説明

プラズマ溶射装置

【課題】皮膜の質のさらなる向上を図ることができる複合トーチ型のプラズマ溶射装置を提供する。
【解決手段】本発明のプラズマ溶射装置によれば、主陽極12の先端部に第1凹部121および第2凹部122が形成されている。第1凹部121は主陽極12の径方向について材料搬送管11よりも外側から連続的に縮径しながら主陽極12の軸方向後方に向かってくぼんでいる。第2凹部122は主陽極12の径方向について第1凹部121の内縁124から材料搬送管11に至るまで連続的または断続的に縮径しながら主陽極12の軸方向後方に向かって第1凹部121よりも大きくまたは急峻にくぼんでいる。第2凹部122が形成されている分だけ、第1凹部121のみが形成されている場合と比較して、材料搬送管11の先端部から放出された材料がプラズマに接触するまでの間に拡散しうる空間が広く確保される。

【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
【0001】
本発明は高温のプラズマアークにより、金属またはセラミックス等の物質を溶融して対象物に吹き付け、その表面に皮膜を形成する複合トーチ型のプラズマ溶射装置に関する。
【従来の技術】
【0002】
図4に示されているように中心軸が交差する主トーチ1および副トーチ2を備え、主トーチ1が有する主陽極12と副トーチ2が有する副陰極22との間にプラズマアークP1およびP2を形成させる複合トーチ型のプラズマ溶射装置が提案されている。このプラズマ溶射装置によれば、主陽極12の中心部を貫通する材料搬送管11を通じて液体等の流動性のある材料が主陽極12の先端部付近まで供給され、プラズマPによって加熱されて溶融した粒子M2を基材Sに向けて飛ばすことにより、当該材料によって基材Sを覆う緻密なまたは質の高い皮膜Mが形成される(特許文献1参照)。
【0003】
しかるに、主陽極12の先端部および主外套14の開口部付近等に材料M1または溶融粒子M2の一部が付着し、この付着材料がプラズマPに不規則的に巻き込まれることによるスピッティング(過度に大径化した溶融粒子の吐き出し)が発生し、大径のスプラット(基材に衝突して扁平した後で凝固した状態の粉末材料を意味する。)が混在するため、その径に不規則性が生じ、皮膜Mの質が低下する可能性がある。また、溶融粒子M2が主陽極12および主外套14等から引き剥がされる際に、主陽極12および主外套14側の表面が一緒にむしりとられてしまうために主トーチ1が損傷し、その寿命が著しく低下する。そこで、主電極12および主外套14等への材料M1の付着を防止するため、主陽極12にガス噴出孔を設けることが提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−231498号公報
【特許文献2】特開2007−090209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、それでもなお皮膜の質が低下する可能性が非常にわずかながらもあることが判明した。
【0005】
そこで、本発明は、皮膜の質のさらなる向上を図ることができる複合トーチ型のプラズマ溶射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は実験により次のような知見を得た。すなわち、流動性のある材料の溶融効率の向上のために高エネルギーのプラズマアークが形成されると、主外套がプラズマの熱によって部分的に溶融または損傷してしまう可能性がある。その一方、図5に示されている主外套14の溶融を防止するために主外套が冷却されると、矢印で示されているように熱的ピンチ効果によってプラズマPが緊縮するため、図5に示されているように主陽極12の先端中央部がその軸方向についてくぼんでいるにもかかわらず、材料搬送管11から放出された材料M1がプラズマPに接触するまでの間の飛散スペースが狭くなる。その結果、材料が十分に拡散または分散しないうちにプラズマPに接触することになる。そして、材料M1の飛散単位の少なくとも一部のサイズが大きくなり、これにより材料M1の溶融効率が低下し、材料M1の一部が主陽極12または主外套14等に付着する可能性が高くなる。また、材料M1の飛散単位のサイズおよび溶融粒子のサイズのばらつき、ならびに、スプラット径のばらつきが大きくなって、皮膜にポアまたはクラックが生じる可能性が高くなる。さらに、前記のように主外套14等に付着した材料がスピッティングとなって不規則的にプラズマPに巻き込まれて溶融粒子として基材まで飛散することもスプラット径のばらつきを大きくする原因となる。本発明はこのような知見に鑑みて完成された。
【0007】
本発明のプラズマ溶射装置は、軸方向に貫通する材料搬送管を有する主陽極と、前記主陽極を囲むとともに前記主陽極の軸方向前方に位置する主開口部を有する主外套と、前記主外套を冷却する冷却要素とを有する主トーチと、前記主陽極の中心軸と交差する中心軸を有する副陰極と、前記副陰極を囲むとともに前記副陰極の軸方向前方に位置する副開口部を有する副外套とを有する複数の副トーチとを備え、前記主開口部および前記副開口部を通じて前記主陽極および前記副陰極の間に形成されるプラズマによって前記材料搬送管から放出または拡散される流動性のある材料を加熱することにより溶融粒子を生成し、前記溶融粒子を前記主陽極の軸方向前方に配置されている基材に吹き付けることにより前記材料によって構成される皮膜を前記基材の上に形成するプラズマ溶射装置において、前記主陽極の先端部に、前記主陽極の径方向について前記材料搬送管よりも外側から連続的に縮径しながら前記主陽極の軸方向後方に向かってくぼんでいる第1凹部と、前記主陽極の径方向について前記第1凹部の内縁から前記材料搬送管に至るまで連続的または断続的に縮径しながら前記主陽極の軸方向後方に向かって前記第1凹部よりも大きくまたは急峻にくぼんでいる第2凹部とが形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のプラズマ溶射装置によれば、主陽極の先端部に第1凹部および第2凹部が形成されている。「第1凹部」は主陽極の径方向について材料搬送管よりも外側から連続的に縮径しながら主陽極の軸方向後方に向かってくぼんでいる。「第2凹部」は主陽極の径方向について第1凹部の内縁から材料搬送管に至るまで連続的または断続的に縮径しながら主陽極の軸方向後方に向かって第1凹部よりも大きくまたは急峻にくぼんでいる。材料搬送管の先端部から放出された流動性のある材料が、第2凹部により画定される空間と、第1凹部により画定される空間とにおいて順に拡散された上で、主陽極および副陰極の間に形成されるプラズマに接触する。第2凹部が形成されている分だけ、第1凹部のみが形成されている場合と比較して、材料搬送管の先端部から放出された材料がプラズマに接触するまでの間に拡散しうる空間が広く確保される。このため、プラズマが熱的ピンチ効果によって緊縮されて材料の拡散空間が狭まったとしても、当該材料の十分な拡散、すなわち、当該材料の飛散単位のサイズの縮小化および均等化を図ることができる。さらに、熱的ピンチ効果によるプラズマの緊縮が許容される分、冷却要素による主外套の冷却が許容される。また、主外套の冷却が許容される分、主外套の損傷を防止しながらもプラズマの高エネルギー化が許容される。前記のような材料の飛散単位の縮小化およびプラズマの高エネルギー化によって当該材料の溶融効率の向上を図ることができる。そして、十分に溶融されなかった材料が主外套等に付着し、不規則的にプラズマに巻き込まれる可能性が低減される。また、材料の飛散単位のサイズおよび溶融粒子のサイズのばらつきが抑制されるため、スプラットの径のばらつきも抑制され、当該ばらつきに起因するポア形成も抑制される。したがって、皮膜のさらなる緻密化等、質の向上を図ることができる。
【発明の実施の形態】
【0009】
本発明のプラズマ溶射装置の実施形態について図面を用いて説明ずる。
【0010】
まず、プラズマ溶射装置の全体的な構成について説明する。図1に示されている複合トーチ型のプラズマ溶射装置は、その要部を除く構成は前記特許文献1の第2実施例のプラズマ溶射装置と同様の構成を有している。すなわち、プラズマ溶射装置は主トーチ1および2つの副トーチ2を備えている。主トーチ1および副トーチ2は相互に絶縁性が維持されるように着脱自在に固定されている。
【0011】
主トーチ1は軸方向に貫通する材料搬送管11を有する主陽極12と、主陽極12を囲むとともに主陽極12の軸方向前方に位置する主開口部142を有する主外套14と、主陽極12および主外套14を絶縁する略筒状の絶縁体16と、主外套14を冷却する冷却要素(図示略)とを有する。図2に示されているように材料搬送管11は主陽極12と同軸の内管111および外管112により構成されている。内管111を通じて流動性のある材料M1が先端部に向かって搬送され、内管111および外管112の間を通じて、内管111の先端部から放出または噴出された材料M1の飛散を補助するAr等のガスが先端部に向かって供給される。このガスは後述する主プラズマアークP1の形成に際して補助的なプラズマガスとして機能しうる。なお、材料搬送管11、すなわち、二重管の軸は必要に応じて主陽極12の軸と一致していなくてもよい。主陽極12は銅等の熱伝導率および電気伝導率の高い材料により形成されており、第1電源18の正端子に接続され、かつ、スイッチ機構186を介して第2電源28の正端子に接続されている。本発明のプラズマ溶射装置の要部である主陽極12の詳細な構成については後述する。主外套14はスイッチ機構184を介して第1電源18の負端子に接続されている。冷却要素はたとえば主外套14の内部に配管された導管と、この導管を流れる水等の冷却媒体とにより構成されている。絶縁体16の側壁には主トーチ1の内部にAr等の主プラズマガスG1を導入するための主プラズマガス入口162が設けられている。主プラズマガス入口162に導入された主プラズマガスG1は旋回流形成孔(図示略)を通じて主トーチ1の内部において主トーチ1の周方向に旋回するように導入される。旋回流形成孔の構造についてはたとえば前記特許文献1に詳述されているので本明細書では詳述を省略する。
【0012】
副トーチ2は副陰極(副トーチ起動電極)22と、副陰極22を囲むとともに副陰極22の軸方向前方に位置する副開口部242を有する副外套24と、副陰極22および副外套24を絶縁する略筒状の絶縁体26とを有する。主陽極12の軸と副陰極22の軸とが、主陽極12の軸方向前方かつ副陰極22の軸方向前方において交差するように主トーチ1および各副トーチ2が配置されている。2つの副トーチ2は、主トーチ1または主陽極12の中心軸まわりの回転対称性(2回対称)を有し、かつ、各副トーチ2または副陰極22の中心軸が主トーチ1の中心軸の一点で交差するように対向して配置されている。このような配置により、後述するプラズマフレームP+の直進性および安定性が図られており、その結果としてプラズマの高出力化が可能とされている。なお、プラズマフレームP+の直進性および安定性が図られるという条件下で、3つ以上の副トーチ2が配置されてもよい。たとえば、3つの副トーチ3が主トーチ1の中心軸まわりの回転対称性(3回対称)を有するように配置されてもよい。各副陰極22はスイッチ機構281または282を介して第2電源28の負端子に接続されている。一方(図1上側)の副トーチ2の副陰極22はスイッチ機構182を介して第1電源18の負端子に接続されている。各副外套24はスイッチ機構283または284を介して第2電源28の正端子に接続されている。絶縁体26の側壁には副トーチ2の内部にAr等の副プラズマガスG2を導入するための副プラズマガス入口262が設けられている。副プラズマガス入口262に導入された副プラズマガスG2は主プラズマガスG1と同様に旋回流形成孔(図示略)を通じて副トーチ2の内部において副トーチ2の周方向に旋回するように導入される。
【0013】
次に本発明のプラズマ溶射装置の要部である主陽極12の構成について説明する。主陽極12の先端部付近の中心軸を含むような断面図である図2に示されているように主陽極12の先端部には、第1凹部121、第2凹部122および傾斜部123が形成されている。第1凹部121は主陽極12の径方向またはy方向について材料搬送管111(正確には外管112)よりも外側から連続的に縮径しながら主陽極12の軸方向後方または−x方向に向かってくぼんでいる。第2凹部122は主陽極12の径方向について第1凹部121の内縁から材料搬送管11(正確には外管112)に至るまで連続的に縮径しながら主陽極12の軸方向後方に向かって第1凹部121よりも大きくまたは急峻にくぼんでいる。傾斜部123は主陽極12の径方向について第1凹部121の外縁124から連続的に拡径しながら主陽極12の軸方向後方に向かって傾斜している。第1凹部124の外縁は主陽極12の軸方向前方に突出しており、陽極点を構成する。なお、傾斜部123が省略され、第1凹部121の外縁の径と、主陽極12の径とが一致するように主陽極12の先端部が形成されていてもよい。
【0014】
図2に示されているように主陽極12の中心軸がx軸として定義され、この中心軸に直交し、かつ、第1凹部121の外縁124を通る軸がy軸として定義されている。第1凹部121が連続的に縮径しながらくぼんでいるとは、第1凹部121の座標xにおける径を表わす第1関数f1(x)(−x1≦x≦0)が連続関数であり、かつ、その導関数df1/dx(第1凹部121のx軸に対する傾斜度合を表わす。)が正値であることを意味する。同様に、第2凹部122が連続的に縮径しながらくぼんでいるとは、第2凹部122の座標xにおける径を表わす第2関数f2(x)(−x1−x2≦x≦−x1)が連続関数であり、かつ、その導関数df2/dx(第2凹部122のx軸に対する傾斜度合を表わす。)が正値であることを意味する。また、傾斜部122が連続的に拡径しながら傾斜しているとは、傾斜部123の座標xにおける径を表わす第3関数f3(x)(−x3≦x≦0)が連続関数であり、かつ、その導関数df3/dx(傾斜部123のx軸に対する傾斜度合を表わす)が負値であることを意味する。
【0015】
第2凹部122が第1凹部121よりも大きくくぼんでいるとは、第2関数f2の定義域(−x1−x2≦x≦−x1)の幅が、第1関数f1の定義域(−x1≦x≦0)の幅よりも大きいこと、すなわち、x2がx1よりも大きいことを意味している。第2凹部122が第1凹部121よりも急峻にくぼんでいるとは、たとえば、第2関数f2の導関数df2/dxの平均値{∫dx(df2/dx)}/x2が、第1関数f1の導関数df1/dxの平均値{∫dx(df1/dx)}/x1よりも大きいことを意味する。図2に示されている主陽極12において第1関数f1の導関数df1/dxの値および第2関数f2の導関数df2/dxの値が一定なので、第2凹部122が第1凹部121よりも急峻にくぼんでいるとは、第2関数f2の導関数df2/dxの値が、第1関数f1の導関数df1/dxの値よりも大きいことを意味する。
【0016】
なお、図2に示されている主陽極12の先端部形状は、たとえば図3(a)〜(d)のそれぞれに示されているようにさまざまに変更されうる。図3(a)に示されている第2凹部122は第2関数f2の導関数df2/dxは正値であるものの一定ではなく+x方向に行くにつれて徐々に大きくなるように、すなわち、第2関数f2の2階導関数d22/dx2が正値となるように形成されている。図3(b)に示されている第2凹部122は第2関数f2の導関数df2/dxは正値であるものの一定ではなく+x方向に行くにつれて徐々に小さくなるように、すなわち、第2関数f2の2階導関数d22/dx2が負値となるように形成されている。図3(c)に示されている第2凹部122は主陽極12の軸方向後方について断続的に縮径するように形成されている。図3(c)に示されている第2凹部122は第2関数f2のほぼすべての定義域において第1凹部121の外縁124とほぼ同径になるように形成されている。すなわち、図3(c)に示されている第2凹部122は第2関数f2の導関数df2/dxがx=−x1−x2において無限大に近い値をとり、その他の定義域においては0になるというようにδ関数に近い振る舞いを示すように形成されている。図3(d)に示されている第2凹部122も主陽極12の軸方向後方について断続的に縮径するように形成されている。図3(d)に示されている第2凹部122は第2関数f2の定義域のうちx=−x1−x2〜−x1−x21−x22において材料搬送管11の径と第1凹部121の外縁124の径との間の一定径であり、x=−x1−x21−x22〜−x1−x21においては主陽極12の軸方向後方に連続的に縮径し、x=−x2−x21〜−x1−x2において第1凹部121の外縁124と同径となるように形成されている。すなわち、図3(d)に示されている第2凹部122は第2関数f2の導関数df2/dxがx=−x1−x2において無限大に近い値をとり、x=−x1−x2〜−x1−x21−x22においては0であり、x=−x1−x21−x22において不連続的に増加し、x=−x1−x21−x22〜−x1−x21において正の一定値であり、x=−x1−x21において不連続的に減少し、x=−x1−x21〜−x1において0であるように形成されている。このほか、第2凹部122の深さx2が第1凹部121の深さx1よりも大きいという条件が満たされていれば、第1凹部121が第2凹部122よりも急峻にくぼんでいてもよい、また、第2凹部122が第1凹部121よりも急峻にくぼんでいるという条件が満たされていれば、第2凹部122の深さx2が第1凹部121の深さx1よりも小さくてもよい。
【0017】
続いて前記構成のプラズマ溶射装置の機能について説明する。
【0018】
まず主プラズマガス入口162からAr等の不活性ガスが主プラズマガスG1として主トーチ1に旋回流を形成するように導入される。また、スイッチ機構182および186が開かれた状態で、スイッチ機構184が閉じられ、第1電源18により主陽極12と主外套14との間に高周波電圧が印加される。その結果、主陽極12の先端部から主外套14の主開口部142に向かう主プラズマアークP1が形成され、これによって主プラズマガスG1が加熱され、プラズマPとなって主外套14の主開口部142を通じて主トーチ1から放出される。
【0019】
次に一方(図1上側)の副トーチ2において副プラズマガス入口262からAr等の不活性ガスが副プラズマガスG2として旋回流を形成するように導入される。また、スイッチ機構282および284が開かれた状態で、スイッチ機構281および283が閉じられ、第2電源28により副陰極22と副外套24との間に高周波電圧が印加される。その結果、副陰極22の尖端から副外套24の副開口部242に向かう副プラズマアークP2が形成され、これによって副プラズマガスG2が加熱され、プラズマPとなって副外套24の副開口部242を通じて一方の副トーチ2から放出される。
【0020】
前記のように主陽極12の中心軸および副陰極22の中心軸が軸方向前方において交差するように主トーチ1および副トーチ2が配置されているので、主トーチ1および副トーチ2のそれぞれから放出されるプラズマPは主トーチ1の前方および副トーチ2の前方において交差する。この状態でスイッチ機構281が開かれ、これと同時にスイッチ機構182が閉じられ、かつ、スイッチ機構184および283が開かれる。その結果、プラズマPは導電性であるので、副陰極22の先端部から主陽極12の陽極点に至るヘアピン状のプラズマPによる導電路が形成される。
【0021】
その直後、他方(図1下側)の副トーチ2においても副プラズマガス入口262からAr等の不活性ガスが副プラズマガスG2として旋回流を形成するように導入される。また、スイッチ機構281および283が開かれた状態で、スイッチ機構282および284が閉じられ、第2電源28により副陰極22と副外套24との間に高周波電圧が印加される。その結果、副陰極22の尖端から副外套24の副開口部242に向かう副プラズマアークP2が形成され、これによって副プラズマガスG2が加熱され、プラズマPとなって副外套24の副開口部242を通じて他方の副トーチ2からも放出される。
【0022】
他方の副トーチ2から放出されたプラズマPは、一方の副トーチ2の副陰極22の先端部から主陽極12の陽極点にまで至るヘアピン状のプラズマPと交差する。この状態でスイッチ機構186が閉じられる一方、スイッチ機構284が開かれると、プラズマPは導電性なので全体としてT字状のプラズマPが形成される。
【0023】
材料搬送管11の内管111を通じて、粉末状の材料が溶媒に分散されたスラリー状の流動性のある材料M1が搬送される。なお、スラリーに代えてプリカーサまたは粉末状の材料そのものが流動性のある材料M1として内管111を通じて搬送されてもよい。内管111の先端部から放出された材料M1は、外管112を通じて供給された搬送用のガスの勢いにより飛散する。主陽極12における陽極点124が材料搬送管11の先端部より副陰極22における陰極点(副陰極の尖端部)に近いため、材料M1とプラズマPの陽極点124とが干渉することなくプラズマ中心軸と同軸の方向に高温のプラズマPに確実に供給される。材料M1が高融点を有していても、10000℃以上のプラズマPによって直ちに高温に加熱されて溶融し、溶融粒子M2となってプラズマフレームP+に同伴されるように、主陽極12の径方向について広がらないように基材Sに向かう。
【0024】
この溶融粒子M2を含むプラズマフレームP+は、必要に応じて基材Sに及ぼす熱負荷を軽減すべく基材Sの直前においてプラズマ分離要素(たとえば、無駄なフレームまたは未溶融粒子等の材料を除去するためのセパレートガスまたはセパレータ)P−によりプラズマPのみが分離され、その直後に溶融粒子M2が基材Sに衝突し、皮膜Mが形成される。
【0025】
本発明のプラズマ溶射装置によれば、主陽極12の先端部に第1凹部121および第2凹部122が形成されている(図2参照)。第1凹部121は主陽極12の径方向について材料搬送管11よりも外側から連続的に縮径しながら主陽極12の軸方向後方に向かってくぼんでいる。第2凹部122は主陽極12の径方向について第1凹部121の内縁124から材料搬送管11に至るまで連続的または断続的に縮径しながら主陽極12の軸方向後方に向かって第1凹部121よりも大きくまたは急峻にくぼんでいる。材料搬送管11の先端部から放出された流動性のある材料M1が、第2凹部122により画定される空間と、第1凹部121により画定される空間とにおいて順に拡散された上で、主陽極12および副陰極22の間に形成されるプラズマPに接触する。第2凹部122が形成されている分だけ、第1凹部121のみが形成されている場合(図5参照)と比較して、材料搬送管11の先端部から放出された材料M1がプラズマPに接触するまでの間に拡散しうる空間が広く確保される。このため、プラズマPが熱的ピンチ効果によって緊縮されて材料M1の拡散空間が狭まったとしても(図5参照)、当該材料M1の十分な拡散、すなわち、当該材料M1の飛散単位(スラリーの場合は粉末状の材料を含む溶媒の微小な滴)のサイズの縮小化および均等化を図ることができる。さらに、熱的ピンチ効果によるプラズマの緊縮が許容される分、冷却要素による主外套14の冷却が許容される。また、主外套14の冷却が許容される分、主外套14の損傷を防止しながらもプラズマPの高エネルギー化が許容される。前記のような材料M1の飛散単位の縮小化およびプラズマPの高エネルギー化によって当該材料M1の溶融効率の向上を図ることができる。そして、十分に溶融されなかった材料M1が主外套14等に付着し、不規則的にプラズマPに巻き込まれる可能性が低減される。また、材料M1の飛散単位のサイズおよび溶融粒子のサイズのばらつきが抑制されるため、スプラットの径のばらつきも抑制され、当該ばらつきに起因するポア形成も抑制される。したがって、皮膜Mのさらなる緻密化(たとえば、皮膜の気孔率が10%以下においてさらに低くすることを意味する。)等、皮膜Mの質の向上を図ることができる。
【0026】
そのほか、第2凹部122が形成されることによって材料搬送管11の先端部が主陽極12の軸方向についてプラズマPから遠ざけられている分、材料搬送管11の先端部がプラズマPの熱によって損傷することを防止し、その結果として装置全体の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のプラズマ溶射装置の構成説明図
【図2】本発明のプラズマ溶射装置における主陽極の構成説明図
【図3】主陽極の他の構成説明図
【図4】従来のプラズマ溶射装置の構成説明図
【図5】従来のプラズマ溶射装置における主陽極の構成説明図
【符号の説明】
【0028】
1‥主トーチ、2‥副トーチ、11‥材料搬送管、12‥主陽極、14‥主外套、18‥第1電源、22‥副陰極、24‥副外套、28‥第2電源、121‥第1凹部、122‥第2凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に貫通する材料搬送管を有する主陽極と、前記主陽極を囲むとともに前記主陽極の軸方向前方に位置する主開口部を有する主外套と、前記主外套を冷却する冷却要素とを有する主トーチと、前記主陽極の中心軸と交差する中心軸を有する副陰極と、前記副陰極を囲むとともに前記副陰極の軸方向前方に位置する副開口部とを有する副外套とを有する複数の副トーチとを備え、前記主開口部および前記副開口部を通じて前記主陽極および前記副陰極の間に形成されるプラズマによって前記材料搬送管から放出または拡散される流動性のある材料を加熱することにより溶融粒子を生成し、前記溶融粒子を前記主陽極の軸方向前方に配置されている基材に吹き付けることにより前記材料によって構成される皮膜を前記基材の上に形成するプラズマ溶射装置において、
前記主陽極の先端部に、前記主陽極の径方向について前記材料搬送管よりも外側から連続的に縮径しながら前記主陽極の軸方向後方に向かってくぼんでいる第1凹部と、前記主陽極の径方向について前記第1凹部の内縁から前記材料搬送管に至るまで連続的または断続的に縮径しながら前記主陽極の軸方向後方に向かって前記第1凹部よりも大きくまたは急峻にくぼんでいる第2凹部とが形成されていることを特徴とするプラズマ溶射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−110669(P2010−110669A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283652(P2008−283652)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】