説明

ブレーキ固着検出装置およびブレーキ固着解除装置

【課題】凍結などによって生じるシューとドラムの摩擦面との固着による影響を抑制する。
【解決手段】ブレーキ固着検出装置において、ストラット28は、パーキングブレーキが解除されているときに第1シュー12、第2シュー14の各々の当接部12e、14eが、両端部の各々に設けられた被当接部28a、28bに当接して第1シュー12および第2シュー14の相互間隔を規制する。戻りスイッチは、第2シュー14の当接部14eとストラット28の被当接部28bとの近接を検出することにより、第1シュー12および第2シュー14のドラム22の摩擦面22aとの押接位置からの戻りを検出する。ECUは、パーキングブレーキが解除されているときに第1シュー12または第2シュー14の押接位置からの戻りが検出されない場合、第1シュー12または第2シュー14がドラム22に固着していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ固着検出装置およびブレーキ固着解除装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のパーキングブレーキでは、ブレーキレバーなどのパーキングブレーキ用操作部材と車輪ブレーキとが、ケーブルを含むブレーキ作動力伝達系に接続されている。例えば寒冷地においてパーキングブレーキを作動させた状態で車両を長時間放置すると、ブレーキ作動力伝達系が凍結し、車両の円滑な始動に影響を与える可能性がある。このため、例えば、電磁ブレーキを開放してから所定時間が経過するまでのブレーキ作動力伝達系の移動量に基づいてブレーキ作動力の伝達系の凍結の有無を判定し、凍結が発生している場合は、電動モータを駆動して氷を砕くことにより凍結を解除させる凍結解除装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−182227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えばケーブルなどのブレーキ作動力伝達系は、弾性変形や予測困難な動きが生じる場合があり、このためブレーキ作動力伝達系の移動量を正確に把握することは難しい。この点で上述の特許文献1に記載される技術は改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、凍結などによって生じるシューとドラムの摩擦面との固着による影響を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のドラムブレーキの固着検出装置は、内周面に摩擦面を有し、車輪と共に回転するドラムと、回転不能に車体に取り付けられたバッキングプレートと、バッキングプレートに移動可能に取り付けられ、摩擦面に押接されることによって車輪に制動力を与える一対のシューと、一対のシューの各々に両端部が連結され、一対のシューに対し互いに接近する方向への付勢力を与える付勢部材と、車輪への制動力の付与を要求する操作入力にしたがって、付勢部材が伸びる方向に一対のシューを拡開させて摩擦面に押接させるシュー拡開手段と、一対のシューの少なくとも一方の摩擦面への押接位置からの戻りを検出する戻り検出手段と、一対のシューのいずれかがドラムに固着しているか否かを判定する固着判定手段と、を備える。固着判定手段は、一対のシューの拡開が解除されているときに一対のシューの少なくとも一方に押接位置からの戻りが検出されない場合、一対のシューの少なくとも一方がドラムに固着していると判定する。
【0007】
この態様によれば、ブレーキ作動力の伝達系ではなくシューの戻りを直接検出するため、シューとドラムの摩擦面との固着をより正確に検出することができる。したがって、シューとドラムの摩擦面との固着による影響を迅速に抑制することができる。
【0008】
シュー拡開手段は、一対のシューの各々の被押し付け部を一対のピストンの各々で押すことにより一対のシューを拡開させて摩擦面に押接させるホイールシリンダを含んでもよい。戻り検出手段は、一対のシューの各々の被押し付け部と一対のピストンの各々との近接を検出することにより、一対のシューの各々の押接位置からの戻りを検出してもよい。
【0009】
シューがドラムの摩擦面に固着した場合、ブレーキ拡開手段によるシューの拡開が解除されたあとにおいても、シューの被押し付け部とピストンとの間にクリアランスが生じる。この態様によれば、シューの被押し付け部とピストンとのこのような相対的な位置関係を利用して、押接位置からのシューの戻りを簡易に検出することができる。
【0010】
シュー拡開手段による一対のシューの拡開が解除されているときに一対のシューの各々の当接部が両端部の各々に設けられた被当接部に当接して一対のシューの相互間隔を規制するストラットをさらに備えてもよい。戻り検出手段は、一対のシューの少なくとも一方の当接部とストラットの被当接部との近接を検出することにより、一対のシューの少なくとも一方の押接位置からの戻りを検出してもよい。
【0011】
シューがドラムの摩擦面に固着した場合、シューの拡開が解除されたあとにおいても、シューの被当接部とストラットの当接部との間にクリアランスが生じる。この態様によれば、シューの被当接部とストラットの当接部とのこのような相対的な位置関係を利用して、押接位置からのシューの戻りを簡易に検出することができる。
【0012】
戻り検出手段は、付勢部材の歪みを検出することにより、一対のシューの少なくとも一方の押接位置からの戻りを検出してもよい。シューの拡開が解除されたときには付勢部材の歪みが変化する。この態様によれば、これを利用して押接位置からのシューの戻りを簡易に検出することができる。
【0013】
本発明の別の態様は、ドラムブレーキの固着解除装置である。この装置は、内周面に摩擦面を有し、車輪と共に回転するドラムと、回転不能に車体に取り付けられたバッキングプレートと、バッキングプレートに移動可能に取り付けられ、摩擦面に押接されることによって車輪に制動力を与える一対のシューと、一対のシューの各々に両端部が連結され、一対のシューに対し互いに接近する方向への付勢力を与える付勢部材と、車輪への制動力の付与を要求する操作入力にしたがって、付勢部材が伸びる方向に一対のシューを拡開させて摩擦面に押接させるシュー拡開手段と、一対のシューの少なくとも一方の摩擦面への押接位置からの戻りを検出する戻り検出手段と、一対のシューのいずれかがドラムに固着しているか否かを判定する固着判定手段と、一対のシューの少なくとも一方を加熱可能に設けられるヒーターと、一対のシューの少なくとも一方を加熱するようヒーターを制御する固着解除制御手段と、を備える。固着判定手段は、一対のシューの拡開が解除されているときに一対のシューの少なくとも一方に押接位置からの戻りが検出されない場合、一対のシューの少なくとも一方がドラムに固着していると判定する。
【0014】
この態様によれば、シューとドラムの摩擦面との固着をより正確に検出することができ、このため、シューとドラムの摩擦面との固着を迅速に解除させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、凍結などによって生じるシューとドラムの摩擦面との固着による影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係るドラムブレーキ装置の構成を示す図である。
【図2】図1の視点Pからストラットを見た図である。
【図3】図2の領域Qの拡大図である。
【図4】(a)は、第2シューの正面図であり、(b)は、第2シューの右側面図である。
【図5】第1の実施形態に係るドラムブレーキ装置に対する固着解除制御の手順を示すフローチャートである。
【図6】図1の視点Pから第2の実施形態に係るストラットを見た図である。
【図7】図1の領域Rの拡大図である。
【図8】第3の実施形態に係るドラムブレーキ装置に対する固着解除制御の手順を示すフローチャートである。
【図9】第4の実施形態に係るドラムブレーキ装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るドラムブレーキ装置10の構成を示す図である。理解を容易にすべく、図1では、内部を覆うカバーなどの図示を省略している。図1に示すドラムブレーキ装置10は右後輪用である。左後輪用のドラムブレーキ装置は、図1に示すド車両の前後方向の中心線に対してドラムブレーキ装置10と左右対称に構成されている。以下、ドラムブレーキ装置10を説明することで左後輪用のドラムブレーキ装置に関する説明を省略する。
【0019】
ドラムブレーキ装置10は、バッキングプレート11、第1シュー12、第2シュー14、アンカ16、ホイールシリンダ18、シュー間隙自動調節機構20、ドラム22、およびパーキングブレーキ機構24を有する。バッキングプレート11は、回転不能に車体に取り付けられる。第1シュー12および第2シュー14はそれぞれ円弧状に形成され、双方で概ね円を描くようにドラム22内に配置される。ドラム22は、内周面に摩擦面22aを有し、車輪と共に回転するよう車輪に固定されている。車両前進時には、ドラム22は矢印Aが示す方向に回転する。このため、第1シュー12はリーディングシューとなり、第2シュー14はトレーディングシューとなる。
【0020】
第1シュー12は、シューウェブ12a、シューリム12b、およびライニング12cを有する。シューウェブ12aは、円弧状の外形を有する平板として形成され、シューリム12bは、シューウェブ12aの外周に沿うように湾曲した平板として形成される。シューリム12bは、断面がT字状となるようシューウェブ12aの外周に一体的に取り付けられる。ライニング12cは、シューリム12bの外面に沿うように湾曲した平板として形成される。ライニング12cは、シューリム12bの外面に接着などによって固定される。
【0021】
第2シュー14は、シューウェブ14a、シューリム14b、およびライニング14cを有する。シューウェブ14aの外形がシューウェブ12aの外形と少し異なる以外は、シューウェブ14a、シューリム14b、およびライニング14cの構成は概ねシューウェブ12a、シューリム12b、およびライニング12cと同様である。
【0022】
シューウェブ12a、14aの対向する一端部、すなわち図1における下方側の端部は、バッキングプレート11上に固定されたアンカ16に対向するよう配置される。これらシューウェブ12a、14aの各々の一端部には引張コイルスプリング34が引っ掛けられており、これにより、これらシューウェブ12a、14aの各々の一端部がアンカ16に押し当てられる。こうして第1シュー12および第2シュー14は、バッキングプレート11と平行に拡開可能にバッキングプレート11に支持される。第1シュー12と第2シュー14とが互いに拡開することにより、ライニング12c、14cの各々がドラム22の摩擦面22aに押接され、車輪に制動力が与えられる。
【0023】
シューウェブ12a、14aの各々の中間部分には、それぞれシューホールドダウン26、27が設けられている。シューホールドダウン26、27の各々は、シューウェブ12a、14aの各々と共にバッキングプレート11と平行に移動可能に構成されている。シューホールドダウン26、27の構成は公知であるため説明を省略する。
【0024】
ホイールシリンダ18は、一対のピストン32を有する。車両客室内の運転席周辺には、パーキングレバーまたはパーキングブレーキ用ペダル(以下、これらを「パーキングブレーキ用操作部材」と総称する)が設けられている。パーキングブレーキ用操作部材が初期位置にあるとき、すなわちパーキングブレーキが解除されている状態では、シューウェブ12a、14aの他端部、すなわち図1における上方側の端部に設けられた被押し付け部の各々が一対のピストン32の各々の押し付け面に当接する。
【0025】
運転者によってブレーキペダル(図示せず)が踏み込まれると、その操作量にしたがってこのホイールシリンダ18内に作動液が供給され、一対のピストン32が互いに離間する方向に推進する。こうしてホイールシリンダ18は、第1シュー12および第2シュー14の各々の被押し付け部を一対のピストン32の各々で押すことにより第1シュー12および第2シュー14を拡開させて摩擦面22aに押接させる。したがって、ホイールシリンダ18は、第1シュー12および第2シュー14を互いに拡開させるシュー拡開手段として機能する。
【0026】
シュー間隙自動調節機構20は、ストラット28を有する。ストラット28はねじによって伸縮可能に設けられており、第1シュー12の移動量の増大に伴って伸長することにより、ライニング12c、14cが摩耗してもドラム22との間の隙間が所定の範囲内に維持されるよう構成されている。このようなストラット28の構成は公知であるため説明を省略する。
【0027】
ストラット28の外周には、付勢部材であるリターンスプリング30が巻回されている。リターンスプリング30は、第1シュー12および第2シュー14の各々に両端部が連結され、第1シュー12および第2シュー14に対し互いに接近する方向への付勢力を与える。
【0028】
パーキングブレーキ機構24もまた、シュー拡開手段として機能する。パーキングブレーキ機構24は、連結ピン36、ブレーキシューレバー38、ケーブル40、およびリターンスプリング42を有する。
【0029】
ブレーキシューレバー38は、第2シュー14のシューウェブ14aと平行に延び、シューウェブ14aよりバッキングプレート11寄りにおいてシューウェブ14aと重なるように配設されている。ブレーキシューレバー38は、ホイールシリンダ18に近接する個所において、その一端が第2シュー14と連結ピン36を介して互いに回動可能に連結されている。ブレーキシューレバー38のうち連結ピン36周辺の中間部は、ストラット28に形成された切り欠きに挿入されている。
【0030】
ブレーキシューレバー38の他端には、ケーブル40の一端が連結されている。ケーブル40の他端は、他のケーブル(図示せず)などを介して、パーキングブレーキ用操作部材に接続されている。なお、このようなパーキングブレーキ用操作部材に代えて、いわゆる電動パーキングブレーキが採用されてもよい。
【0031】
ケーブル40の外周にはリターンスプリング42が巻回されている。リターンスプリング42は、ブレーキシューレバー38を押すよう付勢力を与える。パーキングブレーキが解除されているときは、このリターンスプリング42によって、ブレーキシューレバー38がドラム22の中央から離間する方向に付勢され、初期位置に係止される。
【0032】
このとき、第1シュー12および第2シュー14には拡開する方向への力が与えられない。このため、リターンスプリング30による互いに閉鎖する方向への付勢力によって、それぞれの一端がホイールシリンダ18のピストン32に当接する。これにより、ライニング12c、14cの各々とドラム22の摩擦面22aとの間にクリアランスが設けられ、車輪への制動力の付与が解除された状態となる。以下、このときの第1シュー12および第2シュー14の位置を、それぞれ「解除位置」という。ブレーキシューレバー38は、リターンスプリング42の付勢力によって係止部(図示せず)に押し当てられた初期位置にあるとき、その中間部とストラット28の切り欠き部に僅かな隙間が設けられるよう形成されている。
【0033】
パーキングブレーキ用操作部材が運転者によって初期位置から制動位置まで操作されたとき、すなわちパーキングブレーキ作動時は、ケーブル40が引っ張られ、これに伴いブレーキシューレバー38の他端が引っ張られる。これによりブレーキシューレバー38が連結ピン36を中心に、ドラムブレーキ装置10の中央に向かって回動する。
【0034】
パーキングブレーキ用操作部材が操作されると、ブレーキシューレバー38が回動して中間部がストラット28の切り欠き部に当接し、そのままストラット28を押し進める。これによって、第1シュー12がストラット28に押されて解除位置から移動し、ライニング12cがドラム22の摩擦面22aに押接される。また、ブレーキシューレバー38がストラット28を押す反力によって、ストラット28が押される方向と逆方向の力がブレーキシューレバー38に与えられる。これにより、第2シュー14が連結ピン36を介して押されて解除位置から移動し、ライニング14cがドラム22の摩擦面22aに押接される。以下、このようにドラム22に押接されるときの第1シュー12および第2シュー14の位置を、それぞれ「押接位置」という。
【0035】
パーキングブレーキ機構24は、車輪への制動力の付与を要求する操作入力、すなわちパーキングブレーキ用操作部材への操作入力にしたがって、リターンスプリング30が伸びる方向に第1シュー12および第2シュー14を拡開させて摩擦面22aに押接させる。
【0036】
しかし、例えば寒冷地において、パーキングブレーキが作動されて、第1シュー12および第2シュー14がドラム22の摩擦面22aに押接された状態で車両が長時間放置されると、凍結により第1シュー12および第2シュー14の各々がドラム22に固着する可能性がある。このため、第1の実施例に係るドラムブレーキ装置10では、第1シュー12または第2シュー14のドラム22への固着を検出すべく、戻りスイッチ50が設けられている。
【0037】
図2は、図1の視点Pからストラット28を見た図である。リターンスプリング30の両端には、それぞれフック部30a、30bが設けられている。リターンスプリング30は、第1シュー12の引っ掛け部12dにフック部30aが引っ掛けられ、第2シュー14の引っ掛け部14dにフック部30bが引っ掛けられている。
【0038】
ストラット28の両端の各々には、切り欠き部の底部である被当接部28a、28bがそれぞれ設けられている。第1シュー12および第2シュー14は、リターンスプリング30によって互いに近接する方向、すなわち閉鎖する方向に付勢力が与えられる。このため、第1シュー12の当接部12eがストラット28の被当接部28aに当接し、第2シュー14の当接部14eがストラット28の被当接部28bに当接する。
【0039】
こうしてストラット28は、パーキングブレーキ機構24が解除されているときに、第1シュー12および第2シュー14の各々の当接部12e、14eが両端部の各々に設けられた被当接部28a、28bに当接して第1シュー12および第2シュー14の相互間隔を規制する。第1の実施形態では、戻りスイッチ50は、ストラット28における被当接部28b近傍に取り付けられている。
【0040】
図3は、図2の領域Qの拡大図である。戻りスイッチ50には、突出部50aが設けられている。戻りスイッチ50は、この突出部50aが被当接部28aから突出するようストラット28上に取り付けられる。
【0041】
パーキングブレーキが解除されており、第1シュー12および第2シュー14が解除位置にあるときは、リターンスプリング30の付勢力によって第2シュー14の当接部14eがストラット28の被当接部28bに当接する。このとき、当接部14eによって突出部50aが押されて戻りスイッチ50がオンにされる。
【0042】
しかし、第1シュー12および第2シュー14の少なくとも一方がドラム22の摩擦面22aに固着している場合、第2シュー14の当接部14eはストラット28の被当接部28bに当接しない。戻りスイッチ50の突出部50aは内部のバネによって突出した状態が保持されている。このため、第1シュー12および第2シュー14の双方がドラム22の摩擦面22aから離間して、リターンスプリング30の付勢力で押接位置から適切に戻らない限り、戻りスイッチ50はオンにされない。
【0043】
ここで、第1の実施形態において「押接位置からの戻り」とは、ライニング12cまたはライニング14cが摩擦面22aから離間した状態をいう。このように戻りスイッチ50は戻り検出手段として機能し、オンにされたときに、第1シュー12および第2シュー14の少なくとも一方の摩擦面22aへの押接位置からの戻りを検出する。
【0044】
なお、戻りスイッチ50は、第1シュー12および第2シュー14の少なくとも一方の被当接部とストラットの端部との近接を検出することにより、第1シュー12および第2シュー14の少なくとも一方の押接位置からの戻りを検出するよう設けられてもよい。例えば戻りスイッチ50が第1シュー12の当接部12eとストラット28の被当接部28aとの近接を検出してもよい。また、一対の戻りスイッチ50がストラット28の被当接部28a、28bの各々の周辺に配置され、第1シュー12の当接部12eとストラット28の被当接部28aとの近接、および第2シュー14の当接部14eとストラット28の被当接部28bとの近接の双方を個別に検出可能に設けられてもよい。
【0045】
戻りスイッチ50は、電子制御ユニット(図示せず。以下、「ECU」という。)に接続されている。ECUは、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAMなどを有し、車両内部に搭載される。ECUは、車両に設けられた様々な機器を制御する。
【0046】
ECUは、第1シュー12および第2シュー14のいずれかがドラム22に固着しているか否かを判定する。ECUは、第1シュー12および第2シュー14の拡開が解除されているときに第1シュー12および第2シュー14のいずれかに押接位置からの戻りが検出されない場合、そのシューがドラム22に固着していると判定する。このようにECUは、固着判定手段として機能する。
【0047】
図4(a)は、第2シュー14の正面図であり、図4(b)は、第2シュー14の右側面図である。以下、図4(a)および図4(b)の双方に関連して説明する。
【0048】
シューリム14bの内面には、シューウェブ14aを挟むように一対のヒーター52が取り付けられている。ヒーター52の各々は、シューリム14bの内面のうち、ライニング14cに背向する略全域にわたって延在する。なお、図示を省略するが、第1シュー12のシューリム12bの内面にも、シューウェブ12aを挟むように一対のヒーター52が取り付けられている。このヒーター52の各々もまた、シューリム12bの内面のうちライニング14cに背向する略全域にわたって延在する。第1シュー12および第2シュー14の各々のヒーター52は、ECUに接続されている。ECUは、第1シュー12および第2シュー14の各々に取り付けられたヒーター52のオン、オフを制御することにより、ヒーター52による第1シュー12および第2シュー14の加熱を制御する。なお、ヒーター52は、第1シュー12および第2シュー14の少なくとも一方を加熱可能に設けられてもよい。
【0049】
図5は、第1の実施形態に係るドラムブレーキ装置10に対する固着解除制御の手順を示すフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、車両のイグニッションスイッチがオンにされたときに開始し、その後イグニッションスイッチがオフにされるまでの間所定時間毎に繰り返し実行される。
【0050】
ECUは、パーキングブレーキ用操作部材の周辺に設けられたストップランプスイッチ(図示せず)がオフとなったか否かを判定することにより、パーキングブレーキが解除されたか否かを判定する(S10)。パーキングブレーキが作動中の場合(S10のN)、本フローチャートにおける処理を一旦終了する。
【0051】
パーキングブレーキが解除されたと判定した場合(S10のY)、ECUは、戻りスイッチ50がオフか否かを判定する(S12)。戻りスイッチ50がオンになった場合(S12のN)、第1シュー12および第2シュー14の双方が適切に解除位置に戻ったと判定し、本フローチャートにおける処理を一旦終了する。
【0052】
パーキングブレーキが解除されたにもかかわらず戻りスイッチ50がオフのままの場合(S12のY)、ECUは、第1シュー12または第2シュー14がドラム22の摩擦面22aに固着していると判定し、第1シュー12および第2シュー14の双方のヒーター52をオンして(S14)、第1シュー12および第2シュー14を加熱させる。こうして、第1シュー12または第2シュー14のドラム22への固着を適切に解除することができる。
【0053】
このようにECUは、第1シュー12または第2シュー14のドラム22への固着を解除させるようヒーター52のオン、オフを制御する固着解除制御手段として機能する。また、ドラムブレーキ装置10およびECUは、ドラムブレーキ装置10の固着検出装置、または固着解除制御装置として機能する。
【0054】
(第2の実施形態)
図6は、図1の視点Pから第2の実施形態に係るストラット28を見た図である。なお、特に言及しない限り、第2の実施形態に係るドラムブレーキ装置の構成および動作は第1の実施形態に係るドラムブレーキ装置10と同様である。以下、第1の実施形態と同様の個所は同一の符号を付して説明を省略する。
【0055】
第2の実施形態では、戻りスイッチ50に代えて歪ゲージ53が設けられている。歪ゲージ53は、リターンスプリング30のフック部30a周辺に取り付けられている。なお、歪ゲージ53は、例えばフック部30b周辺など、リターンスプリング30の他の部分に取り付けられてもよい。
【0056】
パーキングブレーキが作動状態から解除された場合、リターンスプリング30の歪みが変化する。このとき、第1シュー12または第2シュー14がドラム22に固着している場合と、第1シュー12および第2シュー14の双方が適切に解除位置に戻った場合とでは、第1シュー12および第2シュー14の双方が押接位置にあるときのリターンスプリング30の歪みとの差は異なる。歪ゲージ53は、リターンスプリング30の歪みを検出することにより、第1シュー12および第2シュー14の少なくとも一方の押接位置からの戻りを検出する。したがって、歪ゲージ53は戻り検出手段として機能する。
【0057】
歪ゲージ53は、ECUに接続されている。ECUには、予め実験により得た閾値が保持されている。ECUは、パーキングブレーキが解除されたときのリターンスプリング30の歪みの変化量が閾値以上の場合は、第1シュー12および第2シュー14の双方が押接位置から適切に解除位置に戻ったと判定する。一方、ECUは、パーキングブレーキが解除されたときのリターンスプリング30の歪みの変化量が閾値未満の場合は、第1シュー12または第2シュー14がドラム22に固着していると判定する。固着が発生していると判定した後の制御は上述と同様である。このようにリターンスプリング30の歪みを検出することによっても、第1シュー12または第2シュー14の戻りを検出することができる。
【0058】
(第3の実施形態)
図7は、図1の領域Rの拡大図である。なお、特に言及しない限り、第3の実施形態に係るドラムブレーキ装置の構成および動作は第1の実施形態に係るドラムブレーキ装置10と同様である。以下、第1の実施形態と同様の個所は同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
第3の実施形態では戻りスイッチ50に代えて一対の戻りスイッチ54が設けられている。パーキングブレーキが解除されているときは、第1シュー12の被押し付け部12fがピストン32の押し付け面32aに当接した状態となる。戻りスイッチ54は、第1シュー12における被押し付け部12f近傍に取り付けられる。戻りスイッチ54には、突出部54aが設けられている。戻りスイッチ54は、第1シュー12の被押し付け部12fがピストン32の押し付け面32aから離間しているときにおいて被押し付け部12fから突出部54aが突出するよう配置される。
【0060】
なお、図示を省略するが、パーキングブレーキが解除されているときは、第2シュー14の被押し付け部がピストン32の押し付け面32aに当接した状態となる。戻りスイッチ54は、第2シュー14における被押し付け部近傍に取り付けられる。このとき戻りスイッチ54は、第2シュー14の被押し付け部がピストン32の押し付け面32aから離間しているときにおいて被押し付け部から突出部54aが突出するよう配置される。一対の戻りスイッチ54の各々は、第1シュー12および第2シュー14の各々の被押し付け部と一対のピストンの各々との近接を検出することにより、第1シュー12および第2シュー14の各々の押接位置からの戻りを検出する。したがって、戻りスイッチ54もまた、戻り検出手段として機能する。
【0061】
図8は、第3の実施形態に係るドラムブレーキ装置に対する固着解除制御の手順を示すフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、車両のイグニッションスイッチがオンにされたときに開始し、その後イグニッションスイッチがオフにされるまでの間所定時間毎に繰り返し実行される。
【0062】
ECUは、パーキングブレーキ用操作部材の周辺に設けられたストップランプスイッチ(図示せず)がオフとなったか否かを判定することにより、パーキングブレーキが解除されたか否かを判定する(S30)。パーキングブレーキが作動中の場合(S30のN)、本フローチャートにおける処理を一旦終了する。
【0063】
パーキングブレーキが解除されたと判定した場合(S30のY)、ECUは、第1シュー12の戻りスイッチ54がオフか否かを判定する(S32)。パーキングブレーキが解除されたにもかかわらず第1シュー12の戻りスイッチ54がオフのままの場合(S32のY)、ECUは、第1シュー12がドラム22の摩擦面22aに固着していると判定し、第1シュー12に取り付けられたヒーター52をオンする(S34)。
【0064】
第1シュー12の戻りスイッチ54がオンになった場合(S32のN)、ECUは、第1シュー12が適切に解除位置に戻ったと判定し、今度は第2シュー14の戻りスイッチ54がオフか否かを判定する(S36)。パーキングブレーキが解除されたにもかかわらず第2シュー14の戻りスイッチ54がオフのままの場合(S36のY)、ECUは、第2シュー14がドラム22の摩擦面22aに固着していると判定し、第2シュー14に取り付けられたヒーター52をオンする(S38)。第2シュー14の戻りスイッチ54がオンになった場合(S36のN)、ECUは、第2シュー14が適切に解除位置に戻ったと判定し、本フローチャートにおける処理を一旦終了する。
【0065】
このように第1シュー12および第2シュー14の各々に対応して戻り検出手段を設けることにより、第1シュー12および第2シュー14のうちどれがドラム22に固着しているかを特定することが可能となる。このため、例えば第1シュー12のみが固着しているにもかかわらず第2シュー14のヒーター52をオンにすることを回避することができ、消費電力を抑制することができる。
【0066】
(第4の実施形態)
図9は、第4の実施形態に係るドラムブレーキ装置100の構成を示す図である。なお、特に言及しない限り、第4の実施形態に係るドラムブレーキ装置100の構成および動作は第1の実施形態に係るドラムブレーキ装置10と同様である。以下、第1の実施形態と同様の個所は同一の符号を付して説明を省略する。
【0067】
第4の実施形態では、戻りスイッチ50に代えて第1戻りスイッチ70および第2戻りスイッチ72が設けられている。なお、第1戻りスイッチ70および第2戻りスイッチ72に代えて変位センサが設けられてもよい。
【0068】
第1戻りスイッチ70には、突出部70aが設けられている。第1戻りスイッチ70は、第1シュー12が解除位置にあるときにこの突出部70aが第1シュー12のシューリム12bによって押されるよう、ドラム22の内部においてバッキングプレート11に対して固定される。同様に、第2戻りスイッチ72にも突出部72aが設けられている。第2戻りスイッチ72は、第2シュー14が解除位置にあるときにこの突出部72aが第2シュー14のシューリム14bによって押されるよう、ドラム22の内部においてバッキングプレート11に対して固定される。
【0069】
第1戻りスイッチ70は、第1シュー12の解除位置への移動を検出することにより、第1シュー12の押接位置からの戻りを検出する。第2戻りスイッチ72は、第2シュー14の解除位置への移動を検出することにより、第2シュー14の押接位置からの戻りを検出する。このように第1戻りスイッチ70および第2戻りスイッチ72は、それぞれ戻り検出手段として機能する。
【0070】
固着解除制御の手順は、第1シュー12の戻りスイッチ54の検出結果に代えて第1戻りスイッチ70の検出結果が利用され、第2シュー14の戻りスイッチ54の検出結果に代えて第2戻りスイッチ72の検出結果が利用されることを除き、第3の実施形態に係る固着解除制御の手順と同様である。このように設けられた第1戻りスイッチ70および第2戻りスイッチ72によっても、第1シュー12および第2シュー14に生じた固着を個別に検出することができる。
【0071】
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0072】
10 ドラムブレーキ装置、 11 バッキングプレート、 12 第1シュー、 12a シューウェブ、 12b シューリム、 12c ライニング、 12e 当接部、 12f 被押し付け部、 14 第2シュー、 14a シューウェブ、 14b シューリム、 14c ライニング、 14d 引っ掛け部、 14e 当接部、 18 ホイールシリンダ、 22 ドラム、 22a 摩擦面、 24 パーキングブレーキ機構、 28 ストラット、 28a,28b 被当接部、 30 リターンスプリング、 32 ピストン、 32a 押し付け面、 38 ブレーキシューレバー、 50 戻りスイッチ、 50a 突出部、 52 ヒーター、 53 歪ゲージ、 54 戻りスイッチ、 54a 突出部、 70 第1戻りスイッチ、 70a 突出部、 72 第2戻りスイッチ、 72a 突出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に摩擦面を有し、車輪と共に回転するドラムと、
回転不能に車体に取り付けられたバッキングプレートと、
前記バッキングプレートに移動可能に取り付けられ、前記摩擦面に押接されることによって車輪に制動力を与える一対のシューと、
前記一対のシューの各々に両端部が連結され、前記一対のシューに対し互いに接近する方向への付勢力を与える付勢部材と、
車輪への制動力の付与を要求する操作入力にしたがって、前記付勢部材が伸びる方向に前記一対のシューを拡開させて前記摩擦面に押接させるシュー拡開手段と、
前記一対のシューの少なくとも一方の前記摩擦面への押接位置からの戻りを検出する戻り検出手段と、
前記一対のシューのいずれかが前記ドラムに固着しているか否かを判定する固着判定手段と、
を備え、
前記固着判定手段は、前記一対のシューの拡開が解除されているときに前記一対のシューの少なくとも一方に前記押接位置からの戻りが検出されない場合、前記一対のシューの少なくとも一方が前記ドラムに固着していると判定することを特徴とするブレーキ固着検出装置。
【請求項2】
前記シュー拡開手段は、前記一対のシューの各々の被押し付け部を一対のピストンの各々で押すことにより前記一対のシューを拡開させて前記摩擦面に押接させるホイールシリンダを含み、
前記戻り検出手段は、前記一対のシューの各々の被押し付け部と一対のピストンの各々との近接を検出することにより、前記一対のシューの各々の前記押接位置からの戻りを検出することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ固着検出装置。
【請求項3】
前記シュー拡開手段による前記一対のシューの拡開が解除されているときに前記一対のシューの各々の当接部が両端部の各々に設けられた被当接部に当接して前記一対のシューの相互間隔を規制するストラットをさらに備え、
前記戻り検出手段は、前記一対のシューの少なくとも一方の当接部と前記ストラットの被当接部との近接を検出することにより、前記一対のシューの少なくとも一方の前記押接位置からの戻りを検出することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ固着検出装置。
【請求項4】
前記戻り検出手段は、前記付勢部材の歪みを検出することにより、前記一対のシューの少なくとも一方の前記押接位置からの戻りを検出することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ固着検出装置。
【請求項5】
内周面に摩擦面を有し、車輪と共に回転するドラムと、
回転不能に車体に取り付けられたバッキングプレートと、
前記バッキングプレートに移動可能に取り付けられ、前記摩擦面に押接されることによって車輪に制動力を与える一対のシューと、
前記一対のシューの各々に両端部が連結され、前記一対のシューに対し互いに接近する方向への付勢力を与える付勢部材と、
車輪への制動力の付与を要求する操作入力にしたがって、前記付勢部材が伸びる方向に前記一対のシューを拡開させて前記摩擦面に押接させるシュー拡開手段と、
前記一対のシューの少なくとも一方の前記摩擦面への押接位置からの戻りを検出する戻り検出手段と、
前記一対のシューのいずれかが前記ドラムに固着しているか否かを判定する固着判定手段と、
前記一対のシューの少なくとも一方を加熱可能に設けられるヒーターと、
前記一対のシューの少なくとも一方が前記ドラムに固着していると判定されたとき、前記一対のシューの少なくとも一方を加熱するよう前記ヒーターを制御する固着解除制御手段と、
を備え、
前記固着判定手段は、前記一対のシューの拡開が解除されているときに前記一対のシューのいずれかに前記押接位置からの戻りが検出されない場合、そのシューが前記ドラムに固着していると判定することを特徴とするブレーキ固着解除装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−173588(P2010−173588A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20961(P2009−20961)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】