説明

プリンターヘッド及び露光装置

【課題】感光体に対して効率良く露光することができ、したがって長寿命化を可能にしたプリンターヘッドと、これを用いた露光装置を提供する。
【解決手段】第1の有機ELパネル10と第2の有機ELパネル20とを備え、これらパネルからそれぞれ射出された光を、ダイクロイックミラー12を備えたプリズム14を通して合成し、出射するプリンターヘッド1である。第1有機EL素子と第2有機EL素子とは、同じ材料からなる膜が同じ積層順で設けられて共振構造を有している。第1有機EL素子の構成膜と第2有機EL素子の構成膜とが、一部の対応する膜間で膜厚が異なることで共振距離が異なることにより、発光のピーク波長が異なっている。ダイクロイックミラー12は、第1、第2有機EL素子の発光のピーク波長のうちの一方を透過し、他方を反射するようにこれらピーク波長の間にしきい値を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンターヘッド及び露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)は、有機発光層を含む複数の薄膜(機能層)を、基板側の第1電極と基板と反対側の第2電極との間に挟持した構造のもので、二つの電極から注入されたキャリア(電子と正孔)を有機発光層中で再結合させることにより、発光する素子である。このような有機EL素子を多数形成した有機エレクトロルミネッセンスパネル(有機ELパネル)は、薄型・軽量といった特徴を有することから、ディスプレイへの応用はもちろんのこと、レーザープリンターにおけるレーザーの代わりとなる光源、すなわちプリンターヘッドとしての応用も期待されている。
【0003】
例えば特許文献1では、有機EL素子をライン上に複数並べたものを光源とし、この光源からの発光光を感光ドラムへ投影するようにした、ライン発光デバイスが提案されている。このライン発光デバイスによれば、有機EL素子から出射した光をレンズ系を介さずに(完全密着型)、又はセルフォックレンズを介して(密着型)感光ドラム上に投射するため、小型で安価なものとなる。
【0004】
ところで、このような発光デバイスを用いたプリンターでは、印刷スピードを増加させる場合には光源の光量を増加させる必要がある。しかし、有機EL素子からなる光源の光量を増やせば増やすほど、有機EL素子の劣化の度合いも大きくなり、プリンターヘッドの寿命が短くなってしまう。
【0005】
そのような欠点を克服するものとして、特許文献2の光出射装置では、例えばRed、Green、Blueのようにそれぞれ波長域の異なる有機EL素子を2つ乃至3つ、ダイクロイックフィルターを備えたプリズムの入射面に配置し、それぞれの有機EL素子から射出した光をプリズムの同一面から出射させ、感光体上の同一のスポットに結像させている。これにより、波長域の異なる有機EL素子を別々に配置して別々に露光する場合に比べ、光量を増加させることができ、かつスポットがずれること無く、装置を小型化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−108568号公報
【特許文献2】特開2001−350204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一般に感光体は、可視光の赤色領域に高い感度を有するものが多く、赤色、緑色、青色の全波長域に亘って良好に感光するものは現状では提供されていない。したがって、特許文献2の光出射装置のように、全く波長域が異なる複数の有機EL素子からの発光光をプリズムによって合成したとしても、感光体を効率良く露光するのは困難である。よって、例えば印刷スピードを増加させようとした場合などではやはり多くの光量が必要になり、有機EL素子の劣化を抑えてプリンターヘッドの寿命を長くするのは、未だ不十分である。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、感光体に対して効率良く露光することができ、したがって長寿命化を可能にしたプリンターヘッドと、これを用いた露光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のプリンターヘッドは、複数の第1有機エレクトロルミネッセンス素子を整列配置した第1の有機エレクトロルミネッセンスパネルと、複数の第2有機エレクトロルミネッセンス素子を整列配置した第2の有機エレクトロルミネッセンスパネルとを少なくとも備え、前記第1及び第2の有機エレクトロルミネッセンスパネルからそれぞれ射出された光を、ダイクロイックミラーを備えたプリズムを通して合成し、出射するプリンターヘッドであって、
前記第1有機エレクトロルミネッセンス素子と、前記第2有機エレクトロルミネッセンス素子とは、それぞれ同じ材料からなる膜が同じ積層順で設けられて共振構造を有して形成され、かつ、前記第1有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する前記膜と前記第2有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する前記膜とが、少なくとも一部の対応する膜間において膜厚が異なることで前記共振構造における共振距離が異なることにより、発光のピーク波長が異なるように形成され、
前記ダイクロイックミラーは、前記第1有機エレクトロルミネッセンス素子の発光のピーク波長と前記第2有機エレクトロルミネッセンス素子の発光のピーク波長とのうちの一方を透過し、他方を反射するようにこれらピーク波長の間にしきい値を有していることを特徴としている。
【0010】
このプリンターヘッドによれば、第1有機エレクトロルミネッセンス素子と、第2有機エレクトロルミネッセンス素子とを、単に一部の対応する膜間において膜厚を異ならせることで共振構造における共振距離を異ならせ、発光のピーク波長を異ならせているので、それぞれのピーク波長が比較的近いものとなる。したがって、それぞれの有機エレクトロルミネッセンス素子から出射し、プリズムで合成された光を、通常の感光体で効率良く露光することが可能になる。よって、例えば印刷スピードを増加させる場合にも、有機エレクトロルミネッセンス素子の光量を大幅に増加させる必要がなく、これにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の劣化が抑制されてプリンターヘッドの長寿命化が可能になる。また、第1有機エレクトロルミネッセンス素子と第2有機エレクトロルミネッセンス素子とを、一部の膜厚だけを異ならせているだけなので、第1の有機エレクトロルミネッセンスパネルと第2の有機エレクトロルミネッセンスパネルとを、ほとんど同じ工程で製造することができ、したがって生産効率を高めることができる。さらに、各膜の材料が共通になるので、コストの低減化が可能になる。
【0011】
また、前記プリンターヘッドにおいては、前記第1有機エレクトロルミネッセンス素子の発光のピーク波長と前記第2有機エレクトロルミネッセンス素子の発光のピーク波長とが、いずれも600nm以上750nm以下の範囲内になっているのが好ましい。
このようにすれば、それぞれの有機エレクトロルミネッセンス素子の発光のピーク波長がほぼ赤色の波長域となるので、一般的な感光体においてその感度がより良好になる。
【0012】
また、前記プリンターヘッドにおいて、前記第1有機エレクトロルミネッセンス素子及び前記第2有機エレクトロルミネッセンス素子には、それぞれの素子の光出射側に、微小共振器構造が設けられているのが好ましい。
このようにすれば、各有機エレクトロルミネッセンス素子で発光した光をより効率良く利用することができる。
【0013】
また、前記プリンターヘッドにおいては、第1有機エレクトロルミネッセンス素子及び第2有機エレクトロルミネッセンス素子が、反射膜と、透光性の第1電極と、有機発光層を含む機能層と、光出射側となる半透過反射性の第2電極とを有してなり、前記共振構造における共振距離は、前記反射膜と前記第2電極との間の距離となっているのが好ましい。
このようにすれば、反射膜と第2電極との間で良好な共振構造をとることができ、したがって効率良く光を取り出すことが可能になる。
【0014】
本発明の露光装置は、前記プリンターヘッドと、前記プリンターヘッドからの光を結像させる光学結像系と、前記光学結像系を透過した前記プリンターヘッドからの光によって露光される感光体と、を備えたことを特徴としている。
この露光装置によれば、長寿命化が可能になったプリンターヘッドを備えているので、露光装置自体の長寿命化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の露光装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】有機ELパネルを平面視した模式図である。
【図3】(a)は有機EL素子を模式的に示す側断面図、(b)は模式図である。
【図4】第1、第2有機EL素子の発光スペクトルの強度を示すグラフである。
【図5】ダイクロイックミラーの反射特性を示すグラフである。
【図6】ダイクロイックミラー透過後の発光スペクトルの強度を示すグラフである。
【図7】ダイクロイックミラー反射後の発光スペクトルの強度を示すグラフである。
【図8】ダイクロイックミラー合成後の発光スペクトルの強度を示すグラフである。
【図9】レンズアレイの概略構成を示す斜視図である。
【図10】感光体ドラムの分光感度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせてある。
図1は、本発明の露光装置の一実施形態を示す図であり、図1中符号70は露光装置である。この露光装置100は、プリンターにおいて露光手段として用いられるもので、プリンターヘッド1と、このプリンターヘッド1からの光を結像させるレンズアレイ(光学結像系)80と、前記レンズアレイ80を透過した前記プリンターヘッド1からの光によって露光される感光体ドラム(感光体)90と、を備えて構成されたものである。
【0017】
プリンターヘッド1は、本発明のプリンターヘッドの一実施形態となるもので、第1の有機エレクトロルミネッセンスパネル(第1の有機ELパネル)10と、第2の有機エレクトロルミネッセンスパネル(第2の有機ELパネル)20とを備え、第1及び第2の有機ELパネル10、20からそれぞれ射出された光を、ダイクロイックミラー12を備えたプリズム14を通して合成し、出射するものである。
【0018】
第1及び第2の有機ELパネル10、20は、図2の模式図に示すように、長細い矩形の素子基板2上に、複数の有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)3を配列してなる発光素子列3Aと、有機EL素子3を駆動させる駆動素子4からなる駆動素子群と、これら駆動素子4(駆動素子群)の駆動を制御する制御回路群5とを一体形成したものである。なお、図2では発光素子列3Aを1列の有機EL素子3で形成したが、例えば有機EL素子3を2列にしてこれらを千鳥状に配してもよい。その場合には、第1の有機ELパネル10や第2の有機ELパネル20の長手方向における有機EL素子3のピッチを小さくすることができ、したがって後述する露光装置100の解像度を向上させることができる。
【0019】
有機EL素子3は、一対の電極間に少なくとも有機発光層を備えたもので、その一対の電極から発光層に電流を供給することにより、発光するようになっている。有機EL素子3における一方の電極には電源線8が接続され、他方の電極には駆動素子4を介して電源線7が接続されている。この駆動素子4は、薄膜トランジスタ(TFT)や薄膜ダイオード(TFD)等のスイッチング素子で構成されている。駆動素子4にTFTを採用した場合には、そのソース領域に電源線8が接続され、ゲート電極に制御回路群5が接続される。そして、制御回路群5により駆動素子4の動作が制御され、駆動素子4により有機EL素子3への通電が制御されるようになっている。
【0020】
次に、第1の有機ELパネル10、第2の有機ELパネル20における有機EL素子3の具体的構成について、図3(a)、(b)を参照して説明する。
図3(a)に示すように第1の有機ELパネル10、第2の有機ELパネル20は、本実施形態においてはいずれも、発光層60で発光した光を陰極(第2電極)56側から出射する、いわゆるトップエミッション型となっている。
【0021】
したがって、前記素子基板2としては、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。透明基板としては、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。不透明基板としては、例えば、アルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0022】
素子基板2上には、画素電極(第1電極)23に接続するTFTからなる駆動素子4(図示せず)などを含む回路部(図示せず)や、これを覆う平坦化膜11等が形成されており、その上に有機EL素子3が設けられている。有機EL素子3は、陽極として機能する画素電極(第1電極)23と、この画素電極23からの正孔を注入する正孔注入層70と、正孔を輸送する正孔輸送層68と、有機EL物質からなる発光層60と、電子を輸送する電子輸送層58と、陰極56からの電子を注入する電子注入層(図示せず)と、陰極(第2電極)56とが、この順で素子基板2上に形成されて構成されている。
【0023】
なお、本実施形態では、電子輸送層58は電子注入性をも有しており、したがってこの電子輸送層58が電子注入層を兼ねて、電子注入/輸送層として機能するようになっている。また、画素電極23の下側には反射膜22が形成配置されており、有機EL素子3はこの反射膜22を含んで構成されている。
【0024】
ここで、有機EL素子3および駆動素子4を図2に対応した模式図で示すと、図3(b)に示すようになる。図3(b)において、電源線7は駆動素子4のソース/ドレイン電極に接続し、電源線8は有機EL素子3の陰極56に接続している。
そして、このような構成のもとに有機EL素子3は、図3(a)に示すように、正孔注入層70を経て注入され、正孔輸送層68で輸送された正孔と、電子注入層58で注入・輸送された電子とが発光層60で結合することにより、発光をなすようになっている。
【0025】
陽極として機能する画素電極23は、例えば透明導電材料であり、仕事関数が5eV以上の正孔注入層の高いITO(Indium Thin Oxide:インジウム錫酸化物)からなっている。また、本実施形態ではトップエミッション型であることから、発光層60で発光し画素電極23側に射出した光を、光取り出し側となる陰極56側に向けるべく、前記したように画素電極23の下側に、反射膜22が配置されている。反射膜22は、反射性を有する金属や合金からなっており、本実施形態ではアルミニウムからなっている。なお、この反射膜22については、画素電極23に導通させておくことで、この画素電極23とともに陽極として機能させてもよく、画素電極23との間に絶縁膜を介在させておくことで、陽極としての機能を持たせることなく単なる反射膜として機能させてもよい。本実施形態では、画素電極23に導通させておき、陽極として機能させている。
【0026】
正孔注入層70の形成材料としては、従来公知の種々のものが使用可能であり、本実施形態では出光興産製のHI406(商品番号)が用いられている。
正孔輸送層68の形成材料としても、従来公知の種々のものが使用可能であり、本実施形態では出光興産製のHT320(商品番号)が用いられている。
発光層60の形成材料としても、従来公知の種々のものが使用可能であり、本実施形態では出光興産製のBH215(商品番号)+RD001(商品番号)が用いられている。なお、この発光層60の形成材料は、後述するように赤色の発光領域に発光のピーク波長を有する、赤色発光材料となっている。
【0027】
電子輸送層58の形成材料としても、従来公知の種々のものが使用可能であり、本実施形態ではアルミニウムキノリノール(Alq3)が用いられている。
なお、これら正孔注入層70、正孔輸送層68、発光層60、電子輸送層58の形成については、一般的な蒸着法を採用することができる。また、高沸点系の材料を用いる場合には、インクジェット法等の液滴吐出法を用いることもできる。
陰極56は、従来公知の半透過反射性膜からなっており、本実施形態ではMg(マギネシウム)とAg(銀)との共蒸着膜(MgAg)からなっている。
【0028】
このような構成のもとに第1の有機ELパネル10、第2の有機ELパネル20は、それぞれの有機EL素子3が、発光層60で発光した光を反射膜22と陰極56との間で共振させる共振構造を、有したものとなっている。そして、この共振構造における共振距離は、反射膜22と陰極56との間の距離となっている。なお、有機EL素子3は、例えば隔壁層(図示せず)で囲まれて整列させられ、形成されている。
【0029】
ここで、本実施形態では、第1の有機ELパネル10の有機EL素子(第1有機EL素子)3と、第2の有機ELパネル20の有機EL素子(第2有機EL素子)3とは、それぞれの構成膜、すなわち画素電極23及び陰極56とこれらの間に配置された正孔注入層70、正孔輸送層68、発光層60、電子輸送層58とが、同一の形成材料によって同じ積層順で形成されており、したがって同じ膜構成となっている。
【0030】
ただし、これら第1有機EL素子3と第2有機EL素子3とは、画素電極23、正孔注入層70、正孔輸送層68、発光層60、電子輸送層58のうちの少なくとも一種が、第1有機EL素子3と第2有機EL素子3との間で、異なる膜厚で形成されている。そして、これによって第1有機EL素子3と第2有機EL素子3とは、それぞれの共振距離が、異なって形成されている。具体的には、以下に示すように本実施形態では、正孔輸送層68及び電子輸送層58の膜厚が、第1有機EL素子3と第2有機EL素子3とで異なって形成されている。
【0031】
・第1有機EL素子の各膜厚(単位;nm)
反射膜 画素電極 正孔注入層 正孔輸送層 発光層 電子輸送層 陰極 キャップ層
100 50 50 120 30 50 10 90
・第2有機EL素子の各膜厚(単位;nm)
反射膜 画素電極 正孔注入層 正孔輸送層 発光層 電子輸送層 陰極 キャップ層
100 50 50 160 30 40 10 120
【0032】
そして、このように正孔輸送層68及び電子輸送層58の膜厚が異なって形成されていることにより、第1有機EL素子3と第2有機EL素子3とでは、それぞれの共振距離が以下に示すように異なっている。
・第1有機EL素子の共振距離=50+50+120+30+50=300(nm)
・第2有機EL素子の共振距離=50+50+160+30+40=330(nm)
このように共振距離が異なることで、第1有機EL素子3と第2有機EL素子3とは、それぞれの発光のピーク波長(発光のピークでの波長)が異なっている。
【0033】
また、本実施形態では、有機EL素子3のそれぞれの光出射側、すなわち陰極56の外側に、微小共振器構造が設けられている。微小共振器構造は、本実施形態では、キャップ層54と、これを覆う缶封止構造とによって形成されている。すなわち、前記陰極56上に形成されたキャップ層54と、ガラスや透明樹脂等からなる缶封止をなす缶体52と、これらキャップ層54と缶体52との間の中空部に形成された不活性ガス層53とによって、微小共振器構造51が形成されている。なお、不活性ガス層53は、窒素等の不活性ガスを封入してなる層であるが、ガスを封入しない真空の層としてもよい。
【0034】
この微小共振器構造51では、有機EL素子3からキャップ層54側に射出された光を、缶体52と不活性ガス層53との間の屈折率差によって一部反射させ、さらにこの反射光をキャップ層54と陰極56との間の界面で再反射させることで、共振させるようになっている。これにより、光取り出し効率を高め、有機ELパネル10、20の低消費電力化、長寿命化を図っている。
【0035】
なお、本実施形態では、前記の第1有機EL素子3の各膜厚、第2有機EL素子3の各膜厚において、キャップ層54の膜厚も併記したように、第1有機EL素子3側と第2有機EL素子3側とでは、キャップ層54の膜厚も変えている。これは、第1有機EL素子3と第2有機EL素子3とでその共振距離を変えていることから、それぞれの共振距離に対応して微小共振器構造における共振距離も最適になるようにしているためである。ただし、キャップ層54の膜厚も変えず、したがって第1有機EL素子3と第2有機EL素子3との間で微小共振器構造における共振距離を同一にしても、これら各EL素子の発光スペクトルの形状にはほとんど影響がなく、単に光取り出し効率が変化するだけである。
【0036】
図4は、前記の第1有機EL素子3及び第2有機EL素子3の、それぞれの発光スペクトルの強度を示すグラフである。図4に示すように第1有機EL素子3は、その発光のピーク波長がほぼ610nmとなっており、第2有機EL素子3は、その発光のピーク波長がほぼ668nmとなっている。これは、前記したように各膜の厚さを決定したことで、第1有機EL素子では610nmを中心として発光強度を強めるように光路長設計をしており、第2有機EL素子では668nmを中心として発光強度を強めるように光路長設計をしているためである。したがって、これら第1有機EL素子3、第2有機EL素子3は、その発光のピーク波長が、いずれもほぼ赤色の波長域となる600nm以上750nm以下の範囲内となっており、一般的な感光体(感光体ドラム90)による感度がより良好となる波長域となっている。
【0037】
図1に示したようにプリズム14は、横断面が直角二等辺三角形状である三角柱状の第1プリズム14a及び第2プリズム14bが、横断面が正方形となる四角柱となるように、接合されたものである。また、ダイクロイックミラー12は、これら第1プリズム14aと第2プリズム14bとの間に挟持されたもので、例えば多層誘電体膜からなっている。そして、第1プリズム14aの一方の面に前記第1の有機ELパネル10の光出射面が対向させられ、第2プリズム14bの一方の面に前記第2の有機ELパネル20の光出射面が対向させられていることにより、プリンターヘッド1が構成されている。なお、これら第1、第2の有機ELパネル10、20とプリズム14とは、適宜な固定手段(図示せず)によってその相対的な位置が固定されている。
【0038】
第1の有機ELパネル10の第1有機EL素子3と第2の有機ELパネル10の第2有機EL素子3とは、互いに対応する素子から射出した光どうしが前記プリズム14によって一つの光線に合成されるよう、それぞれ対応した位置となるように配置されている。
ダイクロイックミラー12は、本実施形態では第1の有機ELパネル10における第1有機EL素子3の発光のピーク波長を透過し、第2の有機ELパネル20における第2有機EL素子3の発光のピーク波長を反射するように、これらピーク波長の間にしきい値を有している。
【0039】
図5は、本実施形態で用いたダイクロイックミラー12の、反射特性を示すグラフである。図5に示すように本実施形態のダイクロイックミラー12は、640nm〜650nmに、反射率を0.5(50%)(透過率を0.5)とするしきい値を有している。したがって、前記第1有機EL素子3の発光のピーク波長がほぼ610nmであり、第2有機EL素子3の発光のピーク波長がほぼ668nmであることから、このダイクロイックミラー12は、第1有機EL素子3の発光のピーク波長(610nm)を透過し、第2有機EL素子3の発光のピーク波長(668nm)を反射する、しきい値を有したものとなっている。
【0040】
ここで、図5に示したダイクロイックミラー12は、最小反射率(最大透過率)はほぼ0.0となっており、最大反射率(最小透過率)はほぼ0.99となっている。そして、第1有機EL素子3の発光のピーク波長(610nm)に対する反射率は、ほぼ0.0(透過率がほぼ1.0)になっており、第2有機EL素子3の発光のピーク波長(668nm)に対する反射率は、ほぼ0.99になっている。したがって、このダイクロイックミラー12は、第1有機EL素子3からの光をほぼ100%透過し、第2有機EL素子3からの光を約99%反射する、極めて効率が高いものとなっている。
【0041】
ただし、本発明のダイクロイックミラー12に対する有機EL素子のピーク波長の相対的な関係は、このように効率が高いことが望ましいものの、これより低効率であっても使用可能である。例えば、第1有機EL素子のピーク波長とダイクロイックミラー12との間の相対的関係としては、ダイクロイックミラー12の最小反射率(0.0)に対して20%の反射率(0.2)以下、好ましくは10%の反射率(0.1)以下となる波長域のものであれば、十分に使用可能となる。同様に、第2有機EL素子のピーク波長とダイクロイックミラー12との間の相対的関係としては、ダイクロイックミラー12の最大反射率(0.99)に対して80%の反射率(0.792)以上、好ましくは90%の反射率(0.891)以上となる波長域のものであれば、十分に使用可能となる。
【0042】
このような構成のもとに、プリズム14a、14b間に挟持されたダイクロイックミラー12は、図1中矢印で示すように第1の有機ELパネル10の第1有機EL素子3から射出された光を透過し、第2の有機ELパネル10の第2有機EL素子3から射出された光を反射することで、一つの光線に合成し、第2のプリズム14bの他方の面側に出射するようになっている。
【0043】
ここで、第1の有機ELパネル10の第1有機EL素子3から射出され、さらにダイクロイックミラー12を透過した後の光の、発光スペクトルの強度を図6に示す。また、第2の有機ELパネル20の第1有機EL素子3から射出され、さらにダイクロイックミラー12を反射した後の光の、発光スペクトルの強度を図7に示す。また、これら第1有機EL素子3から射出された光と第2有機EL素子3から射出された光とがダイクロイックミラー12で合成された後の光の、発光スペクトルの強度を図8に示す。図8に示すように、合成された光のほぼ全ての波長域が、赤色あるいはこれに近い波長域となっている。
【0044】
前記プリズム14における第2のプリズム14bの他方の面側には、出射してきた光を結像させるレンズアレイ(光学結像系)80が設けられている。このレンズアレイ80は、例えば図9に示すようなセルフォック(登録商標)レンズアレイ(日本板硝子社の商品名;以下、セルフォック(登録商標)レンズをSLと記し、セルフォック(登録商標)レンズアレイをSLアレイと記す)31からなっている。
このレンズアレイ(SLアレイ)80は、SL素子31を千鳥状に2列配列(配置)したものである。そして、千鳥状に配置された各SL素子31の隙間には黒色のシリコーン樹脂32が充填されており、さらにその周囲にはフレーム34が配置されている。
【0045】
前記SL素子31は、その中心から周辺にかけて放物線上の屈折率分布を有している。そのため、SL素子31に入射した光は、その内部を一定周期で蛇行しながら進む。
よって、このSL素子31の長さを調整すれば、画像を正立等倍結像させることができる。そして、このように正立等倍結像するSL素子31にあっては、隣接するSL素子31どうしが作る像を重ね合わせることが可能になり、広範囲の画像を得ることができる。したがって、図9に示したレンズアレイ(SLアレイ)31は、プリンターヘッド1全体からの光を精度よく結像させることができるようになっている。
【0046】
感光体ドラム90としては、特に限定されることなく一般的なものが使用可能であるが、例えば特開平10−237337号公報に記載されているような、フタロシアニン系感光体が好適に用いられる。このフタロシアニン系感光体は図10中Aで示すように、図10中Bで示すβ型チタニルフタロシアニン(β−TiOPc)系感光体に比べて特に600nmから800nmの波長域の光に対して感度が高く、したがって図8に示した発光スペクトルを有する合成光に対し、より広い範囲で高い感度を有するものとなる。
【0047】
このような構成からなる露光装置100にあっては、プリンターヘッド1から出射した光がレンズアレイ80で結像され、感光体ドラム90上に照射される。その際、第1の有機ELパネル10の第1有機EL素子3と第2の有機ELパネル10の第2有機EL素子3とは、互いに対応する素子の光どうしがダイクロイックミラー12で合成され、感光体ドラム90上の同一スポットに照射されるようになる。したがって、一つの有機ELパネルのみを用いた場合に比べて光量を増やし、より高い強度(輝度)で露光を行うことができる。
【0048】
また、特に本実施形態のプリンターヘッド1にあっては、第1有機EL素子3と、第2有機素子3とを、単に一部の対応する膜間において膜厚を異ならせることで共振距離を異ならせ、発光のピーク波長を異ならせているので、それぞれのピーク波長が比較的近いものとなる。したがって、それぞれの有機EL素子から出射し、ダイクロイックミラー12及びプリズム14で合成された光を、通常の感光体ドラム90で効率良く露光することができる。
【0049】
特に、第1有機EL素子3の発光のピーク波長と第2有機素子3の発光のピーク波長とを、いずれも600nm以上750nm以下の範囲内にしているので、いずれの有機EL素子の発光のピーク波長もほぼ赤色の波長域となり、一般的な感光体ドラム90においてもその感度がより良好になる。
【0050】
よって、前記露光装置100を用いたプリンターにおいて、例えば印刷スピードを増加させる場合にも、有機EL素子3の光量を大幅に増加させる必要がなく、これにより、有機EL素子の劣化を抑制してプリンターヘッド1の長寿命化を図ることができる。また、第1有機EL素子3と第2有機EL素子3とを、一部の膜厚だけを異ならせているだけなので、第1の有機ELパネル10と第2の有機ELパネル20とを、ほとんど同じ工程で製造することができ、したがって生産効率を高めることができる。さらに、各膜の材料が共通になるので、コストを低減化することができる。
また、露光装置100にあっては、長寿命化が図られたプリンターヘッド1を備えているので、露光装置100自体も長寿命化が図られたものとなる。
【0051】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変更が可能である。例えば、前記実施形態では、有機ELパネル10、20としてトップエミッション型のものを採用したが、ボトムエミッション型のものを採用することもできる。
また、前記プリンターヘッド1では、有機ELパネルを二つ用いた例を示したが、本発明のプリンターヘッドとしては有機ELパネルを三つ以上用いてもよい。その場合に、ダイクロイックミラーについては一つのみで用いてもよく、あるいは複数用いてもよい。
【0052】
さらに、前記実施形態では本発明に係る有機EL素子を、反射膜22、画素電極(陽極)23、正孔注入層70、正孔輸送層68、発光層60、電子輸送層58、陰極56の各構成膜によって形成したが、特に陽極と陰極との間に形成される各機能層については、少なくとも発光層60を有していれば、他の機能層については種々の形態を採用することができる。例えば、正孔注入層70と正孔輸送層68とについては、両方の機能を備える膜を一層のみ形成してもよく、また、電子輸送層58と電子注入層とをそれぞれ独立して形成してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…プリンターヘッド、3…有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)、10…第1の有機ELパネル(第1の有機エレクトロルミネッセンスパネル)、12…ダイクロイックミラー、14…プリズム、20…第2の有機ELパネル(第2の有機エレクトロルミネッセンスパネル)、22…反射層、23…画素電極(第1電極)、51…微小共振構造、52…缶体、53…不活性ガス層、54…キャップ層、56…陰極(第2電極)、58…電子輸送層、60…発光層、68…正孔輸送層、70…正孔注入層、80…レンズアレイ(光学結像系)、90…感光体ドラム(感光体)、100…露光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1有機エレクトロルミネッセンス素子を整列配置した第1の有機エレクトロルミネッセンスパネルと、複数の第2有機エレクトロルミネッセンス素子を整列配置した第2の有機エレクトロルミネッセンスパネルとを少なくとも備え、前記第1及び第2の有機エレクトロルミネッセンスパネルからそれぞれ射出された光を、ダイクロイックミラーを備えたプリズムを通して合成し、出射するプリンターヘッドであって、
前記第1有機エレクトロルミネッセンス素子と、前記第2有機エレクトロルミネッセンス素子とは、それぞれ同じ材料からなる膜が同じ積層順で設けられて共振構造を有して形成され、かつ、前記第1有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する前記膜と前記第2有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する前記膜とが、少なくとも一部の対応する膜間において膜厚が異なることで前記共振構造における共振距離が異なることにより、発光のピーク波長が異なるように形成され、
前記ダイクロイックミラーは、前記第1有機エレクトロルミネッセンス素子の発光のピーク波長と前記第2有機エレクトロルミネッセンス素子の発光のピーク波長とのうちの一方を透過し、他方を反射するようにこれらピーク波長の間にしきい値を有していることを特徴とするプリンターヘッド。
【請求項2】
前記第1有機エレクトロルミネッセンス素子の発光のピーク波長と前記第2有機エレクトロルミネッセンス素子の発光のピーク波長とは、いずれも600nm以上750nm以下の範囲内になっていることを特徴とする請求項1記載のプリンターヘッド。
【請求項3】
前記第1有機エレクトロルミネッセンス素子及び前記第2有機エレクトロルミネッセンス素子には、それぞれの素子の光出射側に、微小共振器構造が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のプリンターヘッド。
【請求項4】
第1有機エレクトロルミネッセンス素子及び第2有機エレクトロルミネッセンス素子は、反射膜と、透光性の第1電極と、有機発光層を含む機能層と、光出射側となる半透過反射性の第2電極とを有してなり、前記共振構造における共振距離は、前記反射膜と前記第2電極との間の距離となっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のプリンターヘッド。
【請求項5】
前記プリンターヘッドと、前記プリンターヘッドからの光を結像させる光学結像系と、前記光学結像系を透過した前記プリンターヘッドからの光によって露光される感光体と、を備えたことを特徴とする露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−230332(P2011−230332A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101320(P2010−101320)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】