説明

フッ素系エラストマー又はフッ素系ゲル用プライマー組成物

【課題】フッ素系エラストマー又はゲル組成物用プライマー組成物。
【解決手段】下記(a)〜(e)成分を含む、プライマー組成物。(a)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する、直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物100質量部 (b)1分子中にSiH結合を少なくとも2個有する含フッ素有機ケイ素化合物(b)成分中のSiH基と(a)成分中のアルケニル基の比率(SiH/アルケニル)が0.8〜5.0となる量(c)ヒドロシリル化反応触媒 (d)1分子中に有機基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/またはトリアルコキシシリル基とをそれぞれ少なくとも1個以上有するオルガノシロキサン化合物5〜100質量部(e)フッ素原子を含有し、常圧における沸点が150℃以下である有機溶剤、成分(a)〜(d)の合計100質量部に対して、100〜10000質量部。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、ガラスなどの無機材料や、プラスチックなどの有機材料からなる各種基材とフッ素系エラストマー又はフッ素系ゲルとを接着するためのプライマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有するポリマーを主成分とする熱硬化型エラストマー組成物および熱硬化型のフッ素系ゲル組成物は、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、耐水性などの特性に優れたエラストマー硬化物を与えるが、同時に離型性にも優れており、従ってその反面、接着させるのが困難な材料である。
【0003】
これらの物性低下を招かずに各種基材と接着させるために、予め基材をプライマーで処理する方法がある。
【0004】
プライマーとしては、シランカップリング剤を主体とするシラン系プライマー、合成ゴムを主成分とするプライマー、アクリル樹脂を主成分とするプライマー、ウレタン樹脂を主成分とするプライマーやエポキシ樹脂を主成分とするプライマーなどが上市されているが、これらのプライマーは前記熱硬化型エラストマー組成物との親和性や該組成物との界面での濡れ性に劣るため、十分な接着性が得られない。
【0005】
前記プライマー成分を熱硬化型のフッ素系エラストマー及び熱硬化型フッ素系ゲルに添加して、各種基材に対し良好な接着性を有する熱硬化型の フッ素系エラストマー及び熱硬化型フッ素系ゲルを与える硬化性組成物が知られている(特許文献1〜4)。
【0006】
例えば、各種基材に対し良好な接着性を有する含フッ素エラストマーを与える付加反応硬化型の硬化性組成物に関するもので、(A)両末端にビニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状の含フッ素アミド化合物、(B)一分子中に一個以上の一価のパーフルオロオキシアルキル基、一価のパーフルオロアルキル基、二価のパーフルオロオキシアルキレン基又は二価のパーフルオロアルキレン基を有し、且つ二個以上のヒドロシリル基を有する含フッ素オルガノ水素シロキサン、(C)触媒量の白金族化合物、(D)一分子中にケイ素原子に直結した水素原子と、炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基とをそれぞれ一個以上有するオルガノシロキサンを含有する硬化性組成物が開示されている(特許文献1参照)。この硬化性組成物は、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性等に優れた硬化物を与える上、比較的低温かつ短時間の加熱によって金属やプラスチックなどの基材に対する良好な接着性を有する硬化物を与えることができるとされている。
【0007】
また、硬化後に含フッ素エラストマーを形成し、硬化時に各種の基材に対して強固に接着する硬化性組成物に関するもので、前記参考文献1と同様の(A)〜(D)成分に、(E)カルボン酸無水物を必須成分とすることを特徴とする硬化性組成物が開示されている特許文献2)。この硬化性組成物は、前公報と同様に、各種基材に対する良好な接着性を有する硬化物を与えることができ、特にPPS、ナイロンに対して接着性に優れた含フッ素エラストマーを与えるので、PPS、ナイロンを基材とするケース等の物品に対する接着用途に有効であるとされる。
【0008】
さらには、硬化後に含フッ素エラストマーを形成し、硬化時に各種の基材に対して強固に接着する硬化性組成物に関するもので、前記参考文献1と同様の(A)〜(D)成分に、(E)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子、炭素原子を介してケイ素原子に結合した環状無水カルボン酸残基、炭素原子を介してケイ素原子に結合した一価のパーフルオロオキシアルキル基又は一価のパーフルオロアルキル基をそれぞれ一個以上有するオルガノシロキサンを必須成分とすることを特徴とする硬化性組成物が開示されている(特許文献3)。
この硬化性組成物は、前記公報と同様に、各種基材に対する良好な接着性を有する硬化物を与えることができ、特に、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂に対する接着性に優れた含フッ素エラストマーを与えるので、これらのプラスチックを基材とする各種の自動車部品、電気・電子部品の接着用途に有用であるとされる。
【0009】
特許文献4は、硬化後に含フッ素ゲルを形成し、硬化時に各種の基材に対して強固に接着する硬化性組成物に関するもので、前記参考文献1と同様の(A)〜(D)成分に、(E)カルボン酸無水物を必須成分とすることを特徴とする硬化性組成物が開示されている。ここで得られる硬化性組成物は、前公報と同様に、各種基材に対する良好な接着性を有する硬化物を与えることができ、特にPPS、PBTに対して接着性に優れた含フッ素ゲルを与えるので、PPS、PBTを基材とするケース等の物品に対する接着用途に有効であるとされる。
【特許文献1】特開平9−95615号公報
【特許文献2】特開2001−72868号公報
【特許文献3】特開2002−105319号公報
【特許文献4】特開2002−194220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した公報に開示された接着性を有する熱硬化型のフッ素系エラストマー及び熱硬化型フッ素系ゲル組成物は、接着性増強成分を内添するので、金属、ガラス、セラミックス、プラスチックに接着することができる。
【0011】
しかし、これらの成分を添加すると、熱硬化型のフッ素系エラストマーの場合、ゴムの機械的強度が低下したり、圧縮永久歪み特性が低下するなどの問題が生じる場合がある。また、フッ素系ゲルにおいては、経時でゲルの針入度(硬度)が変化し、ゲルが硬く、脆くなるなどの問題が生じる。そこで、本発明者らは、これらの接着性増強成分に因る問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記(a)〜(e)成分を含む、フッ素系エラストマー用又はフッ素系ゲル用プライマー組成物である。
(a)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中に−Ca2aO−の繰り返し単位を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する、重量平均分子量5千〜10万である直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物 100質量部
(b)1分子中にSiH結合を少なくとも2個有する含フッ素有機ケイ素化合物 (b)成分中のSiH基と(a)成分中のアルケニル基の比率(SiH/アルケニル)が0.8〜5.0となる量
(c)ヒドロシリル化反応触媒 反応必要量
(d)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子と、酸素原子を含んでよい有機基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/またはトリアルコキシシリル基とをそれぞれ少なくとも1個以上有するオルガノシロキサン化合物 5〜100質量部
(e)フッ素原子を含有し、常圧における沸点が150℃以下である有機溶剤、成分(a)〜(d)の合計100質量部に対して、100〜10000質量部。
【発明の効果】
【0013】
本発明プライマー組成物は、各種基材と、フッ素系エラストマーまたはフッ素系ゲルとを、好適に接着させることができるだけでなく、接着されたエラストマーまたはゲルに、上記の問題を生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の各成分を順次説明する。
(a)成分
本発明の(a)成分は、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造、好ましくは2価のパーフルオロアルキルエーテル構造を有する、重量平均分子量が5千〜10万の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物である。
【0015】
ここで、パーフルオロアルキルエーテル構造としては、−Ca2aO−(式中、各単位のaは独立に1〜6の整数である。)の多数の繰り返し単位を含むもので、例えば下記一般式(2)で示されるものなどが挙げられる。
−(Ca2aO)−q (2)
(式中、qは20〜600、好ましくは30〜400、より好ましくは30〜200の整数である。)
【0016】
繰り返し単位−Ca2aO−としては、例えば下記の単位等が挙げられる。なお、上記パーフルオロアルキルエーテル構造は、これらの繰り返し単位の1種単独で構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0017】
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
−CF2CF2CF2CF2O−
−CF2CF2CF2CF2CF2CF2O−
−C(CF32O−
これらのうち、下記のものが好ましい。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
【0018】
この(a)成分の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物におけるアルケニル基としては、炭素数2〜8、特に2〜6で、かつ末端にCH2=CH−構造を有するものが好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等の末端にCH2=CH−構造を有する基、特にビニル基、アリル基等が好ましい。
【0019】
かかる(a)成分としては、下記一般式で表されるポリフルオロジアルケニル化合物を挙げることができる。
CH2=CH−(X)p− Rf1−(X’)p−CH=CH2 (3)
CH2=CH−(X)p−Q−Rf1−Q−(X’)p−CH=CH2 (4)


[式中、Xは独立に−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR1−CO−(但し、Yは−CH2−又は下記構造式(Z)で示される基であり、R1は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)で示される基であり、X’は独立に−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR2−Y’−(但し、Y’は−CH2−又は下記構造式(Z’)で示される基であり、R2は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基であり、
【0020】
【化4】


(o,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)
【0021】
【化5】


(o,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基である。

Rf1は2価のパーフルオロポリエーテル構造であり、上記式(3)、即ち(Ca2aO)qで示される繰り返し単位を含むものが好ましい。Qは炭素数1〜15の2価の炭化水素基であり、エーテル結合を含んでいてもよく、例えばアルキレン基、及びエーテル結合をむアルキレン基である。)、pは独立に0又は1である。]
【0022】
このような(a)成分の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物としては、特に下記一般式(1)で示されるものが好適である。
【0023】
【化6】

[式中、X、X’及びpは前記と同じであり、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜600の整数であり、更にmとnの和が20〜600である。]
【0024】
上記式(1)の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物は、重量平均分子量が5,000〜100,000、特に5,000〜50,000であることが望ましい。重量平均分子量が5,000未満では、必要とされる耐薬品性を満たすことができない可能性があるので好ましくなく、重量平均分子量が100,000以上では、他組成との相溶性に問題を生じる場合があるので好ましくない。
【0025】
一般式(1)で表される直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物の具体例としては、下記式で表されるものが挙げられる。

【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
【化9】


(式中、m及びnはそれぞれ0〜200,m+n=20〜600を満足する整数を示す)
【0029】
これらの直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
(b)成分
次に(b)成分の含フッ素オルガノ水素シロキサンは上記(a)成分の架橋剤、鎖長延長剤として作用するものである。(a)成分との相溶性、分散性、硬化後の均一性を考慮して、1分子中に一個以上の1価のパーフルオロアルキレン基、1価のパーフルオロオキシアルキル基、2価のパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロオキシアルキレン基を有していて、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個以上、好ましくは3個以上有する有機ケイ素化合物であれば特に制限されるものではない。
【0031】
上記パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキレン基、パーフルオロオキシアルキレン基としては、下記一般式で示される基を例示することができる。
−Cg2g+1
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
−Cg2g
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
【0032】
【化10】

(式中、fは2〜200、好ましくは2〜100、hは1〜3の整数である。)
【0033】
【化11】

(式中、i及びjは1以上の整数、i+jの平均は2〜200、好ましくは2〜100である。)

−(CF2O)c−(CF2CF2O)d−CF2

(但し、c及びdはそれぞれ1〜50の整数である。)
【0034】
また、これらパーフルオロ(オキシ)アルキル基、パーフルオロ(オキシ)アルキレン基は、ケイ素原子に直接結合していてもよいが、ケイ素原子と2価の連結基を介して結合していてもよい。ここで、2価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基やこれらの組み合わせでも、あるいはこれらにエ一テル結合酸素原子やアミド結合、カルボニル結合等を介在するものであってもよく、例えぱ炭素原子数2〜12のものが好ましく、下記の基等が挙げられる。
−CH2CH2
−CH2CH2CH2
−CH2CH2CH2OCH2
−CH2CH2CH2−NH−CO−
−CH2CH2CH2−N(Ph)−CO−(但し、Phはフェニル基である。)
−CH2CH2CH2−N(CH3)−CO−
−CH2CH2CH2−O−CO−
【0035】
また、この(b)成分の有機ケイ素化合物における1価又は2価の含フッ素置換基、即ちパーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロオキシアルキレン基あるいはパーフルオロアルキレン基を含有する一価の有機基以外のケイ素原子に結合した1価の置換基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、プチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基:あるいはこれらの基の水素原子の一部が塩素原子、シアノ基等で置換された例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1〜20の非置換または置換炭化水素基が挙げられる。
【0036】
(b)成分の含フッ素有機ケイ素化合物は、環状でも鎖状でもよく、更に三次元網状でもよい。さらに、この含フッ素有機ケイ素化合物における分子中のケイ素原子数は特に制限されないが、通常2〜60、特に3〜30程度が好ましい。
【0037】
この様な有機ケイ素化合物としては例えば下記のような化合物が挙げられ、これらの化合物は単独で使用しても、2種類以上を併用しても良い。なお、下記式でMeはメチル基Phはフェニル基を示す。
【0038】
【化12】

【0039】
【化13】

【0040】
【化14】

【0041】
【化15】

【0042】
【化16】

【0043】
【化17】

【0044】
【化18】

【0045】
【化19】

【0046】
【化20】

【0047】
【化21】

【0048】
【化22】

【0049】
【化23】


(n=1〜50, m=1〜50, n+m=2〜50)
【0050】
【化24】

【0051】
【化25】

【0052】
【化26】

【0053】
【化27】

【0054】
【化28】

【0055】
(b)成分の配合量は、通常(a)成分中に含まれるビニル基、アリル基、シクロアルケニル基等のアルケニル基1モルに対して、(b)成分中のヒドロシリル基即ちSiH基の合計量が好ましくは0.8〜5.0モル、より好ましくは0.8〜2.0モル供給する量が好適である。(b)成分の配合量が少なすぎると架橋度合いが不十分で硬化皮膜の強度が不足する場合が有り、多すぎても同様に硬化皮膜の強度が不足する場合が有る。また、この(b)成分は1種単独で使用してもいいし、2種以上のものを併用しても良い。
【0056】
(c)成分
(c)成分のヒドロシリル化反応触媒としては、遷移金属、例えばPt、Rh、Pd等の白金族金属やこれら遷移金属の化合物などが好ましく使用される。本発明では、これら化合物が一般に貴金属の化合物で高価格であることから、比較的入手しやすい白金化合物が好適に用いられる。白金化合物としては、具体的に塩化白金酸又は塩化白金酸とエチレン等のオレフインとの錯体、アルコールやピニルシロキサンとの錯体、白金/シリカ、アルミナ又はカーボン等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
白金化合物以外の白金族金属化合物としては、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム系化合物等が知られており、例えばRhCl(PPh33、RhCl(CO)(PPh32、RhC1(C242、Ru3(CO)12、IrCl(CO)(PPh32、Pd(PPh34等が挙げられる(なお、Phはフェニル基を示す)。これらの触媒の使用量は、特に制限されるものではなく、触媒量で所望とする硬化速度を得ることができるが、経済的見地又は良好な硬化物を得るためには硬化性組成物全量に対して0.1〜1,000ppm(白金族金属換算)、より好ましくは0.1〜500ppm(同上)程度の範囲とするのが良い。
【0058】
(d)成分
(d)成分は本発明の組成物に各種基材への密着性あるいは接着性を増大させるためのものであると同時に、フッ素系エラストマーまたはフッ素系ゲルとの接着性増大にも関与する。(d)成分は、一分子中に、ケイ素原子に結合した水素原子と、酸素原子を含んでよい有機基介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基とをそれぞれ一個以上有する化合物であればよい。
【0059】
これらのオルガノシロキサンは、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を三個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンにトリアルコキシシリル基と脂肪族不飽和基を含有する化合物及び/またはアリルグリシジルエーテルの如き脂肪族不飽和基とエポキシ基を有する化合物、更に必要により脂肪族不飽和基とパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基とを含有する。
【0060】
なお、上記脂肪族不飽和基の数の和はSiH基の数より少ない必要がある。本発明におけるこのオルガノシロキサンの製造に際しては、反応終了後に目的物質を単離してもよいが、未反応物及び付加反応触媒を除去しただけの混合物を使用することもできる。
【0061】
アルコキシの例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基などの低級アルコキシ基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基などの低級アルキル基などが挙げられる。この中ではメトキシ基が好ましい。
【0062】
(d)成分の使用量は、(a)成分100質量部に対し5〜100質量部、好ましくは5〜50質量部の範囲である。5質量部未満の場合には、フッ素系エラストマー組成物またはフッ素系ゲル組成物との間に十分な接着力が得られず、100質量部を超えるとプライマー層として必要な強度が得られない場合があるので好ましくない。
【0063】
該オルガノシロキサンのシロキサン骨格は、環状、鎖状、分岐状などのいずれでもよく、またこれらの混合形態でもよく、下記平均組成式で表わされるものを用いることができる。
【0064】
【化29】


(上記一般式中、R4はハロゲン置換又は非置換の1価炭化水素基であり、A、Bは下記に示す。wは0≦w≦100、xは1≦x≦100、yは1≦y≦100、zは0≦z≦100を示す。)
【0065】
4のハロゲン置換又は非置換の1価炭化水素基としては、炭素数1〜10、特に1〜8のものが好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素等のハロゲン原子で置換した置換1価炭化水素基などが挙げられ、この中で特にメチル基が好ましい。
【0066】
wは0≦w≦20が好ましく、xは1≦x≦20が好ましく、yは1≦y≦20が好ましく、zは1≦z≦20が好ましく、3≦w+x+y+z≦50が好ましい。
【0067】
Aは酸素原子を含んでよい有機基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基を示し、具体的には、下記の基を挙げることができる。

【0068】
【化30】


[式中、R5は酸素原子が介在してもよい炭素数1〜10、特に1〜5の2価炭化水素基(アルキレン基、シクロアルキレン基等)を示す。]
【0069】
−R6−Si(OR73

[式中、R6は炭素数1〜10、特に1〜4の2価炭化水素基(アルキレン基等)を示し、R7は炭素数1〜8、特に1〜4の1価炭化水素基(アルキル基等)を示す。]
【0070】
【化31】

【0071】
[式中、R8は炭素数1〜8、特に1〜4の1価炭化水素基(アルキル基等)を示し、R9は水素原子又はメチル基、kは2〜10の整数を示す。]
【0072】
Bは、酸素原子を含んでよい有機基を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基を示す。1価のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基の例としては、例えば、下記一般式で表されるもの等を挙げることができる。
CgF2g+1-
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
【0073】
【化32】


(式中、fは2〜200、好ましくは2〜100、hは1〜3の整数である。)
【0074】
(d)成分として用いられるオルガノシロキサンとしては、具体的には下記の構造式で示されるものが例示される。なお、これらの化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、Meはメチル基である。
【0075】
【化33】

【0076】
【化34】


(s、u、vは正の整数、tは0以上の整数)
【0077】
【化35】

【0078】
【化36】

【0079】
【化37】


(s、u、vは正の整数、tは0以上の整数)
【0080】
【化38】

【0081】
【化39】

【0082】
(e)成分
(e)成分の有機溶剤は、常圧における沸点が150℃以下であり、分子内にフッ素原子を含有する化合物である。(e)成分の添加量は(a)〜(d)の合計100質量部に対して、100〜10000質量部、好ましくは300〜5000質量部である。(e)成分の量が100質量部以下では、濃度が高くなるため粘度が高くなり、塗布しにくくなる。また、(e)成分の量が10000質量部以上では、多すぎるため、皮膜形成成分の濃度が低くなりすぎ、皮膜の形成が阻害されたり、充分な接着力が得られない場合がある。
本発明の組成物は、塗布時に速やかに溶剤が揮発した方が表面の接着性に優れるため、沸点が150℃以下の揮発性が高い溶剤が好適である。即ち、沸点は30℃〜150℃、好ましくは50℃〜100℃。(e)成分は沸点が低すぎると、扱いにくく、また保存安定性に欠ける場合がある。
【0083】
(e)成分の例としては、HCFC系の溶剤としてAK−225(56℃)(旭硝子株式会社製商品名)、HFE系の溶剤としてAE−3000(56℃)(旭硝子株式会社製商品名)、Novec HFE−7100(60℃)、Novec HFE−7200(78℃)(住友スリーエム株式会社製商品名)、HFC系の溶剤としてVertrel XF(55℃)(デュポン株式会社製商品名)、ZEORORA−H(79℃)(日本ゼオン株式会社製商品名)、PFC系の溶剤としてFluorinert FC−72(56℃)、Fluorinert FC−84(80℃)、Fluorinert FC−77(97℃)(住友スリーエム株式会社製商品名)、PF−5060(56℃)、PF−5070(80℃)(住友スリーエム株式会社製商品名)、GALDEN SV70(70℃)、GALDEN SV90(90℃)(ソルベイ・ソレクシス株式会社社製商品名)などが挙げられるが、溶解性能や環境影響などの観点から、HFE系の溶剤が好ましい。但し、かっこ内の値は各溶剤の常圧における沸点を示す。
(e)成分以外の溶剤を混合して使用しても構わないが、その場合、有機溶剤に占める(e)成分の割合が50%以上になるようにするのが好ましい。
【0084】
(f)その他の成分
本プライマー組成物には、プライマー組成物の硬化膜の機械的強度、熱安定性、耐候性、耐薬品性あるいは難燃性を向上させたり、硬化して得られる弾性体の熱膨張率を低下させたり、ガス透過率を低下させる目的で、又は硬化時における熱収縮を減少する目的で、各種充填剤を用いてもよい。これら充填剤の具体例としては、木粉、パルプ、木綿チップ、アスベスト、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、クルミ殻粉、もみ殻粉、グラファイト、ケイソウ土、白土、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、カーボンブラック、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレー、タルク、酸化チタン、酸化セリウム、炭酸マグネシウム、石英粉末、アルミニウム微粉末、酸化鉄、フリント粉末、亜鉛末などが挙げられる。これらの充填剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。更に、必要に応じて例えば、老化防止剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、オゾン劣化防止剤、貯蔵安定性向上剤、各種顔料、染料等を添加してもよい。
【0085】
上記各フィラーは各種表面処理剤で処理したものであってもよい。この中で、機械的強度の向上、各組成の分散安定性向上の点から、特にヒュームドシリカが好ましく、更に、分散性の向上の点から、ヒュームドシリカをシラン系表面処理剤で処理したものが好ましい。
【0086】
表面処理剤としては、加水分解性基を有する珪素化合物であるジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等のオルガノクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン化合物及びヘキサメチルシクロトリシラザン等の環状シラザン等が好ましい。
【0087】
また疎水化処理されたシリカの比表面積は、硬化膜の機械的特性を向上させるため50(m2/g)以上とする必要がある。さらには組成物へのシリカ配合時の増粘が大きくなり配合が困難となるため300(m2/g)以下とする必要がある。
【0088】
この疎水化処理するため、表面処理剤を使用してシリカ表面を処理したシリカ微粉末は予め粉体の状態で直接処理されたものがよく、通常処理方法としては一般周知の技術を採用することができ、例えば、常圧で密閉された機械混練り装置に、或いは流動層に上記未処理のシリカ微粉末と処理剤を入れ、必要に応じて不活性ガス存在下において室温或いは熱処理にて混合処理され、場合により触媒及び加水分解を促進するための水を使用してもよく、混練り後乾燥することにより調整することができる。処理剤の配合量は、その処理剤の被覆面積から計算される量以上であればよい。
【0089】
さらには、シリカ系充填剤の嵩密度が30〜80g/lであることが好ましい。シリカ系充填剤の嵩密度が30g/l以下では、組成物の粘度が増大するために配合が困難となり好ましくなく、80g/l以上では十分な補強効果が付与されないので好ましくない。
【0090】
かかるシリカの添加量としては、 (a)〜(d)成分の合計100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましい。特に、分散安定性向上の点から1〜20質量部が好ましい。0.1質量部未満では少なすぎて硬化膜の強度が上がらず、また30質量部より多くすると粘度の上昇が大きく、配合が難しい。
【0091】
本発明のプライマー組成物は、(a)〜(d)成分、所望により(f)成分を公知の混合手段、例えばプラネタリーミキサー、で混合した後に、(e)成分を加えて、均一な混合物になるまでさらに混合して調製することができる。又は、(a)〜(c)成分を混合して、加熱することによって一部反応させた後に、(d)成分、所望により(f)成分を混合した後、(e)成分を加えてて調製してもよい。即ち、本発明には、(a)〜(c)成分が少なくとも一部反応された形態で含まれているプライマー組成物も含まれる。
【0092】
フッ素系エラストマー
本発明において、フッ素系エラストマーは (i)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有するポリマーを主成分と、(ii)1分子中に少なくとも2つ、好ましくは3つ以上のSiH基を有する化合物と、(iii)白金族触媒とを含む組成物を、ヒドロシリル化反応によって加熱硬化させる組成物から調製することができ、該組成物は、特許第2990646号公報、特開平11−116684号公報、特開2002−12769号公報等に記載してあるものを挙げることができる。また、上記(i)ポリマーに(iv)有機過酸化物を加えてパーオキサイド架橋により硬化する組成物としては、例えば、特開2000−7835号公報、特願2002−001257号等に記載してあるものを挙げることができる。
【0093】
フッ素系ゲル
フッ素系ゲルは、(v)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有するポリマーと、(vi)1分子中に1個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有するポリマーを主成分とし、これに加え、(vii)1分子中に少なくとも2つのSiH基を有する化合物と、(viii)白金族触媒とを用いて、ヒドロシリル化反応によって加熱硬化させるゲル組成物から調製することができる。この種のゲル組成物は、特許第3487744号公報、特開2002−322362号公報等に記載してあるものを挙げることができる。
【0094】
無機又は有機材料
本発明のプライマー組成物は種々の無機又は有機基材に接着させることができる。無機材料としては、鉄、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、金、銀、銅などの各種金属、及びカーボン、ガラス、セラミックス、セメント、スレート、大理石や御影石などの石材、モルタル等の各種基材及びこの表面を金属でメッキ処理した物、有機材料としては、有機材料が、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリアセタール樹脂(POM)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリサルホン樹脂(PSU)、ポリエーテルサルホン樹脂(PEB)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアリレート樹脂(PAR)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリイミド樹脂(PI)、液晶ポリマー(LCP)が挙げられる。本発明のプライマー組成物を用いることによって、これらの無機有機材料等と、上記熱硬化型エラストマー組成物及び熱硬化型フッ素系ゲル組成物とを強固に接着させることができる。
【0095】
塗布方法、接着方法
本発明の接着方法は、まずプライマー組成物を通常採用されているコーティング法、例えば、刷毛塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤバー法、ブレード法、ロールコーティング法、ディッピング法などを用いて基材にコーティングする。次に、通常常温にて1〜30分、好ましくは2〜15分風乾後、50〜230℃(好ましくは150〜200℃)で1〜180分(好ましくは5〜120分)加熱(焼付け処理)し硬化皮膜を形成させる。
その後、その上に熱硬化型のフッ素系エラストマー及び熱硬化型フッ素系ゲルを所定の条件で加熱硬化させることによって、前記プライマー層を介して基材に接着された硬化物となる。
熱硬化型フッ素系ゲルを接着させる場合は、上記記載の焼付け処理を行わなくても良い。即ち、種々の方法で基材にコーティングした後、通常常温にて1〜30分、好ましくは2〜15分風乾後、熱硬化型フッ素系ゲルを流し込み、所定の条件で加熱硬化させても良い。
【0096】
製品
本発明のプライマー組成物を使用して、フッ素系エラストマー又はフッ素系ゲルと各種基材(無機・有機材料)とを接着させることにより得られる製品は、自動車用、化学プラント用、インクジェットプリンタ用、半導体製造ライン用、分析・理化学機器用、医療機器用、航空機用、燃料電池用材料、テント膜材料、被覆材、複写機ロール材料、電気電子用防湿コーティング材料、センサー用ポッティング材料、積層ゴム布、その他の成形部品、押出し部品等として使用することができる。
【0097】
更に詳述すると、自動車用としては、フューエル・レギュレータ用ダイヤフラム、パルセーションダンパ用ダイヤフラム、オイルプレッシャースイッチ用ダイヤフラム、EGR(Exhaust Gas Recirculation)用ダイヤフラム等のダイヤフラム類、キャニスタ用バルブ、パワーコントロール用バルブ等のバルブ類、オイルシール、シリンダヘッド用ガスケット等のシール材等が挙げられる。
【0098】
化学プラント用としては、ポンプ用ダイヤフラム、バルブ類、パッキン類、オイルシール、ガスケット等が挙げられる。
【0099】
インクジェットプリンタ用、半導体用製造ライン用としては、ダイヤフラム、弁、パッキン、ガスケット等が挙げられる。
【0100】
分析・理化学機器用、医療機器用としては、ポンプ用ダイヤフラム、パッキン、バルブ、ジョント等が挙げられる。
【0101】
航空機用としては、航空機用エンジンオイル、ジェット燃料、ハイドローリックオイル、スカイドロール等の流体配管用フェースシール、パッキン、ガスケット、ダイヤフラム、バルブ等が挙げられる。燃料電池用としては電極間のシール材をはじめとして水素、空気および冷却水配管のフェースシール、パッキン、ガスケット、ダイヤフラム、バルブ等が挙げられる。
【0102】
電気電子用防湿コーティング材、センサー用ポッティング材としては、ガス圧センサー、液圧センサー、温度センサー、湿度センサー、回転センサー、加速度センサー、タイミングセンサー、エアフローメーター、電子回路基板、半導体モジュール、各種コントロールユニット等が挙げられる。
本発明のプライマー組成物および接着方法を使用することによって、熱硬化型フッ素系エラストマー又はゲルと基材との接着性が向上するため、基材界面からの薬品、溶剤、湿気の浸入を防止することができ、部品全体の耐酸性、耐薬品性、耐溶剤性及び耐透湿性を向上することができる。
実施例
【0103】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記式でMeはメチル基を表す。
【0104】
[製造例1]熱硬化型フッ素系エラストマー組成物(A)の調製
下記式(5)
【0105】
【化40】


で表されるポリマー(粘度5,500mm2/s、重量平均分子量15,300、ビニル基量0.012モル/100g)100質量部に、ヘキサメチルジシラザンと1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンとの混合処理剤で処理された比表面積200m2/gの煙霧質シリカ20質量部を加え、プラネタリーミキサーで混合および120℃熱処理の後、三本ロールミル上にて混合し、更に下記式(7)で表される含フッ素有機ケイ素化合物3.36質量部、
【0106】
【化41】

塩化白金酸をCH2=CHSiMe2OSiMe2CH=CH2で変性した触媒のトルエン溶液(白金濃度0.5重量%)0.2質量部及びエチニルシクロヘキサノールの50%トルエン溶液0.4質量部を加え、混合し、組成物(A)を作製した。この組成物(A)を150℃で10分間加熱したところ、硬化し、ゴムになることを確認した。
【0107】
下記式(5)
【0108】
【化42】


で表されるポリマー(粘度5,500mm2/s、平均分子量15,300、ビニル基量0.012モル/100g)100質量部にジメチルジクロロシランで処理された比表面積110m2/gの煙霧質シリカ6質量部を加え、プラネタリーミキサーで混合および120℃熱処理の後、三本ロールミル上にて混合し、更に下記式(6)で表される含フッ素有機ケイ素化合物1.04質量部、
【0109】
【化43】

下記式(8)
【0110】
【化44】


で表される含フッ素有機ケイ素化合物1.70質量部、下記式(9)
【0111】
【化45】


で表される有機ケイ素化合物10.00質量部、下記式(10)
【0112】
【化46】


で表される含フッ素有機ケイ素化合物2.50質量部、塩化白金酸をCH2=CHSiMe2OSiMe2CH=CH2で変性した触媒のトルエン溶液(白金濃度0.5重量%)0.2質量部及びエチニルシクロヘキサノールの50%トルエン溶液0.4質量部を加え、プラネタリーミキサーで混合した。次いでこの混合物にHFE−7200(住友スリーエム社製商品名)580質量部を加えて均一に分散させてプライマー組成物(I)を調製した。
【0113】
[実施例2]
実施例1において、式(7)で表される有機ケイ素化合物の配合量を80.00質量部に変更し、HFE−7200の配合量を1100質量部に変更し、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ニ無水物の微粉末2.00質量部を追加配合した以外は、[実施例1]と同様の操作によってプライマー組成物(II)を調製した。
【0114】
上記実施例1、2のプライマー組成物I〜IIをSUS304、アルミ、ガラス、PBT樹脂、エポキシ樹脂のテストピース(100mm×25mm×2mm)上に刷毛で塗布し、室温にて5分風乾し、180℃で15分加熱処理した。
これらプライマー表面上に、100mm×2mm×2mmのビード状になるような型をあてて、製造例1の加熱硬化型のフッ素系エラストマー組成物(A)を注入し、150℃で30分加熱硬化させた。これらの一体成形物をJIS K 6854−1に準じて90度剥離接着強さ試験機にて接着強度(N/mm)を測定した。結果を表1に示す。
【0115】
[比較例1]
SUS304、アルミ、ガラス、PBT樹脂、エポキシ樹脂のテストピース(100mm×25mm×2mm)上にプライマーを塗布せずに、これら基材の表面上に、直接100mm×2mm×2mmのビード状になるような型をあてて、製造例1の加熱硬化型のフッ素系エラストマー組成物(A)を注入し、150℃で30分加熱硬化させた。これらの一体成形物をJIS K 6854−1に準じて90度剥離接着強さ試験機にて接着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
製造例2: 熱硬化型フッ素系ゲル組成物(B)の調製
前記式(5)で示されるポリマー(粘度5,500mm2/s、平均分子量15,300、ビニル基量0.012モル/100g)36質量部と下記式(11)で示されるポリマー(粘度650mm2/s)39質量部に、式(12)で示されるポリマー25質量部、エチニルシクロヘキサノールの50%トルエン溶液0.15質量部、塩化白金酸のビニルシロキサン錯体のエタノール溶液(白金金属濃度3.0重量%)0.015質量部、下記式(13)で示される化合物18.5質量部を加え、混合して組成物(B)を調製した。
【0118】
【化47】

【0119】
【化48】


【0120】
【化49】

【0121】
更に、この組成物(B)を150℃で1時間加熱するとゲル状物が得られた。このゲルの針入度(ASTM D−1403 1/4コーン)を測定したところ、69であった。
【0122】
製造例3: 熱硬化型フッ素系ゲル組成物(C)の調製
製造例2の組成物に、さらに下記式(14)で表される接着性増強成分1.0質量部、下記式(15)で表される化合物0.5質量部を配合して組成物(C)を調整した。


この組成物(C)を150℃で1時間加熱するとゲル状物が得られた。このゲルの針入度(ASTM D−1403 1/4コーン)を測定したところ、45であった。
【0123】
[実施例3−1、3−2、4−1、及び4−2]
電子部品1(実施例3−1、4−1)および電子部品2(及び3−2、4−2)に示される部品について、実施例1又は実施例2のプライマー組成物(組成物Iおよび組成物II)をハウジングの壁面や封止する部位の周囲に塗布し(図2、図4)乾燥させた。その後、製造例2で調製したゲル組成物(B)を流し込み/または電極2上に塗布して、150℃で1時間加熱硬化させ、電子部品を封止保護した。この部品を50%濃度の硫酸水溶液に60℃の条件下で500時間浸漬した後、接着状態を観察すると共に、ゲル材料を取り除いて部品の腐食状況を目視観察にて確認した。結果を表2に示す。
【0124】
[比較例2−1及び2−2]
電子部品1(図1)および電子部品2(図3)に示される部品について、プライマー組成物を塗布せずに[製造例2]のゲル組成物(B)を流し込み/またはポッティングして150℃−1時間加熱硬化させ、電子部品を封止保護した。この部品を50%濃度の硫酸水溶液に60℃の条件下で500時間浸漬した後、接着状態を観察すると共に、ゲル材料を取り除いて部品の腐食状況を目視観察にて確認した。結果を表2、表3に示す。
【0125】
[比較例3]
電子部品1(図1)および電子部品2(図3)に示される部品について、プライマー組成物を塗布せずに[製造例3]のゲル組成物(C)を流し込み/またはポッティングして150℃−1時間加熱硬化させ、電子部品を封止保護した。
【0126】
【表2】

【0127】
【表3】

【0128】
[実施例5]
150℃で1時間加熱硬化させたゲル組成物(B)を、空気中で120℃で500時間エージングした時の針入度の変化を確認した。結果を表4に示す。

[比較例4]
150℃で1時間加熱硬化させたゲル組成物(C)を、空気中で120℃で500時間エージングした時の針入度の変化を確認した。結果を表4に示す。
【0129】
【表4】

考察
実施例3及び4では、本発明のプライマー組成物を使用することによって、ハウジングなどの部品と接する部分が接着しているため、界面からの薬液の浸入を防いでいる。一方比較例1及び2では、ハウジングなどの部品との接点は、ゲルの粘着性で密着しているだけなので、界面から薬液が浸入しやすく、部品の腐食を発生しやすい。
比較例3のゲル組成物(C)は接着性増強剤によって、ハウジングなどの部品と接する部分は接着しているため、界面からの薬液の浸入は無い。しかし、表4(比較例4)から判るように、120℃でエージングすると、針入度が顕著に減少し、より硬くなったことを示す。このようなゲルを製品に使用すると、接着部が脆くなったり、製品の寸法が変更し得る。これに対して、本発明のプライマーを使用すれば、斯かる問題は無い。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】比較例2−1で作成した電子部品1の要部縦断面図である。
【図2】実施例3−1及び4−1で作成した電子部品1の要部縦断面図である。
【図3】比較例2−2で作成した電子部品2の要部縦断面図である。
【図4】実施例3−3及び4−2で作成した電子部品2の要部縦断面図である。
【符号の説明】
【0131】
1 ハウジング
2 櫛型電極
3 キャビティ
4a インサートピン(リード);アルミ製
4b インサートピン(リード);金メッキ製
5 台座
6a ボンディングワイヤ;アルミ製
6b ボンディングワイヤ;金製
7 保護材料(ゲル)
8 接着剤
9 プライマー層(破線表示)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(e)成分を含む、フッ素系エラストマー用又はフッ素系ゲル用プライマー組成物
(a)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中に−Ca2aO−の繰り返し単位を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する、重量平均分子量5千〜10万である直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物 100質量部
(b)1分子中にSiH結合を少なくとも2個有する含フッ素有機ケイ素化合物 (b)成分中のSiH基と(a)成分中のアルケニル基の比率(SiH/アルケニル)が0.8〜5.0となる量
(c)ヒドロシリル化反応触媒 反応必要量
(d)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子と、酸素原子を含んでよい有機基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/またはトリアルコキシシリル基とをそれぞれ少なくとも1個以上有するオルガノシロキサン化合物 5〜100質量部
(e)フッ素原子を含有し、常圧における沸点が150℃以下である有機溶剤、成分(a)〜(d)の合計100質量部に対して、100〜10000質量部。
【請求項2】
(a)成分の−Ca2aO−の繰り返し単位を含むパーフルオロポリエーテル構造が、−(Ca2aO)q−で表され、qが20〜600である請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項3】
(a)成分が下記一般式(1)
【化1】

[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR1−CO−(但し、Yは−CH2−又は下記構造式(Z)で示されるo−,m−又はp−ジメチルフェニルシリレン基であり、R1は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。X’は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR2−Y’−(但し、Y’は−CH2−又は下記構造式(Z’)で示されるo−,m−又はp−ジメチルフェニルシリレン基であり、R2は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。pは独立に0又は1、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜600の整数であり、更にmとnの和が20〜600である。]

【化2】

【化3】

で表される直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物である請求項項1又は2に記載のプライマー組成物。
【請求項4】
(b)成分の含フッ素有機ケイ素化合物が、一分子中に一個以上のパーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキレン基またはパーフルオロアルキレン基を有し、かつSiH結合を二個以上有するものである請求項項1乃至3のいずれか1項に記載のプライマー組成物。
【請求項5】
(e)成分として、ハイドロクロロフルオロカーボン (HCFC)系、ハイドロフルオロエーテル (HFE)系、ハイドロフルオロカーボン (HFC)系、パーフルオロフルオロカーボン(PFC)系の溶剤から選択されるフッ素系有機溶剤であることを特徴とする請求項項1乃至4のいずれか1項に記載のプライマー組成物。
【請求項6】
フッ素系エラストマーまたはフッ素系ゲルと、無機又は有機材料とを接着させる方法であって、
(1)請求項項1乃至5のいずれか1項に記載のプライマー組成物を前記材料に施与する工程
を含む方法。
【請求項7】
さらに、
(2)該塗布されたプライマー組成物を乾燥させ又は硬化させる工程、
(3)乾燥された又は硬化されたプライマー組成物上に、熱硬化型フッ素系エラストマー組成物又は熱硬化型フッ素系ゲル組成物を施与する工程、及び
(4)前記施与された熱硬化型フッ素系エラストマー組成物又は熱硬化型フッ素系ゲル組成物を硬化する工程、
を含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記熱硬化型フッ素系エラストマー組成物が、(i)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有するポリマーと、(ii)1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する化合物と、(iii)白金族触媒とを含む、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記熱硬化型フッ素系エラストマー組成物が、(i)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有するポリマーと、(iv)有機過酸化物を含む、請求項6又は7記載の方法。
【請求項10】
熱硬化型フッ素系ゲル組成物が、(v)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有するポリマーと、(vi)1分子中に1個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有するポリマーと、(vii)1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する化合物と、(viii)白金族触媒とを含む、請求項6又は7記載の方法。
【請求項11】
無機材料が、各種金属、カーボン、ガラス、セラミックス、セメント、スレート、大理石、御影石、モルタル、及びこれらの表面を金属で被覆したものから選択された材料である請求項6乃至10のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項12】
有機材料が、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリアセタール樹脂(POM)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリサルホン樹脂(PSU)、ポリエーテルサルホン樹脂(PEB)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアリレート樹脂(PAR)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリイミド樹脂(PI)、及び液晶ポリマー(LCP)から選択された材料である請求項6乃至9のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項13】
請求項項1乃至5のいずれか1項に記載のプライマー組成物の硬化物層を含む物品。
【請求項14】
前記物品が、自動車用部品、化学プラント用部品、インクジェットプリンタ用部品、半導体製造ライン用部品、分析・理化学機器用部品、医療機器用部品、航空機用部品又は燃料電池用部品である、請求項13記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−52386(P2006−52386A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199250(P2005−199250)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】