説明

プラズマ処理装置用部材及びその製造方法

【課題】半導体等の製造におけるプラズマ処理装置(プラズマエッチング装置、プラズマクリーニング装置、アッシング装置)等プラズマを用いる装置に使用する部材表面に優れた特性を持つ窒化物の溶射膜を形成することが望まれているため、窒化物の含有量の高い溶射膜を提供する。
【解決手段】部材表面の少なくとも一部に溶射膜を形成してなり、当該溶射膜を構成する粒子の表面は溶射により溶融する成分で覆われており、また、溶射膜中の窒化物の割合が重量比で50%以上100%未満で構成されることを特徴とするプラズマ処理装置用部材に関し、このような部材は平均粒径が1〜10μmで、二酸化ケイ素等の溶射時に溶融成分がコーティングされた窒化物粉末を用いて、部材の基材表面に、溶射膜を形成することにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の製造における、プラズマ処理装置(プラズマエッチング装置、プラズマクリーニング装置、アッシング装置)等に用いる部材に係るものであり、特に窒化物の持つ特性を溶射膜として部材表面に付与するために、窒化物含有量が高いものに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等の製造工程におけるプラズマエッチングや、CVD装置のクリーニング用途には腐食性ガスが多用されている。これら腐食性ガスにはフッ素系、塩素系ガス等が用いられている。フッ素系ガスとしては例えば、CF、C、C、CHF/CF、SF等が用いられており、塩素系ガスとしては例えば、Cl、BCl、CCl等が用いられており、さらにHF、F、NFを用いることも提案されている。
【0003】
このような半導体製造装置に用いる部材としては、石英、アルミナ等の酸化物セラミックスまたはアルミニウム、ステンレス等の金属が使用されている。しかし、これらの部材の純度が低い場合や、構成する部材の金属元素が半導体製品汚染に関連する元素の場合、腐蝕性ガスと反応してパーティクルが発生したり、不純物成分や構成元素が半導体ウェハーに付着することによる製品汚染が問題であった。
【0004】
このような酸化物セラミックスと異なる物性をもつセラミックスとして、窒化物セラミックがある。例えば、窒化アルミニウムは、高い熱伝導率を持つことや、ハロゲンガスやプラズマに対する耐性が高いことから、半導体等の製造装置における静電チャック等の部材に多く用いられるが、窒化物セラミックは、複雑な形状を有する部材の作成が難しいことや、製造コストが高いという問題があった。
【0005】
そこで、基材に対して窒化物セラミックスを溶射してその表面に溶射膜を形成することで、所望の形状の部材を作成することが考えられる。しかしながら、一般的には窒化物粉末のみを用いて緻密質な窒化物溶射膜を形成することは困難であった。これは、窒化物の融点が高く、溶射の際、融解する前に酸化・分解してしまうためと考えられており(例えば、窒化アルミニウムは約2300℃で酸化・分解する)、このため、従前の窒化物溶射膜を形成する技術としては、窒化物粉末と、バインダーとなる窒化物以外の粉末との混合粉末による溶射が主であった。
【0006】
具体的には、例えば、金属ケイ素、窒化ケイ素及び酸化ケイ素の混合粉末を溶射することでケイ素系サーメットのアンダーコートとし、その上にジルコニアを含むセラミックス溶射膜を形成する技術(特許文献1参照)が報告されている。しかし、この窒化ケイ素混合膜では、成分の1つである金属ケイ素が腐蝕性ガスやプラズマによって腐蝕されやすいために、溶射膜の腐蝕に不均一が生じ、パーティクルが発生するおそれがある。
【0007】
また、Si、Al、Yの混合粉体について、プラズマ溶射によってα窒化珪素混合物を作製したものが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、これは窒化ケイ素単体の溶射膜でないため、多量のAl、Yといった不純物がパーティクルや金属汚染の原因となるおそれがある。
【0008】
さらに、AlNについては、AlNとAlの混合組成の溶射膜が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、この溶射膜中のAlN存在量は47%程度であり、より窒化アルミニウム含有率の高い膜が望まれていた。
【0009】
窒化物粉末と、バインダーとなる窒化物以外の粉末との混合粉末による溶射方法の他に、金属アルミニウム粉末をNガスを含むプラズマ溶射によって反応性溶射を行うことで窒化アルミニウムを堆積させることも提案されている(例えば特許文献2参照)が、反応性溶射によって形成された溶射膜の密度は相対的に低くなる傾向があるため、膜質の更なる改善が望まれている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−313077号公報
【特許文献2】特開2004−083929号公報
【非特許文献1】Y.Bao、D.T.Gawne、T.Zhang“The Influence of Matrix Phase Viscosity on the Plasma−Spray Deposition of Silicon−Nitride Composite Coatings”,(Ed)C.Moreau and B.Marple,Published by ASM International, Materials Park, Ohio,USA,2003,263(2003)
【非特許文献2】H.Yang、W.Luan、S−T.Tu“AlN/Al2O3 Composite Coating Deposited by Plasma Spray”Proceedigs of the 1st Asian Thermal Spray Conference,41(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上説明した様に、半導体素子等の製造プロセスにおいてプラズマ処理を用いる工程において、窒化物セラミックスに係る部材を使用する場合、(1)窒化物のバルク体を用いようとすると、高価であり、複雑形状の成形が難しいという問題点があり、(2)窒化物をその表面に溶射した成形体を用いようとすると、溶射原料に含まれる窒化物以外のバインダー成分等が不純物となってウェハーへ付着したり、パーティクルの発生原因となり、それに伴う半導体製品汚染、歩留まり低下等の問題点があり、更に、反応性溶射法により窒化物以外の不純物量の低減させた溶射膜を形成しようとすると、溶射膜の密度を更に上げる必要があった。
【0012】
本発明の目的は、不純物や窒化物以外の成分の少ない、窒化物溶射膜を表面にコーティングしたプラズマ処理装置用部材とその製造方法を与えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述のような現状に鑑み、鋭意検討を行った結果、表面に少量のバインダー成分がコーティングされた窒化物粉末を溶射原料として用い、これを部材表面に溶射することにより、不純物や窒化物以外の成分の少ない、窒化物溶射膜を形成した部材を提供できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
即ち、本発明は、部材表面の少なくとも一部に、窒化物を重量比で50%以上100%未満含有する溶射膜が形成され、溶射膜を構成する粒子は溶射により溶融する成分により被覆されていることを特徴とするプラズマ処理装置用部材に関する。
【0015】
以下、本発明の部材について詳細に説明する。
【0016】
本発明の部材は、部材表面の少なくとも一部に溶射膜を形成してなり、当該溶射膜を構成する粒子の表面は溶射により溶融する成分で覆われており、また、溶射膜中の窒化物の割合が重量比で50%以上100%未満で構成されることを特徴とするプラズマ処理装置用部材に関する。
【0017】
本発明のプラズマ処理装置用部材としては、例えば、プラズマエッチング装置、クリーニング装置に用いる部材が挙げられる。これら部材の表面に対して本発明で規定する溶射膜を設けることで、様々な特性を部材に付与することができる。
さらに好ましい窒化物の含有量としては、60%以上である。
【0018】
例えば、表面に窒化アルミニウムの溶射膜を設けることで、熱伝導性が高く、プラズマに対する耐性の高い部材を得ることができ、静電チャック等への適用を可能とする。この際、溶射膜中の窒化物の割合が50%よりも少ないと、窒化物としての特性を十分に得ることができない。
【0019】
本発明によれば、溶射膜を構成する粒子の表面が、溶射により溶融する成分で覆われていることで、溶融せずに分解・酸化しやすい窒化物粒子同士が溶融成分によってつながるため、窒化物溶射膜の膜質が向上すると考えているが、このような考えは何ら本発明を限定するものではない。また、溶融成分が窒化物粒子表面のみに存在するため、不純物となる溶融成分が少ない。この溶融成分としては、例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の金属酸化物が挙げられる。金属酸化物は、溶射中の分解が少なく、溶融しやすいために、窒化物粒子の表面を溶融層として覆うことが出来る。
【0020】
溶射膜を形成する部材の基材としては、溶射により基材温度が100℃以上の温度になるため、この温度上昇によって割れ、変質、変形等が発生しないことが必要であり、具体的には、アルムニウム合金、ステンレス等の金属や、石英ガラス、ボロシリケートガラス等の耐熱ガラス、アルミナ、ムライト等のセラミック等を例示することができる。
【0021】
このプラズマ処理装置用部材の窒化物溶射膜の厚さについては、1〜1000μm、特に10〜500μmが好ましい。窒化物溶射膜の膜厚が1μmよりも薄いと、窒化物としての機能を十分に得ることができない。膜厚が1000μmを超えると、窒化物溶射膜と基材との熱膨張率の違いによる溶射膜の剥がれが発生しやすくなる。窒化物溶射膜の膜厚は、部材の断面を顕微鏡で観察するか、溶射前後の部材の厚さを測定することで知ることが出来る。
【0022】
このプラズマ処理装置用部材の窒化物溶射膜の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、10μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが10μmよりも粗いと、プラズマによる処理中に溶射膜中の一部にプラズマが集中することで溶射膜の一部が取れてパーティクルが発生することがある。なお、本発明でいう表面粗さ(算術平均粗さ)Raとは、JIS B 0601(1994)に従って測定した値を示す。
【0023】
次に本発明の部材の製造方法を説明する。
【0024】
本発明のプラズマ処理装置用部材の窒化物溶射膜は、例えば、窒化物粉末表面に、溶射により溶融する成分をコーティングした窒化物粉末を原料粉末として用い、この原料粉末を溶射することで製造することができる。このような原料粉末を用いることにより、粉末表面にあるコーティング成分が溶射中に反応・融解することで、通常は融解しない窒化物粉末同士をつなげる役割になると考えられる。
【0025】
このようなコーティング成分としては、溶射中に反応・融解する成分であればよいが、金属酸化物が好ましく、具体的に二酸化ケイ素、酸化アルミニウム等を例示することができる。
【0026】
窒化物粉末表面のコーティング成分量に特に指定は無いが、原料粉末重量の0.5〜20%が好ましい。コーティング成分の量が0.5%よりも少ないと、窒化物同士をつなげる役割が少なく、溶射膜が堆積しにくいことや、膜質が悪くなる場合がある。また、コーティング成分の量が20%よりも多いと、部材上に形成した溶射膜が窒化物としての特性を十分に得ることができない。
【0027】
窒化物粉末の表面にコーティング成分がコーティングされた粉末としては、例えば、市販されている、二酸化ケイ素がコーティングされた窒化アルミニウム粉末をあげることができる。二酸化ケイ素がコーティングされた窒化アルミニウム粉末を溶射することで、確かではないが、溶射中の高温によってアルミニウムとケイ素の複合酸化物が反応生成物として発生し、この複合酸化物が窒化アルミニウム同士をつなげる役割になっていると考えられる。
【0028】
本発明の溶射膜を基材表面に形成する他の方法としては、金属アルコキシド等の金属が融解した窒化物粉末スラリーをスラリー状態で溶射ガンに投入し、溶射中に金属酸化物を生成すると同時に窒化物溶射膜を作成する方法も挙げられる。
【0029】
本発明で用いる溶射原料粉末の平均粒径は、平均一次粒径として1〜10μmが好ましく、更に好ましくは2.5〜8μmである。平均粒径が10μmよりも大きい粉を用いると、融点が高い窒化物粉末が溶融せずに溶射膜が堆積しないことがある。また、平均粒径が1μmよりも小さいと、溶射粉末を溶射ガンに安定的に供給できず、溶射膜が均一になるのが難しいことがある。なお、一般にセラミックは融点が高くしかも熱伝導率が低いため、均一な溶融状態が得られにくいので金属粉末に比べて細かめの粒度の粉末が用いられるが、細かすぎると、溶射フレーム中の最適位置への投入が難しい・送給時にトラブルを生じやすい等の問題が生ずるため、通常のプラズマで、平均粒径30〜50μm、高出力高能率の水安定化プラズマの場合で〜100μm程度の粉末が用いられる(例えば、沖幸男ら、日本溶射協会編「溶射技術入門」(2006)第191〜192頁参照)。これに対して、本発明で用いる原料粉末の平均粒径は従前に比べて、かなり微細なものとなっている。
【0030】
本発明では部材表面への溶射膜の形成の際、基材表面の温度をあらかじめ予熱して溶射することが好ましい。基材表面をあらかじめ予熱することは、溶射の際に、熱ショックによる基材の割れ防止、並びに密着性高い溶射膜を得るために有効である。予熱温度は用いる基材の種類によっても異なるが、例えば石英ガラス基材の場合50〜800℃、金属基材の場合50〜500℃、樹脂基材の場合50〜200℃の範囲が好ましく、これらの予熱温度は、基材の裏面からの熱電対による測定、或いは非接触の放射温度計等で測定できる。
【0031】
予熱方法としては、基材を外部ヒーターで加熱する、または原料を供給せずに溶射フレームを基材に照射すること等で行えば良い。
【0032】
更に、部材の基材表面は、表面粗さRaとして1〜15μmであることが好ましい。表面粗さRaが1μm未満では、基材と溶射膜が剥離し易い場合があり、基材の上に耐蝕性ガラス溶射膜を均一に被覆することが難しい場合がある。一方、基材表面の表面粗さRaが15μmを超えると、溶射膜の表面粗さRaが10μmを超えることで、エッチング中に溶射膜の一部が取れてパーティクルが発生することがある。
【0033】
基材表面の表面粗さRaを1〜15μmとする方法としては、その様な表面粗さの溶射膜を基材に予め溶射する方法、基材自身をブラスト処理する方法又はブラスト処理とフッ酸等による化学的エッチングを併せて施す方法等を例示できる。
【0034】
本発明で用いる溶射膜形成方法としてはプラズマ溶射であることが好ましい。特に、高出力・高ガス流量のプラズマによって溶射することが好ましい。高出力とは、50kw以上、高ガス流量とは120SLM(Standard Litter Per Minute)以上のプラズマを挙げることが出来る。出力・ガス流量を上げる事の効果は定かではないが、ガス流量を上げる事で、窒化物粉末がプラズマに滞在する時間が短くなり、酸化・分解が抑制されるものと考えられる。通常、ガス流量を増加させると、粉末が溶融しないために溶射膜が堆積しにくいが、プラズマの出力を増加させることで、粉末表面に溶融層が形成されると考える。
【0035】
基材表面への窒化物溶射膜の形成の際、プラズマ溶射を用いる場合、基材がガラスやセラミックスのときには、基材温度は100〜800℃が好ましい。基材温度が100℃より低いと溶射粉末が十分に溶けないため、溶射膜が付着しない場合があり、基材温度が800℃よりも高いと、基材と溶射膜の熱膨張率の違いから溶射膜に亀裂が発生して耐蝕性が低下したり、溶射原料である窒化物の分解によって窒素の消失が発生する場合がある。また、基材が金属材料のときには、基材温度は50〜400℃が好ましい。更に基材が樹脂であるときには、樹脂の種類にもよるが、基材温度は50〜300℃が好ましい。
【0036】
また、本発明の製造方法において、原料粉末の溶射ガンへの供給としては、プラズマ内部へ供給する方式であることが好ましい。プラズマ内部への粉末を供給する方式の溶射ガンとしては、例えば、Northwest Mettech社製の商品名「AxialIII」が挙げられる。この溶射ガンでは、3個のプラズマ電極が溶射粉末供給ノズルの周囲に120度の間隔で配置されていることから、プラズマ中心に溶射粉末が投入されるため、プラズマがNやH等の還元雰囲気である場合には、溶射粉末が酸素に触れることによる酸化を防ぐことも出来る。図1にプラズマ内部への粉末供給方式のプラズマ溶射装置の概念図を示す。プラズマ溶射装置は3つのアノード11とカソード10との間に流れたプラズマガス12がアーク放電にすることによって形成されるプラズマジェットをコンバージェンス14で集合させる。この集合したプラズマジェットを熱源として、その中央に溶射粉末13が投入されて溶融し、溶融した溶射粉末はプラズマガスの流速で基材16にぶつかり堆積するものである。
【0037】
本発明の製造方法において、溶射膜形成の際の溶射ガスとしては、N、Ar等不活性ガスあるいはH等還元性ガスを用いることができる。溶射ガス中に酸素が存在すると溶射原料粉末中の窒素が溶射中に酸化されて、溶射膜の窒素含有量が大きく低下するため、溶射ガス中の酸素濃度はできる限り低い方が好ましいが、大気中で窒化物粉末を溶射する際、溶射の出力を上げることで、高温になって飛行する溶射粉末や、堆積後の溶射粉末の表面の少量が酸化物に変化し、この酸化物が窒化物同士をつなげる役割になることもある。溶射膜中の窒化物の存在とその量は、溶射膜表面をX線回折法によって確認可能であり、溶射膜中の窒素量は、EPMAによって測定することが可能である。
【0038】
本発明の製造方法において、常圧下での溶射ガン先端と基板との間の距離である溶射距離は、40〜150mmが好ましい。溶射距離が150mmをこえると基板に溶射粉末が付着するまでに冷却されてしまい、基板上に溶射膜が堆積されない場合があり、溶射距離が40mmより短いと基材、溶射膜両方の温度が上昇してしまい、溶射膜や基材の割れの原因や、溶射膜中の窒素含有量が低下する場合がある。
【0039】
更に、溶射フレームを基材に溶射する際の投入する溶射パワーは用いる装置によっても異なるが、例えば図1に示すようなプラズマ溶射装置の場合、溶射パワーとして、50kW以上を例示することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明のプラズマ処理装置用部材は、窒化物の持つ優れた特性を溶射によって部材表面に付与することで、半導体等の製造におけるプラズマ処理装置(プラズマエッチング装置、プラズマクリーニング装置、アッシング装置)に使用した際、半導体製品への汚染が少なくなることや、高い熱伝導性を持つ静電チャックが出来ることで、短い時間で多くのウェハーを処理することが出来る。
【実施例】
【0041】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
実施例1
東洋アルミニウム(株)製窒化アルミニウム粉末FLC(平均粒径4.2μm、窒化アルミニウム表面に二酸化ケイ素が1.3wt%コーティングされている)をNorthwest Mettech社製AxialIII溶射装置を用いて石英ガラス基材上に溶射を行った。微粉末の供給としては、サーミコ社製のCPF−2HPを使用した。
【0043】
溶射に用いた石英ガラス基板は、ブラストにより表面粗さRaを5μmとした石英ガラスに対し、5%フッ酸で2時間処理して表面粗さRaを8μmとしたものを使用した。
【0044】
このときの予熱、溶射条件としては、まず、常圧にて、溶射距離100mm、プラズマパワーを140kW、溶射ガスとしてNとHガス合わせて280SLM流し、粉末を供給することなく、基板の予熱を行った。次に、上記窒化アルミニウム素粉末を10g/分の供給量で流し、溶射ガンを400mm/秒の速度で移動させながら、5パス溶射を行った。溶射の際の溶射距離、プラズマパワー、溶射ガスの条件は予熱と同様である。
【0045】
この成膜した溶射膜の膜厚は100μm、表面粗さRaは9μmであり、X線回折法による構成相の解析では、六方晶窒化アルミニウムとεアルミナが観察され六方晶窒化アルミニウム100面とεアルミナ034面のX線回折のピーク面積から算出した窒化物の含有量は、六方晶窒化アルミニウムの結晶相が66%であった。
【0046】
実施例2
東洋アルミニウム(株)製窒化アルミニウム粉末FLC(平均粒径4.2μm、窒化アルミニウム表面に二酸化ケイ素が1.3wt%コーティングされている)をNorthwest Mettech社製AxialIII溶射装置を用いて石英ガラス基材上に溶射を行った。微粉末の供給としては、サーミコ社製のCPF−2HPを使用した。
【0047】
溶射に用いた石英ガラス基板は、ブラストにより表面粗さRaを5μmとした石英ガラスに対し、5%フッ酸で2時間処理して表面粗さRaを8μmとしたものを使用した。
【0048】
このときの予熱、溶射条件としては、まず、常圧にて、溶射距離100mm、プラズマパワーを145kW、溶射ガスとしてNとHガス合わせて230SLM流し、粉末を供給することなく、基板の予熱を行った。次に、上記窒化アルミニウム粉末を10g/分の供給量で流し、溶射ガンを400mm/秒の速度で移動させながら、5パス溶射を行った。溶射の際の溶射距離、プラズマパワー、溶射ガスの条件は予熱と同様である。
この成膜した溶射膜の膜厚は100μm、表面粗さRaは9μmであり、X線回折法による構成相の解析では、六方晶窒化アルミニウムとεアルミナ、αアルミナの結晶相が観察された。六方晶窒化アルミニウム100面とεアルミナ034面、αアルミナ104面のX線回折のピーク面積から算出した窒化物の含有量は、六方晶窒化アルミニウム51%であった。また、この溶射膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察(図2)とEPMAによるSi原子の分布の観察(図3)を行った。Si原子分布のEPMA像では、明るい部分がSi原子の存在割合が多いが、粒子周辺部(粒界)が明るくなっているため、Siが多いことが示され、粒子周囲がSiO化合物で覆われているように見られた。
【0049】
比較例1
窒化ケイ素粉末(平均粒径15μm)について、実施例1と同様の基板に対して、実施例1と同様の方法で予熱と溶射を行ったが、溶射膜は付着しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】プラズマ溶射装置の一例を示す図である。
【図2】作製した窒化アルミニウム溶射膜の断面をSEMにより測定した図を示す。
【図3】作製した窒化アルミニウム溶射膜の断面をEPMAにより測定したSiの分布状態を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10:カソード
11:アノード
12:プラズマガス
13:溶射粉末(供給口)
14:コンバージェンス
15:溶射距離
16:基材
17:溶射膜
18:電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材表面の少なくとも一部に、窒化物を重量比で50%以上100%未満含有する溶射膜が形成され、溶射膜を構成する粒子は溶射により溶融する成分により被覆されていることを特徴とするプラズマ処理装置用部材。
【請求項2】
窒化物が窒化アルミニウムであることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項3】
溶射により溶融する成分が金属酸化物であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項4】
溶射により溶融する成分が二酸化ケイ素であることを特徴とする請求項3に記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項5】
溶射により溶融する成分により被覆されている窒化物粉末を原料粉末として、プラズマ溶射によって基材表面に溶射して、溶射膜を形成し、当該溶射膜が窒化物を重量比で50%以上100%未満含有し、溶射膜を構成する粒子は溶射により溶融した成分により被覆されていることを特徴とするプラズマ処理装置用部材の製造方法。
【請求項6】
平均粒径が1〜10μmの原料粉末を使用することを特徴とする請求項5に記載のプラズマ処理装置用部材の製造方法。
【請求項7】
原料粉末の供給がプラズマの中心方向になされることを特徴とする請求項5に記載のプラズマ処理装置用部材の製造方法。
【請求項8】
溶射により溶融する成分が金属酸化物であることを特徴とする請求項5に記載のプラズマ処理装置用部材の製造方法。
【請求項9】
金属酸化物が二酸化ケイ素である請求項5に記載のプラズマ処理装置用部材の製造方法。
【請求項10】
プラズマ溶射を行う際のプラズマ出力が50kw以上である請求項5に記載のプラズマ処理装置用部材の製造方法。
【請求項11】
プラズマ溶射を行う際のガス流量が120SLM以上である請求項5に記載のプラズマ処理装置用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−248345(P2008−248345A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93334(P2007−93334)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】