説明

ブレーキシステム

【課題】 連動ブレーキシステムとABSを採用した自動二輪車において、ブレーキレバーを単独操作して前輪ブレーキに制動力を発生させた状態で前輪ABSが作動したときの減速度を大きくする。
【解決手段】 ブレーキバイワイヤ方式の連動ブレーキシステムにおいて、ブレーキレバーのみから入力したとき前輪ブレーキに制動力を発生させるとともに、後輪ブレーキにも連動した制動力を発生させる。この状態で前輪ABSが作動すると、前輪ブレーキの制動力が一定となり、トータル制動力は.△Frだけ低下する。そこで、後輪側液圧モジュレータ22Rを駆動して、後輪ブレーキの制動力を理想配分特性によって定まるて後輪限界目標圧Prmaxに向けて増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のブレーシステム、特に、前後輪ブレーキを備えるとともに、これら前後輪ブレーキを連動させて制御する連動ブレーキシステム(CBS;Combined Brake System)並びに制動時における車輪のロックを防ぐABS(アンチロックブレーキシステム;Anti−lock Brake System)を備えたブレーキシステムにおいて、前輪ABS作動時における車両全体の減速度を高めたものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車に使用されているブレーキシステムとして、前後輪ブレーキを連動させて制御する連動ブレーキシステム並びにABSを採用するとともに、ブレーキシステムを液圧式とし、ライダー(運転者)がブレーキ操作子を操作することにより液圧を発生させる制動入力側と、液圧が車輪制動手段に作用する制動出力側とが電磁開閉弁によって連通・遮断可能に構成されているものがある。このような一例として、ブレーキ操作子の操作量を電気的に検出し、この検出値に基づいてアクチュエータを制御することで液圧を発生させ車輪制動手段に制動力を与える、ブレーキーバイワイヤ(BBW)方式のブレーキシステムが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に係る発明においては、前輪側の車輪制動手段の制動圧を除々に増加させるとともに、これに合わせて、後輪側の車輪制動手段の制動圧を除々に増加させた後でその後減少させる制御をする際、前輪側の車輪制動手段にABSが作用している場合には、後輪側の車輪制動手段に一定の制動圧を残すことにより、制動フィーリングを良好にしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−176086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動二輪車のブレーキシステムにおいては、前後輪用ブレーキ操作子(例えば、ブレーキレバー及びブレーキペダル)が別々に存在し、連動ブレーキシステムを採用した場合であっても、ライダーが操作した操作子側の制動手段を主体的にして制動させることにより、ライダー意思に合致した制動力を付与することが可能になっている。
しかし、ライダーがブレーキレバーを単独で操作して前輪ブレーキ側を主体的に制動させた場合において、前輪ブレーキにABSが作動すると、車両の減速度が低下するので、このような場合でも、車両全体に適切な減速度が得られるように各制動手段に制動力を付与することが望まれている。
そこで、本発明は、このような要請の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため請求項1に記載したブレーキシステムに係る発明は、前輪ブレーキ操作子(12)と、この前輪ブレーキ操作子(12)の操作量に応じて、前輪ブレーキ(16)と後輪ブレーキ(18)に液圧を作用させることにより制動力を与えるとともに、ABS作動時に液圧を増減させることができるアクチュエータ(22)と、このアクチュエータ(22)を制御するコントローラ(20)と、を備え、
前記コントローラ(20)は、前輪ブレーキのABSが作動していない通常制動時、前輪ブレーキ操作子(12)が操作された場合に後輪ブレーキに配分される制動力を、前後輪の制動力の理想配分に対して低く設定し、
前輪ブレーキにABSが作動したしたときには、液圧を増加させる方向に前記アクチュエータ(22)を駆動させて後輪ブレーキの制動力を高めることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した発明は、上記請求項1において、
前輪ブレーキに前記ABSが作動したとき、
前記コントローラ(20)は、前後輪の制動力の理想配分から前記前輪ブレーキの制動圧又はスリップ率を用いて後輪限界目標圧(Prmax)を設定し、
この後輪限界目標圧(Prmax)に向けて前記アクチュエータを駆動させることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載した発明は、上記請求項1において、
前輪ブレーキに前記ABSが作動したとき、
前記コントローラ(20)は、前記前輪ブレーキ操作子(12)の人力に応じて後輪目標圧(Prr1)を設定し、
この後輪目標圧(Prr1)に向けて前記アクチュエータ(22)を駆動させることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載した発明は、上記請求項3において、
前輪ブレーキにABSが作動したとき、
前記コントローラ(20)は、前後輪の制動力の理想配分から前記前輪ブレーキの制動圧又はスリップ率を用いて後輪限界目標圧(Prmax)を設定し、
前記後輪目標圧(Prr1)と前記後輪限界目標圧(Prmax)を比較し、
前記後輪目標圧(Prr1)が前記後輪限界目標圧(Prmax)より低い場合は、前記後輪目標圧(Prr1)に向けて前記アクチュエータを駆動させ、
前記後輪目標圧(Prr1)が前記後輪限界目標圧(Prmax)より高い場合は前記後輪限界目標圧(Prmax)に向けて前記アクチュエータを駆動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載した発明によれば、コントローラは、前輪ブレーキ操作子が操作された場合に後輪ブレーキに配分される制動力を、前後輪の制動力の理想配分に対して低く設定する。このため、前輪ブレーキ操作子を操作した場合は、前輪ブレーキを主にした制動をして、前後輪連動制動状態であっても、ライダーの意思に近い減速感を得ることができる。
さらに、前輪ブレーキにABSが作動した場合には、後輪制動手段の制動圧を高める方向にアクチュエータを駆動させるので、後輪側の制動力を高めることにより、後輪側の接地加重分担を高め、車体の減速度を高めることができる。
また、後輪ブレーキの制動圧を高めることにより、前輪ブレーキのABSが作動する制動圧ポイントは高くなる方向にシフトさせられるため、前輪ブレーキの制動力を高めることができ、より高い減速度を得ることが可能になる。
【0011】
請求項2に記載した発明によれば、前輪ブレーキのABS作動時における後輪ブレーキの制動力は、後輪がロックされる制動力に相当する後輪限界目標圧に向けて増大するように制御されるので、ABS作動時に後輪制動手段に比較的大きな制動力が付与されるため、車両全体としての減速度を高めることができる。
【0012】
請求項3に記載した発明によれば、前輪ブレーキのABS作動時における後輪ブレーキの制動力制御は、前輪ブレーキの操作子による入力に対応して後輪ブレーキの制動圧が設定されるので、車両全体として、ライダーの操作感に近い減速度を得ることができる。
【0013】
請求項4に記載した発明によれば、前輪ブレーキのABS作動時における後輪ブレーキの制動力制御は、後輪限界目標圧と後輪目標圧の比較により、目標圧が変化し、トータル制動力の低下が比較的小さな、後輪限界目標圧>後輪目標圧の場合には、後輪目標に向かって制御し、大きな減速度を得るとともにライダーの意思に沿った制動を可能にする。一方、急制動時のような、後輪限界目標圧≦後輪目標圧の場合には、後輪ブレーキがロックする限界である後輪限界目標圧を目標に制御されるため、より高い減速度を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る自動二輪車用ブレーキ装置の液圧回路図
【図2】前後ブレーキの理想配分曲線及び後輪ブレーキの制動曲線を示すグラフ
【図3】第1実施例に係るフローチャート
【図4】前輪非ABS制御時における制動力変化を示すグラフ
【図5】前輪ABS制御時における前輪ブレーキの制動力変化を示すグラフ
【図6】第1実施例における後輪ブレーキの制動力制御を示すグラフ
【図7】第2実施例に係るフローチャート
【図8】第2実施例における後輪ブレーキの制動力制御を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る自動二輪車のブレーキ装置を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る自動二輪車のブレーキ装置10の構成を示す回路図である。このブレーキ装置10は、ライダー(運転者)によるブレーキレバー12及びブレーキペダル14の操作に応じて、前輪側ブレーキキャリパ(前輪ブレーキ)16及び後輪側ブレーキキャリパ(後輪ブレーキ)18をブレーキバイワイヤで駆動制御し、車両に所定の制動力を付与することが可能な装置である。
図1に示すように、ブレーキ装置10は、相互に独立した前輪側ブレーキ回路10Fと後輪側ブレーキ回路10Rとがコントローラ(ECU、制御部)20により連係されたものである。
【0016】
ブレーキ装置10は、前輪側ブレーキ回路10Fと後輪側ブレーキ回路10Rとにブレーキバイワイヤ方式を採用している。すなわち、ブレーキ装置10では、ブレーキ操作子であるブレーキレバー12やブレーキペダル14の操作量(本実施形態では液圧)を電気的に検出し、その検出値に基づき前輪側液圧モジュレータ22F及び後輪側液圧モジュレータ22R(本願発明のアクチュエータに相当する)で作り出した液圧により、制動部である前輪側ブレーキキャリパ16や後輪側ブレーキキャリパ18で所定の制動力を発生することが可能である。
なお、停車中や極低速領域では、後述するバルブ(前輪側V1)がオープンになっているため、前輪側液圧モジュレータ22Fによらず、レバー12により押圧された前輪側マスターシリンダ24Fから発生する液圧によって前輪側ブレーキキャリパ16に制動力が与えられる。
【0017】
さらに、ブレーキ装置10では、前輪側及び後輪側の一方、例えば後輪側ブレーキ操作子であるブレーキペダル14を操作すると、コントローラ20の制御下に前輪側及び後輪側の制動部である前輪側ブレーキキャリパ16及び後輪側ブレーキキャリパ18を連動して駆動制御することができる連動ブレーキシステムを採用している。
例えばブレーキペダル14が操作されると、後輪側ブレーキ回路10Rでは、コントローラ20の制御下に、後輪側マスターシリンダ24Rの液圧に基づき、ブレーキバイワイヤ方式で後輪側液圧モジュレータ22Rが駆動制御されて所定の液圧が後輪側ブレーキキャリパ18に作用するとともに、さらに、前輪側ブレーキ回路10Fの前輪側液圧モジュレータ22Fも連動して駆動制御され、所定の液圧が前輪側ブレーキキャリパ16にも作用する。
【0018】
なお、ブレーキ装置10におけるブレーキ操作は、前輪側ブレーキ回路10Fでは前輪側ブレーキ操作子であるブレーキレバー12により行われ、後輪側ブレーキ回路10Rでは後輪側ブレーキ操作子であるブレーキペダル14により行われるが、その他の構成は前輪側ブレーキ回路10Fも後輪側ブレーキ回路10Rも略同様である。そこで、ブレーキ回路の構成に関する以下の説明は、基本的に前輪側ブレーキ回路10Fについておこない、後輪側ブレーキ回路10Rについては、前輪側ブレーキ回路10Fと同一又は同様の構成要素に同一の参照符号を付すことで重複する説明を省略する。
【0019】
前輪側ブレーキ回路10Fは、ブレーキ操作子であるブレーキレバー12に連動する前輪側マスターシリンダ24Fと、この前輪側マスターシリンダ24Fに対応する前輪側ブレーキキャリパ16とが主通路26によって接続されている。主通路26の途中には、前輪側液圧モジュレータ22Fが給排通路28により合流接続されている。
主通路26には、給排通路28との合流接続部よりも前輪側マスターシリンダ24F側に、前輪側マスターシリンダ24Fと前輪側ブレーキキャリパ16とを連通・遮断する常開型の第1電磁開閉弁V1が介装されている。さらに、主通路26には、分岐通路30が接続されており、この分岐通路30には、常閉型の第2電磁開閉弁V2を介して液損シミュレータ32が接続されている。
【0020】
また、この分岐通路30には、第2電磁開閉弁V2を迂回するバイパス通路34が設けられ、このバイパス通路34には液損シミュレータ32側からマスターシリンダ24方向への作動液の流れを許容する逆止弁36が設けられている。
液損シミュレータ32は、第1電磁開閉弁V1が主通路26を閉じた際(ブレーキバイワイヤ作動時)に、ブレーキレバー12の操作量に応じた擬似的な液圧反力をマスターシリンダ24に作用させる機能を有する。第2電磁開閉弁V2は、液損シミュレータ32による反力付与時に分岐通路30を開き、マスターシリンダ24側と液損シミュレータ32とを連通させる。
【0021】
液損シミュレータ32は、シリンダ32a、これへ進退動自在に収容されたピストン32b、これらシリンダ32aとピストン32b先端面との間に形成され、マスターシリンダ24側から流入した作動液(ブレーキ液)を受容する液室32c、ピストン32bの液室32cと反対側に配置された反発スプリング32dを備える。反発スプリング32dは、例えば特性の異なるコイルスプリングと樹脂スプリングとを直列に配置して構成され、ピストン32bを介してブレーキ操作子(ブレーキレバー12)に操作初期の立ち上がりが緩やかで、ストロークエンドにおいて立ち上がりが急な特性の反力を付与する。
【0022】
前輪側液圧モジュレータ22Fは、シリンダ22a内に設けられたピストン22bを、これらシリンダ22aとピストン22bの間に形成された液圧室22c方向に押圧するボールネジ機構40と、ピストン22bをボールネジ機構40側に常時押し付けるリターンスプリング42と、ボールネジ機構40を作動させる電動モータ44とを備える。液圧室22cは給排通路28に連通接続されている。
【0023】
この前輪側液圧モジュレータ22Fは、電動モータ44によりボールネジ機構40を介してシリンダ22aの初期位置を基準としてピストン22bを押圧したり、リターンスプリング42によりピストン22bを戻すことにより、液圧室22cの圧力を増減して、ブレーキキャリパ4の制動圧力を増減できるようになっている。ピストン22bは電動モータ44が非通電状態になったとき初期位置へ戻されるようになっている。
【0024】
電動モータ44は、PWM制御により入力デューティ比(ON時間/ON時間+OFF時間)で決定される電流値を調整することで、ボールネジ機構40の回動位置で決定されるピストン22bの位置を電気的に正確かつ簡単に調整し、液圧室22cの圧力を調整するようになっている。
このため、主通路26(ブレーキキャリパ16)に作動液を積極的に供給する連動ブレーキシステム制御と、ピストン22bを進退動させて液圧室22cの減圧、保持、再増圧するABS制御を行うことができる。
【0025】
給排通路28には常閉型の第3の電磁開閉弁V3が介装されている。さらに給排通路28には第3の電磁開閉弁V3を迂回してバイパス通路26が設けられ、このバイパス通路48には前輪側液圧モジュレータ22F側からブレーキキャリパ16方向への作動液の流れを許容する逆止弁50が設けられている。
【0026】
第1の電磁開閉弁V1を挟んでマスターシリンダ24側である入力側であって、第2電磁開閉弁V2より前輪側マスターシリンダ24F側に第1圧力センサ(P)52a、第2電磁開閉弁V2より液損シミュレータ32側に第2圧力センサ(P)52bが設けられ、さらに、ブレーキキャリパ16側である出力側に第3圧力センサ(P)54が各々設けられている。ブレーキキャリパ16には車輪速度を検出する前輪側車輪速度センサ56F及び後輪側車輪速度センサ56Rが設けられている。
【0027】
さらに、制御モードをライダーによる手動操作で切換えるモード切換えスイッチ58が設けられ、連動ブレーキシステム制御を希望する場合はライダーがこれを切換えて選択する。なお、以下の説明は連動ブレーキシステム制御が選択された場合についてのものである。
【0028】
コントローラ20は、バッテリ60から電源供給を受け、前記第1圧力センサ52a、第2圧力センサ52b及び第3圧力センサ54の各検出信号、前輪側車輪速度センサ56F及び後輪側車輪速度センサ56Rの各検出信号等に基づいて、第1電磁開閉弁V1、第2電磁開閉弁V2及び第3電磁開閉弁V3を開閉制御するとともに、電動モータ44を駆動制御して前輪側液圧モジュレータ22F及び後輪側液圧モジュレータ22Rを動作させる制御部である(図1では信号線を破線で示す)。
【0029】
次に、前輪ブレーキ及び後輪ブレーキにおける連動ブレーキシステム及びABSの作動について説明する。
車両が停止している場合(車速=0)には、図1に示すように、前輪側のブレーキ回路10F及び後輪側のブレーキ回路10Rにおいて、それぞれ第1の電磁開閉弁V1が開状態、第2の電磁開閉弁V2は閉状態、第3電磁開閉弁V3は閉状態となる。
【0030】
所定速度以上では、第2電磁開閉弁V2を開作動させ、ライダーが、例えば、ブレーキレバー12のみを単独で操作すると、そのとき前後輪の速度が前輪側車輪速度センサ56F及び後輪側車輪速度センサ56Rから、またブレーキ操作量等の情報が第1圧力センサ52a及び第2圧力センサ52bを通してコントローラ20に入力され、このときコントローラ20からの指令によって両方のブレーキ回路10F及び10Rにおける第1の電磁開閉弁V1が主通路26を閉じる方向に作動されると同時に、第3電磁開閉弁V3が開く方向に作動され、前輪側液圧モジュレータ22F及び後輪側液圧モジュレータ22Rが各ブレーキキャリパ16・18に車両の運転条件やブレーキ操作に応じた液圧を供給する。
【0031】
すなわち、前輪側のブレーキ回路10Fでは、まず第2の電磁開閉弁V2が開作動し、続いて第1の電磁開閉弁V1及び第3の電磁開閉弁V3が順に開作動される。
すると、主通路26が第1の電磁開閉弁V1の閉作動によって前輪側マスターシリンダ24Fから切り離されると同時に、第2の電磁開閉弁V2の開作動によって分岐通路30、主通路26がマスターシリンダ24と液損シミュレータ32とを導通し、さらに第3の電磁開閉弁V3の開作動によって給排通路28、主通路26が前輪側液圧モジュレータ22Fとブレーキキャリパ16とを導通する。
【0032】
後輪側のブレーキ回路10Rでも、まず第2の電磁開閉弁V2が開作動し、続いて第1の電磁開閉弁V1及び第3の電磁開閉弁V3が順に開作動される。したがって、主通路26が第1の電磁開閉弁V1の閉作動によってマスターシリンダ24から切り離されると同時に、第2の電磁開閉弁V2の開作動によって分岐通路30、主通路26がマスターシリンダ24と液損シミュレータ32とを導通し、さらに第3の電磁開閉弁V3の開作動によって給排通路28、主通路26が後輪側液圧モジュレータ22Rとブレーキキャリパ18とを導通する。
【0033】
これにより、ライダーは前輪側及び後輪側のブレーキ回路10F,10Rの液損シミュレータ32によって擬似的に再現されたブレーキ操作感を前後輪側で感じることができる。同時に前輪側液圧モジュレータ22F及び後輪側液圧モジュレータ22Rの作動による液圧変動は第1の電磁開閉弁V1が閉作動しているためライダー側に伝達されなくなる。このとき同時に前輪側液圧モジュレータ22F及び後輪側液圧モジュレータ22Rの電動モータ44が作動し、ボールネジ機構40によりピストン22bが押圧されて液圧室22cの作動液を加圧する。これによって、電動モータ44の制御に応じた液圧が主通路26を通してブレーキキャリパ16・18に供給される。
【0034】
また、コントローラ20は、前輪側及び後輪側の各車輪速度センサ56F・56Rによって検出された車輪速度のうち、高い方の車輪速度を車両の推定車速として設定して、この推定車速と前輪又は後輪の車輪速度との差分に基づいて前輪スリップ率又は後輪スリップ率を算出する。ここで、前輪スリップ率、後輪スリップ率が予め設定されたスリップ率の閾値を超えた場合に、車輪にスリップが発生したと判定して前輪側液圧モジュレータ22F及び後輪側液圧モジュレータ22Rの発生液圧を減圧するABS制御を作動開始するようになっている。
【0035】
すなわち、前輪あるいは後輪のスリップ率が所定の値を越える状況になったことが、前輪側車輪速度センサ56F及び後輪側車輪速度センサ56Rにより検出された場合には、コントローラ20が電動モータ44を制御してピストン22bを後退させ、ブレーキキャリパ16の制動圧を低下させてABS制御により車輪のスリップ率を適切に制御する(連動ブレーキシステム制御+ABS制御)。このとき、第1の電磁開閉弁V1は閉じられており、前輪側マスターシリンダ24Fと前輪側液圧モジュレータ22Fの連通は遮断され、ブレーキレバー12にABS制御の圧力変化が伝達されることはない。
【0036】
次に、連動ブレーキシステム制御及びABS制御における前輪ブレーキ及び後輪ブレーキの制動力制御について説明する。なお、以下の説明において、前輪をFr、後輪をRrと略称する場合がある。
図2は前後輪ブレーキにおける制動力の理想配分曲線と、連動ブレーキシステムにおいて、前輪ブレーキのブレーキレバー単独入力時における後輪ブレーキの制動力設定を示すグラフである。
【0037】
理想配分曲線とは、摩擦係数(μ)が異なる路面毎に、制動時における前輪と後輪が同時にロックする制動力をプロットしてつないだ曲線であり、前後輪ブレーキにおける制動力の理想配分を示すものである。前輪ブレーキ及び後輪ブレーキの制動力はこの理想配分曲線にできるだけ沿って変化するように設定することが好ましいとされている。
【0038】
また、図中にはブレーキレバー単独入力時の後輪ブレーキ制動力曲線も併せて示されている。この曲線は連動ブレーキシステムにおいて、前輪ブレーキのブレーキレバー12のみを操作したとき、前輪ブレーキに連動して後輪ブレーキに発生される制動力であり、ブレーキレバーによるライダーの意思を明確に反映した制動が得られるように、後輪ブレーキ制動力曲線は理想配分曲線に対して控えめ(低い制動力)となるように設定されている。
すなわち、前輪ブレーキが主として作動するように設定されている。
【0039】
また、ブレーキレバー12によるレバー入力を一定の割合で増大させ、前輪側のマスターシリンダ圧を徐々に増加した場合に、当初後輪側のブレーキキャリパ圧も徐々に増加し、その後頭打ちとなり、さらに前輪側のマスターシリンダ圧が増加すると後輪側のブレーキキャリパ圧は徐々に減少するように変化する。
具体的には、低μ路ではaなる比較的急傾斜の右肩上がりの直線で変化し、その後、中μ路ではbなる水平線状をなす高原状に変化し、高μ路ではcなる比較的緩やかな右肩下がりの直線で変化し、μ=0.9を超えた高μ路では再びdなる水平線状をなして低い制動力を維持する。
【0040】
なお、本願発明においては、連動ブレーキシステムで後輪ブレーキが作動している状態で前輪ブレーキにABSが作用するとき、後輪ブレーキの制動力を増大させる後輪増力制御が行われるようになっている。この後輪増力制御は、図2において点XからYへ制動力を増大させる。すなわち、例えば、μ=0.6の路面上を走行している状態で連動ブレーキシステムを作動させているとき、点XにてABS作動すると、後輪ブレーキは急角度の.直線eのように、μ=0.6のロック線に沿って点Xから理想配分曲線点の限界点Yまで制動力が上昇するように後輪増力制御される。この後輪増力制御については後から詳述する。
【0041】
点X(μ=0.6)の時の前輪ブレーキの制動力をFr1、後輪ブレーキの制動力をRr1とすると、後輪ブレーキの制動力は理想配分曲線のFr1に対応する制動力Rr2まで増大させてもロックしない。
前輪ブレーキにABSが作動すると、後輪限界制動力Rrmaxに向けて後輪側液圧モジュール22Rを駆動させる。後輪ブレーキの制動力が高まると、ロック線が右上方に向けて傾いているので、前輪ブレーキのロックポイント(ここではX)が右側にシフトする。
そして後輪ブレーキの制動力が後輪限界制動力Rrmaxになったときの前輪ブレーキの制動力をFr2とすると、Fr3(=Fr2−Fr1)だけ前輪ブレーキのロックポイントを増大させることができ、前輪の減速度を高め、車両全体の減速度も高めることができる。
【0042】
図3は連動ブレーキシステム制御時において、非ABS作動時におけるレバー入力と制動力の変化を示すグラフであり、横軸にレバー入力、縦軸に制動力を示す。前輪ブレーキ及び後輪ブレーキの各制動力はレバー入力に応じて変化し、前輪ブレーキの制動力(Fr制動力)は、レバー入力に比例して右肩上がりの直線状に変化する。
これに対して、連動する後輪ブレーキの制動力(Rr制動力)は、図2に示した、後輪ブレーキ制動曲線のように折れ線的に変化する。
【0043】
その結果、前輪ブレーキ及び後輪ブレーキの制動力を合計したトータル制動力(TTL制動力)は、Fr制動力線に略沿った折れ線状のものとなる。レバー入力Pにおける後輪ブレーキの制動力はA、前輪ブレーキの制動力はD、トータル制動力はEとなる。
【0044】
図4は図3のグラフにおいてABSが作動した状態を示す。前輪ブレーキがレバー入力ZにてABS作動すると、その前輪の制動力Bはその後レバー入力が増大しても増大されない。その結果、ABS非作動時におけるあるレバー入力Fに対応する制動力がDであれば、前輪制動力はABS制御によって、△Fr=D−Bなる低下が生じたことになる。このときのBはレバー入力Pに対して得られる前輪ブレーキの出力圧に対応し、Dは入力圧に対応する。したがって、レバー入力Pに対する前輪ブレーキにおける入力圧と出力圧の差とも表現できる。
【0045】
トータル制動力TTLはこの低下△Fr分に相当する分、すなわち非ABS制御時の制動力EからCへ低下していることになり、ABSによりロックが解除されても、この分だけ車両の減速度が低下し、制動フィーリングに影響を与える。
そこで、トータル制動力の低下を阻止するためには、この低下相当分である△Fr分を後輪ブレーキの制動力で補う必要がある。
【0046】
図5はこのトータル制動力の低下を補う後輪増力制御に関する第1実施例を示すグラフである。以下、第1実施例における後輪増力制御を説明する。
図5は図4において、前輪のABSが作動したレバー入力Zから後輪ブレーキの制動力を後輪のロック限界へ向けて増大させる後輪増力制御を示す。
【0047】
この後輪増力制御により、前輪ブレーキのABSが作動するレバー入力Zにて、後輪ブレーキの制動力は、点gから急角度で立ち上がり、所定のレバー入力Qの垂線と点hにて交わる。そこで、点g及びhにおける後輪ブレーキの各制動力をG及びHとすれば、後輪ブレーキの制動力増大分は△Rr(=H−G)となる。
このため、△Rrを△Frと同じかそれよりも大きくすれば、トータル制動力を非ABS作動時と同等もしくはそれより大きくすることができ、大きな減速度を実現できる。
しかも、後輪がロックする限界まで制動力を高めることができる。
【0048】
ここで、後輪の制動力を増大させる目標値を後輪限界目標圧Prmaxとし、△Frに相当するものを後輪目標圧Prr1とする。なお、後輪増力制御は後輪の制動力増大を目的とするものであるが、具体的には後輪ブレーキのキャリパ圧を増大させて制御するため、目標値を圧力値として表現する。実際には後輪限界制動力Rrmaxに対応するときのキャリパ圧が後輪限界目標圧Prmaxとなる。
また、トータル制動力の低下を補うためには、その低下分に相当する後輪目標圧Prr1に向けて増大させれば足りるが、目標値として後輪限界目標圧Prmaxを採用すれば、より大きなトータル制動力を実現できる可能性があるので、第1実施例では、目標値として後輪限界目標圧Prmaxを採用している。
【0049】
この後輪限界目標圧Prmaxは、図2の後輪限界制動力(Rrmax)から容易に求まる。すなわち、スリップ率を算出することによってμが決定されれば、後輪のロック限界値はこのμに対応するロック線と理想配分曲線の交点であり、例えば、μ=0.6のとき、μ=0.6のロック線と理想配分曲線の交点であるYとなるから、Yにおける後輪制動力が後輪のロック限界値である後輪限界制動力(Rrmax)であって、この制動力を与えるブレーキキャリパ18の制動圧が後輪限界目標圧Prmaxとなる。
【0050】
なお、後輪限界目標圧Prmaxの決定において、μに基づく方法を説明したが、μに代えて前輪ブレーキの制動圧に基づいて決定することもできる。すなわち、前輪ブレーキのブレーキキャリパ16におけるキャリパ圧は制動力と相関関係にあるため、このキャリパ圧を第3圧力センサ54で検出することにより、前輪ブレーキの制動力を決定できる。そこで、図2における理想配分曲線より、前輪ブレーキの制動力に対応する点を求めれば、この点における前輪の制動力が後輪限界目標圧Prmaxとなる。
なお、実施例では後輪限界目標圧Prmaxに向けて制御を行ったが、理想配分曲線に基づくABS作動時の前輪制動力の値(図2中のFr1に対応するRr2に相当する値)から後輪制動力を設定し、この値(Rr2)に向けて制御してもよい。
【0051】
次に、第1実施例の後輪増力制御方法について、図6ののフローチャートに基づいて説明する。図6のフローチャートは、連動ブレーキシステムにおけるブレーキレバー単独入力時の後輪増力制御方法を示している。
まず、ステップS1において、連動ブレーキシステムを作動するべく、圧力センサ52によって検出した前輪側のマスターシリンダ24の圧力であるレバー入力(Fとする)に応じて、前輪ブレーキの出力目標圧及び後輪ブレーキの出力目標圧を設定する。
【0052】
このように前輪側のマスターシリンダ24の圧力(レバー入力)を基準とするのはライダーの制動意思を的確に反映させるためであるが、結果的にはマスターシリンダ24に作用する液圧が前輪側のブレーキキャリパ16の制動圧とほぼ等しくなる。
ステップS2では、ステップS1で設定された各出力目標圧に基づいて前輪側液圧モジュレータ22F(Fr側Act)及び後輪側液圧モジュレータ22R(Rr側Act)をそれぞれ駆動する。
次に、前輪ブレーキの制動力が大きくなり、ABS作動条件になると、ステップS3により前輪ブレーキはABS制御される。
【0053】
このABS制御により、トータル制動力が低下するので、この低下分△Frを後輪ブレーキの制動力を増大させる目標値として後輪目標圧Prr1に設定する。なお、後輪目標圧Prr1はレバー入力Fに対する前輪ブレーキにおける入力圧と出力圧の差としても求まる(ステップS4)。なお、後輪目標圧Prr1は、入力圧と出力圧の差の値に基づいて、予め定められた所定のマップによる選択、関数による演算、さらには適宜係数を掛けることにより求めてもよい。
さらに、前後車輪速の差(前輪車輪速−後輪車輪速)から、前述したように、予め定められたところによりμを算出する(ステップS5)。なお、μに代えて前輪ブレーキの制動圧を用いることもできることは前述の通りである。
【0054】
次に、決定されたμと図2に示されている理想配分曲線から後輪限界制動力(Rrmax)に対応する後輪限界目標圧Prmaxを設定する(ステップS6)。すなわち、決定されたμのロック線と理想配分曲線との交点における後輪ブレーキの制動力(Rrmax)が後輪限界目標圧Prmaxとなる。
なお、後輪限界目標圧Prmaxは算出することも所定のマップから適宜値を選択してもよく、さらには演算等で算出してもよい。この後輪限界目標圧Prmaxが決定されると、後輪側液圧モジュレータ22R(Rr側Act)を駆動して後輪ブレーキの制動力を後輪限界目標圧Prmaxに向けて増大させる(ステップS7)。
【0055】
続いて、後輪限界目標圧Prmaxと後輪目標圧Prr1を比較し(ステップS8)、
yes(後輪限界目標圧Prmax<後輪目標圧Prr1)であれば、まだ後輪限界目標圧Prmaxに達しず、後輪ブレーキの制動力を増大させる余地があるので、ステップS7へ戻り、引き続き後輪限界目標圧Prmaxに向けて制動力を増大させるようにRr側アクチュエータ(Act)を駆動させる。
【0056】
ステップS8にてno(後輪限界目標圧Prmax≧後輪目標圧Prr1)であれば、すでに後輪限界目標圧Prmaxに達しているから、後輪ブレーキ側のABSが作動しているか否かを判断し(ステップS9)、noであれば後輪ブレーキのABS制御を処理して後輪のロックを防ぐ(ステップS10)。yesであれば直ちに処理を終了させる。
このステップS7及びS8において、後輪限界目標圧Prmaxに向けて制動力を増大させるようにRr側アクチュエータを駆動させると、図5に示すように、前輪ブレーキのABSが作動した後における所定のレバー入力Fにて、後輪ブレーキの制動力は△Rr(=H−G)だけ増加し、低下した△Fr分を回復できる。
【0057】
このようにすると、連動ブレーキシステムでブレーキレバー12を単独操作した場合は、前輪ブレーキを主にした制動を行うことができ、ライダーの意思に合致した減速感を得ることができる。
さらに、この連動ブレーキシステム作動状態で前輪ブレーキにABSが作動した場合には、後輪制動手段の制動圧である後輪ブレーキのキャリパ圧を高める方向に後輪側液圧モジュレータ22Rを駆動させるので、後輪側の制動力を高めることにより、後輪側の接地加重分担を高め、車体の減速度を高めることができる。
また、後輪ブレーキの制動圧を高めることにより、前輪ブレーキのABSが作動する制動
圧ポイントは高くなる方向にシフトさせられるため、より高い減速度を得ることが可能
になる。
【0058】
さらに、連動ブレーキシステム及び前輪ブレーキのABS作動時における後輪ブレーキの制動力は、後輪がロックされる制動力に相当する後輪限界目標圧に向けて増大するように制御されるので、ABS作動時に後輪制動手段であるブレーキキャリパ18に比較的大きな制動力が付与されるため、車両全体としての減速度を高めることができる。
【0059】
そのうえ、連動ブレーキシステム及び前輪ブレーキのABS作動時における後輪ブレーキの制動力制御は、前輪ブレーキレバー12による入力に対応して後輪ブレーキの制動圧が設定されるので、車両全体として、ライダーの操作感に近い減速度を得ることができる。
【0060】
次に、図7及び図8に基づいて第2実施例を説明する。この実施例は、後輪増力制御における後輪制動力の増大分に関する設定のみを変更したものであり、他は第1実施例と同じなので、同一符号を用い、重複部分の説明を省略する。
【0061】
図7は図6に対応するフローチャートである。ステップS11〜S16は殆ど第1実施例のステップS1〜S6と同じであり、S13を除き説明を省略する。ステップS13は同S6と異なって判別処理となり、yes(前輪ブレーキがABS制御をしている)ならばステップS14へ移り、そうでなければ(no)、ステップS11及び12に従って前輪側液圧モジュレータ22F(Fr側Act)及び後輪側液圧モジュレータ22R(Rr側Act)を制御する。
【0062】
本実施例においては、ステップS17後における制御方法に特徴がある。すなわち、後輪限界目標圧Prmax及び後輪目標圧Prr1が決定されると、ステップS17において後輪限界目標圧Prmaxが後輪目標圧Prr1よりも大きいか否か(後輪限界目標圧Prmax>後輪目標圧Prr1)を比較し、yes(後輪限界目標圧Prmax>後輪目標圧Prr1)であれば、後輪側液圧モジュレータ22R(Rr側Act)を駆動して後輪ブレーキの制動力を後輪目標圧Prr1に向けて増大させ(ステップS18)、その後ステップS20へ移る。
【0063】
ステップS17においてno(後輪目標圧Prr1≧後輪限界目標圧Prmax)であれば、後輪側液圧モジュレータ22R(Rr側Act)を駆動して後輪ブレーキの制動力を増大させるべく後輪側のキャリパ圧を後輪限界目標圧Prmaxに向けて増大させ(ステップS19)、その後ステップS20へ移る。
【0064】
ステップ20では、後輪ABS(RrABS)が作動しているか否かを判断し、noならば、後輪ブレーキの制動力はまだ後輪限界制動力に至っていないのでステップS13に戻って反復する。yesならば後輪ブレーキの制動力は既に後輪限界制動力に至っているので直ちに処理を終了する。
【0065】
図8はこの制御による後輪ブレーキの制動力変化を示すグラフであり、前輪ABS制御により、前輪ブレーキの制動力はレバー入力Zから一定となり、レバー入力Qにおいて△Frの制動力低下を生じる点は前実施例と同じである。
【0066】
一方、後輪ブレーキはステップS18において、後輪目標圧Prr1が後輪限界目標圧Prmaxより小さい場合(Prr1<Prmax)には、後輪目標圧Prr1に向けて増大させ、前輪ブレーキの制動力低下分△Frだけ増大させる。これにより、ト−タル制動力は前輪ブレーキの非ABS制御時と同じになる。したがって点g及びh間における前輪ブレーキの制動力変化を示す直線は、非ABS制御時における前輪ブレーキの制動力変化を示す直線と平行になる。
【0067】
これに対して、ステップS19のように、後輪目標圧Prr1≧後輪限界目標圧Prmaxであれば、後輪限界目標圧Prmaxに向かって後輪の制動力を増大させ、後輪のロックを防ぐ。
このように、後輪限界目標圧Prmaxと後輪目標圧Prr1を比較して、その大小により制御目標値を変化させると、後輪のロックを防ぎながら、ライダーの意思にできるだけ忠実な制動操作を可能にする。
【0068】
すなわち、△Frが比較的小さい場合(Prr1<Prmax)、ライダーはあまり大きな減速度を欲していない実情がある。このため、このような場合には、後輪ブレーキの制動力増加を前輪ブレーキの制動力低下分に見合うだけのものとして、減速度を低下させず、しかも後輪ブレーキの効き過ぎによる違和感を防いで、ライダーの制動意思に沿った制動操作感を得ることができる。
【0069】
一方、急制動時のような、後輪目標圧Prr1≧後輪限界目標圧Prmaxの場合には、後輪ブレーキがロックする限界である後輪限界目標圧を目標に制御されるため、より高い減速度を得ることが可能になる。
【符号の説明】
【0070】
10 ブレーキ装置、12:ブレーキレバー(ブレーキ操作子)、14:ブレーキペダル(ブレーキ操作子)、16:前輪側ブレーキキャリパ、18:後輪側ブレーキキャリパ、
20:コントローラ、22:液圧モジュレータ(アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪ブレーキ操作子(12)と、この前輪ブレーキ操作子(12)の操作量に応じて、前輪ブレーキ(16)と後輪ブレーキ(18)に液圧を作用させることにより制動力を与えるとともに、ABS作動時に液圧を増減させることができるアクチュエータ(22)と、このアクチュエータ(22)を制御するコントローラ(20)と、を備え、
前記コントローラ(20)は、前輪ブレーキのABSが作動していない通常制動時、前輪ブレーキ操作子(12)が操作された場合に後輪ブレーキに配分される制動力を、前後輪の制動力の理想配分に対して低く設定し、
前輪ブレーキにABSが作動したしたときには、液圧を増加させる方向に前記アクチュエータ(22)を駆動させて後輪ブレーキの制動力を高めることを特徴とするブレーキシステム。
【請求項2】
前輪ブレーキに前記ABSが作動したときにおいて、
前記コントローラ(20)は、前後輪の制動力の理想配分から前記前輪ブレーキの制動圧又はスリップ率を用いて後輪限界目標圧(Prmax)を設定し、
この後輪限界目標圧(Prmax)に向けて前記アクチュエータを駆動させることを特徴とする請求項1記載のブレーキシステム。
【請求項3】
前輪ブレーキに前記ABSが作動したときにおいて、
前記コントローラ(20)は、前記前輪ブレーキ操作子(12)の人力に応じて後輪目標圧(Prr1)を設定し、
この後輪目標圧(Prr1)に向けて前記アクチュエータ(22)を駆動させることを特徴とする請求項1記載のブレーキシステム。
【請求項4】
前輪ブレーキにABSが作動したときにおいて、
前記コントローラ(20)は、前後輪の制動力の理想配分から前記前輪ブレーキの制動圧又はスリップ率を用いて後輪限界目標圧(Prmax)を設定し、
前記後輪目標圧(Prr1)と前記後輪限界目標圧(Prmax)を比較し、
前記後輪目標圧(Prr1)が前記後輪限界目標圧(Prmax)より低い場合は、前記後輪目標圧(Prr1)に向けて前記アクチュエータを駆動させ、
前記後輪目標圧(Prr1)が前記後輪限界目標圧(Prmax)より高い場合は前記後輪限界目標圧(Prmax)に向けて前記アクチュエータを駆動させることを特徴とする請求項3に記載のブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−32052(P2013−32052A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167899(P2011−167899)
【出願日】平成23年7月31日(2011.7.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】