説明

フッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法および光学部材用の硝材の製造方法

【課題】 半導体露光装置の光学系に用いるレンズ、窓材、プリズムなどの真空紫外光を透過させて使用するフッ化カルシウムなどのフッ化金属単結晶のレーザー耐久性を、短時間且つ簡単で高精度に評価する。
【解決手段】 エックス線又はガンマ線照射の照射によりフッ化金属単結晶に色中心を生成させ、該照射前後の光透過率の変化によりレーザー耐久性を評価する方法において、エックス線又はガンマ線照射後の光透過率の測定前に、紫外線及び/又は真空紫外線照射を行なうことで、短時間に変化する色中心を除去し、残ったほとんど変化がない色中心だけを測定する。これにより測定誤差を大幅に低減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体露光装置の光学系に用いるレンズ、窓材、プリズムなどの真空紫外光を透過させて使用するフッ化金属単結晶のレーザー耐久性を評価する方法および、これら光学部材用の硝材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高強度紫外線レーザー用途の光学材料への要求が高まっている。これまでは半導体集積回路の大容量化、高性能化に伴い、露光装置に用いる光源の短波長化が要求されてきた。その結果、現在はArFエキシマレーザー(波長193nm)が露光光源の主流になっている。さらなる短波長化のため次世代の露光技術としてEUV露光技術の検討が続けられているが未だ完成には至っておらず、今のところは液浸露光技術やダブルパターニングなどに代表される高解像度化技術が多く開発され、193nm露光が延命されている。これらの高解像度化技術には露光光源の高出力化が必要なものもあり、当然、露光光源の窓や露光装置の光学系には高強度の紫外線レーザーが照射される。そのため、それらに使用する光学材料には、さらなる高レーザー耐性化が要求されている。
【0003】
これらの光学材料には、高強度紫外線レーザーの長期間の照射に対して透過率などの光学特性が変化(低下)しない優れた耐久性が要求される。しかしながら、現状の光学材料には十分なレーザー耐久性を持った高品質のものから、目的の紫外線レーザー照射に耐えられない低品質のものまで様々である。
【0004】
そのため、従来からこのような用途に使用する光学材料に対しては、より強い紫外線レーザーを長期間照射して、その耐久性を検査した上で、使用の可否を判断している。例えば、露光光源の窓や露光装置の光学系に用いられる光学材料に対しては、高強度の紫外線レーザーの照射前後や、実際に長期間の紫外線レーザー照射前後の透過率変化測定などの検査が行われてきた。
【0005】
しかしながら、上記のような高強度の紫外線レーザー光源は非常に高額であるうえに、維持費やコストも高額である。さらに、検査によっては費やされる時間も膨大である。また、高強度の紫外線レーザーは危険性も高く、十分な安全装置、設備が必要で大掛かりな装置構成となり、検査測定の操作も煩雑になるという課題があった。
【0006】
そして、それらの課題を解決するため、エックス線やガンマ線などのエネルギー密度の高い光源を照射して光学材料の劣化を加速し、短時間且つ安価で簡単にレーザー耐久性を評価可能にする技術が多く開発されてきた。例えば、下記特許文献1に記載の技術がある。同文献1によれば、この技術は波長193nmまたは157nmの照射に対する結晶のレーザー耐久性を評価する方法であって、エックス線又はガンマ線照射源を照射する前後で、所定の波長範囲での結晶の吸収スペクトルを測定し、照射前後の吸収スペクトルを所定の波長範囲で区切って囲んだ面積値の単位厚さあたりの値から波長193nmまたは157nmにおける吸収係数Δkを決定している。またこれ以外にも、エックス線又はガンマ線を照射し、その照射前後の透過率変化によりレーザー耐久性を評価する方法がいくつか提案されている(例えば、特許文献2〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−195962号公報
【特許文献2】特開2003−306396号公報
【特許文献3】特開2000−211920号公報
【特許文献4】特開2003−206197号公報
【特許文献5】特開2006−124242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さらなる高レーザー耐久性を求められる光学材料には、それだけ高精度な評価が必要である。しかしながら本発明者等の検討によれば、照射光源にエックス線又はガンマ線だけを用いるこれまでの評価方法では、求める精度に対して測定誤差が大きく、高品質な結晶のわずかな品質の差を高精度に評価することが難しいため、レーザー耐久性を評価するのに不十分である。
【0009】
したがって、本発明はフッ化金属単結晶のレーザー耐久性を高精度に評価する方法を提供することを目的とする。さらに、提供する評価方法を用いて評価したフッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは紫外線レーザーやエックス線、ガンマ線の照射によりフッ化金属単結晶に形成される色中心に、周囲の環境の影響を受けやすく短時間に変化(透過率を回復)する色中心と、周囲の環境の影響を受けにくくほとんど変化がない色中心の2種類があることに着目した。そして、紫外線レーザーの長期照射による透過率低下などの結晶の劣化が、ほとんど変化がない色中心の形成の程度と密接に関係している一方、短時間に変化する色中心とは実質的に相関がないことを見いだした。
【0011】
そこで、ほとんど変化がない色中心の形成の程度をより正確に測定するため、短時間に変化する色中心を除去することを考え、さらにこの除去には、紫外線及び/又は真空紫外線の照射を行うことが最も効率的であることを見いだし本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は真空紫外光透過材料用のフッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法であって、
(1)少なくとも190〜800nmの波長範囲でフッ化金属単結晶の透過スペクトルを測定する第一工程
(2)該フッ化金属単結晶にエックス線又はガンマ線を照射して色中心を形成させる第二工程、
(3)第二工程を経て色中心が形成されたフッ化金属単結晶に対して、190〜800nmの波長範囲での透過スペクトルの変化がなくなるまで紫外線及び/又は真空紫外線を照射する第三工程、
(4)第三工程を経たフッ化金属単結晶について、少なくとも190〜800nmの波長範囲での透過スペクトルを測定する第四工程、及び、
(5)第一工程で得られた透過スペクトルと、第四工程で得られた透過スペクトルとを比較する第五工程
を順に行うことを特徴とする、前記フッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法である。
【0013】
また他の発明は、上記第三工程で照射される紫外線及び/又は真空紫外線が、(フッ化金属単結晶が使用される際の透過紫外光のなかで最も短い波長−20nm)以下の波長の光を含まない紫外線及び/又は真空紫外線である請求項1記載のフッ化金属単結晶体のレーザー耐久性の評価方法である。
【0014】
さらに本発明では、上記レーザー耐久性の評価方法を組み込んだ、200nm以下の波長のレーザー光を用いる半導体光露光装置の光学系に用いるフッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材を製造する方法も提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の評価方法によれば、エックス線又はガンマ線照射後に紫外線及び/又は真空紫外線照射を行なうことで短時間に変化する色中心を除去できる。よって周囲環境から受ける測定への影響を抑え、残ったほとんど変化がない色中心だけを選択的に測定することで、高精度にフッ化金属単結晶のレーザー耐久性を評価することが可能となる。また、本発明は短時間且つ安価で簡単な評価方法でもあり、フッ化金属単結晶の評価技術として極めて有用である。
【0016】
さらに、フッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材の製造工程に本発明である評価方法を用いることで、信頼性の高い硝材を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は真空紫外光透過材料用のフッ化金属単結晶の評価方法である。当該フッ化金属としては真空紫外光透過材料用として使用可能な光透過性を有するフッ化金属であれば特に制限されず、具体的には、例えばフッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム等のアルカリ土類金属のフッ化物、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムなどのアルカリ金属のフッ化物、フッ化アルミニウム、或いはフッ化バリウムリチウム、フッ化リチウムカリウムアルミニウム、フッ化カルシウムストロンチウム、フッ化マグネシウムカリウム等の2種類以上の金属元素を含むフッ化金属等が挙げられる。
【0018】
本発明において真空紫外光透過材料用とは、波長が100〜200nmの光を透過させる材料を指し、代表的にはArFエキシマレーザーやFエキシマレーザーを光源に用いる半導体露光装置の光学系や光源の窓などの光学部材が挙げられる。このような光学部材として具体的には、レンズ、回折格子、光学膜体及びそれらの複合体、例えばレンズ、レンズアレイ、レンチキュラーレンズ、非球面レンズなどが挙げられる。
【0019】
また真空紫外光の光源としては上記したエキシマレーザー以外にも、Xeランプ、Krランプ等も実用化されており、これらのランプの窓材などの評価に用いることもできる。
【0020】
このような真空紫外光を透過させる光学部材として、本発明の方法で評価、製造されたレーザー耐久性が高いフッ化金属単結晶からなる硝材を原材料として製造された光学部材を用いることで、半導体露光装置は所望のスループットを長時間維持することができる。
【0021】
以下、上述のような真空紫外光透過材料用のフッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法を詳しく説明する。
【0022】
評価に用いるサンプルの厚さ(透過スペクトル測定方向の長さ)は照射光源がエックス線かガンマ線かにより事情が異なる。照射光源がエックス線の場合、エックス線はサンプルの表面付近にしか入らず、ほとんど透過しないので、その厚さは少なくとも色中心を形成する以上の厚みがあれば良い。色中心が形成されるのは、サンプル表面からおおよそ数μm〜数百μm程度の深さまでである。また、サンプルは厚いよりは薄い方が、加工が容易で直角度や平行度、表面荒さの精度が出やすく加工の面でも都合が良い。そのため、サンプルの厚みは1mm〜10mm程度が好ましい。
【0023】
照射光源がガンマ線の場合、ガンマ線はサンプルを透過するので、サンプルが厚い方がSN比は高まる。しかし、サンプルが厚過ぎると加工が難しく直角度や平行度、表面荒さの精度が悪くなり、SN比を低下させることになる。よって加工精度との兼ね合いが重要であり十分な加工精度を確保できる厚さで測定するのが好ましい。そのため、サンプルの厚みは1〜20cm程度が好ましく、より好ましくは3〜10cm程度である。
【0024】
サンプルの光源照射方向にあたる面は、高精度の研磨を施すことが好ましく、表面粗さRqがRMS値で1nm以下、さらには0.5nm以下であることが好ましい。
【0025】
このような評価用サンプルを用い、先ず第一工程としてフッ化金属単結晶の透過スペクトルを測定する。該透過スペクトルの測定には190〜800nmの波長範囲で測定可能な、一般的な紫外可視分光光度計を用いればよい。
【0026】
測定の手順は、紫外可視分光光度計に評価用サンプルをセットし、エックス線又はガンマ線と紫外線及び/又は真空紫外線の照射前の透過スペクトルを波長(λ1)から波長(λ2)に亘って測定する。このとき測定する波長範囲は、少なくとも波長190〜800nmの範囲で測定する必要があるが、むろん該波長域より短波長側および長波長側のスペクトルを同時に測定してもなんら問題はない。また、このときの透過スペクトル測定は第二工程におけるエックス線又はガンマ線と紫外線及び/又は真空紫外線を照射する予定の箇所で行う。
【0027】
続いて第二工程として、上記第一工程で透過スペクトルを測定したサンプルに対してエックス線又はガンマ線を照射する。エックス線又はガンマ線の照射源は特に限定されないが、例えばエックス線照射光源としては蛍光エックス線分析装置を利用することができる。また照射時間及び強度は、対象とするフッ化金属単結晶が色中心を形成するのに十分であれば特に限定されるものではないが、例えば、蛍光エックス線分析装置を用いる場合、照射は、電圧を30〜50kV、電流を10〜100mA程度に設定して行なうのが好ましい。この場合、照射時間はフッ化カルシウム単結晶であれば10〜120分程度の照射が好ましい。より好ましくは30〜60分程度の照射を行う。
【0028】
このようにエックス線又はガンマ線を照射したフッ化金属単結晶は色中心を形成しているため、図1中に示すように、照射前よりも透過率が低くなっている波長域が存在する。
【0029】
続いて第三工程では、上記第二工程を経たサンプルに紫外線及び/又は真空紫外線照射光源を用いて紫外線及び/又は真空紫外線を所定時間照射する。この操作により、エックス線又はガンマ線の照射により形成された、短時間に変化する色中心を除去する。
【0030】
紫外線及び/又は真空紫外線の光源は特に限定されるものではなく、低圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプや、キセノンランプ、クリプトン/塩素ランプ、キセノン/塩素ランプ等のエキシマランプなどの各種ランプ、GaNやAlGaN等の各種発光ダイオード、KrFレーザーやArFレーザー等のエキシマレザー光源などが使用できる。これらのなかでも取扱いが容易で比較的広い範囲に照射できる点でランプ光源が好ましく、特に数〜10mW/cm程度の出力を持つ低圧水銀ランプが好ましい。
【0031】
紫外線及び/又は真空紫外線の照射は、短時間に変化する色中心を除去するのに十分な時間だけ行なう。照射時間は色中心の変動がなくなるまで必要に応じて調整すれば良い。例えば、数〜数十mW/cm程度の出力を持つ低圧水銀ランプを用いる場合、フッ化カルシウム単結晶であれば10〜120分程度の照射が好ましい。より好ましくは60〜90分程度の照射を行う。
【0032】
この際、サンプルに照射される紫外線及び/又は真空紫外線は、フッ化金属単結晶からなる光学部材が露光装置に使用される際の透過紫外光のうち、最も短い波長より20nm以上短い光を含んでいないことが好ましい。例えば、ArFエキシマレーザー(193nm)を用いる半導体露光装置の光学系に用いる光学部材の場合には、173nm未満の波長の光を含まないことが好ましい。使用波長よりも極端に短い波長の光を照射した場合、当該波長の光によって逆に新たな色中心を形成する可能性がある。
【0033】
一方、紫外域より長波長の光(即ち可視光線や赤外線)は照射する光に含まれていてもなんら問題はない。なお、上述した紫外線及び/又は真空紫外線の照射により消失する色中心は、可視光線の照射によっても消失するが、可視光線は相対的に低エネルギーであり前期色中心を消失させるため極めて長時間を要するため本発明では紫外線及び/又は真空紫外線を用いるものである。
【0034】
次の第四工程では、2回目の透過スペクトル測定を行なう。1回目の測定と同様の条件(装置設定、設置方向)で、第三工程までを経たサンプルの透過スペクトルを測定する。この際の透過スペクトル測定は、1回目の透過スペクトル測定と同様に設置し、同様の箇所で測定を行なう。上記第三工程の紫外線及び/又は真空紫外線の照射により、前記エックス線又はガンマ線照射により生じた色中心のうち不安定な色中心は消失するため、図1中に示すように、通常は、第三工程の紫外線及び/又は真空紫外線の照射前よりも吸収が少なくなる。
【0035】
第五工程では、前記第一工程で得られた透過スペクトルと、第四工程で得られた透過スペクトルとを比較する。比較の方法としては、単に差分透過率を求める方法でも良いが、定量的な取扱いを行い易い点で、第一、第四工程で測定したサンプルの透過スペクトルをそれぞれ吸収スペクトルに換算し、照射前後の吸収スペクトルを所定波長範囲λ1からλ2で区切って囲んだ面積値を得る方法が好ましい。この値をサンプル厚さで割ると、吸収係数Δkが得られる。
【0036】
そしてこのΔkと別途測定した実際のレーザー耐久性との関係を求めておけば、Δkからレーザー耐久性を予測することが可能となる。また、異なるサンプル間で対比すれば、両者の相対的なレーザー耐性の比較も可能である。
【0037】
上記λ1及びλ2は各々190及び800nmであってもよいが、特徴的なピークを示す範囲のみを含むようにしてもよい。図1に示したケースでは、第4工程を経たサンプルには波長566nmを中心とする特徴的な吸収ピークがあるため、該566nmを中心として、例えば400〜800nmの範囲についての面積積分値を求め、これをΔkとすることができる。
【0038】
さらには、所定波長範囲中に他のサンプルと共通して、特定の波長に大きなピークが見られ、且つ他の波長に大きなピークが確認できない場合、その特定波長の吸光度からレーザー耐久性を求めても良い。この場合、照射前後の特定波長の吸光度の差をサンプル厚さで割った値が特定波長の吸収係数Δkになる。図1に示したフッ化カルシウム単結晶の例では、波長566nm付近に一つの大きなピークが現れており、よってこのような場合には波長566nmでの吸光度からレーザー耐久性を予測することが可能となる。
【0039】
前記Δkと別途測定した実際のレーザー耐久性との関係を求めておいて、Δkからレーザー耐久性を予測する方法について、より具体的にArFレーザー耐久性を例に挙げて述べる。
【0040】
なおこの長期レーザー耐久性の評価方法は破壊検査の一種であり、また本発明の評価方法も破壊検査である。よって一つの評価用サンプルで双方の試験を行うことは実質的にできない。そのため特に問題がない限り、両評価試験のサンプルはインゴットの互いに極めて近い位置から取得するのが好ましい。
【0041】
長期レーザー耐久性評価用のサンプルは透過スペクトル測定(レーザー照射)方向に厚い方が好ましい。レーザーはガンマ線同様にサンプルを十分透過するため、厚さに関する好ましい条件もガンマ線と同様である。また、サンプルのレーザー照射方向にあたる面についてもエックス線又はガンマ線同様、高精度の研磨を施すことが好ましい。
【0042】
評価に使用するレーザーは波長193nmのArFエキシマレーザーである。これを照射エネルギー密度1〜20mJ/cm、周波数500〜2000Hz、パルス数10〜10でサンプルに照射する。そしてレーザー照射前後の波長193nmの透過率を、紫外可視分光光度計で測定し、波長193nmにおける透過率変化量ΔTを算出する。
【0043】
ここで、上記のような照射条件の決定には、フッ化カルシウム単結晶が、ArFエキシマレーザーを露光光源とする半導体露光装置の光学系や露光光源の窓などに使用されることが考慮されている。つまり、評価に使用するレーザー光源及びその照射条件は、評価する光学材料を実際に使用する光源とその使用目的、使用条件に応じて選択することが重要である。
【0044】
上記のようにして得られた(ArF)レーザー耐久性ΔTと、前記本発明の方法で得られる評価結果Δkとを比較し、事前に相関関係を明らかにしておくことにより、以降は本発明の方法によりΔkを求めるだけで長期間の紫外線レーザーを照射した場合の長期レーザー耐久性を予測することが可能になる。
【0045】
長期レーザー耐久性は、上記のとおり10〜10パルスもの照射を要するため1日〜数ヶ月も時間を要する試験であるが、本発明の評価方法を用いれば、長くても半日程度で評価結果が得られる。
【0046】
さらに本発明では前述の第三工程を行うことにより、実際の長期レーザー耐久性との相関性が格段に良好になるため、従来の単にエックス線又はガンマ線を照射する方法に比べてその有用性がいっそう高いものとなっている。
【0047】
本発明の評価方法は、光学部材の製造工程に組み入れることにより最終的な製品の寿命を予測しやすくなるため、その有用性が高い。一般に、フッ化金属単結晶から成る光学部材は、大まかに分類すると、インゴットを育成し、該インゴットから硝材(ブランク)を得、次いで該硝材から各種光学部材へと加工する各工程から構成される。硝材から光学部材への加工は極めて高度な操作が行われる。また光学部材の種類によって求められる長期レーザー耐久性も異なる。そのため、光学部材とする前の段階、即ち硝材までの段階で本発明の評価方法を適用して長期レーザー耐久性を予測し、その結果に基づいて該硝材から光学部材を得ることが好ましい。
【0048】
従って本発明では、前記本発明の評価方法を工程に含んだ硝材の製造方法をも提供する。これは半導体光露光装置の光学系に用いるフッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材を製造する方法として利用できる。
【0049】
以下、このような光学部材用の硝材の製造方法を説明する。前述のとおり、本発明の評価方法は破壊検査である。従って、硝材自体を本発明の評価方法で評価することはできない。
【0050】
そのため、フッ化金属単結晶のインゴットから硝材を得る際に、該インゴットから硝材と評価用サンプルとを別々に得る必要がある。この際、まずインゴットから複数のブロックを切り出し、各々のブロックから硝材と評価用サンプルを切り出すことにより、各評価用サンプルについてのレーザー耐久性評価結果を、同一のブロックから得た硝材のレーザー耐久性とすることができる(第一の方法)。
【0051】
さらに原料溶融液から結晶を育成する際には、通常、後から結晶化された部分の方が不純物濃度が高くなりやすい。よって、育成の最後に結晶化した側の端部のレーザー耐久性を本発明の方法で評価すれば、インゴットの他の部分のレーザー耐久性は、該端部側と同等若しくはそれ以上のレーザー耐久性を有していると見なすことができる(第二の方法)。
【0052】
本発明の製造方法において、原料溶融液からフッ化金属単結晶のインゴットを育成する方法は、特に限定されず、公知の融液凝固法を採用することができる。具体的には、ブリッジマン法、チョクラルスキー法などが挙げられる。
【0053】
第一の方法では、育成して得られたフッ化金属単結晶のインゴットを加工して、複数のフッ化金属単結晶ブロックを得る(B工程)。インゴットを得る方法は特に限定されず公知の方法を採用すればよいが、融液凝固法で製造されたインゴットは円柱状の形状をしている場合が多く、また硝材としても円柱(円盤)状のものが必要とされる場合が多いため、通常は得られたインゴットを輪切りにして複数枚の円盤状のブロックを得ればよい。より具体的には、切断装置によりインゴットのトップ部とテール部を切り離し、さらにボディ部を複数のフッ化金属単結晶ブロックに加工すればよい。
【0054】
次のC工程では上記のようにして得た各フッ化金属単結晶ブロックから各々少なくとも一つの硝材と評価用サンプルを取得する。この際、該評価用サンプルは、同じフッ化金属単結晶ブロックから取得した硝材の極めて近い位置から取得することが好ましい。また一つのブロックから複数の硝材及び/又は評価用サンプルを取得してもよい。フッ化金属単結晶ブロックから硝材及び評価用サンプルを得る方法も特に限定されず、公知の切断、研削、研磨等の加工方法を適宜採用すれば良い。
【0055】
なおこの工程で得る硝材は、必ずしも硝材としての最終形状を有している必要はなく、下述するD工程、E工程と同時進行で、あるいはE工程であるレーザー耐久性の評価完了後に最終形状まで加工してもよい。
【0056】
次にD工程として上記C工程で得られた各評価用サンプルを、前述した本発明の評価方法により評価する。
【0057】
そして、E工程として、上記D工程で得られた評価結果から該評価用サンプルと同じフッ化金属単結晶ブロックから取得した硝材を光学部材とした際の該光学部材のレーザー耐久性を予測する。
【0058】
同じ半導体光露光装置の光学系に用いる光学部材であっても、光源系の部材、照明系の部材あるいは投影系の部材等の違いによって求められるレーザー耐久性のレベルは異なるため、上記評価結果に基づいて所望の用途の光学部材として使用できるか否か、あるいは該硝材をどのような用途向けとすることができるかを判定できる。一般的には、光源系、照明系、投影系の順に、またレーザー光源の出力密度が強いほど高いレーザー耐久性が要求される。
【0059】
以上のような工程を経て製造され、目的とする用途に対して必要なレーザー耐久性を有する(良品)と判断された硝材は、半導体光露光装置の光学系に用いる光学部材へと最終加工を行った後でも必要なレーザー耐久性を有すると判断できる。
【0060】
前述のとおり、本発明の評価方法は破壊検査である。そのため、硝材を直接評価することはできない。よって上述のようにインゴットから得たブロック単位で硝材と評価用サンプルとを取得する。そのため、該評価用サンプルの評価結果から同じフッ化金属単結晶ブロックから取得した硝材を光学部材とした際の該光学部材のレーザー耐久性を予測することが可能になっている。
【0061】
なお前述したフッ化金属単結晶のブロックから所望の形状を有する硝材を得る操作以外にも、硝材としての最終製品とするまでの間には、必要に応じてアニール(熱処理)を行って歪み等を除去する操作を行ったり、あるいは透過率、複屈折、屈折率均一性、散乱点の有無や個数、脈理等のレーザー耐久性以外の光学物性の計測を行うこともある。
【0062】
また、育成したフッ化金属単結晶のインゴットの最後に結晶化した端部側から評価用サンプルを取得し、該評価用サンプルの評価結果から該インゴットを加工して得た硝材を光学部材とした際の該光学部材のレーザー耐久性を予測しても良い。
【0063】
前述のとおり、一般に単結晶は、その育成過程で原料溶融液が濃縮されることで最後に結晶化した部分の方が先に結晶化した部分より不純物を多く含む傾向にある。また、育成が進みインゴットが長くなるほど温度勾配の制御は困難になり原料溶融液の対流が乱れるので、最後に結晶化した部分の結晶性は先に結晶化した部分より乱れる傾向にある。よって育成過程で最後に結晶化した部分は結晶全体の中で最も品質が低い場合が多いことになる。言い換えれば最後に結晶化した部分の品質に問題がなければ、それは先に結晶化した残りの結晶の品質にも問題がないことを示している。
【0064】
さらにこの第二の製造方法によれば一度の評価で結晶全体の品質を評価でき、評価用サンプルの取得数を減らすことで、歩留まり向上や、評価用サンプルの製造・評価などの工程で発生する種々のコストや掛かる時間を抑えることができるため非常に有益である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
用いたフッ化カルシウム単結晶はチョクラルスキー法により製造したものを用い、以下の実験では、実際のレーザー耐久性の測定用のサンプルと、本発明の評価方法による測定用サンプルとは、各々同一の育成インゴットのほぼ同じ位置から所得したものの組合せとした。
(1)レーザー耐久性の測定
レーザー耐久性の測定用のサンプルのサイズは25mm×25mm×厚さ100mmとした。これらサンプルの紫外レーザーを照射する方向に該当する2面を、表面荒さRqがRMS値で0.5nm以下に光学研磨した。
【0067】
サンプルにArFエキシマレーザーを照射エネルギー密度17.5mJ/cm、周波数1000Hz、パルス数10で照射し、照射前後の透過スペクトルを紫外可視分光光度計を用いて測定し、波長193nmにおける透過率の変化量ΔTを算出した。
【0068】
実施例
以下に説明する本発明の評価評価する方法を用いて、次の条件にて、17種のフッ化カルシウム単結晶のΔk値を測定した。
【0069】
評価用サンプルとして15mm×15mm×厚さ10mmのフッ化カルシウム単結晶を準備した。これらサンプルのエックス線と紫外線を照射する方向に該当する2面を、表面荒さRqがRMS値で0.5nm以下に光学研磨した。
【0070】
まず第一工程として、紫外可視分光光度計を用いて、サンプルのエックス線と紫外線照射前の透過スペクトルを波長190〜1100nmに亘って測定した。
【0071】
次に第二工程として、サンプルにエックス線照射を行なった。エックス線照射光源には蛍光エックス線分析装置を利用し、電圧を50kV、電流を60mAに設定して、エックス線をサンプルに30分間照射した。
【0072】
第三工程では、低圧水銀ランプを光源とするオゾン洗浄器(テクノビジョン社製UV−208)を紫外線照射光源として、出力7mW/cmの紫外線をサンプルに70分間照射した。
【0073】
第四工程として、第三工程までを経たサンプルの透過スペクトルを、一回目と同様に測定した。続いて第五工程として、第一、第四工程で測定したサンプルの透過スペクトルを吸収スペクトルに換算し、波長566nmにおける吸収係数Δkを算出した。
【0074】
算出されたΔkと、前述の方法で測定したΔTとの関係をプロットしたものを図2に示す。
【0075】
比較例
第三工程を行わなかった以外は、実施例と同様にして波長566nmにおける吸収係数Δkを算出した。
【0076】
算出されたΔkと、前述の方法で測定したΔTとの関係をプロットしたものを図3に示す。
【0077】
本発明である評価方法より得られたフッ化カルシウム単結晶のレーザー耐久性の評価結果と、長期間の紫外線レーザーを照射して得られた長期レーザー耐久性の評価結果から図2のような相関関係が得られた。本発明の評価方法により長期レーザー耐久性を十分に予測可能であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】第一工程時(エックス線照射前)、第二工程時(エックス線照射後)、第四工程時(紫外線照射後)の各透過スペクトルを示したグラフである。
【図2】本発明の評価方法により評価したフッ化カルシウム単結晶のレーザー耐久性の評価結果と長期レーザー耐久性の評価結果の相関関係を示すグラフである。
【図3】本発明の評価方法においてエックス線照射後に紫外線を照射しなかった場合のフッ化カルシウム単結晶のレーザー耐久性の評価結果と長期レーザー耐久性の評価結果の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空紫外光透過材料用のフッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法であって、
(1)少なくとも190〜800nmの波長範囲でフッ化金属単結晶の透過スペクトルを測定する第一工程
(2)該フッ化金属単結晶にエックス線又はガンマ線を照射して色中心を形成させる第二工程、
(3)第二工程を経て色中心が形成されたフッ化金属単結晶に対して、190〜800nmの波長範囲での透過スペクトルの変化がなくなるまで紫外線及び/又は真空紫外線を照射する第三工程、
(4)第三工程を経たフッ化金属単結晶について、少なくとも190〜800nmの波長範囲での透過スペクトルを測定する第四工程、及び、
(5)第一工程で得られた透過スペクトルと、第四工程で得られた透過スペクトルとを比較する第五工程
を順に行うことを特徴とする、前記フッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法。
【請求項2】
第三工程で照射される紫外線及び/又は真空紫外線が、(フッ化金属単結晶が使用される際の透過紫外光のなかで最も短い波長−20nm)以下の波長の光を含まない紫外線及び/又は真空紫外線である請求項1記載のフッ化金属単結晶体のレーザー耐久性の評価方法。
【請求項3】
200nm以下の波長のレーザー光を用いる半導体光露光装置の光学系に用いるフッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材を製造する方法であって、
(A)原料溶融液からフッ化金属単結晶のインゴットを育成するA工程、
(B)インゴットを加工して、複数のフッ化金属単結晶ブロックを得るB工程、
(C)各フッ化金属単結晶ブロックから、各々少なくとも一つの硝材と評価用サンプルとを得るC工程、
(D)各評価用サンプルを、請求項1又は2記載の評価方法により評価するD工程、
(E)評価用サンプルの評価結果から、該評価用サンプルと同じフッ化金属単結晶ブロックから得た硝材を光学部材とした際の該光学部材のレーザー耐久性を予測するE工程、
を有することを特徴とする前記光学部材用の硝材の製造方法。
【請求項4】
200nm以下の波長のレーザー光を用いる半導体光露光装置の光学系に用いるフッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材を製造する方法であって、
(a)原料溶融液からフッ化金属単結晶のインゴットを育成するa工程、
(b)インゴットの最後に結晶化した端部側から評価用サンプルを得るb工程、
(c)該評価用サンプルを、請求項1又は2記載の評価方法により評価するc工程、
(d)評価用サンプルの評価結果から、該インゴットを加工して得た硝材を光学部材とした際の該光学部材のレーザー耐久性を予測するd工程、及び
(e)評価用サンプルを得たインゴットの残部から硝材を得るe工程、
を有することを特徴とする前記光学部材用の硝材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−185718(P2011−185718A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50686(P2010−50686)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】