説明

ピペット

【課題】熟練者に頼ることなく精度よく位置決めすることができ、作業効率を向上する。
【解決手段】ピペット24、34のZ軸テーブル28、38への装着、並びに、キャピラリ24A、34Aのピペット24、34への装着に際し、ピペット24、34には第1の突き当て部材35を設け、キャピラリ24A、34Aには第2の突き当て部材37を設けたため、手作業であっても、ある程度の位置決め精度を期待することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニピュレータへ位置決めするピペットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの分野において、顕微鏡の観察((顕微鏡カメラでの撮像画像処理)下で細胞に針を挿入して、細胞に核などを注入するマイクロマニピュレータとして、例えば、X−Y−Z軸の三次元空間を移動する駆動アクチュエータ(ナノポジショナの駆動源)に圧電素子を用いたものが提案されている(非特許文献1参照)。なお、マイクロマニピュレータを、圧電素子の駆動に対して遥かに移動量が覆いが移動分解能が低いモータ駆動のX−Y−Z軸テーブルに搭載され、全体ものとして扱う場合がある。
【0003】
言い換えれば、モータ駆動によって粗調整した後、圧電素子駆動によって微調整する2段構成のマニピュレータということができる。細胞に挿入する針、すなわちキャピラリ(毛細管チップ)は、前記ナノポジショナに取り付けられたピペットに着脱可能に取り付けられるものである。
【0004】
前記キャピラリの移動操作は、コントローラに取り付けられ、ジョイスティックを用いて行うが(一例として、非特許文献2参照)、このジョイスティックによる操作を精度よく行うためには、ナノポジショナに対してピペット(及び装着されたキャピラリ)が適正に位置決めされていることが前提となる。
【非特許文献1】「光学顕微鏡、バイオ研究用マイクロマニピュレータ」、株式会社三友製作所、2004年10月発行
【非特許文献2】「単一細胞操作支援ロボット」、中央精機株式会社、2003年11月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ピペットのマニピュレータへの取り付け(位置決め)は、手作業であるため煩雑な作業であり、非熟練者による取り付け作業では、取り付け位置にばらつきが多いため、熟練者に委ねざるを得ない場合がある。このため、作業効率が低下するという問題点がある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、熟練者に頼ることなく精度よく位置決めすることができ、作業効率を向上することができるピペットを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、第1の発明は、中空筒状のボディを備え、試料に対して所定の操作を行うピペットであって、X軸−Y軸−Z軸の三次元空間へ移動可能なマニピュレータへ装着するときに、当該装着操作方向の移動を、前記マニピュレータに突き当たることで制限する第1の突き当て部材を設けたこを特徴としている。
【0008】
第1の発明によれば、予め第1の突き当て部材をピペットの所定位置に固定する。例えば、最初の装着の際に第1の突き当て部材をマニピュレータに突き当たった状態で固定しておくことで、一旦取り外した後の再装着時の位置決めが容易となる。
【0009】
また、第2の発明は、中空筒状のボディを備え、試料に対して所定の操作を行うピペットであって、前記ピペットの先端には、毛細管チップとしてのキャピラリが着脱可能であり、前記キャリラリには、前記ピペットへ装着するときの装着操作方向の移動を、前記ピペットに突き当たることで制限する第2の突き当て部材を設けたことを特徴としている。
【0010】
第2の発明によれば、予め第2の突き当て部材をキャピラリの所定位置に固定する。例えば、最初の装着の際に第2の突き当て部材をピペットに突き当たった状態で固定しておくことで、一旦取り外した後の再装着時の位置決めが容易となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熟練者に頼ることなく精度よく位置決めすることができ、作業効率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態を示すマニピュレータの構成図である。図1において、マニピュレータシステム10は、顕微鏡観察下で細胞等の試料に人工操作(注射操作)を実施するためのシステムとして、顕微鏡ユニット12と、ホールディング用マニピュレータ14と、インジェクション用マニピュレータ16とを備えており、顕微鏡ユニット12の両側にマニピュレータ12、14が分かれて配置されている。
【0013】
顕微鏡ユニット12は、撮像素子としてのカメラ18、顕微鏡20、試料台としてベース22を備えている。このベース22の直上に顕微鏡20が配置される構造となっている。なお、顕微鏡20とカメラ18とは一体構造となっており、図示は省略したが、ベースに向けて光を照射する光源を備えている。
【0014】
前記ベース22上には細胞等の試料(図示省略)が載せられるようになっている。この状態で、ベース22上の細胞(試料)に顕微鏡20から光が照射され、ベース22上の細胞で反射した光が顕微鏡20に入射すると、細胞に関する光学像は、顕微鏡20で拡大された後カメラ18で撮像されるようになっており、カメラ18の撮像による画像を基に細胞を観察することができる。なお、この撮像画像の中には、カメラの倍率機能により、前述したマニピュレータ12、14に取り付けられホールディングピペット24、インジェクションピペット34の先端に取り付けられているキャピラリ(毛細管チップ)24A、34Aの画像も入れることが可能となっている(詳細後述)。なお、ホールディングピペット24とインジェクションピペット34とは同一構造であるため、両者を総称する場合は、単に「ピペット24、34」という。
【0015】
(ピペット24、34の構造)
図2に基づき、ピペット24、34の詳細構造を示す。なお、図2では、ピペット34、すなわちインジェクションピペット34を例にとり説明する。
【0016】
ピペット34は、円筒状の本体部34Bの先端にキャピラリ保持部34Cが設けられている。このキャピラリ保持部34Cは、本体部34Bよりも拡径された円筒状であり、さらに先端部はテーパ形状とされ、所謂「先細り形状」となっている。
【0017】
このピペット34の基部側(図2の右側端部)は、前記Z軸テーブル38に設けられた取付部38A(図1では図示省略)に挿入されることで装着される。この装着によって、微動機構44、46(図4、図5参照)連結も完了する構造となっている。
【0018】
ここで、ピペット34の本体部34Bには、第1の突き当て部材35が取り付けられている。この第1の突き当て部材35は、本体部34Bの外径よりも大きい外形をした円筒部材或いは角筒部材である。
【0019】
この第1の突き当て部材35は、本体部34Bに予め挿入されており、本体部34Bの軸線方向に移動可能、かつ所定位置で固定可能となっている。この移動と固定を実現する構造としては、第1の突き当て部材35の内径と本体部34Bの外径とを所定の寸法公差で緊密に収容し、スライド可能としておくと共に、所謂「いもねじ」を外周から螺合することで所定位置で固定する構造が最も単純である。
【0020】
或いは、本体部34Bの外周に雄ねじを形成しておき、第1の突き当て部材35の内周に雌ねじを形成しておき、両者を螺合させることで軸線移動させる構造であってもよい。この場合も固定部材としては「いもねじ」が必要であるが、回転を止める部材を取り付けるようにしてもよい。
【0021】
なお、この第1の突き当て部材35を用いた位置決めは、後述するカメラ18で撮像した情報に基づくフィードバック制御による位置決めを実行するときの予調整としても有効である。
【0022】
予め第1の突き当て部材35を軸線方向へ所定量移動させ、その後Z軸テーブル装着前にいもねじ等の固定部材で固定する。ここで、ピペット34をZ軸テーブル38へ挿入する(図2(A)参照)。この挿入量は、そのときの試料に対する処置(作業)によって異なるが、ほぼ基準となる位置まで挿入する。これにより、所定以下の力ではピペット34は移動せず、保持される。
【0023】
(キャピラリ24A、34Aの構造)
図3に基づき、キャピラリ24A、34Aの詳細構造を示す。なお、図3では、キャリラリ34Aを例にとり説明する。
【0024】
キャピラリ34Aは、極細かつ円筒状であり、ピペット34のキャピラリ保持部34Cに挿入され、装着されている。このキャピラリ34Aの基部側(図3の右側端部)は、前記キャピラリ保持部34Cに設けられた取付孔(図1では図示省略)に挿入されることで装着される。
【0025】
ここで、キャピラリ34Aには、第2の突き当て部材37が取り付けられている。この第2の突き当て部材37は、キャピラリ34Aの外径よりも大きい外形をした円筒部材或いは角筒部材である。
【0026】
この第2の突き当て部材37は、キャピラリ34Aに予め挿入されており、キャピラリ34Aの軸線方向に移動可能、かつ所定位置で固定可能となっている。この移動と固定を実現する構造としては、キャピラリ34A自体が小さい部材であるため、第2の突き当て部材37の内周部に弾性部材を設けておき、所定の摩擦力でスライド可能としておくと共に、当該摩擦力で所定以下の力では移動しないように保持する構造が最適である。
【0027】
なお、この第2の突き当て部材37を用いた位置決めは、後述するカメラ18で撮像した情報に基づくフィードバック制御による位置決めを実行するときの予調整としても有効である。
【0028】
予め定めた位置に摩擦力で第2の突き当て部材37をスライドさせ、キャピラリ保持部34Cに突き当てる(図3(B)参照)。ここで、キャピラリ34Aをピペット34のキャピラリ保持部34Cへ挿入する(図3(A)参照)。この挿入量は、そのときの試料に対する処置(作業)によって異なるが、ほぼ基準となる位置まで挿入する。これにより、所定以下の力ではキャピラリ34Aは移動せず、保持される。
【0029】
図1に示される如く、ホールディング用マニピュレータ14は、X軸−Y軸−Z軸の3軸構成のマニピュレータとして、ホールディングピペット24、X−Y軸テーブル26、Z軸テーブル28、X−Y軸テーブル26を駆動する駆動装置30、Z軸テーブル28を駆動する駆動装置32を備えて構成されている。
【0030】
ホールディングピペット24は、Z軸テーブル28に連結され、Z軸テーブル28はX−Y軸テーブル26上に上下動自在に配置され、駆動装置30、32はコントローラ43に接続されている。
【0031】
X−Y軸テーブル26は、駆動装置30の駆動により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル28は、駆動装置32の駆動により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。Z軸テーブル28に連結されたホールディングピペット24は、X−Y軸テーブル26とZ軸テーブル28の移動に従って三次元空間を移動領域として移動し、ベース22上の細胞等を保持するように構成されている。
【0032】
インジェクション用マニピュレータ16は、直交3軸構成のマニピュレータとして、インジェクションピペット34、X−Y軸テーブル36、Z軸テーブル38、X−Y軸テーブル36を駆動する駆動装置40、Z軸テーブル38を駆動する駆動装置42を備え、インジェクションピペット34は、Z軸テーブル38に連結され、Z軸テーブル38はX−Y軸テーブル36上に上下動自在に配置され、駆動装置40、42はコントローラ43に接続されている。
【0033】
X−Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル38は、駆動装置42の駆動により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。Z軸テーブル38に連結されたインジェクションピペット34は、X−Y軸テーブル36とZ軸テーブル38の移動に従って三次元空間を移動領域として移動し、ベース22上の細胞等の資料に人工操作(注射等)を行うように構成されている。
【0034】
このように、マニピュレータ14、16は、ほぼ同一構成であり、Z軸テーブル28又は38に連結されたピペットの種類(ホールディングピペット24とインジェクションピペット34)が異なるのみである。従って、以下は、インジェクションピペット34が連結されたマニピュレータ16を例に挙げて説明する。
【0035】
X−Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動(モータ)により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル38は、駆動装置42の駆動(モータ)により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されているとともに、ベース22上の細胞等を、針を挿入するための挿入対象とするインジェクションピペット34を連結している。
【0036】
すなわち、X−Y軸テーブル36とZ軸テーブル38は、駆動装置40、42の駆動により、ベース22上の細胞等を含む三次元空間を移動領域として移動し、インジェクションピペット34を、例えば、インジェクションピペット34の先端側からベース22上の細胞に対して、針を挿入するための挿入位置まで粗動駆動する粗動機構(三次元軸移動テーブル)として構成されている。
【0037】
また、Z軸テーブル38は、ナノポジショナとしての機能を備えている。ナノポジショナは、インジェクションピペット34をX軸−Y軸−Z軸方向へ自在に移動可能に支持するととともに、さあに、インジェクションピペット34をその長手方向(軸線方向)に沿って微動駆動するように構成されている。
【0038】
具体的には、Z軸テーブル38には、ナノポジショナとして、図2に示す微動機構44、並びに図3に示す微動機構46が選択的に内蔵されている。ここで、本実施の形態では、微動機構44は、インジェクションピペット34を軸線方向に微動させるため(具体的には、細胞である資料にキャピラリを挿入するため)の駆動源として適用される。
【0039】
一方、本実施の形態では、微動機構46は、インジェクションピペット34をX軸−Y軸−Z軸のそれぞれの方向に微動させるための駆動源として適用される。なお、微動機構44及び微動機構46とは、後述するねじ軸50及びねじ軸76を軸線方向に移動させるために、圧電素子54又圧電素子80に所定の電圧を印加することは同一であるが、構造が若干異なるため、以下にそれぞれの構造を説明する。
【0040】
(微動機構44の詳細構造)
図4に示される如く、微動機構44は、圧電アクチュエータの本体を構成するハウジング48を備えており、略円筒状に形成されたハウジング48内には、ねじ軸50が挿通されているとともに、円筒状の圧電素子54、円筒状の間座56がねじ軸50の外周側に収納されており、軸受58、60が内輪間座62を間にしてねじ軸50にロックナット66により固定されて収納されている。
【0041】
軸受58、60は、それぞれ内輪58a、60aと、外輪58b、60bと、内輪58a、60aと外輪58b、60b間に挿入されたボール58c、60cを備え、各内輪58a、60aがねじ軸50の外周面に内輪間座62を介して嵌合され、各外輪58b、60bがハウジング48の内周面に嵌合され、ねじ軸50を回転可能に支持するようになっている。軸受58は、ハウジング48の内周面に嵌合された間座56との当接により、圧電素子を介して蓋64を締め付けることによって予圧が付与される。ハウジング48の一端側には圧電素子に電圧を印加するための信号線を通すための孔48a、48bが形成されている。
【0042】
予圧調整は間座54の長さを調整することによって押圧力を調整させ、軸受58、60へ適切な予圧力を与える。これにより、軸受58、60に所定の予圧が付与され、軸受58、60の外輪間に軸方向間距離としての間隙63が形成される。圧電素子54は、孔48a、48b内にそれぞれ挿入されたリード線70、72を介してコントローラ43に接続されており、コントローラ43からの電圧に応じてインジェクションピペット34のインジェクション方向に沿って伸縮する圧電アクチュエータの一要素として構成されている。例えば、圧電素子54は、コントローラ43からインジェクション用電圧として、例えば、矩形波状の電圧が印加されたときには、この印加電圧に応答して、インジェクションピペット34の先端側からベース22上の細胞に対して、針を挿入するための押圧力をインジェクションピペット34に付与し、あるいは、コントローラ43から微動用電圧が印加されたときには、この印加電圧に応答して、ねじ軸50をその長手方向(軸方向)に沿って微動させて、インジェクションピペット34の位置を微調整するようになっている。
【0043】
(微動機構46の詳細構造)
図5に示される如く、本実施の形態の微動機構46は、X軸用、Y軸用、Z軸用のそれぞれに対応して3個設けられている。
【0044】
圧電アクチュエータの本体を構成するハウジング74を備えており、略円筒状に形成されたハウジング74内には、ねじ軸76の軸方向一端側と、圧電素子80、間座82、軸受84、86が収納されている。圧電素子80は、ねじ軸76の延長線上に、間座82を介してねじ軸76と直列になって配置されており、間座82は、ねじ軸76の軸方向端部に噛合されたロックナット88を囲むように配置されている。軸受84と軸受86は内輪間座90を間にしてねじ軸76の外周側に配置されている。
【0045】
軸受84、86は、それぞれ内輪84a、86aと、外輪84b、86bと、内輪84a、86aと外輪84b、86b間に挿入されたボール84c、86cを備え、各内輪84a、86aがねじ軸76の外周面に嵌合され、各外輪84b、86bがハウジング74の内周面に嵌合され、ねじ軸76を回転可能に支持するようになっている。
【0046】
ハウジング74の一端側には、圧電素子80に対して、ねじ軸76の軸方向への移動を規制する蓋94が固定されている。蓋94には凹部94aが形成されているとともに、孔94b、94eが形成されており、蓋94の凹部94aと間座82の凹部82aとの間に圧電素子80が挿入されている。
【0047】
予圧調整は間座82の長さを調整することによって押圧力を調整させ、軸受84、86へ適正な予圧力を与える。これにより、軸受84、86に所定の予圧が付与され、軸受84、86の外輪間に軸方向間距離としての間隙93が形成される。
【0048】
圧電素子80は、蓋94の孔94b、94e内にそれぞれ挿入されたリード線96、102を介してコントローラ43に接続されており、コントローラ43からの電圧に応じてインジェクションピペット34の長手方向に沿って伸縮する圧電アクチュエータとして構成されている。圧電素子80は、コントローラ43からインジェクション用電圧に応答して、ねじ軸76を微動させ、インジェクションピペット34を所定の方向(X軸方向又はY軸方向又はZ軸方向)の移動させるようになっている。
【0049】
上記構成において、インジェクション用マニピュレータ16を駆動するに際しては、コントローラ43は、X−Y軸テーブル36とZ軸テーブル38を粗動駆動して、インジェクションピペット34をベース22上の細胞に近づけて位置決めした後、微動機構44または微動機構46を用いてインジェクションピペット34を微動駆動することとしている。
【0050】
このとき、コントローラ43には、カメラ18で撮像した画像のデータ、撮像情報が入力されるようになっている。この画像には、ベース22に載せられた細胞の他、インジェクションピペット34の先端に着脱可能に取り付けたキャピラリ34A(毛細管チップ)の画像が含まれるように、カメラ18の撮像倍率が設定される。
【0051】
この撮像情報に基づいて、インジェクションピペットの位置を認識し、前記微動機構46を用いてフィードバック制御することで、例えば、インジェクションピペット34を最初に装着したときの初期位置決めを自動で行うことが可能となる。
【0052】
図6は、コントローラ43における、前記フィードバック制御に関する処理を機能的に示したブロック図である。なお、このブロック図は、コントローラ43でのハード構成を限定するものではない。
【0053】
コントローラ43には、Z軸範囲動作指示部100が設けられ、外部からこのZ軸範囲動作指示部100に対して初期位置設定指示があると、このZ軸範囲動作指示部100では、ドライバ102を制御して、Z軸用を駆動し、図7(A)に示される如く、インジェクションピペット34を最下位置から最上位置までの範囲を少なくとも1往復移動させるようにしている。
【0054】
カメラ18は、画像解析部104に接続され、前記インジェクションピペット34の移動を撮像した撮像情報が解析される。例えば、画像解析部104では、その後の研究材料として必要な条件に基づいて、コントラスト処理やシャープネス処理、シェーディング処理等の画像処理がなさたり、所定の形式(jpeg.、avi.等)にデータ変換されたりする。
【0055】
本実施の形態では、インジェクションピペット34のフィードバック制御の実行のため、撮像された画像内のインジェクションピペット34(実際には、先端に取り付けられたキャピラリ34A)の画像を検出する。この場合、例えば、予めキャピラリ34Aにマーキングをしておいてもよいし、キャピラリ34A自体の濃度情報を記憶しておいてもよい。
【0056】
画像解析部104には、時間−Z軸位置情報抽出部106が接続されており、検出したキャピラリ34Aの画像の位置の時間軸変化特性情報を抽出する(図7(B)の太線参照)。
【0057】
この時間−Z軸位置情報抽出部106で抽出した特性情報は、Z軸適正位置判定部108へ送出される。このZ軸適正位置判定部108には、Z軸基準データメモリ110が接続されており、このZ軸基準データメモリ110から基準データを読み出して(図7(B)の細線参照)、前記撮像された特性情報と重ね合わされる。
【0058】
ここで、Z軸適正位置判定部108では、図7(B)に示す特性を得ることができ、撮像情報が基準値となった時点を適正位置と判別し、判別結果をピペット初期位置動作指示部110へ送出する。これにより、ピペット初期位置動作指示部110では、前記微動機構ドライバ102を制御して、微動機構46を駆動し、インジェクションピペット34をZ軸方向初期位置に位置決めする。
【0059】
以下に本実施の形態の作用を説明する。まず、本実施の形態のマニピュレータシステム10を使用する場合、ホールディング用マニピュレータ14と、インジェクション用マニピュレータ16のそれぞれのZ軸テーブル28、38に各々ホールディングピペット24、インジェクションピペット34を装着する。
【0060】
その手順を、インジェクション用マニピュレータ16を例にとり以下に説明する。なお、ホールディング用マニピュレータ14については、同一の手順となるので、説明を省略する。
【0061】
最初に、単体のピペット34に対してキャピラリ34Aを装着する。このとき、キャピラリ34Aには、予め第2の突き当て部材37が挿入されており、キャピラリ34Aの軸線方向に移動可能、かつ所定位置で固定可能に保持されている。
【0062】
予め、摩擦力で第2の突き当て部材37をスライドさせ所定位置にセットする。この状態でキャピラリ34Aをピペット34のキャピラリ保持部34Cへ挿入する。この挿入量は、第2の突き当て部材と接触する位置までである。これにより、所定以下の力ではキャピラリ34Aは移動せず、保持される。
【0063】
キャピラリ34Aは、キャピラリ保持部34Cへ最初に取り付ける際、或いは、一旦取り付けた後再度取り外して装着する、といったことが予測される。この場合、その都度、熟練者がキャピラリ34Aとキャピラリ保持部34Cとの相対位置関係を調整しなければならなかった。
【0064】
しかし、本実施の形態では、最初に位置決めをしたときに、第2の突き当て部材37をキャピラリ保持部34Cに突き当たるまで移動させ、固定しておく。これにより、次の装着の際には、キャピラリ保持部34Cへの挿入量が同一となり、熟練者によらなくても、キャピラリ34Aを位置決めすることが可能となる。
【0065】
次に、キャピラリ34Aが装着されたピペット34をZ軸テーブル38へ装着する。このとき、ピペット34には、予め第1の突き当て部材35が挿入されており、ピペット34の軸線方向に移動可能、かつ所定位置で固定可能に保持されており、設定位置でいもねじ等の固定部材で固定する。この状態でピペット34をZ軸テーブル38へ挿入する。ピペットをZ軸テーブル28、38に突き当て固定する。これにより、所定以下の力ではピペット34は移動せず、保持される。
【0066】
ここで、ピペット34は、Z軸テーブル38へ最初に取り付ける際、或いは、一旦取り付けた後再度取り外して装着する、といったことが予測される。この場合、その都度、熟練者がピペット34とZ軸テーブル38との相対位置関係を調整しなければならなかった。
【0067】
しかし、本実施の形態では、最初に位置決めをしたときに、第1の突き当て部材35をZ軸テーブル38に突き当たるまで移動させ、固定しておく。これにより、次の装着の際には、Z軸テーブル38への挿入量が同一となり、熟練者によらなくても、ピペット34を位置決めすることが可能となる。
【0068】
なお、この第1の突き当て部材35を用いた位置決めは、後述するカメラ18で撮像した情報に基づくフィードバック制御による位置決めを実行するときの予調整としても有効である。
【0069】
図8のフローチャートに従い、インジェクションピペット34のZ軸方向の位置決め制御について説明する。ステップ150では、位置決め指示があったか否かが判断され、否定判定された場合は、位置決め制御の時期ではないと判断し、このルーチンは終了する。
【0070】
また、ステップ150では肯定判定された場合には、位置決め制御の時期であると判断し、ステップ152へ移行する。ステップ152では、Z軸微動機構46によりインジェクションピペット34をZ軸の移動範囲で1往復動作させる。
【0071】
次のステップ154では、上記1往復動作の状態をカメラ18を用いて撮像し、ステップ156へ移行する。ステップ156では、上記撮像されたインジェクションピペットの撮像位置データと、基準データとを比較し、適正な初期位置を判別する(ステップ158)。次のステップ160では、Z軸によりインジェクションピペット34を最適位置へ移動させ、このルーチンは終了する。
【0072】
このように、カメラ18の撮像情報を用い、フィードバック制御によってインジェクションピペットの位置決めを行うようにしたため、熟練者による位置決め作業が不要となり、作業効率を向上することができる。
【0073】
なお、この場合、上記のようにインジェクションピペット34をZ軸テーブル38へ装着するときに、第1の突き当て位置決め部35がZ軸テーブル38の所定位置に突き当てられることでほぼ適正な位置に位置決めされ、かつ、キャピラリ34Aをインジェクイションピペット34へ装着するときに、第2の突き当て位置決め部37がインジェクイションピペット34の所定位置に突き当てられることでほぼ適正な位置に位置決めされているので、カメラ18の撮像情報に基づく位置決めのための移動量な僅かな移動範囲で足り得る。
【0074】
言い換えれば、準備段階としての予位置決めがなされることで、本実施の形態のフィードバック制御による位置決め制御がより有効となる。
【0075】
このように、本実施の形態のマニピュレータシステム10では、ミリメートルオーダの駆動から回転モータの分解能以下の微小駆動までの動作が可能となり、かつ操作が容易なマニピュレータシステムを構成することが可能になる。さらに、ピペット24、34のZ軸テーブル28、38への装着、並びに、キャピラリ24A、34Aのピペット24、34への装着に際し、ピペット24、34には第1の突き当て部材35を設け、キャピラリ24A、34Aには第2の突き当て部材37を設けたため、手作業であっても、ある程度の位置決め精度を期待することができ、その後に実行されるカメラ18の撮像情報に基づくフィードバック制御による位置決めの調整量を少なくすることができ、位置決め作業効率を向上することができる。
【0076】
なお、本実施の形態ではインジェクションピペット34の位置決め制御について説明したが、ホールディングピペット24の位置決め制御に用いてもよい。
【0077】
また、マニピュレータシステム10として、ホールディング用マニピュレータ14では、モータ駆動による駆動装置30、32を用いたX−Y軸テーブル26、Z軸テーブル28と、前記Z軸テーブル28にさらにナノポジショナとしての微動機構44、46を搭載し、インジェクション用マニピュレータ16では、モータ駆動による駆動装置40、42を用いたX−Y軸テーブル36、Z軸テーブル38と、前記Z軸テーブル38にさらにナノポジショナとしての微動機構44、46を搭載したが、それぞれX−Yテーブル28、38、並びにZ軸テーブル28、38の駆動源である駆動装置30、32、40、42として、微動機構44、46を用いてもよい。この場合、マニピュレータシステム10の調整は1段階(微調整のみ)となる。
【0078】
さらに、微動機構44をピペット24、34の軸線移動の微調整用とし、微動機構46をピペット24、34のX軸−Y軸−Z軸方向の微調整用としたが、組み合わせに限定はなく、微動機構44をX軸−Y軸−Z軸方向の微調整に用いてもよいし、微動機構46をピペット24、34の軸線移動の微調整に用いてもよい。また、何れか一方のみを適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施形態を示すマニピュレータシステムの構成図である。
【図2】(A)はピペットのZ軸テーブルへの挿入時の正面図(挿入途中)、(B)はピペットのZ軸テーブルへの挿入時の正面図(挿入完了時)である。
【図3】(A)はキャピラリのZ軸テーブルへの挿入時の正面図(挿入途中)、(B)はキャピラリのZ軸テーブルへの挿入時の正面図(挿入完了時)である。
【図4】微動機構(ピペット軸移動用)の詳細を示す断面図である。
【図5】微動機構(ピペットX−Y−Z方向移動用)の詳細を示す断面図である。
【図6】コントローラにおけるカメラの撮像情報に基づく位置決めフィードバック制御のための機能ブロック図である。
【図7】(A)はカメラで撮像するときのピペットの動作状態を示す正面図、(B)は図7(A)の動作時の撮像情報特性図である。
【図8】カメラの撮像情報に基づく位置決めフィードバック制御のためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
10 マニピュレータシステム
12 顕微鏡ユニット
14 ホールディング用マニピュレータ
16 インジェクション用マニピュレータ
18 カメラ(撮像手段)
20 顕微鏡
22 ベース
34 インジェクションピペット
34A キャピラリ
34B 本体部
34C キャピラリ保持部
35 第1の突き当て部材
36 X−Y軸テーブル(移動機構)
37 第2の突き当て部材
38 Z軸テーブル(移動機構)
40 駆動装置(移動機構)
42 駆動装置(移動機構)
43 コントローラ
46 微動機構(ナノポジショナ)
76 ねじ軸
80 圧電素子
100 Z軸範囲動作指示部(位置決め制御手段)
102 微動機構ドライバ
104 画像解析部(位置決め制御手段)
106 時間−Z軸位置情報抽出部(位置決め制御手段)
108 Z軸適正位置判定部(位置決め制御手段)
110 Z軸基準データメモリ(位置決め制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空筒状のボディを備え、試料に対して所定の操作を行うピペットであって、
X軸−Y軸−Z軸の三次元空間へ移動可能なマニピュレータへ装着するときに、当該装着操作方向の移動を、前記マニピュレータに突き当たることで制限する第1の突き当て部材を設けたことを特徴とするピペット。
【請求項2】
中空筒状のボディを備え、試料に対して所定の操作を行うピペットであって、
前記ピペットの先端には、毛細管チップとしてのキャピラリが着脱可能であり、前記キャリラリには、前記ピペットへ装着するときの装着操作方向の移動を、前記ピペットに突き当たることで制限する第2の突き当て部材を設けたことを特徴とするピペット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−229779(P2008−229779A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73308(P2007−73308)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】