説明

ブローバイガス還元装置

【課題】複数のオイルセパレータを備えたPCV装置に対し、オイルセパレータからのブローバイガスの還流に起因して吸気系に堆積するデポジットの量を各気筒それぞれ均一化することができるブローバイガス還元装置を提供する。
【解決手段】V型エンジンEの各バンク2L,2RそれぞれにPCV装置9L,9Rを備えさせる。エンジンEの運転時、左バンク2LのPCVバルブ97Lが開放され且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rが閉鎖された状態と、左バンク2LのPCVバルブ97Lが閉鎖され且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rが開放された状態とを数sec毎に交互に切り換える。これにより、各バンク2L,2Rの各気筒に向かって流れ込むブローバイガスの量が均等化され、各気筒毎のデポジット堆積量に大きな差が生じてしまうことを回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に搭載されるエンジン(内燃機関)のブローバイガスを吸気系へ送るブローバイガス還元装置(以下、PCV(Positive Crankcase Ventilation)装置という)に係る。特に、本発明は、吸気系へのブローバイガス導入動作の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用エンジンには、シリンダとピストンとの隙間からクランクケース内に吹き抜けたブローバイガスを吸気系に導くためのPCV装置が備えられている。つまり、このPCV装置によって、一酸化炭素や炭化水素等を含むブローバイガスをエンジンの吸気系を経て燃焼室に送り込み、このブローバイガスの大気中への放出を防止し、またオイルパンに貯留されているエンジンオイルの劣化を防止している。
【0003】
また、下記の特許文献1にも開示されているように、このPCV装置はオイルセパレータを備えている。このオイルセパレータの内部には、オイルミストを分離するためのオイル分離機構が収容されている。このオイル分離機構としては、例えば、複数のバッフルプレートによりブローバイガス流路が迷路状に構成されたものや、パンチングプレートが配置されたものが一般に知られている。つまり、オイルセパレータ内部をブローバイガスが流れていく間に所謂慣性衝突作用によってオイルミストを捕捉するようになっている。これにより、ブローバイガス中に含まれているオイルミストがオイルセパレータ内部で分離され、このオイルがオイルパン等のオイル溜まり部へ送られる。
【0004】
一方、オイルセパレータには、PCVバルブが備えられており、オイルミストが分離除去された後のブローバイガスが、このPCVバルブを経てエンジンの吸気系に還流されるようになっている。このPCVバルブの一例として、下記の特許文献2に開示されているように電磁弁により開閉動作を行うものが採用されており、このPCVバルブの開閉動作を制御することによってブローバイガスのエンジン吸気系への還流量を調整するようになっている。
【0005】
また、エンジン形態の一つとしてV型エンジンが知られているが、この種のエンジンにおける上記オイルセパレータの配置形態として、例えば特許文献3に開示されているように、左右の各バンクそれぞれに設置されたものがある。この場合、エンジンの低負荷時には一方のバンクに設けられたオイルセパレータからクランクケース内に外気(新気)を導入すると共に他方のバンクに設けられたオイルセパレータからブローバイガスを吸気系に送り出してクランクケース内の換気を行う一方、エンジンの高負荷時には両バンクのオイルセパレータそれぞれからブローバイガスを吸気系に送り出すようにしている。
【特許文献1】実公平6−45611号公報
【特許文献2】特開平8−33822号公報
【特許文献3】特開平7−83018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、オイルセパレータからエンジン吸気系へ還流されるブローバイガス中には燃焼生成物(酸化物や炭化物)が含まれており、これがデポジットとなって吸気経路の内面や各気筒に備えられた吸気バルブに堆積する可能性がある。
【0007】
そして、上記特許文献3に開示されているような複数のオイルセパレータを備えたものでは、一つのオイルセパレータから吸気系に流れ込む燃焼生成物(デポジットの原因物質)の量と他のオイルセパレータから吸気系に流れ込む燃焼生成物の量とが不均一であることが原因で、一部の気筒の吸気経路や吸気バルブに対して極端に多くのデポジットが堆積してしまうことがある。以下、この燃焼生成物の量が不均一となる要因について説明する。
【0008】
上述した如く、エンジンの低負荷時には一方のバンクに設けられたオイルセパレータからクランクケース内に外気(新気)を導入すると共に他方のバンクに設けられたオイルセパレータからブローバイガスを吸気系に送り出している一方、エンジンの高負荷時には両バンクのオイルセパレータそれぞれからブローバイガスを吸気系に送り出している。つまり、上記他方のオイルセパレータ(低負荷時にもブローバイガスを吸気系に送り出すもの)からは定常的に燃焼生成物が排出される状況であるのに対し、上記一方のオイルセパレータ(低負荷時には新気を導入するもの)からは高負荷時の場合に限り燃焼生成物が排出される。このため、一方のオイルセパレータからのブローバイガスが流れ込みやすい気筒と、他方のオイルセパレータからのブローバイガスが流れ込みやすい気筒とが存在する場合、各気筒毎のデポジット堆積量には大きな差が生じてしまう。例えば、上記一方のオイルセパレータからのブローバイガスは右バンクの各気筒に向けて流れ込みやすく、他方のオイルセパレータからのブローバイガスは左バンクの各気筒に向けて流れ込みやすい状況では、左バンクの吸気経路や吸気バルブに対して極端に多くのデポジットが堆積してしまうことになる。これにより、デポジットの総堆積量のうち例えば80%ものデポジットが上記左バンクの吸気経路や吸気バルブに堆積してしまう可能性がある。
【0009】
そして、このデポジットが大量に堆積した気筒では、吸入空気の流れが乱されて空気導入量の不足に起因して空燃比が目標値からずれてしまったり、吸気バルブの開閉動作に支障を来したりすることがあり、エンジン出力の低下や、アイドリング運転時の回転数の不安定化(ラフアイドル)を招く可能性がある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数のオイルセパレータを備えたPCV装置に対し、オイルセパレータからのブローバイガスの還流に起因して吸気系に堆積するデポジットの量を各気筒それぞれ均一化することができるブローバイガス還元装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、ブローバイガスを吸気系に還流させる経路を複数備えたブローバイガス還元装置に対し、各還流経路それぞれに対応して開閉制御が可能なPCVバルブを備えさせ、これらPCVバルブの開閉動作を個別に制御することで各気筒の吸気系に堆積するデポジットの量を均等化するようにしている。
【0012】
−解決手段−
具体的に、本発明は、クランク室に吹き抜けたブローバイガスを内燃機関の吸気系へ導入するブローバイガス還元動作を行うための複数のブローバイガス還元流路と、これら各ブローバイガス還元流路に備えられたPCVバルブとを備えたブローバイガス還元装置を前提とする。このブローバイガス還元装置に対し、上記各PCVバルブを、それぞれ開閉動作が可能な構成とし、開放状態にある場合にブローバイガス還元流路によるブローバイガス還元動作が行われるようにする。そして、上記内燃機関の各気筒それぞれに向かう吸気系におけるブローバイガス還元動作に伴うデポジット堆積量が均等化するように各PCVバルブを個別に開閉制御するPCVバルブ制御手段を備えさせている。
【0013】
より具体的な構成としては、内燃機関を、一対のバンクを有するV型内燃機関とし、各バンクそれぞれにオイルセパレータを備えさせると共に、PCVバルブを各バンクのオイルセパレータそれぞれに設ける。そして、PCVバルブ制御手段が、一方のバンクのPCVバルブを開放し且つ他方のバンクのPCVバルブを閉鎖する状態と、上記一方のバンクのPCVバルブを閉鎖し且つ上記他方のバンクのPCVバルブを開放する状態とを所定時間毎に交互に切り換える構成としている。
【0014】
これら特定事項により、仮に、一方のバンク(例えば左バンク)のPCV装置から還流されるブローバイガスが他方のバンク(例えば右バンク)の各気筒に向けて流れ込みやすく、逆に、上記他方のバンク(右バンク)のPCV装置から還流されるブローバイガスが上記一方のバンク(左バンク)の各気筒に向けて流れ込みやすい構成であったとしても、各バンクの各気筒に向かって流れ込むブローバイガスの量は均等化されることになるため、各気筒毎のデポジット堆積量に大きな差が生じてしまうことはなくなる。その結果、一部の気筒で空気導入量が不足してその気筒の空燃比が目標値からずれてしまったり、その気筒の吸気バルブの開閉動作に支障を来したりするといったことが回避でき、エンジン出力を高く維持でき且つアイドリング運転時の回転数の安定化を維持することができる。
【0015】
上記目的を達成するための他の解決手段としては以下のものも挙げられる。先ず、内燃機関を、一対のバンクを有するV型内燃機関とし、各バンクそれぞれにオイルセパレータを備えさせると共に、PCVバルブを各バンクのオイルセパレータそれぞれに設ける。そして、PCVバルブ制御手段が、一方のバンクのPCVバルブを開放し且つ他方のバンクのPCVバルブを閉鎖する時間と、上記一方のバンクのPCVバルブを閉鎖し且つ上記他方のバンクのPCVバルブを開放する時間との割合を、上記一方のバンクのブローバイガス還元流路からのブローバイガス還元量と、上記他方のバンクのブローバイガス還元流路からのブローバイガス還元量とが略均等になるように調整する構成としている。
【0016】
この特定事項によれば、各気筒毎のデポジット堆積量をより確実に均等化することができ、一部の気筒で空気導入量が不足してその気筒の空燃比が目標値からずれてしまったり、その気筒の吸気バルブの開閉動作に支障を来したりするといったことが確実に回避できることになる。
【0017】
更に、上記目的を達成するための他の解決手段としては以下のものも挙げられる。先ず、内燃機関を、一対のバンクを有するV型内燃機関とし、各バンクそれぞれにオイルセパレータを備えさせると共に、PCVバルブを各バンクのオイルセパレータそれぞれに設ける。また、上記一方のバンクのブローバイガス還元流路から吸気系に流れ込むデポジット量及び上記他方のバンクのブローバイガス還元流路から吸気系に流れ込むデポジット量をそれぞれ推測可能なデポジット量推測手段を備えさせる。そして、PCVバルブ制御手段が、上記デポジット量推測手段の出力を受け、一方のバンクのPCVバルブを開放し且つ他方のバンクのPCVバルブを閉鎖する時間と、上記一方のバンクのPCVバルブを閉鎖し且つ上記他方のバンクのPCVバルブを開放する時間との割合を、上記一方のバンクのブローバイガス還元流路から吸気系に流れ込むデポジット量と、上記他方のバンクのブローバイガス還元流路から吸気系に流れ込むデポジット量とが略均等になるように調整する構成としている。
【0018】
この特定事項によれば、各気筒毎のデポジット堆積量を求めるようにしているため、よりいっそうデポジット堆積量の均等化を図ることができ、一部の気筒で空気導入量が不足してその気筒の空燃比が目標値からずれてしまったり、その気筒の吸気バルブの開閉動作に支障を来したりするといったことが確実に回避できる。
【0019】
また、クランクケース内の換気を良好に行うための構成として、内燃機関のVバンクの中間位置に、クランクケース内に外気を導入するための外気導入孔を設けている。これにより、クランクケース内への外気(新気)の導入が円滑に行われ、良好にクランクケース内の換気が行える。また、各オイルセパレータのうちの一部のオイルセパレータに新規導入のための動作を行わせる必要が無くなり、全てのオイルセパレータを、ブローバイガス回収のための専用の装置として使用することができるため、エンジンの運転状態に関わりなく、各バンクの各気筒に向かって流れ込むブローバイガスの量を均等化できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ブローバイガスを吸気系に還流させる経路を複数備えたブローバイガス還元装置に対し、各還流経路それぞれに対応して開閉制御が可能なPCVバルブを備えさせ、内燃機関の各気筒それぞれにおけるデポジットの堆積量が均等化するように各PCVバルブの開閉動作を個別に制御している。このため、各気筒毎のデポジット堆積量に大きな差が生じてしまうことはなくなり、一部の気筒で空気導入量が不足してその気筒の空燃比が目標値からずれてしまったり、その気筒の吸気バルブの開閉動作に支障を来したりするといったことが回避できる。その結果、エンジン出力を高く維持でき且つアイドリング運転時の回転数の安定化を維持することができ、良好なドライバビリティを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、本発明に係るPCV装置(ブローバイガス還元装置)を自動車用V型エンジン(内燃機関)に適用した場合について説明する。
【0022】
(第1実施形態)
−エンジンの全体構成の説明−
図1は、本実施形態に係るV型エンジンEをクランク軸Cの軸心に沿った方向から見たエンジン内部の概略構成を示す図である。また、図2は、このエンジンE及び吸排気系の概略を示すシステム構成図である。
【0023】
これら図に示すように、V型エンジンEは、シリンダブロック1の上部にV型に突出した一対のバンク2L,2Rを有している。各バンク2L,2Rは、シリンダブロック1の上端部に設置されたシリンダヘッド3L,3Rと、その上端に取り付けられたヘッドカバー4L,4Rとをそれぞれ備えている。上記シリンダブロック1には複数のシリンダ5L,5R,…(例えば各バンク2L,2Rに3個ずつ)が所定の挟み角(例えば60°)をもって配設されており、これらシリンダ5L,5R,…の内部にピストン51L,51R,…が往復移動可能に収容されている。また、各ピストン51L,51R,…はコネクティングロッド52L,52R,…を介してクランク軸Cに動力伝達可能に連結されている。更に、シリンダブロック1の下側にはクランクケース6が取り付けられており、上記シリンダブロック1内の下部からクランクケース6の内部に亘る空間がクランク室61となっている。また、このクランクケース6の更に下側にはオイル溜まり部となるオイルパン11が配設されている。
【0024】
また、上記シリンダヘッド3L,3Rには、吸気ポート31L,31Rを開閉するための吸気バルブ32L,32R及び排気ポート33L,33Rを開閉するための排気バルブ34L,34Rがそれぞれ組み付けられており、シリンダヘッド3L,3Rとヘッドカバー4L,4Rとの間に形成されているカム室41L,41Rに配置されたカムシャフト35L,35R,36L,36Rの回転によって各バルブ32L,32R,34L,34Rの開閉動作が行われるようになっている。
【0025】
一方、上記各バンク2L,2Rの内側(バンク間側)の上部には各バンク2L,2Rに対応する吸気マニホールド7L,7Rが配設されており、各吸気マニホールド7L,7Rの下流端が各吸気ポート31L,31R,…に連通している。また、図2に示すように、吸気マニホールド7L,7Rは各バンク共通のサージタンク72及びスロットルバルブ73を備えた吸気管74に連通されており、吸気管74の上流側にはエアクリーナ75が設けられている。これにより、上記エアクリーナ75から吸気管74内に導入された空気は、サージタンク72を通じて吸気マニホールド7L,7Rに導入される。この吸気マニホールド7L,7Rにはインジェクタ(燃料噴射弁)76L,76Rがそれぞれ設けられており、吸気マニホールド7L,7Rを経て吸気ポート31L,31Rに導入された空気は、このインジェクタ76L,76Rから噴射された燃料と混合されて混合気となり、吸気バルブ32L,32Rの開弁に伴って燃焼室77L,77Rへと導入されることになる。また、この燃焼室77L,77Rの頂部には点火プラグ78L,78Rが配設されている。
【0026】
上記燃焼室77L,77Rにおいて、点火プラグ78L,78Rの点火に伴う混合気の燃焼により生じた燃焼ガスは、排気バルブ34L,34Rの開弁に伴い排気ガスとして排気マニホールド8L,8Rに排出される。排気マニホールド8L,8Rには排気管81L,81Rがそれぞれ接続され、更に、排気管81L,81Rは共通の集合排気管82に接続されている。この集合排気管82には三元触媒を内蔵した触媒コンバータ83が設けられている。上記排気マニホールド8L,8Rに排出された排気ガスは、排気管81L,81R及び集合排気管82を通過して外部に排出される。この際、触媒コンバータ83を排気ガスが通過することにより、同ガス中に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、及び酸化窒素成分(NOx)が浄化されるようになっている。
【0027】
−制御ブロックの説明−
上述の如く構成されたエンジンEの運転は、ECU(電子制御ユニット)100によって制御される。このECU100は、図3に示すように、CPU101、ROM102、RAM103、バックアップRAM104、燃料噴射回数などをカウントするカウンタ105を備えている。
【0028】
上記ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、このROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。上記RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104は、エンジンEの停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。これらROM102、CPU101、RAM103、バックアップRAM104、カウンタ105は、バス108を介して互いに接続されるとともに、外部入力回路106及び外部出力回路107と接続されている。
【0029】
外部入力回路106には、エンジンEのウォータジャケットを循環する冷却水の温度(冷却水温)を検出する水温センサ110、スロットルバルブ73の下流側の吸気圧を検出するバキュームセンサ111、アクセル開度を検出するアクセルポジションセンサ112、スロットルバルブ73の開度を検出するスロットルポジションセンサ113、クランクシャフトCの回転数に応じたパルス信号を発信するクランクポジションセンサ114、カムシャフト35L,35Rの回転数に応じたパルス信号を発信するカムポジションセンサ115、イグニッションスイッチ116等が接続されている。
【0030】
外部出力回路107には、インジェクタ76L,76R、点火プラグ78L,78Rを作動させるイグナイタ117、スロットルバルブ73を作動させるスロットルモータ118、エンジン始動時のクランキング動作を行うためのスタータモータ119等が接続されている。更に、この外部出力回路107には、後述するPCV装置9L,9Rに備えられてる電磁弁方式のPCVバルブ97L,97Rも接続されており、このPCVバルブ97L,97Rの開閉動作を制御するようになっている。つまり、ECU100は本発明でいうPCVバルブ制御手段としての機能を備えている。
【0031】
そして、ECU100は、上記水温センサ110、バキュームセンサ111、アクセルポジションセンサ112、スロットルポジションセンサ113、クランクポジションセンサ114、及びカムポジションセンサ115などの各種センサの出力に基づいて、インジェクタ76L,76Rの開閉制御(燃料の噴射開始時期及び噴射終了時期の制御)を含むエンジンEの各種制御を実行する。
【0032】
−PCV装置の説明−
次に、PCV装置9L,9Rについて説明する。PCV装置9L,9Rは、シリンダ5L,5Rの内面とピストン51L,51Rの外面との隙間からクランク室61内に吹き抜けたブローバイガスを吸気系に導くためのものであって、各バンク2L,2Rそれぞれに個別に設けられている。尚、図4(a)は、左バンク2Lに備えられたPCV装置9L及びその周辺を示す断面図(気筒列方向に直交する方向から見た断面図)であり、図4(b)は、右バンク2Rに備えられたPCV装置9R及びその周辺を示す断面図である。各PCV装置9L,9Rの構成は共に同様であるので、ここでは左バンク2Lに備えられたPCV装置9Lを代表して説明する。
【0033】
上記PCV装置9Lは、クランク室61内に吹き抜けたブローバイガスを抜き出すためのブローバイガス通路91L、このブローバイガス通路91Lによって抜き出されたブローバイガスからオイルミストを分離するためのオイルセパレータ92L、このオイルセパレータ92Lからブローバイガスを吸気系に導くためのブローバイガス供給配管(ブローバイガス還元流路)93Lを備えている。以下、それぞれについて説明する。
【0034】
(ブローバイガス通路91L)
上記ブローバイガス通路91Lは、シリンダブロック1からシリンダヘッド3Lに亘って形成されており、これによってクランク室61とカム室41Lとが連通している。つまり、ブローバイガス回収時には、このブローバイガス通路91Lによってクランク室61内のブローバイガスがカム室41Lに導入されるようになっている(図4(a)に実線で示す矢印参照)。
【0035】
(オイルセパレータ92L)
オイルセパレータ92Lは、ヘッドカバー4Lの内面(下側の面)に取り付けられており、図4(a)に示すように、セパレータケーシング94Lと、このセパレータケーシング94L内に配置された複数のバッフルプレート(オイル捕捉手段)95L,95L,…とを備えている。
【0036】
上記セパレータケーシング94Lは、一端側が開放された金属製で略直方体形状の箱形部材であって、この開放側がヘッドカバー4Lの内面に取り付けられることによって、このヘッドカバー4Lとの間で略密閉されたセパレータ室(ブローバイガス流路)96Lを形成している。このセパレータケーシング94Lのヘッドカバー4Lの内面に対する取り付け手段としてはボルト止め等が挙げられる。尚、ここでは、セパレータケーシング94Lとヘッドカバー4Lの内面とによってセパレータ室96Lを形成しているが、セパレータケーシング94Lのみによってセパレータ室96Lを形成する構成としてもよい。
【0037】
そして、このセパレータケーシング94Lには、ブローバイガス導入孔94a、オイル回収部94bがそれぞれ形成されていると共に、PCVバルブ97Lが取り付けられている。
【0038】
上記ブローバイガス導入孔94aは、セパレータケーシング94Lの長手方向(ヘッドカバー4Lに取り付けられた状態での気筒配列方向)の一方寄り(図4における左寄り)の底面に形成されており、セパレータケーシング94Lの内部空間である上記セパレータ室96Lとカム室41Lとを連通するものである。
【0039】
上記オイル回収部94bは、セパレータケーシング94Lの長手方向の他方寄り(図4における右寄り)の底面に設けられた所謂オイルプールとして構成されている。つまり、このオイル回収部94bは、セパレータケーシング94Lの底面の一部分が凹陥され、且つこの凹陥部分の底面に比較的小径の開口が形成された構成となっている。これにより、上記セパレータ室96Lとカム室41Lとを連通していると共に、このオイルプールにオイルが貯留されることで、カム室41L内のオイルミストがこのオイル回収部94bからセパレータケーシング94L内に流れ込むことを阻止している。
【0040】
また、上記PCVバルブ97Lは、開閉自在な電磁弁により構成されており、このPCVバルブ97Lの開放時には、セパレータケーシング94L内でオイルが分離除去された後のブローバイガスが、このPCVバルブ97Lを経てブローバイガス供給配管93LによりエンジンEの吸気系(サージタンク72)に導入されることになる。一方、PCVバルブ97Lの閉鎖時には、セパレータケーシング94L内には吸気系の吸入負圧が作用しないため、このセパレータケーシング94L内での気流は発生しないことになる。尚、各バンク2L,2Rそれぞれに備えられたオイルセパレータ92L,92RのPCVバルブ97L,97Rの開閉制御動作については後述する。
【0041】
(ブローバイガス供給配管93L)
ブローバイガス供給配管93Lは、上記セパレータケーシング94L内においてオイルが分離除去された後のブローバイガスを吸気系に導くための配管であって、下流端が上記サージタンク72に接続され、上記PCVバルブ97Lの開放に伴い、ブローバイガスを、サージタンク72を介してエンジンEの吸気系に導入するようにしている。尚、このブローバイガス供給配管93Lの下流端における吸気系に対する接続位置は、サージタンク72に限らず、このサージタンク72とスロットルバルブ73との間の吸気管74であってもよい。
【0042】
以上、左バンク2Lに備えられたPCV装置9Lを代表して説明したが、図4(b)に示すように右バンク2Rに備えられたPCV装置9Rも同様の構成となっており、この図4(b)においては、上記符号「L」に代えて符号「R」を付している。
【0043】
(新気導入用開口98)
上記シリンダブロック1の前面におけるVバンクの中間位置(クランクシャフトCの鉛直上方位置)には、新気導入用開口(外気導入孔)98(図1に仮想線で示す)が形成されている。この新気導入用開口98は、一端が外気に、他端がクランク室61にそれぞれ連通しており、クランク室61内を換気するための外気(新気)を導入するようになっている。より具体的に、この新気導入用開口98は、シリンダブロック1に形成された水平方向に延びる通路で成り、外気側の一端はチェーンケースの内部空間に開放されている一方、クランク室61内側の他端はエンジンオイル等の飛散のない比較的高い位置に設定されている。尚、この新気導入用開口98には、クランク室61内のブローバイガスがエンジン外部に噴出するのを防止するために逆止弁を設けておいてもよい。
【0044】
−PCVバルブ97L,97Rの開閉制御動作説明−
次に、本実施形態の特徴である上記PCVバルブ97L,97Rの開閉制御動作について説明する。
【0045】
本実施形態では、エンジンEの運転時、上記各PCVバルブ97L,97Rが所定時間間隔をもって交互に開閉動作が切り換えられるようになっている。例えば、左バンク2LのPCVバルブ97Lが開放され且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rが閉鎖された状態と、逆に、左バンク2LのPCVバルブ97Lが閉鎖され且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rが開放された状態とが数sec(例えば10sec)毎に交互に切り換えられるようになっている。この動作は、例えば上記ECU100にPCVバルブ切り換え用タイマが備えられ、エンジンEの運転が開始されると、上記所定時間毎にこのタイマが切り換え信号を発信し、この切り換え信号を受信した外部出力回路107がPCVバルブ97L,97Rに開閉切り換え指令信号を発信することにより、上記開閉状態が切り換えられるようになっている。
【0046】
以下、このように各PCVバルブ97L,97Rの開閉動作が切り換えられることに伴うブローバイガスの流れについて説明する。
【0047】
先ず、左バンク2LのPCVバルブ97Lが開放され且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rが閉鎖されている場合、エンジンEの圧縮行程や膨張行程においてシリンダ5L,5Rとピストン51L,51Rとの隙間からクランク室61内に吹き抜けたブローバイガスは、左バンク2Lのブローバイガス通路91L及びカム室41Lを経てセパレータケーシング94L内に導入される(図4(a)に実線で示す矢印参照)。このセパレータケーシング94L内のセパレータ室96Lに流れ込んだブローバイガスは、各バッフルプレート95L,95L,…に衝突しながらセパレータケーシング94L内を流れることにより、所謂慣性衝突作用によってオイルミストが捕捉される。これにより、ブローバイガスとオイルミストとが分離される。
【0048】
そして、オイルミストが分離除去されたブローバイガスは、セパレータケーシング94L内の下流端に達し、PCVバルブ97Lを経てブローバイガス供給配管93Lに流出されてサージタンク72に導入される(図4(a)に破線で示す矢印参照)。
【0049】
この際、右バンク2RのPCVバルブ97Rは閉鎖されており、この右バンク2RのPCV装置9Rにおけるセパレータケーシング94R内にはブローバイガスは流れていない。また、このセパレータケーシング94R内に吸入負圧は作用していないため、オイル回収部94bに貯留されていたオイルは、その自重により流下し、オイル戻し通路99Rを経てオイルパン11に回収されることになる(図4(b)に一点鎖線で示す矢印参照)。また、この際、上記新気導入用開口98からクランク室61内に新気が導入され、このクランク室61内の換気が行われている。
【0050】
この状態が所定時間継続した後、PCVバルブ97L,97Rの開閉が切り換えられ、左バンク2LのPCVバルブ97Lが閉鎖され且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rが開放される。これにより、クランク室61内のブローバイガスは、右バンク2Rのブローバイガス通路91R及びカム室41Rを経てセパレータケーシング94R内に導入される(図4(b)に実線で示す矢印参照)。このセパレータケーシング94R内のセパレータ室96Rに流れ込んだブローバイガスは、上記の場合と同様の慣性衝突作用によってオイルミストが捕捉され、これによってブローバイガスとオイルミストとが分離される。
【0051】
そして、オイルミストが分離除去されたブローバイガスは、セパレータケーシング94R内の下流端に達し、PCVバルブ97Rを経てブローバイガス供給配管93Rに流出されてサージタンク72に導入される(図4(b)に破線で示す矢印参照)。
【0052】
この際、左バンク2LのPCVバルブ97Lは閉鎖されており、この左バンク2LのPCV装置9Lにおけるセパレータケーシング94L内にはブローバイガスは流れていない。また、このセパレータケーシング94L内に吸入負圧は作用していないため、オイル回収部94bに貯留されていたオイルは、その自重により流下し、オイル戻し通路99Lを経てオイルパン11に回収されることになる(図4(a)に一点鎖線で示す矢印参照)。また、この際にも、上記新気導入用開口98からクランク室61内に新気が導入され、このクランク室61内の換気が行われている。
【0053】
本実施形態では、エンジンEの運転が停止されるまで、以上の動作が所定時間毎に交互に繰り返される。このため、仮に、左バンク2LのPCV装置9Lから還流されるブローバイガスが右バンク2Rの各気筒に向けて流れ込みやすく、逆に、右バンク2RのPCV装置9Rから還流されるブローバイガスが左バンク2Lの各気筒に向けて流れ込みやすい構成であったとしても、各バンク2L,2Rの各気筒に向かって流れ込むブローバイガスの量は均等化されており、このため、各気筒毎の単位時間当たりのデポジット堆積量が均等化され、その結果、各気筒毎のデポジット堆積量に大きな差が生じてしまうことはなくなる。このデポジットは、特に、吸気マニホールド7L,7Rや吸気ポート31L,31Rの内壁や、吸気バルブ32L,32Rに堆積することが多いが、それぞれの堆積量が略均一になることにより、一部の気筒で空気導入量が不足してその気筒の空燃比が目標値からずれてしまったり、その気筒の吸気バルブ32L,32Rの開閉動作に支障を来したりするといったことが回避でき、エンジン出力を高く維持でき且つアイドリング運転時の回転数の安定化を維持することができる。
【0054】
また、本実施形態の如く、複数のPCV装置9L,9Rを備えさせ、それぞれによるブローバイガス回収動作を個別に行うことにより、左バンク2Lのブローバイガス供給配管93Lからのブローバイガス回収時に最もデポジットが堆積しやすい箇所と、右バンク2Rのブローバイガス供給配管93Rからのブローバイガス回収時に最もデポジットが堆積しやすい箇所とを個別の箇所にして、デポジット堆積の分散化を行うことができる(一部分に集中的にデポジットが堆積してしまうことを回避できる)。このため、デポジット堆積量の最も堆積している箇所でのデポジット堆積量としては、1つのPCV装置しか備えていないもの比べて大幅に削減できることになる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、各PCVバルブ97L,97Rの開閉動作を所定時間間隔をもって交互に切り換えていた。本第2実施形態は、この各PCVバルブ97L,97Rの開閉動作の切り換えタイミングが第1実施形態のものと異なっており、その他の構成及び動作は第1実施形態と同様である。従って、以下の説明では、各PCVバルブ97L,97Rの開閉動作の切り換えタイミングについてのみ説明する。
【0056】
本実施形態では、各気筒におけるデポジットの堆積量の均等化を図る手段として、左バンク2LのPCV装置9Lからのブローバイガス還流量の総量と、右バンク2RのPCV装置9Rからのブローバイガス還流量の総量とを一致させるようにしている。つまり、左バンク2LのPCVバルブ97Lを開放し且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rを閉鎖する時間と、左バンク2LのPCVバルブ97Lを閉鎖し且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rを開放する時間との割合を、各ブローバイガス供給配管93L,93Rを流れたブローバイガスの流量に応じて設定している。
【0057】
具体的には、各ブローバイガス供給配管93L,93Rそれぞれに流量センサを備えさせる。また、左バンク2Lのブローバイガス供給配管93Lを流れたブローバイガスの総流量及び右バンク2Rのブローバイガス供給配管93Rを流れたブローバイガスの総流量をそれぞれ上記バックアップRAM104等のメモリ手段に継続的に記憶させるようにする。
【0058】
そして、エンジンEの運転が開始され、左バンク2LのPCVバルブ97Lを開放し且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rを閉鎖した状態で、左バンク2Lのブローバイガス供給配管93Lに備えられた流量センサにより、このブローバイガス供給配管93Lを流れるブローバイガス量を検知し、その検知値が所定流量(例えば1m3)に達した時点で、この検知流量値を上記記憶されているブローバイガスの総流量(左バンク2Lのブローバイガス供給配管93Lを流れたブローバイガスの総流量)に加算し、これを新たなブローバイガスの総流量として記憶する。この場合、エンジンEの低負荷運転状態が継続されている状況では、左バンク2LのPCVバルブ97Lが開放されている時間は長くなり、逆に、エンジンEの高負荷運転状態が継続されている状況では、左バンク2LのPCVバルブ97Lが開放されている時間は短くなる。
【0059】
その後、左バンク2LのPCVバルブ97Lを閉鎖し且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rを開放した状態で、右バンク2Rのブローバイガス供給配管93Rに備えられた流量センサにより、このブローバイガス供給配管93Rを流れるブローバイガス量を検知して、上記記憶されているブローバイガスの総流量(右バンク2Rのブローバイガス供給配管93Rを流れたブローバイガスの総流量)に加算していき、これを新たなブローバイガスの総流量として記憶していく。そして、この右バンク2Rのブローバイガス供給配管93Rを流れたブローバイガスの総流量が上記記憶されている左バンク2Lのブローバイガス供給配管93Lを流れたブローバイガスの総流量に一致した時点で、PCVバルブ97L,97Rの開閉を切り換える。つまり、右バンク2RのPCVバルブ97Rを閉鎖し且つ左バンク2LのPCVバルブ97Lを開放する。この場合も、エンジンEの低負荷運転状態が継続されている状況では、右バンク2RのPCVバルブ97Rが開放されている時間は長くなり、逆に、エンジンEの高負荷運転状態が継続されている状況では、右バンク2RのPCVバルブ97Rが開放されている時間は短くなる。
【0060】
このような動作を繰り返すことにより、左バンク2LのPCV装置9Lからのブローバイガス還流量の総量と、右バンク2RのPCV装置9Rからのブローバイガス還流量の総量とが略一致することになり、それに伴って各気筒におけるデポジットの堆積量を略均等化させることが可能になる。その結果、上記第1実施形態の場合と同様に、一部の気筒で空気導入量が不足してその気筒の空燃比が目標値からずれてしまったり、その気筒の吸気バルブ32L,32Rの開閉動作に支障を来したりするといったことが回避でき、エンジン出力を高く維持でき且つアイドリング運転時の回転数の安定化を維持することができる。
【0061】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、左バンク2LのPCVバルブ97Lの開放時におけるデポジット堆積量と、右バンク2RのPCVバルブ97Rの開放時におけるデポジット堆積量とを推測し、その推測値に基づいて各PCVバルブ97L,97Rの開閉動作を行って各気筒におけるデポジット堆積量の均等化を図るようにしている。
【0062】
つまり、エンジンEの運転状態からブローバイガスの発生量(クランクポジションセンサ114により検出されるエンジン回転数や、スロットルポジションセンサ113により検出されるスロットルバルブ73の開度等に基づいたブローバイガスの発生量)に基づいてデポジット堆積量(新たに堆積したデポジット量を加算した総デポジット堆積量)を認識し、そのデポジット堆積量に応じて、左バンク2LのPCVバルブ97Lを開放し且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rを閉鎖する時間と、左バンク2LのPCVバルブ97Lを閉鎖し且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rを開放する時間との割合を決定するものである。
【0063】
具体的には、エンジンEの運転状態と吸気系におけるデポジット堆積量との関係を実験的に求めたデポジット堆積マップを予め作成して上記ROM102に記憶させておき、このデポジット堆積マップから現在の吸気系におけるデポジット堆積量を認識してPCVバルブ97L,97Rの切り換え動作を行うようにしている。
【0064】
以下、このPCVバルブ97L,97Rの切り換え動作について図5のフローチャートに沿って具体的に説明する。先ず、エンジンEの運転が開始されると、ステップST1でYES判定され、ステップST2で左バンク2LのPCVバルブ97Lを開放し且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rを閉鎖する。これにより、ブローバイガスは左バンク2Lのブローバイガス供給配管93Lから吸気系に流れ込む状態となる。
【0065】
ステップST3では、エンジンEが停止したか否かが判定され、エンジンEの運転が継続されている状態では、ステップST4において、上記デポジット堆積マップから現在の吸気系におけるデポジット堆積量(左バンク2LのPCVバルブ97Lを開放していることに伴って堆積するデポジットの堆積量)を認識し(デポジット量推測手段による堆積量推測動作)、このデポジット堆積量が所定量に達したか否かが判定される。この所定量とは、エンジンEの運転開始前の堆積量(左バンク2LのPCVバルブ97Lを開放していた間に堆積したデポジットの堆積量)に、今回のPCVバルブ97Lの開放動作によって新たに堆積したデポジット量を加算した値である。例えば、左バンク2Lのブローバイガス供給配管93Lから還流されたブローバイガスが右バンク2Rの各気筒に流れ込みやすい構成である場合には、この右バンク2Rの各気筒におけるデポジット堆積量が所定量に達したか否かがステップST4では判定されることになる。
【0066】
このデポジット堆積量が所定量に達し、ステップST4でYES判定されると、ステップST5に移り、左バンク2LのPCVバルブ97Lを閉鎖し且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rを開放する。これにより、ブローバイガスは右バンク2Rのブローバイガス供給配管93Rから吸気系に流れ込む状態となる。
【0067】
ステップST6では、エンジンEが停止したか否かが判定され、エンジンEの運転が継続されている状態では、ステップST7において、上記デポジット堆積マップから現在の吸気系におけるデポジット堆積量(右バンク2RのPCVバルブ97Rを開放していることに伴って堆積するデポジットの堆積量)を認識し(デポジット量推測手段による堆積量推測動作)、このデポジット堆積量が所定量に達したか否かが判定される。この所定量とは、エンジンEの運転開始前の堆積量(右バンク2RのPCVバルブ97Rを開放していた間に堆積したデポジットの堆積量)に、今回のPCVバルブ97Rの開放動作によって新たに堆積したデポジット量を加算した値である。例えば、右バンク2Rのブローバイガス供給配管93Rから還流されたブローバイガスが左バンク2Lの各気筒に流れ込みやすい構成である場合には、この左バンク2Lの各気筒におけるデポジット堆積量が所定量に達したか否かがステップST7では判定されることになる。
【0068】
そして、このデポジット堆積量が所定量に達し、ステップST7でYES判定されると、ステップST2に戻り、左バンク2LのPCVバルブ97Lを開放し且つ右バンク2RのPCVバルブ97Rを閉鎖する。
【0069】
また、上記ステップST3またはステップST6でYES判定された場合には、ステップST8において両PCVバルブ97L,97Rを閉鎖して本制御動作を終了する。
【0070】
以上の動作を繰り返すことにより、左バンク2LのPCV装置9Lからブローバイガスが還流されている状況でのデポジット堆積量と、右バンク2RのPCV装置9Rからブローバイガスが還流されている状況でのデポジット堆積量とを略一致させることが可能になる。その結果、上記各実施形態の場合と同様に、一部の気筒で空気導入量が不足してその気筒の空燃比が目標値からずれてしまったり、その気筒の吸気バルブ32L,32Rの開閉動作に支障を来したりするといったことが回避でき、エンジン出力を高く維持でき且つアイドリング運転時の回転数の安定化を維持することができる。
【0071】
−その他の実施形態−
以上説明した各実施形態では、本発明に係るPCV装置9L,9Rを自動車用V型エンジンEに適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、自動車用水平対向型エンジン、自動車用直列型エンジン等に対しても適用可能である。尚、この直列型エンジンの場合、直列配置された複数気筒が複数の気筒群にグループ分けされ、各気筒群それぞれにPCV装置が個別に備えられたものに対して本発明が適用されることになる。また、ガソリンエンジンに限らずディーゼルエンジンにも適用可能である。更に、自動車用に限らず、その他のエンジンにも適用可能である。また、気筒数、燃料噴射方式、その他、エンジンEの仕様は特に限定されるものではない。
【0072】
また、セパレータケーシング94L,94R内に配置されるオイル捕捉手段としては、パンチングプレートとバッフルプレートとを備えさせ、パンチングプレートの開口を通過して流速が上昇したブローバイガスをバッフルプレートに衝突させるようにしたものを適用してもよい。また、パンチングプレートに代えてメッシュ状のプレートを採用してもよい。
【0073】
また、クランク室61内に外気を導入するための新気導入用開口98の形成位置としては、シリンダブロック1の前面におけるVバンクの中間位置に設定していたが、この形成位置は、クランク室61内に外気が導入可能な位置であれば任意に設定可能である。
【0074】
また、上述した各実施形態では、一方のPCVバルブ97Lを開放している場合には他方のPCVバルブ97Rを閉鎖するようにしていたが、本発明はこれに限らず、両PCVバルブ97L,97Rを共に開放させる時間帯や、両PCVバルブ97L,97Rを共に閉鎖させる時間帯が存在するような制御動作を行ってもよい。例えば、ブローバイガスの発生量が著しく多い場合には、一時的に両PCVバルブ97L,97Rを共に開放させるといった動作である。
【0075】
更には、エンジンEに備えられるPCV装置として、2個に限らず3個以上を備えさせたものに対しても本発明は適用可能である。例えば、3個のPCV装置を備えさせた場合、所定時間毎に、1個のPCV装置のPCVバルブを開放させ且つ他の2個のPCV装置のPCVバルブを閉鎖させる動作(開放するPCVバルブを所定時間毎に順に切り換えていく動作)を行う。また、所定時間毎に、2個のPCV装置のPCVバルブを開放させ且つ他の1個のPCV装置のPCVバルブを閉鎖させる動作(閉鎖するPCVバルブを所定時間毎に順に切り換えていく動作)を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施形態に係るV型エンジンをクランク軸の軸心に沿った方向から見たエンジン内部の概略構成を示す図である。
【図2】エンジン及び吸排気系の概略を示すシステム構成図である。
【図3】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】(a)は左バンクのPCV装置及びその周辺を示す断面図であり、(b)は右バンクのPCV装置及びその周辺を示す断面図である。
【図5】第3実施形態におけるPCVバルブ切り換え動作の手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0077】
2L,2R バンク
6 クランクケース
61 クランク室
9L,9R PCV装置(ブローバイガス還元装置)
92L,92R オイルセパレータ
93L,93R ブローバイガス供給配管(ブローバイガス還元流路)
97L,97R PCVバルブ
98 新気導入開口(外気導入孔)
E エンジン(内燃機関)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク室に吹き抜けたブローバイガスを内燃機関の吸気系へ導入するブローバイガス還元動作を行うための複数のブローバイガス還元流路と、これら各ブローバイガス還元流路に備えられたPCVバルブとを備えたブローバイガス還元装置において、
上記各PCVバルブは、それぞれ開閉動作が可能であり、開放状態にある場合にブローバイガス還元流路によるブローバイガス還元動作が行われるようになっており、
上記内燃機関の各気筒それぞれに向かう吸気系におけるブローバイガス還元動作に伴うデポジット堆積量が均等化するように各PCVバルブを個別に開閉制御するPCVバルブ制御手段を備えていることを特徴とするブローバイガス還元装置。
【請求項2】
上記請求項1記載のブローバイガス還元装置において、
内燃機関は、一対のバンクを有するV型内燃機関であって、各バンクそれぞれにオイルセパレータを備えていると共に、PCVバルブは各バンクのオイルセパレータそれぞれに設けられており、
PCVバルブ制御手段は、一方のバンクのPCVバルブを開放し且つ他方のバンクのPCVバルブを閉鎖する状態と、上記一方のバンクのPCVバルブを閉鎖し且つ上記他方のバンクのPCVバルブを開放する状態とを所定時間毎に交互に切り換えるよう構成されていることを特徴とするブローバイガス還元装置。
【請求項3】
上記請求項1記載のブローバイガス還元装置において、
内燃機関は、一対のバンクを有するV型内燃機関であって、各バンクそれぞれにオイルセパレータを備えていると共に、PCVバルブは各バンクのオイルセパレータそれぞれに設けられており、
PCVバルブ制御手段は、一方のバンクのPCVバルブを開放し且つ他方のバンクのPCVバルブを閉鎖する時間と、上記一方のバンクのPCVバルブを閉鎖し且つ上記他方のバンクのPCVバルブを開放する時間との割合が、上記一方のバンクのブローバイガス還元流路からのブローバイガス還元量と、上記他方のバンクのブローバイガス還元流路からのブローバイガス還元量とが略均等になるように調整する構成となっていることを特徴とするブローバイガス還元装置。
【請求項4】
上記請求項1記載のブローバイガス還元装置において、
内燃機関は、一対のバンクを有するV型内燃機関であって、各バンクそれぞれにオイルセパレータを備えていると共に、PCVバルブは各バンクのオイルセパレータそれぞれに設けられており、
上記一方のバンクのブローバイガス還元流路から吸気系に流れ込むデポジット量及び上記他方のバンクのブローバイガス還元流路から吸気系に流れ込むデポジット量をそれぞれ推測可能なデポジット量推測手段を備えており、
PCVバルブ制御手段は、上記デポジット量推測手段の出力を受け、一方のバンクのPCVバルブを開放し且つ他方のバンクのPCVバルブを閉鎖する時間と、上記一方のバンクのPCVバルブを閉鎖し且つ上記他方のバンクのPCVバルブを開放する時間との割合が、上記一方のバンクのブローバイガス還元流路から吸気系に流れ込むデポジット量と、上記他方のバンクのブローバイガス還元流路から吸気系に流れ込むデポジット量とが略均等になるように調整する構成となっていることを特徴とするブローバイガス還元装置。
【請求項5】
上記請求項2、3または4記載のブローバイガス還元装置において、
内燃機関のVバンクの中間位置に、クランクケース内に外気を導入するための外気導入孔が設けられていることを特徴とするブローバイガス還元装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−224736(P2007−224736A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43746(P2006−43746)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】