説明

フェライト焼結磁石の製造方法、磁性粉末、混練物及び成形体

【課題】配向度を向上させ、磁気特性に優れたフェライト焼結磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】磁性粉末に表面処理剤を付着させ、前記磁性粉末を、ポリオレフィン系樹脂を含むバインダ樹脂とともに混練した混練物を得る工程と、前記混練物を溶融させて磁場が印加された金型により成形して成形体を得る工程と、前記成形体を焼成する工程と、を有し、前記表面処理剤は分子内に、前記磁性粉末表面との反応部位と、前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位と、を有する物質であって、前記表面処理剤の磁性粉末表面との反応部位の末端に、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はこれらの誘導体、又はこれらの塩を有しており、前記表面処理剤の前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位の末端に、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結磁石の製造方法に関し、具体的には、生産性を向上し、品質的な欠陥発生を抑止し、磁気特性に優れたフェライト焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物からなる永久磁石の材料としては、六方晶系のM型(マグネトプランバイト型)Srフェライト又はBaフェライトが知られている。これらのフェライトからなるフェライト磁性材料は、フェライト焼結体やボンド磁石の形で永久磁石として供されている。近年、電子部品の小型化、高性能化に伴って、フェライト磁性材料からなる永久磁石に対しても、小型でありながら高い磁気特性を有することが要求されつつある。
【0003】
永久磁石の磁気特性の指標としては、一般に、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)が用いられ、これらが高いほど高い磁気特性を有していると評価される。従来、永久磁石のBr及びHcJを向上させる観点から、フェライト磁性材料の組成や、製造方法を変えて検討が行われてきた。
【0004】
焼結磁石の製造方法としては、乾式成形法(例えば、特許文献1)や湿式成形法(例えば、特許文献2)が知られている。乾式成形法では、乾燥した磁性粉末を磁場を印加した中で加圧成形することで成形体を作製し、得られた成形体を焼成する。湿式成形法では、磁性粉末を含むスラリーを、磁場を印加した中で液体成分を除去しながら加圧成形することで成形体を作製し、得られた成形体を焼成する。
【0005】
乾式成形法では、乾燥した磁性粉末を金型内で加圧成形するので、成形工程に要する時間が短いという利点を有するが、磁性粉末同士の凝集や磁性粉末間の摩擦抵抗などにより、磁場印加中で成形しても、磁性粉末の配向度向上が難しく、得られる焼結磁石の磁気特性は、湿式成形法により得られる焼結磁石の磁気特性に劣る。
【0006】
一方、湿式成形法では、磁性粉末間の摩擦抵抗が小さくなるなどにより、磁場中印加によって磁性粉末が配向しやすく、焼結磁石の磁気特性が良好であるが、液体成分を除去しながら加圧するため、成形に時間が掛かるという課題がある。
【0007】
また、特許文献3に示すように、磁性粉末とバインダ樹脂とを含む混練ペレットを、磁場印加された金型内に射出して成形する方法、いわゆるCIM(C−eramic Injection Molding(セラミック射出成形)、すなわち、PIM(Powder Injection Molding)、粉末射出成形の一種)成形法も提案されている。しかしながら、このような磁場が印加された金型内で射出成形する方法では、混練ペレットを形成する際に、特に細かい粒径の磁性粉末が凝集して不均一に分布しやすく、その後の射出成形において、磁性粉末の配向制御が良好に行われないなどの課題がある。
【0008】
この課題を解決するために、特許文献4では、界面活性剤を付着させた磁性粉末とバインダ樹脂を含む混練ペレットを、磁場印加された金型内に射出成形して予備成形体を得て、これを脱脂、焼成することで焼結磁石を製造する方法が提案されている。
【0009】
しかし、特許文献4の実施例で例示されているソルビトール及びマンニトールは、分子内に水酸基を複数有する多価アルコール型の親水性の低分子界面活性剤である。このため、磁性粒子表面に付着したソルビトール又はマンニトールに含まれる水酸基同士で生じる水素結合などの影響により、乾燥した磁性粒子が凝集する可能性がある。したがって、界面活性剤を付着させた磁性粉末を用いたとしても、混練ペレット中の磁性粉末の分散性や予備成形体内での磁性粉末の配向度及びこれに起因する磁気特性には課題が残ると考えられる。
【0010】
また、前述のような磁性粉末の凝集体が予備成形体中に残存した場合、凝集部分は焼成後に異相となったり、配向性が周囲と比較して大きく乱れた部分となる。これらの部分は、正常な配向性を有する部分と焼結時の収縮率が違う影響で応力を生じ、焼結磁石のクラックや表面の膨れ発生の原因となる。このような焼結磁石の品質的な欠陥抑止のためには、乾燥後の磁性粉末をアトマイザ等で解砕処理したり、磁性粉末とバインダ樹脂を混練する時間を長くしたりして、磁性粉末の凝集を解消する必要があり、生産性が悪化してしまう課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−296849号公報
【特許文献2】特許第3833861号公報
【特許文献3】特許第3229435号公報
【特許文献4】特開2009−246272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、生産性を向上し、品質的な欠陥発生を抑止し、磁性粉末の配向度を向上させ、磁気特性に優れたフェライト焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、
磁性粉末に表面処理剤を付着させ、前記磁性粉末を、ポリオレフィン系樹脂を含むバインダ樹脂とともに混練した混練物を得る工程と、
前記混練物を溶融させて磁場が印加された金型により成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成する工程と、を有し、
前記表面処理剤は分子内に、前記磁性粉末表面との反応部位と、前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位と、を有する物質であって、
前記磁性粉末表面との反応部位の末端に、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基若しくはこれらの誘導体、又はこれらの塩を有しており、
前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位の末端に、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を有していることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、配向度が高く、磁気特性に優れたフェライト焼結磁石を製造することができ、更には生産性が高く、品質的な欠陥発生を抑止出来る、フェライト焼結磁石の製造方法を提供することが出来る。
【0015】
また、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、好ましくは、磁性粉末を湿式粉砕する工程と、
磁性粉末を湿式粉砕した後に、磁性粉末に表面処理剤を添加することにより前記磁性粉末に表面処理剤を付着させ、前記磁性粉末を、ポリオレフィン系樹脂を含むバインダ樹脂とともに混練した混練物を得る工程と、
前記混練物を溶融させて磁場が印加された金型により成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成する工程と、を有し、
前記表面処理剤は分子内に、前記磁性粉末表面との反応部位と、前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位と、を有する物質であって、
前記磁性粉末表面との反応部位の末端に、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基若しくはこれらの誘導体、又はこれらの塩を有しており、
前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位の末端が、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を有していることを特徴とする。
【0016】
前記フェライト焼結磁石の製造方法において、好ましくは、前記成形体を、前記混練物を溶融させて磁場が印加された金型内に射出成形することにより得る。
【0017】
前記フェライト焼結磁石の製造方法において、好ましくは、前記表面処理剤が、シランカップリング剤である。
【0018】
前記フェライト焼結磁石の製造方法において、好ましくは、前記シランカップリング剤が下記の構造式(1)又は(2)で示され、
(4−n)−Si−(OR ・・・(1)
(X−R(4−n)−Si−(OR ・・・(2)
前記nは2又は3であり、
Xが、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基であり、Rが、アルキル基であり、Rが、1〜20個の炭素原子を含む直鎖状、環状又は分岐状の構造である。
【0019】
前記フェライト焼結磁石の製造方法において、好ましくは、前記表面処理剤が前記磁性粉末100質量%に対して、0.3〜3質量%添加される。
【0020】
前記フェライト焼結磁石の製造方法において、好ましくは、前記混練物中における前記磁性粉末の含有量が、40〜65体積%である。
【0021】
また、本発明の表面処理剤を付着させた磁性粉末は、
前記表面処理剤の分子内に、前記磁性粉末表面との反応部位と、前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位と、を有する物質であって、
前記磁性粉末との反応部位の末端に、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基若しくはこれらの誘導体、又はこれらの塩を有しており、
前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位の末端に、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を有していることを特徴とする。
【0022】
前記表面処理剤を付着させた磁性粉末において、好ましくは、前記表面処理剤が、シランカップリング剤である。
【0023】
前記表面処理剤を付着させた磁性粉末において、好ましくは、前記シランカップリング剤が下記の構造式(1)又は(2)で示され、
(4−n)−Si−(OR ・・・(1)
(X−R(4−n)−Si−(OR ・・・(2)
前記nは2又は3であり、
Xが、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基であり、Rがアルキル基であり、Rが、1〜20個の炭素原子を含む直鎖状、環状又は分岐状の構造である。
【0024】
前記表面処理剤を付着させた磁性粉末において、好ましくは、前記表面処理剤が前記磁性粉末100質量%に対して、0.3〜3質量%付着している。
【0025】
本発明の混練物は、前記表面処理剤を付着させた磁性粉末と、ポリオレフィン系樹脂を含むバインダ樹脂と、を含む。
【0026】
前記混練物において、好ましくは、前記混練物中における前記磁性粉末の含有量が、40〜65体積%である。
【0027】
本発明の成形体は、前記混練物からなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る焼結磁石の製造方法に用いる磁場射出成形機の要部断面図である。
【図2】図2はシランカップリング剤、オレイン酸、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛の構造式である。
【図3】図3(a)は本発明の実施例における混練・ペレット作製工程で生成される混練物の断面SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡、以下SEMと表記)写真であり、図3(b)は本発明の比較例における混練・ペレット作製工程で生成される混練物の断面SEM写真である。
【図4】図4(a)は本発明の実施例におけるアークセグメント型フェライト焼結磁石であり、図4(b)は図4(a)のアークセグメント型フェライト焼結磁石のIVb−IVb線に沿う正面図であり、図4(c)は図4(a)のアークセグメント型フェライト焼結磁石のIVc−IVc線に沿う背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0030】
磁場射出成形装置
まず、図1に示す磁場射出成形装置2について説明する。図1に示すように、この磁場射出成形装置2は、ペレット10が投入されるホッパ4を有する押出機6と、押出機6から押し出されたペレット10の溶融物をキャビティ12内で成形するための金型8とを有する。この磁場射出成形装置は、CIM成形を利用した成形装置である。
【0031】
磁性粉末
本実施形態に用いられる磁性粉末としては、特に限定されないが、好ましくは、フェライトが用いられ、特に、マグネトプランバイト型のM相、W相等の六方晶系のフェライトが好ましく用いられる。以下では、マグネトプランバイト型のM相のフェライトを「M型フェライト」とする。前記M型フェライトは一般式AFe12 19 (Aは、Sr、Ba、Ca等)で表わされる。このM型フェライトには、更に、磁気特性の低下に影響しない範囲で、希土類元素、Ca、Pb、Si、Ga、Sn、Zn、In、Co、Ni、Ti、Cr、Mn、Cu、Ge、Nb、Zr、Al、B等が含有されていても良い。
【0032】
このようなM型フェライトの組成は特に限定されないが、
Sr、Ba、Ca及びPbから選ばれる少なくとも1種の元素からなるαと、
Yを含む希土類元素から選択される少なくとも1種の元素又はこれにBiを含むRと、
Co、Mn、Mg、Ni、Cu及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素からなるMと、
Feと、を含み、それぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、
α:1〜13原子%
R:0.05〜10原子%
Fe:80〜95原子%
M:0.1〜5原子%
を満足することが好ましい。
【0033】
このフェライトにおいて、結晶構造内でR元素はα元素のサイトに存在し、M元素はFeのサイトに存在するとした場合、フェライトの組成式は、下記一般式(2)で示される。
α(1−x) [Fe(12−y) 19 ・・・(2)
【0034】
ここで、x、y、zは、前述の各金属元素の原子%から計算される値である。
【0035】
本実施形態に係る磁性粉末は、BET法で求められる比表面積(SSA:Specific Surface Area)が、4〜12m/g程度であることが好ましい。本実施形態においては、高比表面積の磁性粉末であっても、凝集を抑止することが出来る。その結果、磁性粉末がCIM成形の金型のキャビティ内で均一に分散した状態で、磁場中成形することができ、高い配向度を有するフェライト焼結磁石を得ることが出来る。
【0036】
本実施形態に係る磁性粉末は、前述の組成を有するとともに、副成分を含んでいても良い。副成分は、前述のように、磁気特性の低下に影響しない範囲で含有していて良いが、その中でも、Ca、Siは好ましい副成分である。これらCa、Siは、フェライト焼結磁石における粒界成分であり、またその酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物など、焼成後にCa、Siの酸化物となり得る化合物は、焼成時の焼結助剤として働くため、好ましい副成分である。Ca、Siの化合物を適量含有することで、高密度のフェライト焼結磁石が得られる。
【0037】
ただし、Caはフェライト相を構成する成分として含まれる場合がある。したがって、副成分としてCaを含有させた場合、例えば焼結体から分析されるCaの量はフェライト相及び副成分の総量となる。すなわち、副成分としてCaの化合物を用いた場合には、Caの原子比率は副成分も含んだ値となる。
【0038】
前記磁性粉末は、上述した主組成、及び少なくともSi成分を含む副成分を含有しているが、磁性粉末の組成は、蛍光X線定量分析によって測定することが出来る。また、主相の存在は、X線回折や電子線回折によって確認することが出来る。
【0039】
フェライト焼結磁石の製造方法
以下に、本発明の好適な実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法について説明する。本実施形態におけるフェライト焼結磁石の製造方法は、フェライト材料粉末である磁性材料粉末を製造する工程と、この磁性材料からフェライト焼結磁石を製造する工程とに分けられる。
【0040】
更に、フェライト材料粉末である磁性粉末を製造する工程は、配合工程、仮焼工程、粉砕工程、表面処理剤付着工程、及び乾燥工程を含む。また、フェライト焼結磁石を製造する工程は、混練・ペレット作製工程、CIM成形(磁場中射出成形)工程、脱バインダ工程、及び焼成工程を含み、これらの工程を経て、フェライト焼結磁石を製造することが出来る。各工程については以下に説明する。
【0041】
<配合工程>
配合工程では、磁性粉末の原料を配合して、原料混合物を得る。まず、磁性粉末の原料としては、これを構成する元素のうちの1種又は2種以上を含む化合物(原料化合物)が挙げられる。原料化合物は、例えば粉末状のものが好適である。原料化合物としては、各元素の酸化物、又は焼成により酸化物となる化合物(炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等)が挙げられる。例えばSrCO、La(OH)、Fe、BaCO、CaCO及びCo等が例示出来る。原料化合物の粉末の平均粒径は、例えば、均質な配合を可能とする観点から、0.1〜2.0μm程度とすることが好ましい
【0042】
配合工程では、例えば、Si成分等の副成分を配合しても良い。磁性粉末におけるSi成分の原料としては、SiOが挙げられるが、Siを含有する化合物等であれば特に制限されない。また、原料粉末には、必要に応じてその他の副成分の原料化合物(元素単体、酸化物等)を配合してもよい。
【0043】
配合は、例えば、各原料を、所望とする磁性粉末の組成が得られるように秤量し、混合した後、湿式アトライタ、ボールミル等を用い、0.1〜20時間程度、混合、粉砕処理することにより行うことが出来る。
【0044】
なお、この配合工程においては、全ての原料を混合する必要はなく、一部を後述する仮焼後に添加するようにしてもよい。例えば、副成分であるSiの原料(例えばSiO)や、磁性粉末の構成元素であるCaの原料(例えばCaCO)は、後述する仮焼後、粉砕(特に微粉砕)工程において添加してもよい。添加の時期は、所望とする組成や磁気特性が得られ易いように調整すれば良い。
【0045】
<仮焼工程>
仮焼工程では、配合工程で得られた原料粉末を仮焼する。仮焼は、例えば、空気中等の酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。仮焼の温度は、1100〜1400℃の温度範囲とすることが好ましく、1100〜1300℃がより好ましく、1150〜1300℃が更に好ましい。
【0046】
仮焼温度で保持する時間は、1秒間〜10時間とすることができ、1秒間〜5時間であると好ましい。仮焼により得られる仮焼体は、前述したような主相(M相)を70%以上含む。
【0047】
仮焼体の一次粒子の平均粒径は0.1〜10μm、特に0.1〜5μmであることが好ましい。平均粒径は、SEMにより測定すれば良い。
【0048】
<粉砕工程>
粉砕工程では、仮焼工程で顆粒状や塊状となった仮焼体を粉砕し、粉末状の磁性体を得る。これにより、後述する成形工程での成形が容易となる。この粉砕工程では、前述したように配合工程で配合しなかった原料を添加してもよい(原料の後添加)。粉砕工程は、例えば、仮焼体を粗い粉末となるように粉砕(粗粉砕)した後、これを更に微細に粉砕する(微粉砕)、2段階の工程で行ってもよい。以下では、粗粉砕として乾式粗粉砕を行った後に、微粉砕として湿式粉砕を行う場合について説明するが、これに限定されるものではなく、適宜粉砕方法を組み合わせて良い。
【0049】
粗粉砕は、例えば、平均粒径が0.5〜5.0μmとなるまで行われる。粉砕手段は特に限定されず、例えば乾式振動ミル、ローラーミル、ハンマーミル等が使用出来るが、これに限定されるものではない。粉砕時間は、粉砕手段に応じて適宜決定すれば良い。
【0050】
乾式粗粉砕の後、仮焼体粒子の粗粉砕材と水とを含む粉砕用スラリーを調製し、これを用いて湿式粉砕することにより微粉砕を行う。粉砕用スラリー中の仮焼体粒子の含有量は、10〜70質量%程度であることが好ましい。微粉砕では、得られた微粉砕材の平均粒径が、好ましくは0.08〜2.0μm、より好ましくは0.1〜1.0μm、更に好ましくは0.2〜0.8μm程度となるように、微粉砕を行う。微粉砕材の比表面積(例えばBET法により求められる。)は、4〜12m/g程度とすることが好ましい。湿式粉砕に用いる粉砕手段は特に限定されないが、通常、ボールミル、アトライタ等を用いることが好ましい。粉砕時間は、粉砕手段に応じて適宜決定すれば良いが、例えば湿式アトライタの場合、30分間〜20時間程度が好ましく、湿式ボールミル粉砕では10〜50時間程度が好ましい。
【0051】
粉砕工程で原料の一部を添加する場合、例えば、添加は微粉砕時において行うことが出来る。本実施形態では、Si成分であるSiOや、Ca成分であるCaCOを、微粉砕の際に添加することが出来るが、これらを配合工程や粗粉砕工程において添加してもよい。
【0052】
微粉砕工程では、湿式法の場合、分散媒として水の他、トルエン、キシレン等の非水系溶媒を用いることが出来る。水系溶媒を用いる方が、生産性の観点で有利であるが、これに限定されることなく、例えば、後述の表面処理剤の溶媒への溶解性などを考慮し、適宜溶媒を選択すれば良い。
【0053】
<表面処理剤付着工程>
表面処理剤付着工程では、微粉砕された磁性粉末に表面処理剤を付着させる。磁性粉末に表面処理剤を添加する時期は特に限定されず、湿式粉砕時に表面処理剤を添加してもよいし、粉砕工程後のスラリーに表面処理剤を添加してもよいし、乾燥した磁性粉末をミキサー等で撹拌している中に噴霧あるいは滴下してもよい。また、後述する混練・ペレット作製工程においてバインダ樹脂と混練する際に添加してもよいし、混練・ペレット作製工程において予めバインダ樹脂に表面処理剤を添加してから磁性粉末と混練してもよいし、一部を粉砕時又は粉砕工程後に添加し、残部を混練・ペレット作製工程の際に添加してもよいし、一部を粉砕時に添加して、残部を粉砕工程後に添加してもよいが、湿式粉砕した後に磁性粉末に表面処理剤を添加することが好ましい。
【0054】
湿式粉砕時に表面処理剤を磁性粉末に添加する場合に比べて、湿式粉砕後に表面処理剤を添加する方が、不必要に表面処理剤の分子構造を壊すことなく、磁性粉末表面に表面処理剤を付着させることが出来る、表面処理剤同士の反応を抑止することが出来る、等の点で有利である。
【0055】
また、後述の通り、前記表面処理剤は磁性粉末表面に付着することにより、磁性粉末の凝集を抑える効果があるため、表面処理剤の添加時期は、粉砕工程後、混練・ペレット作製工程前であることが好ましい。
【0056】
本実施形態で用いる表面処理剤としては、分子内に、磁性粉末表面との反応部位と、前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位と、の両方を有する。この表面処理剤の磁性粉末表面との反応部位の末端は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基若しくはこれらの誘導体、又はこれらの塩であり、好ましくは水酸基又はアルコキシ基である。また、前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位の末端は、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基を有している。なお、表面処理剤は2種以上を併用してもよい。
【0057】
前記表面処理剤の磁性粉末表面との反応部位の末端は、無機材料の表面と水素結合することにより、表面処理剤が無機材料の表面に吸着する性質がある。そして、この無機材料を乾燥することで水素結合部にて脱水縮合反応し、無機材料と表面処理剤とが化学結合する。
【0058】
一方、表面処理剤は前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位も有していることから、表面処理剤が表面に結合した無機材料はバインダ樹脂との反応やより強い相互作用が期待出来る。このため、例えば、表面処理剤を無機材料すなわち磁性粉末のスラリー中に添加し、乾燥することにより、表面処理剤が付着して表面においてバインダ樹脂との反応やより強い相互作用が期待出来る磁性粉末が得られる。
【0059】
表面処理剤が付着した磁性粉末の表面は、表面処理剤の立体障害等により、磁性粉末の粒子同士が接近しにくくなり、磁気的影響が小さくなる。これにより、磁性粉末の粒子同士の凝集力を弱めることが出来る。また、磁性粉末の表面において、バインダ樹脂との反応やより強い相互作用が可能になることで、バインダ樹脂の磁性粒子への濡れ性が向上する。これにより、後述する混練・ペレット作製工程において、磁性粉末をバインダ樹脂と共に加熱混練した際に、磁性粉末の粒子間にバインダ樹脂が入り込みやすくなるため、混練物中に磁性粉末を均一に分散させることが出来る。
【0060】
前記表面処理剤としては、前記の条件を満たしていれば特に限定されないが、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸又はその塩/誘導体、下記式(1)又は(2)で示されるシランカップリング剤、などが挙げられ、より好ましくは、下記式(1)又は(2)で示されるシランカップリング剤を用いる。
(4−n)−Si−(OR ・・・(1)
(X−R(4−n)−Si−(OR ・・・(2)
ここで、nは2又は3である。
【0061】
上記式(1)又は(2)中のXは好ましくはアルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基である。また、上記式(1)中のRは、好ましくはアルキル基である。なお、一つの分子中に2以上のRを有する場合は、必ずしも同一のRである必要はなく、異なる構造であってもよい。
【0062】
また、上記式(2)中のRは、好ましくは、1〜20個の炭素原子を含む直鎖状、環状又は分岐状の構造である。なお、Rは、1〜20個の炭素原子を含む直鎖状、環状又は分岐状の構造という要件を満たしていれば、更に水素原子、酸素原子又は窒素原子などの炭素原子以外の原子を含んでいても良い。また、一つの分子中に2以上のRを有する場合は、必ずしも同一のRである必要はなく、異なる構造であってもよい。
【0063】
シランカップリング剤は、上記(1)又は(2)に示すように有機物とケイ素とから構成される化合物である。また、一つの分子中に、有機材料との化学反応や相互作用が期待出来る官能基Xと、磁性粉末表面との反応が期待出来る官能基ORと、の2種以上の異なる反応基を有している。
【0064】
また、表面処理剤の磁性粉末表面との反応部位の末端が、水酸基又はカルボキシル基の塩、アルコキシ基の誘導体又はその塩の場合は、表面処理剤とともに水を加えることが好ましい。表面処理剤の磁性粉末表面との反応部位の末端が、水酸基又はカルボキシル基の塩、アルコキシ基の誘導体又はその塩の場合は加水分解反応により末端が水酸基(OH基)となり、OH基が水素結合により無機材料すなわち磁性粉末と吸着するためである。なお、スラリーに表面処理剤を添加する場合は、スラリーの溶媒が水であればよく、新たに水を加えなくてもよい。
【0065】
本実施形態において、磁性粉末100質量%に対する前記表面処理剤の添加量は、好ましくは0.3〜3質量%、より好ましくは0.5〜3質量%、更に好ましくは0.6〜2.0質量%である。前記表面処理剤の添加量がこの範囲内であることにより、表面処理剤が磁性粉末に十分に付着し、磁性粉末の凝集力を弱めることが出来るとともに、混練物中に磁性粉末を均一に分散させることが出来る。なお、添加量が多すぎると、磁性粉末表面に吸着出来ずに過剰となった表面処理剤が存在することで、上記の磁性粉末の凝集力低下の効果や、混練物中の磁性粉末の分散性向上の効果が低下する傾向となる。
【0066】
なお、表面処理剤を複数回に分けて添加する場合には、合計添加量が前記した好ましい範囲となるように各回の添加量を設定すれば良い。
【0067】
<乾燥工程>
湿式粉砕後、表面処理剤を添加し、表面処理剤が表面に付着した磁性粉末を含むスラリーを乾燥させる。乾燥温度は、好ましくは80〜150℃、更に好ましくは100〜120℃である。また、乾燥時間は、好ましくは1〜40時間、更に好ましくは5〜25時間である。乾燥後の磁性粉末の一次粒子の平均粒径は、好ましくは0.08〜2μmの範囲内、更に好ましくは0.1〜1μmの範囲内である。乾燥後の磁性粉末には、表面処理剤が付着している。
【0068】
<混練・ペレット作製工程>
本実施形態における混練・ペレット作製工程では、乾燥後の磁性粉末を、バインダ樹脂、ワックス類、滑剤、可塑剤、昇華性化合物など(以下これらをまとめて、「有機成分」と称する。)と共に混練し、ペレタイザなどで、ペレットに成形する。混錬は、例えばニーダーなどで行えば良い。ペレタイザとしては、たとえば2軸1軸押出機が用いられる。また、混練及びペレット成形は、使用する有機成分の溶融温度に応じて、加熱しながら実施しても良い。
【0069】
本実施形態におけるバインダ樹脂は、熱可塑性のポリオレフィン系樹脂を含む。ポリオレフィン系樹脂としては、好ましくはポリプロピレン、ポリエチレン、あるいはこれらの誘導体、共重合体等である。バインダ樹脂がこれらのオレフィン系樹脂を含むことにより、表面処理剤が付着した磁性粒子に対してバインダ樹脂が濡れやすくなる。
【0070】
なお、本実施形態においてバインダ樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を含んでいれば特に限定されず、ポリオレフィン系樹脂以外にもアクリル樹脂、ポリスチレン、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂を含んでいてもよく、ポリオレフィン系樹脂を含む2種以上の樹脂を含んでいてもよい。
【0071】
バインダ樹脂がポリオレフィン系樹脂以外の樹脂を含む場合には、バインダ樹脂の全量に占めるポリオレフィン系樹脂の割合が75〜100質量%となることが好ましく、より好ましくは80〜95質量%である。
【0072】
ワックス類としては、カルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋などの天然ワックス以外に、パラフィンワックス、ウレタン化ワックス、ポリエチレングリコールなどの合成ワックスが用いられる。
【0073】
滑剤としては、例えば、脂肪酸エステルなどが用いられ、可塑剤としては、例えば、フタル酸エステルが用いられる。
【0074】
バインダ樹脂の添加量は、磁性粉末100質量%に対して、好ましくは3〜20質量%、ワックス類の添加量は、好ましくは3〜20質量%、滑剤の添加量は、好ましくは0.1〜5質量%である。可塑剤の添加量は、バインダ樹脂100質量%に対して、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0075】
本実施形態において、前記混練物中における磁性粉末の含有量は、好ましくは40〜65体積%、より好ましくは45〜60体積%、更に好ましくは50〜60体積%である。混練物中における磁性粉末の含有量がこの範囲内であることにより、高生産性を保持したままで高磁気特性を得やすくなる。なお、磁性粉末の含有量が多すぎると、ペレット中の磁性粉末の分散状態が悪くなったり、有機成分、特にバインダ樹脂と磁性粉末の摩擦抵抗が増大する。これにより、射出成形の金型内の充填性が不均一となったり、混練物の流動性が低下して磁性粉末の配向度が悪くなったりするため、生産性が低下し、Brが低下したり、焼成後に変形やクラックが発生する。
【0076】
また、上記の混練物中における磁性粉末の含有量の範囲は、従来のフェライト焼結磁石の製造方法における磁性粉末の含有量に比べて高くすることが出来る。すなわち、本実施形態では、バインダ樹脂の含有量を少なく出来るため、後述する脱バインダ工程の時間を短縮でき、生産性が向上する。
【0077】
<CIM成形工程>
本実施形態のCIM成形工程では、たとえば、図1に示す磁場射出成形装置2を用いて、前記ペレット10を、金型8内に射出成形する。金型8への射出前に、金型8は閉じられ、内部にキャビティ12が形成され、金型8には磁場が印加される。なお、ペレット10は、押出機6の内部で、たとえば160〜230°Cに加熱溶融され、スクリューにより金型8のキャビティ12内に射出される。金型8の温度は、20〜80°Cである。金型8への印加磁場は398〜1592kA/m(5〜20kOe)程度とすれば良い。
【0078】
<脱バインダ工程・焼成工程>
次に、CIM成形により得られた予備成形体を、大気中又は窒素中において100〜600℃の温度で熱処理して、脱バインダ処理を行って成形体を得る。脱バインダ処理が不十分であったり、脱バインダ時の昇温速度が急激であると、前述の有機成分の急激な揮発や分解ガスの発生により、成形体や焼結体にワレやクラックを生じてしまう。そこで、脱バインダ処理する有機成分に応じて、揮発したり分解したりする温度域の昇温速度を、例えば、0.01〜1℃/分程度のゆっくりとした昇温速度に適宜調整して、脱バインダ処理をすれば良い。逆に、脱バインダ処理が過剰であると、成形体の保形力が不足し、カケを生じるので、熱処理温度や温度プロファイル制御が必要である。また、有機成分を複数種使用している場合、脱バインダ処理を複数回に分けて実施しても良い。
【0079】
次いで焼成工程において、脱バインダ処理した成形体を、例えば大気中で好ましくは1100〜1250℃、より好ましくは1160〜1240℃の温度で0.2〜3時間程度焼成して、本発明に係るフェライト焼結磁石を得る。温度が低温すぎたり、温度保持する時間が短すぎると、十分な焼結体密度が得られなかったり、添加されている元素の反応が不十分である等の原因により、所望の磁気特性が得られない。また、焼成温度が高温すぎたり、温度保持時間が長すぎたりすると、結晶粒子が異常成長したり、M型フェライト以外の異相が生成したり等の原因により、同じく所望の磁気特性が得られない。なお、焼成工程は、前述の脱バインダ工程と連続で実施しても、一度脱バインダ処理した後に室温まで冷却してから、焼成を実施しても良い。
【0080】
以上、フェライト焼結磁石の好適な製造方法について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することが出来る。
【0081】
例えば、上記の方法では予備成形体を射出成形により得たが、予備成形体を得る方法としては、特に限定されず、射出成形の他、押出成形やプレス成形によっても得ることが出来る。
【0082】
他にも、例えば、本発明による方法で作製した予備成形体をクラッシャー等を用いて解砕し、ふるい等により平均粒径が100〜700μm程度となるように分級して磁場配向顆粒を得て、これを乾式磁場成形した後、焼結することにより焼結磁石を得てもよい。
【0083】
本実施形態に係る焼結磁石の製造方法によれば、表面処理剤が磁性粉末の粒子に付着していることにより、磁性粉末の粒子同士の凝集力が低下するとともに、混練物中における磁性粉末の分散性が向上する。これにより、磁気特性に優れたフェライト焼結磁石を製造することが可能であり、更には膨れ、クラック、変形などの欠陥を抑制し、製品ごとの磁気特性のバラツキがなく、なおかつ、生産性の高いフェライト焼結磁石の製造方法を提供することが出来る。その理由は以下の通りである
【0084】
本実施形態で用いる表面処理剤は一つの分子中に、有機材料との化学反応や相互作用が期待出来る部位と、無機材料との化学反応や相互作用が期待出来る磁性粉末表面との反応部位の異なる反応基を有している。
【0085】
前記表面処理剤の磁性粉末表面との反応部位の末端は、無機材料の表面と水素結合することにより、表面処理剤が無機材料の表面に吸着する性質がある。そして、この無機材料を乾燥することで水素結合部にて脱水縮合反応し、無機材料と表面処理剤とが化学結合する。
【0086】
一方、前記表面処理剤は前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位も有していることから、表面処理剤が結合した無機材料は前記バインダ樹脂との反応やより強い相互作用が期待出来る。このため、前述のように、例えば前記表面処理剤を、無機材料すなわち磁性粉末のスラリー中に添加し、スラリーを乾燥することにより、表面処理剤が付着し、表面において、前記バインダ樹脂との反応やより強い相互作用が期待出来る磁性粉末が得られる。
【0087】
これに対し、従来の方法では、スラリー中に多価アルコールなどの界面活性剤を添加し、磁性粉末に界面活性剤を吸着させていたが、この方法では、磁性粉末の表面における、前記バインダ樹脂との反応やより強い相互作用は必ずしも期待出来ず、磁性粉末表面に吸着したアルコールの水酸基同士が水素結合することにより、磁性粉末が凝集する可能性があった。
【0088】
しかし、本実施形態による方法によれば磁性粉末表面に表面処理剤が付着することで、磁性粉末同士の間の水素結合生成が抑制され、また、磁性粉末表面に吸着した表面処理剤の立体障害等の効果により、磁性粉末同士が接近しにくいため、磁性粉末の凝集力を弱めることが出来る。
【0089】
また、混練・ペレット作製工程においては、磁性粉末にバインダ樹脂との反応やより強い相互作用が期待出来る表面処理を施すことで、バインダ樹脂の濡れ性が改善されるため、磁性粉末をバインダ樹脂と共に加熱混練した際に、磁性粉末の粒子間にバインダ樹脂が入り込みやすくなるため、混練物中に磁性粉末を均一に分散させることが出来る。
【0090】
以上のように、磁性粉末の凝集力が弱められ、混練物中の磁性粉末の分散性が向上する結果、金型内で磁性粉末が磁場に対応して均一に分散して流動し、成形体中の磁性粉末の配向度が良好となる。これにより、最終的に得られる焼結磁石の配向度も向上し、Br、HcJ、Hk/HcJなどの磁気特性が良好となる。
【0091】
また、磁性粉末が均一に分散した成形体が得られることにより、成形体の密度分布のバラツキが抑えられ、焼成後の膨れ・クラック・変形等の欠陥や、製品ごとの磁気特性のバラツキを抑えることが出来る。
【0092】
従来は、磁性粉末の凝集抑制のため、有機成分との混練を長時間行ったり、アトマイザ等で混練前のフィラーを解砕したりしていた。しかし、本実施形態の製造方法によれば、短時間の混練でも混練物中に均一に磁性粉末を分散させることが出来る。また、フィラーの解砕工程を経ずに混練物中の磁性粉末の分散性を向上することが出来る。このため、製造に要する時間を短縮することが出来るため、生産性が向上するとともに作業性が向上する。
【0093】
CIM成形法においては、溶融したバインダ樹脂が磁性粉末の搬送媒体となる。本実施形態では、磁性粉末の粒子間にバインダ樹脂が確実に入り込んでいるため、磁性粉末の粒子間の凝集を抑止すると共に、搬送経路接触面への粒子の付着を防止しながら、磁性粉末を金型内部に搬送することが出来る。しかも、金型内での磁場による磁性粉末の配向時に、搬送媒体を除去する必要がないため、媒体除去経路の目詰まり等を生じることがなく、狭いキャビティ内に磁性粉末を均一に充填させることが可能となる。これにより、成形のサイクル時間が短くなるため、生産性に優れるとともに、比較的薄型の焼結磁石を高生産性で製造することが可能となる。
【0094】
以上、フェライト焼結磁石の好適な製造方法について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することが出来る。
【0095】
本発明により得られるフェライト焼結磁石は、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法により得られるものである限り、形態は限定されない。例えば、フェライト焼結磁石は、異方性を有するアークセグメント形状、平板状、円柱状等、種々の形状を有することが出来る。なお、前記アークセグメント形状とは、平板状のものが一方向に円弧状に湾曲した形状である。本発明のフェライト磁性材料によれば、磁石の形状によらず高いBr及びHcJを維持しつつ、高いHk/HcJが得られ、特にアークセグメント形状の磁石であっても、高いBr及びHcJを維持しつつ、高いHk/HcJが得られる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0097】
試料1、2
(フィラー(磁性粉末)の作製)
まず出発原料として、フェライト焼結磁石を構成する金属元素の化合物の粉末を準備した。出発原料は、酸化鉄(Fe;不純物として、Mn、Cr、Al、Si、Clを含む)、水酸化ランタン(La(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、炭酸バリウム(BaCO)、酸化コバルト(Co)を用い、金属元素の組成がCa0.36 La0.48 Sr0.16 Ba0.001 Fe11.25 Co0.15 となるように秤量した。また、Si成分として、酸化ケイ素(SiO、含水率:約20%前後、以後も同一原料使用)を、前述の組成比となるような出発原料100質量%に対して、0.66質量%となるように秤量した。
【0098】
前記出発原料及び添加物としてのSi成分原料、それぞれの粉末を湿式アトライタにて混合、粉砕し、スラリー状の原料混合物を得た。この原料混合物を乾燥後、大気中、1225℃で2時間保持する仮焼処理を行った。得られた仮焼体は、小型ロット振動ミルにて粗粉砕し、粗粉砕材を得た。
【0099】
得られた粗粉砕材に対して、フェライト焼結磁石を構成する金属元素の焼成後の比率がCa0.45 La0.40 Sr0.15 Ba0.001 Fe9.2 Co0.245 となるように、酸化鉄(Fe;不純物として、Mn、Cr、Al、Si、Clを含む)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化コバルト(Co)を添加し、湿式ボールミルにてBET法により求められる比表面積が8.0〜9.0m/gとなるように微粉砕した。
【0100】
得られた微粉砕スラリーに、試料1ではKBM−503(シランカップリング剤,信越化学工業(株)製,3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を添加し、試料2ではKBM−1003(シランカップリング剤,信越化学工業(株)製,ビニルトリメトキシシラン)を添加した。添加量は試料1と2ともに、微粉砕したフィラー(磁性粉末)100質量%に対して1質量%とし、シランカップリグ剤を添加した微粉砕スラリーを、更に湿式ボールミルにて0.5hr混合、分散処理を行った。このスラリーを乾燥、整粒し、シランカップリング剤で表面処理されたフィラー(磁性粉末)を得た。なお、上記KBM−503及びKBM−1003の構造式は図2に示す。
【0101】
(乾式粒度分布計を用いたフィラー(磁性粉末)凝集力評価)
続いて、表面処理されたフィラー(磁性粉末)の凝集力の評価を実施した。装置は、Sympatec社製レーザー回折式乾式粒度分布測定装置HELOS&RODOSを用いた。まず、フィラー(磁性粉末)の粒度分布について、気流式乾式分散ユニットRODOSにおける分散ガス圧力を0.1〜0.5MPaの間で変化させて測定した。
【0102】
測定した粒度分布から、10μm以上の2次粒子(凝集粉)の分布におけるピークの頻度値(%)を読み取り、その頻度値をそれぞれの測定時における分散ガス圧力の対数に対してプロットした。このプロットに対して直線近似線を描き、頻度値が0(%)になったときの分散ガス圧力を、粉末の凝集力とした。結果を表1に示す。
【0103】
(フェライト焼結磁石の作製と評価)
次に、表面処理されたフィラー(磁性粉末)を用いて、フェライト焼結磁石を作製した。フェライト焼結磁石を作製するための出発原料として、表面処理されたフィラー(磁性粉末)、PP(ポリプロピレン、バインダ樹脂として使用)、パラフィンワックス、アクリル樹脂、及びDOP(フタル酸ジオクチル、可塑剤として添加)を準備した。これらをフィラー(磁性粉末)=87質量%、PP=5.1質量%、パラフィンワックス=5.1質量%、アクリル樹脂=1質量%、DOP=2質量%となるように秤量し、加圧加熱ニーダーを用いて、165℃で2.5hr混練を行い、混練物(コンパウンド)をペレタイザでペレット状に成形した。
【0104】
得られた混練物、もしくはペレットについて、断面をCP(クロスセクションポリッシャ)にて加工した後、SEMを用いて、内部のフェライト材料粉末の分散状態を観察した。試料1の混練物のSEM写真を図3(a)に示す。
【0105】
また、得られたペレットについて、メルトインデクサを用いて、設定温度180℃、荷重5kg、余熱時間360秒、インターバル25mmの条件で、MFR(メルトフロー値、単位:g/10min.)を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
次に、図1に示す磁場射出成形装置2を用いてペレット10を、金型8内に射出成形した。金型8への射出前に、金型8は閉じられ、内部にキャビティ12が形成され、金型8には磁場が印加された。なお、ペレット10は、押出機6の内部で加熱溶融され、スクリューにより金型8のキャビティ12内に射出された。射出温度は185℃、金型温度は40℃、射出時の印加磁場は1273kA/mとした。磁場射出成形工程で得られた予備成形体は円板状であり、直径30mm、厚み3mmであった。
【0107】
予備成形体は、加湿された大気雰囲気中において、最高到達温度230℃で50時間の熱処理を実施し、脱ワックス処理を行った。この脱ワックス処理した成形体を、大気中、150〜500℃を緩昇温して脱バインダ処理し、続けて大気中、1190〜1230℃で1時間保持する焼成を行い、焼結体であるフェライト焼結磁石を得た。
【0108】
<磁気特性(Br、HcJ、Hk)の測定>
まず、試料1と2の各試料について、アルキメデス法により密度測定を行った。
次いで、試料1と2の各フェライト焼結磁石の上下面を加工した後、25℃の大気雰囲気中にて、最大印加磁場1989kA/mのB−Hトレーサを使用して磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力HcJ、角形比Hk/HcJ)を測定した。結果を表1に示す。ここで、Hkは磁気ヒステリシスループの第2象限において、磁束密度が残留磁束密度の90%になるときの外部磁界強度である。
【0109】
<X線配向度>
試料1と2の各試料について、予備成形体は金型面(自然面)の片面に対して、フェライト焼結磁石は片面を平滑に研磨し、この平滑研磨面に対して、それぞれXRD(X線回折)測定(X線源:CuKα)を行い、フェライト焼結磁石に由来する回折ピークを同定した。同定した回折ピークの面指数とピーク強度から、予備成形体とフェライト焼結磁石のそれぞれの結晶学的配向度(X線配向度)を求めた。
【0110】
なお、本発明において、予備成形体及び焼結磁石のX線配向度Or(f)=ΣI(00L)/ΣI(hkL)とした。この式の(00L)は、(004)、(006)等の結晶構造におけるc面(c軸に垂直な面)を総称する表示であり、ΣI(00L)は、(00L)面に帰属する全てのピーク強度の合計を示す。また、(hkL)は、検出された全ての回折ピークを示し、ΣI(hkL)は、それらのピーク強度の合計である。ここで、(00L)で表されるc面は、本発明のフェライト焼結磁石における磁化容易軸方向に垂直な面である。(00L)面のピーク強度の合計が高いほど、すなわち、Or(f)=ΣI(00L)/ΣI(hkL)が高いほど、結晶学的に磁化容易軸が揃っていることになり、より高Br化することが出来る。
【0111】
試料3
試料3では、フィラー(磁性粉末)を作製する際、微粉砕後に添加するシランカップリング剤の種類をKBM−403(シランカップリング剤,信越化学工業(株)製,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)とした以外は、試料1又は2と同様にサンプルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、上記KBM−403の構造式を図2に示す。
【0112】
試料4
試料4では、フィラー(磁性粉末)を作製する際、微粉砕後に添加するシランカップリング剤の種類をKBM−603(シランカップリング剤,信越化学工業(株)製,N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)とした以外は、試料1又は2と同様にサンプルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、上記KBM−603の構造式を図2に示す。
【0113】
試料5
試料5では、微粉砕スラリーにシランカップリング剤を添加しなかった以外は試料1又は2と同様にサンプルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
試料6
試料6では、微粉砕スラリーにシランカップリング剤を添加せず、代わりにソルビトールを磁性粉末100質量%に対して0.45質量%添加して微粉砕した以外は、試料1又は2と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。また、試料6の混練物のSEM写真を図3(b)に示す。また、図3(b)中の白い丸で囲んだ部分は磁性粉末が凝集している部分である。
【0115】
試料7
試料7では、粗粉砕時には、SiOを添加せず、フィラー(磁性粉末)を作製する微粉砕時に、溶媒としてキシレンを使用したオレイン酸を粗粉砕材料100質量%に対して1.3質量%と、SiOを試料1のフェライト焼結磁石中に含まれるSi成分量となる量と、を添加し、KBM−503又はKBM−1003を添加しなかった以外は、試料1又は2と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、上記オレイン酸の構造式を図2に示す。
【0116】
試料8
試料8では、粗粉砕時には、SiOを添加せず、フィラー(磁性粉末)を作製する微粉砕時に、SiOを試料1のフェライト焼結磁石中に含まれるSi成分量となる量を添加し、KBM−503及びKBM−1003を添加せず、微粉砕後に、乾燥し、乾燥したフィラーに、ステアリン酸カルシウム(Ca−St)を、粗粉砕材料100質量%に対して、1質量%添加して、アトマイザで混合分散処理した以外は、試料1又は2と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、上記ステアリン酸カルシウムの構造式を図2に示す。
【0117】
試料9
試料9では、粗粉砕時には、SiOを添加せず、フィラー(磁性粉末)を作製する微粉砕時に、SiOを試料1のフェライト焼結磁石中に含まれるSi成分量となる量を添加し、KBM−503及びKBM−1003を添加せず、微粉砕後に、乾燥し、乾燥したフィラーに、ステアリン酸亜鉛(Zn−St)を、粗粉砕材料100質量%に対して、1質量%添加して、アトマイザで混合分散処理した以外は、試料1又は2と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、上記ステアリン酸亜鉛の構造式を図2に示す。
【0118】
試料11〜16
試料11〜16では、微粉砕スラリーに添加するシランカップリング剤(信越化学工業(株)製KBM−503)の量を、微粉砕スラリー中の磁性粉末100質量%に対して0.1〜4質量%まで変化させ、フェライト焼結磁石に含まれるSi成分量を一定とするため、酸化ケイ素(SiO)の添加量を変化させた以外は、試料1と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0119】
試料21〜26
試料21〜26では、微粉砕スラリーに添加するシランカップリング剤(信越化学工業(株)製KBM−1003)の量を、微粉砕スラリー中の磁性粉末100質量%に対して0.1〜4質量%まで変化させ、更に、フェライト焼結磁石に含まれるSi成分量を一定とするため、配合工程における酸化ケイ素(SiO)の添加量を変化させた以外は、試料1又は2と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0120】
試料311〜316
試料311〜316では、PP(ポリプロピレン、バインダ樹脂として使用)、パラフィンワックス、アクリル樹脂及びDOP(フタル酸ジオクチル)を準備し、混練物中の前記4種の有機成分の体積百分率の合計が、表3に示す値となるようにした以外は、試料1と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。また、PP、パラフィンワックス、アクリル樹脂、DOPの混合比率は、成形体中のフィラー(磁性粉末)の含有量に応じて、表3に示す値に変化させた。結果を表3に示す。
【0121】
試料321〜326
試料321〜326では、PP(ポリプロピレン、バインダ樹脂として使用)、パラフィンワックス、アクリル樹脂及びDOP(フタル酸ジオクチル)を準備し、混練物中の前記4種の有機成分の体積百分率の合計が、表3に示す値となるようにした以外は、試料2と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。また、PP、パラフィンワックス、アクリル樹脂、DOPの混合比率は、成形体中のフィラー(磁性粉末)の含有量に応じて、表3に示す値に変化させた。結果を表3に示す。
【0122】
試料411
試料411では、以下のようにして作製したフィラー(磁性粉末)を用いた以外は、試料1又は2と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。結果を表4に示す。
【0123】
出発原料は、酸化鉄(Fe;不純物として、Mn、Cr、Al、Si、Clを含む)、炭酸ストロンチウム(SrCO)を用い、SrOとFeのモル比が1:6となるように秤量した。また、Ca成分として炭酸カルシウム(CaCO)、Si成分として酸化ケイ素(SiO)を、前述のモル比となるような出発原料100質量%に対してそれぞれ0.15質量%、0.2質量%を添加した。
【0124】
上記出発原料及び添加物としてのCa成分とSi成分原料、それぞれの粉末を湿式アトライタにて混合、粉砕し、スラリー状の原料組成物を得た。この原料組成物を乾燥後、大気中、1200℃で2時間保持する仮焼処理を行った。得られた仮焼体は、小型ロット振動ミルにて粗粉砕し、粗粉砕材を得た。
【0125】
得られた粗粉砕材100質量%に対して、Ca成分として炭酸カルシウム(CaCO)、Si成分として酸化ケイ素(SiO)をそれぞれ1.15質量%、0.4質量%を添加し、ソルビトールを0.45質量%添加し、湿式ボールミルにてBET法により求められる比表面積が7.0〜8.0m/gとなるように微粉砕した。
【0126】
このようにして得られたスラリを乾燥、整粒し、シランカップリング剤で表面処理されたフィラー(磁性粉末)を得た。
【0127】
試料412
試料412では、微粉砕時に添加する酸化ケイ素(SiO)の添加量を0.15質量%とし、ソルビトールを添加しないで、湿式ボールミルにて微粉砕し、得られた微粉砕スラリーに、シランカップリング剤(信越化学工業(株)製KBM−503)を微粉砕したフィラー(磁性粉末)100質量%に対して1質量%添加し、更に湿式ボールミルにて0.5hr混合、分散処理を行って、フィラー(磁性粉末)を表面処理した以外は、試料411と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。
【0128】
試料421
試料421では、出発原料の酸化鉄(Fe;不純物として、Mn、Cr、Al、Si、Clを含む)と炭酸ストロンチウム(SrCO)とが、SrOとFeのモル比が1:7となるように秤量し、スラリ状の原料組成物の仮焼処理の保持温度を1240℃とし、得られた粗粉砕材に対して、フェライト焼結磁石を構成する金属元素の焼成後の比率がSr0.82La0.18Fe11.84Co0.16となるように、酸化鉄(Fe;不純物として、Mn、Cr、Al、Si、Clを含む)、水酸化ランタン(La(OH))、酸化コバルト(Co)を添加した以外は、試料411と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。
【0129】
試料422
試料422では、出発原料の酸化鉄(Fe;不純物として、Mn、Cr、Al、Si、Clを含む)と炭酸ストロンチウム(SrCO)とが、SrOとFeのモル比が1:7となるように秤量し、スラリ状の原料組成物の仮焼処理の保持温度を1240℃とし、得られた粗粉砕材に対して、フェライト焼結磁石を構成する金属元素の焼成後の比率がSr0.82La0.18Fe11.84Co0.16となるように、酸化鉄(Fe;不純物として、Mn、Cr、Al、Si、Clを含む)、水酸化ランタン(La(OH))、酸化コバルト(Co)を添加した以外は、試料412と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。
【0130】
試料51では、フェライト焼結磁石を作製するための出発材料として、PP(ポリプロピレン)の代わりにPE(ポリエチレン)を用いた以外は、試料1と同様にしてサンプルを作製し、評価を行った。結果を表5に示す。
【0131】
試料52では、フェライト焼結磁石を作製するための出発材料として、アクリル樹脂を用いなかった以外は、試料1と同様にして、サンプルを作製し、評価を行った。結果を表5に示す。
【0132】
試料53では、フェライト焼結磁石を作製するための出発材料として、アクリル樹脂の代わりに、エチレン−アクリル共重合体を用いた以外は、試料1と同様にして、サンプルを作製し、評価を行った。結果を表5に示す。
【0133】
試料1〜9、11〜16、21〜26、311〜316、321〜326、411、412、422、51〜53の各試料のフィラー(磁性粉末)凝集力、MFR(メルトフロー値)、成形体X線配向度、磁気特性、焼結体X線配向度をまとめて表1〜5に示す。
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】

【0136】
【表3】

【0137】
【表4】

【0138】
【表5】

【0139】
試料1〜9より、前記表面処理剤は分子内に、磁性粉末表面との反応部位と、前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位と、を有し、磁性粉末表面との反応部位の末端がアルコキシ基(試料1及び2)、カルボキシル基(試料7)又はカルボキシル基の塩(試料8、9)であり、バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位の末端がアルキル基(試料7〜9)、アルケニル基(試料2)又はメタクリロキシ基(試料1)の場合は、フィラーの凝集力が低下し、混練物の流動性が向上することが確認できた。また、これらの試料1、2、7〜9では、成形体X線配向度が向上し、その影響により焼結後X線配向度も向上した。更に高い磁気特性(Br、HcJ及びHk/HcJ)が得られることが確認できた。
【0140】
更に、試料1と5のフェライト焼結磁石について、焼結体表面を光学顕微鏡で観察した。その結果、試料1では膨れやクラックが観察されなかった。一方、試料5では膨れやクラックを確認した。これは、試料5では、混練物中の磁性粉末の凝集により焼成後に形成された、局所的に配向が乱れた部分や等方性の異相部と、通常の異方性となっているその周囲との焼結時の収縮率の差により応力が生じたため、膨れやクラックが発生したと考えられる。
【0141】
また、図3より、同一の混練時間(2.5hr)において、バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位の末端がメタクリロキシ基であるKBM−503を添加した場合(図3(a))と、ソルビトールを添加した場合(図3(b))とを比較すると、バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位の末端がメタクリロキシ基であるKBM−503を添加した場合(図3a)には混練物中でフィラー(磁性粉末)が良好に分散するが(図3(a))、ソルビトールを添加した場合には、混練物中でフィラー(磁性粉末)の凝集が確認できた(図3(b))。従来は、図3(b)のような凝集を解消するために、更に混練時間を設けていた。しかし、表面処理剤をKBM−503とすれば、このようなさらなる混練時間を設けなくとも凝集のない混練物を得ることが出来るため、混練時間を短縮することが可能となり、生産性が向上する。
【0142】
表2より、表面処理剤が磁性粉末100質量%に対して0.1質量%超、4.0質量%未満の場合は、フィラー凝集力、混練物の流動性、成形体X線配向度、焼結体X線配向度、磁気特性が良好になることが確認できた。
【0143】
試料1、2、311〜316、321〜326より、混練物中における磁性粉末の含有量が、40〜65体積%の範囲に含まれる場合(試料1、2、312〜315、322〜325)は、混練物の流動性、成形体X線配向度、焼結体X線配向度、磁気特性が良好になることが確認できた。
【0144】
試料411、412、421、422より、フィラー(磁性粉末)の金属元素の組成を変えても、表面処理剤として、KBM−503を用いた場合(試料412、試料422)は、混練物の流動性、成形体X線配向度、焼結体X線配向度、磁気特性が良好になることが確認できた。
【0145】
試料51〜53より、フェライト焼結磁石を作製するための出発原料を構成するバインダ樹脂がポリオレフィン系樹脂を含んでいれば、その他にアクリル樹脂を含んでいても(試料1、51)、アクリル樹脂を含んでいなくても(試料52)、エチレン−アクリル共重合体を含んでいても(試料53)、混練物の流動性、成形体X線配向度、焼結体X線配向度、磁気特性が良好になることが確認できた。
【0146】
<アークセグメント型フェライト焼結磁石>
試料1、6、411、412、421及び422と同じ混練物を用いてペレットを作製し、焼成後に、図4(a)に示すアークセグメント型フェライト焼結磁石40を得ることが出来る予備成形体を、射出磁場成形機を用いて作製した。
【0147】
前記予備成形体に対して、加湿された大気雰囲気中において、最高到達温度230℃で50時間の熱処理を実施し、脱ワックスを行うことにより成形体を得た。続いて、前記成形体を、大気中、150〜500℃を緩昇温して脱バインダ処理し、続けて大気中、1200〜1220℃で1時間保持する焼成を行い、焼結体であるアークセグメント型フェライト焼結磁石40を得た。
【0148】
得られた30個のアークセグメント型フェライト焼結磁石について、倍率100倍のマイクロスコープを用いて外観チェックを行い、クラック発生があった個数及び直径200μm以上の膨れ発生箇所数を求めた。なお、膨れ発生箇所数に関しては、フェライト焼結磁石1個当たりの発生箇所数を算出した。
【0149】
また、上記のとおり、前記予備成形体は、図4(a)に示すような形状を得ることが可能な金型に、充填口を通じて混練物が供給され、射出磁場成形することにより得られる。本実施例では、前記成形型の円弧形状の面の中央部分に混練物充填口が存在する。これを、図4(a)のアークセグメント型フェライト焼結磁石40についてみると、アークセグメント型フェライト焼結磁石の円弧形状の面の中央部Fが、前記混練物充填口に接していた部分ということになる。以下では、前記混練物充填口に接していた部分Fがある面を“充填口側”とし、反対側の面を“反充填口側”とする。
【0150】
図4(b)は、図4(a)のアークセグメント型フェライト焼結磁石のIVb−IVb線に沿う正面図であり、図4(c)は、図4(a)のアークセグメント型フェライト焼結磁石のIVc−IVc線に沿う背面図である。すなわち、図4(b)のフェライト焼結磁石の正面図に表れている面が“充填口側”であり、図4(c)のアークセグメント型フェライト焼結磁石の背面図に表れている面が“反充填口側”である。
【0151】
試料1又は6と同じ混練物を用いて作製した成形体の充填口側の外側の弧の右端から反充填口側までの長さLと、前記成形体の充填口側の外側の弧の左端から反充填口側まで長さLを測定し、L=L−Lの式から求められる“長さの寸法差L”を算出した。この結果を表6に示す。
【0152】
そして、試料1又は6と同じ混練物を用いて作製した成形体の充填口側の幅W、高さh、厚みt及び外径Rと、前記成形体の反充填口側の幅W、高さh、厚みt及び外径Rと、をそれぞれ測定し、W=W−Wの式から求められる“幅の寸法差W”、h=h−hの式から求められる“高さの寸法差h”、t=t−tの式から求められる“厚みの寸法差t”及びR=R−Rの式から求められる“外径の寸法差R”をそれぞれ求めた。この結果を表6に示す。
【0153】
前記アークセグメント型フェライト焼結磁石40の充填口側の外側の弧の右端から反充填口側までの長さLと、前記アークセグメント型フェライト焼結磁石40の充填口側の外側の弧の左端から反充填口側まで長さLを測定し、L=L−Lの式から求められる“長さの寸法差L”を算出した。この結果を表7に示す。
【0154】
そして、フェライト焼結磁石40の充填口側の幅W、高さh、厚みt及び外径Rと、フェライト焼結磁石40の反充填口側の幅W、高さh、厚みt及び外径Rと、をそれぞれ測定し、W=W−Wの式から求められる“幅の寸法差W”、h=h−hの式から求められる“高さの寸法差h”、t=t−tの式から求められる“厚みの寸法差t”及びR=R−Rの式から求められる“外径の寸法差R”をそれぞれ求めた。この結果を表7に示す。
【0155】
【表6】

【0156】
【表7】

【0157】
表6より、表面処理剤としてKBM−503を用いた場合(試料1)は、成形体の長さ寸法差L、幅寸法差W、高さ寸法差h、厚み寸法差t及び外径寸法差Rが小さいことが確認できた。試料6ではフィラーが凝集無く分散していることにより、成形体中の密度差が小さくなるため、これにより、上記の寸法差が小さくなるものと考えられる。
【0158】
表7より、表面処理剤としてKBM−503を用いた場合(試料1、412、422)場合は、アークセグメント型フェライト焼結磁石のクラック発生数及び膨れ発生数が少なく、長さ寸法差L、幅寸法差W、高さ寸法差h、厚み寸法差t及び外径寸法差Rが小さいことが確認できた。表面処理剤としてKBM−503を用いた場合(試料1)は、成形体の寸法差が小さくなるため(表6)、これにより、アークセグメント型フェライト焼結磁石の寸法精度も向上したと考えられる。
【符号の説明】
【0159】
2… 磁場射出成形装置
4… ホッパ
6… 押出機
8… 金型
10… ペレット
12… キャビティ
40… アークセグメント型フェライト焼結磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末に表面処理剤を付着させ、前記磁性粉末を、ポリオレフィン系樹脂を含むバインダ樹脂とともに混練した混練物を得る工程と、
前記混練物を溶融させて磁場が印加された金型により成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成する工程と、を有し、
前記表面処理剤は分子内に、前記磁性粉末表面との反応部位と、前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位と、を有する物質であって、
前記磁性粉末との反応部位の末端に、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基若しくはこれらの誘導体、又はこれらの塩を有しており、
前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位の末端に、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を有していることを特徴とする、フェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
磁性粉末を湿式粉砕する工程と、
磁性粉末を湿式粉砕した後に、磁性粉末に表面処理剤を添加することにより前記磁性粉末に表面処理剤を付着させ、前記磁性粉末を、ポリオレフィン系樹脂を含むバインダ樹脂とともに混練した混練物を得る工程と、
前記混練物を溶融させて磁場が印加された金型により成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成する工程と、を有し、
前記表面処理剤は分子内に、前記磁性粉末表面との反応部位と、前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位と、を有する物質であって、
前記磁性粉末との反応部位の末端に、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基若しくはこれらの誘導体、又はこれらの塩を有しており、
前記前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位の末端に、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を有していることを特徴とする、フェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記成形体を、前記混練物を溶融させて磁場が印加された金型内に射出成形することにより得る請求項1又は2に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理剤が、シランカップリング剤であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記シランカップリング剤が下記の構造式(1)又は(2)で示され、
(4−n)−Si−(OR ・・・(1)
(X−R(4−n)−Si−(OR ・・・(2)
前記nは2又は3であり、
Xが、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基であり、Rがアルキル基であり、Rが、1〜20個の炭素原子を含む直鎖状、環状又は分岐状の構造であることを特徴とする、請求項4に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記表面処理剤が前記磁性粉末100質量%に対して、0.3〜3質量%添加されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記混練物中における前記磁性粉末の含有量が、40〜65体積%であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
表面処理剤を付着させた磁性粉末であって、
前記表面処理剤の分子内に、前記磁性粉末表面との反応部位と、前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位と、を有する物質であって、
前記磁性粉末との反応部位の末端に、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基若しくはこれらの誘導体、又はこれらの塩を有しており、
前記バインダ樹脂との反応部位及び/又は相互作用部位の末端に、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を有していることを特徴とする、表面処理剤を付着させた磁性粉末。
【請求項9】
前記表面処理剤が、シランカップリング剤であることを特徴とする、請求項8に記載の表面処理剤を付着させた磁性粉末。
【請求項10】
前記シランカップリング剤が下記の構造式(1)又は(2)で示され、
(4−n)−Si−(OR ・・・(1)
(X−R(4−n)−Si−(OR ・・・(2)
前記nは2又は3であり、
Xが、アルキル基、アルケニル基、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基であり、Rがアルキル基であり、Rが、1〜20個の炭素原子を含む直鎖状、環状又は分岐状の構造であることを特徴とする、請求項9に記載の表面処理剤を付着させた磁性粉末。
【請求項11】
前記表面処理剤が前記磁性粉末100質量%に対して、0.3〜3質量%付着していることを特徴とする、請求項8〜10のいずれかに記載の表面処理剤を付着させた磁性粉末。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載の表面処理剤を付着させた磁性粉末と、ポリオレフィン系樹脂を含むバインダ樹脂と、を含む混練物。
【請求項13】
前記混練物中における前記磁性粉末の含有量が、40〜65体積%であることを特徴とする、請求項12に記載の混練物。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の前記混練物からなる成形体。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−216857(P2011−216857A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9939(P2011−9939)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】