説明

パターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造装置および製造方法

【課題】パターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造方法および製造装置において、製造コストを低減し、殊に再現性を向上させることができる方法及び装置を提供する。
【解決手段】所定のパターン領域を有する電極12を低分子化合物を含む電解質11と接触させ、電極12を介して電流を流すことによって所定のパターン領域を有する導電性ポリマーを電極上に形成させる装置10、および、電解質11に含まれる低分子化合物の濃度を測定するための測定装置17、前記電極12を循環搬送するための循環搬送装置を含む、パターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造装置及び製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造装置であって、
・他の領域より高い導電度を有する所定のパターン領域を有する電極と、
・前記電極と、少なくとも1つの低分子化合物を含む電解質とを少なくとも局所的に接触させる被膜形成装置であって、前記導電性領域の上に、前記所定のパターン領域を有する導電性ポリマー層が形成されるように、前記電極を介して前記電解質に電流を発生させる被膜形成装置と
を備えており、
前記電解質はとりわけ、少なくとも1つのモノマーおよび/または少なくとも1つのダイマーを含む、製造装置
に関する。また本発明は、とりわけ上記製造装置を使用して、パターニングされた導電性ポリマー層を製造するための製造方法であって、
a)他の領域より高い導電度を有する所定のパターン領域を有する電極を設けるステップと、
b)少なくとも1つの低分子化合物を含む電解質、有利には少なくとも1つのモノマーおよび/または少なくとも1つのダイマーを含む電解質と前記電極とを少なくとも局所的に接触させ、前記導電性領域の上に前記所定のパターンを有する導電性ポリマー層が形成されるように、該電極を介して該電解質に電流を生成するステップ
とを実施する製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
パターニングされた導電性ポリマーフィルムは、ポリマーエレクトロニクスの集積回路を製造するために利用される。例えばポリマー導体パターンから電界効果トランジスタを形成することができる。さらにパターニングされたポリマーフィルムを例えばデパート用電子タグ、または貨物運送を監視するための貨物用電子タグなど、大量生産品として利用できる。
【0003】
これまでポリマーパターンの製造に関して、様々な方法が知られている。例えばスクリーン印刷やタンポン印刷、またはインクジェット印刷方式など、周知の印刷方法でポリマー導体路を作製できる。しかしこれらの印刷方法では低分解能のものしか製造できない。しかもこのような印刷方法のためには、使用される導電性ポリマーが易揮発性の溶剤中で溶解可能でなければならない。それゆえ公知の印刷方法に適したポリマーの数は限られている。
【0004】
WO 97/18944には、公知のフォトリソグラフィ技術に基づいてパターニングされたポリマーフィルムを製造する方法が記載されている。この方法によれば、基板層に導電性ポリマー層が付けられる。この場合、ポリマー層にフォトレジストが設けられ、これがマスクフィルムを通して露光されて、フォトレジストの露光領域が除去される。その後、もはや覆われていない領域の導電性ポリマーがエッチングされて除去される。材料の無駄とコストが比較的高い。
【0005】
DE 101 40 666 A1には、パターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造方法が記載されている。この方法によれば電極が用いられ、この電極の表面には設定されたパターンの導電性領域と非導電性領域が設けられている。導電性領域の少なくとも一部分が電解質と接触させられる。この場合、電解質には例えばモノマーのような低分子化合物が取り込まれている。電極を介して、電解質を流れる電流が発生し、電解質と接触している導電性領域に、設定されたパターンの導電性ポリマーフィルムが形成される。最後に、形成されたパターニングポリマーフィルムが電極から取り去られる。
【0006】
この場合、電極における導電性領域を電気的に接触させ、電流源または電圧源を介して対向電極と接続し、対向電極表面の少なくとも一部分を電解質と接触させることで、電流を発生させる。フィルムの厚さは搬送される電荷の測定によりコントロールされる。望ましいフィルムの厚さに達すると電圧が遮断され、電解質から電極が取り出される。
【0007】
DE 101 40 666 A1による方法はかなり煩雑である。殊に、個々のステップを実施するコストはかなり高く、製造されるポリマーフィルムの再現性は不十分なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 97/18944
【特許文献2】DE 101 40 666 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明の課題は、パターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造方法および製造装置において、製造コストを低減し、殊に再現性を向上させることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によればこの課題は、請求項1記載のパターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造装置および請求項12記載のパターニングされた導電性ポリマーフィルム製造方法によって解決される。
【0011】
上記の課題は例えば、以下のようなパターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造装置により解決される。すなわちこの装置には電極が設けられており、この電極に設定されたパターン領域の導電度は他の領域よりも高められている。さらにこの装置には、電極を電解質と少なくとも部分的に接触させる被膜形成装置が設けられている。この電解質は、少なくとも1つの低分子化合物、殊に少なくともモノマーおよび/または少なくとも1つのダイマーを含有している。さらにこの被膜形成装置は、導電性領域の上方にパターンの設けられた導電性ポリマー層が形成されるよう、電極を介して電解質を流れる電流を発生させる。その際、低分子化合物の濃度を測定するための測定装置が設けられていると有利である。他の領域は例えば絶縁性であり、もしくは少なくとも部分的にアイソレーターとして形成されている。また、少なくとも1つの電極を循環させる装置を備えることも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】パターニングされた導電性ポリマーフィルム製造装置の第1の実施形態の概略図
【図2】装置の択一的な実施形態の概略図
【図3】装置の別の択一的な実施形態の概略図
【図4】装置の別の択一的な実施形態の概略図
【図5】筒状体の断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の1つの観点は、低分子化合物の濃度を測るための測定装置が設けられている点である。これによって、例えば堆積速度(Abscheiderate)、層の厚みと導電度など、様々なパラメータをきわめて容易に設定することができる。例えば低分子化合物の濃度を一定に保持することができるし、もしくは少なくとも濃度の状態を把握することができる。このことから、殊に濃度が一定に保持されるならば、簡単な時間計測により例えば堆積速度、層の厚さと導電度など様々なパラメータを、高精度の再現性で設定することができる。濃度を一定に保持するためにたとえば自動制御装置など適切な制御装置を設けておくことができ、この制御装置は、モノマー濃度が低下するとただちに相応のソースから低分子化合物を追加供給する。低分子化合物の追加供給をトリガする適切な閾値を、設定濃度の99.9%または99%あるいは95%とすることができる。
【0014】
ここで、例えば「ポリマー層」や「金属層」といった「層」について言及するときには、それらの層を連続する層または途切れている層とすることができ、例えば互いに分離されている複数の部分層から成るものとすることができる。また、導電度の高い領域を必ずしも電極表面に形成しておかなくてもよい。いずれにせよここで重要となるのは、電圧または電流を加えた場合に、導電度の高い領域上方の表面領域に他の表面領域よりも大きい電流が流れることである。このようにすることで、電圧または電流を適切に設定すれば、導電度の高い領域またはその上方のみにポリマー層を成長させることができる。
【0015】
導電度の高い領域の導電度は、例えば他の領域の導電度の少なくとも1.1倍有利には2倍さらに有利には少なくとも5倍殊に少なくとも10倍とすることができる。導電度の高い領域の導電度は例えば、平均で少なくとも10-2S/m有利には10-1S/mさらに有利には1S/mとすることができ、あるいは少なくとも10S/m、100S/m、500S/m、1000S/m、5000S/m、10000S/mまたは100000S/mとすることができる。他の領域の導電度は上記の値に応じてそれよりも低くなる。
【0016】
特に上記の値に関する導電度は電極の広がりに対して平均された平均導電度である。板状の電極の場合、当該の広がりは特に電極の厚みに相当する。平均導電度が最終的に表面上の電流、ひいては、堆積(Abscheidung)またはメッキ工程後のポリマーの成長の度合を定める。
【0017】
独立請求項の特徴によれば、前述の課題は、パターニングされた導電性ポリマーフィルム製造装置により解決でき、当該の装置は、設定されたパターンを有する領域の導電度が残りの領域と比較して高い電極と、この電極を、少なくとも1つの低分子化合物、特に少なくとも1つのモノマーまたは少なくとも1つのダイマーを含有する電解質に少なくとも部分的に接触させるため、および、導電性領域の上部に設定されたパターンを有する導電性のポリマー層を形成できるように電極を介して電解質を通る電流を発生させるための被膜形成装置とを備えている。ここで、当該の装置は、さらに、少なくとも1つの電極を循環させる装置を備えている。電極を循環的に搬送することで、全体として継続的な製造工程を実現できる。それにより製造の手間とコストとを大幅に低減できる。
【0018】
好ましいのは、回転可能な筒状体を備えることであり、この筒状体の表面の少なくとも幾つかの領域に少なくとも1個の電極が構成されている。ここで、回転する筒状体の回転軸が重力の等ポテンシャル面に対してほぼ垂直であると好く、特に回転軸と等ポテンシャル面との角度が<45°、有利には<20°、さらに有利には<5°であると好い。この様に回転可能な筒状体により、簡単な手段で継続的な工程を行うことができる。回転可能の筒状体がほぼ垂直に配向されているために、特に、被膜形成装置内でのポリマー被膜形成工程によりパターニングされた導電性ポリマーフィルム製造装置のその他のデバイスが汚染されることを防止または低減できる。例えば、被膜形成装置内に洗浄槽が設けられている場合には、電解質溶剤が垂れて槽を汚染する事がなく、またその反対に電解質溶剤も汚染されない。筒状体は多角形、特に4角形、6角形、8角形の断面および/または円形断面を持つことができる。多角形断面の場合、当該の多角筒状体の各面の少なくとも一部に1つまたは複数の電極を構成できる。筒状体の表面の大部分、例えばその50%、または少なくとも70%、または少なくとも90%が、電極の表面を形成していると有利である。
【0019】
本発明の別の実施形態では、循環装置が設けられ、そこで少なくとも1つの電極を取り外し可能に設けることができる。これにより、1つまたは複数の電極を任意に追加したり取り除いたりすることができる。このようにすると装置の可変性が向上する。
【0020】
キャリアには少なくとも1つのチェーンベルトおよび/または少なくとも1つのレールが設けられていると好い。特に電極をレール上で移動させることができ、その際各電極の速度を別々に制御できると好い。これにより、種々の工程に合わせて速度を調整できる。例えば、電極が電解質内にある場合には、減速できる。また、洗浄工程がある場合には、工程を比較的速く行うことができ、洗浄装置が設けられている場合には相応して速い速度を選択できる。そのため、特にチェーンベルトおよび/またはレールを走行する電極の速度は可変である。例えば、最低速度を最高速度の10%、30%または50%とすることが可能である。もちろん択一的に、複数の電極をキャリアによって担持して、全電極が常時同じ速度であるようにすることもできる。電極は、キャリアの一部であってもよいし、またキャリアを形成していてもよい。この場合には、電極をキャリアに固定に結合することができる。
【0021】
ポリマー層を電極から剥離するための剥離装置が備えられていると好い。それにより、ポリマー層を、電極から独立して、さらに加工したり使用したりできる。
【0022】
有利な実施形態では、ポリマー層を洗浄する少なくとも1つの第1の洗浄装置および/または電極を洗浄する第2の洗浄装置を備えると好い。特に電極が循環的に搬送される場合には、継続的な工程の中で他の処理をしなくても同じ電極を再び使用できることが保証される。
【0023】
電極および/またはポリマーフィルムの乾燥のために、および/または、被膜形成装置と剥離装置または第1,第2の洗浄装置との間にエアカーテンを形成するために、エアブロー供給装置を設けると好い。エアカーテンを形成すると、前述したデバイス間の交差汚染が低減される。電極および/またはポリマーフィルムの乾燥は次の加工を容易にする。
【0024】
有利な実施形態では、被膜形成装置、剥離装置、第1,第2の洗浄装置やエアブロー供給装置を、電極が循環する間に被膜形成、剥離、洗浄、エアブロー供給が行われるように構成して配置すると好い。その結果、可変性の高い装置が実現され、継続的な工程において高品質のポリマーフィルムを高い再現性で製造できる。
【0025】
有利には、金属層を金属メッキによりポリマー層に被膜する装置を設けると好い。さらに有利には、ポリマー層がさしあたり電極上に留まっているときに、ポリマー層が金属塩の溶剤と接触し、電極および対向電極を介して金属塩の溶剤により電流が発生し、金属塩の溶剤と接触するパターニングされたポリマーフィルム上に金属フィルムが形成されるようにする。パターニングされたポリマーフィルムを電極と金属フィルムとの間の中間層として用いることにより、金属フィルムを電極から問題なく除去できる。中間層が無いと、金属フィルムが余りにも強く電極に固着してしまう。電極は再使用できる。その結果、きわめて微細なパターンを有する金属フィルムを継続的な工程で製造できる。さらなる加工のために、パターニングされたポリマーフィルムの設けられているのと反対側の金属フィルム上に基板を貼付する。その為に、金属フィルムを例えば適切な基材と接着できる。所望の適用形態に応じて、後に、パターニングされた導電性ポリマーフィルムを除去できる。
【0026】
有利には、低分子化合物の濃度を測定するための測定装置は、電解質に含有される塩の濃度を測定するための塩測定装置を備えていると好い。電解質には塩が含有されている。塩は、ポリマーフィルムを被膜する工程において、形成されるポリマー層へ堆積し、このポリマー層をドープする。それにより特に電解質の塩濃度に応じて、層の導電度を制御できる。低分子化合物の濃度、特に低分子化合物の濃度低下は、特定の比率で、塩濃度、特に塩濃度の低下と関連しているので、工程における既知の開始条件で塩濃度を定めることにより、低分子化合物の濃度を簡単に制御できる。パターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造装置は、通常、電子メモリ素子、特にメモリチップを備えているので、例えば電解質濃度、塩濃度、低分子化合物の濃度などの様々なパラメータを、ある特定の時点、特に起動時に、保存できる。
【0027】
塩測定装置は電解質の導電度を測定する導電度測定器および/または電解質のインピーダンスを測定する電気抵抗測定器を備えることができる。このようにすれば、電解質に含有される塩濃度を簡単に測定できる。これにより、低分子化合物の濃度も簡単に制御できる。その際、簡単な計時により、ポリマー層の堆積速度、厚みや導電度のような様々なパラメータを、きわめて精確に設定できる。
【0028】
有利な実施形態では、制御装置が設けられ、測定器の測定値を読取り、電極が電解質に留まる時間、ポリマーの堆積速度、ポリマーフィルムの厚みおよび/またはポリマーフィルムの導電度などを制御できるようにすると好い。その際、制御装置はメモリ素子と相互作用し、例えばメモリ素子に記憶されているパラメータを利用して制御できると好い。特に、自動制御が行われる場合、継続的プロセスが保証される。必要な介入作業を、組み立てと場合によって必要となる修理とに低減できる。
【0029】
上述の課題は、パターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造方法によって、殊に上記の装置を用いて、独立して解決される。ここで、この方法は、下記のステップを含む:すなわち、
a)残りの領域と比べて導電度が高い所定のパターン領域を有する電極を設けるステップ;
b)前記電極を少なくとも部分的に、少なくとも1種の低分子化合物、有利には少なくとも1種のモノマーおよび/またはダイマーを含有する電解質と接触させ、前記電極を介して電解質によって電流を発生させ、前記導電性領域の上方に、前記所定のパターンを備えた導電性ポリマー層を形成するステップおよび
c)ポリマー層の層厚を制御および/または監視するために、前記低分子化合物の濃度を測定するステップを有している。
【0030】
この方法は実質的に、上記の装置と同じ利点を有している。
【0031】
上述の課題は、パターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造方法によって独立して解決される。この方法は、下記のステップを有している:すなわち、
a)残りの領域と比べて導電度が高い所定のパターン領域を有する電極を設けるステップ;
b)前記電極を少なくとも部分的に、少なくとも1種の低分子化合物、有利には少なくとも1種のモノマーおよび/またはダイマーを含有する電解質と接触させ、前記電極を介して電解質によって電流を発生させ、前記導電性領域の上方に、前記所定のパターンを備えた導電性ポリマー層を形成するステップおよび
c)少なくとも1つの電極を循環搬送させるステップを有している。
有利には、ステップd)では電極をポリマー層から(ないしはポリマー層を電極から)剥離する。
【0032】
有利な実施形態では、ポリマー層および/または電極が、殊に電極の循環中に洗浄される。
【0033】
殊に電極が循環している間に、電極および/またはポリマー層上にエアブローが加えられる、および/または被膜形成装置および/または剥離装置および/または第1および/または第2洗浄装置との間にエアカーテンが形成されるようにエアブローが生成および配向される。
【0034】
殊に金属メッキによって、ポリマー層上に金属層が被膜される。
【0035】
実際の実施形態では、電解質内に含有されている塩濃度が測定される。これに加えて殊に、電解質のインピーダンスおよび/または導電度が測定される。
【0036】
ステップc)で得られた測定結果を、電極を電解質内に入れておく時間および/またはポリマーの析出速度および/またはポリマー層の厚さおよび/またはポリマー層の導電度を制御するために使用することができる。
【0037】
別の実施形態は従属請求項に記載されている。
【0038】
以下で、発明のさらなる特徴および利点を実施例に基づいて説明する。これらの実施例を図に基づいてより詳細に説明する。
【実施例】
【0039】
以下の説明では、同じ部分および同じ作用を有する部分に対して同じ参照符号を用いている。
【0040】
図1に示された装置は被膜形成装置10を含んでおり、この被膜形成装置内には、少なくとも1種の低分子化合物および少なくとも溶解した塩を含有する電解質が入れられている。この電界質内に微細にパターニングされた電極12を浸没させる。これに加えて被膜形成装置10は電解質槽13を有している。測定装置14は、分子化合物の濃度、より具体的には電解質のインピーダンスおよび/または導電度を測定する。制御装置15は、ここから塩濃度を特定し、ここから低分子化合物の濃度を特定する。
【0041】
制御装置15は記憶手段16を備えている。この記憶手段に例えばパラメータを格納することができる。このパラメータは殊に、初期の塩濃度および/または低分子化合物濃度のようなパラメータ、または温度や時間等のその他のパラメータである。低分子化合物の濃度および/または少なくとも1種の塩濃度および/または別の機能的な成分が、閾値を下回って低下する/上回って高くなると、制御装置15は低分子化合物のソース17および/または少なくとも1種の塩が含まれているソース18を制御し、これによって、低分子化合物および/または塩が電解質11に供給される、および/または電解質を薄めるために貯蔵ユニット(図示されていない)が、水やアルコール等の溶剤を供給する。ここでこの閾値は、例えば設定濃度の95%、99%、99.99%、100.1%、101%または105%である。これと相応に、ソース17または18または接続線路19内にバルブユニットを設けることができる。制御装置15とソース17、18の間に、通信線路20が設けられている。択一的に、制御のための通信を無線で、例えば無線通信および/または赤外線接続で、実施することもできる。
【0042】
制御装置15はさらに、電極12の浸没時間および/または入れる速度および/または出す速度を制御することができる(次の実施例で説明している制御装置のように)。
【0043】
電極12と(図示されていない)対向電極との間に電圧を印加されると、ポリマーが電極12上に析出する。電解内に溶解されている塩も、この工程で同じように形成されるポリマー層に析出され、ポリマー層をドーピングする。従ってここから殊に、モノマー槽内の塩濃度に応じて、層の導電度を制御できる。低分子化合物としては、特にDE10140666A1の段落「0028」において開示されている化合物のひとつを使用することができる。さらに電極12に相応する対向電極(図示されていない)が設けられる
有利には、塩が溶解されている有機溶剤を使いることによって適切な電解質を作製することができる。その際、低分子化合物もこの中で溶解できるような、電解を選ぶべきである。更にこの溶剤は電気化学的な重合化を実現できる溶剤であるべきである。
【0044】
ポリマーフィルムの導電度を低減および/または増大させるために、パターニングされたポリマーフィルムが積層されている電極を、重合化後、第2の対向電極とともに第2の電解質に浸漬させることができる。この第2の電解質は溶剤以外には塩(塩類)だけを含有し、つまり低分子化合物は含有していない。第2の対向電極は、第1の対向電極と同じ、または類似の物質から成る。有利には、酸化インジウムスズから成る導電性電極層を備えた電極が使用される。電解質と接触する陰極表面部分(電極または対向電極でも良い)はプラチナまたは金であり得る。例えばガラス製の担体層に薄いプラチナフィルムが被着される。
【0045】
溶剤としては有利には、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、1価または多価アルコール、テトラヒドロフランまたは水を、それぞれ単体でまたは任意に混合して使用することができる。
【0046】
塩としては、テトラエチルアンモニウム−テトラフルオロホウ酸塩、テトラエチルアンモニウム−ヘキサフルオロリン酸、テトラエチルアンモニウムペルトロラート(Tetraethylammoniumperthlorat)および/またはポリマー(スチレンスルホン酸)ナトリウム塩を、それぞれ単体でまたは任意に混合して使用することができる。
【0047】
図2は装置の実施例の択一的な実施形態の概略図を示している。図1の実施形態による制御装置を使用できるが、図2には示していない。図2による実施形態では、電極12が被膜形成装置10内で、ポリマーコーティングされる。ポリマー層は剥離装置21によって電極12から剥離される。ポリマー層はロールーツーロール技術で具体的に、有利にはポリマーフィルムから成る基板ウェブ22上に転写される。基板ウェブ22は予備ロール23から引き出され、巻き上げロール23に巻き上げられる。ターンロール25が2個設けられており、これらのターンロールは循環する電極12と基板ウェブ22が並行して走行するようにする。別のターンロール25は、電極を被膜形成装置10の方に向ける、および被膜形成装置10内で向きを変えさせるために用いられる。
【0048】
その他のターンローラ25の役目も同様に、電極を第1洗浄装置26と第2洗浄装置27へ出し入れし、該第1洗浄装置および第2洗浄装置内でターンすることである。
【0049】
被膜形成装置10と剥離装置21の間にはエアブロー供給装置28が配置されている。このエアブロー供給装置28は電極12を乾燥し、かつ第1洗浄装置26と剥離装置21の間にエアカーテン31を形成する。
【0050】
循環する電極12の移動方向を矢印29で示している。運転中電極はまず(位置は何処でも良い)被膜形成装置10を通り、該被膜形成装置10でポリマー層が設けられる。その後、第1洗浄装置26を通り、該第1洗浄装置26において電極12が、被着したポリマー層ごとリンスされる。その後、コーティングされた電極12をエアブロー供給装置28の近傍を通過させ、乾燥する。その後ポリマーフィルムが剥離装置21で剥離され、特に電極12速度に同期した基板ウェブ、または巻き上げローラ24に巻き上げられる。その後電極12は第2洗浄装置27で洗浄され、循環の終わりには、洗浄された電極がまた被膜形成装置10に移送される。
【0051】
電極12は扁平に形成されているものが有利である。電極は板状の要素として形成するか、またはキャリア(図には無い)に取り付けて設けてもよい。個々の要素またはキャリアはレールシステムで各装置によって案内することができる。これらの要素が相互に独立したものであれば、プロセス時間を異なる時間にし、例えば1つより多い電極を長い加工時間で、同時に加工できる。各要素ないしは電極12を直列で順番にレールシステムに投入し、特定のプロセスを連続して行うようにできる。これによりまた、欠陥のある要素、またはパターンが異なる電極12を迅速かつ簡単に交換できる。要素または電極12はレールの代わりに、チェーンベルト等を取り付けることもできる。原則的に電極自身がベルト状でもあり得る。
【0052】
チェーンベルトを使用している場合は、それに合わせて電極12を吊り下げる事ができる。ベルトまたはチェーンはU字形の断面(Profil)も可能で、例えば歯車で駆動できる(図には無い)。
【0053】
図3は別の実施形態を略図で示している。
【0054】
この実施形態では、(図には無い)電極は筒状体30のジャケット面に取り付けられる。筒状体30のシリンダー軸は、中央または垂直に方向づけすることができる。電極12を被膜形成装置10および/または第1洗浄装置26および/または第2洗浄装置26,27に浸漬させるためには、たとえばシリンダ軸から半径方向に移動させることおよび/またはシリンダ軸に対して平行に移動させることができる。洗浄装置26,27は、浸漬が可能であるように設計されている必要は無く、洗浄を例えばブラシまたはふき取り等でも行うことができる。同様に、電解質溶剤と電極とが浸漬移動なしでも接触できるように、被膜形成装置10を構成することができ、例えば毛細管等によって電解質溶剤と電極とが接触するように被膜形成装置10を構成することができる。何れの場合でも、被膜形成装置10および/または第1洗浄装置第2洗浄装置27を、例えば加圧ばね(図には無い)を使ってフレキシブルに支承し、電極と被膜形成装置10および/または第1洗浄装置26および/または第2洗浄装置27の間で確実な接触が実現されるようにするのが有利である。
【0055】
図3による実施例でも、剥離装置21と第1洗浄装置26との間にエアブロー供給装置28が設けられており、このエアブロー供給装置28は、最初の実施例で説明したように構成することができる。筒状体30は回転できるように支承されている(図には無い)。
【0056】
図4に、本装置の別の択一的な実施形態を略図で示している。この実施形態は基本的に、図3に相応する。しかしながら、この場合筒状体30は6角形の断面を持つ(図5を参照)。有利には、これに対応する被膜形成装置10と、第1洗浄装置26と第2洗浄装置27と剥離装置21とを、筒状体30から半径方向に離隔したり近接させたりすることができる。
【0057】
図4に示した実施形態も、基本的には実質的に垂直方向または水平方向に方向づけすることができる。被膜形成装置10、剥離装置21、第1洗浄装置26、第2洗浄装置27および/またはエアブロー供給装置28を、例えば加圧ばねなどでフレキシブルに支承するのが有利である。それにより間隙を一定に保てる。
【0058】
ここで、上記に説明した部品はそれ自体でも、任意の組み合わせでも、特に図面に示した詳細な特徴も、特許請求の範囲において本発明に重要な範囲とされることを述べておく。当業者であれば、これらの特徴の改良を行うこともできる。
【符号の説明】
【0059】
10 被膜形成装置
11 電解質
12 電極
13 電解質容器
14 測定装置
15 制御装置
16 メモリ素子
17 低分子化合物のソース
18 少なくとも1種類の塩のソース
19 接続線路
20 通信線路
21 剥離装置
22 基板ウェブ
23 貯蔵ローラ
24 巻き上げローラ
25 ターンローラ
26 第1洗浄装置
27 第2洗浄装置
28 エアブロー供給装置
29 矢印
30 筒状体
31 エアカーテン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターニングされた導電性ポリマーフィルムの製造装置であって、
・他の領域より高い導電度を有する所定のパターン領域を有する電極(12)と、
・前記電極と、少なくとも1つの低分子化合物を含む電解質(11)とを少なくとも局所的に接触させる被膜形成装置(10)であって、前記導電性領域の上に、前記所定のパターン領域を有する導電性ポリマー層が形成されるように、前記電極(12)を介して前記電解質(11)に電流を発生させる被膜形成装置(10)と
を備えており、
前記電解質(11)はとりわけ、少なくとも1つのモノマーおよび/または少なくとも1つのダイマーを含む、製造装置において、
前記低分子化合物の濃度を測定するための測定装置(17)を備えていることを特徴とする、製造装置。
【請求項2】
とりわけ請求項1記載の製造装置であって、
・他の領域より高い導電度を有する所定のパターン領域を有する電極(12)と、
・前記電極と、少なくとも1つの低分子化合物を含む電解質(11)とを少なくとも局所的に接触させる被膜形成装置(10)であって、前記導電性領域の上に、前記所定のパターン領域を有する導電性ポリマー層が形成されるように、前記電極(12)を介して前記電解質(11)に電流を発生させる被膜形成装置(10)と
を備えており、
前記電解質(11)はとりわけ、少なくとも1つのモノマーおよび/または少なくとも1つのダイマーを含む、製造装置において、
前記電極(12)を循環搬送するための循環搬送装置を備えていることを特徴とする、製造装置。
【請求項3】
表面に少なくとも局所的に少なくとも1つの電極(12)が形成された回転可能な筒状体(30)を備えており、
前記回転可能な筒状体(30)の回転軸は有利には、重力の等電位面に対して実質的に垂直であり、
とりわけ、前記回転可能な筒状体(30)の回転軸と前記等電位面との間の角度<45°であり、有利には<20°であり、さらに有利には<5°である、請求項1または2記載の製造装置。
【請求項4】
少なくとも1つの電極(12)がとりわけ取り外し可能に設けられる循環するキャリアを備えている、請求項1から3までのいずれか1項記載の製造装置。
【請求項5】
前記キャリアは少なくとも1つのチェーンベルトおよび/またはレールを含む、請求項4記載の製造装置。
【請求項6】
前記電極(12)から前記ポリマー層を剥離するための剥離装置(21)を備えている、請求項1から5までのいずれか1項記載の製造装置。
【請求項7】
前記電極(12)および/または前記ポリマー層を乾燥し、かつ/または、前記被膜形成装置(10)および/または前記剥離装置(21)および/または前記第1洗浄装置(26)および/または前記第2洗浄装置(27)の間にエアカーテン(31)を形成するためのエアブロー供給装置(28)を備えている、請求項1から6までのいずれか1項記載の製造装置。
【請求項8】
前記電極(12)の循環中に被膜形成/剥離/洗浄/換気が行われるように、前記被膜形成装置(10)および/または前記剥離装置(21)および/または前記第1洗浄装置(26)および/または前記第2洗浄装置(27)は構成および配置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の製造装置。
【請求項9】
金属層を前記ポリマー層に金属めっき法で設けるための装置を備えている、請求項1から8までのいずれか1項記載の製造装置。
【請求項10】
前記低分子化合物の濃度を測定するための測定装置(14)は、前記電解質(11)に含まれる塩濃度を測定するための塩測定装置を備えている、請求項1から9までのいずれか1項記載の製造装置。
【請求項11】
前記電解質(11)の導電度を測定するための導電度測定装置および/または該電解質(11)のインピーダンスを測定するためのインピーダンス測定装置を備えている、請求項1から10までのいずれか1項記載の製造装置。
【請求項12】
とりわけ請求項1から11までのいずれか1項記載の装置を使用して、パターニングされた導電性ポリマー層を製造するための製造方法であって、
a)他の領域より高い導電度を有する所定のパターン領域を有する電極(12)を設けるステップと、
b)少なくとも1つの低分子化合物を含む電解質(11)、有利には少なくとも1つのモノマーおよび/または少なくとも1つのダイマーを含む電解質(11)と前記電極(12)とを少なくとも局所的に接触させ、前記導電性領域の上に前記所定のパターンを有する導電性ポリマー層が形成されるように、該電極(12)を介して該電解質(11)に電流を生成するステップ
とを実施する製造方法において、
c)前記電解質(11)の濃度を、とりわけ前記層ないしは前記ポリマー層の制御および/または監視のために測定するステップ
を実施することを特徴とする、製造方法。
【請求項13】
a)他の領域より高い導電度を有する所定のパターン領域を有する電極(12)を設けるステップと、
b)少なくとも1つの低分子化合物を含む電解質(11)、有利には少なくとも1つのモノマーおよび/または少なくとも1つのダイマーを含む電解質(11)と前記電極(12)とを少なくとも局所的に接触させ、前記導電性領域の上に前記所定のパターンを有する導電性ポリマー層が形成されるように、該電極(12)を介して該電解質(11)に電流を生成するステップ
とを実施する製造方法において、
c)前記電極(12)を循環搬送するステップ
を実施することを特徴とする、有利には請求項1から12までのいずれか1項記載の製造装置を使用する、とりわけ請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
d)前記電極(12)から前記導電性ポリマー層を剥離するステップを実施する、請求項12または13記載の製造方法。
【請求項15】
前記導電性ポリマー層および/または前記電極(12)を、とりわけ該電極(12)の循環中に洗浄する、請求項12から14までのいずれか1項記載の製造方法。
【請求項16】
とりわけ前記電極(12)の循環中に、該電極(12)および/または前記導電性ポリマー層にエアブローを供給し、かつ/または、被膜形成装置(10)および/または剥離装置(21)および/または第1洗浄装置(26)および/または第2洗浄装置(27)との間にエアカーテン(31)が形成されるようにエアブローを形成および方向づけする、請求項12から15までのいずれか1項記載の製造方法。
【請求項17】
前記導電性ポリマー層に金属層を、とりわけ金属メッキによって設ける、請求項12から16までのいずれか1項記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−196169(P2010−196169A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43421(P2010−43421)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(508375550)ザイラス ベタイリグングスゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー パテンテ イー コマンディートゲゼルシャフト (4)
【氏名又は名称原語表記】ZYRUS Beteiligungsgesellschaft mbH & Co. Patente I KG
【住所又は居所原語表記】Berliner Str. 1, D−12529 Schoenefeld/Waltersdorf, Germany
【Fターム(参考)】