説明

ヒアルロン酸産生促進物質

【課題】ヒアルロン酸産生促進能を有する医薬品、医薬部外品、食品添加物及び機能性食品等に広く利用できる動物エキスを提供すること。
【解決手段】魚類、鳥類、哺乳類等の肉、骨、皮から得られた動物由来エキスとして、ヒアルロン酸産生促進剤を得る。得られたエキスは十分な食経験のある天然由来物であるため、安全面にも優れており、広範な用途に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸産生促進剤に関するものであり、このヒアルロン酸産生促進剤は、食品、医薬品、医薬品部外品、化粧品等に広く利用できるものである。より詳細には、本発明は、魚類、鳥類または哺乳類等の肉、骨または皮から得られた動物由来エキス、あるいはヒスチジン関連ジペプチド、クレアチンまたは乳酸のうち少なくとも一つ以上を活性成分として含むヒアルロン酸産生促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加齢や紫外線などによるシワ、シミ、皮膚の弾性低下といった老化症状の要因として、細胞機能低下、紫外線によるメラニン産生や色素沈着、ヒアルロン酸やコラーゲン等の真皮マトリックス成分の減少や変性、紫外線等による細胞の酸化傷害などが挙げられる。このような老化症状を防止・改善するために、様々な有効成分の検索及び配合検討が従来なされてきた。
【0003】
ヒアルロン酸産生の促進は、肌荒れの改善や皮膚の弾力・張り・ツヤの付与、シワやタルミの改善といった皮膚老化防止に有効である。ヒアルロン酸産生促進剤としては、ドクダミの抽出物(特許文献1参照)等の植物エキスあるいはコラーゲン(特許文献2参照)が知られており、これらの特許文献の発明は、それを利用して生体の自然な働きにより美容及び生体恒常性維持へと導く組成物を提供することを目的としている。しかし魚類、鳥類、哺乳類等の肉、骨、皮から得られた動物由来エキスについては、知られていない。
【0004】
また、上記エキスより得られた動物エキスには、ヒスチジン関連ジペプチドであるアンセリンまたはカルノシン、筋肉中に含まれるクレアチン等が含まれることは知られている(特許文献3、特許文献4、特許文献5参照)が、しかし、それら単体についてのヒアルロン酸産生促進能については、知られていない。
【0005】
また、上記エキスより得られた動物エキスには、乳酸が含まれていることが知られている。乳酸は、長期連用によって表皮のターンオーバーの改善、角層水分量の改善効果が報告されている。また、乳酸と植物由来抽出物を組み合わせることで、その効果を高めることが開示されている(特許文献6参照)。しかし、動物エキスからの乳酸自体、あるいは乳酸と動物エキス中のその他の成分としてのヒスチジン関連ジペプチドであるアンセリン、カルノシンとの組み合わせによるヒアルロン酸産生促進能については、知られていない。
【特許文献1】特開2001-114637号公報
【特許文献2】特開2004-123637号公報
【特許文献3】特開2001-57868号公報
【特許文献4】特開2000-198739号公報
【特許文献5】特開2002-338473号公報
【特許文献6】特開2004-75646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは前記従来技術に鑑みて、日常の食事を取りながらも簡単に摂取でき、かつ副作用のない安全なヒアルロン酸産生促進剤およびそれらを含有する食品、医薬品、医薬部外品、化粧品を提供すること目的としてヒアルロン酸生産促進作用を有する物質について検討した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、従来知られていなかった動物由来エキスに、予想外にもヒアルロン酸産生促進能を有し、安全性が高い有用なものであることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は動物エキスをヒアルロン酸産生促活性の有効成分として含有する食品、医薬品、医薬部外品、化粧品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、日常の食事を取りながらも簡単に摂取でき、かつ副作用のない安全なヒアルロン酸産生促進剤およびそれらを含有する食品、医薬品、医薬部外品、化粧品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にかかるヒアルロン酸生産促進剤の有効成分として動物由来エキスが用いられる。エキス抽出用の動物としては、魚類、鳥類及び哺乳類等を挙げることができる。抽出処理に用いる具体的な動物の部位としては、肉、骨及び皮を挙げることができる。動物由来エキスは、例えば、魚肉、鳥肉ないしは畜肉の処理廃液、もしくはそれらを濃縮したエキス、またはミンチ肉に水を加えて攪拌して得られる抽出液等の成分として得ることができる。骨や皮を利用する場合は、これらを適当な大きさに、裁断、粉砕、あるいは粉末化してから、抽出液での抽出処理を行う。その中には、通常植物には含まれないカルノシン、アンセリンなどのヒスチジン関連ジペプチド、クレアチンまたは乳酸が含まれている。ヒスチジン関連ジペプチドの含有割合は、通常固形分中に0.1〜70重量%である。クレアチンの含有割合は、通常固形分中に0.01〜20重量%である。または乳酸の含有割合は通常0.5〜30重量%である。
【0011】
このときの抽出温度は、30〜80℃が望ましく、ヒスチジン関連ジペプチドを固形分中に0.1〜70重量%を含む抽出条件であれば、抽出溶媒は水に限らず、酸、アルカリ、無機塩等の添加もしくは含水エタノール等の適当な有機溶媒を水に組み合わせた抽出溶媒を用いて抽出してもよい。その後、抽出液と残渣肉を分離し、好ましくは抽出液について脱塩操作を行う。得られた濃縮液を濃縮乾固することで当該のエキスを得ることができる。
【0012】
抽出液の形態として得られたエキスは、脱塩、濃縮操作等により更に高濃縮にされることが好ましい。さらに、温風乾燥、凍結乾燥や真空乾燥などの乾燥処理を行って、固体(粉末を含む)や半固体状としてもよい。これらの処理も、ヒスチジン関連ジペプチドの含有が維持されるようにして行われる。このようにして、安価で、ヒトに安全かつ有用な低分子生理活性物質を多く含むものである。これら低分子生理活性物質単体についてのヒアルロン酸産生促進効果は、知られていないが、皮膚賦活の源となり、ヒアルロン酸産生促進効果が期待されるものである。
【0013】
本発明にかかる動物由来エキスあるいはその中に含まれる成分を活性成分として、ヒアルロン酸生産促進剤を得ることができる。本発明にかかる動物由来エキスは、高い水溶性と、固体とした際の良好な分散性を有するので、固形、半固形、飲料、粉末状、顆粒状など形態を問わず利用することができるという特徴を有する。従って、本発明にかかるヒアルロン酸生産促進剤を含有する食品、医薬品、医薬部外品についても、固形、半固形、飲料、粉末状、顆粒状など各種の形態として提供できる。本発明にかかるヒアルロン酸生産促進剤は、肌荒れの改善や予防、皮膚の弾力・張り・ツヤの付与などに有効である。更に、本発明にかかるヒアルロン酸生産促進剤は、細胞機能低下、紫外線によるメラニン産生や色素沈着、ヒアルロン酸やコラーゲン等の真皮マトリックス成分の減少や変性、紫外線等による細胞の酸化傷害などが要因とされる、シワ、シミ、皮膚の弾性低下といった皮膚老化の改善や防止に有効である。従って、本発明には、ヒアルロン酸生産促進機能を有する動物エキスの、肌荒れの改善や予防、皮膚への弾力・張り・ツヤの付与、皮膚老化の改善、治療および/または防止のための活性成分としての使用の発明が含まれる。
【0014】
本発明にかかるヒアルロン酸産生促進能を有するエキス及びそれを食品、化粧品、医薬品または医薬部外品に含有させることで、皮膚の改善、美肌効果を得ることができる。
【0015】
上述した皮膚の各種症状の改善、治療及び/または予防剤として有用な本発明にかかるヒアルロン酸生産促進剤は、上述した動物由来エキスと、必要に応じて適宜賦形剤や希釈剤等の添加剤と混合して、例えば注射剤、経口用液剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、坐剤、軟膏、点鼻剤、貼付剤等の形態で製剤化する事により得ることができる。
【0016】
上記の各種製剤で用いられる添加剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、乳糖、デキストリン、デンプン類、メチルセルロース、脂肪酸グリセリド類、水、プロピレングリコール、マクロゴール類、アルコール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース類、ポピドン、ポリビニルアルコール、ステアリン酸カルシウム等を挙げる事ができる。この際、必要に応じて、着色剤、安定化剤、抗酸化剤、防腐剤、p H 調節剤、等張化剤、溶解補助剤及び/または無痛化剤等を添加する事ができる。顆粒剤、錠剤、またはカプセル剤は、コーティング基剤、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等によってコーティングする事もできる。これらの製剤は本発明で得られる動物エキスを固形分として、あるいは固形分に換算して、製剤全体に対して0.01重量%以上、好ましくは0.01〜70重量%の割合で含有する事ができる。
【0017】
製剤の調製に際しては必要に応じメントール、クエン酸及びその塩類、香料等の矯臭剤を用いる事ができる。更に、本発明で得られるヒアルロン酸産生促進剤は治療上有用な他の成分と併用する事もできる。
【0018】
本発明で得られる動物エキスを有効成分とする事を特徴とするヒアルロン酸産生促進剤は、ヒトを含めた哺乳動物に経口的または非経口的( 例えば経皮、静脈内、腹腔内等)に投与される。投与量は動物種、対象となる患者の人種、性別、症状、体重、年齢、血圧の程度、投与方法等によって異なり一概には言えないが、一般的なヒトの成人に経口投与する場合は、通常、1日につき体重1kgあたり0.1〜2000 mg、好ましくは1〜150 mgであり、これを通常1日1回または2〜3回に分けて投与する。しかしながらその投与量は症状の程度に応じ適宜選択する事ができる。
【0019】
本発明で得られる動物エキスは、優れたヒアルロン酸産生促進効果を示す。しかも該動物エキスは臭い、味、色に特異な厭味が認められない事から経口摂取が容易である。その為、本発明で得られる魚肉エキス、あるいは後述の組成物を、医薬品としてだけでなく、例えば、ゼリ− 、飴、顆粒菓、錠菓、飲料、スープ、麺、煎餅、和菓子、洋菓子、冷菓、焼き菓子、調味料等の食品に配合、添加し提供する事ができるし、化粧品、または、医薬部外品として提供することもできる。医薬部外品としては、例えば、育毛剤・養毛剤、脱毛剤、染毛剤、脱色剤、パーマネントウェーブ用剤、浴用剤、薬用化粧品・薬用石けん、薬用歯みがき類、清涼剤、腋臭防止剤、てんか粉類、などが挙げられる。
【0020】
これらの物品への動物エキスの含有量は、その物品の目的とする用途や機能に応じて設定すればよく、例えば、動物エキスを固形分として、あるいは固形分に換算して、物品全体に対して、0.01重量% 以上、好ましくは0.1〜70重量%の範囲から選択することができる。同様にヒアルロン酸産生促進剤であるアンセリン、カルノシン、クレアチン及び乳酸の少なくとも1種についても、固形分として、あるいは固形分に換算して、物品全体に対して、0.01重量%以上、好ましくは0.1〜70重量%の範囲から選択することができる。また、化粧品の場合は、各種の固体状、半固体状あるいは液体状の化粧品用の基材と、目的とする化粧効果を得るための有効成分に加えて、魚肉エキスあるいは組成物を用いて、ローション、クリーム、パウダー、乳液ゲルなどの各種形態の化粧品を構成することができる。
【0021】
次に実施例を説明する。
【実施例】
【0022】
次に実施例を示して本発明を実施するための形態について詳細に記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(シロサケの水抽出による魚肉エキスの調製)
ミンチ状としたシロサケ肉(830.4g)に対し、脱イオン水(2490 g)を加え、撹拌してエキス成分の抽出を行った。遠心分離により固液分離して得られた上清をセライトろ過した。得られた溶液(ろ液)を電気透析装置により脱塩処理した。電気透析処理した処理液をエバポレーターにより1/20に濃縮した後、活性炭を加え加熱した。常温まで放冷した後、ろ過した。得られた溶液をフリーズドライ(FD)により乾燥し、サケエキス(固体)を得た。
【0023】
(1.試験例)
(ヒアルロン酸産生促進試験および評価方法)
24穴プレートの各ウェルに、3.6×104(cells/mL)の濃度でヒト皮膚正常繊維芽細胞SF-TYを1mL播種した。5%FBS(牛胎児血清)含有培地を用い、37℃、5%CO2にて3日間培養し、0.5%FBS含有培地にて試料を調整し、この培地に交換した。更に、24時間培養後の培養上清をサンプルとして、ELISAにてヒアルロン酸量を定量した。同時に細胞数をカウントし、細胞あたりのヒアルロン酸量としても評価した。尚、陰性対照として試料無添加培地を用いた。データに関しては細胞数無考慮を採用した。試料として、本発明の動物エキスは試験容器中に最終濃度50μg/mLとなるよう添加した。
【0024】
「試料」
本試験の試料として、製造例1にて得られたサケ由来エキスおよび同様にして得られるカツオ、チキン由来エキスを調製し試験に供した。また、その中に含まれるアンセリン、カルノシン、クレアチン、乳酸の各物質についても同濃度で試験に供した。
【0025】
(定量方法)
(アンセリン、カルノシンの定量方法)
HPLC:Alliance 2965(Waters)
カラム:資生堂Capcell Pak C18 ODS (150 mm×4.6 mm I.D., 5μm), 30℃
溶媒:200mM りん酸二水素アンモニウム、100mM ペンタンスルホン酸ナトリウム、pH2.0(HClで調整)、4% アセトニトリル
流速:0.8ml/min
検出:PDA 220nm
インジェクション:10μl
分析時間:15分
試料濃度:500ppm(n=3)、
標準物質(アンセリン、カルノシン):6.25, 12.5, 25, 50, 100, 200 ppm
(クレアチン、クレアチニン定量方法)
使用機器:Waters Alliance 2695/PDA2996 (Waters)
カラム:XTerra(R) MS C18 3.5μm 4.6x100mm (Waters) 、37℃
使用溶媒:アセトニトリル:蒸留水(0.1 %ヘプタフルオロ酪酸)
グラジエント:0→5分 (5:95) →10分 (50:50) →15分 (5:95) →30分 (5:95)
流速:0.5 mL/min
分析時間:20分
注入量:10 μL
検出波長:210 nm
試料濃度:1000ppm(n=3)、
標準物質(クレアチン):10, 20, 40, 60, 100, 200, 400, 600 ,1000 ppm
(乳酸の定量法)
試料溶液:
アンセリン含有サケエキスの5000ppm水溶液(5mL)を、予めメタノール10mL及び水10mLを通液して平衡化したSep-Pak cartridge(C18plus、Waters)に供した。素通りした液をメンブレンフィルター(φ0.45mm、Millipore)にてろ過したものをサンプル溶液とし、下記条件にてHPLC分析を行った。
使用機器:Waters Alliance 2695 / PDA2998 (Waters)
カラム:IC-Sep ICE-ORH-081 φ6.5×300mm (Transgenomic)、35℃
使用溶媒:0.01M硫酸
流速:0.5 mL/分
分析時間:20分
注入量:10 μL
検出波長:210 nm
標準物質:DL-乳酸カルシウム(それぞれ200ppm)。
【0026】
(試験結果)
図1の通り、本発明の各種動物由来エキスは、ヒアルロン酸の産生を促進する作用を有することが確認できた。また、図2の通り動物由来エキス中に含まれるアンセリン、カルノシン、クレアチン、乳酸の各物質についてもヒアルロン酸の産生を促進する作用を有することが確認された。また、図1、図2の結果から、動物由来エキス中に含まれるアンセリン、カルノシン、クレアチン、乳酸もしくはエキス中の他の成分が相乗的に効果を発揮していることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
上記のように、動物由来エキスをヒト皮膚線維芽細胞に作用させることにより、ヒアルロン酸産生促進効果が認められた。また、それらに含まれるアンセリン、クレアチン、乳酸にもヒアルロン酸産生能がはじめて見いだされた。このことから、該動物エキスは皮膚改善の治療に有用であるとともに、上記のような有用な作用を有する健康食品や特定保健用食品や機能性食品としての利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ヒアルロン酸産生促進率を示すグラフである。
【図2】ヒアルロン酸産生促進率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンセリン、カルノシン、クレアチン及び乳酸の少なくとも1種を有効成分として含有するヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項2】
魚類、鳥類または哺乳類の肉、骨または皮から得られ、アンセリン、カルノシン、クレアチン及び乳酸の少なくとも1種を含むエキスを含有する請求項1に記載のヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項3】
魚類、鳥類または哺乳類の肉、骨または皮から得られ、アンセリン、カルノシン、クレアチン及び乳酸の少なくとも1種を含むエキスからなる請求項1に記載のヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のヒアルロン酸産生促進剤が添加されてなることを特徴とする食品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のヒアルロン酸産生促進剤が添加されてなることを特徴とする化粧品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−120564(P2009−120564A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297952(P2007−297952)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000233620)株式会社マルハニチロ食品 (34)
【Fターム(参考)】