ブラシレスモータの駆動装置
【課題】ブラシレスモータの過渡状態において脱調が起こり難くする。
【解決手段】ブラシレスモータが第1の回転速度N1未満で回転駆動する低速運転領域では、非通電相の相電圧と閾値との比較結果に応じて通電モードを切り替える。ブラシレスモータが第1の回転速度N1以上かつ第2の回転速度N2以下で回転駆動する中速運転領域では、非通電相の相電圧が基準電圧を横切った第2の条件が成立し、かつ、その状態から所定角度回転するのに要する時間が経過したとき、又は、非通電相の相電圧が所定電圧を横切った第1の条件が成立したときに、通電モードを切り替える(S362〜S368)。また、ブラシレスモータが第2の回転速度N2より速く回転駆動する高速運転領域では、非通電相の相電圧が基準電圧を横切った第2の条件が成立したときに、通電モードを切り替える(S362、S369)。
【解決手段】ブラシレスモータが第1の回転速度N1未満で回転駆動する低速運転領域では、非通電相の相電圧と閾値との比較結果に応じて通電モードを切り替える。ブラシレスモータが第1の回転速度N1以上かつ第2の回転速度N2以下で回転駆動する中速運転領域では、非通電相の相電圧が基準電圧を横切った第2の条件が成立し、かつ、その状態から所定角度回転するのに要する時間が経過したとき、又は、非通電相の相電圧が所定電圧を横切った第1の条件が成立したときに、通電モードを切り替える(S362〜S368)。また、ブラシレスモータが第2の回転速度N2より速く回転駆動する高速運転領域では、非通電相の相電圧が基準電圧を横切った第2の条件が成立したときに、通電モードを切り替える(S362、S369)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
センサレスでブラシレスモータを駆動する技術として、特開平11−341869号公報(特許文献1)に記載されているように、非通電相の誘起電圧(磁気飽和電圧)と所定電圧とを比較して、各相に対する通電モードを順次切り替える技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−341869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、誘起電圧と比較される所定電圧は、通電モードの切り替え周期から演算されたモータ回転速度に応じて設定されるため、時間的な遅れを伴っている。このため、モータの指示回転速度が急変する過渡状態において、実際の回転速度(実回転速度)と演算された回転速度との間に乖離が生じるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は従来技術の問題点に鑑み、過渡状態においても前記乖離を抑制し、脱調などが起こり難くした、ブラシレスモータの駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、ブラシレスモータを回転駆動するブラシレスモータの駆動装置は、複数の通電モード切替手段を持ち、ブラシレスモータの回転状態に応じて通電モードの切替手法を変更する。
【発明の効果】
【0007】
過渡状態において脱調などが起こり難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】自動車AT(Automatic Transmission)用油圧ポンプシステムの概略構成図である。
【図2】モータ制御装置及びブラシレスモータの構成を示す回路図である。
【図3】制御器の構成を示すブロック図である。
【図4】ブラシレスモータの通電パターンを示すタイムチャートである。
【図5】ブラシレスモータの駆動制御を示すフローチャートである。
【図6】ブラシレスモータを駆動するサブルーチンのフローチャートである。
【図7】ブラシレスモータを駆動するサブルーチンのフローチャートである。
【図8】目標モータ回転速度を設定するマップの説明図である。
【図9】デューティ比の制限値を設定する方法の説明図である。
【図10】デューティ比の制限値を設定する他の方法の説明図である。
【図11】非通電相の誘起電圧とデューティ比との相関の説明図である。
【図12】非通電相の相端子電圧検出期間の説明図である。
【図13】ブラシレスモータが所定角度回転したか否かを判定する所定値を設定するマップの説明図である。
【図14】モータの実回転速度が急激に減少した場合の問題点及び解決方法を示し、(A)は誤差が発生する原因の説明図、(B)はその解決方法の説明図である。
【図15】モータの実回転速度が急激に増加した場合の問題点及び解決方法を示し、(A)は誤差が発生する原因の説明図、(B)はその解決方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、ブラシレスモータの駆動装置の適用対象の一例である、自動車AT用油圧ポンプシステムの概略構成を示す。
【0010】
自動車AT用油圧ポンプシステムでは、変速機7及びアクチュエータ8にオイルを供給するオイルポンプとして、エンジン(図示せず)の出力により駆動される機械式オイルポンプ6と、モータで駆動される電動オイルポンプ1と、を備えている。
【0011】
また、エンジンの制御システムは、自動停止条件の成立時にエンジンを停止し、自動始動条件が成立するとエンジンを再始動するアイドルストップ制御機能を備えている。そして、アイドルストップによってエンジンが停止している間は、機械式オイルポンプ6もその動作を停止するため、アイドルストップ中は、電動オイルポンプ1を作動させて、変速機7及びアクチュエータ8に対するオイルの供給を行う。
【0012】
電動オイルポンプ1は、直結したブラシレスモータ(3相同期電動機)2により駆動される。ブラシレスモータ2は、モータ制御装置(MCU)3により、AT制御装置(ATCU)4からの指令に基づいて制御される。
【0013】
モータ制御装置(駆動装置)3は、ブラシレスモータ2を駆動制御して電動オイルポンプ1を駆動し、オイルパン10のオイルを、オイル配管5を介して変速機7及びアクチュエータ8に供給する。
【0014】
エンジン運転中は、エンジン駆動の機械式オイルポンプ6により、変速機7及びアクチュエータ8にオイル配管9を介してオイルパン10のオイルが供給され、このとき、ブラシレスモータ2はオフ状態(停止状態)であって、逆止弁11によって電動オイルポンプ1に向かうオイルの流れは遮断される。
【0015】
エンジンがアイドルストップすると、機械式オイルポンプ6の回転速度が低下してオイル配管9の油圧が低下するので、エンジンのアイドルストップに同期して、AT制御装置4がモータ起動の指令をモータ制御装置3に向けて送信する。
【0016】
起動指令を受けたモータ制御装置3は、ブラシレスモータ2を起動させて電動オイルポンプ1を回転させ、電動オイルポンプ1によるオイルの供給を開始させる。
そして、機械式オイルポンプ6の吐出圧が低下する一方で、電動オイルポンプ1の吐出圧が逆止弁11の開弁圧を超えるようになると、オイルは、オイル配管5、電動オイルポンプ1、逆止弁11、変速機7・アクチュエータ8、オイルパン10の経路を通って循環する。
【0017】
なお、本実施形態では、ブラシレスモータ2が、油圧ポンプシステムの電動オイルポンプ1を駆動するが、この他、ハイブリッド車両などにおいてエンジンの冷却水の循環に用いる電動ウォータポンプを駆動するブラシレスモータなどであってもよく、ブラシレスモータ2が駆動する対象機器をオイルポンプに限定するものでない。
【0018】
図2は、モータ制御装置3及びブラシレスモータ2の詳細を示す。
モータ制御装置3は、モータ駆動回路212とコンピュータを内蔵した制御器213とを有し、制御器213はAT制御装置4との間で通信を行う。
【0019】
ブラシレスモータ2は、3相DC(Direct Current)ブラシレスモータ(3相同期電動機)であり、U相,V相及びW相の3相巻線215u,215v,215wを、図示しない円筒状の固定子に巻き回し、その固定子の中央部に形成した空間に永久磁石回転子(ロータ)216を回転可能に備える。
【0020】
モータ駆動回路212は、逆並列のダイオード218a〜218fを含んでなるスイッチング素子217a〜217fを3相ブリッジ接続した回路と電源回路219とを有しており、スイッチング素子217a〜217fは、例えば、FET(Field Effect Transistor)で構成される。
【0021】
スイッチング素子217a〜217fの制御端子(ゲート端子)は、制御器213に接続され、スイッチング素子217a〜217fのオン/オフは、制御器213によるパルス幅変調(PWM)動作で制御される。
【0022】
制御器213は、ブラシレスモータ2の印加電圧(入力電圧)を演算し、この印加電圧に基づいてモータ駆動回路212に出力するパルス幅変調信号(PWM信号)を生成する回路である。制御器213は、図3に示すように、PWM発生器251、ゲート信号切替器252、通電モード決定器253、比較器254、電圧閾値切替器255、電圧閾値学習器256及び非通電相電圧選択器257を有する。
【0023】
PWM発生器251は、印加電圧指令(指令電圧)に基づいて、パルス幅変調されたPWM波を発生する回路である。
通電モード決定器253は、モータ駆動回路212の通電モード(スイッチングモード)を決定するモード指令信号を順次出力するデバイスであって、比較器254が出力するモード切替トリガ信号をトリガとして通電モードを6通りに切り替える。なお、通電モードとは、3相のうちでパルス電圧を印加する2相の選択パターンを示す。
【0024】
ゲート信号切替器252は、モータ駆動回路212の各スイッチング素子217a〜217fがどのような動作でスイッチングするかを、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づいて決定し、この決定に従って、6つのゲートパルス信号をモータ駆動回路212に出力する。
【0025】
電圧閾値切替器255は、非通電相のパルス誘起電圧と閾値との比較に基づいて通電モードの切り替え制御における閾値を順次切り替えて発生する回路であって、閾値の切り替えタイミングは、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づいて決定される。
【0026】
非通電相電圧選択器257は、モード指令信号に従って、ブラシレスモータ2の3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から非通電相の電圧の検出値を選択し、比較器254及び電圧閾値学習器256に出力する回路である。なお、非通電相の端子電圧は、厳密にはグランドGND−端子間の電圧であるが、本実施形態では、中性点の電圧を別途検出し、この中性点の電圧とGND−端子間電圧との差を求めて、端子電圧Vu,Vv,Vwとしている。
【0027】
比較器254は、電圧閾値切替器255が出力する閾値と非通電相電圧選択器257が出力する非通電相の電圧検出値(パルス誘起電圧の検出値)とを比較することで、通電モードの切り替えタイミングを判定し、この判定結果に基づいて、通電モード決定器253にモード切替トリガを出力する。なお、パルス誘起電圧は、2相に対するパルス電圧の印加によって非通電相に誘起される電圧であって、回転子の位置(磁極位置)により磁気回路の飽和状態が変化することから、回転子の位置に応じた誘起電圧が非通電相に発生することになり、非通電相の誘起電圧から回転子の位置を推定して、通電モードの切り替えタイミングを検出することができる。
【0028】
また、電圧閾値学習器256は、通電モードの切り替えタイミングの判定に用いる閾値を更新して記憶するデバイスである。切り替えタイミングの判定のために検出する非通電相のパルス誘起電圧は、ブラシレスモータ2の製造ばらつき、電圧検出回路の検出ばらつきなどによって変動するため、この誘起電圧のばらつきに対して、閾値として固定値を用いると、通電モードの切り替えタイミングを誤って判定することになってしまう。そこで、電圧閾値学習器256は、通電モードの切り替えタイミングに相当する磁極位置でのパルス誘起電圧を検出することで、閾値を実際の切り替えタイミングで発生する誘起電圧に近づける補正を行い、電圧閾値切替器255が記憶している閾値を、補正結果に置き換える。
【0029】
図4は、各通電モードにおける各相への電圧印加状態を示す。
通電モードは、電気角60degごとに順次切り替わる6通りの通電モード(1)〜(6)からなり、各通電モード(1)〜(6)において、3相から選択された2相に対してパルス電圧(パルス状の電圧)を印加する。
【0030】
本実施形態では、U相のコイルの角度位置を、回転子(磁極)の基準位置(角度0deg)とし、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う回転子の角度位置(磁極位置)を30degに、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う回転子の角度位置を90degに、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う回転子の角度位置を150degに、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う回転子の角度位置を210degに、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う回転子の角度位置を270degに、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う回転子の角度位置を330degに設定している。
【0031】
通電モード(1)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に中性点に対して電圧Vを印加し、V相に中性点に対して電圧―Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流す。
【0032】
通電モード(2)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に中性点に対して電圧Vを印加し、W相に中性点に対して電圧―Vを印加し、U相からW相に向けて電流を流す。
【0033】
通電モード(3)は、スイッチング素子217c及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に中性点に対して電圧Vを印加し、W相に中性点に対して電圧―Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流す。
【0034】
通電モード(4)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217cをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に中性点に対して電圧Vを印加し、U相に中性点に対して電圧―Vを印加し、V相からU相に向けて電流を流す。
【0035】
通電モード(5)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217eをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に中性点に対して電圧Vを印加し、U相に中性点に対して電圧―Vを印加し、W相からU相に向けて電流を流す。
【0036】
通電モード(6)は、スイッチング素子217e及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に中性点に対して電圧Vを印加し、V相に中性点に対して電圧―Vを印加し、W相からV相に向けて電流を流す。
【0037】
なお、このような通電制御の場合、例えば、通電モード(1)では、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧―Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流すようにしたが、下段のスイッチング素子217dを駆動するPWM波と逆位相のPWM波で上段のスイッチング素子217cを駆動し、下段のスイッチング素子217dがオンであるときに、上段のスイッチング素子217cをオフさせ、下段のスイッチング素子217dがオフであるときに、上段のスイッチング素子217cをオンさせるようにする相補制御方式で、各通電モード(1)〜(6)での通電制御を行わせることができる。
【0038】
このように、6つの通電モード(1)〜(6)を、電気角60degごとに切り替えることで、各スイッチング素子217a〜217fを、240degごとに120deg間通電することから、図4に示すような通電方式は120度通電方式と呼ばれる。
【0039】
図5は、モータ制御装置3によるブラシレスモータ2の駆動制御の概要を示す。
ステップ301(図では「S301」と略記する。以下同様。)では、通電モードの切り替えタイミングの判定に用いる閾値の学習条件、換言すれば、電圧閾値学習器256の作動条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、電源投入直後、又は、電動オイルポンプ1の停止直後など、ブラシレスモータ2の駆動要求が発生していないことを、閾値の学習条件とする。そして、学習条件が成立していれば、ステップ302へと進んで、閾値の学習を実施する。
【0040】
以下に、閾値の学習処理の一例を示す。
例えば、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値V4-5を学習する場合には、まず、永久磁石回転子216を通電モード(3)に対応する角度に位置決めする。通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinを各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度90degまで回転することになる。そして、通電モード(3)に対応する電圧印加を行ってから、永久磁石回転子216が角度90degまで回転するのに要する時間の経過を待って、角度90degへの位置決めが完了したものと推定する。
【0041】
なお、通電モード(3)に対応する相通電を行った場合に永久磁石回転子216が引き付けられる角度90degは、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置である。
【0042】
角度90degへの永久磁石回転子216の位置決めが完了すると、次いで、通電モード(3)に対応する電圧印加パターンから、通電モード(4)に対応する電圧印加パターン、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0に切り替える。そして、通電モード(3)に対応する印加電圧から通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(4)での非通電相であるW相の端子電圧Vwを検出し、この端子電圧Vwに基づいて、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値V4-5を更新して記憶する。
【0043】
即ち、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えは、前述のように、角度90degで行わせるように設定されていて、角度90degになったか否か、換言すれば、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングになったか否かは、通電モード(4)における非通電相であるW相の端子電圧Vwに基づいて判定する。
【0044】
ここで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置(90deg)に位置決めすることができ、この状態で通電モード(3)から通電モード(4)に切り替えれば、通電モード(4)に切り替えた直後のW相の端子電圧Vwは、角度位置90degにおける非通電相の端子電圧Vを示すことになる。
【0045】
そこで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(4)に切り替えた直後におけるW相の端子電圧Vwに基づいて、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値V4-5を更新して記憶する。そして、通電モード(4)の非通電相であるW相の端子電圧Vwが、閾値V4-5を横切ったときに(W相の端子電圧Vw=閾値V4-5になったとき)、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを実行させるようにする。
【0046】
他の通電モードの切り替えに用いる閾値も同様にして、更新学習を行える。
なお、閾値の更新処理においては、通電モードの切り替えを行う角度位置での非通電相の端子電圧Vを、そのまま閾値として記憶させてもよいし、前回までの閾値と今回求めた非通電相の端子電圧Vとの加重平均値を新たな閾値として記憶させてもよいし、更に、過去複数回に亘って求めた非通電相の端子電圧Vの移動平均値を新たな閾値として記憶させてもよい。
【0047】
また、今回求めた非通電相の端子電圧Vが、予め記憶している正常範囲内の値であれば、今回求めた非通電相の端子電圧Vに基づく閾値の更新を行い、正常範囲から外れている場合には、今回求めた非通電相の端子電圧Vに基づく閾値の更新を禁止し、閾値を前回値のまま保持させるとよい。
【0048】
さらに、閾値の初期値として設計値を記憶させておき、閾値の学習を1度も経験していない未学習状態では、閾値として初期値(設計値)を用いて通電モードの切り替えタイミングを判定させるようにする。
【0049】
非通電相の電圧が基準電圧に対してマイナス側に振れる(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替において共通の閾値を設定し、非通電相の電圧が基準電圧に対してプラス側に振れる(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替において共通の閾値を設定することができる。
【0050】
例えば、前述のようにして学習した閾値V4-5を、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替において共通の閾値とし、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替においては、閾値V4-5と絶対値が同じ閾値を共通の閾値として用いることができる。
【0051】
但し、閾値の学習を上記のものに限定するものではなく、公知の種々の学習処理を適宜採用できる。
上記のようにして、ステップ302で、モード切り替えタイミングの判定に用いる閾値を学習した場合、及び、ステップ301で学習条件が成立していないと判定した場合には、ステップ303へ進む。
【0052】
ステップ303では、電動オイルポンプ1(ブラシレスモータ2)の駆動要求が発生しているか否かを判定する。本実施形態の場合、アイドルストップ要求の発生が、電動オイルポンプ1の駆動要求の発生を示すことになる。そして、電動オイルポンプ1の駆動要求が発生していれば、ステップ304へ進み、そのときの通電モードでの非通電相の電圧と閾値とを比較することで、次の通電モードへの切り替えタイミングを判定し、通電モードを順次切り替えることで、ブラシレスモータ2を駆動させるセンサレスのモータ駆動制御を実施する。
【0053】
なお、ブラシレスモータ2の起動は、例えば、通電モード(3)に応じた電圧印加によって90degの位置に位置決めした後、通電モード(5)に切り替えて、ブラシレスモータ2を回転させ始め、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置である150degになったことを、通電モード(5)における非通電相であるV相の電圧が、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる閾値V5-6を横切ったときに判定し、通電モード(6)への切り替えを行う。その後、非通電相の電圧と閾値とを比較して、通電モードを順次切り替えるようにする。
【0054】
一方、電動オイルポンプ1の駆動要求が発生していない場合は、ステップ304を迂回して本ルーチンを終了させる。
ここで、ステップ304におけるモータ駆動制御の詳細を、図6及び図7のフローチャートに基づいて説明する。
【0055】
ステップ351では、例えば、図8に示すような、ATF(Automatic Transmission Fluid)の油温に対応した目標回転速度が設定されたマップを参照し、ブラシレスモータ2の目標回転速度[rpm]を演算する。ここで、図8に示すマップでは、油温が上昇するにつれて、目標回転速度が線形に増加しているが、このような特性に限るものではない。ブラシレスモータ2がウォータポンプを駆動する場合には、エンジンの冷却水温度が高いほど目標回転速度をより高い回転速度に設定すればよい。
【0056】
ステップ352では、ブラシレスモータ2の目標回転速度と実際の回転速度(実回転速度)とに基づいて、次のように、ブラシレスモータ2に印加する印加電圧を演算する。即ち、印加電圧を回転フィードバックによりPI(比例積分)制御する場合では、「回転速度偏差=目標回転速度―実回転速度」とおくと、「印加電圧=回転速度偏差×P(比例)ゲイン+回転速度偏差積分値×I(積分)ゲイン」という式から印加電圧を求めることができる。他の制御方式、例えば、PID(比例積分微分)制御でも同様である。なお、実回転速度は、後述するステップ361で演算した演算値を用いるが、公知のセンサなどで検出した検出値を用いるようにしてもよい。また、印加電圧は、例えば、電動オイルポンプ1の目標吐出圧と実吐出圧との偏差、又は、要求トルクに基づいて演算する方法など、公知の方法を採用してもよい。
【0057】
ステップ353では、次のような方法で、相電流をPWM制御するときのデューティ比の下限値を設定する。
例えば、図9に示すように、PWM制御においてキャリア周期ごとに増減を繰り返すPWMカウンタの谷(カウンタ値が減少から増加に転じる点)、換言すれば、パルス印加電圧のパルス幅PWの中心付近を、非通電相のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合、パルス電圧の印加直後(立ち上がり直後)の非通電相のパルス誘起電圧が振れる期間(電圧振れ時間)がパルス幅PWの1/2よりも長いと、パルス誘起電圧が振れている間に、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることになってしまい、非通電相のパルス誘起電圧を精度よく検出することができない。また、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換処理に要する時間(A/D変換開始から完了までのA/D変換時間)が、パルス幅PWの1/2よりも長いと、A/D変換処理中に相通電に対する電圧の印加が停止してしまい、この場合も、非通電相のパルス誘起電圧を精度よく検出することができず、ブラシレスモータ2が脱調してしまう可能性がある。
【0058】
そこで、デューティ比の下限値を次式に従って演算する。
下限値=max(電圧振れ時間,A/D変換時間)×2/キャリア周期×100
この式によると、電圧振れ時間とA/D変換時間との長い方の2倍を最小パルス幅PWminとすることになり、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
【0059】
なお、PWM制御においてキャリア周期ごとに増減を繰り返すPWMカウンタの山(カウンタ値が増加から減少に転じる点)を非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合や、PWM切替りタイミングを非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合にも、上記のようにして、デューティ比の下限値を設定する。
【0060】
また、電圧振れ時間及びA/D変換時間は、予め実験やシミュレーションで求めた値を用いることができる他、電圧振れ時間をステップ353において計測した計測結果に基づいて、デューティ比の下限値を設定することもできる。
【0061】
非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)を任意のタイミングに設定できる場合には、図10に示すように、電圧振れ時間が経過した直後からA/D変換処理を開始させるようにすれば、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)を可及的に短いパルス内で行わせることができると共に、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
【0062】
具体的には、デューティ比の下限値を次式に従って演算する。
下限値=(電圧振れ時間+A/D変換時間)/キャリア周期×100
即ち、電圧振れ時間とA/D変換時間との総和よりも長いパルス幅PWとし、電圧振れ時間の経過直後からA/D変換を開始させるようにすれば、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
【0063】
また、非通電相のパルス誘起電圧は、デューティ比によって大きさが変化し、図11に示すように、デューティ比が小さくなると、非通電相のパルス誘起電圧も小さくなり、デューティ比が小さいと電圧検出の分解能を下回る電圧になってしまい、通電モードの切り替えタイミングの判定ができなくなってしまう可能性がある。
【0064】
そこで、電圧検出回路で検出可能なパルス誘起電圧(電圧検出の分解能を上回る電圧)を発生させるデューティ比の最小値を、下限値としてもよい。この場合、前述した2通りの式から求めたいずれか一方の下限値と電圧検出の分解能を考慮して求めた下限値とのうち、より大きなデューティ比を最終的なデューティ比とすることができる。
【0065】
このようにしてデューティ比の下限値を設定すれば、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制でき、更に、パルス誘起電圧として検出可能な電圧を発生させて通電モードの切り替えタイミングの判定を行えることになり、ブラシレスモータ2における脱調の発生を抑制できる。
【0066】
ステップ354では、ステップ352で設定した印加電圧(入力電圧)、及び、ステップ353で設定したデューティ比の下限値に基づいて、デューティ比を設定する。
まず、基本デューティ[%]を、「基本デューティ=印加電圧/電源電圧×100」から算出する。ここで、電源電圧としては、後述するステップ356でA/D変換された、直前の電源電圧を用いればよい。そして、基本デューティが下限値よりも大きい場合、基本デューティをデューティ比とする一方、基本デューティが下限値よりも小さい場合、下限値をデューティ比とすることで、デューティ比が下限値を下回ることがないように制限する。
【0067】
本実施形態のような油圧ポンプシステムの場合、モータ回転速度を高精度に制御することは要求されず、要求よりも高い印加電圧を与えるから、デューティ比を制限しても、要求量以上のオイル吐出量を確保でき、油圧低下や潤滑不足などが生じることがない。また、ブラシレスモータ2がウォータポンプを駆動する場合には、デューティ比を制限しても、少なくとも要求量以上の冷却水循環量を確保でき、エンジン過熱の発生を抑制できる。
【0068】
ステップ355では、そのときの通電モードに応じた非通電相(パルス誘起電圧を検出する相)を選択する。具体的には、通電モード(1)の場合はW相を選択し、通電モード(2)の場合はV相を選択し、通電モード(3)の場合はU相を選択し、通電モード(4)の場合はW相を選択し、通電モード(5)の場合はV相を選択し、通電モード(6)の場合はU相を選択する。このような非通電相の選択は、非通電相電圧選択器257が通電モード決定器253からの信号に基づいて行う。
【0069】
ステップ356では、ステップ355で選択した非通電相の相端子電圧、及び、電源電圧を所定タイミングでA/D変換(サンプリング)する。
ここで、非通電相の相端子電圧の検出期間(A/D変換タイミング)を、通電モード(3)を例とした図12を参照して説明する。通電モード(3)では、V相に電圧Vを印加し、W相にパルス幅変調動作によって指示電圧に相当する電圧−Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流すから、電圧検出相はU相であり、このU相の相端子電圧を、W相下段のスイッチング素子217fのオン期間で検出する。
【0070】
また、通電モードの切り替え直後は、転流電流が発生し、この転流電流の発生区間で検出した電圧を用いると、通電モードの切り替えタイミングを誤判定することになってしまう。そこで、通電モードの切り替え直後の電圧検出値については、初回から所定回数に亘って切り替えタイミングの判定には用いないようにする。所定回数は、モータ回転速度及び電流(モータ負荷)に応じて可変に設定することができ、モータ回転速度が高く、モータ電流が高いほど、所定回数を大きな値に設定する。なお、電源電圧についても、非通電相の相端子電圧と同じタイミングでA/D変換する。
【0071】
ステップ357では、例えば、「相電圧=相端子電圧―電源電圧/2」という式を用いて、ステップ356でA/D変換した相端子電圧及び電源電圧から相電圧を算出する。
ステップ358では、ブラシレスモータ2の回転速度が、低速運転領域と中速運転領域との境界を画定する第1の回転速度N1未満であるか否かを判定する。そして、モータ回転速度が第1の回転速度N1未満であれば、ブラシレスモータ2が低速運転領域にあると判断してステップ359へと進む。また、モータ回転速度が第1の回転速度N1以上であれば、ブラシレスモータ2が中速運転領域又は高速運転領域にあると判断してステップ362へと進む。
【0072】
なお、第1の回転速度N1としては、例えば、中速運転領域から低速運転領域への移行を判定する第1の所定値と低速運転領域から中速運転領域への移行を判定する第2の所定値(>第1の所定値)とを設定し、いわゆる「ヒステリシス」を持たせることで、低速運転領域と中速運転領域との間の切り替えが短時間で繰り返されることを抑制してもよい(以下同様)。
【0073】
ステップ359では、相電圧とステップ302で学習した閾値とに基づいて、低速運転領域における通電モードの切り替えタイミングであるか否かを判定する。具体的には、そのときに通電モード(1)であった場合には、相電圧が閾値V1-2以下になったときに、通電モード(2)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(2)であった場合には、相電圧が閾値V2-3以上になったときに、通電モード(3)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(3)であった場合には、相電圧が閾値V3-4以下になったときに、通電モード(4)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(4)であった場合には、相電圧が閾値V4-5以上になったときに、通電モード(5)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(5)であった場合には、相電圧が閾値V5-6以下になったときに、通電モード(6)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(6)であった場合には、相電圧が閾値V6-1以上になったときに、通電モード(1)への切り替えタイミングであると判定する。そして、通電モードの切り替えタイミングであると判定すればステップ360へと進む一方、通電モードの切り替えタイミングでないと判定すればサブルーチンを終了する。
【0074】
ステップ360では、次の通電モードに切り替える。具体的には、そのときに通電モード(1)であった場合には通電モード(2)に切り替え、そのときに通電モード(2)であった場合には通電モード(3)に切り替え、そのときに通電モード(3)であった場合には通電モード(4)に切り替え、そのときに通電モード(4)であった場合には通電モード(5)に切り替え、そのときに通電モード(5)であった場合には通電モード(6)に切り替え、そのときに通電モード(6)であった場合には通電モード(1)に切り替える。
【0075】
ステップ361では、通電モードの切り替え周期に基づいて、ブラシレスモータ2の回転速度を演算する。具体的には、通電モードの切り替えが行われる時間間隔を計測し、この時間間隔から回転速度を演算する。例えば、ブラシレスモータ2の極対数が3である場合、回転速度は、「回転速度=60/3/時間間隔」という式から求めることができる。
【0076】
ステップ362では、ブラシレスモータ2の回転速度が、高速運転領域と中速運転領域との境界を画定する第2の回転速度N2以下であるか否か、要するに、モータ回転速度が第1の回転速度N1以上かつ第2の回転速度N2以下である「中速運転領域」にあるか否かを判定する。そして、モータ回転速度が第2の回転速度N2以下であれば、ブラシレスモータ2が中速運転領域にあると判断してステップ363へと進む。また、モータ回転速度が第2の回転速度N2より高ければ、ブラシレスモータ2が高速運転領域にあると判断してステップ369へと進む。
【0077】
ステップ363では、中速運転領域における通電モードの切り替えタイミングを判定するための所定電圧を、モータ回転速度、電流及び温度に基づいて設定する。即ち、通電モードの切り替えタイミングは、モータ回転速度、誘起電圧定数及び磁気飽和電圧により変化する。また、誘起電圧定数はモータ温度により変化し、磁気飽和電圧はモータ温度及びモータ電流により変化する。このため、通電モードの切り替えタイミングは、モータ回転速度、電流及び温度に応じて変化するので、モータ回転速度、電流及び温度に基づいて所定電圧を設定する。
【0078】
具体的には、モータ回転速度との関連性を表す誘起電圧定数を事前に取得しておき、誘起電圧定数をモータ温度に応じて補正する。誘起電圧定数は、モータ温度が低くなるにつれて大きくなる。また、磁気飽和電圧も事前に取得しておき、モータ温度及びモータ電流に応じて補正する。磁気飽和電圧は、モータ温度が低くなるにつれて大きくなり、モータ電流が大きくなるにつれて大きくなる。そして、「所定電圧=モータ回転速度×誘起電圧定数+磁気飽和電圧」という式から、所定電圧を設定する。
【0079】
ステップ364では、中速運転領域における通電モードの切り替えタイミングであるか否かを判定するために、相電圧と所定電圧との関係が第1の条件を満たしているか否かを判定する。即ち、通電モード(2)、(4)又は(6)の場合、「相電圧≧所定電圧」であるか否か、通電モード(1)、(3)又は(5)の場合、「相電圧≦所定電圧」であるか否かを判定する。ここで、通電モード(2)、(4)又は(6)の場合、所定電圧は正の値をとり、通電モード(1)、(3)又は(5)の場合、所定電圧は負の値をとる。そして、相電圧と所定電圧との関係が第1の条件を満たしていればステップ360へと進む。また、相電圧と所定電圧との関係が第1の条件を満たしていなければステップ365へと進む。
【0080】
ステップ365では、中速運転領域における通電モードの切り替えタイミングであるか否かを判定するために、相電圧と基準電圧(例えば、電源電圧/2)との関係が第2の条件を満たしているか否かを判定する。即ち、通電モード(2)、(4)又は(6)の場合、「相電圧≧基準電圧」であるか否か、通電モード(1)、(3)又は(5)の場合、「相電圧≦基準電圧」であるか否かを判定する。ここで、通電モード(2)、(4)又は(6)の場合、基準電圧は正の値をとり、通電モード(1)、(3)又は(5)の場合、基準電圧は負の値をとる。そして、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしていればステップ366へと進む。また、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしていなければサブルーチンを終了させる。
【0081】
ステップ366では、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしてから、ブラシレスモータ2が所定角度(例えば、30度)回転したか否かを判定するために、その経過時間を計時するカウンタをカウントアップする。ここで、カウンタによる計時が開始されていない場合には、その計時を開始する。
【0082】
ステップ367では、ブラシレスモータ2が所定角度回転するのに要する時間に相当する所定値を設定する。具体的には、図13に示すように、モータ回転速度が高くなるにつれて所定値が徐々に小さくなる特性をもったマップを参照し、モータ回転速度に応じた所定値を設定する。
【0083】
ステップ368では、カウンタ値が所定値以上になったか否か、要するに、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしてから、ブラシレスモータ2が所定角度回転したか否かを判定する。そして、カウンタ値が所定値以上になったならばステップ360へと進む一方、カウンタ値が所定値以上にならなければサブルーチンを終了させる。
【0084】
ステップ369では、高速運転領域における通電モードの切り替えタイミングであるか否かを判定するために、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしているか否かを判定する。そして、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしていればステップ360へと進む一方、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしていなければサブルーチンを終了させる。
【0085】
従って、電動オイルポンプ1を駆動するブラシレスモータ2は、低速運転領域、中速運転領域及び高速運転領域において、次のように、通電モードが順次切り替えられて駆動する。
【0086】
低速運転領域においては、非通電相の相電圧と閾値との比較結果、要するに、非通電相の相電圧がそのときの通電モードに応じた閾値を横切った場合に、次の通電モードへと切り替えられる。ここで、閾値は、通電モードの切り替えタイミングに相当する磁極位置での誘起電圧から学習された値であるため、ブラシレスモータ2の製造ばらつき、電圧検出回路の検出ばらつきなどがあっても、これらを補正した値をとるようになる。このため、低速運転領域における通電モードの切り替えが、適切なタイミングで行われるようになり、ブラシレスモータ2の脱調を起こり難くすることができる。
【0087】
中速運転領域においては、非通電相の相電圧がモータ回転速度、電流及び温度に応じた所定電圧を横切った場合(条件1)、又は、非通電相の相電圧が基準電圧を横切ってから回転子が所定角度回転するのに要する時間が経過した場合(条件2)に、次の通電モードへと切り替えられる。要するに、中速運転領域では、2つの条件のうち、少なくとも1つの条件が成立したことを契機として、通電モードが切り替えられる。
【0088】
ここで、条件1は、具体的には、非通電相の相電圧が所定電圧未満の第3の電圧から所定電圧以上の第4の電圧へと変化、若しくは、第4の電圧から第3の電圧へと変化した場合である。また、条件2は、具体的には、非通電相の相電圧が基準電圧未満の第1の電圧から基準電圧以上の第2の電圧へと変化、若しくは、第2の電圧から第1の電圧へと変化し、かつ、その状態から所定角度回転するのに要する時間が経過した場合である。
【0089】
図14(A)に示すように、モータ回転速度がBからAに急激に低下した場合、演算により求めた回転速度(演算回転速度)がBであるのに対して実回転速度がAとなり、B−Aだけ回転速度誤差が発生してしまう。この場合、通電モードの切り替えタイミングを判定するための所定電圧は、実回転速度Aより大きい演算回転速度Bに基づいて設定されるため、その絶対値が大きくなってしまう。このため、相電圧が所定電圧を横切らず、条件1により通電モードの切り替えが行われない。しかし、図14(B)に示すように、相電圧が基準電圧を横切るため、これから回転子が所定角度回転した時点において条件2が成立し、通電モードの切り替えが行われる。
【0090】
なお、モータ回転速度がAからBに急激に上昇した場合には、通電モードの切り替えタイミングを判定するための所定電圧は、実回転速度Bより小さい演算回転速度Aに基づいて設定されるため、その絶対値が小さくなり、相電圧が所定電圧を横切らないという不具合は発生しない。
【0091】
また、図15(A)に示すように、モータ回転速度がAからBに急激に上昇した場合、演算回転速度がAであるのに対して実回転速度がBとなり、回転子が所定角度回転する時間について、回転速度誤差(B−A)に相当する誤差(時間誤差)が発生してしまう。この場合、回転子が所定角度回転する時間は、実回転速度Bより遅い演算回転速度Aに基づいて設定されるため、実際に必要な時間よりも長くなってしまう。このため、条件2が成立するタイミングが遅れてしまう。しかし、図15(B)に示すように、相電圧が所定電圧を横切った時点において条件1が成立し、通電モードの切り替えが行われる。
【0092】
なお、モータ回転速度がBからAに急激に低下した場合には、回転子が所定角度回転する時間は、実回転速度Aより速い演算回転速度Bに基づいて設定されるため、実際に必要な時間よりも短くなり、条件2が成立するタイミングが遅れない。
【0093】
従って、条件1と条件2との少なくとも一方が成立した場合に、通電モードの切り替えが行われることとなり、モータ回転速度が急激に低下又は上昇する過渡状態においても、ブラシレスモータ2の脱調が起こり難くなり、応答性を向上させることができる。
【0094】
高速運転領域においては、非通電相の相電圧が基準電圧を横切った場合、換言すると、非通電相の相電圧が基準電圧未満の第1の電圧から基準電圧以上の第2の電圧へと変化、若しくは、第2の電圧から第1の電圧へと変化した場合に、次の通電モードへと切り替えられる。このため、通電モードの切り替えに遅れが発生せず、ブラシレスモータ2の脱調を起こり難くすることができる。
【0095】
ここで、ブラシレスモータ2が低速運転領域から中速運転領域又は高速運転領域に移行したときには、過渡状態における脱調を抑制するために、ブラシレスモータ2の実回転速度が目標回転速度に収束するまで、非通電相の相電圧が基準電圧を横切ったときに、通電モードを切り替えるようにしてもよい。この場合、ブラシレスモータ2の目標回転速度は、いつまでも収束しないことを回避すべく、上限値と下限値により画定される幅を持たせてもよい。
【0096】
また、制御器213が、非通電相電圧選択器257が出力する非通電相の電圧検出値と基準電圧とを比較することで、通電モードの切り替えタイミングを判定する比較器(コンパレータ)を更に備えている場合には、非通電相の相電圧に代えて、比較器が出力する判定結果に基づいて、相電圧が基準電圧を横切ったか否かを判定するようにしてもよい。
【0097】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
【0098】
(イ)請求項1又は請求項2に記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記所定電圧は、前記ブラシレスモータの温度、電流及び回転速度に応じて設定される、ブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、非通電相の誘起電圧と比較される所定電圧を、ブラシレスモータの回転速度、誘起電圧定数及び磁気飽和電圧により変化する通電モードの切り替えタイミングに適合させることができる。このため、ブラシレスモータの作動状態に合わせて通電モードが切り替えられ、脱調が起こり難くすることができる。
【0099】
(ロ)請求項2に記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記目標回転速度は、上限値及び下限値で画定される幅を有する、ブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、ブラシレスモータの実際の回転速度が、いつまでも目標回転速度に収束しないことを回避できる。
【0100】
(ハ)請求項1、請求項2、(イ)又は(ロ)に記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記非通電相の電圧と前記基準電圧とを比較する比較器を更に備え、
前記比較器の比較結果に基づいて、前記非通電相の誘起電圧が前記基準電圧を横切ったか否かを判定する、ブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、非通電相の誘起電圧が基準電圧を横切ったか否かは、比較器の比較結果から判定されるため、制御負荷を低減することができる。
【符号の説明】
【0101】
1…電動オイルポンプ、2…ブラシレスモータ、3…モータ制御装置、212…モータ駆動回路、213…制御器、215u,215v,215w…巻線、216…永久磁石回転子、217a〜217f…スイッチング素子、251…PWM発生器、252…ゲート信号切替器、253…通電モード決定器、254…比較器、255…電圧閾値切替器、256…電圧閾値学習器、257…非通電相電圧選択器
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
センサレスでブラシレスモータを駆動する技術として、特開平11−341869号公報(特許文献1)に記載されているように、非通電相の誘起電圧(磁気飽和電圧)と所定電圧とを比較して、各相に対する通電モードを順次切り替える技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−341869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、誘起電圧と比較される所定電圧は、通電モードの切り替え周期から演算されたモータ回転速度に応じて設定されるため、時間的な遅れを伴っている。このため、モータの指示回転速度が急変する過渡状態において、実際の回転速度(実回転速度)と演算された回転速度との間に乖離が生じるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は従来技術の問題点に鑑み、過渡状態においても前記乖離を抑制し、脱調などが起こり難くした、ブラシレスモータの駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、ブラシレスモータを回転駆動するブラシレスモータの駆動装置は、複数の通電モード切替手段を持ち、ブラシレスモータの回転状態に応じて通電モードの切替手法を変更する。
【発明の効果】
【0007】
過渡状態において脱調などが起こり難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】自動車AT(Automatic Transmission)用油圧ポンプシステムの概略構成図である。
【図2】モータ制御装置及びブラシレスモータの構成を示す回路図である。
【図3】制御器の構成を示すブロック図である。
【図4】ブラシレスモータの通電パターンを示すタイムチャートである。
【図5】ブラシレスモータの駆動制御を示すフローチャートである。
【図6】ブラシレスモータを駆動するサブルーチンのフローチャートである。
【図7】ブラシレスモータを駆動するサブルーチンのフローチャートである。
【図8】目標モータ回転速度を設定するマップの説明図である。
【図9】デューティ比の制限値を設定する方法の説明図である。
【図10】デューティ比の制限値を設定する他の方法の説明図である。
【図11】非通電相の誘起電圧とデューティ比との相関の説明図である。
【図12】非通電相の相端子電圧検出期間の説明図である。
【図13】ブラシレスモータが所定角度回転したか否かを判定する所定値を設定するマップの説明図である。
【図14】モータの実回転速度が急激に減少した場合の問題点及び解決方法を示し、(A)は誤差が発生する原因の説明図、(B)はその解決方法の説明図である。
【図15】モータの実回転速度が急激に増加した場合の問題点及び解決方法を示し、(A)は誤差が発生する原因の説明図、(B)はその解決方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、ブラシレスモータの駆動装置の適用対象の一例である、自動車AT用油圧ポンプシステムの概略構成を示す。
【0010】
自動車AT用油圧ポンプシステムでは、変速機7及びアクチュエータ8にオイルを供給するオイルポンプとして、エンジン(図示せず)の出力により駆動される機械式オイルポンプ6と、モータで駆動される電動オイルポンプ1と、を備えている。
【0011】
また、エンジンの制御システムは、自動停止条件の成立時にエンジンを停止し、自動始動条件が成立するとエンジンを再始動するアイドルストップ制御機能を備えている。そして、アイドルストップによってエンジンが停止している間は、機械式オイルポンプ6もその動作を停止するため、アイドルストップ中は、電動オイルポンプ1を作動させて、変速機7及びアクチュエータ8に対するオイルの供給を行う。
【0012】
電動オイルポンプ1は、直結したブラシレスモータ(3相同期電動機)2により駆動される。ブラシレスモータ2は、モータ制御装置(MCU)3により、AT制御装置(ATCU)4からの指令に基づいて制御される。
【0013】
モータ制御装置(駆動装置)3は、ブラシレスモータ2を駆動制御して電動オイルポンプ1を駆動し、オイルパン10のオイルを、オイル配管5を介して変速機7及びアクチュエータ8に供給する。
【0014】
エンジン運転中は、エンジン駆動の機械式オイルポンプ6により、変速機7及びアクチュエータ8にオイル配管9を介してオイルパン10のオイルが供給され、このとき、ブラシレスモータ2はオフ状態(停止状態)であって、逆止弁11によって電動オイルポンプ1に向かうオイルの流れは遮断される。
【0015】
エンジンがアイドルストップすると、機械式オイルポンプ6の回転速度が低下してオイル配管9の油圧が低下するので、エンジンのアイドルストップに同期して、AT制御装置4がモータ起動の指令をモータ制御装置3に向けて送信する。
【0016】
起動指令を受けたモータ制御装置3は、ブラシレスモータ2を起動させて電動オイルポンプ1を回転させ、電動オイルポンプ1によるオイルの供給を開始させる。
そして、機械式オイルポンプ6の吐出圧が低下する一方で、電動オイルポンプ1の吐出圧が逆止弁11の開弁圧を超えるようになると、オイルは、オイル配管5、電動オイルポンプ1、逆止弁11、変速機7・アクチュエータ8、オイルパン10の経路を通って循環する。
【0017】
なお、本実施形態では、ブラシレスモータ2が、油圧ポンプシステムの電動オイルポンプ1を駆動するが、この他、ハイブリッド車両などにおいてエンジンの冷却水の循環に用いる電動ウォータポンプを駆動するブラシレスモータなどであってもよく、ブラシレスモータ2が駆動する対象機器をオイルポンプに限定するものでない。
【0018】
図2は、モータ制御装置3及びブラシレスモータ2の詳細を示す。
モータ制御装置3は、モータ駆動回路212とコンピュータを内蔵した制御器213とを有し、制御器213はAT制御装置4との間で通信を行う。
【0019】
ブラシレスモータ2は、3相DC(Direct Current)ブラシレスモータ(3相同期電動機)であり、U相,V相及びW相の3相巻線215u,215v,215wを、図示しない円筒状の固定子に巻き回し、その固定子の中央部に形成した空間に永久磁石回転子(ロータ)216を回転可能に備える。
【0020】
モータ駆動回路212は、逆並列のダイオード218a〜218fを含んでなるスイッチング素子217a〜217fを3相ブリッジ接続した回路と電源回路219とを有しており、スイッチング素子217a〜217fは、例えば、FET(Field Effect Transistor)で構成される。
【0021】
スイッチング素子217a〜217fの制御端子(ゲート端子)は、制御器213に接続され、スイッチング素子217a〜217fのオン/オフは、制御器213によるパルス幅変調(PWM)動作で制御される。
【0022】
制御器213は、ブラシレスモータ2の印加電圧(入力電圧)を演算し、この印加電圧に基づいてモータ駆動回路212に出力するパルス幅変調信号(PWM信号)を生成する回路である。制御器213は、図3に示すように、PWM発生器251、ゲート信号切替器252、通電モード決定器253、比較器254、電圧閾値切替器255、電圧閾値学習器256及び非通電相電圧選択器257を有する。
【0023】
PWM発生器251は、印加電圧指令(指令電圧)に基づいて、パルス幅変調されたPWM波を発生する回路である。
通電モード決定器253は、モータ駆動回路212の通電モード(スイッチングモード)を決定するモード指令信号を順次出力するデバイスであって、比較器254が出力するモード切替トリガ信号をトリガとして通電モードを6通りに切り替える。なお、通電モードとは、3相のうちでパルス電圧を印加する2相の選択パターンを示す。
【0024】
ゲート信号切替器252は、モータ駆動回路212の各スイッチング素子217a〜217fがどのような動作でスイッチングするかを、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づいて決定し、この決定に従って、6つのゲートパルス信号をモータ駆動回路212に出力する。
【0025】
電圧閾値切替器255は、非通電相のパルス誘起電圧と閾値との比較に基づいて通電モードの切り替え制御における閾値を順次切り替えて発生する回路であって、閾値の切り替えタイミングは、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づいて決定される。
【0026】
非通電相電圧選択器257は、モード指令信号に従って、ブラシレスモータ2の3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から非通電相の電圧の検出値を選択し、比較器254及び電圧閾値学習器256に出力する回路である。なお、非通電相の端子電圧は、厳密にはグランドGND−端子間の電圧であるが、本実施形態では、中性点の電圧を別途検出し、この中性点の電圧とGND−端子間電圧との差を求めて、端子電圧Vu,Vv,Vwとしている。
【0027】
比較器254は、電圧閾値切替器255が出力する閾値と非通電相電圧選択器257が出力する非通電相の電圧検出値(パルス誘起電圧の検出値)とを比較することで、通電モードの切り替えタイミングを判定し、この判定結果に基づいて、通電モード決定器253にモード切替トリガを出力する。なお、パルス誘起電圧は、2相に対するパルス電圧の印加によって非通電相に誘起される電圧であって、回転子の位置(磁極位置)により磁気回路の飽和状態が変化することから、回転子の位置に応じた誘起電圧が非通電相に発生することになり、非通電相の誘起電圧から回転子の位置を推定して、通電モードの切り替えタイミングを検出することができる。
【0028】
また、電圧閾値学習器256は、通電モードの切り替えタイミングの判定に用いる閾値を更新して記憶するデバイスである。切り替えタイミングの判定のために検出する非通電相のパルス誘起電圧は、ブラシレスモータ2の製造ばらつき、電圧検出回路の検出ばらつきなどによって変動するため、この誘起電圧のばらつきに対して、閾値として固定値を用いると、通電モードの切り替えタイミングを誤って判定することになってしまう。そこで、電圧閾値学習器256は、通電モードの切り替えタイミングに相当する磁極位置でのパルス誘起電圧を検出することで、閾値を実際の切り替えタイミングで発生する誘起電圧に近づける補正を行い、電圧閾値切替器255が記憶している閾値を、補正結果に置き換える。
【0029】
図4は、各通電モードにおける各相への電圧印加状態を示す。
通電モードは、電気角60degごとに順次切り替わる6通りの通電モード(1)〜(6)からなり、各通電モード(1)〜(6)において、3相から選択された2相に対してパルス電圧(パルス状の電圧)を印加する。
【0030】
本実施形態では、U相のコイルの角度位置を、回転子(磁極)の基準位置(角度0deg)とし、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う回転子の角度位置(磁極位置)を30degに、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う回転子の角度位置を90degに、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う回転子の角度位置を150degに、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う回転子の角度位置を210degに、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う回転子の角度位置を270degに、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う回転子の角度位置を330degに設定している。
【0031】
通電モード(1)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に中性点に対して電圧Vを印加し、V相に中性点に対して電圧―Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流す。
【0032】
通電モード(2)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に中性点に対して電圧Vを印加し、W相に中性点に対して電圧―Vを印加し、U相からW相に向けて電流を流す。
【0033】
通電モード(3)は、スイッチング素子217c及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に中性点に対して電圧Vを印加し、W相に中性点に対して電圧―Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流す。
【0034】
通電モード(4)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217cをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に中性点に対して電圧Vを印加し、U相に中性点に対して電圧―Vを印加し、V相からU相に向けて電流を流す。
【0035】
通電モード(5)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217eをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に中性点に対して電圧Vを印加し、U相に中性点に対して電圧―Vを印加し、W相からU相に向けて電流を流す。
【0036】
通電モード(6)は、スイッチング素子217e及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に中性点に対して電圧Vを印加し、V相に中性点に対して電圧―Vを印加し、W相からV相に向けて電流を流す。
【0037】
なお、このような通電制御の場合、例えば、通電モード(1)では、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧―Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流すようにしたが、下段のスイッチング素子217dを駆動するPWM波と逆位相のPWM波で上段のスイッチング素子217cを駆動し、下段のスイッチング素子217dがオンであるときに、上段のスイッチング素子217cをオフさせ、下段のスイッチング素子217dがオフであるときに、上段のスイッチング素子217cをオンさせるようにする相補制御方式で、各通電モード(1)〜(6)での通電制御を行わせることができる。
【0038】
このように、6つの通電モード(1)〜(6)を、電気角60degごとに切り替えることで、各スイッチング素子217a〜217fを、240degごとに120deg間通電することから、図4に示すような通電方式は120度通電方式と呼ばれる。
【0039】
図5は、モータ制御装置3によるブラシレスモータ2の駆動制御の概要を示す。
ステップ301(図では「S301」と略記する。以下同様。)では、通電モードの切り替えタイミングの判定に用いる閾値の学習条件、換言すれば、電圧閾値学習器256の作動条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、電源投入直後、又は、電動オイルポンプ1の停止直後など、ブラシレスモータ2の駆動要求が発生していないことを、閾値の学習条件とする。そして、学習条件が成立していれば、ステップ302へと進んで、閾値の学習を実施する。
【0040】
以下に、閾値の学習処理の一例を示す。
例えば、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値V4-5を学習する場合には、まず、永久磁石回転子216を通電モード(3)に対応する角度に位置決めする。通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinを各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度90degまで回転することになる。そして、通電モード(3)に対応する電圧印加を行ってから、永久磁石回転子216が角度90degまで回転するのに要する時間の経過を待って、角度90degへの位置決めが完了したものと推定する。
【0041】
なお、通電モード(3)に対応する相通電を行った場合に永久磁石回転子216が引き付けられる角度90degは、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置である。
【0042】
角度90degへの永久磁石回転子216の位置決めが完了すると、次いで、通電モード(3)に対応する電圧印加パターンから、通電モード(4)に対応する電圧印加パターン、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0に切り替える。そして、通電モード(3)に対応する印加電圧から通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(4)での非通電相であるW相の端子電圧Vwを検出し、この端子電圧Vwに基づいて、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値V4-5を更新して記憶する。
【0043】
即ち、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えは、前述のように、角度90degで行わせるように設定されていて、角度90degになったか否か、換言すれば、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングになったか否かは、通電モード(4)における非通電相であるW相の端子電圧Vwに基づいて判定する。
【0044】
ここで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置(90deg)に位置決めすることができ、この状態で通電モード(3)から通電モード(4)に切り替えれば、通電モード(4)に切り替えた直後のW相の端子電圧Vwは、角度位置90degにおける非通電相の端子電圧Vを示すことになる。
【0045】
そこで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(4)に切り替えた直後におけるW相の端子電圧Vwに基づいて、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値V4-5を更新して記憶する。そして、通電モード(4)の非通電相であるW相の端子電圧Vwが、閾値V4-5を横切ったときに(W相の端子電圧Vw=閾値V4-5になったとき)、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを実行させるようにする。
【0046】
他の通電モードの切り替えに用いる閾値も同様にして、更新学習を行える。
なお、閾値の更新処理においては、通電モードの切り替えを行う角度位置での非通電相の端子電圧Vを、そのまま閾値として記憶させてもよいし、前回までの閾値と今回求めた非通電相の端子電圧Vとの加重平均値を新たな閾値として記憶させてもよいし、更に、過去複数回に亘って求めた非通電相の端子電圧Vの移動平均値を新たな閾値として記憶させてもよい。
【0047】
また、今回求めた非通電相の端子電圧Vが、予め記憶している正常範囲内の値であれば、今回求めた非通電相の端子電圧Vに基づく閾値の更新を行い、正常範囲から外れている場合には、今回求めた非通電相の端子電圧Vに基づく閾値の更新を禁止し、閾値を前回値のまま保持させるとよい。
【0048】
さらに、閾値の初期値として設計値を記憶させておき、閾値の学習を1度も経験していない未学習状態では、閾値として初期値(設計値)を用いて通電モードの切り替えタイミングを判定させるようにする。
【0049】
非通電相の電圧が基準電圧に対してマイナス側に振れる(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替において共通の閾値を設定し、非通電相の電圧が基準電圧に対してプラス側に振れる(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替において共通の閾値を設定することができる。
【0050】
例えば、前述のようにして学習した閾値V4-5を、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替において共通の閾値とし、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替においては、閾値V4-5と絶対値が同じ閾値を共通の閾値として用いることができる。
【0051】
但し、閾値の学習を上記のものに限定するものではなく、公知の種々の学習処理を適宜採用できる。
上記のようにして、ステップ302で、モード切り替えタイミングの判定に用いる閾値を学習した場合、及び、ステップ301で学習条件が成立していないと判定した場合には、ステップ303へ進む。
【0052】
ステップ303では、電動オイルポンプ1(ブラシレスモータ2)の駆動要求が発生しているか否かを判定する。本実施形態の場合、アイドルストップ要求の発生が、電動オイルポンプ1の駆動要求の発生を示すことになる。そして、電動オイルポンプ1の駆動要求が発生していれば、ステップ304へ進み、そのときの通電モードでの非通電相の電圧と閾値とを比較することで、次の通電モードへの切り替えタイミングを判定し、通電モードを順次切り替えることで、ブラシレスモータ2を駆動させるセンサレスのモータ駆動制御を実施する。
【0053】
なお、ブラシレスモータ2の起動は、例えば、通電モード(3)に応じた電圧印加によって90degの位置に位置決めした後、通電モード(5)に切り替えて、ブラシレスモータ2を回転させ始め、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置である150degになったことを、通電モード(5)における非通電相であるV相の電圧が、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる閾値V5-6を横切ったときに判定し、通電モード(6)への切り替えを行う。その後、非通電相の電圧と閾値とを比較して、通電モードを順次切り替えるようにする。
【0054】
一方、電動オイルポンプ1の駆動要求が発生していない場合は、ステップ304を迂回して本ルーチンを終了させる。
ここで、ステップ304におけるモータ駆動制御の詳細を、図6及び図7のフローチャートに基づいて説明する。
【0055】
ステップ351では、例えば、図8に示すような、ATF(Automatic Transmission Fluid)の油温に対応した目標回転速度が設定されたマップを参照し、ブラシレスモータ2の目標回転速度[rpm]を演算する。ここで、図8に示すマップでは、油温が上昇するにつれて、目標回転速度が線形に増加しているが、このような特性に限るものではない。ブラシレスモータ2がウォータポンプを駆動する場合には、エンジンの冷却水温度が高いほど目標回転速度をより高い回転速度に設定すればよい。
【0056】
ステップ352では、ブラシレスモータ2の目標回転速度と実際の回転速度(実回転速度)とに基づいて、次のように、ブラシレスモータ2に印加する印加電圧を演算する。即ち、印加電圧を回転フィードバックによりPI(比例積分)制御する場合では、「回転速度偏差=目標回転速度―実回転速度」とおくと、「印加電圧=回転速度偏差×P(比例)ゲイン+回転速度偏差積分値×I(積分)ゲイン」という式から印加電圧を求めることができる。他の制御方式、例えば、PID(比例積分微分)制御でも同様である。なお、実回転速度は、後述するステップ361で演算した演算値を用いるが、公知のセンサなどで検出した検出値を用いるようにしてもよい。また、印加電圧は、例えば、電動オイルポンプ1の目標吐出圧と実吐出圧との偏差、又は、要求トルクに基づいて演算する方法など、公知の方法を採用してもよい。
【0057】
ステップ353では、次のような方法で、相電流をPWM制御するときのデューティ比の下限値を設定する。
例えば、図9に示すように、PWM制御においてキャリア周期ごとに増減を繰り返すPWMカウンタの谷(カウンタ値が減少から増加に転じる点)、換言すれば、パルス印加電圧のパルス幅PWの中心付近を、非通電相のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合、パルス電圧の印加直後(立ち上がり直後)の非通電相のパルス誘起電圧が振れる期間(電圧振れ時間)がパルス幅PWの1/2よりも長いと、パルス誘起電圧が振れている間に、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることになってしまい、非通電相のパルス誘起電圧を精度よく検出することができない。また、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換処理に要する時間(A/D変換開始から完了までのA/D変換時間)が、パルス幅PWの1/2よりも長いと、A/D変換処理中に相通電に対する電圧の印加が停止してしまい、この場合も、非通電相のパルス誘起電圧を精度よく検出することができず、ブラシレスモータ2が脱調してしまう可能性がある。
【0058】
そこで、デューティ比の下限値を次式に従って演算する。
下限値=max(電圧振れ時間,A/D変換時間)×2/キャリア周期×100
この式によると、電圧振れ時間とA/D変換時間との長い方の2倍を最小パルス幅PWminとすることになり、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
【0059】
なお、PWM制御においてキャリア周期ごとに増減を繰り返すPWMカウンタの山(カウンタ値が増加から減少に転じる点)を非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合や、PWM切替りタイミングを非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合にも、上記のようにして、デューティ比の下限値を設定する。
【0060】
また、電圧振れ時間及びA/D変換時間は、予め実験やシミュレーションで求めた値を用いることができる他、電圧振れ時間をステップ353において計測した計測結果に基づいて、デューティ比の下限値を設定することもできる。
【0061】
非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)を任意のタイミングに設定できる場合には、図10に示すように、電圧振れ時間が経過した直後からA/D変換処理を開始させるようにすれば、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)を可及的に短いパルス内で行わせることができると共に、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
【0062】
具体的には、デューティ比の下限値を次式に従って演算する。
下限値=(電圧振れ時間+A/D変換時間)/キャリア周期×100
即ち、電圧振れ時間とA/D変換時間との総和よりも長いパルス幅PWとし、電圧振れ時間の経過直後からA/D変換を開始させるようにすれば、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
【0063】
また、非通電相のパルス誘起電圧は、デューティ比によって大きさが変化し、図11に示すように、デューティ比が小さくなると、非通電相のパルス誘起電圧も小さくなり、デューティ比が小さいと電圧検出の分解能を下回る電圧になってしまい、通電モードの切り替えタイミングの判定ができなくなってしまう可能性がある。
【0064】
そこで、電圧検出回路で検出可能なパルス誘起電圧(電圧検出の分解能を上回る電圧)を発生させるデューティ比の最小値を、下限値としてもよい。この場合、前述した2通りの式から求めたいずれか一方の下限値と電圧検出の分解能を考慮して求めた下限値とのうち、より大きなデューティ比を最終的なデューティ比とすることができる。
【0065】
このようにしてデューティ比の下限値を設定すれば、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制でき、更に、パルス誘起電圧として検出可能な電圧を発生させて通電モードの切り替えタイミングの判定を行えることになり、ブラシレスモータ2における脱調の発生を抑制できる。
【0066】
ステップ354では、ステップ352で設定した印加電圧(入力電圧)、及び、ステップ353で設定したデューティ比の下限値に基づいて、デューティ比を設定する。
まず、基本デューティ[%]を、「基本デューティ=印加電圧/電源電圧×100」から算出する。ここで、電源電圧としては、後述するステップ356でA/D変換された、直前の電源電圧を用いればよい。そして、基本デューティが下限値よりも大きい場合、基本デューティをデューティ比とする一方、基本デューティが下限値よりも小さい場合、下限値をデューティ比とすることで、デューティ比が下限値を下回ることがないように制限する。
【0067】
本実施形態のような油圧ポンプシステムの場合、モータ回転速度を高精度に制御することは要求されず、要求よりも高い印加電圧を与えるから、デューティ比を制限しても、要求量以上のオイル吐出量を確保でき、油圧低下や潤滑不足などが生じることがない。また、ブラシレスモータ2がウォータポンプを駆動する場合には、デューティ比を制限しても、少なくとも要求量以上の冷却水循環量を確保でき、エンジン過熱の発生を抑制できる。
【0068】
ステップ355では、そのときの通電モードに応じた非通電相(パルス誘起電圧を検出する相)を選択する。具体的には、通電モード(1)の場合はW相を選択し、通電モード(2)の場合はV相を選択し、通電モード(3)の場合はU相を選択し、通電モード(4)の場合はW相を選択し、通電モード(5)の場合はV相を選択し、通電モード(6)の場合はU相を選択する。このような非通電相の選択は、非通電相電圧選択器257が通電モード決定器253からの信号に基づいて行う。
【0069】
ステップ356では、ステップ355で選択した非通電相の相端子電圧、及び、電源電圧を所定タイミングでA/D変換(サンプリング)する。
ここで、非通電相の相端子電圧の検出期間(A/D変換タイミング)を、通電モード(3)を例とした図12を参照して説明する。通電モード(3)では、V相に電圧Vを印加し、W相にパルス幅変調動作によって指示電圧に相当する電圧−Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流すから、電圧検出相はU相であり、このU相の相端子電圧を、W相下段のスイッチング素子217fのオン期間で検出する。
【0070】
また、通電モードの切り替え直後は、転流電流が発生し、この転流電流の発生区間で検出した電圧を用いると、通電モードの切り替えタイミングを誤判定することになってしまう。そこで、通電モードの切り替え直後の電圧検出値については、初回から所定回数に亘って切り替えタイミングの判定には用いないようにする。所定回数は、モータ回転速度及び電流(モータ負荷)に応じて可変に設定することができ、モータ回転速度が高く、モータ電流が高いほど、所定回数を大きな値に設定する。なお、電源電圧についても、非通電相の相端子電圧と同じタイミングでA/D変換する。
【0071】
ステップ357では、例えば、「相電圧=相端子電圧―電源電圧/2」という式を用いて、ステップ356でA/D変換した相端子電圧及び電源電圧から相電圧を算出する。
ステップ358では、ブラシレスモータ2の回転速度が、低速運転領域と中速運転領域との境界を画定する第1の回転速度N1未満であるか否かを判定する。そして、モータ回転速度が第1の回転速度N1未満であれば、ブラシレスモータ2が低速運転領域にあると判断してステップ359へと進む。また、モータ回転速度が第1の回転速度N1以上であれば、ブラシレスモータ2が中速運転領域又は高速運転領域にあると判断してステップ362へと進む。
【0072】
なお、第1の回転速度N1としては、例えば、中速運転領域から低速運転領域への移行を判定する第1の所定値と低速運転領域から中速運転領域への移行を判定する第2の所定値(>第1の所定値)とを設定し、いわゆる「ヒステリシス」を持たせることで、低速運転領域と中速運転領域との間の切り替えが短時間で繰り返されることを抑制してもよい(以下同様)。
【0073】
ステップ359では、相電圧とステップ302で学習した閾値とに基づいて、低速運転領域における通電モードの切り替えタイミングであるか否かを判定する。具体的には、そのときに通電モード(1)であった場合には、相電圧が閾値V1-2以下になったときに、通電モード(2)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(2)であった場合には、相電圧が閾値V2-3以上になったときに、通電モード(3)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(3)であった場合には、相電圧が閾値V3-4以下になったときに、通電モード(4)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(4)であった場合には、相電圧が閾値V4-5以上になったときに、通電モード(5)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(5)であった場合には、相電圧が閾値V5-6以下になったときに、通電モード(6)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(6)であった場合には、相電圧が閾値V6-1以上になったときに、通電モード(1)への切り替えタイミングであると判定する。そして、通電モードの切り替えタイミングであると判定すればステップ360へと進む一方、通電モードの切り替えタイミングでないと判定すればサブルーチンを終了する。
【0074】
ステップ360では、次の通電モードに切り替える。具体的には、そのときに通電モード(1)であった場合には通電モード(2)に切り替え、そのときに通電モード(2)であった場合には通電モード(3)に切り替え、そのときに通電モード(3)であった場合には通電モード(4)に切り替え、そのときに通電モード(4)であった場合には通電モード(5)に切り替え、そのときに通電モード(5)であった場合には通電モード(6)に切り替え、そのときに通電モード(6)であった場合には通電モード(1)に切り替える。
【0075】
ステップ361では、通電モードの切り替え周期に基づいて、ブラシレスモータ2の回転速度を演算する。具体的には、通電モードの切り替えが行われる時間間隔を計測し、この時間間隔から回転速度を演算する。例えば、ブラシレスモータ2の極対数が3である場合、回転速度は、「回転速度=60/3/時間間隔」という式から求めることができる。
【0076】
ステップ362では、ブラシレスモータ2の回転速度が、高速運転領域と中速運転領域との境界を画定する第2の回転速度N2以下であるか否か、要するに、モータ回転速度が第1の回転速度N1以上かつ第2の回転速度N2以下である「中速運転領域」にあるか否かを判定する。そして、モータ回転速度が第2の回転速度N2以下であれば、ブラシレスモータ2が中速運転領域にあると判断してステップ363へと進む。また、モータ回転速度が第2の回転速度N2より高ければ、ブラシレスモータ2が高速運転領域にあると判断してステップ369へと進む。
【0077】
ステップ363では、中速運転領域における通電モードの切り替えタイミングを判定するための所定電圧を、モータ回転速度、電流及び温度に基づいて設定する。即ち、通電モードの切り替えタイミングは、モータ回転速度、誘起電圧定数及び磁気飽和電圧により変化する。また、誘起電圧定数はモータ温度により変化し、磁気飽和電圧はモータ温度及びモータ電流により変化する。このため、通電モードの切り替えタイミングは、モータ回転速度、電流及び温度に応じて変化するので、モータ回転速度、電流及び温度に基づいて所定電圧を設定する。
【0078】
具体的には、モータ回転速度との関連性を表す誘起電圧定数を事前に取得しておき、誘起電圧定数をモータ温度に応じて補正する。誘起電圧定数は、モータ温度が低くなるにつれて大きくなる。また、磁気飽和電圧も事前に取得しておき、モータ温度及びモータ電流に応じて補正する。磁気飽和電圧は、モータ温度が低くなるにつれて大きくなり、モータ電流が大きくなるにつれて大きくなる。そして、「所定電圧=モータ回転速度×誘起電圧定数+磁気飽和電圧」という式から、所定電圧を設定する。
【0079】
ステップ364では、中速運転領域における通電モードの切り替えタイミングであるか否かを判定するために、相電圧と所定電圧との関係が第1の条件を満たしているか否かを判定する。即ち、通電モード(2)、(4)又は(6)の場合、「相電圧≧所定電圧」であるか否か、通電モード(1)、(3)又は(5)の場合、「相電圧≦所定電圧」であるか否かを判定する。ここで、通電モード(2)、(4)又は(6)の場合、所定電圧は正の値をとり、通電モード(1)、(3)又は(5)の場合、所定電圧は負の値をとる。そして、相電圧と所定電圧との関係が第1の条件を満たしていればステップ360へと進む。また、相電圧と所定電圧との関係が第1の条件を満たしていなければステップ365へと進む。
【0080】
ステップ365では、中速運転領域における通電モードの切り替えタイミングであるか否かを判定するために、相電圧と基準電圧(例えば、電源電圧/2)との関係が第2の条件を満たしているか否かを判定する。即ち、通電モード(2)、(4)又は(6)の場合、「相電圧≧基準電圧」であるか否か、通電モード(1)、(3)又は(5)の場合、「相電圧≦基準電圧」であるか否かを判定する。ここで、通電モード(2)、(4)又は(6)の場合、基準電圧は正の値をとり、通電モード(1)、(3)又は(5)の場合、基準電圧は負の値をとる。そして、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしていればステップ366へと進む。また、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしていなければサブルーチンを終了させる。
【0081】
ステップ366では、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしてから、ブラシレスモータ2が所定角度(例えば、30度)回転したか否かを判定するために、その経過時間を計時するカウンタをカウントアップする。ここで、カウンタによる計時が開始されていない場合には、その計時を開始する。
【0082】
ステップ367では、ブラシレスモータ2が所定角度回転するのに要する時間に相当する所定値を設定する。具体的には、図13に示すように、モータ回転速度が高くなるにつれて所定値が徐々に小さくなる特性をもったマップを参照し、モータ回転速度に応じた所定値を設定する。
【0083】
ステップ368では、カウンタ値が所定値以上になったか否か、要するに、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしてから、ブラシレスモータ2が所定角度回転したか否かを判定する。そして、カウンタ値が所定値以上になったならばステップ360へと進む一方、カウンタ値が所定値以上にならなければサブルーチンを終了させる。
【0084】
ステップ369では、高速運転領域における通電モードの切り替えタイミングであるか否かを判定するために、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしているか否かを判定する。そして、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしていればステップ360へと進む一方、相電圧と基準電圧との関係が第2の条件を満たしていなければサブルーチンを終了させる。
【0085】
従って、電動オイルポンプ1を駆動するブラシレスモータ2は、低速運転領域、中速運転領域及び高速運転領域において、次のように、通電モードが順次切り替えられて駆動する。
【0086】
低速運転領域においては、非通電相の相電圧と閾値との比較結果、要するに、非通電相の相電圧がそのときの通電モードに応じた閾値を横切った場合に、次の通電モードへと切り替えられる。ここで、閾値は、通電モードの切り替えタイミングに相当する磁極位置での誘起電圧から学習された値であるため、ブラシレスモータ2の製造ばらつき、電圧検出回路の検出ばらつきなどがあっても、これらを補正した値をとるようになる。このため、低速運転領域における通電モードの切り替えが、適切なタイミングで行われるようになり、ブラシレスモータ2の脱調を起こり難くすることができる。
【0087】
中速運転領域においては、非通電相の相電圧がモータ回転速度、電流及び温度に応じた所定電圧を横切った場合(条件1)、又は、非通電相の相電圧が基準電圧を横切ってから回転子が所定角度回転するのに要する時間が経過した場合(条件2)に、次の通電モードへと切り替えられる。要するに、中速運転領域では、2つの条件のうち、少なくとも1つの条件が成立したことを契機として、通電モードが切り替えられる。
【0088】
ここで、条件1は、具体的には、非通電相の相電圧が所定電圧未満の第3の電圧から所定電圧以上の第4の電圧へと変化、若しくは、第4の電圧から第3の電圧へと変化した場合である。また、条件2は、具体的には、非通電相の相電圧が基準電圧未満の第1の電圧から基準電圧以上の第2の電圧へと変化、若しくは、第2の電圧から第1の電圧へと変化し、かつ、その状態から所定角度回転するのに要する時間が経過した場合である。
【0089】
図14(A)に示すように、モータ回転速度がBからAに急激に低下した場合、演算により求めた回転速度(演算回転速度)がBであるのに対して実回転速度がAとなり、B−Aだけ回転速度誤差が発生してしまう。この場合、通電モードの切り替えタイミングを判定するための所定電圧は、実回転速度Aより大きい演算回転速度Bに基づいて設定されるため、その絶対値が大きくなってしまう。このため、相電圧が所定電圧を横切らず、条件1により通電モードの切り替えが行われない。しかし、図14(B)に示すように、相電圧が基準電圧を横切るため、これから回転子が所定角度回転した時点において条件2が成立し、通電モードの切り替えが行われる。
【0090】
なお、モータ回転速度がAからBに急激に上昇した場合には、通電モードの切り替えタイミングを判定するための所定電圧は、実回転速度Bより小さい演算回転速度Aに基づいて設定されるため、その絶対値が小さくなり、相電圧が所定電圧を横切らないという不具合は発生しない。
【0091】
また、図15(A)に示すように、モータ回転速度がAからBに急激に上昇した場合、演算回転速度がAであるのに対して実回転速度がBとなり、回転子が所定角度回転する時間について、回転速度誤差(B−A)に相当する誤差(時間誤差)が発生してしまう。この場合、回転子が所定角度回転する時間は、実回転速度Bより遅い演算回転速度Aに基づいて設定されるため、実際に必要な時間よりも長くなってしまう。このため、条件2が成立するタイミングが遅れてしまう。しかし、図15(B)に示すように、相電圧が所定電圧を横切った時点において条件1が成立し、通電モードの切り替えが行われる。
【0092】
なお、モータ回転速度がBからAに急激に低下した場合には、回転子が所定角度回転する時間は、実回転速度Aより速い演算回転速度Bに基づいて設定されるため、実際に必要な時間よりも短くなり、条件2が成立するタイミングが遅れない。
【0093】
従って、条件1と条件2との少なくとも一方が成立した場合に、通電モードの切り替えが行われることとなり、モータ回転速度が急激に低下又は上昇する過渡状態においても、ブラシレスモータ2の脱調が起こり難くなり、応答性を向上させることができる。
【0094】
高速運転領域においては、非通電相の相電圧が基準電圧を横切った場合、換言すると、非通電相の相電圧が基準電圧未満の第1の電圧から基準電圧以上の第2の電圧へと変化、若しくは、第2の電圧から第1の電圧へと変化した場合に、次の通電モードへと切り替えられる。このため、通電モードの切り替えに遅れが発生せず、ブラシレスモータ2の脱調を起こり難くすることができる。
【0095】
ここで、ブラシレスモータ2が低速運転領域から中速運転領域又は高速運転領域に移行したときには、過渡状態における脱調を抑制するために、ブラシレスモータ2の実回転速度が目標回転速度に収束するまで、非通電相の相電圧が基準電圧を横切ったときに、通電モードを切り替えるようにしてもよい。この場合、ブラシレスモータ2の目標回転速度は、いつまでも収束しないことを回避すべく、上限値と下限値により画定される幅を持たせてもよい。
【0096】
また、制御器213が、非通電相電圧選択器257が出力する非通電相の電圧検出値と基準電圧とを比較することで、通電モードの切り替えタイミングを判定する比較器(コンパレータ)を更に備えている場合には、非通電相の相電圧に代えて、比較器が出力する判定結果に基づいて、相電圧が基準電圧を横切ったか否かを判定するようにしてもよい。
【0097】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
【0098】
(イ)請求項1又は請求項2に記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記所定電圧は、前記ブラシレスモータの温度、電流及び回転速度に応じて設定される、ブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、非通電相の誘起電圧と比較される所定電圧を、ブラシレスモータの回転速度、誘起電圧定数及び磁気飽和電圧により変化する通電モードの切り替えタイミングに適合させることができる。このため、ブラシレスモータの作動状態に合わせて通電モードが切り替えられ、脱調が起こり難くすることができる。
【0099】
(ロ)請求項2に記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記目標回転速度は、上限値及び下限値で画定される幅を有する、ブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、ブラシレスモータの実際の回転速度が、いつまでも目標回転速度に収束しないことを回避できる。
【0100】
(ハ)請求項1、請求項2、(イ)又は(ロ)に記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記非通電相の電圧と前記基準電圧とを比較する比較器を更に備え、
前記比較器の比較結果に基づいて、前記非通電相の誘起電圧が前記基準電圧を横切ったか否かを判定する、ブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、非通電相の誘起電圧が基準電圧を横切ったか否かは、比較器の比較結果から判定されるため、制御負荷を低減することができる。
【符号の説明】
【0101】
1…電動オイルポンプ、2…ブラシレスモータ、3…モータ制御装置、212…モータ駆動回路、213…制御器、215u,215v,215w…巻線、216…永久磁石回転子、217a〜217f…スイッチング素子、251…PWM発生器、252…ゲート信号切替器、253…通電モード決定器、254…比較器、255…電圧閾値切替器、256…電圧閾値学習器、257…非通電相電圧選択器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の巻線を備えたブラシレスモータの各相に対する通電モードを切り替えることで、前記ブラシレスモータを回転駆動するブラシレスモータの駆動装置であって、
前記ブラシレスモータが第1の回転速度未満で回転駆動する低速運転領域では、非通電相の誘起電圧と閾値との比較結果に応じて前記通電モードを切り替え、
前記ブラシレスモータが前記第1の回転速度以上かつ第2の回転速度以下で回転駆動する中速運転領域では、前記非通電相の誘起電圧が基準電圧を横切り、かつ、その状態から所定角度回転するのに要する時間が経過したとき、又は、前記非通電相の誘起電圧が所定電圧を横切ったときに、前記通電モードを切り替え、
前記ブラシレスモータが前記第2の回転速度より速く回転駆動する高速運転領域では、前記非通電相の誘起電圧が前記基準電圧を横切ったときに、前記通電モードを切り替える、
ことを特徴とするブラシレスモータの駆動装置。
【請求項2】
前記ブラシレスモータが前記低速運転領域から前記中速運転領域又は前記高速運転領域に移行したときには、前記ブラシレスモータの実際の回転速度が目標回転速度に収束するまで、前記非通電相の誘起電圧が前記基準電圧を横切ったときに、前記通電モードを切り替える、
ことを特徴とする請求項1に記載のブラシレスモータの駆動装置。
【請求項1】
複数の巻線を備えたブラシレスモータの各相に対する通電モードを切り替えることで、前記ブラシレスモータを回転駆動するブラシレスモータの駆動装置であって、
前記ブラシレスモータが第1の回転速度未満で回転駆動する低速運転領域では、非通電相の誘起電圧と閾値との比較結果に応じて前記通電モードを切り替え、
前記ブラシレスモータが前記第1の回転速度以上かつ第2の回転速度以下で回転駆動する中速運転領域では、前記非通電相の誘起電圧が基準電圧を横切り、かつ、その状態から所定角度回転するのに要する時間が経過したとき、又は、前記非通電相の誘起電圧が所定電圧を横切ったときに、前記通電モードを切り替え、
前記ブラシレスモータが前記第2の回転速度より速く回転駆動する高速運転領域では、前記非通電相の誘起電圧が前記基準電圧を横切ったときに、前記通電モードを切り替える、
ことを特徴とするブラシレスモータの駆動装置。
【請求項2】
前記ブラシレスモータが前記低速運転領域から前記中速運転領域又は前記高速運転領域に移行したときには、前記ブラシレスモータの実際の回転速度が目標回転速度に収束するまで、前記非通電相の誘起電圧が前記基準電圧を横切ったときに、前記通電モードを切り替える、
ことを特徴とする請求項1に記載のブラシレスモータの駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−70468(P2013−70468A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205655(P2011−205655)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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