説明

プリプレグ積層ヘッド及びこれを備えたプリプレグ自動積層装置

【課題】被積層体(ワーク)の積層対象ピースに貼り付けて積層するプリプレグシートの裁断ピースのみを積層シューで押圧することを可能にし、裁断ピースを所定位置に正確に位置決めすることを可能にするプリプレグ積層ヘッド及びこれを備えたプリプレグ自動積層装置を提供する。
【解決手段】プリプレグ積層体の長さ方向T1に交差する方向に繊維方向T2を向けてプリプレグシート8を積層するためのプリプレグ積層ヘッドを、被積層体Wの幅方向両外側にそれぞれ配設され、プリプレグシート8を被積層体W上に重ねるように案内する一対のガイドローラと、一対のガイドローラの間に繊維方向T2に進退自在に配設され、一対のガイドローラの間に案内されたプリプレグシート8を一面側から押圧して被積層体Wに貼り付けるための積層シュー31とを備えて構成する。そして、積層シュー31をプリプレグシート8の幅方向に分割して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維シートに樹脂を含浸させたプリプレグシートを積層してプリプレグ積層体を形成するためのプリプレグ積層ヘッド及びこれを備えたプリプレグ自動積層装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維シートに樹脂を含浸させたプリプレグシート(FRPシート)を複数積層してプリプレグ積層体を製造(複合材を形成)し、このプリプレグ積層体を用いて、航空機の胴体や主翼などを製作(形成)することが行われている。また、繊維として、軽量、且つ高強度・高弾性といった優れた特長を有することから炭素繊維が多用されている。
【0003】
また、プリプレグシートは、繊維シートが多数の繊維の繊維方向を揃えて形成され、且つ含浸樹脂に紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂を用い、繊維シートに含浸させた状態で樹脂を半硬化(不完全硬化、未硬化)の状態にして形成されている。このため、プリプレグシートには、その一面(あるいは両面)に剥離紙が取り付けられている。
【0004】
そして、プリプレグ積層体は、プリプレグシートから剥離紙を取り除き、繊維方向を交差させながら複数のプリプレグシートを一体に積層して製造(形成)される。すなわち、繊維方向を0度方向に向けたプリプレグシート(0度層)の上に、繊維方向を例えば45度方向や90度方向に向けたプリプレグシート(角度層)を、さらにその上に繊維方向を0度方向に向けたプリプレグシート(0度層)を積層してゆき、このように先行して積層したプリプレグシートで一体形成されたワーク(被積層体)に順次繊維方向を交差させながら所要枚数のプリプレグシートを積層することによってプリプレグ積層体が製造される。
【0005】
一方、高速で効率よく平板状のプリプレグ積層体を製造するために、プリプレグ自動積層装置が提案、実用化されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0006】
このプリプレグ自動積層装置Aは、例えば図5に示すように、架台1上に設けられ、一方向T1に進退自在に載置された積層テーブル2と、積層テーブル2を間にして架設され、一方向T1に間隔をあけて配設された一対の門型支柱3、4と、一方の門型支柱3に支持されて積層テーブル2の上方に配設された0度層用積層ヘッド5と、他方の門型支柱4に上下方向に延びる軸線周りに回転可能に支持されて積層テーブル2の上方に配設された角度層用積層ヘッド(プリプレグ積層ヘッド)6とを備えて構成されている。
【0007】
また、0度層用積層ヘッド5は、一面に剥離紙7を取り付けた状態のプリプレグシート8が巻き回された供給ローラ9と、供給ローラ9から繰り出されたプリプレグシート8を巻き掛けて支持する支持ローラ10と、供給ローラ9と支持ローラ10の間に設けられ、剥離紙7を裁断することなく、プリプレグシート8のみを所定の長さ毎に(ワークの積層対象ピースの大きさに合わせて)裁断するダイカッター11と、支持ローラ10から送られたプリプレグシート8を積層テーブル2上のワークに積層するように一方向T1に案内するとともに、このプリプレグシート8を一面側から押圧してワークに貼り付けるための前押さえローラ12と、前押さえローラ12を通過したプリプレグシート8を再度押圧しつつプリプレグシート8から剥離紙7を剥離させるための後押さえローラ13と、プリプレグシート8から剥離した剥離紙7を回収する剥離紙回収ローラ14とを備えて構成されている。
【0008】
一方、角度層用積層ヘッド6は、一面に剥離紙7を取り付けた状態のプリプレグシート8が巻き回された供給ローラ15と、供給ローラ15から繰り出されたプリプレグシート8を巻き掛けて支持する支持ローラ16と、供給ローラ15と支持ローラ16の間に設けられ、剥離紙7を裁断することなく、プリプレグシート8のみを所定の長さ毎に(ワークの積層対象ピースの大きさに合わせて)裁断するダイカッター17と、支持ローラ16から送られたプリプレグシート8をワーク上に重ねるように案内するガイドローラ18aと、ガイドローラ18aとともにプリプレグシート8をワーク上に重ねるように案内し、且つプリプレグシート8から剥離紙7を剥離させるためのスクレーパーローラ(ガイドローラ)18bと、ガイドローラ18aとスクレーパーローラ18bの間に進退自在に設けられ、支持ローラ16から送られたプリプレグシート8を押圧して積層テーブル2上のワークに貼り付けるための積層シュー19と、剥離紙7を回収する剥離紙回収ローラ20とを備えて構成されている。
【0009】
そして、0度層用積層ヘッド5でワークにプリプレグシート8を積層する際には、剥離紙回収ローラ14を回転させるとともに剥離紙7が引っ張られ、供給ローラ9からプリプレグシート8が繰り出される。また、供給ローラ9から繰り出すとともに、ダイカッター11によってプリプレグシート8のみが所定の長さ毎に裁断される。このように裁断したプリプレグシート8が支持ローラ10を通じてワークの上面に沿うように送られ、前押さえローラ12によって剥離紙7側からワークに押圧(一次転圧)される。これにより、ダイカッター11で裁断して分割したプリプレグシート8の裁断ピースがワークの積層対象ピースに重ねて貼り付けられ、一体に積層される。また、後押さえローラ13を通過するとともに、ワークに貼り付けられたプリプレグシート8が再度押圧(二次転圧)され、且つプリプレグシート8から剥離紙7が引き剥がされて剥離紙回収ローラ14に巻き取られる。このようにして、繊維方向をワークの長さ方向(プリプレグ積層体の長さ方向、積層テーブル2の搬送方向、一方向T1)に向けた0度層のプリプレグシート8が0度層用積層ヘッド5によってワークに積層される。
【0010】
一方、図5及び図6に示すように、0度層用積層ヘッド5でプリプレグシート8を積層したワークWは、積層テーブル2によって角度層用積層ヘッド6側に搬送される。そして、この角度層用積層ヘッド6でワークWにプリプレグシート8を積層する際には、角度層用積層ヘッド6を回転させ、ワークWの長さ方向(積層テーブル2の搬送方向、一方向T1)に対して例えば45度や90度の所定の交差角度になるように配設し、この状態で剥離紙回収ローラ20を回転させる。これとともに剥離紙7が引っ張られて供給ローラ15からプリプレグシート8が繰り出され、ダイカッター17によってプリプレグシート8のみが所定の長さ毎に裁断される。このとき、ワークWの積層対象ピースR1に応じた形状(例えば45度層をワークWに積層形成する場合には菱形状)で分割するように、プリプレグシート8が裁断される。
【0011】
このようにプリプレグシート8が支持ローラ16からガイドローラ18a及びスクレーパーローラ18bによってワークWの上面に沿うように送られた段階で、積層シュー19がプリプレグシート8を押圧しつつプリプレグシート8の繊維方向(交差方向)T2に移動する。これにより、ダイカッター17で裁断して分割したプリプレグシート8の裁断ピースS1がワークWの積層対象ピースR1に重ねて貼り付けられ、一体に積層される。また、スクレーパーローラ18bを通過するとともに、ワークWに貼り付けたプリプレグシート8から剥離紙7のみが引き剥がされ、剥離紙回収ローラ20に巻き取られる。このようにして、ワークWの長さ方向(ひいては0度層のプリプレグシート8の繊維方向T1)に対して繊維方向T2が交差する角度層のプリプレグシート8が角度層用積層ヘッド6によってワークWに積層される。
【0012】
そして、上記のように0度層用積層ヘッド5と角度層用積層ヘッド6によって順次プリプレグシート8を繊維方向T1、T2を交差させながら積層してプリプレグ積層体が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−17625号公報
【特許文献2】特開2004−17633号公報
【特許文献3】特開2004−181683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記従来のプリプレグ自動積層装置Aにおいては、角度層用積層ヘッド6の積層シュー19が1本の棒状に形成されている。このため、積層シュー19がプリプレグシート8の繊維方向T2に進退移動して、ワークWの積層対象ピースR1にプリプレグシート8の裁断ピースS1を貼り付けて積層する際には、図6に示すように、次に貼り付ける裁断ピースS2も押圧することになる。また、次の裁断ピースS2の大面積の領域Mを押圧することになってしまう。そして、このように貼り付け対象ではない次の裁断ピースS2が押圧されると、この裁断ピースS2の剥離紙7がプリプレグシート8から部分的に剥離して浮きやよれが発生し、ぶかぶかな状態になってしまう。
【0015】
このため、剥離紙回収ローラ20を回転させて剥離紙7を引っ張り、次の裁断ピースS2をワークWの次の積層対象ピースR2の上に重ねて配置する際に、この裁断ピースS2の剥離紙7がぶかぶかな状態であるが故に、裁断ピースS2を所定位置に正確に位置決めして配置することができなくなるという問題があった。
【0016】
なお、棒状の積層シュー19をワークWの積層対象ピースR1の領域内に配置し、次の裁断ピースS2を押圧しないように積層シュー19を進退させてプリプレグシート8の裁断ピースS1を部分的にワークWに貼り付けておき、0度層用積層ヘッド5でプリプレグシート8を積層する際に、押圧されていない角度層のプリプレグシート8を同時に押圧して貼り付けることも考えられる。しかしながら、この場合には、角度層用積層ヘッド6で押圧されない領域が例えば領域Mと略同面積になるため、すなわち、交差角度が小さくなるほどに大面積の領域が押圧されていない状態で残るため、0度層用積層ヘッド5によるプリプレグシート8の積層と同時に、角度層の押圧されていない領域を完全に(好適に)貼り付けることは難しく、やはり製品の品質を確保することができなくなってしまう。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑み、被積層体(ワーク)の積層対象ピースに貼り付けて積層するプリプレグシートの裁断ピースのみを積層シューで押圧することを可能にし、裁断ピースを所定位置に正確に位置決めすることを可能にするプリプレグ積層ヘッド及びこれを備えたプリプレグ自動積層装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0019】
本発明のプリプレグ積層ヘッドは、繊維シートに樹脂を含浸させたプリプレグシートを複数積層してプリプレグ積層体を形成する際に用いられ、前記プリプレグ積層体の長さ方向に交差する方向に繊維方向を向けて前記プリプレグシートを積層するためのプリプレグ積層ヘッドであって、前記プリプレグシートは、一面に剥離紙が取り付けられており、被積層体の幅方向両外側にそれぞれ配設され、前記プリプレグシートを前記被積層体上に重ねるように案内する一対のガイドローラと、前記一対のガイドローラの間に前記繊維方向に進退自在に配設され、前記一対のガイドローラの間に案内された前記プリプレグシートを一面側から押圧して前記被積層体に貼り付けるための積層シューとを備え、前記積層シューが前記プリプレグシートの幅方向に分割して形成されていることを特徴とする。
【0020】
この発明においては、積層シューがプリプレグシートの幅方向に分割して形成されているため、例えば被積層体(ワーク)の長さ方向に対して45度の小さな交差角度で角度層のプリプレグシートを被積層体に積層する場合に、積層シューを分割して形成した各分割シューの位置をプリプレグシートの繊維方向にずらして配置することが可能になる。このため、プリプレグシートを押圧する各分割シューの押圧部(プリプレグシートの一面側に当接する先端部分(下端部分))を被積層体の積層対象ピース上に配置することが可能になる。これにより、プリプレグシートの次の裁断ピースが押圧されて剥離紙が剥離し、ぶかぶかな状態になることを防止できる。
【0021】
また、本発明のプリプレグ積層ヘッドにおいては、前記積層シューを分割して形成した複数の分割シューがそれぞれ、上下方向に延びる中心軸線周りに回動可能に支持して設けられていることが望ましい。
【0022】
この発明においては、各分割シューを上下方向に延びる中心軸線周りに回動させることができるため、交差角度の大小を問わず、各分割シューの向きを容易にプリプレグシートの繊維方向に合わせることができる。これにより、各分割シュー(積層シュー)を進退させて好適に角度層のプリプレグシートを被積層体に積層することが可能になる。
【0023】
さらに、本発明のプリプレグ積層ヘッドにおいては、前記複数の分割シューを同期してそれぞれ前記中心軸線周りに回動させる分割シュー回動機構を備えていることがより望ましい。
【0024】
この発明においては、分割シュー回動機構によって複数の分割シューを同期して回動させることができるため、さらに容易に各分割シューの向きをプリプレグシートの繊維方向に合わせることができる。
【0025】
また、本発明のプリプレグ積層ヘッドにおいては、前記一対のガイドローラの間に前記プリプレグシートの一面から前記剥離紙を剥離させるためのスクレーパーローラが設けられていることが望ましい。
【0026】
この発明においては、積層シューで被積層体に積層したプリプレグシートの一面から剥離紙を剥離させ(引き剥がし)、回収することが可能になる。
【0027】
本発明のプリプレグ自動積層装置は、繊維シートに樹脂を含浸させて形成したプリプレグシートを複数積層してプリプレグ積層体を形成するためのプリプレグ自動積層装置であって、上記のいずれかのプリプレグ積層ヘッドを備えていることを特徴とする。
【0028】
この発明においては、上記のプリプレグ積層ヘッドによる作用効果を得ることが可能になる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のプリプレグ積層ヘッド及びプリプレグ自動積層装置においては、プリプレグ積層ヘッドの積層シューがプリプレグシートの幅方向に分割して形成されているため、例えば被積層体(ワーク)の長さ方向に対して45度の小さな交差角度で角度層のプリプレグシートを被積層体に積層する場合に、積層シューを分割して形成した各分割シューの位置をプリプレグシートの繊維方向にずらして配置することが可能になる。このため、プリプレグシートを押圧する各分割シューの押圧部を被積層体の積層対象ピース上に配置することが可能になる。これにより、プリプレグシートの次の裁断ピースが押圧されて剥離紙が剥離し、ぶかぶかな状態になることを防止できる。
【0030】
これにより、本発明のプリプレグ積層ヘッド及びプリプレグ自動積層装置によれば、プリプレグシートの裁断ピースを所定位置に正確に位置決めして配置することができ、高品質の製品を製造(プリプレグ積層体を形成)することが可能になる。
【0031】
また、このように各分割シューの押圧部を被積層体の積層対象ピース上に配置した場合には、プリプレグシートを一面側から押圧しつつ繊維方向に各分割シュー(積層シュー)を進退させてプリプレグシートの裁断ピースを被積層体の積層対象ピースに積層する際に、従来と同様、交差角度が小さいと、押圧されていない状態で残る領域が発生する。これに対し、各分割シューの位置を繊維方向にずらして配置できるため、押圧されずに残る領域を最小限に抑えることが可能になる。このため、被積層体の長さ方向に繊維方向を向けてプリプレグシートを積層するプリプレグ積層ヘッド(0度層用積層ヘッド)によるプリプレグシートの積層と同時に、押圧されていない領域を好適に貼り付けることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来のプリプレグ自動積層装置の0度層用積層ヘッド及び本発明の一実施形態に係るプリプレグ自動積層装置の0度層用積層ヘッドを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るプリプレグ積層ヘッド(角度層用積層ヘッド)を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るプリプレグ積層ヘッド(角度層用積層ヘッド)の積層シューを示す平面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るプリプレグ積層ヘッド(角度層用積層ヘッド)の積層シューの分割シューを示す側面図である。
【図5】プリプレグ自動積層装置を示す斜視図である。
【図6】従来のプリプレグ積層ヘッド(角度層用積層ヘッド)の積層シューを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図1から図5を参照し、本発明の一実施形態に係るプリプレグ積層ヘッド及びこれを備えたプリプレグ自動積層装置について説明する。本実施形態は、繊維シートに樹脂を含浸させたプリプレグシートを積層してプリプレグ積層体を製造(形成)するためのプリプレグ積層ヘッド及びこれを備えたプリプレグ自動積層装置に関するものである。なお、本実施形態では、図5及び図6に示したプリプレグ積層ヘッド(0度層用積層ヘッド5、角度層用積層ヘッド6)及びプリプレグ自動積層装置Aと同様の構成に対して同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0034】
本実施形態のプリプレグ自動積層装置Bは、図5に示したプリプレグ自動積層装置Aと同様に、架台1上に設けられ、一方向T1に進退自在に載置された積層テーブル2と、積層テーブル2を間にして架設され、一方向T1に間隔をあけて配設された一対の門型支柱3、4と、一方の門型支柱3に支持されて積層テーブル2の上方に配設された0度層用積層ヘッド25と、他方の門型支柱4に上下方向に延びる軸線周りに回転可能に支持されて積層テーブル2の上方に配設された角度層用積層ヘッド(本発明に係るプリプレグ積層ヘッド)26とを備えて構成されている。
【0035】
はじめに、0度層用積層ヘッド25は、図1(b)に示すように、供給ローラ9と、支持ローラ10と、ロータリーダイカッター11と、前押さえローラ12と、後押さえローラ13と、プリプレグシート8から剥離した剥離紙7を回収する剥離紙回収ローラ14とを備えて構成されている。
【0036】
さらに、本実施形態の0度層用積層ヘッド25は、図1(a)に示した従来の0度層用積層ヘッド5と異なり、前押さえローラ12と後押さえローラ13の間でプリプレグシート8の一面から剥離紙7を引き剥がし、引き剥がした剥離紙7を後押さえローラ13でプリプレグシート8を押圧するとともにプリプレグシート8の一面に貼り付けて戻すように案内する剥離紙先行剥離手段27を備えて構成されている。
【0037】
また、この剥離紙先行剥離手段27は、剥離紙ガイドローラ28とスクレーパーローラ29とを備えて構成されている。剥離紙ガイドローラ28は、前押さえローラ12と後押さえローラ13よりも上方に配設され、前押さえローラ12と後押さえローラ13の間の剥離紙7を巻き掛けて設けられている。
【0038】
スクレーパーローラ29は、前押さえローラ12と剥離紙ガイドローラ28の前記一方向T1の間に、且つ剥離紙ガイドローラ28よりも下方に配設され、前押さえローラ12を通過したプリプレグシート8の一面から剥離紙7を引き剥がして剥離紙ガイドローラ28に案内するように配設されている。
【0039】
このように構成した本実施形態の0度層用積層ヘッド25においては、前押さえローラ12と後押さえローラ13の間に剥離紙先行剥離手段27が設けられていることにより、後押さえローラ13で剥離紙7を引き剥がす前に、前押さえローラ12と後押さえローラ13の間で剥離紙7を引き剥がすことができる。また、このように剥離紙先行剥離手段27で一度引き剥がした剥離紙7が後押さえローラ13に戻すように案内され、後押さえローラ13でプリプレグシート8を押圧するとともにプリプレグシート8の一面に貼り付けられるため、従来と同様にこの剥離紙7を介してプリプレグシート8を後押さえローラ13で押圧し、ワークWに一体に積層することが可能になる。
【0040】
そして、後押さえローラ13で案内されてプリプレグシート8の一面から剥離紙7を引き剥がす際には、剥離紙先行剥離手段27によって、一度、剥離紙7がプリプレグシート8から引き剥がされているため、プリプレグシート8と剥離紙7の粘着力が弱められ、容易に剥離紙7をプリプレグシート8の一面から剥離させることが可能になる。このため、図1(a)に示した従来の0度層用積層ヘッド5のように後押さえローラ13を通過して剥離紙7が引き剥がされるとともにプリプレグシート8の裁断端末部PがワークWから引き剥がされ、跳ね上がりが発生することを防止できる。
【0041】
このため、プリプレグシート8の裁断端末部Pの跳ね上がりに起因して表面が凸凹状で形成されたり、裁断端末部Pに折れ曲がりが生じることがなく、高品質の製品を製造(プリプレグ積層体を形成)することが可能になる。
【0042】
また、剥離紙先行剥離手段27が、前押さえローラ12と後押さえローラ13よりも上方に配設され、前押さえローラ12と後押さえローラ13の間の剥離紙7を巻き掛けて設けられた剥離紙ガイドローラ28を備えて構成されているため、前押さえローラ12を通過するとともにプリプレグシート8の一面から剥離紙7を確実に引き剥がすことが可能になる。さらに、剥離紙ガイドローラ28で剥離紙7を案内させて確実且つ容易に後押さえローラ13に剥離紙7を戻すことが可能になる。
【0043】
また、前押さえローラ12と剥離紙ガイドローラ28の間に、且つ剥離紙ガイドローラ28よりも下方にスクレーパーローラ29が設けられているため、より確実に前押さえローラ12を通過したプリプレグシート8の一面から剥離紙7を引き剥がすことが可能になる。
【0044】
なお、前押さえローラ12と剥離紙ガイドローラ13の間に、且つ剥離紙ガイドローラ28よりも下方に設けられて、前押さえローラ12を通過したプリプレグシート8から剥離紙7を引き剥がすことが可能であれば、スクレーパーローラ29ではなく他のスクレーパーを用いるようにしてもよい。また、剥離紙ガイドローラ28のみで剥離紙先行剥離手段27を構成するようにしてもよい。さらに、前押さえローラ12は、プリプレグシート8をワークWに積層するように一方向T1に案内することが可能であればよく、必ずしもプリプレグシート8を押圧してワークWに貼り付ける機能を備えていなくてもよい。
【0045】
一方、角度層用積層ヘッド26は、図2及び図5に示すように、供給ローラ15と、支持ローラ16と、ロータリーダイカッター17と、ワークWの幅方向両外側にそれぞれ配設され、支持ローラ16から送られたプリプレグシート8をワークW上に重ねるように案内する一対のガイドローラ18a、18bと、一対のガイドローラ18a、18bの間に設けられ、プリプレグシート8の一面から剥離紙7を剥離させるためのスクレーパーローラ30と、支持ローラ16側の一方のガイドローラ18aとスクレーパーローラ30の間に配設されるとともにプリプレグシート8の繊維方向T2に進退自在に配設され、一対のガイドローラ18a、18bの間に案内されたプリプレグシート8を一面側から押圧してワークWに貼り付けるための積層シュー31と、剥離紙7を回収する剥離紙回収ローラ20とを備えて構成されている。
【0046】
また、本実施形態の角度層用積層ヘッド26においては、図3に示すように、積層シュー31がプリプレグシート8の幅方向に分割して形成されている。すなわち、本実施形態の積層シュー31は、複数のブロック状の分割シュー32を並設して構成されている。また、各分割シュー32は、図4に示すように、並設方向を向く側面視で先端(下端)が下方に凸の円弧状に形成されている。また、各分割シューは、図2から図4に示すように、上下方向の中心軸線O1上に配され、後端(上端)から上方に突出する回動軸32aを設けて形成されている。
【0047】
さらに、これら複数の分割シュー32はそれぞれ、回動軸32aが支持されて中心軸線O1周りに回動可能に設けられている。また、複数の分割シュー32は、図3に示すように、分割シュー回動機構33によって同期してそれぞれ中心軸線O1周りに回動するように設けられている。分割シュー回動機構33は、各分割シュー32に回動自在に繋げた棒状の連動部材33aを備えて構成され、連動部材33aをその延設方向に進退させることにより、複数の分割シュー32を同期して回動させるように構成されている。また、角度層用積層ヘッド26(供給ローラ15と支持ローラ16と一対のガイドローラ18a、18bとロータリーダイカッター17とスクレーパーローラ30と剥離紙回収ローラ20)が上下方向に延びる回転軸線周りに回転すると、これに同期して連動部材33aを進退させ、ひいては複数の分割シュー32を角度層用積層ヘッド26の回転に同期して回動させるように構成されている。このとき、分割シュー回動機構33は、プリプレグシート8を押圧する各分割シュー32の押圧部32b(プリプレグシート8の一面側に当接する先端部分(下端部分))の延設方向が一対のガイドローラ18a、18bで案内されて送られるプリプレグシート8の繊維方向T2に直交するように、角度層用積層ヘッド26の回転に同期して連動部材33aを進退させ、ひいては複数の分割シュー32を回動させる。
【0048】
そして、このように構成した本実施形態の角度層用積層ヘッド26で角度層のプリプレグシート8をワークWに積層する際には、角度層用積層ヘッド26を上下方向に延びる回転軸線周りに回転させ、一対のガイドローラ18a、18bで案内されるプリプレグシート8の繊維方向T2がワークWの長さ方向に対して所定の交差角度で交差するように配置する。
【0049】
これとともに、分割シュー回動機構33によって、プリプレグシート8の繊維方向T2に押圧部32bの延設方向が直交するように各分割シュー32が回動する。さらに、このとき、複数の分割シュー32は、図3に示すように、スクレーパーローラ30側に配置され、各分割シュー32の押圧部32bの一端部がワークWの一側端部上に位置し、且つ押圧部32bの他端部がワークW上に位置する初期位置に配置される。すなわち、本実施形態の積層シュー31は、従来の積層シュー19のように1本の棒状ではなく、複数のブロック状の分割シュー32に分割して形成されているため、各分割シュー32の位置をプリプレグシート8の繊維方向T2にずらして配置することができる。このため、各分割シュー32の押圧部32bの一端部をワークWの一側端部上に位置させた状態で、各分割シュー32の押圧部32bの他端部ひいては押圧部32b全体をワークW上に位置させることが可能になる。
【0050】
そして、本実施形態の積層シュー31によって、ワークWの積層対象ピースR1にプリプレグシート8の裁断ピースS1を貼り付けて積層する際には、積層シュー31を下げ、各分割シュー32の押圧部32bを当接させてプリプレグシート8を一面側から押圧しつつ、積層シュー31(複数の分割シュー32)を初期位置から前方に進出させる。これにより、ワークWの積層対象ピースR1にプリプレグシート8の裁断ピースS1が貼り付けられる。
【0051】
また、このようにプリプレグシート8の裁断ピースS1の貼り付けが終わると、積層テーブル2によってワークWの次の積層対象ピースR2が角度層用積層ヘッド26の直下の所定位置に搬送される。さらに、角度層用積層ヘッド26の剥離紙回収ロール20を回転させて剥離紙7を引っ張り、次の裁断ピースS2がワークWの次の積層対象ピースR2の上に重ねて配置される。このとき、本実施形態の角度層用積層ヘッド26は、一対のガイドローラ18a、18bの間にスクレーパーローラ30を備えているため、ワークWに貼り付けたプリプレグシート8の一面から確実に剥離紙7が引き剥がされて、剥離紙回収ロール20に巻き取られてゆく。
【0052】
また、次の裁断ピースS2がワークWの次の積層対象ピースR2の上に重ねて配置された段階で、前方に進出させた積層シュー31を、プリプレグシート8を一面側から押圧しつつ初期位置に戻すように後退させる。これにより、ワークWの次の積層対象ピースR2にプリプレグシート8の裁断ピースS2が貼り付けられる。
【0053】
そして、このように複数の分割シュー32を初期位置から前進させ、また、初期位置に後退させながら角度層のプリプレグシート8を積層してゆくため、プリプレグシート8の次の裁断ピースS2を積層シュー31で押圧することがなく、従来の角度層用積層ヘッド6を用いた場合のように、次の裁断ピースS2が押圧されて剥離紙7が剥離し、ぶかぶかな状態になることがない。これにより、プリプレグシート8の裁断ピースS2が所定位置に正確に位置決めして配置され、高品質の製品が製造(プリプレグ積層体が形成)されることになる。
【0054】
一方、初期位置で各分割シュー32の押圧部32bをワークWの積層対象ピースR1上に配置した場合には、交差角度が小さいと、図3に示すように、押圧されていない状態で残る領域Nが発生する。しかしながら、各分割シュー32の位置を繊維方向T2にずらして配置できることで、押圧されずに残る領域Nが最小限に抑えられる。このため、ワークWの長さ方向に繊維方向T1を向けてプリプレグシート8を積層する0度層用積層ヘッド25によってさらにプリプレグシート8を積層する際に、角度層のプリプレグシート8の押圧されずに残った領域Nも同時に押圧されて、確実に貼り付けられることになる。
【0055】
したがって、本実施形態のプリプレグ積層ヘッド(角度層用積層ヘッド)26及びこれを備えたプリプレグ自動積層装置Bにおいては、積層シュー31がプリプレグシート8の幅方向に分割して形成されているため、例えばワークWの長さ方向に対して45度の小さな交差角度で角度層のプリプレグシート8をワークWに積層する場合に、積層シュー31を分割して形成した各分割シュー32の位置をプリプレグシート8の繊維方向T2にずらして配置することが可能になる。このため、プリプレグシート8を押圧する各分割シュー32の押圧部32bをワークWの積層対象ピースR1上に配置することが可能になる。これにより、プリプレグシート8の次の裁断ピースS2が押圧されて剥離紙7が剥離し、ぶかぶかな状態になることを防止できる。
【0056】
また、複数の分割シュー32がそれぞれ、上下方向に延びる中心軸線O1周りに回動可能に支持して設けられ、各分割シュー32を中心軸線O1周りに回動させることができるため、交差角度の大小を問わず、各分割シュー32の向きを容易にプリプレグシート8の繊維方向T2に合わせることができる。これにより、各分割シュー32(積層シュー31)を進退させて好適に角度層のプリプレグシート8をワークWに積層することが可能になる。
【0057】
さらに、分割シュー回動機構33によって複数の分割シュー32を同期して回動させることができるため、さらに容易に各分割シュー32の向きをプリプレグシート8の繊維方向T2に合わせることができる。
【0058】
これにより、本実施形態のプリプレグ積層ヘッド26及びプリプレグ自動積層装置Bによれば、プリプレグシート8の裁断ピースS1を所定位置に正確に位置決めして配置することができ、高品質の製品を製造(プリプレグ積層体を形成)することが可能になる。
【0059】
また、従来と同様、交差角度が小さいと、押圧されていない状態で残る領域Nが発生するが、各分割シュー32の位置を繊維方向T2にずらして配置できるため、押圧されずに残る領域Nを最小限に抑えることが可能になる。このため、0度層用積層ヘッド25によるプリプレグシート8の積層と同時に、押圧されていない領域Nを好適に貼り付けることが可能になる。
【0060】
また、一対のガイドローラ18a、18bの間にプリプレグシート8の一面から剥離紙7を剥離させるためのスクレーパーローラ30が設けられているため、積層シュー31でワークWに積層したプリプレグシート8の一面から確実に剥離紙7を剥離させ(引き剥がし)、回収することが可能になる。
【0061】
以上、本発明に係るプリプレグ積層ヘッド及びこれを備えたプリプレグ自動積層装置の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、積層テーブル2が架台1上を一方向T1に進退するように構成されているが、門型支柱3、4が積層テーブル2に対して一方向T1に進退するように構成してもよい。すなわち、ワークWは、プリプレグ積層ヘッド25、26に対して一方向T1に相対的に進退自在に積層テーブル2に載置されていればよい。
【符号の説明】
【0062】
1 架台
2 積層テーブル
3 一方の門型支柱
4 他方の門型支柱
5 従来の0度層用積層ヘッド
6 従来の角度層用積層ヘッド
7 剥離紙
8 プリプレグシート
9 供給ローラ
10 支持ローラ
11 ダイカッター(ロータリーダイカッター)
12 前押さえローラ
13 後押さえローラ
14 剥離紙回収ローラ
15 供給ローラ
16 支持ローラ
17 ダイカッター(ロータリーダイカッター)
18a ガイドローラ
18b ガイドローラ
19 従来の積層シュー
20 剥離紙回収ローラ
25 0度層用積層ヘッド
26 角度層用積層ヘッド(プリプレグ積層ヘッド)
27 剥離紙先行剥離手段
28 剥離紙ガイドローラ
29 スクレーパーローラ
30 スクレーパーローラ
31 積層シュー
32 分割シュー
32a 回動軸
32b 押圧部
33 分割シュー回動機構
33a 連動部材
A 従来のプリプレグ自動積層装置
B プリプレグ自動積層装置
M 押圧されていない領域
N 押圧されていない領域
O1 分割シューの中心軸線
P 裁断端末部
R1 積層対象ピース
R2 次の積層対象ピース
S1 裁断ピース
S2 次の裁断ピース
T1 一方向(被積層体の長さ方向、0度層のプリプレグシートの繊維方向)
T2 角度層のプリプレグシートの繊維方向
W ワーク(被積層体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シートに樹脂を含浸させたプリプレグシートを複数積層してプリプレグ積層体を形成する際に用いられ、前記プリプレグ積層体の長さ方向に交差する方向に繊維方向を向けて前記プリプレグシートを積層するためのプリプレグ積層ヘッドであって、
前記プリプレグシートは、一面に剥離紙が取り付けられており、
被積層体の幅方向両外側にそれぞれ配設され、前記プリプレグシートを前記被積層体上に重ねるように案内する一対のガイドローラと、前記一対のガイドローラの間に前記繊維方向に進退自在に配設され、前記一対のガイドローラの間に案内された前記プリプレグシートを一面側から押圧して前記被積層体に貼り付けるための積層シューとを備え、
前記積層シューが前記プリプレグシートの幅方向に分割して形成されていることを特徴とするプリプレグ積層ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載のプリプレグ積層ヘッドにおいて、
前記積層シューを分割して形成した複数の分割シューがそれぞれ、上下方向に延びる中心軸線周りに回動可能に支持して設けられていることを特徴とするプリプレグ積層ヘッド。
【請求項3】
請求項2記載のプリプレグ積層ヘッドにおいて、
前記複数の分割シューを同期してそれぞれ前記中心軸線周りに回動させる分割シュー回動機構を備えていることを特徴とするプリプレグ積層ヘッド。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のプリプレグ積層ヘッドにおいて、
前記一対のガイドローラの間に前記プリプレグシートの一面から前記剥離紙を剥離させるためのスクレーパーローラが設けられていることを特徴とするプリプレグ積層ヘッド。
【請求項5】
繊維シートに樹脂を含浸させて形成したプリプレグシートを複数積層してプリプレグ積層体を形成するためのプリプレグ自動積層装置であって、
請求項1から請求項4のいずれかに記載のプリプレグ積層ヘッドを備えていることを特徴とするプリプレグ自動積層装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−177927(P2011−177927A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41916(P2010−41916)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】