説明

フォトマスク保護テープ用ポリエステルフィルム

【課題】 保護テープ基材の内部異物、凝集粒子やオリゴマーの発生が極めて少ないフォトマスク保護テープ用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 下記式(1)および(2)を同時に満たす量のチタン化合物およびリン化合物を含み、アンチモン元素の含有量が10ppm以下であり、実質的に粒子を含まない二軸配向ポリエステルフィルムの両面に塗布層を有することを特徴とするフォトマスク保護テープ用二軸配向ポリエステルフィルム。
1≦WTI≦20 …(1)
1≦W≦300 …(2)
(上記式中、WTIはポリエステルフィルム中のチタン元素含有量(ppm)、Wはポリエステルフィルム中のリン元素含有量(ppm)を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路形成工程等において液状レジストなどの粘着性を有するフォトマスクに密着させて使用するフォトマスク保護粘着テープの基材ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線板を作成する際に、液状レジストなどのような粘着性を有するフォトレジストが使用されていることが多い。このレジストをフォトマスクと呼ばれるネガフィルムを介して365nm付近の紫外線を照射することによりレジストを硬化させる。フォトレジストに密着して使用される露光用フォトマスクの表面の汚れや損傷等から保護する目的で、厚み3〜25μmのポリエステルフィルムを基材とし、基材の片面に粘着剤層が、他の面に離型層が設けられたフォトマスク保護テープが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
フォトマスク保護テープとして、高い光線透過率を有すること、紫外線により粘着物性が変化しないこと、フォトマスクに粘着剤を残さずに剥離できること、離型処理層が高耐久性を有すること等の条件が要求され、特許文献2および3などに記載されたようにフォトマスク保護テープの粘着剤層や離型層などの改良がなされてきた。
【0004】
近年、プリント配線板がより高精細化され、プリント配線の幅が数十μm程度にまで高精細化されると、フォトマスク保護テープの基材フィルム中に含まれる内部異物が、紫外線を照射した際、その部分の光透過性が不十分になり、解像度が低下して、精密な回路パターンが得られないという問題が新たに発生してきた。
【0005】
特に、基材ポリエステルフィルムの原料であるポリエステルの重縮合時の重合触媒としては、安価でかつ優れた触媒活性をもつことで三酸化アンチモンが広く用いられているが、これを重縮合触媒の主成分、すなわち、実用的な重合速度が発揮される程度の添加量にて使用すると、重縮合時に三酸化アンチモンが還元され、10μm以下の金属アンチモン粒子が生成する。そしてフィルム製造時の溶融押出し工程で金属アンチモン粒子が凝集し、20μmを越える大きさの黒色異物としてフィルム中に存在するようになる。
【0006】
これらの金属アンチモン粒子の凝集体は高精細な回路パターンを形成する際、紫外線の透過を遮蔽し、回路パターンに欠陥をもたらすという問題が残った。
【0007】
これらの金属アンチモン粒子の凝集体を除去するために、溶融押出時にフィルターを使用しても、金属アンチモン粒子の凝集体が変形しながらフィルターを通り抜け、完全に除去することは困難である。
【0008】
また、基材ポリエステルフィルムの原料であるポリエステルの重縮合時の重合触媒として、ゲルマニウム化合物も知られているが、ゲルマニウム化合物は非常に高価であり汎用的に用いることは難しい。
【0009】
さらにアンチモン化合物以外の重合触媒として、チタンテトラブトキシドなどのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用すると黒色異物の問題は解決されるものの、得られたポリエステル自身が黄色く着色し、また溶融熱安定性も不安定となり、フィルムの破れなどが生じ生産性の悪化を招くという問題がある。上記着色問題を解決するためにコバルト化合物をポリエステルに添加して黄色味を抑えることが一般的に行われているが、溶融熱安定性が低下し、これも生産性が悪化する。
【0010】
上記問題を解決するために、特許文献4にチタン元素とリン元素の含有量を特定することでフィルムの内部異物を減少させる提案がなされているが、ポリエステルを溶融重合する工程で発生するオリゴマーを考慮に入れた設計になっていない。
【0011】
また、従来のポリエステルフィルムには、フィルムの巻上げ工程等での作業性を向上させる上でシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、フッ化リチウム、酸化アルミニウム、カオリン等の無機粒子やアクリル樹脂、グアナミン樹脂等の有機粒子や触媒残差を粒子化させた析出粒子等の微粒子を含有させているが、これらの粒子は基材フィルム中に粗大凝集物になる可能性があり、高精細な回路パターンを形成する際、紫外線の透過を遮蔽し、回路パターンに欠陥をもたらすという問題が残る。
【0012】
すなわち、高精細な回路パターンが要求されるフォトレジストにおいてはフォトマスク表面の汚れや損傷等の防止のため、保護テープが不可欠になっているが、保護テープ基材の内部異物、凝集粒子やオリゴマー等が紫外線照射時の光透過性の妨げに、解像度が低下して、精密な回路パターンが得られないという問題が残ったままである。
【特許文献1】特開平4−355759号公報
【特許文献2】特開平9−230580号公報
【特許文献3】特開2005−181564号公報
【特許文献4】特開平6−170911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の従来の問題点を解決するものであり、その解決課題は、保護テープ基材の内部異物、凝集粒子やオリゴマーの発生が極めて少ないフォトマスク保護テープ用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題について、鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は、下記式(1)および(2)を同時に満たす量のチタン化合物およびリン化合物を含み、アンチモン元素の含有量が10ppm以下であり、実質的に粒子を含まない二軸配向ポリエステルフィルムの両面に塗布層を有することを特徴とするフォトマスク保護テープ用二軸配向ポリエステルフィルムに存する。
1≦WTI≦20 …(1)
1≦W≦300 …(2)
(上記式中、WTIはポリエステルフィルム中のチタン元素含有量(ppm)、Wはポリエステルフィルム中のリン元素含有量(ppm)を示す)
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいうポリエステルフィルムとは、押出口金から溶融押出される、いわゆる押出法により押し出した溶融ポリエステルシートを冷却した後、必要に応じ、延伸したフィルムである。
【0016】
本発明のフィルムを構成するポリエステルとは、ジカルボン酸と、ジオールとからあるいはヒドロキシカルボン酸とから重縮合によって得られるエステル基を含むポリマーを指す。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を、ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール等を、ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等をそれぞれ例示することができる。
【0017】
その製法としては、例えば、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとの間でエステル交換反応をさせるか、あるいは芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接エステル化させるかして、実質的に芳香族ジカルボン酸のビスグリコールエステル、またはその低重合体を形成させ、次いでこれを減圧下、加熱して重縮合させる方法が採用される。
【0018】
かかるポリマーの代表的なものとして、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレート等が例示される。これらのポリマーはホモポリマーであってもよく、また第3成分を共重合させたものでもよい。
【0019】
前記縮重合反応に使用する触媒としてはチタン化合物が好ましい。重合触媒としてチタン化合物以外にゲルマニウム化合物やアンチモン化合物が挙げられるが、ゲルマニウム化合物は非常に高価であり汎用的に使うには不利であり、またアンチモン化合物はアンチモン元素含有量としてポリエステルフィルム中に10ppm以下である必要があり、好ましくはアンチモン元素がないことである。アンチモン化合物が10ppmより多いと金属アンチモン粒子が凝集しやすく、異物となって紫外線を高精細な回路パターンを形成する際、紫外線の透過を遮蔽し、回路パターンに欠陥をもたらす。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムの中には、チタン化合物およびリン化合物の双方を含有する必要がある。本発明のフィルムのチタン元素含有量は1〜20ppmである必要があり、好ましくは1〜10ppm、さらに好ましくは1〜5ppmである。チタン化合物の含有量が多すぎるとポリエステルを溶融押出する工程でオリゴマーが副生成し、低オリゴマーで高度な透明性を有するフィルムを得ることができなく、フォトマスク保護テープとして製造工程においても、離型層や粘着層を塗工した時に表面オリゴマーが生成し、フォトマスク保護テープとして弊害が生じる。また、チタン元素を全く含まない場合、ポリエステル原料製造時の生産性が劣り、目的の重合度に達したポリエステル原料を得られない。一方、リン元素量は1〜300ppmであることが必要であり、好ましくは5〜200ppm、さらに好ましくは5〜100ppmである。上記したチタン化合物を特定量含有するとともに、リン化合物を含有させることにより、含有オリゴマーの低減に対して著しい効果を発揮できる。リン化合物の含有量が多すぎると、ゲル化が起こり、異物となってフィルムの品質を低下させる原因となることがある。本発明においては、チタン化合物、リン化合物を上記した範囲で含有する場合、オリゴマーの副生成も防止できる。
【0021】
本発明におけるポリエステルフィルムは、実質的に無粒子である。ここでいう実質的無粒子とは、フィルムの巻上げ工程での易滑性付与を目的として通常配合されるような粒子が添加されておらず、検出量としては10ppm以下である。基材フィルム中に実質的な粒子が存在すると、基材フィルム中に粗大凝集物になる可能性があり、高精細な回路パターンを形成する際、紫外線の透過を遮蔽し、回路パターンに欠陥をもたらす。塗布層に通常0.01〜5μm、好ましくは0.02〜2μmの均一な粒径の微小粒子を含有させて滑り性を持たせておけば、良好な巻き取り防止性を付与することができる。
【0022】
前記塗布層に含有させる粒子としては、例えば、湿式および乾式シリカ、コロイダルシルカ、珪酸アルミニウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、マイカ、カオリン、クレー、ヒドロキシアパタイト等の無機粒子およびスチレン、シリコーン、アクリル酸等を構成成分とする有機粒子等を使用することができる。これらの粒子は2種以上を、本発明で規定した特性を損ねない範囲内で併用してもよい。
【0023】
さらに、前記塗布層に含有させる粒子としては、0.01〜25質量%の範囲であることが好ましい。0.01質量%未満の場合、フィルムの滑り性が悪化したり、巻き取りが困難となったりするなどのハンドリング性が低下しやすくなる傾向がある。一方、25重量%を超えると透明性や塗布性が悪化しやすくなることがある。
【0024】
本発明のフィルムにおける塗布層は、フォトマスク保護テープを作成する際の離形シートや離形層との密着性を改良する観点から、密着性改質樹脂を使用するのが好ましい。前記の密着性改質樹脂としては、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル系重合体および/またはそれらの共重合体から選ばれた少なくとも1種からなる樹脂を用いることが好ましい。
【0025】
本発明で使用するポリエステルの極限粘度は、通常0.40〜0.90dl/g、好ましくは0.45〜0.80dl/g、さらに好ましくは0.50〜0.75dl/gである。極限粘度が0.40dl/g未満では、フィルムの機械的強度が弱くなる傾向があり、極限粘度が0.90を超える場合は、溶融粘度が高くなり、押出機に負荷がかかったり、製造コストがかかったりする。
【0026】
本発明におけるポリエステルフィルムは上記したポリエステル原料をエクストルーダーに代表される周知の溶融押出装置に供給し、当該ポリマーの融点以上の温度に加熱し溶融する。次いでスリット状のダイより溶融ポリマーを押出しながら、回転冷却ドラム状でガラス転移温度以下の温度になるよう急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。このシートを2軸方向に延伸してフィルム化し、熱固定を施すことで得られる。この場合、延伸方法は逐次2軸延伸でも同時2軸延伸でもよい。また、必要に応じ、熱固定を施す前または後に再度縦および/または横方向に延伸してもよい。本発明においては十分な寸法安定性を得るため延伸倍率を面積倍率として8倍以上が好ましく、さらに好ましくは10倍以上である。
【0027】
本発明のフィルムの厚みは3〜25μm、好ましくは4〜16μm、さらに好ましくは4〜12μm、さらにより好ましくは4〜8μmである。厚みが25μmを超えると露光時に光が散乱し解像度が低下し、厚みが3μm未満であると保護テープ作成時の取り扱いが困難になり作業性が悪化したり、剥離時に破断したりする。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムの波長365nmの紫外線透過率は通常70%以上であり、好ましくは75%以上である。紫外線透過率が70%未満であると、レジスト層の露光、硬化工程が円滑に完了しないことがある。
【0029】
本発明のポリエステルフィルムは150℃で測定した時の縦方向の熱収縮率が1.0〜5.0%であることが好ましい。縦方向の熱収縮率を1.0%未満に抑えると、フィルムの平面性が悪化しやすく、本発明のポリエステルフィルムをフォトマスク保護テープ用に使用した際に、製造工程で不具合が生じたり、レジスト層の露光、硬化工程が円滑に完了しなかったりすることがある。また、縦方向の熱収縮率が5.0%を超えると、各工程での熱や溶剤によって収縮変形を生じやすくなることがある。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムの長手方向の引張破断強度は150MPa以上が好ましく、さらに好ましくは200MPa以上である。長手方向の引張破断強度が150MPa未満では、保護テープを使用するときに破断する恐れがある。
【発明の効果】
【0031】
本発明のフォトマスク保護粘着テープ用ポリエステルフィルムは、内部異物、凝集粒子やオリゴマーの発生を防止し、フォトマスク保護テープとして高精細な回路パターンに形成に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における評価方法やサンプルの処理方法は下記のとおりである。また、実施例および比較例中の「部」は「重量部」を示す。
【0033】
(1)ポリエステルの極限粘度の測定方法
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mmlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0034】
(2)平均粒径
少なくとも100個以上の粒子を電子顕微鏡により複数枚写真撮影し、写真画像から円相当径に換算して算出する。
【0035】
(3)ポリエステルフィルム層中のオリゴマー(環状三量体)含有量
所定量のポリエステル層をクロロホルム/1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(混合比:3/2)混合溶液に溶解した後、クロロホルム/メタノール(混合比:2/1)で再析出して濾過し、線状ポリエチレンテレフタレートを除いた後、次いで得られた濾液中の溶媒を、エバポレータを用いて蒸発させ、得られた析出物を所定量のDMFに溶解させた。得られたDMFを、液体クロマトグラフィー(島津LC−7A)に供給してポリエステル中に含まれるオリゴマー(環状三量体)量を求め、この値を測定に用いたポリエステル量で割って、ポリエステルフィルム中に含まれるオリゴマー(環状三量体)量とした。液体クロマトグラフィーで求めるオリゴマー(環状三量体)量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。
標準試料の作成は、予め分取したオリゴマー(環状三量体)を秤量し、秤量したDMF(ジメチルホルムアミド)に溶解して作成した。なお、液体クロマトグラフの条件は下記のとおりとした。
移動相A:アセトニトリル
移動相B:2%酢酸水溶液
カラム:三菱化学(株)製 MCI GEL ODS 1HU
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
検出波長:254nm
【0036】
(4)フィルム中金属元素およびリン元素量の定量
蛍光X線分析装置((株)島津製作所社製型式「XRF−1500」を用いて、下記表1に示す条件下で、フィルムをFP法により単枚測定でフィルム中の元素量を求めた。なお、本方法での検出限界は、通常1ppm程度である。
【0037】
【表1】

【0038】
(5)フィルム内部異物の測定方法
クラス1000のクリーンルームにてA4版サイズのフィルムをヤチヨ・コーポレーション社製FPT−80型異物検知器にて5μm以上の内部異物を測定した。
【0039】
(6)フィルム厚みの測定方法
フィルムを10枚重ねてマイクロメータ法にて厚さを測定し10で除して平均値を求めフィルム厚みとした。
【0040】
(7)フィルムの紫外線透過率の測定方法
日本分光製可視紫外分光光度計UVIDEC−670を用いて波長365nmの紫外線透過率を測定した。
【0041】
(8)熱収縮率の測定方法
フィルムを長さ方向および幅方向に35mm幅×1000mm長の短冊状にサンプルを切り出し無張力状態にて150℃に設定されたオーブン(タバイエスペック(株)製:熱風循環炉)中に15分間熱処理を行い、熱処理前後の長さを直尺により測定し、下記式にて熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=[(a−b)/a]×100
(上記式中、aは熱処理前のサンプルの長さ(mm)、bは熱処理後のサンプルの長さ(mm)を表す)
【0042】
(9)引張破断強度の測定方法
インテスコ社製引張り試験機モデル2001型を用いて、温度23℃、湿度50%RHに調節された室内において長さ(チャック間)50mm、幅15mmの試料サンプルを200mm/分の歪み速度で引張り、フィルム破断時の荷重を測定し、下記式により引張破断速度を求めた。
引張破断強度(MPa)=切断時の荷重(N)/試料フィルムの断面積(mm
【0043】
(10)フォトレジストの硬化状態の評価
フィルムを公知の方法でフォトマスク保護粘着テープを作成し、幅20μmの線状の透過部と幅20μmの線状の非透過部とが平行に並んだガラスフォトマスクのフォトレジストとの対向面に貼り付けた。公知のフォトレジストにこれらのフォトマスクを密着し、その上から紫外線を300mJ/cmの照射量で照射し、フォトレジストの硬化を行った。フォトレジストの硬化状態を観察して、以下の基準で評価した。
○:フォトマスクパターン通りに硬化した
×:フォトマスクパターン通りには硬化しなかった
【0044】
以下の実施例および比較例にて使うポリエステル原料は次の方法にて製造した。
実施例1:
<ポリエステル(A1)の製造>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒としてテトラブトキシチタネートを加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物を重縮合槽に移し、4時間重縮合反応を行った。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェートを添加した後、重縮合槽に移し、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.55に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステルのチップを得た。極限粘度は0.55であった。得られたポリエステルチップを220℃で固相重合し、極限粘度0.65のポリエステル(A1)を得た。
【0045】
<ポリエステル(B1)の製造>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩を加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物を重縮合槽に移し、正リン酸を添加した後、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステル(B1)のチップを得た。ポリエステル(B1)の極限粘度は0.63であった。
【0046】
<フィルムの製造およびフォトレジストの評価>
ポリエステル(A1)チップおよび、ポリエステル(B1)チップをそれぞれ95重量部、5重量部の割合でブレンドした原料を、ベント付き二軸押出機により、290℃で溶融押出し、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して未延伸シートを得た。次いで、83℃で縦方向に3.8倍延伸した。この縦一軸延伸フィルムに、下記に記載のコート液Aをフィルムの両面に塗布した後、フィルムをテンターに導き、110℃で横方向に4.0倍延伸し、さらに225℃で熱処理を行い、厚さ6μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム中のオリゴマー量は0.60重量%、アンチモン、チタン、リン元素含有量は、それぞれ0ppm(検出下限値以下)、5ppm、50ppmであった。
コート液A1:下記の化合物a〜dの固形分が下記部数となるよう、水を媒体とするコート液を調整した。
a:大日本インキ化学工業社製ポリウレタンであるハイドランAP−40(商品名)60部
b:大日本インキ化学工業社製ポリエステルであるファインテックスES−670(商品名)25部
c:架橋剤として、メトキシメチロールメラミン10部
d平均粒径0.05μmのアルミナ粒子5部
【0047】
以下、各実施例、比較例にて得られたフィルム中のアンチモン、チタン、リン元素含有量オリゴマー量、および内部異物とフォトレジストの硬化状態の評価結果を下記表2および表3にまとめて示す。
【0048】
実施例2〜4:
ポリエステル(A1)および(B1)の製造において、エチルアシッドフォスフェートと正リン酸の添加量を変えた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを得た。
【0049】
実施例5:
実施例1において、フィルムの厚みを16μmにした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを得た。
【0050】
実施例6:
コート液A1の代わりに下記の記載のコート液A2を使用した以外は実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを得た。
コート液A2:下記の化合物a,b,e,fの固形分が下記部数となるよう、水を媒体とするコート液を調整した。
a:大日本インキ化学工業社製ポリウレタンであるハイドランAP−40(商品名)60部
b:大日本インキ化学工業社製ポリエステルであるファインテックス ES−670(商品名)25部
e:架橋剤として、メトキシメチロールメラミン10部
f:平均粒径1.5μmのシリカ粒子5部
【0051】
比較例1:
ポリエステルの製造において、平均粒子径2.5μmのシリカ粒子のエチレングリコールスラリーを、粒子のポリエステルに対する含有量が0.10重量%となるように添加した以外は、実施例1と同様の方法で極限粘度0.66のポリエステル(A3)チップを得た。実施例1において、使用したポリエステル(A1)チップの代わりに、ポリエステル(A3)チップを用いた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを得た。
【0052】
比較例2〜3:
ポリエステル(A1)および(B1)の製造において、エチルアシッドフォスフェートと正リン酸の添加量を変えた以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを得た。
【0053】
比較例4:
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム四水塩を加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。
4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェートを添加した後、重縮合槽に移し、三酸化アンチモンを加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステルのチップを得た。この、ポリエステルの極限粘度は0.63であった。得られたポリエステルチップを真空下220℃で固相重合し、極限粘度0.67のポリエステル(C)を得た。ポリエステル(C)を、ベント付き二軸押出機により、290℃で溶融押出し、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して未延伸シートを得た。次いで、83℃で縦方向に3.8倍延伸した後、テンターに導き、110℃で横方向に4.0倍延伸し、さらに225℃で熱処理を行い、厚さ6μmのポリエステルフィルムを得た。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のフィルムは、フォトマスク保護テープ用として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)および(2)を同時に満たす量のチタン化合物およびリン化合物を含み、アンチモン元素の含有量が10ppm以下であり、実質的に粒子を含まない二軸配向ポリエステルフィルムの両面に塗布層を有することを特徴とするフォトマスク保護テープ用二軸配向ポリエステルフィルム。
1≦WTI≦20 …(1)
1≦W≦300 …(2)
(上記式中、WTIはポリエステルフィルム中のチタン元素含有量(ppm)、Wはポリエステルフィルム中のリン元素含有量(ppm)を示す)

【公開番号】特開2009−169186(P2009−169186A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8489(P2008−8489)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】