説明

ブランケットの管理方法および印刷装置

【課題】ブランケットに吸収されたインキ溶剤を適宜のタイミングで吸収して、インキパターンの印刷品質の向上と、印刷の生産性の維持とを図るためのブランケットの管理方法および印刷装置を提供すること。
【解決手段】ブランケット11と、ブランケット中のインキ溶剤を吸収するための溶剤吸収手段15と、ブランケットのインキ溶剤濃度を計測するための溶剤濃度計測手段、ブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布を計測するための濃度分布計測手段およびインキパターン24の寸法などを計測するためのインキパターン計測手段からなる群より選ばれる計測手段と、を備える印刷装置を用い、インキパターン計測手段および溶剤濃度計測手段で計測された計測結果に基づき、インキ溶剤を吸収する処理の実行条件を決定し、次いで、溶剤吸収手段を制御して、ブランケットの膨潤状態を適宜管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブランケットの膨潤状態を管理するための方法と、ブランケットの膨潤状態を調節して、連続印刷性能に優れた精密印刷を実現するための印刷装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(PDP)用の電極基板、電界発光素子(EL素子)用の電極基板などの製造には、線幅10〜200μm程度、厚さ0.1〜10μm程度の微細かつ厚肉の電極パターンを精密に形成することが求められている。
近年、このような電極パターンの形成に、オフセット印刷方式を採用することが検討されており、また、被印刷体上へのインキの転移性(離型性)が良好なブランケット(転写体)を使用したオフセット印刷を採用することにより、連続印刷の初期において印刷再現性が極めて高く、印刷形状の良好なパターンを形成できることが知られている。
【0003】
しかし、オフセット印刷で印刷を繰り返すと、ブランケットがインキの溶剤で膨潤されて、その濡れ特性が変化する。また、ブランケットの濡れ特性が変化することで、被印刷体上に形成されるインキパターンの形状劣化(例えば、線幅の増加など)、印刷位置精度の低下、印刷版表面の微細な汚れなどまでもブランケットへ転写するといった誤転写、ブランケットから被印刷体へのインキの転写性の低下といった不具合が生じる。
【0004】
一方、インキの溶剤としてブランケットを膨潤させにくい溶剤を用いたときは、ブランケットの濡れ特性の変化を抑制できるものの、印刷版からブランケットへのインキの転移性が低下することから、被印刷体上に形成されるインキパターンの形状劣化といった不具合が生じる。
そこで、従来、ブランケットの濡れ特性を安定させるために、種々の手段が提案されており、下記特許文献1では、ブランケットの表面にエンドレスベルト状の吸湿シートを接触させて、インキ溶剤の含浸量を調整する印刷装置が提案されている。また、下記特許文献2および下記特許文献3には、ブランケットを溶媒吸収体に接触させて、ブランケットに吸収されたインキ(下記特許文献2に記載の「転写材」)の溶媒を上記溶媒吸収体で除去する印刷装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−158620号公報
【特許文献2】特開2000−158633号公報
【特許文献3】特開平8−156388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、上記特許文献1〜3に記載の吸湿シートや溶媒吸収体をブランケットに接触させたときには、ブランケットに吸収されたインキ溶剤を効率よく除去できる。
しかし、吸湿シートや溶媒吸収体によってブランケットからインキ溶剤が吸収、除去される効果は極めて大きく、例えば、ブランケットがインキ溶剤によって十分に膨潤されている場合に、インキ溶剤の吸収処理を1回実施すると、ブランケットの膨潤状態が上記処理の前後で大きく変動する。また、このような場合には、上記処理の前後で、ブランケットのインキ転移性も大きく変動し、さらには、被印刷体上に形成されるインキパターンの形状や印刷精度も大きく変動する。
【0007】
それゆえ、ブランケットの膨潤状態の如何にかかわらず、例えば、印刷処理の回数などによって画一的にインキ溶剤の吸収処理を実施することは、インキパターンの印刷品質の管理上、好ましくない。
一方、インキ溶剤の吸収処理を頻繁に実行することにより、上記処理の前後におけるブランケットの膨潤状態の変化を小さく維持できるものの、この場合には、インキ溶剤の吸収処理を実行している間は印刷処理を実行できないことから、印刷の生産性が低下する。
【0008】
また、ブランケットからのインキ溶剤の吸収処理を実行するタイミングは、通常、印刷作業者の経験と感に基づいて決定されていることから、このような処理を自動化することが求められている。
そこで、本発明の目的は、ブランケットに吸収されたインキ溶剤を適宜のタイミングで吸収、除去して、インキパターンの印刷品質の向上と、印刷の生産性の維持とを図るためのブランケットの管理方法および印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、
(1) 印刷版から転写されて被印刷体へと転写されるインキパターンを担持するためのブランケットと、前記ブランケットと接触して前記ブランケットに含まれるインキ溶剤を吸収するための溶剤吸収手段と、前記被印刷体に転写されたインキパターンの寸法または印刷位置のずれ量を計測するためのインキパターン計測手段と、前記ブランケットのインキ溶剤濃度を計測するための溶剤濃度計測手段および/または前記ブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布を計測するための濃度分布計測手段と、を備える印刷装置におけるブランケットの管理方法であって、前記溶剤吸収手段を前記ブランケットに接触させて前記ブランケットに含まれるインキ溶剤を吸収する溶剤吸収工程を有しており、予め連続印刷時の前記インキパターン計測手段により計測された前記インキパターンの寸法または印刷位置のずれ量の計測結果と、前記溶剤濃度計測手段により計測された前記ブランケットのインキ溶剤濃度の計測結果とを元にして、前記インキ溶剤濃度が予設定値を超えたときに前記溶剤吸収手段を制御して溶剤吸収工程を実行し、前記インキパターンの寸法の改善を確認して、改善効果が見られないときには、溶剤吸収工程の実行を繰り返し、前記インキパターンの寸法が所定の値まで改善されたときには、溶剤吸収工程の実行を停止することを特徴とする、ブランケットの管理方法、
(2) さらに前記濃度分布計測手段により計測された前記ブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布の計測結果に基づいて、前記溶剤吸収手段を制御することを特徴とする、前記(1)に記載のブランケットの管理方法、
(3) 前記インキパターン計測手段が、前記被印刷体に転写されたインキパターンを画像データとして読み取るための読取手段と、前記読取手段に読み取られた画像データを画像処理するための画像処理手段とを有していることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のブランケットの管理方法、
(4) 前記溶剤濃度計測手段が、前記ブランケットの誘電特性を計測するための誘電特性計測手段を有していることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のブランケットの管理方法、
(5) 前記ブランケットは、前記ブランケットの内部に埋設されている薄膜電極と、前記薄膜電極を前記ブランケットの表面に投影したときの投影面に設けられているダミーパターン領域とを備え、かつ、前記印刷装置は、前記ブランケット表面のダミーパターン領域に対して離接可能に保持されている対向電極を備えていることを特徴とする、前記(4)に記載のブランケットの管理方法、
(6) 前記濃度分布計測手段が、前記ブランケットに照射された光線の反射光の偏光状態および/または前記反射光の光学干渉に伴う波長変化を計測するための光学特性計測手段を有していることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のブランケットの管理方法、
(7) 前記溶剤吸収手段が、インキ溶剤の吸収能を有する溶剤吸収体と、前記溶剤吸収体を前記ブランケットに対して離接可能に保持する吸収体保持手段とを有していることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれかに記載のブランケットの管理方法、
(8) 前記溶剤吸収体が、可塑剤と老化防止剤とを含有しないゴム組成物を用いて形成されていることを特徴とする、前記(7)に記載のブランケットの管理方法、
(9) 前記溶剤吸収体は、前記インキ溶剤に23℃で24時間浸漬したときの浸漬前後の重量変化率が、5〜400%であることを特徴とする、前記(7)または(8)に記載のブランケットの管理方法、
(10) 印刷版から転写されて被印刷体へと転写されるインキパターンを担持するためのブランケットと、前記ブランケットと接触して前記ブランケットに含まれるインキ溶剤を吸収するための溶剤吸収手段と、前記被印刷体に転写されたインキパターンの寸法または印刷位置のずれ量を計測するためのインキパターン計測手段と、前記ブランケットのインキ溶剤濃度を計測するための溶剤濃度計測手段および/または前記ブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布を計測するための濃度分布計測手段と、予め連続印刷時の前記インキパターン計測手段により計測された前記インキパターンの寸法または印刷位置のずれ量の計測結果と、前記溶剤濃度計測手段により計測された前記ブランケットのインキ溶剤濃度の計測結果とを元にして、前記インキ溶剤濃度が予設定値を超えたときに、前記溶剤吸収手段を前記ブランケットに接触させて前記ブランケットに含まれるインキ溶剤を吸収する溶剤吸収工程を実行し、前記インキパターンの寸法の改善を確認して、改善効果が見られないときには、前記溶剤吸収工程の実行を繰り返し、前記インキパターンの寸法が所定の値まで改善されたときには、前記溶剤吸収工程の実行を停止するように前記溶剤吸収手段を制御するための制御手段と、
を備えることを特徴とする、印刷装置、
(11) 前記制御手段は、さらに前記濃度分布計測手段により計測された前記ブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布の計測結果に基づいて、前記溶剤吸収手段を制御することを特徴とする、前記(10)に記載の印刷装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のブランケットの管理方法および印刷装置によれば、ブランケットに吸収されたインキ溶剤を吸収、除去する処理を、ブランケットの膨潤の程度、状態に応じて、適宜のタイミングでかつ過不足なく実行することができる。
それゆえ、本発明のブランケットの管理方法および印刷装置によれば、印刷の生産性の維持しつつ、インキパターンの印刷品質の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る印刷装置の概略説明図である。
【図2】ブランケットの誘電特性を測定するための装置の一例を示す断面図である。
【図3】溶剤吸収工程の実行条件の決定と、溶剤吸収工程の実行とについての手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】インキパターンの線幅の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の印刷装置の一実施形態を示す概略説明図である。以下、図1を参照して、本発明のブランケットの管理方法の一実施形態について詳述する。
図1に示す印刷装置10は、ブランケット11と、凹版(印刷版)12と、被印刷体14と、インキ溶剤の吸収能を有する溶剤吸収体16を含む溶剤吸収手段15と、ブランケット11の比誘電率を計測するためのLCRメータ18を含む溶剤濃度計測手段と、ブランケット11の屈折率を計測するための分光エリプソメータ26を含む濃度分布計測手段と、ブランケット11から被印刷体14へ転写されたインキパターンの画像データを読み込むためのCCDカメラ29および読み取られた画像データを画像処理するための画像処理装置30を含むインキパターン計測手段と、ブランケット11のインキ溶剤濃度の計測結果、ブランケット11の厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布の計測結果およびインキパターンの寸法の計測結果に基づいて溶剤吸収手段15を制御するための制御部(制御手段)31と、を備えている。
【0013】
この印刷装置10を用いる印刷工程では、図示しない転写手段によってブランケット11が回転されながら凹版12に接触することにより、凹版12からブランケット11の表面へとインキパターンが転写され、さらに、上記転写手段によってブランケット11が回転されながら被印刷体14に接触することにより、ブランケット11へ転写されたインキパターン24が被印刷体14へ転写される。なお、この一連の印刷工程のうち、凹版12からブランケット11へのインキパターンの転写が繰り返されることにより、ブランケット11がインキ溶剤で膨潤される。
【0014】
ブランケット11は、図示しない円筒形状のブランケット胴に固定されており、ブランケット胴とともに回転可能な円筒形状をなしている。また、ブランケット11は、支持体層と、上記支持体層の外周に被覆される表面ゴム層とを備えている。凹版12から転写されて(受理して)、被印刷体14へ転写されるインキパターンは、ブランケット11の表面、すなわち、上記表面ゴム層の表面にて担持される。
【0015】
ブランケットの形成材料は特に限定されないが、特に、上記表面ゴム層については、インキ対する離型性や透明性に優れたシリコーンゴムが好適である。
ブランケットの表面ゴム層の硬さは、例えば、デュロメータ硬さ(タイプA)で20〜70が好ましく、30〜60がより好ましい。ブランケットの表面ゴム層の硬さが上記範囲を上回ると、ブランケットが変形しにくくなって、凹版12からのインキの受理性や被印刷体14へのインキの転移性が低下するおそれがある。逆に、ブランケットの表面ゴム層の硬さが上記範囲を下回ると、ブランケットの変形量が大きくなりすぎて、印刷精度の低下を招くおそれがある。
【0016】
ブランケット11の表面粗さは、通常、小さいほど好ましい。例えば、線幅20μm程度の極微細なインキパターンを印刷する場合に、ブランケット表面の十点平均粗さRzは、1.0μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
ブランケット11の表面ゴム層の厚みは、表面ゴム層の形成材料、ゴム硬さなどに応じて設定されるものであって、特に限定されないが、例えば、1.5mmを上回ると、表面ゴム層の変形量が大きくなって印刷精度が低下するおそれがあることから、1.5mm以下に設定することが好ましい。
【0017】
凹版12は、図示しない台盤上に設置されており、所望のインキパターンに対応して形成された、内部にインキを充填するための凹部13を備えている。
凹版12は、図1に示す平板状のものに限定されず、例えば、ブランケット11と対向して、ブランケット12に対して離接可能に配置された円筒状の凹版であってもよい。
図1では、印刷版として凹版12を示したが、印刷版は凹版12に限定されるものではなく、例えば、平版、水無し平版、凸版などであってもよい。なお、例えば、PDP用電極基板やEL素子用電極基板における電極パターンを形成する場合のように、極微細なインキパターン(とりわけ、極微細で厚膜のインキパターン)が極めて高い精度で形成される必要がある場合には、印刷版として凹版を用いることが好ましい。
【0018】
被印刷体14は、例えば、ガラス基板、樹脂基板などから形成されており、図示しない台盤上に設置されている。例えば、PDP用の電極基板の電極パターンを印刷形成する場合には、被印刷体14として、高歪点ガラス板などの透明基板が用いられる。
溶剤吸収手段15は、溶剤吸収体16と、溶剤吸収体16を支えるプーリ17と、溶剤吸収体16をブランケット11に対して離接可能に保持する、図示しない吸収体保持手段と、を有している。
【0019】
溶剤吸収体16は、図示しないエンドレスベルト状のベルト基材に固定されており、ブランケット11と接触することにより、ブランケット11に含まれるインキ溶剤を吸収して、これをブランケット11から除去する。
上記ベルト基材としては、例えば、樹脂フィルム、金属薄板などを無端状に形成したものが挙げられる。樹脂フィルムの樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレートなどが挙げられる。また、上記金属薄板の金属としては、例えば、ステンレス、ニッケル、鉄などが挙げられる。
【0020】
溶剤吸収体16の形成材料としては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)などの、インキ溶剤の吸収能を有するゴム材料が挙げられる。
溶剤吸収体16は、例えば、上記ゴム材料を含有するゴム糊を上記ベルト基材の表面にコーティングすることにより、または、上記ゴム材料を用いて形成されたゴムシートを上記ベルト基材の表面に接着することにより、形成できる。
【0021】
溶剤吸収体16は、接触汚染性の低い材料で形成されていることが好ましい。具体的には、可塑剤(ゴムとの架橋反応が可能な官能基を有する、いわゆる反応性可塑剤を除く。)と老化防止剤(とりわけ、アミン系の老化防止剤)とを含有しないか、または、これらの配合量が極めて少ない量に抑制されたゴム組成物で形成されていることが好ましく、さらには、可塑剤(反応性可塑剤を除く。)と老化防止剤と軟化剤とを含有しないか、または、これらの配合量が極めて少ない量に抑制されたゴム組成物で形成されていることがより好ましい。
【0022】
溶剤吸収体16を、上記したゴム組成物で形成することにより、ブランケット11と溶剤吸収体16との接触に伴って、ブランケットが可塑剤などで汚染されることを防止できる。
なお、上記したゴム組成物は、可塑剤を配合しないか、または、その配合量が極めて少ないことから、加工性の観点より、ゴム材料として分子量やムーニー粘度が小さいものを選定することが好ましい。さらに、上記したゴム組成物は、老化防止剤を配合しないか、または、その配合量が極めて少ないことから、耐光性などの観点より、ゴム材料として不飽和二重結合の含有量が極めて少ないもの、具体的には、EPDM、シリコーンゴムなどを用いることが好ましい。
【0023】
溶剤吸収体16のインキ溶剤の吸収能は、例えば、溶剤吸収体16をインキ溶剤に23℃で24時間浸漬したときの浸漬前後の重量変化率によって評価できる。具体的には、上記重量変化率は、5〜400重量%であることが好ましい。
上記条件下において、溶剤吸収体16の浸漬前後の重量変化率が5%を下回るときは、溶剤吸収体16のインキ溶剤の吸収効率が低く、ブランケット11のインキ溶剤を吸収する効果が低下するおそれがある。さらに、この場合には、ブランケット11からインキ溶剤を吸収させるために、溶剤吸収体16とブランケット11との接触時間を長くする必要があり、印刷の生産性の低下を招くおそれがある。一方、上記条件下において、溶剤吸収体16の浸漬前後の重量変化率が400%を上回るときは、溶剤吸収体16の過度な膨潤と、これに伴う溶剤吸収体16の軟化、破損などを招くおそれがある。
【0024】
上記条件下における溶剤吸収体16の浸漬前後の重量変化率は、上記範囲の中でも特に、10〜300%であることが好ましい。
図1に示す印刷装置10では、溶剤吸収体16として、エンドレスベルト状の部材を示したが、溶剤吸収体16はこれに限定されるものではなく、例えば、回転移動することによりブランケット11に対して相対移動するドラム状の部材であってもよい。
【0025】
なお、図1には図示していないが、溶剤吸収手段15は、さらに、溶剤吸収体16に吸収されたインキ溶剤を除去して、溶剤吸収体16を乾燥させるための乾燥手段を有していてもよい。
上記乾燥手段としては、例えば、インキ溶剤を揮散させるための温風送風器、赤外線ヒータなどが挙げられる。また、溶剤吸収体16が加熱された状態でブランケット11に接触すると、ブランケット11やブランケット11と接触する凹版12が加熱、膨張されるおそれがあることから、さらに、加熱された溶剤吸収体16を冷却するための冷却手段、例えば、冷風送風機などを配置することが好ましい。
【0026】
溶剤濃度計測手段は、ブランケット中のインキ溶剤の濃度を算出するための手段であって、LCRメータ18と、LCRメータ18に接続される電極と、LCRメータ18による計測結果に基づいてブランケット11に含まれるインキ溶剤の濃度を算出するための図示しない演算装置とを有している。
ブランケットの誘電特性は、ブランケットを形成するゴム材料によって異なる。具体的には、例えば、常温(23℃)でのブランケットの比誘電率は、上記ゴム材料がシリコーンゴムの場合は2〜3であり、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)の場合は5〜10である。一方、常温(23℃)でのインキ溶剤の比誘電率は、溶剤の種類によって異なるものの、例えば、PDPの前面電極形成用導電性ペーストインキなどのインキ溶剤として用いられるものは、通常、5〜90である。なお、かかるインキ溶剤としては、例えば、酢酸ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート;比誘電率約8)、ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル;比誘電率約10)、γ−ブチロラクトン(比誘電率約39)、エチレンカーボネート(1,3−ジオキサ−シクロペンタン−2−オン;比誘電率約89)、酢酸エチルカルビトール(ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート;比誘電率約10)などが挙げられる。なお、上記比誘電率は、いずれも、常温(23℃)付近での値を示している。
【0027】
このように、ブランケットを形成するゴム材料と、インキ溶剤とは、誘電特性が互いに大きく相違していることから、ブランケットの誘電特性(具体的には、静電容量や比誘電率)を測定することにより、ブランケットに含まれているインキ溶剤の量を定量化することができる。
なお、ブランケットの静電容量または比誘電率は、ブランケットにインキ溶剤が浸透するにつれて増加する。そこで、予め、インキ溶剤の濃度が既知であるブランケットの静電容量または比誘電率を測定して、検量線を作成しておくことにより、ブランケットの誘電特性の計測結果に基づいて、ブランケットに含まれるインキ溶剤の量を算出できる。
【0028】
ブランケットの誘電特性は、例えば、LCRメータ18と、図2に示すブランケット11と、測定電極22とを用いて、測定することができる。
ブランケット11は、インキの受理面を有する表面ゴム層19と、表面ゴム層19を支持するための支持体層20と、表面ゴム層19の誘電特性を測定するためのLCRメータ18に接続されている薄膜電極21と、を備えている。
【0029】
支持体層19としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの合成樹脂フィルムなどが挙げられる。
薄膜電極21は、支持体層20のうち、表面ゴム層19に接している面と反対側の面に設けられている。薄膜電極21は、これに限定されず、例えば、表面ゴム層19と支持体層20との界面、表面ゴム層19の内部(表面ゴム層19の厚み方向の中間部分)、および、支持体層20の内部(支持体層20の厚み方向の中間部分)のいずれに設けられていてもよい。
【0030】
図2に示すブランケット11は、例えば、円筒状に形成された支持体層20の一方の表面に表面ゴム層19を形成し、他方の表面に薄膜電極21を貼り合わせることにより得ることができる。なお、図2に示すように、薄膜電極21が、支持体層20のうち、表面ゴム層19に接している面と反対側の面に設けられているときは、例えば、薄膜電極21を表面ゴム層19や支持体層20の内部に埋め込む場合に比べて、印刷用ブランケットの製造が容易となり、低コスト化を実現できる。また、表面ゴム層19と支持体層20との間には、さらに、圧縮性層、非伸縮層などの種々の層を、常法に従って、介在させることができる。
【0031】
測定電極22は、LCRメータ18に接続され、かつ、ブランケット11のインキ受理面と対向して、インキ受理面に対し接離可能に配置されている。
測定電極22は、ブランケット11のインキ受理面と接触する接触面23を有しており、この接触面23は、インキ受理面の曲率半径と同じ曲率半径を有する曲面となるように加工されている。測定電極22は、これに限定されないが、例えば銅製であって、接触面23の表面には、例えば、金メッキなどが施される。
【0032】
また、測定電極22は、ブランケット11のインキ受理面に対し、接離方向yに接触・離間可能に配置されており、ブランケット11の誘電特性を測定するときに、測定電極22の接触面23とブランケット11のインキ受理面とが接触されるように、また、印刷処理時には、接触面23とインキ受理面とが非接触状態となるように、図示しない制御手段によって制御される。
【0033】
ブランケット11の誘電特性は、測定電極22の接触面23とブランケット11のインキ受理面とが接触された状態で、薄膜電極21と測定電極22との間の誘電特性を測定することにより、求められる。この際、測定電極22の接触面23は、ブランケット11のインキ受理面に対し、例えば、自重で押し付けるように、または、50〜200g/cm程度の加重がかかるようにして接触される。
【0034】
ブランケット11の誘電特性を測定する部位は、特に限定されないが、例えば、ブランケット11のインキ受理面の一部であって、ブランケット11のうち被印刷体14の表面と接触しない部位、または、被印刷体14のうち印刷領域(所期のインキパターンが形成される領域)以外の領域と接触する部位に、図示しないダミーパターン形成領域を設け、このダミーパターン形成領域にて、ブランケット11の誘電特性を測定すればよい。ダミーパターン形成領域には、画像形成処理時に、印刷形成する画像と同様のインキパターン(ダミーパターン)を繰返し授受させることによって、上記印刷領域に対応するブランケット11の表面と同様の環境で、誘電特性の測定をすることができる。
【0035】
なお、図2に示すブランケットの誘電特性測定装置によれば、薄膜電極21と測定電極22との間に印加する電圧の周波数を低周波数(例えば、0.01Hz)から高周波数(例えば、10Hz)へと変化させながら、誘電特性を測定することによって、ブランケット11の厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布を測定することもできる。
図1に示す印刷装置10では、ブランケットの誘電特性を計測するための誘電特性計測手段として、LCRメータ18を示したが、誘電特性計測手段は、LCRメータ18に限定されず、例えば、インピーダンスアナライザ、ネットワークアナライザ(高周波アナライザ)などを挙げることができる。なお、上記例示の誘電特性計測手段のなかでも、取扱性などの観点からは、好ましくは、LCRメータが挙げられる。
【0036】
濃度分布計測手段は、ブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布を計測するための手段であって、分光エリプソメータ26と、分光エリプソメータ26による計測結果に基づいてブランケット11の厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布を判定するための図示しない演算装置とを有している。
ブランケットの屈折率は、ブランケットの乾燥時とインキ溶剤による膨潤時とで、大きく変動する。このため、分光エリプソメータ26を用いた分光エリプソメトリーにより、ブランケットに照射された光線の反射光の偏光状態や、反射光の光学干渉に伴う波長変化を計測し、インキ溶剤により膨潤されている部分がブランケットの厚み方向のどの位置に分布しているかを解析することができる。
【0037】
なお、印刷工程が連続して実行されることにより、既にブランケットに多量のインキ溶剤が吸収されて、ブランケットの表面側でのインキ溶剤濃度が高くなっている場合には、ブランケットが新たに吸収できるインキ溶剤量が少ないことから、ブランケットに転写されたインキパターンは多くの溶剤を含んだ状態で被印刷体に転写されることになり、インキパターンの形状に乱れが生じ易くなるおそれがある。一方、例えば、印刷工程の中断または終了からある程度の時間が経過することで、ブランケットの表面側のインキ溶剤が空気中に揮散し、または、ブランケットの表面側と相対する裏面側(深部側)へと拡散し、ブランケットの表面側でのインキ溶剤濃度が低くなっている場合には、ブランケットが新たに吸収できるインキ溶剤量が多いことから、ブランケットに転写されたインキパターンは乾燥した状態で被印刷体に転写されることになり、被印刷体へのインキの転移性が低下するおそれがある。このように、インキパターンの品質は、ブランケット全体のインキ溶剤量だけでなく、ブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布によっても大きく影響を受ける。
【0038】
分光エリプソメータ26は、ブランケットに照射された光線の反射光の偏光状態および/または上記反射光の光学干渉に伴う波長変化を計測するための光学特性計測手段であって、偏光子27と検光子28とを備えている。光学特性計測手段としては、分光エリプソメータ、光トポロジーなどが挙げられ、なかでも、取扱性などの観点から、好ましくは、分光エリプソメータが挙げられる。分光エリプソメータは、回転検光子法によるもの、位相変調法によるもののいずれであってもよい。
【0039】
なお、ブランケットが、光線の透過率が高い材料で形成されているときは、上記の計測結果の精度を高めることができる。具体的には、例えば、シリコーンゴムは透明な材料が多いことから、シリコーンブランケットは、上記ブランケットの管理方法が適用される印刷装置のブランケットとして好適である。
インキパターン計測手段は、ブランケット11から被印刷体14へ転写されたインキパターン24の寸法、または、上記インキパターン24の印刷位置のずれ量を計測するための手段である。このインキパターン計測手段は、CCDカメラ29と、画像処理装置30と、画像処理の結果に基づいて被印刷体14に転写されたインキパターン24の寸法またはインキパターン24の印刷位置のずれ量を算出するための図示しない演算装置とを有している。
【0040】
CCDカメラ29は、被印刷体14に転写されたインキパターン24の画像データを読み込むための読取手段である。読取手段としては、例えば、CCDカメラなどの撮像手段が挙げられる。
画像処理装置30は、読取手段で読み取られたインキパターン24の画像データを画像処理するための画像処理手段であって、インキパターンの寸法(例えば、インキパターンの線幅、厚み、断面形状などの、インキパターンの平面的または立体的形状を特定するためのインキパターン各部の寸法)や、所期の印刷位置に対するインキパターンの印刷位置のずれ量などを数値化して、計測するものである。インキパターンの寸法、厚み、断面形状などを計測することで、インキパターンのかすれ、断線、エッジの欠損などの不具合の有無を確認することができる。インキパターンの印刷位置は、印刷精度を良否を判断するものであって、具体的には、インキパターンのピッチ間隔のずれ量や、アライメントマークからのずれ量を基準として判断することができる。
【0041】
上記のブランケットの管理方法は、溶剤吸収手段15としての溶剤吸収体16をブランケット11に接触させて、ブランケット11に含まれるインキ溶剤を溶剤吸収体16に吸収させる溶剤吸収工程を含んでいる。この溶剤吸収工程は、上記印刷工程の非実行時に実行される工程である。
上記溶剤吸収工程は、例えば、
・(i)インキパターン計測手段により計測された、被印刷体14に転写されたインキパターン24の寸法または印刷位置のずれ量の計測結果に基づいて、
または、
・上記(i)に示す計測結果と、(ii)溶剤濃度計測手段により計測された、ブランケット11のインキ溶剤濃度の計測結果、および/または、(iii)濃度分布計測手段により計測された、ブランケット11の厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布の計測結果と、に基づいて、
溶剤吸収手段15を制御手段で制御することにより、実行することができる(非ファジイ制御)。
【0042】
上記非ファジイ制御による溶剤吸収工程の制御手段としては、例えば、CPU、ROM、RAMなどを備える制御部31が挙げられる。
制御部31のROMは、インキパターン計測手段、溶剤濃度計測手段および濃度分布計測手段を制御するプログラムや、溶剤吸収工程時に溶剤吸収手段を制御するプログラムを格納するための装置である。
【0043】
制御部31のRAMは、上記ROMに格納されたプログラムを実行するために、各上記測定手段により計測された計測結果を一時的に格納する装置である。
制御部31のCPUは、上記RAMに格納された計測結果に基づいて、溶剤吸収工程の実行条件を決定し、上記ROMに格納された溶剤吸収手段を制御するプログラムを実行して、溶剤吸収手段15を制御させる。
【0044】
上記非ファジイ制御による溶剤吸収工程の実行時には、例えば、
a)溶剤吸収体16とブランケット11とを接触させる時間(接触時間;C)
b)溶剤吸収体16をブランケット11に接触させる圧力(接触圧;P)
c)溶剤吸収工程を実行する間隔(接触インターバル;I)
などの実行条件が設定される。また、これら溶剤工程の実行条件は、上記(i)〜(iii)の少なくとも1つの計測結果に基づいて設定される。
【0045】
すなわち、上記非ファジイ制御による溶剤吸収工程では、まず、制御部31において、上記(i)の計測結果が、溶剤吸収工程の実行を決定するための予設定閾値に達しているか否かの判断が実行され、好ましくは、かかる判断と、上記(ii)の計測結果が、溶剤吸収工程の実行を決定するための予設定閾値に達しているか否か、および/または、上記(iii)の計測結果が、溶剤吸収工程の実行すべき状態に達しているか否かの判断と、が実行される。
【0046】
次いで、この判断結果に基づいて、上記a)〜c)などに示す溶剤吸収工程の実行条件が決定され、さらに、この実行条件に基づいて、溶剤吸収手段15が制御される。
ブランケット11に吸収されたインキ溶剤を吸収、除去する処理を、ブランケット11の膨潤の程度に応じて、適宜のタイミングでかつ過不足なく実行するためには、上記インキパターン計測手段により計測された上記(i)の計測結果のみに基づいて、溶剤吸収工程の実行条件を決定するよりも、上記(i)の計測結果と、さらに、上記溶剤濃度計測手段により計測された上記(ii)の計測結果、および/または、上記濃度分布計測手段により計測された上記(iii)の計測結果に基づいて、より好ましくは、上記(i)〜(iii)の全ての計測結果に基づいて、溶剤吸収工程の実行条件を決定する。上記計測結果の取捨選択は、印刷されるインキパターンの形状などや、用いられる印刷インキの性状などを考慮して、適宜設定すればよい。
【0047】
上記(i)のインキパターン24の寸法および/または印刷位置のずれ量の計測結果についての予設定閾値は、インキパターン24のパターン形状、インキパターン24に要求される印刷精度などに応じて、適宜設定される。
また、インキパターンの寸法および/または印刷位置のずれ量の計測結果についての予設定閾値は、インキパターンの寸法などの絶対値に基づいて設定してもよく、例えば、インキパターンの寸法などの初期状態に対する変動幅に基づいて設定してもよい。
【0048】
上記予設定閾値は、例えば、ブランケット11の材質、インキ溶剤の種類、インキパターン24の形状、インキパターン24に要求される印刷精度などの要因に応じて適宜設定されるものであって、特に限定されるものではない。なお、例えば、PDP前面電極のパターンを、シリコーンブランケットを用いて導電性インキペースト(インキ溶剤が酢酸ブチルカルビトールなどの、高比誘電率の溶剤であるもの。)で形成する場合には、インキパターン24の線幅の初期値に対する変動幅として、好ましくは、±10%、より好ましくは、±5%を閾値とすればよい。
【0049】
上記(ii)のインキ溶剤濃度の計測結果についての予設定閾値は、印刷に使用するインキ溶剤、ブランケット11の表面ゴム層の材質、印刷により形成されるインキパターン24の形状、インキパターン24に要求される印刷精度などに応じて、適宜設定される。
また、インキ溶剤濃度の計測結果についての予設定閾値は、インキ溶剤濃度(または、ブランケットの静電容量や比誘電率など。)の絶対値に基づいて設定してもよく、例えば、インキ溶剤濃度(または、ブランケットの静電容量や比誘電率など。)の初期状態に対する変動幅に基づいて設定してもよい。
【0050】
上記予設定閾値は、例えば、ブランケット11の材質、インキ溶剤の種類、インキパターン24の形状、インキパターン24に要求される印刷精度などの要因に応じて適宜設定されるものであって、特に限定されるものではない。なお、例えば、PDP前面電極のパターンを、シリコーンブランケットを用いて導電性インキペースト(インキ溶剤が酢酸ブチルカルビトールなどの、高比誘電率の溶剤であるもの。)で形成する場合には、ブランケット11の静電容量の初期値に対する変動幅として、好ましくは、5%、より好ましくは、2.5%を閾値とすればよい。
【0051】
上記(iii)のインキ溶剤の濃度分布の計測結果は、例えば、
・インキ溶剤の濃度がブランケットの上層部(表面側)において高い
・インキ溶剤の濃度がブランケットの厚み方向において均一である
・インキ溶剤の濃度がブランケットの下層部(裏面・深部側)において高い
といった3つの段階で評価することができる。溶剤吸収工程の実行条件の決定または溶剤吸収手段の制御は、インキ溶剤の濃度分布の計測結果により、「インキ溶剤の濃度がブランケットの表面側において高い」ことが示された時に実行すればよい。
【0052】
また、上記溶剤吸収工程は、例えば、制御部31に、インキパターン計測手段、溶剤濃度計測手段および濃度分布計測手段により計測された上記(i)〜(iii)の少なくともいずれか1の計測結果を入力信号として入力し、この入力信号と、溶剤吸収工程の実行条件を決定するために予め設定されたファジイルール(ファジイ推論側)とに基づいて、制御部31において、溶剤吸収工程の実行条件を決定するためのファジイ推論を実行し、さらに、こうして得られたファジイ推論の結果と、上記(i)〜(iii)の計測結果に基づいて決定された溶剤吸収工程の実行条件と、に基づいて、溶剤吸収手段15を制御手段で制御することによっても、実行することができる(ファジイ制御)。
【0053】
上記ファジイ制御による溶剤吸収工程の制御手段としては、例えば、CPU、ROM、RAMなどを備える制御部31が挙げられる。
制御部31のROMは、インキパターン計測手段、溶剤濃度計測手段および濃度分布計測手段を制御するプログラム、溶剤吸収工程時に溶剤吸収手段を制御するプログラム、溶剤吸収工程の実行条件を決定するためのファジイルールに関するプログラムなどを格納するための装置である。
【0054】
制御部31のRAMは、上記ROMに格納されたプログラムを実行するために、各上記測定手段により計測された計測結果を一時的に格納する装置である。
制御部31のCPUは、上記RAMに格納された計測結果に基づいて、溶剤吸収工程の実行条件を決定し、上記ROMに格納された溶剤吸収手段を制御するプログラムを実行して、溶剤吸収手段15を制御させる。
【0055】
上記ファジイ制御による溶剤吸収工程の実行時において、上記入力信号としては、インキパターン計測手段、溶剤濃度計測手段および濃度分布計測手段により計測された上記(i)〜(iii)の計測結果の少なくとも1つが用いられる。また、ファジイ制御の精度を向上させる観点からは、好ましくは、2種以上の計測結果、より好ましくは、3種の計測結果が用いられることが好ましい。上記(i)〜(iii)の計測結果のいずれを用いるかについては、特に限定されず、印刷されるインキパターンの形状などや、用いられる印刷インキの性状などを考慮して、適宜設定すればよい。
【0056】
上記のファジイ制御により溶剤吸収手段を制御する場合には、予め連続印刷が実施され、その連続印刷時の印刷結果に基づいて、各上記計測結果に対応したファジイルールが作成される。そして、実際の印刷工程時において計測された各上記計測結果に応じて、溶剤吸収工程の処理条件を決定するためのファジイ推論が実行され、予め作成されたファジイルールに基づいて、溶剤吸収手段が制御される。
【0057】
ファジイルールを作成するのにあたって、各上記計測結果が印刷品位にどのような影響を及ぼすかについて定量化されるが、この定量化は、従来の0または1のクリプス関数で定義するのではなく、予め実施された連続印刷時のデータを蓄積することにより、独自のメンバーシップ関数を設定する必要がある。
複数のファジイルールで得られたファジイ量については、好ましくは、全てOR演算が行われ、こうして、最終的に溶剤を吸収させる条件を設定するためのファジイ推論が実行される。
【0058】
上記ファジイ制御による溶剤吸収工程では、まず、制御部31において、上記(i)の計測結果が、溶剤吸収工程の実行を決定するための予設定閾値に達しているか否かの判断、上記(ii)の計測結果が、溶剤吸収工程の実行を決定するための予設定閾値に達しているか否かの判断、および、上記(iii)の計測結果が、溶剤吸収工程の実行すべき状態に達しているか否かの判断の、少なくともいずれかの判断が実行される。
【0059】
次いで、この判断結果に基づいて、上記のファジイ推論が実行され、かつ、後述する溶剤吸収工程の実行条件が決定される。さらに、ファジイ推論の実行結果と、用材吸収肯定についての決定された実行条件とに基づいて、溶剤吸収手段15が制御される。
上記(i)のインキパターン24の寸法および/または印刷位置のずれ量の計測結果についての予設定閾値、上記(ii)のインキ溶剤濃度の計測結果についての予設定閾値、および、上記したのと同様にして設定すればよい。
【0060】
また、上記(iii)のインキ溶剤の濃度分布の計測結果は、上記したのと同様にして評価すればよい。
下記の表1〜4に、ファジイルールの一例を示す。
表1に示すファジイルールは、前件(IF)部として上記(i)〜(iii)に示す3種の計測結果を用い、後件(THEN)部として上記a)およびc)に示す2種の条件を用いて、溶剤吸収工程の実行条件をファジイ推論により決定する場合の一例である。
【0061】
上記(i)に示す計測結果については、インキパターンの寸法の計測により求められるインキパターンの線幅(パターン線幅)の計測結果を採用した。パターン線幅の計測結果は、予設定閾値以上である場合を「太い」とし、予設定値未満である場合を「細い」として、2段階に区分した。
上記(ii)に示すブランケットのインキ溶剤濃度(溶剤濃度)の計測結果は、予設定閾値以上である場合を「多い」とし、予設定値未満である場合を「少ない」として、2段階に区分した。
【0062】
上記(iii)に示すブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布(溶剤濃度分布)の計測結果は、インキ溶剤の濃度がブランケットの表面(上層)側において高い場合を「上層」とし、インキ溶剤の濃度がブランケットの厚み方向において均一である場合を「均一」とし、インキ溶剤の濃度がブランケットの裏面(深部)側において高い場合を「下層」として、3段階に区分した。
【0063】
上記a)に示す、溶剤吸収体とブランケットとを接触させる時間(接触時間)の条件は、「長い」、「標準」および「短い」の3段階に区分した。
上記c)に示す、溶剤吸収工程を実行する間隔(接触インターバル)の条件は、「最も短い」、「短い」、「標準」、「長い」および「最も長い」の5段階に区分した。
【0064】
【表1】

【0065】
表2に示すファジイルールは、前件(IF)部として上記(ii)に示す1種の計測結果を用い、後件(THEN)部として上記a)およびc)に示す2種の条件を用いて、溶剤吸収工程の実行条件をファジイ推論により決定する場合の一例である。
上記(ii)に示すブランケットのインキ溶剤濃度(溶剤濃度)の計測結果は、溶剤濃度が100%以上である場合(表面ゴム層の自重以上の溶剤を含有している場合)を「多い」とし、溶剤濃度が50%以上100%未満である場合を「やや多い」とし、溶剤濃度が10%以上50%未満である場合を「標準」とし、溶剤濃度が5%以上10%未満である場合を「やや少ない」とし、溶剤濃度が5%未満である場合を「少ない」として、5段階に区分した。
【0066】
上記a)に示す、溶剤吸収体とブランケットとを接触させる時間(接触時間)の条件と、上記c)に示す、溶剤吸収工程を実行する間隔(接触インターバル)の条件とは、それぞれ、表1に示す場合と同様にして、順に、3段階および5段階に区分した。
【0067】
【表2】

【0068】
表3に示すファジイルールは、前件(IF)部として上記(ii)および(iii)に示す2種の計測結果を用い、後件(THEN)部として上記a)およびc)に示す2種の条件を用いて、溶剤吸収工程の実行条件をファジイ推論により決定する場合の一例である。
上記(ii)に示すブランケットのインキ溶剤濃度(溶剤濃度)の計測結果は、溶剤濃度が100%以上である場合を「多い」とし、溶剤濃度が50%以上100%未満である場合を「やや多い」とし、溶剤濃度が10%以上50%未満である場合を「標準」とし、溶剤濃度が5%以上10%未満である場合を「やや少ない」とし、溶剤濃度が5%未満である場合を「少ない」として、5段階に区分した。
【0069】
上記(iii)に示すブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布(溶剤濃度分布)の計測結果は、上層部(ブランケットの表面側)でのインキ溶剤の濃度(溶剤濃度;%)が、下層部(ブランケットの裏面側)での溶剤濃度(%)よりも、5ポイント以上高い場合を「上層部において高い」とし、上層部での溶剤濃度(%)と下層部での溶剤濃度(%)との差が5ポイントを下回る場合を「均一」とし、下層部での溶剤濃度(%)が、上層部での溶剤濃度(%)よりも、5ポイント以上高い場合を「下層部において高い」として、3段階に区分した。
【0070】
上記a)に示す、溶剤吸収体とブランケットとを接触させる時間(接触時間)の条件と、上記c)に示す、溶剤吸収工程を実行する間隔(接触インターバル)の条件とは、それぞれ、表1に示す場合と同様にして、順に、3段階および5段階に区分した。
【0071】
【表3】

【0072】
表4に示すファジイルールは、前件(IF)部として上記(i)に示す計測結果の2種類を用い、後件(THEN)部として上記a)およびc)に示す2種の条件を用いて、溶剤吸収工程の実行条件をファジイ推論により決定する場合の一例である。
上記(i)に示す計測結果については、インキパターンの寸法の計測により求められるインキパターンの線幅(パターン線幅)の計測結果と、インキパターンの寸法の計測により求められるインキパターンのパターン形状(パターン形状)の計測結果とを採用した。
【0073】
パターン線幅の計測結果は、パターン線幅の初期設定値に対するばらつきが、±5%以内である場合を「良好」とし、ばらつきの絶対値が5%を上回る場合を「劣る」として、2段階に区分した。
一方、パターン形状の計測結果は、は、インキパターンに20μm以上の突起が観察された場合を「劣る」とし、インキパターンに5μm以上20μm未満の突起が観察された場合を「やや劣る」とし、インキパターンに5μm以上の突起が観察されなかった場合を「良好」として、3段階に区分した。
【0074】
上記a)に示す、溶剤吸収体とブランケットとを接触させる時間(接触時間)の条件と、上記c)に示す、溶剤吸収工程を実行する間隔(接触インターバル)の条件とは、それぞれ、表1に示す場合と同様にして、順に、3段階および5段階に区分した。
【0075】
【表4】

【0076】
上記ブランケットの管理方法において、上記(i)〜(iii)に示す計測手段により各上記計測結果を得る処理は、例えば、印刷工程の開始後、一連の印刷工程(凹版12からブランケット11を介して被印刷体14へとインキパターン24を転写する工程)が1サイクル終了する毎に実行される。また、一連の印刷工程が数サイクル(例えば、3〜10サイクル)経過する毎に実行されてもよい。
【0077】
また、上記ファジイ制御による溶剤吸収工程の実行時には、上記の非ファジイ制御による溶剤吸収工程の場合と同様に、例えば、
a)溶剤吸収体16とブランケット11との接触時間(C)
b)ブランケット11への溶剤吸収体の接触圧(P)
c)溶剤吸収工程の実行間隔(接触インターバル;I)
などの実行条件が設定される。なかでも、好ましくは、接触時間(C)と接触インターバル(I)とが設定される。また、これら溶剤工程の実行条件は、上記(i)〜(iii)の少なくとも1つの計測結果に基づいて設定される。
【0078】
図3は、溶剤吸収工程の実行条件の決定と、溶剤吸収工程の実行とについての手順の一例を示すフローチャートである。
上記一連の印刷工程(ステップS1)を経て、印刷回数Tがカウントされる(ステップS2)。次いで、印刷回数Tのカウント結果が、接触インターバルIの予設定値を5で除した値(I/5の値が整数でない場合には、小数点第1位で四捨五入して得られた値)、または、その整数倍の値(但し、印刷回数Tに一致する場合を除く。)に該当する時(ステップS3でYES)には、ステップS4に進み、上記(i)〜(iii)に示す計測手段により各上記計測結果を得る処理を実行する(ステップS5〜S7)。
【0079】
次に、ステップS5〜S7での計測結果に基づいて、溶剤吸収工程の実行条件、すなわち、例えば、上述の接触時間(C)、接触圧(P)、接触インターバル(I)を決定する(ステップS8)。
ここで、接触インターバルIの予設定値を除する数は、5に限定されず、例えば、2、3など、任意の数を用いることができる。接触インターバルIの予設定値を除する数が大きいほど、溶剤吸収工程の実行条件を決定する処理(ステップS8)が頻繁に行われることになり、溶剤吸収工程の実行の精度が向上するものの、一方で、印刷工程の生産性が低下するおそれがある。
【0080】
ステップS8で溶剤吸収工程の実行条件を決定したときには、ステップS1に戻り、同様の工程を実行する。なお、ステップS4およびステップS8を繰り返し実行した場合に、前回得られた溶剤吸収工程の実行条件とは異なる条件が得られた場合には、新たに得られた実行条件に更新する。
一方、ステップS3でNOであるときは、印刷回数Tが接触インターバルIに達しているかを判断し、達していない時(ステップS9)でNOであるときは、ステップS1へと戻る。
【0081】
これに対し、ステップS3でYESであるときは、すなわち、溶剤吸収工程の実行時期に達していることから、ステップS10へと移行し、別途、ファジイ推論により決定されたファジイルールと、ステップS8で決定された、直近の溶剤吸収工程の実行条件とに基づいて、溶剤吸収工程が実行される。
溶剤吸収工程後には、印刷回数Tのカウンタをリセットし(T=0)、再度、ステップS1へと戻る。
【0082】
なお、従来、溶剤吸収工程の制御は、PID制御によるものが一般的であるが、PID制御を採用した場合は、制御を安定させるまでに時間がかかり、オーバーシュートを生じるおそれがある。また、印刷工程時におけるブランケットの膨潤の程度と印刷品質との関係には非線形が強いことから、PID制御で十分な制御をすることは困難である。一方、上記のファジイ制御によって溶剤吸収手段を制御することにより、非常に安定した制御が可能になる。
【実施例】
【0083】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明する。
参考例1
図1に示す印刷装置10を使用して、導電性ペーストインキからなるインキパターン(線幅100μm、ピッチ360μmのストライプパターン)の印刷を行った。印刷に使用した部材などは下記のとおりである。
・凹版12:ソーダライムガラス製(凹部の深さ30μm)
・ブランケット11:PETフィルム(支持体層)19上に、常温硬化型付加型シリコーンゴムを用いて形成された表面ゴム層20(厚み300μm、デュロメータ硬さ(タイプA)40、十点平均粗さ(Rz)0.1μm)を備えるシリコーンブランケット
(なお、ブランケット11は、図2(a),(b)に示すように、表面ゴム層20の支持体層19との当接面に薄膜電極21(幅10mm、長さ10mm)を備えており、薄膜電極21をブランケット11の表面に投影したときの投影面に、ダミーパターン領域23(幅10mm、長さ10mm)を備えている。)
・被印刷体14:PDP用前面板(高歪点ガラス板)、42インチ型、型番「PD200」、旭硝子(株)製
・導電性ペーストインキ:アクリル樹脂100重量部に対し、銀粉末(50%粒径0.8μm)900重量部、ガラスフリット(50%粒径0.5μm)50重量部および酢酸ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)200重量部を配合し、3本ロールで分散、混合したもの
・溶剤吸収体16:無端状のPET製ベルト基材の表面に、可塑剤および老化防止剤が全く配合されていないEPDM組成物を用いて形成された溶剤吸収体を有するもの
(なお、溶剤吸収体16は、導電性ペーストインキの溶剤(酢酸ブチルカルビトール)に23℃で24時間浸漬したときの浸漬前後の重量変化率が、13%であった。)
印刷処理は、凹版12からブランケット11への転写速度を30mm/秒、ブランケット11から被印刷体14への転写速度を100mm/秒とし、印圧はブランケット11のニップ幅が10mmとなるように調整した。
【0084】
溶剤吸収工程の実行条件は、溶剤濃度計測手段により計測されたブランケットのインキ溶剤濃度の計測結果と、濃度分布計測手段により計測されたブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布の計測結果と、インキパターン計測手段により計測されたインキパターン24の寸法(パターン線幅)の計測結果と、の3種の計測結果を前件(IF)部の入力信号として使用することにより、上記表1に示すファジイルールに基づいて、ファジイ推論により決定した。
【0085】
ブランケット11に含まれるインキ溶剤の濃度は、LCRメータ18で計測されたブランケット11(表面ゴム層20)の静電容量(pF)の値に基づいて算出した。ブランケット11の厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布は、ブランケット11のダミーパターン領域23において、分光エリプソメータ26で反射光の偏光状態を計測し、その計測結果に基づいて判定した。また、インキパターン24の寸法(パターン線幅)は、500万画素のCCDカメラ29で読み込まれたインキパターン24の画像データを、画像処理装置30にて高速画像形成処理により計測した。
【0086】
上記の印刷処理を実行した結果、1万枚の連続印刷を行った後においても、被印刷体14に転写されたインキパターン24のパターン形状が極めて良好で、インキパターン24の線幅、厚み、インキパターン24を焼成して得られる電極パターンの電気抵抗(導電性)のいずれについても、安定した品質を得ることができた。
また、インキパターン24の印刷精度も極めて良好で、被印刷体(42インチ型パネル14の面内で±10μm以内の印刷精度を確保することができた。これは、PDPパネルの実装上、全く問題のないレベルであった。
【0087】
なお、上記したファジイ制御による溶剤吸収工程の実行を、印刷枚数(印刷回数)が1000枚に達したときから開始し、1000枚に達するまでの間は、被印刷体に転写されたインキパターンを目視で観察することにより、印刷従事者の経験と感によって溶剤吸収工程を実行したこと以外は、上記の印刷処理と同様の条件で、連続印刷を行った。このときの印刷パターンの線幅の経時変化を、図4に示す。
【0088】
参考例2
溶剤吸収工程の実行条件は、溶剤濃度計測手段により計測されたブランケットのインキ溶剤濃度の計測結果を前件(IF)部の入力信号として使用することにより、上記表2に示すファジイルールに基づいて、ファジイ推論により決定した。
こうして決定された溶剤吸収工程の実行条件に従ったこと以外は、参考例1と同様にして、印刷処理を実行した。
【0089】
その結果、1万枚の連続印刷を行った後においても、被印刷体14に転写されたインキパターン24のパターン形状が極めて良好で、インキパターン24の線幅、厚み、インキパターン24を焼成して得られる電極パターンの電気抵抗(導電性)のいずれについても、安定した品質を得ることができた。
また、インキパターン24の印刷精度も極めて良好で、被印刷体(42インチ型パネル14の面内で±15μm以内の印刷精度を確保することができた。これは、PDPパネルの実装上、全く問題のないレベルであった。
【0090】
参考例3
溶剤吸収工程の実行条件は、溶剤濃度計測手段により計測されたブランケットのインキ溶剤濃度の計測結果と、濃度分布計測手段により計測されたブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布の計測結果と、の2種の計測結果を前件(IF)部の入力信号として使用することにより、上記表3に示すファジイルールに基づいて、ファジイ推論により決定した。
【0091】
こうして決定された溶剤吸収工程の実行条件に従ったこと以外は、参考例1と同様にして、印刷処理を実行した。
その結果、1万枚の連続印刷を行った後においても、被印刷体14に転写されたインキパターン24のパターン形状が極めて良好で、インキパターン24の線幅、厚み、インキパターン24を焼成して得られる電極パターンの電気抵抗(導電性)のいずれについても、安定した品質を得ることができた。
【0092】
また、インキパターン24の印刷精度も極めて良好で、被印刷体(42インチ型パネル14の面内で±12μm以内の印刷精度を確保することができた。これは、PDPパネルの実装上、全く問題のないレベルであった。
参考例4
溶剤吸収工程の実行条件は、インキパターンの寸法の計測により求められるインキパターンの線幅(パターン線幅)の計測結果と、インキパターンの寸法の計測により求められるインキパターンのパターン形状(パターン形状)の計測結果と、の2種の計測結果を前件(IF)部の入力信号として使用することにより、上記表4に示すファジイルールに基づいて、ファジイ推論により決定した。
【0093】
こうして決定された溶剤吸収工程の実行条件に従ったこと以外は、参考例1と同様にして、印刷処理を実行した。
その結果、1万枚の連続印刷を行った後においても、被印刷体14に転写されたインキパターン24のパターン形状が極めて良好で、インキパターン24の線幅、厚み、インキパターン24を焼成して得られる電極パターンの電気抵抗(導電性)のいずれについても、安定した品質を得ることができた。
【0094】
また、インキパターン24の印刷精度も極めて良好で、被印刷体(42インチ型パネル14の面内で±17μm以内の印刷精度を確保することができた。これは、PDPパネルの実装上、全く問題のないレベルであった。
実施例1
溶剤吸収工程の実行条件は、溶剤濃度計測手段により計測されたブランケットのインキ溶剤濃度と、インキパターン計測手段により計測された被印刷体に転写されたインキパターンの寸法と印刷位置のずれ量とに基づいて、予め連続印刷時の溶剤濃度とインキパターンの寸法(線幅)と印刷位置のずれ量を計測した値を元にして、溶剤濃度が予設定値を超えたときに溶剤吸収工程を実行するように設定した。
【0095】
溶剤吸収工程を実行し、印刷物のインキパターンの寸法(線幅)の改善を確認して、改善効果が見られないときには、溶剤吸収工程の実行を繰り返した。また、印刷物の線幅が所定の値まで改善されたときには、溶剤吸収工程の実行を停止し、印刷工程に戻った。
こうして決定された溶剤吸収工程の実行条件に従ったこと以外は、参考例1と同様にして、印刷処理を実行した。
【0096】
その結果、1万枚の連続印刷を行った後においても、印刷パターンの形状は極めて良好で、インキパターンの線幅、厚み、インキパターンを焼成して得られる電極パターンの電気抵抗(導電性)のいずれにおいても、安定した品質を得ることができた。
また、インキパターンの印刷精度も極めて良好で、被印刷体(42インチ型パネル14の面内において、±15μm以内の印刷精度を確保することができた。これは、PDPパネルの実装上、全く問題のないレベルであった。
【0097】
比較例1
図1に示す印刷装置10を使用し、導電性ペーストインキからなるインキパターンをオフセット印刷により形成した。凹版12、ブランケット11、被印刷体14、導電性ペーストインキおよび溶剤吸収体16は、参考例1と同じものを使用した。また、インキパターン、印刷処理条件は、参考例1と同じに設定した。
【0098】
溶剤吸収工程の実行条件は、印刷工程に従事する者が、被印刷体14上に形成されたインキパターン24を目視で確認しながら調整した。具体的には、印刷処理の開始から印刷枚数が500枚に達するまでの間は、10枚に1回の割合で行い、溶剤吸収ベルトを表面ゴム層に接触回転させながら溶剤を吸収させた。500枚目以降は、形状のばらつきが大きいことから、印刷毎に接触タイミングを作業者が適宜判断して、調整した。
【0099】
その結果、1万枚の連続印刷を行った時には、印刷毎に線幅のばらつきや印刷形状の乱れが多発した。印刷精度は±30μmと大きく、パネルを製造すると位置合わせ不良などが発生し、量産化は困難であることがわかった。また、不良率も高く、安定した印刷を行うことができなかった。
比較例2
プラズマディスプレイの背面板(対角42インチ)に感光性ペーストインキ(商品名「フォーデル(R)」、デュポン社製)を、全面厚み10μmで均一に塗布した。塗布には、スクリーン印刷機を用いた。初めに黒色の感光性ペーストを塗布、乾燥し、次いで、導電性の感光性銀ペーストを塗布し、2層形成した。次いで、露光、現像によりストライプ状の電極パターンを形成し、最後に550℃で1時間焼成して、銀電極を形成した。パターンは参考例1と同じで、線幅100μm、ピッチ360μmにて試作した。
【0100】
印刷精度は、フォトリソ法を採用していることから、極めて良好で、面内で±3μmに収まっていた。電極としての性能は、参考例1とほとんど同等であった。しかし、電極形成時に、極めて多量の銀廃液が発生し、材料も2種類使用しており、しかも、フォトリソ固定(露光、現像、乾燥)が加わることも相俟って、参考例1の5〜10倍程度の製造コストを要した。
【0101】
比較例3
プラズマディスプレイの背面板(対角42インチ)に参考例1と同じ導電性銀ペーストを用いて、スクリーン印刷にて線幅80μm、ピッチ360μmの印刷を行った。廃液や製造設備費用は、参考例1と同様で、非常に低コストで製造可能であったが、線幅の安定した印刷を行うことができず、断線などが多く発生した。また、印刷精度が極めて低く、42インチ面内で印刷精度が±50μmであったことから、PDP電極基板に実装すると、電極の位置ずれが発生し、実用化が困難であることが判明した。
【0102】
本発明は、以上の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲において、種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0103】
10 印刷装置
11 ブランケット
12 凹版(印刷版)
14 被印刷体
15 溶剤吸収手段
16 溶剤吸収体
18 LCRメータ
21 薄膜電極
25 対向電極
26 分光エリプソメータ
29 CCDカメラ
30 画像処理装置
31 制御部(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷版から転写されて被印刷体へと転写されるインキパターンを担持するためのブランケットと、
前記ブランケットと接触して前記ブランケットに含まれるインキ溶剤を吸収するための溶剤吸収手段と、
前記被印刷体に転写されたインキパターンの寸法または印刷位置のずれ量を計測するためのインキパターン計測手段と、
前記ブランケットのインキ溶剤濃度を計測するための溶剤濃度計測手段および/または前記ブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布を計測するための濃度分布計測手段と、
を備える印刷装置におけるブランケットの管理方法であって、
前記溶剤吸収手段を前記ブランケットに接触させて前記ブランケットに含まれるインキ溶剤を吸収する溶剤吸収工程を有しており、
予め連続印刷時の前記インキパターン計測手段により計測された前記インキパターンの寸法または印刷位置のずれ量の計測結果と、前記溶剤濃度計測手段により計測された前記ブランケットのインキ溶剤濃度の計測結果とを元にして、前記インキ溶剤濃度が予設定値を超えたときに前記溶剤吸収手段を制御して溶剤吸収工程を実行し、前記インキパターンの寸法の改善を確認して、改善効果が見られないときには、溶剤吸収工程の実行を繰り返し、前記インキパターンの寸法が所定の値まで改善されたときには、溶剤吸収工程の実行を停止することを特徴とする、ブランケットの管理方法。
【請求項2】
さらに前記濃度分布計測手段により計測された前記ブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布の計測結果に基づいて、前記溶剤吸収手段を制御することを特徴とする、請求項1に記載のブランケットの管理方法。
【請求項3】
前記インキパターン計測手段が、前記被印刷体に転写されたインキパターンを画像データとして読み取るための読取手段と、前記読取手段に読み取られた画像データを画像処理するための画像処理手段とを有していることを特徴とする、請求項1または2に記載のブランケットの管理方法。
【請求項4】
前記溶剤濃度計測手段が、前記ブランケットの誘電特性を計測するための誘電特性計測手段を有していることを特徴とする、請求項1または2に記載のブランケットの管理方法。
【請求項5】
前記ブランケットは、前記ブランケットの内部に埋設されている薄膜電極と、前記薄膜電極を前記ブランケットの表面に投影したときの投影面に設けられているダミーパターン領域とを備え、かつ、
前記印刷装置は、前記ブランケット表面のダミーパターン領域に対して離接可能に保持されている対向電極を備えている
ことを特徴とする、請求項4に記載のブランケットの管理方法。
【請求項6】
前記濃度分布計測手段が、前記ブランケットに照射された光線の反射光の偏光状態および/または前記反射光の光学干渉に伴う波長変化を計測するための光学特性計測手段を有していることを特徴とする、請求項2に記載のブランケットの管理方法。
【請求項7】
前記溶剤吸収手段が、インキ溶剤の吸収能を有する溶剤吸収体と、前記溶剤吸収体を前記ブランケットに対して離接可能に保持する吸収体保持手段とを有していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のブランケットの管理方法。
【請求項8】
前記溶剤吸収体が、可塑剤と老化防止剤とを含有しないゴム組成物を用いて形成されていることを特徴とする、請求項7に記載のブランケットの管理方法。
【請求項9】
前記溶剤吸収体は、前記インキ溶剤に23℃で24時間浸漬したときの浸漬前後の重量変化率が、5〜400%であることを特徴とする、請求項7または8に記載のブランケットの管理方法。
【請求項10】
印刷版から転写されて被印刷体へと転写されるインキパターンを担持するためのブランケットと、
前記ブランケットと接触して前記ブランケットに含まれるインキ溶剤を吸収するための溶剤吸収手段と、
前記被印刷体に転写されたインキパターンの寸法または印刷位置のずれ量を計測するためのインキパターン計測手段と、
前記ブランケットのインキ溶剤濃度を計測するための溶剤濃度計測手段および/または前記ブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布を計測するための濃度分布計測手段と、
予め連続印刷時の前記インキパターン計測手段により計測された前記インキパターンの寸法または印刷位置のずれ量の計測結果と、前記溶剤濃度計測手段により計測された前記ブランケットのインキ溶剤濃度の計測結果とを元にして、前記インキ溶剤濃度が予設定値を超えたときに、前記溶剤吸収手段を前記ブランケットに接触させて前記ブランケットに含まれるインキ溶剤を吸収する溶剤吸収工程を実行し、前記インキパターンの寸法の改善を確認して、改善効果が見られないときには、前記溶剤吸収工程の実行を繰り返し、前記インキパターンの寸法が所定の値まで改善されたときには、前記溶剤吸収工程の実行を停止するように前記溶剤吸収手段を制御するための制御手段と、
を備えることを特徴とする、印刷装置。
【請求項11】
前記制御手段は、さらに前記濃度分布計測手段により計測された前記ブランケットの厚み方向におけるインキ溶剤の濃度分布の計測結果に基づいて、前記溶剤吸収手段を制御することを特徴とする、請求項10に記載の印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−251539(P2011−251539A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182990(P2011−182990)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【分割の表示】特願2005−376164(P2005−376164)の分割
【原出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】