説明

フェライト構造を有する冷間圧延ストリップを製造する方法

本発明は、フェライト構造を有する冷間圧延ストリップを製造する方法に関する。前記方法によると、冷却時にフェライト構造を形成する溶融鋼をストリップへ鋳造し、必要により、前記鋳造ストリップをインラインで熱間圧延して巻き取り、そして、次に1つ以上の工程で冷間圧延して冷間圧延ストリップを形成する。前記タイプの方法によって、冷間成形加工間でのオレンジピール外観及びリジングの形成のリスクが最小限化される冷間圧延ストリップの製造が可能になる。前記目的を達成するためには、鋳造加工及び巻き取り加工の間で、1180℃より高い開始温度から、少なくとも150/秒の冷却速度で、最大中間温度1000℃まで前記鋳造ストリップを冷却し、そして、次に900〜1000℃の間の維持温度で10秒間保持する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、フェライト構造を有するコールドストリップの製造方法であって、
冷却時にフェライト構造を形成する溶融鋼を鋳造ストリップ(gegossenen Band)へ鋳造し、そして、
必要により、鋳造ストリップをインラインで熱間圧延し、熱間圧延ストリップを巻き取り、そして、1つ以上の工程で冷間圧延して、コールドストリップを形成する、前記方法に関する。
【0002】
ニッケルが高値であるために、通常、製造関連付随元素としてニッケルを含有するフェライト系ステンレス鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼の代わりに世界中でだんだんと用いられている。このフェライト系ステンレス鋼の代用を可能にする前記タイプの方法は、例えば、欧州特許EP0881305B1から公知である。先行技術方法によると(以下、重量%で表示)、最大0.12%C、最大1%Mn、最大1%Si、最大0.04%P、最大0.030%S、16〜18%Cr、並びに、残余鉄及び不可避の不純物を含むステンレスのフェライト鋼を、双ロール式鋳造機のロール間に形成される鋳造間隔中で、ストリップへ鋳造する。続いて、鋳造ストリップを冷却し、その冷却加工間では、ストリップがオーステナイト−フェライト変態域中に保持されることを回避する。冷却後、600℃〜マルテンサイト変態温度の間にある温度で、前記ストリップを巻き取る。
【0003】
続いて、巻き取られたストリップを、最大速度300℃/時で、200℃〜室温の間の温度まで冷却する。最後に、巻き取られたストリップのバッチ式焼鈍(それ自体公知である)を行う。
【0004】
フェライト鋼板の製造で通常実施されるスラブの連続鋳造を介する手段によって、スラブの表面を最初に形状付与し、次に、前記スラブを再加熱し、その後、前記スラブをホットストリップミル中でホットストリップへ熱間圧延し、そして、コイルへ巻き取る。前記方法で得られるホットストリップを焼鈍して、酸洗いし、そして、複数のパスで冷間圧延する。最後に、コールドストリップを通常光輝焼鈍し、そして、スキンパス圧延する。
【0005】
ホットストリップを製造する前述のいずれの方法にも関わらず、17%の範囲でCr含有量を有するフェライト系ステンレス鋼製の冷間圧延ストリップに関する問題は、その後の冷間作業(特に、深絞り)の過程で、リジング(Zugrilligkeit)又はオレンジピール(Orangenhaut)が形成されることである。本明細書において「リジング」は、極めて著しい直線状の表面欠陥を意味し、これは、フェライト系クロム鋼の場合では圧延方向に発生する。もう一方で、「オレンジピール」として示される表面欠陥は、無方向性であり、表面の粗雑な外観を特徴とする。
【0006】
追加費用によって、公知の製造手段の1つを介して製造されるホットストリップを、個々の冷間圧延パス間で中間焼鈍する場合には、リジング又はオレンジピールの形成を回避することができる。しかしながら、これらの高価な焼鈍工程は製造コストを増加させ、結果として、オーステナイト系ステンレス鋼製の同等の材料と比べて、フェライト系ステンレス鋼の市場価格が高くなる。
【0007】
従って、本発明の目的は、フェライト系ステンレス鋼から冷間圧延ストリップを製造することのできる方法であって、冷間成形加工の間でオレンジピール又はリジングの形成のリスクを最小化させる前記方法を提供することである。
【0008】
本発明によると、前記目的は、
本明細書の前提部に記載のタイプの方法において、
鋳造ストリップを、鋳造工程と巻き取り工程との間に、少なくとも150℃/秒の冷却速度で、1180℃以上の開始温度から最高1000℃の中間温度まで冷却し、そして、次に、900〜1000℃の間の維持温度で少なくとも10秒間保持すること
によって達成される。
【0009】
集中冷却(intnsive Abkuehlung)の実際の開始温度は、通常、1180〜1270℃(特に、1200〜1250℃)の間にある。1180℃の最小温度に到達しない場合には、多量のオーステナイトが、ストリップ端部で生じることができるので、本発明の方法の達成を損なうことがある。
【0010】
前記先行技術の鋼は、本発明の方法の実施に特に適当である。前記鋼は、フェライト構造を形成する10〜18重量%のCrを含有するステンレス鋼のカテゴリーに属し、そして、フェライトから開始される冷却の過程でオーステナイトへ完全に変態せず、再度フェライトへ変態する。前記鋼は、残余鉄及び不可避不純物に加えて、0.08%までのC、10〜18%Cr、1%までのSi、1.5%までのMn、1%までのNi、0.04%までのP及び0.015%までのS(重量%で表示)を通常含有する。本明細書中に存在するNi含有量は、金属学的に意味のある添加ではないが、製造加工の結果として生じるものであり、そして、Niを含有する鋳物レードル、コンバーター、又は炉を介して、溶融鋼に混入する。通常、本発明により加工される鋼のNi含有量は、0.7〜0.8重量%である。
【0011】
本発明の方法の有効性に決定的なことは、ストリップの鋳造と、急冷と、950±50℃(特に、950±20℃)の温度で、短くとも10秒の十分な期間にわたる鋳造ストリップの保持と、の組み合わせである。驚くべきことに、冷間圧延段階の間で実施されるべき高価な中間焼鈍なしで、本発明により熱処理される種類の鋳造ストリップから製造されたコールドストリップの冷間成形間に、リジング又はオレンジピールのどちらも発生しないことが分かった。
【0012】
本発明により使用される合金鋼は、ストリップ鋳造の過程の間で、初めにフェライトで凝固する。凝固したストリップが冷却する場合に、フェライトは、1200℃〜800℃の間でオーステナイトへ部分的に変態する。熱力学的原因は、フェライトにおける炭素の溶解度(温度と共に減少する)が極めて低いことにある。炭素を吸収することもできる炭化物は、900℃未満でのみ形成される。一方で、オーステナイトにおける炭素の溶解度は、実質的により高い。
【0013】
通常の冷却間では、粒界でのみオーステナイトが形成される。なぜなら、フェライト中の炭素が、再度急速に拡散し、そして、結晶粒内部から端部まで移動することができるからである。従って、フェライト粒界は、オーステナイトによって標識(markieren)される。900℃未満の温度で炭化物が形成されるとすぐに、粒界でのオーステナイト部分が再度減少する。しかしながら、炭化物形成の進行が比較的遅いために、オーステナイトの減少が完全に生じないので、その結果、オーステナイト残余物が残り、それは200〜300℃の温度範囲でマルテンサイトへ変態する。従って、従来の作業方法により粒界で残っている残余オーステナイトによって、粗い鋳造構造がつくられる。
【0014】
本発明に基づく構想は、最大のオーステナイト部分を伴うおよその温度(950℃±50℃、特に、950℃±20℃)までの極めて急速な冷却からなる。この場合、短い冷却期間で対象とされる拡散距離が、炭素及び更に置換型元素(substitutionelle Elemente;Cr,Ni,Mnなど)にとって十分ではないので、粒界でのオーステナイト形成が最小化する。
【0015】
同時に、オーステナイト形成を促進する力は、約950℃の維持温度範囲で最も大きく、そして、温度依存拡散係数が非常に低いため、核生成によってオーステナイト粒子が結晶粒内部に形成される。実質的に少ない拡散係数によって、個々の合金中に含まれる置換型元素の分散が変化しないか、又は、わずかな程度(パラ−平衡)のみで変化する。同時に、炭素過飽和が減少する。
【0016】
本発明による前記方法での鋳造ストリップ材料が、最低10秒間(好ましくは20秒間)前記温度で保持される場合には、構造欠陥部で、オーステナイト粒子が結晶粒内に析出を開始する。もともとの鋳造構造を破壊する新しい結晶粒が、フェライトマトリックス中で発展する。保持期間が長ければ長くなるほど、粒子密度が大きくなる。前記析出メカニズムによって結晶粒微細化が生じ、これにより、本発明により製造されるコールドストリップのリジング及びオレンジピールの形成が鈍らされる。
【0017】
本発明による鋳造ストリップの集中冷却の間で、冷却速度が速ければ速いほど、本発明で目的としているように、より確実にオーステナイト形成が抑制される。従って、原則的に、可能な限り速い冷却速度が追求される。しかしながら、これに関連する実用試験では、本発明により利用される効果が、冷却速度150〜250℃/秒で確実に生じることが分かった。
【0018】
本明細書中で説明される本発明の本質的な方法に基づいて、本発明の異なる変形例(Variant)が生じ、これらは、それぞれ製造されるべきコールドストリップの目的の特性組み合わせ、それぞれ得られる鋳造ストリップの熱間成形態様、利用可能な設備技術、又は実務業務(Betriebslogistik)の要求によって選択されることができる。従って、例えば、集中冷却を最初に実施し、次に、熱間圧延又は初期圧延(フェライト域中で1200℃を超えて)し、そして、次に急冷を実施することができる。更に、1200〜800℃の間の二相域を、非常に速く経過させることもできる。続いて、最初にオーステナイトを形成させずに、炭素で過飽和されるフェライトを凝固(einfrieren)させる。800℃未満から維持温度まで素早く加熱を実施する場合には、結晶粒内部で再度オーステナイトが形成される。この場合、維持温度までの特に素早い再加熱が、作業結果に好ましい影響をもたらす。加熱が非常に遅く実施される場合には、粒界で望ましくないオーステナイトが形成され、更に、炭素拡散によって結晶粒内部の炭素過飽和が減少して、もともとの鋳造組織が最終的に固定されてしまう。更に、800〜900℃の温度範囲で長時間保持することを避けることが好ましい。なぜなら、前記温度範囲において、およそ100秒後に、炭化物形成によって炭素過飽和が減少されることが、実用試験で証明されているからである。
【0019】
冷却の過程で、500℃未満の温度(例えば、室温)に到達する場合に、炭化物が形成されない。それとは反対に、過飽和したフェライトが凝固し、そして、それを次に950℃まで(オフラインで)急速に再加熱することによって、結晶粒内部でオーステナイト粒子を形成することができる。
【0020】
本発明に基づいて、次に、本発明による集中冷却間に鋳造ストリップを900℃〜1000℃の中間温度まで冷却するので、その結果、直接的な方法で、本発明に決定的に重要な温度に素早く到達する。
【0021】
本発明による中間温度までの急冷、及び、鋳造工程と巻き取り工程との間の維持温度での保持(この場合、鋳造工程と巻き取り工程との間の熱間圧延は省略される)は、前記方法によって得られるコールドストリップのリジング及びオレンジピール形成を鈍らせるという好ましい影響をもたらす、ということが実用試験で分かっている。しかしながら、例えば、双ロール式鋳造機を介して従来法により製造される前記鋳造ストリップの場合には、そのミクロ組織形成及びその特性分布の均質性に関して、鋳造ストリップは、通常、ストリップ鋳造工程と巻き取り工程との間に、少なくとも1つのパスで熱間圧延される。オーステナイト粒子の密度及び析出速度は、熱間変形により増加する。なぜなら、構造的な欠陥が、そのミクロ組織中に導入されるからである。結晶粒微細化のための前記メカニズムの利用は、変形条件の最適な選択と、冷却及び加熱速度とに左右される。原則として、急加熱又は急冷は、薄ストリップ上でのみ達成されることができる。従って、本発明の方法の鋳造により製造されるストリップは、前記熱機械処理用に特に適当である。
【0022】
本発明の方法により熱間圧延が実施される場合には、最初に、ストリップを厚さ1〜5mm(特に、2〜3mm)まで直接鋳造し、次に、インラインで鋳造ストリップを減少率(Stichabnahme)5〜60%(特に、10〜40%)で熱間圧延することが好ましい。この場合、本発明による方法の機能により、必要により実施される熱間圧延に関して選択されるべきストリップの温度制御が可能になる。その結果、それぞれ加工される鋼の延性態様、又は、得られるストリップの望ましい特性組み合わせに最適に適合する温度条件が、熱間圧延間で広がる。
【0023】
従って、熱間圧延を含めると、本発明方法には以下の変形例が含まれる。
【0024】
変形例1:
−鋳造ストリップを鋳造する;
−熱間圧延温度1180℃以上、通常、1180〜1270℃(熱間圧延の過程で実施される鋳造ストリップの初期冷却)でストリップを熱間圧延する;
−熱間圧延後直ちに、少なくとも150℃/秒の冷却速度で、900〜1000℃の温度まで冷却する(ここで、中間温度及び維持温度は前記温度と等しい);
−900〜1000℃(特に、950℃±20℃)の間の相当する温度でストリップを少なくとも10秒間保持する。
【0025】
本発明の方法の第一の変形例に関して、ストリップの本発明による冷却及び保持は、熱間圧延後のみで実施される。この場合、同様に、熱間圧延後可能な限りすぐに冷却を開始することが好ましく、従って、実際には、最終熱間圧延スタンドを離れた後、3秒未満以内(特に、1秒以内)に冷却を開始することが好ましい。ここで、鋳造ストリップの鋳造熱を熱間圧延段階へ直接導入することができるので、高い熱間圧延温度が可能になるだけではなく、ストリップの温度を制御するのに必要なエネルギー消費を最小限に抑えることもできる。
【0026】
変形例2:
−鋳造ストリップを鋳造する;
−少なくとも150℃/秒の冷却速度で、中間温度900〜1000℃まで冷却する;
−中間温度でストリップを熱間圧延する;
−900〜1000℃の間にあって、そして、特に、中間温度と実質的に等しいか、又は、950℃±20℃に達する維持温度で、少なくとも10秒間ストリップを保持する。
【0027】
本発明の前記変形例では、中間温度までの冷却を熱間圧延前に実施し、そして、鋳造ストリップが熱間圧延された後に維持温度で保持する。続いて、900〜1000℃の温度範囲における熱間圧延によって、オーステナイト形成の核点としての役目を果たす更なる転位が、維持温度で保持される間に熱間圧延ストリップのミクロ構造中で起こる。
【0028】
変形例3:
−鋳造ストリップを鋳造する;
−少なくとも150℃/秒の冷却速度で、中間温度900〜1000℃まで冷却する;
−900〜1000℃の間にあって、そして、特に、中間温度と実質的に等しいか、又は、950℃±20℃に達する維持温度で、少なくとも10秒間ストリップを保持する;
−中間温度でストリップを圧延する。
【0029】
前記第三の変形例によると、鋳造ストリップを熱間圧延する前に、中間温度までの冷却及び維持温度での保持を実施する。フェライトマトリックス中のオーステナイト結晶粒の高い密度を有するミクロ構造(圧延前に実施される維持温度での保持によってつくられる)を熱間圧延することによって、転位密度が高くなり、微細構造中に再結晶化が生じる。前記再結晶化は、通常、適当な再結晶焼鈍処理に起因する。なぜなら、前記タイプの冷間圧延ストリップ製造で標準として実施されるからである。
【0030】
変形例4:
−鋳造ストリップを鋳造する;
−少なくとも150℃/秒の冷却速度で、中間温度900℃未満(特に、800℃の範囲)まで冷却する;
−中間温度でストリップを熱間圧延する;
−維持温度950℃±50℃(特に、950℃±20℃)までストリップを急加熱する;
−維持温度でストリップを保持する。
【0031】
ここでは、900℃未満(特に、約800℃の範囲)の温度範囲で、混合相での圧延に比べて降伏応力の低い、降伏応力を有する純粋なフェライト相で熱間圧延を実施する。従って、必要で望ましい場合には、減少したエネルギー消費及びより少ないロール磨耗を伴って、より高い変形度を達成することができる。
【0032】
900℃未満の温度範囲での本発明の集中冷却は、実質的に800℃未満の温度で鋳造ストリップを圧延すること、又は、500℃未満の温度(特に、400℃未満)で更に熱処理を実施することの可能性を提示する。
【0033】
前記変形例における本発明の方法を、前記ストリップ鋳造機について特に経済的に実行することができ、ここでは、鋳造、熱間圧延(必要により実施される)、及び巻き取り、並びに、鋳造工程と巻き取り工程との間に実施される、本発明による中間温度までの冷却工程及び維持温度での保持工程を、互いに連続的な工程順序で実施する。
【0034】
しかしながら、本発明により利用される効果は、本発明の方法の個々の作業工程を非連続的に実施する可能性も提示している。このことは、例えば、相当する設備技術が利用可能な場合か、又は、実務業務の理由によって異なる時間での作業工程を行うことが好ましい場合に、有利であることが分かっている。これによって、以下の本発明の第五変形例が生じる。
【0035】
変形例5
−鋳造ストリップを鋳造する;
−少なくとも150℃/秒の冷却速度で、900℃未満(特に、800℃未満)の中間温度まで冷却する;
−500℃未満(特に、室温)まで冷却する;
−熱間圧延最終温度まで急加熱する;
−熱間圧延温度でストリップを熱間圧延する;
−維持温度950℃までストリップを急加熱する;
−維持温度でストリップを保持する。
【0036】
本発明の第五の変形例によると、本発明による冷却の過程で、鋳造ストリップを、900℃未満(特に、800℃未満)の中間温度まで冷却することが見込まれており、前記冷却は室温と同じくらい低い温度まで実施することができる。続いて、前記鋳造ストリップを、次に維持温度まで再加熱する。次に、これに関して、追加の作業工程(例えば、特定温度での熱間圧延、保存、プレートへの分類など)を、冷却工程と保持工程との間に実施することがある。
【0037】
更に、鋳造後に鋳造ストリップを室温まで冷却し、そして、更に次の時点で、熱間圧延に最適な温度まで最初に加熱し、次に、維持温度までに至らせて、所要期間そこで保持することも可能である。
【0038】
本発明による方法を実施して、維持温度まで再加熱する際に、800〜900℃の範囲の中間温度に到達する場合には、原則として、前記理由のために前記温度範囲を素早く経過させることが好ましい。従って、本発明の或る有利な実施態様は、個々の中間温度から開始される維持温度までの再加熱を、1〜5秒(特に、2〜3秒)で実施することを提供している。
【0039】
冷却の過程で到達する中間温度が実質的に800℃未満(特に、室温の範囲内か、又は、それよりもわずかに高い温度)にある場合には、前記理由のために、ストリップを熱間圧延のために十分素早く再加熱しなければならない。従って、本発明は、ストリップを、低い中間温度から開始して、特定の熱間圧延温度(通常700℃〜800℃である)まで200秒以内(特に、100秒以内)に再加熱することを提供する。800℃までの加熱が遅すぎる場合には、望ましくない炭化物が析出されることがある。これら炭化物は、過飽和の早期減少を導き、そして、従って、オーステナイト粒子密度を実質的に減少させるので、その結果、本発明が目的としている結晶粒微細化が達成されない。
【0040】
従って、本発明は、費用のかかる製造工程を回避しながら、その特性とその価格との両方で優位性のある生成物をつくる可能性を提案する方法を提供する。本発明による方法の特別な利点は、均質な外観及びスケールのない表面を特徴とするコールドストリップを製造できるという事実にある。鋳造ストリップへ付着した任意のスケールが、本発明による集中冷却の間で既に可能な限り取り除かれているので、その結果、悪くとも、必要により実施される熱間圧延の間で、ストリップ上に存在する最小限のスケールによる表面損傷が生じるという事実によって、前記スケールのない表面が達成される。
【0041】
従って、本発明の方法によって、通常は連続製造順序の妨げとなる、先行技術による高価なデスケーリングが省略される。更に、冷間圧延材料のバッチ式焼鈍で必要とされる先行技術で必須の費用を、本発明によって削減することができる。本発明の方法による過程の間で、800℃未満の温度までの冷却の可能性は、例えば、鋳造ストリップ又は熱間圧延ストリップを、例えば、600℃の温度で後処理(Besaeumung)することを可能にし、平坦性の問題を回避することができる。最後に、例えば、第2ロールスタンド又はより小さな作業ロール直径を介して、通常、温度制御を自由に変化させることができるので、本発明の方法によって、ストリップ鋳造ラインにおける熱間変形度(Warmumformgrad)を増加させることができ、その結果として、通常の製造ルートを介して作られたコールドストリップと比べて、本発明により製造されるコールドストリップは、より良好な深絞り/ストレッチ絞りの可能性(Tief-/Streckziehvermoegen)を有することができる。この場合、本発明による方法を実行するために必要である十分に素早い温度変化は、ストリップ鋳造技術を使用することによってのみ実現されることができる。なぜなら、ストリップの全体の断面にわたる急速な温度変化は、鋳造ストリップの最小限の厚さのみによって可能となるからである。
【0042】
模範的な実施態様:
0.043%C、0.25%Si、0.36%Mn、0.021%P、0.002%S、16.23%Cr、0.49%Ni(重量%で表示)を含むフェライト鋼が、以下にそれぞれ示される、本発明の効果を証明する目的で実施される模範的な実施態様(試験I〜IV)の基礎となった。
【0043】
従来設計の鋳造圧延設備で、適当な溶融鋼から鋳造ストリップをそれぞれ製造し、前記鋳造ストリップを熱間圧延してホットストリップを形成し、そして、前記ホットストリップを最後に巻き取った。このために使用されるストリップ鋳造設備は双ロール式鋳造機を含み、鋳造機に続いて熱間圧延スタンドは、鋳造ストリップの運搬方向にインラインで配置され、そして、熱間圧延スタンドの後方で、巻き取りデバイスが運搬方向に配置された。特定の試験過程によって、集中水冷却装置(Intensiv-Wasser-Kuehleinrichtung)、誘導操作オーブン(induktiv arbeitende Band-Erwaermungseinrichtung)、及び、電子温度維持炉(elektrische Warmhalteoefen)も使用された。
【0044】
本発明による熱処理後、得られるホットストリップは微細構造を有していた。前記構造では、従来から「細かい」と表現されるミクロ構造に反して、複数の粒子(マルテンサイト、残余オーステナイト、炭化物)を、比較的大きなフェライト結晶粒(=マトリックス)中に発見した。従って、ミクロ構造は、全体としてより一層細かいが、しかしながらそれ自体は、従来の微細ミクロ構造よりも均質でない。本発明により製造されるストリップのミクロ構造の特徴は、従って、結晶粒あたりの粒子数が多いことである。
【0045】
鋳造圧延設備を使用する試験I〜IVでの、本発明により製造される各々のホットストリップを、続いて、例えば、バッチ式焼鈍、酸洗い、中間焼鈍なしの冷間圧延、光輝焼鈍及びスキンパス圧延の従来の方法で処理した。
【0046】
総変形度70%を伴って前記方法で得られるコールドストリップから、試験片を製造した。前記試験片のいずれも、オレンジピール又はリジングを示さなかった。
【0047】
試験I:
本発明による方法の第一の変形例において、鋳造ストリップの厚さは3mmであった。双ロール式鋳造機の鋳造間隔を離れる鋳造ストリップは、ストリップ温度1180℃に到達しており、集中水冷却を実施した。鋳造ストリップを、950℃の中間温度まで2秒以内で冷却した。
【0048】
前記方法で冷却される鋳造ストリップを、次に、連続製造順序において中断することなく、誘導加温オーブン(induktive Erwaermungsanlage)にて10秒間維持温度で保持した。この場合、前記維持温度は中間温度と同じであった。
【0049】
本発明により熱処理される鋳造ストリップを、次に2.5mmのストリップ厚さまで熱間圧延した。
【0050】
熱間圧延スタンド後のランアウトローラーテーブル(Auslaufrollgang)上で、ストリップを、それが巻き取りデバイス(ストリップをコイルへ巻き取る)に到達する前におよそ550℃の巻き取り温度まで冷却した。
【0051】
前記方法により得られるホットストリップは、等軸ストリップ中央領域(gleichachsig Bandmittenbereich;結晶粒度150μm)を有する柱状結晶粒構造(staengelige Kornstruktur;およそ幅100μm及び高さ500μm)を有していた。粒界は、マルテンサイト及び炭化物の細いシーム(Saum)によって占領されていた。結晶粒度20μmを有する再結晶化した領域を結晶粒内部中に発見した。また、細かく分散され分離した粒子(炭化物、マルテンサイト、及び残余オーステナイトからなる)が、ミクロ構造中に存在した。粒子密度は、通常、結晶粒あたり15〜25粒子であった。
【0052】
試験II:
第二試験では、最初に、前記の合金を用いて、溶融鋼から2.8mm厚ストリップを製造した。誘導加温オーブン中で、鋳造ストリップを1200℃の温度で保持し、そして、次に前記温度でストリップ厚2.1mmまで熱間圧延した。
【0053】
熱間圧延後すぐに、集中水冷却を実施した。この場合、およそ1m/秒で進行するストリップを、1秒以内で中間温度950℃まで冷却した。次に、前記ストリップはランアウトローラーテーブルへ到達した。前記ランアウトローラーテーブルでは、その最初のセクションが熱間圧延スタンドと関連しており、そして、前記最初のセクション中でストリップを実質的に一定の温度で15秒間保持することを保証するフードが、長さ15mに渡って備えられていた。続いて、まだランアウトローラーテーブル上にあるストリップをおよそ500℃の巻き取り温度まで冷却し、それを前記温度で最終的にコイルへ巻き取った。
【0054】
第二試験で得られるホットストリップのミクロ構造は、第一試験で得られるホットストリップのミクロ構造と同じ、等軸ストリップ中央領域(結晶粒度150μm)を有する柱状結晶粒構造(およそ幅100μm及び高さ500μm)を有していた。また、この場合、粒界は、マルテンサイト及び炭化物により占められる細いシームを示した。同様に、平均結晶粒度20μmを有する再結晶化した領域を、結晶粒内部中に発見した。また、第一試験中で得られるストリップと同じく、細かく分散され分離した結晶粒(炭化物、マルテンサイト、及び残余オーステナイトからなる)が、ミクロ構造中に存在した。粒子密度は、通常、結晶粒あたり20〜30粒子であった。
【0055】
試験III:
第三の試験では、最初に3mm厚ストリップを鋳造した。鋳造ストリップが1180℃に到達した後に、集中水冷却を開始して、前記ストリップを3秒以内で、中間温度780℃まで冷却した。前記方法で冷却される鋳造ストリップを、次に誘導加温オーブン中で冷めないように保持して、熱間圧延温度800℃まで加熱し、そして、前記熱間圧延温度で、ストリップ厚2.5mmまで熱間圧延した。前記ストリップを次にランアウトローラーテーブル上で、およそ550℃の巻き取り温度まで冷却して、前記温度で巻き取った。
【0056】
室温で、前記方法により得られるストリップから試験片プレートを分けた。これらを、最初に、誘導的に800℃まで、次に、950℃まで15秒の期間内で加熱した。800℃〜950℃の間に加熱する期間を2秒持続させた。
【0057】
その後すぐに、前記ストリップを維持炉によって、維持温度950℃で20秒間保持した。続いて、空気冷却(Abkuehlung an Luft)を実施した。
【0058】
前記熱処理されたホットストリップ試験片プレートのミクロ構造も、同様に、等軸ストリップ中央領域(結晶粒度150μm)を有する柱状結晶粒構造(およそ幅100μm及び高さ500μm)を有していた。ここで、粒界でも、マルテンサイト及び炭化物により細いシームが占領された。また、結晶粒度20μmを有する再結晶化した領域が結晶粒内部に発見された、そして、細かく分散され分離した粒子(炭化物、マルテンサイト、及び残余オーステナイトからなる)が、ミクロ構造中に存在した。粒子密度は、通常、結晶粒あたり40〜60粒子であった。
【0059】
試験IV:
試験IIIと同様に、3mm厚ストリップを鋳造した。前記ストリップを、1180℃のストリップ温度に到達した後で中間温度780℃に達するまで集中的に冷却した。しかしながら、試験IIIとは異なり、維持温度保持工程だけでなく熱間圧延工程もオフライン(offline)で実施した。
【0060】
このために、室温まで冷却した後に、鋳造ストリップからプレートを分けて、これらのプレートを室温から熱間圧延温度800℃まで30秒以内で加熱し、ここでこれらをストリップ厚2.4mmまで熱間圧延した。熱間圧延プレートの冷却を繰り返した後に、これらを維持温度950℃まで3秒以内で再加熱した。
【0061】
維持炉によって、再加熱したストリップを維持温度で20秒間保持した。続いて、前記ストリップを空気冷却した。
【0062】
また、前記の模範的な実施態様において、熱間圧延プレートのミクロ構造は維持温度に保持された後で、等軸ストリップ中央領域(結晶粒度150μm)を有する柱状結晶粒構造(およそ幅100μm及び高さ500μm)を示した。ここでも、粒界は、マルテンサイト及び炭化物により占められる細いシームを有しており、そして、20μmの結晶粒度を有する再結晶化した領域が、結晶粒内部で発見された。そのほかの試験と同じように、細かく分散され分離した粒子(炭化物、マルテンサイト、及び残余オーステナイトからなる)が、ミクロ構造中に存在した。粒子密度は、通常、結晶粒あたり40〜60粒子であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却時にフェライト構造を形成する溶融鋼を鋳造ストリップへ鋳造する、フェライト構造を有するコールドストリップの製造方法であって、
ここで、必要により、前記鋳造ストリップをインラインで熱間圧延し、熱間圧延ストリップを巻き取り、そして、1つ以上の工程で冷間圧延して、コールドストリップを形成するものとし、
前記製造方法において、
前記鋳造ストリップを、鋳造工程と巻き取り工程との間に、少なくとも150℃/秒の冷却速度で、1180℃以上の開始温度から最高1000℃の中間温度まで冷却し、そして、次に、900〜1000℃の間の維持温度で少なくとも10秒間保持することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
集中冷却の開始温度が1180〜1270℃(特に、1200〜1250℃)の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶融鋼が、以下(重量%で表示):
Cr:10.5〜18%,
C :≦0.08%,
Si:≦1%,
Mn:≦1.5%,
Ni:≦1.00%,
P :≦0.04%,
S :≦0.015%,及び
残余鉄並びに不可避の不純物
を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
冷却速度が150〜250℃/秒であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
中間温度が900〜1000℃であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
中間温度が維持温度と等しいことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
鋳造ストリップを熱間圧延することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
冷却工程及び保持工程を、熱間圧延後に実施することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
最終熱間圧延スタンドを離れた後で、3秒未満以内(特に、1秒未満以内)に熱間圧延ストリップの冷却を開始することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
鋳造ストリップを熱間圧延する前に、中間温度までの冷却と、維持温度での保持とを実施することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
鋳造ストリップの熱間圧延前に、中間温度までの冷却を実施して、そして、熱間圧延後に、維持温度での保持を行うことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
鋳造ストリップが、冷却時に900℃未満(特に、800℃未満)の中間温度に到達し、そして、続いて、維持温度まで再加熱されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
熱間圧延を800℃未満の中間温度で実施することを特徴とする、請求項7及び12に記載の方法。
【請求項14】
再加熱を1〜5秒以内で行うことを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
鋳造、必要により実施される熱間圧延、巻き取り、並びに、鋳造工程と巻き取り工程との間で実施される中間温度までの冷却、及び、維持温度での保持、を非連続の製造順序で行うことを特徴とする、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ストリップが、冷却時に500℃未満(特に、400℃未満)の温度に到達することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
鋳造後に、ストリップを室温まで冷却することを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ストリップを熱間圧延で個々の熱間圧延温度まで200秒以内(特に、100秒以内)で加熱することを特徴とする、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
鋳造、必要により実施される熱間圧延、巻き取り、並びに、鋳造工程と巻き取り工程との間で実施される中間温度までの冷却、及び、維持温度での保持、を連続する製造順序で行うことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ストリップを双ロール式鋳造機によって鋳造することを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
鋳造ストリップの最大厚さが6mmであることを特徴とする、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−522106(P2009−522106A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547960(P2008−547960)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【国際出願番号】PCT/EP2006/070223
【国際公開番号】WO2007/074157
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(503105413)ティッセンクルップ ニロスタ ゲー エム ベー ハー (5)
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Nirosta GMBH
【Fターム(参考)】