説明

パルス伝送線路、パルス供給装置及びプラズマ処理装置

【課題】電気パルスを高効率かつ安全に伝送するパルス伝送線路を提供する。
【解決手段】第1の同軸ケーブル116の内部導体118の電源側端は、入力ポート104の第1の入力端子106に接続され、外部導体120の電源側端は開放される。内部導体118の負荷側端は、コモンモードリアクトル136の第1の巻線138を経由して出力ポート110の第1の出力端子112に接続され、外部導体120の負荷側端は、第1の抵抗器132を経由してグランドに接続される。第2の同軸ケーブル122の内部導体124の電源側端は、入力ポート104の第2の入力端子108に接続され、外部導体126の電源側端は開放される。内部導体124の負荷側端は、コモンモードリアクトル136の第2の巻線140を経由して出力ポート110の第2の出力端子114に接続され、外部導体126の負荷側端は、第2の抵抗器134を経由してグランドに接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1のポートから第2のポートへ電気パルスを伝送するパルス伝送線路及びこれに関連する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図12は、従来のパルス伝送線路802によるパルス電源872と負荷882との接続を説明する模式図である。
【0003】
図12に示すように、従来のパルス伝送線路802は、負極876が接地されたパルス電源872から陰極886が接地された負荷882への電気パルスの伝送に1本の同軸ケーブル816を用いていた。同軸ケーブル816の内部導体818の電源側端はパルス電源872の正極874に接続され、外部導体820の電源側端はパルス電源872の負極876に接続され、内部導体818の負荷側端は負荷882の陽極884に接続され、外部導体820の負荷側端は負荷882の陰極886に接続される。
【0004】
例えば、特許文献1の段落0048等は、パルス電源(特許文献1では「パルス発生装置」)から負荷への電気パルスの伝送に同軸ケーブルを用いることに言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−184888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のパルス伝送線路802は、内部導体818と外部導体820との間のキャパシタンスC1が大きいため、キャパシタンスC1を充電する電流が大きくなり、パルス伝送の効率が十分ではない。また、従来のパルス伝送線路802は、外部導体820に流れる電流Icが大きいため、外部導体820に誘起される電圧が高くなり、安全の確保のための対策が別途必要になる。さらに、従来のパルス伝送線路802は、アースループのインピーダンスが低く、陰極886からグランドへ流れる電流Ie12やグランドから負極876へ流れる電流Ie2が大きくなり、ノイズの発生源となる。
【0007】
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、電気パルスを高効率かつ安全に伝送するパルス伝送線路を提供することを目的とする。さらに、本発明は、ノイズの原因となる電流を抑制するパルス伝送線路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、パルス伝送線路であって、第1の端子及び第2の端子を備える第1のポートから第3の端子及び第4の端子を備える第2のポートへ電気パルスを伝送するパルス伝送線路であって、第1の内部導体と第1の外部導体とを備え、前記第1の内部導体の一端が前記第1の端子に接続され、前記第1の内部導体の一端と同じ側にある前記第1の外部導体の一端が開放され、前記第1の内部導体の他端が前記第3の端子に接続され、前記第1の外部導体の他端がグランドに接続された第1の同軸線路と、第2の内部導体と第2の外部導体とを備え、前記第2の内部導体の一端が前記第2の端子に接続され、前記第2の内部導体の一端と同じ側にある前記第2の外部導体の一端が開放され、前記第2の内部導体の他端が前記第4の端子に接続され、前記第2の外部導体の他端がグランドに接続された第2の同軸線路と、を備える。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のパルス伝送線路において、第1の巻線と第2の巻線とを備え、前記第1の巻線が前記第1の内部導体の他端と前記第3の端子との間に挿入され、前記第2の巻線が前記第2の内部導体の他端と前記第4の端子との間に挿入されたコモンモードリアクトル、をさらに備える。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のパルス伝送線路において、前記第1の外部導体の他端とグランドとの間に挿入された第1の抵抗器、をさらに備える。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のパルス伝送線路において、前記第2の外部導体の他端とグランドとを結ぶ接地経路に挿入された第2の抵抗器、をさらに備える。
【0012】
請求項5の発明は、電気パルスを供給するパルス供給装置であって、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のパルス伝送線路と、前記第1のポートに接続されたパルス電源と、を備える。
【0013】
請求項6の発明は、プラズマ処理装置であって、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のパルス伝送線路と、前記第1のポートに接続されたパルス電源と、前記第2のポートに接続されたリアクタと、を備える。
【発明の効果】
【0014】
請求項1ないし請求項6の発明によれば、同軸線路の外部導体に流れる電流が小さくなるので、電気パルスが高効率かつ安全に伝送される。
【0015】
請求項2の発明によれば、電流のコモンモード成分が阻止され、負荷とグランドとの間に流れる電流が小さくなるので、ノイズの原因となる電流が抑制される。
【0016】
請求項3の発明によれば、同軸線路の外部導体とグランドとの間に流れる電流が小さくなるので、電気パルスがさらに高効率かつ安全に伝送される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態のパルス伝送線路によるパルス電源と負荷との接続を説明する模式図である。
【図2】第2実施形態のパルス伝送線路によるパルス電源と負荷との接続を説明する模式図である。
【図3】第3実施形態の表面処理装置の斜視図である。
【図4】リアクタの断面図である。
【図5】第1の電極構造体の斜視図である。
【図6】第2の電極構造体の斜視図である。
【図7】別例に係る第2の電極構造体の斜視図である。
【図8】IES電源及びCES電源が発生する電気パルスの電圧波形を示す図である。
【図9】IES電源及びCES電源が発生する電気パルスの電流波形を示す図である。
【図10】IES電源及びCES電源が発生する電気パルスの電圧と電流との積の波形を示す図である。
【図11】IES電源の回路図である。
【図12】従来のパルス伝送線路によるパルス電源と負荷との接続を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<1 第1実施形態>
第1実施形態は、パルス電源172と負荷182とを接続するパルス伝送線路102に関する。
【0019】
図1は、第1実施形態のパルス伝送線路102によるパルス電源172と負荷182との接続を説明する模式図である。パルス伝送線路102は、正極174及び負極176がグランドから絶縁されたフローティング電源であるパルス電源172の正極174及び負極176に接続された入力ポート104から陰極186が接地された負荷182の陽極184及び負極186が接続された出力ポート110へ電気パルスを伝送する。パルス伝送線路102は、「ケーブルアセンブリ」等とも呼ばれる。
【0020】
図1に示すように、パルス伝送線路102は、電気パルスの伝送経路を提供する第1の同軸ケーブル116と、第1の同軸ケーブル116の外部導体118を一点接地する第1の接地線128と、外部導体118とグランドとの間を流れる電流を制限する第1の抵抗器132と、電気パルスの伝送経路を提供する第2の同軸ケーブル122と、第2の同軸ケーブル122の外部導体126を一点接地する第2の接地線130と、外部導体126とグランドとの間を流れる電流を制限する第2の抵抗器134と、電流のノーマルモード成分を阻止せずコモンモード成分を阻止するコモンモードリアクトル136とを備える。なお、パルス伝送線路102の取り扱いの容易さを考慮すると、同軸ケーブル等のノンリジッドな同軸線路を用いることが望ましいが、同軸管等のリジッドな同軸線路を用いてもよい。
【0021】
第1の同軸ケーブル116の内部導体118の電源側端は、入力ポート104の第1の入力端子106に接続され、第1の同軸ケーブル116の外部導体120の電源側端は開放される。内部導体118の負荷側端は、コモンモードリアクトル136の第1の巻線138の一端に接続され、第1の巻線138を経由して出力ポート110の第1の出力端子112に接続され、外部導体120の負荷側端は、第1の抵抗器132を経由してグランドに接続される。
【0022】
第2の同軸ケーブル122の内部導体124の電源側端は、入力ポート104の第2の入力端子108に接続され、第2の同軸ケーブル122の外部導体126の電源側端は開放される。内部導体124の負荷側端は、コモンモードリアクトル136の第2の巻線140の一端に接続され、第2の巻線140を経由して出力ポート110の第2の出力端子114に接続され、外部導体126の負荷側端は、第2の抵抗器134を経由してグランドに接続される。
【0023】
第1の接地線128の一端は、外部導体120の負荷側端に接続され、第1の接地線128の他端はグランドに接続される。第1の接地線128は、外部導体120の負荷側端とグランドとを結ぶ接地経路となる。
【0024】
第2の接地線130の一端は、外部導体126の負荷側端に接続され、第2の接地線130の他端はグランドに接続される。第2の接地線130は、外部導体126の負荷側端とグランドとを結ぶ接地経路となる。
【0025】
第1の抵抗器128は、第1の接地線128に挿入される。
【0026】
第2の抵抗器134は、第2の接地線130に挿入される。
【0027】
コモンモードリアクトル136は、第1の巻線138及び第2の巻線140を逆相で流れる電流のノーマルモード成分に対しては磁束を発生せず、第1の巻線138及び第2の巻線140を同相で流れる電流のコモンモード成分に対しては磁束を発生するように第1の巻線138及び第2の巻線140を磁気的に結合させている。これにより、コモンモードリアクトル136は、電流のノーマルモード成分を阻止せずコモンモード成分を阻止する。コモンモードリアクトル136が電流のコモンモード成分に対して示すインダクタンスは、数μH〜数10mHであることが望ましい。コモンモードリアクトル136は、「コモンモードチョーク」等とも呼ばれる。
【0028】
図1に示すコモンモードリアクトル136において「逆相で流れる」とは、第1の巻線138を流れる電流が内部導体118に接続された側から第1の出力端子112に接続された側へ向かっており、第2の巻線140を流れる電流が第2の出力端子114に接続された側から内部導体124に接続された側へ向かっていること、又は、第1の巻線138を流れる電流が第1の出力端子112に接続された側から内部導体118に接続された側へ向かっており、第2の巻線140を流れる電流が内部導体124に接続された側から第2の出力端子114に接続された側へ向かっていることを意味する。
【0029】
一方、「同相で流れる」とは、第1の巻線138を流れる電流が内部導体118に接続された側から第1の出力端子112に接続された側へ向かっており、第2の巻線140を流れる電流が内部導体124に接続された側から第2の出力端子114に接続された側へ向かっていること、または、第1の巻線138を流れる電流が第1の出力端子112に接続された側から内部導体118に接続された側へ向かっており、第2の巻線140を流れる電流が第2の出力端子114に接続された側から内部導体124に接続された側へ向かっていることを意味する。
【0030】
コモンモードリアクトル136は、典型的には、トロイダルコア・EIコア等の磁性体のコアに第1の巻線138及び第2の巻線140を巻回した構造を有する。第1の巻線138及び第2の巻線140の巻回の形態は、分割巻き及びバイファイラ巻きのいずれであってもよい。巻回の形態がバイファイラ巻きであるコモンモードリアクトル136は、インピーダンスを変換しない特殊な伝送線路トランスともみなせる。
【0031】
第1の巻線138は、内部導体118の負荷側端と第1の出力端子112との間に挿入され、第1の巻線138の一端は、内部導体118の負荷側端に接続され、第1の巻線138の他端は、第1の出力端子112に接続される。
【0032】
第2の巻線140は、内部導体124の負荷側端と第2の出力端子114との間に挿入され、第2の巻線140の一端は、内部導体124の負荷側端に接続され、第2の巻線140の他端は、第2の出力端子114に接続される。
【0033】
第1実施形態によれば、パルス伝送線路102のキャパシタンスを充電する電流が小さくなるので、パルス伝送の効率が向上する。また、外部導体120,126に流れる電流が小さくなるので、パルス伝送の安全性が向上する。
【0034】
また、第1実施形態によれば、コモンモードリアクトル136により、電流のコモンモード成分が阻止され、パルス伝送線路102から陽極184へ流れる電流I11と、陰極186からパルス伝送線路102へ流れる電流I12とがほぼ等しくなり、陰極186からグランドへ流れる電流Ie0が小さくなるので、ノイズの原因となる電流が抑制される。また、正極174及び陰極176が接地されていないことも、ノイズの原因となる電流を抑制することに寄与する。
【0035】
さらに、第1実施形態によれば、第1の抵抗器132及び第2の抵抗器134により、外部導体120からグランドへ流れる電流Ie1及び外部導体126からグランドへ流れる電流Ie2が小さくなるので、パルス伝送の効率がさらに向上する。なお、この効果を発揮するためには、第1の抵抗器132及び第2の抵抗器134の抵抗値は、1−10オームであることが望ましい。ただし、第1の同軸ケーブル116や第2の同軸ケーブル122が短く、内部導体118と外部導体120との間のキャパシタンスC1や内部導体124と外部導体126との間のキャパシタンスC2が小さい場合は、第1の抵抗器132及び第2の抵抗器134の一方を省略し、外部導体120及び外部導体126の一方を直接接地しても、パルス伝送の効率を向上することができる。また、第1の抵抗器132及び第2の抵抗器134の両方を省略し、外部導体120及び外部導体126を直接接地しても、従来のパルス伝送線路と比較すれば、パルス伝送の効率を向上することができる。
【0036】
なお、パルスの伝送に2本の単芯ケーブルを用いることも考えられるが、一の単芯ケーブルと他の単芯ケーブルとが接触すると、接触した部分で放電を招くことから、一の単芯ケーブルと他の単芯ケーブルとをある程度離す必要がある。すると、パルス伝送線路のインダクタンスが大きくなるため、立ち上がりが急峻な電気パルスを伝送することが困難になる。これに対して、パルス伝送線路102は、電圧上昇率が10kV/μs以上になるような立ち上がりが急峻な電気パルスも大きな波形のみだれをともなうことなく伝送することができる。
【0037】
<2 第2実施形態>
第2実施形態は、パルス電源272と負荷282とを接続するパルス伝送線路202に関する。
【0038】
図2は、第2実施形態のパルス伝送線路202によるパルス電源272と負荷282との接続を説明する模式図である。パルス伝送線路202は、負極276が接地されたパルス電源272の正極274及び負極276に接続された入力ポート204から陰極286が接地された負荷282の陽極284及び負極286が接続された出力ポート210へ電気パルスを伝送する。
【0039】
図2に示すように、パルス伝送線路202は、第1実施形態の場合と同じく、第1の同軸ケーブル216と、第1の接地線228と、第1の抵抗器232と、第2の同軸ケーブル222と、第2の接地線230と、第2の抵抗器234と、を備えるが、コモンモードリアクトルを備えていない。その結果、第1実施形態の場合と異なり、内部導体218の負荷側端は、出力ポート210の第1の出力端子212に直接接続される。また、内部導体224の負荷側端は、出力ポート210の第2の出力端子214に直接接続される。
【0040】
第2実施形態によれば、アースループのインピーダンスが第1実施形態の場合よりも低くなるものの、従来のパルス伝送線路802と比較すれば、パルス伝送の効率及び安全性を向上することができる。また、パルス伝送線路202も、電圧上昇率が10kV/μs以上になる急峻な電気パルスの伝送に特に好適である。
【0041】
<3 第3実施形態>
第3実施形態は、パルス電源344及びパルス伝送線路346を備えるパルス供給装置348から負荷であるリアクタ302へ電気パルスを供給する表面処理装置300に関する。パルス伝送線路346としては、第1実施形態のパルス伝送線路102又は第2実施形態のパルス伝送線路202を使用する。このことは、第1実施形態の負荷182又は第2実施形態の負荷282が表面処理装置のリアクタに限定されることを意味しない。したがって、負荷182又は負荷282は、滅菌装置・殺菌装置・自動車の排ガスの処理装置・CVD(化学気相蒸着)装置等のリアクタ、より一般的に言えば、電気パルスの放電によりプラズマを発生させるプラズマ処理装置のリアクタであってもよい。
【0042】
<3.1 表面処理装置300の概略>
図3は、第3実施形態の表面処理装置300の模式図である。図3は、表面処理装置300の斜視図となっている。
【0043】
図3に示すように、表面処理装置300は、被処理物たるワーク390の表面処理を行うリアクタ302と、表面処理を行う前のワーク390を保持する第1のワーク載置台326と、表面処理を行った後のワーク390を保持する第2のワーク載置台328と、ワーク390を搬送する搬送機構330と、リアクタ302の高さを調整する高さ調整台340と、これらを保持する絶縁ステージ342と、電気パルスを発生するパルス電源344と、パルス電源344からリアクタ302へ電気パルスを伝送するパルス伝送線路346とを備える。
【0044】
図4は、リアクタ302の模式図である。図4は、リアクタ302の断面図となっている。
【0045】
図4に示すように、リアクタ302は、第1の電極306を備える第1の電極構造体304と、第2の電極314を備える第2の電極構造体312と、第1の電極構造体304と第2の電極構造体312との間隙3022に窒素ガスを主成分とする処理ガスを供給する処理ガス供給体318と、第2の電極構造体312と処理ガス供給体318との距離を調整する距離調整体322と、これらを収容するハウジング324とを備える。
【0046】
表面処理装置300は、第1の電極306と第2の電極314との間への立ち上がりの速い電気パルスの繰り返しの印加により間隙3022にストリーマ放電を発生させながら、ワーク390に間隙3022を通過させ、ワーク390の表面処理を行う。ここでいう「表面処理」には、表面に付着した汚染を除去するクリーニング、表面を侵食するエッチング、表面に形成されたフッ素化合物膜その他の膜を灰化するアッシング、表面のぬれ性を向上する改質等の表面の状態を変更する処理がある。
【0047】
<3.2 ストリーマ放電>
ストリーマ放電を発生させる電気パルスは、ピーク電圧が概ね10〜100kV、半値幅FWHM(Full Width at Half Maximum)が概ね100〜5000ns、立ち上がり時の電圧の時間上昇率dV/dtが概ね10〜500kV/μs、周波数が概ね1〜50kHzの電気パルスである。電気パルスは、極性が変化しない単極性の電気パルスであってもよいし、極性が交互に変化する両極性の電気パルスであってもよい。
【0048】
ストリーマ放電が間隙3022に発生しているときには、図4に示すように、第2の電極構造体312の下面3122から第1の電極構造体304の上面3042に向かって末広がりになる筋状のプラズマ398が薄紫色に発光している。一方、グロー放電が間隙3022に発生しているときには、図4に示すような薄紫色に発光する筋状のプラズマ398は見られない。
【0049】
なお、上述の説明において半値幅等の範囲を「概ね」としているのは、第1の電極構造体304及び第2の電極構造体312の構造及び材質・間隙3022の間隔・処理ガスの圧力等の表面処理装置300の具体的な構成によっては、ストリーマ放電が発生する半値幅等の範囲が上述の範囲よりも広くなる場合があるからである。したがって、放電がストリーマ放電になっているか否かは、実際の放電を観察して判断することが望ましい。
【0050】
<3.3 リアクタ302>
(a)各部の配置;
図3及び図4に戻って表面処理装置300の詳細を説明する。
【0051】
図4に示すように、リアクタ302の内部においては、第1の電極構造体304がワーク390の搬送経路319の下方に設けられ、処理ガス供給体318、距離調整体322及び第2の電極構造体312が搬送経路319の上方に設けられる。第1の電極構造体304と第2の電極構造体312とは搬送経路319を挟んで対向する。
【0052】
処理ガス供給体318、距離調整体322及び第2の電極構造体312は、搬送経路319の上流側(以下では「搬送経路上流側」という)から下流側(以下では「搬送経路下流側」という)に向かって配列される。処理ガス供給体318及び距離調整体322は、搬送経路319を挟んで第1の電極構造体304と対向する。第1の電極構造体304と処理ガス供給体318及び距離調整体322との間隙は、間隙3022へ至る処理ガスの導入路3024となる。導入路3024は、間隙3022へ向かうワーク390及びワークキャリア332の通り道にもなる。導入路3024の延在方向は、ワーク390の搬送方向すなわちワークキャリア332の走行方向と平行である。なお、図4に示すリアクタ302は、2個の第2の電極構造体312を備えているが、第2の電極構造体312の数を1個又は3個以上に増減してもよい。
【0053】
(b)第1の電極構造体304;
図5は、第1の電極構造体304の模式図である。図5は、第1の電極構造体304の斜視図となっている。
【0054】
図4及び図5に示すように、第1の電極構造体304は、板形状の外形形状を有する。第1の電極構造体304は、第1の電極306と、第1の電極306を保持するホルダ308と、第1の電極306を覆う第1の誘電体バリア310とを備える。なお、ホルダ308と第1の誘電体バリア310とを同一の絶縁材料で構成して一体化してもよい。ホルダ308と第1の誘電体バリア310とを一体化した場合、その一体物の中に第1の電極306が埋設される。
【0055】
第1の電極306は、アルミニウム・銅等の導電材料で構成される。第1の電極306は、板形状を有する。第1の電極306は、第2の電極構造体312の下面3122と平行に設置される。第1の電極306は、矩形又は正方形の平面形状を有することが望ましい。第1の電極306が矩形又は正方形の平面形状を有する場合、1組の対辺が搬送経路319と平行となるように第1の電極306が設置されることが望ましい。
【0056】
第1の電極306を陰極、第2の電極314を陽極とする場合、第1の電極306の幅(搬送経路319に垂直な方向の寸法)は、第2の電極314の幅よりも狭くならないようにすることが望ましい。第2の電極構造体312の下面3122からの第1の電極構造体304の上面3042に向かってプラズマ398が末広がりになるのを妨げないためである。また、第1の電極306の幅は、ワーク390の幅よりも広いことが望ましい。ワーク390の周縁まで均一に表面処理を行うためである。
【0057】
第1の電極306の板厚は、概ね5〜20mmであることが望ましい。
【0058】
ホルダ308は、ガラス・アルミナ等の絶縁材料で構成される。ホルダ308は、板形状を有する。ホルダ308の上面3082には、第1の電極306と略同一の立体形状を有する収容穴3084が形成される。収容穴3084には、第1の電極306が収容される。第1の電極306が収容穴3084に収容された状態においては、第1の電極306の上面3062とホルダ308の上面3082の収容穴3084の外側とは平坦な同一平面を構成する。
【0059】
第1の誘電体バリア310は、ガラス・アルミナ等の絶縁材料で構成される。第1の誘電体バリア310は、板形状を有する。第1の誘電体バリア310は、ホルダ308と略同一の平面形状を有する。第1の誘電体バリア310は、第1の電極306の上面3062及びホルダ308の上面3082に載置される。第1の誘電体バリア310により、第1の電極306を保護することができるとともに、アーク放電が発生することを抑制し、ストリーマ放電を安定して発生させることができる。
【0060】
第1の誘電体バリア310の上面3102は、平坦になっている。これにより、間隙3022へ向かう処理ガスの流れの乱れを抑制することができ、ワーク390の表面処理を均一に行うことができる。第1の誘電体バリア310の板厚は、概ね0.5〜5mmであることが望ましい。第1の誘電体バリア310の板厚がこの範囲を下回ると、アーク放電が発生しやすくなる傾向があるからであり、この範囲を上回ると、第1の電極306と第2の電極314との間の静電容量が増加して第1の電極306と第2の電極314との間に立ち上がりの速い電気パルスを印加することが難しくなる傾向があるからである。
【0061】
(c)第2の電極構造体312;
図6は、第2の電極構造体312の模式図である。図6は、第2の電極構造体312の斜視図となっている。
【0062】
図4及び図6に示すように、第2の電極構造体312は、板形状の外形形状を有する。第2の電極構造体312は、第2の電極314と、第2の誘電体バリア316とを備える。
【0063】
第2の電極314は、アルミニウム・銅等の導電材料で構成されている。第2の電極314は、板形状を有する。第2の電極314は、第1の電極306及び搬送経路319と垂直に設置される。第2の電極314は、その下面が第1の電極306と平行になるように設置されることが望ましい。これにより、ストリーマ放電を均一に発生させ、ワーク390の表面処理を均一に行うことができる。第2の電極314の幅は、ワーク390の幅よりも広いことが望ましい。ワーク390の周縁まで均一に表面処理を行うためである。
【0064】
第2の電極314の板厚は、概ね1〜20mmであることが望ましい。
【0065】
第2の誘電体バリア316は、ガラス・アルミナ等の絶縁材料で構成される。第2の誘電体バリア316は、細長矩形形状の開口を上面に有する鞘形状を有する。第2の誘電体バリア316には、第2の電極314と略同一の立体形状を有する収容穴3162が形成される。収容穴3162には、第2の誘電体バリア316の主面に平行に第2の電極314が収容される。なお、図4に示す第2の誘電体バリア316は、第2の電極314の全体を収容しているが、ストリーマ放電の発生に主に寄与するのは第2の電極314のうちの第1の電極306に近い搬送経路319寄りであるので、第2の誘電体バリア316に収容されているのが第2の電極314の下方の搬送経路319寄りのみであっても問題はない。第2の誘電体バリア316により、第2の電極314を保護することができるとともに、アーク放電が発生することを抑制し、ストリーマ放電を安定して発生させることができる。
【0066】
第2の誘電体バリア316の第2の電極314の下端面を覆う部分の厚さt1は、概ね0.5〜5mmであることが望ましい。第2の誘電体バリア316の厚さt1がこの範囲を下回ると、アーク放電が発生しやすくなる傾向があるからであり、この範囲を上回ると、第1の電極306と第2の電極314との間の静電容量が増加して第1の電極306と第2の電極314との間に立ち上がりの速い電気パルスを印加することが難しくなる傾向があるからである。また、第2の誘電体バリア316の第2の電極314の主面を覆う部分の厚さt2は、概ね2〜20mmであることが望ましい。第2の誘電体バリア316の厚さt2がこの範囲を下回ると、プラズマ398の裾野の重なりが大きくなりすぎる傾向があり、この範囲を上回るとプラズマ398の隙間が大きくなりすぎる傾向があるからである。
【0067】
図7は、第2の電極構造体312に代えて採用することができる第2の電極構造体412の模式図である。図7は、第2の電極構造体412の斜視図となっている。
【0068】
図7に示すように、板形状を有する第2の電極314を鞘形状を有する第2の誘電体バリア316で覆う第2の電極構造体312に代えて、丸棒形状又は丸パイプ形状を有する第2の電極414を丸パイプ形状を有する第2の誘電体バリア416で覆う第2の電極構造体412を採用しても、ストリーマ放電を間隙3022に発生させることができる。ただし、第2の電極構造体312には、容易に製造することができるという第2の電極構造体412と比較した有利な点がある。
【0069】
(d)第1の誘電体バリア310又は第2の誘電体バリア316の省略;
図4に示すリアクタ302においては、第1の電極構造体304及び第2の電極構造体312の両方が誘電体バリアを備えているが、第1の誘電体バリア310又は第2の誘電体バリア316を省略し、第1の電極構造体304及び第2の電極構造体312の片方のみが誘電体バリアを備えるようにしてもよい。
【0070】
(e)処理ガス供給体318;
図4に示すように、処理ガス供給体318は、略直方体の外形形状を有し、その内部には、処理ガスを滞留させるガス溜り3186と、上面3184からガス溜り3186へ処理ガスを導く流路3187と、ガス溜り3186から下面3182へ処理ガスを導く流路3188とが形成される。また、処理ガス供給体318の内部には、ガス溜り3186に接してシャワー板320が設置される。シャワー板320には、直径が0.1〜1mmの貫通孔が1〜20mm間隔で規則的に形成される。なお、シャワー板320に代えて、貫通孔が多数形成された圧損部材、例えば、メッシュの積層体やセラミックスの多孔質体を採用してもよい。
【0071】
処理ガス供給体318は、処理ガスの供給源から供給された処理ガスに流路3187、ガス溜り3186、シャワー板320及び流路3188を順次通過させて処理ガスの流れを均一化した上でスリット形状を有する吹き出し口3189から導入路3024へ処理ガスを噴出する。
【0072】
(f)距離調整体322;
距離調整体322は、ガラス・アルミナ等の剛性の高い絶縁材料で構成される。距離調整体322は、直方体形状を有する。図4に示すように、距離調整体322は、搬送経路319に垂直に設けられる。距離調整体322の搬送経路上流側の面は処理ガス供給体318と接し、搬送経路下流側の面は第2の電極構造体312と接する。距離調整体322により、吹き出し口3189と間隙3022との距離を離すことができるので、処理ガスが間隙3022に到達するまでに処理ガスの流れを均一化することができ、ワーク390の表面処理を均一に行うことができる。
【0073】
(g)処理ガスの組成;
処理ガスは、窒素ガスを主成分とするガスであることが望ましく、窒素ガスのみからなるガス又は窒素ガス及び酸素ガスからなる混合ガスであることが望ましい。
【0074】
<3.4 第1のワーク載置台326及び第2のワーク載置台328>
図3に示すように、第1のワーク載置台326及び第2のワーク載置台328は、略直方体形状を有する。第1のワーク載置台326及び第2のワーク載置台328は、それぞれ、リアクタ302の搬送経路上流側及び搬送経路下流側に設置される。第1のワーク載置台326の上面3262及び第2のワーク載置台328の上面3282は平坦になっている。
【0075】
<3.5 搬送機構330>
図1に示すように、搬送機構330は、ワーク390を上面3322に保持し第1の電極構造体304の上面3042を滑動するワークキャリア332とワークキャリア332を搬送方向に走行させる走行機構たる1軸ステージロボット334とを備える。
【0076】
ワークキャリア332は、フッ素樹脂等の絶縁体で構成される。なお、厚さが極端に暑くならない場合には、ワークキャリア332を導電体で構成することも許容される。ワークキャリア332は、長尺のシート形状を有している。ワークキャリア332は、第1のワーク載置台326の上面3262からリアクタの302の搬入口3026、導入路3024、間隙3022及びリアクタ302の搬出口3028を経て第2のワーク載置台328の上面3282に渡って延在する。ワークキャリア332は、第1のワーク載置台326の上面3262、第1の誘電体バリア310の上面3102及び第2のワーク載置台328の上面3282に接し、第1のワーク載置台326の上面3262、第1の電極構造体304の上面3042及び第2のワーク載置台328の上面3282を滑動する。
【0077】
1軸ステージロボット334は、第2のワーク載置台328のさらに搬送経路下流側に設置される。1軸ステージロボット334は、移動ステージ338をワーク390の搬送方向に案内する固定レール336と固定レール336に沿って移動する移動ステージ338とを備える。固定レール336は、絶縁ステージ342に固定されている。また、移動ステージ338には、ワークキャリア332の搬送方向下流側の端部が接続されている。これにより、移動ステージ338をワーク390の搬送方向に動かすと、ワークキャリア332がワーク390の搬送方向に走行し、ワークキャリア332が保持しているワーク390が搬送方向に搬送される。
【0078】
<3.6 高さ調整台340>
図3に示すように、高さ調整台340は、絶縁ステージ342の上面3422に固定され、その上面にはリアクタ302が載置されている。高さ調整台340により、図4に示すように、第1の誘電体バリア310の上面3102の高さは、第1のワーク載置台326の上面3262の高さ及び第2のワーク載置台328の上面3282の高さに合わされる。これにより、ワークキャリア332が平坦な姿勢を維持することができるので、ワークキャリア332を水平に走行させることができ、ワーク390を安定して水平に搬送することができる。
【0079】
<3.7 パルス電源344>
(a)電源の形式;
パルス電源344は、アーク放電を発生させることなくストリーマ放電を発生させることができる電気パルスを第1の電極306と第2の電極314との間に印加するものであればどのようなものを用いてもよいが、誘導性素子に磁界の形で蓄積したエネルギーを短時間で放出する誘導エネルギー蓄積型(IES;Inductive Energy Storage)の電源(以下では、「IES電源」という)であることが望ましい。これは、IES電源は、容量性素子に電界の形で蓄積したエネルギーを短時間で放出する静電エネルギー蓄積型(CES;Capacitive Energy Storage)の電源(以下では、「CES電源」という)と比較して、著しく大きいエネルギーをリアクタ302に投入することができるからである。典型的には、電極構造が同じならば、IES電源を採用した場合、プラズマを生成する反応に使われる1パルスあたりのエネルギー(以下では、「1パルスエネルギー」という)は、CES電源を採用した場合よりも概ね1桁大きくなる。IES電源とCES電源とのこの相違は、IES電源が発生する電気パルスは電圧の上昇が急激であるのに対して、CES電源が発生する電気パルスは電圧の上昇が緩慢であることにより生じる。すなわち、IES電源を採用した場合、電圧が十分に上昇してから放電が始まり、1パルスエネルギーを十分に大きくすることができるのに対して、CES電源を採用した場合、電圧が十分に上昇しないうちに放電が始まり、1パルスエネルギーを十分に大きくすることができないことにより生じる。
【0080】
図8〜図10は、IES電源が発生するパルス幅がナノ秒のオーダーの電気パルス(以下では、「ナノパルス」という)とCES電源が発生するパルス幅がマイクロ秒のオーダーの電気パルス(以下では「マイクロパルス」という)の概略の波形を示す図である。図8(a)及び図8(b)は、それぞれ、IES電源が発生するナノパルス及びCES電源が発生するマイクロパルスの電圧波形、図9(a)及び図9(b)は、それぞれ、IES電源が発生するナノパルス及びCES電源が発生するマイクロパルスの電流波形、図10(a)及び図10(b)は、それぞれ、IES電源が発生するナノパルス及びCES電源が発生するマイクロパルスの電圧と電流との積の波形を示す図である。
【0081】
1パルスエネルギーは、図10(a)及び図10(b)に示す電圧と電流との積を時間で積分することにより算出される。図8及び図9に示すように、電流は、電圧の上昇とほぼ同期して正方向に流れ、電圧の下降とほぼ同期して負方向に流れるので、1パルスエネルギーは、図10(a)及び図10(b)における波形が正になる領域Aの面積から波形が負になる領域Bの面積を減じた面積に比例する。
【0082】
(b)スイッチング素子;
IES電源としては、静電誘導型サイリスタ(以下では、「SIサイリスタ」という)を誘導性素子への電流の供給を制御するスイッチング素子として用いた電源を採用することが望ましい。SIサイリスタをスイッチング素子として用いることにより、立ち上がりの速い電気パルスを発生することができるので、上述のストリーマ放電を容易に発生させることができるからである。SIサイリスタをスイッチング素子として用いることにより立ち上がりの速い電気パルスを発生することができるのは、SIサイリスタは、ゲートが絶縁されておらずゲートから高速にキャリアを引き抜くことができるので、高速にターンオフすることができるからである。IES電源の動作原理等の詳細は、例えば、飯田克二、佐久間健:「SIサイリスタによる極短パルス発生回路(IES回路)」、SIデバイスシンポジウム講演論文集、Vol.15,Page.40−45(2002年6月14日発行)に記載されている。
【0083】
(c)SIサイリスタ358をスイッチング素子として用いたIES電源350の回路図;
図11は、パルス電源344に好適に用いることができるSIサイリスタ358をスイッチング素子として用いたIES電源350の回路図である。もちろん、図11に示す回路図は一例にすぎず、様々に変形することができる。
【0084】
図11に示すように、IES電源350は、電気エネルギーを供給する直流電源352と直流電源352の放電能力を強化するキャパシタ354とを備える。
【0085】
直流電源352の電圧は、IES電源350が発生させる電気パルスのピーク電圧より著しく低い電圧であることが許容される。例えば、後述する昇圧トランス356の1次側に発生させる1次側電圧V1のピーク電圧が4kVに達しても、直流電源352の電圧は数10〜数100Vで足りる。この電圧の下限は後述するSIサイリスタ358のラッチング電圧によって決まる。IES電源350は、このような低電圧の直流電源352を電気エネルギー源として利用可能であるので、小型・低コストに構築可能である。
【0086】
キャパシタ354は、直流電源352と並列に接続される。キャパシタ354は、直流電源352のインピーダンスを見かけ上低下させることにより直流電源352の放電能力を強化する。
【0087】
IES電源350は、さらに、昇圧トランス356、SIサイリスタ358、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)360、ゲート駆動回路362及びダイオード364を備える。
【0088】
IES電源350では、直流電源352と、昇圧トランス356の1次側と、SIサイリスタ358のアノード(A)・カソード(K)間と、MOSFET360のドレイン(D)・ソース(S)間とが直列接続される。すなわち、昇圧トランス356の1次側の一端が直流電源352の正極に、昇圧トランス356の1次側の他端がSIサイリスタ358のアノードに、SIサイリスタ358のカソード(K)がMOSFET360のドレイン(D)に、MOSFET360のソース(S)が直流電源352の負極に接続される。これにより、直流電源352からこれらの回路素子に電流を供給可能になる。また、IES電源350では、SIサイリスタ358のゲート(G)がダイオード364を介して昇圧トランス356の1次側の一端と並列接続される。すなわち、SIサイリスタ358のゲート(G)がダイオード364のアノード(A)に、ダイオード364のカソード(K)が昇圧トランス356の1次側の一端(直流電源352の正極)に接続される。FETのゲート(G)・ソース(S)間には、ゲート駆動回路362が接続される。
【0089】
昇圧トランス356は、1次側に与えられた電気パルスをさらに昇圧して2次側に出力する。昇圧トランス356の2次側にはパルス伝送線路346を経由してリアクタ302が接続される。昇圧トランス356の1次側は自己インダクタンスを有する誘導性素子になっている。
【0090】
SIサイリスタ358は、ゲート(G)に与えられる信号に応答してターンオン及びターンオフが可能である。
【0091】
MOSFET360は、ゲート駆動回路362から与えられる信号に応答してドレイン(D)・ソース(S)間の導通状態が変化するスイッチング素子である。MOSFET360のオン電圧ないしはオン抵抗は低いことが望ましい。また、MOSFET360の耐圧は直流電源352の電圧より高いことを要する。
【0092】
ダイオード364は、SIサイリスタ358のゲート(G)に正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、すなわち、SIサイリスタ358のゲート(G)に正バイアスを与えた場合にSIサイリスタ358が電流駆動とならないようにするために設けられる。
【0093】
(d)SIサイリスタ358をスイッチング素子として用いたIES電源350の動作の概略;
IES電源350に電気パルスを発生させる場合、まず、ゲート駆動回路362からMOSFET360のゲートにオン信号を与え、MOSFET360のドレイン(D)・ソース(S)間を導通状態にする。すると、SIサイリスタ358はノーマリオン型のスイッチング素子であってSIサイリスタ358のアノード(A)・カソード(K)間は導通状態となっているので、昇圧トランス356の1次側に電流が流れる。この状態においては、SIサイリスタ358のゲート(G)に正バイアスが与えられるので、SIサイリスタ358のアノード(A)・カソード(K)間の導通状態は維持される。
【0094】
続いて、ゲート駆動回路362からMOSFET360へオン信号を与えることを中止し、MOSFET360のドレイン(D)・ソース(S)間を非導通状態にする。すると、SIサイリスタ358のゲート(G)からキャリアが電流駆動により高速に排出されSIサイリスタ358のアノード(A)・カソード(K)間が非導通状態となるので、昇圧トランス356の1次側への電流の流入が高速に停止される。これにより、昇圧トランス356の1次側には誘導起電力が発生し、昇圧トランス356の2次側にも高圧が発生する。
【0095】
<3.8 被処理物>
表面処理装置300が処理するワーク390は、主に、半導体基板・ガラス基板等の板形状物である。ただし、表面処理装置300は、ポリエチレンシート・ポリプロピレンシート等の長尺のシート形状物の表面処理を行うこともできる。この場合、ワークキャリア332に代えて被処理物たるシート形状物を走行させ、シート形状物に間隙3022を通過させればよい。
【0096】
<4 その他>
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は全ての局面において例示であって、この発明は上記の説明に限定されない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得る。
【0097】
なお、本願は、電気パルスを供給するパルス供給装置であって、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のパルス伝送線路と、前記第1のポートに接続されたパルス電源と、を備え、前記パルス電源がフローティング電源であるパルス供給装置の発明も含む。
【符号の説明】
【0098】
102,202,346 パルス伝送線路
104,204 入力ポート
114,314 出力ポート
116,122,216,316 同軸ケーブル
118,124,218,224 内部導体
120,126,220,226 外部導体
128,130,228,230 接地線
132,134,232,234 抵抗器
136 コモンモードリアクトル
172,272,344 パルス電源
182,282 負荷
300 表面処理装置
302 リアクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端子及び第2の端子を備える第1のポートから第3の端子及び第4の端子を備える第2のポートへ電気パルスを伝送するパルス伝送線路であって、
第1の内部導体と第1の外部導体とを備え、前記第1の内部導体の一端が前記第1の端子に接続され、前記第1の内部導体の一端と同じ側にある前記第1の外部導体の一端が開放され、前記第1の内部導体の他端が前記第3の端子に接続され、前記第1の外部導体の他端がグランドに接続された第1の同軸線路と、
第2の内部導体と第2の外部導体とを備え、前記第2の内部導体の一端が前記第2の端子に接続され、前記第2の内部導体の一端と同じ側にある前記第2の外部導体の一端が開放され、前記第2の内部導体の他端が前記第4の端子に接続され、前記第2の外部導体の他端がグランドに接続された第2の同軸線路と、
を備えるパルス伝送線路。
【請求項2】
請求項1に記載のパルス伝送線路において、
第1の巻線と第2の巻線とを備え、前記第1の巻線が前記第1の内部導体の他端と前記第3の端子との間に挿入され、前記第2の巻線が前記第2の内部導体の他端と前記第4の端子との間に挿入されたコモンモードリアクトル、
をさらに備えるパルス伝送線路。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のパルス伝送線路において、
前記第1の外部導体の他端とグランドとを結ぶ接地経路に挿入された第1の抵抗器、
をさらに備えるパルス伝送線路。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のパルス伝送線路において、
前記第2の外部導体の他端とグランドとを結ぶ接地経路に挿入された第2の抵抗器、
をさらに備えるパルス伝送線路。
【請求項5】
電気パルスを供給するパルス供給装置であって、
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のパルス伝送線路と、
前記第1のポートに接続されたパルス電源と、
を備えるパルス供給装置。
【請求項6】
プラズマ処理装置であって、
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のパルス伝送線路と、
前記第1のポートに接続されたパルス電源と、
前記第2のポートに接続されたリアクタと、
を備えるプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−183393(P2010−183393A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25621(P2009−25621)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】