フィルム状の対象物の表面処理方法
【課題】 非接触で微細な削り作用による表面処理を選択的に行うことができ、特別な走査動作は必要なく一般的な手順により所定パターンの平滑面を容易に仕上げることができるフィルム状の対象物の表面処理方法を提供すること
【解決手段】 磁界発生源の永久磁石20を研磨バイトの先端に設けて駆動手段へ連係させ、対象物1は支持台4の上に載せて支持し、永久磁石を非接触に対面させる。支持台4には表面に硬質部位(凸部40)と非硬質部位(凹部41)とを所定パターンに設ける。永久磁石に回転等の運動動作を行わせるとともに、対象物の表面を順次になぞっていく移動動作を行わせ、通常の一般的な走査動作を行う。永久磁石の近辺には磁気研磨液3を供給し、磁界により生じた磁気クラスタにより流体研磨を行う。硬質部位と非硬質部位とでは研磨の作用が相違し、表面処理を選択的に行うことができる。
【解決手段】 磁界発生源の永久磁石20を研磨バイトの先端に設けて駆動手段へ連係させ、対象物1は支持台4の上に載せて支持し、永久磁石を非接触に対面させる。支持台4には表面に硬質部位(凸部40)と非硬質部位(凹部41)とを所定パターンに設ける。永久磁石に回転等の運動動作を行わせるとともに、対象物の表面を順次になぞっていく移動動作を行わせ、通常の一般的な走査動作を行う。永久磁石の近辺には磁気研磨液3を供給し、磁界により生じた磁気クラスタにより流体研磨を行う。硬質部位と非硬質部位とでは研磨の作用が相違し、表面処理を選択的に行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状の対象物の表面処理方法に関するもので、より具体的には、薄膜で所定幅のフィルム状の対象物に対して、非接触で微細な削り作用による表面処理を行うことで選択的な削り作用を行なう技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
金属リボンや樹脂フィルムなど、薄膜で所定幅のフィルム状の対象物にあっては、製造の際には表面性状の改質を行う表面処理が必要であり、その表面について研磨や洗浄および清浄等の表面処理が行われている。
【0003】
表面処理の一つには鏡面仕上げがあり、上述したフィルム状の対象物でも重要な表面処理となる。つまり、部材表面の鏡面仕上げは外観の美しさを得ることはもちろん、コーティング等の仕上げ工程前の下地作りといった目的から重要となっている。
【0004】
しかし、フィルム状の対象物は薄膜であるため、わずかな力ですぐにシワができ、扱いが難しいという問題がある。例えばポリッシングパッドなど工具を接触させる加工方法は、押さえ力を加えることから対象物に大きな応力が生じ、鏡面仕上げの加工が適正に行えない。
【0005】
鏡面仕上げが行い得る精密研磨の技術として、いわゆる磁気研磨法と呼ばれる技術がよく知られている。これは、磁性流体(MF:Magnetic Fluid)や磁気粘性流体(MRF:Magneto Rheological Fluid)を研磨粒子と混合させ、磁界により混合液を運動させることで研磨を行っている。
【0006】
研磨バイトには永久磁石を備えて磁界発生源とし、その研磨バイトの周りに磁気研磨液(ペースト材料)を付着させると、磁気吸引力によりMFやMRF中の強磁性粒子(例えば、鉄粒子),マグネタイト粒子が、多数凝集して磁気クラスタを形成する。この磁気クラスタは、磁束に沿うので対象物に対立して針状に多数が立ち並ぶ態様を採る。これにより、磁気研磨液が研磨バイトに付着して磁気ブラシとなる。
【0007】
磁気ブラシあるいは対象物が回転動作することにより、両者間の相対運動により磁気ブラシが対象物の表面を接触した状態で移動する。その結果、対象物の表面の凹凸は研磨粒子を伴う磁気ブラシが研磨し、より平滑な表面を得ることができ、非接触の流体研磨が行える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、金属リボンや樹脂フィルムなど、フィルム状の対象物の表面処理については、当該表面の所定部位を部分的に表面処理をしたいという要求がある。つまり、表面全域を均一に平滑面とするのではなく、表面処理を選択的に行うことにより平滑面を所定パターンに仕上げたいという要求がある。これは対象物に対する研磨バイトの走査動作を、要求パターンに対応させて制御することで加工が行えるが、その場合、走査動作の制御が煩雑になり、x軸,y軸の制御シーケンスのセットアップに手間がかかる問題がある。
【0009】
この発明は上述した課題を解決するもので、その目的は、非接触で微細な削り作用による表面処理を選択的に行うことができ、特別な走査動作は必要なく一般的な手順により所定パターンの平滑面を容易に仕上げることができるフィルム状の対象物の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、本発明に係るフィルム状の対象物の表面処理方法は、(1)フィルム状の対象物に対して磁界発生源を非接触に対面させ、周辺に存在させた磁気ペーストを連動し、磁界により生じた粒子集団の微細な削り作用による表面処理を行う方法であって、フィルム状の対象物は支持台の上に載せて支持し、支持台にはフィルム状の対象物を載せる表面に硬質部位と非硬質部位とを所定パターンに設けるようにする。
【0011】
また、(2)非硬質部位は、くぼませて何もない凹所部位とする。あるいは(3)非硬質部位は、ゴム板等の弾性材料を配置した弾性部位とすることもよい。
【0012】
磁気ペーストは、(4)フェライト粒子等の磁性粉末と、水または有機溶剤などの溶媒を混合させて含む組成とし、(5)微細な削り作用を発揮する砥粒として、軟磁性焼結体を混合させて含む組成とすることができる。あるいは(6)磁性粉末が、軟磁性焼結体である組成にすることもよい。
【0013】
本発明では、支持台の表面に硬質部位と非硬質部位とを所定パターンに設けるので、フィルム状の対象物に対する支持の状態が場所に応じて相違し、硬質部位では応力ベクトル(反発力)がはたらき、非硬質部位では反発力がほとんど得られない。非接触に対面させた磁界発生源は、近辺の磁気ペーストから磁界の作用による粒子集団を凝集し、それらが微細な削りを行う磁気ブラシとなり、対象物に対して磁化ベクトルを作用する。この磁化ベクトルに対して、硬質部位では応力ベクトルがはたらくので磁気ブラシによる研磨の作用が得られる。しかし、非硬質部位では応力ベクトルがほとんど得られないので磁気ブラシによる研磨の作用がほとんどない。このため、硬質部位と非硬質部位とでは研磨の作用が相違し、微細な削りの作用量に差が生じるので表面処理を選択的に行うことができる。このとき、磁界発生源の走査動作は対象物の表面を順次になぞっていく通常の走査動作を行うことでよい。
【0014】
非硬質部位は、応力ベクトルが低減する構成であればよいので、(2)所定にくぼませて何もない凹所部位としたり、(3)ゴム板等の弾性材料を配置した弾性部位とするなど、適宜に構成できる。非硬質部位を弾性部位とすると、フィルム状の対象物の裏面に接触した支持になるので、表面処理の作業において位置ズレなどすることなく安定に保持することができるので好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るフィルム状の対象物の表面処理方法では、磁気ペーストに発生させた磁気クラスタにより流体研磨を行うものであり、フィルム状の対象物を支持した支持台には、表面に硬質部位と非硬質部位とを所定パターンに設けるので、フィルム状の対象物に対する支持の状態が場所に応じて相違する。このため、硬質部位と非硬質部位とでは研磨の作用が相違し、微細な削りの作用量に差が生じるので表面処理を選択的に行うことができる。このとき、磁界発生源の走査動作は対象物の表面を順次になぞっていく通常の走査動作を行うものでよい。
【0016】
したがって、非接触での流体研磨による表面処理では、支持台の所定パターンに対応させて選択的に微細な削りが行え、特別な走査動作は必要なく一般的な手順により所定パターンの平滑面を容易に仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明の好適な一実施の形態を示している。本形態において、微細な削り作用による表面処理を行う構成には磁界発生源(永久磁石20)を有する柱状の研磨バイト2を備え、対象物1に対して研磨バイト2を非接触に対面させ、周辺に存在させた磁気ペースト(磁気研磨液3)を連動し、磁界により生じた粒子集団(磁気クラスタ)の微細な削り作用による表面処理を行うようになっている。
【0018】
対象物1としては、金属リボンや樹脂フィルムなど、厚さ数十μmから数百μm程度の薄膜で所定幅のフィルム状の対象物を想定している。この対象物1は支持台4の上に載せて支持し、支持台4には対象物1を載せる表面に硬質部位と非硬質部位とを所定パターンに設けている。本実施形態では、図2,図3に示すように、支持台4の表面に凸部40と凹部41とを所定パターンに形成しており、表面が凹凸であるため対象物1は凸部40へ接触する。つまり、凸部40が硬質部位となり凹部41が非硬質部位になっている。
【0019】
研磨バイト2は、先端に永久磁石20を設けて磁界の発生源とし、他方端の軸部を駆動手段5と連係し、その駆動手段5の駆動により回転動作させるようになっている。そして回転動作に伴って、対象物1と対面した姿勢で平面について移動動作を行い、対象物1の表面に対して走査動作する構成になっている。研磨バイト2には、単に回転動作を行わせるのではなく、例えば正転,逆転の動作を繰り返す反転動作や、当該軸方向に振動動作を行わせるなど、適宜な運動動作を行うようにしてもよい。
【0020】
磁界発生源は永久磁石20には限らず、例えば電磁石なども好ましく適用でき、磁気研磨液3に対して磁界を作用するものであればよい。磁界の発生は時間的に定常的である必要はなく、時間的に変動的な磁界を発生させることもよい。
【0021】
駆動手段5には、例えばNC工作機を用いることができ、ボール盤,旋盤,NC旋盤,フライス盤などの回転軸(チャック部)に研磨バイト2の軸部を取り付けて、着脱を行うようにする。駆動手段5は、支持台4の表面に沿う直交方向をx軸,y軸とするとき、少なくともx軸,y軸について多軸制御の機能を有するものとし、当該駆動手段5を起動することにより研磨バイト2には回転動作およびx軸,y軸について所定に移動する運動動作を行わせる。もちろん、z軸方向について運動動作させるなど、3軸以上の多軸制御が行えるようにしてもよい。
【0022】
研磨バイト2の回転動作では、先端の永久磁石20をむやみと高速回転させることは研磨が過剰になりムラに仕上がる等の不良を起こす問題があるため、平滑面を良好に得るには、当該回転における外周速度を0.1m/sから0.4m/sとすることが好ましい。そして、対象物1に対して永久磁石20の対面間隔は、0.2mmから1mmとすることが好ましい。
【0023】
磁気研磨液3は、磁性粒子および溶媒との2成分を含む。溶媒には植物油脂などを用いている。この磁気研磨液3は対象物1と研磨バイト2との狭間へ供給手段により供給するようになっている。
【0024】
磁性粒子には、フェライト粒子などの軟磁性焼結体や鉄粉等の金属粒子などを用いることができる。フェライト粒子は酸化鉄を主成分とするセラミックスであり大半が強磁性を示し、磁化を持つため磁界をかけることで当該粒子は磁気クラスタを形成する。鉄粉等の磁化し得る金属粒子でも同様であり、磁界をかけることで当該粒子は磁気クラスタを形成する。そして、セラミックスであるフェライト粒子や鉄粉等の金属粒子は、フィルム状の対象物1に対しては十分に硬く、したがって研磨のための砥粒として機能させることができ、磁気クラスタそのものが、微細な削り作用による表面処理を行うための磁気ブラシとなる。
【0025】
磁気研磨液3には樹脂粒子をさらに混在させてもよい。この場合、樹脂粒子は溶媒に溶解しない不溶解性で低融点の樹脂材料から形成し、樹脂粒子の形状は例えば球形状とすればよく、あるいは繊維状等の非球形状に形成してもよい。植物油脂に溶解しない樹脂材料では、例えばポリエチレン(PE),ポリスチレン(PS),ポリメチルメタクリレート(PMMA),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリ塩化ビニル(PVC)などが利用できる。この樹脂粒子の形状は、球形の他に繊維状等の非球形粒子でもよい。
【0026】
研磨バイト2の運動動作は上述したように、単なる回転動作や正転,逆転を繰り返す反転動作など、所定の運動動作を行わせ、そして対面する対象物1に対しては図4に示すように、表面を順次になぞっていく移動動作を行わせ、通常の一般的な走査動作を行う。このとき、研磨バイト2(永久磁石20)の近辺には磁気研磨液3を供給しておく。
【0027】
研磨バイト2と対象物1との間には磁気研磨液3が存在し、当該磁気研磨液3はフェライト粒子や鉄粉など磁性粒子を含み、永久磁石20により磁気研磨液3に時間的に定常的あるいは変動的な磁界が加わると磁気クラスタが生成する。つまり、磁気研磨液中のフェライト粒子や鉄粉など磁性粒子が、磁気吸引力により多数凝集して磁気クラス夕となる。そして、フェライト粒子や鉄粉など磁性粒子は研磨のための砥粒として機能し、磁気クラスタそのものが、微細な削りを行う磁気ブラシとなる。磁気ブラシは、磁束に沿って対象物1に対立して針状に多数が立ち並び、砥粒作用を行うフェライト粒子が対象物1の表面に抑えつけられる。このとき、研磨バイト2は走査動作することから、フェライト粒子は対象物1の表面上を接触しつつ運動して微細な削りを行う。これにより、非接触の微細な削り作用による表面処理を行うことができる。
【0028】
本発明では、支持台4の表面に凸部40(硬質部位)と凹部41(非硬質部位)とを所定パターンに設けるので、フィルム状の対象物1に対する支持の状態が場所に応じて相違し、硬質部位では応力ベクトル(反発力)がはたらき、非硬質部位では反発力がほとんど得られない。
【0029】
非接触に対面させた磁界発生源20は、図3(a)に示すように、近辺の磁気研磨液3(磁気ペースト)から磁界の作用による磁気クラスタ(粒子集団)を凝集し、それらが微細な削りを行う磁気ブラシとなり、対象物1に対して磁化ベクトルを作用する。この磁化ベクトルに対して、硬質部位では応力ベクトルがはたらくので磁気ブラシによる研磨の作用が得られる。しかし、非硬質部位では応力ベクトルがほとんど得られないので磁気ブラシによる研磨の作用がほとんどない。
【0030】
このため、硬質部位と非硬質部位とでは研磨の作用が相違し、微細な削りの作用量に差が生じるので表面処理を選択的に行うことができる。このとき、磁界発生源20の走査動作は対象物1の表面を順次になぞっていく通常の走査動作を行うものでよい。その結果、図3(b)に示すように、非接触で微細な削り作用による表面処理を選択的に行うことができ、特別な走査動作は必要なく一般的な手順により所定パターンの平滑面を容易に仕上げることができる。
【0031】
また対象物1には、例えば水晶を薄膜とした薄膜水晶板なども好ましく、その表面を部分的に処理することができる。
【0032】
上述したように、磁気研磨液3は組成を軟磁性焼結体(フェライト粒子)や鉄粉など磁性粒子および溶媒を含むものとするので、フェライト粒子や鉄粉など磁性粒子は、いわゆる磁気研磨において磁気クラスタを形成する機能と、研磨のための研磨材(砥粒)の機能を発揮することになる。すなわち、磁気クラスタそのものが、微細な削りを行う磁気ブラシとなり、砥粒であるフェライト粒子や鉄粉など磁性粒子は永久磁石20の磁界により磁気ブラシ内に留まり染み出すことがない。したがって、加工面の汚染がなく、砥粒の減少がないため、微細な削り作用による表面処理を高効率に行うことができる。
【0033】
(実験による検証その1)
図1に示す微細な削り処理のための構成により試料の研磨を行った。つまり、表面処理に関する本発明の効果を実証するため、所定の研磨条件において対象物1(試料)の研磨を行い、研磨後の表面粗さRa(算術平均粗さ),Ry(最大粗さ)を評価した。
【0034】
磁気研磨液3は、組成として磁性粉末の混合物80%で植物油脂20%とし、これらを均一に混合することにより調製した。試料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる厚さ100μmのごく薄いフィルム状の対象物とし、表面にはサンドブラスト処理によりキズを付けて最大粗さRy=10μmとしてあり、その表面の研磨を行った。
【0035】
支持台4は、アクリル樹脂から形成して外形寸法を縦60mm,横40mm,厚さ10mmとし、表面の硬質部位は高さ500μmの凸部とし、これは図2に示すように所定のパターンに形成した。
【0036】
研磨バイト2は先端に外径10mmのネオジウム磁石(永久磁石20)を固着させたものとし、その永久磁石20が対象物1に対して間隔0.3mmで対面する高さ位置に調整し、研磨バイト2には回転数500rpmの回転動作を行わせた。そして、研磨バイト2には対象物1に対して平面方向で走査動作を行わせており、走査動作は図4に示すように幅70mmの移動を0.1mmピッチで往復移動するようにした。
【0037】
以上の条件により所定時間の研磨を行い、研磨が完了した後に試料の表面について測定を行った。測定はまず、キーエンス社製の三次元レーザー形状測定器を使用し、横ステップ60μm,縦ステップ120μmのスキャンニングを行い、スキャンデータは色分け表示の画像処理を行った。次に、テンコール社製の表面粗さ段差計(触針式)を使用して表面粗さを測定した。その結果、図5(a),(b)に示す結果を得た。図5(a)は試料表面のレーザスキャン画像データ、図5(b)は表面粗さの測定結果のグラフである。図5(a)には3つの区分(1−1,2−2,3−3)を図示してあり、各区分でのRy(最大粗さ)は、
区分1−1 Ry=10.94μm
区分2−2 Ry=9.51μm
区分3−3 Ry=8.26μm
という結果を得た。図5(b)において、グラフデータが湾曲している理由は、測定の際に試料(フィルム状の対象物)が平坦ではなく、しなっていたことによる。
【0038】
図6は、試料の表面をレーザスキャンした画像データであり、表面粗さの測定ポイントを示している。同図に示す非選択部が支持台4の非硬質部位(凹部41)と対応し、選択部a,選択部bが支持台4の硬質部位(凸部40)と対応している。試料の表面粗さRa(算術平均粗さ),Ry(最大粗さ)は処理前は図7に示すように、
Ra=0.690μm
Ry=8.430μm
という値であったが、研磨した後では非選択部は図8に示すように、
Ra=0.318μm
Ry=3.115μm
であり、選択部aは図9に示すように、
Ra=0.173μm
Ry=0.774μm
であり、選択部bは図10に示すように、
Ra=0.041μm
Ry=0.359μm
となったことを確認した。
【0039】
以上のことから、非選択部に対して選択部a,選択部bでは表面粗さは明らかに低減したレベルを得ており、表面の研磨を選択的に良好に行うことができる。その結果、鏡面仕上げ等の表面処理を効率よく行うことができ、フィルム状の対象物の表面に対して所定パターンの平滑面を容易に仕上げできることを確認した。
【0040】
(支持台の他例)
図11は、本発明に係る支持台の他例を説明する側面図であり、(a)は微細な削り処理の様子を示し、(b)は微細な削り処理が完了した後の様子を示している。
【0041】
支持台4は、上述した図2,図3に示す構成には限らず、適宜に変更できる。図11に示すものでは、所定にくぼませた凹所部位にゴム等の弾性部材6を配置しており、この弾性部位が非硬質部位になっている。
【0042】
非硬質部位は、応力ベクトルが格段に低減した構成であればよいので、ゴム板等の弾性材料6を配置した弾性部位とするなど、適宜に構成できる。非硬質部位を弾性部位とすることでは、対象物の裏面に接触した支持になるので、表面処理の作業において位置ズレをすることなく安定に保持するという点で好ましい。
【0043】
この図11に示す支持台4についても本発明の効果を実証するため、所定の研磨条件において対象物1(試料)の研磨を行い、研磨後の表面粗さRa(算術平均粗さ),Ry(最大粗さ)を評価したところ、上述した図3に示す支持台4と同等の効果が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の好適な一実施の形態を示す側面図である。
【図2】本発明に係る支持台を示す斜視図である。
【図3】フィルム状の対象物に対する微細な削り作用を説明する側面図であり、(a)は微細な削り処理の様子を示し、(b)は微細な削り処理が完了した後の様子を示している。
【図4】支持台の平面図であり、微細な削り処理における走査動作を矢印で示している。
【図5】試料の表面をレーザスキャンした画像データ(a)および表面粗さの測定結果のグラフ(b)である。
【図6】試料の表面をレーザスキャンした画像データであり、表面粗さの測定ポイントを示している。
【図7】試料について表面粗さの測定結果を示すグラフであり、微細な削り処理前の表面粗さを表示している。
【図8】試料について表面粗さの測定結果を示すグラフであり、図6に示す非選択部での表面粗さを表示している。
【図9】試料について表面粗さの測定結果を示すグラフであり、図6に示す選択部aでの表面粗さを表示している。
【図10】試料について表面粗さの測定結果を示すグラフであり、図6に示す選択部bでの表面粗さを表示している。
【図11】本発明に係る支持台の他例を説明する側面図であり、(a)は微細な削り処理の様子を示し、(b)は微細な削り処理が完了した後の様子を示している。
【符号の説明】
【0045】
1 対象物(フィルム状の対象物)
2 研磨バイト
3 磁気研磨液
4 支持台
5 駆動手段
6 弾性部材
20 永久磁石(磁界発生源)
40 硬質部位
41 非硬質部位
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状の対象物の表面処理方法に関するもので、より具体的には、薄膜で所定幅のフィルム状の対象物に対して、非接触で微細な削り作用による表面処理を行うことで選択的な削り作用を行なう技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
金属リボンや樹脂フィルムなど、薄膜で所定幅のフィルム状の対象物にあっては、製造の際には表面性状の改質を行う表面処理が必要であり、その表面について研磨や洗浄および清浄等の表面処理が行われている。
【0003】
表面処理の一つには鏡面仕上げがあり、上述したフィルム状の対象物でも重要な表面処理となる。つまり、部材表面の鏡面仕上げは外観の美しさを得ることはもちろん、コーティング等の仕上げ工程前の下地作りといった目的から重要となっている。
【0004】
しかし、フィルム状の対象物は薄膜であるため、わずかな力ですぐにシワができ、扱いが難しいという問題がある。例えばポリッシングパッドなど工具を接触させる加工方法は、押さえ力を加えることから対象物に大きな応力が生じ、鏡面仕上げの加工が適正に行えない。
【0005】
鏡面仕上げが行い得る精密研磨の技術として、いわゆる磁気研磨法と呼ばれる技術がよく知られている。これは、磁性流体(MF:Magnetic Fluid)や磁気粘性流体(MRF:Magneto Rheological Fluid)を研磨粒子と混合させ、磁界により混合液を運動させることで研磨を行っている。
【0006】
研磨バイトには永久磁石を備えて磁界発生源とし、その研磨バイトの周りに磁気研磨液(ペースト材料)を付着させると、磁気吸引力によりMFやMRF中の強磁性粒子(例えば、鉄粒子),マグネタイト粒子が、多数凝集して磁気クラスタを形成する。この磁気クラスタは、磁束に沿うので対象物に対立して針状に多数が立ち並ぶ態様を採る。これにより、磁気研磨液が研磨バイトに付着して磁気ブラシとなる。
【0007】
磁気ブラシあるいは対象物が回転動作することにより、両者間の相対運動により磁気ブラシが対象物の表面を接触した状態で移動する。その結果、対象物の表面の凹凸は研磨粒子を伴う磁気ブラシが研磨し、より平滑な表面を得ることができ、非接触の流体研磨が行える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、金属リボンや樹脂フィルムなど、フィルム状の対象物の表面処理については、当該表面の所定部位を部分的に表面処理をしたいという要求がある。つまり、表面全域を均一に平滑面とするのではなく、表面処理を選択的に行うことにより平滑面を所定パターンに仕上げたいという要求がある。これは対象物に対する研磨バイトの走査動作を、要求パターンに対応させて制御することで加工が行えるが、その場合、走査動作の制御が煩雑になり、x軸,y軸の制御シーケンスのセットアップに手間がかかる問題がある。
【0009】
この発明は上述した課題を解決するもので、その目的は、非接触で微細な削り作用による表面処理を選択的に行うことができ、特別な走査動作は必要なく一般的な手順により所定パターンの平滑面を容易に仕上げることができるフィルム状の対象物の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、本発明に係るフィルム状の対象物の表面処理方法は、(1)フィルム状の対象物に対して磁界発生源を非接触に対面させ、周辺に存在させた磁気ペーストを連動し、磁界により生じた粒子集団の微細な削り作用による表面処理を行う方法であって、フィルム状の対象物は支持台の上に載せて支持し、支持台にはフィルム状の対象物を載せる表面に硬質部位と非硬質部位とを所定パターンに設けるようにする。
【0011】
また、(2)非硬質部位は、くぼませて何もない凹所部位とする。あるいは(3)非硬質部位は、ゴム板等の弾性材料を配置した弾性部位とすることもよい。
【0012】
磁気ペーストは、(4)フェライト粒子等の磁性粉末と、水または有機溶剤などの溶媒を混合させて含む組成とし、(5)微細な削り作用を発揮する砥粒として、軟磁性焼結体を混合させて含む組成とすることができる。あるいは(6)磁性粉末が、軟磁性焼結体である組成にすることもよい。
【0013】
本発明では、支持台の表面に硬質部位と非硬質部位とを所定パターンに設けるので、フィルム状の対象物に対する支持の状態が場所に応じて相違し、硬質部位では応力ベクトル(反発力)がはたらき、非硬質部位では反発力がほとんど得られない。非接触に対面させた磁界発生源は、近辺の磁気ペーストから磁界の作用による粒子集団を凝集し、それらが微細な削りを行う磁気ブラシとなり、対象物に対して磁化ベクトルを作用する。この磁化ベクトルに対して、硬質部位では応力ベクトルがはたらくので磁気ブラシによる研磨の作用が得られる。しかし、非硬質部位では応力ベクトルがほとんど得られないので磁気ブラシによる研磨の作用がほとんどない。このため、硬質部位と非硬質部位とでは研磨の作用が相違し、微細な削りの作用量に差が生じるので表面処理を選択的に行うことができる。このとき、磁界発生源の走査動作は対象物の表面を順次になぞっていく通常の走査動作を行うことでよい。
【0014】
非硬質部位は、応力ベクトルが低減する構成であればよいので、(2)所定にくぼませて何もない凹所部位としたり、(3)ゴム板等の弾性材料を配置した弾性部位とするなど、適宜に構成できる。非硬質部位を弾性部位とすると、フィルム状の対象物の裏面に接触した支持になるので、表面処理の作業において位置ズレなどすることなく安定に保持することができるので好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るフィルム状の対象物の表面処理方法では、磁気ペーストに発生させた磁気クラスタにより流体研磨を行うものであり、フィルム状の対象物を支持した支持台には、表面に硬質部位と非硬質部位とを所定パターンに設けるので、フィルム状の対象物に対する支持の状態が場所に応じて相違する。このため、硬質部位と非硬質部位とでは研磨の作用が相違し、微細な削りの作用量に差が生じるので表面処理を選択的に行うことができる。このとき、磁界発生源の走査動作は対象物の表面を順次になぞっていく通常の走査動作を行うものでよい。
【0016】
したがって、非接触での流体研磨による表面処理では、支持台の所定パターンに対応させて選択的に微細な削りが行え、特別な走査動作は必要なく一般的な手順により所定パターンの平滑面を容易に仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明の好適な一実施の形態を示している。本形態において、微細な削り作用による表面処理を行う構成には磁界発生源(永久磁石20)を有する柱状の研磨バイト2を備え、対象物1に対して研磨バイト2を非接触に対面させ、周辺に存在させた磁気ペースト(磁気研磨液3)を連動し、磁界により生じた粒子集団(磁気クラスタ)の微細な削り作用による表面処理を行うようになっている。
【0018】
対象物1としては、金属リボンや樹脂フィルムなど、厚さ数十μmから数百μm程度の薄膜で所定幅のフィルム状の対象物を想定している。この対象物1は支持台4の上に載せて支持し、支持台4には対象物1を載せる表面に硬質部位と非硬質部位とを所定パターンに設けている。本実施形態では、図2,図3に示すように、支持台4の表面に凸部40と凹部41とを所定パターンに形成しており、表面が凹凸であるため対象物1は凸部40へ接触する。つまり、凸部40が硬質部位となり凹部41が非硬質部位になっている。
【0019】
研磨バイト2は、先端に永久磁石20を設けて磁界の発生源とし、他方端の軸部を駆動手段5と連係し、その駆動手段5の駆動により回転動作させるようになっている。そして回転動作に伴って、対象物1と対面した姿勢で平面について移動動作を行い、対象物1の表面に対して走査動作する構成になっている。研磨バイト2には、単に回転動作を行わせるのではなく、例えば正転,逆転の動作を繰り返す反転動作や、当該軸方向に振動動作を行わせるなど、適宜な運動動作を行うようにしてもよい。
【0020】
磁界発生源は永久磁石20には限らず、例えば電磁石なども好ましく適用でき、磁気研磨液3に対して磁界を作用するものであればよい。磁界の発生は時間的に定常的である必要はなく、時間的に変動的な磁界を発生させることもよい。
【0021】
駆動手段5には、例えばNC工作機を用いることができ、ボール盤,旋盤,NC旋盤,フライス盤などの回転軸(チャック部)に研磨バイト2の軸部を取り付けて、着脱を行うようにする。駆動手段5は、支持台4の表面に沿う直交方向をx軸,y軸とするとき、少なくともx軸,y軸について多軸制御の機能を有するものとし、当該駆動手段5を起動することにより研磨バイト2には回転動作およびx軸,y軸について所定に移動する運動動作を行わせる。もちろん、z軸方向について運動動作させるなど、3軸以上の多軸制御が行えるようにしてもよい。
【0022】
研磨バイト2の回転動作では、先端の永久磁石20をむやみと高速回転させることは研磨が過剰になりムラに仕上がる等の不良を起こす問題があるため、平滑面を良好に得るには、当該回転における外周速度を0.1m/sから0.4m/sとすることが好ましい。そして、対象物1に対して永久磁石20の対面間隔は、0.2mmから1mmとすることが好ましい。
【0023】
磁気研磨液3は、磁性粒子および溶媒との2成分を含む。溶媒には植物油脂などを用いている。この磁気研磨液3は対象物1と研磨バイト2との狭間へ供給手段により供給するようになっている。
【0024】
磁性粒子には、フェライト粒子などの軟磁性焼結体や鉄粉等の金属粒子などを用いることができる。フェライト粒子は酸化鉄を主成分とするセラミックスであり大半が強磁性を示し、磁化を持つため磁界をかけることで当該粒子は磁気クラスタを形成する。鉄粉等の磁化し得る金属粒子でも同様であり、磁界をかけることで当該粒子は磁気クラスタを形成する。そして、セラミックスであるフェライト粒子や鉄粉等の金属粒子は、フィルム状の対象物1に対しては十分に硬く、したがって研磨のための砥粒として機能させることができ、磁気クラスタそのものが、微細な削り作用による表面処理を行うための磁気ブラシとなる。
【0025】
磁気研磨液3には樹脂粒子をさらに混在させてもよい。この場合、樹脂粒子は溶媒に溶解しない不溶解性で低融点の樹脂材料から形成し、樹脂粒子の形状は例えば球形状とすればよく、あるいは繊維状等の非球形状に形成してもよい。植物油脂に溶解しない樹脂材料では、例えばポリエチレン(PE),ポリスチレン(PS),ポリメチルメタクリレート(PMMA),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリ塩化ビニル(PVC)などが利用できる。この樹脂粒子の形状は、球形の他に繊維状等の非球形粒子でもよい。
【0026】
研磨バイト2の運動動作は上述したように、単なる回転動作や正転,逆転を繰り返す反転動作など、所定の運動動作を行わせ、そして対面する対象物1に対しては図4に示すように、表面を順次になぞっていく移動動作を行わせ、通常の一般的な走査動作を行う。このとき、研磨バイト2(永久磁石20)の近辺には磁気研磨液3を供給しておく。
【0027】
研磨バイト2と対象物1との間には磁気研磨液3が存在し、当該磁気研磨液3はフェライト粒子や鉄粉など磁性粒子を含み、永久磁石20により磁気研磨液3に時間的に定常的あるいは変動的な磁界が加わると磁気クラスタが生成する。つまり、磁気研磨液中のフェライト粒子や鉄粉など磁性粒子が、磁気吸引力により多数凝集して磁気クラス夕となる。そして、フェライト粒子や鉄粉など磁性粒子は研磨のための砥粒として機能し、磁気クラスタそのものが、微細な削りを行う磁気ブラシとなる。磁気ブラシは、磁束に沿って対象物1に対立して針状に多数が立ち並び、砥粒作用を行うフェライト粒子が対象物1の表面に抑えつけられる。このとき、研磨バイト2は走査動作することから、フェライト粒子は対象物1の表面上を接触しつつ運動して微細な削りを行う。これにより、非接触の微細な削り作用による表面処理を行うことができる。
【0028】
本発明では、支持台4の表面に凸部40(硬質部位)と凹部41(非硬質部位)とを所定パターンに設けるので、フィルム状の対象物1に対する支持の状態が場所に応じて相違し、硬質部位では応力ベクトル(反発力)がはたらき、非硬質部位では反発力がほとんど得られない。
【0029】
非接触に対面させた磁界発生源20は、図3(a)に示すように、近辺の磁気研磨液3(磁気ペースト)から磁界の作用による磁気クラスタ(粒子集団)を凝集し、それらが微細な削りを行う磁気ブラシとなり、対象物1に対して磁化ベクトルを作用する。この磁化ベクトルに対して、硬質部位では応力ベクトルがはたらくので磁気ブラシによる研磨の作用が得られる。しかし、非硬質部位では応力ベクトルがほとんど得られないので磁気ブラシによる研磨の作用がほとんどない。
【0030】
このため、硬質部位と非硬質部位とでは研磨の作用が相違し、微細な削りの作用量に差が生じるので表面処理を選択的に行うことができる。このとき、磁界発生源20の走査動作は対象物1の表面を順次になぞっていく通常の走査動作を行うものでよい。その結果、図3(b)に示すように、非接触で微細な削り作用による表面処理を選択的に行うことができ、特別な走査動作は必要なく一般的な手順により所定パターンの平滑面を容易に仕上げることができる。
【0031】
また対象物1には、例えば水晶を薄膜とした薄膜水晶板なども好ましく、その表面を部分的に処理することができる。
【0032】
上述したように、磁気研磨液3は組成を軟磁性焼結体(フェライト粒子)や鉄粉など磁性粒子および溶媒を含むものとするので、フェライト粒子や鉄粉など磁性粒子は、いわゆる磁気研磨において磁気クラスタを形成する機能と、研磨のための研磨材(砥粒)の機能を発揮することになる。すなわち、磁気クラスタそのものが、微細な削りを行う磁気ブラシとなり、砥粒であるフェライト粒子や鉄粉など磁性粒子は永久磁石20の磁界により磁気ブラシ内に留まり染み出すことがない。したがって、加工面の汚染がなく、砥粒の減少がないため、微細な削り作用による表面処理を高効率に行うことができる。
【0033】
(実験による検証その1)
図1に示す微細な削り処理のための構成により試料の研磨を行った。つまり、表面処理に関する本発明の効果を実証するため、所定の研磨条件において対象物1(試料)の研磨を行い、研磨後の表面粗さRa(算術平均粗さ),Ry(最大粗さ)を評価した。
【0034】
磁気研磨液3は、組成として磁性粉末の混合物80%で植物油脂20%とし、これらを均一に混合することにより調製した。試料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる厚さ100μmのごく薄いフィルム状の対象物とし、表面にはサンドブラスト処理によりキズを付けて最大粗さRy=10μmとしてあり、その表面の研磨を行った。
【0035】
支持台4は、アクリル樹脂から形成して外形寸法を縦60mm,横40mm,厚さ10mmとし、表面の硬質部位は高さ500μmの凸部とし、これは図2に示すように所定のパターンに形成した。
【0036】
研磨バイト2は先端に外径10mmのネオジウム磁石(永久磁石20)を固着させたものとし、その永久磁石20が対象物1に対して間隔0.3mmで対面する高さ位置に調整し、研磨バイト2には回転数500rpmの回転動作を行わせた。そして、研磨バイト2には対象物1に対して平面方向で走査動作を行わせており、走査動作は図4に示すように幅70mmの移動を0.1mmピッチで往復移動するようにした。
【0037】
以上の条件により所定時間の研磨を行い、研磨が完了した後に試料の表面について測定を行った。測定はまず、キーエンス社製の三次元レーザー形状測定器を使用し、横ステップ60μm,縦ステップ120μmのスキャンニングを行い、スキャンデータは色分け表示の画像処理を行った。次に、テンコール社製の表面粗さ段差計(触針式)を使用して表面粗さを測定した。その結果、図5(a),(b)に示す結果を得た。図5(a)は試料表面のレーザスキャン画像データ、図5(b)は表面粗さの測定結果のグラフである。図5(a)には3つの区分(1−1,2−2,3−3)を図示してあり、各区分でのRy(最大粗さ)は、
区分1−1 Ry=10.94μm
区分2−2 Ry=9.51μm
区分3−3 Ry=8.26μm
という結果を得た。図5(b)において、グラフデータが湾曲している理由は、測定の際に試料(フィルム状の対象物)が平坦ではなく、しなっていたことによる。
【0038】
図6は、試料の表面をレーザスキャンした画像データであり、表面粗さの測定ポイントを示している。同図に示す非選択部が支持台4の非硬質部位(凹部41)と対応し、選択部a,選択部bが支持台4の硬質部位(凸部40)と対応している。試料の表面粗さRa(算術平均粗さ),Ry(最大粗さ)は処理前は図7に示すように、
Ra=0.690μm
Ry=8.430μm
という値であったが、研磨した後では非選択部は図8に示すように、
Ra=0.318μm
Ry=3.115μm
であり、選択部aは図9に示すように、
Ra=0.173μm
Ry=0.774μm
であり、選択部bは図10に示すように、
Ra=0.041μm
Ry=0.359μm
となったことを確認した。
【0039】
以上のことから、非選択部に対して選択部a,選択部bでは表面粗さは明らかに低減したレベルを得ており、表面の研磨を選択的に良好に行うことができる。その結果、鏡面仕上げ等の表面処理を効率よく行うことができ、フィルム状の対象物の表面に対して所定パターンの平滑面を容易に仕上げできることを確認した。
【0040】
(支持台の他例)
図11は、本発明に係る支持台の他例を説明する側面図であり、(a)は微細な削り処理の様子を示し、(b)は微細な削り処理が完了した後の様子を示している。
【0041】
支持台4は、上述した図2,図3に示す構成には限らず、適宜に変更できる。図11に示すものでは、所定にくぼませた凹所部位にゴム等の弾性部材6を配置しており、この弾性部位が非硬質部位になっている。
【0042】
非硬質部位は、応力ベクトルが格段に低減した構成であればよいので、ゴム板等の弾性材料6を配置した弾性部位とするなど、適宜に構成できる。非硬質部位を弾性部位とすることでは、対象物の裏面に接触した支持になるので、表面処理の作業において位置ズレをすることなく安定に保持するという点で好ましい。
【0043】
この図11に示す支持台4についても本発明の効果を実証するため、所定の研磨条件において対象物1(試料)の研磨を行い、研磨後の表面粗さRa(算術平均粗さ),Ry(最大粗さ)を評価したところ、上述した図3に示す支持台4と同等の効果が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の好適な一実施の形態を示す側面図である。
【図2】本発明に係る支持台を示す斜視図である。
【図3】フィルム状の対象物に対する微細な削り作用を説明する側面図であり、(a)は微細な削り処理の様子を示し、(b)は微細な削り処理が完了した後の様子を示している。
【図4】支持台の平面図であり、微細な削り処理における走査動作を矢印で示している。
【図5】試料の表面をレーザスキャンした画像データ(a)および表面粗さの測定結果のグラフ(b)である。
【図6】試料の表面をレーザスキャンした画像データであり、表面粗さの測定ポイントを示している。
【図7】試料について表面粗さの測定結果を示すグラフであり、微細な削り処理前の表面粗さを表示している。
【図8】試料について表面粗さの測定結果を示すグラフであり、図6に示す非選択部での表面粗さを表示している。
【図9】試料について表面粗さの測定結果を示すグラフであり、図6に示す選択部aでの表面粗さを表示している。
【図10】試料について表面粗さの測定結果を示すグラフであり、図6に示す選択部bでの表面粗さを表示している。
【図11】本発明に係る支持台の他例を説明する側面図であり、(a)は微細な削り処理の様子を示し、(b)は微細な削り処理が完了した後の様子を示している。
【符号の説明】
【0045】
1 対象物(フィルム状の対象物)
2 研磨バイト
3 磁気研磨液
4 支持台
5 駆動手段
6 弾性部材
20 永久磁石(磁界発生源)
40 硬質部位
41 非硬質部位
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の対象物に対して磁界発生源を非接触に対面させ、周辺に存在させた磁気ペーストを連動し、磁界により生じた粒子集団の微細な削り作用による表面処理を行うフィルム状の対象物の表面処理方法であって、
前記フィルム状の対象物は支持台の上に載せて支持し、
前記支持台には前記フィルム状の対象物を載せる表面に硬質部位と非硬質部位とを所定パターンに設けることを特徴とするフィルム状の対象物の表面処理方法。
【請求項2】
前記非硬質部位は、くぼませて何もない凹所部位とすることを特徴とする請求項1に記載のフィルム状の対象物の表面処理方法。
【請求項3】
前記非硬質部位は、ゴム板等の弾性材料を配置した弾性部位とすることを特徴とする請求項1に記載のフィルム状の対象物の表面処理方法。
【請求項4】
前記磁気ペーストは、フェライト粒子等の磁性粉末と、水または有機溶剤などの溶媒を混合させて含む組成とすることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のフィルム状の対象物の表面処理方法。
【請求項5】
前記磁気ペーストは、微細な削り作用を発揮する砥粒とし、軟磁性焼結体を混合させて含む組成とすることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のフィルム状の対象物の表面処理方法。
【請求項6】
前記磁性粉末が、軟磁性焼結体である組成とすることを特徴とする請求項4に記載のフィルム状の対象物の表面処理方法。
【請求項1】
フィルム状の対象物に対して磁界発生源を非接触に対面させ、周辺に存在させた磁気ペーストを連動し、磁界により生じた粒子集団の微細な削り作用による表面処理を行うフィルム状の対象物の表面処理方法であって、
前記フィルム状の対象物は支持台の上に載せて支持し、
前記支持台には前記フィルム状の対象物を載せる表面に硬質部位と非硬質部位とを所定パターンに設けることを特徴とするフィルム状の対象物の表面処理方法。
【請求項2】
前記非硬質部位は、くぼませて何もない凹所部位とすることを特徴とする請求項1に記載のフィルム状の対象物の表面処理方法。
【請求項3】
前記非硬質部位は、ゴム板等の弾性材料を配置した弾性部位とすることを特徴とする請求項1に記載のフィルム状の対象物の表面処理方法。
【請求項4】
前記磁気ペーストは、フェライト粒子等の磁性粉末と、水または有機溶剤などの溶媒を混合させて含む組成とすることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のフィルム状の対象物の表面処理方法。
【請求項5】
前記磁気ペーストは、微細な削り作用を発揮する砥粒とし、軟磁性焼結体を混合させて含む組成とすることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のフィルム状の対象物の表面処理方法。
【請求項6】
前記磁性粉末が、軟磁性焼結体である組成とすることを特徴とする請求項4に記載のフィルム状の対象物の表面処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−95960(P2009−95960A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272103(P2007−272103)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】
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