説明

フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマー、その製造方法およびその応用

フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーが開示される。前記コポリマーは、式(1)によって表されるポリマーを含み、式中、R、R、RおよびRは同一であってもあるいは異なるものであってもよく、C−C16アルキル基であり、nは、1〜100の整数である。フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの製造方法および、太陽電池素子、有機電界効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセント素子、有機光学式記憶素子、有機非線形材料または有機レーザー素子の製造におけるフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの応用もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<発明の分野>
本開示は、有機材料に関連し、特に、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマー、その製造方法およびその応用に関連する。
【背景技術】
【0002】
<背景>
今日の世界経済は主として石炭、石油および天然ガスなどの化石エネルギーに根差している。しかしながら、これらの再生不可能な化石エネルギーは枯渇しつつある。21世紀初頭から、世界的規模のエネルギー問題、結果として生じる環境汚染および地球温暖化はますます明白かつ深刻なものとなっている。太陽エネルギーは、広大かつ広範な配電、豊富な資源量、無公害、低汚染、安全、接続が容易であるといった、数多くの利点を備えている。したがって、太陽エネルギーは、最も期待される再生可能なエネルギー源のひとつであると考えられている。
【0003】
太陽から放射される太陽エネルギーを最大限に活用するために、太陽光を吸収する新規な材料の開発が続けられており、こうした中で、地上で使用されるシリコン電池のような無機半導体材料は幅広い進歩と応用を獲得している。しかしながら、これらは複雑な工程および高コストを要することから、シリコン電池の応用は厳しく制限されている。コストを削減し、応用の範囲を広げるため、新しい代替の半導体材料が長い間求められてきた。
【0004】
近年、有機材料に対する広範な関心が徐々に得られるようになってきている。たとえば、1992年、N. S. Sariciftciによる共役ポリマーとC60との間における光誘起電子移動現象に関する報告の後、太陽電池において用いられる共役ポリマーに関する研究が数多くなされており、急速な発展を遂げている。太陽電池は直接太陽エネルギーを電気エネルギーに変換するが、これは、太陽エネルギーを使用する効率の良い方法である。
【0005】
有機太陽電池は新しいタイプの太陽電池である。材料が限定され、高価であり、毒性があり、複雑な製造方法を要し、高コストであるといった無機半導体材料のデメリットと比較して、有機太陽電池は、幅広い材料を用いることができ、構造が多様であり、扱いやすく、低コストであり、安全かつ環境保護的であり、単純な製造工程でよく、製品が軽量であり、大面積かつ柔軟に製造可能である等、いくつかの有利な点を備えている。したがって、有機太陽電池は、重要な発展可能性および応用可能性を備えており、建築、照明および発電分野において幅広く用いられうる。しかしながら、有機太陽電池の光電変換効率は、現在のところ無機太陽電池の光電変換効率よりも大変低い。したがって、新しい有機材料の開発は、有機太陽電池および他の半導体素子または光電子素子の効率を改善するために大変重要である。
【発明の概要】
【0006】
<発明の要約>
本開示の一態様において、広いスペクトル応答性および良好な安定性を有する、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーが提供され、簡単な合成経路および低コストである、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの製造方法もまた提供される。
【0007】
本開示の他の態様において、太陽電池素子、有機電界効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセント素子、有機光学式記憶素子、有機非線形材料または有機レーザー素子の製造における、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの応用が提供される。
【0008】
式(1)によって表されるポリマーを含む、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマー:
【0009】
【化1】

【0010】
式中、R、R、RおよびRは同一であってもあるいは異なるものであってもよく、C−C16アルキル基であり、かつnは1〜100の整数である。
【0011】
式:
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R、R、RおよびRは同一であってもあるいは異なるものであってもよく、C−C16アルキル基である)
によって表される化合物A、B、CおよびDを供給する工程;
溶媒、触媒および酸化剤を含む系中で、化合物A、BおよびCの重縮合酸化反応を行い、フルオレニルポルフィリン化合物を製造する工程;
溶媒および触媒を含む系中で、前記フルオレニルポルフィリン化合物の臭素置換反応を行い、二臭素置換フルオレニルポルフィリン化合物を製造する工程;および
触媒、溶媒およびアルカリ性溶液の存在下で、前記二臭素置換フルオレニルポルフィリン化合物および前記化合物Dの鈴木重合反応を行い、式(1):
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、nは1〜100の整数である)
によって表されるポリマーを製造する工程;
を含む、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの製造方法。
【0016】
太陽電池素子、有機電界効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセント素子、有機光学式記憶素子、有機非線形材料 または有機レーザー素子の製造における、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの応用。
【0017】
上記フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーにおいて、フルオレンまたはフルオレン誘導体は、優れた光安定性および熱的安定性を有し、また、その構造を容易に変更することができる。フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーのバンドギャップが狭くなるように、コポリマーの骨格電子雲の密度を増加させるために複素環式多環芳香環または芳香族複素環式分子が導入されうる。ポルフィリン構造によって、コポリマーが電荷移動およびエネルギー移動反応における高い量子効率、優れた電子緩衝性(electronic buffer)および光電磁力(photoelectromagnetism)、良好な柔剛可変性、好ましい熱的安定性および環境安定性を発現することを可能にする。アントラセンもまた、良好な安定性および良好な薄膜形成能を有し、さらに、好ましいキャリア輸送特性もまた有している。アントラセンはホール移動性が高く、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーのホール移動性およびキャリア輸送特性を改良することができる。フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを、太陽電池素子、有機電界効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセント素子、有機光学式記憶素子、有機非線形材料または有機レーザー素子に応用すると、光学的または半導体関連の性能を改良することができ、素子を軽量化することが可能であり、大量生産を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
<図面の簡単な説明>
図面中の構成要素は必ずしも一定の縮尺であるわけではなく、代わりに、本開示の原理を明瞭に図示することに重点が置かれている。さらに、図面において、同様の参照符号は、全図にわたって該当部分を示す。
【図1】図1は、本開示の一実施形態によるフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの式を図示したものである。
【図2】図2は、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの製造方法の一実施形態のフローチャートである。
【図3】図3は、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを用いた太陽電池素子の一実施形態である。
【図4】図4は、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを用いた有機エレクトロルミネッセント素子の一実施形態である。
【図5】図5は、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを用いた有機電界効果トランジスタの一実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<詳細な説明>
開示は例示としてものであって、添付の図面の形状により制限されるものではなく、図面中、類似の参照番号は類似の要素を示す。本開示における「一」または「1つの」実施形態の参照は、必ずしも同じ実施形態を参照するものではなく、このような参照は、少なくとも1つを意味するものであると認められる。
【0020】
図1を参照すると、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの一実施形態は、式(1)によって表されるポリマー:
【0021】
【化4】

【0022】
式中、R、R、RおよびRは同一であってもあるいは異なるものであってもよく、C−C16アルキル基であり、nは1〜100の整数である。
【0023】
本開示の一実施形態において、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーのそれぞれのモノマーは、アルキル基を含む、二つの同一のフルオレン基を有している。すなわち、R、Rは同一のC−C16アルキル基であり、かつR、Rは同一のC−C16アルキル基であり、換言すると、RおよびRは同一のC−C16アルキル基であり、かつRおよびRは同一のC−C16アルキル基である。このように、製造工程を簡素化することができ、コストを削減することができる。加えて、アルキル基を含むことにより、コポリマーの溶解性を向上させることができる。好ましくは、R、R、RおよびRは同一のC−C16アルキル基である。nは、好ましくは5〜50の整数であり、より好ましくは、10〜30である。一実施形態において、R、R、RおよびRは、Cアルキル基である。
【0024】
フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーは、フルオレンまたはフルオレン誘導体、ポルフィリン構造およびアントラセン構造を含む。フルオレンまたはフルオレン誘導体は、優れた光安定性および熱的安定性を有しており、また、その構造を容易に変更することができる。フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーのバンドギャップが狭くなるように、コポリマーの骨格電子雲の密度を増加させるために複素環式多環芳香環または芳香族複素環式分子が導入されうる。ポルフィリン構造によって、コポリマーが電荷移動およびエネルギー移動反応において高い量子効率、優れた電子緩衝性(electronic buffer)および光電磁力(photoelectromagnetism)、良好な柔剛可変性、好ましい熱的安定性および環境安定性を発現することができる。アントラセンもまた、良好な安定性および良好な薄膜形成能を有し、さらに、好ましいキャリア輸送特性もまた有している。アントラセンはホール移動性が高く、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーのキャリア輸送性およびキャリア輸送特性を改良することができる。
【0025】
フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーは、複数のチオフェン環を含んでおり、適度なバンドキャップ、可視光含む約300〜700nmの吸収帯である広いスペクトル応答性を有する。また、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーは、良好な熱的安定性および環境安定性を有し、光学的および電子的特性が改善される。フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの実施形態において、R、R、RおよびRは、好ましくはアルキル鎖、例えば、CまたはC以上のアルキル鎖である。アルキル鎖が導入されるため材料の溶解性が改良され、薄膜の加工に貢献し、さらに応用分野が拡大される。
【0026】
図2を参照すると、上記フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの製造方法は、以下の工程を含む:
工程S01において、式:
【0027】
【化5】

【0028】
(式中、R、R、RおよびRは同一であってもあるいは異なるものであってもよく、C−C16アルキル基である)
によって表される化合物A、B、CおよびDが供給され;
工程S02において、溶媒、触媒および酸化剤を含む系中で、化合物A、BおよびCの重縮合酸化反応が行われ、フルオレニルポルフィリン化合物が製造され;
工程S03において、溶媒および触媒を含む系中で、フルオレニルポルフィリン化合物の臭素置換反応が行われ、二臭素置換フルオレニルポルフィリン化合物が製造され;
工程S04において、触媒、溶媒およびアルカリ性溶液の存在下で、二臭素置換フルオレニルポルフィリン化合物および化合物Dの鈴木重合反応が行われ、式(1):
【0029】
【化6】

【0030】
(式中、nは1〜100の整数である)
によって表されるポリマーが製造される。
【0031】
工程S01において、化合物A、B、CおよびDは直接市場から購入、または従来の合成方法に従って調製することができる。化合物A、B、CおよびDのR、R、RおよびRは、前述のフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーと同じ構造を有する。たとえば、好ましい実施形態において、R、Rは同一のC−C16アルキル基であり、かつR、Rは同一のC−C16アルキル基である。この場合、化合物Aおよび化合物Bは同じ構造を有し、したがって、用いる原料をより少なくすることができ、さらに製造工程を簡素化してコストを削減し、化合物A、Bが異なるものを用いた場合と比較して、生産収率を向上させることができる。
【0032】
一実施形態において、化合物A、B、CおよびDは下記方法に従って製造することができる。
【0033】
1.化合物AおよびBの製造
化合物Aは、以下の工程を含む方法に従って製造される:
工程1、9,9−ジアルキル−2−ブロモ−フルオレンを得る触媒および溶媒の条件における置換反応において、2−ブロモ−フルオレンを臭素化アルキルと作用させた。触媒は、テトラブチルアンモニウムブロミドまたはベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、溶媒はトルエン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等を用いた。臭素化アルキルは、RおよびRとしてのアルキル基をそれぞれ有する二臭素化アルキルを用いた。以下のスキームに図示されるように、この反応は2段階すなわち、工程iおよび工程iiで行われ、二種類の臭素化アルキルが置換反応に用いられた。
【0034】
【化7】

【0035】
化合物9,9−ジアルキル−2−ブロモフルオレンの製造は、Macromoleculesの2002年35巻3474頁を参照することができる。
【0036】
工程2、以下のスキームに図示されるように、臭素ヒドロホルミル化反応は、アルキルリチウム、ジメチルホルムアミドおよび溶媒を含む系中で行った。
【0037】
【化8】

【0038】
特定の実施形態において、アルキルリチウムはN−ブチルリチウム、溶媒はテトラヒドロフランを用いた。詳細な製造方法は、Macromoleculesの2006年39巻456頁を参照することができる。
【0039】
化合物Bの製造工程は、二種の臭素化アルキルのアルキル基をR、Rとしたこと以外は、化合物Aの製造工程と同様とした。
【0040】
2.化合物Cの製造
ホルムアルデヒド、触媒およびピロールを含む系中における縮合反応により、化合物Cを得た。反応式は以下の通りである:
【0041】
【化9】

【0042】
工程ivにおいて、触媒は、トリフルオロ酢酸または三フッ化ホウ素・ジメチル−酸素錯化合物(BF・(CHO)が用いられうる。ピロールは、溶媒および反応物の両方の役割を果たす。化合物C、すなわち、ビピロールメタンの詳細な製造方法は、Tetrahedronの1994年39巻11427頁を参照することができる。
【0043】
3.化合物Dの製造
以下のスキームに図示されるように、置換反応において、ブチルリチウムをボロン酸エステルと作用させた。
【0044】
【化10】

【0045】
詳細には、9,10−ジブロモアントラセンを窒素保護下、三口フラスコに加え、その後、テトラヒドロフラン(150mL)を加え、次に、シリンジを用いて−78℃でブチルリチウムをゆっくりと注入した。混合物を2時間撹拌した後、2−イソプロピル−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロランを−78℃で加え、混合物を室温で一晩撹拌した。飽和塩化ナトリウム水溶液を加えることで反応を停止し、混合物をクロロホルムで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過した後、ろ液を回収し、溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、粗生成物を得た。粗生成物を、石油エーテル/酢酸エチル(15/1)を溶出溶媒として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、生成物を得た。
【0046】
工程S02において、触媒は、トリフルオロ酢酸またはその類縁体が用いられうる。酸化剤は、ジクロロ−ジシアノ−ベンゾキノン(DDQ)またはその類縁体が用いられうるが、これに限定されるものではない。溶媒は、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、四塩化炭素、クロロホルムまたはアセトニトリルなどが用いられうる。反応式は、以下の通りである:
【0047】
【化11】

【0048】
詳細には、まず、無水、無酸素の装置を設置し、化合物A、BおよびCの重量を測定し(たとえば、1/1/2のモル比となるように)、ジクロロメタンに溶解させ、窒素を導入し、撹拌しながらトリフルオロ酢酸を加えた。2モル当量のジクロロ−ジシアノ−ベンゾキノン(DDQ)を加え、撹拌を続け、反応をクエンチするためにトリエチルアミンを加えた。溶媒を濃縮し、濾過し、ろ液を回収して溶媒を遠心力により乾燥させた。その後、ろ液を、ジクロロメタンを溶出溶媒として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、溶媒を遠心力により乾燥させ、ジエチルエーテル/メタノールで再結晶させることにより、生成物、すなわち、フルオレニルポルフィリン化合物を得た。
【0049】
工程S03において、溶媒は、クロロホルムまたはテトラヒドロフラン等が用いられうるが、これに限定されない。詳細には、フルオレニルポルフィリン化合物(たとえば、5,15−ビス(9,9−ジアルキル−フルオレニル)ポルフィリン)をクロロホルムに溶解させ、微量のピリジンを加えた。反応物を0℃に冷却し、適量のN−ブロモスクシンイミドを加え、撹拌した後、混合物を室温に戻し、その後、数時間撹拌を続けた。アセトンを添加して反応を停止させ、溶媒を留去し、ジエチルエーテル/メタノールで再結晶させることにより、生成物を得た。反応式は以下の通りである:
【0050】
【化12】

【0051】
工程S04において、触媒は有機パラジウム触媒が用いられうる。そして、触媒量は化合物Dに対してモル比で0.1〜20%である。有機パラジウム触媒は、Pd2(dba)3/P(o-Tol)3、Pd(PPh3)4またはPd(PPh3)2Cl2が用いられうるが、これに限定されるものではない。アルカリ性溶液は、無機または有機アルカリ性溶液が用いられうる。無機アルカリ性溶液は、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ金属の炭酸塩の水溶液が用いられうるが、たとえば、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、炭酸カリウム溶液等が挙げられるが、これに限定されるものではない。好ましくは、炭酸ナトリウム溶液である。有機アルカリ性溶液は、アルキル水酸化物、水酸化アンモニウムの水溶液が用いられうる。たとえば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドが挙げられるが、これに限定されるものではない。アルカリ性溶液の量は、化合物Dに対してモル比で5〜20倍でありうる。溶媒は、極性の弱い非プロトン性有機溶媒または極性の非プロトン性有機溶媒またはこれらの混合物が用いられうる。たとえば、クロロホルム、塩化メチレン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、または類似の化合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。好ましくはトルエンである。溶媒量は、種々の反応物が溶解し、適切に反応するように十分な量が用いられる。
【0052】
工程S04における反応は、以下のスキームに図示される:
【0053】
【化13】

【0054】
詳細には、1.0mmolのアントラセンを母体とした1,4−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン)、1.0mmolの5,15−ジブロモ−10、20−ビス(9,9−アルキル−フルオレニル)ポルフィリン、0.01mmolのテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、3mLのNaCO水溶液(2mol/L)、および20mLのトルエンを丸底フラスコに加えた。真空ポンプを用いてこのフラスコの酸素を除き、窒素を充填した。溶液を50〜120℃で12〜80時間加熱した。反応後、以下の工程に従って生成物を精製した。反応生成物をメタノールに注ぎ、ブフナー漏斗で沈殿物を分離した。この沈殿物を希塩酸で洗浄し、その後、ソックスレー抽出器中、アセトンで12〜72時間洗浄することでモノマーおよび触媒残渣を除去し、残った凝集体をTHFおよびクロロホルムに溶かして、コポリマーを得た。このコポリマーのnは、好ましくは5〜50であり、より好ましくは10〜30である。実際の製造工程において、溶媒、反応温度、反応時間、反応物の量、触媒の種類および量を選択することにより、望ましい重合度を得ることができる。
【0055】
上記製造方法において、三種のモノマーA、BおよびCの合成経路は比較的単純かつ確立されたものであって、基本的には一段階の合成であるため、製造コストを削減することができる。加えて、臭素置換反応および鈴木重合反応は、穏やかな反応条件下で高い収率が得られる確立された重合反応であり、制御が容易であり、生成物の溶解性および分子量は、アルキル基を導入することで増大する。したがって、スピン−コートポリマーが達成される。
【0056】
実施形態によるフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーは、太陽電池素子、有機電界効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセント素子、有機光学式記憶素子、有機非線形材料または有機レーザー素子といったさまざまな電子的光学的または半導体素子に応用されうる。以下において、太陽電池素子、有機電界効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセント素子が例として挙げられる。有機光学式記憶素子、有機非線形材料または有機レーザー素子といった他の素子は、類似の構造を有しており、これらは、光学的貯蔵材料、非線形材料、レーザー材料または半導体材料として、実施形態によるフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを用いている。
【0057】
図3を参照すると、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを含む太陽電池素子は、ガラス基板11、透明陽極12、中間補助層13、活性層14および陰極15を含んでおり、これらはこの順で積層されている。中間補助層13は、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホネート)のコンポジット材料である(PEDOT:PSS)。活性層14は、電子ドナーおよび電子アクセプター材料を含んでおり;電子ドナー材料はフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマー;電子アクセプター材料は[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル(PCBM)が用いられうる。透明陽極12は、インジウムスズ酸化物(ITO)が用いられるが、好ましくは、シート抵抗値10〜20Ω/□を有するITOである。陰極15としては、アルミニウム電極またはCa/AlまたはBa/Al層電極といった二種の金属層電極が用いられうる。製造工程において、ガラス基板11は土台となりうるものである。ITOガラスを選択し、超音波洗浄し、その後、酸素プラズマで処理した。中間補助層13をITOガラス上に塗布し、その後、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーおよび電子アクセプター材料を混合して中間補助層13上に塗布し、活性層14を形成した。次に、真空蒸着技術によって陰極15を活性層14上に被覆し、太陽電池素子を得た。一実施形態において、透明陽極12、中間補助層13、活性層14、およびCa/Al層電極の厚さは、それぞれ160nm、40nm、150nm、20nmおよび70nmである。
【0058】
図3に図示されるように、太陽電池素子に光が照射されると、その光はガラス基板11およびITO電極12を透過し、活性層14中のフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーが太陽エネルギーを吸収し、励起子を形成する。この励起子が電子ドナー材料と電子アクセプター材料の間の界面へ移動し、電子がPCBMのような電子アクセプター材料へ移動する。すると、電荷分離が起こり、フリーなキャリア、すなわち、フリーな電子およびホール(free electrons and holes)が形成される。フリーな電子は電子アクセプター材料に沿って金属材料へ透過し、陰極によって集められる;フリーなホールは電子ドナー材料に沿ってITO陽極へ移動し、陽極によって集められ、光電流および光電圧が生じ、光電変換が達成される。太陽電池素子を負荷16(load 16)に接続すると、太陽電池素子が負荷16に電力を供給しうる。この過程において、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの幅広いスペクトル応答性に起因して、高い光電変換効率を得てさらに太陽電池素子の電力生産能力を増大させるために、太陽エネルギーをより十分に利用することができる。さらに、かような種類の有機材料は、太陽電池素子を軽量化することができ、スピンコートなどの技術によって製造することができるため、大規模な生産を容易にする。
【0059】
図4を参照すると、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを含む有機エレクトロルミネッセント素子は、ガラス基板21、透明陽極22、発光層23、緩衝層24および陰極25を含んでおり、これらはこの順で積層されている。透明陽極22は、インジウムスズ酸化物(ITO)が用いられるが、好ましくは、シート抵抗値10〜20Ω/□を有するITOである。発光層23フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを含む。緩衝層24は、LiF等で形成されうるが、これに限定されるものではない。陰極25は、アルミニウム電極またはバリウム電極でありうるが、これに限定されない。したがって、特定の実施形態において、有機エレクトロルミネッセント素子は、ITO/フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマー/LiF/Alと表記されうる。上記の様々な層は、慣習的な方法によって形成され、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーは、ITO上にスピンコートすることができる。
【0060】
図5を参照すると、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを含む有機電界効果トランジスタは、基板31、絶縁層32、改質層33、有機半導体層34を含んでおり、これらはこの順で積層されている。そして、有機半導体層34上にソース電極35およびドレイン電極36が形成される。基板31は、高濃度にドープされたケイ素(Si)でありうるが、これに限定されず;絶縁層32は、μm〜nmの厚み(たとえば、450nm)を有するSiOでありうるが、これに限定されない。有機半導体層34は、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーでありうる。ソース電極35およびドレイン電極36は金によって形成されるが、これに限定されない。改質層33は、オクタデシルトリクロロシランでありうるが、これに限定されない。基板31、絶縁層32、改質層33、ソース電極35、ドレイン電極36は慣習的な方法で形成することができる。有機半導体層34は、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを、改質層33によって修飾された絶縁層32上にスピンコーティングすることによって形成されうる。
【0061】
以下の例は、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの製造方法およびその成績の特定の態様を説明するために提供される。実施形態における化合物A、B、CおよびDは、適宜調製することができ、また、直接市場から購入することができる。
【0062】
工程1、5,15−(9,9−ジアルキル−フルオレニル)ポルフィリンを以下の工程に従って調製した:無水、無酸素の装置を設置し、化合物A、BおよびCの重量を、モル比が1:1:2となるように測定し、ジクロロメタンに溶解させた。このとき、化合物AおよびBは、9,9−ビス(ヘキシル)−2−ホルミルフルオレンの同じ構造を有するものであり;化合物Cは、ジピロールメタンである。窒素を導入し、トリフルオロ酢酸を加え、混合物を室温で3時間撹拌した。その後、2モル当量のジクロロ−ジシアノ−ベンゾキノン(DDQ)を加え、室温で30分間撹拌を続け、反応をクエンチするためにトリエチルアミンを加えた。溶媒を濃縮し、濾過し、ろ液を回収して溶媒を遠心力により乾燥させた。ろ液を、ジクロロメタンを溶出溶媒として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、溶媒を遠心力により乾燥させ、ジエチルエーテル/メタノールで再結晶させることにより、生成物を得た。
【0063】
工程2、5,15−ジブロモ−10,20−ビス(9,9−ヘキシル−フルオレニル)ポルフィリンの調製
5,15−ビス(9,9−ヘキシル−フルオレニル)ポルフィリンをクロロホルムに溶解させ、少量のピリジンを加えた。反応物の温度を0℃まで下げ、適当な量のN−ブロモスクシンイミドを加え、混合物を0.5時間撹拌し、室温に戻した。その後、混合物を4時間撹拌し、アセトンを加えることによって反応を終結させ、溶媒を除去し、ジエチルエーテル/メタノールで再結晶させることにより、生成物を得た。
【0064】
工程3、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの調製
本実施形態において、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーは、下記の式で表される:
【0065】
【化14】

【0066】
詳細には、アントラセンを母体とした1,4−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン)、5,15−ジブロモ−10,20−ビス(9,9−アルキル−フルオレニル)ポルフィリン、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、NaCO水溶液、およびトルエンを丸底フラスコに加えた。真空ポンプを用いてこのフラスコの酸素を除き、窒素を充填した。この溶液を、まず、窒素雰囲気下で48時間加熱還流し、その後、メタノール中に注ぎ、ブフナー漏斗で沈殿物を分離した。この沈殿物を希塩酸で洗浄し、その後、ソックスレー抽出器中、アセトンで24時間洗浄することでモノマーおよび触媒残渣を除去し、残った凝集体をTHFおよびクロロホルムに溶かして、コポリマーを収率32%で得た。
【0067】
上記のフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーにおいて、フルオレンまたはフルオレン誘導体は、優れた光安定性および熱的安定性を有し、また、その構造を容易に変更することができる。フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーのバンドギャップが狭くなるように、コポリマーの骨格電子雲の密度を増加させるために複素環式多環芳香環または芳香族複素環式分子が導入されうる。ポルフィリン構造によって、コポリマーが電荷移動およびエネルギー移動反応における高い量子効率、優れた電子緩衝性および光電磁力、良好な柔剛可変性、好ましい熱的安定性および環境安定性を発現することを可能にする。アントラセンもまた、良好な安定性および良好な薄膜形成能を有し、さらに、好ましいキャリア輸送特性もまた有している。アントラセンはホール移動性が高く、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーのキャリア輸送性およびキャリア輸送特性を改良することができる。フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを太陽電池素子、有機電界効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセント素子、有機光学式記憶素子、有機非線形材料または有機レーザー素子に応用すると、光学的または半導体関連の性能を 改良することができ、素子を軽量化することが可能であり、大量生産を容易にすることができる。
【0068】
構造上の特徴および/または方法論的行為に特定的な表現で本発明を記載してきたが、添付の特許請求の範囲に定義された発明は、記載された特定的特徴や行為に必ずしも限定されないことが理解される。むしろ、特定的特徴や行為は、特許請求の範囲に記載された発明を実装する形態の例として開示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)によって表されるポリマーを含む、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマー:
【化1】

式中、R、R、RおよびRは同一であってもあるいは異なるものであってもよく、C−C16アルキル基であり、かつnは1〜100の整数である。
【請求項2】
およびRは同一のC−C16アルキル基であり;RおよびRは同一のC−C16アルキル基である、請求項1に記載のフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマー。
【請求項3】
、R、RおよびRは同一のC−C16アルキル基である、請求項1に記載のフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマー。
【請求項4】
nは5〜50の整数である、請求項1に記載のフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマー。
【請求項5】
式:
【化2】

(式中、R、R、RおよびRは同一であってもあるいは異なるものであってもよく、C−C16アルキル基である)
によって表される化合物A、B、CおよびDを供給する工程;
溶媒、触媒および酸化剤を含む系中で、化合物A、BおよびCの重縮合酸化反応を行い、フルオレニルポルフィリン化合物を製造する工程;
溶媒および触媒を含む系中で、前記フルオレニルポルフィリン化合物の臭素置換反応を行い、二臭素置換フルオレニルポルフィリン化合物を製造する工程;および
触媒、溶媒およびアルカリ性溶液の存在下で、前記二臭素置換フルオレニルポルフィリン化合物および前記化合物Dの鈴木重合反応を行い、式(1):
【化3】

(式中、nは1〜100の整数である)
によって表されるポリマーを製造する工程;
を含む、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記重縮合酸化反応に用いられる前記触媒は、トリフルオロ酢酸であり;かつ前記重縮合酸化反応に用いられる前記酸化剤は、ジクロロ−ジシアノ−ベンゾキノンである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記鈴木重合反応に用いられる前記触媒は、有機パラジウム触媒であり;かつ前記鈴木重合反応に用いられる前記アルカリ性溶液は、無機アルカリ性水溶液または有機アルカリ性水溶液であり、前記鈴木重合反応に用いられる前記溶媒は、極性の弱い非プロトン性有機溶媒、極性の非プロトン性有機溶媒またはこれらの混合物である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記臭素置換反応に用いられる前記触媒は、ピリジン、ピリジン誘導体またはトリエチルアミンであり;かつ前記溶媒はクロロホルムまたはテトラヒドロフランである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項9】
前記鈴木重合反応の後に、
前記鈴木重合反応の生成物をメタノールに注ぐ工程;
沈殿物を濾過および分離する工程;
前記沈殿物を洗浄する工程;
ソックスレー抽出器中、モノマーおよび触媒残渣を除去するために得られた固体をアセトンで洗浄し、フルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーを得る工程;を含む精製工程をさらに含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフルオレニルポルフィリン−アントラセンを含むコポリマーの、太陽電池素子、有機電界効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセント素子、有機光学式記憶素子、有機非線形材料または有機レーザー素子の製造への応用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−518151(P2013−518151A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550292(P2012−550292)
【出願日】平成22年1月30日(2010.1.30)
【国際出願番号】PCT/CN2010/070435
【国際公開番号】WO2011/091607
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(512016928)海洋王照明科技股▲ふん▼有限公司 (14)
【Fターム(参考)】