説明

プリプレグ用樹脂組成物およびプリプレグ

【課題】炭素繊維強化複合材料としたときに強度および伸びに優れるプリプレグ、ならびに、このようなプリプレグに用いられうるプリプレグ用樹脂組成物の提供。
【解決手段】3官能以上のエポキシ樹脂と、ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂と、芳香族アミノ化合物とを含有するプリプレグ用樹脂組成物、および、前記プリプレグ用樹脂組成物を炭素繊維に含浸させることにより得られうるプリプレグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ用樹脂組成物およびプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂を炭素繊維に含浸させたプリプレグから得られる炭素繊維強化複合材料は、優れた力学的特性を有することから、航空、宇宙、スポーツ、レジャー、土木、建築等の分野において使用されている。
【0003】
従来、プリプレグ用樹脂組成物のマトリックス樹脂として使用されるエポキシ樹脂は、プリプレグの製造性を考慮して、常温で低粘度であることが望まれている。低粘度のエポキシ樹脂としては、例えば、式(I)で表されるような3官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂や、式(II)で表されるような2官能ビフェニル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0004】
【化1】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者は、このようなエポキシ樹脂を多量にプリプレグ用樹脂組成物に用いると、硬化後の強度および伸びが損なわれることを見出した。
また、本発明者は、マトリックス樹脂に希釈剤として1官能エポキシ樹脂を使用すると、硬化後の強度を低下させるという問題点を見出した。
【0006】
そこで、本発明は、炭素繊維強化複合材料としたときに強度および伸びに優れるプリプレグ、ならびに、このようなプリプレグに用いられうるプリプレグ用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記問題について鋭意検討した結果、3官能以上のエポキシ樹脂と、ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂と、芳香族アミノ化合物とを含有するプリプレグ用樹脂組成物を炭素繊維に含浸させることにより得られうるプリプレグが、強度および伸びに優れる炭素繊維強化複合材料となりうることを知見し、この知見に基づき、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(5)を提供する。
(1)3官能以上のエポキシ樹脂と、ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂と、芳香族アミノ化合物とを含有するプリプレグ用樹脂組成物。
(2)前記ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂の含有量が、エポキシ樹脂全量中、3〜35質量%である上記(1)に記載のプリプレグ用樹脂組成物。
(3)さらに、熱可塑性樹脂および/またはニトリル基を有するゴムを含有する上記(1)または(2)に記載のプリプレグ用樹脂組成物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のプリプレグ用樹脂組成物を炭素繊維に含浸させることにより得られうるプリプレグ。
(5)上記(4)に記載のプリプレグを硬化させることにより得られうる炭素繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプリプレグは、本発明のプリプレグ用樹脂組成物を用いているため、炭素繊維強化複合材料としたとき強度および伸びに優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
まず、本発明のプリプレグ用樹脂組成物について説明する。
本発明のプリプレグ用樹脂組成物は、3官能以上のエポキシ樹脂と、ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂と、芳香族アミノ化合物とを含有するプリプレグ用樹脂組成物である。
【0011】
3官能以上のエポキシ樹脂について以下に説明する。
3官能以上のエポキシ樹脂は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する化合物である。3官能以上のエポキシ樹脂は、特に限定されない。例えば、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルアミノ系エポキシ樹脂が挙げられる。
【0012】
3官能以上のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型のようなエポキシ樹脂が挙げられる。
【0013】
3官能以上のグリシジルアミノ系エポキシ樹脂としては、例えば、式(1)で表されるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)のようなジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン(TGDDS)のようなジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、式(2)で表されるトリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノールのようなアミノフェノール型、テトラグリシジルメタキシレンジアミン(TGMXDA)、テトラグリシジル1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(TG1,3−BAC)、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、ヒダントイン型、ジシクロペンタジエニル骨格を有するノボラック型が挙げられる。
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
式(1)で表されるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)の市販品としては、例えば、ELM−434(住友化学工業社製)、MY−721(ハンツマンアドバンストマテリアル社製)が挙げられる。
式(2)で表されるトリグリシジル−p−アミノフェノールの市販品としては、例えば、MY−0510(ハンツマンアドバンストマテリアル社製)が挙げられる。
【0017】
中でも、3官能以上のエポキシ樹脂は、式(1)で表されるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、式(2)で表されるトリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノールが好ましい。
【0018】
3官能以上のエポキシ樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
3官能以上のエポキシ樹脂の組み合わせとしては、例えば、3官能エポキシ樹脂と4官能エポキシ樹脂との併用が好ましい態様の1つとして挙げられる。中でも、4官能エポキシ樹脂として式(1)で表されるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンと、3官能エポキシ樹脂として式(2)で表されるトリグリシジル−p−アミノフェノールとの併用が好ましい。
【0019】
ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂について、以下に説明する。
ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂は、1分子中に、少なくとも1個のビフェニル骨格と、1個のエポキシ基とを有する化合物である。
【0020】
ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂は、特に限定されない。例えば、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0021】
【化4】

【0022】
式中、Rは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のうちの少なくとも1つと結合することができる炭素数1〜6のアルキレン基を表す。
【0023】
このようなアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基のようなアルキレン基;−O−CH2−、−O−CH2CH2−、−O−CH2CH2CH2−のような酸素原子と結合するアルキレン基が挙げられる。
【0024】
ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂としては、例えば、下記式(4)で表されるo−フェニルフェノールグリシジルエーテル、m−フェニルフェノールグリシジルエーテル、p−フェニルフェノールグリシジルエーテルが挙げられる。中でも、下記式(4)で表されるo−フェニルフェノールグリシジルエーテルが好ましい。
【0025】
【化5】

【0026】
式(4)で表されるo−フェニルフェノールグリシジルエーテルは、融点が30℃なので、室温付近では液体となりやすく、プリプレグ用樹脂組成物の粘度を効果的に低下させることができる。
【0027】
ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂は、その製造について、特に制限されない。例えば、特開平7−149913号公報に記載されている方法に従って製造することができる。
【0028】
ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂を含有することにより、(1)本発明のプリプレグ用樹脂組成物は粘度が低く、(2)本発明のプリプレグ用樹脂組成物は、硬化後、強度および伸びに優れ、Tgを低下させることがなく、(3)本発明のプリプレグ用樹脂組成物を炭素繊維に含浸させることにより得られうるプリプレグはタック、ドレープに優れ、(4)このようなプリプレグから得られうる炭素繊維強化複合材料は、強度に優れる。
【0029】
本発明のプリプレグ用樹脂組成物は、上記のエポキシ樹脂の他に、2官能のエポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂以外の1官能エポキシ樹脂を含有することができる。
【0030】
2官能型エポキシ樹脂は、エポキシ基を2個有する化合物であれば、特に制限されない。例えば、式(5)で表される化合物のようなビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、式(6)で表される化合物のようなビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のようなグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;ヒダントイン型、アニリン型、トルイジン型のようなグリシジルアミン系エポキシ樹脂が挙げられる。
【0031】
【化6】

【0032】
【化7】

【0033】
2官能のエポキシ樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂以外の1官能エポキシ樹脂としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシドールや1価のフェノールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるフェニルグリシジルエーテルが挙げられる。このような1官能エポキシ樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂の含有量は、プリプレグ用樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂全量中、3〜35質量%であるのが好ましく、3〜10質量%であるのがより好ましい。このような範囲の場合、タック、ドレープに優れ、加工性に優れる。
【0036】
芳香族アミノ化合物について、以下に説明する。
芳香族アミノ化合物は、1分子中に、少なくとも1個の芳香族炭化水素基と、少なくとも2個のアミノ基とを有する化合物である。
【0037】
芳香族アミノ化合物は、特に制限されず、例えば、下記式(7)で示される3,3′−ジアミノジフェニルスルホン(3,3′−DDS)、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン(4,4′−DDS)、3,3′−ジアミノジフェニルメタン(3,3′−DDM)、4,4′−ジアミノジフェニルメタン(4,4′−DDM)、ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリンが挙げられる。
【0038】
【化8】

【0039】
中でも、耐熱性の観点から、下記式(7)で示される3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホンが好ましい。
芳香族アミノ化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
芳香族アミノ化合物の含有量は、エポキシ樹脂全体のエポキシ当量に対する、芳香族アミノ化合物の活性水素当量の比(活性水素当量/エポキシ当量)が、0.6〜1.2であることが好ましく、0.7〜1.0であることがより好ましい。このような範囲の場合、耐熱性、強度に優れる。
【0041】
本発明のプリプレグ用樹脂組成物は、さらに、熱可塑性樹脂および/またはニトリル基を有するゴムを含有するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0042】
熱可塑性樹脂は、特に限定されない。例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレンオキシド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルホルマール、ポリフェニレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンズイミダゾール、ポリメタクリル酸メチルが挙げられる。
【0043】
熱可塑性樹脂は、本発明のプリプレグ用樹脂組成物に含有される3官能以上のエポキシ樹脂および/またはビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂と相溶しうるものが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0044】
熱可塑性樹脂は、中でも、ポリエーテルスルホンが、エポキシ樹脂との相溶性が高く、耐熱性に優れる点から好ましい。ポリエーテルスルホンとしては、例えば、下記式(8)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
【化9】

【0046】
熱可塑性樹脂の数平均分子量は、15,000〜30,000が好ましい。この範囲の場合、得られる硬化物が優れた靭性を有し、プリプレグ用樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎることがない。これらの特性により優れる点から、20,000〜25,000がより好ましい。
【0047】
熱可塑性樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
熱可塑性樹脂の含有量は、エポキシ樹脂の合計100質量部に対して、5〜70質量部であるのが好ましい。このような範囲の場合、得られる組成物の硬化物が優れた靭性を有し、機械的物性にも優れる。これらの特性により優れる点から、5〜50質量部がより好ましい。
【0049】
ニトリル基を有するゴムについて、以下に説明する。
ニトリル基を有するゴムとしては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴムのようなニトリルゴム、カルボキシ基含有ニトリルゴム、液状のカルボキシ基末端ニトリルゴム(CTBN)、アミノ末端ニトリルゴム(ATBN)または、これらの混合物が挙げられる。ニトリルゴムは、市販品を使用することができる。
ニトリル基を有するゴムとして、液状のもの、固体のものが挙げられる。固体の方がマトリックス樹脂の剛性を保持する観点から好ましい。固体のアクリロニトリル−ブタジエンゴムは、マトリックス樹脂の剛性を保持し、エポキシ樹脂との相溶性に優れることから好ましい。
【0050】
ニトリル基を有するゴムの数平均分子量は、100,000〜300,000が好ましい。この範囲の場合、得られる硬化物が優れた靭性を有し、プリプレグ用樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎることがない。
【0051】
ニトリル基を有するゴムは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
ニトリル基を有するゴムの含有量は、エポキシ樹脂の合計100質量部に対して、3〜15質量部であるのが好ましく、5〜10質量部であるのがより好ましい。このような範囲の場合、破壊靭性と機械的強度に優れる。
【0053】
ニトリル基を有するゴムは、例えば、ウレタンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリエステル系エラストマーのようなエラストマーとの混合物として使用することができる。
【0054】
また、ニトリル基を有するゴムとして、例えば、ニトリル基を有するゴムを含むコアとシェルと具備するエラストマーを使用することができる。このようなコア/シェル型のエラストマーは、エポキシ樹脂組成物中への分散性が良好である。シェルの成分としては、例えば、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、または、これらの混合物が挙げられる。コア/シェル型のエラストマーは、その製造について、特に制限されない。例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。
【0055】
プリプレグ用樹脂組成物が熱可塑性樹脂およびニトリル基を有するゴムを含有する場合、熱可塑性樹脂およびニトリル基を有するゴムの含有量は、エポキシ樹脂の合計100質量部に対して、3〜20質量部であるのが好ましく、5〜10質量部であるのがより好ましい。このような範囲の場合、破壊靭性と機械的強度に優れる。
【0056】
本発明のプリプレグ用樹脂組成物が、さらに、熱可塑性樹脂および/またはニトリル基を有するゴムを含有する場合、硬化後の衝撃強度に優れ、クラックの成長速度を遅くすることができる。
【0057】
本発明のプリプレグ用樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤等の各種添加剤等を含有することができる。
【0058】
充填剤としては、各種形状の有機または無機の充填剤が挙げられる。具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;ケイソウ土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;カーボンブラック;これらの脂肪酸処理物、樹脂酸処理物、ウレタン化合物処理物、脂肪酸エステル処理物が挙げられる。
【0059】
老化防止剤としては、具体的には、例えば、ヒンダードフェノール系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられる。
【0060】
可塑剤としては、具体的には、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP);アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル;リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル;アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステルが挙げられる。
【0061】
揺変性付与剤としては、具体的には、例えば、エアロジル(日本エアロジル(株)製)、ディスパロン(楠本化成(株)製)が挙げられる。
接着付与剤としては、具体的には、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂が挙げられる。
【0062】
難燃剤としては、具体的には、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチルメチルホスホネート、臭素原子および/またはリン原子含有化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテルが挙げられる。
帯電防止剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。
【0063】
本発明のプリプレグ用樹脂組成物は、その製造について、特に限定されない。例えば、反応容器に上記の各必須成分と任意成分とを入れ、減圧下で混合ミキサー等のかくはん機を用いて十分に混練する方法が挙げられる。
【0064】
本発明のプリプレグ用樹脂組成物は、3官能以上のエポキシ樹脂およびビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂を含有する主剤と、芳香族アミノ化合物を含有する硬化剤とを含有する1液型のプリプレグ用樹脂組成物として用いることができる。
【0065】
本発明者は、エポキシ樹脂として、3官能以上のエポキシ樹脂と、ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂とを使用することにより、(1)3官能以上のエポキシ樹脂と、ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂と、芳香族アミノ化合物とを含有するプリプレグ用樹脂組成物が低粘度となること、(2)このようなプリプレグ用樹脂組成物が、1官能エポキシ樹脂を含有するにも関わらず、硬化後、弾性率、強度および伸びに優れ、Tgが低下しにくいこと、(3)このようなプリプレグ用樹脂組成物を炭素繊維に含浸させて得られうるプリプレグが、タック、ドレープに優れること、(4)このようなプリプレグから得られうる炭素繊維強化複合材料が、耐熱性に優れ、層間せん断力を維持しつつ、引張強度に優れることを見出し、本発明を完成させたのである。
【0066】
次に、本発明のプリプレグについて説明する。
本発明のプリプレグは、本発明のプリプレグ用樹脂組成物を、炭素繊維に含浸させることにより得られうるプリプレグである。
【0067】
使用されるプリプレグ用樹脂組成物は、本発明のプリプレグ用樹脂組成物であれば特に制限されない。
【0068】
プリプレグ用樹脂組成物の含有量は、強度等の特性の観点から、プリプレグ全体の容積中、70〜35体積%であるのが好ましく、60〜40体積%であるのが好ましい。
【0069】
炭素繊維について、以下に説明する。
使用される炭素繊維は、特に限定されない。例えば、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)、ピッチ系炭素繊維が挙げられる。
炭素繊維は、その形態や配列について、特に限定されない。例えば、強化繊維を一方向に引き揃えた一方向材、製織した織物、短く裁断した強化繊維からなる不織布、組み紐、トウ、ニット、マットが挙げられる。炭素繊維の形態や配列は、使用する部位や用途に応じて自由に選択することができる。
炭素繊維の含有量は、プリプレグ全体の容積中、30〜65体積%が好ましく、40〜60体積%がより好ましい。
【0070】
本発明のプリプレグは、炭素繊維以外に、例えば、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、高強度ポリエチレン繊維、タングステンカーバイド繊維、PBO繊維、ガラス繊維、金属繊維のような強化繊維を含有することができる。
【0071】
プリプレグは、その製造について、本発明のプリプレグ用樹脂組成物を炭素繊維に含浸させるものであれば、特に制限されない。例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。
【0072】
含浸させる方法としては、例えば、ホットメルト法、ウェット法が挙げられる。
ウェット法でプリプレグの製造を行う場合は、本発明のプリプレグ用樹脂組成物を溶剤に溶解させ、ワニスを調製してから炭素繊維に含浸させる。ワニス調製時に使用する溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類の溶剤が挙げられる。溶剤の使用量は、本発明のプリプレグ用樹脂組成物100質量部に対して、1〜20質量部であるのが、乾燥工程が短くて済むので好ましい。
また、本発明のプリプレグ用樹脂組成物は低粘度なので、そのまま炭素繊維に含浸させてプリプレグを製造することができる。
【0073】
ホットメルト法でプリプレグを製造する場合、例えば、プリプレグ用樹脂組成物を先ず加熱して溶融せしめて後、樹脂が未硬化の間に離型紙上に均一に塗布して樹脂フィルムを作製し、その樹脂フィルムで炭素繊維を両面から挟み込み、次いで樹脂を加圧、加熱しながら含浸させる方法が挙げられる。
【0074】
加熱温度は、60〜150℃が好ましい。加熱温度が、60℃以上の場合、プリプレグ用樹脂組成物が炭素繊維へ十分に含浸することができ、プリプレグが適度なタックを有し取り扱い性に優れる。150℃以下の場合、プリプレグ用樹脂組成物を炭素繊維に含浸させる最中に樹脂の硬化反応が進行しすぎることがなく、プリプレグのドレープに優れる。
【0075】
プリプレグにおける炭素繊維分率は、50〜80質量%が好ましい。炭素繊維分率が50質量%以上の場合、得られる炭素繊維強化複合材料において、圧縮強度などの強度特性が優れる。また80質量%以下の場合、炭素繊維同志が擦れ合うことが少なく、繊維が疲労しにくく、耐久性の良好な炭素繊維強化複合材料が得られる。
【0076】
得られうるプリプレグは、室温での貯蔵安定性に優れており、室温下で1週間程度放置しても、タックやドレープの経時による変化は僅かであり、極めて取り扱いが容易である。
【0077】
本発明のプリプレグは、タック、ドレープに優れる。本発明のプリプレグは、強度に優れる炭素繊維強化複合材料となりうる。
【0078】
次に、本発明の炭素繊維強化複合材料について説明する。
本発明の炭素繊維強化複合材料は、本発明のプリプレグを硬化させることにより得られうる繊維強化複合材料である。
【0079】
使用されるプリプレグは、本発明のプリプレグであれば特に制限されない。
【0080】
プリプレグから炭素繊維強化複合材料を製造する方法としては、例えば、繊維の方向を少しずつ変えて、疑似的に等方性を持たせるようにして積層し、その後加熱することにより硬化せしめる方法が好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0081】
ここでの加熱温度は、100〜200℃が好ましい。加熱温度が100℃以上である場合、マトリックス樹脂の硬化反応が十分で、得られる炭素繊維強化複合材料の耐熱性、耐環境性に優れる。また、200℃以下の場合、成形温度から室温まで冷却したときの熱収縮が小さく、熱収縮を起こした場合も熱収縮を起こした箇所が欠陥部位となりにくく、耐破壊性に優れる。
【0082】
炭素繊維強化複合材料は、その成形方法について、特に制限されない。例えば、従来公知の成形方法を用いることができる。具体的には例えば、ハンドレイアップ成形、スプレイアップ成形のようなオープンモールド成形;オートクレーブ成形、真空バック成形、内圧成形、圧縮成形のようなプレス成形;レジントランスファーモールディング(RTM)、フィラメントワインディング(FW)、テープワインディング、ロールワインディング、引き抜き成形、ロールプレス連続成形、インジェクションモービル、反応射出成形(RIM)が挙げられる。
【0083】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、その用途について特に制限されない。例えば、オートバイフレーム、カウル、フェンダー等の二輪車部品;ドア、ボンネット、テールゲート、サイドフェンダー、側面パネル、フェンダー、エネルギー吸収部材、トランクリッド、ハードップ、サイドミラーカバー、スポイラー、ディフューザー、スキーキャリアー、エンジンシリンダーカバー、エンジンフード、シャシー、エアースポイラー、プロペラシャフト等の自動車部品;先頭車両ノーズ、ルーフ、サイドパネル、ドア、台車カバー、側スカートなどの車輌用外板;荷物棚、座席等の鉄道車輌部品;インテリア、ウイングトラックにおけるウイングのインナーパネル、アウターパネル、ルーフ、フロアー等、自動車や単車に装着するやサイドスカートなどのエアロパーツ;窓枠、荷物棚、座席、フロアパネル、翼、プロペラ、胴体等の航空機部品;ノートパソコン、携帯電話等の筐体用途;X線カセッテ、天板等のメディカル用途;フラットスピーカーパネル、スピーカーコーン等の音響製品用途;ゴルフヘッド、フェースプレート、スノーボード、サーフィンボード、プロテクター等のスポーツ用品用途;板バネ、風車ブレード、エレベーター(籠パネル、ドア)のような一般産業用途が挙げられる。
【0084】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、層間せん断力を維持しつつ、引張強度に優れる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.プリプレグ用樹脂組成物の調製
下記第1表の各成分を、第1表に示す組成(質量部)で、かくはん機を用いて混合し、第1表に示される各組成物を得た。
【0086】
3.プリプレグ用樹脂組成物の硬化
得られた各プリプレグ用樹脂組成物を180℃で2時間硬化させて試験片とした。
【0087】
(1)ガラス転移温度(Tg)
粘弾性測定装置(DMA)(TAインスツルメント社製、RDS−II)により、周波数1Hz、歪0.01%の条件で、得られた各試験片を昇温速度5℃/分で室温から250℃まで加熱してガラス転移温度(℃)を測定した。結果を第1表に示す。ガラス転移温度(Tg)が高いほど耐熱性に優れる。
【0088】
(2)曲げ弾性率、曲げ強度
得られた各試験片を用いて、JIS K7171−1994に準じて、各試験片の曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。結果を第1表に示す。
【0089】
(3)破壊靭性値KIC
得られた各プリプレグ用樹脂組成物を180℃で2時間硬化させて、厚さ7mmの樹脂板を作成し、この樹脂板を用いてASTMD5045−96に記載の方法に準拠して、片側ノッチ付き3点曲げ試験によって破壊時の応力を測定した。結果を第1表に示す。
【0090】
4.プリプレグの作製
各プリプレグ用樹脂組成物をリバースロールコーターを用いて離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。次に、この樹脂フィルム2枚で、シート状に一方向に配列させた炭素繊維(トレカ(登録商標)T−700、東レ(株)製、引張弾性率230GPa)の両面を挟み込むように重ね合わせた。その後、加熱加圧して炭素繊維に樹脂を含浸させ、炭素繊維の目付量が196±5g/cm2、マトリックス樹脂の質量分率が34%の一方向プリプレグを得た。
【0091】
5.プリプレグの評価
(1)タック
得られた一方向プリプレグを2枚積層して、約0.5mmの板状とした後、タック(粘着力)の有無を指触にて10段階評価した。評価は、25℃で行った。結果を第1表に示す。なお、タックの10段階評価の詳細を下記に示す。タックの評価の数値が高いほど、プリプレグ用樹脂組成物の粘度が低く好ましい。タックの評価の数値が6〜9であるのが実施のうえで好ましい。
【0092】
タックの10段階評価の詳細は下記のとおりである。
10:べとべとで、はり合わせたときにはがすことができない。
9:8よりも10に近づいている。
8:7よりも10に近づいている。
7:6よりも10に近づいている。
6:5よりも10に近づいている。
5:比較例1のプリプレグのタック。
4:5よりも1に近づいている。
3:4よりも1に近づいている。
2:3よりも1に近づいている。
1:はり合わせることが全くできない。
【0093】
(2)ドレープ
得られた一方向プリプレグを手で曲げて、ドレープの有無(プリプレグのしなやかさ)を指触にて10段階評価した。評価は、25℃で行った。結果を第1表に示す。なお、ドレープの10段階評価の詳細を下記に示す。ドレープの評価の数値が高いほど、プリプレグ用樹脂組成物の粘度が低く、炭素繊維のしなやかさに近いので好ましい。ドレープの評価の数値が6〜9であるのが実施のうえで好ましい。
【0094】
ドレープの10段階評価の詳細は下記のとおりである。
10:もとの炭素繊維に近いドレープ。
9:8よりも10に近づいている。
8:7よりも10に近づいている。
7:6よりも10に近づいている。
6:5よりも10に近づいている。
5:比較例1のプリプレグのドレープ。
4:5よりも1に近づいている。
3:4よりも1に近づいている。
2:3よりも1に近づいている。
1:折り曲げると樹脂が壊れるぐらいのドレープ。全くドレープ性がない。
【0095】
6.炭素繊維強化複合材料の作製
得られた一方向プリプレグを、炭素繊維の方向が同一となるように10枚積層して積層物とし、積層物をオートクレーブを用いて180℃で2時間、0.6MPaの加圧下で、昇温速度2℃/分で成形し、板状の炭素繊維強化複合材料を得た。
【0096】
7.炭素繊維強化複合材料の評価
(1)90°引張強度
得られた板状の炭素繊維強化複合材料から長さ250mm、幅25mm、厚さ2.0mmの試験片を作製し、オートグラフを用いてEN2597に準じ、グリップ長さ50mm、試験速度0.5mm/分の条件で繊維方向に対する90°の引張試験を行った。得られた破断時の荷重を、90°引張強度(MPa)=〔破断時の荷重/断面積(試験片の幅×試験片の厚さ)〕の式に当てはめて、90°引張強度を求めた。結果を第1表に示す。数値が高いほど90°引張強度に優れる。
【0097】
(2)層間せん断強度
得られた板状の炭素繊維強化複合材料から長さ20mm、幅10mm、厚さ2.0mmの試験片を作製し、オートグラフを用いてEN2563に準じて、スパン長10mm、試験速度1mm/分の条件で3点曲げによる層間せん断強度試験を行った。得られた破断時の荷重を、層間せん断強度(MPa)=〔3/4×破断時の荷重÷断面積(試験片の幅×試験片の厚さ)〕の式に当てはめて、層間せん断強度を求めた。結果を第1表に示す。数値が高いほど層間せん断強度に優れる。
【0098】
【表1】

【0099】
第1表中の各成分は、下記のとおりである。
・4官能エポキシ樹脂〔式(1)で表されるエポキシ樹脂〕:ELM−434、住友化学工業社製
【0100】
【化10】

【0101】
・3官能エポキシ樹脂〔式(2)で表されるエポキシ樹脂〕:MY−0510、ハンツマンアドバンストマテリアル社製
【0102】
【化11】

【0103】
・2官能性エポキシ樹脂1〔式(5)で表されるエポキシ樹脂〕:YD−8125、東都化成社製
【0104】
【化12】

【0105】
・2官能性エポキシ樹脂2〔式(6)で表されるエポキシ樹脂〕:YX−4000、ジャパンエポキシレジン社製
【0106】
【化13】

【0107】
・ビフェニルエポキシ樹脂〔式(4)で表されるo−フェニルフェノールグリシジルエーテル〕:OPP−G、三光社製
【0108】
【化14】

【0109】
・フェニルグリシジルエーテル:式(9)で表されるエポキシ樹脂、東京化成工業社製
【0110】
【化15】

【0111】
・3,3′−DDS:3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化工業社製
・PES:ポリエーテルスルホン、住友化学工業社製
【0112】
第1表に示す結果から明らかなように、実施例のプリプレグ用樹脂組成物から得られる硬化物は、比較例の硬化物より高い曲げ弾性率、曲げ強度および破壊靭性値を有し、ガラス転移温度を低下させることがない。また、実施例2、3のようにビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂を多く添加しても、曲げ弾性率、曲げ強度、破壊靭性値に優れ、ガラス転移温度(Tg)は略同等以上であることが分かる。
【0113】
プリプレグについて、実施例は、比較例に比べて、タックおよびドレープの評価数値が高いことから、本発明のプリプレグはタックが少なく、炭素繊維に近いしなやかさを有すること、および、本発明のプリプレグ用樹脂組成物は粘度が低いことが分かる。また、実施例4〜5のようにプリプレグ用樹脂組成物に熱可塑性樹脂をさらに多く添加して、プリプレグ用樹脂組成物中の液状物の割合が低くなっても、プリプレグはタックおよびドレープに優れる。
【0114】
炭素繊維強化複合材料について、実施例は、比較例に比べて、層間せん断強度をほぼ同等に維持し、90°引張強度に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3官能以上のエポキシ樹脂と、ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂と、芳香族アミノ化合物とを含有するプリプレグ用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ビフェニル骨格を有する1官能のエポキシ樹脂の含有量が、エポキシ樹脂全量中、3〜35質量%である請求項1に記載のプリプレグ用樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、熱可塑性樹脂および/またはニトリル基を有するゴムを含有する請求項1または2に記載のプリプレグ用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のプリプレグ用樹脂組成物を炭素繊維に含浸させることにより得られうるプリプレグ。
【請求項5】
請求項4に記載のプリプレグを硬化させることにより得られうる炭素繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2006−265458(P2006−265458A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88543(P2005−88543)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】