説明

パワーアシスト装置及びその制御方法

【課題】作業者の操作に対する応答性に優れ、対象物の移動や取り付け作業の効率を向上させたパワーアシスト装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】作業者の操作に協動して対象物2を移動可能なパワーアシスト装置1であって、対象物2を把持するハンド部10と、ハンド部10を上下方向に駆動させる上下駆動部11と、上下駆動部11に対してハンド部10を任意の三次元方向に揺動自在に連結させるフリージョイント部12と、ハンド部10に対して所定の方向に粘性抵抗を付与するシリンダ装置13・14と、ハンド部10を操作する作業者の操作力を検出する力センサ15と、力センサ15により検出された操作力から上下駆動部11に対するインピーダンス制御指令値を算出し、インピーダンス制御指令値に基づいて上下駆動部11を駆動させる制御部16とを具備してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーアシスト装置及びその制御方法の技術に関し、より詳細には、対象物を把持しつつ、作業者の操作に協動して対象物を移動可能なパワーアシスト装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造現場や生産ライン等において、作業者による重量物の昇降を補助するパワーアシスト装置の需要が高まっている。すなわち、自動車の生産ラインでは、フロントガラスやリヤガラス等の対象物(ワーク)が、ターゲットとなる車体の窓枠部にまで搬送され、かかる窓枠部に対して三次元に位置決めした状態で取り付け作業が行われる。このような対象物の運搬や取り付け作業は、作業者による人力だけでは困難であり、また作業効率も悪い。そこで通常は、かかる作業時には、作業者と協動して対象物を移動させるパワーアシスト装置が用いられている。
【0003】
パワーアシスト装置においては、フリージョイント(回転軸部)を介して任意の方向に揺動自在に対象物が把持される。このようなパワーアシスト装置においては、回転軸部に対する対象物の変位は、互いに直交する水平軸であるx軸、y軸及び鉛直軸であるz軸より構成される絶対座標空間に対して三軸方向成分に分解すると、ターゲット方向に対して直行する左右方向軸軸(x軸)周りの変位(ピッチ角変位)と、ターゲット方向に沿った左右方向軸(y軸)周りの変位(ロール角変位)と、及び鉛直方向軸(z軸)周りの変位(ヨー角変位)とに分けられる。かかるパワーアシスト装置を用いて対象物をターゲットに取り付ける際には、作業者によって把持手段が揺動操作されることで、ターゲットに対して所定のピッチ角、ロール角、及びヨー角となるように対象物の三次元的な姿勢が調整される。
【0004】
ところで、特許文献1には、対象物を把持する把持手段の回転軸周りの変位角度を検出し、作業者が把持手段に触れているときに、かかる検出結果と予め設定された基準値とを比較して、それらを一致させるように把持手段を上下に駆動制御するパワーアシスト装置の構成が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に開示されるパワーアシスト装置の構成によれば、作業者が把持手段の一端を操作する際に、駆動装置によって把持手段が上下昇降されることで、対象物の変位角度(ロール角変位)が制御される。つまり、作業者が把持手段を操作することによってロール角が変位しても、かかるロール角の変位に基づいて直ちに駆動装置が駆動されるため、ロール角の変位が一定となるように制御されるのである。
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されるパワーアシスト装置では、対象物の変位角度(ロール角変位)に基づいて対象物の姿勢を制御するものであるため、作業者によって把持手段の一端が実際に操作されて、対象物に傾き(変位)が生じてから駆動装置が駆動される。そのため、かかる構成では、実際の作業者の操作に対する対象物の姿勢制御の応答性が悪く操作性に劣り、対象物の移動や取り付け作業の効率が悪かった。
【特許文献1】特開平11−245124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明では、パワーアシスト装置及びその制御方法に関し、前記従来の課題を解決するもので、作業者の操作に対する応答性に優れ、対象物の移動や取り付け作業の効率を向上させたパワーアシスト装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
すなわち、請求項1においては、作業者の操作に協動して対象物を移動可能なパワーアシスト装置であって、対象物を把持する把持手段と、前記把持手段を所定方向に駆動させる駆動手段と、前記駆動手段に対して前記把持手段を任意の三次元方向に揺動自在に連結させる回転軸部と、前記把持手段に対して所定の方向に粘性抵抗を付与する粘性抵抗手段と、前記把持手段を操作する作業者の操作力を検出する操作力検出手段と、前記操作力検出手段により検出された操作力から前記駆動手段に対するインピーダンス制御指令値を算出し、該インピーダンス制御指令値に基づいて前記駆動手段を駆動させる制御手段とを具備してなるものである。
【0010】
請求項2においては、前記制御手段は、前記操作力検出手段により検出された操作力を所定方向の操作力成分に分解し、該操作力成分に応じたインピーダンス制御指令値を算出するものである。
【0011】
請求項3においては、前記粘性抵抗手段は、粘性抵抗値が可変に構成され、前記制御手段は、前記把持手段を操作する作業者の操作力に応じて粘性抵抗値を変更して前記粘性抵抗手段を制御するものである。
【0012】
請求項4においては、前記制御手段は、前記把持手段に付与される外力が予め設定された閾値より大きい場合に、前記操作力に外力を加算してインピーダンス制御指令値を算出するものである。
【0013】
請求項5においては、対象物を把持する把持手段と、前記把持手段を所定方向に駆動させる駆動手段と、前記駆動手段に対して前記把持手段を任意の三次元方向に揺動自在に連結させる回転軸部と、前記把持手段に対して所定の揺動方向に粘性抵抗を付与する粘性抵抗手段と、前記把持手段を操作する作業者の操作力を検出する操作力検出手段とを備え、作業者の操作に協動して対象物を移動可能なパワーアシスト装置の制御方法であって、前記操作力検出手段により検出された操作力から前記駆動手段に対するインピーダンス制御指令値を算出し、該インピーダンス制御指令値に基づいて前記駆動手段を駆動させる制御工程を有してなるものである。
【0014】
請求項6においては、前記制御工程は、前記操作力検出手段により検出された操作力を所定方向の操作力成分に分解し、該操作力成分に応じたインピーダンス制御指令値を算出する工程を有するものである。
【0015】
請求項7においては、前記制御工程は、前記把持手段を操作する作業者の操作力に応じて、粘性抵抗値が可変に構成された粘性抵抗手段の粘性抵抗値を変更する工程を有するものである。
【0016】
請求項8においては、前記制御工程は、前記把持手段に付与される外力が予め設定された閾値内にあるか否かを判定する工程と、前記操作力に外力を加算してインピーダンス制御指令値を算出する工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0018】
請求項1に示す構成としたので、作業者の操作に対する応答性に優れ、対象物の移動や取り付け作業の効率を向上させることができる。
【0019】
請求項2に示す構成としたので、作業者の操作意図に応じた制御が可能となり、対象物の移動や取り付け作業時の把持手段の操作性をより向上できる。
【0020】
請求項3に示す構成としたので、作業者ごとの操作力の違いに対応することができ、把持手段を操作する作業者の操作性をより向上できるとともに、駆動手段に対する負荷を軽減することができる。
【0021】
請求項4に示す構成としたので、粘性抵抗に加えて把持手段に作用する外力を考慮することで、使用環境や使用状態の変化による影響に対応して制御することができる。
【0022】
請求項5に示す構成としたので、作業者の操作に対する応答性に優れ、対象物の移動や取り付け作業の効率を向上させることができる。
【0023】
請求項6に示す構成としたので、作業者の操作意図に応じた制御が可能となり、対象物の移動や取り付け作業時の把持手段の操作性をより向上できる。
【0024】
請求項7に示す構成としたので、作業者ごとの操作力の違いに対応することができ、把持手段を操作する作業者の操作性をより向上できるとともに、駆動手段に対する負荷を軽減することができる。
【0025】
請求項8に示す構成としたので、粘性抵抗に加えて把持手段に作用する外力を考慮することで、使用環境や使用状態の変化による影響に対応して制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係るパワーアシスト装置の全体的な構成を示した正面図、図2は制御部の構成を示したブロック図、図3は絶対座標空間での対象物の変位角度を示した図、図4はパワーアシスト装置の制御方法を示したフローチャート、図5は同じくパワーアシスト装置の制御方法を示したフローチャート、図6は別実施例のパワーアシスト装置の制御方法を示したフローチャートである。
【0027】
以下の実施例においては、図1に示す矢印のとおり、搬送ライン4と直交する水平方向をX方向、搬送ライン4に沿う水平方向をY方向(図1の紙面直交方向)、搬送ライン4に対して上下垂直方向をZ方向とする。また、搬送ライン4の直上方に位置した状態のパワーアシスト装置1に対して、Y方向をパワーアシスト装置1の前後方向、X方向をパワーアシスト装置1の左右方向、Z方向をパワーアシスト装置1の上下方向とする。
【0028】
そして、図3に示すように、本実施例では、任意の原点に対して互いに直交する水平軸であるx軸、y軸、及びこれらに対する鉛直軸であるz軸として表される絶対座標空間が設定されている。絶対座標空間を構成するx軸、y軸、及びz軸は、それぞれ上述したX方向、Y方向、及びZ方向に沿うものである。
【0029】
図1に示すように、本実施例のパワーアシスト装置1は、自動車等の製造現場や生産ライン等において、作業者による重量物の移動を補助するための装置として構成されている。すなわち、パワーアシスト装置1は、対象物2としての自動車のフロント(リア)ガラスを把持した状態で作業者によって操作され、かかる作業者の操作に協動しながら、ターゲット3としての車体の枠体部まで移動可能に構成されている。
【0030】
対象物2は、平面視略矩形に形成された板状の重量物であり、一方の表面に水平面若しくは湾曲面を有している。そして、対象物2は、パワーアシスト装置1によって、ターゲット3に対して三次元方向に相対的に位置決めされた状態で取り付けられる。また、搬送ライン4は、略直線状に敷設されたコンベアが設けられており、かかるコンベア上にターゲット3が固定された状態で搬送される。
【0031】
次に、本実施例のパワーアシスト装置1の全体構成について、以下に詳述する。
図1及び図2に示すように、本実施例のパワーアシスト装置1は、対象物2を着脱可能に把持する把持手段としてのハンド部10と、ハンド部10を上下方向に駆動させる駆動手段としての上下駆動部11と、上下駆動部11に対してハンド部10を任意の三次元方向に揺動自在に連結させる回転軸部としてのフリージョイント部12と、ハンド部10に対して所定の方向に粘性抵抗を付与する粘性抵抗手段としてのシリンダ装置13・14と、前記把持手段を操作する作業者の操作力を検出する操作力検出手段としての力センサ15と、各構成部材に接続されてパワーアシスト装置1を制御する制御手段としての制御部16等とで構成され、作業者の操作を補助するように作業者の操作に協動して、僅かな力で対象物2を移動することができ、作業者によってハンド部10を操作して、対象物2を所定位置まで移動させ、さらには三次元的に対象物2を位置決めした状態で、ターゲット3に対象物2を取り付けることができるように構成されている。
【0032】
ハンド部10は、対象物2の一平面をチャック(吸着保持)する保持部10a・10aが設けられており、かかる保持部10a・10aによって対象物2を把持することで、対象物2がハンド部10に固定される。ハンド部10の一端部には、作業ハンドル10bが設けられており、作業者が作業ハンドル10bを把持することで、ハンド部10が三次元方向に揺動操作されるとともに、ハンド部10自体がターゲット3に対して上下方向及び前後方向に相対的に移動操作される。なお、後述するように作業ハンドル10bには、力センサ15が配設されている。
【0033】
上下駆動部11は、一端部が機台部17を介して固定面5に連結され、固定面5から垂下された状態で取り付けられている。機台部17は、固定面5に対して搬送ライン4に沿って摺動可能に連結されており、本実施例では、作業者によってハンド部10がY方向に移動されると、これに連動して機台部17と一体に上下駆動部11が摺動される。なお、機台部17には、後述するシリンダ装置13・14のシリンダ本体13a・14a等が取り付けられている。上下駆動部11の自由端である他端部には、上述したハンド部10が接続されている。また、本実施例の上下駆動部11は、図示せぬ油圧シリンダと、油圧シリンダを伸縮させるアクチュエータ等によって構成されており、上下方向に伸縮可能であって、かつ、任意の伸縮状態のままで停止することができるように構成されている。
【0034】
本実施例のパワーアシスト装置1は、上下駆動部11が上下方向に伸縮されることで、ハンド部10が上下方向(Z方向)に駆動される。また、上下駆動部11は、作業者によってハンド部10が操作されない状態では、ハンド部10に対象物2が把持された状態であっても、ハンド部10の上下方向位置が変動しないように伸縮状態が維持されて、ハンド部10が位置決めされて停止される。
【0035】
なお、上下駆動部11は、後述する制御部16に接続されており(図2参照)、制御部16によって、上下駆動部11のアクチュエータが駆動されて能動的に上下方向に伸縮される。すなわち、上下駆動部11は、制御部16からの信号を受けることで、油圧シリンダが所定の伸縮状態となるように伸縮されて、ハンド部10が上下方向に能動的に駆動される。制御部16による上下駆動部11の伸縮制御(インピーダンス制御)については、詳細を後述する(図4参照)。
【0036】
フリージョイント部12は、上下駆動部11の他端部に取り付けられており、ハンド部10が任意の三次元方向に揺動自在となるように連結されている。上述した絶対座標空間において、ハンド部10は、フリージョイント部12によってx軸周り、y軸周り、及びz軸周りに自由回転可能となるように連結されている。そのため、ハンド部10が作業者によって任意の三次元方向に揺動操作されることで、対象物2の姿勢が三次元的に調整可能とされている。なお、フリージョイント部12の構成としては、公知の構成を用いることができる。
【0037】
シリンダ装置13・14は、フリージョイント部12に対する対象物2のy軸周りの揺動方向に対してハンド部10に所定の粘性抵抗を付与するものであって、本実施例では、上下駆動部11を挟んで一対のシリンダ装置13・14がハンド部10の左右方向の端部に配設されている。なお、本実施例のシリンダ装置13・14の構成はそれぞれ略等しく、以下、特に断りのない場合には、ハンド部10の作業ハンドル10bが配設された側に設けられたシリンダ装置13の構成について説明する。
【0038】
シリンダ装置13は、機台部17に固定されたシリンダ本体13aと、一端がシリンダ本体13aに接続され、他端部がハンド部10に接続されたワイヤ13b等とで構成されている。シリンダ本体13aは、油圧シリンダ等の流体シリンダが用いられ、図示せぬピストンにワイヤ13bの一端が接続されている。ワイヤ13bは、プーリ13c・13cを介して固定面5に対して鉛直下方に垂下されており、ワイヤ13bの他端がハンド部10に接続されている。シリンダ本体13aは、ワイヤ13bの他端が下方に引っ張られることで図示せぬピストンが伸長方向に摺動される。
【0039】
シリンダ装置13・14は、上述したように、ハンド部10の左右方向の端部にワイヤ13b・14bが接続されており、ハンド部10に対してy軸周りの揺動方向に粘性抵抗が付与されている。すなわち、本実施例のパワーアシスト装置1では、ハンド部10が操作されて、作業ハンドル10bが配設された側の端部が下方(図1においてy軸周りに反時計方向)に揺動されると、シリンダ装置13のワイヤ13bが下方に引っ張られてシリンダ本体13aが伸長されて、ハンド部10に粘性抵抗が付与される。一方、ハンド部10が操作されて、作業ハンドル10bが配設された側の端部が上方(図1においてy軸周りに時計方向)に揺動されると、シリンダ装置14のワイヤ14bが下方に引っ張られてシリンダ本体14aが伸長されて、同様に、ハンド部10に粘性抵抗が付与される。
【0040】
なお、本実施例のシリンダ装置13・14は、後述する制御部16に接続されている(図2参照)。シリンダ装置13・14は、粘性抵抗値が予め設定値として設定されているが、図示せぬアクチュエータ等が駆動されてシリンダ本体13a・14aの内部油圧が変更されて、粘性抵抗値が所定の値(設定値)となるように変更可能に構成されている。すなわち、シリンダ装置13・14においては、粘性抵抗値が設定値として設定されているが、ハンド部10を操作する作業者の操作力に応じてかかる設定値が変更されるのである。シリンダ装置13・14の粘性抵抗値の設定値変更については、詳細を後述する(図5参照)。
【0041】
力センサ15は、ハンド部10の作業ハンドル10bに配設されており、ハンド部10に対する作業者の操作力が検出される。具体的には、力センサ15は、圧力センサにより構成されており、絶対座標空間において、フリージョイント部12に対する六軸方向の操作力成分が検出される。具体的には、x軸方向、y軸方向、及びz軸方向のスラスト力と、対象物2のx軸周り(ピッチ角方向)、y軸周り(ロール角方向)、及びz軸周り(ヨー角方向)のトルクが検出される。
【0042】
なお、力センサ15は、制御部16に電気的に接続されており(図2参照)、作業者によってハンド部10に加えられた操作力(スラスト力、トルク)が検出されると、かかる検出結果が制御部16に電気出力される。特に、本実施例では、上述したように、シリンダ装置13・14によってハンド部10にはy軸周りの揺動方向に粘性抵抗が付与されるため、後述する制御部16にて、力センサ15によって検出されたz軸方向のスラスト力及びy軸周り(ロール角方向)のトルクに基づいてインピーダンス制御指令値が算出される(図4参照)。
【0043】
以上のように構成されるパワーアシスト装置1を用いて、対象物2を上下方向に移動させる際には、搬送ライン4の一側方に配置された作業者によってハンド部10の一端が上下方向(Z方向)へ揺動操作されることで、ハンド部10の操作に連動して上下駆動部11が受動的に上下方向に伸縮される。また、対象物2を前後方向に移動させる際には、作業者によってハンド部10の一端が前後方向(Y方向)に揺動操作されることで、ハンド部10の操作に連動して上下駆動部11が前後方向に移動される。
また、パワーアシスト装置1を用いて対象物2の取り付け作業を行う際には、作業者によってハンド部10の一端が三次元方向に揺動操作されることで、対象物2の三次元的な姿勢が調整される。
【0044】
次に、パワーアシスト装置1の制御部16について、以下に詳述する。
図2に示すように、制御部16は、各種処理が実行される図示せぬCPUや各種処理プログラム等が格納される記憶部としての図示せぬメモリ等とで構成されており、力センサ15により検出された操作力(スラスト力、トルク)が六軸方向の操作力成分に分解され、かかる対象物2のz軸方向のスラスト力又はy軸周りのトルクに応じた上下駆動部11に対するインピーダンス制御指令値を算出し、該インピーダンス制御指令値に基づいて上下駆動部11を駆動させるものである(図4参照)。
【0045】
制御部16には、上下駆動部11、シリンダ装置13、14、及び力センサ15が接続されている。制御部16には、力センサ15により検出された作業者の操作力に基づく電気信号が入力され、入力された操作力から上下駆動部11に対するインピーダンス制御指令値に基づく電気信号が上下駆動部11に出力される。また、シリンダ装置13・14には、制御部16から所定の粘性抵抗値となるようにシリンダ本体13a・14aを制御するための電気信号が出力される。
【0046】
制御部16のCPUは、力センサ15からの信号等が、図示せぬA/D変換回路によってデジタル化されて入力され、各種処理が実行されるように構成されている。制御部16のメモリは、EEPROMのような不揮発性のメモリが用いられ、CPUの処理に必要なプログラムや各種設定データ(粘性抵抗値の設定値等)や、その他の演算プログラム等が記憶されている。
【0047】
次に、本実施例のパワーアシスト装置1の制御方法について、以下に詳述する。
図4及び図5に示すように、上述したように構成されるパワーアシスト装置1の制御方法としては、具体的には、力センサ15によってハンド部10を操作する作業者の操作力を検出する操作力検出工程と、ハンド部10を操作する作業者の操作力に応じてシリンダ装置13・14の粘性抵抗値の設定値を変更して、シリンダ装置を制御するシリンダ装置制御工程と、操作力検出工程にて検出された操作力からインピーダンス制御指令値を算出するインピーダンス制御算出工程と、算出工程にて算出されたインピーダンス制御指令値を上下駆動部11に出力する出力工程等とを有する。
【0048】
操作力検出工程では、作業者によってハンド部10が任意の三次元方向に揺動されて、ハンド部10が所定方向に揺動された際に、ハンド部10を操作する作業者の操作力が検出される(S100)。具体的には、ハンド部10に配設された力センサ15によって、x軸方向、y軸方向、及びz軸方向のスラスト力と、対象物2のx軸周り(ピッチ角方向)、y軸周り(ロール角方向)、及びz軸周り(ヨー角方向)のトルクが検出され、制御部16に電気信号として出力される。制御部16では、入力された操作力から各操作力成分が抽出される。
【0049】
操作力検出工程では、作業者のハンド部10の操作意図が検出される。すなわち、力センサ15によって検出される操作力の内、例えば、y軸回りの顕著なトルクが検出されると、作業者がハンド部10を上下方向に揺動して姿勢を制御して位置決めしたいという操作意図を有していることを表している。また、z軸方向の顕著なスラスト力が検出されると、作業者がハンド部10を上下方向に移動させたいという操作意図を有していることを表している。
【0050】
シリンダ装置制御工程では、ハンド部10を操作する作業者の操作力に応じてシリンダ装置13・14の粘性抵抗値の設定値が変更されて、変更された粘性抵抗値の設定値となるようにシリンダ装置13・14が制御される(S110)。このシリンダ装置制御工程においては、上述した操作力検出工程にて検出された作業者の操作意図に応じてシリンダ装置13・14の制御が行われる。
【0051】
ところで、シリンダ装置13・14は、通常は、制御部16によって粘性抵抗値が基準値となるように制御されている。粘性抵抗値の基準値は、制御部16の図示せぬメモリに記憶されており、粘性抵抗値の設定値が変更されると上書きして格納される。また、予めスラスト力やトルク等に応じた粘性抵抗値の設定値の変更量が定量的に決められている。
【0052】
図5に示すように、ハンド部10を上下方向に移動させる場合について考えると、力センサ15によってハンド部10においてz軸方向であって作業ハンドル10bが設けられた一端を上方に揺動させる方向のスラスト力が検出されると(S111)、作業者がハンド部10を上昇させる意図があると判定されて、シリンダ装置13・14の粘性抵抗値の設定値が変更される(S112)。かかる場合には、シリンダ装置13・14の粘性抵抗値の設定値が高くなるように変更される。
【0053】
また、力センサ15によってハンド部10においてz軸方向であって作業ハンドル10bが設けられた一端を下方に揺動させる方向のスラスト力が検出されると(S113)、作業者がハンド部10を下降させる意図があると判定されて、シリンダ装置13・14の粘性抵抗値の設定値が変更される(S114)。かかる場合には、シリンダ装置13・14の粘性抵抗値の設定値が低くなるように変更される。
【0054】
力センサ15にてz軸方向のいずれの方向のスラスト力が検出されない場合には(S115)、作業者は上下方向へハンド部10を移動させる意図がないものと判定されて、シリンダ装置13・14の粘性抵抗値の設定値は変更されない。
【0055】
そして、以上のようにして粘性抵抗の設定値が変更等された後に、各シリンダ装置13・14において、制御部16によって図示せぬアクチュエータ等が駆動されてシリンダ本体13a・14aの内部油圧が変更され、粘性抵抗値が設定値となるように制御される。このようにシリンダ装置13・14が制御されることで、作業者がハンド部2を上下方向に移動させる際には、ハンド部10の揺動方向に効果的に粘性抵抗が作用して、ハンド部10の操作性が向上されるのである。
【0056】
なお、ハンド部10を上下方向に揺動させて、対象物2の姿勢を三次元方向に位置決めさせる場合についても同様である。かかる場合には、力センサ15によってy軸周りのトルクが検出される。また、各シリンダ装置13・14の粘性抵抗値の基準値は、同時に一方を所定量上げて、他方を所定量下げるように制御されることで、ハンド部10の揺動操作及び、対象物2の位置決め操作が容易となる。
【0057】
図4に戻って、インピーダンス制御算出工程では、操作力検出工程にて検出された操作力から上下駆動部11に対するインピーダンス制御指令値が算出される(S120)。具体的には、本実施例の上下駆動部11は、上下方向に駆動されるのみであるため、操作力検出工程にて検出された操作力の内、y軸周りのトルクとz軸方向のスラスト力とが分解されて抽出され、かかるトルクとスラスト力に基づいて、インピーダンス制御指令値が算出される。なお、インピーダンス制御指令値は、公知のインピーダンス制御則に則して、対象物2の質量や、パワーアシスト装置1の構成部材の粘性抵抗・摩擦抵抗等から算出される。
【0058】
そして、インピーダンス制御算出工程にて算出されたインピーダンス制御指令値が、制御部16から上下駆動部11に出力されることで(S130)、上下駆動部11がインピーダンス制御される。
【0059】
以上のように、本実施例のパワーアシスト装置1は、作業者の操作に協動して対象物2を移動可能なパワーアシスト装置1であって、対象物2を把持するハンド部10と、ハンド部10を所定方向に駆動させる上下駆動部11と、上下駆動部11に対してハンド部10を任意の三次元方向に揺動自在に連結させるフリージョイント部12と、ハンド部10に対してy軸周りの揺動方向に粘性抵抗を付与するシリンダ装置13・14と、ハンド部10を操作する作業者の操作力を検出する力センサ15と、力センサ15により検出された操作力から上下駆動部11に対するインピーダンス制御指令値を算出し、該インピーダンス制御指令値に基づいて上下駆動部11を駆動させる制御部16とを具備してなるため、作業者の操作に対する応答性に優れ、対象物2の移動や取り付け作業の効率を向上させることができる。
【0060】
すなわち、本実施例のパワーアシスト装置1では、フリージョイント部12によって揺動自在に指示されたハンド部10に対して、その揺動方向に粘性抵抗を付与するシリンダ装置13・14が設けられるため、力センサ15によって作業者の操作力の検出することができる。このように、作業者の操作力を検出することで、上下駆動部11のインピーダンス制御が可能となり、作業者のハンド部10の操作に対する応答性を向上できるのである。また、作業者において操作意図に応じてハンド部10を操作することができるため、対象物2の移動や取り付け作業時のハンド部10の操作性、作業効率を向上できるのである。
【0061】
特に、本実施例では、制御部16は、力センサ15により検出された操作力を所定方向の操作力成分に分解し、各操作力成分に応じたインピーダンス制御指令値を算出するため、作業者の操作意図に応じた制御が可能となり、対象物2の移動や取り付け作業時のハンド部10の操作性をより向上できる。
【0062】
また、本実施例では、シリンダ装置13・14は、粘性抵抗値が可変に構成され、制御部16は、ハンド部10を操作する作業者の操作力に応じて粘性抵抗値を変更してシリンダ装置13・14が制御されるため、作業者の操作意図に応じてシリンダ装置が制御されることで、作業者ごとの操作力の違いに対応することができ、ハンド部10を操作する作業者の操作性をより向上できるとともに、上下駆動部11に対する負荷を軽減することができる。
【0063】
なお、本実施例のパワーアシスト装置1の構成及びその制御方法は、上述した実施例に限定されない。以下の実施例では、上述した実施例を共通する部材・構成についての説明は省略する。
【0064】
すなわち、図6に示す別実施例のように、パワーアシスト装置1の制御部16において、ハンド部10に付与される外力が予め設定された閾値より大きい場合に、操作力に外力を加算してインピーダンス制御指令値を算出するように構成されてもよい。具体的には、かかる制御部16によって、パワーアシスト装置1は次のように制御される。
【0065】
まず、上述した実施例のように、力センサ15によって作業者によってハンド部10が所定方向に揺動された際に、ハンド部10を操作する作業者の操作力が検出される(S200)。このとき、本実施例ではさらに力センサ15に加えられた操作力以外の外力が検出される(S210)。ここで、外力とは、例えば、粘性抵抗による力やトルクのことをいい、具体的には、ハンド部10を揺動操作する際にシリンダ装置13・14により付与される粘性抵抗以外の力(抵抗力)のことである。本実施例では、かかる外力は、力センサ15により検出される操作力の異常値や制御部16によって検出される粘性抵抗値(の異常値)などに基づいて検出される。
【0066】
次いで、ハンド部10に付与された外力が所定の閾値内にあるか否かが判定される。具体的には、上述した外力がシリンダ装置13・14の粘性抵抗値の異常に起因するものである場合に、シリンダ装置13・14の平常時の静荷重(基準値)に対する外力の変動分(偏差)が算出され(S220)、かかる変動分が予め定められた閾値にあるか否かが判定される(S230)。その結果、変動分が閾値内にないと判定された場合には、かかる外力の影響で力センサ15によって操作力が正しく反映されていないため、検出された操作力に変動分が加算して考慮されて(S240)、インピーダンス制御指令値が算出される(S250)。一方、変動分が閾値内にあると判定された場合には、外力は無視できる範囲の測定誤差やノイズであるとして、上述した力センサ15によって検出された操作力がそのまま以降の工程(図4参照)で使用される。そして、算出されたインピーダンス制御指令値が上下駆動部11に出力されて(S260)、インピーダンス制御が実行される。
【0067】
このように、本実施例のパワーアシスト装置1のように、制御部16において、ハンド部10に付与される外力が予め設定された閾値より大きい場合に、操作力に外力を加算してインピーダンス制御指令値を算出するように構成されることで、粘性抵抗に加えてハンド部10に作用する外力を考慮することで、使用環境や使用状態の変化による影響に対応して制御することができる。例えば、シリンダ装置13・14が故障等した場合にハンド部10に粘性抵抗が付与されても、かかる故障等に基づく粘性抵抗の変化を外力として検出して、力センサ15により検出される操作力に反映させることで、力センサ15に実際に作用する操作力を正確に検出することができ、作業者の操作性を維持することができる。
【0068】
なお、制御部16において、検出された外力(の偏差)が所定の閾値より大きいと判定された場合に、パワーアシスト装置の何れかの構成部材が故障したと判断して、ハンド部10の操作や上下駆動部11の駆動を停止させるように制御されてもよい。
【0069】
さらに、別実施例のパワーアシスト装置としては、駆動手段としては、上述した実施例のように上下方向にのみ駆動可能な上下駆動部11として構造とされているが(図1参照)、かかる駆動手段の構成としては、これに特に限定されない。駆動手段の構成としては、少なくともハンド部10に把持された対象物2を所定方向に移動可能に構成されればよく、例えば、多関節型のロボットアーム構造とすることで、上下方向(Z方向)のみならず、前後方向(Y方向)や左右方向(X方向)にも伸縮可能に構成されてもよい。
【0070】
また、粘性抵抗手段としては、上述した実施例では一対のシリンダ装置13・14により構成されるが(図1参照)、かかる粘性抵抗手段の構成としては、一定圧に制御されたシリンダ構造であれば、これに特に限定されない。例えば、粘性抵抗手段としてロータリダンパなどを用いることができる。また、シリンダ構造としても、シリンダ本体がワイヤを介してハンド部10に接続される構成に限定されず、ハンド部10に粘性抵抗を付与することができる構成であればよい。
【0071】
さらに、粘性抵抗手段としては、上述した実施例では、ハンド部10のy軸周りの揺動方向(ロール角方向)に粘性抵抗が付与される構成であったが、かかる粘性抵抗が付与される方向としては、その他の方向(ハンド部10の揺動方向やスラスト方向)にも付与されるような構成とされてもよい。
【0072】
また、操作力手段としては、上述した実施例のように、圧力センサが用いられる他に、ストレインゲージ(ひずみセンサ)やロードセル(荷重センサ)などが用いられる。特に、操作力手段として、ロードセルが用いられる場合には、好ましくは、ハンド部10の揺動中心であるフリージョイント部12に設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施例に係るパワーアシスト装置の全体的な構成を示した正面図。
【図2】制御部の構成を示したブロック図。
【図3】絶対座標空間での対象物の変位角度を示した図。
【図4】パワーアシスト装置の制御方法を示したフローチャート。
【図5】同じくパワーアシスト装置の制御方法を示したフローチャート。
【図6】別実施例のパワーアシスト装置の制御方法を示したフローチャート。
【符号の説明】
【0074】
1 パワーアシスト装置
2 対象物
3 ターゲット
10 ハンド部(把持手段)
11 上下駆動部(駆動手段)
12 フリージョイント部(回転軸部)
13、14 シリンダ装置(粘性抵抗手段)
15 力センサ(操作力検出手段)
16 制御部(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者の操作に協動して対象物を移動可能なパワーアシスト装置であって、
対象物を把持する把持手段と、
前記把持手段を所定方向に駆動させる駆動手段と、
前記駆動手段に対して前記把持手段を任意の三次元方向に揺動自在に連結させる回転軸部と、
前記把持手段に対して所定の方向に粘性抵抗を付与する粘性抵抗手段と、
前記把持手段を操作する作業者の操作力を検出する操作力検出手段と、
前記操作力検出手段により検出された操作力から前記駆動手段に対するインピーダンス制御指令値を算出し、該インピーダンス制御指令値に基づいて前記駆動手段を駆動させる制御手段とを具備してなることを特徴とするパワーアシスト装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記操作力検出手段により検出された操作力を所定方向の操作力成分に分解し、該操作力成分に応じたインピーダンス制御指令値を算出することを特徴とする請求項1に記載のパワーアシスト装置。
【請求項3】
前記粘性抵抗手段は、粘性抵抗値が可変に構成され、
前記制御手段は、前記把持手段を操作する作業者の操作力に応じて粘性抵抗値を変更して前記粘性抵抗手段を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーアシスト装置、
【請求項4】
前記制御手段は、前記把持手段に付与される外力が予め設定された閾値より大きい場合に、前記操作力に外力を加算してインピーダンス制御指令値を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のパワーアシスト装置。
【請求項5】
対象物を把持する把持手段と、
前記把持手段を所定方向に駆動させる駆動手段と、
前記駆動手段に対して前記把持手段を任意の三次元方向に揺動自在に連結させる回転軸部と、
前記把持手段に対して所定の揺動方向に粘性抵抗を付与する粘性抵抗手段と、
前記把持手段を操作する作業者の操作力を検出する操作力検出手段とを備え、作業者の操作に協動して対象物を移動可能なパワーアシスト装置の制御方法であって、
前記操作力検出手段により検出された操作力から前記駆動手段に対するインピーダンス制御指令値を算出し、該インピーダンス制御指令値に基づいて前記駆動手段を駆動させる制御工程を有してなることを特徴とするパワーアシスト装置の制御方法。
【請求項6】
前記制御工程は、前記操作力検出手段により検出された操作力を所定方向の操作力成分に分解し、該操作力成分に応じたインピーダンス制御指令値を算出する工程を有することを特徴とする請求項5に記載のパワーアシスト装置の制御方法。
【請求項7】
前記制御工程は、前記把持手段を操作する作業者の操作力に応じて、粘性抵抗値が可変に構成された粘性抵抗手段の粘性抵抗値を変更する工程を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のパワーアシスト装置の制御方法。
【請求項8】
前記制御工程は、前記把持手段に付与される外力が予め設定された閾値内にあるか否かを判定する工程と、前記操作力に外力を加算してインピーダンス制御指令値を算出する工程とを有することを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載のパワーアシスト装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−34758(P2009−34758A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200206(P2007−200206)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】