説明

プロバイオティック性のビフィドバクテリウム菌株

プロバイオティック性のビフィドバクテリウム菌株AH1205またはそのミュータントもしくはバリアントは、経口摂取後に免疫調節性であり、炎症活性、たとえば望ましくない胃腸炎症活性、たとえば炎症性腸疾患の予防および/または治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロバイオティック(probiotic)細菌としての、特に免疫調節性の生物学的療法剤としてのビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)(Bifidobacterium)菌株およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの胃腸管を腸内細菌による集落形成から保護する防御機序はきわめて複雑であり、免疫学的観点および非免疫学的観点の両方を伴う(1)。自然の防御機序には、胃の低pH、胆汁酸塩、蠕動運動、ムチン層、および抗微生物性化合物、たとえばリゾチームが含まれる(2)。免疫学的機序には、小腸および結腸の全体に分布するパイエル板と呼ばれる特殊なリンパ球凝集体である下層M細胞が含まれる(3)。これらの部位に管腔抗原が提示されると、適切なT細胞およびB細胞のサブセットが刺激されてサイトカインネットワークが樹立し、抗体が胃腸管内へ分泌される(4)。さらに、抗原提示は上皮細胞を経て上皮内リンパ球および下層の粘膜固有層の免疫細胞に対して行なわれる可能性がある(5)。したがって、宿主は実質的に胃腸管の免疫防御を装備している。しかし、胃腸粘膜は宿主が外部環境と相互作用する最大の表面であるので、平均寿命にわたって胃腸管が扱う100トンの食物に対する免疫応答性を調節するためには特別な制御機序を備えていなければならない。さらに、腸管には結腸において500種を超える1011〜1012/gの数の細菌が集落形成している。したがって、これらの制御機序は、付着している非病原性細菌を、宿主に著しい損傷を与えるであろう侵入病原体から識別できなければならない。事実、腸内細菌叢は、新たに摂取された潜在病原性微生物と競合することにより、宿主の防御に寄与する。
【0003】
ヒトの胃腸管内に存在する細菌が炎症を促進する可能性がある。常在微生物叢に対する異常な免疫応答が特定の疾病状態、たとえば炎症性腸疾患に関与することが示された。正常な微生物叢に付随する抗原は通常は免疫寛容を生じ、この寛容の達成の失敗が粘膜炎症の主な機序である(6)。この寛容破壊に関する証拠には、炎症性腸疾患(IBD)患者における腸内細菌叢に対する抗体レベルの上昇が含まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】McCracken V.J. and Gaskins H. R. Probiotics and the immune system. : Probiotics a critical review, Tannock, GW (ed), Horizon Scientific Press, UK. 1999, p.85-113
【非特許文献2】Savage D. C. Interaction between the host and its microbes. : Microbial Ecology of the Gut, Clark and Bauchop (eds), Academic Press, London. 1977, p.277-310
【非特許文献3】Kagnoff M.F. Immunology of the intestinal tract. Gastroenterol. 1993; 105 (5): 1275-80
【非特許文献4】Lamm M.E. Interaction of antigens and antibodies at mucosal surfaces. Ann. Rev. Microbiol. 1997; 51 : 311-40
【非特許文献5】Raychaudhuri S., Rock KL. Fully mobilizing host defense: building better vaccines. Nat biotechnol, 1998; 16: 1025-31
【非特許文献6】Stallmach A., Strober W, MacDonald TT, Lochs H, Zeitz M. Induction and modulation of gastrointestinal inflammation. Immunol. Today, 1998; 19 (10): 438-41
【発明の概要】
【0005】
本発明は、サイトカインレベルを調節することにより、または炎症促進性微生物(pro−inflammatory micro−organism)と拮抗してそれらを胃腸管から排除することにより免疫調節作用をもつことが示された、ビフィドバクテリウム菌株に関する。
【0006】
本発明によれば、ビフィドバクテリウム菌株AH1205(NCIMB 41387)またはそのミュータントもしくはバリアントが提供される。
【0007】
ミュータントは遺伝子修飾されたミュータントであってもよい。バリアントはビフィドバクテリウムの自然発生バリアントであってもよい。
【0008】
菌株はプロバイオティックであってもよい。それは生物学的に純粋な培養物の形態であってもよい。
【0009】
本発明は、ビフィドバクテリウムNCIMB 41387の分離菌株をも提供する。
【0010】
本発明の1態様において、ビフィドバクテリウム菌株は生存可能な細胞の形態である。あるいは、ビフィドバクテリウム菌株は生存不能な細胞の形態である。
【0011】
本発明の1態様において、ビフィドバクテリウム菌株は乳児の便から分離され、ビフィドバクテリウム菌株はヒトにおける経口摂取後に有意に免疫調節性である。
【0012】
本発明は、本発明のビフィドバクテリウム菌株を含む配合物をも提供する。
【0013】
本発明の1態様において、配合物は他のプロバイオティック物質を含有する。
【0014】
本発明の1態様において、配合物はプレバイオティック(prebiotic)物質を含有する。
【0015】
好ましくは、配合物は摂取可能なキャリヤーを含有する。摂取可能なキャリヤーは医薬的に許容できるキャリヤー、たとえばカプセル、錠剤または粉末であってもよい。好ましくは、摂取可能なキャリヤーは食品、たとえば酸性乳、ヨーグルト、冷凍ヨーグルト、粉乳、濃縮乳、チーズスプレッド、ドレッシングまたは飲料である。
【0016】
本発明の1態様において、本発明の配合物はさらにタンパク質および/またはペプチド、特にグルタミン/グルタメート、脂質、炭水化物、ビタミン、無機質および/または微量元素に富むタンパク質および/またはペプチドを含む。
【0017】
本発明の1態様において、ビフィドバクテリウム菌株は配合物中に送達系のグラム当たり10cfuより多量に存在する。好ましくは、配合物はいずれか1種類以上の佐剤、細菌成分、薬物、または生体化合物を含有する。
【0018】
本発明の1態様において、配合物は免疫化およびワクチン接種プロトコルのためのものである。
【0019】
本発明はさらに、下記のための本発明のビフィドバクテリウム菌株または配合物を提供する:食物として、医薬として使用するため、望ましくない炎症活性の予防および/または治療に使用するため、望ましくない呼吸器炎症活性、たとえば喘息の予防および/または治療に使用するため、望ましくない胃腸炎症活性、たとえば炎症性腸疾患、たとえばクローン病もしくは潰瘍性結腸炎、過敏性腸症候群、嚢炎(pouchitis)、または感染後結腸炎の予防および/または治療に使用するため、胃腸癌の予防および/または治療に使用するため、全身性疾患、たとえばリウマチ性関節炎の予防および/または治療に使用するため、望ましくない炎症活性に帰因する自己免疫障害の予防および/または治療に使用するため、望ましくない炎症活性に帰因する癌の予防および/または治療に使用するため、癌の予防に使用するため、望ましくない炎症活性に帰因する下痢性疾患、たとえばクロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)関連の下痢、ロタウイルス関連の下痢、または感染後下痢の予防および/または治療に使用するため、感染要因(infectious agent)、たとえば大腸菌(E.coli)に帰因する下痢性疾患の予防および/または治療に使用するため。
【0020】
本発明は、望ましくない炎症活性を予防および/または治療する抗炎症性の生物学的療法剤の調製に使用するための、あるいは、望ましくない炎症活性を予防および/または治療する抗炎症性の生物学的療法剤類の調製に使用するための、本発明のビフィドバクテリウム菌株または配合物をも提供する。
【0021】
本発明の1態様において、本発明の菌株は、炎症促進性微生物に拮抗してそれらを胃腸管から排除することにより作用する。
【0022】
本発明は、炎症性サイトカインのレベルを低下させる抗炎症性の生物学的療法剤の調製に使用するための、本発明のビフィドバクテリウム菌株または配合物をも提供する。
【0023】
本発明はさらに、IL−10のレベルを改変する抗炎症性の生物学的療法剤の調製に使用するための、ビフィドバクテリウム菌株を提供する。
【0024】
本発明は、病原性種の増殖に拮抗するそれらの能力による抗感染性プロバイオティックとしての、ビフィドバクテリウム菌株の使用をも提供する。
【0025】
本発明者らは、特定のビフィドバクテリウム菌株がインビトロで免疫調節作用を誘発することを見いだした。
【0026】
したがって本発明は、免疫応答調節異常、たとえば望ましくない炎症反応、たとえば喘息の予防または治療に、著しい潜在的な療法価値をもつものである。
【0027】
ビフィドバクテリウムは片利共生(commensal)微生物である。それらはヒトの胃腸管内の微生物叢から分離された。胃腸管内の免疫系はこの叢のメンバーに対して顕著に反応することができない;その結果生じる炎症活性が宿主細胞および組織機能をも破壊するからである。したがって、胃腸内微生物叢の片利共生する非病原性メンバーを病原性生物と異なるものとして免疫系が認識できるある機序(1以上)が存在する。これにより、宿主組織に対する損傷が制限されかつ防御バリヤーがなお維持されることが保証される。
【0028】
ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)菌株AH1205の寄託がNCIMBで2006年5月11日に行なわれ、寄託番号NCIMB 41387を与えられた。
【0029】
前記ビフィドバクテリウム・ロングムは、その遺伝子修飾したミュータントであってもよく、あるいは自然発生バリアントであってもよい。
【0030】
好ましくは、前記ビフィドバクテリウム・ロングムは生存可能な細胞の形態である。
【0031】
あるいは、前記ビフィドバクテリウム・ロングムは生存不能な細胞の形態であってもよい。
【0032】
本発明の特定のビフィドバクテリウム菌株を動物(ヒトを含む)に経口摂取しうる形態で、一般的な製剤、たとえばカプセル剤、マイクロカプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、丸剤、坐剤、懸濁液剤およびシロップ剤中において投与できることは認識されるであろう。適切な配合物は、慣用される方法で一般的な有機および無機添加剤を用いて調製できる。医薬組成物中の有効成分の量は、目的とする療法効果を発揮するレベルであってよい。
【0033】
配合物は細菌成分、薬物または生体化合物をも含有することができる。
【0034】
さらに、いずれか適切な既知の方法を用いて本発明の菌株を含むワクチンを調製でき、これは医薬的に許容できるキャリヤーまたは佐剤を含有することができる。
【0035】
本明細書全体において、用語ミュータント、バリアントおよび遺伝子修飾したミュータントには、親株と比較して遺伝子特性および/または表現型特性が変化したビフィドバクテリウム菌株が含まれる。ビフィドバクテリウム・ロングムの自然発生バリアントには、標的特性が自然変化したものを選択的に分離したものが含まれる。親株特性の計画的な変化は、一般的な(インビトロ)遺伝子操作技術、たとえば遺伝子破壊、接合伝達などにより達成できる。遺伝子修飾には、外因性および/または内因性DNA配列をビフィドバクテリウム菌株のゲノムに導入することが含まれ、これはたとえばプラスミドDNAまたはバクテリオファージを含めたベクターでこの菌株のゲノムに挿入することによる。
【0036】
自然変異または誘発変異には、そのDNAによりコードされるアミノ酸配列の変化を生じることができる少なくとも1個の塩基の変化、たとえば欠失、挿入、トランスバージョンその他のDNA修飾が含まれる。
【0037】
用語ミュータント、バリアントおよび遺伝子修飾したミュータントには、下記を生じたビフィドバクテリウム菌株も含まれる;すべての微生物について自然界におけるものと一致する率でゲノムに蓄積する遺伝子変化、ならびに/あるいは自然変異により起きる遺伝子変化、ならびに/あるいは計画的な(インビトロ)ゲノム操作により達成されるものではなく、抗生物質などの環境圧に曝露された際にその細菌の生存を支持する選択的利点を提供するバリアントおよび/またはミュータントの自然選択により達成される、遺伝子獲得および/または遺伝子喪失。ミュータントは、その生物の生化学的機能性を基本的に変化させないけれどもその生成物をその細菌の同定または選択のために利用できる特定の遺伝子(たとえば抗生物質耐性)を、ゲノムに計画的に(インビトロ)挿入することにより作製できる。
【0038】
ビフィドバクテリウムのミュータントまたはバリアント菌株を親株とのDNA配列相同性分析により同定できることは、当業者には認識されるであろう。親株と近接する配列同一性をもつビフィドバクテリウム菌株をミュータントまたはバリアント菌株とみなす。親DNA配列と96%以上、たとえば97%以上、または98%以上、または99%以上の配列同一性(相同性)をもつビフィドバクテリウム菌株をミュータントまたはバリアント菌株とみなすことができる。配列相同性は、http://www.ncbi.nlm.nih,gov/BLAST/に公開されているオンライン相同性アルゴリズム”BLAST”プログラムを用いて判定できる。
【0039】
親株のミュータントには、親株の16s−23s遺伝子間スペーサーポリヌクレオチド配列に対して少なくとも85%の配列相同性、たとえば少なくとも90%の配列相同性、または少なくとも95%の配列相同性をもつ誘導ビフィドバクテリウム菌株も含まれる。これらのミュータントはさらに、この細菌ゲノム中の他のDNA配列におけるDNA変異を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、ビフィドバクテリウム・ロングムAH1205のBOX PCR(bioanalyzer)バーコードプロフィールである。Agilent 2100ソフトウェアを用いて塩基対サイズを決定した。
【図2】図2は、便中のビフィドバクテリウム・ロングムAH1205の回収を8日間の供与期間にわたって示したグラフであり、AH1205がネズミ胃腸管を通過しうることを証明する。
【図3】図3は、ビフィドバクテリウム・ロングムAH1205がヒトPBMCによるIL−10サイトカイン産生に及ぼす影響を示す棒グラフである。結果を平均+/−SE(n=6)として表わす。
【図4】図4AおよびBは、プロバイオティック菌株AH1205(A)およびプラセボ(B)が、感作動物において卵アルブミン(OVA)攻撃後の気管支肺胞洗浄液中の総細胞数に及ぼす影響を示すグラフである(n=10/グループ、=p<0.05:OVA攻撃のみと比較)。
【図5】図5AおよびBは、プロバイオティック菌株AH1205処置(A)およびプラセボ(B)が、メタコリン(methacholine)に対する気道反応性に及ぼす影響を示すグラフであり、卵アルブミン(OVA)感作マウスにおいてOVAまたは生理食塩水で鼻内攻撃した24時間後の休止期延長(enhanced pause)(Penh)の変化により評価された。各データ点は平均±SEMを示す(n=10/グループ、p=<0.05:OVAのみと比較)。
【図6】図6A〜Eは、卵アルブミン(OVA)感作マウスからの気管支肺胞洗浄液(BAL)中のIL−10(A)、IFNγ(B)、TNF(C)、IL−6(D)およびCCL2(E)サイトカイン濃度を示すグラフである。各柱は平均±SEMを示す(n=10/グループ、p<0.05:OVA攻撃した生理食塩水処置対照と比較)。
【図7】図7は、AH1205を与えたマウスからのCD4CD25細胞がレスポンダーCD4 T細胞増殖を有意に低下させたことを示すグラフである(n=7)。
【図8】図8は、CD4+集団中のCD25+でもあるパイエル板細胞のパーセントをフローサイトメトリーにより評価したものを示すグラフである。
【図9】図9AおよびBは、AH1205を摂取している無菌マウスにおいて、転写因子Foxp3を発現するCD4/CD25+細胞のパーセントが有意にアップレギュレートしていることを示すグラフである。(A)=脾細胞、(B)=MLNC細胞(脾臓アッセイについてはn=4/グループ、MLNCアッセイについてはn=2/3)。
【図10】図10は、CD3/CD28刺激したMLNC培養により分泌されたサイトカインIL−6、MCP−1およびIFN−γの濃度は、無菌マウスがビフィドバクテリウム・ロングムAH1205を摂取した場合に低下したことを示すグラフである。結果をグループ毎の平均+/−標準誤差として表わす(n=4/グループ)。
【図11】図11は、CD3/CD28刺激した脾細胞培養により分泌されたサイトカインIL−6およびTNF−αの濃度は、無菌マウスがビフィドバクテリウム・ロングムAH1205を摂取した場合に低下したことを示すグラフである。結果をグループ毎の平均+/−標準誤差として表わす(n=4/グループ)。
【図12】図12は、プロバイオティック菌株AH1205がラクトバチルス(Lactobacillus)GGと比較して3カ月間にわたって安定であることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明者らは、ビフィドバクテリウム・ロングム菌株AH1205が酸および胆汁に耐容性でありかつ胃腸管を通過するだけでなく、意外にもサイトカインレベルの調節による、または炎症促進性もしくは免疫調節性の微生物に拮抗してそれらを胃腸管から排除することによる、免疫調節作用も備えていることを見いだした。
【0042】
プロバイオティック細菌の一般的な使用は生存可能な細胞の形態においてである。しかし、それは生存不能な細胞、たとえば死滅させた培養物または組成物であってそのプロバイオティック細菌が発現する有益な因子を含有するものにまで拡張することもできる。これには、熱により死滅させた微生物またはpH変化への曝露もしくは圧力の付与により死滅させた微生物を含めることができる。生存不能な細胞を用いる製品調製の方が簡単であり、生存可能な細胞より容易に細胞を医薬に取り込ませることができ、かつ貯蔵要件の制限ははるかに少ない。ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)YIT 9018は、腫瘍の増殖を治療および/または予防するための方法として、熱により死滅させた細胞の有効使用の一例となる;US Patent No.US4347240に記載。
【0043】
免疫調節作用を発揮するために無傷の細菌が必要であるかどうか、あるいは本発明の個々の有効成分を単独で使用できるかは分かっていない。特定の細菌株の炎症促進成分が同定されている。グラム陰性菌の炎症促進作用はリポ多糖(LPS)により仲介される。LPSは単独で炎症ネットワークを誘発する;これは、一部はLPSが単球上のCD14受容体に結合することによる。プロバイオティック細菌の成分は、全細胞の作用により免疫調節活性をもつと推定される。これらの成分を単離するに際しては、医薬グレードの操作が予想される。
【0044】
IL−10はT細胞、B細胞、単球およびマクロファージにより産生される。このサイトカインは、B細胞が増殖および分化して抗体分泌細胞になるのを促進する。IL−10は主に抗炎症活性を示す。それは、単球によるIL−1RA発現をアップレギュレートし、単球の大部分の炎症活性を抑制する。IL−10は、単球によるサイトカイン、反応性酸素および窒素中間体の産生、MHCクラスIIの発現、寄生虫の死滅を阻害し、IL−10産生をフィードバック機序により阻害する(7)。このサイトカインは、単球による腸コラゲナーゼおよびIV型コラゲナーゼの産生をPGE−cAMP依存性経路の干渉により遮断することも示され、したがって慢性炎症性疾患にみられる結合組織破壊の重要な調節物質である可能性がある。
【0045】
感染に対する宿主応答は、有害生物の拡延を制限しかつ臓器の恒常性を回復するように仕組まれた先天性および後天性の細胞性および体液性免疫反応を特徴とする。しかし、宿主組織に対する随伴損傷の攻撃性を制限するために、ある範囲の調節拘束が活性化される可能性がある。調節T細胞(Treg)はそのような機序のひとつを行なう。これらは胸腺に由来するが、腸粘膜を含めた末梢臓器において誘発される場合もある。Treg細胞を計画的に投与すると、広範なネズミモデルの炎症性疾患が抑制される;これには、実験的自己免疫性脳脊髄炎、炎症性腸疾患、細菌誘発性結腸炎、コラーゲン誘発性関節炎、I型糖尿病、気道好濃性炎症、移植片対宿主疾患および臓器移植が含まれる。フォークヘッド転写因子(forkhead transcription factor)Foxp3(フォークヘッドボックスP3)はTreg細胞に選択的に発現し、Tregの発生および機能に必要であり、一般的なCD4細胞においてTreg表現型を誘導するのに十分である(19)。Foxp3における変異は、ヒトおよびマウスの両方において重篤な多臓器自己免疫を引き起こす。本発明者らはインビボでCD25プラス/Foxp3プラスT調節細胞を産生するビフィドバクテリウム菌株を記載した。
【実施例】
【0046】
本発明は下記の実施例からより明瞭に理解されるであろう。
【0047】
実施例1:乳児の便から分離した細菌の特性解明
プロバイオティック形質の証明
プロバイオティック細菌の分離
新鮮な便を3日齢の母乳栄養男児から入手し、系列希釈液を、0.05%システインおよびムピロシン(mupirocin)を補充したTPY(トリプチケース(trypticase)、ペプトンおよび酵母エキス)およびMRS(deMann,Rogosa and Sharpe)培地に播種した。平板を、嫌気性ジャー(BBL,Oxoid)内でCO発生キット(Anaerocult A,Merck)を用いて37℃で2〜5日間インキュベートした。グラム陽性、カタラーゼ陰性である棒状または分岐形/表現形の細菌分離株を、純粋培養のために複合非選択培地(MRSおよびTPY)上で画線培養した。別途記載しない限り、分離株はMRSまたはTPY培地において37℃で嫌気性条件下にルーティン培養された。推定ビフィドバクテリウムを40%グリセロール中に保存し、−20℃および−80℃で貯蔵した。
【0048】
表示AH1205と定める純粋なビフィドバクテリウム菌株の分離後、微生物学的特性を評価し、下記の表1にまとめる。AH1205は、フルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼ陽性であるグラム陽性、カタラーゼ陰性の多形細菌であり、これによりビフィドバクテリウムとしての同一性が確認される。単一の炭素源を装入した最少培地を用いると、AH1205は試験したすべての炭素源(グルコース、ラクトース、リボース、アラビノース、ガラクトース、ラフィノース、フルクトース、麦芽エキス、マンノース、マルトース、スクロース)上で増殖可能であった。
【0049】
【表1】

【0050】
フルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼアッセイを表わす。
【0051】
種の同定
分離したビフィドバクテリウムの種を同定するために、16s遺伝子間スペーサー(IGS)配列決定を行なった。要約すると、100μlの抽出溶液および25μlの組織調製溶液(Sigma,XNAT2キット)を用いて、AH1205からDNAを単離した。試料を95℃で5分間インキュベートし、次いで100μlの中和溶液(XNAT2キット)を添加した。ゲノムDNA溶液をNanodrop分光光度計により定量し、4℃に貯蔵した。下記のIGSプライマーを用いてPCRを実施した;IGS L:5’−GCTGGATCACCTCCTTTC−3’(SEQ ID NO.3):これはSEQ ID NO.1に基づく、およびIGS R:5’−CTGGTGCCAAGGCATCCA−3’(SEQ ID NO.4):これはSEQ ID NO.2に基づく。サイクリング条件は、94℃で3分間(1サイクル)、94℃で3秒間、53℃で30秒間、72℃で30秒間(28サイクル)であった。PCR反応物は、4μl(50ng)のDNA,PCRミックス(XNAT2キット)、0.4μMのIGS LおよびRプライマー(MWG Biotech,ドイツ)を含有していた。PCR反応はEppendorfサーモサイクラー上で行なわれた。PCR生成物(10μl)を、分子量マーカー(100bp Ladder,Roche)と共にTAE中の2%アガロースEtBr着色ゲル上を走行させて、IGSプロフィールを判定した。ビフィドバクテリウムのPCR生成物(単一バンド)をPromega Wizard PCR精製キットにより精製した。精製されたPCR生成物を、遺伝子間スペーサー領域に対するプライマー配列(前記)を用いて配列決定した。次いで配列データをNCBIヌクレオチドデータベースに対比して検索し、ヌクレオチド相同性によりこの菌株の同一性を決定した。得られたDNA配列データをNCBI標準ヌクレオチド−対−ヌクレオチド相同性BLAST検索エンジン(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)で処理した。この配列との最近接一致を同定し、次いでそれらの配列をDNASTAR MegAlignソフトウェアによる比較のためにアラインさせた。得られた配列(SEQ ID NO.1[IGSフォワード配列]およびSEQ ID NO.2[IGSリバース配列])は配列リスト中に見ることができる。NCIMBデータベースの検索により、AH1205はビフィドバクテリウム・ロングムに対する最近接配列相同性でユニークIGS(SEQ ID NO.1[フォワード配列]およびSEQ ID NO.2[リバース配列])配列をもつことが明らかになった。
【0052】
AH1205についてのバーコードPCRプロフィールを開発するために、BOXプライマーを用いてPCRを実施した(8)。サイクリング条件は、94℃で7分間(1サイクル);94℃で1分間、65℃で8分間(30サイクル)および65℃で16分間であった。PCR反応物は50ngのDNA,PCRミックス(XNAT2キット)および0.3μMのBOXAlRプライマー(5’−CTACGGCAAGGCGACGCTGACG−3’)(SEQ ID NO.5)(MWG Biotech、ドイツ)を含有していた。PCR反応はEppendorfサーモサイクラー上で行なわれた。PCR生成物(1μl)を、分子量マーカー(DNA 7500 ladder,Agilent、ドイツ)と共にDNA 7500 LabChip(登録商標)を用いてAgilent 2100 Bioanalyzer(Agilent、ドイツ)上で走行させた。ピークの数(PCR生成物)およびサイズを同定するAgilent Bioanalyzerソフトウェアを用いてバーコード(PCR生成物プロフィール)を決定した(図1)。
【0053】
抗生物質感受性プロフィール
’ディスク感受性’アッセイを用いてビフィドバクテリウム・ロングムの抗生物質感受性プロフィールを決定した。培養物を適切なブロス培地中で24〜48時間増殖させ、寒天培地上に展延播種し(l00μl)、既知濃度の抗生物質を含有するディスクを寒天に乗せた。37℃で嫌気性条件下に1〜2日間のインキュベーション後、菌株を抗生物質感受性について調べた。1mm以上の阻止域がみられた場合、菌株を感受性であるとみなした。それぞれの抗生物質についての最小阻止濃度(MIC)を個別に評価した。クリンダマイシン、バンコマイシンおよびメトロニダゾールに対するMICは、それぞれ0.032、0.75および>256であった。
【0054】
腸通過
ビフィドバクテリウム・ロングムが胃内でみられるものと同等な低pH値で生存できるかどうかを判定するために、新鮮な一夜培養物から細菌細胞を収穫し、リン酸緩衝液(pH6.5)中で2回洗浄し、pH2.5に調整した(1M HClで)TPYブロスに再懸濁した。細胞を37℃でインキュベートし、5、30、60および120分間隔で平板計数法により生存率を測定した。AH1205はpH2.5で5分間は良好に生存したが、30分後には生存可能な細胞は回収されなかった。
【0055】
胃から出ると、推定プロバイオティックは小腸内で胆汁酸塩に曝露される。ビフィドバクテリウム・ロングムが胆汁曝露で生存する能力を調べるために、0.3%(w/v)、0.5%、1%、2%、5%、7.5%または10%ブタ胆汁を追加したTPY寒天平板上で培養物を画線培養した。ビフィドバクテリウム・ロングムAH1205の増殖は最高0.5%の胆汁を含有する平板上でみられた。
【0056】
ネズミモデルにおいて、ビフィドバクテリウム・ロングムAH1205が胃腸管を通過する能力を評価した。マウスに毎日1x10のAH1205を摂取させ、便ペレットを供与微生物の存在について調べた。AH1205の検出は、ビフィドバクテリウムの自然リファンピシン耐性バリアントを分離することによって容易になった−通過を評価するために用いるTPY平板にリファンピシンを取り込ませることにより、供給したリファンピシンに対して耐性であるビフィドバクテリウムのみの培養が確実になった。便試料を毎日採集し、ビフィドバクテリウム・ロングムの胃腸管通過を確認した(図2)。
【0057】
抗微生物活性
この試験に用いた指示病原微生物を下記の培地中で下記の増殖条件下に増殖させた:ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)(37℃、好気性):0.6%酵母エキスを補充したトリプトンダイズブロス/寒天(TSAYE,Oxoid)中、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)(37℃、嫌気性)および大腸菌(E.coli)O157:H7(37℃、嫌気性):血液寒天培地上、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)(37℃、嫌気性):強化クロストリジウム培地(RCM、Oxoid)中。すべての菌株を新鮮な増殖培地中に播種し、一夜増殖させた後、実験に用いた。
【0058】
異なる方法で抗微生物活性を検出した(9)。要約すると、ビフィドバクテリウム・ロングムAH1205を36〜48時間インキュベートした。10倍系列希釈液をTPY寒天培地上に展延播種した(l00μl)。一夜のインキュベーション後、顕著なコロニーを含む平板に指示菌をオーバーレイした。播種したTPY平板の表面に指示菌の一夜培養物2%(v/v)を含む離解オーバーレイを注いで播種することにより、指示菌ローン(lawn)を調製した。平板を指示菌の増殖に適切な条件下で一夜、再びインキュベートした。半径1mmより大きい阻止域をもつ指示菌培養物を被験菌に対して感受性であるとみなした。ビフィドバクテリウム・ロングムAH1205は試験したすべての病原性微生物の増殖を阻害し、透明域はネズミチフス菌、カンピロバクター・ジェジュニ、大腸菌およびクロストリジウム・ディフィシレについてそれぞれ8.67、>80、4.33および11.67mmと測定された。
【0059】
実施例2:ビフィドバクテリウム・ロングムに応答したPBMCによるサイトカイン産生
末梢血単核細胞(PBMC)を健康なドナーから密度勾配遠心により単離した。PBMCをプロバイオティック菌株により37℃で72時間刺激した。この時点で培養上清を採集し、遠心分離し、分割し、IL−10濃度についてサイトメトリービーズアッセイ(BD BioSciences)により評価するまで−70℃に貯蔵した。AH1205はPBMCによる有意のIL−10分泌を誘発し、これによりこのプロバイオティック菌株がインビボで抗炎症応答を誘発することが示唆された(図3)。
【0060】
実施例3:ビフィドバクテリウム・ロングムAH1205は喘息のネズミモデルにおいて呼吸器疾患を軽減する
この試験は、プロバイオティック細菌ビフィドバクテリウム・ロングムAH1205が卵アルブミン(OVA)感作したアレルギー性気道炎症マウスモデルにおいてアレルギー反応を抑制するかどうかを調べた。要約すると、成体雄BALB/cマウスを0および6日目にOVAのi.p.注射により感作した。12および14日目に、マウスをOVAで鼻内攻撃した。最終攻撃の24時間後(15日目)、マウスの気道応答性をBAL法に従って測定した。OVA/alum感作し、生理食塩水攻撃したマウスを、対照として用いた。動物にプロバイオティックまたはプラセボを試験期間全体にわたって投与した。気道炎症(サイトカインおよび細胞数)を気管支肺胞洗浄(BAL)液中の炎症細胞数により評価した。Buxco全身プレチスモグラフを用いて気道応答性も測定した。OVA感作マウスから脾細胞も分離し、抗CD3および抗CD28抗体の存在下でインキュベートした後、上清中のサイトカイン濃度をフローサイトメトリーにより測定した。
【0061】
ビフィドバクテリウム・ロングムAH1205は、ブロスを与えた動物と比較して、OVA攻撃後にBAL液から回収した細胞の有意ではない減少を生じた(図4)。気道応答性を測定し、感作したマウスのOVA攻撃は、生理食塩水で攻撃したマウスと比較してメタコリンに対するAHRを亢進した。AH1205は、休止期延長の変化により評価したメタコリンに対するこの亢進した気道応答性を変調させなかった(図5)。
【0062】
BALサイトカイン濃度をサイトメトリービーズアッセイにより測定し、AH1205を与えた動物はOVA対照と比較してTNF−α濃度を有意に低下させることが証明された(図6C)。IL−10、IFN−γ、IL−6およびCCL2の濃度には有意差が認められなかった(図6)。
【0063】
実施例4:Tregエフェクターモデル
この試験は、プロバイオティックの摂取が調節T細胞の数および活性に及ぼす影響を健康なマウスにおいて調べた。BALB/cマウス(10匹/グループ)にビフィドバクテリウム・ロングムAH1205またはプラセボを3週間与えた。プロバイオティック/プラセボ摂取後、CD4+CD25+ T−調節細胞を分離し、それらのインビトロ抑制活性を、抗CD3/CD28刺激したCFSE標識CD4+レスポンダーT細胞の増殖をフローサイトメトリーを用いて測定することにより判定した。CD4+レスポンダーT細胞を対照としてのCD4+CD25− T細胞と共にインキュベートした。ネズミ脾細胞中のFoxP3プラスでもあるCD4+CD25+細胞(調節T細胞)を、プロバイオティックまたはプラセボを与えたマウスの脾臓において測定した。
【0064】
プロバイオティック/プラセボを与えたマウスからのCD4+CD25+細胞と共にインキュベートした場合に増殖したCD4+細胞の%を、同じ被験マウスからのCD4+CD25−細胞と共にインキュベートした場合に増殖したCD4+細胞の%と比較した。それぞれの場合、T細胞増殖は、CD4細胞のみを含有しCD25+細胞を含まない培養物の場合と比較して、CD4+CD25+細胞を含有する培養物の場合の方が少なかった(図7)。
【0065】
CD4+集団においてCD25+でもある細胞の%を測定した(図8)。ビフィドバクテリウム・ロングムAH1205を与えたグループは、CD25+であるCD4+ T細胞(すなわちT調節細胞)を、プラセボを与えたそれらのカウンターパートより有意に多量に含有していた。これは、CD4+集団内のT調節細胞の%がAH1205供与によって有意に増大することを示唆する。
【0066】
プロバイオティックまたはプラセボを与えたマウスの全脾細胞集団におけるCD4+CD25+FoxP3+細胞の数も測定した。FoxP3を発現するCD4+CD25+ T−調節細胞の数は、プラセボを与えたマウスまたは与えなかったマウスと比較して、プロバイオティックを与えたマウスの脾臓において変化しなかった。
【0067】
実施例5:無菌モデル
無菌マウスを6週齢で購入し、UCCのバイオロジカルサービスユニットにおいて無菌ユニット内で飼育した。動物はプロバイオティック菌株ビフィドバクテリウム・ロングムAH1205を9日間摂取し、または無菌のままであった。T調節細胞の誘導をフローサイトメトリーにより評価し、サイトカイン濃度をCBAにより定量した。
【0068】
選択寒天上で試験期間にわたってビフィドバクテリウム数を測定することにより、AH1205通過を評価した。1x10の菌を毎日投与したけれども、測定可能な数のAH1205は無菌マウスの腸を通過しなかった。この結果は、ビフィドバクテリウムが腸内で生存するためには微生物または宿主のさらに他の要因が必要であることを示唆する。
【0069】
検出可能な数のAH1205は腸を通過しなかったが、この細菌は実際に宿主の免疫系と相互作用した。AH1205を与えた無菌動物の腸間膜リンパ節および脾臓におけるCD4+CD25+Foxp3+細胞の数は、9日間の供与後に有意に増加した(図9)。CD3/CD4またはCD3/CD8の総数は変化しないままであった。
【0070】
分離した腸間膜リンパ節細胞(MLNC)および脾細胞をインビトロで抗CD3/CD28抗体もしくはLPSにより刺激し、または陰性対照として刺激しないままにした。マウスにAH1205を予め与えた場合、CD3/CD28刺激後のMLNCによるIL−6および/またはIFN−γの分泌が培養上清において実質的に低下し、一方、MCP−1濃度は有意に抑制された(図10)。IL−10濃度はグループ間で同様なままであった。AH1205を予め与えた場合、脾細胞によるIL−6およびTNF−αの放出は、実質的に、ただし有意にではなく、低下した(図11)。非刺激培養またはLPS刺激培養について有意差は認められなかったが、全体的にビフィドバクテリウム・ロングムAH1205を与えた動物からの炎症性サイトカイン産生はより少ないことが観察された。
【0071】
実施例6:安定性試験結果
プロバイオティック菌株AH1205の安定性は、30℃で3カ月間にわたって変化した(図12)。
【0072】
ラクトバチルスGGは3カ月間の試験期間にわたって2log低下する低い性能をもつものであり、これに対し菌株AH1205は同じ試験期間にわたる生存率低下が最高で約1logであった。
【0073】
免疫調節
ヒトの免疫系は、ヒトの広範な疾患の病因および病原において重要な役割を果たす。免疫応答性の亢進および低下は多くの疾病状態をもたらし、あるいはその状態の構成要素である。サイトカインと呼ばれる生体物質の1ファミリーは、免疫プロセスの制御に特に重要である。これらの繊細なサイトカインネットワークの撹乱が次第に多くの疾患と関連づけられるようになってきた。これらの疾患には下記のものが含まれるが、これらに限定されない:炎症性障害、免疫不全、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、癌(特に胃腸系および免疫系の)、下痢性疾患、抗生物質関連の下痢、小児下痢、虫垂炎、自己免疫障害、多発性硬化症、アルツハイマー病、リウマチ性関節炎、セリアック病(coeliac disease)、糖尿病、臓器移植、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、歯周疾患、尿生殖器疾患、性交渉感染症、HIV感染症、HIV複製、HIV関連の下痢、外科処置関連の外傷、外科処置誘発性の転移性疾患、敗血症、体重減少、食欲低下症、発熱調節、悪液質、創傷治癒、潰瘍、腸バリヤー機能、アレルギー、喘息、呼吸器障害、循環障害、冠性心疾患、貧血、血液凝固系の障害、腎疾患、中枢神経系の障害、肝疾患、虚血、栄養障害、骨粗鬆症、内分泌障害、表皮障害、乾癬、および/または尋常性座瘡。サイトカイン産生に及ぼす影響は、試験したプロバイオティック菌株それぞれに特異的であった。したがって、特に特定の疾患タイプに特有のサイトカイン平衡異常を正常化するために、特定のプロバイオティック菌株を選択することができる。AH1205またはそのミュータントもしくはバリアントの単一菌株、あるいは選択したこれらの菌株を用いて、疾患特異的療法の個別化を達成することができる。
【0074】
免疫教育
腸内細菌叢は、腸免疫系の発達および適正な機能にとって重要である。無菌動物モデルにおいて証明されるように、腸内細菌叢が存在しない場合、腸免疫系は未発達となり、特定の機能性パラメーター、たとえばマクロファージの食細胞能および免疫グロブリン産生が低下する(10)。非損傷性免疫応答の刺激における腸内細菌叢の重要性がより明らかになりつつある。西洋におけるアレルギーの発症率および重篤性の増大は、宿主が遭遇する感染攻撃の回数および範囲の減少と共に衛生状態および衛生処理の向上に関連づけられている。この免疫刺激の不足により、非病原性であるけれども抗原性である物質に宿主が反応してアレルギーまたは自己免疫状態を生じる可能性がある。一連の非病原性免疫調節細菌を計画的に摂取すると、宿主は免疫機能の適正な発達および制御に必要かつ適切な教育(education)刺激を受けるであろう。
【0075】
炎症
炎症は、持続的な身体損傷、感染のある部位、または進行中の免疫応答がある部位における、体液、血漿タンパク質および白血球の局所蓄積を述べるために用いられる用語である。炎症反応の制御は、多数のレベルで発揮される(11)。制御因子には、サイトカイン、ホルモン(たとえばヒドロコルチゾン)、プロスタグランジン、反応性中間体およびロイコトリエンが含まれる。サイトカインは低分子量の生物活性タンパク質であり、免疫応答および炎症反応の発生および制御に関与し、一方では発達、組織修復および造血も調節する。それらは、白血球自体の間の連絡手段を提供し、また他の細胞タイプとの間の連絡手段も提供する。大部分のサイトカインは多形質発現性であり、多数のオーバーラップする生物活性を発現する。サイトカインのカスケードおよびネットワークは、特定の細胞タイプに対する特定のサイトカインの作用より、むしろ炎症反応を制御する(12)。炎症反応が漸減すると、適切な活性化シグナルおよび他の炎症仲介物質の濃度が低下し、これにより炎症反応が停止する。TNFαはサイトカインのカスケードおよび生物学的作用を開始して炎症状態をもたらすので、中枢となる炎症性サイトカインである。したがって、TNFαを阻害する物質、たとえばインフィキシマブ(infliximab)が、現在、炎症性疾患の処置のために用いられている。
【0076】
炎症性サイトカインは、炎症性腸疾患(IBD)を含めた多くの炎症性疾患の発病において重要な役割を果たすと考えられている。IBDを処置するための現在の療法は、IL−8およびTNFαを含めたこれらの炎症性サイトカインのレベルを低下させることを目標とする。そのような療法は、全身性炎症性疾患、たとえばリウマチ性関節炎の処置においても重要な役割を果たすことができる。
【0077】
本発明の菌株は、特に他の炎症療法、たとえば非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)またはインフィキシマブと併用した場合、広範な炎症性疾患の処置に利用できる可能性がある。
【0078】
サイトカインと癌
多機能性サイトカインが広域の腫瘍タイプにわたって産生されることは、癌患者において有意の炎症反応が進行中であることを示唆する。インビボでの腫瘍細胞の増殖および発生に対してどの防御作用がこの反応をもつかは、現在は分かっていない。しかし、これらの炎症反応は腫瘍を保有する宿主に有害に作用している可能性がある。複雑なサイトカイン相互作用が、腫瘍組織および正常組織内でのサイトカイン産生および細胞増殖の調節に関与する(13,14)。体重減少(悪液質)は癌患者の最も一般的な死因であり、初期の栄養不足が予後不良の指標であると長く認識されてきた。腫瘍が増殖および拡散するためには、新たな血管の形成を誘発し、細胞外マトリックスを破壊しなければならない。炎症反応はこれらの機序において果たす重要な役割をもち、したがって宿主の衰弱および腫瘍の進行に寄与するという可能性がある。ビフィドバクテリウム・ロングム・インファンティス(Bifidobacterium longum infantis)の抗炎症特性により、これらの菌株は悪性細胞トランスフォーメーション速度を低下させることができる。さらに腸内細菌が食事化合物から遺伝子毒性、発癌性および腫瘍増進性の活性をもつ物質を生成する可能性があり、また腸内細菌が発癌前駆物質を活性化してDNA反応性物質にする可能性がある(15)。一般にビフィドバクテリウム菌種は、腸内の他の集団、たとえばバクテロイデス(bacteroides)、ユーバクテリウム(eubacteria)およびクロストリジウム(clostridia)と比較して低い非生体物質(xenobiotic)代謝酵素活性をもつ。したがって、腸内のビフィドバクテリウム菌数が増加すると、これらの酵素の濃度を有益に改変することができる。
【0079】
ワクチン/薬物の送達
大部分の病原菌は粘膜表面を経て進入することができる。これらの部位に効果的なワクチン接種は、特定の感染要因の侵入に対して防御する。経口ワクチン接種方式は、現在まで、弱毒化した病原性生菌または精製した封入抗原の使用に集中している(16)。インビボで感染要因から抗原を産生するように工学的に処理したプロバイオティック細菌は、魅力的な代替品を提供することができる;これらの細菌はヒトによる摂取について安全である(GRAS状態)とみなされるからである。
【0080】
ネズミの試験により、外来抗原を発現するプロバイオティック細菌の摂取が防御免疫応答を誘発しうることが証明された。破傷風毒素フラグメントC(TTFC)をコードする遺伝子を、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)において発現させ、マウスを経口経路で免疫化した。この系は、マウスを致死的な毒素攻撃から防御するのに十分な著しく高い抗体価を誘導することができた。生菌ベクターは、抗原提示のほか、生物活性化合物、たとえば免疫増強性サイトカインをインビボで産生することができる。生物活性ヒトIL−2またはIL−6およびTTFCを分泌するラクトコッカス・ラクティスは、鼻内免疫化したマウスにおいて10〜15倍高い血清IgG価を誘導した(17)。しかし、この特定の細菌株を用いても、これらのサイトカインとの同時発現により総IgA濃度が増大することはなかった。他の細菌株、たとえばストレプトコッカス・ゴルドニイ(Streptococcus gordonii)も粘膜ワクチンとしてのそれらの有用性について試験中である。ネズミの口腔および膣腔に集落形成した組換えストレプトコッカス・ゴルドニイは、この細菌が発現する抗原に対する粘膜および全身性の両方の抗体応答を誘導した(18)。したがって、プロバイオティック細菌をベクターとして用いる口腔免疫化は、宿主を感染から防御するだけでなく、普通はその病原体が誘発する免疫刺激の代替となり、したがって宿主の免疫教育に寄与するという可能性がある。
【0081】
プレバイオティック
プロバイオティック菌の導入は、適切なキャリヤー中の微生物を摂取することにより達成される。大腸内でのこれらのプロバイオティック菌株の増殖を促進する媒質を供給することは有利であろう。1種類以上のオリゴ糖、多糖、または他のプレバイオティックの添加は、胃腸管内での乳酸菌の増殖を高める。プレバイオティックは、プラスの価値をもつと考えられている常在細菌、たとえばビフィドバクテリウム、乳酸菌によって結腸内で特異的に発酵する、いずれかの非生存性食物成分を表わす。プレバイオティックのタイプには、フルクトース、キシロース、ダイズ、ガラクトース、グルコースおよびマンノースを含めることができる。プロバイオティック菌株と1種類以上のプレバイオティック化合物の組合わせ投与は、投与したプロバイオティックのインビボでの増殖を高め、その結果、より顕著な健康上の有益性をもたらすことができ、シンバイオティック(synbiotic)と呼ばれる。
【0082】
他の有効成分
プロバイオティック菌株を予防的に、または治療法として、それ自体で、または前記に述べた他のプロバイオティックおよび/またはプレバイオティック物質と共に投与できることは認識されるであろう。さらに、前記の菌株は、他の有効物質、たとえば炎症または他の障害、特に免疫関連の障害の処置に使用する物質を用いる予防または治療計画の一部として使用できる。そのような組合わせを、単一配合物として、または同時もしくは異なる時点で同一もしくは異なる投与経路を用いて投与する別個の配合物として、投与することができる。
【0083】
本明細書中で前記に述べた態様は詳細に変更できるので、本発明はこれらに限定されない。
【0084】
参考文献
【0085】
【表2−1】

【0086】
【表2−2】

【0087】
【表2−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄託番号NCIMB 41387を有するビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)菌株AH1205またはそのミュータントもしくはバリアント。
【請求項2】
ミュータントが遺伝子修飾されたミュータントである、請求項1に記載のビフィドバクテリウム菌株。
【請求項3】
バリアントがビフィドバクテリウムの自然発生バリアントである、請求項1に記載のビフィドバクテリウム菌株。
【請求項4】
プロバイオティックである、請求項1に記載のビフィドバクテリウム菌株。
【請求項5】
菌株が生物学的に純粋な培養物の形態である、請求項1または4に記載のビフィドバクテリウム菌株。
【請求項6】
ビフィドバクテリウムNCIMB 41387の分離菌株。
【請求項7】
生存可能な細胞の形態である、請求項1〜6のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株。
【請求項8】
生存不能な細胞の形態である、請求項1〜6のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株。
【請求項9】
ビフィドバクテリウムが乳児の便から分離された、請求項1〜8のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株。
【請求項10】
菌株がヒトにおける経口摂取後に有意に免疫調節性である、請求項1〜9のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株を含む配合物。
【請求項12】
さらにプロバイオティック物質を含む、請求項11に記載の配合物。
【請求項13】
さらにプレバイオティック物質を含む、請求項11または12のいずれかに記載の配合物。
【請求項14】
さらに摂取可能なキャリヤーを含む、請求項11〜13のいずれかに記載の配合物。
【請求項15】
摂取可能なキャリヤーが医薬的に許容できるキャリヤー、たとえばカプセル、錠剤または粉末である、請求項14に記載の配合物。
【請求項16】
摂取可能なキャリヤーが食品、たとえば酸性乳、ヨーグルト、冷凍ヨーグルト、粉乳、濃縮乳、チーズスプレッド、ドレッシングまたは飲料である、請求項14に記載の配合物。
【請求項17】
さらにタンパク質および/またはペプチド、特にグルタミン/グルタメート、脂質、炭水化物、ビタミン、無機質および/または微量元素に富むタンパク質および/またはペプチドを含む、請求項11〜16のいずれかに記載の配合物。
【請求項18】
ビフィドバクテリウム菌株が配合物のグラム当たり10cfuを超える量で存在する、請求項11〜17に記載の配合物。
【請求項19】
さらに佐剤を含む、請求項11〜18に記載の配合物。
【請求項20】
さらに細菌成分を含む、請求項11〜19に記載の配合物。
【請求項21】
さらに薬物を含む、請求項11〜20に記載の配合物。
【請求項22】
さらに生体化合物を含む、請求項11〜21に記載の配合物。
【請求項23】
免疫化およびワクチン接種プロトコルのための、請求項11〜22に記載の配合物。
【請求項24】
食物中に使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項25】
医薬として使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項26】
望ましくない炎症活性の予防および/または治療に使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項27】
炎症性腸疾患、たとえばクローン病もしくは潰瘍性結腸炎、過敏性腸症候群;嚢炎;または感染後結腸炎など、望ましくない胃腸炎症活性の予防および/または治療に使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項28】
胃腸癌の予防および/または治療に使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項29】
全身性疾患、たとえばリウマチ性関節炎の予防および/または治療に使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項30】
望ましくない炎症活性に帰因する自己免疫障害の予防および/または治療に使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項31】
望ましくない炎症活性に帰因する癌の予防および/または治療に使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項32】
癌の予防に使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項33】
望ましくない炎症活性に帰因する下痢性疾患、たとえばクロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)関連の下痢、ロタウイルス関連の下痢、または感染要因、たとえば大腸菌(E.coli)に帰因する感染後の下痢もしくは下痢性疾患の予防および/または治療に使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項34】
望ましくない炎症活性を予防および/または治療する抗炎症性の生物学的療法剤の調製に使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項35】
IL−10のレベルを改変する生物学的療法剤のパネルの作成に使用するための、請求項34に記載のビフィドバクテリウム菌株。
【請求項36】
炎症性障害、免疫不全、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、癌(特に胃腸系および免疫系の)、下痢性疾患、抗生物質関連の下痢、小児下痢、虫垂炎、自己免疫障害、多発性硬化症、アルツハイマー病、リウマチ性関節炎、セリアック病、糖尿病、臓器移植、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、歯周疾患、尿生殖器疾患、性交渉感染症、HIV感染症、HIV複製、HIV関連の下痢、外科処置関連の外傷、外科処置誘発性の転移性疾患、敗血症、体重減少、食欲低下症、発熱調節、悪液質、創傷治癒、潰瘍、腸バリヤー機能、アレルギー、喘息、呼吸器障害、循環障害、冠性心疾患、貧血、血液凝固系の障害、腎疾患、中枢神経系の障害、肝疾患、虚血、栄養障害、骨粗鬆症、内分泌障害、表皮障害、乾癬、および/または尋常性座瘡の予防および/または治療における、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株またはその活性な誘導体フラグメントもしくはミュータントの使用。
【請求項37】
菌株が炎症促進性微生物に拮抗してそれらを胃腸管から排除することにより作用する、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株。
【請求項38】
炎症性サイトカインのレベルを低下させる抗炎症性の生物学的療法剤の調製に使用するための、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株または請求項11〜23のいずれかに記載の配合物。
【請求項39】
病原性種の増殖に拮抗するそれらの能力による抗感染性プロバイオティック菌株としての、請求項1〜10のいずれかに記載のビフィドバクテリウム菌株の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−522553(P2010−522553A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500425(P2010−500425)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国際出願番号】PCT/IE2008/000034
【国際公開番号】WO2008/117267
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(509269850)アリメンタリー・ヘルス・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】