説明

フィルター材料としてのナノ多孔性ポリマー発泡体の使用

【課題】フィルター材料として適する材料を提供する。
【解決手段】1つまたはそれ以上のエポキシ樹脂と両親媒性エポキシ樹脂硬化剤とを水中での相反転重合において反応させることによって得られるナノ多孔性ポリマー発泡体により上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター材料としての、ある種のナノ多孔性ポリマー発泡体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーエポキシ樹脂は、以前から知られている。一般的原則として、これらは、1分子あたりに平均して少なくとも2個の末端または側部エポキシド基を有するポリエポキシドを、硬化剤と、より具体的にはアミン硬化剤(ジアミンまたはポリアミン)と反応させることによって製造される。これらのポリマーエポキシ樹脂は、様々な応用分野、主にペイントおよび被覆材料(基材へのトップコートの適用)としての用途を有する。
【0003】
特許文献1は、水ベースのエポキシ樹脂系のための特別の硬化剤を記載しており、これらの硬化剤は、(a)エポキシ化ポリエチレンオキシド、エポキシ化ポリプロピレンオキシドおよびポリエチレン-プロピレンオキシドからなる群から選択される、少なくとも1つのエポキシ化ポリアルキレンオキシド;(b)ビスフェノールAエポキシドおよびビスフェノールFエポキシドからなる群から選択される、少なくとも1つのエポキシ化芳香族ヒドロキシ化合物;および(c)ビスフェノールAおよびビスフェノールFからなる群から選択される、少なくとも1つの芳香族ヒドロキシ化合物;の混合物を反応させて中間体を生成させ、次いでこの中間体をポリアミンと反応させることによって得られる。また開示されているのは、透明なワニスおよび被覆材料を製造するためのこれら硬化剤の使用である(例えば、基材へのトップコートの適用、床被覆のため)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1518875号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、フィルター材料として適する工業用材料を提供することであった。これらのフィルター材料は、特に、高い機械的強度および有機溶媒に対する良好な化学的耐性によって区別されるべきである。さらなる目的は、提供されるフィルター材料が、ナノ粒子ポリマー分散液の分離に適しているべきであることであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1つまたはそれ以上のエポキシ樹脂(E)と両親媒性エポキシ樹脂硬化剤(H)とを水中での相反転重合(PIP)において反応させることによって得られるナノ多孔性ポリマー発泡体の、フィルター材料としての使用を提供する。
【発明の効果】
【0007】
ナノ多孔性ポリマー発泡体は、内部空洞を有するポリマーである。これらは、マクロ孔とミクロ孔の両方を含むスポンジ様の構造体であり、ミクロ孔が優勢であり、それは10〜500nm、より具体的には10〜100nmの範囲内の平均横断面を有する。
【0008】
フィルター材料としての優れた適性に加えて、本発明に従って使用するナノ多孔性ポリマー発泡体は、高い機械的強度および良好な化学的耐性と同時に低い熱伝導性が注目される。また、これは、フィルター材料が機械的に堅牢であることが重要である場合、またはフィルター材料を化学物質に暴露する場合に、該フィルター材料を特に魅力的なものにする。このような場合は、例えば、高圧下で操作することが必要な場合の濾過操作、または化学工業における分離操作、または分析への応用(例えば、クロマトグラフィーにおける固定相など)であろう。特に、後者は、硬化したエポキシポリマーマトリックスの高い溶媒耐性のゆえに特に重要である。さらに、本発明に係るポリマー発泡体は、ナノ粒子ポリマー分散液の分離に特に適する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
エポキシ樹脂(E)
エポキシド化合物(E)は、1分子あたりに平均して少なくとも2個の末端または側部エポキシド基を有するポリエポキシドである。これらのエポキシド化合物は、飽和または不飽和のどちらであってもよく、脂肪族、脂環式、芳香族または複素環式であってよく、また、ヒドロキシル基を含んでいてもよい。さらに、これらは、混合および反応の条件下でどのような破壊的副反応をも起こさない置換基を含むこともできる(例えば、アルキルまたはアリール置換基、エーテル部分など)。
【0010】
これらのエポキシド化合物は、好ましくは、多価(好ましくは二価)のアルコール、フェノール、これらフェノールの水素化生成物に基づく、および/またはノボラック(酸性触媒の存在下での一価または多価フェノールとアルデヒド、特にホルムアルデヒドとの反応生成物)に基づくポリグリシジルエーテルである。
【0011】
これらエポキシド化合物のエポキシド当量は、好ましくは85〜3200、より具体的には170〜830である。ある物質のエポキシド当量は、1モルのオキシラン環を含む該物質の量(g)と定義される。
【0012】
意図する多価フェノールは、好ましくは以下の化合物である:レゾルシノール、ヒドロキノン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)の異性体混合物、テトラブロモビスフェノールA、4,4'-ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン、4,4'-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルジフェニルプロパン、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)イソブタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンなど、ならびに、上記化合物の塩素化および臭素化生成物。ここで、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0013】
また化合物(E)として適するのは、多価アルコールのポリグリシジルエーテルである。このような多価アルコールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール(n=1〜20)、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセロール、イソソルビド、および2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンが含まれる。
【0014】
また、化合物(E)として、ポリカルボン酸のポリグリシジルエーテルを使用することもでき、これらは、エピクロロヒドリンまたは同様のエポキシ化合物と、脂肪族、脂環式または芳香族ポリカルボン酸(例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、および2量化リノレン酸)との反応によって得られる。その例は、アジピン酸ジグリシジル、フタル酸ジグリシジル、およびヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルである。
2つまたはそれ以上のエポキシド化合物(E)の混合物を使用することもできる。
【0015】
上記のように、本発明に係る硬化剤(H)を水性媒体中でエポキシド化合物(E)と相反転重合(PIP)において反応させる、ナノ多孔性ポリマー発泡体の製造において、所望により、当業者に周知である追加の加工助剤および/または補助剤を使用することもできる。その例は、顔料、セメント、砂利、脱気剤、消泡剤、分散助剤、沈降防止剤、促進剤、遊離アミン、流れ制御剤、および伝導性向上剤である。
【0016】
エポキシ樹脂硬化剤(H)
両親媒性エポキシ樹脂硬化剤(H)は、親水性および疎水性の構造要素を有するエポキシ樹脂硬化剤である。
好ましいのは、25℃で水に自己乳化し、さらに、25℃で水にエポキシ樹脂(E)を乳化させることができる両親媒性エポキシ樹脂硬化剤を使用することである。
【0017】
以下の成分:
(A)エポキシ化ポリエチレンオキシド、エポキシ化ポリプロピレンオキシド、およびポリエチレン-プロピレンオキシドからなる群から選択される、少なくとも1つのエポキシ化ポリアルキレンオキシド;
(B)ビスフェノールAエポキシドおよびビスフェノールFエポキシドからなる群から選択される、少なくとも1つのエポキシ化芳香族ヒドロキシ化合物;および
(C)ビスフェノールAおよびビスフェノールFからなる群から選択される少なくとも1つの芳香族ヒドロキシ化合物;
を含んでなる混合物を反応させて中間体を生成させ、次いで、この中間体をポリアミン(P)と反応させることによって得られる硬化剤(H)を使用するのが好ましい。
【0018】
1つの態様において、成分(A)、(B)および(C)のみを反応させて中間体を生成させ、これをさらにポリアミン(P)と反応させる。
別の態様において、中間体[これをのちにポリアミン(P)と反応させて硬化剤を生成させる]を、化合物(A)、(B)および(C)だけでなく、化合物(D)をも用いて製造する。化合物(D)は、トリオールのトリグリシジルエーテルおよびジオールのジグリシジルエーテルの群からの化合物である。化合物(D)のベースとなる適するジオールおよびトリオールの例には、以下のものが含まれる:エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセロール、およびトリメチロールプロパン。
【0019】
化合物(A)
本発明におけるエポキシ化ポリエチレンオキシドとは、ポリエチレンオキシドの2つの末端OH基を、例えば、エピクロロヒドリンとの反応によりオキシラン基に変換することによって得られる化合物である。ここで使用するポリエチレンオキシドは、80〜3000の範囲内の平均分子量を有することができ、これは、当業者に知られるように、C2〜C18アルキレンジオールへのエチレンオキシドの重合を開始することによって製造することができる。
【0020】
本発明におけるエポキシ化ポリプロピレンオキシドとは、ポリプロピレンオキシドの2つの末端OH基を、例えば、エピクロロヒドリンとの反応によりオキシラン基に変換することによって得られる化合物である。ここで使用するポリプロピレンオキシドは、110〜3000の範囲内の平均分子量を有することができ、これは、当業者に知られるように、C2〜C18アルキレンジオールへのプロピレンオキシドの重合を開始することによって製造することができる。
【0021】
本発明におけるポリエチレン-プロピレンオキシドとは、ポリエチレン-プロピレンオキシドの2つの末端OH基を、例えば、エピクロロヒドリンとの反応によりオキシラン基に変換することによって得られる化合物である。ここで使用するポリエチレン-プロピレンオキシドは、80〜3000の範囲内の平均分子量を有することができる。ポリエチレン-プロピレンオキシドとは、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合によって得られる化合物を意味し、この場合、2つの反応物質の重合は、同時にまたはブロック的に行うことができ、プロピレンオキシドの重合および/またはエチレンオキシドの重合を、当業者に知られるように、C2〜C18アルキレンジオールにおいて開始する。
化合物(A)を、個々にまたは互いに混合して使用することができる。
【0022】
化合物(B)
ビスフェノールAエポキシドは、一般的に慣習となっているように、本発明においては、ビスフェノールAをエピクロロヒドリンと反応させることによって、そして/または後者をビスフェノールAとのさらなる反応により重合させることによって得られる化合物であると解される。従って、これらの化合物は、ビスフェノールAジグリシジルエーテルという表示のもとで、または、一般的にエポキシ樹脂としても知られる。市販の製品は、Epikote 828、1001、1002、1003、1004など(Shellから)である。
使用するビスフェノールAエポキシドの分子量は、好ましくは380〜3000の範囲内である。
【0023】
ビスフェノールFエポキシドは、一般的に慣習となっているように、本発明においては、ビスフェノールFをエピクロロヒドリンと反応させることによって、そして/またはビスフェノールFとのさらなる反応により重合させることによって得られる化合物であると解される。従って、これらの化合物は、ビスフェノールFジグリシジルエーテルという表示のもとで、または、一般的にビスフェノールFエポキシ樹脂としても知られる。
使用するビスフェノールFエポキシドの分子量は、好ましくは350〜3000の範囲内である。
化合物(B)を、個々にまたは互いに混合して使用することができる。
【0024】
化合物(C)
ビスフェノールAは、当業者に周知であり、以下の式で示される:
【化1】


同様に、ビスフェノールFも当業者に周知である。
化合物(C)を、個々にまたは互いに混合して使用することができる。
【0025】
化合物(P)
本発明において使用するポリアミン(P)は、1分子あたりに少なくとも2個の窒素原子および少なくとも2個の活性アミノ水素原子を有する第一および/または第二アミンである。脂肪族、芳香族、脂肪族-芳香族、脂環式および複素環式のジアミンおよびポリアミンを使用することができる。適するポリアミン(P)の例は、以下の通りである:ポリエチレンアミン(エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなど)、1,2-プロピレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,3-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、3,3,5-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、3,5,5-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、ビス(3-アミノプロピル)アミン、N,N'-ビス(3-アミノプロピル)-1,2-エタンジアミン、N-(3-アミノプロピル)-1,2-エタンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、アミノエチルピペラジン、ポリ(アルキレンオキシド)ジアミンおよびトリアミン(例えば、Jeffamine D-230、Jeffamine D-400、Jeffamine D-2000、Jeffamine D-4000、Jeffamine T-403、Jeffamine EDR-148、Jeffamine EDR-192、Jeffamine C-346、Jeffamine ED-600、Jeffamine ED-900、Jeffamine ED-2001など)、メタ-キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、トルエンジアミン、イソホロンジアミン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4'-ジアミノジシクロヘキシルメタン、2,4'-ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メチレン架橋により結合したポリ(シクロヘキシル-芳香族)アミンの混合物(MBPCAAとしても知られる)、およびポリアミノアミド。ポリエチレンアミン、より具体的にはジエチレントリアミンが特に好ましい。
化合物(P)を、個々にまたは互いに混合して使用することができる。
【0026】
中間体の製造
1つの態様において、中間体は、化合物(A)および(B)を0.1:1〜5:1のモル比で使用して製造する。
【0027】
1つの態様において、中間体の製造の際に、化合物(A)および(B)の合計(これらの化合物はそれぞれ1分子あたりに2個のオキシラン基を含む):化合物(C)(この化合物は1分子あたりに2個のOH基を含む)のモル比が、1.1:1〜10:1の範囲内であるように設定する。これは、化合物(A)および(B)の合計中のオキシラン環:化合物(C)の反応性水素原子の当量比を、1.1:1〜10:1の範囲内に設定することと同義である。
【0028】
さらなる態様において、即ち、硬化剤の製造過程において少なくとも1つの化合物(D)をも使用する場合、中間体の製造の際に、化合物(A)、(B)および(D)の合計(これらの化合物はそれぞれ1分子あたりに2個のオキシラン基を含む):化合物(C)(この化合物は1分子あたりに2個のOH基を含む)のモル比が、1.1:1.0〜10.0:1.0の範囲内であるように設定する。これは、化合物(A)、(B)および(D)の合計中のオキシラン環:化合物(C)の反応性水素原子の当量比を、1.1:1.0〜10.0:1.0の範囲内に設定することと同義である。
【0029】
この点について、明瞭化のために以下において説明する。表現「当量比」は当業者に周知である。当量の概念の背後にある基本的な考えは、反応に関与するそれぞれの物質について、標的反応に関与する反応性基を考慮することである。そのとき、当量比の言及は、使用する化合物(x)および(y)中の全反応性基の間の数値比を表す。ここで、反応性基とは、最も小さい可能な反応性基であると解されることを念頭に置かなければならない(即ち、反応性基の概念は、官能基の概念と一致しない)。これは、例えばH-酸性化合物の場合、OH基またはNH基はそのような反応性基を構成するが、NH2基はそうではないことを意味する(NH2基には、同じ窒素原子上に位置する2個の反応性H原子が存在する)。ここで、比的には、官能基NH2中の2個の水素原子は反応性基であるとみなされ、従って、官能基NH2は2個の反応性基(即ち水素原子)を含んでいる。
【0030】
1つの態様において、中間体を、触媒、より具体的にはトリフェニルホスフィンまたはヨウ化エチルトリフェニルホスホニウムの存在下に製造する。この場合の触媒量は、化合物(A)、(B)および(C)の全体量を基準に、約0.01〜1.0重量%である。
【0031】
中間体のエポキシド価(%EpO)は、好ましくは10%EpO以下、より具体的には5%EpO以下である。エポキシド価の定義およびその分析的測定の詳細は、本明細書の実施例の項において見ることができる。
【0032】
硬化剤(H)の製造
既に言及したように、硬化剤を製造するために中間体をポリアミン(P)と反応させる。
1つの態様において、中間体およびポリアミン(P)を、(P)のアミノ窒素原子上の反応性H原子:中間体化合物中のオキシラン基の当量比が、4:1〜100:1の範囲内であるような量で使用する。
【0033】
中間体とポリアミンとの反応は、好ましくは、最初にポリアミンを過剰に導入して、本質的に1分子のポリアミン(好ましくはジエチレントリアミン)が、中間体化合物のエポキシド基のそれぞれと反応するのを確実にすることによって行う。遊離アミン含量を最少にするために、過剰のアミンを蒸留によって除去することができる。
【0034】
相反転重合(PIP)
相反転重合(PIP)とは、以下を意味する。最初に、水中のエポキシ樹脂(E)の水性エマルジョンを製造する[両親媒性エポキシ樹脂硬化剤(H)は乳化剤として機能する]。この系(以下において反応系と称することもある)を、最初は水中油エマルジョン(O/Wエマルジョン)として得る。このO/Wエマルジョンの油成分は、もちろんエポキシ樹脂である。
【0035】
それに続く樹脂と硬化剤の反応(重付加の意味での硬化)の過程において相反転が起こる。即ち、反応系が、O/W型のエマルジョンからW/O型のエマルジョンに変化し、この際に、水が、内部相として、硬化ポリマーによって囲まれる。この理由は、硬化の過程において、硬化剤の元の乳化剤特性が変化するためである(重付加によって、硬化剤の性質が疎水性が増大する方向に転換するため)。
【0036】
次いで、完全な硬化の後に、多孔性のポリマーマトリックスが存在し、その空洞中に水相が含まれることになる。この水相を、所望により、乾燥によって除去して、空気が充填された空洞を得ることができる。
相反転重合が起こるための必要な条件は、反応系から水が逃げることができないことである。技術的観点から、これを様々な方法で実現することができる。
【0037】
第1に、反応系を密閉型中に導入することができる。また、反応系を開放系中に導入し、次いで、例えば、(a)十分な大気湿度を気相(通常は周囲空気)との界面に存在させ、反応系の最上層からの水損失または乾燥を防止すること、あるいは(b)気相との界面を、例えばフィルムによって覆うことを確実にすることもできる。
【0038】
ここまでに記載したPIP実施のバージョンは、いわば損失のない態様であるが、さらなるPIP実施のバージョンも存在する。このバージョンにおいては、反応系を開放系に導入するが、気相への境界層の水損失を妨げるための特別の対策を採らない。この場合、境界層における水損失は、密度の高い化学耐性の構造(これをクリアコートとすることができる)を形成し、これが反応系の下層部分のための水障壁を形成し、PIPが該構造において妨げられずに起こりうるという結果になる。反応系の完全な硬化の後、この密度の高い化学耐性の層(通常は0.1〜0.3mmの厚みである)を機械的に除去しなければならない。
【0039】
硬化した系がナノ多孔性構造であることは、得られた材料が透明ではなくむしろ白色であることから、視覚的にも明らかである。
【0040】
1つの好ましい態様において、エポキシ樹脂(E)および硬化剤(H)を、2:1〜1:2の当量比で使用するようにPIPを行う。ここで、(E):(H)の当量比が1:1であるのが特に好ましい。
【0041】
PIPは、O/Wエマルジョンが存在する導入相、およびW/Oエマルジョンの形成によって始まる硬化相によって特徴付けられる。PIPを、0〜100%の大気湿度において行うことができる。PIP反応系の水含量は、95〜20重量%(全反応系を基準に)の範囲内で変化することができる。
【0042】
所望により、増粘剤を反応系に添加することもできる。
反応系を、広い温度範囲で、好ましくは1〜99℃、より具体的には5〜60℃で硬化させることができる。
【0043】
通常のポリマー発泡体の製造方法とは対照的に、充填剤をPIP反応系に添加することもできる。選択した充填剤の使用により、本発明に係るナノ多孔性ポリマー発泡体の機械的特性(例えば、圧縮強度、曲げ強度、弾性率、および密度)にだけでなく、濾過特性に対してもさらなる修飾を行うことができる。ここで、充填剤は、フィルター材料としてのポリマー発泡体の応用を妨げないように選択する。それ以外に、さらなる添加剤をPIP反応系に添加するのが望ましいこともあるが、このような添加剤は、フィルター材料としてのポリマー発泡体の応用を妨げないように選択しなければならない。
【実施例】
【0044】
省略形
以下において:
・EEW=エポキシド当量(上記の通り)
・Mw=平均分子量
・RPM=回転/分
・%=重量%(他に明示することがなければ)
【0045】
使用した原料
エポキシ樹脂(E):Chem Res E20 (Cognis GmbH)
充填剤:中空ガラスビーズK1およびK25 (3M)
中空ガラスビーズK1:3M Deutschland GmbH (充填剤として働く)
中空ガラスビーズK25:3M Deutschland GmbH (充填剤として働く)
【0046】
硬化剤(H):以下の硬化剤H1〜H5を製造した:
硬化剤H1
ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル(EEW:326およびMw:652)(44g)を、20℃において、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(CognisからのChem Res E20;EEW:194)(46.2g)、ビスフェノールA(14.0g)、およびトリフェニルホスフィン(0.1g)と混合した。得られた混合物を160℃に加熱し、エポキシド価が3.95%になるまで、該温度で約3.5時間撹拌した。次いで、これを60℃まで冷却し、該温度でジエチレントリアミン(121.4g)を加えた。発熱反応が弱まった後、再び反応混合物を160℃で2時間加熱した。
【0047】
過剰のジエチレントリアミンを、遊離アミンがもはや蒸留されなくなるまで、減圧下の蒸留によって除去した(200℃の液相温度まで、および10mバール未満の圧力まで)。
次いで、混合物を90℃まで冷却し、十分に撹拌しながら水(89.5g)と混合した。
これにより、粘度(溶媒を含まず、ブルックフィールド、10rpm、40℃)2140mPas、固体含量60%、およびアミン価134を有する、205.6gの透明な琥珀色液体を得た。
【0048】
硬化剤H2
ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル(EEW:326およびMw:652)(44g)を、20℃において、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(CognisからのChem Res E20;EEW:194)(46.2g)、ビスフェノールA(14.0g)、およびトリフェニルホスフィン(0.1g)と混合した。得られた混合物を160℃に加熱し、エポキシド価が3.81%になるまで、該温度で約9時間撹拌した。次いで、これを60℃まで冷却し、該温度でジエチレントリアミン(121.4g)を加えた。発熱反応が弱まった後、再び反応混合物を160℃で2時間加熱した。
【0049】
過剰のジエチレントリアミンを、遊離アミンがもはや蒸留されなくなるまで、減圧下の蒸留によって除去した(200℃の液相温度まで、および10mバール未満の圧力まで)。
次いで、混合物を90℃まで冷却し、十分に撹拌しながら水(89.5g)と混合した。
これにより、粘度(溶媒を含まず、ブルックフィールド、10rpm、40℃)2110mPasおよび固体含量60%を有する、202.3gの透明な琥珀色液体を得た。
【0050】
硬化剤H3
ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル(EEW:326およびMw:652)(44g)を、20℃において、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(CognisからのChem Res E20;EEW:194)(46.2g)、ビスフェノールA(14.0g)、およびトリフェニルホスフィン(0.1g)と混合した。得られた混合物を160℃に加熱し、エポキシド価が4.12%になるまで、該温度で約5時間撹拌した。次いで、これを60℃まで冷却し、該温度でジエチレントリアミン(121.4g)を加えた。発熱反応が弱まった後、再び反応混合物を160℃で2時間加熱した。
【0051】
過剰のジエチレントリアミンを、遊離アミンがもはや蒸留されなくなるまで、減圧下の蒸留によって除去した(200℃の液相温度まで、および10mバール未満の圧力まで)。
次いで、混合物を90℃まで冷却し、十分に撹拌しながら水(90.5g)と混合した。
これにより、粘度(溶媒を含まず、ブルックフィールド、10rpm、40℃)1440mPasおよび固体含量60%を有する、209.2gの透明な黄褐色液体を得た。
【0052】
硬化剤H4
ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル(EEW:326およびMw:652)(34.4g)を、20℃において、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(CognisからのChem Res E20;EEW:194)(46.2g)、ビスフェノールA(14.0g)、ブタンジオールジグリシジルエーテル(EEW:132)(8.9g)、およびトリフェニルホスフィン(0.1g)と混合した。得られた混合物を160℃に加熱し、エポキシド値4.39%が得られるまで、該温度で2時間撹拌した。次いで、これを60℃まで冷却し、該温度でジエチレントリアミン(121.4g)を加えた。発熱反応が弱まった後、再び反応混合物を160℃で2時間加熱した。
【0053】
過剰のジエチレントリアミンを、遊離アミンがもはや蒸留されなくなるまで、減圧下の蒸留によって除去した(200℃の液相温度まで、および10mバール未満の圧力まで)。
次いで、混合物を90℃まで冷却し、十分に撹拌しながら水(91.7g)と混合した。
これにより、粘度(溶媒を含まず、ブルックフィールド、10rpm、40℃)2500mPasおよび固体含量60%を有する211.9gの透明な淡黄色液体を得た。
【0054】
硬化剤H5
ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル(EEW:326およびMw:652)(34.4g)を、20℃において、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(CognisからのChem Res E20;EEW:194)(46.2g)、ビスフェノールA(14.0g)、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(EEW:159.1)(10.7g)、およびトリフェニルホスフィン(0.1g)と混合した。得られた混合物を160℃に加熱し、エポキシド値4.37%が得られるまで、該温度で2時間撹拌した。次いで、これを60℃まで冷却し、該温度でジエチレントリアミン(121.4g)を加えた。発熱反応が弱まった後、再び反応混合物を160℃で2時間加熱した。
【0055】
過剰のジエチレントリアミンを、遊離アミンがもはや蒸留されなくなるまで、減圧下の蒸留によって除去した(200℃の液相温度まで、および10mバール未満の圧力まで)。
次いで、混合物を90℃まで冷却し、十分に撹拌しながら水(93.0g)と混合した。
これにより、粘度(溶媒を含まず、ブルックフィールド、10rpm、40℃)2080mPasおよび固体含量60%を有する、215.1gの透明な淡黄色液体を得た。
【0056】
使用実施例1〜7(フィルター材料の製造)
エポキシ樹脂(E)および硬化剤(H)を、撹拌容器(直径95mm、高さ120mm)に導入し、Pendraulik LM34撹拌機を設定1(約465回転/分)で用いて予備乳化した。使用した(E)および(H)の量は、表1に見ることができる。均一な白色化が対応する均一化を示した。次いで、水を少しずつ加えた(各場合の水の量を表1に示す)。撹拌速度は、生成した栓がもはや存在しなくなるように調節した。予備乳化から処理までの合計時間は約7分間であった。全ての実験を、エポキシ樹脂:硬化剤の当量比を1:1として行った。
【0057】
実施例6および7において充填剤として使用した中空ガラスビーズは、ビーズを破壊しないように、へらを用いて注意深く導入した。
実施例1〜7に関する詳細は、表1に見ることができる。この表は、熱伝導性、曲げ強度および圧縮強度の測定値をも含み、ナノ多孔性ポリマー発泡体が得られた。
【0058】
試料の調製
曲げおよび圧縮強度の測定のための試験試料を製造するために、離型剤T3(Ebalta)を被覆した対応するシリコーン型を使用した。熱伝導性測定のためのシートを、離型剤Loxiol G40(Cognis)を被覆したTeflon型において製造した。脱型を行うまで、注型コンパウンドを覆ったが気密シールはしなかった。試験試料を18時間後に脱型した。乾燥には、23℃で約7日間および55℃で約48時間を要した。
【0059】
熱伝導性測定
熱伝導性は、ISO8301(熱流束測定法に対応する)に従って測定した。シート寸法は150mm×150mmであり、層厚みは20〜25mmの間で変化した。Netzsch HFM 436/3/1E装置を用いて測定を行った(適用した圧力は65Nであった)。選択した測定温度は10℃であり、20Kの温度差を有していた。これは、断熱材のための標準的な測定である。シートを室温で7日間乾燥し、次いで55℃で一定重量まで乾燥した。測定前に、試料を室温で少なくとも72時間保存した(標準条件下での特別の保存を行わなかった)。
【0060】
曲げおよび圧縮強度の測定
曲げおよび圧縮強度を、それぞれDIN53452およびDIN53454に基づく方法によって測定した。標準条件下での保存を行わなかった。試料の幾何的な変化を正確に予測することができなかったので、それを無視した。使用した測定装置は、Bluehill 2.0 ソフトウエアを備えたInstron 5565汎用試験機であった。曲げ試験のための試験試料の寸法は、120mm×10mm×15mmの直方体であり、一方、圧縮試験は、高さ27mmおよび直径12mmの寸法を有する円筒形試験試料を用いて行った。試験速度はDINに示されている。乾燥温度は23℃および55℃であった。
【0061】
【表1】

【0062】
注:「バインダー含量」の行は、単に情報として役立つ。ここでバインダーとは、単純に硬化剤H1とエポキシ樹脂(Chem Res E20)の反応生成物を意味する。即ち、バインダー含量は、系全体の一部として規定されるバインダーの%分率である。例として、実施例1のバインダー含量の算出を、次のように示すことができる:エポキシ樹脂とアミン硬化剤(硬化剤H1)との反応は重付加であり、分子部分の脱離を伴わないので、樹脂と硬化剤の各重量を合計して、得られるバイダーの量が得られる;使用したエポキシ樹脂 Chem Res E20は100%を考慮する(145.1g);使用した硬化剤H1は固体含量60%を有するので、0.6×160.0g=96.0gでのみ考慮する;これにより、系中のバイダーの量は、96.0g+145.1g=241.1gと算出される;系全体はさらに297.6gの水を含有するので、160g+145.1g+297.6g=602.7gの合計量が得られる;系全体中のバイダー分率は、次のように算出される:バインダー(%)=241.1×100/602.7=40.00%。
【0063】
出願人による研究によれば、実施例1〜7の材料は、フィルター材料として極めて適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたはそれ以上のエポキシ樹脂と両親媒性エポキシ樹脂硬化剤とを水中での相反転重合において反応させることによって得られるナノ多孔性ポリマー発泡体の、フィルター材料としての使用。
【請求項2】
使用するエポキシ樹脂硬化剤が、以下の成分:
(A)エポキシ化ポリエチレンオキシド、エポキシ化ポリプロピレンオキシド、およびポリエチレン-プロピレンオキシドからなる群から選択される、少なくとも1つのエポキシ化ポリアルキレンオキシド;
(B)ビスフェノールAエポキシドおよびビスフェノールFエポキシドからなる群から選択される、少なくとも1つのエポキシ化芳香族ヒドロキシ化合物;および
(C)ビスフェノールAおよびビスフェノールFからなる群から選択される、少なくとも1つの芳香族ヒドロキシ化合物;
を含んでなる混合物を反応させて中間体を生成させ、次いで、この中間体をポリアミン(P)と反応させることによって得られる硬化剤である請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ジエチレントリアミンをポリアミン(P)として使用する請求項2に記載の使用。
【請求項4】
エポキシ化ポリプロピレンオキシドを化合物(A)として使用する請求項2または3に記載の使用。
【請求項5】
ビスフェノールAエポキシドを化合物(B)として使用する請求項2〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
ビスフェノールAを化合物(C)として使用する請求項2〜5のいずれかに記載の使用。

【公開番号】特開2010−115649(P2010−115649A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259727(P2009−259727)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】