説明

ブレーキ制御装置

【課題】ブレーキペダルの操作量に応じて電動アクチュエータでピストンを駆動してマスタシリンダで液圧を発生させるブレーキ制御装置において、回生協調時の制御を容易にする。
【解決手段】ブレーキペダル19の操作量に応じて、マスタ圧制御装置4により、電動モータ22の作動を制御してプライマリピストン8を駆動し、マスタシリンダ2で液圧を発生させてホイールシリンダBa〜Bdに供給する。マスタ圧制御装置4では、入力ピストン17とプライマリピストン8との目標相対変位ΔXT及びマスタシリンダ2の目標液圧PTを設定し、いずれを用いるかを適宜切換えて制動力を制御する。回生協調時には、目標液圧PTを用いた制御に切換えることにより、回生分の液圧を差引く液圧制御を容易に行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ装置の作動を制御するブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキ装置においては、負圧アクチュエータや電動アクチュエータ、ホイール圧制御機構等を用いて、運転者によるブレーキの操作力を補助する倍力制御及びブレーキアシスト制御、あるいは、路面状態及び走行状態等に応じて車輪毎に制動力を調整することにより、制動時の車輪のロックを防止するアンチロック制御、アンダーステア、オーバーステアを抑制して操縦安定性を高める車両安定性制御等の種々な制御が行なわれている。
【0003】
そして、特許文献1には、運転者によるブレーキペダルの操作量を検出し、ブレーキペダルに連結された入力部材とマスタシリンダのプライマリピストンとの相対変位に基づき、プライマリピストンを駆動する電動アクチュエータの作動を制御することにより、倍力制御、ブレーキアシスト制御等の種々のブレーキ制御を実行する電動倍力装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−112426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらのブレーキ制御の一つとして回生協調制御が知られている。回生協調制御は、パワーユニットとして、電動モータを備えたいわゆるハイブリッド自動車や電気自動車等において、減速時及び制動時等に車輪の回転によって発電機(電動モータ)を駆動することにより、運動エネルギーを電力として回収し、このとき、運転者によるブレーキ操作に対して、発電機(電動モータ)による制動分を差引いてブレーキ装置が発生する制動力を調整することにより、これらの合計で所望の制動力が得られるようにしたブレーキ制御である。
【0006】
このような回生協調制御を実行する場合、上記特許文献1のように入力部材とプライマリピストンとの相対変位に基づく制御では、発電機による回生分を入力部材とプライマリピストンとの相対変位に換算して制御を行なうことになるため、演算が複雑で制御が煩雑になり、運転者のブレーキ操作量に応じたブレーキ力を得る制御が困難で、良好なブレーキ操作フィーリングが得にくくなっている。また、その他の制御でも入力部材とプライマリピストンとの相対変位に換算して制御することが適切に行なえない場合がある。
【0007】
本発明は、種々の制御を適切に実行することができるブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、前記入力部材に対して移動可能に配置されたピストンと、前記ピストンを進退移動させるアクチュエータとを備え、前記ブレーキペダルによる前記入力部材の移動に応じて前記アクチュエータを作動させて前記ピストンに推力を発生させてマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させるブレーキ制御装置であって、
前記ブレーキペダルの操作量に基づいて前記入力部材と前記ピストンとの相対変位について目標相対変位を設定し、これらの相対変位が前記目標相対変位となるように前記アクチュエータの作動を制御する相対変位制御手段と、
前記ブレーキペダルの操作量に基づいて前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧について、目標液圧を設定し、前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が前記目標液圧になるように前記アクチュエータの作動を制御する液圧制御手段と、
前記相対変位制御手段及び前記液圧制御手段のいずれによって前記アクチュエータの作動を制御するかを切換える制御切換手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るブレーキ制御装置によれば、種々のブレーキ制御を適切に実行することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置の概略構成を示す回路図である。
【図3】図2のマスタ圧制御装置による制御を示すブロック図である。
【図4】図1に示すブレーキ制御装置のマスタシリンダにおける力の釣合いを示す説明図である。
【図5】相対変位制御手段におけるブレーキペダルの操作量と目標相対変位との関係を示すグラフ図である。
【図6】目標相対変位を制限した場合のブレーキペダルの操作量と目標相対変位との関係を示すグラフ図である。
【図7】液圧変位制御手段におけるブレーキペダルの操作量と目標液圧との関係を示すグラフ図である。
【図8】目標液圧を制限した場合のブレーキペダルの操作量と目標液圧との関係を示すグラフ図である。
【図9】ブレーキペダルの操作量とマスタシリンダのブレーキ液圧との関係を示すグラフ図である。
【図10】ブレーキペダルの変位方向でヒステリシスを有する場合の相対変位制御を示すフローチャートである。
【図11】制御入力の切換制御を示すフローチャートである。
【図12】ブレーキペダルの変位方向でヒステリシスを有する場合の液圧制御を示すフローチャートである。
【図13】回生制動システムの作動の有無による切換制御を示すフローチャートである。
【図14】通常の制動力制御か否かによる切換制御を示すフローチャートである。
【図15】ホイール圧制御中か否かによる切換制御を示すフローチャートである。
【図16】HSA作動中か否かによる切換制御を示すフローチャートである。
【図17】停車中か否かによる切換制御を示すフローチャートである。
【図18】図13乃至図17に示す切換制御を組合わせた制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態に係るブレーキ制御装置の概略構成を図1に示す。図1に示すように、本実施形態に係るブレーキ制御装置1は、自動車の制動装置に適用して、左前輪Wa、右後輪Wb、右前輪Wc、左後輪Wdの4輪の制動力を制御するためのものである。ブレーキ制御装置1は、マスタシリンダ2と、マスタシリンダ2に一体に組込まれたマスタ圧制御機構3と、マスタ圧制御機構3の作動を制御するマスタ圧制御ユニット4と、各車輪Wa、Wb、Wc、Wdに装着された液圧ブレーキBa、Bb、Bc、Bdのホイールシリンダに供給する液圧を制御するホイール圧制御機構5と、このホイール圧制御機構5の作動を制御するホイール圧制御ユニット6とを備えている。
【0012】
マスタシリンダ2は、タンデム型マスタシリンダであって、ブレーキ液が充填されたシリンダ7内の開口側にプライマリピストン8(ピストン)が挿入され、底部側にセカンダリピストン9が挿入され、プライマリピストン8とセカンダリピストン9との間にプライマリ室10を形成し、セカンダリピストン9とシリンダ7の底部との間にセカンダリ室11を形成している。そして、プライマリピストン8の前進により、プライマリ室10内のブレーキ液を加圧すると共に、セカンダリピストン9を前進させてセカンダリ室11内のブレーキ液を加圧して、プライマリポート12及びセカンダリポート13からホイール圧制御機構5を介して液圧ブレーキBa、Bb、Bc、Bdのホイールシリンダにブレーキ液を供給する。プライマリ室10及びセカンダリ室11には、リザーバ14が接続されている。リザーバ14は、プライマリピストン8及びセカンダリピストン9が原位置にあるとき、プライマリ10室及びセカンダリ室11に連通して、マスタシリンダ2にブレーキ液を適宜補充する。プライマリピストン8及セカンダリピストン9は、戻しバネ15、16によって原位置に付勢されている。
【0013】
このように、プライマリピストン8及びセカンダリピストン9の2つのピストンによってプライマリポート12及びセカンダリポート13から2系統の液圧回路にブレーキ液を供給することにより、万一、一方の液圧回路が失陥した場合でも、他方の液圧回路によって液圧を供給することでき、制動力を確保することができる。
【0014】
プライマリピストン8の中心部には、入力部材である入力ピストン17が摺動可能かつ液密的に貫通され、入力ピストン17の先端部がプライマリ室10内に挿入されている。入力ピストン17の後端部には、入力ロッド18が連結され、入力ロッド18はマスタ圧制御機構3を貫通して外部へ伸ばされ、その端部にブレーキペダル19が連結されている。プライマリピストン8と入力ピストン17との間には、一対の中立バネ20、21が介装され、プライマリピストン8及び入力ピストン17は、中立バネ20、21のバネ力によって中立位置に弾性的に保持され、これらの軸方向の相対変位に対して中立バネ20、21のバネ力が作用するようになっている。
【0015】
マスタ圧制御機構3は、プライマリピストン8を駆動するアクチュエータである電動モータ22と、プライマリピストン8と電動モータ22との間に介装された回転−直動変換機構であるボールネジ機構23及び減速機構であるベルト減速機構24とを備えている。電動モータ22は、その回転位置を検出する位置センサ25を備え、マスタ圧制御装置4からの指令によって作動して、所望の回転位置が得られるようになっている。電動モータ22は、例えば公知のDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等とすることができるが、制御性、静粛性、耐久性等の観点から本実施形態ではDCブラシレスモータを採用している。
【0016】
ボールネジ機構23は、入力ロッド18が挿入された中空の直動部材26と、直動部材26が挿入された円筒状の回転部材27と、これらの間に形成されたネジ溝に装填された複数の転動体であるボール28(鋼球)とを備え、直動部材26の前端部がプライマリピストン8の後端部に当接し、回転部材27が軸受29によってシリンダ7に回転可能に支持されている。そして、電動モータ22によってベルト減速機構24を介して回転部材27を回転させることにより、ネジ溝内をボール28が転動し、直動部材26が直線運動してプライマリピストン8を移動させるようになっている。直動部材26は、戻しバネ30によって後退位置側に付勢されている。
【0017】
なお、回転−直動変換機構は、電動モータ22(すなわち減速機構24)の回転運動を直線運動に変換してプライマリピストン8に伝達するものであれば、ラックアンドピニオン機構等の他の機構を用いることができるが、本実施形態では、遊びの少なさ、効率、耐久性等の観点から、ボールネジ機構23を採用している。ボールネジ機構23は、バックドライバビリティを有しており、直動部材26の直線運動によって回転部材27を回転させることができる。また、直動部材26は、プライマリピストン8に後方から当接し、プライマリピストン8が直動部材26から離れて単独で前進できるようになっている。これにより、万一、電動モータ22が断線等によって作動不能になった場合、直動部材26が戻しバネ30のバネ力によって後退位置に戻され、このとき、プライマリピストン8は単独で移動できるので、ブレーキの引き摺りを防止することができ、また、ブレーキペダル19によって入力ピストン17を操作し、さらに、入力ロッド18を介してプライマリピストン8を操作することにより、液圧を発生させることができる。
【0018】
ベルト減速機構24は、電動モータ22の出力軸に取付けられた駆動プーリ31と、ボールネジ機構23の回転部材27の周囲に取付けられた従動プーリ32と、これらの間に巻装されたベルト33とを含み、電動モータ22の出力軸の回転を所定の減速比で減速してボールネジ機構23に伝達するものである。ベルト減速機構24に、歯車減速機構等の他の減速機構を組み合わせてもよい。ベルト減速機構24の代りに、公知の歯車減速機構、チェーン減速機構、差動減速機構等を用いることができるが、また、電動モータ22によって充分大きなトルクが得られる場合には、減速機構を省略して、電動モータ22によって回転−直動変換機構を直接駆動するようにしてもよい。
【0019】
入力ロッド18には、ブレーキ操作量検出装置34が連結されている。ブレーキ操作量検出装置34は、少なくとも入力ロッド18の位置又は変位量(ストローク)を検出できるもの(ストローク検出手段)であり、入力ロッド18の変位センサを含む複数の位置センサと、運転者によるブレーキペダル19の踏力を検出する力センサとを含むものであってもよい。
【0020】
ホイール圧制御機構5は、マスタシリンダ2のプライマリポート12からの液圧を左前輪Wa及び右後輪Wbのブレーキ装置Ba、Bbに供給するための第1液圧回路5Aと、セカンダリポート13からの液圧を右前輪Wc及び左後輪Wdのブレーキ装置Bc、Bdに供給するための第2液圧回路5Bとからなる2系統の液圧回路を備えている。本実施形態では、ブレーキ装置Ba〜Bdは、液圧をホイールシリンダに供給してピストンを前進させ、ブレーキパッドを車輪と共に回転するディスクロータに押圧して制動力を発生させる液圧式ディスクブレーキとしているが、公知のドラムブレーキ等の他の液圧式ブレーキでもよい。
【0021】
第1液圧回路5Aと第2液圧回路5Bとは同様の構成であり、また、各車輪Wa〜Wdのブレーキ装置Ba〜Bdに接続された液圧回路の構成は同様の構成であり、以下の説明において参照符号の添え字A及B並びにa乃至dは、それぞれ、第1液圧回路5A及び第2液圧回路5B、並びに、各車輪Wa乃至Wdに対応することを示している。
【0022】
ホイール圧制御機構5には、マスタシリンダ2から各車輪Wa〜Wdのブレーキ装置Ba〜Bdのホイールシリンダへの液圧の供給を制御する電磁開閉弁である供給弁35A、35Bと、ブレーキ装置Ba〜Bdへの液圧の供給を制御する電磁開閉弁である増圧弁36a〜36dと、ブレーキ装置Ba〜Bdから液圧を解放するためのリザーバ37A、37Bと、ブレーキ装置Ba〜Bdからリザーバ37A、37Bへの液圧の解放を制御する電磁弁開閉弁である減圧弁38a〜38dと、ブレーキ装置Ba〜Bdに液圧を供給するためポンプ39A、39Bと、ポンプ39A、39Bを駆動するポンプモータ40と、マスタシリンダ2からポンプ39A、39Bの吸込み側への液圧の供給を制御する電磁開閉弁である加圧弁41A、41Bと、ポンプ39A、39Bの下流側から上流側への逆流を防止するための逆止弁42A、42B、43A、43B、44A、44Bと、マスタシリンダ2のプライマリポート12及びセカンダリポート13の液圧を検出する液圧センサ45A、45Bとを備えている。
【0023】
そして、ホイール圧制御ユニット6によって供給弁35A、35B、増圧弁36a〜36d、減圧弁38a〜38d、加圧弁41A、41B及びポンプモータ40の作動を制御する。このとき、供給弁35A、35B及び増圧弁36a〜36dを開き、減圧弁38a〜38d、加圧弁41A、41Bを閉じることにより、マスタシリンダ2から各車輪Wa〜Wdのブレーキ装置Ba〜Bdに液圧を供給する。減圧弁38a〜38dを開き、供給弁35A、35B、増圧弁36a〜36d及び加圧弁41A、41Bを閉じることにより、ブレーキ装置Ba〜Bdの液圧をリザーバ37A、37Bに解放して減圧する。増圧弁36a〜36d及び減圧弁38a〜38dを閉じることにより、ブレーキ装置Ba〜Bdの液圧を保持する。増圧弁36a〜36dを開き、供給弁35A、35B、減圧弁38a〜38d及び加圧弁41A、41Bを閉じて、ポンプモータ40を作動することにより、マスタシリンダ2の液圧にかかわらず、ブレーキ装置Ba〜Bdの液圧を増圧する。また、加圧弁41A、41B及び増圧弁36a〜36dを開き、減圧弁38a〜38d及び供給弁35A、35Bを閉じて、ポンプモータ40を作動することにより、マスタシリンダ2からの液圧をポンプ42A、42Bによって更に加圧してブレーキ装置Ba〜Bdに供給する。
【0024】
これにより、各種ブレーキ制御を実行することができる。例えば、制動時に接地荷重等に応じて各車輪に適切に制動力を配分する制動力配分制御、制動時に各車輪の制動力を自動的に調整して車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御、走行中の車輪の横滑りを検知して各車輪に適宜自動的に制動力を付与することにより、アンダーステア及びオーバステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定性制御、坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助制御、発進時等において車輪の空転を防止するトラクション制御、先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御、走行車線を保持する車線逸脱回避制御、障害物との衝突を回避する障害物回避制御等を実行することができる。
【0025】
なお、ポンプ39A、39Bとしては、例えばプランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等の公知の液圧ポンプを用いることができるが、車載性、静粛性、ポンプ効率等を考慮するとギヤポンプとすることが望ましい。ポンプモータ40としては、例えばDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等の公知のモータを用いることができるが、制御性、静粛性、耐久性、車載性等の観点からDCブラシレスモータが望ましい。
【0026】
また、ホイール圧制御機構5の電磁開閉弁の特性は、使用態様に応じて適宜設定することができるが、供給弁35A、35B及び増圧弁36a〜36dを常開弁とし、減圧弁38a〜38d及び加圧弁41A、41Bを常閉弁とすることにより、ホイール圧制御ユニット6からの制御信号がない場合に、マスタシリンダ12からブレーキ装置Ba〜Bdに液圧を供給することができるので、フェイルセーフ及び制御効率の観点から、このような構成とすることが望ましい。
【0027】
次に、マスタ圧制御ユニット4について説明する。マスタ圧制御ユニット4の回路構成の一例を図2に示す。
図2に示すように、マスタ圧制御ユニット4は、中央処理ユニット(CPU)46と、電動モータ22(三相Dブラシレスモータ)に駆動電流を出力する三相モータ駆動回路47と、マスタ圧制御機構3の回転角検出センサ25、変位センサを含むペダル操作量検出装置34、温度センサ48(図2にのみ示す)、並びに、マスタシリンダ2のプライマリ室10及びセカンダリ室11の圧力を検出する圧力センサ45A、45Bからの各種検出信号を中央処理ユニット46に受入れるための回転角検出センサインタフェイス49、温度センサインタフェイス50、変位センサインタフェイス51、51及び圧力センサインタフェイス52と、ホイール圧制御ユニット6を含む車載器機からのCAN信号を受入れるためのCAN通信インタフェイス53と、中央処理ユニット46(CPU)が処理を実行するための各種情報を格納した記憶装置54(EEPROM)と、中央処理ユニット46に安定電力を供給する第1及び第2電源回路55、56と、中央処理ユニット46並びに第1及び第2電源ユニット55、56の異常を監視する監視用制御回路57と、フェイルセーフリレー58及びECU電源リレー59と、フィルタ回路60とを備えている。
【0028】
中央処理ユニット46は、回転角検出センサ25、操作量検出装置34、温度センサ48及び圧力センサ45A、45B等からの各種検出信号、ホイール圧制御ユニット6を含む各種車載器機等からのCAN信号による各種情報、並びに、記憶装置54(EEPROM)の記憶情報等に基づき、これらを所定の論理規則によって処理して、三相モータ駆動回路47に指令信号を出力して電動モータ22の作動を制御する。
【0029】
車載の電源ライン61からECU電源リレー59を介して第1及び第2電源回路55、56に電力を供給する。このとき、ECU電源リレー59は、CAN通信インタフェイス53によるCAN信号の受信、又は、イグニッションスイッチ、ブレーキスイッチ、ドアスイッチ等からの所定の起動信号W/Uの受信のいずれかを検知することにより、第1及び第2電源回路55、56に電力を供給する。また、電源ライン61からフィルタ回路60及びフェイルセーフリレー58を介して三相モータ駆動回路47に電力を供給する。このとき、フィルタ回路60によって三相モータ駆動回路47に供給される電力のノイズを除去する。
【0030】
三相モータ駆動回路47の三相出力の各相は、相電流モニタ回路47A及び相電圧モニタ回路47Bによって監視されている。中央処理ユニット46は、これらの監視値及び記憶装置54に記憶された故障情報等に基づき、マスタ圧制御ユニット4の故障診断を実行し、故障ありと判断したとき、故障信号を監視用制御回路57に出力する。監視用制御回路57は、中央処理ユニット46からの故障信号、第1及び第2電源回路55、56の電圧等の各種作動情報に基づき、異常時には、フェイルセーフリレー58を作動させて三相モータ駆動回路47への電力の供給を遮断する。
【0031】
ブレーキ制御装置1が搭載された車両は、回生制動システムRを備えている。回生制動システムRは、減速時及び制動時等に車輪の回転によって発電機(電動モータ)を駆動することにより、運動エネルギーを電力として回収する。回生制動システムRは、CAN信号ラインに接続されており、CAN通信インタフェイス53を介してマスタ圧制御ユニット4に接続されている。
【0032】
次に、マスタ圧制御ユニット4によるマスタ圧制御機構3の制御について説明する。
操作量検出装置34によって検出したブレーキペダル19の操作量(変位量、踏力等)に基づき、電動モータ22を作動させてプライマリピストン8の位置を制御して液圧を発生させる。このとき、入力ピストン17に作用する液圧による反力が入力ロッド18を介してブレーキペダル19にフィードバックされる。そして、プライマリピストン8と入力ピストン17との受圧面積比及び相対変位によって、ブレーキペダル19の操作量と発生液圧との比である倍力比を調整することができる。
【0033】
例えば、入力ピストン17の変位に対して、プライマリピストン8を追従させ、これらの相対変位が0になるように相対変位制御することにより、入力ピストン17とプライマリピストン8との受圧面積比によって決まる一定の倍力比を得ることができる。また、入力ピストン17の変位に対して、比例ゲインを乗じて、入力ピストン17とプライマリピストン8との相対変位を変化させることにより、倍力比を変化させることができる。
【0034】
これにより、ブレーキペダル19の操作量、操作速度(操作量の変化率)等から緊急ブレーキの必要性を検知し、倍力比を増大させて迅速に必要な制動力(液圧)を得る、いわゆるブレーキアシスト制御を実行することができる。さらに、回生制動システムRからのCAN信号に基づき、回生制動時に、回生制動分を差引いた液圧を発生させるように倍力比を調整して、回生制動分と液圧による制動力との合計で所望の制動力が得られるようにする回生協調制御を実行することができる。また、ブレーキペダル19の操作量(入力ピストン17の変位量)にかかわらず、電動モータ22を作動させてプライマリピストン8を移動させることにより、制動力を発生させる自動ブレーキ制御を実行することも可能である。これにより、各種センサ手段によって検出した車両状態に基づき、自動的に制動力を調整し、適宜、エンジン制御、ステアリング制御等の他の車両制御と組合わせることにより、マスタ圧制御ユニット4を用いて前述の車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等の車両の運転制御を実行することもできる。
【0035】
次に、マスタ圧制御ユニット4の制御の切換について説明する。
マスタ圧制御ユニット4によるマスタ圧制御機構3の制御構成を図3に示す。図3に示すように、マスタ圧制御ユニット4は、制御入力Saに対して、プライマリピストン8と入力ピストン17との目標相対変位ΔXTを決定する相対変位制御手段46Aと、制御入力Sbに対して、マスタシリンダ2で発生する目標液圧PTを決定する液圧制御手段46Bと、これらの目標相対変位ΔXT又は目標液圧PTのいずれかに基づいてマスタ圧制御機構3の電動モータ22の作動を制御するかを決定し、その制御を実行する制御切換手段46Cとを備えている。
【0036】
相対変位制御手段46Aは、制御入力Saとして、例えば、ブレーキ操作量検出装置34によって検出される入力ピストン17に連結された入力ロッド18(すなわちブレーキペダル19)の変位量(ストローク)、ブレーキペダル19の操作力(踏力)、マスタシリンダ2の発生液圧、又は、これらの検出値から演算によって得られる推定踏力FC等を用いることができ、このとき、これらの値は、単独又は組合わせて用いてもよい。目標相対変位ΔXTは、制御入力Saに対して、予めテーブルによって設定し、あるいは、所定の演算によって求めてもよい。
【0037】
液圧制御手段46Bは、制御入力Sbとして、上述の制御入力Saと同様の情報を用いることができ、制御入力Saと同一あるいは異なるものとすることもできる。目標液圧PTは、制御入力Sbに対して、予めテーブルによって設定し、あるいは、所定の演算によって求めてもよい。
【0038】
相対変位制御手段46A及び液圧制御手段46Bから得た目標制御量である目標相対変位ΔXT及び目標液圧PTは、制御切換手段46Cによって所定の判定条件に従っていずれかが選択される。このとき、制御切換手段46Cは、目標相対変位ΔXT及び目標液圧PTに対して、判定条件に応じて制限をかける等の処理を行なってもよい。
【0039】
制御切換手段46Cによって選択された目標相対変位ΔXT又は目標液圧PTに基づいて、三相モータ制御回路47によって制御駆動信号を出力して、目標相対変位ΔXT又は目標液圧PTが得られるように倍力制御装置3の電動モータ22の作動を制御する。このとき、例えば、目標相対変位ΔXT及び目標液圧PTに対して、対応するプライマリピストン8の目標位置を決定し、電動モータ22の作動を制御してプライマリピストン8を目標位置へ移動させることにより、目標相対変位ΔXT又は目標液圧PTを得ることができる。
【0040】
マスタシリンダ2及びマスタ圧制御機構3における圧力及び力の平衡について図4を参照して説明する。
図4において、次の(1)式が成り立つ。
F=−KΔX+Ai・P+N …(1)
ここで、
F:ブレーキペダル19の操作力(踏力)
K:中立バネ20、21の合成バネ定数
ΔX:プライマリピストン8と入力ピストン17との相対変位
Ai:プライマリ室10に対する入力ピストン17の受圧面積
P:マスタシリンダ2(プライマリ室10)の液圧
N:戻しバネ15、16及び戻しバネ30によるセット荷重
である。
(1)式より、相対変位ΔX及び液圧Pに基づいてブレーキペダル19の操作力F(推定踏力FC)を演算によって求めることができる。そして、このようにして求めた推定踏力FCを制御入力Sa、Sbとして用いることもできる(この場合、ブレーキ操作量検出装置34は踏力推定手段となる)。
【0041】
次に、相対変位制御手段46Aによる相対変位制御の一例について説明する。
本制御では、ブレーキペダル19の一定の操作量に対して、ブレーキペダル19を踏込んだ場合(入力ロッド18の進み方向)に対して、戻した(解放した)場合(入力ロッド18の戻り方向)の目標相対変位ΔXTを大きくする。これにより、ブレーキペダル19を戻し始めた際、目標相対変位ΔXTが大きくなり、また、戻し始めたブレーキペダル19を再度踏込んだ際、目標相対変位ΔXTが小さくなるので、入力ロッド18の移動に対して、プライマリピストン8の戻り始め及び進み始めに適度な遅れが生じて、マスタシリンダ2の液圧が緩やかに低下及び上昇して、ブレーキペダル19の操作フィーリングが向上する。
【0042】
ブレーキペダル19の変位方向でヒステリシスを有する相対変位制御を実行するための制御フローを図10に示す。図10を参照して、ステップS11で入力ロッド18の進み側の目標相対変位ΔXTを演算し、ステップS12で入力ロッド18の戻り側の目標相対変位ΔXTを演算し、ステップS13で入力ロッド18の移動方向が進み側か戻り側かを判定する。進み側と判定した場合、ステップS14で進み側目標相対変位ΔXTを目標相対変位ΔXTとして設定し、戻り側と判定した場合、ステップS15で戻り側目標相対変位ΔXTを目標相対変位ΔXTとして設定する。
【0043】
このとき、図5に示すように、入力ロッド18の変位すなわち操作量検出装置34の検出するブレーキペダル19の操作量に対して、操作量が大きいほど目標相対変位ΔXTを大きくし、更に、一定の操作量について、進み側の目標相対変位ΔXT(L1)に対して戻り側の目標相対変位ΔXT(L3)を大きくして、反時計回りのヒステリシスを設定する。そして、進み側目標相対変位ΔXT(L1)から戻り側目標相対変位ΔXT(L3)に移行する区間L2において、プライマリピストン8が移動しないように目標相対変位ΔXTを設定することにより、プライマリピストン8の移動によるプライマリ室10の液圧の過度の変動を抑制することができ、入力ピストン17を介してブレーキペダル19に伝達される液圧変動による振動を軽減してブレーキペダル19の踏力を解放する際の操作フィーリングが向上する。また、プライマリピストン8の移動頻度が少なくなるので、電動モータ22、ボールネジ機構23及び減速機構24の作動頻度を少なくして、騒音の発生、電力の消費を低減すると共に、これらの耐久性を高めることができる。
【0044】
なお、進み側の目標相対変位ΔXT(L1)から戻り側の目標相対変位ΔXT(L3)に移行する区間L2及び戻り側の目標相対変位ΔXT(L3)から進み側の目標相対変位ΔXT(L1)に移行する区間L4において、目標相対変位ΔXTを急激に変化させると、ブレーキペダル19の操作方向に対して、マスタシリンダ2の液圧の増減の方向が一致しない状態が生じ得るので、このような状態が生じないように、これらの区間L2、L4における目標相対変位ΔXTの変化を緩やかに設定することが望ましい。
【0045】
また、相対変位制御手段46Aでは、制御入力Saとして、操作量検出装置34によって検出したブレーキペダル19すなわち入力ロッド18の変位、及び、マスタシリンダ2の液圧及びプライマリピストン8と入力ピストン17との相対変位ΔXから上述の(1)式に基づき計算によって求めたブレーキペダル19の推定踏力FCとを選択的に切換えて使用してもよい。
【0046】
制御入力Saの切換制御フローについて図11を参照して説明する。ステップS1で、操作量検出装置34によって検出した入力ロッド18の変位(位置)に基づき、目標相対変位ΔXT1を決定する。このとき、目標相対変位ΔXT1は、上述のように入力ロッド18の位置と目標相対変位ΔXT1との関係を予め定めたテーブルから得ることができ、あるいは、入力ロッド18の位置を所定の論理規則に従って演算処理することによって求めることができる。このように、入力ロッド18の変位に基づき、目標相対変位ΔXT1を決定することにより、ブレーキペダル19の原位置付近における制御を正確に行うことができる。
【0047】
ステップS2で、上述の推定踏力FCに基づき、目標相対変位ΔXT2を決定する。このとき、目標相対変位ΔXT2は、上述のように推定踏力FCと目標相対変位ΔXT2との関係を予め定めたテーブルから得ることができ、あるいは、推定踏力FCを所定の論理規則に従って演算処理することによって求めることができる。このように、推定踏力FCに基づき、目標相対変位ΔXT2を決定することにより、ブレーキ操作フィーリングを高めることができる。
【0048】
そして、ステップS3で、入力ロッド18の変位に基づく目標相対変位ΔXT1、又は、推定踏力FCに基づく目標相対変位ΔXT2のいずれを用いて制御を実行するかを決定し、その結果に応じて、目標相対変位ΔXTとして、ステップS3で入力ロッド18の変位に基づく目標相対変位ΔXT1を設定し、あるいは、ステップS4で推定踏力FCに基づく目標相対変位ΔXT2を設定する。
【0049】
このとき、例えばブレーキペダル19の移動方向に応じて、目標相対変位ΔXTの決定方法を切換えることができる。そして、上述の図5に示すように、目標相対変位ΔXTに反時計回りのヒステリシスを設定した場合、ブレーキペダル19の戻り方向の区間L3では、入力ロッド18の変位に基づく目標相対変位ΔXT1を適用し、ブレーキペダル19の進み方向を含むそれ以外の区間L1、L2、L4では、推定踏力FCに基づく目標相対変位ΔXT2を適用する。これにより、ブレーキ操作フィーリングを高めつつ、ブレーキ解放時には、確実にプライマリピストン8を原位置に戻すことができる。
【0050】
また、操作量検出装置34の故障等によって、入力ロッド18の変位又は推定踏力FCのいずれかが得られなくなった場合、残りの情報に基づき、目標相対変位ΔXTを決定することにより、制御の実行を継続することができ、フェイル時の堅牢性を高めることができる。
【0051】
次に、上述の相対変位制御における目標相対変位ΔXTの設定範囲について図6を参照して説明する。
プライマリピストン8と入力ピストン17との目標相対変位ΔXTの設定範囲は、マスタ圧制御機構3の構造上の制限、及び、ブレーキペダル19の操作フィーリング等の制御上の制限があり、その制限の範囲内において設定することが望ましい。本実施形態では、例えば図6に示すように、線分A1、A2及びBで挟まれる範囲内に目標相対変位ΔXTを設定する。横軸に平行な線分A1及び線分Bは、構造上の制限を示し、プライマリピストン8及び入力ピストン17の軸方向の寸法、中立バネ20、21の軸方向長さ等に依存する。また、傾きを有する線分A2は、ブレーキペダル19の操作フィーリング等の制御上の制限を示し、中立バネ20、21のバネ定数、入力ピストン17の受圧面積Ai等の各部の特性に依存する。
【0052】
そして、非制動状態では、上述の(1)式において、F=0として、
0=−KΔX+Ai・P+N …(2)
であるから、
ΔX=(Ai・P+N)/K …(3)
となり、このとき、マスタシリンダ2(プライマリ室10)の液圧P=0であるから、
ΔX=N/K …(4)
となる。
したがって、目標相対変位ΔXTをN/K(N:戻しバネ15、16及び戻しバネ30によるセット荷重、K:中立バネ20、21の合成バネ定数)以下に設定することにより、制動を解除したとき、入力ピストン17すなわちブレーキペダル19を原位置に確実に戻すことができる。
【0053】
また、上述の(1)式において、ブレーキペダル19の踏力Fが負になると、ブレーキペダル19が引き込まれることになり、操作フィーリング上、問題となるので、
0≦−KΔX+Ai・P+N …(5)
であることが望ましい。すなわち、
ΔX≦(Ai・P+N)/K=Ai/K・P+N/K …(6)
である。
したがって、目標相対変位ΔXTは、(6)式で示されるΔXの範囲で設定することが望ましく、ΔXの範囲は、マスタシリンダ2の液圧Pに比例するので、線分A2は、ほぼ一定の傾きを有する直線となっている。
【0054】
これにより、図6に示すように反時計回りのヒステリシスを有する目標相対変位ΔXTを設定する場合、ブレーキペダル19の戻り方向の区間L3の区間L4側の部分が線分A2による制限を受けるので、区間L3を制限を受けないL2側の区間L31と、線分A2により制限を受ける区間L32とすることにより、ブレーキペダル19が引き込まれる制御上の問題を解消することができる。
【0055】
次に、液圧制御手段46Bによる液圧制御について説明する。
本制御では、一定の操作量について、ブレーキペダル19を踏込んだ場合(入力ロッド18の進み方向)の進み側目標液圧PT1に対して、戻した場合(入力ロッドの戻り方向)の戻り側目標液圧PT2を大きくする。これにより、ブレーキペダル19を戻し始めた際、目標液圧PTが大きくなり、また、戻し始めたブレーキペダル19を再度踏込んだ際、目標液圧PTが小さくなるので、入力ロッド18の移動に対してプライマリピストン8の戻り始め及び進み始めに適度な遅れが生じて、マスタシリンダ2の液圧が緩やかに低下及び上昇して、ブレーキペダル19の操作フィーリングが向上する。このとき、進み側と戻し側とで目標液圧PTを切換える際、目標液圧PTを滑らかに変化させることにより、液圧の急変を抑制して、望ましくない制動力の急変を防止することができる。
【0056】
液圧制御を実行するための制御フローを図12に示す。図12を参照して、ステップS1で入力ロッド18の進み側の目標液圧PTを演算し、ステップS2で入力ロッド18の戻り側の目標液圧PTを演算し、ステップS3で入力ロッド18の移動方向が進み側か戻り側かを判定する。進み側と判定した場合、ステップS4で進み側目標液圧PT1を目標液圧PTとして設定し、戻り側と判定した場合、ステップS5で戻り側目標液圧PT2を目標液圧PTとして設定する。
【0057】
このとき、図7に示すように、入力ロッド18の変位すなわち操作量検出装置34の検出する操作量に対して、操作量が大きいほど目標液圧PTを大きくし、更に、一定の操作量について、進み側目標液圧PT1(区間L1)に対して戻り側目標液圧PT2(区間L3)を大きくして、反時計回りのヒステリシスを設定する。そして、進み側目標液圧PT1(区間L1)から戻り側目標液圧PT2(区間L3)に移行する区間L2、及び、戻り側目標液圧PT2(区間L3)から進み側目標液圧PT1(区間L1)に移行する区間L4において、目標液圧PTを一定にすることにより、プライマリピストン8の移動量を最小限に抑えることができ、プライマリピストン8の移動によるプライマリ室10から入力ロッド18への反力の影響を小さくすることができる。また、これにより、プライマリピストン8の移動頻度が少なくなるので、電動モータ22、ボールネジ機構23及び減速機構24の作動頻度を少なくして、騒音の発生、電力の消費を低減すると共に、これらの耐久性を高めることができる。
【0058】
次に、液圧制御手段46Bが設定する目標液圧PTの設定範囲について、図8及び図9を参照して説明する。相対変位設定手段による相対変位ΔXの設定範囲を上述の図6に示す範囲に制限した場合、上記(1)式から、一定の踏力Fに対して、次の関係が成立つ。
KΔXn+Ai・Pn=−KΔXmax+Ai・Pmax …(7)
KΔXn+Ai・Pn=−KΔXmin+Ai・Pmin …(8)
ここで、
K:中立バネ20、21の合成バネ定数
Ai:プライマリ室10に対する入力ピストン17の受圧面積
ΔXn:現在の相対変位
ΔXmax:相対変位の最大値
ΔXmin:相対変位の最小値
Pn:現在のマスタシリンダ液圧
Pmax:マスタシリンダ液圧の最大値
Pmin:マスタシリンダ液圧の最小値
である。
【0059】
(7)式より、現在の相対変位ΔXn、相対変位の最大値ΔXmax及び現在のマスタシリンダ液圧Pnから発生可能な最大液圧Pmaxを求めることができる。また、(8)式より、現在の相対変位ΔXn、相対変位の最小値ΔXmin及び現在のマスタシリンダ液圧Pnから発生可能な最小液圧Pminを求めることができる。これにより、本実施形態では、図8に示すように、線分C1、C2及びDで挟まれる範囲内に目標液圧PTを設定する。横軸に平行な線分C1及びほぼ一定の傾きで傾斜する線分C2は、相対変位ΔXの範囲を示す線分A1、A2に対応し、横軸に平行な線分Dは、相対変位ΔXの範囲を示す線分Bに対応するものである。これにより、図7に示すように反時計回りのヒステリシスを有する目標液圧PTを設定する場合、ブレーキペダル19の戻り方向の区間L3の区間L4側の部分が線分C2による制限を受けることになり、区間L3を制限を受けないL2側の区間L31と、線分C2による制限を受けて線分C2に沿った区間L32として、目標液圧PTを上述の範囲内とすることにより、適切な液圧制御を行うことができる。
【0060】
ブレーキペダル19の操作量とマスタシリンダ2の液圧との関係を図9に示す。電動モータ22の最大出力が規定されている場合、それにより、プライマリピストン8の最大変位が決まり、ブレーキペダル19の操作量とマスタシリンダ2の液圧との関係は、図9中に破線で示すようになる。すなわち、プライマリピストン8が電動モータ22による最大ストローク点Smaxに達した後は、ブレーキペダル19の操作量の増大に対して、入力ピストン17のみが前進することになり、液圧の増大の傾きが緩やかになり、最大液圧点Pmaxに至る。このとき、ブレーキペダル19の操作フィーリングも大きく変化することになる。なお、温度上昇等によって電動モータ22の出力が低下した場合には、最大ストローク点Smaxも小さくなり、そこに達した時点でブレーキペダル19の操作フィーリングも変化することになる。
【0061】
そこで、ブレーキペダル19の原位置から最大ストローク位置(最大液圧点Pmax)まで、マスタシリンダ2の液圧の変化が一定となるように、液圧制御手段46Bによって目標液圧PTを一定の傾きで最大液圧点Pmaxに達するように設定することにより、ブレーキペダル19の良好な操作フィーリングを得ることができる。本実施形態では、電動モータ22の最大出力が供給可能な最大電流で決定され、その最大電流をパラメータとして目標液圧PTを決定することにより、目標液圧PTの傾きが一定となるようにしている。目標液圧PTは、このほか、ブレーキペダル19の操作量(制御入力)に対する目標液圧PTを予め設定したテーブルから得ることもでき、また、制御入力を所定の論理規則に従って演算処理することによって得るようにしてもよい。さらに、このようなマスタシリンダ2の液圧特性が得られるように、相対変位制御手段46Aによって目標相対変位ΔXTを設定するようにしてもよい。
【0062】
次に、制御切換手段46Cによる目標相対変位ΔXTまたは目標液圧PTによる制御の切換について、図13乃至図18を参照して説明する。制御切換手段46Cは、次のいずれかによって目標相対変位ΔXTまたは目標液圧PTによる制御の切換を行なう。
【0063】
[回生制動システムの作動の有無による切換]
制御切換手段46Cは、回生制動システムRが回生制動を実行中である場合(回生協調時)には、液圧制御手段46Bによる目標液圧PTを用いた制御を行ない、回生制動を実行中でない場合には、相対変位制御手段46Aによる目標相対変位ΔXTを用いた制御を行なう。制御切換手段46Cによる切換制御フローを図13に示す。図13を参照して、ステップS1で、相対変位制御手段46Aによってブレーキペダル19の操作量に基づき目標相対変位ΔXTを決定し、ステップ2で、液圧制御手段46Bによって目標液圧PTを決定する。ステップS3で回生制動システムRが回生制動を実行中か否かを判断する。回生制動実行中である場合、ステップS4で目標液圧PTに従って制御を行ない、回生制動実行中でない場合、ステップS5で目標相対変位ΔXTに従って制御を行なう。このとき、マスタ圧制御ユニット4は、回生制動システムRからの作動信号をCAN通信インタフェイス53を介して入力し、この作動信号に基づいて回生制動中か否かを判定する。
【0064】
回生協調時には、マスタシリンダ2で発生すべき液圧は、運転者の制動要求に対して、液圧ブレーキのみによって制動する場合に必要な液圧から回生制動分に相当する液圧を減じたものとなる。したがって、回生制動による制動分が液圧又は液圧に比例する量として与えられたとき、目標液圧PTに基づいて電動モータ22の作動を制御することにより、目標相対変位ΔXTに基づく制御に比して、演算を簡素化することができ、また、制御精度を高めることができる。
【0065】
[通常の制動力制御中か否かによる切換]
制御切換手段46Cは、運転者によるブレーキペダル19の操作量に応じて制動力を発生させる通常の制動力制御中か否かを判定し、通常の制動力制御中には、相対変位制御手段46Aによる目標相対変位ΔXTを用いた制御を実行し、通常の制動力制御中でない場合には、液圧制御手段46Bによる目標液圧PTを用いた制御を実行する。ここで、通常の制動力制御とは、運転者のブレーキペダル19の操作量(制動力要求)に対して、マスタシリンダ2で発生した液圧をそのままホイールシリンダに伝達し(制動力配分制御を含む)、アンチロック制御、トラクション制御、車両安定性制御等のホイール圧制御装置6によるホイール圧制御機構5の制御が介入しない制動力制御をいう。また、通常の制動力制御ではない場合とは、ABS作動時、トラクションコントロール作動時、車両安定性制御の実行等、ブレーキペダル19の操作量以外の制御入力に基づくホイール圧制御装置6によるホイール圧制御機構5の制御が介入する場合をいう。
【0066】
このときの制御切換手段46Cによる切換制御フローを図14に示す。図14を参照して、ステップS1で、相対変位制御手段46Aによってブレーキペダル19の操作量に基づき目標相対変位を決定し、ステップ2で、液圧制御手段46Bによって目標液圧PTを決定する。ステップS3で通常の制動力制御中であるか否かを判断する。通常の制動力制御中であると判定された場合、ステップS4で目標相対変位ΔXTを用いて制御を行ない、通常の制動力制御中でないと判定された場合、ステップS5で目標液圧PTを用いて制御を行なう。このとき、マスタ圧制御ユニット4は、アンチロックブレーキシステム、車両安定性制御システム等の車載コントロールユニットからの作動信号をCAN通信インタフェイス53を介して入力し、この作動信号に基づいて通常の制動力制御中か否かを判定する。
【0067】
目標相対変位ΔXTを用いた制御は、ブレーキペダル19の操作量(変位、踏力)に応じて目標相対変位ΔXTが決定されるので、プライマリピストン8の位置は、ブレーキペダル19の操作量に応じて決定される。したがって、通常の制動力制御中は、入力ピストン17を介してブレーキペダル19にフィードバックされるマスタシリンダ2の液圧による反力の変動が小さく、ブレーキペダル19の良好な操作フィーリングを得ることができる。
【0068】
一方、通常の制動力制御中でない場合には、ホイール液圧制御機構5が作動すると、供給弁供給弁35A、35B及び加圧弁41A、41Bの開閉、並びに、ポンプ39A、39Bの作動、停止により、マスタシリンダ2の下流側の液圧回路の液圧に対する剛性が変化する場合があり、目標相対変位ΔXTを用いて制御を行なった場合、この液圧回路の剛性の変化により、プライマリピストン8の位置が不安定になり、マスタシリンダ2の発生液圧が不安定になる虞がある。これに対して、目標液圧PTを用いて制御した場合、マスタシリンダ2の液圧は、液圧回路の剛性の変化に比較的影響されにくいので、マスタシリンダ2の発生液圧が不安定になりにくい。
【0069】
このように、通常の制動力制御中か否かに応じて、目標相対変位ΔXTを用いた制御と目標液圧PTを用いた制御と適宜切換えることにより、ブレーキペダル19の良好な操作フィーリングを得ると共に、安定した制御を行なうことができる。
【0070】
[ホイール圧制御装置による制御中か否かによる切換]
制御切換手段46Cは、ホイール圧制御装置6によってホイール圧制御機構5の作動を制御中か否かを判定し、制御中でない場合には、相対変位制御手段46Aによる目標相対変位ΔXTを用いた制御を実行する。ホイール圧制御装置6によってホイール圧制御機構5の作動を制御して、アンチロック制御、トラクション制御、車両安定性制御等を実行して、各ホイールシリンダへの液圧の制御を行っている場合には、液圧制御手段46Bによる目標液圧PTを用いた制御を実行する。
【0071】
このときの切換手段による切換制御フローを図15に示す。図15を参照して、ステップS1で、相対変位制御手段46Aによってブレーキペダル19の操作量に基づき目標相対変位ΔXTを決定し、ステップ2で、液圧制御手段46Bによって目標液圧PTを決定する。ステップS3で、ホイール液圧制御装置6によるホイール液圧制御機構5の制御実行中であるか否かを判断する。制御実行中でないと判定された場合、ステップS4で相対変位制御手段46Aによる目標相対変位ΔXTを用いて制御を行ない、制御実行中であると判定された場合、ステップS5で液圧制御手段46Bによる目標液圧PTを用いて制御を行なう。このとき、マスタ圧制御ユニット4は、回生制動システムR、アンチロックブレーキシステム、車両安定性制御システム、制動力配分制御システム等の車載コントロールユニットからの制御信号をCAN通信インタフェイス53を介して入力し、この制御信号に基づいてホイール圧制御装置6による制御実行中か否かを判定する。
【0072】
ホイール液圧制御機構5が作動すると、供給弁供給弁35A、35B及び加圧弁41A、41Bの開閉、並びに、ポンプ39A、39Bの作動、停止により、マスタシリンダ2の下流側の液圧回路の液圧に対する剛性が変化する場合があり、目標相対変位ΔXTを用いて制御を行なった場合、この液圧回路の剛性の変化により、プライマリピストン8の位置が不安定になり、マスタシリンダ2の発生液圧が不安定になる虞がある。これに対して、目標液圧PTを用いて制御した場合、マスタシリンダ2の液圧は、液圧回路の剛性の変化に比較的影響されにくいので、マスタシリンダ2の発生液圧が不安定になりにくい。
【0073】
[坂道発進補助制御の作動の有無による切換]
制御切換手段46Cは坂道発進補助制御の実行中か否かを判定し、坂道発進補助制御(以下、HSAという)の実行中でない場合には、相対変位制御手段46Aによる目標相対変位ΔXTを用いた制御を実行し、HSA実行中の場合には、液圧制御手段46Bによる目標液圧PTを用いた制御を実行する。
【0074】
このときの制御切換手段46Cによる切換制御フローを図16に示す。図16を参照して、ステップS1で、相対変位制御手段46Aによってブレーキペダル19の操作量に基づき目標相対変位を決定し、ステップS2で、液圧制御手段46Bによって目標液圧PTを決定する。ステップS3で、HSAの作動中か否かを判定する。HSA作動中でないと判定した場合、ステップS4で目標相対変位ΔXTを用いた制御を行ない、HSA作動中であると判定した場合、ステップS5で目標液圧PTを用いた制御を行なう。制御切換手段46Cは、CAN通信インタフェイス53を介して入力されるHSAの作動情報に基づいてHSA作動中か否かを判定する。
【0075】
HSAの作動中には、ブレーキペダル19を解放したとき、マスタシリンダ2又はホイールシリンダの液圧を一時的に保持し、車両発進に伴なって解除する制御を実行するが、このとき、目標液圧PTを用いた制御を行なうことより、必要な液圧に正確に調整することが可能になる。
【0076】
なお、液圧を保持する場合には、目標液圧PTを用いた制御を行ない、液圧を解除する際には、相対変位ΔXTを用いた制御を実行してもよく、これにより、より円滑に液圧解除を行うことができる。また、HSAの作動モードを行程毎に分類し、各作動モード毎に適宜、目標相対変位ΔXT又は目標液圧PTのいずれを用いた制御を実行するかを切換えるようにしてもよい。
【0077】
[停車中か否かによる切換]
制御切換手段46Cは、停車中か否かを判定し、停車中でない場合(走行中の場合)には、相対変位制御手段46Aによる目標相対変位ΔXTを用いた制御を実行し、停車中の場合には、液圧制御手段46Bによる目標液圧PTを用いた制御を実行する。
【0078】
このときの制御切換手段46Cによる切換制御フローを図17に示す。図17を参照して、ステップS1で、相対変位制御手段46Aによってブレーキペダル19の操作量に基づき目標相対変位を決定し、ステップS2で、液圧制御手段46Bによって目標液圧PTを決定する。ステップS3で、停車中か否かを判定する。停車中でないと判定した場合、ステップS4で相対変位制御手段46Aによる目標相対変位ΔXTを用いて制御を行ない、停車中であると判定した場合、ステップS5で液圧制御手段46Bによる目標液圧PTを用いて制御を行なう。制御切換手段46Cは、車速センサ等からの車速信号、あるいは、ホイール圧制御装置6又はCANに接続された他の車載器機等からCAN通信インタフェイス53を介して入力される車速情報に基づいて停車中か否かを判定する。
【0079】
そして、停車中に、目標液圧PTを用いた制御を実行して、停車状態を維持できる最低限の液圧に調整することにより、電動モータ22の消費電力を低減することができる。このときの最低限の液圧は、路面の勾配等の条件を想定し得る最も厳しい条件下における液圧として設定するとよい。また、停車中に運転者がブレーキペダル19を強く踏込んだ場合、入力ピストン17によって液圧が発生するので、その分だけ電動モータ22によるプライマリピストン8の推力が小さくてすみ、消費電力が低減されることになる。
【0080】
なお、停車中に目標相対変位ΔXTを用いた制御を行ない、停車状態を維持できる最低限の液圧となる目標相対変位ΔXTを予め設定しておくことにより、電動モータ22の消費電力を低く抑えることもできる。この場合、運転者がブレーキペダル19を踏込めば、入力ピストン17の前進により、液圧が上昇するので、制動力を高めることが可能である。
【0081】
[上述の切換制御の組合わせ]
制御切換手段46Cでは、上述の切換制御を組合わせて、回生制動システムの作動、通常の制動力制御、ホイール圧制御装置による液圧制御、HSAの作動及び停車中か否かを判定して、相対変位制御手段46Aによる目標相対変位ΔXT、又は、液圧制御手段46Bによる目標液圧PTを用いた制御を適宜切換えるようにすることもできる。
【0082】
この場合の制御切換手段46Cによる切換制御フローを図18に示す。図18を参照して、ステップS1で、相対変位制御手段46Aによってブレーキペダル19の操作量に基づき目標相対変位を決定し、ステップS2で、液圧制御手段46Bによって目標液圧PTを決定する。ステップS3で、回生制動システムRが回生制動を実行中か否かを判定する。回生制動を実行中である場合、ステップS9で目標液圧PTを用いた制御を行ない、回生制動を実行中でない場合、ステップS4へ進む。ステップS4で、通常の制動力制御中であるか否かを判定し、通常の制動力制御中でないと判定された場合、ステップS9で目標液圧PTを用いて制御を行ない、通常の制動力制御中であると判定された場合、ステップS5へ進む。ステップS5で、ホイール液圧制御装置6によるホイール液圧制御機構5の制御実行中であるか否かを判断する。制御実行中であると判定された場合、ステップS9で目標液圧PTを用いて制御を行なう。制御実行中でないと判定された場合、ステップS6へ進む。ステップS6で、HSAの作動中か否かを判定する。HSA作動中であると判定した場合、ステップS9で目標液圧PTを用いた制御を行なう。HSA作動中でないと判定した場合、ステップS7へ進む。ステップS7で、停車中か否かを判定する。停車中であると判定した場合、ステップS9で目標液圧PTを用いた制御を行ない、停車中でないと判定した場合、ステップS8で相対変位制御手段46Aによる目標相対変位ΔXTを用いた制御を行なう。
【0083】
このようにして、上述の切換制御を組合わせた制御を実行することができる。なお、図18に示す制御フローにおいて、ステップS3〜S7は、判定の順序を適宜変更してもよく、また、全ての判定を用いることなく、必要な判定のみを適宜選択して用いるようにしてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、目標相対変位ΔXTを用いた制御と目標液圧PTを用いた制御とを一定の条件に従って切換える場合について説明しているが、これらを切換える条件は、そのシステムの個々の特性に応じて設定すればよく、いずれに切換えるかは任意に設定することができる。
【0085】
上記実施形態では、ブレーキペダル19の操作量を検出するブレーキ操作量検出装置34として、ブレーキペダル19のストロークを検出するストローク検出手段を用いたが、これに限らず、ピストン8と入力部材17との相対変位及び液圧センサ45Aによるマスタシリンダ2内のブレーキ液圧に基づいて推定踏力を決定する踏力推定手段を用いてもよい。この場合には、ブレーキペダル19の操作量として前記推定踏力を用いることになる。また、前記ストローク検出手段と前記踏力推定手段の両方を備え、ブレーキペダルのストローク又は推定踏力のいずれかをブレーキペダルの操作量として用いるようにすることもできる。
【0086】
また、前記ブレーキペダルの一定の操作量に対して設定される前記目標相対変位が前記ブレーキペダルの踏込時(図5のL1)よりも解放時(L3)のほうが大きくなるように構成してもよい。このようにして反時計回りのヒステリシスを設けることにより、一般的な負圧ブースタのようなブレーキフィーリングを実現できる。
この場合において、前記ブレーキペダルが踏込まれた後、解放されたとき、前記ピストンの位置が一時的に保持されるように前記目標相対変位を設定してもよい(図5のL2)。このようにすることで、ピストンの移動による液圧の過度の変動を抑制することができる。
【0087】
同様に、上記実施形態では、前記ブレーキペダルの一定の操作量に対して設定される前記目標液圧が前記ブレーキペダルの踏込時(図7のL1)よりも解放時(L3)のほうが大きくなるように構成してもよい。このようにして反時計回りのヒステリシスを設けることにより、一般的な負圧ブースタのようなブレーキフィーリング(例えば、「粘り」と呼ばれるブレーキペダルを放したとき制動力低下の抑制)を実現できる。
この場合において、前記ブレーキペダルが踏込まれた後、解放されたとき、前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が一時的に保持されるように前記目標液圧を設定してもよい(図7のL2)。このようにすることで、ピストンの移動による液圧の過度の変動を抑制することができる。
【0088】
また、前記目標相対変位や前記目標液圧を前記ブレーキペダルの操作量に応じた所定の範囲内になるように設定することができる。この所定の範囲内とは、マスタ圧制御機構の構造上の制限、及び、ブレーキペダルの操作フィーリング等の制御上の制限などから定められるものである。
また、前記ブレーキペダルを踏込んだとき、その操作量に対して前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が一定の割合で変化するように前記目標液圧を設定してもよい。
さらに、前記切換手段は、坂道発進補助制御の実行中には、前記液圧制御手段によって前記アクチュエータの作動を制御するように構成してもよい。
また、前記切換手段は、停車中には、前記相対変位制御手段によって前記アクチュエータの作動を制御するように構成してもよい
加えて、前記切換手段は、前記ブレーキペダルの操作によらない制動制御(例えば、車両安定性制御や坂道発進補助制御)の実行中には、前記液圧制御手段によって前記アクチュエータの作動を制御するように構成してもよい。
そして、前記切換手段は、前記ブレーキペダルの一定の操作量に対して前記マスタシリンダのブレーキ液圧が変動する制御(例えば、アンチロックブレーキ制御)を実行中には、前記液圧制御手段によって前記アクチュエータの作動を制御するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 ブレーキ制御装置、2 マスタシリンダ、8 プライマリピストン(ピストン)、17 入力ピストン(入力部材)、19 ブレーキペダル、22 電動モータ(アクチュエータ)、46A 相対変位制御手段、46B 液圧制御手段、46C 制御切換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、前記入力部材に対して移動可能に配置されたピストンと、前記ピストンを進退移動させるアクチュエータとを備え、前記ブレーキペダルによる前記入力部材の移動に応じて前記アクチュエータを作動させて前記ピストンに推力を発生させてマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させるブレーキ制御装置であって、
前記ブレーキペダルの操作量に基づいて前記入力部材と前記ピストンとの相対変位について目標相対変位を設定し、これらの相対変位が前記目標相対変位となるように前記アクチュエータの作動を制御する相対変位制御手段と、
前記ブレーキペダルの操作量に基づいて前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧について、目標液圧を設定し、前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が前記目標液圧になるように前記アクチュエータの作動を制御する液圧制御手段と、
前記相対変位制御手段及び前記液圧制御手段のいずれによって前記アクチュエータの作動を制御するかを切換える制御切換手段とを備えていることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記切換手段は、回生制動時には、前記液圧制御手段によって前記アクチュエータの作動を制御することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記切換手段は、前記マスタシリンダの液圧を直接ホイールシリンダに分配する通常制御時には、前記相対変位制御手段によって前記アクチュエータの作動を制御し、前記マスタシリンダのブレーキ液圧に対してホイールシリンダのブレーキ液圧を調整するホイール圧制御時には、前記液圧制御手段によって前記アクチュエータの作動を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記切換手段は、停車中には、前記液圧制御手段又は前記相対変位制御手段によって停車状態を維持できる最低限の液圧を発生するように前記アクチュエータの作動を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記ブレーキペダルの一定の操作量に対して設定される前記目標相対変位または前記目標液圧が前記ブレーキペダルの踏込時よりも解放時のほうが大きいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記ブレーキペダルが踏込まれた後、解放されたとき、前記ピストンの位置が一時的に保持されるように前記目標相対変位を設定することを特徴とする請求項5に記載のブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記ブレーキペダルが踏込まれた後、解放されたとき、前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が一時的に保持されるように前記目標液圧を設定することを特徴とする請求項5に記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−213262(P2011−213262A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84207(P2010−84207)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】