説明

パンチ、およびパンチの製造方法

【課題】被加工材をパンチにより打ち込む際、およびその後に被加工材からパンチを引き離す際に、被加工材とパンチとの間に発生する摩擦抵抗を低減することにより、コーティング膜の剥離が抑制され、パンチの耐久性を向上させる。
【解決手段】基材2の表面粗さを0.15μm以上かつ0.30μm以下とするので、基材2の表面に形成されたコーティング膜5の表面粗さを小さくすることが可能となる。このため、塑性加工を施す際に、被加工材とパンチ12との間に発生する摩擦抵抗を低減でき、パンチ12の耐久性を向上させることができる。このようにして、パンチ12にクラックまたはヒビが発生し、最終的にはパンチ12が折れてしまうまでの耐用回数を増やし、パンチ12を長く持ち堪えさせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性加工に用いられるパンチ、およびパンチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属などの被加工材を成形する方法として、金型を用いた鍛造などの塑性加工がある。
塑性加工の一例として、ニッケル製の被加工材に、パンチを備えた金型を押え付けることにより、パンチに倣った形状としての溝状窪部および貫通部などを形成する方法が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
そして、パンチの耐久性を向上させるために、パンチの表面に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)あるいは窒化チタンなどからなるコーティング膜を、電子ビーム蒸着法またはスパッタリングなどの方法により、形成しているものもある(たとえば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−98672号公報(13頁〜15頁、図8〜図11)
【特許文献2】特開2006−341551号公報(7頁〜10頁、図5〜図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の塑性加工においては、被加工材をパンチにより打ち込む際、あるいは打ち込んだ後で被加工材からパンチを引き離す際に、被加工材とパンチとの間に発生する摩擦抵抗などにより、コーティング膜が剥離してしまうことがある。そして、このコーティング膜の剥離により、パンチの耐久性が失われ、パンチにクラックまたはヒビが発生して、最終的にはパンチが折れてしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものである。以下の形態または適用例により実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかるパンチは、基材と、前記基材の表面に形成されたコーティング膜とを備え、前記基材の表面粗さは、0.15μm以上かつ0.30μm以下であることを要旨とする。
【0007】
これによれば、基材の表面粗さが0.15μm以上かつ0.30μm以下であるので、基材の表面に形成されたコーティング膜の表面粗さを小さくすることが可能となる。このため、塑性加工を施す際に、被加工材とパンチとの間に発生する摩擦抵抗を低減でき、パンチの耐久性を向上させることができる。このようにして、パンチにクラックまたはヒビが発生し、最終的にはパンチが折れてしまうまでの耐用回数を増やし、パンチを長く持ち堪えさせることができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかるパンチにおいて、前記コーティング膜は、前記基材の表面に形成されてVIA属に属する元素またはシリコンからなる中間層と、前記中間層の表面に形成された硬質層とを備えることが好ましい。
【0009】
これによれば、基材と硬質層のいずれにも密着性の良いVIA属に属する元素またはシリコンからなる中間層が形成されるので、基材と硬質層との密着力を強くすることが可能となる。このため、中間層および硬質層を備えるコーティング膜が、基材から剥れにくくなり、パンチの耐久性を向上させることができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかるパンチにおいて、前記基材は窒化粉末ハイスで形成され、前記硬質層はアモルファスのダイヤモンドライクカーボンで形成されていることが好ましい。
【0011】
これによれば、パンチは、窒化粉末ハイスで形成されている基材の表面に、アモルファスのダイヤモンドライクカーボンで形成されているコーティング膜を備えているので、基材の表面にコーティング膜を形成しない場合に比べて、パンチの表面の摩擦係数を小さくすることができる。このため、塑性加工を施す際に、パンチと被加工材との間の摩擦抵抗を低減することができる。これにより、パンチの耐久性をより向上させることができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかるパンチにおいて、前記中間層はクロムで形成されていることが好ましい。
【0013】
これによれば、中間層が基材の窒化粉末ハイスおよび硬質層のダイヤモンドライクカーボンのいずれにも密着性が最適であるクロムで形成されているので、基材からコーティング膜が剥れにくくなり、パンチの耐久性をより一層向上させることができる。
【0014】
[適用例5]本適用例にかかるパンチの製造方法は、ワイヤー放電加工により基材を形成するWEDM工程と、前記WEDM工程後に、プロファイルグラインダ加工により前記基材の表面粗さを0.15μm以上かつ0.30μm以下にするPG工程と、前記PG工程、前記基材の表面にコーティング膜を形成するコーティング工程とを備えることを要旨とする。
【0015】
これによれば、WEDM工程で基材の概略形状を形成した後に、PG工程で基材の表面粗さを小さく0.15μm以上かつ0.30μm以下とするので、WEDM工程により基材の概略形状の表面に残存する変質層が除去される。これにより、この変質層の剥離によるコーティング膜の剥れが抑制され、基材とコーティング膜との密着力を強くすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下の実施形態では、塑性加工の一種である冷間鍛造を一例として挙げて、パンチについて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態にかかるパンチ12を備えた金型1の概略構成図である。図2は、本実施形態にかかるパンチ12を示す部分拡大図である。図3は、本実施形態にかかるパンチ12の構成を示す概略構成図である。
【0018】
まず、パンチ12を備えた金型1について、図1を参照して説明する。図1(a)は、概略正面図であり、(b)は、概略側面図である。
【0019】
図1に示すように、被加工材であるフレーム基板50に冷間鍛造を施す金型1は、上型10と下型20とを備えている。
【0020】
上型10は、ベース部11と複数のパンチ12とを備えている。下型20の、上型10に対向する面は、平面に図示したが、凹部または凸部を形成していてもよい。上型10および下型20は、たとえば窒化粉末ハイスからなり、本実施形態ではコベルコ製窒化粉末ハイスを用いる。
【0021】
以下、金型1を用いた冷間鍛造の概略について、図1を参照して説明する。
図1に示すように、フレーム基板50を、下型20に配置する。そして、実線で示す上型10を、二点鎖線で示す位置まで(上型10’)に移動させて、下型20およびフレーム基板50に押し当てることで、フレーム基板50に塑性加工を施す。このようにして、上型10と下型20とによりフレーム基板50を挟み込んで、パンチ12により塑性加工された溝または貫通孔などを、フレーム基板50に形成する。ここでは、上型10を移動させて塑性加工を施すとしたが、下型20を移動させる、または上型10および下型20を近づけるように移動させるとしてもよい。また、フレーム基板50に押し当てるとしたが、打ち抜くとしてもよい。
【0022】
次に、パンチ12について、図2を参照して説明する。図2(a)は、拡大正面図であり、(b)は、拡大側面図である。
図2に示すように、パンチ12は、ベース部11から突出した角柱形状を成し、この角柱の先端はテーパー形状を成した角錐形状である。なお、パンチ12の形状は、円柱がベース部11から突出した形状を有しているとしてもよく、この円柱の先端はテーパー形状を成した円錐形状である。そして、図2ではその先端を尖った形状としているが、先端は平面または曲面であってもよい。また、パンチ12は、複数形成としたが、単数形成であってもよい。
【0023】
以下、パンチ12の構成について、図3を参照して説明する。
図3に示すように、パンチ12は、基材2と、コーティング膜5とを備えている。コーティング膜5の構成は、図3(a)および図3(b)に示す2通りある。
【0024】
図3(a)に示すように、コーティング膜5は、基材2の表面に硬質層4が形成された1層構成である。
図3(b)に示すように、コーティング膜5は、基材2の表面に形成された中間層3と、中間層3の表面に形成された硬質層4とを備えた2層構成である。
【0025】
基材2の形状は、上述のパンチ12と同様に、角柱または円柱であって、その先端はテーパー形状になっている。基材2の表面粗さ(Ra)は、0.15μm以上かつ0.30μm以下である。
【0026】
中間層3は、VIA属に属する元素、またはシリコン(Si)で形成されている。具体的に、VIA属に属する元素は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、およびシーボギリウム(Sg)である。中間層3の厚さは、1μmである。
【0027】
硬質層4は、アモルファスのダイヤモンドライクカーボン(以下、「DLC」と記す)あるいは窒化チタンで形成されている。硬質層4の厚さは、2μmである。
【0028】
以下、ベース部11およびパンチ12の形成方法の一例について説明する。
まず、WEDM工程において、窒化粉末ハイスをワイヤー放電加工(以下、「WEDM加工」と記す)を施すことにより、ベース部11および基材2の概略形状を形成する。
その後、PG工程において、プロファイルグラインダ加工(以下、「PG加工」と記す)を施すことにより、WEDM加工で残存された変質層を除去して、ベース部11および基材2を形成する。これにより、金型1を得る。基材2の表面粗さは、3μm程度の鏡面に仕上げる。さらに、PG加工の速度を遅くし、単位時間あたりのPG加工量を少なくすることにより、0.15μm以上かつ0.30μm以下の鏡面に仕上げる。
【0029】
次に、コーティング膜5を、基材2の表面に形成する。コーティング膜5は、電子ビーム蒸着法により形成される。
【0030】
以下、図3(a)に示す1層構成のコーティング膜5を形成する方法について説明する。コーティング膜5としての硬質層4を、基材2の表面に形成する。硬質層4は、電子ビーム蒸着法により形成される。具体的には、DLCで形成されているターゲットに電子ビームを照射し、ターゲットを加熱し蒸気化することにより、中間層3の表面に、DLCで形成されている硬質層4を備える。
【0031】
次に、図3(b)に示す2層構成のコーティング膜5を形成する方法について説明する。まず、中間層3を、基材2の表面に形成する。中間層3は、電子ビーム蒸着法により形成され、上述の硬質層4を形成する方法と同様である。具体的には、シリコン(Si)またはクロム(Cr)で形成されているターゲットに電子ビームを照射して、ターゲットを加熱し蒸気化することにより、基材2の表面に、シリコン(Si)またはクロム(Cr)で形成されている中間層3を備える。
【0032】
そして、硬質層4を、中間層3の表面に形成する。硬質層4は、電子ビーム蒸着法により形成され、上述の硬質層4を形成する方法と同様である。具体的には、DLCで形成されているターゲットに電子ビームを照射し、ターゲットを加熱し蒸気化することにより、中間層3の表面に、DLCで形成されている硬質層4を備える。
【0033】
なお、コーティング膜5の形成方法は、電子ビーム蒸着法に限らず、スパッタリングなどの方法により形成するとしてもよい。
【0034】
以下に、本実施形態の実施例1および実施例2について、図3を参照して説明する。なお、同様の加工方法および構成については、説明を一部省略し、相違する点を中心に説明する。
【実施例1】
【0035】
実施例1のパンチ12は、コーティング膜5の構成が、図3(a)に示す1層構成である。コーティング膜5は、DLCで形成されている硬質層4である。
【0036】
基材2は、WEDM加工およびPG加工により形成される。PG加工の加工速度を遅くし、単位時間あたりのPG加工量を少なくすることにより、基材2の表面粗さを、0.15μm以上かつ0.30μm以下にする。
【0037】
コーティング膜5としての硬質層4は、電子ビーム蒸着法により形成されている。硬質層4はDLCで形成されている。
【0038】
これによれば、基材2の表面粗さを小さく0.15μm以上かつ0.30μm以下とするので、基材2の表面に形成されたコーティング膜5の表面粗さを小さくすることが可能となる。このため、塑性加工を施す際に、フレーム基板50とパンチ12との間に発生する摩擦抵抗を低減でき、パンチ12の耐久性を向上させることができる。このようにして、パンチ12にクラックまたはヒビが発生し、最終的にはパンチ12が折れてしまうまでの耐用回数を増やし、パンチ12を長く持ち堪えさせることができる。
【実施例2】
【0039】
実施例2のパンチ12は、実施例1と同様に、基材2の表面粗さが0.15μm以上かつ0.30μm以下である。
【0040】
実施例2のパンチ12が、実施例1と相違する点は、コーティング膜5の構成であり、図3(b)に示す2層構成である。コーティング膜5は、クロム(Cr)で形成されている中間層3、およびDLCで形成されている硬質層4を備えている。
【0041】
これによれば、基材2と硬質層4とのいずれにも密着性の良い中間層3が形成されるので、基材2と硬質層4との密着力を強くすることが可能となる。このため、中間層3および硬質層4を備える2層構成のコーティング膜5が、基材2から剥れにくくなり、パンチ12の耐久性を向上させることができる。
【0042】
以下に、比較例1〜比較例4について、図3を参照して説明する。
(比較例1)
【0043】
比較例1のパンチ12が、実施例1および実施例2と相違する点は、パンチ12の構成および基材2の加工方法である。
【0044】
比較例1のパンチ12の構成は、図3(a)および図3(b)に示すコーティング膜5を備えない。
そして、基材2は、WEDM加工により形成されるが、PG加工は用いない。基材2の表面粗さ(Ra)は、0.30μmより大きい値であり、粗い。
(比較例2)
【0045】
比較例2のパンチ12は、比較例1と同様に、コーティング膜5を備えない。
比較例2のパンチ12が、比較例1と相違する点は、基材2の加工方法である。WEDM加工の後、PG加工を施すことである。そして、基材2の表面粗さは、3μm程度である。
(比較例3)
【0046】
比較例3のパンチ12は、比較例1と同様に、WEDM加工により形成されるが、PG加工は用いない。
比較例3のパンチ12が、比較例1と相違する点は、その構成である。比較例3のパンチ12の構成は、基材2の表面に、コーティング膜5としてDLCで形成されている硬質層4を備え、中間層3を備えていない点である。
(比較例4)
【0047】
比較例4のパンチ12は、比較例2と同様に、WEDM加工およびPG加工により形成される。基材2の表面粗さは、3μm程度である。
比較例4のパンチ12が、比較例2と相違する点は、その構成である。比較例4のパンチ12は、基材2の表面に、コーティング膜5としてDLCで形成されている硬質層4を備え、中間層3を備えていない点である。
【0048】
ここで、上述の実施例1および実施例2ならびに比較例1〜比較例4のパンチについて、以下に示す評価方法により評価を行った。評価項目は、パンチの変形具合とした。
以下、評価項目について、変形具合評価方法を説明する。
【0049】
まず、パンチ12を備えた金型1を、プレス機に配置する。被加工材であるフレーム基板50を、金型1の下型20上に配置する。そして、プレス機により金型1の上型10を、下型20およびフレーム基板50に押し当てることで、フレーム基板50に塑性加工を施す。ここで、フレーム基板50は塑性加工を1回施すごとに、次のフレーム基板50、つまり塑性加工されていないフレーム基板50に塑性加工を施す。そして、塑性加工を1回施すごとに、塑性加工の繰返しによるパンチの変形具合を目視により観察する。これを繰返し、パンチにクラックまたはヒビが発生するまでに、塑性加工を施した繰返し回数を記録し、比較評価した。この評価方法において、プレス機は、コマツ産機製80tonサーボプレス機を用いた。
【0050】
上述の評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
基材2の表面に中間層3と硬質層4とを形成していない比較例1および比較例2のパンチに対して、基材2の表面にコーティング膜5として硬質層4を形成した実施例1のパンチ12、ならびに基材2の表面に中間層3と中間層3の表面に硬質層4とを形成した実施例2のパンチ12は、塑性加工の繰返しによりパンチ12が変形するまでの繰返し回数が多く、変形防止が優れていることを確認することができる。
【0053】
WEDM加工された基材2の表面に硬質層4としてのDLCを形成し、中間層3を備えていない比較例3のパンチに対して、PG加工された基材2の表面にコーティング膜5として硬質層4を形成した実施例1のパンチ12、ならびにコーティング膜5として中間層3と硬質層4とを形成した実施例2のパンチ12は、塑性加工の繰返しによってパンチ12が変形するまでの繰返し回数が多く、変形防止が優れていることを確認することができる。
【0054】
PG加工により基材2の表面粗さを3μm程度とし、硬質層4としてのDLCを形成し、中間層3を備えていない比較例4のパンチに対して、PG加工により基材2の表面粗さを0.15μm以上かつ0.30μm以下とされた実施例1および実施例2のパンチ12は、塑性加工の繰返しによってパンチ12が変形するまでの繰返し回数が多く、変形防止が優れていることを確認することができる。
【0055】
このようにして、比較例1から比較例4のパンチに対して、実施例1および実施例2のパンチ12は、塑性加工の繰返しによってパンチが変形するまでの繰返し回数が多く、変形防止が優れていることを確認することができる。
【0056】
したがって、本実施形態によれば、基材2の表面粗さを小さく0.15μm以上かつ0.30μm以下とするので、基材2の表面に形成されたコーティング膜5の表面粗さを小さくすることが可能となる。このため、塑性加工を施す際に、フレーム基板50とパンチ12との間に発生する摩擦抵抗を低減でき、パンチ12の耐久性を向上させることができる。このようにして、パンチ12にクラックまたはヒビが発生し、最終的にはパンチ12が折れてしまうまでの耐用回数を増やし、パンチ12を長く持ち堪えさせることができる。
【0057】
また、基材2と硬質層4とのいずれにも密着性の良い中間層3が形成されるので、基材2と硬質層4との密着力を強くすることが可能となる。このため、中間層3および硬質層4を備える2層構成のコーティング膜5が、基材2から剥れにくくなり、パンチ12の耐久性を向上させることができる。
【0058】
また、パンチ12は、窒化粉末ハイスで形成されている基材2の表面に、結晶粒界を有しないアモルファスのダイヤモンドライクカーボン(DLC)で形成されているコーティング膜5を備えているので、基材2の表面にコーティング膜を形成しない場合に比べて、パンチ12の表面の摩擦係数を小さくすることができる。このため、塑性加工を施す際に、パンチ12と被加工材であるフレーム基板50との間の摩擦抵抗を低減することができる。これにより、パンチ12の耐久性をより向上させることができる。
【0059】
また、基材2の窒化粉末ハイスおよび硬質層4のアモルファスのダイヤモンドライクカーボン(DLC)のいずれにも密着性の良いVIA属に属する元素またはシリコンから中間層3がなるので、基材2からコーティング膜5が剥れにくくなり、パンチ12の耐久性をさらに向上させることができる。
【0060】
また、基材2の窒化粉末ハイスおよび硬質層4のアモルファスのダイヤモンドライクカーボン(DLC)のいずれにも密着性が最適であるクロム(Cr)から中間層3がなるので、基材2からコーティング膜5が剥れにくくなり、パンチ12の耐久性をより一層向上させることができる。
【0061】
また、WEDM工程で基材2の概略形状を形成した後に、PG工程で基材2の表面粗さを小さく0.15μm以上かつ0.30μm以下とするので、WEDM加工により基材2の概略形状の表面に残存する変質層が除去される。これにより、この変質層の剥離によるコーティング膜5の剥れが抑制され、基材2とコーティング膜5との密着力を強くすることが可能となる。
【0062】
ここで、被加工材であるフレーム基板50に、溝または貫通孔などが形成された物品の用途としては、以下のようなものが挙げられる。
【0063】
たとえば、インクジェット式記録装置に搭載される液滴吐出ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド(以下、「記録ヘッド」と記す)に用いられる流路形成基板およびノズルプレートが一例として挙げられる。
【0064】
図4は、記録ヘッド100の要部断面図である。図4に示すように、記録ヘッド100は、流路形成基板およびノズルプレートを備えた流路ユニット103、ケース102、およびアクチュエータユニット105などを備えている。
【0065】
流路ユニット103は、封止板111、流路形成基板112、およびノズルプレート113を積層した状態で接着剤により接合して一体化することにより形成されている。封止板111は、たとえばステンレス鋼である。流路形成基板112は、ニッケルなどの金属である。ノズルプレート113は、たとえばステンレス鋼である。
【0066】
流路形成基板112は、共通インク室115と、インク供給口116と圧力室17とを備えている。ノズルプレート113は、ノズル開口118を備えている。
【0067】
そして、共通インク室115から、インク供給口116および圧力室117を通り、ノズル開口118に至るまでの一連のインク流路を構成している。圧力室117は、ノズル開口118の列設方向に対して直交する方向に細長い室として形成されている。また、共通インク室115は、インクカートリッジに挿入されたインク導入針側からのインクが導入される室である。そして、この共通インク室115に導入されたインクは、インク供給口116を通じて各圧力室117に分配供給される。
【0068】
なお、上記課題の少なくとも一部を解決できる範囲での変形、改良などは前述の実施形態に含まれるものである。
【0069】
たとえば、上述の実施例において、硬質層4は、DLCであるとしたが、窒化チタンであるとしてもよい。そして、中間層3は、VIA属に属する元素であるクロム(Cr)、またはシリコン(Si)としたが、クロム(Cr)以外のVIA属に属する元素である、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、およびシーボギリウム(Sg)としてもよい。
【0070】
また、上述の実施形態では、塑性加工の一種である冷間鍛造を一例として挙げて、パンチについて説明したが、熱間鍛造、剪断加工、または絞り加工などにおいても、同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本実施形態にかかるパンチを備えた金型の概略構成図。
【図2】本実施形態にかかるパンチを示す部分拡大図。
【図3】本実施形態にかかるパンチの構成を示す概略構成図。
【図4】記録ヘッドの要部断面図。
【符号の説明】
【0072】
1…金型、2…基材、3…中間層、4…硬質層、5…コーティング膜、10…上型、12…パンチ、11…ベース部、20…下型、50…フレーム基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に形成されたコーティング膜とを備え、
前記基材の表面粗さは、0.15μm以上かつ0.30μm以下であることを特徴とするパンチ。
【請求項2】
請求項1に記載のパンチであって、
前記コーティング膜は、
前記基材の表面に形成されてVIA属に属する元素またはシリコンからなる中間層と、
前記中間層の表面に形成された硬質層とを備えることを特徴とするパンチ。
【請求項3】
請求項2に記載のパンチであって、
前記基材は窒化粉末ハイスで形成され、
前記硬質層はアモルファスのダイヤモンドライクカーボンで形成されていることを特徴とするパンチ。
【請求項4】
請求項3に記載のパンチであって、
前記中間層はクロムで形成されていることを特徴とするパンチ。
【請求項5】
ワイヤー放電加工により基材を形成するWEDM工程と、
前記WEDM工程後に、プロファイルグラインダ加工により前記基材の表面粗さを0.15μm以上かつ0.30μm以下にするPG工程と、
前記PG工程後、前記基材の表面にコーティング膜を形成するコーティング工程とを備えることを特徴とするパンチの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−279592(P2009−279592A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131653(P2008−131653)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】