説明

プレストレストコンクリート構造物

【課題】側壁の鉛直方向の緊張材量を低減することができ、中間緊張作業が上部の側壁構築作業の開始に影響を与えることのないプレストレストコンクリート構造物を提供すること。
【解決手段】側壁2は側壁一般部21とその途中から下方へ向かって部材厚が大きくなる部分22からなり、該部材厚が大きくなる部分22に鉛直方向の緊張材51が配設されている。かかる部材厚が大きくなる部分22は下方に向かってテーパー状に広がる形態や、下方へ向かって多段状に広がる形態などに成形することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリート構造物に係り、特に、側壁の施工性がよく、側壁に配設される鉛直方向の緊張材量を低減することのできるプレストレストコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のLNGやLPG貯蔵用の地上タンクや地下タンクなどの容器構造物は、底版と該底版上に立設する側壁、該側壁の上端に接続する平板状またはドーム状の天井とから構成されている。底版のうち側壁と接合する箇所や側壁下部には、他の部位に比べて大きな断面力(曲げモーメントやせん断力など)が生じるため、部材断面を他の部位に比べて相対的に大きくしたり、過密に配筋するなどの措置が講じられている。上記する容器構造物は、その用途や規模によって構成材料や構造形式などが多様であるものの、地上タンクや地下タンクといった比較的大規模で耐久性が要求される容器構造物としては、鉄筋コンクリート構造物として現場施工されているのが一般的である。
【0003】
ところで、上記容器構造物を構成する底版や側壁、天井などを鉄筋コンクリートにて施工する場合に、鉄筋量の低減やひびわれ防止などを目的としてPC鋼材などの緊張材を鉄筋コンクリート内部や外部に使用する、プレストレストコンクリート構造物を採用するのが主流である。すなわち、底版や側壁などに予めシース管を埋設しておき、底版や側壁の構築後にシース管内に緊張材を挿入するとともに緊張材の端部を引っ張ることで張力(以下、プレストレス力という)を該シース管に導入することで、底版や側壁に圧縮力を作用させるものである(ポストテンション方式)。さらに、予めプレストレス力が導入された緊張材を底版や側壁内部に埋め込んでおき、底版や側壁などの構築後に緊張材からプレストレス力を解放することで側壁などに圧縮力を作用させるプレテンション方式などもある。
【0004】
プレストレストコンクリート構造物の場合においても、上記するように側壁下部などには相対的に大きな断面力が生じることに変わりはなく、したがって該側壁下部には側壁上部などに比べて必要となるPC鋼材などの緊張材の量や鉄筋量が多くなる。従来のプレストレストコンクリート構造物の側壁においては、該側壁の下部から上部近傍まで伸びる鉛直方向の緊張材を側壁の周方向に所定間隔を置いて複数配設するとともに、該鉛直方向の緊張材を囲繞するように周方向の緊張材を複数配設する施工が行われていた。鉛直方向の緊張材は、その一端が底版内に定着されており、他端は側壁の上端近傍にて定着具などを介して定着されている。鉛直方向の緊張材は側壁の下部から上部近傍まで伸びているが、かかる緊張材量は側壁下部の断面力によって決定されたものであるため実際に側壁上部の緊張材量は過大なものとなっていた。
【0005】
上記の問題に対して、特許文献1では、タンクの外槽側壁の鉛直方向緊張材(PC鋼棒)が極低温貯蔵液の温度影響を受けないように形成された二重殻式低温タンク(プレストレストコンクリート構造物)に関する発明が開示されている。かかる発明においては、外槽側壁に中間緊張を与え、側壁下部の鉛直方向の緊張材を密に配設する構築方法を採用することで、液圧によって鉛直方向に生じる曲げモーメントが大きく、かつ極低温液による温度影響も大きい外槽側壁下部の強度を高めることとしている。すなわち、図7a,bに示すように、外槽側壁2の鉛直方向所定高さ位置まで断熱構造のシース管を設け、その内部にPC鋼棒からなる中間緊張材51を配設し、その上端位置までコンクリートを施工後に該中間緊張材51に中間緊張を与えて固定し、さらにその上部にコンクリートを施工し、側壁2上部まで通る鉛直方向の緊張材53に緊張を与えて側壁2上端にて固定するものである。ここで、中間緊張材51と側壁2下部から上端まで伸びる鉛直方向の緊張材53は、図7bに示すようにそれぞれの一端が底版3内に定着された状態で、側壁2の同一円周上で円周方向に交互に配設されている。さらに、緊張材51,53を囲繞するように円周方向の緊張材52が配設され、鉛直方向および円周方向にプレストレス力が導入されて圧縮力が側壁内に作用した状態でプレストレストコンクリート構造物1が形成される。
【0006】
【特許文献1】特開平10−238697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示のプレストレストコンクリート構造物の構築方法によれば、緊張材量を側壁の下部と上部で変化させることによって側壁上部に過大な緊張材を配設することがなくなり、したがって緊張材量を効果的に低減することが可能となる。しかし、中間緊張が完了するまで、すなわち、緊張材へのプレストレス力の導入作業とシース管内へのグラウト充填作業、さらには所要の強度発現確認作業等が完了するまでは、それ以降の上部の側壁構築作業ができないこととなり、したがって工期の長期化を招来するといった問題が生じ得る。また、一定の部材厚内で中間緊張材と側壁上端まで伸びる緊張材が円周方向に交互に配設された状態で、中間緊張材のみに中間緊張を与える施工は、その横に配設された側壁上端近傍まで伸びる緊張材が緊張器具の障害となるなどの問題が生じ得る。特に側壁下端に配設される鉛直方向の緊張材は円周方向に密なピッチに配設されるため、中間緊張材とその両側の側壁上端近傍まで伸びる緊張材との離隔は比較的狭いことが一般的である。かかる状況下で中間緊張材に中間緊張を与えようとしても、上記する側壁上端近傍まで伸びる緊張材が緊張器具の障害となって十分な緊張力(以下、プレストレス力という)を中間緊張材に導入することが困難となり、また側壁上端近傍まで伸びる緊張材(を覆うシース管)が緊張器具によって損傷を受けるといった問題も生じ得る。
【0008】
本発明のプレストレストコンクリート構造物は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、側壁下部と上部の緊張材量を効果的に変化させることで緊張材量を低減することのできるプレストレストコンクリート構造物を提供することを目的としている。また、中間緊張作業が上部の側壁構築作業の開始に影響を与えることがなく、したがって工期の長期化を招来しないプレストレストコンクリート構造物を提供することを目的としている。さらに、鉛直方向の緊張材に中間プレストレス力を与える際に、側壁上端近傍まで伸びる緊張材が中間プレストレス力導入時の障害とならないようなプレストレストコンクリート構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明によるプレストレストコンクリート構造物は、少なくとも底版と該底版上に立設する側壁とから構成されるプレストレストコンクリート構造物であって、前記側壁はその途中から下方へ向かって部材厚が大きくなる部分を有しており、少なくとも該部材厚が大きくなる部分に鉛直方向または鉛直斜め方向の緊張材が配設されていることを特徴とする。
【0010】
プレストレストコンクリート構造物は、底版と、該底版上に立設する側壁と、該側壁の上端部と接続する天井などから構成される容器構造物であり、底版は地盤上に直接支持される直接基礎形式であっても、杭などに支持される杭基礎形式であってもよい。さらに、天井の形状は平板状やドーム状などの適宜の形状を選定できる。
【0011】
ここで、側壁がその途中から下方へ向かって部材厚が大きくなる部分を有しているとは、側壁の途中から該側壁の下方へ向かって該側壁の部材厚が大きくなっていくように成形されていることを意味している。部材厚が大きくなっていく形態としては、側壁上端から側壁途中までは一定の部材厚(以下、側壁一般部という)であり、側壁途中から側壁下方に向かってテーパー状に成形される形態(側壁一般部の外側にテーパー状の部分が付加された形態)や、長径および短径で切断された1/4楕円断面に近似の断面を側壁一般部の側壁断面(側壁の周方向に垂直な方向で縦割りした際の側壁断面)の外側に付加した形態、後述するように側壁の途中から側壁下方に向かって多段状に成形される形態(側壁一般部の外側に多段状の部分が付加された形態)などの適宜の形態のことである。なお、部材厚が大きくなる側壁の途中レベルは設計事項であり、側壁の鉛直面内に生じる設計曲げモーメントやコンクリート仕様などによって適宜のレベルが選定される。
【0012】
また、少なくとも部材厚が大きくなる部分に鉛直方向または鉛直斜め方向の緊張材が配設されているとは、該緊張材が部材厚の大きくなる部分にのみ配設されていることのほか、該緊張材が部材厚の大きくなる部分から側壁一般部に跨って配設されている場合を含む意味である。
【0013】
施工に際しては、上記する部材厚が大きくなる部分の任意レベルまで側壁を施工した段階で、該部材厚が大きくなる部分内に配設された鉛直方向または鉛直斜め方向の緊張材にプレストレス力を導入して中間緊張する。この際、上記する緊張材は、鉛直方向に配設する場合のほかに鉛直斜め方向に配設することができる。緊張材を鉛直斜め方向に配設することにより、該緊張材にプレストレス力を導入して中間緊張した際に、側壁への圧縮力を部材厚が大きくなる部分のほかに側壁一般部にまで有効に作用させることができる。なお、中間緊張作業は、側壁一般部から外側へ張り出した部分(部材厚が大きくなる部分)で行われるため、中間緊張レベルより上方の側壁一般部の構築作業は該中間緊張作業の完了を待つまでもなく開始することができる。したがって、側壁の上部に本来不要となる緊張材の使用をなくして、かつ側壁の施工性も確保することができる。
【0014】
また、本発明によるプレストレストコンクリート構造物の他の実施形態としては、前記側壁の前記部材厚が大きくなる部分が、該側壁の下方へ向かって多段状に成形されていることを特徴とする。
【0015】
多段状とは、側壁下方へ向かって段階的に側壁の部材厚が大きくなっていくことを意味しており、1段から複数段までの適宜の段状形態を選定できる。部材厚が大きくなる部分の形態は上記するように多様な形態が考えられるが、中間緊張時の施工性などを勘案すると、1段または2段程度の多段状に側壁部材厚を大きくする実施形態が特に好ましいものと考えられる。
【0016】
また、本発明によるプレストレストコンクリート構造物の他の実施形態としては、前記側壁において、該側壁の下端から上端近傍まで伸びる緊張材がさらに配設されていることを特徴とする。
【0017】
これは側壁一般部においても鉛直方向の緊張材が配設されるプレストレストコンクリート構造物のことであり、かかる緊張材は、その一端が底版内に定着されており、他端が側壁(側壁一般部)の上端近傍にて例えば定着具を介して定着されるものである。緊張材によって圧縮力を作用させる必要がある部位は、側壁の中でも特に断面力が大きくなる側壁下部であり、側壁上部は必ずしも緊張材を必要としないケースも生じ得る。本発明は側壁一般部に緊張材を配設するケースに関するものであり、例えば側壁一般部に配設する緊張材の周方向のピッチ間隔を、部材厚が大きくなる部分に配設する鉛直方向または鉛直斜め方向の緊張材の周方向のピッチ間隔に比べて長くするなどの配置方法を採用するのが好ましい。
【0018】
また、本発明によるプレストレストコンクリート構造物のより好ましい実施形態としては、前記側壁は略円筒形に成形されており、該側壁は、少なくとも前記部材厚が大きくなる部分に配設された前記鉛直方向または鉛直斜め方向の緊張材を囲繞するように配設された周方向の緊張材を備えていることを特徴とする。
【0019】
ここで、略円筒形とは、円筒形のほか、断面が楕円形であって中空の形状などを含む意味である。側壁内部に効果的にプレストレス力を導入して圧縮力を作用させるためには、側壁形状は円筒形または円筒形に近い楕円形の筒体であるのが好ましく、特に円筒形であるのが好ましい。円筒形の側壁に円周方向のプレストレス力を導入すると、円周方向には圧縮力のみが作用するとともに曲げモーメントが発生しないからである。一方、楕円形の筒体の場合は、楕円断面方向(円筒形の場合の円周方向に相当)に圧縮力が作用するとともに、該断面には曲げモーメントも生じることとなり、その分の配筋を余儀なくされることとなる。尤も、中空の矩形断面の側壁に比べて、上記する円筒形や楕円形の筒体からなる側壁とすることにより、円周方向や楕円断面方向に導入されたプレストレス力が周方向に効果的に圧縮力として作用することとなる。
【0020】
円筒形の側壁の場合には、鉛直方向の緊張材が円周方向に所定の間隔を置いて配設されるとともに、該鉛直方向の緊張材を囲繞するように鉛直方向の緊張材の外側に円周方向の緊張材を配設する。この円周方向の緊張材は、部材厚が大きくなる部分に配設される他、側壁一般部に鉛直方向の緊張材が配設されている場合には該緊張材の外側にも配設されることが好ましい。尤も、側壁一般部に円周方向の緊張材を配設する必要の可否は、部材厚が大きくなる部分の上端レベルや構造物内に貯蔵される液レベルなどに起因する側壁一般部に必要となる円周方向圧縮力などによって決定されるものである。施工方法としては、部材厚が大きくなる部分に配設された鉛直方向または鉛直斜め方向の緊張材を囲繞するように円周方向の緊張材を配設し、鉛直方向(または鉛直斜め方向)および円周方向にプレストレス力を導入して中間緊張した後、さらに上部の側壁の構築に移行していく方法や、鉛直方向(または鉛直斜め方向)の緊張材のみを中間緊張し、側壁が上部まで構築完了後に、該側壁上端部近傍まで伸びた緊張材と円周方向に配設された緊張材へのプレストレス力の導入を行う方法などがある。なお、円周方向の緊張材としてはPC鋼線やPC鋼より線が使用され、鉛直方向の緊張材としてはPC鋼線やPC鋼より線、PC鋼棒などが使用される。
【0021】
また、本発明によるプレストレストコンクリート構造物の他の実施形態としては、前記プレストレストコンクリート構造物がLNGまたはLPG貯蔵用の地上タンクまたは地下タンクであることを特徴とする。
【0022】
比較的大規模で、かつ耐久性が要求される略円筒形の側壁を備えたプレストレストコンクリート構造物(容器構造物)は、LNGまたはLPG貯蔵用の地上タンクや地下タンクに適用されることが多く、本発明の底版と側壁の接合構造を備えたプレストレストコンクリート構造物も上記するタンクに適用されるのが好ましい。尤も、小規模タンクやその他の用途、例えば上下水道用の貯水タンクやファームポンドなどに適用される容器構造物を排除するものでないことは勿論のことである。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から理解できるように、本発明のプレストレストコンクリート構造物によれば、側壁下部と上部の緊張材量を効果的に変化させることができ、したがって緊張材量を格段に低減することができる。また、本発明のプレストレストコンクリート構造物によれば、中間緊張作業が上部の側壁構築作業の開始に影響を与えることがないため、工期の長期化を招来する可能性を極めて低くすることができる。さらに、本発明のプレストレストコンクリート構造物によれば、側壁一般部の外側に部材厚が大きくなる部分を設け、該部材厚が大きくなる部分に中間緊張用の鉛直方向または鉛直斜め方向の緊張材を配設した構成であるため、中間プレストレス力導入時に側壁一般部に配設された鉛直方向の緊張材が障害となることはなく、したがって確実な中間プレストレス力の導入と施工性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明のプレストレストコンクリート構造物の一実施形態を示した縦断面図であり、図2は、図1のプレストレストコンクリート構造物の側面図であって緊張材を透視した図である。図3は、本発明のプレストレストコンクリート構造物の他の実施形態を示した縦断面図であり、図4は、図3のプレストレストコンクリート構造物の側面図であって緊張材を透視した図である。図5,6は、本発明のプレストレストコンクリート構造物の他の実施形態を示した縦断面図である。以下の説明では、プレストレストコンクリート構造物として側壁が円筒形であって、天井はドーム状の地上タンクを取り上げて説明するが、本発明のプレストレストコンクリート構造物(の形状)はかかる構造物(の形状)に拘束されるものではないことは勿論である。さらに、プレストレス力の導入方式はプレテンション方式であってもポストテンション方式であってもよい。なお、従来例を示す図7と同一のものには同一符号を付して説明することとする。また、シース管の図示は省略する。また、部材厚が大きくなる部分22に配設する緊張材を鉛直斜め方向の緊張材として説明するが鉛直方向の緊張材であってもよいことは勿論のことである。
【0025】
図1にプレストレストコンクリート構造物である容器構造物1を示す。該容器構造物1は、地盤上に構築された底版3と、該底版3上に立設する円筒形の側壁2と、該側壁2の上端部に接続するドーム状の天井4とから構成される。地上に構築される容器構造物1としては地上タンクなどが想定される。
【0026】
側壁2は、底版3上から鉛直方向に伸びて円筒形を有する側壁一般部21と、該側壁一般部21の外周に側壁一般部21と一体化した部材厚が大きくなる部分22とから構成される。図1に示す部材厚が大きくなる部分22は、縦断面的に下方へ広がるテーパー状に成形されている。かかる部材厚が大きくなる部分22内部には、鉛直斜め方向の緊張材51がその一端を底版3内に定着され、側壁2の円周方向に所定間隔を置いて複数配設されている。なお、図示する実施形態では、鉛直斜め方向の緊張材51が部材厚の大きくなる部分22から側壁一般部21に跨って配設されている場合を示しているが、部材厚の大きくなる部分22内にのみ該緊張材51が配設される実施形態であってもよい。さらに、複数の鉛直斜め方向の緊張材51,51,…を囲繞するようにそれらの外側に円周方向の緊張材52,52,…が配設されている。施工においては、部材厚が大きくなる部分22の任意レベルまで側壁2を施工した段階で、該部材厚が大きくなる部分22内に配設された鉛直斜め方向の緊張材51にプレストレス力を導入して中間緊張する。部材厚が大きくなる部分22より上部の側壁2の構築は、中間緊張作業が完了した後に行うことができるのは勿論のこと、中間緊張作業と同時並行にて行うことができる。円周方向の緊張材52,52,…へのプレストレス力の導入は、鉛直斜め方向の緊張材51,51…へのプレストレス力の導入の前後に行うことができるほか、側壁2の上端までの構築を待って後に行うこともできる。なお、図示を省略しているが、底版3や天井4には鉄筋および緊張材が配設されており側壁2の内部にも鉛直方向および円周方向の配筋がなされていることは勿論である。
【0027】
図1における鉛直斜め方向の緊張材51,51,…の配設形態を図2に示している。図2aは、鉛直斜め方向の緊張材51としてPC鋼線またはPC鋼より線を使用し、該PC鋼線等をU形に折り曲げ成形したものを円周方向に順次交差するように配設する実施形態を示している。また、図2bは、鉛直斜め方向の緊張材51としてPC鋼棒を使用した場合の実施形態を示しており、その一端は底版内に定着具を介して定着しており、その他端は部材厚が大きくなる部分22の上部にて定着具を介して定着している。かかる緊張材の選定は施工性や経済性等を勘案して適宜選定すればよい。
【0028】
図3は、側壁一般部21においても側壁2下端から側壁2上端近傍まで伸びる鉛直方向の緊張材53が配設された実施形態を示している。かかる鉛直方向の緊張材53の円周方向の配設ピッチは図4に示すように、鉛直斜め方向の緊張材51に比べて適宜長いピッチとなるように配設されるのが好ましい。また、鉛直方向の緊張材53,53,…の外側にはそれらを囲繞するように円周方向の緊張材52,52,…が配設される。なお、図3、4では鉛直方向の緊張材53および鉛直斜め方向の緊張材51としてPC鋼棒を使用した場合を示しているが、鉛直斜め方向の緊張材51としてPC鋼線(またはPC鋼より線)を使用し、鉛直方向の緊張材53としてPC鋼棒を使用した組み合わせとすることもできる。
【0029】
図5は、容器構造物1の他の実施形態を示したものであり、部材厚が大きくなる部分22の縦断面形状が滑らかな曲線形状である場合の実施形態である。例えば、図5に示すように長径および短径で切断された1/4楕円断面に近似の縦断面となるように成形することができる。なお、図示を省略しているが、本実施形態において側壁一般部21内に側壁上端近傍まで伸びる鉛直方向の緊張材を配設することも可能である。
【0030】
図6は、部材厚が大きくなる部分22が下方に向かって多段状に大きくなるように成形された実施形態を示したものであり、図6aは1段の場合を、図6bは2段の場合をそれぞれ示している。図6bのように2段以上の多段形状の部材厚が大きくなる部分22を備えた容器構造物1を建設する場合としては、容器の規模が極めて大きく、容器高さが非常に高く、したがって貯蔵される液の液圧や地震時水平力、風荷重などの外力が極めて大きなものとなる場合などに特に有効である。また、容器構造物1の更なる高層化やアスペクト比などに応じて、部材厚が大きくなる部分22を3段以上の多段形状とすることにより、より経済的な容器構造物1の建設を実現することもできる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。例えば、容器構造物がLNGまたはLPG貯蔵用の二重殻式低温タンクの場合では、図示する側壁を外槽とし、その内側に保冷材などからなる内槽を備えた構成とすることができる。さらに、図示しないが、部材厚が大きくなる部分として側壁の途中に外部へ突出する突起部を備えた構成とすることもできる。すなわち、側壁の部材厚が側壁途中で膨らんだ突起部が周方向に帯状に連続するような構成である。この場合は鉛直斜め方向の緊張材を、その一端は底版内に、他端は突起部内にそれぞれ定着させることができる。突起部の下方の縦断面形状を鉛直斜め方向の緊張材の配設勾配に沿った勾配の形状とすることで、鉛直斜め方向の緊張材からの圧縮力を側壁へ効果的に作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のプレストレストコンクリート構造物の一実施形態を示した縦断面図。
【図2】図1のプレストレストコンクリート構造物の側面図であって鉛直斜め方向の緊張材を実線で示した図であり、(a)は中間緊張する緊張材としてPC鋼線またはPC鋼より線を使用した実施形態を示した図。(b)は中間緊張する緊張材としてPC鋼棒を使用した実施形態を示した図。
【図3】本発明のプレストレストコンクリート構造物の他の実施形態を示した縦断面図。
【図4】図3のプレストレストコンクリート構造物の側面図であって鉛直斜め方向の緊張材を実線で示した図。
【図5】本発明のプレストレストコンクリート構造物の他の実施形態を示した縦断面図。
【図6】本発明のプレストレストコンクリート構造物の他の実施形態を示した縦断面図であり、(a)は材厚が大きくなる部分を1段備えた実施形態を示した図。(b)は材厚が大きくなる部分を2段備えた実施形態を示した図。
【図7】従来のプレストレストコンクリート構造物の実施形態を示した図であり、(a)は縦断図。(b)は(a)の側面図であって緊張材を透視した図。
【符号の説明】
【0033】
1…プレストレストコンクリート構造物(容器構造物)、2…側壁、3…底版、4…天井、21…側壁一般部、22…部材厚が大きくなる部分、51…中間緊張材(鉛直斜め方向の緊張材)、52…円周方向の緊張材、53…鉛直方向の緊張材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも底版と該底版上に立設する側壁とから構成されるプレストレストコンクリート構造物において、
前記側壁はその途中から下方へ向かって部材厚が大きくなる部分を有しており、
前記部材厚が大きくなる部分に鉛直方向の中間緊張材が配設されており、該部材厚が大きくなる部分において該中間緊張材が中間緊張されることを特徴とする、プレストレストコンクリート構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−155999(P2008−155999A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329532(P2007−329532)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【分割の表示】特願2004−171329(P2004−171329)の分割
【原出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】