プラズマ発生用電極装置
【課題】気体からプラズマを発生させて被処理物をプラズマ処理する装置において、被処理物とプラズマ活性種との接触の効率を向上させ、これによって被処理物の処理効率を向上させるような構造を提供する。
【解決手段】プラズマを発生させるための電極装置30において、電極装置30は、誘電体からなる基板40、この基板40内に埋設されている第一の電極8、および基板の一方の主面7aに設けられている第二の電極6Aを備えている。基板40にプラズマガスを供給する貫通孔26が形成されており、第二の電極6Aから基板40に沿って生ずる沿面放電によってプラズマを発生させる。
【解決手段】プラズマを発生させるための電極装置30において、電極装置30は、誘電体からなる基板40、この基板40内に埋設されている第一の電極8、および基板の一方の主面7aに設けられている第二の電極6Aを備えている。基板40にプラズマガスを供給する貫通孔26が形成されており、第二の電極6Aから基板40に沿って生ずる沿面放電によってプラズマを発生させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療材料の滅菌等の用途に使用されるプラズマ発生用電極装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば医療材料や医療廃棄物、食料品などの包装に用いられるシートは滅菌が必要である。このような滅菌方法として、特許文献1記載の方法が知られている。この方法では、大気圧でプラズマを発生させ、このプラズマにより生成される殺菌因子をプラズマ発生器からチャンバー内へと供給する。チャンバー内では所定の被処理シートを搬送ロール上で搬送し、滅菌する。
【特許文献1】特開平10−129627
【0003】
また、特許文献2においては、一対の放電電極の間でシートを搬送し、大気圧でプラズマを発生させてシートをプラズマ処理する。特許文献3においては、多孔質部分を有するプラズマ放電用電極が開示されている。特許文献4のプラズマ発生電極では、円板状電極に複数のスリット状ガス供給孔を設け、ガス供給孔からガスを噴出させて旋回流を生じさせる。更に、特許文献5には、セラミック誘電体の内部に誘導電極を設け、誘電体の表面に放電電極を設け、放電電極の周縁部分において沿面放電を生じさせ、プラスイオン、マイナスイオンを発生させることが記載されている。
【特許文献2】特開平6−265864
【特許文献3】特開2003−334436
【特許文献4】特許第3154058
【特許文献5】特許第3403723
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、プラズマ中で生成した活性種の寿命は短いことが多く、被処理物と接触して効果を発揮する前の段階で気体中で消滅することが多いため、処理効率が低い。このため、多量の被処理物を処理することは難しく、また、複数の処理物を連続的に処理することが難しい。特に、搬送シート上に被処理物を載置して搬送しながらプラズマに接触させ、処理する場合には、たとえ電極の面積を大きくしても(電極の延べ長さを長くしても)、電極上の一部領域でしかプラズマ達成種との接触が行われておらず、被処理物の処理効率が低くなる。
【0005】
本発明の課題は、気体からプラズマを発生させて被処理物をプラズマ処理する装置において、被処理物とプラズマ活性種との接触の効率を向上させ、これによって被処理物の処理効率を向上させるような構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、プラズマを発生させるための電極装置であって、誘電体からなる基板、この基板内に埋設されている第一の電極、および基板の一方の主面に設けられている第二の電極を備えており、基板に貫通孔が形成されており、第二の電極から基板に沿って生ずる沿面放電によってプラズマを発生させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、誘電体からなる基板の内部に電極を埋設し、この基板の表面に対向電極を設け、かつ基板に貫通孔を設けている。プラズマ処理によって活性化されたガスが活性を持続する時間は短いため、貯蔵することができず、活性化ガスの生成場所からできるだけ近い場所で使用することが望ましい。本発明によれば、貫通孔から気体を通過させるのと共に、基板主面の電極のエッジから基板表面に沿った沿面放電を生じさせ、この沿面放電によって気体をプラズマ化する。従って、基板の所望箇所に貫通孔を設けて気体を供給できると共に、各貫通孔に応じて貫通孔を通る気体の流れに合わせて第二の電極を設けて沿面放電させることで、気体を所望箇所でプラズマ化させることができる。この結果、基板上の被処理物とプラズマの活性種の発生箇所との間隔を短くし、プラズマ処理効率を上昇させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
好適な実施形態においては、第一の電極が貫通孔に露出しないように基板に埋設されている。これによって、第一の電極から貫通孔内壁へと向かう不規則な放電を防止できる。
【0009】
第二の電極(必要に応じて第三の電極)の平面的パターンは特に限定されないが、例えば後述するように、網状または櫛歯状をなしていることが好ましい。第二の電極が網状または櫛歯状をなしている場合には、貫通孔を網目状に形成したり、櫛歯の間の隙間に規則的に形成することが容易であり、好ましい。この実施形態においては、網目の形状は特に限定されず、円形、楕円形、レーストラック形状、四辺形、三角形等の多角形などであってよい。また櫛歯状電極の櫛歯の形状も特に限定されないが、長方形や平行四辺形であることが特に好ましい。
【0010】
本発明においては、第二の電極を、被処理物に対向する位置に設けることができる。この場合には、第二の電極のエッジからの沿面放電によってプラズマを生成させ、このプラズマを被処理物に接触させることができるので有利である。しかし、本発明はこの形態には限定されるものではなく、第二の電極を、基板の被処理物に対向しない主面(裏面)側に形成することができる。この場合には、第二の電極のエッジからの沿面放電によって気体をプラズマ化し、生成したプラズマを貫通孔を通して被処理物側へと供給する。
【0011】
好適な実施形態においては、基板の他方の主面に第三の電極を備えており、第三の電極から基板に沿って生ずる沿面放電によってプラズマを発生させる。これによって、貫通孔に対して基板の両面においてプラズマを発生させることができるため、被処理物の処理効率が一層向上する。
【0012】
好適な実施形態においては、第二の電極(必要に押しで第三の電極)と貫通孔との間で基板の主面が露出する露出領域を備えており、この露出領域で主面に沿って沿面放電が生ずる。このように基板主面に沿って沿面放電を生じさせると、プラズマの発生箇所と被処理物との間隔を最短とすることが可能であるので、被処理物の処理効率が一層高くなる。
【0013】
また、被処理物は固定してバッチ処理することもできるが、処理効率の点からは、被処理物を搬送手段によって搬送しながらプラズマ処理することが好ましい。この搬送手段については後述する。
【0014】
本発明による処理対象は、プラズマ処理可能なものであれば特に限定されないが、以下を例示できる。
(1) 処理プロセス
被処理物の表面改質(親水処理:被処理物に接着剤や塗料を塗布する前に被処理物表面を親水処理し、濡れ性を向上させ、着色剤や塗料の接着性、付着性を高める)、滅菌または殺菌処理、有機物除去/有機物分解処理、気体の改質処理、有害気体成分の浄化処理
(2) 処理対象物品
樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、テトラフルオロエチレンなど)、セラミックス、金属、ガラス
医療用器具や医療材料(ブリスターパック、ブリスターパック用シート、シリンジ、シリンジ用ガスケット、バイアル用ゴム栓、注射針、ガーゼ、不織布など)
食料品用包装シート
半導体ウエハー、液晶ガラス基板、セラミックスのプラズマ処理
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の更に詳細な実施形態について述べる。
図1(a)は、本発明の一実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30を概略的に示す横断面図であり、図1(b)は、他の実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30Aを概略的に示す横断面図である。
【0016】
図1(a)のプラズマ発生用電極装置30においては、基板40は誘電体からなり、表層部7と基台部9とを備えている。基板40内には所定パターンの第一の電極8が埋設されており、また所定箇所に貫通孔26が形成されている。本例では、電極8のエッジが貫通孔26内壁面に露出しないように、誘電体によって被覆されており、所定の絶縁間隔が保たれている。基板40の主面7aには第二の電極6Aが設けられており、電極6Aと埋設電極8とは対向している。基板40は、電極8によって、主面7a側の誘電層7と反対側の主面(裏面)9a側の誘電層9とに別れている。貫通孔26に矢印Aのようにガスを供給すると、ガスは貫通孔26の出口から矢印Bのように基板表面に沿って流る。このときに電極6Aのエッジから露出領域41へと向かって沿面放電Dが発生し、プラズマを生成させる。電極6A上の空間に被処理物を設置し、あるいは被処理物を搬送する。
【0017】
図1(b)の装置30Aにおいては、更に、他方の主面(裏面)9a上に第三の電極6Bを形成しており、電極6Bも埋設電極8に対して誘電層9をはさむように対向している。そして、電極6Bのエッジから主面9aの露出領域41へと向かって矢印Dのように沿面放電を生じさせる。この結果、ガスの一部分は沿面放電Dによってプラズマ化し、次いで貫通孔26を通して矢印Aのように被処理物の方へと向かって供給される。
【0018】
このような装置30、30Aを製造する際には、例えば図2(a)、(b)に示すような基板31を製造する。ここで、図2(a)においては、基板31中に電極8が埋設されており、主面7aに電極6Aが形成されている。図2(b)においては、基板31中に電極8が埋設されており、主面7aに電極6A、主面9aに電極6Bが形成されている。この状態で、所望箇所に、電極8を通過しないように貫通孔26を形成することによって、図1(a)、(b)の各プラズマ発生用電極装置を得る。
【0019】
ここで、基板を構成する誘電体材料は特に限定されないが、セラミックスが好ましく、特にアルミナ、マグネシア、、ジルコニア、酸化珪素、ムライト、スピネル、コージェライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、チタン−バリウム系酸化物、バリウム−チタン−亜鉛系酸化物などが好ましい。また、第一、第二、第三の各電極の材質は特に限定されず、所定の導電性を有する物質であれば使用可能である。例えば、タングステン、モリブデン、マンガン、チタン、クロム、ジルコニウム、ニッケル、銀、鉄、銅、白金、パラジウム、あるいはこれらの合金が好ましい。
【0020】
図2(a)、(b)に示すような基板31は、いわゆるグリーンシート積層法によって製造可能である。すなわち、セラミックス等の誘電体粉末をプレス成形する際に、埋設電極を構成する金属板や金属箔を埋設しておき、次いで焼結することができる。また、埋設電極は、セラミックス成形体上にペーストを塗布することで形成することもできる。この場合の塗工方法としては、スクリーン印刷、カレンダーロール印刷、ディップ法、蒸着、物理的気相成長法など、任意の塗工方法を利用可能である。第二、第三の電極も塗工法によって容易に形成できる。電極を塗工法によって形成する場合には、前記した各種金属あるいは合金の粉末を、有機バインダーおよび溶剤(テルピネオール等)と混合して導体ペーストを作製し、次いでこの導体ペーストをセラミックグリーンシート上に塗工する。なお、第二の電極、第三の電極は、セラミックス焼結体からなる基板31の主面上に塗工し、焼き付けることで形成することも可能である。
【0021】
基板31を製造する際において、セラミックグリーンシートの成形方法は特に限定されず、ドクターブレード法、カレンダー法、印刷法、ロールコータ、めっき法など、あらゆる手法を利用することができる。また、グリーンシートの原料粉末としては、上述した各種のセラミックス粉末や、ガラス等の粉末を利用できる。この際、焼結助剤として、酸化珪素、カルシア、チタニア、マグネシア、ジルコニアを例示できる。焼結助剤は、セラミック粉末100重量部に対して、3〜10重量部添加することが好ましい。セラミックペースト中には、公知の分散剤、可塑剤、有機溶媒を添加することができる。
粉末プレス成形法でも、基板31を作ることができ、埋設する電極にメッシュ金属や金属箔を用いた場合は、ホットプレス法で電極を埋設した焼結体を得ることもできる。
成形助剤を適時選ぶことにより、押出成形でも基板31の成形体を作製することができる。押出成形体表面に、溶媒を適時選定することにより、導電膜成分となる金属ペーストを印刷等で電極を形成することができる。
【0022】
得られた基板31の気孔率は特に限定されないが、0.1〜35%とすることができ、0.1〜10%とすることが更に好ましい。
【0023】
また、第二の電極、第三の電極は空間に対して露出させることができる。あるいは、第二および第三の電極を、誘電体からなる保護膜によって被覆することができる。この誘電体としては、セラミックスやガラスを例示することができる。セラミックスとしては、アルミナ、ジルコニア、、マグネシア、酸化珪素、ムライト、スピネル、コージェライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、チタン−バリウム系酸化物、バリウム−チタン−亜鉛系酸化物などを例示できる。
【0024】
各貫通孔の形成方法は特に限定されない。好適な実施形態においては、図2(a)、(b)のような基板31を焼結によって作製した後に、基板31に超音波加工や切削加工によって貫通孔を形成する。あるいは、基板31を焼結する前のグリーンシートの段階で、グリーンシートにナイフカット(金型で打ち抜くこと)によって貫通孔を形成し、次いでグリーンシートを焼結させることができる。
【0025】
貫通孔の配置密度や配置パターンは特に限定されない。例えば、活性化ガスの寿命や被処理物の処理量を考慮して、貫通孔を装置の入り口側(上流側)のみにもうけることができるし、あるいは基板主面の全面にわたってもうけることもできる。比較的寿命の長い活性種を含む活性化ガスの場合(例えば活性種がオゾンガスである場合)には、装置の上流側のみにおいて基板に貫通孔を形成するだけでも、十分に長期間にわたって被処理物を活性化ガスに接触させることができる。しかし、活性種の寿命が短い場合には、基板の全面に貫通孔を形成することが好ましい。
【0026】
貫通孔の配置密度(個数)や貫通孔の大きさは,被処理物との反応速度や被処理物の量に応じて決定する。滅菌用途においては、例えば106cfuまで除去するために基板の全面にわたって貫通孔を配置することができる。また,殺菌用途で104cfuまで殺菌することでよい場合には、106cfuを実現するために必要な貫通孔数の70〜80%の貫通孔数で足りる。このように使用状況に応じて貫通孔の密度と個数とを決定することができる。
【0027】
本発明において、第一、第二、第三の各電極の平面的パターンは特に限定されず、面内での活性種の種類および寿命、生成量に会わせて設計できる。例えば、電極の平面的パターンを櫛歯状としたり、網目状とすることができる。
【0028】
たとえば、図3は、第二の電極6Aのパターン例を模式的に示す平面図である。本例では、網目状の電極6Aを基板表面に形成している。各網目32はたとえば四辺形であり、各網目32内にそれぞれ貫通孔26が形成されている。このような形態では、各網目中において沿面放電を生じさせ,各網目に対応する貫通孔26から供給されるガスをプラズマ化することができる。基板内部の第一の電極も、電極6Aに対向するような網目状パターンを有している必要がある。第三の電極も図3に示すような平面的パターンを有していて良い。
【0029】
このように電極の平面的パターンを網目状とした場合には、各網目のピッチ(間隔)を変更することによって、沿面放電箇所のピッチを適宜変更することができる。なぜなら、沿面放電は、各網目のエッジにおいて発生するからである。したがって、活性種の寿命が短い場合には、網目のピッチを小さくして沿面放電箇所を増加させることができる。このような網目のピッチは活性種の種類によって設計されるものであるので限定されないが、例えば100μm(0.1mm)以上とすることが好ましく、500μm(0.5mm)以上とすることが更に好ましい。また、活性種を広範囲で満遍なく発生させるという観点からは、網目のピッチは20mm以下であることが好ましく、3mm以下であることが更に好ましい。
【0030】
図4に模式的斜視図に示すように、図3の装置は、下側の誘電体層9、上側の誘電体層7、誘電体層7と9との間に埋設された第一の電極8を備えており、上側の誘電体層7側の主面7a上には網目状の第二の電極6Aが形成されている。
【0031】
また、たとえば、図5に示す装置30Cにおいては、櫛歯状の第二の電極6Aが形成されている。本例では、櫛歯状の電極6Aを基板表面に形成している。櫛歯状電極6Aは、細長い共通電極43と、共通電極から突出する複数列の細長い櫛歯部44を備えている。隣接する櫛歯部44の間には細長い露出部分45が形成されており、露出部分45にはそれぞれ所定個数の貫通孔26が形成されている。このような形態では、各露出部分45中において各櫛歯44のエッジの近辺において沿面放電を生じさせ,各貫通孔26から供給されるガスをプラズマ化することができる。基板内部の第一の電極(および必要に応じて第三の電極)も、電極6Aに対向するような網目状パターンを有している必要がある。
【0032】
このように、電極の平面的パターンを櫛歯状とした場合には、各櫛歯部分44のピッチを変更することによって、沿面放電箇所のピッチを適宜変更することができる。なぜなら、沿面放電は、各櫛歯部分44のエッジにおいて発生するからである。したがって、活性種の寿命が短い場合には、櫛歯部分44のピッチ(あるいは露出部分35の幅)を小さくして沿面放電箇所を増加させることができる。
【0033】
貫通孔の平面的形状は上述の例では略真円形としたが、これには限定されず、被処理物の材質や形態、活性種の種類に応じて変更する。例えば、貫通孔の平面的形態は、楕円形、レーストラック形状、三角形、四角形、六角形等の多角形、細長いスリット形状などであってよい。
【0034】
貫通孔から導入されるガスは、目的とする反応によって、一種類のガスであってよく、あるいは複数種類のガスを貫通孔から供給してもよい。また、貫通孔から一種類のガスを供給する場合には、純ガスであってよく、混合ガスであってもよい。また、貫通孔から供給されたガスを沿面放電の作用によってプラズマ化することができるが、貫通孔から供給された複数種類のガスを沿面放電の作用下に互いに反応させ、活性種を生成させることもできる。
【0035】
ガスの種類は限定されないが、希ガス(ヘリウム)、アルゴン、ネオンなど)、窒素ガス、酸素ガス、水素、空気(大気)、塩素ガス、アンモニアガス、SF6、CF系ガスなどを例示できる。また、過酸化水素、過酢酸、エタノール、メタノール、水などの液体を噴霧したり、あるいは蒸発させて霧状にしたものを貫通孔から供給することができる。また、上記したガスおよび液体は単独で使用でき、あるいは他のガスや液体との混合物として使用できる。一例として、酸素ガスのみを用いて酸素を活性化させ、酸素ラジカル、オゾンガスを生成させ、殺菌用途や半導体ウエハー、ガラス上の有機物除去、表面改質に用いることができる。
【0036】
また、ガスや霧状液体を第二の電極、第三の電極へと向かって供給する方法は限定されず、例えばガスボンベ、ブロワーによって供給できる。また、電気分解によって発生したガス(酸素と水素)とを用いることもできる。ガス圧力は通常は大気圧近傍とすることができ、元ガスの供給流量はマスフローメーター等で制御できる。また、ガス室を複数設け、各ガス室ごとに、相異なる種類のガスを供給することによって、放電空間に複数種類の活性化ガスを供給することができる。
【0037】
図6は、図1(a)の装置30を使用した処理装置の一例を模式的に示す断面図である。本例では、搬送手段としてロール34および搬送シート5を使用し、搬送シート5上に被処理物21を載置し、搬送シート5を例えば図6の右側へと移動させる。搬送シートの上側および下側にはそれぞれプラズマ発生用電極装置30が設置されており、第二の電極6Aが搬送シート5を挟んで対向している。35は容器である。そして、本例では、上流側のガス室1a、3aから同種類のガスを放電空間1b、3bへと供給し、下流側のガス室2a、4aからこれとは異なる種類のガスを放電空間2b、4bへと供給する。ガス室1a、3aとガス室2a、4aとは互いに気密隔壁によって隔離されている。なお、図7は、図6のうち、ロール34、搬送手段5、被処理物21および一対のプラズマ発生用電極装置30を示す模式図である。
【0038】
上述の例では搬送手段はシート状であるが、この具体的形態は特に限定されず、メッシュ状ないしは網状であってよい。また、網目の形状も特に限定されず、真円形、楕円形、三角形、四角形,六角形などの多角形であってよい。また、被処理物の大きさに合わせて電極の間隔を変更することができる。
【0039】
使用後、活性化ガス自身の処理は、プラズマ活性種の寿命が短いので不要である。しかし、活性化されたガス同士の反応によって副生成ガスが生成する場合には、プラズマ発生用電極装置の下流側に触媒を設置することによって、活性種を除去することが好ましい。このような触媒としては、マンガン系触媒、白金等の貴金属触媒を例示できる。又、ガスの種類によっては活性炭を用いる事が出来る。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
本実施例では、被処理物として医薬品包装用のブリスターパックの代表的な素材であるポリプロピレン(以下「PP」と略す)のシート21を用いた。シートの長さ300mm、幅80mmとした。
【0041】
プラズマ発生用電極装置30Aとしては、図1(b)に示したような形態のものを使用した。装置30Aは、基板1枚当り長さ100mm、幅100mm、厚み1mmのサイズの物を、上段20枚、下段20枚配置した。上段の基板と下段の基板との間には、5mmの隙間が生ずるようにした。基板のうち、ガスと接触する部分には、SUS304、硬質樹脂材料製の物を用いた。また、被処理物21の裏面も活性化ガスと反応するように、搬送手段5としてはメッシュ状物を用いた。各基板40には、1枚当り直径2mmの貫通孔が50個開いている。
【0042】
第二の電極(表面電極)6A、第三の電極6B(表面電極)を基板の両主面に設けてあるため、ガス室1a、2a、3a、4a内でもそれぞれ放電が起き、プラズマにより活性化ガスが生成する。そして、貫通孔26から、活性化ガス及び活性化ガスの元になるガスが噴出する。未活性のガスは、噴出側の放電空間1b、2b、3b、4b内でプラズマにより活性化される。
【0043】
ここで、具体的には、活性化ガスの元ガスとして空気を用い、除湿剤18により乾燥空気とし、ブロワー19により25リットル/分の流量でガス室1a、3aに送る。乾燥空気に加え、更に過酸化水素水12(31%)を加熱により気化させ、過酸化水素ガスを0.2g/分で、乾燥空気25L/分と共に装置内のガス室2a、4aにそれぞれ供給した。又、乾燥空気のみを全室に供給するケースについても実験した。
【0044】
乾燥空気のガス室への供給速度が一定となるように、信号発信式の流量計15とコントロールバルブ16によるフィードバック制御を行った。過酸化水素ガスのガス室への供給は、蒸発残差をロードセル11で測定し、ローラーポンプ13での添加量をフィードバック制御する事で行った。14は蒸発器であり、17は加熱器である。
プラズマによる処理に伴い連続的発生する排気、及び、活性ガス供給終了後に装置内に残存する排気(未反応ガス(過酸化水素ガス)及びプラズマにより生成したオゾンガス等)は排気ガス分解装置(活性炭等)20で処理した後、装置外へブロワー19により排出される。なお、装置内部から外部へ活性化ガス、オゾンガスが流出しないようエアーカーテン22を搬入口、搬出口の両側に設置した。
【0045】
搬送速度を変えてプラズマの照射時間を30秒、1分、2分、5分、10分としてそれぞれの条件における滅菌量を測定した。
プラズマ発生器としてSIサイリスタパルス電源(ピーク電圧:1〜20kV、周波数:0.1〜5kHz)を用いた。
【0046】
(評価方法)
滅菌効果の評価は、枯草菌(Geobacillus stearothermophilus(ATCC#7953))のバイオロジカルインディケータ(米国Raven社製、以下BIと略す)を用いて行った。1×103、1×104、1×105、1×106個の菌が付着したセルロース製の担体がグラシン紙(グラシン紙:1mm平方当り、200個程度のメッシュがあり、外部からの菌の進入と内部の胞子の飛散を阻止し、気流の流入は容易な構造)に包埋されている。
【0047】
試験紙型のBIをPPシート上に所定の枚数貼り付け、滅菌処理後に1次包装(グラシン紙)から無菌状態で担体を取り出し、培養を行った。培養にはAcumedia製TSB(Tryptic
Soy Broth.)培地とpHインジケータ(Bromocresol Purpule)がガラス試験管に入れてある培養液を用い、滅菌処理を施した試験紙型BIの担体を無菌状態を保持したまま試験管に入れて58〜60℃で7日間培養を行い、培養液の色の変化で滅菌の有無を確認した。
【0048】
滅菌が出来ていれば、培養液の色の変化は無く、滅菌不良であれば、培養液は菌が分泌する酸により紫色から黄色に変化する。各個数が付着しているBIを用いることで、菌数の減少量の測定を行った。菌数の減少数は対数で表し、例えば1×106cfuの菌数が全て死滅した時、つまり、7日間の培養で培養液の色の変化が無かった時にはLog(1×106)=6と表す。この結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の結果から明らかなように、連続処理によりPPシートを滅菌レベル(Log6)であれば5分程度、殺菌レベル(Log3〜5)であれば1分程度で行うことが可能である。乾燥空気のみでも効果はあるが、過酸化水素を加える事で滅菌効果は更に高まった。
【0051】
(比較例1、2)
比較例1として、プラズマ照射を行わない過酸化水素ガス単独の場合、同様の結果を得るには数10分の時間を要した。
また、比較例2として、ホルムアルデヒドガス単独の場合においても同様に、数10分の時間を要し、更に残留ガスの危険性を伴う。
【0052】
(実施例2:有機物除去)
本実施例では、被処理物をガラス基板とし、長さ80mm、幅80mm、厚み1mmのサイズとした。プラズマ発生用電極装置30Aとしては、実施例1と同一のものを用いた。基板には1枚当り直径2mmの貫通孔が50個開いている。装置全体の構成は図9に示す。ガス室3a側でも放電が起き、プラズマにより活性化ガスおよびオゾンガスが生成する。ここから活性化ガス、オゾンガス及び活性化ガスの元になるガスが噴出する。ガス室側で未活性のガスは噴出側ガス室3bで、プラズマにより活性化される。
活性化ガスの元ガスとしては、工業用酸素23もしくは乾燥空気を、50リットル/分の流量でガス室3aに供給した。酸素のガス室への供給は一定量となるように信号発信式の流量計15とコントロールバルブ16によるフィードバック制御により行った。18は除湿剤であり、27はレギュレータである。
【0053】
搬送速度は固定し、プラズマの照射時間を一定時間として有機物除去量を測定した。プラズマ発生器としてSIサイリスタパルス電源(ピーク電圧:1〜20kV、周波数:0.1〜5kHz)を用いた。
【0054】
(評価方法)
超純水(TOC濃度1ppb以下)にノニオン系界面活性剤を所定量添加し、これにガラス基板(長さ80mm、幅80mm、厚み1mm)を一定時間浸漬させた後、乾燥させた物を試験片とした。プラズマでのクリーニングの後、超純水に一定時間浸漬し、超純水中に溶解したTOCの濃度を測定し、有機物除去の評価を行った。更に、プラズマ処理を行わなかったものとを比較した。
【0055】
【表2】
【0056】
表2の結果から、プラズマによるクリーニングの効果が確認でき、酸素を元ガスとする事でより効果的であった。電極表面でプラズマが発生する為、プラズマは直接ガラス基板にかからず、ダメージを与えること無く、有機物のみを効果的に除去する事が出来た。
【0057】
(実施例3:ガス処理)
セラミックス製品を焼成する際に発生する有機バインダーの蒸発ガスの分解(脱臭)を行った。乾燥炉もしくは焼成炉より発生した蒸発有機バインダーガスは、冷却器24により液化されるが、一部は蒸発ガスとして炉外へ排出されてしまう。この排出ガスの煙道配管への固着の防止、悪臭の分解にプラズマを用いる。25は液化バインダー受けである。
【0058】
電極として沿面放電用電極装置を用いた。この装置では、貫通孔を通過する時にプラズマによってガスの分解を起こす。電極には1枚当り直径2mmの貫通孔が50個開いている。装置全体の構成は図10に示す。表面電極6A、6Bが両面にあり、ガス室1a、3a側、噴出側1bでも放電が起き、プラズマにより蒸発有機バインダーガスが分解される。
【0059】
未液化の蒸発有機バインダーガスおよび、液化処理を行わなかった蒸発有機バインダーガスを処理対象とした。蒸発した有機バインダーを空気と共に装置へ25L/分の流量で送った。又、過酸化水素蒸発ガスを0.2g/分で蒸発有機バインダーと同一側より供給した。
【0060】
(評価方法)
蒸発有機バインダーガスに含まれるスチレン、フタル酸ジブチルの濃度を測定して評価を行った。濃度の測定にはガスクロマトグラフィー質量分析を行った。
液化処理:冷却器を通過後の蒸発有機バインダー
未処理:冷却処理しなかった有機バインダー
【0061】
【表3】
【0062】
表3の結果からバインダー成分を分解できる事が確認できた。又、過酸化水素を添加するとより効果的であった。
【0063】
なお、分解対象となる蒸発有機バインダーガスと活性ガスの元となるガスを別々の部屋に送り活性化した所で混合し、反応させる事も出来る。
例えば、過酸化水素ガスを添加した空気をガス室1a、3a側に供給し、蒸発有機バインダーをガス室1b側に供給した例を図11に示した。
【0064】
また、図12の装置は、図11の装置と同様のものである。ただし、図12の装置では、過酸化水素ガスを添加した空気をガス室1b側に供給しており、蒸発有機バインダーを外側のガス室1a、3a側に供給している。蒸発有機バインダーの濃度が低い場合は図12のような使用方法も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30を模式的に示す断面図であり、(b)は、本発明の他の実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30Aを模式的に示す断面図である。
【図2】(a)は、図1(a)のプラズマ発生用電極装置30を製造する前の段階の部品を示す断面図であり、(b)は、図1(b)のプラズマ発生用電極装置30Aを製造する前の段階の部品を示す断面図である。
【図3】本発明の更に他の実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30Bの平面図である。
【図4】図3のプラズマ発生用電極装置30Bを分解して模式的に示す斜視図である。
【図5】更に他の実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30Cを概略的に示す斜視図である。
【図6】図1(a)のプラズマ発生用電極装置30を用いて作製したプラズマ処理装置の全体構成を模式的に示す断面図である。
【図7】図6の装置のうちローラー34、搬送シート5、被処理物21およびプラズマ発生用電極装置30を模式的に示す斜視図である。
【図8】実施例1で用いたプラズマ処理装置の全体構成を示す模式的ブロック図である。
【図9】実施例2で用いたプラズマ処理装置の全体構成を示す模式的ブロック図である。
【図10】実施例3で用いたプラズマ処理装置の全体構成を示すブロック図である。
【図11】実施例3で用いることのできるプラズマ処理装置の全体構成を示すブロック図である。
【図12】実施例3で蒸発有機バインダーの処理に用いることのできるプラズマ処理装置の全体構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0066】
6A 第二の電極 6B 第三の電極 7、9 誘電体層 7a 基板40の一方の主面 8 基板 9a 基板40の他方の主面 26 貫通孔 30、30A、30B、30C プラズマ発生用電極装置 31、40 基板 32 網目 40 基板 43 共通電極 44 櫛歯部分 45 露出部分 A、B ガスの流れ D 沿面放電
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療材料の滅菌等の用途に使用されるプラズマ発生用電極装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば医療材料や医療廃棄物、食料品などの包装に用いられるシートは滅菌が必要である。このような滅菌方法として、特許文献1記載の方法が知られている。この方法では、大気圧でプラズマを発生させ、このプラズマにより生成される殺菌因子をプラズマ発生器からチャンバー内へと供給する。チャンバー内では所定の被処理シートを搬送ロール上で搬送し、滅菌する。
【特許文献1】特開平10−129627
【0003】
また、特許文献2においては、一対の放電電極の間でシートを搬送し、大気圧でプラズマを発生させてシートをプラズマ処理する。特許文献3においては、多孔質部分を有するプラズマ放電用電極が開示されている。特許文献4のプラズマ発生電極では、円板状電極に複数のスリット状ガス供給孔を設け、ガス供給孔からガスを噴出させて旋回流を生じさせる。更に、特許文献5には、セラミック誘電体の内部に誘導電極を設け、誘電体の表面に放電電極を設け、放電電極の周縁部分において沿面放電を生じさせ、プラスイオン、マイナスイオンを発生させることが記載されている。
【特許文献2】特開平6−265864
【特許文献3】特開2003−334436
【特許文献4】特許第3154058
【特許文献5】特許第3403723
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、プラズマ中で生成した活性種の寿命は短いことが多く、被処理物と接触して効果を発揮する前の段階で気体中で消滅することが多いため、処理効率が低い。このため、多量の被処理物を処理することは難しく、また、複数の処理物を連続的に処理することが難しい。特に、搬送シート上に被処理物を載置して搬送しながらプラズマに接触させ、処理する場合には、たとえ電極の面積を大きくしても(電極の延べ長さを長くしても)、電極上の一部領域でしかプラズマ達成種との接触が行われておらず、被処理物の処理効率が低くなる。
【0005】
本発明の課題は、気体からプラズマを発生させて被処理物をプラズマ処理する装置において、被処理物とプラズマ活性種との接触の効率を向上させ、これによって被処理物の処理効率を向上させるような構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、プラズマを発生させるための電極装置であって、誘電体からなる基板、この基板内に埋設されている第一の電極、および基板の一方の主面に設けられている第二の電極を備えており、基板に貫通孔が形成されており、第二の電極から基板に沿って生ずる沿面放電によってプラズマを発生させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、誘電体からなる基板の内部に電極を埋設し、この基板の表面に対向電極を設け、かつ基板に貫通孔を設けている。プラズマ処理によって活性化されたガスが活性を持続する時間は短いため、貯蔵することができず、活性化ガスの生成場所からできるだけ近い場所で使用することが望ましい。本発明によれば、貫通孔から気体を通過させるのと共に、基板主面の電極のエッジから基板表面に沿った沿面放電を生じさせ、この沿面放電によって気体をプラズマ化する。従って、基板の所望箇所に貫通孔を設けて気体を供給できると共に、各貫通孔に応じて貫通孔を通る気体の流れに合わせて第二の電極を設けて沿面放電させることで、気体を所望箇所でプラズマ化させることができる。この結果、基板上の被処理物とプラズマの活性種の発生箇所との間隔を短くし、プラズマ処理効率を上昇させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
好適な実施形態においては、第一の電極が貫通孔に露出しないように基板に埋設されている。これによって、第一の電極から貫通孔内壁へと向かう不規則な放電を防止できる。
【0009】
第二の電極(必要に応じて第三の電極)の平面的パターンは特に限定されないが、例えば後述するように、網状または櫛歯状をなしていることが好ましい。第二の電極が網状または櫛歯状をなしている場合には、貫通孔を網目状に形成したり、櫛歯の間の隙間に規則的に形成することが容易であり、好ましい。この実施形態においては、網目の形状は特に限定されず、円形、楕円形、レーストラック形状、四辺形、三角形等の多角形などであってよい。また櫛歯状電極の櫛歯の形状も特に限定されないが、長方形や平行四辺形であることが特に好ましい。
【0010】
本発明においては、第二の電極を、被処理物に対向する位置に設けることができる。この場合には、第二の電極のエッジからの沿面放電によってプラズマを生成させ、このプラズマを被処理物に接触させることができるので有利である。しかし、本発明はこの形態には限定されるものではなく、第二の電極を、基板の被処理物に対向しない主面(裏面)側に形成することができる。この場合には、第二の電極のエッジからの沿面放電によって気体をプラズマ化し、生成したプラズマを貫通孔を通して被処理物側へと供給する。
【0011】
好適な実施形態においては、基板の他方の主面に第三の電極を備えており、第三の電極から基板に沿って生ずる沿面放電によってプラズマを発生させる。これによって、貫通孔に対して基板の両面においてプラズマを発生させることができるため、被処理物の処理効率が一層向上する。
【0012】
好適な実施形態においては、第二の電極(必要に押しで第三の電極)と貫通孔との間で基板の主面が露出する露出領域を備えており、この露出領域で主面に沿って沿面放電が生ずる。このように基板主面に沿って沿面放電を生じさせると、プラズマの発生箇所と被処理物との間隔を最短とすることが可能であるので、被処理物の処理効率が一層高くなる。
【0013】
また、被処理物は固定してバッチ処理することもできるが、処理効率の点からは、被処理物を搬送手段によって搬送しながらプラズマ処理することが好ましい。この搬送手段については後述する。
【0014】
本発明による処理対象は、プラズマ処理可能なものであれば特に限定されないが、以下を例示できる。
(1) 処理プロセス
被処理物の表面改質(親水処理:被処理物に接着剤や塗料を塗布する前に被処理物表面を親水処理し、濡れ性を向上させ、着色剤や塗料の接着性、付着性を高める)、滅菌または殺菌処理、有機物除去/有機物分解処理、気体の改質処理、有害気体成分の浄化処理
(2) 処理対象物品
樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、テトラフルオロエチレンなど)、セラミックス、金属、ガラス
医療用器具や医療材料(ブリスターパック、ブリスターパック用シート、シリンジ、シリンジ用ガスケット、バイアル用ゴム栓、注射針、ガーゼ、不織布など)
食料品用包装シート
半導体ウエハー、液晶ガラス基板、セラミックスのプラズマ処理
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の更に詳細な実施形態について述べる。
図1(a)は、本発明の一実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30を概略的に示す横断面図であり、図1(b)は、他の実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30Aを概略的に示す横断面図である。
【0016】
図1(a)のプラズマ発生用電極装置30においては、基板40は誘電体からなり、表層部7と基台部9とを備えている。基板40内には所定パターンの第一の電極8が埋設されており、また所定箇所に貫通孔26が形成されている。本例では、電極8のエッジが貫通孔26内壁面に露出しないように、誘電体によって被覆されており、所定の絶縁間隔が保たれている。基板40の主面7aには第二の電極6Aが設けられており、電極6Aと埋設電極8とは対向している。基板40は、電極8によって、主面7a側の誘電層7と反対側の主面(裏面)9a側の誘電層9とに別れている。貫通孔26に矢印Aのようにガスを供給すると、ガスは貫通孔26の出口から矢印Bのように基板表面に沿って流る。このときに電極6Aのエッジから露出領域41へと向かって沿面放電Dが発生し、プラズマを生成させる。電極6A上の空間に被処理物を設置し、あるいは被処理物を搬送する。
【0017】
図1(b)の装置30Aにおいては、更に、他方の主面(裏面)9a上に第三の電極6Bを形成しており、電極6Bも埋設電極8に対して誘電層9をはさむように対向している。そして、電極6Bのエッジから主面9aの露出領域41へと向かって矢印Dのように沿面放電を生じさせる。この結果、ガスの一部分は沿面放電Dによってプラズマ化し、次いで貫通孔26を通して矢印Aのように被処理物の方へと向かって供給される。
【0018】
このような装置30、30Aを製造する際には、例えば図2(a)、(b)に示すような基板31を製造する。ここで、図2(a)においては、基板31中に電極8が埋設されており、主面7aに電極6Aが形成されている。図2(b)においては、基板31中に電極8が埋設されており、主面7aに電極6A、主面9aに電極6Bが形成されている。この状態で、所望箇所に、電極8を通過しないように貫通孔26を形成することによって、図1(a)、(b)の各プラズマ発生用電極装置を得る。
【0019】
ここで、基板を構成する誘電体材料は特に限定されないが、セラミックスが好ましく、特にアルミナ、マグネシア、、ジルコニア、酸化珪素、ムライト、スピネル、コージェライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、チタン−バリウム系酸化物、バリウム−チタン−亜鉛系酸化物などが好ましい。また、第一、第二、第三の各電極の材質は特に限定されず、所定の導電性を有する物質であれば使用可能である。例えば、タングステン、モリブデン、マンガン、チタン、クロム、ジルコニウム、ニッケル、銀、鉄、銅、白金、パラジウム、あるいはこれらの合金が好ましい。
【0020】
図2(a)、(b)に示すような基板31は、いわゆるグリーンシート積層法によって製造可能である。すなわち、セラミックス等の誘電体粉末をプレス成形する際に、埋設電極を構成する金属板や金属箔を埋設しておき、次いで焼結することができる。また、埋設電極は、セラミックス成形体上にペーストを塗布することで形成することもできる。この場合の塗工方法としては、スクリーン印刷、カレンダーロール印刷、ディップ法、蒸着、物理的気相成長法など、任意の塗工方法を利用可能である。第二、第三の電極も塗工法によって容易に形成できる。電極を塗工法によって形成する場合には、前記した各種金属あるいは合金の粉末を、有機バインダーおよび溶剤(テルピネオール等)と混合して導体ペーストを作製し、次いでこの導体ペーストをセラミックグリーンシート上に塗工する。なお、第二の電極、第三の電極は、セラミックス焼結体からなる基板31の主面上に塗工し、焼き付けることで形成することも可能である。
【0021】
基板31を製造する際において、セラミックグリーンシートの成形方法は特に限定されず、ドクターブレード法、カレンダー法、印刷法、ロールコータ、めっき法など、あらゆる手法を利用することができる。また、グリーンシートの原料粉末としては、上述した各種のセラミックス粉末や、ガラス等の粉末を利用できる。この際、焼結助剤として、酸化珪素、カルシア、チタニア、マグネシア、ジルコニアを例示できる。焼結助剤は、セラミック粉末100重量部に対して、3〜10重量部添加することが好ましい。セラミックペースト中には、公知の分散剤、可塑剤、有機溶媒を添加することができる。
粉末プレス成形法でも、基板31を作ることができ、埋設する電極にメッシュ金属や金属箔を用いた場合は、ホットプレス法で電極を埋設した焼結体を得ることもできる。
成形助剤を適時選ぶことにより、押出成形でも基板31の成形体を作製することができる。押出成形体表面に、溶媒を適時選定することにより、導電膜成分となる金属ペーストを印刷等で電極を形成することができる。
【0022】
得られた基板31の気孔率は特に限定されないが、0.1〜35%とすることができ、0.1〜10%とすることが更に好ましい。
【0023】
また、第二の電極、第三の電極は空間に対して露出させることができる。あるいは、第二および第三の電極を、誘電体からなる保護膜によって被覆することができる。この誘電体としては、セラミックスやガラスを例示することができる。セラミックスとしては、アルミナ、ジルコニア、、マグネシア、酸化珪素、ムライト、スピネル、コージェライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、チタン−バリウム系酸化物、バリウム−チタン−亜鉛系酸化物などを例示できる。
【0024】
各貫通孔の形成方法は特に限定されない。好適な実施形態においては、図2(a)、(b)のような基板31を焼結によって作製した後に、基板31に超音波加工や切削加工によって貫通孔を形成する。あるいは、基板31を焼結する前のグリーンシートの段階で、グリーンシートにナイフカット(金型で打ち抜くこと)によって貫通孔を形成し、次いでグリーンシートを焼結させることができる。
【0025】
貫通孔の配置密度や配置パターンは特に限定されない。例えば、活性化ガスの寿命や被処理物の処理量を考慮して、貫通孔を装置の入り口側(上流側)のみにもうけることができるし、あるいは基板主面の全面にわたってもうけることもできる。比較的寿命の長い活性種を含む活性化ガスの場合(例えば活性種がオゾンガスである場合)には、装置の上流側のみにおいて基板に貫通孔を形成するだけでも、十分に長期間にわたって被処理物を活性化ガスに接触させることができる。しかし、活性種の寿命が短い場合には、基板の全面に貫通孔を形成することが好ましい。
【0026】
貫通孔の配置密度(個数)や貫通孔の大きさは,被処理物との反応速度や被処理物の量に応じて決定する。滅菌用途においては、例えば106cfuまで除去するために基板の全面にわたって貫通孔を配置することができる。また,殺菌用途で104cfuまで殺菌することでよい場合には、106cfuを実現するために必要な貫通孔数の70〜80%の貫通孔数で足りる。このように使用状況に応じて貫通孔の密度と個数とを決定することができる。
【0027】
本発明において、第一、第二、第三の各電極の平面的パターンは特に限定されず、面内での活性種の種類および寿命、生成量に会わせて設計できる。例えば、電極の平面的パターンを櫛歯状としたり、網目状とすることができる。
【0028】
たとえば、図3は、第二の電極6Aのパターン例を模式的に示す平面図である。本例では、網目状の電極6Aを基板表面に形成している。各網目32はたとえば四辺形であり、各網目32内にそれぞれ貫通孔26が形成されている。このような形態では、各網目中において沿面放電を生じさせ,各網目に対応する貫通孔26から供給されるガスをプラズマ化することができる。基板内部の第一の電極も、電極6Aに対向するような網目状パターンを有している必要がある。第三の電極も図3に示すような平面的パターンを有していて良い。
【0029】
このように電極の平面的パターンを網目状とした場合には、各網目のピッチ(間隔)を変更することによって、沿面放電箇所のピッチを適宜変更することができる。なぜなら、沿面放電は、各網目のエッジにおいて発生するからである。したがって、活性種の寿命が短い場合には、網目のピッチを小さくして沿面放電箇所を増加させることができる。このような網目のピッチは活性種の種類によって設計されるものであるので限定されないが、例えば100μm(0.1mm)以上とすることが好ましく、500μm(0.5mm)以上とすることが更に好ましい。また、活性種を広範囲で満遍なく発生させるという観点からは、網目のピッチは20mm以下であることが好ましく、3mm以下であることが更に好ましい。
【0030】
図4に模式的斜視図に示すように、図3の装置は、下側の誘電体層9、上側の誘電体層7、誘電体層7と9との間に埋設された第一の電極8を備えており、上側の誘電体層7側の主面7a上には網目状の第二の電極6Aが形成されている。
【0031】
また、たとえば、図5に示す装置30Cにおいては、櫛歯状の第二の電極6Aが形成されている。本例では、櫛歯状の電極6Aを基板表面に形成している。櫛歯状電極6Aは、細長い共通電極43と、共通電極から突出する複数列の細長い櫛歯部44を備えている。隣接する櫛歯部44の間には細長い露出部分45が形成されており、露出部分45にはそれぞれ所定個数の貫通孔26が形成されている。このような形態では、各露出部分45中において各櫛歯44のエッジの近辺において沿面放電を生じさせ,各貫通孔26から供給されるガスをプラズマ化することができる。基板内部の第一の電極(および必要に応じて第三の電極)も、電極6Aに対向するような網目状パターンを有している必要がある。
【0032】
このように、電極の平面的パターンを櫛歯状とした場合には、各櫛歯部分44のピッチを変更することによって、沿面放電箇所のピッチを適宜変更することができる。なぜなら、沿面放電は、各櫛歯部分44のエッジにおいて発生するからである。したがって、活性種の寿命が短い場合には、櫛歯部分44のピッチ(あるいは露出部分35の幅)を小さくして沿面放電箇所を増加させることができる。
【0033】
貫通孔の平面的形状は上述の例では略真円形としたが、これには限定されず、被処理物の材質や形態、活性種の種類に応じて変更する。例えば、貫通孔の平面的形態は、楕円形、レーストラック形状、三角形、四角形、六角形等の多角形、細長いスリット形状などであってよい。
【0034】
貫通孔から導入されるガスは、目的とする反応によって、一種類のガスであってよく、あるいは複数種類のガスを貫通孔から供給してもよい。また、貫通孔から一種類のガスを供給する場合には、純ガスであってよく、混合ガスであってもよい。また、貫通孔から供給されたガスを沿面放電の作用によってプラズマ化することができるが、貫通孔から供給された複数種類のガスを沿面放電の作用下に互いに反応させ、活性種を生成させることもできる。
【0035】
ガスの種類は限定されないが、希ガス(ヘリウム)、アルゴン、ネオンなど)、窒素ガス、酸素ガス、水素、空気(大気)、塩素ガス、アンモニアガス、SF6、CF系ガスなどを例示できる。また、過酸化水素、過酢酸、エタノール、メタノール、水などの液体を噴霧したり、あるいは蒸発させて霧状にしたものを貫通孔から供給することができる。また、上記したガスおよび液体は単独で使用でき、あるいは他のガスや液体との混合物として使用できる。一例として、酸素ガスのみを用いて酸素を活性化させ、酸素ラジカル、オゾンガスを生成させ、殺菌用途や半導体ウエハー、ガラス上の有機物除去、表面改質に用いることができる。
【0036】
また、ガスや霧状液体を第二の電極、第三の電極へと向かって供給する方法は限定されず、例えばガスボンベ、ブロワーによって供給できる。また、電気分解によって発生したガス(酸素と水素)とを用いることもできる。ガス圧力は通常は大気圧近傍とすることができ、元ガスの供給流量はマスフローメーター等で制御できる。また、ガス室を複数設け、各ガス室ごとに、相異なる種類のガスを供給することによって、放電空間に複数種類の活性化ガスを供給することができる。
【0037】
図6は、図1(a)の装置30を使用した処理装置の一例を模式的に示す断面図である。本例では、搬送手段としてロール34および搬送シート5を使用し、搬送シート5上に被処理物21を載置し、搬送シート5を例えば図6の右側へと移動させる。搬送シートの上側および下側にはそれぞれプラズマ発生用電極装置30が設置されており、第二の電極6Aが搬送シート5を挟んで対向している。35は容器である。そして、本例では、上流側のガス室1a、3aから同種類のガスを放電空間1b、3bへと供給し、下流側のガス室2a、4aからこれとは異なる種類のガスを放電空間2b、4bへと供給する。ガス室1a、3aとガス室2a、4aとは互いに気密隔壁によって隔離されている。なお、図7は、図6のうち、ロール34、搬送手段5、被処理物21および一対のプラズマ発生用電極装置30を示す模式図である。
【0038】
上述の例では搬送手段はシート状であるが、この具体的形態は特に限定されず、メッシュ状ないしは網状であってよい。また、網目の形状も特に限定されず、真円形、楕円形、三角形、四角形,六角形などの多角形であってよい。また、被処理物の大きさに合わせて電極の間隔を変更することができる。
【0039】
使用後、活性化ガス自身の処理は、プラズマ活性種の寿命が短いので不要である。しかし、活性化されたガス同士の反応によって副生成ガスが生成する場合には、プラズマ発生用電極装置の下流側に触媒を設置することによって、活性種を除去することが好ましい。このような触媒としては、マンガン系触媒、白金等の貴金属触媒を例示できる。又、ガスの種類によっては活性炭を用いる事が出来る。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
本実施例では、被処理物として医薬品包装用のブリスターパックの代表的な素材であるポリプロピレン(以下「PP」と略す)のシート21を用いた。シートの長さ300mm、幅80mmとした。
【0041】
プラズマ発生用電極装置30Aとしては、図1(b)に示したような形態のものを使用した。装置30Aは、基板1枚当り長さ100mm、幅100mm、厚み1mmのサイズの物を、上段20枚、下段20枚配置した。上段の基板と下段の基板との間には、5mmの隙間が生ずるようにした。基板のうち、ガスと接触する部分には、SUS304、硬質樹脂材料製の物を用いた。また、被処理物21の裏面も活性化ガスと反応するように、搬送手段5としてはメッシュ状物を用いた。各基板40には、1枚当り直径2mmの貫通孔が50個開いている。
【0042】
第二の電極(表面電極)6A、第三の電極6B(表面電極)を基板の両主面に設けてあるため、ガス室1a、2a、3a、4a内でもそれぞれ放電が起き、プラズマにより活性化ガスが生成する。そして、貫通孔26から、活性化ガス及び活性化ガスの元になるガスが噴出する。未活性のガスは、噴出側の放電空間1b、2b、3b、4b内でプラズマにより活性化される。
【0043】
ここで、具体的には、活性化ガスの元ガスとして空気を用い、除湿剤18により乾燥空気とし、ブロワー19により25リットル/分の流量でガス室1a、3aに送る。乾燥空気に加え、更に過酸化水素水12(31%)を加熱により気化させ、過酸化水素ガスを0.2g/分で、乾燥空気25L/分と共に装置内のガス室2a、4aにそれぞれ供給した。又、乾燥空気のみを全室に供給するケースについても実験した。
【0044】
乾燥空気のガス室への供給速度が一定となるように、信号発信式の流量計15とコントロールバルブ16によるフィードバック制御を行った。過酸化水素ガスのガス室への供給は、蒸発残差をロードセル11で測定し、ローラーポンプ13での添加量をフィードバック制御する事で行った。14は蒸発器であり、17は加熱器である。
プラズマによる処理に伴い連続的発生する排気、及び、活性ガス供給終了後に装置内に残存する排気(未反応ガス(過酸化水素ガス)及びプラズマにより生成したオゾンガス等)は排気ガス分解装置(活性炭等)20で処理した後、装置外へブロワー19により排出される。なお、装置内部から外部へ活性化ガス、オゾンガスが流出しないようエアーカーテン22を搬入口、搬出口の両側に設置した。
【0045】
搬送速度を変えてプラズマの照射時間を30秒、1分、2分、5分、10分としてそれぞれの条件における滅菌量を測定した。
プラズマ発生器としてSIサイリスタパルス電源(ピーク電圧:1〜20kV、周波数:0.1〜5kHz)を用いた。
【0046】
(評価方法)
滅菌効果の評価は、枯草菌(Geobacillus stearothermophilus(ATCC#7953))のバイオロジカルインディケータ(米国Raven社製、以下BIと略す)を用いて行った。1×103、1×104、1×105、1×106個の菌が付着したセルロース製の担体がグラシン紙(グラシン紙:1mm平方当り、200個程度のメッシュがあり、外部からの菌の進入と内部の胞子の飛散を阻止し、気流の流入は容易な構造)に包埋されている。
【0047】
試験紙型のBIをPPシート上に所定の枚数貼り付け、滅菌処理後に1次包装(グラシン紙)から無菌状態で担体を取り出し、培養を行った。培養にはAcumedia製TSB(Tryptic
Soy Broth.)培地とpHインジケータ(Bromocresol Purpule)がガラス試験管に入れてある培養液を用い、滅菌処理を施した試験紙型BIの担体を無菌状態を保持したまま試験管に入れて58〜60℃で7日間培養を行い、培養液の色の変化で滅菌の有無を確認した。
【0048】
滅菌が出来ていれば、培養液の色の変化は無く、滅菌不良であれば、培養液は菌が分泌する酸により紫色から黄色に変化する。各個数が付着しているBIを用いることで、菌数の減少量の測定を行った。菌数の減少数は対数で表し、例えば1×106cfuの菌数が全て死滅した時、つまり、7日間の培養で培養液の色の変化が無かった時にはLog(1×106)=6と表す。この結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の結果から明らかなように、連続処理によりPPシートを滅菌レベル(Log6)であれば5分程度、殺菌レベル(Log3〜5)であれば1分程度で行うことが可能である。乾燥空気のみでも効果はあるが、過酸化水素を加える事で滅菌効果は更に高まった。
【0051】
(比較例1、2)
比較例1として、プラズマ照射を行わない過酸化水素ガス単独の場合、同様の結果を得るには数10分の時間を要した。
また、比較例2として、ホルムアルデヒドガス単独の場合においても同様に、数10分の時間を要し、更に残留ガスの危険性を伴う。
【0052】
(実施例2:有機物除去)
本実施例では、被処理物をガラス基板とし、長さ80mm、幅80mm、厚み1mmのサイズとした。プラズマ発生用電極装置30Aとしては、実施例1と同一のものを用いた。基板には1枚当り直径2mmの貫通孔が50個開いている。装置全体の構成は図9に示す。ガス室3a側でも放電が起き、プラズマにより活性化ガスおよびオゾンガスが生成する。ここから活性化ガス、オゾンガス及び活性化ガスの元になるガスが噴出する。ガス室側で未活性のガスは噴出側ガス室3bで、プラズマにより活性化される。
活性化ガスの元ガスとしては、工業用酸素23もしくは乾燥空気を、50リットル/分の流量でガス室3aに供給した。酸素のガス室への供給は一定量となるように信号発信式の流量計15とコントロールバルブ16によるフィードバック制御により行った。18は除湿剤であり、27はレギュレータである。
【0053】
搬送速度は固定し、プラズマの照射時間を一定時間として有機物除去量を測定した。プラズマ発生器としてSIサイリスタパルス電源(ピーク電圧:1〜20kV、周波数:0.1〜5kHz)を用いた。
【0054】
(評価方法)
超純水(TOC濃度1ppb以下)にノニオン系界面活性剤を所定量添加し、これにガラス基板(長さ80mm、幅80mm、厚み1mm)を一定時間浸漬させた後、乾燥させた物を試験片とした。プラズマでのクリーニングの後、超純水に一定時間浸漬し、超純水中に溶解したTOCの濃度を測定し、有機物除去の評価を行った。更に、プラズマ処理を行わなかったものとを比較した。
【0055】
【表2】
【0056】
表2の結果から、プラズマによるクリーニングの効果が確認でき、酸素を元ガスとする事でより効果的であった。電極表面でプラズマが発生する為、プラズマは直接ガラス基板にかからず、ダメージを与えること無く、有機物のみを効果的に除去する事が出来た。
【0057】
(実施例3:ガス処理)
セラミックス製品を焼成する際に発生する有機バインダーの蒸発ガスの分解(脱臭)を行った。乾燥炉もしくは焼成炉より発生した蒸発有機バインダーガスは、冷却器24により液化されるが、一部は蒸発ガスとして炉外へ排出されてしまう。この排出ガスの煙道配管への固着の防止、悪臭の分解にプラズマを用いる。25は液化バインダー受けである。
【0058】
電極として沿面放電用電極装置を用いた。この装置では、貫通孔を通過する時にプラズマによってガスの分解を起こす。電極には1枚当り直径2mmの貫通孔が50個開いている。装置全体の構成は図10に示す。表面電極6A、6Bが両面にあり、ガス室1a、3a側、噴出側1bでも放電が起き、プラズマにより蒸発有機バインダーガスが分解される。
【0059】
未液化の蒸発有機バインダーガスおよび、液化処理を行わなかった蒸発有機バインダーガスを処理対象とした。蒸発した有機バインダーを空気と共に装置へ25L/分の流量で送った。又、過酸化水素蒸発ガスを0.2g/分で蒸発有機バインダーと同一側より供給した。
【0060】
(評価方法)
蒸発有機バインダーガスに含まれるスチレン、フタル酸ジブチルの濃度を測定して評価を行った。濃度の測定にはガスクロマトグラフィー質量分析を行った。
液化処理:冷却器を通過後の蒸発有機バインダー
未処理:冷却処理しなかった有機バインダー
【0061】
【表3】
【0062】
表3の結果からバインダー成分を分解できる事が確認できた。又、過酸化水素を添加するとより効果的であった。
【0063】
なお、分解対象となる蒸発有機バインダーガスと活性ガスの元となるガスを別々の部屋に送り活性化した所で混合し、反応させる事も出来る。
例えば、過酸化水素ガスを添加した空気をガス室1a、3a側に供給し、蒸発有機バインダーをガス室1b側に供給した例を図11に示した。
【0064】
また、図12の装置は、図11の装置と同様のものである。ただし、図12の装置では、過酸化水素ガスを添加した空気をガス室1b側に供給しており、蒸発有機バインダーを外側のガス室1a、3a側に供給している。蒸発有機バインダーの濃度が低い場合は図12のような使用方法も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30を模式的に示す断面図であり、(b)は、本発明の他の実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30Aを模式的に示す断面図である。
【図2】(a)は、図1(a)のプラズマ発生用電極装置30を製造する前の段階の部品を示す断面図であり、(b)は、図1(b)のプラズマ発生用電極装置30Aを製造する前の段階の部品を示す断面図である。
【図3】本発明の更に他の実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30Bの平面図である。
【図4】図3のプラズマ発生用電極装置30Bを分解して模式的に示す斜視図である。
【図5】更に他の実施形態に係るプラズマ発生用電極装置30Cを概略的に示す斜視図である。
【図6】図1(a)のプラズマ発生用電極装置30を用いて作製したプラズマ処理装置の全体構成を模式的に示す断面図である。
【図7】図6の装置のうちローラー34、搬送シート5、被処理物21およびプラズマ発生用電極装置30を模式的に示す斜視図である。
【図8】実施例1で用いたプラズマ処理装置の全体構成を示す模式的ブロック図である。
【図9】実施例2で用いたプラズマ処理装置の全体構成を示す模式的ブロック図である。
【図10】実施例3で用いたプラズマ処理装置の全体構成を示すブロック図である。
【図11】実施例3で用いることのできるプラズマ処理装置の全体構成を示すブロック図である。
【図12】実施例3で蒸発有機バインダーの処理に用いることのできるプラズマ処理装置の全体構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0066】
6A 第二の電極 6B 第三の電極 7、9 誘電体層 7a 基板40の一方の主面 8 基板 9a 基板40の他方の主面 26 貫通孔 30、30A、30B、30C プラズマ発生用電極装置 31、40 基板 32 網目 40 基板 43 共通電極 44 櫛歯部分 45 露出部分 A、B ガスの流れ D 沿面放電
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを発生させるための電極装置であって、
誘電体からなる基板、この基板内に埋設されている第一の電極、および前記基板の一方の主面に設けられている第二の電極を備えており、前記基板に貫通孔が形成されており、前記第二の電極から前記基板に沿って生ずる沿面放電によってプラズマを発生させる、プラズマ発生用電極装置。
【請求項2】
前記第一の電極が前記貫通孔に露出しないように前記基板に埋設されていることを特徴とする、請求項1記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項3】
前記第二の電極が網状または櫛歯状をなしていることを特徴とする、請求項1または2記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項4】
前記基板の他方の主面に第三の電極を備えており、前記第三の電極から前記基板に沿って生ずる沿面放電によってプラズマを発生させる、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項5】
前記第二の電極と前記貫通孔との間で前記基板の前記主面が露出する露出領域を備えており、この露出領域に沿って沿面放電が生ずることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項6】
前記貫通孔を通して前記プラズマ発生用のガスを供給することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項7】
被処理物を搬送手段によって搬送しながらプラズマ処理することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項8】
物品の滅菌または殺菌のために前記プラズマを発生させることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項1】
プラズマを発生させるための電極装置であって、
誘電体からなる基板、この基板内に埋設されている第一の電極、および前記基板の一方の主面に設けられている第二の電極を備えており、前記基板に貫通孔が形成されており、前記第二の電極から前記基板に沿って生ずる沿面放電によってプラズマを発生させる、プラズマ発生用電極装置。
【請求項2】
前記第一の電極が前記貫通孔に露出しないように前記基板に埋設されていることを特徴とする、請求項1記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項3】
前記第二の電極が網状または櫛歯状をなしていることを特徴とする、請求項1または2記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項4】
前記基板の他方の主面に第三の電極を備えており、前記第三の電極から前記基板に沿って生ずる沿面放電によってプラズマを発生させる、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項5】
前記第二の電極と前記貫通孔との間で前記基板の前記主面が露出する露出領域を備えており、この露出領域に沿って沿面放電が生ずることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項6】
前記貫通孔を通して前記プラズマ発生用のガスを供給することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項7】
被処理物を搬送手段によって搬送しながらプラズマ処理することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ発生用電極装置。
【請求項8】
物品の滅菌または殺菌のために前記プラズマを発生させることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載のプラズマ発生用電極装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−210178(P2006−210178A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21472(P2005−21472)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]