説明

ブレードコータ、ブレードコータの塗工量調整方法および塗工紙の製造方法

【課題】原紙への塗工量のばらつきを飛躍的に低減することができるブレードコータの提供
【解決手段】 バッキングロール1と、バッキングロール1に沿って走行する原紙2の表面に塗工液を塗布する塗布手段と、バッキングロール1に押し付けられ、原紙2上の塗工量を調整するブレード3およびブレード先端部3aの加圧量を調整する複数のプロファイラ4を備えるコータヘッド6と、コータヘッド6を移動させるコータヘッド移動手段と、少なくともブレード先端部3aの幅方向両端部の背後に設置され、ブレード先端部3aの変位量を測定する複数の距離センサ5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロファイルを調整してブレードの押し込み量のばらつきを抑制することができるブレードコータと、そのブレードコータを用いた塗工量の調整方法、および、塗工紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱記録紙、感圧記録紙、インクジェット記録用紙、アート紙、コート紙等の印刷用紙、磁気記録紙等の情報記録用紙その他の塗工紙は、原紙に各種用途に応じた塗工液を塗工して製造されている。塗工紙の製造方法としては、カーテンコータ、ダイコータ、リップコータ、ゲートロールコータ、エアーナイフコータ、ロッドコータ、ブレードコータ等があげられるが、中でもブレードコータは、高速での塗工を実施できることから、様々の塗工紙の製造に多用されている。
【0003】
ブレードコータは、通常、バッキングロールと、バッキングロールに沿って走行する原紙の表面に塗工液を塗布する塗布手段と、バッキングロールに押し付けられ、原紙上の塗工量を調整するブレードと、ブレード先端部の加圧量を調整する複数のプロファイラとを有する装置である。ブレードコータにおいては、まず、バッキングロールに沿って走行する原紙の表面に塗布した塗工液を、ブレードでかき取ることにより、原紙上の塗工量を調整するものである。
【0004】
ブレードコータにおいては、ブレードの押し付け圧力の調整が塗工紙の品質を安定させる上で最も重要であり、従来、様々な調整方法が開示されている。
【0005】
特許文献1には、圧電素子を利用したプロファイラを使用して、ブレードの押し付け圧力を調整したブレードコータに関する発明が開示されている。特許文献2には、ブレードの押し付け圧力を電気信号に変換する圧力検出器を持つブレードコータに関する発明が開示されている。
【0006】
特許文献3には、ブレード押し付け支持具をプロファイラが存在するのとは反対面に設けたブレードコータに関する発明が開示されている。特許文献4には、ブレードと接触するプロファイラの先端を磁石にしたブレードコータに関する発明が開示されている。
【0007】
特許文献5には、塗工初期における機械の温度分布パターンごとにライン速度を上げて行く段階での最もよいプロファイルとなる各プロファイル調整ねじ軸の移動量パターンを学習により確定して記憶させ、この記憶したデータを用いてライン速度を上げて行く段階ごとにプロファイル調整を自動的に行う塗工機の塗工初期におけるプロファイル調整方法に関する発明が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平4−290575号公報
【特許文献2】特開平5−15833号公報
【特許文献3】特開平6−254472号公報
【特許文献4】特開平7−108210号公報
【特許文献5】特開平7−185442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記いずれの文献に記載のブレードコータも、塗工量の均一化を目指したものであるが、いずれも、実際には塗工量のばらつきを完全にコントロールするのは難しい。また、大がかりな仕様変更を要する場合もある。このため、実際の操業においては、作業員がバッキングロールとブレードの間に挟まれた原紙を引っ張り、その感触で初期の塗工量を調整する方法のほか、塗工前および塗工後の幅方向の坪量をBM計などによって検知し、その差に基づいて作業員がプロファイラの設定位置を移動させて、初期の塗工量を調整する方法などが採用されることが多い。しかし、これらの方法では、作業員の能力に左右されやすく、また、バッキングロールの状態(直径、研磨の有無など)の影響も受けやすい。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、現状のブレードコータを用いることを前提とし、原紙への塗工量のばらつきを低減することができるブレードコータおよびその塗工量調整方法ならびに塗工紙の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ブレードコータにおけるブレード先端部の押圧を検知する方法について鋭意研究を行い、複数の距離センサを用いてブレードコータの左右の移動距離を調整する方法を検討した。しかし、単に距離センサを用いただけでは、塗工量の左右バランスを調整できない場合があった。即ち、本発明者らは、ブレードコータに取り付けた複数の距離センサにより、ブレードコータおよびバッキングロールの両端付近のそれぞれの距離を測定、調整した後、塗工液を原紙に塗工することを繰り返したが、あまり再現性が良くなかった。
【0012】
そこで、本発明者らは、ブレードコータの移動距離を調整するのではなく、ブレード先端部の変位量をモニターするために複数の距離センサを用いることとしたところ、優れた塗工量およびそのバランスの調整機能を有し、その再現性にも優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明は、下記の(1)に示すブレードコータ、下記の(2)に示すブレードコータの塗工量調整方法および下記の(3)に示す塗工紙の製造方法を要旨とする。
【0014】
(1) バッキングロールと、
バッキングロールに沿って走行する原紙の表面に塗工液を塗布する塗布手段と、
バッキングロールに押し付けられ、原紙上の塗工量を調整するブレードおよびブレード先端部の加圧量を調整する複数のプロファイラを備えるコータヘッドと、
コータヘッドを移動させるコータヘッド移動手段と、
少なくともブレード先端部の幅方向両端部の背後に設置され、ブレード先端部の変位量を測定する複数の距離センサと
を有することを特徴とするブレードコータ。
【0015】
(2) バッキングロールと、
バッキングロールに沿って走行する原紙の表面に塗工液を塗布する塗布手段と、
バッキングロールに押し付けられ、原紙上の塗工量を調整するブレードおよびブレード先端部の加圧量を調整する複数のプロファイラを備えるコータヘッドと、
コータヘッドを移動させるコータヘッド移動手段と、
少なくともブレード先端部の幅方向両端部の背後に設置され、ブレード先端部の変位量を測定する複数の距離センサと
を有するブレードコータを用い、距離センサが検出した複数位置における変位量が一致するようにブレードコータの移動距離および/またはプロファイラの変位量を調整することを特徴とするブレードコータの塗工量調整方法。
【0016】
なお、上記(2)のブレードコータの塗工量調整方法においては、距離センサが検出した複数位置における変位量の差を50μm以下に調整するのがよい。
【0017】
(3) バッキングロールと、
バッキングロールに沿って走行する原紙の表面に塗工液を塗布する塗布手段と、
バッキングロールに押し付けられ、原紙上の塗工量を調整するブレードおよびブレード先端部の加圧量を調整する複数のプロファイラを備えるコータヘッドと、
コータヘッドを移動させるコータヘッド移動手段と、
少なくともブレード先端部の幅方向両端部の背後に設置され、ブレード先端部の変位量を測定する複数の距離センサと
を有するブレードコータを用い、距離センサが検出した複数位置における変位量が一致するようにブレードコータの移動距離および/またはプロファイラの変位量を調整した後、原紙に塗工液を塗工することを特徴とする塗工紙の製造方法。
【0018】
なお、上記(3)の塗工紙の製造方法においては、距離センサが検出した複数位置における変位量の差を50μm以下に調整するのがよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、通常のブレードコータを用いても、原紙への塗工量のばらつきを飛躍的に低減することができるので、作業員の能力に左右されず、高品質な塗工紙を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1および2は、本発明に係るブレードコータの例を示す模式図であり、図1(a)および図2は側面図、図1(b)は正面図である。図1は、ブレードを原紙に接触させる前の状態を示し、図2は、ブレードを原紙に接触させた状態を示している。
【0021】
図1および2に示すように、本発明に係るブレードコータ10は、バッキングロール1と、バッキングロール1に沿って走行する原紙2の表面に塗工液を塗布する塗布手段(図示しない)と、バッキングロール1に押し付けられ、原紙2上の塗工量を調整するブレード3およびブレード先端部3aの加圧量を調整する複数のプロファイラ4を備えるコータヘッド6と、少なくともブレード先端部3aの幅方向両端部の背後に設置され、ブレード先端部3aの変位量を測定する複数の距離センサ5とを有するブレードコータである。
【0022】
本発明に係るブレードコータ10は、まず、操業開始前、図1の状態に設置される。このとき、距離センサ5で計測される距離データがゼロになるように補正しておく。その後、サーボモータなどで構成されるブレードコータ移動手段(図示しない。ブレードローディング装置ともいう。)により、図2に示す白抜き矢印の方向にブレードコータを移動させると、ある時点で、ブレード3がバッキングロール1上の原紙2に接触し、ブレード先端部3aが若干撓んだ状態で原紙2を押圧した状態となる。この状態で、原紙2を送りつつ、塗布手段(図示しない)により塗布された塗工液をかき取ることにより塗工量を調整することになる。
【0023】
このとき、ブレード先端部3aの押込量は、原紙の種類、塗工液の種類、原紙への塗工量、原紙の送り速度など、ブレードコータの操業条件に応じて設定すればよいが、典型的には1〜2500μmの範囲で調整すればよい。
【0024】
このとき、本発明に係るブレードコータ10においては、ブレード先端部3aの後部に設置された複数の距離センサ5により、ブレード先端部3aのたわみ量(押込量)をモニターする。ブレード先端部3aが原紙2を介してバッキングロールに接触すると、距離センサ5の値がそれぞれ変化し始める。そして、距離センサ5が検出した複数位置における変位量が一致するように調整するのがよい。具体的には、距離センサが検出した複数位置における変位量の差を50μm以下の範囲内に調整することにより、塗工量のバラツキを0.6g/m3以下という低い水準にまで制限することができる。
【0025】
距離センサ5が検出した複数位置における変位量を一致させる手段としては、検出された変位量をブレードコータ移動手段(図示しない)にフィードバックし、コータヘッド6のロール幅方向の移動距離のバランスを調整する方法を採用することができる。即ち、これは、ブレードコータ移動手段として、たとえば、別個に移動可能なマイクロジャッキストッパー(サーボモータで制御)を、ロール幅方向に左右二つ用意し、距離センサ5の測定値に従い、左右の移動距離を微調整する方法である。また、微細な変位量の調整は、プロファイラ4の変位量を調整することにより行うことができる。
【0026】
左右の移動手段距離の調整は、複数の距離センサ5の検出値に基づいて、いずれかのマイクロジャッキストッパーを前進または後退させることにより行ってもよいが、一旦、コータヘッド6を後退させ、左右のマイクロジャッキストッパーの移動距離を補正した後、再度、コータヘッド6を前進させるのが望ましい。
【0027】
ブレードコータ10の操業初期段階に、このような方法により塗工量を調整すれば、塗工紙製造の立ち上げがスムーズとなり、生産性を向上させることができる。また、塗工量が安定するとともに、均一性が向上するので、歩留まりを向上させ、しかも、品質安定性を大幅に改善することができる。
【実施例】
【0028】
本発明の効果を確認するために、図1に示す構成のブレードコータ(ブレード刃:SK刃0.508mm×20°)を用い、原紙(坪量56g/m2)、感熱下塗り(濃度40.3%)を200m/minの塗工速度で塗工し、130℃で乾燥して、塗工紙を製造する実験を行った。
【0029】
本発明例1および本発明例2では、二つの距離センサ(キーエンス製ロングレンジLK−G150、測定範囲150±40mm、繰り返し制度0.5μm、スポット計120μm)をブレード先端部3aの背後に設置し、ブレード先端部3aの両端に位置するプロファイラ4の接点近くのブレード先端から1.5mmの位置における距離をモニターして、ブレード先端部のたわみ量が一致するように、コータヘッドを移動させる左右のマイクロジャッキストッパーの移動距離を調整した。
【0030】
なお、本発明例1および本発明例2では、距離センサの変動量が1500μm(加圧)となるように設定したものである。また、参考例1および2は、それぞれ通常の作業者Aおよび熟練の作業者Bが引っ張り抵抗の感触に基づいて塗工量を調整した例である。これらの結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

なお、表1中の「バランス」は、左、中央および右それぞれの塗工量の最大値と最小値の差である。
【0032】
表1に示すように、参考例2のように熟練の作業者であれば、非常に高い精度で塗工量の調整ができると言えるが、参考例1では、左右のバランスが悪く、塗工量のばらつきが大きかった。このような状況は安定した操業を確保するのが難しくさせる。一方、本発明例1および2のいずれにおいても、左右のバランスが良く、三回の塗工量の値がいずれも許容範囲に収まっており、熟練の作業者に匹敵する調整を実現できた。また、熟練の作業者といえども、一回の調整に20〜30分程度の時間を要するが、本発明例ではいずれの条件でも1分以内に調整を完了させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、ブレードコータの操業初期段階に塗工量およびその均一化ができるので、塗工紙製造の立ち上げがスムーズとなり、生産性を向上させることができる。また、塗工量が安定するとともに、均一性が向上するので、歩留まりを向上させ、しかも、品質安定性を大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るブレードコータの例を示す模式図(ブレード接触前の状態) (a)側面図 (b)正面図
【図2】本発明に係るブレードコータの例を示す模式図(ブレード接触後の状態)
【符号の説明】
【0035】
1 バッキングロール
2 原紙
3 ブレード
3a ブレード先端部
4 プロファイラ
5 距離センサ
6 コータヘッド
10 ブレードコータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングロールと、
バッキングロールに沿って走行する原紙の表面に塗工液を塗布する塗布手段と、
バッキングロールに押し付けられ、原紙上の塗工量を調整するブレードおよびブレード先端部の加圧量を調整する複数のプロファイラを備えるコータヘッドと、
コータヘッドを移動させるコータヘッド移動手段と、
少なくともブレード先端部の幅方向両端部の背後に設置され、ブレード先端部の変位量を測定する複数の距離センサと
を有することを特徴とするブレードコータ。
【請求項2】
バッキングロールと、
バッキングロールに沿って走行する原紙の表面に塗工液を塗布する塗布手段と、
バッキングロールに押し付けられ、原紙上の塗工量を調整するブレードおよびブレード先端部の加圧量を調整する複数のプロファイラを備えるコータヘッドと、
コータヘッドを移動させるコータヘッド移動手段と、
少なくともブレード先端部の幅方向両端部の背後に設置され、ブレード先端部の変位量を測定する複数の距離センサと
を有するブレードコータを用い、距離センサが検出した複数位置における変位量が一致するようにブレードコータの移動距離および/またはプロファイラの変位量を調整することを特徴とするブレードコータの塗工量調整方法。
【請求項3】
距離センサが検出した複数位置における変位量の差を50μm以下に調整することを特徴とする請求項2に記載のブレードコータの塗工量調整方法。
【請求項4】
バッキングロールと、
バッキングロールに沿って走行する原紙の表面に塗工液を塗布する塗布手段と、
バッキングロールに押し付けられ、原紙上の塗工量を調整するブレードおよびブレード先端部の加圧量を調整する複数のプロファイラを備えるコータヘッドと、
コータヘッドを移動させるコータヘッド移動手段と、
少なくともブレード先端部の幅方向両端部の背後に設置され、ブレード先端部の変位量を測定する複数の距離センサと
を有するブレードコータを用い、距離センサが検出した複数位置における変位量が一致するようにブレードコータの移動距離および/またはプロファイラの変位量を調整した後、原紙に塗工液を塗工することを特徴とする塗工紙の製造方法。
【請求項5】
距離センサが検出した複数位置における変位量の差を50μm以下に調整することを特徴とする請求項4に記載の塗工紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−285596(P2009−285596A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142143(P2008−142143)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】