説明

プラズマ溶融炉の制御方法

【課題】 焼却炉などから排出される焼却残渣(焼却灰や飛灰)を溶融処理する際に用いられるプラズマ溶融炉の制御方法に於て、適正な電力と灰供給量のバランスを保つようにする。電圧が過度に高くなることによって発生するサイドアークを防止する。
【解決手段】 短時間では判断できない灰の性状変化や灰供給量の過不足があった場合に、これらが要因で変化する炉内ガス温度を制御対象とすることで、電力又は灰供給量を調整する。制御対象は、溶融炉ガス層部の放熱量や上部電極の先端位置であっても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ごみ焼却炉などから排出される焼却残渣(焼却灰や飛灰)を溶融処理する際に用いられるプラズマ溶融炉の制御方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のプラズマ溶融炉の制御方法としては、例えば特許文献1に記載されたものや特許文献2に記載されたものが知られている。
【0003】
前者のものは、プラズマ溶融炉への電力供給量又は灰供給量は、予め設定された電力供給量(又は灰供給量)に応じた灰供給量(又は電気供給量)が演算される。電力は、(電力)=(電圧)×(電流)であり、電圧は、電力に応じた予め設定された電圧が演算され、プラズマ溶融炉の上部電極位置の制御値となる。電流は、(電流)=(電力)÷(電圧)により演算され、直流電源装置で制御される。電圧は、過去の運転実績や安定した運転状態で決定されるものであり、灰供給量は、灰の嵩比重等からの計算値や冷間での実測値から灰供給装置の回転数が決定される。
後者のものは、上部電極の先端を赤外線カメラの映像で認識し、上部電極の先端部のプラズマアーク長を一定とする様に上部電極位置の制御を行い、電流は、灰処理量に応じて計算されている。従って、電圧は、上部電極と下部電極間の電気抵抗値によって、(電圧)=(電流)×(電気抵抗値)の関係から一義的に決定される。
何れの方法に於ても、溶融温度の測定結果に依って電力や電流が補正調整される。
【0004】
ところが、前者の方法では、電圧は、(電圧)=(電流)×(電気抵抗値)で計算されるため、上部電極位置を上下することによって電気抵抗値すなわち電圧を調整している(図1)。電圧は、運転実績や安定した運転状態で決定された値であるが、溶融炉の運転状態(処理する灰の性状変化や灰供給量の設定値と実際の相違による過不足など)によって適正な電圧が異なる。灰の性状変化や灰供給量の設定値と実際の相違などは短時間では判断できないため、適正な電圧で運転することが困難であった。すなわち、溶融した灰(溶湯)の性状による電気抵抗値や灰供給量の過不足によって、上部電極下の溶湯部の電気抵抗値が変化するため、上部電極先端位置が過度に高くなったり、逆に溶湯に深く沈んだりする場合があった。
後者の方法では、プラズマアーク長を一定としているため、溶融した灰(溶湯)の性状による電気抵抗値変化や灰供給量の過不足によって、上部電極下の溶湯部の電気抵抗値が変化し、(電圧)=(電流)×(電気抵抗値)の関係により、過度に電圧が高くなったり、低くなったりする。特に、電圧が高くなる場合には、上部電極の貫通部等でサイドアークが発生し易くなり(図3参照)、炉体の損傷を引き起こす可能性があった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−251520号公報
【特許文献2】特開2002−81634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
要するに、従来の何れのものも、溶融した灰(溶湯)の性状による電気抵抗値や灰供給量の過不足によって、上部電極下の溶湯部の電気抵抗値が変化するため、適正な電力と灰供給量のバランスを保つことができなかった。
【0007】
本発明は、叙上の問題点に鑑み、これを解消する為に創案されたもので、その課題とする処は、適正な電力と灰供給量のバランスを保つことができるプラズマ溶融炉の制御方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプラズマ溶融炉の制御方法は、基本的には、電力と灰供給量のバランスを適正値とするために、炉内ガス温度を制御対象として、電力又は灰供給量を調整する様にした事に特徴が存する。
【0009】
プラズマ溶融炉を運転中に於て、灰の性状変化や灰供給量の過不足があった場合、これらが要因で炉内ガス温度が変化するので、この炉内ガス温度を制御対象とすることで、短時間で灰の性状変化や灰供給量の過不足が判断でき、これに基づき電力又は灰供給量を調整して電力と灰供給量のバランスを適正値にすることができる。
【0010】
制御対象は、炉内ガス温度だけでなく、炉体ガス層部の放熱量や上部電極の先端位置にしたり、あるいはこれらのうちの複数を組合わせても良い。この様にすれば、前記と同様に、電力又は灰供給量を調整して電力と灰供給量のバランスを適正値とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に依れば、次の様な優れた効果を奏する事ができる。
(1) 短時間では判断できない灰の性状変化や灰供給量の過不足があった場合に、これらが要因で変化する炉内ガス温度を制御対象とすることで、適正な電力と灰供給量のバランスを保つことができる。
(2) 上部電極の先端位置を適正な位置とすることができるので、上部電極の先端位置が過度に高くなったり、逆に溶湯に深く沈んだりすることを防止できる。
(3) 電圧を適正な値にすることができるので、過度に電圧が高くなったり、低くなったりすることがなくなり、とりわけ電圧が高くなってサイドアークが発生する危険がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施に使用するプラズマ溶融炉を示す概要図。図2は、図1の要部拡大図。図3は、図1のプラズマ溶融炉の電気回路図である。
【0013】
図1に於て、プラズマ溶融炉1は、都市ごみや産業廃棄物等のごみ焼却炉から排出された焼却灰や飛灰等の被溶融物を溶融処理するものであり、耐火物等により形成された炉本体2と、炉本体2の天井部を昇降可能に貫設された上部電極(主電極)3と、炉本体2の底部に配設された導電性耐火物製の下部電極(炉底電極)4と、陰極が上部電極3に接続されると共に陽極が集電板5を介して下部電極4に接続される直流電源装置6と、上部電極3を昇降自在に支持する電極昇降装置7と、被溶融物(焼却灰や飛灰)を供給するための被溶融物供給装置8と、溶融スラグと溶融メタルから成る溶湯9と、溶湯9が溢流して流出される流出口10と、炉本体2内の炉内ガス温度を検出する温度検出手段11と、温度検出手段11からの検出信号に基づき直流電源装置6や電極昇降装置7や被溶融物供給装置8を制御するための制御装置12等から構成されている。
温度検出手段11は、炉本体2に設けられて炉内ガス温度を検出し得る熱電対等が用いられる。
【0014】
図2に於て、炉本体2は、鉄部13と耐火物14とから成っており、鉄部13の外側には、絶縁物15を介して上部電極3を昇降可能にシールするためのシール装置16が設けられている。上部電極3には、直流電源装置6へ向かう電流Iが流れており、上部電極3から炉本体2の鉄部13へ短絡して流れるサイドアーク17も表描してある。
【0015】
図3に於て、Vは投入電圧、Iは投入電流、Raはアーク抵抗(プラズマアークの電気抵抗値)、Rmは溶湯抵抗(溶湯の電気抵抗値)を示している。
【0016】
図4は、本発明のプラズマ溶融炉の制御方法を示すフローチャートであり、次の要領で制御される。
(1) 予め設定された灰供給量と電力との関係から灰供給量(電力量)に応じた電力量(灰供給量)が設定され、プラズマ溶融炉1の運転が行われる。つまり、設定された電力から予め決められた電圧と電流が演算され、電圧は上部電極3の位置の上下により制御が行われると共に、電流は直流電源装置6により制御が行われる(ステップS1)。
(2) 処理する灰の性状が変化した場合、成分変化によって溶湯の電気抵抗値が変化する、或は嵩比重の変化により灰供給量設定値と相違が生じて実際の灰供給量が過不足となる(ステップS2)。
(2) このことにより、上部電極3下の溶湯の電気抵抗値Rmが増減する(ステップS3)。
(3) 溶湯の電気抵抗値Rmが増加した場合には、上部電極3が下降される(ステップS4)。
(4) 上部電極3が下降されると、プラズマアークからの輻射熱が減少して炉内ガス温度が低下する(ステップS5)。
(5) 炉内ガス温度が低下すると、これが温度測定手段11により検出され、制御装置12により直流電源装置6又は被溶融物供給装置8が制御されて電力量の増加又は灰供給量設定値の減少が行われる(ステップS6)。
(6) 炉内ガス温度の値が適正値かどうか判断され、適正であれば、ステップS1に戻される(ステップS7)。
(7) ステップS3に於て、溶湯の電気抵抗値Rmが減少した場合には、上部電極3が上昇される(ステップS8)。
(8) 上部電極3が上昇されると、プラズマアークからの輻射熱が増加して炉内ガス温度が上昇する(ステップS9)。
(9) 炉内ガス温度が上昇すると、これが温度測定手段11により検出され、制御装置12により直流電源装置6又は被溶融物供給装置8が制御されて電力量の減少又は灰供給量設定値の増加が行われる(ステップS10)。
(10) ステップS7に於て、炉内ガス温度の値が適正値かどうか判断され、不適であれば、ステップS3に戻されて適正値となるまでステップS3からステップS10が繰り返され、電力量及び灰供給量設定値の増減が行われる。
【0017】
図5は、設定された灰供給量に応じて一定の電力(図示せず)を供給した場合のプラズマ溶融炉の運転データの一例である。
本例では、実際の灰供給量が設定値よりも多く、灰供給量過多(電力不足)となっている状態である。
灰供給量過多(電力不足)であるため、上部電極の下近くまで溶けてきっていない灰が接近し、上部電極下の溶湯の電気抵抗値が高くなり、設定された電圧(図示せず)となるように位置調整されている上部電極が急激に下降する場合がある。
上部電極位置が下降すると、炉内ガス温度が低下するため、本例では炉内ガス温度が設定温度以下となった場合に灰供給を停止し、炉内ガス温度が設定値以上となった場合に灰供給を再開するようにしている(すなわち、平均灰供給量を減少させている)。このような運転を実施することで、適正な電力と灰供給量のバランスをとっている。
【0018】
尚、先の例では、炉内ガス温度を制御対象としているが、例えば溶融炉ガス層部の放熱量や上部電極の先端位置を制御対象としたり、あるいはこれらのうちの複数を組合わせても良い。
溶融炉ガス層部の放熱量を制御対象とする場合は、図1の鎖線で示す如く、炉本体2に放熱量検出手段18を設ける。放熱量検出手段18は、図略しているが、炉本体2を冷却する冷却媒体の流量や冷却媒体の入出温度差を検出してこれらから放熱量を演算するものを用いることができる。
上部電極3の先端位置を制御対象とする場合は、図1の鎖線で示す如く、炉本体2に位置検出手段19を設ける。位置検出手段19は、炉本体2の外部に設置されて上部電極3の先端部を観察する赤外線カメラなどを用いることができる。
【0019】
本発明は、例えば製鋼用の電気炉等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施に使用するプラズマ溶融炉を示す概要図。
【図2】図1の要部拡大図。
【図3】図1のプラズマ溶融炉の電気回路図。
【図4】本発明のプラズマ溶融炉の制御方法を示すフローチャート。
【図5】溶融炉の運転データの一例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0021】
1…プラズマ溶融炉、2…炉本体、3…上部電極、4…下部電極、5…集電板、6…直流電源装置、7…電極昇降装置、8…被溶融物供給装置、9…溶湯、10…流出口、11…温度検出手段、12…制御装置、13…鉄部、14…耐火物、15…絶縁物、16…シール装置、17…サイドアーク、18…放熱量検出手段、19…位置検出手段、V…投入電圧、I…投入電流、Ra…アーク抵抗、Rm…溶湯抵抗、S1〜S10…制御ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力と灰供給量のバランスを適正値とするために、炉内ガス温度を制御対象として、電力又は灰供給量を調整する事を特徴とするプラズマ溶融炉の制御方法。
【請求項2】
電力と灰供給量のバランスを適正値とするために、炉体ガス層部放熱量を制御対象として、電力又は灰供給量を調整する事を特徴とするプラズマ溶融炉の制御方法。
【請求項3】
電力と灰供給量のバランスを適正値とするために、上部電極先端位置を制御対象として、電力又は灰供給量を調整する事を特徴とするプラズマ溶融炉の制御方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−96067(P2008−96067A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280439(P2006−280439)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】