説明

ピエゾ抵抗係数の測定方法

【課題】本発明は、試料を短冊状に切り出すことなく、チップ上に形成された多くのデバイスのピエゾ抵抗係数を測定することが可能なピエゾ抵抗係数の測定方法を提供する。
【解決手段】本発明は、基板上に形成されたデバイスのピエゾ抵抗係数を測定する方法である。本発明は、少なくともチップサイズ以上の試料を切り出し、試料に対し四点曲げを行った際、試料の表面の応力を測定し、抵抗値の変化率を測定し、測定した応力と、測定した抵抗値の変化率とに基づいて、所定の関係より素子のピエゾ抵抗係数を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ抵抗係数の測定方法に係る発明であって、特に、四点曲げによるピエゾ抵抗係数の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSI等のチップをプラスチックパッケージに封入する際、パッケージ材料が収縮することによって内部のチップに圧縮応力が発生する。チップに圧縮応力がかかるとチップ上に形成されたMOSトランジスタの電気特性が変化することが知られている。
【0003】
パッケージ材料の収縮によって発生する応力の大きさは、チップ上の拡散層で形成した応力センサを用いて測定することができる。この種の応力センサでは、パッケージ前後の抵抗値の変化を測定し、当該抵抗値の変化から応力値を算出する。但し、測定された抵抗値の変化から応力値を算出するためには、ピエゾ抵抗係数を用いて換算する必要があるため、ピエゾ抵抗係数を外部から印加された既知の応力の下で予め決定しておかなければならない。ピエゾ抵抗係数の測定方法としては、一般的に四点曲げで既知の応力を短冊状の試料に印加して決定する方法が用いられる。詳しくは、非特許文献1に記載されている。
【0004】
応力センサにおけるピエゾ抵抗係数は、半導体バルク中のキャリヤ(電子及び正孔)による電気伝導が寄与する係数である。一方、チップ上には応力センサ以外にMOSトランジスタも形成され、MOSトランジスタに対してもピエゾ抵抗係数が求められる。このMOSトランジスタにおけるピエゾ抵抗係数は、反転層中のキャリヤによる電気伝導が寄与する係数である。そのため、MOSトランジスタのピエゾ抵抗係数は、バルク伝導である応力センサのピエゾ抵抗係数とは別のピエゾ抵抗係数を持つ。
【0005】
従って、MOSトランジスタのピエゾ抵抗係数を求めるには、応力センサを構成する拡散層抵抗の測定とは別にMOSトランジスタの抵抗値の変化率を測定をする必要がある。MOSトランジスタのピエゾ抵抗係数が予め求められていれば、応力センサによって測定した応力値と組み合わせることによってパッケージングによるMOSトランジスタの電気特性の変化を予測することができる。これは、MOSトランジスタのピエゾ抵抗係数がゲート長、ドーピング及びバイアス条件に依存することが知られているためである。そのため、個別のデバイス毎に、MOSトランジスタのピエゾ抵抗係数を測定する必要がある。
【0006】
【非特許文献1】R.E.Beaty,R.C.Jaeger,J.C.Suhling,R.W.Jonhoson and R.D.Butler,"Piezoresistive coefficient variation in silicon stress sensors using a foru-point bend test fixture"IEEE Trans.Comp.,Hybrids,Manufact.,Technol.,15,pp.905-914,1992.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、四点曲げを用いるピエゾ抵抗係数の測定方法では、一軸応力状態を実現するために試料を短冊状に成形する必要があった。短冊状に成形した試料では、四点曲げを行った場合、試料の長辺方向にたわむのと同時に、短辺方向に対して試料表面側で縮み、裏面側で伸びる。このように試料が変形することで、短辺方向の応力を解放して一軸応力状態を実現している。従って、一軸応力状態を実現するためには、試料の短辺方向及び厚さが長辺方向(詳しくは、内側の支点間隔)に比べて小さくなるように短冊状に成形する必要があった。
【0008】
このように、試料を短冊状に切り出した場合、チップ上に形成される多くの素子(デバイスともいう)のうち、短冊の狭い幅の間に入る素子しか測定できず、全ての素子についてピエゾ抵抗係数を求めることができない。また、ウェハから短冊状の試料を切り出す場合、複数のチップに切り出した部分がまたがるので、ウェハ上の全てのチップについてピエゾ抵抗係数を求めることができない。さらに、ピエゾ抵抗係数を求めるためだけに試料を短冊状に形成する必要があり、機械の設定変更等の手間がかかる。
【0009】
MOSトランジスタの場合、ゲート長が異なるとピエゾ抵抗係数も異なるため、ゲート長が異なる多くのMOSトランジスタが形成されたチップに対しては、ゲート長が異なるそれぞれのMOSトランジスタに対しピエゾ抵抗係数を測定する必要がある。また、NMOSトランジスタとPMOSトランジスタとで、ピエゾ抵抗係数をそれぞれ求める必要もあるため、測定できる領域が狭い範囲に限られていることは実用上不便である。
【0010】
さらに、複数のチップをまたいで試料を切り出さなければならないため、ウェハ上の全てのチップについてピエゾ抵抗係数を測定することができず、ウェハ上でのピエゾ抵抗係数の変動幅を完全には調べることができない。
【0011】
そこで、本発明は、試料を短冊状に切り出すことなく、チップ上に形成された多くの素子のピエゾ抵抗係数を測定することが可能なピエゾ抵抗係数の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る解決手段は、基板上に形成された素子のピエゾ抵抗係数を測定する方法であって、素子が形成された基板から少なくともチップサイズ以上の試料を切り出す切り出しステップと、試料に対し四点曲げを行った際、素子が形成されている試料の表面の応力を測定する応力測定ステップと、試料に対し四点曲げを行った際、素子の抵抗値の変化率を測定する変化率測定ステップと、応力測定ステップで測定した応力と、変化率測定ステップで測定した抵抗値の変化率とに基づいて、所定の関係より素子のピエゾ抵抗係数を求める演算ステップとを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明に記載のピエゾ抵抗係数の測定方法は、少なくともチップサイズ以上の試料を切り出し、四点曲げを行った際に測定した応力と抵抗値の変化率とに基づいて、所定の関係よりピエゾ抵抗係数を求めるので、一軸応力状態を実現する必要がなく、チップ全体を切り出した試料を用いてピエゾ抵抗係数を求めることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
まず、本発明の前提となる、従来技術における四点曲げを用いたピエゾ抵抗係数の測定方法について説明する。図1に、四点曲げを説明するための図を示す。図1に示す試料3は、図2に示すウェハ6から短冊状に切り出した試料である。ウェハ6には、通常複数のチップ(図2の場合は26枚のチップ)が作られ、それぞれのチップを切り出しパッケージング等施すことで半導体装置となる。
【0015】
しかし、四点曲げに用いる試料3の場合、図2に示すA−A’、B−B’、C−C’、D−D’の断面で切り出されるため、試料3の幅(AB間)は1枚のチップ幅より短く、試料3の長さ(CD間)は3枚のチップにまたがる長さとなる。試料3のサイズは、例えば幅が5mm、長さが70mmである。
【0016】
試料3の表面(図1では上側の面)にあるデバイス作成領域1には、ピエゾ抵抗係数を測定するための素子として拡散層抵抗10及びMOSトランジスタ11が形成されている。拡散層抵抗10及びMOSトランジスタ11には、x軸方向に電流が流れるパターンとy軸方向に電流が流れるパターンの二種類がそれぞれ形成される。なお、図1において、試料3の長辺方向をx軸、試料3の短辺方向をy軸、試料3の厚み方向をz軸とする。
【0017】
図1では、試料3を曲げるための支点5が四箇所設けられており、内側の2つの支点5に矢印方向(下向き)の加重を印加すると、外側の2つの支点に反作用が働くので試料3がたわむ。
【0018】
図3に、試料3の各部の寸法を示す。図3では、試料3の幅をh、試料3の厚みをtとする。さらに、図3では、内側の2つの支点5間の距離をd、外側の2つの支点5間の距離をLとしている。また、内側の支点5に印加する荷重の大きさをFとすると、外側の2つの支点5には内側の2つの支点5に加えたものと同じ大きさで逆方向の反作用(−F)が働く。試料3に荷重Fが印加された場合、試料3は図4のようにたわむ。図4では、L=2dとなるように支点5を配置した特別な場合であり、当該場合には図4に示すようにたわみ量がZdispとなる。
【0019】
試料3に図1のような荷重が印加された場合、内側の2つの支点間の曲げモーメントは一定となり、試料3にはせん断力が働かない。また、試料3の幅h及び厚さtが内側の支点5間の距離dに比べて小さい場合には、x軸方向の垂直応力σxだけが働き、σy=σz=0となる一軸応力状態が実現される。
【0020】
四点曲げを行った場合の試料3の断面は、図1に示すように試料3の表面側で縮み、裏面側で伸びる。このように試料3が変形することで、y軸方向の応力を解放して一軸応力状態を実現している。従って、一軸応力状態を実現するためには、試料3の幅h及び厚さtが内側の支点5間の距離dに比べて小さくなるように、試料3を短冊状に成形する必要がある。
【0021】
デバイス作成領域1に働く応力の大きさσxの値は、荷重Fの値、又はたわみ量Zdispの値のいずれか一方が既知の場合に求めることができる。具体的に、荷重Fの値が既知の場合、数1から応力σxの値が求められる。
【0022】
【数1】

【0023】
一方、たわみ量Zdispの値が既知の場合、数2から応力σxの値が求められる。
【0024】
【数2】

【0025】
ここで、数2に含まれる係数Eは試料3のx軸方向の引っ張りに対するヤング率である。
【0026】
次に、デバイス作成領域1中に作成された拡散層抵抗10には、x軸方向に電流が流れるパターンと、y軸方向に電流が流れるパターンの二種類あり、それぞれの抵抗をRx及びRyとする。また、既知の応力σxを試料3に印加する場合における、それぞれの抵抗値の変化量をΔRx及びΔRyとする。
【0027】
拡散層抵抗10を用いた応力センサについてピエゾ抵抗係数を求める場合、x軸方向が試料3の材料であるシリコン結晶の[110]方向、y軸が[−110]方向、z軸が[001]方向とすると、数3及び数4の関係式が得られる。
【0028】
【数3】

【0029】
【数4】

【0030】
数3は、拡散層抵抗10の抵抗値の変化率ΔRx/Rxと応力σxとの関係をピエゾ抵抗係数π11,π12,π44を用いて示し、数4は、拡散層抵抗10の抵抗値の変化率ΔRy/Ryと応力σxとの関係をピエゾ抵抗係数π11,π12,π44を用いて示している。
【0031】
そのため、四点曲げ測定において既知の応力σxを試料3に印加した場合、抵抗値の変化率ΔRx/Rx及びΔRy/Ryを測定し、数3及び数4を用いることでピエゾ抵抗係数のπ11+π12及びπ44の値を求めることができる。
【0032】
一方、MOSトランジスタのピエゾ抵抗係数を求める場合にも、デバイス作成領域1中に作成されたx軸方向に電流が流れるMOSトランジスタ11と、y軸方向に電流が流れるMOSトランジスタ11とが用いられる。それぞれのMOSトランジスタ11のオン抵抗をRon.x及びRon.yとする。また、既知の応力σxが印加された際の抵抗値の変化量をΔRon.x及びΔRon.yとする。
【0033】
MOSトランジスタ11のピエゾ抵抗係数を求める場合、x軸が試料3の材料であるシリコン結晶の[110]方向のときと、x軸が[100]方向のときの二種類ある。
【0034】
まず、x軸方向が試料3の材料であるシリコン結晶の[110]方向、y軸が[−110]方向、z軸が[001]方向とすると、数5及び数6の関係式が得られる。
【0035】
【数5】

【0036】
【数6】

【0037】
数5は、MOSトランジスタ11のオン抵抗値の変化率ΔRon.x/Ron.xと応力σxとの関係をピエゾ抵抗係数πmos.11,πmos.12,πmos.44を用いて示し、数6は、MOSトランジスタ11のオン抵抗値の変化率ΔRon.y/Ron.yと応力σxとの関係をピエゾ抵抗係数πmos.11,πmos.12,πmos.44を用いて示している。
【0038】
そのため、四点曲げ測定において既知の応力σxを試料3に印加した場合におけるオン抵抗値の変化率ΔRon.x/Ron.x及びΔRon.y/Ron.yを測定し、数5及び数6を用いることでピエゾ抵抗係数のπmos.11+πmos.12及びπmos.44の値を求めることができる。
【0039】
また、x軸方向が試料3の材料であるシリコン結晶の[100]方向、y軸が[010]方向、z軸が[001]方向とすると、数7及び数8の関係式が得られる。
【0040】
【数7】

【0041】
【数8】

【0042】
数7は、MOSトランジスタ11のオン抵抗値の変化率ΔRon.x/Ron.xと応力σxとの関係をピエゾ抵抗係数πmos.11を用いて示し、数8は、MOSトランジスタ11のオン抵抗値の変化率ΔRon.y/Ron.yと応力σxとの関係をピエゾ抵抗係数πmos.12を用いて示している。
【0043】
そのため、四点曲げ測定において既知の応力σxを試料3に印加した場合、オン抵抗値の変化率ΔRon.x/Ron.x及びΔRon.y/Ron.yを測定し、数7及び数8を用いることでピエゾ抵抗係数のπmos.11及びπmos.12の値を求めることができる。
【0044】
上述した四点曲げを用いたピエゾ抵抗係数の測定方法では、一軸応力状態を実現するために試料3を短冊状に切り出す必要があり、様々な問題点があった。そこで、本発明に係る四点曲げを用いたピエゾ抵抗係数の測定方法では、試料3を少なくとチップサイズ以上に切り出し、試料3の応力測定(例えば裏面に抵抗線ひずみゲージを用いる)してピエゾ抵抗係数を測定する。以下に、本発明に係る四点曲げを用いたピエゾ抵抗係数の測定方法の実施の形態について説明する。
【0045】
(本実施の形態)
図5に、本実施の形態に係るピエゾ抵抗係数の測定方法を説明するための図を示す。図5において使用される試料4は、図6に示すウェハ6からチップサイズに切り出されている。ウェハ6に形成されたチップ(図6の場合は26枚のチップ)は、切り出してパッケージング等施すことで半導体装置となる。本実施の形態では、チップが試料4として利用されることになる。
【0046】
そのため、四点曲げに用いる試料4は、図6に示すE−E’、F−F’、G−G’、H−H’の断面で切り出される。なお、本実施の形態では、ピエゾ抵抗係数の測定方法に用いる試料のサイズをチップサイズとしたが、本発明はこれに限られず、複数のチップをまとめたサイズ等でも良い。つまり、本発明に用いられる試料のサイズは、一軸応力状態を実現できない短冊状以外のサイズであれば良い。
【0047】
また、図5では、試料4の表面にはデバイス作成領域1が設けられ、当該デバイス作成領域1には、ピエゾ抵抗係数を測定するための素子として拡散層抵抗10及びMOSトランジスタ11が形成されている。さらに、図5では、試料4の裏面に一軸タイプの抵抗線ひずみゲージ2が貼り付けられ、また、試料4を曲げるための支点5が設けられている。
【0048】
次に、本実施の形態に係るピエゾ抵抗の測定方法では、ピエゾ抵抗係数の測定に先立ち、まず、ピエゾ抵抗係数を測定する試料4の表面ひずみと抵抗線ひずみゲージ2との関係を求めておく。図7に、試料4の表面ひずみと裏面に貼った抵抗線ひずみゲージ2との関係を求めるために、ピエゾ抵抗係数の測定に用いる試料4とは別の試料4を用意する。そして、図7では、試料4の裏面にx軸方向のひずみを測定するための一軸タイプの抵抗線ひずみゲージ21を貼り付け、表面にはx軸方向及びy軸方向のひずみを測定するための二軸タイプの抵抗線ひずみゲージ22を貼り付けている。なお、抵抗線ひずみゲージ21は、抵抗線ひずみゲージ2と同じタイプのゲージである。
【0049】
図7に示す試料4に対して四点曲げを行い、荷重Fを変えながら各抵抗線ひずみゲージ21,22で測定されるひずみ量を記録する。記録したひずみ量に基づき、試料4の表面のx軸方向のひずみεx及びy軸方向のひずみεyを、試料4の裏面におけるx軸方向のひずみεbxの関数として図8のようにプロットする。四点曲げ測定を行う範囲では、試料4のひずみ量は荷重Fに比例すると考えられるから、ひずみεx及びひずみεyとひずみεbxとの間に数9及び数10の比例関係が成り立つ。
【0050】
【数9】

【0051】
【数10】

【0052】
ここで、α及びβは比例定数である。
【0053】
次に、試料4の表面の応力を測定する。まず、図5に示した構成を有する試料4に対して四点曲げを行い、曲げた状態で拡散層抵抗10の抵抗及びMOSトランジスタ11のオン抵抗を測定する。当該測定と同時に、抵抗線ひずみゲージ2を用いて試料4の裏面のx軸方向のひずみεbxを測定する。
【0054】
そして、図8及び数9、数10で求めた比例関係を用いて、抵抗線ひずみゲージ2で測定したひずみεbxから、試料4の表面のx軸方向のひずみεx及びy軸方向のひずみεyを求める。
【0055】
一方、x軸方向が試料4の材料であるシリコン結晶の[110]方向、y軸が[−110]方向、z軸が[001]方向の場合、6×6のコンプライアンス・マトリクスを用いて、試料4のひずみεx,εyと垂直応力σx,σyとの関係を表すと、数11及び数12、数13となる。
【0056】
【数11】

【0057】
【数12】

【0058】
【数13】

【0059】
なお、ウェハ6の垂直方向には拘束がないことから応力はゼロであり、σz=0であることから、数11及び数12、数13は、最終的に数14及び数15となる。
【0060】
【数14】

【0061】
【数15】

【0062】
従って、抵抗線ひずみゲージ2の測定によってひずみεx及びひずみεyが既知の場合には、数14及び数15より垂直応力σx,σyを求めることができる。
【0063】
また、x軸方向が試料4の材料であるシリコン結晶の[100]方向、y軸が[010]方向、z軸が[001]方向の場合、6×6のコンプライアンス・マトリクスを用いて、試料4のひずみεx,εyと垂直応力σx,σyとの関係を表すと、数16及び数17、数18となる。
【0064】
【数16】

【0065】
【数17】

【0066】
【数18】

【0067】
なお、ウェハ6の垂直方向には拘束がないことから応力はゼロであり、σz=0であることから、数16及び数17、数18は、最終的に数19及び数20となる。
【0068】
【数19】

【0069】
【数20】

【0070】
従って、抵抗線ひずみゲージ2の測定によってひずみεx及びひずみεyが既知の場合には、数19及び数20より垂直応力σx,σyを求めることができる。
【0071】
次に、求めた垂直応力σx,σyから、拡散層抵抗10を用いた応力センサのピエゾ抵抗係数を測定する。まず、x軸方向が試料4の材料であるシリコン結晶の[110]方向、y軸が[−110]方向、z軸が[001]方向の場合、垂直応力σx,σyと抵抗値の変化率ΔRx/Rx及びΔRy/Ryとは、数21及び数22の関係式が成立する。
【0072】
【数21】

【0073】
【数22】

【0074】
従って、数14及び数15から垂直応力σx,σyが既知で、抵抗値の変化率ΔRx/Rx及びΔRy/Ryを測定できれば、数21及び数22を解いてピエゾ抵抗係数のπ11+π12及びπ44の値を求めることができる。
【0075】
さらに、求めた垂直応力σx,σyから、MOSトランジスタ11のピエゾ抵抗係数を測定する。まず、x軸方向が試料4の材料であるシリコン結晶の[110]方向、y軸が[−110]方向、z軸が[001]方向の場合、垂直応力σx,σyとオン抵抗値の変化率ΔRon.x/Ron.x及びΔRon.y/Ron.yとは、数23及び数24の関係式が成立する。
【0076】
【数23】

【0077】
【数24】

【0078】
従って、数14及び数15から垂直応力σx,σyが既知で、オン抵抗値の変化率ΔRon.x/Ron.x及びΔRon.y/Ron.yを測定できれば、数23及び数24を解いてピエゾ抵抗係数のπmos.11+πmos.12及びπmos.44の値を求めることができる。
【0079】
一方、x軸方向が試料4の材料であるシリコン結晶の[100]方向、y軸が[010]方向、z軸が[001]方向の場合、垂直応力σx,σyとオン抵抗値の変化率ΔRon.x/Ron.x及びΔRon.y/Ron.yとは、数25及び数26の関係式が成立する。
【0080】
【数25】

【0081】
【数26】

【0082】
従って、数19及び数20から垂直応力σx,σyが既知で、オン抵抗値の変化率ΔRon.x/Ron.x及びΔRon.y/Ron.yを測定できれば、数25及び数26を解いてピエゾ抵抗係数のπmos.11及びπmos.12の値を求めることができる。
【0083】
以上のように、本実施の形態に係るピエゾ抵抗係数を測定方法では、少なくともチップサイズ以上の試料を切り出す切り出しステップと、四点曲げを行った際、試料4の表面の応力を抵抗線ひずみゲージ2を用いて測定する応力測定ステップと、抵抗値の変化率を測定する変化率測定ステップと、測定した応力と、測定した抵抗値の変化率とに基づいて、所定の関係よりピエゾ抵抗係数を演算する。そのため、本実施の形態に係るピエゾ抵抗係数を測定方法では、試料4の一軸応力状態を実現することなしにピエゾ抵抗係数を測定できるので、チップ上に形成された様々なMOSトランジスタ11に対しピエゾ抵抗係数を測定することができる。また、本実施の形態に係るピエゾ抵抗係数を測定方法では、試料4が複数のチップをまたぐことなしに形成されるので、ウェハ6上の全てのチップについてピエゾ抵抗係数を測定することができる。
【0084】
なお、図5に示したデバイス作成領域1では、1種類のMOSトランジスタ11のみ記載されているが、本発明では、ゲート長等が異なる様々なMOSトランジスタ11に対しピエゾ抵抗係数を測定するため、デバイス作成領域1には様々な種類のMOSトランジスタ11が形成され、それぞれの種類毎に抵抗値の変化率を測定し、ピエゾ抵抗係数を測定する。
【0085】
また、本実施の形態では、図7及び図8に示すように他の試料4の表面の抵抗線ひずみゲージ22と裏面の抵抗線ひずみゲージ21との関係を事前に求め、ピエゾ抵抗係数を測定する試料4については、裏面の抵抗線ひずみゲージ2のみから試料4の表面の応力を求める構成であった。しかし、本発明ではこれに限られず、試料4の表面と裏面とで応力の対称性が担保できれば、図8の関係を事前に求めることなく、裏面に設けた二軸の抵抗線ひずみゲージの値を表面の応力として用いることもできる。
【0086】
また、ひずみゲージについても、ロゼットゲージ等様々な種類のひずみゲージを用いることができる。さらに、試料4の表面の応力測定は、抵抗線ひずみゲージに限られず、光弾性等を用いた他の応力測定方法を用いても良い。
【0087】
上述したコンプライアンス・マトリクスについて一般的な説明を以下に行う。まず、応力σを数27のように表し、ひずみεを数28のように表すと、両者の関係は6×6のコンプライアンス・マトリクスSを用いて数29のように表すことができる。
【0088】
【数27】

【0089】
【数28】

【0090】
【数29】

【0091】
そして、シリコンウェハ面が(001)の場合に、x軸をシリコン結晶の[100]方向、y軸が[010]方向、z軸が[001]方向とすると、コンプライアンス・マトリクスSは、数30のように表すことができる。なお、マトリクスの各成分であるコンプライアンス係数は、表1に示す値を取る。
【0092】
【数30】

【0093】
【表1】

【0094】
また、シリコンウェハ面が(001)の場合に、x軸をシリコン結晶の[110]方向、y軸が[−110]方向、z軸が[001]方向とすると、コンプライアンス・マトリクスSは、数31のように表すことができる。なお、マトリクスの各成分であるコンプライアンス係数は、表1に示す値を取る。
【0095】
【数31】

【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の前提となるピエゾ抵抗係数の測定方法を説明するための図である。
【図2】本発明の前提となる試料を切り出すウェハの平面図である。
【図3】本発明の前提となるピエゾ抵抗係数の測定方法を説明するための図である。
【図4】本発明の前提となるピエゾ抵抗係数の測定方法を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るピエゾ抵抗係数の測定方法を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る試料を切り出すウェハの平面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るピエゾ抵抗係数の測定方法を説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る試料の表面と裏面とのひずみの関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0097】
1 デバイス作成領域、2,21,22 抵抗線ひずみゲージ、3,4 試料、5 支点、6 ウェハ、10 拡散層抵抗、11 MOSトランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された素子のピエゾ抵抗係数を測定する方法であって、
前記素子が形成された基板から少なくともチップサイズ以上の試料を切り出す切り出しステップと、
前記試料に対し四点曲げを行った際、前記素子が形成されている前記試料の表面の応力を測定する応力測定ステップと、
前記試料に対し四点曲げを行った際、前記素子の抵抗値の変化率を測定する変化率測定ステップと、
前記応力測定ステップで測定した前記応力と、前記変化率測定ステップで測定した前記抵抗値の変化率とに基づいて、所定の関係より前記素子のピエゾ抵抗係数を求める演算ステップとを備えるピエゾ抵抗係数の測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のピエゾ抵抗係数の測定方法であって、
前記応力測定ステップでは、前記試料に貼り付けた抵抗線ひずみゲージを用いて前記試料の表面の応力を測定することを特徴とするピエゾ抵抗係数の測定方法。
【請求項3】
請求項2に記載のピエゾ抵抗係数の測定方法であって、
前記抵抗線ひずみゲージは、前記試料の裏面に貼り付けられた一軸タイプであり、他の試料において事前に求めておいた、前記他の試料の表面に貼り付けられた二軸タイプの抵抗線ひずみゲージと前記他の試料の裏面に貼り付けられた一軸タイプの抵抗線ひずみゲージとの関係に基づき、前記試料の表面の応力を間接的に測定することを特徴とするピエゾ抵抗係数の測定方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のピエゾ抵抗係数の測定方法であって、
前記素子は、応力センサ及びMOSトランジスタであることを特徴とするピエゾ抵抗係数の測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−218713(P2007−218713A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38959(P2006−38959)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】