説明

フローサイトメトリーを用いた物質の測定方法及びフローサイトメトリーにおける測定用微粒子

【課題】 同形で,異なった蛍光染色を行っている測定用微粒子を用いてフローサイトメトリーを実行する従来の装置は,極めて高価であるばかりでなく,提供される測定用微粒子の種類が少ない。
【解決手段】 そこで本発明では、複数種類の測定用微粒子Pの夫々に異なった測定用物質を固定化し,この固定化された測定用物質に結合した蛍光標識付物質と,測定用微粒子をレーザ光を用いて測定するフローサイトメトリーを用いた測定方法において,測定用微粒子は,大きさと色を異ならせ,大きさと色とにより二次元マトリクス的に種類を識別可能とするフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法を提案している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,フローサイトメトリーを用いた物質の測定方法及びフローサイトメトリーにおける測定用微粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フローサイトメトリーは,測定対象の細胞等の測定対象物質を含むサンプル液を,フローセルにおいてシース液の層流の中心側に流し,光学検出部においてレーザ光を測定対象物質に照射して,それによって生じる散乱光と蛍光を測定することにより,測定対象物質の大きさや構造等を測定するものであり,光学検出部における測定のパラメータとしては,前方散乱光,側方散乱光及び蛍光があり,前方散乱光では測定対象物質の大きさが測定でき,また側方散乱光及び蛍光により,測定対象物質の構造等が測定できる。
【0003】
フローサイトメトリーには,測定のみを目的として構成されたものや,測定と共に測定対象物質の分取を行うように構成されたものがあり,近来,生化学物質の測定等の各種の目的で使用されている。
【0004】
このようなフローサイトメトリーを用いた測定方法の一つとして,蛍光染色された測定用微粒子(マイクロスフィア,マイクロビーズ,ビーズ等として称されている。)に,様々な測定用物質を固定化して測定を行うものが提案されている。
【0005】
例えば特許文献1,2には,異なる色に蛍光染色された等径の複数の微粒子の夫々に,抗原や抗体等の物質を固定化して,抗原抗体反応等の結果を測定する方法が記載されている。
【0006】
即ち,これらの特許文献では,図3に模式的に示すように,赤色蛍光色素とオレンジ蛍光色素の二種類の色素を,夫々8段階の蛍光強度となるように染色して,合計64色(8×8)のカラーマトリクスに色分けした直径5μm程度の等径の蛍光ポリマー微粒子P{Pmn|m=1〜8,n=1〜8}を製造して,夫々の蛍光ポリマー微粒子Pに,所望の検出対象に対する物質,例えば抗体や抗原等を固定化している。この場合,蛍光ポリマー微粒子は64色に色分けされているため,最大64種類の物質を固定化して,夫々識別することができる。尚,図3のカラーマトリクスでは,左右方向の赤色蛍光色素の蛍光強度の変化を,左下がりのハッチングの数で模式的に示し,また上下方向のオレンジ蛍光色素の蛍光強度の変化を右下がりのハッチングの数で模式的に示しており,夫々ハッチングの数が多い方が蛍光強度が大きいものである。
【0007】
この場合,蛍光ポリマー微粒子は64色に色分けされているため,最大64種類の異なった物質を固定化して,夫々識別することができ,それらの色に対応する蛍光ポリマー微粒子と,それに固定化した物質との対応関係のデータを記録しておく。
【0008】
次いでこれらの蛍光ポリマー微粒子を検体と接触させて抗原抗体反応を起こさせると共に,抗原抗体反応を起こした物質に対して標識付き二次抗体等の蛍光標識付物質を結合させ,この状態のサンプル液を,フローサイトメトリーのフローセルに流し,光学検出部において,赤色レーザと緑色レーザを照射し,赤色レーザによる蛍光により蛍光ポリマー微粒子を判別すると共に,緑色レーザによる蛍光により,蛍光標識付物質の有無及びその蛍光強度を測定する。
【0009】
これにより夫々の蛍光ポリマー微粒子について蛍光標識付物質の有無が分かり,それらの蛍光ポリマー微粒子と,それに固定化した物質との対応関係のデータから,蛍光ポリマー微粒子に固定化した物質のどれが抗原抗体反応を起こして蛍光標識付物質を結合しているかが簡単に分かり,更にそれらの蛍光強度により,結合量のデータを得ることができる。
【特許文献1】特表2001−520323号公報
【特許文献2】特表2002−501184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら以上に説明した従来技術では以下に示すような課題がある。
1.蛍光ポリマー微粒子を用いた上記測定方法では,測定原理上は,更に多数に色分けすることができ,例えば市販品では10段階の濃淡に染色して,合計100色(10×10)のカラーマトリクスに色分けしたものもあるが,このような多数の色分けを行い,そしてそれらの色を正確に識別することは非常に困難である。即ち,現実的には,同色の濃淡を,上述したように正確に8段階に色分けすることは品質管理上困難であるばかりでなく,極めて高精度の測定機器を用いても誤差を含む8段階の濃淡を正確に識別することは困難である。このため,通常は各色3〜4段階の濃淡を付して3×3=9色,または,4×4=16色のカラーマトリックスを形成し,9〜16種類のタンパク質等の生化学物質を識別するにとどまる。
2.極めて高精度の測定機器を必要とすることから,その装置は,例えば,1式1,000万円程度と極めて高価なだけでなく、1種類のタンパク質やDNAなどの生化学物質を検出する試薬キットも高価である。このため,多種類の検出対象を低コストで同定することが必要な各種検査での実用化は困難である。
3.さらに、現状では、サイトカイン等のタンパク質やDNA等を検出するための試薬キットしか市販されていないため,病原菌などの同定・定量を行えるようにすることが要望されている。即ち,特に,院内感染においては,少なくとも5〜10種類(緑膿菌,肺炎球菌,黄色ブドウ球菌,大腸菌,インフルエンザ桿菌,クレブシエラ・ニューモニエ,etc)の病原菌の同定を行うことにより早期診断・早期発見が可能になるため,低コストかつ迅速な診断方法が求められている。
本発明は以上の課題を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するために,まず本発明では,複数種類の測定用微粒子の夫々に異なった測定用物質を固定化し,この固定化された測定用物質に結合した蛍光標識付物質と,測定用微粒子をレーザ光を用いて測定するフローサイトメトリーを用いた測定方法において,測定用微粒子は,大きさを異ならせ,大きさにより種類を識別可能としたフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法を提案する。
【0012】
また本発明では,複数種類の測定用微粒子の夫々に異なった測定用物質を固定化し,この固定化された測定用物質に結合した蛍光標識付物質と,測定用微粒子をレーザ光を用いて測定するフローサイトメトリーを用いた測定方法において,測定用微粒子は,大きさと色を異ならせ,大きさと色とにより二次元マトリクス的に種類を識別可能としたフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法を提案する。
【0013】
そして本発明では,以上の方法において,測定用微粒子の大きさは,フローサイトメトリーにおけるレーザ光の前方散乱光により測定することを提案する。
【0014】
また本発明では,以上の方法において,測定用微粒子の大きさは,電気抵抗法により測定することを提案する。
【0015】
また本発明では,上記の方法において,種類を識別する測定用微粒子の色は,蛍光色素による蛍光色とし,その蛍光強度を一種類に設定することを提案する。
【0016】
また本発明では,上記の方法において,種類を識別する測定用微粒子の色は,蛍光色素による蛍光色とし,その蛍光強度を複数種類に設定することを提案する。
【0017】
また本発明では,上記の方法において,可視光領域の色素の色とし,その明度を一種類に設定することを提案する。
【0018】
また本発明では,上記の方法において,可視光領域の色素の色とし,その明度を複数種類に設定することを提案する。
【0019】
また本発明では,大きさを異ならせ,大きさにより種類を識別可能としたフローサイトメトリーにおける測定用微粒子を提案する。
【0020】
また本発明では,大きさと色を異ならせ,大きさと色とにより種類を識別可能としたフローサイトメトリーにおける測定用微粒子を提案する。
【0021】
そして本発明では,上記の測定用微粒子において,色は,蛍光色素による蛍光色とし,その蛍光強度を一種類に設定することを提案する。
【0022】
また本発明では,上記の測定用微粒子において,色は,蛍光色素による蛍光色とし,その蛍光強度を複数種類に設定することを提案する。
【0023】
また本発明では,上記の測定用微粒子において,色は,可視光領域の色素の色とし,その明度を一種類に設定することを提案する。
【0024】
また本発明では,上記の測定用微粒子において,色は,可視光領域の色素の色とし,その明度を複数種類に設定することを提案する。
【発明の効果】
【0025】
フローサイトメトリーにおいて,測定用微粒子の大きさは,レーザ光の前方散乱光や電気抵抗法等を用いて,容易に精度良く測定することができるので,大きさによって異ならせた測定用微粒子を,非常に高精度で高価な装置を使用しないでも,確実に識別することができる。
【0026】
そして測定用微粒子の大きさを異ならせることに加えて,色,即ち,この場合,蛍光色素による蛍光色又は可視光領域の色素の色を異ならせ,こうして,異ならせた大きさと,異ならせた色との二次元マトリクス的に種類を識別可能とすることにより,識別可能な測定用微粒子の数を乗算的に多くすることができる。
【0027】
ここで,前者の色,即ち,蛍光色の検出は,フローサイトメトリーにおける通常の方法と同様に光電子増倍管(PMT)により行うことができるが,この際,各蛍光色毎の蛍光強度を一種類に設定したり,又は複数種類に設定する場合でも,その種類を少なくすることにより,非常に高精度で高価な装置を使用しないでも,確実に種類を識別することができる。
【0028】
一方,後者の色,即ち,可視光領域の色素の色の検出は,この色素が自己蛍光を発するものであれば,これを上記蛍光色と同様にフローサイトメトリーにおける通常の方法と同様に光電子増倍管(PMT)により行うことができ,また自己蛍光を発しない色素の色については,分光器等の適宜の色検出装置を用いて検出することができる。
【0029】
そして各蛍光色毎の蛍光強度又は可視光領域の色素の色毎の明度は,少ないながら複数種類に設定することにより,識別可能な測定用微粒子の数を更に乗算的に多くすることができ,識別可能な種類を三次元マトリクス的に増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に,本発明の実施の形態を図を参照して説明する。
図1は本発明による測定用微粒子の第1の実施の形態を模式的に示すものである。
この測定用微粒子Pは,大きさを,小さいものから大きなものまで5種類構成しており,また4種類の蛍光色で蛍光染色をしている。図において,蛍光色は,ハッチングの細線の方向により,同じ色と異なった色を表現している。即ち,図中,最上段の5種類の大きさの測定用微粒子P(P11〜P15)は,右下がりの細線で示す,例えば緑色に蛍光染色している。同様に2段目の5種類の大きさの測定用微粒子P(P21〜P25)は,左下がりの細線で示す,例えば赤色に蛍光染色している。同様に3段目,4段目の5種類の大きさの測定用微粒子P(P31〜P35;P41〜P45)は,夫々横方向の細線,縦方向の細線で示す,たとえはオレンジ色,黄色に蛍光染色している。
【0031】
即ち,この実施の形態では,測定用微粒子P{Pmn|m=1〜4,n=1〜5}は,大きさ5種類と,蛍光色4種類のマトリクスにより,20種類の識別を可能としている。一方,蛍光色は4種類であるが,それらの蛍光色における蛍光強度は,一種類に設定している。
【0032】
これらの測定用微粒子Pは,上述した従来技術のものと同様に,例えば,表面にカルボキシル基をコーティングして,末端をアミノ化したDNAやタンパク質等の様々な物質を表面に結合させるように構成したり,アビジンをコーティングして,ビオチン化された物質を表面に結合可能に構成して,フローサイトメトリーを利用した測定に用いられるように構成する。
【0033】
こうして本発明では,夫々の測定用微粒子Pに,所望の検出対象に対する物質,例えば抗体や抗原等を異ならせて固定化し,それらの対応関係のデータを記録した後,フローサイトメトリーを利用した所定の測定を行うことができる。
【0034】
例えば,測定用微粒子Pを検体と接触させて抗原抗体反応を起こさせると共に,抗原抗体反応を起こした物質に対して標識付き二次抗体等の蛍光標識付物質を結合させ,この状態のサンプル液を,フローサイトメトリーのフローセルに流し,光学検出部において,赤色レーザと緑色レーザを照射して測定を行う。
【0035】
このようなフローサイトメトリーを利用した測定において,測定用微粒子Pm1〜Pm5(但し,m=1〜4)の大きさは,フローサイトメトリーを構成する光学検出部においてレーザ光の前方散乱光を用いて容易に精度良く測定することができ,また他の方法として,電気抵抗法を利用しても容易に精度良く測定することができる。
【0036】
一方,測定用微粒子P1n〜P4n(但し,n=1〜5)の蛍光色は,光学検出部において,レーザ光により励起された蛍光を,光電子増倍管(PMT)により検出して行うのであるが,この実施の態様においては,蛍光色の色は4種類であり,またそれらの蛍光強度は一種類に設定しているので,容易に精度良く測定を行うことができる。
【0037】
従ってこの実施の形態では,非常に高精度で高価な装置を使用しないで,20種類の測定用微粒子Pを確実に識別することができ,従って,夫々の測定用微粒子P毎に異ならせて固定化した物質の夫々について,例えば抗原抗体反応の有無等の測定を行うことができる。
【0038】
この実施の形態では,異ならせる測定用微粒子の大きさと,蛍光色の種類を,第1の実施の形態の種類よりも多くすることにより,識別可能な測定用微粒子の種類を更に増加することができる。
【0039】
次に,図2は本発明による測定用微粒子の第2の実施の形態を模式的に示すものである。
この測定用微粒子Pは,第1の実施の形態と同様に,大きさを,小さいものから大きなものまで5種類構成しており,また4種類の蛍光色で蛍光染色をしている。ところが,この実施の形態では,夫々の蛍光色は,その蛍光強度を2種類設定している。
【0040】
即ち,第1の実施の形態と同様に,図2において,蛍光色は,ハッチングの細線の方向により,同じ色と異なった色を表現しており,同時に,その蛍光強度を,ハッチングの細線の間隔により表現している。即ち,図中,最上段の5種類の大きさの測定用微粒子P(P111〜P151)は,右下がりの細線で示す,例えば緑色に蛍光染色をしており,その際,その蛍光強度を大きく設定している。また,2段目の5種類の大きさの測定用微粒子P(P110〜P150)は,最上段と同様に右下がりの細線で示す,緑色に蛍光染色をしているが,その蛍光強度は小さく設定している。
【0041】
同様に,3段目の5種類の大きさの測定用微粒子P(P211〜P251)は,左下がりの細線で示す,例えば赤色に蛍光染色をしており,その際,その蛍光強度を大きく設定している。また,4段目の5種類の大きさの測定用微粒子P(P210〜P250)は,3段目と同様に左下がりの細線で示す,赤色に蛍光染色をしているが,その蛍光強度は小さく設定している。
【0042】
同様に,5段目の5種類の大きさの測定用微粒子P(P311〜P351)は,横方向の細線で示す,例えばオレンジ色に蛍光染色をしており,その際,その蛍光強度を大きく設定している。また,6段目の5種類の大きさの測定用微粒子P(P310〜P350)は,5段目と同様に横方向の細線で示す,オレンジ色に蛍光染色をしているが,その蛍光強度は小さく設定している。
【0043】
同様に,7段目の5種類の大きさの測定用微粒子P(P411〜P451)は,縦方向の細線で示す,例えば黄色に蛍光染色をしており,その際,その蛍光強度を大きく設定している。また,8段目の5種類の大きさの測定用微粒子P(P410〜P450)は,7段目と同様に横方向の細線で示す,黄色に蛍光染色をしているが,その蛍光強度は小さく設定している。
【0044】
即ち,この実施の形態では,測定用微粒子P{Pmno|m=1〜4,n=1〜5,o=0,1}は,大きさ5種類と,蛍光色4種類と,蛍光強度2種類の三次元マトリクスにより,40種類の識別を可能としている。
【0045】
この構成においては,光学検出部の光電子増倍管(PMT)により,各蛍光色と,その蛍光強度を識別する必要があるが,各蛍光色における蛍光強度は,2種類と少ないので,非常に高精度で高価な装置を使用しないでも,確実に識別することができる。
【0046】
この実施の形態においても,各蛍光色における蛍光強度を,3〜4種類程度に異ならせることにより,識別可能な測定用微粒子の種類を更に乗算的に増加することができる。
【実施例1】
【0047】
さまざまな細菌(肺炎球菌,大腸菌,クレブシエラ・ニューモニエ,インフルエンザ桿菌,黄色ブドウ球菌etc)を5種類含む検出対象をある励起・蛍光波長を有する蛍光試薬で染色する。そして,この5種類の細菌の検出を行うために,測定用微粒子は,大きさが2μm,3μm,5μm,7μm,10μmの5種類とし,これらに上記検出対象を染色した蛍光試薬とは異なる励起・蛍光波長を有する蛍光染色を行い,これに各細菌を特異的に認識するような抗体を結合させる。
【0048】
こうして上記検出対象と,それぞれの粒径を有する測定用微粒子を反応させ,フローサイトメータにより測定する。光学検出部においては,アルゴンレーザ(488nm)とヘリウムネオンレーザ(638nm)を照射して測定を行う。
この際,測定用微粒子の大きさは,レーザ光の前方散乱光を測定して行い,また検出対象を染色した蛍光色素は,側方の光電子増倍管(PMT)により,蛍光波長:480±20nmの蛍光を測定して行い,また測定用微粒子の蛍光強度を,側方の光電子増倍管(PMT)により,蛍光波長:525±20nmの蛍光を測定して行い,こうして,上述した各細菌の存在の有無を検出することができる。
【実施例2】
【0049】
さまざまな細菌(肺炎球菌,大腸菌,クレブシエラ・ニューモニエ,インフルエンザ桿菌,黄色ブドウ球菌etc)を5種類含む検出対象をある励起・蛍光波長を有する蛍光試薬で染色する。そして,この5種類の細菌の検出を行うために,測定用微粒子は,大きさが2μm,3μm,5μm,7μm,10μmの5種類とし,これらに上記検出対象を染色した蛍光試薬とは異なる励起・蛍光波長を有する1種類の蛍光色素で蛍光染色を行い,これに各細菌を特異的に認識するような抗体を結合させる。この蛍光色素の蛍光の波長は,例えば610±20nmである。
【0050】
こうして上記検出対象と,それぞれの粒径を有する測定用微粒子を反応させ,フローサイトメータにより測定する。
この際,測定用微粒子の大きさは,レーザ光の前方散乱光を測定して行い,また検出対象を染色した蛍光色素は,側方の光電子増倍管(PMT)により,蛍光波長:480±20nmの蛍光を測定して行い,また測定用微粒子の蛍光強度を,側方の光電子増倍管(PMT)により,蛍光波長:610±20nmの蛍光を測定して行い,こうして,上述した各細菌の存在の有無を検出することができる。
【実施例3】
【0051】
さまざまな細菌(肺炎球菌,大腸菌,クレブシエラ・ニューモニエ,インフルエンザ桿菌,黄色ブドウ球菌etc)を10種類含む検出対象をある励起・蛍光波長を有する蛍光試薬で染色する。そして,この10種類の細菌の検出を行うために,測定用微粒子は,大きさが2μm,3μm,5μm,7μm,10μmの5種類とし,これらに上記検出対象を染色した蛍光試薬とは異なる励起・蛍光波長を有する2種類の蛍光色素で蛍光染色を行い,これらに各細菌を特異的に認識するような抗体を結合させる。これらの2種類の蛍光色素の蛍光の波長は,例えば610±20nmの範囲の異なった値となるように設定している。
【0052】
こうして上記検出対象と,それぞれの粒径を有する測定用微粒子を反応させ,フローサイトメータにより測定する。
この際,測定用微粒子の大きさは,レーザ光の前方散乱光を測定して行い,また検出対象を染色した蛍光色素は,側方の光電子増倍管(PMT)により,蛍光波長:480±20nmの蛍光を測定して行い,また測定用微粒子の2種類の蛍光色の蛍光強度は,側方の光電子増倍管(PMT)により,蛍光波長:610±20nmの蛍光を測定して行い,こうして,上述した各細菌の存在の有無を検出することができる。
【0053】
以上の実施例における測定用微粒子の粒径は,上述したとおり2μm,3μm,5μm,7μm,10μmの5種類であり,この例では,最大径と最小径との比は5であるが,この比の値を小さくするように,夫々の隣接する測定用微粒子の径の比を小さくすることも可能で,この場合には,フローサイトメトリーにおけるフロー系での取り扱いが容易となる。同様に,最大径と最小径の比を上述と同様に5として,粒径の種類を増加させることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は以上のとおりであるので,以下に示すような特徴を有する。
1.フローサイトメトリーにおいて,測定用微粒子の大きさは,レーザ光の前方散乱光や電気抵抗法等を用いて,容易に精度良く測定することができるので,大きさによって異ならせた測定用微粒子を,非常に高精度で高価な装置を使用しないでも,確実に識別することができる。
2.測定用微粒子の大きさを異ならせることに加えて,色,即ち,蛍光色素による蛍光色又は可視光領域の色素の色を異ならせ,こうして,異ならせた大きさと,異ならせた色の二次元マトリクス的に種類を識別可能とすることにより,識別可能な測定用微粒子の数を乗算的に多くすることができる。
3.各蛍光色毎の蛍光強度又は可視光領域の色素の色の明度を,少ないながら複数種類に設定することにより,識別可能な測定用微粒子の数を更に乗算的に多く,即ち三次元マトリクス的に増加させることができる。
4.こうして本発明では,既製の蛍光及び着色ポリマー微粒子と各研究設備や医療機関などで使用する既存のフローサイトメータを使用して,低コストかつ簡易な演算処理によって,数十種類の検出対象を従来の測定用微粒子を用いたものと同等の検出感度で測定することができる。
5.特に,院内感染においては,少なくとも5〜10種類(緑膿菌,肺炎球菌,黄色ブドウ球菌,大腸菌,インフルエンザ桿菌,クレブシエラ・ニューモニエetc)の病原菌の同定を行うことにより早期診断・早期発見が可能になるため,低コストかつ迅速な診断方法が求められているのであるが,本発明は,まさにこのような診断方法を低コストで提供できるものである。
6.この他,本発明では,フローサイトメトリーが対象とする測定分野の全てにおいて,低コストで測定を行うことのでき,産業上の利用可能性が大である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る測定用微粒子の第1の実施形態を模式的に示すものである。
【図2】本発明に係る測定用微粒子の第2の実施形態を模式的に示すものである。
【図3】従来の測定用微粒子の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0056】
P 測定用微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の測定用微粒子の夫々に異なった測定用物質を固定化し,この固定化された測定用物質に結合した蛍光標識付物質と,測定用微粒子をレーザ光を用いて測定するフローサイトメトリーを用いた測定方法において,測定用微粒子は,大きさを異ならせ,大きさにより種類を識別可能とすることを特徴とするフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法。
【請求項2】
複数種類の測定用微粒子の夫々に異なった測定用物質を固定化し,この固定化された測定用物質に結合した蛍光標識付物質と,測定用微粒子をレーザ光を用いて測定するフローサイトメトリーを用いた測定方法において,測定用微粒子は,大きさと色を異ならせ,大きさと色とにより二次元マトリクス的に種類を識別可能とすることを特徴とするフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法。
【請求項3】
測定用微粒子の大きさは,フローサイトメトリーにおけるレーザ光の前方散乱光により測定することを特徴とする請求項1又は2に記載のフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法。
【請求項4】
測定用微粒子の大きさは,電気抵抗法により測定することを特徴とする請求項1又は2に記載のフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法。
【請求項5】
種類を識別する測定用微粒子の色は,蛍光色素による蛍光色とし,その蛍光強度を一種類に設定することを特徴とする請求項2に記載のフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法。
【請求項6】
種類を識別する測定用微粒子の色は,蛍光色素による蛍光色とし,その蛍光強度を複数種類に設定することを特徴とする請求項2に記載のフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法。
【請求項7】
種類を識別する測定用微粒子の色は,可視光領域の色素の色とし,その明度を一種類に設定することを特徴とする請求項2に記載のフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法。
【請求項8】
種類を識別する測定用微粒子の色は,可視光領域の色素の色とし,その明度を複数種類に設定することを特徴とする請求項2に記載のフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法。
【請求項9】
大きさを異ならせ,大きさにより種類を識別可能としたことを特徴とするフローサイトメトリーにおける測定用微粒子。
【請求項10】
大きさと色を異ならせ,大きさと色とにより種類を識別可能としたことを特徴とするフローサイトメトリーにおける測定用微粒子。
【請求項11】
色は,蛍光色素による蛍光色とし,その蛍光強度を一種類に設定したことを特徴とする請求項10に記載のフローサイトメトリーにおける測定用微粒子。
【請求項12】
色は,蛍光色素による蛍光色とし,その蛍光強度を複数種類に設定したことを特徴とする請求項10に記載のフローサイトメトリーにおける測定用微粒子。
【請求項13】
色は,可視光領域の色素の色とし,その明度を一種類に設定したことを特徴とする請求項10に記載のフローサイトメトリーにおける測定用微粒子。
【請求項14】
色は,可視光領域の色素の色とし,その明度を複数種類に設定したことを特徴とする請求項10に記載のフローサイトメトリーにおける測定用微粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−101412(P2007−101412A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292850(P2005−292850)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000138200)株式会社モリテックス (120)
【Fターム(参考)】