説明

ブレーキ制御システム

【課題】液圧回路に配置される電磁弁の過熱状態を防止するとともに、制御の安定性も確保できるブレーキ制御システムを提供する。
【解決手段】DAC制御中にホイールシリンダへの増圧要求があると、ホイールシリンダ圧がEPB作動判定値P0(通電限界判定値)に達するまではECBによる増圧制御が行われ、その制動力が高められる。そして、ホイールシリンダ圧がEPB作動判定値P0に達すると、それ以降の制動力についてはEPBにより補われる。つまり、電磁弁への通電電流値が通電電流限界値を超えないように制御される。一方、減圧制御においてはもともと通電電流値が小さいため、ECBによる液圧制御が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ制御システムに関し、特に電子制御ブレーキおよび電動パーキングブレーキを備える車両のブレーキ駆動形態の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ブレーキペダルの操作力に応じた液圧を液圧回路内に発生させ、その液圧を配管を通じて各車輪のホイールシリンダに供給することにより車両に制動力を付与するブレーキ制御システムが知られている。この液圧回路には、ブレーキフルード(作動液)を貯留するマスタシリンダ、そのマスタシリンダのリザーバタンクからブレーキフルードを汲み上げるオイルポンプ、そのオイルポンプにより昇圧されたブレーキフルードを蓄積するアキュムレータを含む液圧源が設けられている。各車輪のホイールシリンダとマスタシリンダとの間には増圧弁や減圧弁等の電磁弁が設けられ、これらの電磁弁を開閉制御することによってホイールシリンダへのブレーキフルードの給排量を調整してその液圧を制御し、各車輪に適切な制動力を付与している。
【0003】
このようなブレーキ制御は、運転者によるブレーキペダルの踏み込みに応じた制御以外にも、路面状態等に応じた各種スリップ制御や車両の走行安定性を保持する各種走行制御においても行われる。たとえば、各車輪の路面に対する滑りを抑制するためのABS(Anti-lock Brake System)制御、TRC(Traction Control)制御、VSC(Vehicle Stability Control)制御、DAC(Downhill Assist Control)制御などが挙げられる。
【0004】
ところで、このようなブレーキ制御が行われるとき、各電磁弁にはその開閉制御のために通電がなされるが、その際、駆動部であるソレノイドの電磁コイルが発熱する。このため、ブレーキ制御がなかなか収束せずに長時間継続した場合にソレノイドが過熱状態となり、電磁弁の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。たとえば、DAC制御は、比較的急な下り坂、あるいは緩やかな下り坂であっても凍結した雪道などを車両が走行する際に、その車輪をロックさせることなく安定に走行を継続させる制御として知られている。このDAC制御は、車両がそのような走行環境にあるときに液圧ブレーキを自動的に制御し、車速を所定値(たとえば約5km/h)に保持したりするが、その下り坂が長い場合に上述した問題が生じる。また、TRC制御やVSC制御等においても、その制御がなかなか収束しない場合には同様の問題が生じる可能性がある。
【0005】
このような問題に対し、たとえばTRC制御時におけるソレノイドへの通電時間・非通電時間からソレノイドの発熱状態を推定し、その温度が所定温度以上になると、そのTRC制御を禁止する技術が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0006】
この技術によれば、電磁弁のソレノイドの過熱状態を防止することができる。
【0007】
また、電動駐車ブレーキにより制動力を補助することで、電磁弁の発熱を抑制する技術も提案されている(たとえば特許文献2参照)。
【0008】
この技術では、液圧ブレーキの作動時間が設定時間以上である場合に、減圧制御弁への供給電流が低減されるとともに、電動駐車ブレーキが作動されて車輪の制動力が制御される。これにより、長時間の制動時には電磁弁の発熱が抑制される。
【特許文献1】特開平7−251731号公報
【特許文献2】特開2005−238960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術では、そのTRC制御が頻繁に繰り返されたり、車両が長い下り坂を走行しているような場合には、そのTRC制御そのものが機能しなくなる可能性がある。また、特許文献2の技術では、液圧ブレーキによる制動力を下げると同時に電動駐車ブレーキによる制動力を上げるという制御を行うため、この制動力の上げ下げの混在により安定かつ高精度な制御状態を確保するのが困難となる可能性がある。
【0010】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、液圧回路に配置される電磁弁の過熱状態を防止するとともに、制御の安定性も確保できるブレーキ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキ制御システムは、液圧回路に配置された電磁弁を開閉制御してホイールシリンダに供給する液圧を制御することにより、車輪に制動力を付与する電子制御ブレーキと、電動モータの駆動により車輪の制動力を補う電動パーキングブレーキと、ホイールシリンダ内のホイールシリンダ圧を検出するシリンダ圧検出手段と、電子制御ブレーキおよび電動パーキングブレーキを駆動制御する制御部と、を備える。
【0012】
制御部は、所定の制動継続条件が成立した場合に、制動力増加要求があったときには、ホイールシリンダ圧が電磁弁の通電電流限界値に対応する通電限界判定値未満であれば、電子制御ブレーキによる増圧制御を実行し、ホイールシリンダ圧が通電限界判定値以上になると、電動パーキングブレーキにより制動力の不足分を補うように制御する。
【0013】
ここでいう「制動継続条件」とは、制動時間が比較的長くなることを示す条件であり、実際に計測された制動時間が所定時間よりも長いことをその条件としてもよいし、または制動時間が長くなると推定される条件が成立することをその条件としてもよい。後者については、車両が下り坂を走行中に所定条件下で行われる定速走行制御が実行中であることをその条件としてもよい。たとえば、DAC制御を実行中であること等をその条件としてもよい。
【0014】
また、ここでいう「通電電流限界値」は、それ以上電流値を大きくすると、制動継続により電磁弁が過熱する可能性がある供給電流の限界値またはその近傍値であってよく、適宜設定される。「通電限界判定値」には、電磁弁にその通電電流限界値に相当する通電があったときに発生が予測されるホイールシリンダ圧が設定され得る。さらに、「制動力増加要求」は、ブレーキ制御の実行過程で制御上要求されるものであり、液圧制御の実行中における「増圧要求」を含み得る。
【0015】
この態様によれば、制動時間が比較的長くなるような場合に制動力増加要求があると、ホイールシリンダ圧が通電限界判定値に達するまでは電子制御ブレーキによる増圧制御が行われ、その制動力が高められる。一方、ホイールシリンダ圧が通電限界判定値に達すると、それ以降の制動力については電動パーキングブレーキにより補われる。つまり、電磁弁への通電電流値が通電電流限界値を超えないように制御されるので、電磁弁の電磁コイルが過熱するのを防止できる。
【0016】
また、電子制御ブレーキによる制動力を残したまま、その不足分を電動パーキングブレーキにより補う制御態様をとるため、基本的に両ブレーキによる制動力の上げ下げの混在がない。このため、比較的安定な制御状態を確保することができる。
【0017】
制動力の低減については電子制御ブレーキの液圧制御により行うとよい。応答性良く制動力を調整できる電子制御ブレーキを積極的に利用するものである。
【0018】
制御部は、制動力低減要求があった場合に、ホイールシリンダ圧が通電限界判定値よりも低い予め設定した減圧限界判定値以下であれば、電動パーキングブレーキによる制動力を低減させてもよい。
【0019】
ここでいう「減圧限界判定値」とは、液圧制御による減圧の限界となる液圧値またはその近傍値であってよく、適宜設定することができる。
【0020】
この態様によれば、減圧制御では下げきれない制動力の部分を、電動パーキングブレーキにより緩めることができる。それにより、所望の制動力を実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のブレーキ制御システムによれば、液圧回路に配置される電磁弁の過熱状態を防止するとともに、制御の安定性も確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態に係るブレーキ制御システムの液圧回路を中心としたシステム構成図である。
このブレーキ制御システムのブレーキ装置1は、電子制御ブレーキ(Electronically Controlled Brake:以下「ECB」という)および電動パーキングブレーキ(Electric Parking Brake:以下「EPB」という)の双方を備えており、車両の走行状態に応じて車両の4輪のブレーキを独立かつ最適に制御する。すなわち、左右前後の車輪にECBを構成するディスクブレーキ3〜6がそれぞれ設けられるとともに、さらに左右後輪にはEPBを構成するドラムブレーキ7、8がそれぞれ設けられている。つまり、左右後輪にはドラムインディスクブレーキが設けられている。
【0024】
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動液としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、運転者によるブレーキペダル12の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ24が接続されている。マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路には、シミュレータカット弁23が設けられている。また、マスタシリンダ14には、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。
【0025】
マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、右前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されている。このブレーキ油圧制御管16は、右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポートには、左前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されている。このブレーキ油圧制御管18は、左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。右前輪用のブレーキ油圧制御管16には、右電磁開閉弁22FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18には、左電磁開閉弁22FLが設けられている。これらの右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLは、いずれも非通電時に開状態にあり、通電時に閉状態に切り換えられる常開型の電磁弁である。
【0026】
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管16には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。
【0027】
一方、リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されている。この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。また、オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されている。この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。
【0028】
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって昇圧されたブレーキフルードを蓄える。アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧のブレーキフルードは油圧給排管28へと戻される。更に、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
【0029】
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下、適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」といい、適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、いずれも非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダ20の増圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。
【0030】
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
【0031】
右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用するブレーキフルードの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。なお、本実施の形態において、ホイールシリンダ圧センサ44RRおよび44RLが「シリンダ圧検出手段」に該当する。
【0032】
ECBを構成するディスクブレーキ3〜6は、ホイールシリンダ20FR〜20RLの液圧によって作動させられる。各ディスクブレーキは、車輪とともに回転するブレーキディスクを備え、車体側に保持されたブレーキパッドがその液圧によって押し付けられることによりその摩擦力によって回転制動がかけられる。なお、ディスクブレーキそのものの構造については公知であるため、その詳細な説明については省略する。
【0033】
上述の右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等は、ブレーキ装置1の油圧アクチュエータ80を構成する。この油圧アクチュエータ80は、車載電子制御装置(以下「ECU」という)100によって制御される。
【0034】
一方、EPBを構成するドラムブレーキ7、8は、車輪とともに回転するドラムを備え、車体側に保持された一対のブレーキシューがドラムに押し付けられることによりその摩擦力によって回転制動がかけられる。ブレーキシューの一方にはレバーの一端部が回動可能に取り付けられ、そのレバーの他端部にワイヤ110の一端部が連結されている。ワイヤ110が引っ張られると、レバーが回動して一対のブレーキシューが拡開してドラムに押し付けられる。なお、ドラムブレーキそのものの構造については公知であるため、その詳細な説明については省略する。
【0035】
EPBは、上述したワイヤ110、ワイヤ110に張力を発生させるワイヤ駆動装置120、ワイヤ駆動装置120を駆動する電動モータ130等を含む。電動モータ130への供給電流はモータ駆動回路140を介して制御される。ドラムブレーキ7、8にそれぞれつながるワイヤ110の分岐点にはイコライザ150が設けられている。
【0036】
ワイヤ駆動装置120は、図示しないウォームギヤからなるギア列を備えており、電動モータ130の正回転または逆回転によりそのウォームギヤが回転してワイヤ110が引っ張られたり、緩められたりする。ギア列のいずれかの位置にはラチェット機構が配置され、ワイヤ110の巻き上げ(増し引き)時の巻き戻りを防止するとともに、任意の巻き上げ位置を保持し、制動力を維持できるように構成されている。また、巻き戻し(引き戻し)を行う場合には、ラチェット機構を解除することにより制動力の開放を瞬時に行えるようになっている。ワイヤ110に加えられる張力はイコライザ150を介して左右のドラムブレーキ7、8に等しく伝達される。モータ駆動回路140は、ECU100によって制御される。
【0037】
ECU100は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース等を備える。ECU100には、上述した油圧回路を構成する各センサ以外にも、車速を検出するための車輪速センサ、後述するDAC制御を作動させるための設定スイッチ等を含む各種センサ・スイッチ群が接続されている。また、ECU100には、上述した油圧アクチュエータ80、モータ駆動回路140等を含む各種アクチュエータが接続されている。本実施の形態において、ECU100が「制御部」に該当する。
【0038】
ECU100は、ブレーキペダル12の踏み込み量を表すペダルストロークとマスタシリンダ圧とから車両の目標減速度を算出し、算出された目標減速度に応じて各車輪のホイールシリンダ圧の目標値である目標ホイールシリンダ圧を求める。そして、ECU100は、増圧弁40および減圧弁42を通電制御し、各車輪のホイールシリンダ圧が目標ホイールシリンダ圧になるよう制御してディスクブレーキ3〜6を適切に作動させる。また、アキュムレータ圧が予め設定された制御範囲の下限値未満であるときには、ECU100は、オイルポンプ34を駆動してアキュムレータ圧を昇圧させ、アキュムレータ圧がその制御範囲に入ればオイルポンプ34の駆動を停止させる。
【0039】
ECU100は、また、運転者によって図示しないの操作スイッチが操作されると、モータ駆動回路140を制御し、ワイヤ110による適度な張力を発生させてドラムブレーキ7、8を作動させる。また、ECU100は、ECBによる制動力を補う必要が生じた場合には、運転者の意思にかかわらずモータ駆動回路140を駆動してEPBによる制動力を発生させる。
【0040】
次に、本実施の形態のブレーキ制御方法について説明する。
本実施の形態のブレーキ制御は、DAC制御の作動中のように、液圧ブレーキの作動時間が比較的長く継続するような場合に好適に実行される。すなわち、比較的急な下り坂、あるいは緩やかな下り坂であっても凍結した雪道などを車両が走行する際に、その車輪をロックさせることなく安定に走行を継続させる制御としてDAC制御がある。このDAC制御は、たとえば運転者による設定スイッチの操作を契機に動作を開始し、液圧ブレーキを自動的に制御して車速を所定値(たとえば約5km/h)に保持するものである。DAC制御の作動条件としては、たとえばDAC制御用の設定スイッチがオンにされ、アクセルペダルおよびブレーキペダルの双方が踏み込まれておらず、車速が所定値以下(たとえば25km/h以下)であることが含まれたりする。これにより、運転者は安心してステアリング操作などに集中することができる。
【0041】
このようなDAC制御は、たとえばABS制御等のように単発的に実行されるものとは異なり、液圧ブレーキの作動時間が比較的長い。このため、ECBによる制御を継続すると、そのアクチュエータを構成する電磁弁への通電時間が長くなり、そのソレノイドが過熱してしまう可能性がある。そこで、本実施の形態では、DAC制御の作動中において電磁弁の過熱を防止できるよう、特に常開型の減圧弁が設けられた後輪側のブレーキ制御において、ECBとEPBとをそれぞれ好適に実施するようにする。
【0042】
図2は、常開型の電磁弁の電流特性を表す説明図である。同図において、横軸がホイールシリンダ圧(「WC圧」と表記する)を表し、縦軸が電磁弁への通電電流値を表している。また、同図において、Aが電磁弁の開弁時の電流特性を示し、Bが増圧及び保持時に通電する電流を示す。なお、減圧時に通電する電流はAよりも小さくなる。
【0043】
すなわち、後輪側の減圧弁42RRおよび42RLのような常開型の電磁弁は、ホイールシリンダ圧の増圧時およびその増圧後の保持時には確実に閉弁するための電流を流し、減圧時には、ホイールシリンダ圧の調整を行うため、減圧弁は必要な減圧速度に合わせて電流が制御される。
【0044】
この電磁弁は、特性Aで示される所定の開弁電流にて開弁を開始する。そして、増圧および保持時には電磁弁の閉弁状態を確実にするために、特性Bで示されるように、開弁電流よりも所定値(シール電流分)高い電流が供給される。さらに、常開型の電磁弁であるため、減圧時には開弁電流よりも低い電流が供給される。よって、いずれの電流特性においても、ホイールシリンダ圧が高くなるほど通電電流値は高くなる傾向を有する。そして、図中破線にて示すように、その通電電流値には、それ以上電流値を大きくすると、制動継続により電磁弁の電磁コイルが過熱してしまう供給電流の限界値(「通電電流限界値」という)がある。言い換えれば、ECBによる制動中にホイールシリンダ圧をその通電電流限界値に対応する値以上に高めると、制動継続時間によっては電磁弁が過熱する可能性がある。
【0045】
そこで、ECU100は、基本的にECBにてDAC制御を行うようにするが、そのDAC制御中にホイールシリンダ圧が通電電流限界値に対応する値(「通電限界判定値」という)以上になると、ECBによる増圧を一時的に停止して電磁弁の過熱を防止する。そして、その制動力の不足分についてはEPBにて補うようにする。
【0046】
図3は、本実施の形態にかかるブレーキ制御処理の流れを表すフローチャートである。なお、この処理は、ECU100によるブレーキ制御処理の実行中に所定の周期で繰り返し実行される。
【0047】
まず、DAC制御の設定スイッチがオンにされているか否か等により、現在DAC制御中か否かが判断される(S10)。このとき、DAC制御中であれば(S10のY)、続いて、ホイールシリンダ圧センサ44RR、44RLの出力信号に基づき、左右後輪のホイールシリンダ圧PwcがEPB作動判定値P0以上であるか否かが判定される(S12)。このEPB作動判定値P0は、DAC制御中にEPBを補助的に作動させるか否かを判定するための閾値である。ここでは、それ以上電流値を大きくすると、制動継続により減圧弁42RRまたは42RLの電磁コイルが過熱するような供給電流の限界値(「通電限界判定値」に該当する)が予め設定される。
【0048】
このとき、ホイールシリンダ圧PwcがEPB作動判定値P0以上であると判定されると(S12のY)、続いて、増圧要求があるか否か、つまりDAC制御において制動力を増加させる必要があるか否かが判定される(S14)。このとき、増圧要求があると判定されると(S14のY)、モータ駆動回路140を制御してEPBの増し引き(ワイヤ110の巻き上げ)が行われ、制動力が増加される(S16)。すなわち、ここではECBによるさらなる増圧は行われない。したがって、DAC制御が比較的長く継続しても後輪側の電磁弁の過熱が防止される。
【0049】
一方、S14において、増圧要求がないと判定されると(S14のN)、続いて減圧要求があるか否か、つまりDAC制御において制動力を低減させる必要があるか否かが判定される(S18)。このとき、減圧要求があると判定されると(S18のY)、ECBによる減圧が行われる(S20)。すなわち、後輪側の減圧弁42RRおよび42RLは常開型の電磁弁であるため、減圧時の通電電流が小さく、その発熱量も少ない。このため、ここではEPBの引き戻し(ワイヤ110の巻き戻し)は行われず、比較的制御の精度が高いECBにて減圧が行われるようしている。S18において、減圧要求がないと判定されると(S18のN)、S20をスキップして処理を終了する。
【0050】
また、S12において、ホイールシリンダ圧PwcがEPB作動判定値P0未満であると判定されると(S12のN)、続いて、増圧要求があるか否かが判定される(S22)。このとき、増圧要求があると判定されると(S22のY)、ECBによる増圧が行われる(S24)。ここでは、電磁弁への通電電流が小さいためにその通電を継続しても不具合が生じることがないとして、EPBよりも精度のよりECBによる増圧を行うのである。
【0051】
一方、S22において、増圧要求がないと判定されると(S22のN)、続いて減圧要求があるか否かが判定される(S26)。このとき、減圧要求があると判定されると(S26のY)、続いて、ホイールシリンダ圧PwcがECB作動判定値Pε以上であるか否かが判定される(S28)。このECB作動判定値Pε(「減圧限界判定値」に該当する)は、ECBによる減圧を行うか否かを判定するための閾値である。ここでは、そのECB作動判定値Pεとして、ECBの液圧制御による減圧の限界となる液圧値が設定されている。つまり、ホイールシリンダ圧Pwcが既にECB作動判定値Pε未満に低下していれば、ECB単独による制動力の低下はそれ以上望めないとして、EPB側の調整を行おうとするものである。
【0052】
このとき、ホイールシリンダ圧PwcがECB作動判定値Pε以上であると判定されると(S28のY)、ECBによる減圧が行われる(S30)。一方、ホイールシリンダ圧PwcがECB作動判定値Pε未満であると判定されると(S28のN)、EPBの引き戻しが行われた後(S32)、ECBによる減圧が行われる(S30)。なお、S30においてECBによる減圧をあえて実行するのは、残余のホイールシリンダ圧を抜ききるという目的による。
【0053】
一方、S26において、減圧要求がないと判定されると(S26のN)、S28〜S30をスキップして処理を終了する。
【0054】
なお、S10において、DAC制御中でなければ(S10のN)、ECBによる通常の出力が行われるとともに(S34)、EPBによる通常の出力が行われる(S36)。なお、これらECBとEPBによる通常の協調制御については公知であるため、その詳細については説明を省略する。
【0055】
図4は、本実施の形態のブレーキ制御がなされたときの作用を表す説明図である。同図上段にはECBによるホイールシリンダ圧(WC圧)の変化が示されており、同図下段にはこれに対応するEPBによる制動力の変化が示されている。横軸は時間の経過を表し、縦軸は上段においてはホイールシリンダ圧を表し、下段においてはEPBによる制動力の変化を表している。
【0056】
ECBの作動によりホイールシリンダ圧が上昇して上述したEPB作動判定値P0に達すると、ECBの作動が一旦停止・保持されるとともにEPBが作動し、後輪にはそのEPBによる制動力が補助的に負荷される。その後、ブレーキ制御の進行状況に応じてホイールシリンダ圧の目標値も変化するため、その目標値が下がってEPB作動判定値P0を下回ると、ECBが再度作動される。このような処理が繰り返され、ホイールシリンダ圧がEPB作動判定値P0を超えないようにブレーキ制御が継続される。これにより、各電磁弁の過熱による損傷が防止されるとともに、必要な制動力が安定に確保される。
【0057】
以上に説明したように、本実施の形態においては、制動時間が比較的長くなると予想されるDAC制御中にホイールシリンダの増圧要求があると、ホイールシリンダ圧がEPB作動判定値P0(通電限界判定値)に達するまではECBによる増圧制御が行われ、その制動力が高められる。そして、ホイールシリンダ圧がEPB作動判定値P0に達すると、それ以降の制動力についてはEPBにより補われる。これにより、電磁弁への通電電流値が通電電流限界値を超えないように制御されるので、電磁弁の電磁コイルが過熱するのを防止できる。また、ECBによる制動力の不足分をEPBにより補う制御態様をとるため、両ブレーキによる制動力の上げ下げの混在がなく、比較的安定な制御状態を確保することができる。一方、減圧制御においてはもともと通電電流値が小さいため、ECBによる液圧制御が行われる。その結果、制動力を高精度に調整することができる。
【0058】
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0059】
たとえば、上記実施の形態では、DAC制御中であることを条件に、必要に応じてEPBによる制動力補助を行うブレーキ制御の例を示した。変形例においては、たとえばTRC制御やVSC制御等においてその制御がなかなか収束しない状態を検出し、これを条件に同様のブレーキ制御を行ってもよい。あるいは、実際に制動時間を計測し、その制動時間が所定時間よりも長いことを条件に同様のブレーキ制御を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施の形態に係るブレーキ制御システムの液圧回路を中心としたシステム構成図である。
【図2】常開型の電磁弁の電流特性を表す説明図である。
【図3】実施の形態にかかるブレーキ制御処理の流れを表すフローチャートである。
【図4】実施の形態のブレーキ制御がなされたときの作用を表す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1 ブレーキ装置、 3〜6 ディスクブレーキ、 7,8 ドラムブレーキ、 12 ブレーキペダル、 14 マスタシリンダ、 20 ホイールシリンダ、 26 リザーバタンク、 28 油圧給排管、 40 増圧弁、 42 減圧弁、 50 アキュムレータ、 100 ECU、 110 ワイヤ、 120 ワイヤ駆動装置、 130 電動モータ、 140 モータ駆動回路、 150 イコライザ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧回路に配置された電磁弁を開閉制御してホイールシリンダに供給する液圧を制御することにより、車輪に制動力を付与する電子制御ブレーキと、
電動モータの駆動により前記車輪の制動力を補う電動パーキングブレーキと、
前記ホイールシリンダ内のホイールシリンダ圧を検出するシリンダ圧検出手段と、
前記電子制御ブレーキおよび前記電動パーキングブレーキを駆動制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、所定の制動継続条件が成立した場合に、制動力増加要求があったときには、前記ホイールシリンダ圧が前記電磁弁の通電電流限界値に対応する通電限界判定値未満であれば、前記電子制御ブレーキによる増圧制御を実行し、前記ホイールシリンダ圧が前記通電限界判定値以上になると、前記電動パーキングブレーキにより制動力の不足分を補うように制御することを特徴とするブレーキ制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、制動力低減要求があったときには、前記電子制御ブレーキによる減圧制御を実行することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記ホイールシリンダ圧が前記通電限界判定値よりも低い予め設定した減圧限界判定値以下である場合に制動力低減要求があると、前記電動パーキングブレーキによる制動力を低減させることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ制御システム。
【請求項4】
前記制動継続条件として、制動時間が所定時間よりも長いこと、または前記制動時間が長くなると推定される条件が成立したことが設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のブレーキ制御システム。
【請求項5】
前記制動継続条件として、車両が下り坂を走行中に所定条件下で行われる定速走行制御が実行中であることが設定されていることを特徴とする請求項4に記載のブレーキ制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−143386(P2008−143386A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333732(P2006−333732)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】