説明

プラズマ処理装置

【課題】被処理物を搬送しながら、気体からプラズマを発生させて被処理物をプラズマ処理する装置において、被処理物とプラズマ活性種との接触の効率を向上させ、これによって被処理物の処理効率を向上させるような構造を提供する。
【解決手段】プラズマ発生装置は、誘電体31および電極8、8Aを備えている電極装置30、および被処理物21を搬送し、誘電体7に対向して移動させるための搬送手段5を備えている。電極8と搬送手段5との間に電圧を印加することによってプラズマを発生させ、被処理物21を処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療材料の滅菌等の用途に使用されるプラズマ発生用電極装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば医療材料や医療廃棄物、食料品などの包装に用いられるシートは滅菌が必要である。このような滅菌方法として、特許文献1記載の方法が知られている。この方法では、大気圧でプラズマを発生させ、このプラズマにより生成される殺菌因子をプラズマ発生器からチャンバー内へと供給する。チャンバー内では所定の被処理シートを搬送ロール上で搬送し、滅菌する。
【特許文献1】特開平10−129627
【0003】
また、特許文献2においては、一対の放電電極の間でシートを搬送し、大気圧でプラズマを発生させてシートをプラズマ処理する。特許文献3においては、多孔質部分を有するプラズマ放電用電極が開示されている。特許文献4のプラズマ発生電極では、円板状電極に複数のスリット状ガス供給孔を設け、ガス供給孔からガスを噴出させて旋回流を生じさせる。更に、特許文献5には、セラミック誘電体の内部に誘導電極を設け、誘電体の表面に放電電極を設け、放電電極の周縁部分において沿面放電を生じさせ、プラスイオン、マイナスイオンを発生させることが記載されている。
【特許文献2】特開平6−265864
【特許文献3】特開2003−334436
【特許文献4】特許第3154058
【特許文献5】特許第3403723
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、搬送シート上に被処理物を載置して搬送しながらプラズマに接触させ、処理する場合には、用途によっては、以下の問題点が発生してくることを見いだした。即ち、一対のプラズマ発生用電極装置の間に搬送シートをはさみ、搬送シート上に例えば板状の被処理物を載置して搬送するものとする。この場合には、被処理物とプラズマ発生用電極の誘電体とが接触しないように隙間を設ける必要がある。また、搬送シートのたるみや変形なども考慮して、搬送シートが電極装置の誘電体と接触しないようにクリアランスを設ける必要がある。これらのことから、被処理物の厚みがある程度大きくなってきたり、被処理物の量が多くなって搬送シートのたるみや変形が大きくなったり、搬送シートが長くなってくると、一対の電極装置の間隔を大きくする必要が生じてくる。
【0005】
しかし、電極装置の間隔を大きくすると、ガスを放電空間へと供給してプラズマ化して活性化したときに、放電空間内のガスに対して印加される電界が小さくなり、プラズマの発生効率が低下する。これを防止するためには、一対の電極装置間に印加される電圧を大きくする必要がある。しかし、電極間に印加される電圧を大きくすることは不利であり、また電極装置間の間隔が大きい場合には現実的ではない。この結果、活性種と被処理物との接触効率が低下し、被処理物のプラズマ処理効率が低下することが判明してきた。
【0006】
本発明の課題は、被処理物を搬送しながら、気体からプラズマを発生させて被処理物をプラズマ処理する装置において、被処理物とプラズマ活性種との接触の効率を向上させ、これによって被処理物の処理効率を向上させるような構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、誘電体および電極を備えている電極装置、および被処理物を搬送し、誘電体に対向して移動させるための搬送手段を備えており、電極と搬送手段との間に電圧を印加することによってプラズマを発生させることを特徴とする、プラズマ発生装置に係るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被処理物を搬送するのに使用する搬送手段を、対向する電極装置と共にプラズマを発生させるための電極として利用する。これによって、一対の電極装置の間に電圧を印加してプラズマを発生させる場合と比較して、気体に印加される電界の大きさを著しく大きくすることができる。あるいは、気体をプラズマ化させるために必要な印加電圧を著しく低減することができる。この結果、プラズマ処理効率を上昇させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明においては、電極装置は必ずしも一対設ける必要はなく、搬送手段の上または下にのみ電極装置を設けることが可能である。しかし、好適な実施形態においては、一対の電極装置を設け、一対の誘電体の間に搬送手段が挟まれるようにする。
【0010】
また、好適な実施形態においては、搬送手段に貫通孔が形成されている。これによって、活性化された気体が搬送手段を通過して流れるので、活性種と被処理物との接触効率が上がり、被処理物の処理効率が一層向上する。
【0011】
本発明においては、電極装置側の電極をアースすることができるが、搬送手段をアースすることが安全の観点から特に好ましい。
【0012】
好適な実施形態においては、電極装置に貫通孔が形成されており、この貫通孔からプラズマ発生用の気体を供給する。プラズマ化によって生成した活性種は寿命が短いことがあり、このような場合には活性種と被処理物との接触効率が低下することがある。しかし、貫通孔を電極装置の所定箇所に設け、気体を貫通孔から放電室へと流し、プラズマ化することによって、活性種の発生箇所と被処理物との間隔を小さくし、活性種と被処理物との接触効率を向上させることが可能である。
【0013】
好適な実施形態においては、電極が誘電体中に埋設されている。これによって、電極が露出しないようになるので、電極装置側からの不規則な放電を防止しやすい。また、好適な実施形態においては、電極が貫通孔に露出しないように誘電体に埋設されている。これによって、電極から貫通孔内壁へと向かう不規則な放電を防止できる。
【0014】
電極の形態は特に限定されない。例えば後述するように、平板状あるいは膜状をなしていてよい。
【0015】
本発明による処理対象は、プラズマ処理可能なものであれば特に限定されないが、以下を例示できる。
(1) 処理プロセス
被処理物の表面改質(親水処理:被処理物に接着剤や塗料を塗布する前に被処理物表面を親水処理し、濡れ性を向上させ、着色剤や塗料の接着性、付着性を高める)、滅菌または殺菌処理、被処理物表面の有機物除去、被処理物表面の有機物分解処理
(2) 処理対象物品
樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、テトラフルオロエチレンなど)、セラミックス、金属、ガラス
医療用器具や医療材料(ブリスターパック、ブリスターパック用シート、シリンジ、シリンジ用ガスケット、バイアル用ゴム栓、注射針、ガーゼ、不織布なと)
食料品用包装シート
半導体ウエハー、液晶ガラス基板、セラミックスのプラズマ処理
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の更に詳細な実施形態について述べる。
【0017】
図1(a)は、本発明の一実施形態で使用するプラズマ発生用電極装置30を概略的に示す横断面図であり、図1(b)は、他の実施形態で使用するプラズマ発生用電極装置30Aを概略的に示す横断面図である。
【0018】
図1(a)のプラズマ発生用電極装置30においては、基板31は誘電体からなり、誘電体層7と9とを備えている。基板31内には電極8が埋設されている。図1(a)の例では電極8は平板形状であり、特に貫通孔は設けられていない。
【0019】
図1(b)のプラズマ発生装置30Aにおいては、基板31は誘電体からなり、誘電体層7と9とを備えている。基板31内には電極8Aが埋設されている。基板31には所定箇所に貫通孔26が形成されている。本例では、電極8Aのエッジが貫通孔26内壁面に露出しないように、誘電体によって被覆されており、所定の絶縁間隔が保たれている。基板31は、電極8Aによって、主面7a側の誘電層7と反対側の主面(裏面)9a側の誘電層9とに分かれている。基板31の主面7aは被処理物に対向し、他方の主面9aは背面となる。
【0020】
ここで、基板を構成する誘電体材料は特に限定されないが、セラミックスが好ましく、特にアルミナ、マグネシア、ジルコニア、シリカ、ムライト、スピネル、コージェライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、チタン−バリウム系酸化物、バリウム−チタン−亜鉛系酸化物などが好ましい。また、電極の材質は特に限定されず、所定の導電性を有する物質であれば使用可能である。例えば、タングステン、モリブデン、マンガン、チタン、クロム、ジルコニウム、ニッケル、銀、鉄、銅、白金、パラジウム、あるいはこれらの合金が好ましい。
【0021】
図1(a)、(b)に示すような基板31は、いわゆるグリーンシート積層法によって製造可能である。すなわち、セラミックス等の誘電体粉末をプレス成形する際に、埋設電極を構成する金属板や金属箔を埋設しておき、次いで焼結することができる。また、電極は、セラミックスグリーンシート上にペーストを塗布することで形成することもできる。この場合の塗工方法としては、スクリーン印刷、カレンダーロール印刷、ディップ法、蒸着、物理的気相成長法など、任意の塗工方法を利用可能である。電極を塗工法によって形成する場合には、前記した各種金属あるいは合金の粉末を、有機バインダーおよび溶剤(テルピネオール等)と混合して導体ペーストを作製し、次いでこの導体ペーストをセラミックグリーンシート上に塗工する。
【0022】
基板31を製造する際において、セラミックグリーンシートの成形方法は特に限定されず、ドクターブレード法、カレンダー法、印刷法、ロールコータ、めっき法など、あらゆる手法を利用することができる。また、グリーンシートの原料粉末としては、上述した各種のセラミックス粉末や、ガラス等の粉末を利用できる。この際、焼結助剤として、酸化珪素、カルシア、チタニア、マグネシア、ジルコニアを例示できる。焼結助剤は、セラミック粉末100重量部に対して、3〜10重量部添加することが好ましい。セラミックスラリー中には、公知の分散剤、可塑剤、有機溶媒を添加することができる。
粉末プレス成形でも、基盤31を作ることができ、埋設する電極にメッシュ金属や金属箔を用いた場合は、ホットプレス法で電極を埋設した焼結体を得ることができる。
成形助剤を適時選ぶことにより、押出成形でも基板31の成形体を作製できる。押出成形体表面に、溶媒を適時選定することにより、導電膜成分となる金属ペーストを印刷などで電極として形成することができる。
【0023】
得られた基板31の気孔率は特に限定されないが、01〜35%とすることができ、0.1〜10%とすることが更に好ましい。
【0024】
図1(b)に示すような各貫通孔の形成方法は特に限定されない。好適な実施形態においては、図1(a)のような基板31を焼結によって作製した後に、基板31に超音波加工や切削加工によって貫通孔を形成する。あるいは、基板31を焼結する前のグリーンシートの段階で、グリーンシートにナイフカットや金型による打ち抜きによって貫通孔を形成し、次いでグリーンシートを焼結させることができる。
【0025】
貫通孔の配置密度や配置パターンは特に限定されない。例えば、活性化ガスの寿命や被処理物の処理量を考慮して、貫通孔を装置の入り口側(上流側)のみに設けることができるし、あるいは基板主面の全面にわたって設けることもできる。比較的寿命の長い活性種を含む活性化ガスの場合(例えば活性種がオゾンガスである場合)には、装置の上流側のみにおいて基板に貫通孔を形成するだけでも、十分に長期間にわたって被処理物を活性化ガスに接触させることができる。しかし、活性種の寿命が短い場合には、基板の全面に貫通孔を形成することが好ましい場合がある。
【0026】
貫通孔の配置密度(個数)や貫通孔の大きさは,被処理物との反応速度や被処理物の量に応じて決定する。滅菌用途においては、例えば10cfuまで除去するために基板の全面にわたって貫通孔を配置することができる。また,殺菌用途で10cfuまで殺菌することでよい場合には、10cfuを実現するために必要な貫通孔数の70〜80%の貫通孔数で足りる。このように使用状況に応じて貫通孔の密度と個数とを決定することができる。
【0027】
本発明において、各電極の平面的パターンは特に限定されず、面内での活性種の種類および寿命、生成量に会わせて設計できる。例えば、電極の平面的パターンを櫛歯状としたり、網目状とすることができる。
【0028】
電極が網状または櫛歯状をなしている場合には、貫通孔を網目状に形成したり、櫛歯の間の隙間に規則的に形成することが容易であり、好ましい。この実施形態においては、網目の形状は特に限定されず、円形、楕円形、レーストラック形状、四辺形、三角形等の多角形などであってよい。また櫛歯状電極の櫛歯の形状も特に限定されないが、長方形や平行四辺形であることが特に好ましい。
【0029】
たとえば、図2は、電極8Aのパターン例を模式的に示す平面図である。なお、図2においては、埋設された電極8Aの平面的パターン基板表面に投影した投影図を図示している。各網目32はたとえば四辺形であり、各網目32内にそれぞれ貫通孔26が形成されている。
【0030】
このように電極の平面的パターンを網目状とした場合には、各網目のピッチ(間隔)を変更することによって、プラズマ生成箇所のピッチを適宜変更することができる。なぜなら、プラズマは、各網目中の貫通孔から噴出するガス中で発生するからである。したがって、活性種の寿命が短い場合には、網目のピッチを小さくしてプラズマ生成箇所を増加させることができる。このような網目のピッチは活性種の種類によって設計されるものであるので限定されないが、例えば、0.1mm以上とすることが好ましく、0.5mm以上とすることが更に好ましい。また、活性種を広範囲で満遍なく発生させるという観点からは、網目のピッチは20mm以下であることが好ましく、3mm以下であることが更に好ましい。
【0031】
貫通孔の平面的形状は上述の例では略真円形としたが、これには限定されず、被処理物の材質や形態、活性種の種類に応じて変更する。例えば、貫通孔の平面的形態は、楕円形、レーストラック形状、三角形、四角形、六角形等の多角形、細長いスリット形状などであってよい。
【0032】
プラズマ生成用のガスは、目的とする反応によって、一種類のガスであってよく、あるいは複数種類のガスを供給してもよい。また、一種類のガスを供給する場合には、純ガスであってよく、混合ガスであってもよい。また、複数種類のガスを放電の作用下に互いに反応させ、活性種を生成させることもできる。
【0033】
ガスの種類は限定されないが、希ガス(ヘリウム)、アルゴン、ネオンなど)、窒素ガス、酸素ガス、水素、空気(大気)、塩素ガス、アンモニアガス、SF6、CF系ガスなどを例示できる。また、過酸化水素、過酢酸、エタノール、メタノール、水などの液体を噴霧したり、あるいは蒸発させて霧状にしたものを貫通孔から供給することができる。また、上記したガスおよび液体は単独で使用でき、あるいは他のガスや液体との混合物として使用できる。一例として、酸素ガスのみを用いて酸素を活性化させ、酸素ラジカル、オゾンガスを生成させ、殺菌用途や半導体ウエハー、ガラス上の有機物除去、表面改質に用いることができる。
【0034】
図3は、図1(a)の装置30を使用した処理装置の一例を模式的に示す断面図である。図4は、図3のうち、ロール34、搬送手段5、被処理物21および一対のプラズマ発生用電極装置30を示す模式図である。本例では、搬送手段としてロール34および搬送シート5を使用し、搬送シート5上に被処理物21を載置し、搬送シート5を例えば図4の右側へと移動させる。搬送シートの上側および下側にはそれぞれプラズマ発生用電極装置30が設置されており、誘電体層7が搬送シート5を挟んで対向している。35は容器である。
【0035】
ガスは、搬送シート5に沿って放電室1b、3b内へと供給される。このとき、搬送シートの上流側からガスを矢印Aのように放電室1b、3b内へと供給することができる。このガスは、放電室1b、3b内でプラズマ活性化を受け、被処理物のプラズマ処理に関与した後、矢印Bのように装置の下流側に排出される。あるいは、搬送シートの下流側からガスを放電室1b、3b内へと矢印Cのように供給することができる。このガスは、放電室1b、3b内でプラズマ活性化を受け、被処理物のプラズマ処理に関与した後、矢印Dのように装置の上流側に排出される。
【0036】
また、図5は、図1(b)の装置30Aを使用したプラズマ処理装置の全体構成を模式的に示す断面図である。本例では、搬送シートの上側および下側にはそれぞれプラズマ発生用電極装置30Aが設置されており、誘電体層7が搬送シート5を挟んで対向している。各装置30Aの基板には所定個数の貫通孔26が形成されている。
【0037】
上流側のガス室1a、3aから同種類のガスを貫通孔26を通して矢印E、Fのように放電空間1b、3bへと供給し、下流側のガス室2a、4aから、これとは異なる種類あるいは同じ種類のガスを放電空間2b、4bへと貫通孔26を通して供給する。ガス室1a、3aとガス室2a、4aとは互いに気密隔壁によって隔離されている。これらのガスは、放電室1b、3b内でプラズマ活性化を受け、被処理物のプラズマ処理に関与した後、装置の上流側または下流側へと排出される。
【0038】
上述の例では搬送手段はシート状であるが、この具体的形態は特に限定されず、貫通孔が形成されていてよい。貫通孔の平面的形状は限定されず、被処理物21の底面への活性種の供給量に応じて変更する。例えば、貫通孔の平面的形態は、楕円形、レーストラック形状、三角形、四角形、六角形等の多角形、細長いスリット形状などであってよい。貫通孔の形成手段は特に限定されず、シートの打ち抜き加工やナイフカットによって形成できる。あるいは、搬送手段は、メッシュ状ないしは網状であってよい。この場合には網目の形状も特に限定されず、真円形、楕円形、三角形、四角形,六角形などの多角形であってよい。また、被処理物の大きさに合わせて電極の間隔を変更することができる。
【0039】
また、搬送手段の材質は、導電性である限り、特に限定されない。以下の材質が特に好ましい。
(1) プラズマにより活性化されたガスによる腐蝕を防ぐ為に、耐蝕性のある、例えばFe-Cr、Fe-Cr-Ni等のステンレス鋼、軽量を考慮したTi-Al、Al-Mg-Si、Al-Zn-Mg、Al-Cu-Mg等のTi合金やAl合金、耐熱性のあるFe-Cr-Al、Fe-Cr-Mo、Fe-Mn-Cr、Ni-Fe-Mo、Ni-Cr-Fe、Ni-Cr-Co-Mo合金、導電性のあるCu-Zn、Cu-Be、Cu-Ni等Cu合金が望ましい。
(2) (1)の各金属材料に、ポリイミドやフッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリシクロオレフィン等の耐熱性のある有機材料を皮膜したもの
(3) (1)の各金属材料に、セラミックス(特にアルミナ、マグネシア、ジルコニア、シリカ、ムライト、スピネル、コージェライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、チタン−バリウム系酸化物、バリウム−チタン−亜鉛系酸化物など)などの誘電材料を溶射、蒸着、スパッタリングなどで被覆したもの
【0040】
また、ガスや霧状液体を放電空間へと向かって供給する方法は限定されず、例えばガスボンベ、ブロワーによって供給できる。また、電気分解によって発生したガス(酸素と水素)とを用いることもできる。ガス圧力は通常は大気圧近傍とすることができ、元ガスの供給流量はマスフローメーター等で制御できる。また、ガス室を複数設け、各ガス室ごとに、相異なる種類のガスを供給することによって、放電空間に複数種類の活性化ガスを供給することができる。
【0041】
使用後、活性化ガス自身の処理は、プラズマ活性種の寿命が短いので不要である。しかし、活性化されたガス同士の反応によって副生成ガスが生成する場合には、プラズマ発生用電極装置の下流側に触媒を設置することによって、活性種を除去することが好ましい。このような触媒としては、マンガン系触媒、白金等の貴金属触媒を例示できる。又、ガスの種類によっては活性炭を用いる事も出来る。
【実施例】
【0042】
(実施例1:滅菌、殺菌処理)
本実施例では、被処理物として医薬品包装用のブリスターパックの代表的な素材であるポリプロピレン(以下「PP」と略す)のシート21を用いた。シートの長さ300mm、幅80mmとした。図6に装置の全体構成を示す。
【0043】
プラズマ発生用電極装置30としては、図1(a)に示したような形態のものを使用した。装置30は、基板1枚当り長さ100mm、幅100mm、厚み1mmのサイズの物を、上段20枚、下段20枚配置した。上段の基板と下段の基板との間には、4〜6mmの隙間が生ずるようにした。基板のうち、ガスと接触する部分には、SUS304、硬質樹脂材料製の物を用いた。また、被処理物21の裏面も活性化ガスと反応するように、搬送手段5としてはメッシュ状物を用いた。
【0044】
上下の埋設型誘電体電極を正極とし、被処理物を搬送するメッシュを金属製の接地電位として放電を行った。上段の基板31と下段の基板31との間の中心部に、被処理物21を搬送するメッシュローラ5を通した。
【0045】
ここで、具体的には、活性化ガスの元ガスとして空気を用い、除湿剤18により乾燥空気とし、ブロワー19により50リットル/分の流量で搬送シート5の上流側から放電室1b、3b内へと送る。乾燥空気に加え、更に過酸化水素水12(31%)を加熱により気化させ、過酸化水素ガスを0.2g/分で、乾燥空気50L/分と共に放電室1b、3bに供給した。又、乾燥空気のみを放電室に供給するケースについても実験した。
【0046】
乾燥空気のガス室への供給速度が一定となるように、信号発信式の流量計15とコントロールバルブ16によるフィードバック制御を行った。過酸化水素ガスのガス室への供給は、蒸発残差をロードセル11で測定し、ローラーポンプ13での添加量をフィードバック制御する事で行った。14は蒸発器であり、17は加熱器である。
【0047】
プラズマによる処理に伴い連続的発生する排気、及び、活性ガス供給終了後に装置内に残存する排気(未反応ガス(過酸化水素ガス)及びプラズマにより生成したオゾンガス等)は排気ガス分解装置(活性炭等)20で処理した後、装置外へブロワー19により排出される。なお、装置内部から外部へ活性化ガス、オゾンガスが流出しないようエアーカーテン22を搬入口、搬出口の両側に設置した。
【0048】
搬送速度を変えてプラズマの照射時間を30秒、1分、2分、5分、10分としてそれぞれの条件における滅菌量を測定した。プラズマ発生器としてSIサイリスタパルス電源(ピーク電圧:1〜20kV、周波数:0.1〜5kHz)を用いた。
【0049】
(評価方法)
滅菌効果の評価は、枯草菌(Geobacillus stearothermophilus(ATCC#7953))のバイオロジカルインディケータ(米国Raven社製、以下BIと略す)を用いて行った。1×103、1×104、1×105、1×106個の菌が付着したセルロース製の担体がグラシン紙(グラシン紙:1mm平方当り、200個程度のメッシュがあり、外部からの菌の進入と内部の胞子の飛散を阻止し、気流の流入は容易な構造)に包埋されている。
【0050】
試験紙型のBIをPPシート上に所定の枚数貼り付け、滅菌処理後に1次包装(グラシン紙)から無菌状態で担体を取り出し、培養を行った。培養にはAcumedia製TSB(Tryptic
Soy Broth.)培地とpHインジケータ(Bromocresol Purpule)がガラス試験管に入れてある培養液を用い、滅菌処理を施した試験紙型BIの担体を無菌状態を保持したまま試験管に入れて58〜60℃で7日間培養を行い、培養液の色の変化で滅菌の有無を確認した。
【0051】
滅菌が出来ていれば、培養液の色の変化は無く、滅菌不良であれば、培養液は菌が分泌する酸により紫色から黄色に変化する。各個数が付着しているBIを用いることで、菌数の減少量の測定を行った。菌数の減少数は対数で表し、例えば1×10cfuの菌数が全て死滅した時、つまり、7日間の培養で培養液の色の変化が無かった時にはLog(1×10)=6と表す。この結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果から明らかなように、連続処理によりPPシートを滅菌レベル(Log 6)であれば5分、殺菌レベル(Log 3〜5)であれば0.5〜2分程度で行うことが可能である。
乾燥空気のみでも効果はあるが、過酸化水素を加える事で滅菌効果は更に高まった。
【0054】
(比較例1、2)
比較例1として、プラズマ照射を行わない過酸化水素ガス単独の場合、同様の結果を得るには数10分の時間を要した。
また、比較例2として、ホルムアルデヒドガス単独の場合においても同様に、数10分の時間を要し、更に残留ガスの危険性を伴う。
【0055】
(実施例2:滅菌、殺菌処理)
図1(b)に示すような装置30Aを使用し、実施例1と同様にして実験を行った。図7に装置の全体構成を示す。本例においては、各基板31には、1枚当り直径2mmの貫通孔が50個開いている。また、実施例1とは異なり、除湿剤18により乾燥空気とした後、ブロワー19により50リットル/分の流量でガス室1a、2a、3a、4aへと送った。乾燥空気に加え、更に過酸化水素水12(31%)を加熱により気化させ、過酸化水素ガスを0.2g/分で、乾燥空気50L/分と共にガス室1a、3a、2a、4aに供給した。又、乾燥空気のみをガス室に供給するケースについても実験した。各ガス室から貫通孔26を通って前述のように放電室1b、3b、2b、4bへとガスが供給され、放電を起こし、乾燥空気にプラズマを発生させ、活性酸素、オゾンガスを生成させる。
このようにして実施例1と同様に滅菌、殺菌処理を行い、結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2の結果から明らかなように、連続処理によりPPシートを滅菌レベル(Log 6)であれば2分程度、殺菌レベル(Log 3〜5)であれば0.5〜1分程度で行うことが可能である。乾燥空気のみでも効果はあるが、過酸化水素を加える事で滅菌効果は更に高まった。
【0058】
(実施例3:有機物除去)
プラズマ発生用電極装置30Aとしては、実施例2と同様のものを用いた。装置全体の構成は図8に示す。活性化ガスの元ガスとしては、工業用酸素23もしくは乾燥空気を、50リットル/分の流量でガス室1a、3aに供給した。酸素のガス室への供給は一定量となるように信号発信式の流量計15とコントロールバルブ16によるフィードバック制御により行った。18は除湿剤であり、27はレギュレータである。
【0059】
搬送速度は固定し、プラズマの照射時間を一定時間として有機物除去量を測定した。プラズマ発生器としてSIサイリスタパルス電源(ピーク電圧:1〜20kV、周波数:0.1〜5kHz)を用いた。
【0060】
(評価方法)
超純水(TOC濃度1ppb以下)にノニオン系界面活性剤を所定量添加し、これにガラス基板(長さ80mm、幅80mm、厚み1mm)を一定時間浸漬させた後、乾燥させた物を試験片とした。プラズマでのクリーニングの後、超純水に一定時間浸漬し、超純水中に溶解したTOCの濃度を測定し、有機物除去の評価を行った。更に、プラズマ処理を行わなかったものとを比較した。図8に装置の全体構成を示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3の結果から、プラズマによるクリーニングの効果が確認でき、酸素を元ガスとする事でより効果的であった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態で用いるプラズマ発生用電極装置30を模式的に示す断面図であり、(b)は、本発明の他の実施形態で用いるプラズマ発生用電極装置30Aを模式的に示す断面図である。
【図2】プラズマ発生装置30Aにおける電極8Aおよび貫通孔26の平面的パターン例を模式的に示す平面図である。
【図3】図1(a)のプラズマ発生用電極装置30を用いて作製したプラズマ処理装置の全体構成を模式的に示す断面図である。
【図4】図3の装置のうちローラー34、搬送シート5、被処理物21およびプラズマ発生用電極装置30を模式的に示す斜視図である。
【図5】図1(b)のプラズマ発生用電極装置30を用いて作製したプラズマ処理装置の全体構成を模式的に示す断面図である。
【図6】実施例1で用いたプラズマ処理装置の全体構成を示す模式的ブロック図である。
【図7】実施例2で用いたプラズマ処理装置の全体構成を示す模式的ブロック図である。
【図8】実施例3で用いたプラズマ処理装置の全体構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0064】
1a、2a、3a、4a ガス室 1b、2b、3b、4b 放電室 5 搬送手段 7、9 誘電体層 7a 基板31の一方の主面 8、8A 電極 9a 基板31の他方の主面 21 被処理物 26 貫通孔 30、30A プラズマ発生用電極装置 31 基板 32 網目 34 ロール A、B、C、D、E、F、 ガスの流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体および電極を備えている電極装置、および被処理物を搬送し、前記誘電体に対向して移動させるための搬送手段を備えており、前記電極と前記搬送手段との間に電圧を印加することによってプラズマを発生させることを特徴とする、プラズマ処理装置。
【請求項2】
一対の前記電極装置を備えており、一対の前記誘電体の間に前記搬送手段が挟まれていることを特徴とする、請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記搬送手段に貫通孔が形成されていることを特徴とする、請求項1または2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記搬送手段が網状物からなることを特徴とする、請求項3記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記搬送手段をアースすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記電極装置に、前記プラズマ生成用のガスを供給するための貫通孔が形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記電極が前記誘電体内に埋設されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
物品の滅菌または殺菌のために前記プラズマを発生させることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−205085(P2006−205085A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21490(P2005−21490)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】