説明

ブレーキディスク

【課題】製作コストの上昇や重量の増大を防止しつつ、ABS用のセンサに対面する凹部を安価に且つ精度良く形成可能なブレーキディスクを提供する。
【解決手段】ブレーキ装置3のブレーキパッドが圧接される平板環状の制動ディスク10と、制動ディスク10の内側に配置されたハブディスク20とを有し、制動ディスク10又はハブディスク20の表面に、アンチロックブレーキ装置のセンサ6が対面可能な凹部5を機械加工により周方向に一定間隔おきに形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチロックブレーキ装置(以下、単にABSという。)を備えた自動二輪車のブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動二輪車においても、乗り手の安全性を一層向上するため、ABSを備えさせた自動二輪車が普及しつつある。ABSを備えた自動二輪車では、車輪の回転速度を検出手段で検出し、検出手段からの出力に基づいて車輪がロックしないように断続的に車輪を制動させることで、車輪のロックによる転倒を未然に防止できるように構成されている。
【0003】
前記検出手段としては、車輪と一体的に回転するブレーキディスクに、貫通孔や凹凸を周方向に一定間隔おきに形成したパルサーリングを取付けるとともに、パルサーリングに対面させて近接センサを設け、該近接センサの前を横切る貫通孔や凹凸の周期を検知して、車輪の回転速度を求めるように構成したものが広く採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−128956号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1記載のブレーキディスクは、機械的な強度剛性を十分に確保するため、例えばステンレス鋼などの金属材料で構成されているが、パルサーリングは、成形精度を高めるため、熱間圧延鋼材などの金属材料で構成されている。このため、ブレーキディスクとパルサーリングとの接合部には、異種金属の接合により電位差が生じて、接合部に錆が発生し易くなるという問題がある。また、ブレーキディスクとは別個にパルサーリングを製作し、これを溶接やボルト止めなどによりブレーキディスクに固定するので、ブレーキディスクの製作コストが高くなるとともに、パルサーリング分だけブレーキディスクの重量が増えるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、製作コストの上昇や重量の増大を防止しつつ、ABS用のセンサに対面する凹部を安価に且つ精度良く形成可能なブレーキディスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るブレーキディスクは、ブレーキパッドが圧接される平板環状の制動部と、制動部の内側に配置されたハブ部とを有し、前記制動部又はハブ部の表面に、アンチロックブレーキ装置のセンサが対面可能な凹部を機械加工により周方向に一定間隔おきに形成したものである。
【0008】
このブレーキディスクを搭載した自動二輪車のABSでは、制動時に、ブレーキディスクに周方向に一定間隔おきに設けた凹部をセンサで順次検出し、これを用いて車輪がロックしないように、ブレーキ装置を制御することになるが、センサに対面して設けられる凹部が、制動部又はハブ部の表面に機械加工により直接的に形成されているので、別部材からなるパルサーリングをブレーキディスクに取付ける場合と比較して、ブレーキディスクの製作コストの上昇を抑制できるとともに、ブレーキディスクの重量増加を抑制できる。しかも、別部材からなるパルサーリングを設ける場合のように、異種金属間における電位差の発生もないので、錆の発生を未然に防止できる。ただし、制動部に凹部を形成する場合には、制動部に対する焼入れ前に凹部を形成することが好ましい。
【0009】
ここで、前記制動部又はハブ部の両側面に前記凹部を形成することも好ましい実施例である。凹部は制動部又はハブ部の一方の側面に設けるだけでもよいが、制動部又はハブ部の両側面に設けると、車輪の左右にブレーキディスクを設ける場合において、両ブレーキディスクとして同じ構成のものを採用することができるので好ましい。
【0010】
前記制動部の少なくとも一方の側面の内周部に前記凹部を形成することが好ましい実施例である。制動部は、ハブ部と比較して強度剛性に優れた素材で構成されているので、この制動部に凹部を形成することで、精度良く凹部を形成することができる。しかも、側面の内周部、即ち反りなどが発生し難い部分に凹部を形成しているので、制動部に対する凹部の成形精度を高めることができる。
【0011】
前記凹部として、ブレーキディスクの半径方向に細長い凹部を形成することも好ましい実施例である。この場合には、センサにより凹部を確実に検出することができる。
【0012】
前記凹部をホブ盤による機械加工で形成することもできる。凹部の成形方法として、プレス加工やレーザー加工、切削加工などの機械加工を採用することもできるが、ホブ盤を用いると、効率的に且つ精度良く凹部を形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るブレーキディスクによれば、センサに対面して設けられる凹部が、制動部又はハブ部の表面に機械加工により直接的に形成されているので、別部材からなるパルサーリングをブレーキディスクに取付ける場合と比較して、ブレーキディスクの製作コストの上昇を抑制できるとともに、ブレーキディスクの重量増加を抑制できる。しかも、別部材からなるパルサーリングを設ける場合のように、異種金属間における電位差の発生もないので、錆の発生を未然に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】自動二輪車のブレーキ装置付近の側面図
【図2】ブレーキディスクの側面図
【図3】図1のIII-III線断面図
【図4】図1のIV-IV線断面図
【図5】他の構成のブレーキディスクの側面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。
図1〜図3に示すように、フローティングブレーキディスク1は、自動二輪車用のブレーキディスク1で、平板環状の制動ディスク10と、制動ディスク10の内側に所定の隙間をあけて内嵌装着したハブディスク20と、制動ディスク10とハブディスク20とをフローティング状態に連結する複数の連結手段30とを備え、自動二輪車のフロントフォーク2に回転自在に支持された前輪(図示略)のホイールハブに固定され、フロントフォーク2に取付けられたブレーキ装置3のブレーキパッド(図示略)にて制動ディスク10を挟持することで、前輪に対して制動力を付与できるように構成されている。
【0016】
制動ディスク10は、耐磨耗性に優れたステンレス鋼や炭素鋼からなる平坦な金属板をプレス成形した後、ブレーキパッド(図示略)が摺接される環状の摺動部11を熱処理して製作されている。摺動部11には、放熱性能を向上するとともに重量を軽減するため、複数の小孔12が形成されている。小孔12としては、図1、図2に示すような丸孔以外に細長いスリット状の長孔を形成することも可能で、小孔12の形状や個数や配列は、ブレーキディスク1の意匠性や摺動部11における放熱性を考慮して適宜に設定することができる。制動ディスク10の外周部及び内周部には複数の凹部13、14が円周方向に一定間隔おきに形成され、ブレーキディスク1の放熱性が高められるとともに軽量化が促進され、意匠的にも斬新さが表現されるように構成されている。凹部13、14の個数や形状は任意に設定可能である。ただし、凹部13、14の少なくとも一方を省略したブレーキディスク1に対しても、本発明を同様に適用することができる。制動ディスク10の寸法は、例えば外径300mm、厚さ6mmに設定したものを採用できる。
【0017】
ハブディスク20は、例えば軽量化を図るためアルミニウム合金等の軽金属材料で構成されている。ハブディスク20の中央部にはホイールハブの端部が挿通する取付孔21が形成されるとともに、取付孔21を取り囲むようにホイールハブへの取付用の複数のボルト挿通孔22が形成されている。ハブディスク20の半径方向の途中部には複数の軽減孔23が周方向に一定間隔おきに形成されている。
【0018】
図1、図2、図4に示すように、ハブディスク20の外周部にはリング部24が形成され、リング部24の少なくとも一方の側面の内周部には周方向に一定間隔おきに複数の凹部5が形成されている。凹部5は、リング部24の一方の側面にのみ形成することもできるが、リング部24の両側面に設けると、車輪の左右に配置されるブレーキディスク1として同一構成のものを採用できるので、部品点数を少なくする上で好ましい。凹部5は、リング部24の側面の半径方向の任意の位置に設けることが可能で、リング部24の側面の半径方向の外周側に形成することもできるし、リング部24の側面の半径方向の中央部に形成することもできる。また、凹部5の内周端はリング部24の内側へ開放させてもよい。
【0019】
凹部5の成形方法としては、プレス加工やレーザー加工、切削加工などを採用することができるが、ホブ盤を用いた切削加工により成形すると、効率的に且つ精度良く凹部5を形成することができる。凹部5の幅、長さ、深さは、センサ6にて凹部5の有無を確実に検出できるように、センサ6の特性に応じて設定することになる。例えば、幅3mm、長さ8mm、深さ1mmの凹部5を形成できる。凹部5の個数は任意に設定できるが、車輪の回転速度を精度良く測定するため、例えば45個以上設けることが好ましい。なお、凹部5の形状は、任意の形状に形成できるが、半径方向に細長い小判型や長方形状に形成と、凹部5の開口縁の半径方向の直線部分がセンサ6の前を横断することになるので、センサ6からの出力を明確に変化させて、確実に凹部5を検出できる。また、凹部5内に異物が付着しないように、凹部5に合成樹脂材料を充填することも好ましい実施例である。
【0020】
図1〜図3に示すブレーキディスク1では、制動ディスク10とハブディスク20とを同一平面内に配置したが、車体側の構成に応じて、制動ディスク10とハブディスク20とを、ブレーキディスク1の厚さ方向(軸心方向)に一定間隔をあけた平行な平面内に配置することも可能である。また、両ディスク10、20の厚さは、同じに設定することもできるし、異なる厚さに設定することもできる。尚、制動ディスク10やハブディスク20の構成に関しては、既存の構成のものを適宜に採用することができる。
【0021】
連結手段30は、図1〜図3に示すように、制動ディスク10とハブディスク20間に円周方向に一定間隔おきに設けられている。連結手段30の配設位置において、制動ディスク10の内周部には半円形の制動側連結凹部15が形成され、ハブディスク20の外周部には半円形のハブ側連結凹部25が制動側連結凹部15と対向状に形成され、両ディスク10、20を組み合わせた状態で、両ディスク10、20間には連結凹部15、25により略円形の連結穴31が形成される。連結穴31には連結ピン32が装着され、この連結ピン32により両ディスク10、20の相対回転及び軸方向への相対移動が規制される。連結ピン32には両ディスク10、20が同一平面内に位置するように付勢する皿バネからなるバネ部材33と該バネ部材33を受け止める座金34が取付けられ、両ディスク10、20は連結ピン32とバネ部材33と座金34を介してフローティング状態に連結されている。ただし、座金34は省略することも可能である。
【0022】
図1、図4に示すように、フロントフォーク2にはABSのためのセンサ6が凹部5に対面させて設けられている。センサ6としては、凹部5の有無を検出可能なものであれば任意の構成の非接触式の近接センサ6を採用できる。近接センサ6としては、電磁誘導を利用した高周波発振型、磁石を用いた磁気型、静電容量の変化を利用した静電容量型を採用できるが、センサ6と凹部5間に異物が付着したりすることもあるので、高周波発振型の近接センサ6を用いることが好ましい。
【0023】
近接センサ6とブレーキディスク1間の隙間は、センサ6の種類や特性に応じて適宜に設定でき、例えば0.5〜0.1mmに設定することになる。センサ6は、凹部5を形成するハブディスク20の環状面に直交状に取付けることになる。ただし、この環状面をテーパ状に形成し、センサ6をブレーキディスク1の回転中心に対して傾斜状に設けることも可能である。
【0024】
このブレーキディスク1では、センサ6に対面して設けられる凹部5が、制動ディスク10又はハブディスク20の表面に機械加工により直接的に形成されているので、別部材からなるパルサーリングをブレーキディスク1に取付ける場合と比較して、ブレーキディスク1の製作コストの上昇を抑制できとともに、ブレーキディスク1の重量増加を抑制できる。しかも、別部材からなるパルサーリングを設ける場合のように、異種金属間における電位差の発生もないので、錆の発生を未然に防止できる。
【0025】
なお、前記実施例では、ハブディスク20に凹部5を形成したが、制動ディスク10に凹部5を形成することもできる。制動ディスク10に形成する場合には、凹部5の加工性を確保するため、制動ディスク10に対する焼入れ前に凹部5を形成することが好ましい。また、焼入れ後における摺動面11の研磨により、凹部5の開口縁に角部が形成できるので、センサ6による凹部5の検出精度を高める上で好ましい。制動ディスク10に凹部5を設ける場合には、制動ディスク10の内周部に形成することになる。凹部5の形成位置は、制動ディスク10の半径方向の内周側や外周側に形成することができるが、内周側に形成すると、制動ディスク10の熱歪の影響を受け難いので好ましい。
【0026】
また、前記実施例では、制動ディスク10とハブディスク20とを分割構成したブレーキディスク1に本発明を適用した場合について説明したが、一部材からなるブレーキディスクに対しても、本発明を適用することができる。具体的には、図5に示すブレーキディスク50のように、ブレーキ装置3のブレーキパッドが圧接される環状の制動部51と、制動部51から内側へ延びてホイールハブにボルトで固定される取付部52とを備え、耐磨耗性に優れたステンレス鋼や炭素鋼からなる金属板をプレス成形してなる一部材からなるブレーキディスク50に本発明を適用する場合には、制動部51の半径方向の内周部に周方向に設定間隔おきにセンサ6に対面させて複数の凹部5を形成することになる。なお、符号53は、放熱性能を向上するとともに重量を軽減するために制動部51に設けた小孔であり、符号54は、ブレーキディスク50の放熱性を高めるとともに軽量化を促進し、意匠的にも斬新さが表現するために、制動部51の外周部に周方向に設定間隔おきに形成した凹部である。
【符号の説明】
【0027】
1 ブレーキディスク 2 フロントフォーク
3 ブレーキ装置
5 凹部 6 センサ
10 制動ディスク 11 摺動部
12 小孔 13 凹部
14 凹部 15 制動側連結凹部
20 ハブディスク 21 取付孔
22 ボルト挿通孔 23 軽減孔
24 リング部 25 ハブ側連結凹部
30 連結手段 31 連結穴
32 連結ピン 33 バネ部材
34 座金
50 ブレーキディスク 51 制動部
52 取付部 53 小孔
54 凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキパッドが圧接される平板環状の制動部と、制動部の内側に配置されたハブ部とを有し、
前記制動部又はハブ部の表面に、アンチロックブレーキ装置のセンサが対面可能な凹部を機械加工により周方向に一定間隔おきに形成した、
ことを特徴とするブレーキディスク
【請求項2】
前記制動部又はハブ部の両側面に前記凹部を形成した請求項1記載のブレーキディスク。
【請求項3】
前記制動部の少なくとも一方の側面の内周部に前記凹部を形成した請求項1記載のブレーキディスク。
【請求項4】
前記凹部として、ブレーキディスクの半径方向に細長い凹部を形成した請求項1〜3のいずれか1項記載のブレーキディスク。
【請求項5】
前記凹部をホブ盤による機械加工で形成した請求項1〜4のいずれか1項記載のブレーキディスク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−33132(P2011−33132A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180489(P2009−180489)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(305032254)サンスター技研株式会社 (97)
【Fターム(参考)】