説明

プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法

【課題】処理対象体を損傷させることなく、より短時間でプラズマ処理し得るプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号Sを生成すると共にこの高周波信号Sの電力を制御可能に構成された高周波電源2と、高周波信号Sを入力して放射する放射器14とを備え、電力が制御された高周波信号Sを高周波電源2から放射器14に出力することにより、プラズマ放電用ガスGが内部に供給された処理対象管5の内部における放射器14の近傍にプラズマPを高密度で発生させて、処理対象管5の内面を効率よくプラズマPで処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックチューブなどの処理対象体の内面や外面をプラズマで処理するプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法として、特開平8−57038号公報に開示されたプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法が知られている。このプラズマ処理装置は、高圧側電極および接地側電極を有する円筒型電極管と高周波電源とを備えている。このプラズマ処理装置およびこの装置を使用したプラズマ処理方法では、処理対象体(被処理基材であって例えばチューブ)にグロー放電を安定に発生させるガスと処理ガスとの混合ガスを連続的に導入しながら、円筒型電極管にチューブを連続的に導入し、この状態において、高圧側電極と接地側電極との間に高周波電源から高周波信号(10KHz〜20KHzの交流電圧)を印加することにより、グロー放電プラズマをチューブ内にのみ発生させることで、チューブ内面が選択的にプラズマ処理される。また、この公報には、上記の周波数の交流電圧を高周波信号として印加し、かつチューブが円筒型電極管内を通過する時間(滞留時間=処理時間)を10〜15分に設定して、チューブ内をプラズマ処理する実施例が開示されている。また、処理対象体がプラスチック基材のときには、1GHz以下の周波数が望ましいと記載されている。
【特許文献1】特開平8−57038号公報(第6−9頁、第8図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年では、処理対象体に対するプラズマを利用した表面処理をより高速に実施したいという要望がある。この場合、高周波電源から出力される高周波信号の周波数を高めて高密度のプラズマを発生させることにより、プラズマ処理の高効率化を図る(処理時間の短縮を図る)方式が考えられる。しかしながら、高周波信号の電力が一定の条件下においては、高周波信号の周波数の上昇に伴ってプラズマ発生時のガス温度が上昇することが知られており(例えば「大気圧プラズマの生成制御と応用技術」(サイエンス&テクノロジー刊)の12頁)、この温度上昇により、この方式には、プラスチックなどの樹脂材料で形成された処理対象体においては損傷が発生するという問題点が存在する。
【0004】
本発明は、かかる問題点を解決すべくなされたものであり、処理対象体を損傷させることなく、より短時間でプラズマ処理し得るプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成すべく請求項1記載のプラズマ処理装置は、準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を生成すると共に当該高周波信号の電力を制御可能に構成された高周波信号生成部と、前記高周波信号を入力して放射する放射器とを備え、前記電力が制御された前記高周波信号を前記高周波信号生成部から前記放射器に出力することにより、プラズマ放電用ガスが内部に供給された管状の処理対象体の当該内部における当該放射器の近傍にプラズマを発生させて、当該処理対象体の内面を当該プラズマで処理する。
【0006】
また、請求項2記載のプラズマ処理装置は、請求項1記載のプラズマ処理装置において、グランド電位が付与された筐体と、一端が前記筐体に接続されると共に他端に前記高周波信号が供給されるカップリングループとを備え、前記放射器は、前記カップリングループから離間した状態で前記筐体に立設されている。
【0007】
また、請求項3記載のプラズマ処理装置は、請求項1または2記載のプラズマ処理装置において、前記放射器は、その内部に前記処理対象体を挿通可能に筒状に形成されている。
【0008】
また、請求項4記載のプラズマ処理装置は、請求項2記載のプラズマ処理装置において、前記筐体には、前記処理対象体が前記放射器の近傍を通過可能とする貫通孔が形成されている。
【0009】
請求項5記載のプラズマ処理装置は、準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を生成すると共に当該高周波信号の電力を制御可能に構成された高周波信号生成部と、前記高周波信号を入力して放射する放射器と、当該放射器の近傍に配設されて前記プラズマ放電用ガスが内部に供給される絶縁管とを備え、前記高周波信号生成部から前記放射器に前記電力が制御された前記高周波信号を出力することにより、プラズマ放電用ガスが供給された前記絶縁管の前記内部にプラズマを発生させて、当該絶縁管の内部に挿入された処理対象体の外面を当該プラズマで処理する。
【0010】
請求項6記載のプラズマ処理装置は、請求項1から5のいずれかに記載のプラズマ処理装置において、前記放射器の近傍の電位を高める電圧生成部を備えている。
【0011】
請求項7記載のプラズマ処理方法は、準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を入力して放射する放射器の近傍に管状の処理対象体を位置させると共に当該処理対象体の内部にプラズマ放電用ガスを供給し、当該処理対象体の当該内部にプラズマを発生させ、前記放射器に入力される当該高周波信号の電力を制御することによって当該プラズマの温度を制御して当該処理対象体の内面を当該プラズマで処理する。
【0012】
請求項8記載のプラズマ処理方法は、準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を入力して放射する放射器の近傍に絶縁管を位置させると共に当該絶縁管の内部に処理対象体を配置した状態で当該内部にプラズマ放電用ガスを供給し、当該絶縁管の当該内部にプラズマを発生させ、当該放射器に入力される当該高周波信号の電力を制御することによって当該プラズマの温度を制御して当該処理対象体の外面を当該プラズマで処理する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載のプラズマ処理装置および請求項7記載のプラズマ処理方法では、電力が制御された準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を高周波信号生成部から放射器に出力して放射器から放射させることによって放射器の端部に強電界を発生させる。したがって、このプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法によれば、内部にプラズマ放電用ガスが供給された管状の処理対象体を放射器の端部近傍に位置させることにより、発生した強電界によって処理対象体の内部における放射器の端部近傍にのみ高密度のプラズマを発生させて、管状の処理対象体の内面を効率よくプラズマ処理することができる結果、プラズマ処理に要する時間を短縮することができる。また、このプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法によれば、プラズマの発生している部位のプラズマ放電用ガスの温度を高周波信号に対する電力制御によって制御することができるため、熱に弱いプラスチックなどの樹脂材料で形成された処理対象体に対しても、損傷させることなくプラズマ処理することができる。
【0014】
請求項2記載のプラズマ処理装置では、カップリングループに高周波信号を供給することにより、カップリングループと離間して配設された放射器を共振させてその端部近傍にのみ高電界を発生させ、この端部近傍に位置する管状の処理対象体の内部にのみ局所的にプラズマを発生させる。したがって、このプラズマ処理装置によれば、プラズマの発生に要する高周波信号の電力を低減することができるため、プラズマ処理の効率を十分に向上させることができる。
【0015】
請求項3記載のプラズマ処理装置によれば、内部にプラズマ放電用ガスが供給されている処理対象体を管状の放射器内に挿通させる構成としたことにより、高電界となる放射器の端部に処理対象体を常に近接させた状態とすることができる結果、より確実に処理対象体内にプラズマを発生させることができる。
【0016】
請求項4記載のプラズマ処理装置では、処理対象体が放射器の近傍を通過可能とする貫通孔が筐体に形成されている。したがって、このプラズマ処理装置によれば、貫通孔に処理対象体を挿通させることにより、強電界が発生している放射器の近傍に処理対象体を確実に位置させることができるため、処理対象体内にプラズマを確実に発生させて、処理対象体の内面を確実にプラズマ処理することができる。
【0017】
請求項5記載のプラズマ処理装置および請求項8記載のプラズマ処理方法によれば、電力が制御された準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を高周波信号生成部から放射器に出力して放射器から放射させることによって放射器の端部に強電界を発生させる。したがって、このプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法によれば、内部にプラズマ放電用ガスが供給されると共に処理対象体が挿入された絶縁管を放射器の端部近傍に位置させることにより、発生した強電界によって絶縁管の内部における放射器の端部近傍にのみ高密度のプラズマを発生させて、処理対象体の外面を効率よくプラズマ処理することができる結果、プラズマ処理に要する時間を短縮することができる。また、このプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法によれば、プラズマの発生している部位のプラズマ放電用ガスの温度を高周波信号に対する電力制御によって制御することができるため、熱に弱いプラスチックなどの樹脂材料で形成された処理対象体に対しても、損傷させることなくプラズマ処理することができる。
【0018】
請求項6記載のプラズマ処理装置では、放射器の近傍の電位を高める電圧生成部を備えている。したがって、このプラズマ処理装置によれば、プラズマの着火時にこの電圧生成部によって放射器の近傍の電位を強制的に高めることができ、これによって高周波信号の電力を低下させたときであってもプラズマを確実に着火(発生)させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法の最良の形態について説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1に示すプラズマ処理装置1は、高周波電源2およびプラズマ処理室3を備えている。また、このプラズマ処理装置1は、高周波電源2において生成された高周波信号Sをプラズマ処理室3に同軸ケーブル4を介して供給することによってプラズマ処理室3内にプラズマを発生させて、プラズマ処理室3内において管状の処理対象体(本例では一例として処理対象管)5の表面(本例では一例として内面)をプラズマ処理可能に構成されている。具体的には、このプラズマ処理装置1は、プラズマ処理として、フッ素系樹脂などのプラスチックチューブの内側や、プラズマディスプレイの発光素子に使用されるガラス管内などにプラズマを発生させて、その内面の殺菌、洗浄および親水性の向上を行ったり、機能性材料のコーティングを行ったりする。
【0021】
高周波電源2は、本発明における高周波信号生成部であって、高周波信号(一例として、2.45GHz程度の準マイクロ波)Sを生成して、プラズマ処理室3に出力する。また、高周波電源2は、不図示の操作部を備え、操作部に対する操作によって選択された変調周波数およびデューティー比でパルス変調された高周波信号Sを出力可能に構成されている。このように高周波信号Sのデューティー比を変更可能に構成されているため、高周波電源2は、高周波信号Sの電力(出力電力)を制御可能となっている。また、高周波電源2は、デューティー比を100%とする選択がなされたときには、高周波信号Sを連続波(CW)として出力する。この場合には、高周波電源2は、操作部に対する操作によって選択された振幅に高周波信号Sの振幅を設定することにより、高周波信号Sの電力(出力電力)を制御する。なお、本例では、高周波電源2が、準マイクロ波(1GHz〜3GHz)を高周波信号Sとして出力する構成を採用しているが、マイクロ波(3GHz〜30GHz)を高周波信号Sとして出力する構成を採用することもできる。また、高周波電源2からプラズマ処理室3に対する高周波信号Sの供給効率を高めるため、高周波電源2とプラズマ処理室3との間に整合器を配設することもできる。
【0022】
プラズマ処理室3は、一例として、図1に示すように、筐体11、同軸コネクタ12、カップリングループ13および放射器(アンテナ)14を備えている。筐体11は、一例として、導電性の筒体11aと、筒体11aの一端側(同図中の上端側)を閉塞する導電性の閉塞板11bとを備え、筒体11aの他端側(同図中の下端側)が開口するトーチ型筐体に構成されている。なお、図2に示すように、筐体11を構成する筒体11aは、中心軸Xと直交する平面に沿った内周面の断面形状が円形であるため、外形は四角筒体であるが、実質的には円筒体として機能する。また、本例では、筒体11aには、筐体11内に高周波信号Sを導入するための貫通孔21が形成されている。また、閉塞板11bには、筐体11内に処理対象管5を導入すると共に、導入された処理対象線5を放射器14の近傍を通過させるための貫通孔22が、筒体11aの中心軸Xから外れた位置(具体的には、後述するように中心軸Xに配設された放射器14と干渉しない位置)に形成されている。また、筒体11aは、図1に示すように、その長さが放射器14の長さL2よりも長く規定されている。
【0023】
同軸コネクタ12は、図1に示すように、高周波電源2に接続された同軸ケーブル4の先端に装着された状態で、筒体11aの外周面に、貫通孔21を閉塞するようにして取り付けられている。カップリングループ13は、同図に示すように、導電性を有する棒状体がL字状に折曲(本例では直角に折曲)されて構成されている。また、カップリングループ13は、一端が筐体11の閉塞板11bに接続されると共に、他端が同軸コネクタ12の芯線(不図示)に接続されている。この状態において、カップリングループ13の一端側部位(折曲部位を基準として一端側に位置する部位)13aは、閉塞板11bから直角に起立した状態(筒体11aの中心軸Xと平行な状態)となっており、かつ高周波信号Sの波長をλとしたときに、その長さL1がλ/4の半分以下の長さ(本例では、一例としてλ/10)に規定されている。一方、カップリングループ13の他端側部位(折曲部位を基準として他端側に位置する部位)13bは、貫通孔21の中心軸上に位置した状態で貫通孔21に挿通されている。
【0024】
放射器14は、長さL2が((1/4+n/2)×λ)に規定された1本の導電性の柱状体(本例では円柱体)で構成されている。ここで、nは、0以上の整数であり、本例では一例としてn=0に設定されて、放射器14の長さL2は(λ/4)に規定されている。なお、放射器14は、柱状体に限定されず、直方体や樋状体(ハーフパイプ状体)などの板状体で構成することもできる。また、放射器14は、図1に示すように、筒体11aの中心軸X上に位置した状態で、一端側(同図中の上端側)が閉塞板11bに接続されている。この構成により、放射器14は、カップリングループ13における一端側部位13a、および閉塞板11bに開口する貫通孔22のそれぞれと離間してはいるが、近接した状態で立設された状態となっている。一例として、本例では、図2に示すように、一端側部位13a、放射器14および貫通孔22が、放射器14を中心として平面視で一直線上に並ぶ構成となっているが、貫通孔22は、放射器14の近傍であれば、任意の位置に設定することができる。
【0025】
次に、本発明に係るプラズマ処理方法について、プラズマ処理装置1の処理対象管5に対する処理動作(表面処理動作)と共に説明する。なお、筐体11は予めグランドに接続されて、グランド電位が付与されているものとする。
【0026】
まず、図1,2に示すように、処理対象管5を筐体11に挿通させる。具体的には、閉塞板11bに形成された貫通孔22を通して、筒体11aに処理対象管5を挿通させる。この際に、処理対象管5が放射器14の他端側近傍を通過するように、処理対象管5を筒体11aに挿通させる。本例では、一例として放射器14と平行になるように、処理対象線5を筒体11aに挿通させている。
【0027】
次いで、処理対象管5内へのプラズマ放電用ガスG(以下、「放電用ガスG」ともいう)の供給と、処理対象管5の搬送とを開始する。具体的には、図外のガス供給装置から処理対象管5内に放電用ガスGを連続的に供給すると共に、処理対象管5から排出される放電用ガスGを図外のガス回収装置で回収する。また、図外の処理対象管5の供給装置から処理対象管5を一定速度で筐体11内に導入すると共に、筐体11から送り出される処理対象管5を図外の回収装置で回収する。本例では、一例として、図1において矢印で示すように、放電用ガスGを処理対象管5の一端側から供給する。また、処理対象管5を同図において矢印で示すように、閉塞板11bの貫通孔22から筐体11内に導入し、筐体11の開口部(筒体11aの開口側端部)側から排出させる。なお、放電用ガスGとしては、電離電圧が低くプラズマが発生し易いガス(例えば、アルゴンガスやヘリウムガスなど)を使用する。
【0028】
この状態において、プラズマ処理装置1では、高周波電源2が高周波信号Sのプラズマ処理室3への出力を開始する。高周波電源2から出力された高周波信号Sは、同軸ケーブル4を介して、同軸コネクタ12、さらにはカップリングループ13の他端に達し、カップリングループ13を経由して筐体11(閉塞板11b)に流れる。この場合、カップリングループ13が高周波信号Sに流れることにより、一端側部位13aの周囲に磁界が発生し、高周波信号Sの波長λに対して((1/4+n/2)×λ)の長さL2に規定されている放射器14がこの磁界によって共振する。共振状態の放射器14は共振モノポールとして作動して、放射器14の他端側(同図中の下端側)で電圧が最大となる。このため、プラズマ処理室3内における放射器14の他端側近傍(付近)で電界強度が最大なり、プラズマ処理室3内(すなわち筐体11内)では、この他端側近傍においてプラズマが発生し易い状態となる。一方、筐体11の内部(プラズマ処理室3の内部)では、処理対象管5の内部にのみプラズマの発生し易い放電用ガスGが存在し、他の部位は大気が存在している状態となっていると共に、貫通孔22から導入された処理対象線5が放射器14と平行な状態に配置されることによって放射器14の他端側近傍を通過する状態となっている。この結果、放射器14の他端側近傍で発生する強電界により、図1に示すように、放電用ガスGが供給されている処理対象管5の内部における放射器14の他端側近傍においてのみプラズマPが連続して発生する。この場合、高周波電源2が高周波信号Sとして準マイクロ波またはマイクロ波をプラズマ処理室3に供給するため、プラズマPは高密度な状態で発生する。
【0029】
また、プラズマ処理装置1では、上述したように、処理対象管5が一定速度で搬送されている。したがって、放射器14の他端側近傍に達した処理対象管5の内部(内面)がプラズマPによって、順次、表面処理されるため、処理対象管5の内面が連続してプラズマ処理される。なお、プラズマ処理装置1では、高周波電源2において高周波信号Sの電力(出力電力)の制御が可能なため、処理対象管5の材質に応じて、プラズマPが発生している部位における放電用ガスGの温度(つまりプラズマの温度)を、処理対象管5が損傷しない温度に設定する。例えば、処理対象管5が熱に比較的強いガラス管などの場合には、放電用ガスGの温度がある程度高くなったとしても損傷が発生しにくいため、高周波信号Sの電力を高めてプラズマPの着火性を高めるようにする。
【0030】
一方、処理対象管5が熱に比較的弱い樹脂製の管などの場合には、高周波信号Sの電力を低めて放電用ガスGの温度を下げることにより、温度による損傷を回避する。この場合、高周波信号Sの電力が低いことに起因してプラズマPの着火性が低下するが、この際には、着火時にのみ導体棒(図示せず)を処理対象管5内に導入してプラズマPを着火させる。また、導体棒を導入する構成に代えて、処理対象管5におけるプラズマ処理を開始させる部位の内部に筒状導体を予め装着しておく構成を採用することができる。この構成では、筒状導体の装着部位においてプラズマを着火させた後は、処理対象管5の搬送に伴い、筒状導体も筐体11から外部に移動する。また、処理対象管5におけるプラズマ処理を開始させる部位が処理対象管5の端部の場合には、処理対象管5に着火用の導体を配設する構成に代えて、処理対象管5のこの端部に誘導用の別の管体を接続し、この管体の内部に着火用の導体を配設する構成を採用することもできる。
【0031】
このように、このプラズマ処理装置1では、電力が制御された準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号Sを高周波電源2から放射器14に出力して放射器14から放射させることによって放射器14の他端部近傍に強電界を発生させる。したがって、このプラズマ処理装置1によれば、内部に放電用ガスGが供給された処理対象管5を放射器14の他端部近傍に位置させることにより、発生した強電界によって処理対象管5の内部における放射器14の他端部近傍にのみ高密度のプラズマPを発生させて、処理対象管5の内面を効率よくプラズマ処理することができる結果、プラズマ処理に要する時間を短縮することができる。また、このプラズマ処理装置1によれば、プラズマPの発生している部位の放電用ガスGの温度を高周波信号Sに対する電力制御によって制御することができるため、熱に弱いプラスチックなどの樹脂材料で形成された処理対象管5に対しても、損傷させることなくプラズマ処理することができる。
【0032】
また、このプラズマ処理装置1では、カップリングループ13に高周波信号Sを供給することにより、カップリングループ13と離間して配設された放射器14を共振させてその他端側近傍にのみ高電界を発生させ、この他端側近傍に位置する処理対象管5の内部にのみ局所的にプラズマPを発生させる。したがって、このプラズマ処理装置1によれば、プラズマPの発生に要する高周波信号Sの電力を低減することができるため、プラズマ処理の効率を十分に向上させることができる。
【0033】
また、このプラズマ処理装置1では、処理対象管5が放射器14の他端部近傍を通過可能とする貫通孔22が筐体11に形成されている。したがって、このプラズマ処理装置1によれば、貫通孔22に処理対象管5を挿通させることにより、強電界が発生している放射器14の他端部近傍に処理対象管5を確実に位置させることができるため、処理対象管5内にプラズマを確実に発生させて、処理対象管5の内面を確実にプラズマ処理することができる。
【0034】
なお、本発明は、上記した実施の形態に示した構成に限定されない。例えば、上記の実施の形態では、処理対象管5が熱に比較的弱い樹脂製の管などの場合において、高周波信号Sの電力を低めたときの着火性の低下を、導体棒の処理対象管5内への導入によって対処したが、図3に示すように、導体棒15および電圧生成装置(本発明における電圧生成部)16を有する着火機構を備えて構成することもできる。この着火機構では、プラズマ処理装置1の筐体11に貫通孔23を形成して、この貫通孔23内に、導体棒15を、その先端が放射器14の他端側の近傍に位置するように取り付ける。この構成によれば、着火時にこの導体棒15に対して電圧生成装置16から高電圧を印加することにより、放射器14の他端側近傍の電位、および処理対象管5内におけるこの他端側近傍に存在している放電用ガスGの電位を強制的に高めることができ、これによって高周波信号Sの電力を低下させたときであっても処理対象管5内にプラズマPを確実に着火(発生)させることができる。
【0035】
(第2の実施の形態)
上記したプラズマ処理装置1では、放射器14の形状を柱状体または板状体としたが、筒状体として、放射器の内部に処理対象体を挿通させる構成を採用することもできる。以下では、この構成を採用したプラズマ処理装置1Aについて説明する。なお、プラズマ処理装置1と同一の構成については同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0036】
図4に示すプラズマ処理装置1Aは、高周波電源2およびプラズマ処理室3Aを備え、高周波電源2において生成された高周波信号Sをプラズマ処理室3Aに同軸ケーブル4を介して供給してプラズマ処理室3A内にプラズマを発生させて、プラズマ処理室3A内において処理対象管5の内面をプラズマ処理可能に構成されている。
【0037】
プラズマ処理室3Aは、一例として、図4,5に示すように、筐体11A、同軸コネクタ12、カップリングループ13および放射器(アンテナ)14Aを備えている。筐体11Aは、一例として、導電性の筒体11aと、筒体11aの一端側(図4中の上端側)を閉塞する導電性の閉塞板11bとを備え、トーチ型筐体に構成されている。また、本例では、閉塞板11bには、処理対象管5を導入するための貫通孔22が、筒体11aの中心軸X上に形成されている。
【0038】
放射器14Aは、長さL2が((1/4+n/2)×λ)に規定された1本の導電性の筒状体(本例では円筒体)で構成されている。本例では一例としてn=0に設定されて、放射器14Aの長さL2は(λ/4)に規定されている。また、筒状の放射器14Aは、図4に示すように、その中心軸が筒体11aの中心軸Xと一致し、かつ貫通孔22と連通した状態で、一端側(同図中の上端側)が閉塞板11bにおける貫通孔22の口縁に接続されて、閉塞板11bに立設されている。また、貫通孔22と同様にして、放射器14Aは、その内径が処理対象管5を挿通可能な長さに設定されている。この構成により、貫通孔22から挿入された処理対象管5は、放射器14Aに挿通されて、放射器14Aの他端側から突出する。また、放射器14Aは、カップリングループ13の一端側部位13aとは離間して配設されている。
【0039】
次に、本発明に係るプラズマ処理方法について、プラズマ処理装置1Aの処理対象管5に対する処理動作(表面処理動作)と共に説明する。なお、筐体11Aは予めグランドに接続されて、グランド電位が付与されているものとする。
【0040】
まず、図4,5に示すように、処理対象管5を筐体11Aに挿通させる。具体的には、閉塞板11bに形成された貫通孔22および放射器14Aを通して、筒体11aに処理対象管5を挿通させる。次いで、処理対象管5内への放電用ガスGの供給と、処理対象管5の搬送とを開始する。
【0041】
この状態において、プラズマ処理装置1Aでは、高周波電源2が高周波信号Sのプラズマ処理室3Aへの出力を開始する。高周波電源2から出力された高周波信号Sは、同軸ケーブル4を介して同軸コネクタ12、さらにはカップリングループ13の他端に達し、カップリングループ13を経由して筐体11A(閉塞板11b)に流れる。この場合、カップリングループ13に高周波信号Sが流れることにより、一端側部位13aの周囲に磁界が発生し、高周波信号Sの波長λに対して((1/4+n/2)×λ)の長さL2に規定されている放射器14Aがこの磁界によって共振する。共振状態の放射器14Aは共振モノポールとして作動して、放射器14Aの他端側(同図中の下端側)で電圧が最大となり、この他端側近傍(付近)で電界強度が最大なることで、プラズマ処理装置1のときと同様にして、図4に示すように、放電用ガスGが供給されている処理対象管5の内部における放射器14Aの他端側近傍においてのみプラズマPが連続して発生する。
【0042】
このため、プラズマ処理装置1と同様にして、プラズマ処理装置1Aにおいても、一定速度で搬送されている処理対象管5に対して、その内部の表面を高密度のプラズマPによって効率よく連続してプラズマ処理することができる結果、プラズマ処理に要する時間を短縮することができる。また、高周波電源2において高周波信号Sの電力(出力電力)の制御が可能なため、処理対象管5の材質に応じて、プラズマPが発生している部位における放電用ガスGの温度を、処理対象管5が損傷しない温度に設定することができる。さらに、このプラズマ処理装置1Aでは、筒状の放射器14A内に処理対象管5を挿通させる構成のため、高電界となる放射器14Aの他端側に処理対象管5を常に近接させた状態とすることができる結果、より確実に処理対象管5内にプラズマを発生させることができる。
【0043】
また、このプラズマ処理装置1Aにおいても、カップリングループ13の周囲に発生する磁界によって放射器14Aを共振させることで、放射器14Aの他端側に高電界を発生させて、この他端側近傍に位置する処理対象管5の内部にのみ局所的にプラズマPを発生させるため、プラズマPの発生に要する高周波信号Sの電力を低減することができる結果、プラズマ処理の効率を向上させることができる。なお、プラズマ処理装置1Aにおいても、プラズマ処理装置1と同様にして、図3に示す着火機構を採用することができるのは勿論である。
【0044】
(第3の実施の形態)
上記したプラズマ処理装置1,1Aでは、処理対象体である処理対象管5の内部にプラズマを発生させて、この処理対象管5の内面をプラズマ処理しているが、筐体11,11A内における処理対象管5の存在位置に、絶縁材料で形成された管体をプラズマ処理装置の構成の一部として配設することにより、この管体内において処理対象体の外面をプラズマ処理することもできる。以下では、この構成を採用したプラズマ処理装置1Bについて説明する。なお、プラズマ処理装置1と同一の構成については同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0045】
図6に示すプラズマ処理装置1Bは、高周波電源2およびプラズマ処理室3Bを備え、高周波電源2において生成された高周波信号Sをプラズマ処理室3B内に同軸ケーブル4を介して供給してプラズマ処理室3B内にプラズマを発生させて、プラズマ処理室3B内において処理対象体(本例では一例として処理対象線)5の表面(外面)をプラズマ処理可能に構成されている。
【0046】
プラズマ処理室3Bは、一例として、図6,7に示すように、筐体11、同軸コネクタ12、カップリングループ13および放射器(アンテナ)14に加えて、絶縁管17を備えている。この絶縁管17は、ガラスや樹脂などの絶縁材料で構成されている。また、絶縁管17は、閉塞板11bの貫通孔22および筒体11a内に挿通されている。また、絶縁管17は、少なくとも筒体11a内においては、放射器14と平行になるように配設されている。また、絶縁管17における貫通孔22から突出する部位には貫通孔24が形成され、かつ絶縁管17における筒体11aの開口側から突出する部位には貫通孔25が形成されている。この各貫通孔24,25は、図6に示すように、絶縁管17内に処理対象線5Aを導入するための導入孔、および絶縁管17内に導入された処理対象線5Aを絶縁管17の外部に導出する導出孔として使用される。また、絶縁管17内には、図外のガス供給装置から放電用ガスGが連続的に供給され、かつ絶縁管17から排出される放電用ガスGは図外のガス回収装置で回収される。
【0047】
次に、本発明に係るプラズマ処理方法について、プラズマ処理装置1Bの処理対象線5Aに対する処理動作(表面処理動作)と共に説明する。なお、筐体11は予めグランドに接続されて、グランド電位が付与されているものとする。
【0048】
まず、図6,7に示すように、処理対象線5Aを絶縁管17に挿通させる。具体的には、絶縁管17に形成された各貫通孔24,25を利用して、処理対象線5Aを絶縁管17内に挿通させる。この際に、処理対象線5Aが放射器14の他端側近傍を通過するように、処理対象線5Aを筒体11aに挿通させる。
【0049】
次いで、絶縁管17内への放電用ガスGの供給と、処理対象線5Aの搬送とを開始する。具体的には、図外のガス供給装置から絶縁管17内に放電用ガスGを連続供給すると共に、絶縁管17から排出される放電用ガスGを図外のガス回収装置で回収する。また、図外の処理対象線5Aの供給装置から処理対象線5Aを一定速度で筐体11(具体的には絶縁管17)内に導入すると共に、筐体11(具体的には絶縁管17)から送り出される処理対象線5Aを図外の回収装置で回収する。
【0050】
この状態において、プラズマ処理装置1Bでは、高周波電源2が高周波信号Sのプラズマ処理室3Bへの出力を開始する。これにより、プラズマ処理装置1と同様にして、放射器14の他端側近傍(付近)で電界強度が最大なり、筐体11内では、この他端側近傍においてプラズマが発生し易い状態となる。一方、筐体11の内部(プラズマ処理室3の内部)では、絶縁管17の内部にのみプラズマの発生し易い放電用ガスGが存在し、他の部位は大気が存在している状態となっている。この結果、放射器14の他端側近傍で発生する強電界により、図6に示すように、放電用ガスGが供給されている絶縁管17の内部における放射器14の他端側近傍においてのみプラズマPが連続して発生する。
【0051】
また、プラズマ処理装置1Bでは、上述したように、処理対象線5Aが一定速度で搬送されている。したがって、放射器14の他端側近傍に達した処理対象線5Aの外部(外面)がプラズマPによって、順次、表面処理されるため、処理対象線5Aの外面が連続してプラズマ処理される。なお、プラズマ処理装置1Bでは、高周波電源2において高周波信号Sの電力(出力電力)の制御が可能なため、処理対象線5Aの材質に応じて、プラズマPが発生している部位における放電用ガスGの温度を、処理対象線5Aが損傷しない温度に設定する。例えば、処理対象線5Aが熱に比較的強いガラス線などの場合には、放電用ガスGの温度がある程度高くなったとしても損傷が発生しにくいため、高周波信号Sの電力を高めてプラズマPの着火性を高めるようにする。
【0052】
一方、処理対象線5Aが熱に比較的弱い樹脂製の管などの場合には、高周波信号Sの電力を低めて放電用ガスGの温度を下げることにより、温度による損傷を回避する。この場合、高周波信号Sの電力が低いことに起因してプラズマPの着火性が低下するが、この際には、導体棒の使用や着火機構の採用などの上記した様々な方法によって、プラズマPの着火性を向上させる。
【0053】
このため、プラズマ処理装置1Bにおいても、一定速度で搬送されている処理対象線5Aに対して、その外面を高密度のプラズマPによって効率よく連続してプラズマ処理することができる結果、プラズマ処理に要する時間を短縮することができる。また、高周波電源2において高周波信号Sの電力(出力電力)の制御が可能なため、処理対象線5Aの材質に応じて、プラズマPが発生している部位における放電用ガスGの温度を、処理対象線5Aが損傷しない温度に設定することができる。
【0054】
また、このプラズマ処理装置1Bにおいても、カップリングループ13の周囲に発生する磁界によって放射器14を共振させることで、放射器14の他端側に高電界を発生させて、この他端側近傍に位置する絶縁管17の内部にのみ局所的にプラズマPを発生させるため、プラズマPの発生に要する高周波信号Sの電力を低減することができる結果、プラズマ処理の効率を向上させることができる。
【0055】
(第4の実施の形態)
上記したプラズマ処理装置1Bでは、放射器14の形状を柱状体または板状体としたが、プラズマ処理装置1Aと同様の放射器14Aを使用して、この放射器14Aの内部に、プラズマ処理装置1Bで使用した絶縁管17を配置する構成を採用することもできる。以下では、この構成を採用したプラズマ処理装置1Cについて説明する。なお、プラズマ処理装置1A,1Bと同一の構成については同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0056】
図8に示すプラズマ処理装置1Cは、高周波電源2およびプラズマ処理室3Cを備え、高周波電源2において生成された高周波信号Sをプラズマ処理室3C内に同軸ケーブル4を介して供給してプラズマ処理室3C内にプラズマを発生させて、プラズマ処理室3C内において処理対象体(本例では一例として処理対象線)5の表面(外面)をプラズマ処理可能に構成されている。
【0057】
プラズマ処理室3Cは、一例として、図8,9に示すように、筐体11A、同軸コネクタ12、カップリングループ13および放射器(アンテナ)14Aに加えて、絶縁管17を備えている。この絶縁管17は、ガラスや樹脂などの絶縁材料で構成されて、閉塞板11bの貫通孔22および筒状の放射器14A内に挿通されることにより、筒体11a内に挿通されている。また、絶縁管17には、絶縁管17内に処理対象線5Aを挿通させるための貫通孔24,25が形成されている。また、絶縁管17内には、図外のガス供給装置から放電用ガスGが連続的に供給され、かつ絶縁管17から排出される放電用ガスGは図外のガス回収装置で回収される。
【0058】
次に、本発明に係るプラズマ処理方法について、プラズマ処理装置1Cの処理対象線5Aに対する処理動作(表面処理動作)と共に説明する。なお、筐体11Aは予めグランドに接続されて、グランド電位が付与されているものとする。
【0059】
まず、図8,9に示すように、処理対象線5Aを絶縁管17に挿通させる。次いで、絶縁管17内への放電用ガスGの供給と、処理対象線5Aの搬送とを開始する。具体的には、図外のガス供給装置から絶縁管17内に放電用ガスGを連続供給すると共に、絶縁管17から排出される放電用ガスGを図外のガス回収装置で回収する。また、図外の処理対象線5Aの供給装置から処理対象線5Aを一定速度で筐体11A(具体的には絶縁管17)内に導入すると共に、筐体11A(具体的には絶縁管17)から送り出される処理対象線5Aを図外の回収装置で回収する。
【0060】
この状態において、プラズマ処理装置1Cでは、高周波電源2が高周波信号Sのプラズマ処理室3Cへの出力を開始する。これにより、プラズマ処理装置1Aと同様にして、放射器14Aの他端側近傍(付近)で電界強度が最大なり、筐体11内では、この他端側近傍においてプラズマが発生し易い状態となる。一方、筐体11Aの内部(プラズマ処理室3Cの内部)では、絶縁管17の内部にのみプラズマの発生し易い放電用ガスGが存在し、他の部位は大気が存在している状態となっている。この結果、放射器14Aの他端側近傍で発生する強電界により、図8に示すように、放電用ガスGが供給されている絶縁管17の内部における放射器14Aの他端側近傍においてのみプラズマPが連続して発生する。
【0061】
また、プラズマ処理装置1Cでは、上述したように、処理対象線5Aが一定速度で搬送されている。したがって、放射器14Aの他端側近傍に達した処理対象線5Aの外部(外面)がプラズマPによって、順次、表面処理されるため、処理対象線5Aの外面が連続してプラズマ処理される。なお、プラズマ処理装置1Cでは、高周波電源2において高周波信号Sの電力(出力電力)の制御が可能なため、処理対象線5Aの材質に応じて、プラズマPが発生している部位における放電用ガスGの温度を、処理対象線5Aが損傷しない温度に設定する。例えば、処理対象線5Aが熱に比較的強いガラス線などの場合には、放電用ガスGの温度がある程度高くなったとしても損傷が発生しにくいため、高周波信号Sの電力を高めてプラズマPの着火性を高めるようにする。
【0062】
一方、処理対象線5Aが熱に比較的弱い樹脂製の管などの場合には、高周波信号Sの電力を低めて放電用ガスGの温度を下げることにより、温度による処理対象線5Aの損傷を回避する。この場合、高周波信号Sの電力が低いことに起因してプラズマPの着火性が低下するが、この際には、導体棒の使用や着火機構の採用などの上記した様々な方法によって、プラズマPの着火性を向上させる。
【0063】
このため、プラズマ処理装置1Cにおいても、一定速度で搬送されている処理対象線5Aに対して、その外面を高密度のプラズマPによって効率よく連続してプラズマ処理することができる結果、プラズマ処理に要する時間を短縮することができる。また、高周波電源2において高周波信号Sの電力(出力電力)の制御が可能なため、処理対象線5Aの材質に応じて、プラズマPが発生している部位における放電用ガスGの温度を、処理対象線5Aが損傷しない温度に設定することができる。
【0064】
また、このプラズマ処理装置1Cにおいても、カップリングループ13の周囲に発生する磁界によって放射器14Aを共振させることで、放射器14Aの他端側に高電界を発生させて、この他端側近傍に位置する絶縁管17の内部にのみ局所的にプラズマPを発生させるため、プラズマPの発生に要する高周波信号Sの電力を低減することができる結果、プラズマ処理の効率を向上させることができる。
【0065】
なお、本発明は、上記した実施の形態に示した構成に限定されない。例えば、処理対象管5や処理対象線5Aの搬送方向は任意であり、また放電用ガスGの供給方向も同様に任意である。また、上記したプラズマ処理装置1,1Bでは、筐体11内において、処理対象管5や処理対象線5Aを放射器14と平行に搬送する構成を採用したが、搬送方法はこれに限定されない。具体的には、処理対象管5や処理対象線5Aが放射器14の他端側の近傍を通過する構成であればよく、この構成である限り、処理対象管5や処理対象線5Aの搬送方向を放射器14と非平行とすることもできる。また、上記したプラズマ処理装置1B,1Cでは、処理対象体の一例としての処理対象線5の外面をプラズマ処理したが、処理対象線5に代えて処理対象管5を絶縁管17に挿入することにより、処理対象管5の外面をプラズマ処理することもできる。さらに、プラズマ処理装置1B,1Cでは、処理対象体として処理対象管5を絶縁管17に挿入してプラズマ処理する際に、処理対象管5内にも放電用ガスGを供給することにより、処理対象管5の内面および外面を同時にプラズマ処理することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】プラズマ処理装置1の構成図である。
【図2】図1におけるW1−W1線断面図(同軸コネクタ12を除く断面図)である。
【図3】着火機構を備えたプラズマ処理装置1の構成図である。
【図4】プラズマ処理装置1Aの構成図である。
【図5】図4におけるW2−W2線断面図(同軸コネクタ12を除く断面図)である。
【図6】プラズマ処理装置1Bの構成図である。
【図7】図6におけるW3−W3線断面図(同軸コネクタ12を除く断面図)である。
【図8】プラズマ処理装置1Cの構成図である。
【図9】図8におけるW4−W4線断面図(同軸コネクタ12を除く断面図)である。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,1B,1C プラズマ処理装置
2 高周波電源
5 処理対象管
5A 処理対象線
11 筐体
13 カップリングループ
14,14A 放射器
16 電圧生成装置
G 放電用ガス
S 高周波信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を生成すると共に当該高周波信号の電力を制御可能に構成された高周波信号生成部と、
前記高周波信号を入力して放射する放射器とを備え、
前記電力が制御された前記高周波信号を前記高周波信号生成部から前記放射器に出力することにより、プラズマ放電用ガスが内部に供給された管状の処理対象体の当該内部における当該放射器の近傍にプラズマを発生させて、当該処理対象体の内面を当該プラズマで処理するプラズマ処理装置。
【請求項2】
グランド電位が付与された筐体と、
一端が前記筐体に接続されると共に他端に前記高周波信号が供給されるカップリングループとを備え、
前記放射器は、前記カップリングループから離間した状態で前記筐体に立設されている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記放射器は、その内部に前記処理対象体を挿通可能に筒状に形成されている請求項1または2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記筐体には、前記処理対象体が前記放射器の近傍を通過可能とする貫通孔が形成されている請求項2記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を生成すると共に当該高周波信号の電力を制御可能に構成された高周波信号生成部と、
前記高周波信号を入力して放射する放射器と、
当該放射器の近傍に配設されて前記プラズマ放電用ガスが内部に供給される絶縁管とを備え、
前記高周波信号生成部から前記放射器に前記電力が制御された前記高周波信号を出力することにより、プラズマ放電用ガスが供給された前記絶縁管の前記内部にプラズマを発生させて、当該絶縁管の内部に挿入された処理対象体の外面を当該プラズマで処理するプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記放射器の近傍の電位を高める電圧生成部を備えている請求項1から5のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を入力して放射する放射器の近傍に管状の処理対象体を位置させると共に当該処理対象体の内部にプラズマ放電用ガスを供給し、当該処理対象体の当該内部にプラズマを発生させ、前記放射器に入力される当該高周波信号の電力を制御することによって当該プラズマの温度を制御して当該処理対象体の内面を当該プラズマで処理するプラズマ処理方法。
【請求項8】
準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を入力して放射する放射器の近傍に絶縁管を位置させると共に当該絶縁管の内部に処理対象体を配置した状態で当該内部にプラズマ放電用ガスを供給し、当該絶縁管の当該内部にプラズマを発生させ、当該放射器に入力される当該高周波信号の電力を制御することによって当該プラズマの温度を制御して当該処理対象体の外面を当該プラズマで処理するプラズマ処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−16146(P2009−16146A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175691(P2007−175691)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000214836)長野日本無線株式会社 (140)
【Fターム(参考)】