成部材133に形成された凹部133a側に変位し、隔壁フィルム137の中央部が弁部材144のロッド部144bの端部に当接する。そして、記録ヘッド18においてさらにインクが消費されることにより、圧力室139内には負圧が発生する。そして、この負圧が所定圧(=弁付勢ばね146の付勢力+インクの加圧力)よりも大きくなると、隔壁フィルム137がロッド部144bを押圧することで、板状部144aによるシール部材102の当接が解かれ、図4(b)に示されるように、開弁状態となる。その結果、バルブユニット119内においてインク供給室133bと圧力室139とが連通状態となる。
【0065】
開弁状態になるとインク供給室133b内のインクがインク供給室133bから流入口139a通じて圧力室139内に供給され、圧力室139内へのインクの流入により圧力室139内の負圧は解消される。これに伴い、弁部材144が元の位置に移動して図4(a)に示されるように再び閉弁状態となり、インク供給室133bから圧力室139へのインクの供給は停止される。
【0066】
したがって、上記説明したような第2の実施形態においても、前記第1の実施形態と同様の効果が奏される。
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
【0067】
・各実施形態においては、各バルブユニットに1つずつ圧力室及び液体充填室を備える構成としたが、複数の圧力室が1つの液体充填室を共有するようにしてもよい。
・各実施形態においては、液体充填室内を水等の極性の液体で満たしてもよい。この場合においては、液体充填室内の液体に封止フィルムを介して外部の空気が溶け込む量が多くなるものの、直接圧力室内に空気が移行することはないので、圧力室内の気泡の成長を抑制することができる。
【0068】
・各実施形態においては、液体充填室内を非極性の液体で満たすようにしたが、低極性の液体でその内部を満たすようにしてもよい。
・各実施形態においては、液体充填室内を液体で満たすようにしたが、ゲル状の流動体でその内部を満たすようにしてもよい。
【0069】
・各実施形態においては、本発明にかかる液体噴射装置をインクジェット式プリンタに適用する場合について説明したが、こうしたプリンタに限らない他の液体噴射装置にも本発明は同様に適用することができる。例えば、ファクシミリや複写機等に用いられる印刷装置や、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ、あるいは面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、さらには精密ピペットとしての試料噴射装置等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施形態におけるインクジェット式プリンタの概略平面図。
【図2】実施形態におけるプリンタのインク供給システムを説明する模式図。
【図3】第1の実施形態におけるバルブユニットが、(a)は閉弁状態、(b)は開弁状態である場合を示す断面図。
【図4】第2の実施形態におけるバルブユニットが、(a)は閉弁状態、(b)は開弁状態である場合を示す断面図。
【符号の説明】
【0071】
11…液体噴射装置としてのプリンタ、18…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、19,119…バルブユニット、19a,119a…液体供給路を構成する流入路、19b,119b…液体供給路を構成する流出路、22…液体収容体としてのインクカートリッジ、25…液体供給路を構成するインク供給チューブ、37,137…可撓性部材としての隔壁フィルム、39,139…圧力室、39a,139a…流入口、39b,139b…流出口、40,140…封止部材としての封止フィルム、42,142…液体充填室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体供給路の途中に設けられ、該液体供給路の上流側から液体を流入させるための流入口および該液体供給路の下流側へ液体を流出させるための流出口を有する圧力室と、
該圧力室の壁面の一部を構成し、その圧力室内の圧力変動に基づいて変位する可撓性部材と、
該可撓性部材により前記圧力室との隔壁を構成するように前記圧力室の外側に設けられ、その内部が液体で満たされた液体充填室と
を備えたことを特徴とするバルブユニット。
【請求項2】
前記液体充填室の内部が非極性の液体で満たされていることを特徴とする請求項1に記載のバルブユニット。
【請求項3】
前記液体充填室は、前記可撓性部材以外で構成される壁面の少なくとも一部が可撓性を有する封止部材により構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバルブユニット。
【請求項4】
前記封止部材で少なくとも一部が構成される前記液体充填室の壁面は、前記液体充填室を挟んで前記可撓性部材と対向する位置に設けられることを特徴とする請求項3に記載のバルブユニット。
【請求項5】
前記可撓性部材により構成される前記液体充填室の壁面部分の面積は前記封止部材により構成される前記液体充填室の壁面部分の面積よりも小さいことを特徴とする請求項3又は4に記載のバルブユニット。
【請求項6】
液体を収容する液体収容体と、
前記液体をターゲットに対して噴射可能な液体噴射ヘッドと、
前記液体収容体側から前記液体噴射ヘッド側へ前記液体を供給するための液体供給路と、
請求項1〜5のうちいずれか一項に記載のバルブユニットと
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−55355(P2008−55355A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236907(P2006−236907)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】