説明

ブレーキ制御装置

【課題】 負荷の駆動初期から目標液圧に対する実液圧の応答性を高めることができるブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】 車輪に設けられたホイルシリンダ5の液圧を増減するソレノイドバルブ(第1増圧制御弁6、第2増圧制御弁7、減圧制御弁8)を駆動するコントロールユニット20を備えたブレーキ制御装置において、ソレノイドに所定の電流値を与えたときの抵抗値の変化からソレノイド温度を推定するソレノイド温度推定手段と、推定された温度に応じてソレノイドに通電する電流のデューティ比を調整するソレノイド駆動手段と、を備え、ソレノイド温度推定手段は、ソレノイドの非駆動中および駆動中、所定の時間毎に温度推定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ制御装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ソレノイドバルブの目標電流に応じた駆動デューティ比を決定するに当たり、実電流から算出したソレノイドの抵抗値からソレノイドの温度を推定し、推定温度に基づいて駆動デューティ比を補正する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2007−253930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術にあっては、ソレノイド非駆動時には温度推定を行っていないため、ソレノイドの駆動初期には目標電流に対応した駆動デューティ比が得られず、目標電流と実電流との偏差に応じた駆動デューティ比をフィードバック制御する際、ホイルシリンダの目標液圧に対し実液圧の応答が遅れるという問題があった。
【0004】
本発明の目的は、負荷の駆動初期から目標液圧に対する実液圧の応答性を高めることができるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、ソレノイドバルブの非駆動中および駆動中、所定の時間毎に温度推定を行う。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、負荷の駆動初期から目標液圧に対する実液圧の応答性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のブレーキ制御装置を実現するための最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のブレーキ制御装置の油圧回路図である。なお、4輪各々に対応して複数設けられているものについては、a,b,c,dの記号を添えている。aは前左輪、bは前右輪、cは後左輪、dは後右輪に対応する。
【0009】
実施例1のブレーキ制御装置は、ブレーキペダル1、倍力装置2、マスタシリンダ3、リザーバタンク4、ホイルシリンダ5、第1増圧制御弁6、第2増圧制御弁7、減圧制御弁8、チェック弁9、ポンプ10、電動モータ11、リリーフ弁12、マスタシリンダ圧センサ13、ホイルシリンダ圧センサ14、ブレーキスイッチ15およびコントロールユニット(ブレーキ制御手段)20を備えている。
【0010】
ブレーキペダル1は、運転者の操作力を倍力装置2に伝える。倍力装置2は、ブレーキペダル1から伝わる力を所定の倍力比となるように増幅してマスタシリンダ3に伝える。マスタシリンダ3は、倍力装置2から加わる力に比例した油圧(=マスタシリンダ圧)を発生する。発生したマスタシリンダ圧は、第1増圧制御弁6へ供給される。
【0011】
第1増圧制御弁6は、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブであり、コントロールユニット20からの指令電流により開閉動作を行い、マスタシリンダ3〜ホイルシリンダ5間の油路を断接し、マスタシリンダ圧をホイルシリンダ5に供給、または遮断する動作を行う(マスタシリンダ圧>ホイルシリンダ圧の場合)。また、第1増圧制御弁6は、ホイルシリンダ圧をマスタシリンダ3に供給、または遮断する動作を行う(マスタシリンダ圧<ホイルシリンダ圧の場合)。第1増圧制御弁6は、電流値によりバルブ開度が比例的に変化する、いわゆる比例弁を用いている。
【0012】
第2増圧制御弁7は、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブであり、コントロールユニット20からの指令電流により開閉動作を行い、ポンプ10〜ホイルシリンダ5間の油路を断接し、ポンプ圧をホイルシリンダ5に供給、または遮断する動作を行う。第2増圧制御弁7も第1増圧制御弁6と同様、比例弁を用いている。
減圧制御弁8は、コントロールユニット20からの指令電流により開閉動作を行い、リザーバタンク4〜ホイルシリンダ5間の油路を断接し、ホイルシリンダ圧をリザーバタンク4に抜き減圧する動作を行う。減圧制御弁8も第1増圧制御弁6と同様、比例弁を用いている。減圧制御弁8a,8bは、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブであるが、減圧制御弁8c,8dは、故障発生時に車両を牽引する際、ホイルシリンダ圧の封入を回避するために、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブを用いている。
【0013】
チェック弁9は、ポンプ10から第2増圧制御弁7に向かう流れを許可し、第2増圧制御弁7からポンプ10に向かう流れを規制する。ポンプ10は、電動モータ11により駆動され、リザーバタンク4からブレーキ液を吸い上げ、チェック弁9を介して第2増圧制御弁7に高圧のブレーキ液を供給する。電動モータ11は、コントロールユニット20からの指令電流により回転数制御され、ポンプ10を駆動する。
【0014】
リリーフ弁12は、ポンプ圧が所定値(例えば、油圧回路の耐圧)に到達した場合に開弁してポンプ10の吐出側をリザーバタンク4に接続し、ポンプ圧をリザーバタンク4へ開放することにより、ポンプ圧が所定値を超えるのを防止する。
【0015】
マスタシリンダ圧センサ13は、マスタシリンダ圧を検出し、検出した値をコントロールユニット20に入力する。ホイルシリンダ圧センサ14は、ホイルシリンダ圧を検出し、検出した値をコントロールユニット20に入力する。ブレーキスイッチ15は、ブレーキペダル1のON/OFFを検出し、検出した値をコントロールユニット20に入力する。
【0016】
コントロールユニット20は、マスタシリンダ圧センサ13、ホイルシリンダ圧センサ14およびブレーキスイッチ15から送られる各センサ値、および車両から送られる走行状態に関する情報(車輪速等)を入力し、内蔵されたプログラムに従い、第1増圧制御弁6、第2増圧制御弁7、減圧制御弁8および電動モータ11を駆動する。
【0017】
図2は、実施例1のソレノイド駆動回路16の回路図であり、コントロールユニット20に内蔵されている。実施例1のソレノイド駆動回路は、バッテリ21、マイクロコンピュータ22、ブレーキシステム起動スイッチ23、各ソレノイドバルブ(第1増圧制御弁6、第2増圧制御弁7、減圧制御弁8)を作動させるソレノイド(負荷)24A〜24J、バッテリ21と負荷の中間に設置されたリレー25、リレー25を駆動させるリレー駆動回路26、各ソレノイド24A〜24Jに電流を通電させるスイッチング素子27A〜27J、および各ソレノイド24A〜24Jと直列に接続されスイッチング素子27A〜27Jによって発生した電流を電圧に変換する電流検出回路28A〜28Jを備える。
【0018】
実施例1のブレーキ制御では、運転者がブレーキペダル1を踏み込むとマスタシリンダ圧センサ13がその操作量をアナログの電圧値に変換してコントロールユニット20へ送る。コントロールユニット20は、ブレーキ操作量に応じて後輪に発生させるべきホイルシリンダ圧(目標液圧)を算出し、目標液圧を発生させるために必要な各ソレノイドバルブの開度と電動モータ11の回転数とを電流値(目標電流)に変換し、ソレノイド駆動回路16およびモータ駆動回路(不図示)へ出力する。
【0019】
ソレノイド駆動回路16には、負荷である各ソレノイド24A〜24Jで発生した電流を検出できるように、上述した電流検出回路28A〜28Jが接続されており、検出された値は、マイクロコンピュータ22に入力され、上述の目標電流との偏差をなくすようにフィードバック制御を実行する。
なお、モータ駆動回路も同様に、負荷であるモータコイルで発生した電流を検出できるよう電流検出回路が接続されており、検出された値は、モータ駆動回路のマイクロコンピュータに入力され、目標電流との偏差をなくすようにフィードバック制御を実行する。
【0020】
ここで、ソレノイド24への目標電流が算出されると、図3に示すように、あらかじめ実験でテーブル化された電流−駆動デューティ比の関係からスイッチング素子27へ印加すべき駆動デューティ比が導出される。このテーブル化の際、ソレノイド24の抵抗値は、所定温度での特性が用いられるが、エンジンルーム内の温度上昇やアンチスキッドブレーキ制御の直後では、ソレノイド24の温度上昇によって抵抗値の特性が変化する。
このため、テーブル化された駆動デューティ比をそのまま使用した場合、ソレノイド24に流れる実電流と目標電流との偏差が発生する。この抵抗値の特性変化に伴う偏差は、電動モータ11のコイルについても同様に発生する。
【0021】
そこで、実施例1では、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまで、すなわち、ソレノイド24およびコイルの駆動状態にかかわらず、対応する電流検出回路から得られた実電流からソレノイド24およびコイルの温度をそれぞれ推定し、推定した温度に基づき、目標電流が得られるようにスイッチング素子27の駆動デューティ比を補正する。
【0022】
ここで、ソレノイド24およびコイルの抵抗値は、オームの法則を用い、スイッチング素子駆動電圧を、電流検出回路28で検出された電流値で除算することで算出できる。また、温度と抵抗値は、図4に示すように線形の関係があるため、あらかじめ実験によりソレノイド24およびコイルの温度−抵抗値テーブルを用意しておくことで、抵抗値から温度を推定できる。
【0023】
〔ブレーキ制御処理〕
図5は、実施例1のコントロールユニット20で実行されるブレーキ制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、本制御処理は、所定の演算周期で繰り返し実行される。
【0024】
ステップS1では、ブレーキ制御処理を開始するか否かを判定する。YESの場合にはステップS2へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。ここで、ブレーキ制御処理の開始判定は、運転者のブレーキ操作開始をブレーキスイッチ15により検出して行う。
【0025】
ステップS2では、後輪のホイルシリンダ圧を増圧するか否かを判定する。YESの場合にはステップS3へ移行し、NOの場合にはステップS6へ移行する。
【0026】
ステップS3では、第2増圧制御弁7を開弁方向へデューティ制御、減圧制御弁8c,8dを閉弁方向へデューティ制御すると共に、電動モータ11をデューティ制御してポンプ10を駆動し、ステップS4へ移行する。すなわち、増圧時は、ポンプ10〜ホイルシリンダ5c,5d間の油路を接続し、ポンプ圧をホイルシリンダ5c,5dへ供給する。
【0027】
ステップS4では、ホイルシリンダ圧センサ14により検出されたホイルシリンダ圧が目標値に到達したか否かを判定する。YESの場合にはステップS5へ移行し、NOの場合にはステップS3へ移行する。
【0028】
ステップS5では、第2増圧制御弁7を閉とし、電動モータ11をOFFしてポンプ10の駆動を停止し、ステップS11へ移行する。すなわち、増圧によりホイルシリンダ圧が目標値に到達した場合は、ポンプ10〜ホイルシリンダ5c,5d間の油路を遮断し、ホイルシリンダ圧を保持する。
【0029】
ステップS6では、後輪のホイルシリンダ圧を減圧するか否かを判定する。YESの場合にはステップS7へ移行し、NOの場合にはステップS10へ移行する。
【0030】
ステップS7では、第2増圧制御弁7を閉、減圧制御弁8c,8dを開とし、ステップS8へ移行する。すなわち、減圧時は、リザーバタンク4〜ホイルシリンダ5c,5d間の油路を接続し、ホイルシリンダ5c,5dのブレーキ液をリザーバタンク4に抜く。
【0031】
ステップS8では、ホイルシリンダ圧センサ14により検出されたホイルシリンダ圧が目標値に到達したか否かを判定する。YESの場合にはステップS9へ移行し、NOの場合にはステップS7へ移行する。
【0032】
ステップS9では、減圧制御弁8c,8dを閉弁方向へデューティ制御し、ステップS11へ移行する。すなわち、減圧によりホイルシリンダ圧が目標値に到達した場合は、リザーバタンク4〜ホイルシリンダ5c,5d間の油路を遮断し、ホイルシリンダ圧を保持する。
【0033】
ステップS10では、第2増圧制御弁7を閉、減圧制御弁8c,8dを閉弁方向へデューティ制御し、ステップS11へ移行する。すなわち、保持時には、ポンプ10〜ホイルシリンダ5c,5d間の油路およびリザーバタンク4〜ホイルシリンダ5c,5d間の油路を遮断し、ホイルシリンダ圧を保持する。
【0034】
ステップS11では、ブレーキ制御処理を終了するか否かを判定する。YESの場合にはリターンへ移行し、NOの場合にはステップS2へ移行する。ここで、ブレーキ制御処理の終了判定は、運転者のブレーキ操作終了をブレーキスイッチ15により検出して行う。
【0035】
ステップS3、ステップS9およびステップS10におけるソレノイド24のデューティ制御では、後述する温度推定処理によって推定したソレノイド24の温度に応じて駆動デューティ比を補正する。また、ステップS3のコイルのデューティ制御も同様に、推定したコイルの温度に応じて駆動デューティ比を補正する。
【0036】
なお、推定したソレノイド24またはコイルの温度が所定の高温閾値よりも高い場合には、運転者に警告すると共に、温度がある程度低下するまでの間、上記ブレーキ制御処理を中止する。このとき、前輪のみで制動力を発生させる必要があるため、通常時よりも倍力装置2の倍力比を大きくしてもよい。
【0037】
上記フローチャートにおいて、ステップS3、ステップS9およびステップS10により、推定された温度に応じてソレノイド24の駆動デューティ比を調整するソレノイド駆動手段が構成される。また、ステップS3により、推定したコイル温度に応じてコイルの駆動デューティ比を調整するコイル駆動手段が構成される。
【0038】
〔温度推定処理〕
図6は、実施例1のコントロールユニット20で実行される温度推定処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この処理は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、各ソレノイドバルブに対し、上記ブレーキ制御処理と並行して実行される。
【0039】
ステップS21では、タイマtimeのカウント値が閾値ti0[sec]であるいか否かを判定する。YESの場合にはステップS22へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。ここで、閾値ti0の初期値は値ti1(第1の間隔)[sec]とする。
【0040】
ステップS22では、目標液圧に応じてソレノイドバルブを作動させるためのスイッチング素子駆動電圧が出力されているか否かを判定する。YESの場合にはステップS23へ移行し、NOの場合にはステップS24へ移行する。
【0041】
ステップS23では、抵抗値を推定するために、ソレノイドバルブが駆動しない程度の大きさである温度推定電流が発生するよう、スイッチング素子27へ駆動指令を出力し、ステップS24へ移行する。
【0042】
ステップS24では、電流検出回路28にてソレノイド24に流れている電流値を読み取り、ステップS25へ移行する。
【0043】
ステップS25では、スイッチング素子駆動電圧をステップS24で得た電流値で除算してソレノイドの抵抗値を算出すると共に、図4の関係から推定温度thermoを算出し、ステップS26へ移行する(ソレノイド温度推定手段に相当)。
【0044】
ステップS26では、ステップS25で算出した推定温度thermoと所定温度(第1の温度閾値)th0とを比較し、推定温度thermoが高温か否かを判定する。YESの場合にはステップS27へ移行し、NOの場合にはステップS28へ移行する。
【0045】
ステップS27では、温度推定を実施するタイミングを決定する閾値ti0に値ti1[sec]をセットし、リターンへ移行する。ここで、値ti1は、上記ブレーキ制御処理の演算周期よりも長い時間とする。
【0046】
ステップS28では、温度推定を実施するタイミングを決定する閾値ti0に値ti2(第2の間隔)[sec](>ti1)をセットし、リターンへ移行する。値ti2は、例えば、ti1の2倍とする。
【0047】
上記温度推定処理において、ソレノイド24を電動モータ11のコイルに置き換え、所定温度th0をコイルに応じた値に変更することで、コイルの温度推定処理となり、ステップS25はコイル温度推定手段に相当する。なお、ti1およびti2を適宜変更してもよい。
【0048】
次に、作用を説明する。
〔ソレノイドバルブ非制御中の温度推定作用〕
上記特許文献1では、ソレノイドバルブの目標電流に応じた駆動デューティ比を決定するに当たり、実電流から算出したソレノイドの抵抗値からソレノイドの温度を推定し、推定温度に基づいて駆動デューティ比を補正している。ところが、ソレノイド非駆動時には温度推定を行っていないため、ソレノイドの駆動初期には目標電流に対応した駆動デューティ比が得られず、目標電流と実電流との偏差に応じた駆動デューティ比をフィードバック制御する際、ホイルシリンダの目標液圧に対し実液圧の応答が遅れる。
【0049】
これに対し、実施例1では、ソレノイドバルブの非駆動中もソレノイド24の温度を推定しているため、ソレノイド24の温度変化による目標電流と駆動デューティ比との関係の変化に基づいて駆動デューティ比を補正できる。したがって、ソレノイドバルブの駆動初期からフィードバック量を小さく抑え、ホイルシリンダ5の目標液圧に対し実液圧の応答性を高めることができる。
【0050】
また、実施例1では、電動モータ11の非駆動中もコイルの温度を推定しているため、電動モータ11の駆動初期からフィードバック量を小さく抑え、ホイルシリンダ5の目標液圧に対し実液圧の応答性を高めることができる。
【0051】
ここで、ソレノイドバルブまたは電動モータ11の非駆動時には、当該ソレノイドバルブまたは電動モータ11を駆動するためのスイッチング素子駆動電圧が出力されていないため、このままでは推定温度を算出できない。そこで、実施例1では、ソレノイドバルブまたは電動モータ11の非駆動時には、ソレノイドバルブまたは電動モータ11が駆動しない程度の温度推定電流を通電している。これにより、ソレノイドバルブまたは電動モータ11の非駆動中であっても温度の推定および故障診断が可能となる。
【0052】
また、実施例1では、ソレノイド24またはコイルの推定温度が高温となった場合には、温度推定周期をより長くし、温度推定頻度を少なくしている。理由は、ソレノイド24またはコイルが一旦高温になると、温度がある程度低下するまでに時間を要するため、無駄な温度推定を抑制する必要があるからである。また、温度を推定するためには温度推定電流を流さなければならず、温度上昇につながるからである。
【0053】
よって、ソレノイド24またはコイルの推定温度が高い場合には、温度推定頻度を低下させることで、温度上昇を抑制でき、ソレノイドバルブおよび電動モータ11の保護を図ることができる。
【0054】
図7は、実施例1の温度推定作用を示すタイムチャートで、左後輪の減圧制御弁の動作を例に説明する。
時点t1では、イグニッションスイッチがONされるため、ブレーキシステムを起動し、各ソレノイドバルブの作動確認、電流検出回路28の作動確認、各センサのゼロ点補正などのイニシャルチェックを実行する。同時に温度推定処理を開始する。
【0055】
時点t2では、温度推定処理開始からti1[sec]が経過したため、ソレノイド24の温度推定を実施する。このとき、目標液圧に応じたスイッチング素子駆動電圧は出力されていないため、減圧制御弁8のソレノイド24には減圧制御弁8が駆動しない(閉じない)程度の温度推定電流を流してソレノイド24の抵抗値を算出すると共に温度を推定し、推定温度により駆動デューティ比を補正する。
【0056】
時点t3では、運転者がブレーキペダル1を踏み込んだため、ブレーキ制御処理を開始し、ホイルシリンダ5の増圧を開始する。このとき、減圧制御弁8には目標液圧に応じたスイッチング素子駆動電圧が出力されるため、当該スイッチング素子電圧と検出した電流値からソレノイド24の抵抗値を算出すると共に温度を推定し、推定温度により駆動デューティ比を補正する。
時点t4では、運転者が一定の踏力でホイルシリンダ5の液圧を保持する。このとき、減圧制御弁8は閉じたままであるため、時点t3と同様の方法で抵抗値の算出、温度の推定を行う。
【0057】
時点t5では、運転者がブレーキペダル1を踏み戻したため、減圧制御弁8を開き、ホイルシリンダ5の減圧を開始する。
時点t6では、目標液圧に応じたスイッチング素子駆動電圧は出力されていないため、減圧制御弁8のソレノイド24には減圧制御弁8が駆動しない程度の温度推定電流を流してソレノイド24の抵抗値を算出すると共に温度を推定し、推定温度により駆動デューティ比を補正する。また、ソレノイド24の推定温度が温度推定値th0を超えたため、温度推定タイミングを決める閾値ti0を値ti1から値ti2に延ばす。
【0058】
時点t7では、運転者がブレーキをOFFする。
時点t8では、時点t6からti2[sec]が経過したため、ソレノイド24の温度推定を実施する。このとき、目標液圧に応じたスイッチング素子駆動電圧は出力されていないため、減圧制御弁8のソレノイド24には減圧制御弁8が駆動しない程度の温度推定電流を流してソレノイド24の抵抗値を算出すると共に温度を推定し、推定温度により駆動デューティ比を補正する。
【0059】
次に、効果を説明する。
実施例1のブレーキ制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 車輪に設けられたホイルシリンダ5の液圧を増減するソレノイドバルブ(第1増圧制御弁6、第2増圧制御弁7、減圧制御弁8)を駆動するコントロールユニット20を備えたブレーキ制御装置において、ソレノイド24に所定の電流値を与えたときの抵抗値の変化からソレノイド温度を推定するソレノイド温度推定手段(ステップS25)と、推定された温度に応じてソレノイド24に通電する電流のデューティ比を調整するソレノイド駆動手段(ステップS3、ステップS9およびステップS10)と、を備え、ソレノイド温度推定手段は、ソレノイド24の非駆動中および駆動中、所定の時間ti0毎に温度推定を行う。これにより、ソレノイドバルブの駆動初期からフィードバック量を小さく抑え、ホイルシリンダ5の目標液圧に対し実液圧の応答性を高めることができる。
【0060】
(2) 車輪に設けられたホイルシリンダ5の液圧を増減するソレノイドバルブ(第1増圧制御弁6、第2増圧制御弁7、減圧制御弁8)を駆動するコントロールユニット20と、ソレノイド24に所定の電流値を与えたときの抵抗値の変化からソレノイド温度を推定するソレノイド温度推定手段(ステップS25)と、推定された温度に応じてソレノイド24に通電する電流のデューティ比を調整するソレノイド駆動手段(ステップS3、ステップS9およびステップS10)と、を備え、ソレノイド温度推定手段は、ソレノイド24の駆動状態にかかわらず、推定された温度が第1の温度閾値th0未満のときは第1の間隔ti1毎に温度推定すると共に、第1の温度閾値th0以上のときは第1の間隔ti1よりも長い第2の間隔ti2で温度推定を行う。これにより、ソレノイドバルブの駆動初期からフォードバック量を小さく抑え、ホイルシリンダ5の目標液圧に対し実液圧の応答性を高めることができると共に、ソレノイド24の温度上昇を抑制してソレノイド24の保護を図ることができる。
【0061】
(3) 車輪に設けられたホイルシリンダ5の液圧を増減するソレノイドバルブ(第1増圧制御弁6、第2増圧制御弁7、減圧制御弁8)とポンプ10を駆動する電動モータ11とを駆動するコントロールユニット20を備えたブレーキ制御装置において、電動モータ11のコイルに所定の電流値を与えたときの抵抗値の変化からコイル温度を推定するコイル温度推定手段(ステップS25)と、推定されたコイル温度に応じてコイルに通電する電流値を調整するコイル駆動手段(ステップS3)と、を備え、コイル温度推定手段は、電動モータ11の非駆動中および駆動中、所定の時間毎に温度推定を行う。これにより、電動モータ11の駆動初期からフィードバック量を小さく抑え、ホイルシリンダ5の目標液圧に対し実液圧の応答性を高めることができる。
【0062】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されるものではなく、例えば、実施例1では、全てのソレノイドバルブを比例弁する例を示したが、ソレノイドバルブの一部を、開位置と閉位置の2位置のみとる、いわゆるONOFF弁としてもよい。
【0063】
また、実施例1の油圧回路は一例であって、本発明は、車輪に設けられたホイルシリンダの液圧を増減するソレノイドバルブを駆動するブレーキ制御手段を備えたブレーキ制御装置に適用でき、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置の油圧回路図である。
【図2】実施例1のソレノイド駆動回路16の回路図である。
【図3】電流−駆動デューティ比の関係図である。
【図4】温度−抵抗値の関係図である。
【図5】実施例1のコントロールユニット20で実行されるブレーキ制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1のコントロールユニット20で実行される温度推定処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】実施例1の温度推定作用を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0065】
5 ホイルシリンダ
6 第1増圧制御弁(ソレノイドバルブ)
7 第2増圧制御弁(ソレノイドバルブ)
8 減圧制御弁(ソレノイドバルブ)
10 ポンプ
11 電動モータ
20 コントロールユニット(ブレーキ制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に設けられたホイルシリンダの液圧を増減するソレノイドバルブを駆動するブレーキ制御手段を備えたブレーキ制御装置において、
前記ソレノイドバルブのソレノイドに所定の電流値を与えたときの抵抗値の変化からソレノイド温度を推定するソレノイド温度推定手段と、
推定された温度に応じて前記ソレノイドに通電する電流のデューティ比を調整するソレノイド駆動手段と、
を備え、
前記ソレノイド温度推定手段は、前記ソレノイドバルブの非駆動中および駆動中、所定の時間毎に温度推定を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
車輪に設けられたホイルシリンダの液圧を増減するソレノイドバルブを駆動するブレーキ制御手段と、
前記ソレノイドバルブのソレノイドに所定の電流値を与えたときの抵抗値の変化からソレノイド温度を推定するソレノイド温度推定手段と、
推定された温度に応じて前記ソレノイドに通電する電流のデューティ比を調整するソレノイド駆動手段と、
を備え、
前記ソレノイド温度推定手段は、前記ソレノイドバルブの駆動状態にかかわらず、推定された温度が第1の温度閾値未満のときは第1の間隔毎に温度推定すると共に、前記第1の温度閾値以上のときは前記第1の間隔よりも長い第2の間隔で温度推定を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
車輪に設けられたホイルシリンダの液圧を増減するソレノイドバルブとポンプを駆動する電動モータとを駆動するブレーキ制御手段を備えたブレーキ制御装置において、
前記電動モータのコイルに所定の電流値を与えたときの抵抗値の変化からコイル温度を推定するコイル温度推定手段と、
推定されたコイル温度に応じて前記コイルに通電する電流値を調整するコイル駆動手段と、
を備え、
前記コイル温度推定手段は、前記電動モータの非駆動中および駆動中、所定の時間毎に温度推定を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−95206(P2010−95206A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269406(P2008−269406)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】